自警団長 アーヴァイン
あー、諸君、聞いてくれ。もう噂になっているようだが、まずいことになった。 この間の旅人が殺された件、やはり人狼の仕業のようだ。 当日、現場に出入り出来たのは今ここにいる者で全部だ。 とにかく十分に注意してくれ。 |
酒場の看板娘 ローズマリー [―――響き渡る遠吠えと、夜を引き裂くような絶叫。 その音は、房の外から聞こえてきた。 ローズは施錠されていない扉を開け、廊下へと向かった。 廊下に看守の姿はない。本来なら、最低一人は監視役として立っている筈なのだが。 ローズはゆっくりと、音の許へと歩を進めた。] 【女子房・詰所】 [―――詰所の中は。 大きな牙と爪のようなもので引き裂かれた、先程まで「看守」と呼ばれていた者の残骸が転がっており、血の海と化していた。 ローズの脳裏に浮かぶ、一つの事。 「このまま鍵を奪えば、ここから脱出できる。お母さんに会える。」 普通の神経の持ち主なら、この惨劇を目の前に悲鳴の一つ揚げるだろう。しかし、ローズは声を揚げる事なく詰所に入ると、充満する血の臭いをぐっと堪え、看守の残骸から鍵束を奪った。] | |
(0)2006/02/17 01:31:17 |
見習い看護婦 ニーナ 【懲罰室】 「おまえ、またしても看守に逆らうつもりか・・・?」 [勿論ニーナに正当な理由がない限り看守に意見することはなく、本来のニーナの態度は良好と評価されるべきものであった。しかしそれをよしとせぬ看守が、どうこう理由をつけてニーナに個人的に制裁することがあった。反抗、或いは別の囚人の肩代わりの名目等で。 娯楽室にいたニーナは突如、ニーナは複数の看守に無理矢理鎖を掴まれ、ニーナにこのような形で接触する看守のすることは懲罰室行きと予想がついていた。一般の世界からは隔絶された島であれど、その中でも歴史の表舞台には最も日の目を見ることのない場所だ。 ニーナは荒々しく懲罰室の床に叩きつけられた。ショートの髪が揺れる。] 『お前ほどその部屋に入れられる奴はいないな。まったくよく処刑されないもんだぜ。ははん。』 『5日も経てば出してやるさ。・・・生きていればな。』 [ニーナの頭上を無責任な声が掠めていく。] | |
(1)2006/02/17 01:36:24 |
書生 ハーヴェイ 【夜/独房】 「所内の食事は貧相なものだった。硬くなったライ麦パンと冷めたボルシチ。最低限の食事しか与えないのはおそらく囚人の気力を削ぐためであろうか。 民から搾取する貴族どもは、はたして彼らの農奴にいかほどの食料を与えているというのであろうか。国の根本を成す農民たちが、たかだか刑務所の囚人と同様の食事しか食すことができないというのであれば、それはあまりにも哀れで滑稽なことだ。」 [などと書き記しているうちに時間が過ぎた。自由時間も終わりに差し迫ったころ、娯楽室にいた博徒たち。彼らはなんと能天気なのだろう、と思った。ふと、風の音に混じってどこか、唸りのような音が聞こえる。海鳴りであろうか。] | |
(17)2006/02/17 04:04:58 |
見習いメイド ネリー 【回想/昨日夕刻/礼拝堂】 [だいぶ眠ったはずなのだが頭の芯はまだ霞がかかったようで正常な思考は途切れ途切れにしかできない。 それも正常な思考などというものがまだ私に存在するならという話だが。 牧師の説教は型どおりのもので私の心には響かない。 牧師の言葉に力がないのか。それとも私の心がそれを求めていないのか。 そんなことを考えながらただ耳を傾け、促されるままに聖句を復唱した] ……悔改めよ、か。 この刑務所から本当に出ることが叶うなら… 犯してない罪すら跪き、許しを乞うわ… それで、自由が手に入るなら… [目の前にいた牧師が憐れむように私を見下ろしている。 その憐れみは、無実で投獄されたという私の主張を省みてのものか、服で覆いきれず見えている痣を見咎めてのものか。 私には知る由もなく――また牧師の意図を確かめることすら無意味に思えた] | |
(20)2006/02/17 15:45:36 |
