人狼審問

！？
アーヴァインッ！？

…嘘じゃ…ネェのか。

……夜が明けたのか。
アーヴァインがどうしたって？

――――キャロルの髪の中で、惨劇の後を見て、目を瞑る――――

アーヴァインさん・・・ご冥福を・・・

（やっぱり狼はいたんだ・・・
占いっていう対抗手段とったから、狼は慌てて実行した・・・？

ごめんなさい、アーヴァインさん・・・
前回のでわかっていたはずなのに・・・
私のせいです・・・）

アーヴァイン？！おい、何だよこれ、おい！

…女の子たちはこっち見ないほうがいい。
フレディ、古いシーツを貸してくれ。

一体どうしたってんだ？
――アーヴァインの死体を目にして青ざめ――
……ひでえな。
……安らかに眠ってくれ、アーヴィ

団長！

これは･･･酷いな。
女、子供が見るものではない。

　……アーヴィ、ツケも払わないうちにこうなっちまうとはな。

　しかし、こりゃ弱ったね。
　何もうちの店先で襲わなくてもいいだろうに、狼さんたち。
　自警団も本気になるだろうにな。

　オーケイ、グレン、戸板も用意しよう。とりあえず裏庭に安置だ。

…アーヴァインの亡骸をいつまでもこんなトコに晒しておく訳にはいかないな。

ユージーン、お前の職場に運ぶぜ。
誰か手伝ってくれ…

――酒場の隅へ行き、人間姿へ――

（私も確認したということにしておかないと）

・・・あれ、どうしたの・・・みんな・・・？

―――墓守の詰め所から、棺桶を引きずってきた―――

流石にむき出しのままではまずいだろう。

――グレンなどが壁を作っていて外を見ることができない――

・・・グレンおにいちゃん・・・？
どうしたの？　今日はお外いけないの？

――アーヴァインの眠る棺に酒をかけながら――
もうアンタと飲めねえのか
最後に飲んだ時の事は忘れねえよ

――小刻みに震えながら――

みんなは結果聞く心の準備できてる？
ヒューバート、先に結果言っていいよ・・・・
私・・・私・・・

――皆の方を振り返って――
俺を視たんだよな。
そろそろ結果を教えてくれねえか？

――そっとアーヴァインの遺体に手を合わせ、頭を下げる――
クインジー、俺も手伝うよ。

団長には遺族が居ない。

我々だけで埋葬してしまおうか。

――鈴の音を聞きながら――
　弔いの鐘…

――ウェンディは、キャロルの姿を見るとそちらへ駆け寄った――

にぃさん・・・アーヴァイン、人狼に襲われたの？
私も・・・私たちも襲われるの？

――涙を一杯溜めた目でフレディーを見つめた――

―――ローズマリーの肩に手を置いて―――

　あの傷は、何か鈍い刃物のようにも見えるが……人狼だろうな。
　泣くな、ローズ。昔のように、俺が守ってやる。俺が死んでも、グレンがお前を守ってくれるだろう。
　……だよな？

―――アーヴァインの埋葬を終えたユージーンは、アーヴァインが最後まで握り締めていた猟銃を十字架に立てかけた―――

団長、団長の無念はきっと晴らします。

にぃさん・・・守ってくれるなら死なないでよ、ずーっと、一緒でしょ？

――床に泣き崩れるローズマリー　――

――泣いているローズを見て、くっと拳を握り締めた――

ああ、ローズは俺が守る。俺の命にかえても。

ったく、ヒューバートはどこにいったんだ？
――酒場の中に戻って座り、グラスとボトルを手にした――

――キャロルの腕の鈴がひときわ高い音で鳴り響く――

ヒューあんたは知っててこの腕輪をあたいにくれたのかしら？
腕輪があたいを呼ぶ…

わたしを…目覚めさせる……
この鈴は、黄泉からの声、死人の呻き…
又、死人の声を聞かねばならぬのか…
この惨劇に又出会わなければいけないとは…。
この娘の記憶には無いだろうあるわけが無い……
土の精霊の加護を持つこの娘には罪は無い……

土に還りし死人は…アーヴァインは人、人の子が減り、
呪われし狼の子は栄えるのか？

それを阻止するため
共に目覚めるが良い、護りし者よ
人を滅してはならない……

――キャロルは鈴を鳴らし……崩れ落ちた――

―――目に涙をためながら涙声で―――

おい、アーヴァイン。お前、何でだよ。
この前、一緒に飲もうって約束したじゃないか。
それなのにそれなのに･･･よくも人狼め、絶対に許さないぞ。

さて、占いの結果が出たようだ。
【ハーヴェイは人間だった。】

―――ローズを訝しそうに見ながら―――

なぜ結果を言わないんだ？占い師にとって結果はすべて。私は発表が遅れると発言したにもかかわらず、発表しないのは自分に自信がないからか？

――キャロルの言葉を聴き、ハッと目を見開く――

（ま、まさかお姉ちゃん――！！）

　ローズ。泣くな。
　こうなっては気休めは言わないよ。
　父さんと母さんは、俺たちと一緒に生き延びることは出来なかった。

　でも、泣くな。
　お前が婆様から貰った鏡が本物なら、それは狼どもに対する最強の武器だ。
　立って、戦え。俺が死んでも。誰が死んでも、だ。
　お前が言うことが本当なら、それはお前にしか出来ないことだ。……薄情な兄だと恨んでも構わないよ。

私は真実を見たわ。
ハーヴェィは狼だったわ！！
狼なのよー

――ローズマリーは声の限り叫んだ――

――手に持ったグラスを取り落としそうになる――
ローズ！今何て…。
…見間違いだろ？まさかハーヴェイが？！

――ローズの方を勢いよく振り返って――

・・・え・・・？

キャロル？おい大丈夫か？

ハーヴェイ、何ぼさっとしてる！

――キャロル、ヒューバート、ローズの３人を眺めてから、グラスのバーボンを一気に呷り――
ローズ、その鏡、インチキなんじゃねえのか？
ローズが贋者だとか言うつもりはねえが、俺が狼だ？
冗談にしちゃキツすぎるぜ。

