書生 ハーヴェイ [トン・・トン・・と音を立てて、ゆっくりと階段を下りてくる。 ガランとしたバーの中を見回して、溜息を一つ。] […数日前までは、皆で酒を飲み交わして賑わっていた場所。 レベッカが周りを巻き込んで酒を注ぐ。 ソフィーはその犠牲者。 アーヴァインは仕事仕事であまり顔を出してはくれなかったけれど、セシリアは時々気晴らしにと顔を出していた。 メイはお酒があまり得意ではなかったっけ…。 ユージーンは、一人黙々と飲む姿をよく見かけたなぁ。 ケネスは…そういえば、ツケがまだたくさん残っていたような] [―どうして、何で…こんなことになってしまったのだろう。 再び、深く…深く溜息をついた] | |
(2)2006/08/03 15:51:13 |
吟遊詩人 コーネリアス [目が見えないということが幸いして、ケネスの遺体を見ることがなかった。 ―――狂え――― 目が見えないということが災いして、感触がいつまでも残っているような感じがした。 ―――狂え――― 何度も掻き毟るように体を洗っても、まだどこかに血がこびりついている気がする。 ―――狂え――― 顔も、手も、足も、体も、ノドも、髪も、全てを切り刻んでしまいたい衝動に駆られる ―――狂え――― ケネスが人狼だったとかは、どうでもよかった。ただ、「殺した」という感覚だけがどこまでもつきまとう。 ―――狂え――― それでも、この苦しさを何も知らない、無垢な少女に与えなかったことだけが、唯一の*救いだった*] | |
(14)2006/08/03 16:43:46 |
美術商 ヒューバート [目が覚める。久しぶりに良く眠れた夜だった。 夢を見ない程熟睡できたのも、この騒ぎが始まって以来初めてのことだったかもしれない。 エッタはまだ眠っているようだ。 一人、下の階に降り、台所から何か食べられるものを探す。 コーヒーメーカーを見つけた。湯を薬缶で沸かす。 フライパンを熱している間に卵と食パンを見つけた。さて、エッタはフレンチトーストは好きだろうか。 手際良く金属製のボールに卵を溶き、砂糖を加える。牛乳を入れ、四つに切った食パンを浸す。 バターをフライパンの上でフライ返しを器用に操りながら溶かし、卵液に浸したトーストをフライパンの上で焼き始める。 湯が沸く。コーヒーメーカーに薬缶から湯を流し込む。 爽やかな夏の匂いと共に、コーヒーの良い香りが漂ってくる。 素敵な朝だ。そう、心から思いながら、一人台所で料理を続けている。] | |
(34)2006/08/03 20:26:47 |
修道女 ステラ Pater noster, qui es in caelis, sanctificetur nomen tuum, adveniat regnum tuum, fiat voluntas tua sicut in caelo et in terra. Panem nostrum quotidianum da nobis hodie; et dimitte nobis debita nostra, sicut et nos dimittimus debitoribus nostris, et ne nos inducas in tentationem, sed libera nos a malo. Amen. 祈る。祈る。神に、祈る。 でも、現実は残酷で。 祈っても、現実は変わらない。 [こんこんとノックの音がしたと思うと、ドアが開いて自警団員が入ってくる。 そして、今日の集会の予定と…ケネスさんの霊視のことを伝えられた。 ロザリオを片手に、教会を出る。 向かうは、ケネスの遺体が安置されているという詰め所。 行くのはとても気が重いけど、 それが私の役目だから… くじけそうな心に叱咤をいれ、重い足を動かした] | |
(35)2006/08/03 20:43:03 |
