未亡人 オードリー [窓の外には、さきほどから粉雪がちらちらと舞い降りている。 オードリーはさきほどから、充分に暖められた室内にゆったりと腰掛け、温かい紅茶を飲みながら目の前に置かれた2通の手紙を眺めている。 一通はネリーからの手紙。 災害が起こるまでの間、細やかに自分を気遣って仕えてくれた彼女の丁寧な仕事振りを思い出す。] ……いい香り。 [ネリーからの手紙に添えられていたポプリを手のひらにそっと乗せる。 薔薇を好んだオードリーの為に、夫は庭に薔薇の温室を作り、やはり丁寧な仕事振りのヤコブにその世話を任せていた。 屋敷の中は、季節の花で常に美しく飾られよい香りがしていたものだった。 夫と気のいい使用人たちとの、穏やかで幸福に包まれていた生活……。] | |
(8)2006/09/26 10:59:44 |
未亡人 オードリー [どれだけの時間が過ぎただろう。 幾分重たくなったハンケチを机の脇に置き、気を取り直してネリー宛てに返事を書き綴る。] ------------------------------------------------- ネリーさんへ お元気な様子でなによりです。 ポプリを有難う。 ヤコブさんが丁寧にお世話をしてくれた温室の薔薇が見られないことを寂しく思っておりましたが、ネリーさんから戴いたポプリを見て、楽しかった日々を思い出すことが出来ました。 私が喉が弱い事を覚えていてくれたのですね。 お手紙を戴いた日から、ショールを身に着けるように気遣ってます。 以前は貴女が外出の際に必ず手渡してくれたから、自分で気にかけることもなかったですものね。 ポプリのお礼に、小さな櫛を贈ります。 今、私が住んでいる街では、娘さんの間で流行している様子。気に入ったらぜひ使って下さいね。 オードリー ------------------------------------------------- 細かい花模様の入った華奢な櫛を同封すると、蝋で封をした。 | |
(10)2006/09/26 11:18:44 |
お嬢様 ヘンリエッタ ---------------------------- ……様。 寒い日が続きますが、お変わりありませんか。 皆様とすごした楽しい日々を思い出し、お手紙差し上げました。 私はいま、雪国の小さい村の近くで静かに暮らしています。 両親は仕事で旅にでかけたままほとんど帰ってくることもなく、村に歳の近い子供もいないため、一人でいて思い出すのは懐かしいあの村のことばかりです。 狭くて小さな村だったけれど、誰も彼もみんな家族のように仲良くて。 もう少ししたら、春の祭があった季節ですね。 いつの日か、またみんなが集まって、昔みたいににぎやかに楽しむことが出来たら、と願っています。 またお手紙を書きます。 かしこ ヘンリエッタ --------------------------- | |
(13)2006/09/26 11:52:07 |
逃亡者 カミーラ [ 不満げな子供を台所から追い出す。 ネリーにいわれたとおり大切な人の喜ぶ顔を 思い浮かべて作っているというのに一向に上達しない。 気分を変えるために紙とペンを手に取った。 ] ------------------------------------------------- ギルバートへ スープ作ってみたけど成功しない。 もっと簡単な作り方ないか。 昔のあんたはあたしの知る限り料理なんてしてなかったから、 こんなことを聞くのは不思議な感じがする。 カミーラより ------------------------------------------------- | |
(24)2006/09/26 19:21:42 |
流れ者 ギルバート [ギルバートは木を削っていた手を止め、ナイフに自分の顔を映した。] ------------------------------------------------- オードリーへ 返事が遅れてすまない。 俺の顔には確かに、黒子があった。 しかし、こんなに小さな点に気づくなんて、あんたはきっと観察眼に優れた方なんだろうな。 柔らかなタッチの文字、便箋に残る香水の匂い、きっと「奥様」なんだろう。 災害の後の暮らしは前よりは不自由だと察する。 不自由な中にも喜びを見つけられる事を願って止まない。 ギルバート ------------------------------------------------- | |
(27)2006/09/26 19:31:13 |