ハーヴェイ。。。

―――カットグラスを人数分用意した。自分の分を取り、一気にあおる―――

　とりあえず、皆、一息つけよ。
　ずいぶん立て続けにいろいろあったじゃないか？

おやおや、いきなり人間に狼疑惑をつきつけるのか。
後から発表したがったのがわかるような気がするな。間違えて人狼を狼だと言ってしまわないためだったんだな。

―――ヒューバートはローズマリーを不審な目で見つめた―――

――ヒューバートを、きっと睨むと――

鏡で自分以外の姿が映るなんて思わなかった、でも日付の変わる時、自分以外がうつったわ・・・信じたくなんかない！でも、見たことは事実だわ。

――キャロルにかけより――
おい、しっかりしろ。
どうしちまったんだ？急に。

――手にした酒を少しずつ口に含ませた――

―――酒をあおりつつ―――

フレディ、ありがとう。頂くことにするよ。

　聞いていいかな、ローズ。
　何が映った？

――ハーヴェイが近寄ってきたのでこっそりと酒場の隅へ。妖精となって天井からみんなの様子を確認――

――ヒューバートを見つめつつ――

なぜ結果を言わないですって？昨日キャロルに言われたわよね。私もあなたに確認したわ。みんなが受け入れる準備が出来てからって。
どちらが先に言うか、一緒に言うか、みんなの意見を聞くべきよ。私は結果を叫びたかった・・・
あなたに先に答えていいわと言ったわ。それに対する返事はなかったわね。
先に言わないことを責めるなら、私が先に言うことを促せば？

――虚ろに気が付き、目の前のハーヴェイに抱きつく――

何？今の何？
あたい？何を……って、みんなどうしてそんな目でハーヴ見てるの？

――キャロルを抱きかかえて、長椅子に運んでから――
ローズ、そんなイカレた鏡を本当に信じるのか。
俺が人狼の姿に映ったのか？　占い婆の言う事がそんなに信用できるとは思えねえぜ？

――フレディをまっすぐ見つめ――

日付の変わる時、おばぁさんに言われたとうりの手順で鏡を覗いたわ・・・霧のような白いもやの中にハーヴェィの顔が一瞬映って、血まみれの人狼が写ったの・・・・

――キャロルに抱きつかれて少し困った顔をしながら――
気が付いたのか、キャロル。
………………ローズの鏡が言うには、俺は人狼だとよ。
ローズもキツイ冗談を言うもんだな。

ハーヴが……じんろう？
嘘？！何かの冗談でしょう？

私だって信じられない・・・でも、今まで自分の顔しか写らなかったのよ？
なら、なんでハーヴェイが人狼になって写るの？
私が見たものは幻だって言いたいの？

ヒューも…ヒューもハーヴが人狼だって言ったの？

なんかおかしくないか？
ローズ自身が先に言っていいって言ったんじゃないのか。それを何も返事がなかったというのはなぁ･･･。

それならはじめから先に発表していいなんてことは言わないことだ。

――グラスを一つ取ると、一口であおった――

ローズの占いもそうだけど、キャロル。
さっきの言葉を覚えてるか？

俺には、死人の声が聞こえると言ったように聞こえた。

アーヴァインを喰った人狼は居る、この中に。
ソフィーの資料にあった、力あるもののひとり。
『魂の声を聞くことが出来るもの』

それが、キャロルなのか？

　いや、キャロル。
　ヒューいわく、ハーヴェイは人間だそうだ。
　占いが出来る、という人間の結果が割れたな。どちらかが偽者ということか。

――一瞬複雑な表情を浮かべてから苦笑し――
どうやら、ヒューバートの占いとやらの方がまだしもマシらしいな。アイツの占いでは、俺は人に見えた様だ。
全く、世の中は面白く出来てるみてえだな。

――グレンの方を見て――
鈴が鳴って…あたいの内から別の声が聞こえて
アーヴァインが頭の中に出てきて
無念そうな顔を……

あたいにそんな力が有るとは思えないけど
この鈴の音は確かに神経をとぎすます…
今までもそうだったけど、土が…地の守りが強くなった気がする・・・人は死ぬと地に還るのよね？

――ヒューバートを見つめながら――

あなたが私が先に言わない事を責めたんでしょ？
後から言うほうが怪しいと思うなら、私に進められたら、反論すれば？反論も話し合いもしなかったのは、ヒューバート、あなたよ！

――手にしたグラスの酒を呷ってから――
俺にわかることは、ローズに鏡を渡した婆さんとやらが人狼教徒だったか、…………これは考えたくねえが、ローズ自身が人狼で、普通の鏡をさもありがたそうに見せているか、どっちかだってこった。

　ガキの頃の話、大昔の話だが、俺は見たことがある。占い師も、霊能者も、その偽者も……人狼も。
　アーヴァインの言った事を俺は信じるよ。

　占い師については……俺がどちらを信じているか、改めて言う必要はないよな。すまんね、ヒュー。

にぃさん・・・
ありがとう、信じてくれて
私、にぃさんが信じてくれるなら、人狼と戦うわ。
本当は、逃げ出したい・・・こんな鏡捨てちゃいたい。でも、人狼に対抗するには、私ががんばらないといけないのよね。

あくまでローズはこの場にいたのに結果を発表しなかったこと、後出しで結果が割れているという事実が怪しいと言っているのであって、ローズが言っているような、だったら促せとかそういう問題ではないだろ。

―――ユージーンはゆっくりと感情を殺して言葉を発している―――

我々しか居ない隔離されたこの村で、団長は人狼に殺された。
我々の中の誰かが団長を殺した人狼なんだ。

殺さなければいけない。
生き残るためには人狼を･･･。

しかし、冷静さを欠いて人間同士で無秩序に殺し合いを始めては人狼の思う壺だ。

なにかルールが必要だと思う。


俺も今は団長が死んで冷静でいられないようだ･･･。
頭を冷やしてくる。
―――酒場から出て行った―――

――頭をぶんぶんと左右に振った――
ああもう、俺には何がなんだかわからないよ。

ローズは占い師で、ヒューバートも占い師。
そしてハーヴェイを狼と言ったローズ。人間と言ったヒュー。
キャロルは死人の声を聞く力を持つ。

俺はローズを信じてる。だが彼女を信じると、ハーヴェイは狼って事になる。
そんなのは信じられない。

　俺はお前を信じているよ。
　それでも、ローズマリー、お前が本物でヒューが嘘をついていると「わかる」のはお前だけだ。
　突っかかるのはよせ。これはヒューもだが。　

　実は、まだ黙っていたことがある。
　父さんは人狼に食われて死んだ。だが、母さんは人狼の疑いをかけられて、処刑された。
　正しいから、殺されないわけではないんだよ。ローズ、俺はお前を失いたくない。

