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……か…げ……
[夜桜の言葉に、ぞわりと背筋が凍った。怖ず怖ずと足下に目を落とす。
果たして、私の影はひどく薄らいで見えた。]
ば、馬鹿な……っ
[眼鏡を外して、ごしごしと目をこする。]
嘘だ……
そんなことがある筈がない。
[三階から落ちる光源と二階の天井灯、その狭間ゆえのことと無理に解釈する。
冷静さを取り戻すよう努め、夜桜の言葉に意識を定めた。]
ああ……
無論だ。
君は中国に居たと言っていた。
そこでなにを……
……なにを知ったんだ
さあ。
男の温かさと理不尽さは知りましたけれど。
[ふふ、と蕾が綻ぶ。]
枚坂さまが中国で見たものと、場合によってはあまり変わらないかもしれません。
[血文字に目を向ければ、由良とコルネールの名が消えているのが嫌でも目に入る。
……殺した。
由良の指先が食い入った胸の傷がひりつくように痛む]
[これは、生者と死者を全部書き表しているというのだろうか?だとしたら]
藤峰、さん。
[天賀谷のために泣いていた青年。首を斬らせまいとあんなにも抗って、縋った彼は……!?]
逃亡者 カミーラは、鍛冶屋 ゴードン を投票先に選びました。
─3階廊下→階段方面に進行中─
[ワンピースの裾を捌いて、滑るように歩む。
何時でもどんな時でも彼女の脚は、軽やかに、鳥の羽ばたく様に動く。]
―三階/階段上―
[何時から板坂と夜桜の遣り取りを見ていたのか。
二人を見下ろすように立っている。
服の裾と袖には、点々と藤峰の血が繁吹いたままだ。]
君が、影見だと謂うのか。
それで、何を、いや誰を、見たんだね?
―自室・廊下―
[廊下へ出て辺りを見回す。藤峰の事を訊ければ……間違いであればと思うのに、通りかかるメイドはいないようだ]
[異界の仁科の足元には、藤峰の変わり果てた姿。
動揺する仁科は無様によろめき、捻れ千切れた肉塊をぐしゃりと踏んでしまう。つい先刻まで藤峰だった肉塊は、生臭い異界の地面と混じり合う。]
[くわんくわんと、水の共鳴音がまだ響いている様に感じる。
水鏡から発せられる清浄な気配を感じる。
──…階段を登らんとする夜桜の後ろ姿が水面の様に揺れる。
世界は揺れている。
仁科の意識は赤い靄に包まれた様に、混濁し始める…──。]
男の理不尽さか……
[私は苦笑した。]
それを言うなら、ほら、
「女心と秋の空」って言うだろう?
男の場合はなんていうか知っているかい?
私が中国で見たものは――
おそらく誰よりも凄惨なものだっただろう。
他の人にまず見ては欲しくない類のものだ。
─3階・階段側の廊下─
「君が、影見だと謂うのか。
それで、何を、いや誰を、見たんだね?」
[雲井の声は階段の吹き抜けに微妙な反響を残す。
碧子は雲井に近付き、女王の様に階下を見下ろした。]
……影見だと仰る方が居るのなら、そう、私もお聞きしたいわ。
誰を見たのかを。
人は誰しも。
己の事を基点に考えますね。
[夜桜は、三階へとゆく。
残り香が──発汗のための匂いが仄かに枚坂の鼻腔を擽ったかもしれない。]
雲井さま。
[まるで立ち塞がるように雲居が立っている。
立ち居振る舞いは、とても凛々しい。
かろやかに踊る女の足音。
夜桜はそちらへと腕をあげると指差した。]
―二階→三階へ―
[コルネールの名も消えていた。
確かにこの眼で彼岸を見た。
だが藤峰は]
『また、旦那様のように屠られて居るの――!?』
[途中、夜桜と枚坂が向かい合っている姿を見て]
枚坂様、
藤峰さんは……!?
[誰かに声をかけられたという事実が、彼の身を一瞬竦ませたが、]
なんだ、貴様か。
[その声の主もまた亡者であったと知り、冷ややかな視線を向けた]
と、いうことはここは黄泉か?
そういうにはどうにも中途半端な場所だな。
地獄でも天国でもなく、カトリックの連中が言う所の煉獄でも辺獄でも無さそうだな。
私はこれでもキリスト教徒なのでな、このような所に来るとは。
[そして、慰めの言葉に対し]
はっ、馬鹿馬鹿しい。
私がバケモノで無かったとして、だ。
死んで何になる?皆が「可哀想にね」とでもいうのを望むか?
あんな女などいっそ、犯して殺しておいた方がまだ気が晴れたわ。
死んで、このような趣味の悪い見世物を傍観しろと?
……これもまた、バケモノどもの趣味か?
[鼻で笑いながら]
―廊下・階段方向へ―
[声の聞こえる方へ歩いていく。
組紐を器用に編んで、腰に刀を下げている……ごく自然に]
藤峰さんを、知らないか。
[近づいて、誰にともなく声をかけた]
─3階・階段側の廊下(半異界化)─
[赫く玄い闇の色が宙空にじわりと滲む。
その中から……やはり白い貌が、水面から浮かび上がって息を付く様に、迫り出してくる。]
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