人狼審問

やれやれ・・・。ここは無法地帯ですか。

ヒューバートさんも芸術品を扱う方なら、少し落ち着かれて窓辺の花でも観賞すればよろしいのに。

・・・カウンター越しの花も、ね。

出てはいけないというか……もう出られなくなっているはずだけどな。

やれやれだ…俺もヤキがまわったな。
分かった。見逃してくれるって言うんなら協力しよう。
ただ…一つだけ聞かせてくれ。

…お前さん達が追っている人狼ってのは、そもそも何なんだ？

【シャーロットは、潤んだ目でギルバートを見つめ、首を横に振った。そして顔を背けると、静かに集会場の方に歩き始めた。】

…出られない？どう言う事？
…あぁ…、それで皆慌ててたってわけか…。

（倉庫にて）

赤い、雀、ねえ……
それこそ俺に酒を造らせない天敵じゃねえか。
ふん。

正直なところ、僕も詳しいところは知らない。
僕は現場の駒に過ぎないからさ。限られた情報しか降りてこない。

確かにラッセルの言うとおりだ。

俺も何度か村を出ようとしたが…村を覆う変な霧を抜けようとすると、何故かまた村に逆戻りしてしまってな。

…言っておくが、俺は正気だぞ。酔っていたわけでもない。
まぁ、気が狂った方が余程楽なんだろうがな…

（【ギルバートはそれ以上の詮索を辞め、シャーロットの肩を後ろから抱いて集会場へと一緒に戻り始めた】）

人狼騒ぎの際、電話が使えなくなったり、霧に覆われて村から抜け出せなくなったりする、っていう噂がある。
これは僕の推測だけど……。多分、人狼を外に出さないための、上の仕業だと思うな。
……ほんとに超常現象だって言う人もいるが、僕はそんなのは信じないな。

赤い雀という組織･･･?
カミーラさんが言っていた組織のことですね。
そして、人狼は実在する･･･?
僕は何が事実なのかまだわかりません。
けれども、その「人狼」という言葉は、やはり最近ではなく、かなり前に･･･聞いた気がするんです。
僕は僕のためにも、ヘンリエッタさんのためにも、人狼について知らなくちゃいけないんです。
ラッセルさん。知っていることを教えてもらえないでしょうか？

そういう大事な話は、皆集まった後の方が良かったかもね。
呼べる人は呼びに行った方が良いんじゃないの？

グレンならいつもの倉庫に居ると思うから、呼んで来るわ。

すまないなトビー。
僕も、あまり多くのことは知らないんだ……。

ただ、カミーラは……。

いや、まだ確証が持てない……。

ごめんよローズ。
ヘマしてヒューバートに見つかっちまったもんだからさ。
……僕には向いてないのかもしれない。
この仕事に就いてから、精神安定剤が手放せなくなったし。

[ナサニエルは遠慮がちにヒューバートに声をかけた]

すみません、ちょっとあなたに伺いたいことがあったのですが。
その・・・、ユージーンさんのことについて、ひとつだけなのですが。
お時間いただけますか？

【シャーロットはギルバートとともに集会場に戻ってきた。】
彼女はヘンリエッタとトビーの傍に座り、静かに溜め息をついた。

構わんよ。何かな、ナサニエル？

シャーロットさん、お帰りなさい。
･･･って、シャーロットさんも顔色が良くないです。
少し休まれてはどうですか？

[倉庫に向かって少し大きめの声をあげる]

グレンー！いるー？
頭がこんがらがりそうな話をしてるから、あんたもおいでよ。

…全く、政府の人間が来てるなんて思いもしなかったね。
あんた、気付いてたの？

・・・　どうしたんだ？
一体、何の話をしていたんだ？

ありがとう、トビー…

でも、まだ休むわけにはいかないから。

ヒューバートさん、ありがとうございます。

あの人は、酒・・、じゃなかった、ジュースは一滴ものまないというのは事実なのでしょうか。
ある一定のときから急に行動が変わったとか、そのようなことは無かったですか？

ええと・・・。
ただ少し気になっただけなんですけれども、ね。
ヒューバートさんとは親しそうですし。

…居ないのかしら。
あんまり遅くなると悪いわね。

しょうがないわ。

[ポケットから紙切れを取り出すと月明かりのなかメモを書いた]

赤い雀・・・　ね。まあ信じるかどうかは微妙だけど。
とりあえず村にマイナスじゃなさそうだし。

（・・・　カミーラの言っていた「赤い雀」はこの事
　なんだろうか？　昨日の様子だと別の話のような・・・
　名前の由来が一緒か、むしろどちらかがルーツなのかも
　しれないな）

突飛な話だから信じてもらわなくてもいいよ。アーヴァインからも、同じ話を聞けると思うけど。
もう一人の名前も伏せておく。
人狼がどう関わってくるか、見極めたいんでね。
……まあ、名乗り出るかどうかは本人に任せるよ。

