人狼審問

ニーナ、メイよ！ギルバートの様子がおかしい。
止めよ、さもなくば…

[焦る身体はまるで自分の物で無いかのように動かなかった。]

［ステラに向かって、くすりと笑うと、言う。］

……さぁ…?
月が綺麗だったから……かね。

……ねえ、ハーヴェイさん……
もう、そんな顔をしないで……？

わたくしは、穏やかな時の流れに居る貴方のことが……

ずっと……好きだったの……

わかった。わかったよシャーロットさん……。

【君以外を殺せばいいんだね……きっと……】

………。
何もわかっていらっしゃらないわ。

〔シャーロットは、わざと怒ったような表情を作る。〕

……この状況から抜け出す方法を、探ればいいのよ……

【いったいこれはどういう状況じゃ？ギルバートがナサニエルを殺し、ナサニエルはギルバートを傷を負わせた。】

【ヘンリエッタを連れ地下室に逃げ込んだギルバートは、そのヘンリエッタを銃で撃った。】

【まるで意味がわからぬ。そしてギルバートの傷は…】

………そう。
殺した事を認めるのですね。

[ステラは、ギルバートの方へ一歩踏み出した。]

いったいどうやって、この状況から抜け出すんだい？
誰が人狼かも判らず、かといって村に戻る事もできない。

この部屋に二人で立て篭もって、人狼を待ち構えるかい？

ねえｌハーヴェイさん……
本当は……わたくしだって、こわいのよ……

だけど…逃げてばかりでは、どうにもならないわ…

だから……せめて………
大切な人だけは……この手で、守りたいの……

………。
なんとしても、人狼を見つけるしかないわ。
でも、今の状況ではどうにもならない……

ミスター・マーロウや、お兄様の力も失った……
……ならば直接、人々の言葉を聞いて、探すしかないわ……

ステラは何を言っておるのじゃ？

ギルバートは何故あんな青白い顔をしたまま立っていられる？

ヘンリエッタを救わねば！

わしの目の前で何が起こるというのじゃ。

……直接人の正体を見極めてくれる人はいなくなりました。

ならば、わたくしたちが考えて、見つけるしかないのです……

そうでしょう……？

やめろ、やめろ、やめろぉーーーー。
話など後じゃ。

殺し合ってどうなる？
傷付けあってどうなる？
頭を冷やせ。
落ちつけ、落ちつけというのがわからんかっ

邪魔をしないで……。

……。

ああ……そうだね……明日、生残れたら考える事にするよ。

ステラさん？　
危ない、ギルバートさんに近寄っては！

[デボラは向かい合うステラとギルバートの姿をただ見守るしか出来なかった。]

[ステラの表情はこちらからでは見えない。ギルバートの血の気の引いた顔はとにかく心配だったが、それ以上に寒気がするような薄ら笑いが不気味だった。]

す、すまないシャーロットさん。
もう夜も遅い。今夜は休んで下さい。

きゃあっ！！

〔…は、ハーヴェイに抱きかかえられて思わず小さな悲鳴を上げた。そんなに腕力があったのかと、意外そうな表情をしてハーヴェイを見つめる。〕

……あ、あの……っ……！

〔その頬は、月明かりの元でもすっかり紅潮しているのがわかる。〕

[動かない身体と、抑え切れない心のアンバランスな関係。悔し涙が流れた。]

[踊ることの出来なくなった若き日のことを、ふと思い出した。まるで動かない足、それが自分を沼のそこに沈めるような感覚。だが、どんなにもがいても喚いても動かない足はぴくりとも反応しなかった。]

[ゆっくりと、一歩ずつギルバートに近付いて行く。相手に気付かれないように、後ろ手で太腿のナイフを確認しながら。]

……ナサニエルさんは、もう二度と戻ってきません。

あ……す、すまない。僕は廊下に出ているから。

あなたが人狼ね？
私には分かってる……。

……いえ、人狼でなくても同じ事。

あ……あ……あのっ………

………。

…そうだと言ったら…?

［…は、飛びそうな意識を、自らの腹部の傷を掴む事で繋ぎとめていた。］

…。

……同じ。
ナサニエルさんが居ないと言う事実は同じ。

[低く掠れる様な声でステラはそう言い捨てると、ナイフを抜き、ギルバートに切り掛かった。]

お休み、シャーロットさん。君の事は僕が守るよ……。

[そっとシャーロットの頬にキスをした。]

[誰も止まる気が無いのだと悟ると、叫ぶのはやめて会話に聞き耳を立てる。]

【ギルバートよ…。ソフィーが無惨に殺されて自棄になるのはわからんでもないが…。だがあやつが何を考えているのかわしにはさっぱりわからぬのじゃ。怖い】

ステラ！

[ステラがナイフを抜くのを後ろから見たが、どうにもできなかった。]