見習いメイド ネリー [礼拝堂には他の囚人の姿があり、中には僅かな期間に見知った顔もあったが傷を負っていた私は人目につく事を避け近寄らず会釈を送るだけにとどめた] そろそろ…時間かな。 夕餉の支度を手伝わなくては… [人手の足りぬ刑務所では囚人に役務として特別な役割が課せられることがある。 私は通常女性囚人が課せられる役務――裁縫のようなものだ――に加えて食事の支度を補助するという役務があった。 それは私にとっては長く親しんできた仕事で何ら不満はなく、むしろ自分に宛がわれた薄暗い房ではなく模範囚などの特別な者達にだけ開放された食堂の片隅で食事をとることができる喜ばしいものであった] 昼のスープはいくらなんでも酷すぎよね。 具材がないのはいつものことだけど、あれじゃ湯だわ。 [誰にも聞こえないように文句を言いながら食堂に向かい私はささやかな料理に没頭した] | |
(21)2006/02/17 15:46:08 |
酒場の看板娘 ローズマリー [ローズは一冊の本と鍵束を持ち、女子房の廊下を走った。鍵を解かれた女子達は、未だ房の中で蹲っていた。ローズは共に脱出しようかと思ったが、男子房に居る看守達の事を考えると、大勢で逃げるのは目立って見つかってしまう可能性がある…そう考え、ローズは敢えて一人で脱出する事にした。 詰所まで来ると、ローズは大きく息を吸い込み、口に手を当てて中へと入った。ローズの足元に、一人の人間の頭部が転がっている。 (逃げれるのは嬉しいけど…一体、誰がこんな事を…? 人間の仕業とは思えない…。) そう、ローズの目の前の惨情はとても人がなしたものとは思い難かった。数匹の…大きな獣がなしたとしか考えられなかった。 (獣だとしても…この刑務所内にそんな獣が居た…? 外からの侵入は不可能…よね…?) 浮かび上がる幾つかの謎。 何故…看守達が殺されたのか、何故…獣のようなものが刑務所内に居たのか…。 ――ふと、唸り声を思い出す。 『無実の罪を着せられて死んでいった者の魂が成仏できず、現世に留まっているのかもしれない…』] | |
(25)2006/02/17 18:35:10 |
牧師 ルーサー 【回想/遠吠えの響く時/囚人礼拝所】 ――響き渡る絶叫。 遠吠えが止んだ時、ルーサーの耳にそれが飛び込み、彼は思わず座っていた長椅子から跳ねるように立ち上がった。 絶叫、悲鳴……何を言っているのかも判然とせぬような喧騒。吠え、唸る声……明らかに人に発する事の出来ぬ声が混じる。そして、救いを求める声、罵る言葉、母を呼ぶ声……。 ……沈黙。 喧騒が止み暫しの時が流れた時、呆気にとられていたルーサーは、はっと我に返った。 (――何が起こったというのだ!?) 駆け出すと、礼拝所から詰め所へと続く扉に向かう。そして、扉に手を掛けゆっくりと開いて行く。途端、詰め所からむせ返るような匂いが漂う。 扉を開け放った時……ルーサーは余りの光景に目を見開き、声も無く立ち尽くした。 ……赤く。ただ、赤く。 詰め所はただ一つの色に染め上げられていた。 ――脳裏に蘇る記憶。その景色。 前進におこりに罹ったかのような震えが走る。ルーサーは胸の十字架にてをやり、崩れそうになるその身を懸命に支えた。 | |
(27)2006/02/17 19:00:23 |
牧師 ルーサー 「神父さん……」 今にも消え入るそうな声で、アーヴァインがルーサーを呼ぶ。ルーサーは涙を流しながらそれでも笑みを作ろうとし、アーヴァインの目を見つめ、手を取り頷く。 「はい。私はここに居りますよ。」 幾分か、アーヴァインの表情が和らいだかのうように見えた。規則には厳しい男だか、しかし、気が良く話しの分かる男でもあった。ルーサーが赴任したての頃、アーヴァインに助けられた事もしばしであった。 今にも消え入りそうであった呼吸は次第に弱く、そして、瞳からは光が失われ……ルーサーに見取られ、アーヴァインはその命を終えた。 「主よ……どうか、この者の魂に安らぎが訪れぬ事を……」 赤く染まった部屋の中、皮膚の破れんばかりに十字架を握り締めたルーサーの祈りの言葉だけが響いていた。 | |
(29)2006/02/17 19:01:48 |