…グレン居なかったみたい。
奥で寝てたのかもしれないけど、時間ある時にこっちに来るように書置きしてきたわ。

【ヒューバートはゲンナリしてナサニエルに答えた】

ちょっと待て。あんな奴と親しくなんかないぞ。

だが…本人が酒を飲まないと、そう言ったのか？
俺が知る限りでは、そんな事はない筈だが…

ハァ、ハァ…
街道沿いを探し回ったけれど、カミーラさんは見つからなかったわ。
一度こちらの様子を見に戻ったのですけれど…

！

…良かった。
無事でいらしたのね、カミーラさん。
デボラさんをあまり心配させないで頂戴。
ああ、疲れたわ…

ちなみにこれだけ言っておくが……カミーラは危険だ。

ローズ、エレノアさん、おかえり。
グレンといいカミーラといい……神出鬼没だな。

赤い雀ですか。秘密結社のようなものかと思っていましたわ。しかもアーヴァインさんとラッセルさんがその一員だったなんて…

【シャーロットはギルバートに目礼した。】

！？　エレノアさん！！
良かった・・・　良かったなあシャーロット！！

あぁ！エレノア…皆あんたの事心配してたんだよ？
無事で良かったよ…。

…カミーラが危険？
何さ、いきなり。
また、どうせ話せない話だけどなんていうんじゃないの？

ヒューバートさんもラッセルさんに捕まりそうだったせいか少し疲れ気味のようですね。うちのお祖父さんの薬草茶ですが飲んでください。

お、お母さま… ご無事だったのですね！

よかった…

【シャーロットは、エレノアを抱きしめた。】

カミーラが危険か・・・　確かに。

まあ確信じゃないけどね。もっと話を聞きたい。

カミーラが赤い雀に追われることになったのは、それなりの理由があるっていうことだよ。
……ただ、本人の口から聞けないと確証が持てないんでね。この場は控えておくよ。

そうですか・・・。ありがとうございます、ヒューバートさん。
それならここで一緒に会話も愉しみながら飲めばよろしいですのにね。

ふうむ。少々風変わりな方なのでしょうかね。
まあ、私も人のことは言えないのでしょうか。はは。

ヒューバートさん、今度、あなたの所有されている画廊にもお邪魔してもよろしいですか。
小さめの風景画があれば、ひとつ購入したいなと考えていたのです。

あ・・・。エレノアさん！　ご無事でよかった・・・。
随分、皆さんあなたを心配されていたようですよ。

外は寒かったでしょうに。

…悪いがトビー、俺はコッチの方が好きなんだ。
その薬草茶は、ユージーンにでも飲ませてやってくれ。

（そんな香りのキツイ茶なら、青酸が入っていても分からんじゃないか…。こんな子供がとは考えにくいが…念には念を入れんとな…。）

ラッセルくん。カミーラさんのことを何か？
根拠の無い噂話をされるなんて、秀才で通っている君らしくない様に感じますが。

赤い雀……。
そうだ。その名前は聞いたことがある。
牧師だ。牧師。あいつが言っていたよ。……ひひひ。

心配をかけてごめんなさいね。
けれど同じ娘を持つ母親の身としていてもたっても居られませんでしたの。

すみません、ローズさん。何か温かい物を頂けないかしら。

…ところで、何かお話をしておいでのようね。
お邪魔してしまって御免なさい。あたくしが聞いていてもかまわなくて？
カミーラさんのお話みたいでしたから。

ナサニエルさん。
正確に言うと、赤い雀が問題にしていたのは、カミーラ自身じゃない。
……カミーラの、親の方です。

……言っていいのかな。
カミーラの親が、人狼化した、という情報がある。

もしラッセルが「赤い雀」だとしたら……。
牧師はさぞかし困るだろうよ。
あぁ、まったくだ。

あの石板……。
知っているのは僕だけだ。……くくく。

【村長の娘 シャーロットは、学生 ラッセルの言葉に耳を疑った。】

……こんなこと言って、不安の種を撒きたくなかったんだけど。

え・・・？

はは、まさか、そんな空想のようなことが現実にあるとは思えませんね。

ただ・・・、初めて会ったときの様子と、今日のうわさで聞くカミーラさんの態度には違和感は、感じますが。

いや・・・、しかし。

僕もこの件に関しては、情報が曖昧ではっきりしません。
ただカミーラという名の女に関して、親が人狼化し……遺伝的な問題で彼女にも危険因子があるとされて赤い雀に追われていたと、聞いたことがあったもので。

[優しいミルクの香りがほのかに集会場に漂う]

…もう言ってしまった事を悔やんでもしょうがないでしょう…。

[ホットミルクをカップに注ぎエレノアに手渡しながらラッセルに微笑んだ]

もし、あの秘儀が人狼の魂を呼び寄せたとしたら……。

ああ、怖い。怖いな。
きっと、シャーロットはもっと怖がっているはず。
でも大丈夫だよ。シャーロット。あなたは僕が守るんだ……。あぁ、守るとも。一日中。昼も夜もね。……うふふふふふ。

カミーラさんの親が人狼化・・・？
え？人狼は元は普通の人間なんですか？
（まさか･･･僕のお父さん、お母さんも・・・？いや、きっと違うよね･･･。）

ラッセルさん… 人狼がいるって、本当なんでしょうか。私にはまだ信じられないんです。人と同じ姿をした狼がいて、しかもそれが私達の中に紛れているなんて…

もうこんな時間だというのに、妙に眠気が覚めてきてしまいました。

ローズくん、このグラスの中身を薄めてなんかいないですよね？

はは、冗談ですよ。
いつも通り、美味しいです。

[グラスに残っていたジュースを一気に呷る]