どういう問題か。これは、みんなが判断すればいい事ね。私は、先に発言することを譲ったわ。みんなの考えも聞きたかった。アーヴァィンの事でみんなはそれどころではなかったみたいだけど。自分が先に言える状況だからあなたに譲った。結果は事実でしかないから。

―――フレディのほうを向き直りながら―――

もちろんそうだよな。お前とローズとの仲だからな。その気持ちを押さえつけてまで私を信じてほしいとは強くは言えない。

だが、考えても見てほしい。ローズが果たしてお前の知っているローズと同一人物なのか。もしかしたら、ローズはお前の知っているローズではなく、人狼が成り代わっているかもしれないのだから。

　一番、頭に血が上ってるのは俺かもしれないな。
　ちょっと水でも浴びてくるよ。

人狼の疑いでかぁさんが殺された？
それは、どういう事なの？
にぃさん、よくわかるように教えて！！

――グレンの前に座り、ダイスを入れたダイスカップを弄びながら――
グレン、お前がローズを信じてえのはわかる。
俺が気に入らねえのは、ローズの持ってる鏡だ。
正直な話、悪夢なら覚めて欲しいと思うがね。

―――泣き笑いの表情でローズマリーの方を振り返る―――

　説明か……多分、すぐわかる。疑うのに理屈なんていらないんだ。
　俺はあの時、人狼よりも人間の方が恐ろしい、と思ったよ。
　ソフィーあたりなら、同意してくれるんじゃないかな？

…すまない、ちょっと混乱してるみたいだ。
先に部屋でやすませてもらうよ。　

――テーブルの上のお酒に手を伸ばして、一人呟いている――
あたいの持ってた境遇と、この鈴が共鳴したのかなぁ…
大体、妖精が見えるってのがおかしいのよね　うん

あぁ……死者の呻きが聞こえるって…
なんか、ぞっとしないなぁ

って言うか、今一番危険なのって……
考えるのはよそう・・・あたいが考えてどうなるものでも無い気がするし
こんな力が有れば、きっと狙われるんだろうし…

ハーヴと心中も悪くないかな（乾笑）

――キャロルの横の席に座り――
死んだ奴の声が聞こえる、か。
言い残した遺言でも聞けるってのか？
それに････護りし者、だったか
いよいよオカルトめいてきたな

――苦笑いしながらグラスの酒を飲んだ――

アーヴァインなんか言ってた？あたいあんまりよく覚えてないもん。
夜明け前から、意識がぼーっと飛んでたし……
護りし者…おばあちゃんが言ってたナイトの事だね、ソフィもそんな事言ってたし。

あんた、人狼なんだってね
あたいには、生きてる人の事は解らないらしいから
死んで……身の潔白を証明されても嬉しくないよねぇ

損な力だなぁ……

――もたれかかってきたキャロルの髪に触れながら――
俺が死んだら、か。後からしか解らねえってのは辛いな…
身の潔白を証明するために死ぬなんてのも、どう考えても割に合わねえけどな。

――舌打ちをしてグラスを傾けた――

あたいは、あんたが人狼でも良いんだけどね
あたい自身、こんな力がある……化け物だよね…

――髪を撫でながらキャロルの方を見つめ――
キャロルは俺が怖くねえのか？　それとも俺を信じてくれてるのか？

お前の力は、きっと皆の役に立つと思うんだがな。

ん？怖くなんて無いよ
あんたはあんただもん、もし……人狼でも　ね

自分は人間だったんだって呻きを聞くのは
きっと辛いよ…みんなの為だとしても

――キャロルをじっと見つめ――
……そうだな。確かに俺は俺だ。
部屋に戻ることにするぜ。飲み過ぎるなよ、キャロル。

――キャロルの横を通り過ぎる直前に不意にキャロルを抱き寄せ、一瞬だけ唇を重ねてから階段へと歩いていった――

……ハーヴ
――部屋に入ったハーヴェイの後ろ姿に――
あんたが…人狼でも大好きだよ

――鈴が軽やかな音を立てる――

（キャロル…安らかに眠れる夜は今夜が最後だ
　ゆっくりおやすみ、大地の申し子よ…）

――キャロルの小さな寝息が聞こえる――

――キャロルとハーベイがキスした所を見て――

(…私……最低……
ハーベイさんなんていなくなれば……そう思うなんて………)


――そっと目をつむり、先程の情景を忘れるよう努めた――

ローズさん、ヒューバードさんの結果に食い違い…か……

(…これから、前回と同じような地獄が待っているはず……

私に出来る事を探せ)

(無力な子どもとしているだけでは…ダメ。

妖精ってバレても構わないくらいの意気込みじゃないと――！)

――人間の姿となり、フレディの元へゆっくりと向かった――


マスター…聞きたいことがあるの……

――パン生地を調理台に叩きつけながら――

なんで、鏡なんか受け取ってしまったんだろう。えいっ！ハーヴェイも、なんで人狼なのよ！！
鏡の中の人狼・・・怖かった・・・。ハーヴェイを今見ると人狼に見えた事嘘だったんじゃないかと、思えてくる。でも、私は見たのよ。鏡の中の恐ろしい姿を

にぃさんにも言われたけど、ヒューバートが嘘を言ってるってわかるのは私だけ。
説明って言ったって説明の使用がないじゃ無い？
もし、私が狼なら、先にみんなに結果を話したほうが信用を得られるわ。私はハーヴェイの結果を知っていた。偽者は嘘をつく。だから先に言いたくなかった・・。ほんとは、すぐにでも叫びたかったわ。
あぁ、理論的に説明が出来たならよかった。私よりソフィーなんかが鏡を託されればよかったのよ・・・
私に出来ること、自分が知った事実をみんなに伝えること。