牧師 ルーサー 【回想/虐殺の夜/女子房側詰め所】 (……一体何が、これは何者の仕業だというのか。) 血塗られた室内。それはルーサーに拭いきれぬ公開と罪悪感と共に過去を思い出させた。苦しみのような、痛みのようなものが胸を突く。だが、今はそれに思いを巡らせている事は出来なかった。 ……看守達にこのような運命を与えた者がいる。それも、まだほんの少し前の時間に。 ルーサーには二つの道があった。 一つは何処かに――そう、例えば演壇の下にでも隠れるか、刑務所の外へと逃げ出しこの殺戮をもたらした者の手から隠れ遂せようとする事。 もう一つは生き残っている者を探す事。手当てをすれば助かる者もいるかも知れない。 ルーサーは迷わず後者を選んだ。逃げ隠れすれば助かるという保障があるわけでもない。収容所の者を皆殺しにする事が目的であれば、逃げる事は困難なのではないかと思えた。 今、近くには不穏な気配も感じられない。殺戮者が去ったのであれば、逃げ隠れする事で救える者を見捨てる事になるかも知れない。 ルーサーは覚悟を決めると、恐怖を感じ竦みそうになる体を叱り付け詰所から廊下へと出だした。 | |
(30)2006/02/17 19:50:23 |
牧師 ルーサー 【回想/虐殺の夜/宿所】 ――宿所の扉の前に立つ。 扉はあらぬ力で引き剥がされたようにひしゃげ、開け放たれていた。室内は暗く、中の様子は見て取れなかった。だが、ここからも血臭が漂ってきていた。 一歩、踏み入る。 だが、やはり様子は分からない。ルーサーは明かりを得ようと、懐に手を入れマッチを取り出そうとした。 ――るるるぅ 微かに唸る様な声にルーサーは手を止め、そちらに目を向ける。 ……暗闇の中、微かに灯るように。 紅い、二つの光があった。 背筋が凍った。懐に入れた手でマッチではなく十字架を探る。 紅い光が揺れる……ふ、と止まる。次の瞬間、それは跳ねるようにルーサーへ飛んだ。 我知らず、光に向け十字架を翳したルーサーを衝撃が襲い、叩きつけらように壁に跳ね飛ばされ、そのまま崩れ落ちた。 | |
(33)2006/02/17 20:34:42 |
見習い看護婦 ニーナ 【反省房】 [ニーナは固い金属の扉の内側に身を潜めていた。何も飾られていない部屋。何ものも置かれていないモノクロームで色素のない空間。光さえも差さない場所ゆえ、壁の染みの数も数えることもままならない。 堅牢なこの部屋の向こうで何が発したのだろうか。静寂と時が流れる。 ニーナは天井を見つめる姿勢で身体を横たえ、両の指を絡ませ祈るような仕草で自らの境遇を思った。プロテスタントであることが無意識にそうさせたのだろうか。 ニーナはアーノルドの屋敷に半ば強制的に取り立てられた以降、生きることの無上の喜びに自らが触れたことは皆無といえた。 運命とも言える川の流れに流し流され、その注ぎ口、河口がこの地であるのか。] | |
(36)2006/02/18 00:04:52 |
医師 ヴィンセント 【回想/遠吠えの響く虐殺の夜/娯楽室→男子1号房】 [娯楽時間も少なくなり、 そろそろ房に戻ろうとヴィンセントは立ち上がった。 娯楽室を見回すと、既にヨアヒムの姿はなく、 後ろに立っているブラウンの髪をした男─ ─ギルバートと言っただろうか──が 緑髪の少年の方を眺めているのを見ながら、椅子を元の位置に戻した。 彼はその視線の先の緑髪の少年が気になり、 不自然にならない範囲で彼をそっと眺めた。 …なりは若いを通り越して幼いといった風体だが、眼光には鋭ささえ感じられる。 その様子はこの場に収容されている者たちの中でも 限られた人物にしか見て取れぬものだった。 oO(…彼のような少年が、何故このような場所に…… ──いや、彼も私と同じく 冤罪の末にこの場に送り込まれたのかもしれない…) そう考えつつヴィンセントは本を抱え、房へと続く廊下を歩き始めた] | |
(38)2006/02/18 00:07:27 |
医師 ヴィンセント 【回想/遠吠えの響く虐殺の夜・深夜/男子1号房→宿所】 [──どのくらい眠ったことだろうか。 ふと、なにかの遠吠え…そしてそれに続く悲鳴のような音に彼は飛び起きた] …遠吠え…か? そしてあの声は人間の断末魔……何がおきた?! [分厚い毛布を除けて跳ね起き、扉へと走り寄る。 何が起こっている?と格子に顔を近づけると、 重い鉄の扉は彼の体重を受け止めて僅かに動くような音を発てる。 ヴィンセントは訝しく思ったが、素早い動作で扉を開いた] おかしい…施錠が行われていない? いったい何が起こっているというのだ…この場に。 …先程の悲鳴が思っているとおりのものであるなら、私は急がねばなるまい。 [かじかんだ指先に息を吹きかけ、ヴィンセントは悲鳴のする方へと走り出した] | |