僕も半信半疑だったけど……アーヴァインがそう言ってるからね……。

その話は本当だ・・・・・・

まあ、僕が持っている情報は、今のところこれくらいだ。どう受け取るかはみんな次第だよ。
……さて、そろそろ休むよ。
アーヴァインが帰ってきたら、うまくまとめてくれると思う。あいつがリーダーなんでね。
僕には荷が重い。

……それにしても、帰り遅いな。アーヴァインの奴……。

私だって俄かに信じ辛いとは思ってるけどね…。

しかも、こんな状況で隔離されて…
私たちにどうしろっていうのさ…

[空になったカップにホットミルクを継ぎ足しながら尋ねた]

大丈夫。大丈夫だよ、シャーロット……。
心配いらない。何も心配ないんだ……。

ギルバートさん… なにかご存知なんですか？ 人狼に関するなにかを。

どんなことでもいいんです。人狼について教えて頂けませんか？

…アーヴァインが帰って来ないと分からないって事、か。
いつ帰ってくるんだろうね。本当…。

ナッシュ、私はそんなせこい事はしないよ…。
でも、ま、そんな気になる位嫌な夜だね…。

[新しくオレンジジュースを作りナッシュに手渡し、自分のグラスにも注ぐと窓辺に歩いて外を眺めた]

俺も詳しい話は分からない。
だが、今までずうっと一緒に過ごしてきた人が突然人狼に
なった事があるのは事実だ。

（倉庫にて）
顔を出すのは明日本当に死人が出るか、出たとしてどういう形かを確認してからだな。

扉を叩いていたのはローズマリーか……悪いことをしたな。それにしても、赤い、雀か。とりあえず死んで欲しい連中だな。

人狼をダシに、さて何をしに来たことか。捨て駒クラスだろうが、すぐに村ごと燃やされることはなさそうだ。

俺は自分の命と、その名に値する酒が残れば良い。ついでに奴らが死ねば万歳だ……代わりが来るんだろうけどな。それでも、死んで欲しいことに変わりはない。

【村長の娘 シャーロットは、流れ者 ギルバートに詰め寄った。】

その人は、人狼に変わってしまった人はどんな方だったのですか？

俺も、もう休むとするか…。

（今の内に、ヤバイ物は隠しておかないといけないからな…。これ以上、政府の犬に付けこまれる隙を作ってたまるか…！）

[足早に闇に消えるヒューを見送りながらオレンジジュースを口に含んだ]

……まったく、いつまでも夢を見れそうに無い夜だわ…。

ああ、ありがとうローズくん。頂戴します。


[ナサニエルはいつの間にか終わっていたBGMに気がつき、プレイヤーの針をレコードの中心に戻した。盤の上に獣の毛のようなものを見つけ、忌まわしそうに指でつまみ屑籠に捨てた]

これは文献で調べたんだが、人狼の発生原因は２つ。生まれながらの遺伝型と突然変異型だ。
・・・　俺の村にいた人狼は、後者だった。隣に住んでいる親友だった。奴は俺の左腕と・・・　フィアンセを俺から奪った。
こう言うと、まるで呪いか何かみたいだな。へへっ。

（倉庫にて）
しかし、倉庫の場所の発覚を気にせず、ローズマリーが扉を叩くとは……よほど不安な状況なのだろうな。まあ、俺を頼ってくれるのは嬉しいが、さてそれに応える余裕があるかどうか。

……ああ、本物の「酒」、こいつらは隠しておかないとな。

くそ……。シャーロットが、あの流れ者と……。
あいつも殺す。殺す。殺す。
ヒューバートの次に。

【村長の娘 シャーロットは、ハッと我に返った。】

ご、ごめんなさい、私… なんて不躾なことを…

[強く目を瞑ると一気にオレンジジュースを飲み干す]

…ギルも色々あったんだね…。
表面だけじゃ、人の本質なんて見えないものさ…。

[そっと瞳を開けるとギルに優しく微笑んだ]

【村長の娘 シャーロットは、流れ者 ギルバートにもう一度「ごめんなさい」と頭を下げた後、ヘンリエッタとトビーが寝息を立てている部屋の隅に向かった。】

[ギルを横目にキッチンへと向かい、棚を漁るが偏頭痛を抑える薬は見当たらない]

ギル…大丈夫？薬が見当たらないのよ…。
無理しないで少し休むと良いわ…。

この墓石は聖別されたものだ……。
邪悪なものは近づけない……。
あぁ、近づけないとも。誰も。誰も。誰も。

ん・・・、ご馳走様です。
グラスも空になったことですし、私も今夜はこれで失礼いたしますね。

ギルバートくんも不思議な人です。
普段は豪快ですのに、急に頭を抱え込んでそれきりしばらく姿が見えなくなるようですね。

[『Big Butter and Egg Man』をかけなおし、オレンジジュースを注ぎ再び窓から外を眺めた]

…静かな夜は…嫌ね。
これを飲んだら…私も部屋に戻るわ。

おやすみ、ナッシュ。
ギルは…、忘れたい記憶を忘れない為に､自分と戦ってるんでしょ。

…記憶から逃げ出すよりは、よっぽど勇敢だと思うわ。

[窓の外のユージーンの行動を目で追いながら、気にせずオレンジジュースを口に含んだ]

