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―― Closed/Morgan´s Space ──
[分解されていく空間]
[グリッドの格子が薄れ、融け、消えていく]
【消えた……あの老人、は】
【守護する者? この塔――いや、この都市そのものを?】
[思考と分析に囚われて男は崩壊に気づかない]
【"Alchemist"――】
【『神の槍を持つ老人』から奪ったのは。鍵の欠片か?】
[攻撃PGMを起動させようと、命令を脳裏に思い浮かべる]
[補佐AIは周囲の者へも聞こえるように冷たく澄んだ音声情報を流す]
『Keneth J Wolford.』
『貴方が一番に見い出した男性です。』
『――緑の獅子/Alchemist≠TrickSter』
[左目は灰青に。静かに問いかけた。]
答えは見つかったかい?
否。
探していたもの。
これ以後掴むもの。
求め続けたものへの覚悟は決めたかい。
【Inc.】から齎される権利。
それを剥奪されてまで求めたかったもの。
……俺のことを知っているのか。
……だが、『一番に見出した』? 一体何をだ?
[肩を竦め、首を傾げる。
領域の崩壊は進行を止めることなく続いていた]
ボクは知っている。
あなたの過去を。
[ゆっくりとその足が踏み出される]
[奈落の底の上を歩く]
客人よ。
ここはボクが膝を折ろう。
[両手を広げ、膝を折る]
――“終わりの後に来るもの”/“始まりの前に在るもの”。
"Alchemist"。
アンタが幾ら凄腕の熟達者(ウィザード)だとしても。
生命の根源、そのものにまでは辿り着けていないだろう。
S級の奥底にはある筈だ。
禁断の果実――知恵の木の実と、生命の木の実。
≪ザザザ、ザ――≫
[空白に侵食された空間にノイズが疾る]
[その間隙に憑かれたような視線を送り、言葉に乗せる]
不可侵領域への鍵は完成していない。まだ足りない。
あの先に、果ての先に、その更に先に。
辿り着くにはまだ足りない。
[恭しい礼を取った少年のアイコンへとゆっくりと顔を向けた]
――アンタが、か? 協力する、と?
第九/輪廻/Morgan Ustumiが守護していたData.
そしてボクが持っていた不可侵とされる領域への鍵は開放した。現実世界でもその階層へ至る為の【道】が視える事だろう。
始動鍵となる存在は――
[Kotを見やる]
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
[セシリアがバスに乗り込んだ時、バスの外には、生命の火花が飛び散る音────そして、指揮者が導く音楽が響いていた。まるでカーニバルに取り残された様なマイクロバス。バスは「sentimental」だった。
今は動き出す事も無いハリボテのようなキャストPGM達。彼等に囲まれ、座席で眠るヴィンセントの姿が、セシリアに過去の記憶を想起させた。]
【夏が終わる──】
[むせ返る緑 草いきれの向こう 掛けて行く足音]
[笑い声][蝉時雨に溶け込む 確かな体温]
[視点は空へ 森が地上が遠ざかる]
[海岸線が沈む以前の旧世界──人の営み][更に高みへ]
[水平線がゆるいカーヴを描いて見えるほど遠ざかり]
[その場所から][飛び立つ 今はコピーしか存在しない鳥達の群れを]
[かつてのセシリアが“スクール”巨大なスクリーンで繰り返し見た、滅亡した世界のヴィジョン。]
[穏やかな声で語られる──環境改善/改変前の世界の歴史]
[スクリーン上の砂漠に雨が降ると、何故か何時も涙が流れた]
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
[セシリアが、人間として一度死ぬ前の記憶──。
エモーションに突き動かされた記憶が、二つのPGMを核とするAIの中で、何度も再生されるのだ。]
「悪夢ならば。」
[セシリアは、そう答えた。
繰り返す、少女が生きていたと言う証拠を示す夢は、今のセシリアにとっては、苦痛でしかない。
問い掛けの主は、寂寥感に溺れているのか。男の影は薄く、それはセシリアが見慣れた、不老不死のデストピアに有りながら心中何処かで密やかに死を望む──市民の姿にも似て見えた。]
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
あなたは、何処かに還りたいのですか?
[けれども、問いながらも感じる違和感──。
バスの外で、その時、澄んだ美しい音を奏で88の鍵盤が呆気なく崩壊した。音楽が途切れ、沈黙がおちる。セシリアは窓の外を見遣り、瞬きをする。]
【もうすぐ、この場所も崩壊する】【おそらく】
[輪廻] [愛] [結合] [命が爆ぜる]
[Morganの 真実の終焉を望んだ 魂が 行く場所は──]
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
【本当は、私は──】
【PGMに制御/支配されない──かつて人間だった私は】
【Masterも、Morganも 生きていて欲しい と願っている。】
【けれども、A girlが、名もなき市民のかりそめの死を悼むように、私はその感情が絶対不可侵の己自身である事を確信する事等、出来ない。
PGMと人格が衝突する事の無い、平凡な人間である彼女が羨ましい。マインドコントロール等を受けた事も無く、断絶の後、再生される事も無い(バックアップの無い)下層民である彼女に──羨望か。】
[しばらくの間をおいて口を開く]
つまり、俺にあの“手紙”を送って寄越したのも、アンタだ、と。
そして、その言葉――『今回の計画』という事は。
全体の企図を明かすつもりになったと考えて良いのかな。
[もはや殆どの対象物(オブジェクト)が消滅した空間に、
"Blue Water"からの検疫結果を表示した]
【01/Conductor】 ――positive.
【07/mortal】 ――positive.
"Ο ν ε ι ρ ο ς (オネイロス)"を俺に組み込んだ理由も?
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
「俺が犯人だよ――。」
[ヴィンセントの言葉にセシリアは笑いを止める。]
…貴方が犯人ならば、A girlの魂を奪って欲しかった。
永遠に──。私の前に二度とあの眩しい姿を現す事が無いように。
そもそも、犯人の意味が分からないわ。
アンドリュー・マーシュの娘の魂を奪った犯人なのか。この手紙を出した主なのか、あなたがAlchemistなのか。
それとも──また別の…
[セシリアは、睫毛を伏せ、首を横に振った。眼球が濡れている。]
貴方の事が知りたいと言った事は変わらない。
でも、ごめんなさい。
私は、このバスの中に満ちている“もの”に耐えられそうに無い──
もしあなたがボクの事を知っているなら分かる筈だ。
舞台を整え、結実する果実をもぐ浅ましき役柄を。
農夫であり観察者である事を。
破壊(タナトス)と創造(エロス)の天秤を揺らす者である事を。
[双眸を閉じ高々と]
ボクにとっては『計画』の全体像こそが主眼。
問うテーマは何だって良い。
ボク個人の欲求と欲望と計画はあれど焦ってはいない。
もたらされる再度/過去の世界に興味はあれども。
[黒/灰青の眸が男を貫く]
だがあなたは現世におき有限の存在となり果てた。
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