農夫 グレン [ 幾人かの見慣れぬ姿が思い思い場所で、思い思いのことをしていた。紙とペンをにぎってぶつぶつ呟く物書き。医務室に眠っていたルーサー、反省房の娘…ニーナは既にいなく、もぬけの空のベッド。 本にかじりつく小男…ヴィンセントだけがなにやら棚を片付けていた。酒とナイフを盗んだ棚だ。はたして気付くだろうか?念のため、ガキのころを思い出して忍び足で立ち去る廊下。擦れ違ったローズマリーと挨拶を交わす。 クインジーが見当たらんが、朝の様子じゃ心配いるまい。軍人だしな。] またやってやがる…。文章ってのはそんなにいいものかね。 お、本の虫、生きて!…っとと。やべえな。盗みがばれる。あーばよっと… | |
(203)2006/02/19 20:57:35 |
牧師 ルーサー 【夜(現時刻)/医務室〜礼拝堂】 [ 扉が開く。 一時離れていたヴィンセントが戻って来た。 物思いに耽っていたルーサーがそちらに目を向けると、ヴィンセントは、おや? というような顔をこちらに向けている。ヴィンセントは、帰ってくる前にギルバートに呼び止められ、ルーサーが礼拝所に集まってくれと言っていたと言われたのだが、まだ、こちらに居たのですね、とルーサーに話しかけた。 ヴィンセントに言われ、ルーサーはようやくその事を思い出した。そう言えば夕暮れ前にギルバートが訪れた時、ルーサーは少しの間目を覚ましてギルバートと話し、皆に礼拝所に集まるように言ってくれと頼んだのだった。 思わず、苦笑が浮かぶ。] やれやれ……こんな状況とはいえ、自分で言った事も忘れているとは。皆さんを待たせてしまっているかも知れませんね。急いで行きましょう。 [ ヴィンセントに慰めの言葉を掛けられながら、ルーサーは立ち上がり、服を正した。そして、二ヶ所ある礼拝所のうち、囚人のために用意された礼拝所の方へと足を向けた。] | |
(204)2006/02/19 21:18:55 |
牧師 ルーサー 【礼拝所へ〜男子房側通路】 [ ルーサーはヴィンセントと共に礼拝所へと向かった。なんとなくではあるが、距離の近い女子房側ではなく、習慣として男子房側の通路を通って行く。 通路の奥の曲がり角に何者かの人影があった。昨晩の襲撃者の事が頭を過ぎり、もしかしたら……という警戒を浮かべながら、ルーサーは声をかけた。そして、はっきりと姿を人影が見知ったものであった事に安堵した。] グレンさん。あなたでしたか。 礼拝所に来ていただけますか? 皆さんと相談したい事がありまして。 [ グレンは、何処となく渋々といった風に頷く。そして、ルーサー達は礼拝所に入っていった。] | |
(205)2006/02/19 21:31:50 |
踊り子 キャロル 【回想/朝、医務室(グレン侵入後、ルーサー出奔後)】 [医務室の中には眼鏡をかけた男が独り、椅子に座ってベッドにもたれかかって寝ていた。かかっている毛布はルーサーがかけたものであろうか。ルーサーの様子から言って、この男がなんらかの医学的知識を持っている者なのだろう。 扉に整然と並べられた薬ビンはところどころ盗まれたように抜けていた。キャロルには医学的知識などこれっぽっちも無かったが、朝の光を浴びるそれらがとても綺麗に見え、端の黒い薬ビンを思わずひとつ手にとった。] 「う…ん。」 [振り返ると男が眠りながら肩を回す仕草をする。] そんな格好で寝ていたら肩が凝ってしまうわよ。 [小さく独り言をつぶやき、キャロルはそっとその場を後にした] | |
(208)2006/02/19 21:40:05 |
踊り子 キャロル 【回想/朝〜午前、正面玄関からルーサーを追う】 [手負いの三十路男が気になったわけではない。この牢獄から外に出られることも十分違和感があったが、それもキャロルの興味を引く事項ではなかった。ならば何故外に出ているのだろう?彼女にもその見当はつかぬまま、鍵のかからない正面玄関のドアをそっと開けた。] …!!!!! [あまりの寒さにびくっとする。クリムゾンレッドのショールをきつく体に巻きなおす。] 囚人服は質素だが、あたしの着ていたドレスよりは温かいわ。こういう時に、ダンサー魂が役立つわね。 [心の中で自分を叱咤し、ルーサーの後を追う。彼も自分の靴跡には気づかないのだろう、10メートルほど血のついた足あとが残されていた。おかげで、彼の行った方向を知ることができた] | |
(209)2006/02/19 21:44:31 |
踊り子 キャロル 【回想/午前中、C:丸太橋付近】 [ルーサーの背中はすぐに発見することができた。気づかれない程度の距離を保ち、彼の後を追う。同時に彼女はこの刑務所のある箇所の地形を把握しておこうと考えていた。 彼女はロシアに興味を持ってから、さまざまなロシア関連の事項を勉強した。勉強といっても、客から話を聴いたり、アメリカで行われているというボリシェビキの運動を新聞でちらっと見たりの程度であったが。ロシアの地図や、都市に関しても少しは知っているつもりだった。が、この牢獄がどこにあるのか、全く聞いたことのない地名だった。島というのはジェーンがちらっともらしていたが。 ふと空を観ると、雪がちらついてきた。] …あぁあぁ。おじさん大丈夫かしらね…。 [その時、ルーサーが大きな木の根元にうずくまった。どうやら人を発見したようだ。 ルーサーが助け起こした人物はローズだった。鍵を開けてくれた彼女。] | |