冒険家 ナサニエル [自警団員から話を聞いた後、自室に戻り、椅子に腰掛ける。 ニーナはまだ発見されていない…、自警団が総出で探しても見つからないなんて、一体どこに行ってしまったのだろうか?] んっ。 [水差しから直接水を飲むと、身体のだるさは急速に引いていった] [ナサニエルは顔に手を当て、俯く。 昨日のシャーロットの様子が頭から離れない、ケネスを撃とうとしたこと、そしてその後の泣いている姿――。 思えば、ここ最近、シャーロットは泣いてばかりだ] ふう。 [陰鬱な表情でため息をつく。ナサニエルは無性に酒を飲みたくなった。 また今日も集会がある。 酒に逃避するわけにはいかないが、誰かと飲み交わすだけで、幾分気分も楽になるだろう。 バーに行けば、ヒューバートかハーヴェイが居るだろう。 ナサニエルは、外に出るために自室を後にした] | |
(40)2006/08/03 20:53:43 |
美術商 ヒューバート [朝食をとり終え、エッタと談笑を交わす。 平和な時間は退屈だ、等と云ったのは誰だろう? 如何考えてもそれは嘘だ。今こうしている時間が、唯、幸せで、楽しくて。 まるで自分まで子供のように、彼女の屋敷で時間を過ごして行く。 広い屋敷を二人でぐるぐるぐると探検してみたり。 父の部屋に置いてあった骨董品を一つずつ眺めてみたり。 彼女の部屋に置いてあったドールセットで一緒に遊んでみたり。 昼食後にはエッタがカップケーキを焼いていたり。 少しだけ焦げ付いていたことに二人で笑ったり。 美味しいね、と云いながら紅茶と一緒に食べてみたり。 ―――愛しい時間だ。過ぎ去るのが惜しい。 太陽など、沈んでしまわなければ良い。 そうしてくれたら、あの狂気に満ちた集会のことも、人狼の荒々しい騒ぎのことも、全て忘れることが出来そうだったから。 時間は過ぎた。空には夕焼けが煌いている。憂鬱な空。溜息が出る。 煙草を吸ってくる、と云って一人ベランダに出た。好きだったはずの夕暮れの時間が、今は、とても忌まわしい。] | |
(49)2006/08/03 22:52:46 |
吟遊詩人 コーネリアス 半分、当たりですね。 人の心の色とは、当然、自分自身でも変えてしまいますけど、もう半分は、人と触れ合うからですね。 赤と青を混ぜ合わせたら、また違う色となるでしょう? 人の心とは、自分でも知らないうちにも変わってしまうのです。 今回のケネスさんの場合は、どこかで何かの色が混じってしまった。 それにより、進むべき道が普通の人間としても道がなくなってしまったのです。 人間とは、難しいもので、自分でも愚かと知っている道にも差し掛かってしまうのです。 そう―――決して、ケネスさんは悪い人ではなかった。それでも、何かが変わってしまうと、こうなってしまうこともあるのですよ……。 一般的に人間はソレを「狂人」などと呼びこともあります。 これが、多分、貴方の質問の答えでしょう。 | |
(50)2006/08/03 23:03:06 |
美術商 ヒューバート [ベランダから家の中へと戻ると、エッタが何やら寂しそうな表情で一人、ティーカップをかちゃかちゃと弄っている。 時間帯を考えれば憂鬱そうな顔にもなるだろう。今日もやはり、あの悪夢が続くというのだから。 ―――お前が、今、護るべき人は誰か? もうその問いに迷うことは、恐らくないだろう。] 待たせたね、エッタ。 さて……まだ時間もあるし、バーに寄って行かないか? この時間なら誰か居るだろうし。 [……集会までまだ時間もあるし。 そうは云えなかった。彼女の小さな身体には、そのことは重すぎる。 複雑な表情を隠しきれない微妙な微笑みと共に、エッタにそう云った。] | |
(51)2006/08/03 23:09:10 |
冒険家 ナサニエル [ナサニエルはすでに夕日の沈んだ道を、どこか遠くを見ながら、真っ直ぐに進んでいた。] [やがて、目的地であるバーにたどり着く。 ゆっくりと扉を開き、薄暗い店内に入り込んだ] 静か…だな。 [今の状況からすれば当然だが、店の中は、ついこの間の喧騒が嘘だったかのように、静まり返っていた。 この前来たときには、みんな陽気に騒いでいた。 名も知らぬ旅人が襲われたという話は聞いていたものの、誰もが、少なからず対岸の火事のように考えていたのではないだろうか?] 誰もいない…、ようだな。 少し、勝手に飲ませてもらうか。 [ナサニエルはそう言うと、カウンターの中に入った] | |
