牧童 トビー [銃声に気づき、駆け戻ってきたトビーは折り重なるように倒れている、ハーヴェイとカミーラを見つけた。 カミーラに刺さっているハーヴェイのナイフ、ハーヴェイに残る銃弾のかすった痕、それが争った事を如実に物語っている。] どうして…? 何故だ!! [トビーはそう叫びながらも、おそらくどちらかが、敵側の人間であった事を察している。] 油断していた……カメラを見た時、もう敵側の人間はいないのではと思ってしまった……。 [2人に駆け寄ったトビーの手に、どろりとした血がこびりつく。] 手が……真っ赤だ…… [その瞬間、頭の中に知らぬ記憶が瞬く。瞬いた記憶は、ゆっくりと動き始め、形を取り始める。] | |
(0)2005/12/26 19:17:46 |
牧童 トビー トビーはリーダに呼び出され、見知らぬ1軒の家に着く。 こじんまりとしているが、木々を重ねた小屋でなく、まともな1階建ての家。 鍵は開いているから、入って来い。 それがリーダーの指示だった。 小さな淡い光をたたえた電灯がついているだけの、薄暗い部屋。 指示とは言え、夜中に見知らぬ家に入ってる事はトビーを緊張させる。 身を潜めながら歩を進めると、闇の中、飾りを瞬かせるクリスマスツリーが見えてきた。 そして、何かを叩くような音と、すすり泣く声が聞こえる。 そっとのぞくと背の大きな男が、少女にのしかかりながら顔を殴っているのが見えた。 引きちぎられた服、薄暗い中にのびる白い足。胸の小さなロザリオ。 少女はマリーだった。 | |
(1)2005/12/26 19:19:42 |
牧童 トビー ナイフで胸を突かれたかのような気持ちに、トビーは目を見開いて身を固める。 直後、うなりながら男に飛び掛ろうとした。 だが、後ろから取り押さえられ口をふさがれる。 「大人しく見てろよ、トビー。こっちは金もらってんだ。」 押し殺したように語り掛けてくる声。 それは、聞きなれたリーダーの声。 身をよじらせ、大声を出そうとするトビーを押さえながら、リーダーは続ける。 「どうも、お前の勘違いはマリーのせいらしいからな、この辺で現実を見せておかなきゃならんだろ。 マリーだってもういい年だ、稼いでもらわなきゃならねぇ。お前はマリーを聖母か何かの様に思ってるみたいだが、あいつもこの街の女なんだぜ?」 トビーの頭に、凍死した娼婦の死体がよぎり、トビーは首を振る。 マリーも同じ様になるというのか? 嫌だ!それだけは嫌だ! リーダーを振り払おうと激しくもがく。 | |
(2)2005/12/26 19:22:07 |
牧童 トビー [唐突に戻った記憶にトビーは愕然とする。まだ完全ではない、完全ではないが覚えている事がある。 それは、仲間同士の諍いは許されず、争った者は必ず追放されると言う事。 トビーの帰る場所は、おそらくもう……無い。] [体が震え始め、何か強い感情がこみ上げてくる。] だめだ…だめだ……こんな時に…… [必死に押さえようとするが、押さえられない。] [それが、皆の死によるものなのか、戻った記憶によるものなのか解らない。 ただ、随分以前から必死にこらえていた気持ちである事は確かだった。 膝が落ち、体が自然と前に折れる。] …ひ……ぐ…… [トビーは、声を押し殺して泣いた。] | |
(5)2005/12/26 19:28:44 |
見習いメイド ネリー キャロル御姉様。 先に御答えするべきは、貴女です。 [ネリーはきっぱりという] [不快そうに唇を歪めて] 現状把握能力と自分の立場を弁えて話す事が出来ない人間は、長生き出来ませんよ。御存知有りませんでしたか? 折角ですから教えて差し上げましょう。 貴女は鍵が欲しい。 そして此処で鍵の在り処を知っているのは私だけ…。貴女は私を殺せない。 貴女の命令に私は屈しない、貴女に対して頼みたい事も恐れるべき事も何も有りませんから。そして、私に貴女は殺せます。 お解りですか? 私の方が、貴女より優位なんですよ。 貴女にとってその鍵が大事であれば大事である程、私にも同じだけの価値が有るんです。 | |
(22)2005/12/27 01:11:28 |