(40)2006/02/18 00:09:55 |
牧師 ルーサー ……ヴィンセントさん? [ ルーサーは目を細め、幾分ぼんやりとした表情でヴィンセントの顔を見上げていた。意識がはっきりとせず、何の思いも巡らなかった。 だが、やがて、何かに気がついたようにはっと身を起こそうとし――肩口に激しい痛みを覚え思わず呻き声を漏らした。] ぐ…… 「動かないでください…今、止血をします。」 [ ルーサーは痛みに顔をしかめながらヴィンセントの言葉に僅かに首肯すると、手当てに身を任せた。てきぱきとしたその手際は、一年以上も医療の現場を離れていたと思わせぬものだった。こんな時ではあったが、このような人物が無実の罪で囚われている事がルーサーにはやるせなく思われた。] ヴィンセントさん……ありがとうございます。 しかし……ここは危険です。何処かへ身を隠すか……刑務所の外へ…… [ だが、ルーサーの言葉にヴィンセントは首を横に振る。] 「ルーサーさん。もし逆の立場であれば、あなたは私を置いて去る事ができますか?」 [ ヴィンセントの言葉にルーサーも首を横に振った。そして、ヴィンセントの姿を見ながらルーサーの意識は再び薄れて行った。] | |
(52)2006/02/18 01:05:48 |
農夫 グレン 【朝/厨房】 [長い、永遠に続くような暗闇の時間。月明かりの届かない詰め所の闇には、いつまでも目が慣れなかった。血の匂い。どこからか聞こえる。悲鳴、鍵を開け、扉を開け放つ鉄の音、なにかを叩きつける荒々しい物音。 闇のすぐ向こうでは、息を潜めた狩猟者が怯える姿をにやにや眺めているのではないか? 気が狂いそうな暗闇がうっすら白み、引き裂かれた看守の遺体が転がっている光景が朧気に見えてきた朝。 そんな朝でも、一睡もしなければ腹が減る。 昼と見違えるほど豊かな、兎肉の贅沢にはいった御馳走を見るまでは。] くそ…眠れるわけがねえ。うぇ。なんて有様だよ。 看守さまもこうなっちまうと…寂しいもんだな。 メシはないのか。メシは。 うっ… くそ。…ちくしょう。くえねえ。 | |
(55)2006/02/18 01:56:59 |
牧師 ルーサー 【夜明け/医務室】 [ 薄暗い空。 意識を失ったルーサーが目を覚ました時、既に夜は明けていた。傍らには、椅子に座ったヴィンセントがベッドに凭れ掛かるようにして眠りに付いていた。] ヴィンセントさん……ありがとうございます。 [ ルーサーは呟くと、力の入らぬ右腕をそのままに、左手で体を支え身を起こすと、十字を切り、小さく祈りの言葉を口にした。] (私達は……助かったのだろうか?) [ 少なくとも、殺戮者はここを訪れなかった。 ……脳裏に昨日の情景が浮かぶ。 血塗られた詰所。息絶えたアーヴァイン。そして、闇に灯る紅い二つの光。あれは……きっと殺戮者の瞳であったのだろう。思わず、左手を右肩のにやる。 変わり果てた看守達の姿を思えば、この程度で済んだというべきであろう。 (そういえば……) [ ルーサーは意識を失う前に聞いた音を思い出す。鍵束を鳴らし正面玄関へと向かう音。 暫しの思案の後、ルーサーはベッドを降りて立ち、衣服を正すと、己に掛けられていた毛布をヴィンセントの肩に掛け、医務室を後にした。] | |
(59)2006/02/18 02:11:56 |
牧師 ルーサー 【朝/正面玄関】 [ 玄関の扉は開け放たれていた。誰かは分からぬが、鍵を空けここを通った者がいるようであった。ルーサーが詰め所を出た時に見えた様子では、扉は開いていなかった。鍵を開け、ここを出て行った者がいるという事であろう。] (遠くに行ったのでなければ良いが……一時的にかも知れないが、一先ずは刑務所に危険は少なそうだ。今の季節、表でやり過ごすには厳しいものがある。もし……この島を出ようとするのであれ、泳いで渡る事も出来ない。海を渡る手段といえば、定期船くらいなものだが……それも、つい先日に前の便が来たばかりで、次の便が来るのは二週間近く先の事であるしな……) [ 暫し立ち止まっての思案の後、ルーサーは刑務所の外へと出て行った。] | |
