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[それは、来海が例の威張り散らす態度を取り戻した頃だったろうか。
或いは来海とは対照的に、己が生まれながらの高貴さを持ち合わせていると自覚しているが如くの落ち着きで、さつきが自分を諌めた頃だったろうか]
………!
[だが万次郎の表情が変わったのは、今更出自の差にどれほどの意味があるとせせら嘲うためでも、腹立ち紛れに言い返すためでも、非を認めて謝るためでもなかった]
く、――っ
[――苦しい。
それは声すら出せぬほどの苦痛によるものだった。
[異変に気付いてか、さつきの声は嗜めるそれから緊迫の色合いを帯びたものへと変わった]
(ああ、これは何だ?
助けて…
助けてくれ…!)
[だが伸ばしたつもりの手を、出したつもりの声を本当に、さつき達に向けられていたかどうか。
床へと伏したらしい自分の傍らに雲井が膝を付き、周りの者へと言う]
「お嬢さん。そして碧子さん、外へ出てください。
どうやら彼にも、屍鬼にさせん為の処置が必要な様だ」
―――……何だって?
[雲井は返事を返さない。
呆然とする横を…それとも上だろうか?
下とも思える、どことも知れぬ方向から声達が駆け抜けていく。
「藤峰君!!
ひどい有様だ……」
――惨苦の滲んだ枚坂の声。
「こんな、こんな…」
――怒りとも哀しみとも付かぬ大河原の呻き]
………。
[呻く女の目の縁に盛り上がった涙に、どうして泣くのかと、ぼんやりそれを眺める頃――やっと気付く]
そうか俺は――死んだのだ。
[見下ろせばそこに、自分の屍が無残な姿を晒しているのが見えた。
いつの間にか、絶え間なく感じていた苦痛も体はもう感じていない]
そうか俺は――…。
ならば、天賀谷様もここに?
[――しかし天賀谷の姿は見えず、その代わり由良が居るのを確認することができた。
そして己の体が、天賀谷家から離れることができぬのを知る]
今なお生身の体を持って生きる彼らが、屍鬼を殲滅するか、屍鬼に食い尽くされるか…
…すべてが終わるまで、ここを離れられないと?
[今の自分達には、屋敷内の全てが見通せるのかもしれない。
由良は何事かあったらしい翠の身の無事を思い、安堵の様子を見せていた]
…そう、そうだった。
生きている頃は俺も、「生きたい」と…「死にたくない」と、思っていたのだった。
だが由良さん、今はどうだろう…。
どうやら死は、苦しみから俺を解放してくれた。
天賀谷様や俺をあのようにした屍鬼すら、憎む気持ちが心のどこを探しても今は見つけられない。
他の誰をどうしてでも生きたいと、思っていた記憶は確かに残っているというのに。
そうだな…。
こうとなってはあなたのように、俺も未だ生きる者達の無事を願い、喜ぶ事が、…できるかもしれない。
[万次郎の瞳が静かに人々を*映す*]
/PL/由良さんもお疲れ様でした。
自分がどんな姿で死んでいるか描写されるのを待つべきなのかなと、一応そうしておりました。
シロタさんもお疲れ様です。/PL/
―天賀谷自室
そうですね。碧子さんも少しお休みになった方がいい。
藤峰君の断末魔に気持ちが休まらないのなら、眠剤も処方しますよ。
気軽に声をかけてください。
[「藤峰君の――」という言葉には二重の意味があったのだが、少なくとも皮肉めいた諧謔の色を混ぜることなく殊勝に伝えただけであった。
彼女の足取りが遠ざかっていくのを耳にしながら、私は藤峰青年の亡骸に屈み込んでいる雲井の背中に近づいていく。]
私の名前……ヒラサカのヒラとは元々は崖や傾斜地、坂という意味があるようでね。だから、ヒラもサカも同じような意味の繰り返し、もしくは強調なんだね。
ああ、『古事記』には「黄泉比良坂-ヨモツヒラサカ」という言葉が出てきたな。『日本書紀』ではその表記は「平坂」、『鎮火祭祝詞』では――「枚坂」。いずれにしても、その音に漢字をあてただけで、意味は同じだ。
私は関東大震災に被災して、一つ上の姉と一緒に遠い親戚の家に引き取られた。
その家はこの近くの山村にあってね。姓が表すように、私の家は村の境になる坂の上にあった。
坂の下には墓地があったから……葬送の列をよく目にしたよ。
藤峰君の住んでいた村落もこのへんだ。
[私も雲井のそばで、藤峰青年の亡骸に目を落とした。]
鴉の濡れ羽……
[呟きが漏れる。藤峰青年からいつか聞いた言葉がふと浮かんだのだ。しっとりと濡れたような青みを帯びた黒。美しい黒髪を言い表す美しい言葉だったが、外国には別の意味でも使われていた気がする。
――絶望の果て]
彼は、いずれ此処の墓地に葬ろうと思う。
雲井さん。
貴方はどういう風に碧子さんと知り合ったのかな。
彼女のことをどれだけ知っているんだろう。
[帝大医学部に在籍中、陸軍委託生となった私を可愛がってくれていたある陸軍将校に連れられて訪れた銀座の町。
そこで、碧子とよく似た女性を見たことがあった。艶やかで華やかなその風貌に、強い印象を持ったものだった。
彼女が現在の碧子と同じ人物であったのか、詮索したことは無論なかったのだが。]
雲井さん、貴方が彼女をどんな風に思っているのかと少し聞きたくてね。
─3階・客室の─
[付属の小さな浴室で軽く身を清めた後。
素肌の上にバスローブを纏い、タオルで洗い髪の水気を丁寧に拭き取っている。
スツールに腰掛けていた碧子は、髪を拭く手を止めて、ふっと、目の前の備え付けの鏡台に映る自分の姿に目を遣った。
緩く波打つ髪は漆黒の艶を持ち、正に烏の濡羽色と云うに相応しい。
対照的に、その髪が散り置かれた肌の色は、逆に仄かに照り輝くような白に染められている。
少し首を傾げて鏡の奥から此方を見返すその貌は、思わしげな色を浮かべている。
そのまま暫し、鏡の中の自分と向き合っていた。]
[覚えていない程の昔から、その顔は変わっていない。
恐らくはあの日、熱病に冒された彼女を死の手に奪われまいとして、夫──最初の夫が禁忌を犯して海より寄り来たった「物」を与えたあの時から、変わってはいないのだろう。]
[──…そうして彼女は常世の者になった。]
[仁科が藤峰を貪り食らう時の様子を思い出し、細い眉を顰めた。]
完全に同じ、ではないのだわ。
同族、と云う訳ではない……
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