見習いメイド ネリー [ネリーは笑った] [面白くて御腹が捩れそうだった] キャロル御姉様、最高ですね。御答えしましょう。 私は此処から出る気は有りません。其れが機械では無くなったと言う意味です。 私は、預かった仕事を最後まで真っ当して、後は此処で死ぬだけです。 私の仕事…、被験者の全員死亡を見届ける事。向かって来れば殺します。そうでないなら、死ぬまで此処で只待つだけです。 [ネリーはにっこりと笑う] [綺麗に笑う] 困ってください。泣いて喚いてください。土下座でもして拝み倒してください。 少なくとも今の貴女にとって私は無敵ですから。 そして、私と貴女の目的は相反する物…。ふふ、傑作ですね。どうぞ、自分の無力さを嘆いてください。 | |
(25)2005/12/27 01:33:29 |
牧童 トビー ネリー、君はさっきこう言ったよね。 「預かった仕事を最後まで真っ当して、後は此処で死ぬだけ」、「被験者の全員死亡を見届ける。」って。 でも、終わった後で死を覚悟しているなら、鍵のありかを知る人が生きてる理由ってあるのかな? むしろ、誘導尋問や拷問や何かのはずみで、君から鍵のありかが漏れる可能性がある。 終わった後の死を決めた時点で死ぬ、これが一番鍵を守れる方法だと思う。 被験者の死亡の確認なんて必要ない、この設備でガスに漏れがあるとは思えないし、カメラもある。 鍵が見つからなければ死ぬだけだ。 実際……ここで君が自殺したら、俺達は時間もないし、何の情報もなしに鍵を見つけることはできない。 | |
(31)2005/12/27 23:29:57 |
牧童 トビー 意識の薄れる中、トビーはマリーの姿を思い出す。 薄暗い家の中、シーツを身にまとったマリーは、トビーを見つめて寂しそうに笑った。 トビーの頭をなで、そしていくらかのまとまったお金を渡す。 そして十字を切り、黙って開いた扉を指差した。 トビーは何も言えず、ただ外に出る。 ……自分はいつか、鼠以外の何かになれるのだろうか…… ……トビーの名を捨てる時が来るのだろうか…… ふと、見上げると煌びやかに光る街の照明がにじんでいた。 | |
2005/12/28 00:03:21 |
牧童 トビー …………誰かが、俺の名を呼んでいる……… ……誰?誰なの? | |
2005/12/28 00:03:44 |
牧童 トビー ……母さん? ああ、そうだ……俺の本当の名前は……… | |
2005/12/28 00:04:48 |
冒険家 ナサニエル [……どこかで、水音が聞こえる。] [今にも崩れ落ちそうに積まれた本と新聞とファイルの山。天井の低い部屋。唯一午後に日当たりが良くなる窓の傍に、座り心地の良さそうな椅子が置かれている。いつものナサニエルの事務所の風景……。] ……また、水漏れなのか? 妙な時間に目覚めてしまった。部屋が薄暗いな……。 [ナサニエルが電気のスイッチを入れる。だが、かちりという手応えがあっても部屋は薄暗いままだ。ナサニエルはいつもの癖で、前髪を払いながら首を傾ける。] ……頭が割れるように痛い。 体調が悪くて、視界が暗いのだろうか? | |
2005/12/28 00:59:07 |
冒険家 ナサニエル [椅子の横に置かれた小さなテーブルに、冷めたインスタントコーヒーと今朝の新聞、そして一通の手紙。] [ナサニエルはなにげなく新聞を手に取り、目についた記事を読みはじめた。] | |
2005/12/28 01:00:44 |
冒険家 ナサニエル [新聞には、身元不明の義足を付けた少女が海に転落したという記事が写真付きで掲載されていた。] ……………。 [ナサニエルは新聞を持つ手が震えている事に気が付いた。] | |
2005/12/28 01:09:34 |
冒険家 ナサニエル [不意に自分を呼ぶ少女の声が頭の中に響く。] 「ナサニエルさん、お願いです。 兄を捜していただきたいのです。」 [優雅なワンピースに似合わない、大きく無骨な旅行鞄を抱えた少女が、ナサニエルの椅子の傍に立っている。] | |
2005/12/28 01:41:24 |
冒険家 ナサニエル [……少女の声。] 「私たちの関係と、兄の実情をご存知のあなたには、私が彼を捜すという事が理解出来ないかもしれません。そして、あなたが、兄と会いたいとは思わないだろうであろう事も、想像に難しくはないのですが、それを承知でお願いしたくて、あの田舎からやって参りました。」 [ナサニエルの頭痛は、教会の鐘が鳴り響くようにガンガンとひどくなる。少女の言葉を止めたいと思うのだが、何故かすでに終った出来事を記録した映像を見ているかのような感覚があり、ナサニエルには、口を開く事が出来ない。] 「……兄は、以前あなたに、私の事を、路地裏で拾われた虱だらけのどこの馬の骨とも知らない者だと言ったと思います。ゴミくず同然の売女だと。父親が、亡き妻にそっくりな私を気まぐれで拾ったのだと。」 | |
