お嬢様 ヘンリエッタ [チュンチュン、と堂の外から雀の鳴き声が優しく耳に入ってくる。] …朝、ですか。 [紅姫は堂の中を見回す。其処には昨日に引き続き、初めて見る顔も幾つか在った。] 【回想/昼】 [紅姫が鳩を追いかけていると、威日呼が声をかけてきた。一時、自分を慕ってくれてるように感じた紅姫は、威日呼に対し信頼の情が芽生えていたが、一昨日「迎えに来る」と言いながら夜まで姿を現さなかった威日呼に対して、心にある変化が現れ始めていた。] おはようございます。 [挨拶と幾つかの遣り取りの後、威日呼は堂の中に戻っていった。再び一人になった紅姫は、水を求めて村の中を歩き始めた。] | |
(271)2005/09/23 06:34:40 |
お嬢様 ヘンリエッタ 【村の外れ】 [堂から西の方角に歩き続けた紅姫は、水の流れる音に気づく。其の音の方へと歩み寄ると、其処には透き通った川が流れていた。] 綺麗ですの。 此の水は口にして大丈夫なのでしょうか。 [川の淵にしゃがみ込むと、着物の袂を袖の中に入れ込み、小さな手で水を掬った。そしてゆっくりと其れを口にする。] 美味しい… これだけの強い陽の光を受けているというのに、とても冷たい。 [紅姫は汚れた顔を水で洗うと、着物の裾をたくし上げ、草履を脱いで裸足で川の中へと入っていった。] 川の水ってこんなに冷たいのですね。 それに透き通っていてとても綺麗です。 この世の中に、私の知らない事が沢山あるのですね。 [紅姫の足に触れる川の水は、小さな水飛沫をあげ紅姫の着物を濡らす。其れに気にもせず、紅姫は暫しの間川の中で水と触れ合っていた。] | |
(272)2005/09/23 06:44:34 |
双子 リック 【回想/夕】 漣は時を忘れ、ただぼーっと流れを眺めていた。 ふと気付くと橋の袂で寄りかかる紅姫がいる事に気付いた。 ―――…何でこんなところに? とりあえず歩み寄り様子を確認するとどうやら眠っているようだ。 その寝顔は、先日漣に憎まれ口を叩いた時とは違い穏やかなものだった。 ―――ふーん…。こんな表情もするんだ…。ちょっと…かわいい…かな…。 漣は紅姫の頬に手を伸ばしたが、触れるか触れないかと言うところで自分のしている事に気付き慌てて手を引っ込めた。そして漣は一つ溜息をつくと紅姫の眠っている同じ柱の反対側にもたれかかった。 しばらく漣は柱を挟んで反対側にいる女の子の事を考えていた。二人の間柄、二人の家、二人がこの地にいる事、そして…紅姫自身の事。 …しかしいつしか漣は眠ってしまったようだ。 夕陽が二人を照らし、影法師を作っていた。 | |
(324)2005/09/23 16:38:07 |
お嬢様 ヘンリエッタ [紅姫は漣の問いに暫し無言で考え込んだ。そしてゆっくりと口を開く。] 白比丘尼様ですか。 お会いした事はありませんが、恐らくあの堂の中で眠られてる一人なのですね。 鬼の話。すぐに信じる事はできません。 ただ、此の村に来て最初に鬼の事を聞いた時よりかは信じてるのかもしれません。あの唄の上手な子が、鬼の子かもしれませんので。 [紅姫は以前みた夢を思い出しながら、漣にそう伝えた。] そういえば威日呼様はこんな事を申しておりましたわ。 鬼を討つ、と。 私は此処から出たい。 でも、鬼を討つなんてできるかどうか… それに、あの子を討つのは例え鬼の子であっても… だって、あの子の唄は本当に上手でしたもの。 | |
(337)2005/09/23 19:34:22 |
お嬢様 ヘンリエッタ [紅姫は漣の背を唖然とした表情で見つめていた時、何処からか、唄声が聞こえてくる。] そろそろにえるかな そろそろたべれるかな うしみつどきまで しばしのがまん われはおんご ひとくいのおんごなり はよくいたい はよくいたい [紅姫が辺りを見回すと、庭の中にある大樹の枝に座りながら唄っている鬼子の姿が在った。] 翡翠様…っ。 あの樹の上に、角を持った子が… [紅姫は翡翠に視線を移し、珍しく大きな声でそう叫んだ。そして視線を樹の方へ戻すと、視線の先に居た筈の鬼子の姿は消え、唄声もまた闇の中に消えていった。] 翡翠様、今の唄お聞きになりました…? 丑三つ時に人を喰うって… 恐ろしいです…。 [紅姫は震えた声で翡翠にそう伝えると、翡翠の腕を*ぎゅっと掴んだ。*] | |
(359)2005/09/23 20:41:21 |
流れ者 ギルバート [威日呼が表へ出ると、早足で歩み行く漣の背が目に入った。その背に「余り離れるでないぞ」、そう声を掛け、威日呼は池の畔に立つ二人に目を向けた。 紅姫と、もう一人、初めて見る顔の女性の姿が在った。聞こえていた所では、翡翠なる名を名乗っていたようであった。 二人に声を掛けようとしたその時―― 何処からか――樹上から聞こ来る歌声に威日呼はそちらを見上げる。] 『翡翠様…っ。 あの樹の上に、角を持った子が…』 [ ――紅姫の声が夜の闇に響く。 威日呼がちらりと紅姫の方をを見遣ったその間に、唄は止み、鬼子はその姿を消していた。 暫し辺りの気配に心を配っていた威日呼は、鬼が去った事を悟ると背の大太刀に掛けた手を話息を吐いた。] 人を喰らう鬼……あやつも此処に居るのか? 亞磨韻殿、そして白比丘尼殿の云う処に拠るなら……此処に集ったものは縁にて集ったのだという…… ならば……あやつも居る、か…… [そう云った威日呼の眉間には、深く深く皺が刻まれていた。] | |
(360)2005/09/23 20:55:01 |