［…は、何の抵抗もせずに、闇の中に光るナイフを見ていた。］

なっ……！

[ステラの手は震えている。
だが、その手はギルバートの腹部を確実に突き刺した。]

[肉に鋭利な刃物がずぶずぶと食い込んでいく感触にステラはおののいた。しかしこれで何かが終るのではないかと言う予感に、なし得たと言うカタルシスも有った。]

……っ……。

［腹部に、深くナイフが突き刺さっていた。その場に崩れ落ちそうになるのを、目の前のステラの肩を掴んで耐える。］

……ステラ…。
………ナサニエル…は……。

［呼吸が荒く、ひどくゆっくりとしか喋れなかったが、何とか言葉を紡ぎだす。］

[ステラとギルバートを目の当たりにしながら凍り付いて動けない。]

【狂人同士つぶし合うのか、】

……っ！
じ、地獄で裁きを受けるが良いわ。

[肩に食い込む指が、焼ける様に痛い。ステラは、ナイフを抜くまいと抵抗したが、ナイフは少し抜けたようだ。]

[ギルバートからナイフが抜け、地下室の床に血が滴り落ちる。]

[ステラがナイフを突き刺すその光景に恐れを抱き、再び震え出す。]

なっ…

馬鹿者、馬鹿者っ

[言いたいこと、言うべきことはまだあった筈だが、何故か馬鹿者という叫びを繰り返すくらいしかできなかった。]

［血が、口から逆流してくる。咳き込むように吐き出してから、ゆっくりとステラに向かって話す。］

………最後に…お前の名を呼んで…いた…。

……俺が……刺した…瞬間…。
…あいつの…表情は……人間だっ……た…。

俺が…知っている……奴の顔だった…ぜ…。

ギルバートさん！？

………ナ、サニエルさん。


[後ずさったままのステラの目から再び涙が落ちる。
目の前で血を吐くギルバートを拒絶するように、ステラは激しく左右に首を振る。]

ギルバートがっ

ギルバートが死んでしまう！

はやく！
はやく！

ステラ！ラッセル！ニーナ！メイ！
もう誰でも構わん。

はやくギルバートの手当てを。

……よ……せ…。
［倒れたまま、呟く。］


………静かに…眠らせてくれ…。

ギルバート、おぬしは喋るな。
黙って、生きることを考えよ。

この老いぼれより先に死ぬようなことがあったら許さんぞ。許さんったら許さん！

[デボラは立続けに吼えた。]

［意識が遠のいて行く。ひどく寒かったのが何も感じなくなり、ただ、どうしようもない睡魔が襲ってきていた。］

……。

［ふと、誰かの暖かい手が自分の手を包んでいた。目を開けて、見上げる。］

………。

［目の前には金髪の、少し気の強そうな目をした女性が微笑んでいた。］

…ありがとう…。

［その手を優しく握り返すと、ゆっくりと*目を閉じた*］

ギルバートさん！

【傷は内臓まで達しているようだ。
　一刻も早くまともな医者に連れて行くべきだ。
　その上もともと、かなり衰弱していたようだ。
　これはまずいな。】

【一応手当はしてみるが……助かるまい。】

[ギルバートのそばのヘンリエッタに気づく。
てっきり死んでいたと思っていたがまだ息があるようだ。]

ヘンリエッタさん……？

【意識はない。脳震盪でも起こしたか。
　こんな部屋の中で狙いを外すとは。銃もまともに保持できないほどギルバートは弱っていたと言うことか。】

[デボラは悔しそうに床を叩きつけながら、声が枯れるほどに*叫び続けていた*]

【…ギルバートは人間・人間・人間・ニンゲン・ニンゲン…ニンゲンテナニ？】

【ヘンリエッタの方がまだ見込みはあるな。】

[ヘンリエッタは撃たれてはいるが、傷はたいしたことはない。応急処置をして、仰向けに寝かせておく。

ギルバートは……だめか。出血が多すぎる。]

……っ…。

ラッセルさん、ぼーっとしてないで。
メイさんと二人でヘンリエッタを部屋まで連れて行って寝かせておいてください。そっとね。

［…総ての価値観が崩れる。その中でヘンリエッタがまだ生きていると言うことが僅かに人としての何かを取り戻させる］
エッタハ…イキテル？

ラッセルさん、どうしたの。

［…はよろよろとニーナの命令に唯々諾々と従った］
【ボクハナニヲシテイタ？】

【ヘンリエッタは、いますぐどうかなることはないだろう。何かあったら呼びに来るだろうし。

　それより、ギルバートだ。
　出血が止まらない。薬もないし。

　だめか。】

［誰に聞かせることも無く呟いた］
…エッタが死んでいると思った
ニンゲンであるはずのギルバートさんの手で

…その時から僕は生きている必要が無くなった
僕が死んでも誰が死んでも意味が無い

そう思う…いや感じることすらなかった

だめです。
ギルバートさんはもう……。

馬鹿だな　僕は