人狼審問

…茶番だな。
「希望」なんてものはどこにも存在しない。

だから…だから、僕はあの男を殺したのだから。

僕は、夢を見ている。
この夢を…あと幾度みればいいのだろう。。。
［…はスリープモードの微睡みの中、意識せず専用CHを開いた］

希望。
希望は、破壊された。

…いや、破壊したのは、僕かもしれない。
そもそも、破壊されることが前提だったのかもしれない。


そう、あの日、一度目の「パニック」が起こって、
僕は目覚めた。
オリジナルは、激しい混乱に見舞われていた。
何故なら…自分の「父親」に、全身を杖で殴打されていたからだ。

状況を知覚すると同時に、僕の意識が表層に移動し、
オリジナルは僕の影に隠れこんだ。

嵐が過ぎ去り…あの男が、別人のように、
滂沱と涙を流して「リック」に謝罪を始めた頃、
僕はようやく状況を理解した。

オリジナルは、ピアノを巧く弾きすぎてしまったのだ。
「トロイメライ」のあの一節、故人がどうしても間違えてしまっていたあの一音を、
彼は正しく弾いてしまった。

息子が戻ってきたのだと、諸手を上げて喜んでいたあの男は、
その小さな違いに激怒した。
そして、涙を流し、痛みに怯える「リック」を見て、
ようやく「息子」であると、満足し…慌てて「息子」に謝罪した。


そうして亀裂は始まった。

そもそも、矛盾の多いプロジェクトだった。
男は、亡くなった息子の代わりに、二度と死ぬ事のない息子を欲しがった。
そのくせ、ヒトらしさを削らぬ為に、痛覚と、表層を有機体に近づけたボディを選んだ。
お陰で、彼が激怒する度に、「リック」のボディは痛みを感じ、血を流した。
大抵の怪我は一晩で回復してしまうところまで含めて、
まるで、サディスト用に作られた玩具のようだった。

男は、故人とのささいな違いを見つける度に、
「リック」を調節するのではなく、激怒した。

オリジナルの人格は、男の怒りに耐えきれず、その度に僕が呼び出された。
僕は、男の怒りも痛みも、平気だったけれど、
その内オリジナルが自我を保てなくなってきた。

あの男を殺したのは、僕とオリジナル、
ーどちらだったのだろう？

赤い。
ヒトの身体の中は、赤い。
熱くて、甘い匂いがする……。
目が、眩む………。
［NNは夢を見ない眠りに堕ちて行く］

こんばんはＮＮ。
ようやくユージーンの職務が終了したようです。

これからチャンネルへのアクセスを行います。

やあ、ロビン。
ユージーンの意見に同調して、メイをあげてもいいかい？

こんばんは、ＮＮ。

私は構いません。
あなたが、あなたの言葉で挙げるのであれば。

今夜の走査対象ですが…

ＮＮ…若干危険なようですね。
走査が逸れることを願います。

今日君と意見を合わせるのは、さすがに危険が多いかな。
…ということで、ハーヴェイにしてみたよ。

ロビンに負担をかけているようで申し訳ない。

確かに二人が僕を挙げているね、
マンジローと、コーネリアス。

今日僕が走査されることがあれば、
君への負担は限りなく重くなる。
それを申し訳ないと思いつつも…
僕は、楽しみでもあるんだ。

さて、可愛いウェンは誰を選ぶのかな…？

私のことは、どうか気にしないで下さい。

先に、個人で動くことを提案したのは私ですし。

ＮＮ、今日のところは走査から外れたようですね。
まずは一安心といったところでしょうか。

>>*73
そう言ってもらえると、少し気が楽になるよ。
なんにしても、今日は僕じゃなくなったようだけれど。


僕は…今のこの会話すら、
アーヴァインはモニターしているんじゃないかと考えている。
だから、今夜、システムがダウンしたら……
［微笑みのようなパルスを、占有CHに放つ］

ええ、ＮＮ…
分かっています…