(69)2006/02/18 02:37:26 |
農夫 グレン 【朝/女子反省房前の廊下】 [ 女がメシを食い終わるまで、扉の側に座り込んで待つ。 ふと取り出したシケモクは血に塗れ、ただのおがくずに成り下がっていた。ついてねえ…。 食事の合間に語られた言葉は、殆ど昨夜の経験そのままだった。 ここじゃ、朝が来ていないようなものか。 …しばし躊躇い、あたりの様子を説明する。 語っているうち、昨夜の闇の中を思い出して身震いする。そんな自分に腹が立つ。] ちっ。シケてるどころじゃねえな。 …そうか。その中じゃわからねえよな。独房の連中、どれもこれもひでえ骸になっちまってるぜ。 奥の方までは見てないが、同じだろうな…。 囚人も、看守も…、医者もご同様だ。辛うじて生きてるのは、牧師くらいか? あとは皆、嵐に放り込まれたような有様だったぜ。 …くそっ。なんだってんだ。 | |
(78)2006/02/18 03:03:59 |
牧師 ルーサー [ ――30分ほども歩いたであろうか。 道沿いに立つ大きな木の根元に蹲るローズマリーの姿があった。 近付き、名を呼びながら軽く頬を叩く。触れた頬はすっかりと冷え切っていた。] ローズ……ローズ? ああ、気が付きましたか。 [ ルーサーの呼びかけに、ローズマリーはうっすらと目を開ける。そして、赤黒くなった血のこびりついた服を、顔を見て息を呑んだ。そして、三角巾で吊られた右腕に目をやる。] 「あ…ルーサーさん、それは…大丈夫ですか?」 ええ。少なくとも、命に別状はありませんよ。 [ ローズマリーの言葉に、ルーサーは笑みを浮かべながらそう答える。 そして刑務所での出来事を話し合い、また、ルーサーは定期船は暫く来ない事をローズマリーに継げた。彼女はその事実を受け入れがたい様子で聞いていたが、やがて納得すると、一旦刑務所に戻ろうというルーサーの提案を受け入れた。 そして二人は*刑務所へと戻って行った。*] | |
(86)2006/02/18 03:27:26 |
酒場の看板娘 ローズマリー 【回想/夜遅く/丸太橋へと続く草原の道】 [ローズは両手を広げ、天を仰いだ。 ぱらぱらと、雪が舞い降りる。ローズは暫し時を忘れたかのように、強まる雪の雨に打たれていた。] いけない…。早く逃げないと、看守達が追ってくるわ。 [突風で我に返ると、ローズは辺りを見渡し、港へ向かって走り出した。 港への道のりは穏やかだった。しかし、吹き荒れる雪が視界を遮り、ローズは悴む手で顔に付着し凍りかけた雪を払いながら、ただただ…ひたすら港へと走っていた。 その時、ローズの体が大きくバランスを崩す。 ローズの意識は、次第に薄れていくのであった。 『ローズ……ローズ?』 自分の名を呼ぶ、男の声… (お父さん…?) ローズが瞳を開けると、目の前に居たのはルーサーだった。ルーサーは怪我を負っており、ローズは刑務所内での出来事を思い出さずには居られなかった。 ルーサーから、刑務所内で全ての看守と多くの囚人が殺された事、この島から脱出するのは後2週間は無理である事を聞いたローズは、ルーサーに説得され、しぶしぶ刑務所に*戻る事にした。*] | |
(133)2006/02/18 08:18:13 |
お尋ね者 クインジー 少し霧がかった辺りをやや白み始めた東の空が光を差し延べる… …辺りに飛び散った血痕は…いや、部屋から流れ出ていると表現した方が良いかもしれない。それを見るとさすがのクインジーも開放感に浸り、ただ喜ぶ訳にもいかなかった。 そして近くの…血の流れ出ている房に入ると… ―――ヨアヒムの無残な姿があった。 「ヨアヒム…」 クインジーはそう呟きその死を悼むと遺体を確認した。 傷痕は…彼の知りうる武器の中には無いものだった。 「獣…。」 彼はそれだけ口を開くと、彼をゆっくりと横たえた。 そしてクインジーは、目を閉じ直立の形を取ってヨアヒムに敬礼した。 彼が死者に手向ける祈りはこれしかなかった。 クインジーはヨアヒムの房を出た。 | |
(135)2006/02/18 10:39:03 |
