人狼審問

ノーマンさん……待ってて、すぐだから
それまで、わんちゃんはバニラと一緒に預かって置くから…

ノーマンの犬の尻尾にかけて、彼は本物だったね。

お疲れ様、とでも言うべきなのか。

……ノーマン君。
君は、勇敢だったよ。

ノーマン・・・
おでこ叩いてごめんね。

――子犬が何度手を噛んでも全く反応なく、ノーマンはただソファで苦しそうにうなされていた――

････ノーマンお兄ちゃん････

何、あと少しで何もかも元通りだ…。

…苦しいだろうが、少し寝てな。

……まぁ、すぐ助け出せますね。最後はニーナ君ですか。

あと少しね・・・
あと少しで眠りから覚めるわ

ウェンディ、みんなを探しに行く準備をしないといけないの。でも、記憶が戻ったらみんなの方から帰ってくるかも知れないの。入れ違いなの。

ウェンディ？全部封印すると記憶は戻るの？
戻らないと思ってた・・・

ニーナは…戻ってこないつもりなのかなぁ…

みんなが、ここに集まってたら、戻りにくい？

逃げ切ることは…出来ないのに……

夢食い狼が爪を立てた部分は消えてしまうと思うの。
でも、そうじゃないところは戻ると思うの。
ウェンディには魔法陣は難しすぎてよく分からないから、正確じゃないかも知れないの。

扉を抜けた後、記憶が戻るまでの記憶だけが
ぽっかりと無くなっちゃうんだ…

どうしても、そこをつなぐ部分が難しくて…ごめんなさい

それなら、ケネスさんに吹き込んでもらうのはだめって事ね・・・。

俺が吹き込めるのはホラくらいだぜ。

――朝食を準備しながら――

もう、山盛りに作らなくても良いわね・・・

違うわ！また山盛りに作らないといけなくなるのよね。みんな目が覚めて、そして戻ってくる・・・。
賑やかな日常が帰ってくるのよ

女ってのはすげぇよなぁ…
朝っぱらから飯とか作ったりして…

…ふぁ……。

――大きく欠伸をしながら背伸びをした――

――セシリアの持っていた本をぼんやり読みながら――
もうすぐ終わるの。
ウェンディの力が足りなくて、大勢の人を疑ってあちこちに飛ばしてしまったの。ウェンディ、ずっとその事を悔やんでるの。

――夜なべして作った冠を、ノーマンの頭に被せ――

どうぞ、画鋲で作った冠です……
貴方のために拵えたのですよ。

こりゃまた痛そうな。
ゴルゴダの丘に登らせる気かい？

――苦労して編み物の練習をしながら――
ラッセルお兄ちゃん、ウェンディ、そのご本どこかで見た気がするの。でも、ウェンディの気のせいかも知れないの。

ああ、見覚えあるんじゃないかな。
例の魔方陣だっけ、あれ書くときにリックが首っ引きだった奴だよ。

――画用紙とクレヨンを持ってラッセルの前に座り――
魔法陣は難しいの。魔法陣に合わせて力の大きさや色や形を調整するのが本当なの。でも、ウェンディはそれも苦手なの。でも、描くのはもっと苦手なの。