――独り言――
もし、死者の呻きを
自分が人であったか狼であったかという
懺悔？死後の告白？
そんなものを聞けるのが、あたい一人だけだったら…

ローズとヒューの嘘と誠を見抜く事が
あたいには出来る…

――腕の鈴が一際高い音を鳴らした――

弱き人の子達よ
おまえ達はもう気がついて居るのであろう？
黙って滅びていくのを待つのは違うと
戦わなければ成らないと

人の子よ、おまえ達は非力だ
一人の力で人狼を滅ぼすことは出来ない
が、力を合わせれば、勝つことも可能だ。

人狼を捜し出せ
そして……処刑するのだ。

おまえ達に残された手だては、もう残っていない
我と友の心を信じ、少しでも犠牲を少なく
勝ち進んで行くのだ…

………残酷な運命の申し子達よ

――アーヴァインの見るも無残な死体を見て苦笑する――

（何でだろう…死体を目にしても涙が出てこないな…
昨日言っていればアーヴァインさんも死ななかったかも…
でも…）

――ふとアーヴァインのポケットに入っている紙に気付く――

―――そっと抜き出して内容を見る―――

「そちらへ送り込んだのは全ての能力者
狂う者・加護の者・見極める者・通ずる者
これら全てが揃った村はまだない
どのような結果になるか。確認せよ」

………ッ！！

―――壁によりかかり―――

皆…話があるの
人狼退治に役に立つかどうかは分からないけど…

私は…新聞記者なんかじゃないわ
10年前に人狼が出た村「極北の村」のただ1人の生き残り
研究所から逃げ出してきた者よ……

人狼はある研究所での研究対象…
その為に昔からこの辺りの村を実験に使っているの…
目的は良く分からないけど…
人狼は寄生虫の様なもので一定の時期になると人を襲う
人狼を倒すには宿主を……殺すしかない…
窒息させるのが…1番って聞いた

―――さっき抜き取った紙を皆に見せる―――

アーヴァインさんの遺品…勝手に漁っちゃってごめんなさい
でもここに書いてある事…この村もやはり実験対象なの

後これは推測だけど…遅くとも1週間後には研究員が来て皆…殺される
ここにいる人達は昔人狼に出会った人達が多いわよね
多分…研究に近付きすぎた者は実験のついでに消される…
生き延びる為には1週間以内に人狼を倒してこの村から脱出するべき…

――喋り終えるとフレディからこれまでの話を聞く――

…キャロルが通ずる者…
そう…

―――話の続きを聞いて行き―――

ハーヴェイは人間か人狼…？
ローズは……ヒューバートさんは…
どちらが嘘をついているの…？

―――ふっと思い当たる事に気付いた―――

ねえ…昨日人狼から恨みを最も買ったのはアーヴァインさんではなくヒューバートさんじゃなかったかしら
でも…何故アーヴァインさんが襲われたのかしら
アーヴァインさんを襲う理由が見当たらない…
もし…憎しみ、恨みで襲うのならヒューバートさんの方が…

――ソフィーに漢字と意味を教えてもらいながらメモを見る――

・・・ねぇ、ソフィーお姉ちゃん・・・
これが本当だとすると・・・なんでアーヴァインおじちゃんは殺されちゃったんだろう・・・？

送り込んだ。ということはアーヴァインさんは誰よりも人狼の危険性を知っているはず・・・。


・・・備えてるだけでは、ダメ？
襲われてから対処して・・・人狼をちゃんと確認してからでもダメ？
・・・私達で、先手を打って・・・人狼を倒すしかないの・・？

（じゃないと・・・村人かも知れない人を私達の手で処刑するに繋がる・・・
そうなってしまってはこの村は狂ってしまう・・・
何か、襲われても防ぎきる方法があれば――！）

――目を瞑って――
（無茶な提案はわかってる。
　でも、ソフィーさんは研究機関にいた。
　ひょっとしたら、人狼に襲われても防ぎきる方法を知っているかもしれない。
　今は、それに賭ける・・・）

…人狼は並の人間が防ぎきれるものではないわ
唯一…加護を持つ者は対抗できると聞いたけど
それも守れるのは他の人だと聞いたし…

……1人づつ…吊っていくしかないわ
悪夢の再来だとしても

――顔をうつむかせ――
そう・・・だよね・・・
アーヴァインさんが・・・人狼を確信してたアーヴァインさんが・・・されちゃうくらいだもんね・・・

でもこうなると・・・二人のうちどちらかが本当に占いができる人っていうことに・・・なるんだよね？

そして、それを確かめるのに・・・キャロルお姉ちゃんの力を借りれば・・・

――そこまで言うと声にならなくなった――


（でも、確かめるには・・・ハーヴェイさんが・・・）

―――ウェンディの言葉を聞いて―――

通ずる者が1人なら見極める者の真偽が分かるのか…
でも…その為には…
その為には…

（…生き延びる為なら…仕方がない…
本当に？犠牲は仕方がない？）

――重苦しい沈黙を破るように、ウェンディはカウンターへ行き――

はい、お姉ちゃん。お水。
ごめんね、今マスター休憩中で・・・
ディにはまだコーヒーとか淹れられなくて・・・


――ソフィーと自分の分の水を持って戻ってきた――

（ソフィーさんも私と同じ結論に達した・・・かな。
　本当、どうしよう・・・あの狂気を繰り返すしかないの・・・？

　考えなさい、ウェンディ。何か方法がないか――）

―――ウェンディに笑いかけ―――

ううん。ありがとうウェンディちゃん…

（悲しみが沸かない…涙も出ない…
あの日に壊れたから？
それともアーヴァインさんとは親しくないから？
分からない…でも何か私は壊れているのかも…）

――ゆっくりと水を飲み終えると――

あ、お部屋の片付けしてくるの。
ソフィーお姉ちゃん・・・また、落ち着いたら都会のお話聞かせてね＾＾

――そういって、無理やり微笑んだ――

――あまり寝ていないのか、疲労の色が浮かんだ顔で階段を降りながら――
…話は進んだのか？
正直、まだ何がどうなってるかわかってねえ。どうして俺が人狼の濡れ衣を着せられなきゃならねえんだ？