…私もそろそろ部屋へ戻るか。

トビーとヘンリエッタを私の部屋へ連れて帰ろうかと思ったけど。
寝てるみたいだし、ここで寝かせておく方が良いわね。

[グラスに残ったオレンジジュースを飲み干すと集会場を後にした]

ふふ……ふふひひ……。

ねぇ、シャーロット。あなたは墓の中を覗いたことがあるかい？　ないだろうね。僕はある。あぁ、何度も。何度も。何度も。埋められた死体がどうなるか、考えたことは？　ないだろうね。誰も、そんなこと考えない。誰も。誰も。誰も。

一度、あなたにも見てもらいたいんだ……。この、穴の中を。……あぁ、素敵な眺めさ。きっと、気に入ってくれる。そうに決まっている。

僕が掘っているのは、墓穴じゃない。夜だ。夜。真っ暗な、夜さ。こうして夜を削り取って殺してやるのが、僕の仕事だ。ぽっかり開いた穴の中に、僕は身を潜める。そうして、夜の一部になる。夜を抉り取って、そこに自分を埋めてやるんだ。そうだ。そうなんだ……。

……あぁ。今日の夜は、なんだか特別な気がする。
ひどく、ひどく、夜が深いんだ。丸い月が出ているっていうのに、まるで新月の夜みたいに暗い。この夜が明けることなんて、本当にあるんだろうか。朝焼けが殺されるとしたら、たとえばこんな夜だ。ああ、そうだ。それなら僕は太陽を埋葬してやろう。碑銘も彫ってやるさ。とびきりのを考えてやるよ。……くひひひひひ。

……この天井は、…私の部屋じゃない。

昨日は、赤い雀がどうとか…、本当に人狼がいるとか、大人達がしゃべる声が聞こえた気がしたけど、私、…そのまま眠ってしまったのね。

なんだか遠いところに来てしまったみたい……。

トビーは、お家にもどったのね……。
……当然よね。

今日は、嫌な家庭教師も来ないし、お屋敷からうるさい召使いたちが私を捜しにこないかと思うと変な気分……。

昨日ラッセルは確か、人狼は、月の大きな夜に跋扈すると言っていた……。もし本当に人狼がいたとしても……お昼間は平気ってことよね？

なら……少し、お散歩して来ようかな。

そういえば、お父様が最後にくださったこの箱って……。

……オルゴール？
ああ、蓋をあけると、懐かしい音がする。
それに、私の好きな小さなキャンディが入っているわ…。

お父様は私がさびしくないようにこれを置いてくださったのね……、ありがとう。

ママの墓が荒らされていた。棺が掘り起こされて剥き出しになって……もしかしたら開いていたのかもしれない。

中は見なかった。

ママ……ママ……あの日の棺の中のママの顔。美しかったママ。優しかったママ。

パパが死んですぐ、ママがつれてきたあの男。

あたしの手の中の斧の重み。柄を通して伝わる感触。頭蓋が砕け体液で変形した顔、そこに最期まで張り付いた奇妙な笑み……。

ふう。

どうしたって言うんだ？　あたしは混乱している。自分を見失っている。

……違うね。あたしがあたし自身を把握できていたことなんて一度もなかった。あたしが今見失っているのはただのスタイル。つまらないもの。それでも、あたしの持つ数少ない武器。あたしを守る唯一の壁。

たとえ上手く見極められていなくても、あたしはあたしをこれ以上見失うわけにはいかない。
その壁の中のあたしの本質が空洞なら、あたしはその空洞を無様に守るだけ。

……あの片腕の男。目の奥の深い闇。
あの男もまた死に追われ、死に取り付かれ、死を引き寄せて戦っているように見える。
あの男もまた、自分で作り出した地獄に生きている。

まるであたしを見るようだね。

【村長の娘 シャーロットは、ひとり集会場を片付けている。】

ヘンリエッタちゃん、どこに行ったのかな… 一人で出歩くと危ないのに…

この街は、もう私達の知っている街じゃないの。市場の喧騒も、小鳥のさえずりも、木立の隙間を抜けるそよ風さえも、私達を置いていってしまった。街を包む霧が晴れたら、街は元の姿を取り戻すのかしら。それとも…

【村長の娘 シャーロットは、ぶるっと身を震わせた。】

どうして、こんなことになったの…？

【村長の娘 シャーロットは、逃亡者 カミーラが入ってきたことに気が付いた。】

こんにちは、カミーラさん…

マリー。あんたはいつも綺麗だ。あんたはあたしを挫けさせる。
そしてあの子供……トビーと言ったか……あの子供を見ると湧き上がる感情は何だ？

この村に戻ること、それは眠っていた過去を暴力的に引きずり出すこと。永い眠りを遮られ怒り狂う過去と対峙すること。
あたしはもう逃げはしない。あらゆる意味で、最後の戦いになる。おそらくね。