流れ者 ギルバート [ギルバートの病状は一月もすると快方に向かっていた。トビーからの手紙で知った自分の「作り手」としての可能性。今ではぽつぽつと注文も入るようになっていた。] ------------------------------------------------ ネリーへ 君の文面からは、俺を兄のように慕ってくれていた事がわかってとても嬉しい。 君の事を覚えていないのは残念だよ。覚えていたらきっと、君がコンプレックスに感じているという部分も、ちゃんと顔を思い浮かべて「可愛い」と言ってあげられるんだろうが。 実際、そばかすってのは太陽の下でたくさん笑った証拠だ。光を受けて笑う女性は皆美しいと思うよ。 季節感を大切にしてクリスマスカードを送ってくれる優しい君の事だ、周りばかりを気にかけて君自身が気疲れしていない事を願うよ。 たまにはゆっくり本でも読んでみたらどうだろう。 リハビリで作ったブックマークを同封しておく。 今の俺は君の知っている「ギルバート兄さん」ではないが、君を妹のように可愛がっていたギルバートからだと思って使ってやってくれ。 ギルバート ------------------------------------------------- | |
(28)2006/09/26 19:43:59 |
冒険家 ナサニエル ------------------------------------------------- トビーへ。 手紙をありがとう。 トビーが住んでいる町はどんな所なんだろうな。 行く機会があればいいんだが、さすがに遠くてね。 色んな町を見て回っていると、色んな人間がいるんだなと思うよ。 親切な奴も多いが、ひどい奴らも多い。親をなくした子どもや家をなくした兄弟が固まって住む町もあった。 俺たちは住む村をなくしたが、今こうやって手紙のやり取りが出来るくらいは、幸せに暮らしている。 あの時は生き残ったことを恨んだけどね。 また面白い町に行ったらそのことを手紙に書くよ。 それじゃ、風邪を引かないようにな。 ナサニエル ------------------------------------------------- | |
(31)2006/09/26 20:15:49 |
冒険家 ナサニエル ------------------------------------------------- カミーラへ 元気だろうか? 手紙をありがとう。 色んな所に行ける、とは言っても、仕事だからね。 よく見て回るような時間はないかな。 一度くらいは仕事を忘れて、観光でもしてみたい、と思う町はあったけど。 面白い話があればいいんだが、今のところはないかな。どちらかといえば、辛い現実の方が多いよ。 でも、そんな土産話は見たくないだろう? こうやって、村の皆に手紙を書いていると、あの頃のことを思い出すよ。 そんな昔の話ではないのにね。 それじゃ、また。 ナサニエル 追伸。料理の腕は上がったかい? カミーラからの手紙を読んでいたら、一度食べたパイの味を思い出したよ。 ------------------------------------------------- | |
(32)2006/09/26 20:23:00 |
見習いメイド ネリー ------------------------------------------------- 親愛なる牧師さま お手紙拝見いたしました。 残念ながら、わたしはお力になることができません。 こちらの学院は良家の子女を集めた由緒ある学校で、 使用人もきちんとした紹介状を持つ者が選ばれております。 両親と家族を失ったわたしを呼び寄せ、しかるべき方に 紹介状を書いてもらえるよう手配し、就職先を世話して くれた親戚の恩に報いる為にも、契約途中で仕事を投げ出す 訳にはいかないのです。 どうか、お許し下さいね。 ネリー ------------------------------------------------- | |
(38)2006/09/26 20:39:50 |
流れ者 ギルバート [ギルバートはカミーラから送られてきた手紙を読んで考え込んだ。] 俺がいつもやるやり方で書いたんだが……。ああそうか、「スープ煮」と「スープ」ってのを取り違えてンのかもな。 ------------------------------------------------- カミーラへ 俺の書き方が悪くてレシピを誤解させたようですまなかったな。もしや、「スープ」だと思って水を多めに入れてはいないだろうか。 かぼちゃのホクホク感とソーセージの歯ごたえを楽しむ為に、水は材料が半分かぶるくらいまででいいんだ。ミルクは好みでもう少し増やしてみてもいいかもしれん。 そうそう、子どもは正直だ。 いつでも刺激を求めているんだろう。 色々なものを作るのは大変だろうが、材料を変え、量を変え、変化をつけるのもいいかもしれない。 失敗は成功の母、と言うじゃないか。 失敗しても頑張る姿はいつか実を結ぶものだ。 がんばれ。 ギルバート ------------------------------------------------ | |
