自警団長 アーヴァイン
ふむ……まだ集まっていないようだな。 今のうちに、もう一度見回りに行ってくるとしよう。
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村長の娘 シャーロット 青みがかった、引き締まった細い足が地面を蹴立てる。 蹄の先で踏みつけた小枝を折りとばし、駆けて、駆けて── やっと辿り着いたときは既に夕暮れ。 森の一角に開けた、ちいさな広場。休憩所と定めたそこでは、やはり。仲間達が勝利と携帯していた酒瓶に酔いしれていた。漏れ聞こえる笑い声に、思わずため息が漏れ、蹄を鳴らす。苛立たしげに青い尾を振るが、だれも気にも留めない。 雲が開いて月明かりがシャーロットを照らす。 青い長髪をリボンでまとめ、青く染めたキルトのチュニックで守った背筋を凛と伸ばす立ち姿。細いウェストから女性らしい腰の丸みへの線に沿って、ぴったりしたブラウスが上品に引き締めている。腰からうしろに伸びた胴に鞍はなく、かわりに大きなザックがみっつほどまとめて背負われている。すらりと伸びた前足も、後ろ足も、地面を踏みしめる蹄は荷の重さを感じさせない軽快さで、シャーロットの苛立ちを伝えていた。 出口のない迷いの森を彷徨い、蹄をすり減らせて帰ってみれば宴も酣。文句のひとつも出ようというものだった。 やはり、抜け道はみつかりませんね。地図はもとより、感覚もどこか狂わされているような。‥‥とりあえず、地図は返しておきます。マッパーのあなたが持っていた方が有用でしょうし。 って、アーヴァイン、あなたまで呑んでっ‥‥。すこし暢気が過ぎるんじゃありません? | |
(11)2006/04/11 06:07:41 |
酒場の看板娘 ローズマリー 少し飲み過ぎたかしら... ローズマリーは、周囲の喧噪をどこか遠くの出来事のように眺めていた。焚火の焔に照らされた仲間達の姿は、彼女がかつて住んでいた世界、屍肉の腐臭が鼻をつく陰惨たる世界とはまるで違う。豪放なまでの陽気さ、ぶつかる言葉、そしてお互いを見る温かい目差し。 彼女は小さく溜息をつくと、杯に口をつけた。 死霊使い<ネクロマンサー>... つい数年前まで、彼女はそう呼ばれていた。呪われた血脈から生まれ出でし異能の娘。代々死霊使いを営んできた一族の中でも、彼女の能力は傑出していた。そして幼い頃から血と死を纏って生きてきた彼女は、それ故に孤独だった。 夢...なのかも知れない... 彼女が死霊使いであることを、このパーティーの仲間は誰も知らない。死を操る以外に彼女ができること... ささやかな精霊召喚と、街に出てから覚えた料理と、そして精一杯の笑顔と。彼女が今ここにいるのは、その呪われた力故ではなく、アーヴァインに買われたその料理の腕故であった。 初めて得た「仲間」。彼女に畏怖も侮蔑も抱かない仲間達。 ローズマリーは、その琥珀色の瞳に映る情景を決して忘れまいと心に決めた。 | |
(19)2006/04/11 18:07:04 |
新米記者 ソフィー 『昏き森の恐らく最深部に私たち一行はいた。 生い茂った樹海は光をも飲み込むのか、昼でも僅かな木漏れ日しか届かない。 特に夜ともなれば人外のものを寄せ付けないために篝火を絶やすことはできなかった。 篝火の中心では皆、思い思いに今宵の宴を楽しんでいる。 長い探索の果てに明日は帰還となれば普段は堅いアーヴァインですら気が多少は緩むのだろうか。 自ら輪の中心に加わり、珍しく酒盃を重ねていた。 所々から歓声と笑い声が起こり、場は和やかな空気に包まれていた。 我々の使命は無事に魔法書を送り届けるところまで続くがこんな夜があってもよいだろう。 だって今宵は宴なのだから。』 [簡素なノートの端書を書き終えると私は顔をあげ篝火を眺めた。 頬にかかっていた金色の髪を右手でかきあげると傍らにあった酒盃をあける。] | |
(30)2006/04/11 22:18:53 |
新米記者 ソフィー これでよし…っと。 何か食べに行こうかしらね。 [満足そうに微笑むと立ち上がり皆のいるほうへとゆっくりと進んだ。 彼女の歩みに従い、ゆったりとしたローブが揺れる。 彼女の左手には先端に白い石のついた短めの杖が握られていた。 彼女にとっては旅らしい旅は今回が初めてに近いものだったが、 幼い頃から共にある杖を握ると不思議と安堵することができた。 尤も見習い魔法使いの彼女が腕を振るう機会は皆無に等しかったのだが。 彼女は専ら自分の好奇心を満たすため、旅の仲間たちから聞いた色々な話を 自分のノートに書き溜めることに旅の殆どの時間を費やしていた。 その知識が使われることはいつのことになるか。 彼女自身もまだ知らないことではあるのだが…。] | |
(31)2006/04/11 22:20:13 |