人狼審問

[ルーサーは夢を見ていた。
夢の中で過去の情景がよぎる。
荒れ狂う炎の中、倒れ伏した二つの死体と銃を構える男、そして…男を正面から見据える幼い少女。
男は少女に銃口を向け、引き金を引こうとしていた]

もう１０年近くも前のことなのに、これほど鮮明に覚えているとはね…
[そうつぶやく彼の右手は強く握りしめられ血がにじんでいた。
固まった指を一本一本引き剥がすようにして手を開くと指の具合を確認し始めた]

さて、そろそろ行きますか。
なんとかしてヘンリエッタを探さないと…。
[そういうと仮の寝床とした場所から立ち去った]

[シャーロットは目が醒めて、傍らにギルバートの姿が無い事に気がついた。…不吉な予感に捕われて、寂れた室内を見渡す。傍らに置いた２人の荷物にも、武器にも誰も触れた形跡はない。]

………。

[シャーロットは、体に掛けられていたギルバートの上着だけを急いで身に纏うと、隣の部屋へ続く扉を開けた。]

ギルバート…さん？

[シャーロットは、室内の光景に思わず息をのんだ。]

[天井にも床にも、おびただしい血が飛び散り、部屋の中央部には、ぽっかりと空いた白い肋骨、引っ掻き回され露出されすぎた桃色の薔薇のようなはらわたを晒した人体の一部らしきものが転がっている。シャーロットは、自分が昨夜巻いた包帯を付けたままの右腕で、それがギルバートだということをかろうじて認識することが出来た。]

"Have a nice day! hahaha!"

[降り注ぐ陽光が皮肉にも、壁に描かれた血文字を照らし出す。シャーロットは言葉を発することも出来ず、ただ呆然と血まみれの床にしゃがみ込んだ。]

[シャーロットがいくら探しても、ギルバートの頭部は見つからなかった。]

……生きているのか……。
[繋がれた手に少し力を入れ、隣で寝息を立てているメイを見つめながら呟く]

メイ……生残ってくれ……。

今日こそ、コロシテヤル･･･。

[手を離すとポケットからギターピックを取り出し、その手に握らせる。]
武器になる物を探してくる。これじゃシャーロットに勝てない。

[メイの髪をなでてから立ち上がる]
悪い夢を終わらそう。メイを傷付ける者は僕が排除する。

［メイはリックとウェンディのことを夢に見て、泣きながら目を覚ました。］
････シャーロット･･･ギルバート。メイは許さないから。殺してやる･･･。
［メイはラッセルが居ないことに気付いた。自分の右手に何か握っていることも。］
･･･ラッセル？

[マンジローはベッドに体を起こし、カミーラを抱き寄せて、飽きる事無くその髪を優しく撫で続けている。]

……………。

[マンジローの脳裏には、昔、ふとした時に交わした父との会話が蘇っている…。]

…最後の５ｍ…か。

[シャーロットは、部屋に戻りリュックの中身を点検した後、髪をリボンで結い上げ、ギルバートのサバイバルナイフをさした。]

『…ハンドガンの有効射程距離は意外と短い。お互いに静止した状態で狙いを付けても20mといったところだな。』

『…走っている相手に当てようとしたら、その半分以下の距離になるだろう。連射の利かない銃ならば、さらに低くなる。』

『…銃というものは、どのような構造であっても必ず「狙い」「撃つ」という２アクションが必要になる。連射が利かない場合は、さらに「次弾を準備する」というアクションが必要だ。熟練者であっても、一射目以降は命中精度が激減する…』

『…撃った時の反動の事もある。口径の大きなハンドガンの場合などは特に、射撃後に銃口が跳ねるのは、再度狙いを付ける上での弱点になる。』

『…また、銃は真っ直ぐ向かってくる相手には強いが、左右に動くものには弱い。特に銃を持つ手の側…そちらに動かれた場合は、まず当たらない。弾数の制限も考えると、さらに難しい…。』