牧師 ルーサー [ ルーサーは思わず十字を切る。 詰め所の惨状、そしてルーサーを襲った何者かの事を思い出す。 ローズマリーはしゃがみこんで何かを拾っていた。それは。看守の一人が持っていたはずの鍵束だった。それを見て、ルーサーはふと思い出し、ローズマリーに問いかける。] ローズ。あなたが外に出た時、この扉の鍵はどうなっていました? 「閉まってたわ。それをこの鍵で。」 [ そう言ってローズマリーは鍵束を示す。 ……それはつまり。] つまり、この惨状をもたらした者は……初めからこの中に居たという事でしょうか…… [ その言葉に、そこに居た者たちはルーサーに目を向ける。口を開いたのはグレンだった。] 「そういうことさ。俺の勘もそう言ってる。 ……ここはやばいってこった。」 [ 暫しの沈黙が流れる。] | |
(137)2006/02/18 10:47:19 |
牧師 ルーサー 「ところで、あんた、それを貸してくれないか? 閉じ込められてるやつがいるんでな。──へへ、すまねえな。 ギルバート。あっちにも生き残りがいるぜ。ついてこいよ。」 「……ん。神父さんと、そっちの人――ローズマリーっていうのか。またあとで。」 [ グレンはローズマリーから鍵を受け取るとギルバートを伴い立ち去った。ルーサーは、ローズマリーが冷え切った身を震わせる様を見て取った。] 雪の中で冷えたでしょう。暖かくして休んだ方がいいですね。幸い、医務室の中は荒らされていませんでした。そこで休むといいでしょう。 [ ルーサーの言葉にローズマリーは頷いた。疲れた様子で、言葉を発する気力もないようであった。無理もない。雪の中を歩き、そして倒れていたのだから。 ルーサーは無事な左の肩をローズマリーに貸すと、医務室へと向かった。] | |
(138)2006/02/18 10:48:02 |
流れ者 ギルバート [ 俺は牧師様の傷跡を指差した。 その傷はまだ痛むんだろうか? ] 俺達の誰かがそいつをした――いや、どうやったのか分かんねぇけどそうらしいが―― って思われちゃ、いや、そうじゃなくても。 あんまり無事にお帰りとはいきそうにないんだが…… [ 空の皿をそこらに放り、俺は立ち上がった。 神父様はじっとこちらを見つめている。 ] 俺はとりあえず、適当に中見てくるよ。 何かあるかもしれねぇし……ここを襲ったやつも、 きっと朝のうちは暴れる気はしないんだろうし……多分、な。 [ 二人を神父様に任せ、俺は医務室を出た。 生き残りや使えそうな道具――あわよくば武器になりそうなものも――何かきっと残っているだろう。 ] | |
(145)2006/02/18 12:39:35 |
農夫 グレン 【昼/F山頂】 [ 山頂からは、草原の奥にぽつりと立つ刑務所と、林の向こうにある港が一望できた。 冷たい潮風が丘の上を駆け抜け、さわさわと吹き抜ける。 刑務所は薄曇りの淡い日差しに照らされ、あれほどの惨劇があったこともこの距離では見通せない。 草原にねころんだ身体が心地よく冷えていく。 刑務所の食事、書籍、そもそも囚人。すべてあの港から船で来る。何人か頭数を揃えて船を奪えば、どこにでも行ける。海賊も悪くないな。 いや、看守に成り代わって、ここで生きていくのも悪くない。食料、物資はそのまま、囚人は滝から捨てればいい。 物思いに耽りながら、島をただ*眺め続けた*] 娑婆だ。娑婆の空気だ… ハハハハ、もう看守もいねえ。 さて…どうするか。 俺。ギルバート。いかれた物書き。医者。牧師。小僧。それに女が2人か。他にも外に逃げた奴、居るのかね… 船を奪うか。島を奪うか。 そうだ、こないだ植え付けをやらされた豆やら芋やら、どうなってるんだ? | |
(146)2006/02/18 15:10:30 |
酒場の看板娘 ローズマリー 【夕方/医務室】 …あれ?ここは…… [ローズが目を覚ますと、医務室のベッドだった。 ふと、ベッドの向かいを見ると、椅子に腰掛け、眠りについているルーサーの姿があった。] そういえば…ルーサーさんに連れられてここに来たんだった。 [自分に掛けられた毛布をルーサーに掛け、ローズは医務室の窓から外を眺めた。 昨日の雪は、嘘のように晴れ渡り、見慣れた景色――牢獄の庭――が見渡せる。] せっかく、お母さんに逢えると思ったのに… こんなところに居たくない… お母さん…お母さん…っ。 [ローズは昨夜のルーサーとの会話を思い出す。 ――最低2週間、場合によってはそれ以上はこの島から脱出するのは不可能。 母に逢えると思っていたローズは、震えた声で遠い地に居る母に語り続けていた。] | |
