人狼審問

[酒場のいつもの席、
何杯目かのシンガポール・スリングに口を付ける。
目を閉じ耳を傾ければぼんやりと医院でのやりとりが浮かんだが、医院のあれやこれをうっかり見ても困ってしまう。
意識を酒場に戻し黙ってグラスを傾けた]

誰か…ヒューバートを見つけてやってくれ。

[普段の身なりからは想像もつかない、
血と泥にまみれた姿にひどく心が痛む。
苺のアレで頭が一杯で忘れていたなんて口が裂けてもいえない]

…――ここは。

[徐々に視界が明ける。
その様子をぼんやりと眺めているが、
何か違和感を感じた。

違う―――

それは人に対する"食欲"。
憑き物にでも憑かれていたような、
何かがごっそり抜け落ちたような感覚。

そして確信する。
此処は死後の世界なのだろうか。

ゆっくりと辺りを見回す]

…―――行かなくては。


[何所へとは言わない。
数歩足を進めれば―――見慣れた村の景色が。
少しぼやけたようなそれを、不思議そうに眺めながら。

並木道を歩めば心地よい風すら感じ取る事はなく、
木々のざわめく音。枝と枝の擦れる音。
それは、長い常葉色の髪すら揺らすことすら無かったのだから。

歩く。靴音すら奏でる事も出来ない事を確かめれば
ああ―――そうだ。矢張り死んでしまったのだと。


ひたすら歩く。
そう、その道の先は――――ケネスの家。

扉の前まで来ると足を止め、ぼんやりと眺める]

[ポケットの小銭を漁ろうとして、気づく。
もう代金を支払う必要なんてない。
そもそも、自分が飲んだところで店の何が減っているわけではない。ただ、記憶が目の前のグラスを産むのだと思い、苦く笑えば店を後にする。

ニーナの声は聞こえていた。
可哀想に、あの子は賢いから気づいてしまったんだろう。

人狼が人を殺した。
それがはじまり。
だけど今はどうだ？
人を殺すのに狼と人の間に何の差があるのだろう。

集会場にいない村の人々は、人狼事件に怯えながらも日々を暮らす。前と変わりなく努める姿は、まだ平和だと思い込みたいからだろうか。

――ここはとっくに狂気の淵だというのに]

[いつもそうしていたように、酒場を出れば自宅に足が向く。
…ここに心残りなどないはずなのに、習慣がそうさせるのか。

扉の前で佇む影に足を止める]

残念だが、そこは天国の扉にしてはお粗末すぎる。
成仏したいなら他を当たれ。迷子はヴィンスで間に合ってるぞ。

[声を掛けるべきか、掛けないでおくか迷った末、
結局いつもの軽口が出てきた]

[聞き覚えのある声。
一瞬空耳かと思うが、間違うはずもない]

…ケネス。
――――――っ。

[振り向けばその姿に瞳を丸くする。
ぱちぱちと長い睫毛が瞬けば涙が滲み、睫毛を濡らした。

如何すれば良いのか判らず、
涙が一筋、頬を伝えば直ぐに視線を逸らして途惑いながらも指で拭う]

何…で、どうして…？

[何でと問われれば、扉を指差す]
そこは俺の家。
見ての通り、成仏し損ねたようでな。
他に帰る場所もないしぶらつくのにも飽きたところだ。

[別に驚くほどの事ではないだろ？　と肩を竦め。
しばらく黙る]


……お前こそ…何でここにいる。
昨日も何でこんな所でぼけっとしてたんだよ…馬鹿たれが。

…だって。私だけが…こんな事になってるって…思ったもの。

[睫毛を拭えば、涙声の声を抑えようと]

悪い…？
そうよ、ずっと居たわ。
ずっと…ずっと…馬鹿みたいに待ってたわ…｡

そうよ。貴方を殺したのにね？

[彼が悪いのではないのだが、反射的に睨みつける。
直ぐ様、ふっ…と睫毛を伏せゆるりと首を横に振った]

[睨まれれば、仕方ないと受け入れるしかない。
……恨まれて当然だろう]

ああ、馬鹿だな馬鹿だ。
とっとと逃げればよかったんだよ。

俺が死ねば…人が死ねば処刑が続く事くらいわかるだろう
自分が一番それに近いとわかるだろう…。

逃げる事なんて…頭に無かったわ。
ただ、ずっと「どうして？」って思いだけしか、無かったの。

駄目なのよ…逃げれる訳がなかったの…。
そうよ…こんな事…望んでなかったんだもの。

[ぼろぼろと涙が零れる。
拭う事なく目の熱さに任せて]