ちょっと待てよ。１週間後には皆殺される？
人狼の研究？　送り込んだ？

まさかとは思うが、人狼もその研究所が送り込んだんじゃねえだろうな？

誰も彼もそのイカレた研究所の手先だってんなら、その方がよほどゾッとしねえが…
で、その研究をしてるあんたらは、俺をどうしたいんだ？
俺を殺してから声を聞く？　マトモじゃねえぜ。今こうやって話してる声は聞こえてねえのか？

悪いが外の風にあたってくる。飲む前から悪酔いした様な気分だ。

――激しく舌打ちしながら酒場を出ていった――

――窓の外を見ながら――

ソフィーの話だとあのおばぁさんは研究所の人だったの？私に押し付けて行ったのね・・・・
そうね、ここに居て狼を見つける事が出来るってわかれば、人狼に殺されるもの・・・
私も、死ぬんだ・・・・

地は、あたいのお母さんだと思ってたけど
ソフィの話だと、あたいはどうやらどっかから派遣された調査員とか派遣員とか……小難しくて解らないよ

もしかすると…あたいは生き物でも無いのかもしれないなぁ…
精霊の申し子だと思ったのは気のせいだったんだ…

土はこんなに優しくあたいを包み込んでくれるのになぁ…風はこんなに優しくあたいを抱いてくれるし
光のシャワーは気持ちいいし、水は潤いをくれるのに……この「感じてる」という事すら、もしかしたら嘘？

ねぇ、ウェン、あんたももしかしたら「ホログラフ」とか言う奴なの？

――キャロルの異常を感じて、ウェンディはすぐにキャロルを抱きしめた――

お姉ちゃん・・・大丈夫、お姉ちゃんは人間・・・
他の人はわからないけど・・・おねえちゃんだけは断言できる――！

ずっと、ずっと一緒だったんだよ。
だから・・・悲しいこと、言わないで――

ウェン…風が気持ちいいね……

――ぼんやりとウェンディを見ている――

――野菜を運んできたグレンに気が付き――

お野菜ありがとう。市場にも行けないから助かる。
もうすぐパン焼けるから

――キャロルの虚ろな目を見て、必死に叩く――

お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・！！

――目にいっぱい涙を溜めて――

ハーヴはねきっと死ぬの
で、あたいね、死んだハーブの声を聞かなきゃいけないの……
それをするために、あたいはきっとここに居るの

――メモを食い入るように見つめて、拳を固く握り締める――

研究対象？実験？寄生虫？
俺たちは何か、その研究とやらの為にこんな目にあってるっていうのか。
アーヴァインは最初の犠牲者、ってわけだ。

――ウェンディはキャロルのブレスレットを無理やりはずした――

いい、これはアーティファクト・・・古代の道具なの！
お姉ちゃんが特別なんかじゃない、この道具なの・・・特別なのは・・・


――ウェンディは泣き崩れた――

ウェンディ、それは「触媒」
この娘に能力が無ければ、それは発動はしない

――ブレスレットをはずしているのに、キャロルからキャロルじゃない声を聞いて驚いている――

・・・ぇ・・・？

この娘の記憶は作られたものかもしれない
でも、人を思う気持ちは…元から持っていたもの
ウェンディ、助けてやりなさい
一人で背負うには、あまりにも辛い性かもしれないから…

――外から帰ってきて、カウンターからボトルとグラスを取って座った――
さっきは怒鳴っちまって済まねえ。
考えてみりゃ、ローズもキャロル本人が送り込まれた訳じゃなく、怪しい道具が全て仕組まれてたと考える方がマトモだな。
とはいえ――苦笑して――ヒューバートが「送り込まれた」占い屋ってことかよ。

――目を見開いたまま――

（そんな・・・ぇ、そんなことって・・・
まさか・・・


・・・いえ、ウェンディ、落ち着いて・・・。
キャロルお姉ちゃんがどうであれ、私の知ってるキャロルお姉ちゃんに相違はない・・・。
うん、どんな形でもおねえちゃんは――！）


――ウェンディは、ブレスレットとキャロルを交互に見て、しっかりと頷いた――

――ブレスレットを丁寧にキャロルの腕につけると、しっかりと抱きしめた――

お姉ちゃん・・・大丈夫。
お姉ちゃんは・・・お姉ちゃんだから・・・

これしかいえないけど・・・大丈夫だから・・・


――抱きしめながら、涙を流す――

――キャロルを抱きしめながら――

（これまでの事、これからおこる事・・・）


――ウェンディは、天井の向こうにある星達を見つめた――

―――酒場の様子を伺いながら―――
―――独り言―――
ウェンディ、不思議な子だ。前は小さいと思ったのに、今はふつうの子供の姿だ。

―――酒場に入りつつ―――

ハーヴェイはどのように扱うんだ？
私は彼が人間であることを知っている。だから彼を処刑してしまうのは忍びないんだ。

もちろん、死者に通じる者がキャロル１人であるならば、私が真であることがみんなに証明されるわけだから、それはありがたいことではあるんだが、私だって人狼に襲われれば抵抗できずに殺されてしまうだろうし、もう人狼にはどちらの占いが本物であるかわかってしまっているからな。
そうなるともう占い結果をみんなに知らせてあげることができなくなる。

それが心配なんだ。

――グレンの向かいの席に座ってダイスを入れたダイスカップを弄りながら、ふとヒューバートの方を見て――
処刑？　そんな話になってるのか？
あんたに言うのは筋違いだが、あんたが本物だと、しかもどこかから送り込まれた人間だと証明するために俺を殺すってことか？

それに、ローズが偽者であると判明しても、彼女が人狼であるという保証はどこにもない。
だからハーヴェイ、ローズと処刑しても、人狼が２人残ってしまう可能性もかなり高いんだ。

