双子 ウェンディ >>178 ……モイキー!! | |
(179)2005/06/07 22:20:15 |
旅芸人 ボブ 弟妹にメシを食わせる時はさ。 俺、やつらの皿から丁寧に、砂をひとつぶ、ひとつぶ取り除いてやるんだ。 子供の喉は細い。どんなに細かい砂粒ひとつでも、それで喉をひっかいて、そこからいらん病気とかかかっちまうからな。 ・・・想像できるかい? 夕方注いだ熱いスープを、ひとさじひとさじスプーンですくうのさ。 ふっと息をふきかけるんだ。そうすると、スプーンの「ふち」に砂がたまるだろう?それをシダの葉で、丁寧にすくっていくんだ。本当に神経のいる作業だ。 もう少し、もう少しで全部取り除ける。そういう時に、一陣の風。 もう一回最初からやり直しさ。砂をすくうたび、スープの量も減る。4人全ての腹を満足させる頃には、すっかりお月さんも中天にあって、鍋も空っぽさ。俺自身へとへとになっちまって、自分の分のスープはほとんどなくなってて。結局、無気力のまま寝ちまうんだよな・・・ | |
(186)2005/06/07 22:32:09 |
旅芸人 ボブ 俺が15になった時だ。 村にサーカス団がやってきた。 それこそ、上を下にの大騒ぎだったよ。なんせ砂嵐に呪われたとんでもない田舎町だったんだ。俺はなけなしの金を持って、弟妹を連れて観に行った。父さん爺ちゃんも一緒だった。 でもサーカスはとんでもなくてな。さすが、ド田舎にくるサーカスだ。ピエロは笑いをとれねぇし。軽業師は宙返りひとつできねぇし。猛獣使いだっていなかった。俺がいつも弟妹のためにやってた技の方がすごかったさ。 だから俺より数倍もできが悪いのに金もらってるやつらに腹がたってさ。 数日後、やつらがサーカスをたたんで村を去るときに、文句を言いに言ってやった。 「俺ならお前たちよりずっと客を集められる。金をもらえる」ってな。 その場で宙返りをしてやった。やつらは驚いてたよ。 | |
(189)2005/06/07 22:42:07 |
旅芸人 ボブ やつらは俺に言った。 一緒に街へ行くか、って。 お前ならすごい軽業師になれる、こんな村に埋もれているのは勿体無いって。 しょうもないサーカス団だって分かってたのに、俺は興奮したよ。なんせ褒められたのは生まれて初めてだッからさ。そして、俺自身の芸が金を稼げるって知ったのも初めてだッたのさ。何より、この村を出られる、この家を出られるって。それが嬉しかった。 だから俺は家に帰って、父ちゃんと爺ちゃんに事情を説明した。 彼らは、俺がサーカス団についていくことを快諾してくれたんだ。俺がいなくなれば、家が大変になるってことは分かってたのに。 俺はその晩、弟妹に最後の晩飯をやってた。 またひとつぶひとつぶ、砂をすくってさ。1回救うたびに、俺はこの村を出られる。この家を出て、自由になれるって。喜びに指が震えたよ。 弟妹を恨んでいるわけじゃなかった。 でも、俺、このままこの家に、この砂に埋もれていくのかなってことに恐怖を覚えてた・・・ だから、家を出るのが嬉しかったんだ。 | |
(190)2005/06/07 22:48:24 |