…意味が無いの。
貴方と一緒じゃなかったら、意味が無かったのよ―――

どうして…か。
俺は弱い。
ニーナよりも、もっと、ずっと弱い。
だからお前を裏切った。
ただ事実を暴こうと…お前を売ろうとしたんだぞ？

だから、お前と逃げても…いつか同じ事をしただろうな。

[静かに首を振る]

自分がされた事わかってるのか？

解ってたわよ…そんな事…。
だけどそれに気が付いたのは、貴方を手にかけてからだった。
そうよ…だから貴方にだけは知られるわけには行かなかったの。

私だって弱いわ、あざとい女だわ？
自分の身の保身の為に、人の命など足蹴にしたわ。

[目を開けると真っ直ぐに見据え]

教えてあげるわ。
どうしてこんな事の顛末になったかを。

この一連の事件は…ある程度想定していたの。
勿論、アーヴァインが殺される事だってそうよ。
此処まで来てしまえば小細工も通用しないわ。

[仲間か状況か、それとも――――
其れはあえて伏せ、続ける]

実際別に事件を起こして、人狼騒ぎが確立されること…。
どんな形でもいいわ。犯人さえ仕立て上げてしまえばそれで終わるはずだった。

そうよ…キャロルを殺す事に決めたのも私。
ミッキーとネリーを共犯者にして、人狼に仕立て上げるように仕向けたのも私よ？

これで全て終わるはずだった。
だってそうじゃない？殺人鬼さえ捕まれば皆安心するわ。

そうよ…貴方が気が付くまでの筋書きは完璧だったわ――――

[涙に濡れていた瞳が、精気を取り戻しこちらを見据える。
知られたくなかったと言った事を、事の顛末を
あれほど知りたがった事を。暴こうとした事を
その口から紡ぐ。ただ、淡々と]

………、………。
俺があの日暴きさえしなければ、これ以上誰も死ななかったというのか。

そうよ…そう…。
只、平穏に暮らしたかった…それだけよ。
皮肉ね…貴方を殺して、初めて気が付くなんて。
…きっと、罰ね…。

[くすくすと笑えば首を傾げる。
まるであざ笑うかのように]

さあ…それは解らないわ。
上手くいったかもしれない。
もしかしたら他の誰かに気が付かれたかもしれない。

…解った？
これが貴方の"知りたかった事"よ――――

ああ…、そうか。
そうか。それが…事の顛末か。
く、はは。どうりですんなり成仏できないわけだ。
ああよくわかった。
もっとも、それを聞いた所で、あの時の選択が変わったわけでもないだろうがな。


驕りだな…俺も。お前も。

狼とて殺傷力はあれど、怪力というほど腕力は無いわ。

…その気になれば私を殺せたわ。
どうして…何故、貴方こそ私を殺さなかった？

[不意に笑いを止める。
とても悲しい目をして]

さぁ…な。
俺が死ぬかお前が逃げるか…それくらいしか頭になかったんだろうよ。

[ゆるりと首を振る]

いや、殺そうとしたさ。
俺が戻り、お前が逃げなければそうなる。
俺が死んで、お前が逃げなくとも…死ぬ事くらい想像に容易い。

結局…こんな様だわ。
これから先はどうなるかさえも解らない。

果たしてどんな事で終わるのか―――
それを見守ろうと思うわ…。

私はまだ、見届けなくてはいけないの。
そう、まだよ…まだ…。

[集落がある方へと目を向けた。
それは何所というわけでもなく、只そこを]

…狼も人も、変わらないわ。
私がしたことは人間のやってる事と変わらない。
他者を蹴落として、貶めて―――――

[その場で膝をつくと、項垂れる。]

嫌ね…。
そんな世の中も風潮も、全てがが嫌だったのに、憎らしかったのに。
本当、馬鹿だわ…愚かだわ…。

見届けるか…。そう思うならそうすればいい。

[膝をつくローズに手を差し伸べ、引き起こす。
何かを言いかけて、やめて、短く呟いた]

死ねば終わりだ。

…お前には生きて欲しかったよ。

[自宅に戻る気もせずに、またぶらりと歩き出す。
当てもなく、ただ足を踏み出せば*景色に溶けた*]

ケネス…私は…。

[景色に溶ける彼を眺めながら呟く。
その先の言葉は風と木々の揺れる音に紛れば溶けて消えた。

常葉色の長い髪を*揺らす事も無く*]