(164)2006/02/18 23:09:43 |
酒場の看板娘 ローズマリー (こんな優しい人が、何故この刑務所に…?) [ローズはニーナが何故投獄されたのか、知りたい衝動に駆られた。しかし、自分が聞かれたら、果たして言えるだろうか。金の為に性を売ってきた事を…盗みを犯してきた事を…。 ローズは小さく首を振ると、ニーナに言葉を放った。] ねぇ、ニーナ。 この刑務所中で、何かが起きてるのは知ってるよね。 看守だけでなく、多くの囚人も殺された。 ルーサーさんは、後2週間はこの島から脱出できないって言ってた。 これから、どうするつもり…? まだ、恐ろしい何者かが残ってるかもしれないのに… 私達はどうしたらいいんだろう。 私達…一体、この刑務所に、どれくらいの人が残ってるんだろう。 [ローズは、ギルバート、グレン、ルーサー、そして自分を含めた女子房4人が残ってる事を伝えた。] | |
(178)2006/02/19 12:25:53 |
酒場の看板娘 ローズマリー 『トビーという少年と、私に医療技術を教えてくれたヴィンセント先生に会ったよ。 他にも…生き残ってる人、いるのかな…』 分からない… [ローズの心境は複雑だった。 多いとはいえ、この先何が起こるか分からない。医務室の薬も、ここの食材も、果たして2週間もつのか…そもそも、2週間後の天候によっては、定期船が到着するかも確実ではない。多くの人が生き残っていれば、薬や食材が消費するスピードは早い。 …とはいえ、人の命が消える事を、喜んでいいのだろうか。 父を失った時、絶望に陥った自分を思い出すと、ローズはニーナに言葉を続けた。] 探してくるよ… [ローズはニーナにそう言うと、小さなパンを口に放り込み、厨房を後にした。] | |
(181)2006/02/19 12:42:48 |
酒場の看板娘 ローズマリー [右足を引きずりながら、ローズは刑務所内を歩き回った。 本来なら、男子房と女子房への行き来は不可能。しかし、看守が居なく、全ての鍵がある今、刑務所内の秩序は失われていた。] 【男子房】 [初めて入る男子房内は、女子房と左右対称だった。 女子房内を思い出し、ローズはゆっくりと歩を進める。右手には、医務室で奪ったメスが握られていた。 娯楽室まで来ると、そこでローズは一人の男の姿を発見した。その男は、椅子に腰掛け、何か考え事をしているようだった。 ローズはメスをポケットに仕舞うと、その男に口を開いた。] 生きてたのね… 『君は…? 生きてるとは…?』 [何も知らないかのように、その男は懐疑そうな瞳でローズを見つめていた。ローズは事の状況を説明し、共に生き残ってる人が他に居ないか、探す事にした。] | |
(183)2006/02/19 12:57:48 |
牧師 ルーサー 【夜/医務室】 [ ルーサーが目を覚ました時、既に日は落ち空には夜の帳かかっていた。 室内を見回そうと頭をめぐらせる。肩の痛みに、そちらに目をやると、己の身に毛布が掛けられている事に気付く。医務室には既に誰の姿も無かった。ヴィンセントの座っていた椅子には畳まれた毛布が置かれていた。つまり、恐らくはローズマリーが掛けてくれたものであろう。ルーサーはそれに感謝を覚えた。 そして、夜からの出来事を思い返し、考えを巡らす。ルーサーを襲ったもの、それが何者であるのかは判然としない。] (……だが、刑務所に居た大半の者をさほど時間もかけずに殺して――しかも、あのような有り様で殺してのけたものとは……。あれが人の業とは思えん。しかし、どんな獣であったとて、あれほどの殺戮をなし得るものとも思えない。 そう、例えば……言い伝えに残るような……) [ 普段であれば滑稽だと笑い飛ばすであろうそのような考えは、しかし、今のルーサーには*否定できなかった。*] | |
(184)2006/02/19 12:58:02 |
