自警団長 アーヴァイン
ふむ……まだ集まっていないようだな。 今のうちに、もう一度見回りに行ってくるとしよう。
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冒険家 ナサニエル ■認識 鬼にとって人とは嗜好品のような存在。 喰わずとも生きていけることは生きていけるけれど、その生気は 鬼にとってまたとない甘露であり美味なるもの。 鬼に喰らわれた人々は肉体の欠片一つ残らず消えていく。 そして、鬼狩りに狩られた鬼も同じように消えていく。 それは、まるで霧のように。 鬼狩りにとって鬼とは人を脅かす存在そのもの。 餌となって生きるわけにはいかないから力を振るう。 その存在は人の世を守る最後の砦。 振るわれる力は鬼狩りによって違うものの、 けれどそれらは何れも鬼を滅ぼす力。 力を持たぬ人々は鬼も鬼狩りも知らずに生き知らずに死ぬだろう。 力を持つものですら、その存在に振れる事はまれだろう。 けれど、その一つの歯車が異なる方向へ回転することで、 鬼と鬼狩りと、人々の運命が触れ合うことがある。 ──その触れ合う瞬間こそが、この物語。 | |
(2)2006/08/21 02:46:02 |
流れ者 ギルバート [裏通りに足音も無く歩く人影は揺れる ビルの隙間から差し込む月明かりに照らされた端正な顔立ち 空を仰げば少し癖のある柔らかな髪がさらりと頬を撫ぜる 浮かぶ表情は何処か恍惚として……求めるは獲物 今宵も鬼の狩りが始まる―― 汚れた壁に背を持たせた商売女が差し伸べる手を取り首を傾げる] ……俺が、欲しい? [女の顔の直ぐ傍の壁に手をつき唇が触れないギリギリまで顔を寄せ] じゃあ、頂きます。 [言葉と同時に眇められた其の瞳はひらりと金色に煌き ふっくらとした薔薇色の唇に薄い唇を寄せる 途端、するすると解け始める女 ぴくりと跳ねる肢体を抱きすくめ くすくすと子供のような笑みを洩らし 暴れる女の腕は直ぐにさらさらと溶け 絡み合う舌と唾液の感触は直ぐに失われ 女は音も無く、消えていく―― 味わうは其の魂 全身に広がる温かく柔らかな感覚に溜息を洩らす] ご馳走様。 [薄汚れた壁に呟き彼の家へと足を向けた] | |
(6)2006/08/21 02:56:37 |
冒険家 ナサニエル [とん、と女の背をコンクリートの無機質な壁に押し付けて男は笑む。凄絶なまでの艶やかな笑み。 女の唇を指でなぞったあと、その指先は喉を辿って大きく開いた胸へとたどる。 舌をぺろりと舐めて、くすりと小さく男は笑んだ。 そして「ほんのすこぅしだけ」指先に力を込める。 まるで何かに魅入られたかのような女の恍惚とした表情は、やがて苦悶に変わり── それは、まるで植物が枯れゆくかのように。 それなりに美しかった女はみるみるうちに老い、そして乾いてまるでミイラのような容貌になったかと思えば───泥人形が乾いて崩れるかのように、空気に四散する。 そこに残るのは、女が着ていた派手な赤いワンピースだけ。 銀の瞳をひらめかせ、男はくすりと笑った] ──まだ、たりない。 | |
(170)2006/08/22 20:30:08 |
農夫 グレン 【郊外】 [開けっ放しの窓から入り込む風はぬるく、 はねっけのある短い黒髪は風に逆らうように揺れた。 夕闇を背に水色のピックアップトラックは郊外を走る。 広がる平野。 地平にかすかにともる明かり。 ラジオから流れる古くさい音楽。 ぬるくなったコーラを乾いた喉に流し込み、咳払いをしてからハミングをあわせる。 街灯が途切れるたびにフロントガラスに映るは見慣れた自分の顔。 小柄な体躯に浅黒い肌。 無精ひげがなければ童顔とも言えるだろう。 フロントガラスに映る自分ににんまりと笑みを浮かべ、髪をくしゃりと掻き上げればアクセルを踏み込む。 ――夜に飲まれるように流れ去った標識は次の街まで15Kと告げていた] | |
(173)2006/08/22 20:39:11 |
見習いメイド ネリー [人の行き交う繁華街を歩むのは、女と言うには未熟な一人の少女。 人懐っこそうな黒の瞳に、二つに分けて結わえられた長い常磐色の髪。 頬に浮かぶ雀斑が、より幼い印象を他者に与える。 それだけならば誰も気に止める事もなかろうが、異質なのはその格好で。 身に纏う衣服は女給のそれ。所々にあしらわれたフリルが、肩に乗った三つ編みと共に、夜の風に小さく揺れ。 歩を進める度に、ぺたと小さな足音。長いスカートから覗く足には、靴も何も履いてはおらず、白かったであろう肌は土に塗れ擦り傷だらけで、微かに朱さえ見え。 周囲の視線に構いもせず、両の手に籠を提げきょろきょろと辺りを伺うその姿は、首輪の如く巻かれた黒革のチョーカーと相俟って、お使いを任された飼い犬か何かの様――否、そのものだった] | |
(178)2006/08/22 20:59:44 |