随分しけた顔してるね、かわいいお嬢さん。

あんたは、この村が変わってしまったと思うのかい？
あたしは……この村がようやく本性をあらわした。そう思っているよ？

【村長の娘 シャーロットは、逃亡者 カミーラを少し怯えた目で見た。】

この村、以前にもこんな風になったことがあるのですか？ この村の本性っていったい…？

カミーラ。馬鹿な女だ……。
あいつの母親の墓を暴いたのは僕さ。
あの、奇妙な形の頭蓋骨を……。

……と。これ以上は口が裂けても言えない。
あぁ、言えないとも。

ふん……かわいい女の子の怯える顔……随分とそそるもんだね？

……夜にまた来る。お嬢ちゃん、一人でいるときには鍵を忘れるんじゃないよ？

（…カミーラに、両親が死んだ理由は話しておらぬ
じゃが、そろそろ真実を告げる時が来たのかもしれぬ）

はは。単なる噂ではなかったのか？　空想の中の出来事ではなかったのか？
私はあいつに嵌められたのか・・・。くそっ、こんな依頼、引き受けるんじゃなかった・・・。

ここまで集めた情報も、書類も全て反故になってしまうのでしょう・・・。ははは。

そうとわかっていても破り捨てることもできないとは、私も、かなり重病ですね。は、はは。

【キャロルは目を覚ますと部屋を見回した。見覚えのない部屋だ。どうやら酔って主寝室では無い場所で眠ってしまったようだ。
　アーノルドの姿ももちろん見当たらなかった。

　枕の下から、昨日ヒューバートに貰ったデリンジャーを取り出し、弾を確認した。真紅のドレスに着替え、ただでさえ短いスカートをたくし上げ、太ももにホルダーを付けデリンジャーを収めた。

　窓から外を見ると、ユージーンが大きなスコップを持って浮くような足取りで歩いていた】

【気持ちの悪い男――。あいつがもう少しでもマトモなら何か聞きだせるかもしれないのに。もっとも、あの頭だから、話してる事全部夢物語かもしれないけれど。
　今夜も集会場へ行くべきかしら……？】

やっと１発分か…思ったよりも手間が掛かるな。

【作業台に残った金属の破片を見つめて…】

…我ながら馬鹿な事をしているな。
この指輪（だった物）でも、売れば＄2,000にはなったろうに。
まぁ迷信だとは思うが…こんな物でも役に立つかもしれないなら安いものか。

銀の弾丸か…本当に効くんだろうな？

な？神様とやら…今だけは信じてやる。
だから、よろしく頼むぞ…。

あっはっは。
美術商さん、こんなところで一体何をしているんだい？
見た目に寄らず、案外手先が器用じゃないか。

あたしにもアクセサリーの一つや二つ、作ってくれるんだろう？

あんた……小奇麗なナリに不釣合な小悪党の臭いがぷんぷんするね？　一緒にいると胸がむかつくよ。あたしはその辺の鼻は利くんだ。

まあ、どれだけいきがったところで、目の奥にある怯えは隠し切れてないがね。しがないチンピラクラスってところか。あっはっはは。　

ふうん、弾丸を手作り、ねえ……？
さて、一体何をたくらんでいるんだい？

【振り向きざま、カミーラの胸元に銃を突きつけて…】

…企む…か。さてね？
少なくとも不法侵入者を撃ち殺す気は満々らしいぞ？

ああ…動いても構わんよ？
こちらも引き金を引く理由が増えて助かる。

それにしてもきれいに磨かれた床ですね。まるで鏡のようです。

綺麗な色彩の絵が多いですね。
ここにある他にもきっとたくさん所有されているのでしょうが。

うっふふっふ。

その引きが金、引けるものならどうぞ引いて御覧なさいな？
器の大きいところを見せるチャンスだよ？

カッカしてちゃみっともないわよ？
あっはっははは！！　小悪党同士、仲良くしようじゃないの。

後で集会所で会いましょう。

ふぅむ・・・。この絵は随分、変わってますね。
暗く沈んだ色使いで描かれているこの化物は、一体何を表現されたのでしょう。

はは、いや、気に入らないわけではないですが、飾るのには少し抵抗があります。

････ふう。
色々考えて来ました。
人狼は･･･僕は怖いです。迷信とは思えないぐらい僕の心のどこかに･･･引っかかるんです。
そして、お祖父さんや他の村の人が次々と居なくなったことと無関係とは思えません。

結局、牛の世話も上の空で大してできませんでした。
ヘンリエッタさん･･･。どこにいったか誰かご存知ありませんか？

そうですね、やはり初めに気に入った静物画を譲っていただけますか。

代金はこちらに表示されている金額でよろしいでしょうか。
・・・いえ、購入するつもりで参りましたので持ち合わせてますよ。

ヒューバートさんはお忙しいようですが、お時間はまだ取れないようでしょうか？

閉ざされた村か……。

【ヒューバートはギャラリーに続くドアをにもたれてノックした】

…ふむ…あれかね、ナサニエル君？
君の故郷では、オウムに向かって独り言を言うのが流行っているのかね？

【ヒューバートは店先に吊るしてある鳥かごのオウムに「店番ご苦労、今日はメシ抜きだ」と声をかけた。】

こんにちは、ヒューバートさん。
いいギャラリーですね。

ッ！　はは・・・。オウムさんでしたか。
随分しっかりと調教なさっているようで、気がつきませんでした。

一体、何に気をとられていたやら。はは。

何かが起きようとしている。それは確かだ。

暴かれたママの墓。馬鹿げた人狼騒ぎ。赤い雀を知る者たち。小さな村に不釣合に巣食う小悪党ども。

今日調べてきたら、村と外を結ぶ唯一の道が見事に塞がれている。電話さえ使えない。15年ぶりに帰ってきた犯罪者と、偶然にしては出来過ぎのタイミングで村を訪れた、人狼を追う片腕の男。

