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……ッ……
[血が噴出す音が廊下に響いた。
―――生かしておくだけ、無駄だよ。
そう、謂う声が]
―――あ、ぁ……。
[望月の服を掴んで。
ああ、それでも。
鎖された異界の扉は開かない――]
見習いメイド ネリーが「時間を進める」を選択しました
[漸く意識を取り戻した時、
仁科は、着衣のまま裂かれ、手足をバラバラに分断され、まだ熟れ切らぬ未発達な生殖器を全て喰われ、ぽっかりと赤い穴を露出したまま、倒れている二人の少女の残骸の傍に立っていた。]
[血溜りの中に立ち上がる。
ほとんど全身が、血に染まっていた。]
やれやれ。
着替えた途端に、これだ。
ああ。
こんな奴でも、屍鬼に成る可能性があるのかねえ。
どう見ても、屍鬼だった様には、見えないが……。
[面倒な、とでも謂う様に言った。]
──…此れは。
水の匂いは、さつき様。
此の透き通る様な髪は、杏……。
[二人の身体は、分断されたまま混じり合い、首を除いてどちらがどちらであるのか、もはや判別も付かない。]
[仁科は、足元のかつで少女であったモノを凝視する。
二人の手首が仲良く手を取り合ったまま転がっているのが、不可思議な物に見えた。]
―二階廊下
[雲井の太刀の一閃は一瞬のことだった。血を吹き上げる来海を呆然と見ている。血に濡れた刀を持ったまま、横たわる来海に屈み込んでいる雲井の表情は影に沈んでいた。]
「こんな奴でも、屍鬼に成る可能性があるのかねえ」
[そう言って、彼は立ち上がる。身動き一つすることのなくなった来海の体に私は近づいていった。]
来海さん、貴方……
……一体なんでこんなことをしでかしたんだ。
[彼のポケットから覗く、一葉の紙片があった。]
[仁科は頭を打ち、一瞬意識を失っていた様に思う。
──意識を取り戻し、目を開けて最初に飛び込んで来たのは大量の血。雲井がちょうど来海の背にトドメの一太刀を浴びせた所だった。]
……ア。
望月様、脚……!
[傷口を抑えようとして手を伸ばす。
夜桜が来海へと近づくのが見えた。]
……ぁ
[流れた血は既に翠の足元まで広がって、
彼岸の河がまた僅か水かさを増したように]
[混じり合う少女達の死体は、見る間に腐食しはじめ。
異界の地に飲み込まれ、何も見えなくなる。
仁科の口の中にだけ、肉の味が残っている…──。]
[首を落とした動作は、素人染みてはいないようではある。何処か馴れた部分もあるようだった。肩を上下させて息をつく。僅か飛んだ血が、白い着物に花のように散った。来海の首はころころと絨毯を転がり、翠や仁科へ目を向ける。]
[刻が重なり合う事が無かったのだろうか。
江原の気配は異界には無かった。
安堵と落胆と。
柔肉の味が口内に残っている暫しの間、満たされた心地で空を見上げる…──。]
[翠に向かって頼りなく頭を振った]
…それほど深手じゃない。
それより、悪かった。……守ると言っておきながら、俺は……。
[不意に気づく。
空はまだ、不可思議な色味のままだ]
[天には、眼球の裏に存在がこびり付き仁科を強迫して止まないあの赤い月。
其の月の傍を、翡翠色の鳥が一瞬だけ──横切った様に見えた。]
『…翠さん?』
―二階廊下・来海遺体そば
[そこには、今よりも随分若々しい来海洋右の姿があった。
彼の妻らしき女性を抱き寄せ、子供と寄り添うように佇む彼の表情には此処で見たような刺々しさや傲岸さの一片たりとも浮かんではいなかった。
ただ、幸福そうに柔和な笑みを浮かべる彼の姿に、私は絶句した。]
ああ……
貴方は此処から、ただ出たかったのか?
ただ……還りたかったんだろうか。
その場所に――
[彼の事をそれ程知ることのなかった私も、その中にある平安と安寧にただ一瞬思いを寄せ――手にとった小さな記憶は僅かに滲んだ。]
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