そうなると村の人数は６人にまで減ってしまう。
その状況だと、キャロルだけが人間で、他の５人は横一線に並んでしまう。さらにキャロルまで人狼に襲われていれば、さらに状況は悪くなってしまう。
そこでの選択を間違えれば人狼に村を滅ぼされてしまうんだ。

――グレンの方に向き直り――
グレン、まさか、お前も俺を殺す気でいるのか？

いや、すまねえ。ローズを信じたいグレンの気持ちがわからねえ訳じゃねえんだ。

―――ハーヴェイのほうを向き直り―――

ハーヴェイ、私は君の処刑に賛成はしない。絶対に反対だ。たとえ村のためとは言ってもな。理由は上の通りだ。

私は、ハーヴェイが人狼だってわかったから、人狼にする対処方法でお願いしたいわ・・・
キャロルに死者の声を聞いてもらうのが一番だとおもうわ・・・
声を聞いてもらえば、真実がみんながわかる。どちらが偽者かわかれば村として対応が出来るわ。曖昧な情報にしかならないなら、無いと同じでしょ？

――グレンの方を向いたまま――
結局、あんたは送り込まれた者、って訳だ。

――苦々しい舌打ちをしてからグラスの酒を飲み干した――

私達って実験材料なの？
普通に静に暮らしてただけじゃない・・・
なぜ私達がこんな目に・・・

――ローズマリーを一瞥して――
ローズ、人間を指さして人狼だと言って殺す気分はどうだ？
俺を人狼だと叫んだ時の自分の顔をちゃんと鏡で見たのかよ？

――ダイスを入れたダイスカップをテーブルに伏せ、テーブルの中央に滑らせてから――
サイの目が奇数なら人間、偶数なら人狼。
この方がよほど信用できるんじゃねえか？（苦笑）

――ハーヴェイをまっすぐ見て――

ハーヴェイ、あなたが人間なら私だってこんなに苦しまないわよ。

人間なら、殺さないわよ。鏡の中のあの姿を思い出すと今でも震えるわ・・・・

――自分の肩を抱きしめて震えている――

――ローズマリーを見ながら、片手でダイスカップを持ち上げる。中は……空。
いつの間にか左手に握っていたダイスをダイスカップに戻しながら――
俺は人間だぜ、ローズ。ローズを疑ってるんじゃねえ。俺が疑ってるのは、ローズが貰ったとか言う怪しい鏡だ。

ねぇ、ハーヴ、踊らない？
いつも一人で踊ってるから……
たまには、ね？
――そう言うとハーヴェイの手を取った――

――キャロルの姿を見て、妖精に戻った――

（ハーヴェイさんと一緒だけど・・・これで、ゲンキを取り戻してくれるなら――）

――ハーヴェイの胸に顔を埋めながら――
あたい、あんたの事が好きだ、きっとこれは本当のあたいの気持ち……感情だと信じてる。

モルモットでも恋はする…聞いてる？あたいらを操ってる誰か…

ねぇ、ハーヴ…生きてても辛い事ばかり
お願い、これ以上辛い思いをする前に死んで
あたいがしっかりあんたの声は聞く

そして……あたいもすぐにあんたの所に行く

愛してる……ハーヴェイ

――踊りながらキャロルの言葉を聞いて蒼白になって動きを止め――
……キャロル。お前もやはりそう言うのか。
………わかった。お前に殺されるならしょうがねえ。
お前になら、殺されてやるよ。
――キャロルを抱きしめ、ゆっくりと唇を重ねてそのまま動きを止めた――

（ウェン、お願い今夜だけハーヴと一緒に居たいの、少しだけ時間を止めて、無茶は承知よ、あたいがハーヴと一緒に部屋に入るそれまでの間、お願いだから時間を止めて）

（・・・うん・・・）


――ウェンディは目を瞑ると、何かを言い・・・そして、世界そのものにヒビが入ったような音が響いた――

――ふと、われに返り――

キャロルに辛い役目やらせようとしてるのよね、私。
でも、人狼は本当にこの中に居たのよ・・・
もう一匹見つけるまで私、生きてられないわね・・・

（出口は、お姉ちゃんが扉を開けば――）


――そう呟くと部屋に戻り、そのまま眠りに落ちた――

　なんだかずいぶん慌しい一日だった……様な気もするが、まだ夜半か。
　酒を飲めないのが損だと思ったことは、ここ何年かはなかったが、一杯やってとっとと寝たくなる気持ちがようやっと解ったよ。

にぃさん・・・
私ね、キャロルに酷いことさせようとしてるよね・・・

でも、狼を見分けられても、信じてもらえなければ意味ないよね？私が言った事が真実だって理解してもらった時、私は死んでるんだろうなぁ・・・

　ハーヴェイはいいのか？。
　お前を信じてるよ。ローズ。事ここに至っては必要なことだというのもわかる。
　責めるわけじゃないんだ。ただ、俺も、奴を確信を持って狼だといえるわけじゃない。
　疑念だけで俺は人を殺すわけさ。父さんが母さんにそうしたようにな。

だって、ハーヴェイは人狼なんだよ？
誰にも信じてもらえなくても、真実なの・・・
にぃさん、私が死んだら泣いてくれる？

　大丈夫だよ。お前は死なない。
　この騒ぎが終わったら、どっかの気のいい農夫でも、お前の好いた誰かでも捕まえて、子供も産んで。
　死ぬにしたって、うじゃうじゃいる孫と曾孫に囲まれながら、ふかふかのベッドの上で安らかに、というわけさ。

　だから、そんなことは口にするな。

うん、そうだね
恋ってしてみたいなぁって思う・・・
ちょっと複雑だけど、人狼かもって思いながらも、好きで居られるなんて素敵だよね・・・

　俺にはよくわからんよ。
　あの二人の事はあの二人の問題だけどな。

　ふむ。人の死なない話でもするか。
　真夜中までもうそんなにないが、今晩は誰を占うつもりだい？

　
　