[１人静かに息を吐く。
息を吐いても、息などしていないのだろうけれども、生前の癖は中々抜けきらない。

踊っていないとすることが本当にない。

ただただ無駄に時が過ぎるのを待つだけの毎日。

見届けなければと思う気持ちとは裏腹に、どれだけ泣いても尽きることがない涙に、今では集会場にいることさえ辛く、自ずと足が遠ざかった。

今どうなっているのだろうか？人はやはり亡くなっているのだろうか？分からない。だが、きっと皆が辛い思いをしていることには変わりない。

気に掛けている人はいる。だが、ここに来て欲しくはない。だけど、１人でいるのはあまりにも寂しくて、感情が制御できない。
幸せになって欲しい……そう願ってはいるけれども…………会いたいと……そう願ってしまう。

死んでしまったキャロルが会いたいなど……願ってはいけないのに……]

[何をしたらいいか分からず、ただ、ぼんやりと漂う。
まどろむように眠っては覚醒する。毎日がその繰り返し……

まどろんで、まどろんで、まどろんで……

だんだんその時間が長くなっている気がする。
意識がうまく保てない。

それなのに、天に昇ることも地に落ちることも適わない。
未練がましくこの地に縛り付けられているのは一体何故であろうか？

皆の顔を思い出し、ぞくりと嫌な予感に胸を振るわせる。嫌な予感がする。ぬぐいようもないほどに……嫌な予感が……自身が死ぬ前に感じた嫌な予感とは比にならないほどの嫌な予感が……]

ヒューさん………

[嫌な予感がする時は、いつも、相談していた彼は今どうしているだろうか？
姿が見たいと思った。たとえ声が届かなくても、常に冷静な彼の姿を一目見れば、少しは落ち着く気がした。

だが………何故だろうか？

彼の人のことを考えれば考えるほど、胸に不安が募る。
嫌な予感が実感となって湧いて来る錯覚にさえ捕らわれそうになる。認めたくない気持ちでキャロルは首を振って、彼の人を捜すため漂った]

大丈夫……きっと、大丈夫。

[そう呟いてみる。そう呟き、自身を鼓舞しないと……一歩も動くことができなかった]

[お屋敷に行っても誰もおらず、不安がますます募る。他に行き場もなく集会場に漂うように行ってみて皆を見つめる。
そこには、キャロルが探している彼の人の姿は…………ない。

違和感を感じる。とても嫌な違和感を…
彼の人はとても律儀できっちりとした性格だから、このような状況下で集会場に集まらないなんてことがありえるだろうか？

お仕事が長引いているのかも……何か用事をしているのかも……そう考えるが、何を一番にすべきか分かっている彼の人が集会場に集まることよりもお仕事を取るとも思えない。

……何か……何かあったのでは？？
そう不安に思う。

分かっている。すでに確信がある。近くなった……そんな気がしている。声を出して呼べば……声が届きそうな……手を伸ばせば……触れられそうな…

違う……そんなことは無理。無理なのだ。

頭を振って必死で言い聞かせる。彼の人は死んでなどいないと自身に言い聞かせる。だが、涙が自然と溢れてくる。それでも………実態のある姿を捜し求めてキャロルは*周囲を彷徨った*]

そろそろ時間か…
[呟けば、するりと扉を抜けて集会場の壁に背をもたせる。
腕を組み集会場の様子に耳を傾けると*目を瞑った*]

［ネリーはぼんやりと集会場の様子を眺めている。マンジロー、彼へ疑惑の目が向けられるのは当然だろう。］

…もしもちげぇンなら…随分間の悪ィ時に来たもんだ………。

［諦めや憐憫がネリーの目からは伺えた。］

［セシリアの方を見る。唯一、私をかばってくれた女の子。ミッキーの畑や花壇の世話までしてくれた。随分とやつれた様子の彼女。たった数日の間なのに…。］

………。
かわいそうに…。
おめぇ、自分も………大事にしてやれりゃあ、よかったのにな。

［ネリーは近寄って、セシリアの頭を、よしよしと撫でようとした。当然、撫でられるわけも無かったが。］

………ところでッ！！

［ネリーはヴィンセントとニーナを交互に見た。チラチラ…！なんと幽霊になると、でばがめがどんな場所でも可能になってしまうのだ！見たいものも見たくないものも見えて来る…。］

おめぇら…☆
むふふ。めでてぇこったよぉ。こんな時だともー明るい話題なんざ、そうそうねぇもんなぁ。
ある意味、逆境っつーの？な？そういうことだべ？

［ネリーはにまにましている。オバサンのような性格だから、アーヴァインの奥さんと気があったのだろうか。］

ンでもよぉ…！
先生には、ちょっと信用がおかれねぇんでねぇの！？

だって苺のあれは、ちょっと…。
そんな事があったあとで、告白たァ、にーちゃんが可哀相だべさー！！

男同士の友・情☆なんて、もう通じねえんだからなー！あの世の住人に、そんな御託は通用しねぇんだぞー！

にーちゃんに謝れー！そして、医者ー！浮気すんでねぇぞー！

［ネリーは死んでいるのにわーわーと騒いでいる。相手には勿論聞えない。というか聞えると多分マズイ。］

[苺とはなんなのかなと思いつつ、
集会場をぼんやりと眺めることにした。]