(54)2006/08/03 23:21:42 |
美術商 ヒューバート [エッタの手を取り、夕暮れの道を歩く。 直接集会所へは行きたくなかった、と云うだけでの提案だったが、この時間ならハーヴェイやナサニエル、ギルバートらも居るかもしれない。 ……少し、思い出す。数日前の酒場の様子を。 あのときは、レベッカも居た。セシリアも居た。ソフィーも居た。ユージーンも居た。ケネスも、メイも居たのだ。 皆、もう既に居ない。 気付かれないように、ほんの小さな溜息を吐く。 それと共に夕焼けを見つめ、口を開く。] ……昨日エッタの云った通り、今日も綺麗な夕焼けだね。本当に。 [そんな夕方。そんな日常。 だが何故だろう、こんなにも心が苦しいのは。 そうしているうちに、バーの入り口が見えてくる。] | |
(59)2006/08/03 23:45:45 |
吟遊詩人 コーネリアス [ステラの言葉にやれやれ、と頭をかいて、コーネリアスが言った] 忘れたのですか? この村には今、人狼がどこかに潜んでいるのですよ? それを一人で歩くには……危険な行動です。 私が、安全な場所まで送りましょう。 [間接に油のさしてないロボットのようなぎこちなさで、扉に手をかけ、開ける] [出てきたコーネリアスの姿は、昨日までと変わっていた。 ほほが少しだけこけたような気もするが、それよりも一目で変わった、と思うところは、銀色だった髪が真っ白に変わり果てていたこと] さ。 どちらまで送りましょうか、シスター? [それでも、いつもよりもその笑顔はさらに自然で、その声はいつも通りで。 まるで、何かの呪縛から*離れたようだった*] | |
(60)2006/08/03 23:47:54 |
美術商 ヒューバート ここのところ良く晴れているからね。 そろそろ雨でも降ってくれなければ、花も枯れてしまいそうだな…… [そう云いながら、バーの扉を開く。 ナサニエルの後ろ姿をカウンター席のところに見つける。何処か哀しそうに一人、グラスを弄っている。 ―――昨日の集会場の様子を思い出す。シャーロットを茫然自失とした様子のナサニエルが頭に浮かぶ。 ……思考を止めた。努めて、普段通りの振る舞いをするように。 軽く手を振り、声をかける。] ……一人酒かい、ナサニエル? 私も少し飲むよ。 [そう云って、何時も通りの不敵な微笑みをナサニエルに向けた。] それじゃ、適当な軽いカクテルを一つ頼むよ。 ……ああ、勿論、エッタ用のはノンアルコールでな。 | |
(66)2006/08/04 00:28:48 |
お嬢様 ヘンリエッタ あれ、ハヴェ兄いないの? [カウンター内に見慣れた姿がないのに気づき、なでられたまま見上げ尋ねる。 ナサニエルは肩をすくめた] そっか。 [少しだけ、ほっとして。ナサニエルが作ってくれたカクテル (シンデレラ、というらしい)を飲んだ。 爽やかな甘さ。 3人で他愛ない話をして。静かなバーに3人ぶんの声が響いた。 ついこの間まで誰が何を言ってるかもわからない状態だった、人が沢山いたこの場所に、それは酷く似つかわしくなかったが。 誰も、それには触れなかった] [さて、そろそろか、とヒューバートがグラスを置いて立ち上がる。 ナサニエルも、じゃあ俺も、と立ち上がり、自分は急いでまだ残っていたシンデレラを飲み干した。 そんなに急がなくてもいい、とヒューバートは優しく笑いかけてくれて] [3人でバーを出て、集会場に辿り着いた] | |
(68)2006/08/04 00:46:00 |