『…開けた場所での１対１の勝負ならば、ハンドガンのアドバンテージはほとんど無くなる。最後の５ｍ…それをどちらが制するかで決まる…』

今日は誰が死んだんだか・・。
クソ･･･ッ。

[マンジローは考えを纏めるように、ぽつぽつと言葉を漏らした…]

…彼は…ルーサーは左手が折れている…
撃つ時に…手を添える事さえ…無理だ…

[次にシャーロットは、クロスボウの弦と矢を取り外し、小さな巾着に入れると首からぶらさげた。巾着の中には白い粉のつまった小瓶も入れられている。シャーロットは、用心深くリュックと衣服を茂みに隠した後、小屋の裏手にある泉に体を浸した。]

[マンジローはカミーラの頭をポンポンと軽く叩いて笑みを返した。]

…やはりルーサーと殺りあう場所は、集会所の前の広場…丘のふもとにしようと思う。お前は丘の上で、待っていてくれ。

始まったら、流れ弾に当たらないように伏せて、俺が良いと言うまで起き上がるんじゃないぞ？

[カミーラは、マンジローの言葉を聞くと一瞬考え込んだ。]

ん…

そうだね、隠れとく。足手まといにはなりたくないからね。

[彼女は少し寂し気な笑顔を浮かべると、マンジローから視線を外して窓の方を見やった。窓ガラスには二人の姿だけが映っている。]

……昨日、ラッセルさんは、自分が人狼だったら間違いなく私を襲う、私を必ず殺すと言っていた。メイさんは私が人狼なら、ギルバートさんを襲うのだろう、と。

[シャーロットは、体液の匂いが染み付いているものの、血や肉片の欠片も挟まっていない自分の手の爪先を見つめた。]

ラッセルさんは、ギルバートさんが襲われた事を知ったら、果たしてなんと言うのだろう…。

[カミーラは笑顔を作ってマンジローに向き直った。]

でも、勝負はすぐに着くんだよね? あんたは昨日、「ルーサー如きに負けるはずない」って言ったもの。だから大丈夫…だよね…?

[明るく問いかけたものの、マンジローの返した真剣な眼差しにカミーラは目を伏せてしまう。]

…分かってる。分かってるよ。そんなに簡単なことじゃないって。だけどさ、あたしにはなにもできないんだ。なにも…

[カミーラは俯くと、後の言葉を無理矢理に飲み込んだ。二人の間に束の間の静寂が訪れる。]

[カミーラはしばらくじっと考え込んでいたが、やがて意を決すると、まっすぐにマンジローの瞳を見た。]

マンジロー… あたしは信じてる。あんたのくれた悦びも、希望も、なにもかも。あたしはあんたのことを信じてる。あんたのことだけを信じてる。だから…

[カミーラの瞳に涙が溢れる。]

…帰ってきて… 帰ってきて、お願い… 他になにもいらないから… だから帰ってきて…

[彼女はマンジローの胸に顔を埋ずめると、同じ言葉を何度も繰り返した。マンジローの襟を掴む手は血の気を失ない、小刻みに震えている。頬に伝う涙は拭われないまま滴り落ち、シャツの胸に黒い染みとなって広がっていった。]

[目を開けると見慣れたオフホワイトの世界が、そこにあった。
ぼんやりと昨日のことを思い出すと、集会場のホールでヘンリエッタと一緒に補給物資を受け取った後、双子の、リックが……死んだ。
ヘンリエッタに連れられて、灯台へ戻ってきて……。
今日もまた、誰かしらが人狼によって、存在を否定されて……。
事実が苦しくて、重くて、現実という壮大な悪魔に追われている気がして、ベッドから抜け出して窓の外を見た。
茜色の空が美しく、憎かった。]

……ルーサー、さん。
また、同じ過ちを繰り返すのですか……？
「あの時」と同じ、過ちを……。

[ステラは目を伏せ、集会場へ行く準備を始めて、ヘンリエッタに向かってつぶやいた。]