酒場の看板娘 ローズマリー 【男子房・娯楽室から詰所へ向かう廊下】 [ローズとヒューバートが廊下を歩いていると、前方から不敵な笑みを浮かべながら接近してくる男の姿を発見した。] 『まだ、生き残ってる奴がいたな。』 [ヒューバートはそう言うと、その男に声を掛けた。] 『君は…確か……』 「ヒューバート、だったかな。 俺…?俺はハーヴェイ。ハーヴェイ・ウリヤーノフだ。」 [ハーヴェイは自分の名を明かすと、冷えた瞳でローズを見つめた。] 私は…ローズ。 [ローズはそれ以上の言葉を口にしなかった。いや、できなかった。ハーヴェイが浮かべた笑みと冷たい瞳が、ローズを怯えさせた。 ローズは医務室に戻ると2人に告げると、その場を後にした。] | |
(186)2006/02/19 13:14:38 |
お尋ね者 クインジー 【現時刻/男子房廊下】 [クインジーはつかつかと歩いていると、その房に男がいるのに気付いた。 確か…男の名はハーヴェイ。革命思想家だったはずだ。 何度か…話した事があるが、あまりタイプが違うようだった。クインジーには革命には興味が無かった。 もっとも先方はクインジーが軍人である事に興味をもっているようではあったが…] やぁ、君も…生きていたんだね。お互い無事で何よりだ。 ―――ああ、こんなところでくたばってなどいれないさ。革命は未だ日の目を見てないからな。 そうか。こんな惨状を…誰が…したんだろうな。血を見るのに慣れたとは言え…惨いものだ。 君の革命とやらが成功すれば…国では民衆がこんな血が流れる事も無いんだろうか。 [ハーヴェイは、やや拍子抜けしたような表情を見せた後、それには笑って答えず手を振った。クインジーはハーヴェイの部屋を後にした。] | |
(187)2006/02/19 13:25:43 |
農夫 グレン 【午後/F山頂】 [ 山の頂に一本生えた大木に刃を立て、ぎ…ぎっと×印を刻む。 この山は俺のものだ。そう宣言を終えると、木に背を預けて眺めに浸る。 字が書けたら…幾倍も嬉しかったのかもしれない。たとえチームの連中が呼びかける符丁に過ぎなくても、「グレン」は俺の一部だった。そう刻むことができたらな…。 路地のちびども、うまく逃げ延びてるだろうか。路地裏には、体が小さければ小さいほど、逃げ道がいくらでもあった。おれのなりはでかかったし、ツイてないことにやたらな数の追っ手がついてまわったが。そのぶんちびどもにはツキがあったはずだ。 …物思いをしばらく続け、その無意味さに首を振る。] なにを考えてやがる… 今は自分の命、だろ。 | |
(194)2006/02/19 14:20:34 |
書生 ハーヴェイ 【昼過ぎ】 [詰め所の惨状をつぶさに観察したのち、自分の独房へと戻った。帰りがてら、女子棟と思われる入り口のドアが開いていることに気がついたが、かすかな人声から危険の可能性を感じ、入らないことにした。] 「やぁ、君も…生きていたんだね。お互い無事で何よりだ。」 [自室のベッドに寝転がっていたところに、話しかける声がした。確かクインジーとかいう男だ。元軍人だったであろうか。] ああ、こんなところでくたばってなどいれないさ。作品は未だ日の目を見てないからな。 「そうか。こんな惨状を…誰が…したんだろうな。血を見るのに慣れたとは言え…惨いものだ。君の革命とやらが成功すれば…国では民衆がこんな血が流れる事も無いんだろうか。」 [どうやらクインジーは聞き間違えたようではあるが、特に気には留めなかった。] | |
(196)2006/02/19 17:43:46 |
書生 ハーヴェイ 【昼過ぎ/男子房廊下/娯楽室付近】 [クインジーが去ったあと、自室を出て男子房の様子をもう一度観察してみることにした。刑務所の暗く冷たい雰囲気が、漂う血の臭いが、闇を、深淵を感じさせる。] そうだ、革命政府の粛清施設はこのようでなければな。血塗られた収容所…。 [思わず笑みがこぼれた。そのとき、向かいからヒューバードとかいう男と、見知らぬ女性が歩いて来た。] 「君は…確か……」 ヒューバート君、だったかね。 俺…?俺はハーヴェイ。ハーヴェイ・ウリヤーノフだ。 [そう、たしかこの男は資本家。資本家の犬だ、そう心の中でうなずいた。そして、男の隣の女性に目を向けた。] (こんなところに女性がな…。おもしろい…。) | |
(197)2006/02/19 17:53:04 |