誰も占いたくないよ・・・
あんな鏡託されなければよかった・・・
おにぃちゃん・・・こわいよ・・・

にぃさんは、落ち着いてるんだね
怖くないの？
占って人狼だったらキャロルみたいに泣く人がいる。
だれを占っても同じでしょ？悲しむ人が居るんだよね

誰を占うか、みんなの希望に私は従う・・・
結果言えるといいな
パン焼いて来るね♪いっぱい焼けば、しばらくは大丈夫よ
――無理に笑顔を作ると厨房に消えていった――

　落ち着けよ、ローズ。何なら一杯飲むかい？

　お前が本当に人狼を見分ける力を手に入れたなら、それを使わなきゃなるまいよ。
　ここから逃げる方法はなく、人食いの化け物がいるとなれば……お前やヒューの言うような、見分ける目はこの上もなく貴重だ。

　恐くないかって？　そりゃ恐いさ、もちろん。
　お前を殺すかもしれない牙が、俺のはらわたをつかみ出す爪が、その辺のテーブルで酒飲んでるかもしれないんだからな。

　恋人と睦言を交わす最中でも、泣き喚いて命乞いをしても、待ってはくれない。狼も、人間も。
　俺はそれを知っているから、努めて平静を装ってるのさ。

　占って人狼と判れば、泣く人がいる、か……。
　そんな優しいところは母さんに似たのかな。
　俺は真似できないな。自分と、ローズと……それ以上のことまでは心配する余裕はないよ。

―――ローズマリーの消えた厨房のに向かって叫ぶ―――
　俺は今から地下蔵で酒の詰め替えしなきゃいけない。多分真夜中近くまでかかる。

　お前が気の進まないのは知ってるが、皆の希望に従うというなら俺の意見を言っておこう。ヒューや皆にも伝えておいてくれ。
　占うのはソフィーがいいと思う。いろいろ知っているようだし。別に怪しいと言うほど怪しくもないが、まぁ、勘だな。

――帽子を取り、髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回す――
俺たちは、実験に使われてるってわけか。人狼と、それに対抗する能力者との。
なぁ、記者さん。その手紙には狼は何匹居るのかって事は書いてないのか？

俺たちは、そいつらに食い殺されない為に…最悪の決断をしなきゃならないのか？
ハーヴェイを…あいつを俺の手で…。

――帽子をかぶり直し、厨房の方に視線を向けてそっと呟く――
ローズ、俺が君を守る。
フレディにはでしゃばるなって言われそうだけどな。

俺はローズを信じる。だがハーヴェイが狼だっていう事は中々信じられない。
だから、俺にはこういう風にも思える。
ローズの鏡がどっか歪んじまってるんじゃないかと。
妙な力で、歪んだ鏡に魅入られちまってるのかも知れない。

だってそうだろ？昨日までここで笑ってた相手が狼だなんて。
もしも狼だとしても、何で仲間を売り飛ばすような真似が出来る？
でも、そうだと考えると…後の人間の中に
狼が隠れているって事か。

…今日も占いを続けるのなら、やっぱり俺はクインジーを見て欲しい。
俺は正直、あいつが怖かった。
あの瞳に宿る光が、唯の用心棒のもんじゃないって思ってた。
…狼だって言うのなら納得できそうな気がした、それだけさ。

―――目を開き―――

皆の話は聞いていたわ…
私は…ローズを…信じたい
だから…

―――ハーヴェイを見て―――

あなたを…吊りたい

そして…
私はユージーンさんを見極めてもらいたい…
疑うわけではないけれど…
その…人狼がこの村の墓地に埋まっている事を知っている人は埋めた人達ぐらい…だと思うから

――外から戻り酒場のドアを開けて――
ソフィ嬢ちゃん、俺が人狼かも知れねえから殺したい、って言って構わねえよ。
実験とやらで殺されるよりも、疑われて殺される方が、まだしも納得できるしな。

……明日もこんな事が繰り返されるのか。今日殺されるんなら明日の事は知ったことじゃねえが、占いで何かが見えるってんなら、ソフィ嬢ちゃん、あんたを視てもらいてえな。あんた、何を企んでる？

―――酒場に入ると―――

商談の合間だ。
私が今日占いたいのはフレディだ。
理由は、ローズのことを信じるあまり、真実から目を背けているからだ。
そういう人は他にも何人かいるが、意見として揺れがないのが何よりも気にかかる。

さて、少し出かけなければ。また時間までには戻ってくる。

―――あわただしく酒場を後にした―――

――頭を抑えながら酒場に――

（さすがに・・・昨日のあれはきつかった・・・）

――キョロキョロと見回したが、ハーヴェイの姿が見当たらず、フレディの元へ寄った――

マスター、今日はまだキャロルお姉ちゃんとハーヴェイおにいちゃんきてない？

ぇ、ハーヴェイお兄ちゃんは来てたんだ・・・

――ミルクが入ったコップを傾けて遊びながら、フレディに伝言を頼む――

ローズお姉ちゃんと、ヒューバートおじちゃんに”グレンさん”占ってもらいたいの。
ぇ・・・理由？
う〜ん、何となく・・・かな・・・。

（墓を掘り返したら土の匂いがするはず。
でも・・・土の匂いするのはグレンさんのみ。
畑仕事をやってるから匂いが付くのは当たり前だけど・・・逆に言えば掘り返してても不思議じゃない・・・）　

『親愛なる友、グレンへ
　なぜこんな事になっちまったのかわからねえが、お前の事もローズの事も恨んじゃいねえ。ローズの事がどうあれ、ローズを守ってやれるのはお前だけだと思ってるぜ。
　昔の事ばかり思い出されていけねえな。お前の小屋で飲んだ時にお前がつまみ代わりと言って出した生の大根の味やら、ローズの事をお前から聞いた時の表情やら、くだらねえ事ばかりだが、お前が友人であった事が嬉しいし、お前の友人であった事を誇りにも思ってるぜ。
　何か残してやりてえと思ったが、お前みてえにちゃんと働いてねえから、ロクなものがねえ。大したものじゃねえが、コインを一枚、一緒に入れておくんで受け取ってくれ。もしお前が何かに躊躇して立ち止まることがあったら、このコインを投げて決めてくれ。裏が出たらいつもみてえにやればいい。だが、表が出たら、迷わず一歩を踏み出してくれ。
　書き足りねえ気がが何を書いて良いのかわからねえんで、この辺にしとくぜ。
　最後の頼みだ。つまらねえ責任は感じるなよ。　　　　ハーヴェイ』
――ポケットから、両面が表のコインを取り出し、手紙と共に入れ蝋で封じた――