ヘンリエッタさん……。
わたくしはこんなにも無力ですけれど……、ヘンリエッタさんの、力になりたいと思いますわ。
たとえ、どんなことがあっても……。

ふふ……。

ステラ、お前の助けなど必要ない。
黙って見ていればいい。

[ミッキーは、今日分の食料が投下されるのを見て箱からさっさと食料を取り出し、箱を放置して集会場に入っていった。]

・・・ふん。

[集会所を見渡し、ヘンリエッタに気がつくと小さな声をかけた]
…すみません、あとで話があるんですが、時間をいただけませんか…？
いただけるのならば、南にある教会でお待ちしています。
[そう言うと席から離れ、自分の分の食事を食べ始めた]

[マンジローとカミーラは、ホールにルーサー宛のメモを置くと、既に集まっている者たちを一瞥した後に、集会所を出た。]

…今日の配布食料か。
こんなものは、後でいい…

[集会所の前に放置されている木箱には、それ以上関心を示さずに２人は丘へ向かった…]

なんだ？　牧師。
話があるなら、ここで聞く。

[ステラはヘンリエッタにうなずいた。
ルーサーがヘンリエッタに話しかけるのを聞き、ステラは若干険しい顔で、ルーサーを見た。]

[席をヘンリエッタの側に移動する。
そしてヘンリエッタにだけ聞こえるように話だした]
先日、鷹が獲物を取る姿をみましてね。
実にすばらしい速度でした。
きっと人では対処できないんでしょうね…

[ステラはルーサーが小声で話しているのを聞いて、ヘンリエッタに言った。]

……わたくし、少し外しますわね。

鷹ではない。隼だ。
時速四百キロで急降下する隼を、拳銃で撃てるとは思わんほうが身のためだな。

ふふん。

気にするな。
そこにいろ、ステラ。

ラッセル。さっき言った場所はできるだけ近寄らないでね。杭が飛んできたり足を引っ掛けてぶら下げる仕掛けがあるから。
[などといいながらラッセルと集会所にたどり着いた。]

おっと、隼でしたか、失礼しました。
無論、拳銃で撃てるなどと思い上がったことなどないですよ。
私は私の限界を知っていますから。

きっと、刀でも斬ることなどできないんでしょうね…

ラッセルこそ･･･無茶なんかしないで。
腫れはひいてもまだお腹、痛むでしょう？
[メイはラッセルを心配そうに見ている。]

カタナ？

あのサムライのことを言っているのか。
だとしたら、腕次第だろうな。
最初の一太刀を外せば、頭蓋骨を蹴り割られるだけだ。

ま、そういうことですよ。
介入していただけるとありがたい、そう思っただけです。

何の話だ？

牧師とサムライで殺しあうのなら、勝手にやれ。
私は干渉しない。

[シャーロットは、睨みつけてくるメイを無視して、ラッセルに以前借りたままになっていた、ハンカチを差し出した。]

洗濯はしたのだけど、返すのを忘れていたわ…。
ラッセルさんは酷い汗だけど、メイさんは涼しい顔…ね。

そうですか、それは残念ですね。
自分ひとりでやってみますか…
[そうつぶやくと外に出て行った]

[シャーロットは無表情のまま首を傾けて、今度はラッセルにだけ聞こえるように囁いた。]

ギルバートさんが死んだわ。
あなたが殺したの？　これで満足？　と言いたいところだけど……。
その酷い顔、人狼には見えないわね。

………ねえ。
もし、あなたは本当にメイさんが人狼ではないと思うなら、昨日の彼女の背中の傷がどうなったかを確かめてみるといい。矢の食い込んだ深さ、摘出の際に肉をえぐった面積を考えれば、人間なら一夜にして治癒する傷ではないのは分かるでしょう。でも、人狼ならは月光を浴びてすでに治癒しているわ。
それを確認してみる勇気、あなたにある……？

あの二人がやりあえば、どちらかは死ぬだろうな。
高みの見物と行くか？　ステラ。

[マンジローはルーサーが集会所を出てくるのを確認すると、丘のふもとまで降りていった。]