――画鋲の塊をノーマンに抱かせ――

画鋲で出来た抱き枕です……
どうか、安らかにお眠りください。

――ラッセルに苦笑し――

ゴルゴダの丘ですか……いえ、そのようなつもりは。
魔除けですよ、魔除け。

…なんだ、この画鋲と愛し合ってる物体は……。

魔方陣の作成自体の難しさもそうだけど、この本を書いた人間は、素直に後世に伝える気はなかったんだろうね。

レトリックがどう、とか言う域を越えてるよ、この仰々しさは。

結局これの材質も、謎のままか。

――庭の剣を眺め――

今度、爆薬でも仕掛けてみるかね？
もしかして欠けさせられるかもしれないよ。

――ノーマンの顔に画鋲を貼りつけはじめた――

――ベランダに出てラッセルに向かって話した――
気を付けた方が良いの。まだ力が残ってるから、柄には触らない方が良いの。

ヒュー、ノーマンになんか恨みでも？

そだね、ウェンディ、悪戯はこれくらいにしておこうかな。

いいえ、ラッセル君。感謝を表しているのですよ。

ごめん、ヒューバートさん…俺にはそうは見えねぇよ……

ヘンリエッタは昨日からずっと臥せっているのかな？
ちょっと心配だな。

ケネス君……君の目には、私の愛が見えないのだね。
実に残念だよ。

――ラッセルに頷き――
そうだね。
……大丈夫だといいが。

………あれが、愛…
やっぱり、僕は大人には成りたくない…

リック君、ケネス君……
君達にもいずれ、わかる時が来る……

――よろよろになりながら帰ってきた――

こ、この家の周りの森はどうなっているんだ！

――どうやら迷っていたらしい――

――首を激しく振り――

いやだいやだ、これはやっぱり理解したくない！

いや、ヒューバートさん、俺はヒューバートたんとは違う大人になったんだ。
そんなものは、多分解らないと思います…。
いや、解りたくねぇ！

や、エッタ。案外元気そうで何より。

おかえり、ヘンリエッタお嬢様。
森で迷っていらっしゃったのですね……

ケネス君……
貴方となら、わかりあえるかもしれないと、思ったのですがね。

いや、思わないで下さいよ…

（つか呂律回ってなかったじゃねーか、畜生…）

形なく、目に見えず、触れもせず。
それをさも有るかのように語る、人間てのは面白いね。

ヒューバートたん、か……斬新な愛称だね、ケネス？

ふふっ、一晩歩き通しだったからハイテンションだよ。
どうせだから地図でも作って行けばよかったな。

ちきしょう…、少し頭冷やしてくる…

――そう呟いてバルコニーにとぼとぼと歩き出した――

――ショパンの音に、うっとりと目を閉じて――

形もなく、目に見えず、触れもせず。
本当に、そうでしょうか？

私は、時折思うのですよ……
画鋲こそが、愛ではないのか、とね。

どこにでもありふれているようで、必要なときになく、取り戻そうと抜くと壊れ、握り締めれば傷つく。
そうだね、ヒュー、画鋲こそ、愛の具現かもしれないね。

……そんなわけないってば。

――画鋲だらけのノーマンを見て――

……これまた随分と痛そうな愛だね。

――ラッセルを戸惑いの目でみつめて――

……そ、そうかな……？
実にその通りだと、思ったのだが……

違います……ヘンリエッタお嬢様。
痛いと思わなければ、痛くはない。
愛と同じですよ。

（さでぃずむ　とか　言うのかな？
　大人の愛は難しいよ…）

――床に散らばった画鋲を拾い集めながら――
なんだか危ないの。

ちょっとの間にずいぶん昼寝に不適な部屋になったよね。
……ノーマンは画鋲とは無縁だって言ってたし、あれを僕の椅子に置いたの、ヒューなんじゃないか？

……さあ、どうだろう。
私は身に覚えはないがね？

……ニーナお嬢さんも、
森で迷っているのかねえ。

――画鋲をほぼ拾い集めて――
ウェンディ、今日は起きてるの。
何も言わずにじっと起きてるの。

――欠伸をし――

あふ、そろそろ眠たくなってきたよ。
どうしようかな、ニーナとは喋っておきたかったのだけれど。

僕は無駄口叩きながら起きてようかな。何ならおしゃべりでもするかい？

ねぇ、エッタ…
昨日は誰の夢の中にいたの？

――首を振りつつ――

うぅん、途中で寝てしまいそうだ。
しょうがない。
こいつはラッセル、君に任せた。

話題は、出来れば画鋲じゃない方がいいかな。

辛いようなら、おやすみ、エッタ。

――リックに微笑み――

昔の夢の中。

ニーナのご先祖様の夢の中。

これをどうしろと？

そっかぁ…
その夢に僕も行きたかったなぁ
そうしたら、完璧な魔法陣が見れたのに…

そいつは僕のご先祖様のスケッチブック。
夢の中で確かめたから間違いないと思うのだけど……。