あたしは状況を見極めなきゃいけない。上手く動かなきゃいけない。自分を呪縛から解放するために。戦いに勝つために。

……あの美術商は使える。弱みを握ればあたしの前に跪いて命令を求めてくるはずさ。ふふっ。

【ヒューバートはニヤリと笑った。どうやら目の前の男が気に入ったようだ。】

…まぁいい、奥に入ってくれ。
何か話したい事があるんだろう？

皆には聞かれたくないような…ね。

【ギルバートは散歩しているカミーラを見つけた】

やあ、カミーラじゃないか。昨日は何処へ行っていたんだい？

［ナサニエルはまだ赤面している］

はは・・・ご親切にありがとうございます。

いえ、私には皆には聞かれたくない話なんて。
ですが折角のお誘いですし、お邪魔させていただいてもよろしいでしょうか。

昨日は行方不明、今日は美術商へ何の用だい？

昨日……昨日ね。さて、何だったかしら？　そーんな昔のこと、覚えてないわ？　うふふふっ。
美術商は……随分良い男だったから、デートに誘おうと思ったのに振られちゃったわ。あんた、代わりに遊んでくれない？　あっははは。

……で、あんたこそ、こんなところで何をしてるんだい？
　
この村に漂うぴりぴりした空気を、感じていないとは言わせないよ？　
あんたはよそ者だ。何かあったら真っ先に疑いの矛先が向くだろうよ。この村の連中は、自分の身を守るためなら何をしでかすか分からない。それくらいは分かるだろう？

宿で大人しくしているのが身のためだと思うけどね？

へっ、逆に静か過ぎて気味が悪いから、外の空気を吸っているのさ。

金持ちが好みかい？　じゃあ俺なんか用なしかもしれないが、暇つぶしなら付き合うぜ。

お互い、怪しい者どうしだしな。

ヒューバートさんは、お仕事が忙しいようで。
酒場でもなかなかお話できる時間がないようなので機会があるのを待ってました。

なかなかご趣味も多いようですね。
絵画、装飾品、毛皮、・・・。すごい量のストックに驚いています。

ところで、ほのかに香水の香りがするようですが、まさかそういったご趣味もおありなのでしょうか？

って、振られちまったみたいだな。へっ。
【ギルはまた見回りを続けた】
「１２月２０日。晴れてはいないが、雪の予感がする
　今日は大きな変化がある予感がする」

ああ、そうですよね。香水も取り扱いの一つ、ですね。はは。

・・・いやはや、話を聞きたくてたまらなかったのですが、いざこう面と向かっておりますと一体何を話せばいいものやら悩みますね。

香水か…

いや…最近は犬や猫も香水を付けるらしくてね…。
大方、さっき迷い込んできた黒猫の香りだろうさ。

[自室のベッドで目を覚まし、ため息を1つ大きくはいた]

｢…はぁ…｣

酔いが覚めると、目前に広がるのは虚しい現実。
毎日毎日、ため息を零す自分に嘲笑を浮かべる。

そして、いつものように冷蔵庫からミルクを取り出し､乾いた喉に流し込む。
グラスをキッチンに置くと、シャワールームへと向かった。

そうですか。猫・・・なるほど。
小さい子猫なら可愛らしいものですね。

いろいろと貴重なお話をありがとうございます。

【村長の娘 シャーロットは、集会場の隅に置いた椅子に腰掛けて、ぼんやりと人の出入りを眺めている。】

……。

トビー。どうしたんだ。顔色が悪いぞ。

あ・・・。牧師さんこんばんは。
気が付いたらヘンリエッタさんがいないんです。
どこに行ったかご存知ありませんか？

ユージーンは、昨日も穴を掘っていたのかしら？
真っ黒な新しい土が盛り上がってるわ……。
それに、大人の男の人がちょうど１人入るくらいの穴がひとつ増えている。

……これは掘られたただの穴にすぎない。
でも、お墓だと思うだけで、冷たくて遠いところに吸い込まれるような気がする。


……私は何をしてるのかな？
人狼なんてホントにいるのかしら……。

ヘンリエッタが……。
私も、ここに来るまでは今日は誰とも会っていないぞ。トビー。
ヘンリエッタと一緒に居たのかね？

「あの」ラッセルが、自分は政府の人間だって言いだしたのがおかしくて、笑っちゃう。
政府がただで何かをしてくれるってことはないって、お父様は言ってたわ。常にそれは取引でしかない、やつらに期待して何かを委ねるな、とも。……アーヴァインさんと言い、何をしようとしてるのかしら。

村長さんもよくわからない。
あの、無理矢理連れてきたっていうキャロルって人は何者なのかしら……。
エレノアさんの事は誰も教えてくれないけど、シャーロットさんが悲しそうなのは、私は好きじゃない。