2005/12/28 01:44:23 |
冒険家 ナサニエル 「あれは嘘です……。私たちは実の兄妹です。」 | |
2005/12/28 01:44:35 |
冒険家 ナサニエル [少女はナサニエルを見つめ、悲しそうに頬笑んだ。] [やっと声が出た。] でも、君は……。 君たちは……。 [ナサニエルの言葉に、少女が「ええ」とうなづく。] | |
2005/12/28 01:45:21 |
冒険家 ナサニエル いや、君に何かを言える立場じゃ……俺はない。 俺は君の兄の言葉の誘惑に負けて、一緒に君を……穢した。 [少女は首を振る。] 「あなたが私を穢したと思うなら、そうなのでしょう。私はそうは感じていないけれど……。 だって、私で遊ぶためにどこの誰とも知らない者を、(先に死んだ)父や兄が連れてくる事は多々あっても、兄が<友人>と紹介して我が家に招いた方は、唯一あなただけでしたから。 兄の友人様のなさる事に、私が抵抗するという事はありえないのです。」 | |
2005/12/28 01:46:59 |
冒険家 ナサニエル 【……違う。違うんだ。】 【そうじゃない……。】 [言葉を発する事は出来ないナサニエルに、少女はさらに続けた。] 「でも、ナサニエルさんは、罪悪感を感じておられるのですね。……今も。」 「じゃあ、」 「やはり、兄を捜していただきたいのです。償いに。」 | |
2005/12/28 01:48:33 |
冒険家 ナサニエル [熱っぽく彼女が一歩を踏み出した拍子に、痛んだリノリウムの床に硬い音がカツンと響いた。足取りに不自然さはみじんもなかったが、少女の左足は義足だった。] [ナサニエルは頷く事しか出来ない。] 【駄目だ! お願いだ……!】 【それは違うんだ!!】 [不意に、義足の音が大きく再び繰り返され、焦燥に駆られるナサニエルの視界がぐらりと揺れる。] | |
2005/12/28 01:52:39 |
冒険家 ナサニエル 兄さんは確かに死んだ!! でも、君が死んでは駄目だ!! [ようやく言葉を発する事が出来たナサニエルは、必死で少女を抱きしめた。] [そんなナサニエルをあざ笑うかのように、抱きしめた少女は、途端にひらひらと舞う一通の手紙に変わった。] | |
2005/12/28 01:57:30 |
冒険家 ナサニエル 『──兄の存在しなくなった世界に私が生きる意味等何もないのです。私の世界はおしまいです。一緒に探していただいて、ありがとうございました。──』 | |
2005/12/28 01:57:50 |
冒険家 ナサニエル 思い出せた? [自分の言葉に疑問がよぎる。途端に世界はまたぐらりと揺れ、ナサニエルの世界は暗闇に包まれた。] | |
2005/12/28 02:23:29 |
冒険家 ナサニエル そうか、俺の最後の仕事が彼の調査だったのか。 ようやく、思い出せた……。 | |
2005/12/28 02:23:50 |
冒険家 ナサニエル ─暗い電球が灯る部屋。密室─ [……血の匂いが鼻について離れない。ナサニエルは冷たい床に痛む頭を抱えたままで倒れている。] [それをさらに遠くから見つめている自分がいる。] 兵役時代の記憶……なのか? | |
2005/12/28 02:38:07 |
冒険家 ナサニエル [幾分若いナサニエルの声……。] 「君が何故上官を半殺しにしなくてはならなかったのか、俺にはわからない。確かに彼は、戦地で敵方の少女を強姦して殺した事を自慢したね。……酒の席で。 俺も不快じゃなかったわけじゃない。不快だったさ。 だが……。」 | |
2005/12/28 02:38:43 |
冒険家 ナサニエル [ナサニエルの言葉に、ナサニエルの入れられていた独房の隣で、薄い壁越しに、友人が吼えるように笑った。] 「また君は僕のことを<理由もなくそんな事をするわけがないヤツだ>と言うのか? 知りたいなら、僕の家に来ればいいさ。僕は独房にこそ入れられたが、あいつ(上官)がこのまま死んでも、我が家の威光のおかげでおとがめなしさ。少し早いが一緒にクリスマス休暇に入ればいい。」 [部屋の電球が切れ、友人の声も切れた。] | |