…最後の５ｍ。
必ず俺が貰う…そして…斬る！

[去っていくルーサーの背中をじっと見つめた後、静かに言った。]
ルーサーさん……、本当に、マンジローさんを……？
……見に行きたい、かもしれませんわ……。
あまり、褒められた行動ではないことは自覚しておりますけれど。

どちらが死ぬか、見届けてやろう。
ついてこい、ステラ。

とりあえずそこで止まってもらえませんかね…
[そういうと銃を取り出し狙いを定めた]

始まったようだな。

さて、どうなることやら。

[メイはシャーロットに向かって叫んだ]
ラッセルに何を言ったの！？
セシリアを殺して･･･ギルバートを誘惑して、ギルバートが用済みになったので今度はラッセル？
そんなことは許さないから！
ラッセルは殺させない！
ラッセルが殺される前にメイがあなたを殺すよ。

一つ質問をしましょう。
仮にカミーラが人狼だとわかればあなたはどうしますか？
そんなことはあるはずが無い、その答えは無意味です。
もし、それが現実なら・・・あなたはどうしますか？

答える必要すらないな。
俺にとって…その質問自体が無意味だ。

[シャーロットは、すれ違い様にもう一度、ラッセルに囁いた。]
メイさんが人狼かどうかをあなたが確かめるなら、今日は私は彼女を殺さない。あなたは、もし、彼女が人狼だったとしても、守る勇気がある？
彼女のために死ねる？

そろそろ時間か・・・。決闘か、下らない・・。

[ミッキーは荷物を取り出し、テレビに映るギルバートの死体を見て嘲笑した。]

・・・アイツが今日死んだのか。アイツも、僕が殺してやろうと思ってたのにな・・。クヒヒハハッ。

[いつもよりは静まり返る集会場の中、外の緊迫した雰囲気とは全く関係のないような、間の抜けたBGM。例の時刻が来た事を知らせる女性のアナウンスが、いつも通りにはじまった。]

『はいはーい、今日も楽しい殺し合いの時間がはじまりまーす。ルールは省略！
誰が１人が殺されたらいつも通りに花火が上がってはいソコまで！　今日のゲームは終了でーす。
分かってると思うけど、夜明けまでに誰も殺せなければ、全員に死亡よ。もちろん、二人目を殺してもダメだからね、それじゃ頑張ってねー。』

[いつも通りの女性アナウンサーの笑い声とともに、放送は終了してギルバートを映し出した。]

・・・・・・・。

好きにすればいいわ、メイさん。
……私には失うものが何もないの。

[シャーロットは、静かにサバイバルナイフを構えた。]

やれやれ、つまらない人だ。

一つだけ言っておきますか。
人狼は１匹も減っていません、まだ３匹残っています。
それがわかるから私はここにいるわけですよ。
[そういうと一発目の銃弾をマンジローに向けて発射した]

[メイはシャーロットに石つぶてを左手で投げると集会所を飛び出しつつ言った]
ラッセル！メイは森に行っているから！

[マンジローはルーサーに近づくにつれ、左右への動きの幅を大きくしながら走っていく。ルーサーの放った弾丸は片手で撃っているためか、見当違いの方向へと逸れた。]

…一発。

[シャーロットは、椅子を転がして石つぶて避けると、集会所に残ったままになっている、ラッセルを静かに見つめた。]

メイさんを追って行かなくていいの？

ラッセル･･･。なんで、ついてきてくれないの？
[メイは後ろを振り返りながら混乱している。]

[マンジローは懐に手を入れると、先ほど作ったばかりの石つぶてを右手に握った。ルーサーの放った２発目の銃弾が、マンジローの数ｍ手前に着弾すると、弾けた小石の破片が、マンジローの頬を切り裂いた。]

…二発。

[マンジローは時計回りに回り込むようにルーサーとの距離を詰めると急に方向転換すると、右前方に走り出しながら手にした石つぶてを３つともまとめてルーサーに投げつけた。小指の爪大の小石がルーサーに降りかかる。]