――酒場の片隅の席――

ソフィー、あなたが村の状況を一番理解してるって思うの。だから、私の遺言聞いてね・・・
誰が本当の占い師か、みんな悩むわよね？まして結果が割れてるんですもの。
でもみんなには真実の占い師は分からなくても、人狼には分かったって事よね？
明日の占い結果、私は言う事ができないわ。守護天使の加護、これはキャロルの為にあるの。私は一匹狼を見つけたわ。本当はもう一匹見つけたかった・・・でも、見つかった一匹の判定を曖昧にされるのは絶対いや！だから、これが遺言。
にぃさんに、今までありがとうって伝えてね・・・

―――墓守詰め所に備えられていた猟銃を、あるだけ背負ってきた―――

これが今の俺にできる精一杯だ。
人狼相手に役に立つとは思えないが、ないよりはマシだろう。

―――銃をカウンターテーブルに並べた―――

自由に持っていっていい。人数分はある。
さて、
―――酒場に居る人間に自分が居なかった間の出来事を聞きはじめた―――

ソフィーには、もっと都会の話聞きたかったのよ。
こんな事なら、もっとたくさん話せばよかった・・・
私が死んでもしばらくパンに困らないようにパン焼かないとね♪
さぁ〜一杯焼くわよ〜

『キャロルへ
　この手紙が意味を持つとすりゃ、お前が俺の声を聞けなかったって事になるが、そんな事はどうでもいい。
　光の中で踊るお前をずっと気に入ってたぜ。つまらねえものだが、俺の母親の形見で、俺が持っている唯一の装飾品だ。小さなものだから、この手紙の封を破ったときになくならねえ様に、羽根に通しておく。俺の命なんてのは、この羽根くらいの重さしかねえ。この羽根の重さくらいでも、俺の事を覚えててくれりゃ……ガラじゃねえな、止めとこう。

　愛してるぜ、キャロル

　　　　　　　　　　　ハーヴェイ』
――愛用してきた羽根ペンを置くと羽根を外し、ポケットから出した粗末な指輪を通すと、手紙と共に入れ蝋で封じた――

―――手の平の上で1枚の硬貨を転がしながら―――
･･･。
ソフィーの話が真実ならば、敵は人狼だけではないという事になるな。


今この村にいる者を人狼も含めて全て観察対象として、安全な場所で我々と人狼の殺し合いを眺めている連中。
―――呼吸が不規則になり、肩が震えている―――

俺は今まで目的もなくただ生きて来た。このままなんの変化もなく生涯を終えるのも良いと思っていた。
が、今ここで目的ができた。

絶対に生き残って、その研究所とやらの連中に････。

―――いつの間にか、握り締めた硬貨を変形させていた事に気付いた―――

･･･。
。o（最後の金が。。。）

――酒を注いだグラスをテーブルに置いてから――
猟銃？　護身用と言うにはずいぶんと物騒だな。

――銃を一丁手に持ち――
人狼にも効くなら良いんだがな。

――そのまま銃をテーブルに戻して椅子に座った――

――そっとハーヴェイの隣の席に腰を下ろす――

…今から、言ってくる。

――厨房の入り口に立ち、中に声をかける――

ローズ、今いいだろうか？
少し話したいことがあるんだ、裏口のところで待ってる。

――グレンに気が付き振り向く――

なぁに、グレン？そんなに怖い顔して・・・
今パン焼けたのよ〜
運んだら、裏口に行けばいいのね？

さぁ、ローズ特製のパンよ♪
日持ちのいいパンはあとから食べてね。
たくさん、たくさん焼いたから、どうぞ召し上がれ♪

――抱えきれないほどの、パンをカウンターに並べると、裏口に向かった――

…話に付き合えなくてすまなかった。
埋葬して戻った後、今までアーヴァインの墓の前で過ごしていた。

あんな奴だが、昔は色々とあったんでな。

なぁローズ、村はずれの丘を覚えているか？
…もう15年前になるのか。

まだガキだった俺は、親父の葬式と農場の仕事で疲れ果てていた。
そんな俺を、ローズが村はずれの丘に連れて行ってくれたよな。
夕焼けに照らされた紫の花が一杯に咲く丘で、癒すような香りの中で。
ひとり泣く俺の傍で居てくれた。
ただそれだけで、ひどくうれしかったんだ。

えぇ覚えているわ・・・
綺麗な夕焼けだったわ

―――とん…とん…と指でカウンターを叩く―――

私は…何も考えてはいない
ただ…ただただ復讐の為
その為に生きる。
生き永らえなくては…皆に怒られるから
あの…研究所を潰す。それだけの為
そう…それだけ……

…名前も知らなかったこの花、この香りをいつもローズの笑顔と共に思い出すんだ。

婆ちゃんから聞いた事があるんだ。
この花はライラック。
本当は４枚の花びらを持つ花だけど、その中にはまれに、５枚の花びらを持つものがある。
それを見つけたものは、幸せになれるって伝説があるんだってさ。

だから…だから私は誰かを犠牲にしようとも生きる
それが人の道から外れているとしても
それでも…私は生きて生きて生き延びて
ここから脱出するの
その為に……ハーヴェイ。あなたを犠牲にする
謝りはしない。謝ったら…偽善だもの

今朝、丘の花の中から一輪見つけたんだ。
５枚の花びらを持つ花を。

ローズマリー、あなたが好きだ。
あの日からずっとそう思っていた。
俺と、ずっと一緒にいてくれないか。

―――そう言うと乾いた笑みをこぼす―――

狂っているのは私かな…
そうかもしれない
あの狂気の中、正気が保てていたなんて自分自身思ってないもの
自分が死なない為に誰かを吊る…
狂気以外の何者でもないわね…ふふふ

――グレンの言葉に驚き、ライラックを落としてしまう――

え？今なんて言ったの？私の事をすきって聞こえた気がするけど・・・聞き間違いよね？
だってグレンは私が嫌いなんでしょ？私が話しかけるといつも煩そうに怒ってたよね？