――一枚の肖像画のスケッチを指差し――

たぶん、それはニーナのご先祖様の絵だよ。
題名は……「愛するネリー」だってね。
ニーナにそっくりじゃないか？

――仰々しく礼をしながら――

では皆様、
最高に良い夢を。
そして気持ちの良い目覚めを迎える事ができますように。

……僕の仕事はこれで終了ってね。

――皆に手を振りながらドアに手をかけ――

おやすみ！

形なく、目に見えず、触れもせず。
……しかし、確かにそこにあった、と？

OK、伝えておくよ。

――一ぱたぱたと駆け込んできた――一

こんばんは
皆さんお集まりですね

おやすみ、ヘンリエッタ。良い夢を。

エッタ、又明日ね

おや、ヘンリエッタお嬢様。おやすみなさいませ。

――一画鋲だらけのノーマンを不思議そうに眺めている――一

や、シャーロット。

新手の美容術らしいよ。やってみる？

この痛々しいのは、どうしたんですか？
いくら画鋲の王だからって・・・

――一絶句している――一

ああ、刺激がとても肌によいそうだ。
一度どうかね？

ご遠慮します・・・
刺激的すぎますもの。
私、痛い事は嫌いですから

――引きつった笑みを浮かべている――

――シャーロットをみつめ――
……そうか、残念だよ。


しかし、ニーナお嬢さんが心配だな。
慣れた土地でもこれだけ迷うのだから、送られたならばさぞ……
――気まずげに口を噤む――

ニーナ・・・
どうしちゃったんだろう？

迷いなれてる分、知らない土地でもどうにか何処かにたどり着くんじゃないかな？

そうだね……
逞しい子だから、そうだろうね。
きっとまた、辿りつくさ。

ニーナも、すぐ戻ってきますよね？
迷子になっても、帰ってきますよね・・・

「そうかもしれぬ。そうでないかもしれぬ」ってとこかな？

そもそも、僕らがニーナだと呼んでいるのは、誰の事なんだろうね？　ニーナに憑ついた「狼」かも？　それとも彼女自身？
無事帰ってきたとして、ニーナが僕らの知ってる彼女じゃない、というのはありそうな話だ。

セシリアお嬢さんは、
自らの夢喰らいの名をラスクと呼んでいたが……
他の者は、どうなのだろうね。

難しいの。シニフィエがニーナお姉ちゃんで、シニフィアンが狼なの。コインの両面なの。

…ただいまです

えっと…いまどんな感じのはなしあいになってます？

最近の子はソシュールなんて読んでるのかい？
きみのうちの書庫はきっと宝の山なんだろうな。

画鋲のようなものだね。

すべやかな表の顔に、棘棘しい裏の顔……と。

や、ニーナ。

ニーナ・・・
お帰りなさい

……こんばんは、ニーナお嬢さん。

………ニーナ、おかえり

――ウェンディの横に行き、ぎゅっと手を握る――

あ、ラッセル君こんばんわー

あれ？なんかみんな…どうしたの？

なんかあったの？

夜も更けたからね、ちょっと心配してたんだよ。
暗いと危ないからね。トビーに聞いた話だと、最近、ごく普通の狼が羊食べてったりしたことがあったらしいし。

あ、うん、心配かけてごめんね、ラッセル君。
どうも、最近あたまがボーっとしてて…んー、この件が一段落したらあたしも一度ゆっくり休養でも取ってみようかな。

何にもないよ、ニーナ。昨日までと一緒さ。
君の順番だ、ということ以外には、特に何も。

あたしの…順番？

え？何を言ってるのラッセル君？
おかしいよ…あれ？ヘンリエッタからさきに部屋に送るんじゃなかったっけ？

……ラスクと言う名前を聞いたことはないかな、ニーナ？

あれ？あたしの記憶違い？え？なに？え？

なんでみんな




あたしをそんな目で見てるの？

ニーナ・・・

ラスク？え？











けらけらけら

おやおや、なんでラッセル君がその名前を知ってるのかな？


けらけらけら

……ニーナお嬢、さん？

何故だろうね？
君らの間でどう言う話があったか、もしくはなったかしらないが、結局セシリアは重荷に耐え切れなかった、ということさ。

けらけら

おや、その様子だと、すべてが明らかになっているのかな？

もしかしたら、君たちは…

けらけら




これで終わりだとでも勘違いしているのかな？



けらけらけらけらけら

何が楽しいのか良くわからないけれど。
勘違いと言うなら、せめて誤解を解いて行ってくれると嬉しいな。

……終わりではないと？

――画鋲で傷ついた掌を、苛立たしげに擦り――

私達が何を勘違いしているというのかな。

けらけら

誤解？誤解じゃないね。

君たちに足りないのは

理解だよ

けらけら

……どうやらおそろいのようだね......

すまない。どうやら遅れたようだ......