（ヘンリエッタはぼんやりと、真新しい墓穴を見つめている。）

そうですか･･･。
もう一回探してきます。
どうもすいません、牧師さん。
（やや青ざめた顔色のままヘンリエッタを探しにでかけた）

皆、人狼がいるって思ってるってことは……、誰かが今日殺されるって、本気で思ってるってこと？

確かにこの町でも、毎日少なからず殺しあいが起きていた。
でも、……そんなの怖いな。

ああ、もう夕暮れ……、教会に灯りがないってことは、牧師さまはこちらにいらっしゃらないのね。いつもみたいに…お話、して欲しかったな。

トビーはもう来てるかもしれない。
……集会所に戻らなくちゃ。

（ヘンリエッタは、よくやく墓穴から目をそらし、立ち上がると、歩き始めた。）

トビー。
早くもあんな調子では……。

おはよう、…まだアーヴァインは戻ってないのね…。

もうこんな時間か。いかんな。集会場に顔を出さねば。

こんばんは。

【アーノルドは、集会場を見回した】

ふむ。アーヴァインはまだ来ていないようだな。

【村長の娘 シャーロットは、村長 アーノルドを見て顔を強張らせた。】

ロッテ……、そう身構えないでくれ。

ん？　そういえば、キャロルの姿が見えないな。もしかして、まだ屋敷にいるのか？

ロッテ、ここでキャロルを見なかったか？

【ギルは集会場に入ってきた】
へっ、どうやら少しは集まってきたみたいだね。

【村長の娘 シャーロットは、村長アーノルドの方を見ると、無言で首を横に振った。】

……そうか。

母さんの具合は、その後どうだ？　元気か？　また癇癪を起こしていないか？　

[ギルに目で挨拶し、ロッテとアーノルドのやり取りを横目で見ながら『Hotter Than That』をかけた』]

【村長の娘 シャーロットは、こくんと頷いて視線を元に戻した。】

そうか。

ロッテ、これから大変な事が起きるかもしれない。でも安心しなさい。父さんは、いつでもロッテの味方だからね。

……凶星が。

これは誰かが死ぬ予兆。
恐らく人狼が人を食らうのじゃろう…

あぁ、恐ろしや…。

【村長の娘 シャーロットは、寂し気に微笑んだ。】

【ヒューバートはチラリとアーノルドを一瞥すると、人のいない奥まったテーブルに腰を降ろし、観客然として薄笑いを浮かべながら周囲を見回している。】

あぁ……。シャーロット……。
なぜ、そんなに寂しげな目を……。

こんな近くに僕がいるのに……。

ユージーン？
……あなたはやっぱり、中には入りたくないの？

ただいま……。

……トビー、なんだかひどい顔。
もしかして私の事……、心配してくれてたの？

…ありがとう。
（ヘンリエッタは、トビーをみると目を不自然にぱちぱちとさせた。）

【村長の娘 シャーロットは、お嬢様 ヘンリエッタの姿を見て安堵の溜息をついた。】

ヘンリエッタさん、大丈夫でしたか？
今日戻ってきてどこにも居なかったので少し心配しました。
でも、無事でほっとしています。

こんなに掘り返した跡があるなんて……。
あの隻眼は本当に毎日穴を掘っては埋めてるんだわ。
あら、これは何かしら？

【キャロルは血のついたハンカチを拾い上げた】

刺繍がしてあるわね。「Luther」？
あの牧師の……？　何故、血がついているのかしら……。
只でさえ無口なのに、ここの所めっきり話さないし、あいつはユージーンの言うように、本当に怪しいのかもしれないわ。