…………。

[メイは追いかけてくるラッセルの様子に今更気付いた]
ラッセル･･･足を怪我したの？
大丈夫？
ごめん、メイは気付かなかった。
[メイは駆け寄るとラッセルを支えた]

[飛んできた小石が体に当たるのを完全に無視して狙いを定めている]

何で、アンタは、ギルバートのヤツと一緒に居たんだ？

[ミッキーは一言一句ゆっくりと言いながら、武器を構える様子もなく、目や顔を合わせるでもなくさり気なく聞いた。]

[マンジローは右手で刀の柄を握ると、鞘ごと大きく振り払い、鞘をルーサーへと飛ばした。直後にそれまでとは打って変わり、身をさらに低くして真っ直ぐにルーサーへと駆け寄った。]

ルーーーーサーーーーっ！！

[マンジローは、最後の5ｍをそのまま前方へ身を投げ出すように転がってルーサーとの距離を一気に詰めると、勢いを利用してルーサーの右腕を上から下に斬りつけた…！]

……一緒に居た理由？
[シャーロットは、少し戸惑った表情で考えを巡らせた。]

[閃く斬撃を回避しようともせずマンジローに向けて銃弾を発射した]

【ヘンリエッタの放った隼マルケスは、ルーサーとマンジローの上空を悠々と旋回している。】

ミッキーさんは、彼と従兄弟同士だったけど、仲が悪かったのだったわね…。

ギルバートさんは、……前回参加者といういわくつきの、私の言葉を正面から聞いてくれて、信じてくれた人だった。あなたには嫌な従兄弟なのかもしれないけど、私にここから出た後、一緒に居ようって言ってくれたわ…。

………。

一緒に居たかったな。

[シャーロットは、消え入りそうに呟いた。]

アハハハハハハハハハ！

････分かった。

[ミッキーは愉快そうに哂った後、後ろを振り向いて移動していった。]

……何もかもがどうでもいい。

[ミッキーは、試合のほうは全く関心を寄せずに、殺気だたせた眼でヘンリエッタを睨みながら歩いていった。]

クヒヒハハ･･･分かったぞ・・・。僕は、もう、ワカッタンダ・・・。

【隼マルケスは上空からミッキーの姿を認めると、矢のような速度でまっすぐに急降下していった。】

[メイはシャーロットがまだ集会所にいるのを見つけると叫んだ]
シャーロット！この人でなし！
[言うと同時に駆け出してシャーロットに体当たりをしかけた。]

【隼マルケスは急降下した勢いそのままにミッキーを蹴りつけたが、それは棍棒を打っただけだった。】

うぉぉぉぉぉぉぉおおおお、がぁぁぁああああ！

[ミッキーは、ロッドをそのまま捨てて、隼がまた舞い上がる前に一気にヘンリエッタに近寄っていき、手斧を両手で持って全力で縦に振るった。]

少し離れていろ、ステラ。

く……。

馬鹿力だけはあるな。デブ。
力押しは苦手なんだよ、私は。

[メイに向かって、]

ギルバートさんを襲ったのはあなたなんでしょ？

[シャーロットは体当たりを右に避けると、メイの膝をクロスボウの胴の部分で強く打ち付けた。]

[マンジローが刀を振り下ろす瞬間、ルーサーの銃が火を噴いた。銃弾はマンジローの首元に命中し、マンジローの体は仰け反るように一瞬宙に浮くと、そのまま地面へと叩きつけられて一度だけ大きく跳ねた…]

[マンジローは「カミーラ…」と呟いたが声にはならず、ゴボゴボとした音だけが鳴った。カミーラの泣き笑いの表情が一瞬脳裏に浮かんだが、そのまま意識が薄れていった…]

[メイは膝にクロスボウをぶつけられて]
痛っ！
[メイは悲鳴をあげた後膝を押さえるのを我慢してクロスボウを蹴飛ばした。]

ここまでだ、デブ。
今日の死者は決まった。

・・・・クソッ。

[ミッキーは手斧をさっさとしまって、ロッドを拾ってマンジローのほうをみた。]