終わりではない？
終わりになるのよね？

けらけら

そうだね

君たちに思考の寄り道をさせるのも

かわいそうだね。

あたし…私達からみれば残り少ない命なのだから。

正直に言うよ。

今回は、完敗だね。

ふむ、洒落て乾杯でもしようか？

けらけら

あ、そうそう、脅かしているつもりなら、無駄だよ。
僕は君が恐ろしくはない。

新しい理解が啓けると言うなら、なおさらご教授いただけないかな。是非聞きたいね。

けらけら

ウェンディ…君はがんばったよ、人間にしてはね。

悪いのは君じゃないんだよ。

恨むなら

人間という生物の限界を恨めばいい

けらけら

今回ねえ……
また、次回があるというのかな。

……私はご遠慮したいものだ。

けらけらけらけらけら

ラッセル君

けらけら

君は実に面白い。

脅す？

私が君達を脅す必要があるのかな？

けらけら

夜な夜な人の夢を食うのは。必要があってしていたのかい？

一本取られたのは認めるよ、脅されてるように感じる程度には怖い。有体に言えば不気味だ。

……そうだ、ニーナお嬢さん。
ずっと訊きたいと思っていたんだよ。
夢って、どんな味がするのかい？

けらけら

必要？

私達が必要に迫られて君達の夢を狙っていたとでも思っているのかい？

けらけらけらけら






たわむれだよ。

けらけら

そうだね、ヒューバート君、ちょうどいいことを聞いてくれた。

君達は必要に迫られて飴玉をなめるのかい？

どうだい？ラッセル君？

私達にとって君達の夢も記憶も人生も

飴玉のようなものなのだよ。

甘く、麗しく、だけどしつこい

けらけら

うん、「脅す必要」について聞かれたんで、「食う必要」はどうなのさ、ってことだね。我ながら律儀な返答だが。

で、そうか。今回は楽しめたかい？　味の方は知らないが、口寂しい結果に終わったんじゃないかと思って申し訳ないね。
苦情は、そこのノーマンが聞いてくれるよ。

土曜日のラッキーカラーは白だそうだ。おめでとう。

無垢と新生の色だな。

ニーナ、ううん、ニーナについてる夢喰らい、もう、ニーナから離れて・・・
これ以上、ニーナを困らせないで・・・お願い

シャーロット、さっき言わなかったかな？
多分、これが「ニーナ」だよ。単に勘だが。

けらけら

シャーロット君、面白い事をいうね。

ニーナに憑いている夢喰らい？

私はニーナそのものだよ？

ニーナは

この為に生まれてきた血族なのだよ。

そんな事

君達も知っているだろうに。

けらけら

けらけら

ラッセル君、さすが君は察しがいい。

ニーナが認めた人間なだけあるね。

けらけら

と、言うわけさ。やれやれ。

――怯えて半ば泣き出しながら呟く――
飴を舐めるみたいに……
……アーヴァインさんも
……レベッカおばちゃんも
……ノーマンお兄ちゃんも…………

ひどいの。本当にひどいの……

私は、私の知ってるニーナを信じたい・・・
今のニーナは夢喰らいなのよ・・・

――辛そうにニーナから目を背けた――

けらけら

さて、私に残された時間も残り少ない。

君達に真実を伝えよう。

私は、私の血族によって…利用してかな？

気まぐれにゲームを楽しませてもらっている。

今回は…セシリアとデボラの二人を利用させてもらったよ。

彼らは非常に私に共感できる精神を持っていたからね。

けらけら

――ウェンディを抱きしめて――

だから、ノーマンさんが居た
そして、僕たちが居る…

けらけら

ウェンディ

君達の記憶なんて

私の生きてきた記憶に比べれば

屁のようなものなのだよ。

私は…私の血族に宿っている「もの」は

そういう存在なのさ。

この村はあたしの戯れのためのゲームの駒

駒に同情するプレイヤーがいるかな？

けらけら

けらけら

ウェンディ？

君の力によって私を一時的に葬る事は可能だ。

だけどね

この一族が存続する限り

私は気が向けばいつでもゲームを始められるのだよ。

けらけら

永の無聊の慰みを提供出来て恐悦至極、と申し上げればご満足いただけますか、姫君？

けらけら

幸い、「ニーナ」には兄弟もいないし

当然子供もいない。

君達の最後のチャンスだ。

今、私の血族を根絶やしにすれば

この村はゲームから開放される

まぁ、君達にそれができるのならばね

けらけら