【キャロルはハンカチを持つと集会場に向かった】

ハァイ、隻眼。
……ねぇ、アンタの墓場で血がついた牧師のハンカチ見つけたんだけど。
アンタが牧師を殺したなんて事ないわよね？

ハ、ハンカチ？
し、知らないな。

牧師……。あいつを殺すことなんてできない……。

ふぅん。まぁ、いいわ。
アンタと牧師は何かありそうね。

こんな所にいないで中に入れば？

やあ、キャロ。今日も綺麗だね。
【ギルはキャロに挨拶したが、その後カミーラの隣へ座りなおした】
ここ、いいかな？

こんばんは。奇妙な村のみなさん。

【周りを見回し、あえてアーノルドを無視するとヒューバートの隣に腰をおろした】

（ねぇ、ヒューバート。コレ、墓所に落ちていたんだけど。あの牧師について何かしらない？）

【小声でそう言うと、血染めのハンカチをヒューバートに渡した】

やあ、キャロル。どこへ行っていたのかと心配した。

こんばんは、ギル。

……どうした、キャロル？
一体何をそんなに怒っているのだ？

無視するなよ。俺はこんだけあんたを気にしているんだぜ？　ちっとは話をしてくれてもいいじゃない？

あら、アーノルド。
それは本当かしら？

【キャロルは少し大きめの声でそういうと、立ち上がりアーノルドの首に腕を回しキスをした】

昨日はあたしをほったらかしにしたくせに。

【唇を離すと、恨めしそうに上目遣いでアーノルドを見上げ微笑んだ】

赤い雀・・・　昨日のそれは、ラッセル達の事だったみたいだな。何で追われている？

【アーノルドは娘をちらりと見て、キャロルを押しのけた】

こらキャロル、こんなところで。やめないか。

うふふふ。

【村長の娘 シャーロットは、ペンダントをじっと見つめながら物思いにふけっている。キャロルと父親の行為には気付いていない。】

……あら、そんなにあたしを気にしてくれているの？
あたしもあんたが気になるわ。

その片腕で、どんな風にあたしを満足させてくれるのかしら？　想像しただけで……

あははっ……あははっはは！！

キャロル、話しがあるんだ。すこし外へ出よう。

・・・・・・　何があったんだ。
この村には俺くらいしかいないだろ。お前と同じような境遇は。
何でも言ってくれ。受け止めてやるから。

「・・・・・・俺は、カミーラに一瞬、自分を重ねてしまったのかもしれない」

……キャロル、この人狼騒ぎについて、どう思っている？　ただの噂に過ぎないと思うか？

……。
何の事だかサッパリ分らないわ。
あなたの村でしょう、村長さん？

あんたたち、こんな時間までこんなところに居るのかい？　寝ないと大きくなれないよ？

……せめて、二人で遊んでな。大人の汚い話を、その年で聞く必要は無いさ。

ちっ……親は何をやってるんだ全く……

とぼけるな、キャロル。君が持っているその宝石……。真実が見えると噂されている。使い方も知っているんじゃないのか？

ぷっ。
悪い悪い、意外と良い所もあるじゃないか。

[止まったレコードを取り出し『You're My Everything』を流し始めた]

使い方？　真実が見えるというのはこの宝石の売り文句なんじゃない？　ようは、商売人のデッチ上げ。
あたしはこの宝石に付いている価値が気に入っているのよ。100万ドルは下らない価値を。
真実が見えようが見えまいが、あたしには何の関係もないわ。
そう、あなたが本当はあたしを愛していないという真実もね！

怒ったのかい？　悪かったよ。
だけど少し拍子抜けかな？　ぷっ。

ふん……何がおかしいのか良く知らないが……

あんた……さっき、ラッセルが「赤い雀」だと言ったね……？
それは本当か？　あの子がそう言ったのか？

【アーノルドは、キャロルの剣幕に後ずさりした】

な、なにを言っているんだ、キャロル。私は君を愛している。この村だって、あの屋敷だって、君のものにしてあげるというのに。

そうらしいぜ。どうするんだい？
またこの村から逃げるのかい？

うふふ。あの屋敷の価値がどれぐらいの物だか分らないバカ女だとでも思ってるの？
この「天使の涙」の1/10もないわね！
あはははは。
いいのよ、安定を求めたあたしの負けだわ。あなたが思ってる通りのバカ女だったってワケ。

で、本当は何が聞きたいの？　用が終わったなら屋敷に帰るわ。

（アーヴァインの帰りが遅すぎる……。何かあったんだろうか。まさか、ね……）

カミーラさん･･･。僕の両親は･･･居ません。
2年前･･･亡くなったそうです。僕の記憶がないので理由はわかりません・・・。（あと、ヘンリエッタさんのご両親は、この村の異変と共に居なくなってしまったようなんですが、あまりヘンリエッタさんには聞かないであげてくださいね）

率直に聞こう。
君は人間と人狼を見分ける事が出来るのではないか？

……。
あたしは人狼なんてモノは知らないし、ソレを見分けられるのかどうかも知らない。
アーノルド……。頭がイカれちゃってるんじゃない？
本当に人狼なんているの……？

……悪かったね。トビー。

良いから、部屋の隅に行ってな。
そんな状況なら……エッタとたくさん話してやりな。
あんたは男だろう？

・・・・・・まあ、座れよ。
みんな、いろんな事を抱えて生きているんだ。
自分だけが不幸なわけじゃないさ。

【村長の娘 シャーロットは、トビーとヘンリエッタが並んで歩くのを見て微笑んだ。】

アーヴァイン……。
あいつには死相が出ていた。間違いない。あぁ、間違いないとも。僕にはわかるんだ。死ぬヤツが、どんな顔をするのかってね……。

トビー……。
記憶がないとか言っているが、あれはウソだ。僕にはわかる。あのガキには、隠したい過去があるんだ。……あぁ、他の連中と同じでね。

僕には、隠すことなんて何もない。何も。何も。

トビーだって、色々大変なのに……。
私ばっかり、ごめんね。

トビーの記憶がはやく戻るといいのにな……。

……でも、ありがとうね。

ギルバート。
あたしは……知らないんだ。赤い雀の、正体を。赤い雀が、一体何なのかを。

相当ヤバい連中だ。そしてあたしを追っている。あたしを追い詰めようとしてる。長い時間をかけて、ゆっくりと、あたしをなぶり殺そうとしてる。

あたしに分かってるのはそれだけさ。

【村長の娘 シャーロットは、集っている人達のために紅茶を煎れた。】

あれは、ママが死んだ後……もう何年前になるだろうか。
あたしの元に一通の手紙が届いた。
中の紙切れにはたった一行、

「赤い雀を探し出せ」

それだけさ。

なんという事だ！
キャロル、君は人狼について本当に無知だったのか！

……もういい。なんでもないんだ。気にしないでくれ。今までのことは済まなかった。今後も君の面倒は出来る限りみさせてもらうよ。……愛してるとは、もう言えないがね。

私は妻を捜しに行く。君は集会場にもどれ。

【アーノルドは、キャロルをから逃げるように、集会場を後にした】

ユージーンさん。僕は本当に記憶がないんです。でも、多分･･･覚えていないのではなく、思い出したくないんじゃないか、って自分で思います。だって、思い出そうとすると、とても怖い、悲しい気持ちになるからです。人狼という言葉を聞いたときも、同じような気持ちになったんです。多分、僕の記憶と人狼とは、何か関係があると思います。