［ネリーはローズマリーに気付いた。マズイッ、自分は余計なことを口走っただろうか…！］

o0(どれっぽいのだろう…)

[よく考えてみればネリーを狼だと言ったのは私ではないか。

なんとなく目が合わせづらいので、ちょっと視線を逸らしてみる事にした。]

[よく考えてみれば、ローズマリーは狼じゃないか。

なんとなく目が合わせづらいので、ちょっと視線を逸らしてみる事にした。]

あーああーあー！！
人のモン壊すたぁ…
まったく、最近の旅行者は礼儀とか作法とかをしらねぇからいけねぇ！
まったく！かーちゃんに教わらなかったんだべか！

［ネリーはマンジローの様子にぷりぷりと怒った。そういえばこいつは、アーヴァインの娘に手を出していたとかなんとか…本当に狼なんじゃなかろうか！エッタの占いすら信じられる気がしてきた。自分も狼といわれたのに。］

［あーやだやだとネリーは首を振った。ふうと息を吐き出し、ひょいと集会場の*窓から外へ出た。*
　気分転換に散歩でも行ってこよう。ミッキーさんは居ないのかな〜そんな風に思いながら。］

［死んだのだから、こんな所に縛られなくてもいい。ネリーはフリーダム！と叫んでみた。ちょっと空しい。恥ずかしさをごまかすために、全速力で走ってミッキーを探しに*行ってしまった。*］

［ネリーはまだいた！どっかいけばいいのに！］

そうだーそうだー！なんてことするだー！

［ネリーはニーナに同意した！いいから早くいきなさい！ネリーははーい！ネリーは再びどこかへ行った。］

…ヘンリエッタ。
貴女なら逃げられたはずだわ…。
私の事ならもういいの…だから…。

…きっと…思うは誰しも同じなのね。
生きていて欲しいと身を案じるのは。

…そうよね…。

[家路につく人々。処刑場の雑踏のなか、目を開ける]

カルネアデスの板か……。

[呟きマンジローの遺体に視線を向ける]
こんな時にこの村にくるなんてな。
…残念だよ。

[ふわりと姿を現わせばベッドの上に横たわるヘンリエッタを見て]

…苦しい？
御免なさい…本当に。
全ては私の所為だわ…あのまま終わっていたら、こんな事にはならなかったのに。

…でも。
これも報いなのかしら。
色々な人を巻き込んだ…そう、罰なのね。
…それが、今貴女に降りかかって…。

[頬に手を当てようとするもすり抜ける感覚に慣れてないのか、
ぎこちなくも、そっと撫でた]

[するりと手を離す]

予定調和と言う歯車は壊れ…それが何時止まってしまうのか、
何所まで回りつづけるのかは解らない…けれど。

例えどんな結末が待っていたとしても、目を逸らさず見届ける事…。
私が現世に魂を留めているのは…きっと、
全てを見守る義務があるという事なのかもしれないわね…。

ねぇ…。
貴女がどんな結末を迎えても、こうして見ているわ。
其れがあなたに出来る唯一の罪滅ぼしだと思うの…。

[肩の傷へと触れる振りをしながら]

せめて、貴女が目を覚ますまでは…傍に。

[ヘンリエッタを見守るローズから少し離れた場所、
集会場でそうしていたように壁にもたれる。
せわしなく治療のために動くヴィンスとニーナを微笑ましく見守りながら。

はじめからこんな風に出来ていれば、
共存できたのではないかと。
そんな事を思っては、苦く笑った]

[ふと、何かを感じたのかくるりと振り返る。
ケネスの姿を捉えると顔を合わせにくいのだろうか。
少しだけ視線を逸らせば遠慮がちに笑った]

…貴方から見ていたら、きっと面白い構成なんでしょうね。

[再びヘンリエッタに視線を戻して]

[顔をあわせ辛いのだろうか、視線を逸らされる。
邪魔をしたかな、と思いつつ]

面白い構成とは…？

…こんなふうに。
そうよ。私は既に死んでいて…。
今となってはとても滑稽に見えるのではなくて？…そうでしょう？

傍から見たら、どうしてそんなにこの子を心配そうに眺めて居るかって…思わない？


ねぇ…もう、解っているでしょう？

誰が私と共犯者かって…。

[ため息をつく]

ああ、解っているとも。
…滑稽だとは思わないさ。

[滑稽なのは、そういい掛けて辞める。
ただ、首を振ればその場からそっと*消え去った*]