人狼審問

［...は意を決した表情で言った］

あまり言いたくなかったんだけど、俺の爺さんは人狼に魅入られた精神異常者だった。有り余る金を使って、色々研究していたらしいよ。俺も、ハーヴェイさんに会って興味持ってから、実家の資料を読み漁った。だから、知識、でいいなら俺は大抵のことはわかるよ。

ハーヴェイさんの研究は、たまに見せてもらったけど、確かに人狼について、ずっと考えてたんだと思う。組織の後ろ盾の無い一般人で、そこまで調べたのは、本当すごいと思うよ。だから、ハーヴェイさんの話が嘘だとは思えない。

けど、ニーナの言っていることも本当だよ。一度だけ、調査してる機関が、人狼に出くわしたことがあるみたい。結局捕獲はできなかったけど。

その記録によると、人狼が人と狼の姿を切り替えるときは、それなりの予兆が見られるってさ。精神の高揚、心拍数の増加、発汗、などらしいね。だから、素人ならともかく医療従事者なら、見分けることは不可能ではない。返り討ちにさえ会わなければね。

だから、少なくとも、二人とも言ってることが間違ってるとは思えないかな……。

［...は、疲れた顔をして、何枚かの紙を持って部屋にやってきた］

……記憶を辿って纏めた資料はこれだけ。そんなに役に立たないかもしれない。

『人狼は、確かに脅威である。しかし、単体での力はそれほど強いわけではない。成人男性が武器を持ち、２〜３人で取り囲めば、十分勝機はある。

では、何が怖いのだろうか。それは、彼ら、あるいは彼女ら独自の発声体系である。便宜上、私はこれを囁き、と呼ぶ。

囁きは、人の耳には聞こえず、囁きを行うところを見ても、人には、彼が喋っていることはわからない。しかし、人狼同士では、会話として通用する

だから、彼らは群れで人を襲う。人にはわからない独自の絆は、対峙するときには大いなる脅威となるだろう』

……資料には、こんな感じで載ってたはず。簡単に言うと、人狼は、人にはばれないように相談が出来るんだよ、って思ってくれれば良いのかな。
本当だったら、確かに怖いかもね……。

それ以外にも、色々思い出したけど、わざわざ書くほど重要な内容は、見つからなかったかな。質問されれば、わかる範囲でなら答えるけど……。

［...は部屋から出てきた］

ふぅ、あんまり明るい気分にはなれそうにないかな。俺が怪しまれてるみたいだし。疑いは晴らしておかないとね。

……俺が始めは人狼を肯定してなかったのは、家のことを隠してたからさ。別に、そう大した事態でも無いと思ってたから、黙ってたし、人狼なんて信じてないようなそぶりをしてた。

まあでも、人狼を見ることの出来る人が複数現れたことで、この中に人狼がいるってことがほぼ確実になったから、なりふり構ってられないと思って、知ってることぶちまけただけ。

……こっちにだって、色々事情はあるよ。そして、聞かれればそれは話す。こんな状況だからね。それを聞いてもまだ怪しむというなら自由だけど、勝手に推測されて、怪しいとは思い込まないで欲しいかな。

……セシリア、その質問に答えるなら、半分イェスで半分ノー、って所。

人狼がいるのは……、もうわかったよ。見る人、ってのが三人もいるんだからね。でも、誰かが襲われるまでは……、人のことを見たりするくらいならできるけど、それ以上何か動くのって無理だと思うんだよ。

……その何か、ってのは推測して。今の言葉でも提案したくない、って言ってたやつのことだよ。自分でも、こんな考えしか思いつかないのにあきれ果てたんだけどね……。でも、こっちから動くなら、そうするしかないとも思った。

だから、それに関しては、誰かが襲われるのを待ってから……、提案させてもらうつもり。勿論、そんなことおきなければ一番良いんだけどね。今はこれ以上俺からは言えない。それが原因で怪しんでもらっても結構だよ。……これだけは、どうしても言いたくない。