美術商 ヒューバート [シャーロットに自身の名前を呼ばれ、そちらを向く。 非常に鋭い視線がこちらに向けられている。……成る程ね、そういうことか。 軽く苦笑しながらも、銃をポケットから取り出し、応える。] ……何やら妙にシャーロットに疑われているようだね、私は。 構わない、占って貰うよ。 [そこまで話すと口元から微笑が幾分か消えた。 ナサニエルに近付き、グリップの部分を彼のほうへと向け、手渡す。 更にポケットを探り、ナイフを取り出した。やはりそれも同じく、彼に手渡す。] ……さ、これで良いかな? 私はこれで丸腰だ。……私が人狼でなければ、君を傷付けることは出来ないよ。 [そう云って、シャーロットが連日占いに用いていたテーブルの向かい側の椅子に深々と腰掛けた。 自身の微笑みは崩れてこそいないものの、その目は一切笑っていなかった。] | |
(83)2006/08/04 01:34:56 |
美術商 ヒューバート [占い結果を聞き、ほっと目線を和らげる。 シャーロットのほうへ微笑むと、同時に口を開く。] いや……そもそも、疑われた私も悪いのでね。 気にしなくて構わないよ、シャーロット。 ―――しかし、私が皇帝のカードか。まあ、素直に嬉しく受け取っておこうかな。 [そう云うと、軽く苦笑いをした。 その笑みが彼自身の安堵から来たものであることは、誰の目から見ても明らかだった。 ナサニエルが近付いて来、銃とナイフを差し出す。] ……ん。有難う、ナサニエル。 だがしかし……銃口をこちらに向けて渡しては危ないだろう? [軽く苦笑しながら銃とナイフを受け取り、ポケットに仕舞い込んだ。] | |
(94)2006/08/04 02:19:51 |
美術商 ヒューバート [ギルバートが縛られたニーナを抱き抱え、集会場の扉を開いた。 ニーナは昨日の面影はなく、爪も牙もないごく普通の少女の姿だった。 左腕の深い銃傷を除けば、だが。 ……じっと彼女の様子を見る。 目は伏せられていて様子は見えない。 ―――突如、彼女がむくり、と首をあげた。 その目は爛々と光っている。] ―――……! 離れろ、ギルバートっ! [殆ど叫び声になったその声がヒューバートの口から放たれたとほぼ同時に、彼女が縄を引きちぎった。 ギルバートを突き飛ばすと、したっと床に両手両足を着く。 すると次の瞬間、一番近い位置に居たヒューバートへ真っ直ぐに、爪と牙を剥き飛び掛かる!] | |
(105)2006/08/04 03:16:15 |
美術商 ヒューバート [咄嗟に椅子を盾にし、左に転がろうとする。 ニーナの右爪は椅子の背を壊し、ヒューバートの左上腕を突き刺した。] ―――ッ! [床に転がりながら右手で銃を取り出し、ニーナに向け構える。 体勢が悪い。狙いを定める。左手は動かない当てることさえ出来れば―――! 引き金を引く。銃声。彼女は襲い掛かって来ない。 ……何処に当たった!? 左足から血がだらだらと流れているのが見えた。動きは止まった。反動で腕が痺れそうになっている。 確実に動きを止めなければ。 右手だけでもう一度、引き金を引いた。響く銃声。 頭に向けた狙いはブレてしまい外したが、彼女の右足が崩れる。] ……ふぅ。ここまで、だな……ニーナ。 | |
(107)2006/08/04 03:29:43 |
美術商 ヒューバート [……あれが、人狼、か。 異常なまでに素早く飛び掛かり。獣のように最後まであがき続け。頭を撃つまで止まらなかった。 本当に、腕一本で済んだのなら安いものだったかも知れないな。そう思った。 エッタが駆け寄ってくる。左腕を心配そうに見つめている。] ……何。このくらいで助かっただけ、幸運だよ、私は。 [そう云うと、ヒューバートは床に座り込んだ。 痛覚が左腕を襲う。酷く深くやられたようだ。] ―――すまないが誰か、自警団の人達を……呼んできてくれ。 ニーナをこのままにしておくのは……忍びない。 [頭に風穴が開いているにも関わらず、ニーナの目は未だ光っているままだ。 そっと彼女の顔に手を伸ばし、血塗れになったその瞼を、閉じてやった。] | |
(113)2006/08/04 04:04:33 |