(211)2006/02/19 21:53:57 |
牧師 ルーサー 【礼拝所】 [ 礼拝所には既に皆が集まっていた。入るなり、ギルバートが軽く文句を口にした。] お待たせしてしまいましたね。自分から言っておきながら遅くなり申し訳ありません。 皆さん、集まっていただき、ありがとうございます。 [ ルーサーは礼拝所に集まった、皆のそれぞれの顔を見遣った。これで全員だろうか。何人が生存しているのかをルーサーは知らなかった。皆に話を聞いてみると、全員という訳ではないようであった。] 姿の見当たらない方もいらっしゃるようですね。 ふむ。もう、皆さんをお待たせしてしまっていますし、居ない方には後で話を聞いて頂きましょう。 | |
(212)2006/02/19 21:54:45 |
踊り子 キャロル 【回想/昼過ぎ、D:港】 [さらに30分ほど歩くと、小屋の併設された港が見えてきた。船は一隻も停泊していない。 その頃にはキャロルの体力ももう、限界に近づいていた。空腹に加え、寒さが酷い。 小屋に滑るようにして潜りこんだ。 小屋には人の姿はなかった。 そのかわり、夥しい数の毛と、少量の血痕が残されていた。] …。 なによこれ。 [この地に鳥なぞ居るのか?キャロルは刑務所暮らしだが、中庭に鳥が飛来するのは見たことがなかった。羽毛でなければ、獣毛だろうか。それにしても争ったような後にも見える。何の毛だろう? 看守の首の引きちぎられたような痕を思い出し、キャロルは身構えた。しかし、この小屋の中には生物の気配はないようだ。] | |
(214)2006/02/19 22:01:05 |
牧師 ルーサー 【礼拝所】 皆さん。 既に、この刑務所の有様は皆さんご存知でしょう。 ――多くの命が何者かの手によって奪われました。それもごく短い時間の間にです。 私には……これは人のなせる業であるとは思えません。人の力では、ここにあるどんな道具を使ってさえ、このような殺戮が行える事ではないでしょう。 しかし獣の仕業であるとも思えません。どのような獣も、姿も見られる事も無くこのような事が出来るとは思えないのです。 仮に獣であれば何処からか侵入したことになるでしょう。ですが、そのような形跡もありません。あの時、扉は施錠され閉ざされていたのです。 そう……扉は閉ざされていました。 この殺戮を行ったものは、初めからこの刑務所の中に居たのです。 | |
(218)2006/02/19 22:10:06 |
牧師 ルーサー 【礼拝所】 皆さんも聞いた事があるのではないでしょうか。 古くから伝わる言い伝えです。私の祖国、ルーマニアにおいては老人が子供たちに語って聞かせていたものでした。 ――人にありながら、人で在らざる者。 夜な夜な、月の光を浴び、その姿を魔性のものと変える者。 そして、その爪を以って、その牙を以って、人を引き裂き食らう物…… そう……人狼と呼ばれる者 普段であれば、御伽噺と言われる類の話かも知れません。 しかし……それが御伽噺ではなく、真実なのではないかと――今、正に、その者が此処に存在しているのではないかと……思えてならないのです。 [ ルーサーはそこまで話すと……目を閉じ、一つ息を吐いた。] | |
(223)2006/02/19 22:26:36 |
農夫 グレン 【Now/礼拝所】 [ 礼拝所で語られたのは、神様のありがたい御説教などではなく、この異様な状況の解説だった。赤い美女キャロルが、鍵の美女ローズマリーの名を呼ばわる。 皆、思い思いの言葉を口にする。ざわ…ざわ… そんな喧噪を意にも介さず、ルーサーは物語を言い終えた。 そのあまりの内容に、俺はひと息ついたルーサーに、両手をひろげて反駁したが…。] 殺しが内側からで、そいつは爪と牙でもって何人もの看守や囚人をひとひねりできるって…? 俺達の中に、コレをやったやつがいる…すると、昨夜のあの吠え声やらも全部、その化け物ってわけか? ちょっと待てよ。ムショのどこでもいいから見てみろって。 どこを向いても骸、骸、骸だ! こんなマネ、悪党10人揃えたってできないぜ? …それでも、やったっていうのか? | |
(228)2006/02/19 22:51:31 |
医師 ヴィンセント [『この傷を付けられました。』 …ルーサーの言葉を聞き、 ヴィンセントは今までの惨劇の原因を把握した] …皆さん、既に独房の惨劇はともかく、 武装した看守たちの屍を見た方もおられるでしょう。 そしてルーサーさんのその傷。 …どれを見ても正気を保ったままの人の仕業とは思えない。 この島にいる番犬の爪では肉を裂くことはできない。 ましてや人を食いちぎる顎の力は持ち合わせてはいない。 それに、この惨状が発生したときは鍵は開いていなかったと耳にしました。 あのような殺戮を行える者がいるのだとしたら、 それは人ならざるものではないのか… そして私たちのなかに、それは紛れている…… その可能性は高いのでないだろうか… | |
(244)2006/02/19 23:43:11 |