[マンジローが吹き飛び倒れる姿を表情も変えずに見守っている]
私もそちらに行くことになるだろう、さらばだ…。

[そうつぶやくと銃を下ろした]

答えて……。

牧師が勝ったか。
厄介なほうが残ったものだな……。

自分でギルバートを殺したんでしょ！
よく言うよ！
ラッセルを次の犠牲者にする気？
絶対に･･･させない！
[メイはクロスボウを気にして近距離で睨みつけている。]

カミーラ、君は運がいい。
泣いてすがるための体があるんだからな…。
それがなければ死を受け入れられない人間のなんと多いことか…
[そう独白するとその場を立ち去った]

ヘンリエッタさん、大丈夫、ですか？
ミッキーさんはどうして……
[と、言いかけるが思わず視界に入ったマンジローに言葉を失う。
慌てて目をそらし、ルーサーの背中を一瞬にらみつけた。]

【ヘンリエッタは隼マルケスをマンジローに向けて投げ飛ばした。狙いは刀だった。が、その脚より一瞬だけ早く、ミッキーの手がマンジローの刀を奪い取ったのだった。】

……ち。

邪魔をしてくれるな、デブ。

私は何ともない、ステラ。
それより……。


……と。
花火が上がったようだな。

[メイは花火が上がったことに気がついた。]
････。ラッセルは殺させない。

･･･ふん。

[ミッキーはカミーラに気がつかれると面倒な事になりそうだと思い、さっさと去っていった。]

花火は……、もっと美しいものだと思っていましたのに。
こんなに胸が痛くなるものだなんて……。

私が人狼だと、……それが言いたくて、ギルバートを殺したのね。
あなたを信じてるラッセルさんも殺すの？

[シャーロットは、凍り付くような怒りと悲しみに捕われていて、花火があがったことにも、しばらく気がつかなかった。]

花火は美しいものだよ。
それを見て胸が痛くなるのは、ただの感傷だ。

マンジロー!!

[カミーラは、マンジローに駆け寄った。マンジローの首からは鮮血が迸り、彼の頭の下に出来た血溜りがみるみる広がっていく。カミーラは彼の胸を揺って力の限りに名を呼んだが、マンジローはぴくりとも動かない。]

そんな…

[カミーラは呆然と呟いた。]

嘘だよ… こんなの…

[彼女は、もう一度マンジローの名を呼んだ。しかし、やはり反応はない。彼の目は既に生気を失ない、ただ星空を見つめていた。]

一緒に… 生き延びようって… 一緒に… あたし…

[カミーラの両目は大きく見開き、半開きになった口からはカチカチと歯の鳴る音が聞こえる。彼女は、震える手でマンジローの手を取った。徐々に失なわれていく体温が、カミーラの心に絶望を流し込む。]

う… あ………

[カミーラは、マンジローの顔を見ながら呻くと、彼の亡骸の上に崩れ落ちる。気を失なった彼女の衣服に、マンジローの血がゆっくりと染み込んでいった。]

……感傷、ですか。
確かにその通りですわね。

[ぼんやりと遠くを見つめた。]

ヘンリエッタさん、もしよろしければ、明日……バイオリンを弾いて下さいませんか？

ラッセルをメイが殺す？
そんなわけないじゃないか！
おまえこそラッセルを誑かしてどうするつもりっ！？
ギルバートも用済みになったんでお前が殺したんだ！
メイは･･･お前を許さないからっ！
[メイは怒気を孕んだ視線でシャーロットを睨みつけるとラッセルを森に置いてきたことを思い出して集会所を飛び出した。]

ヴァイオリンか……。

いまはそんな気分でもないが。
明日になれば気が変わるかもな。

今夜は灯台で寝るか……。
集会所は死体であふれているしな。

･･･ハッ。まともな武器だな。

[うなされて目が覚める。体の痛みのせいなのか、心の痛みのせいなのかは、判断がつかない。隣にメイがうずくまって寝ているのを見つける。]

……メイ……ここは、どこだろう。