村長の娘 シャーロット [解散の指示を出し終えると、それじゃあ私もこれで、と テーブルに片手をついて席を立つ。 いつもなら一緒に帰ってくれるナサニエルも、昨日のことが あってから上手く顔を見ることすら出来ないままで。 なんとなく話しかけることが躊躇われて、今日も全く会話らしい会話をしていない。 気をつけてと言った傍から、 自分こそ一人で帰ることに気がついて。 あまりの説得力のなさに、つい苦笑とため息を落とす。 けれどそのまま集会場の扉を一人で開ければ。 外の闇へと溶けた。 暗い夜道を4匹の小さな家族の待つ家へと急ぐ。 帰ったらそれぞれ抱きしめた後、皆で一緒に眠りにつこうと*] | |
(121)2006/08/04 04:46:48 |
美術商 ヒューバート [エッタを送ろうかと思ったが、彼女は先にさっと帰って行った。何か、慌てているようにも見えたけれど、そのことを深く考えはしなかった。傷を負っている私への彼女なりの気遣いかな、と考えた程度だ。 皆が帰り、また静かになった集会場。 左腕は未だ酷く痛むが、歩くのには支障はないだろう。 集会場の扉を開き、煙草をくわえながら一人、夜道を歩く。 ……右手には未だ銃の反動が残っている。 ニーナを殺したのか。人狼を殺したのか。自分の中の境界線が曖昧だ。 煙を吐き出しながら、そんなことを考えていた。 見上げれば空には、幾千の星が輝いている。月は美しく、その存在をアピールしている。 ―――悪くない夜だ。……ニーナを殺したことさえ、除くことが出来たら。 強く、そう思った。] | |
(127)2006/08/04 08:18:18 |
美術商 ヒューバート [後ろから気配を感じた。と同時に、振り向きざまに声を掛けられた。ハーヴェイだ。 ……いや、こいつは本当に……ハーヴェイ、か? ぴりぴりとした張り詰められた、狂気と殺意に満ちた空気が相手から伝わってくる。 ふん……人狼だろうと何だろうと、素人はやはりそう云った空気を隠せないものだな。 じゃり、と音を立てて彼が動いた。後ろへ一歩下がる。次の瞬間には内ポケットから先程使ったばかりの銃を取り出し、ハーヴェイに素早く向ける。 ……こちらは片腕が使えない。両手で銃を握れないと云うことはつまり、狙いが定まらずブレが生じてしまう、と云うことだ。 ―――何処か一箇所にだけ当てられれば、勝機はある。] ……そこで止まれ。 ハーヴェイ……いや、人狼よ。 | |
(130)2006/08/04 08:22:32 |
美術商 ヒューバート [瞬時にヘンリエッタのもとへと着く。 素早く空いた右腕で彼女を抱え込み、叫ぶ。] ……捕まっていろ、エッタ! [そう云うと、ハーヴェイの居た方向に向けて威嚇用にナイフを手首のスナップのみで投げた。 そちらの方向へは一瞥もくれず、逆方向へ一気に走り出す。 ……何故、ヘンリエッタがこんな時間に非常に都合良く現れたのか? ……何故、ハーヴェイの動きは、威嚇の為に放った一度切りの発砲で止まったのか? そのことにヒューバートが気付くのは、もっと先になってからのことだった。 夜の闇の中を彼女を抱えたまま、ただひたすら疾走する。 誰がそんな余計なことを考えていられるだろうか? 今は一メートルでも、ハーヴェイと距離を置くこと―――ただそれだけを考え、走った。] | |
(137)2006/08/04 09:57:09 |
美術商 ヒューバート [抱きついてきたヘンリエッタに、不覚ながらも一瞬どきりとして。 動くのは右手だけだったけれど、出来る限り抱き締め返した。 ―――もう、人を力強く抱き締めることすら、私には叶わないことなのだろうか? そう思いながらも、彼女の後ろ頭をぽんぽんと叩く。 まるで子供をあやしているように。いや、事実子供にも近いのかもしれない。 彼女の身体がほんの僅かに、震えているのに気付く。……怖かったのだろう。無理も無い。 恐怖を忘れさせるように、震えなど気付かせぬように、もう一度抱き締める。 顔を近づけて来、耳元で彼女が囁く。] ―――ごめんなさい……? | |
(144)2006/08/04 12:21:56 |