酒場の看板娘 ローズマリー [足元のリボンも同じように悲鳴をあげながらも、素直に千切れて舞い散る。マリーは久しぶりに解放された手足を試すように、動かし、腹這いの姿勢のまま、さらにユージーンを覗き込んだ。] ──ありがとう。 [殺意も無く刃物を握ったユージーンの手に触れる。 握ったその形を確かめるように、ゆっくりなぞりながら、] 奥さまをとても愛しているのに──。 それ以上に殺し合う事を──殺すか殺されるかのギリギリを──あなたは望むのね。 ご主人様が此の島に居るのか──。 ────哀しい事に私達にはまだわからない。 ご主人様と私達は随分と離れてしまったから。 私がご主人様を──裏切ったと────ご主人様は信じて。 | |
(41)2006/06/20 01:48:31 |
流れ者 ギルバート [とは言え、そんな放置された屍骸を喰らうモノもいるのか、折り重なった屍の上をもぞもぞと、灰色がかった肉色の不定形の妖物が蠢いている。 どうやら死体を消化吸収しているようで、死体に覆い被さった肉色の小山は、しばらく後には少々大きさを増して、もったりとした速度で次の死体へと移動して行く。 後には、悪臭を放つ濁った灰色の粘液の軌跡が残るのみである。 と、突如肉色の妖物が圧し掛かった死体ごと火焔に包まれる。 街を歩いていた何者かが戯れに放ったのだろうか。 それは轟々と燃え盛りながら、狂ったようにのたうつ。体から分泌する粘液が多少火勢を弱めたが、それでも火は消えず、辺りに肉の焦げる臭気が充満する。] | |
(61)2006/06/20 14:38:11 |
流れ者 ギルバート [既に、一昨日の街での出来事を女から、時間を掛けて詳細に聞き出していた。 あの男が甲冑の一団と如何に戦ったか。どの方角に向かったか。 その光景をくっきりと思い描けるほど正確に。 数時間に渡る「尋問」は、持てる技巧の限りを尽くしたものとなったが、その結果はそれなりに満足出来るものだった。 膚の張りはいささか衰えが見られるものの、脂の乗った肢体を丹念に細心の注意を払って責めて行くうちに、亡くなった旦那のとの性生活やら成人した息子と娘が居ることまで知ってしまったのはまあご愛嬌と言うべきか。 一通り聞き出した後、確認の為に更に二度ほど試してみたが、情報に変化はなく作為もなさそうだった。その後の数回は、十分な情報をくれた謂わば「お礼」である。] さてねえ。 遊んでたせいで丸一日差が付いちゃったけど。 追いつけっかねえ・・・。 [呟き、辺りを探り、煙草とライターを掴み取る。 残り1本しかないそれを抜き取り口に銜え、火を点けた。] | |
(63)2006/06/20 15:45:07 |
酒場の看板娘 ローズマリー ─地底湖→西南部(資材置き場)─ [地底湖から西南部に向かって流れる冷たい水脈を、マリーは熱くなった体を冷やそうとするかのように泳ぎ続けた。だが、一度何かを自覚した体は内側から光るように肌を淡く輝かせ、泳ぎ続けることで疼くような快感が徐々に増して来る。 唯一ずっと肌を覆い続けているのが、ラバーと同質の素材と金属で出来た貞操帯だけだと言うのもいけないようだった。──下腹部が甘く重い。] ──あぁ。 坊や、どうしましょう。 これではまるで、私は、私は、私は。 [資材置き場が近付くにつれ需要から人が増えても良いだろうに、時折木材が流れてくるだけで、水脈は静まり返っている。 期待した訳では無いが、後ろから誰かが追って来る気配も無い。マリーは恍惚とした思いに沈みながらも、深く潜り、資材置き場の元船着き場付近で一気に浮上した。] | |
(67)2006/06/20 16:44:25 |
酒場の看板娘 ローズマリー ─西南部(資材置き場)─ [細く黒い雨、しゃらしゃらと言う音。 ──マリーの上に細く硬質な網が降り注ぐ。 資材置き場付近を全て覆うほどの大きさの捕獲用の網が。 身体が浮いたと思った瞬間、既に陸地に放り出されてる。 体を包む滑らかな水の変わりに、硬質な金属が肌に食い込み赤い傷を幾つも付ける。マリーには、寧ろこちらが馴染んだ痛み。だが、痛みが体の熱さを通常に戻してくれる事はなく。] [マリーの20M程先に捕鯨用の銛を片手に持った男が影のように立っている。通常の視覚を持ったものが、天井からさげられた消えそうなカンテラの灯りに目を凝らせば、資材置き場の壁一面に、串刺しにされた何十体もの死体がぶら下がって居るのが見えただろう。ツンと鼻を刺す腐臭。] 「……女なら銛じゃなくて包丁だな。 男は吊す。女は捌いて生のまま喰う。」 [銛を大きな出刃包丁に持ち替えた男が打ち上げられたマリーに近付いて来る。漁師の話を聞いているのか居ないのか、マリーは男の服を*奪う事を考えている*。] | |
(68)2006/06/20 16:44:58 |
酒場の看板娘 ローズマリー ─西南部(資材置き場)─ [シャワーを浴びた後、リボンをさらしのように巻いた上に男物の上着をワンピースのように被り、出刃包丁を持ってマリーは佇んでいる。近くには網目の形に刻まれ銛で壁に縫い止められたボロ布のような持ち主の死体。 指先で刃先の感触を確かめながら、] ──立派な出刃だわねえ。 どこかでお台所が借りられれば、久しぶりにお料理でもしたいのだけど。 坊やもお腹が空いたでしょう。 お乳は張るけど、ミルクはそろそろ止めにしようと言ったものねえ。授乳はしやすいけども、この恰好では、はしたなくてご主人様の前には出られないわねえ。 [シャワーを浴びてもまだ体は熱を帯びており。うっとりと首を傾け、少しユージーンの顔を思い出しながら包丁を握る指を一本ずつ開く。漁師小屋に有った清潔な布で包丁を包み、鞄にしまい込んで。] | |
(101)2006/06/20 22:02:07 |
流れ者 ギルバート [と。 痩せ男に向かい、壁から、天井から、床から、一斉に無数の仕掛け矢が飛ぶ。 些か意外、とで言うような表情を痩せ男が浮かべ、それでもそれらを次々と炎で燃やし──ぎょっとして振り返り。 爆炎に包まれた人影が、流星雨のごとき斬撃と蹴撃を放ち・・・最後に渾身の一撃。 痩せ男は血袋と化し、壁に激突した。 火焔に包まれた人影は、血の染みとなった敵が起き上がってこないのを確認するや否や、急いで床に置かれた水瓶一杯の水を数瓶分引っかぶる。 ようやく鎮火したものの、殆ど黒焦げの人型の塊と成り果て、力尽きたように床に蹲る。 その人型の炭に向かい、毛布で体の前だけを隠した豊かな肉置きの中年の女性が、慌てて駆け寄った。] | |
(111)2006/06/20 22:51:19 |