自警団長 アーヴァイン
ふむ……まだ集まっていないようだな。 今のうちに、もう一度見回りに行ってくるとしよう。
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学生 ラッセル ふむ。実は最近、神話を学んでいてね。 此の村に伝わる神話の一説を読んで聞かせよう。 古の昔―――。 此の土地は唯一本の菩提樹のみが生えている荒野だった。 作物の育たない不毛な、人間どころか動物も生きていけぬ土地。 だが、そんな此の地に故郷を追われた漂流の民が辿り着いた。 彼等は疲弊していた。彼等は饑渇していた。 逃げ惑う長き旅路の果てに辿り着いた先は何もない此の地。 水も尽き、食糧も尽き、寒さを凌ぐ術も、風雨を避ける術もなく。 絶望の縁に立たされた彼等は菩提樹の下で神に祈った。 ―――神さま。どうか、我々をお救い下さい、と。 その祈りが天に届いたのか、或いは、端から神は見ていたのか。 菩提樹が黄金に光り輝き、女神が降臨して彼等に恵みを与えた。 樹の周辺を埋め尽くす一面の緑の恩恵、それは昆布畑であった。 漂流の民は女神の昆布を食して飢餓の危機から逃れたのだ。 以後、此の村では昆布が名産品となって今に至ると云う……。 | |
(29)2005/03/12 20:37:00 |