(43)2006/09/26 23:26:16 |
未亡人 オードリー [自室に戻るとショールを椅子の背に掛け、机に向かった。 可愛らしい猫が描かれた便箋に、大き目の字で手紙を書き始める。 ------------------------------------------------- ヘンリエッタちゃんへ お手紙有難う。お元気そうで安心しました。 寒い日が続きますね、そちらの冬は寒く厳しいと伺っています。 風邪などひかないように、気をつけてね。 おばさんは今、私たちの村よりも賑やかな街で暮らしています。 今日、ヘンリエッタちゃんに似合いそうなリボンを見つけたので贈りますね。 気に入ってくれたら嬉しいわ。ヘンリエッタちゃんは、猫が好きだったかしら? また、よければお手紙を頂戴ね。 オードリーおばさんより ------------------------------------------------- 封筒に、便箋と一緒に昼間購入したビロードのリボンを入れて糊で封をした。 | |
(45)2006/09/27 00:17:08 |
未亡人 オードリー ------------------------------------------------- ギルバートさんへ お返事有難う。 貴方の左目の下にはほくろがあったのですね。 確かに、私が知るギルバートさんで合っていると思います。 貴方が推察したように、私は貴方の飲み友達の妻でした。私の夫……ケネスはお酒が好きでしたし、ギルバートさんもお酒好き、よく二人揃って酒場で朝まで飲み明かしていました。 夫の話では、ギルバートさんは文字を書く仕事をしていたようですよ。新聞記者なのか、作家なのか、詳しい話までは聞いておりません。 また何か、貴方に関して思い出したら手紙を出しますね。 オードリー ------------------------------------------------- [ギルバートと聞いて思い出すのは、早朝嬉しげに鼻歌を歌いながらヘロヘロに酔って帰ってきた夫の姿だった。 当時は呆れたり身体に障ると叱ったりもしたが、今となってはそれすらも愛しい思い出だった。] | |
(47)2006/09/27 00:50:31 |
逃亡者 カミーラ ------------------------------------------------- ナサニエルへ いろんなところに行けるとたのしいと思ってたけど そういうわけでもないんだな。 あたりまえか。 くりかえしの毎日はたいくつでも、あたしたちの村がいちばん たのしかったし。 でも、せかいは広いから、たのしいところは他にもきっと あるとおもうんだ。 だから、もしそういうたのしいことがあったら その時はきかせてくれるとうれしい。 てがみありがとう。 カミーラより ------------------------------------------------- | |
(51)2006/09/27 01:02:07 |
未亡人 オードリー 『りー、また手紙を書いたのね?』 [姉に声をかけられ、自室へと戻る足を止めて振り返った。姉は柔らかい微笑をオードリーに向けていた。] 『お茶でもどう?』 [温かいハーブティを飲みながら、姉妹は他愛の無い話を始めた。自分たちの幼少の頃の話、両親の話、そして……あの村の話。] ……そう言えば、ナサニエルはどうしているのかしら。 [ふと、村で仲の良かった同級生の事をぼんやりと思い出した。彼もまた、最愛の人を亡くしたと聞いていた。 しかし、同じ境遇に居るからこそ、お互いに相手に連絡を取れないでいるのかもしれなかった。何を書いていいのかすら判らない。] | |
(53)2006/09/27 01:12:59 |
冒険家 ナサニエル ------------------------------------------------ カミーラへ 今回訪れた町は今までで一番遠い町だったんだが、面白い町だったよ。 ワインがとても好きな町でね。葡萄畑も大きかったが、酒場も大きかった。 毎日日が傾いた頃に葡萄時間てのがあるんだ。 葡萄を収穫する時間なのかと思ったら、ワインを飲む時間らしいよ。俺もその時間と夜にもワインを貰ったけど、美味しいワインでね、つい昼間から何杯か飲んでしまったよ。 しかも、町の人はずいぶんと飲むのに酔わないんだ。習慣なのかな。 そうそう、料理にもいいらしい。 今度行くことがあったら、カミーラにもそのワインを送るよ。宿でいただいたワインソースが絶品だったんだ。そのレシピも聞いておくとしようか。 それじゃ、また。 ナサニエル ------------------------------------------------ | |
(82)2006/09/27 05:32:03 |