吟遊詩人 コーネリアス [外は暗闇の中。 カンテラも持たずに出て行ったシャーロットを普通ならば、見つけることなどほとんど不可能だろう。 だが―――コーネリアスは目が見えない。 それが、今だけは幸いした。 視覚以外の全ての感覚が、普通の人間より優れているコーネリアスには、シャーロットの声が、痕跡が、何処へと続いているのか、それがなんとなく分かった] [たどり着いたのは、村の広場。 そこの端っこで、シャーロットの泣き声が確かにコーネリアスの耳に届いた。 息を落ち着かせるため、一度大きく深呼吸をすると、コーネリアスがゆっくりとシャーロットに話しかけた] ―――1人の夜の旅は、危険ですよ、姫? | |
(203)2006/08/02 02:12:51 |
美術商 ヒューバート [全員が出て行ったことを確認すると、ソフィーに向き直る。 ……もし、彼女が人間なら。また、私は、護るべきものを護れなかったと云うこと になる。 ……もし、彼女が人間なら。また、私は、レベッカと同じように、罪のない人間を殺してしまうことになる。 ……もし、彼女が人間なら…… 思考をシャットアウトさせる。無駄だ。既に、彼女の処刑は決まっている。 そう、自分に、云い聞かせる。 両手で銃を構え、ソフィーへと向けた。] ……ソフィー、お別れだ。 最後に、何か、云い残すことは? [自身の表情はない。唯、冷徹としているだけ。 突き刺すような視線。微笑みを失った口端。 まるでその姿は―――黒い悪魔のようだった。] | |
(214)2006/08/02 02:25:05 |
新米記者 ソフィー ありがとう、ヒュー。 [表情を崩さぬまま、ヒューバートが銃を手渡す。 銃を取る。皆は帰った頃だろうか? できるだけ遠くへ帰ってくれているといい。気付かないように。 気付いたら、撃たなきゃいけなくなる] [少し離れて、銃口をこめかみに向ける。正面の彼に微笑む。 やるなら今。逡巡している暇はない。 冷たい目、少しでも隙を見せたら失敗する。極限の緊張状態で、何故か思考は、ヒューバートと酒場で会話したことを映し出した。 気さくに何でも話しかけてくれた彼。 親子みたいと言われ、困ったように苦笑していた彼。 決意が鈍る。こんな時に思い出すなんて。本当に、本当に、] ―――本当に、お人好しよ。あなた。 [言って、銃を向ける。] | |
(224)2006/08/02 02:38:53 |
新米記者 ソフィー [早く。早く狙いを。焦りが照準をぶれさせる。 詰められたら体格の差で、力の差で負けてしまう。 逃げられない。死ぬ。いやだ。逃げられない。嫌。殺される。 どうにか照準を胸に合わせようとしたその時、腕に痛みが走る。 勢いで銃が放物線を描き、床に転がる。見ると、そこには生えるはずのない、金属片。] あ、あ、うああああああっ!! ―赤い。血って本当に赤いんだ。 ――それよりも銃だ。銃を取られたら殺される ―――彼より先に銃を。そして彼を、次にメイ…弾は残ってる? ――――ダメ、銃の位置。彼の方に分がある。それなら。 [腕からナイフを抜く。飛沫が上がる。動脈、切れたかしら。 左腕にナイフを掴み、咆哮を上げてヒューバートに突進する。 これだけ騒げばメイは気付くだろうが、そんなことに構いはしなかった] | |
(235)2006/08/02 03:04:02 |
美術商 ヒューバート [既にソフィーのうめき声は意識の外だった。 取り落とした銃を拾い上げ、素早く右手で持つ。 彼女が向かって来た。左手にはナイフ。 瞬時に右足を跳ね上げ、ナイフの横腹を蹴る。 左手がナイフと共に飛んだ。] ……はっ! [声と共に、そのまま彼女の鳩尾に鋭く蹴りを入れる。 彼女がうずくまった。……入った。 一度、呼吸を整える。 銃を両手で握ると、即座に引き金に指をかける。 彼女の表情は見ない。唯、心臓の一点を狙うだけ。 何処か戦場を彷彿させる。 狙いを正確に定め直す。そこに感情を入れる余地は、ない。 無表情でソフィーを見下ろし、口を開く。] | |
(240)2006/08/02 03:14:42 |
美術商 ヒューバート [未だ、呼吸が荒い。 目の前に転がった、ソフィーだった『モノ』。 握っているままの銃。 聴覚と共に、現実が戻ってきた。 どん、どん、どん、と扉を叩く音が聞こえる。メイの叫びに限りなく近い、自分を呼ぶ声。 静かにソフィーの死体に近づき、彼女の見開かれた目を閉じてやる。 ……その目は少し濡れていた、気がした。涙……?……いや、まさか…… 返り血のついたまま、集会所の扉を開く。 目の前には、今にも泣き出しそうなほどに顔をくしゃくしゃにしたメイの姿。 先の『運動』で乾ききってしまった口を開き、言葉を発する。] ……終わったよ。 [その一言を云うと、ゆっくりと集会所の外壁に寄り掛かった。] | |
(247)2006/08/02 03:35:32 |
美術商 ヒューバート [もう一匹の獣が、メイに襲い掛かる狼に向かって行った。 ……如何なっている? 仲間割れ、か? 疑問が頭の中で渦を巻く。 駄目だ、考えるな。集中して、敵を撃つことだけを考えることだ。 あくまでも足音を消し、完全に気配を殺して、近付いて行くこと。そうしなければ―――三人とも、殺られるだけだ。 ……静かに。 ……音をたてるな。 ……気配を消せ。 程なく、もみ合っている二匹の真横の位置にたどり着く。 ―――よし。この位置からなら…… 銃を構えた。 集中しろ。集中しろ。集中しろ。必ず、当てる。 ゆっくりと、正確に狙いを定め。 ―――その二匹の獣へと引き金を引いた。] | |
(266)2006/08/02 04:56:56 |
美術商 ヒューバート [地面に落とされたカンテラの明かりに、逃げて行く二匹の獣が映る。 内一匹は片足を引きずりながら。どうやら、当てられたらしい。 ……間に合った。護れた。大切な、友を。 そう思うと、一気に身体の力が抜けた。すっかり疲れ切っている。 安堵と疲労感とで、意識が少しだけ薄くなっていく気がした。 宿に帰って眠ろう。そう、思った。 空を見上げる。暗い闇だ。月が出ている。星が瞬いている。美しい夜空。素直に、そう思えた。 一人、ゆっくりとした足取りで、宿へと向かった。 結局彼は、何かから逃げるようにその場から消えた二人には*気が付かなかった。*] | |
(269)2006/08/02 06:02:08 |