酒場の看板娘 ローズマリー [その時の彼はきっと、私よりも呆然とした表情だったに違いない。 目を丸くしてこちらを見つめる。何が聞こえたのか、彼自身、把握し切れていない……飲み込めていないようで。 何秒経っただろうか。ややあって漸く、彼の唇がもごもごと動く。] 『……それ、って。 僕を? 本当に……?』 [何時もより更に口ごもっているような口調で。 じっとこちらを見つめてくる。] うん。……本当。 [彼の口調が移ったのか、こちらも若干口ごもりながら、応える。 少しだけ、恥ずかしくて。彼からふと視線を逸らし、窓に目を向ける。 照れを隠すかのように、そそくさと次の言葉を探す。] ね。少し、外を歩かない? 丁度、月も良い加減な、素敵な夜だし。 | |
(1)2006/09/24 10:44:03 |
酒場の看板娘 ローズマリー [心臓が高鳴る。 先ほどとは180度異なった角度からの驚愕に、捕らえられる。 ―――何故。そんなことを。今? 暫く、沈黙。何を如何返せば良いのか判らなくて。 少しして、彼が慌てたように言葉をくれた。] 『……ああ、いや。だって人狼だって、半分は人間だろうから……。もしかしたら、こんなふうに、』 [一呼吸置いて。先の少し早口な口調とは対照的な、ぽそぽそとした口調で。顔を少し、赤らめながら。 ……今が暗い闇であることに、彼はきっと感謝しただろう。それでも様子からして、照れているのだろうと云うことはすぐに察しが付くけれど。] 『誰かに自分の気持ちを伝えたり、伝えられたりして……。 幸せなときを、すごしてるのかもって。少し、思った。 ……今まで全然そんなこと考えてなかった、けど。』 | |
(3)2006/09/24 11:26:00 |
酒場の看板娘 ローズマリー [彼の顔は今日二度目の、呆然とした表情になって。 何が何やら飲み込めて居ないような。理解が出来て居ないような。思考がぐるぐるぐるぐると回り、纏まらない状態になっているような。 続けざまに、予想外に素っ頓狂な声が飛んでくる。] 『……人狼? ローズマリー、さんが……? どうして……、どうして?』 [くす。微笑。 左手には、彼から貰った短剣。 銀で造られた、人狼を殺す為に造られた、人狼を殺す人間から貰い受けた。美しい銀の短剣。 す、と鞘を抜く。目の前の彼は未だ、何が起こっているのか判っていない様子。 ここまで白を切り通すか。けれど、もう遅い。] | |
(13)2006/09/24 15:55:56 |
酒場の看板娘 ローズマリー [……喉元には、突き立てられた短剣。 ……ぐちゃぐちゃに喰い千切られ、内臓が外に散っている腹。 ……砕かれた後頭部からは、血が酷く流れ出ていて。 ……何故か顔面だけが、綺麗なままに残されていた。 血塗れになったその現場に一人、無言のまま佇む。 酷く喰い荒らされたように見えるその死体のすぐ横で、静かに口元を拭う。 微笑を浮かべながら、『モノ』になったそれを静かに見下ろしている。 ―――綺麗に食べるのも、中々難しいものね。 ぽつりと。一言、呟く。 気付けば、空から雨がぽつりぽつりと降り始めていて。黒く染まり始めた血は、彼から少しずつ流れていっている。 帰ろう。シャワーを浴びよう。きっと雨の匂いが、血の匂いをごまかしてくれるだろう。そう思いながら、死体から振り返り、帰路へとつく。 小雨が降り注ぐ。 濡られたことでその痛め付けられた身体は、更に悲惨さを増す。] | |
(75)2006/09/26 01:50:30 |