2005/12/28 02:39:13 |
冒険家 ナサニエル ……そうだ。 俺はそうして、上官を嬲り殺した当時の友人の家に一緒に行った。そして、彼の実家での出来事がきっかけで……。 平和な自分のふるさとには、戻る気になれず、荒んだ気持ちでフランスの傭兵部隊に流れた。……自殺出来ない自分が、戦場で自分が死ぬ為に。 | |
2005/12/28 02:42:16 |
冒険家 ナサニエル [友人の屋敷で、友人の目をじっと見つめ、手をかざしている自分が見える。] 「あの上官が父上に、武勇談が君の妹の身に起きた出来事と同じに見えたのかい?」 「いや、親父はもうこの世には存在しない。なぜなら、俺が殺したから。」 「そうだね……。 上手く説明できないが<見える>よ。君は父上を殺した。それに、君は父上と同じ事を妹に……。君が殺したかったのは、父上であると同時に君自身だったんだ。」 「そういう、君も昨夜は楽しんだ。」 「どうかしていた……。彼女にはなんとしてもお詫びを。」 「どうもしてやしないさ。アルコールと煙草の両方に仕込んだからさ。君を引きずり込みたかった。僕の世界に。 なのに何故、ナサニエル。君はそうも澄んだ目を僕たちを見るのだろうか。」 | |
2005/12/28 02:56:28 |
冒険家 ナサニエル [兄の横で、妹は無表情に佇んでいる。この兄妹に何も言うべき言葉がない……と、当時のナサニエルは小さく息をついた。] 【ひどく重くて痛かった。】 【だが、しばらくはあの屋敷に滞在した。2人を説得するために。彼女と自分が結婚すれば何かが少しマシになるのではないかと思った。】 【だが……。】 | |
2005/12/28 03:00:55 |
冒険家 ナサニエル 【ある日、友人は妹の足を切断した。彼女を独占するために。 高熱で苦しんだ後、リハビリをはじめた少女は、以前少しはあった表情もナサニエルには向けなくなり、義足の使い方をおぼえはじめる頃には、彼女はまるで機械で出来た人形のようにしか見えなくなった。】 | |
2005/12/28 03:05:46 |
冒険家 ナサニエル 【彼女のもう一本の足を彼が切断する前に、友人ではなくなった男の屋敷を、俺は後にした。】 | |
2005/12/28 03:06:59 |
冒険家 ナサニエル 傭兵部隊から、街の探偵に落ち着くまでのことはいい。 ただ、ようやく落ち着きはじめた俺の前に、彼女が行方不明の兄の調査を依頼にやってきて、兄は事故死しており、……最終的に、彼女は兄に殉死した。 俺が最初に<見えた>のが、友人が父親を殺す光景だったことを、思えば皮肉だ……。 そして……、 ─暗い電球が灯る部屋。やや広い密室─ [ナサニエルは、最初にアーヴァインが殺された部屋に戻って居る。] | |
2005/12/28 03:12:56 |
冒険家 ナサニエル 緑色のガラス玉のような瞳。 機械のような、非人間的な落ち着き。 ……その中に確実に存在する人間らしさ。 一緒に行動しようと言ったときの、少しだけ嬉しそうで、可愛くみえた笑顔。 【彼女とネリーは似ていたのか?】 【………あまり似ていない気がする。】 | |
2005/12/28 03:16:21 |
冒険家 ナサニエル ネリーを一人にするのは心配だ。 はやく戻らなくては……。 [ナサニエルは、アーヴァインの遺体のある部屋を出ようとして、ふと自分の体が血まみれである事に気が付いた。痛みはない。] 【まるで死んでいるみたいだ。】 [そう思った途端、また視界がぐらりと揺れた。階段下のマンジローの死体が見える。次にステラ……。 また、鐘を打つように頭が痛んだ。] | |
2005/12/28 03:21:08 |
冒険家 ナサニエル はやく、戻ろう……。 ここから、彼女を連れ出して……。 ……今度こそ離さないで、幸せに。 [─不意に、ナサニエルの世界は暗転して*何もなくなった*。] | |
2005/12/28 03:29:21 |
異国人 マンジロー ………………。 | |
2005/12/28 04:58:53 |