人狼審問

何しろ、実の弟からすら、だからな。

[ディートリッヒは心の中で愉快そうに笑った]

まさか。

僕は、こんなに兄さんを尊敬してるのに。
崇拝してるといってもいいぐらいだ。

出ていらして、って言って。
本当に兄さんが名乗ったら、さぞ面白いことになりそうだ。

崇拝？

[ディートリッヒは鼻で笑うかのように、心の中で言い捨てた]

ここで出て行くのは座興としても余りにあれだ。要するに……下らない。

まぁ、兄さんが名乗り出てしまえば、
このモーガンのゲームに簡単に勝利することはできるのだろうけど。
まぁ、つまらなくなるのは確かかな。

兄さんのおこぼれを狙おうとしてる男どもが
どんな風に動き出すかは見物だと思うけどね。

眺めて楽しいのは、果たして男性だけかな？

わたしは全てを眺めに来たのだ。女性も、男性も、君もわたしも。

ははは。
今回の舞踏会。
モーガンは兄さんを主役と考えているようだが。

これじゃあ、兄さんは傍観者のつもりでいるようだ。

ふふ……傍観ね。

わたしは必要とはされているが、わたしは必要とはしていない。

大地は自分を主役だと思っているかな？　彼は何を思って地表を眺めているだろうか。自らのかすかな表層で蠢く生き物たちの、何を見て何を思うだろうか。儚い生き物たちは、時に狂おしいほど大地に近づこうとするようだがね。

ここにおいてのわたしは、大地なのだ。

歌い踊れおのこ共よ。汝らには駆け抜ける義務があろう。
歌い踊れおとめ達よ。そなたらには結ばれる権利があろう。

必要ならタクトを執ろう。しかしそれが必要だろうか。
必要なら言葉を放とう。しかしそれが望みだろうか。

舞台に上げられたからといって、操り人形ではあるまい。
用意された場で用意された事しか振る舞えないのなら、
それは既に生き物ではない。生き物ですら、食べ物にはかぶりつく。

わたしが見たいのは、それではない。

葉をちぎりとり、もう一つの仮面を作り出すように、
機会をちぎりとり、自らの一生を作り出すが良い。

未来は、まだ存在し得ないから未来なのだ。
つかみ取る前に、まずは生み出さなければならない。

人はみんな操り人形みたいなものかもしれない…と思う。

どこかへ行こうとしても、すぐに引き戻されて踊り続けるしかない。
逃げ出すために糸を切ったとしても、一人で歩けはしない。

問題はそれではないな。それが不満であるかどうかだ。

一人で歩けなければ、二人で歩けばよかろう。翼を分け合って空を舞う、かの比翼の鳥のように。

ディートヘア。君はわたしにとってただの弟に過ぎないが、伝承にある人物のように不幸が君の背中を切り裂くのを見たいわけではない。

運命に負ける事を潔し良しとしないならば、せいぜいがんばりたまえ。

兄さんは、目覚まし時計が嫌いなのかい…。
まぁ、いつもエリーに甘えて、起こしてもらっているからだよ。
今は、そういう訳にもいかないしね。

ふふっ

好きではないな。品もないし心地よさもない。

同じ目覚めるなら、手枕に乗せた女性の口から目覚めの言葉をかけてもらいたいではないか。