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[くらり。
今頃血の酔いが回ってきた……ひどく苦しい]
う、あ…。
[大きく頭を振る。中途半端に覚醒した意識で、雲井の言葉をなぞった]
「…此処に居ない人達の安否を確かめるんだ。」
[此処に居ない人。そうか、誰かが屍鬼の犠牲になって、新たな屍鬼にされてしまうかもしれない]
待ってくれ、雲井さん。俺も回る。
[追いかける]
カタカタッ…カタ、カタカタカタ、カタン。
[抜き放たれた妖刀が血を求めるかのように、いつまでも鳴り続ける鍔鳴り。
しかし望月はそれにも気づかない]
俺はあちらの……由良さんを。
誰か!
新しいシーツを持ってきてくれないか。
[使用人や周囲の人たちに届くように声をかけた。
不吉としか云いようのない場所であったが、あまり動かさずに万全の治療を行えるのは此処しかない。
私は首の切られた天賀谷の遺骸をぐるぐるとシーツと共に脇へ除け、新しいシーツの敷かれたそのベッドに夜桜を横たえた。]
夜桜君、血液型はわかるか?
[輸血用の血液を小型の冷蔵器から出し、点滴架台にかける。]
[...は身の安全を守ることになるであろう情報は欲しくとも、何よりも己に害なす可能性のある存在が目の前にあるなら警戒するべきだと、冷静でいるべく努め、そして無表情でいようとしている。
しかし天賀谷の部屋にて、母のごとく抱いてくれた夜桜に、傷を負わせた仁科の銃を見る目はどうしても険しい。
こわごわながら、仁科か彼女が手に持つ銃ににじり夜枚坂に声を張る]
…枚坂先生、どうぞそんなもの、仁科さんから取り上げて下さい!
[だがどうやら、拳銃は彼女の手から床へと落ちた。
棚に縋るように寄り掛かる仁科の姿にも、今は気遣うよりも咎める言葉を出してしまう]
仁科さんも仁科さんだ…。
身を守るべき武器に、そんな慣れないものを選ぶから――!
一体どこに、そんなものがあったと言うんだ…。
枚坂さま…──
[枚坂の処置は素早かった。袖を引き千切り(着替えないと胸元までもう真っ赤になっている)止血を行われた。すぐさまに注射しようとする動きに躊躇らしき色を目に浮かべたが、有無を言わさずに枚坂は局部麻酔を行った。まだ血で濡れている箇所はあるだろうに、痛みも然程感じずに。枚坂の腕は確かであった。]
『……情けない。』
冒険家 ナサニエルが「時間を進める」を選択しました
[珍しく眉根を痛そうにぎゅっと顰め、夜桜に頷く。]
──湯を取りに行ってきます。
直ぐに戻る…。直ぐに戻るよ、夜桜さん。
[仁科は*駆け出して行く*。]
は、はい!
[新しいシーツを。
翠は駆け出した。
途中、走る望月の姿に鍔鳴りを聞き―――
一瞬不安そうにそちらを見たがまた走り出した。]
望月さ……
[不吉な鍔鳴りが聞こえたような気がした──。]
[いけない] [あのまま向かわせてはいけない] [それは直感だった]
[腕を伸ばし声をかけようとしたが、枚坂に抱き抱えられ──]
誰か!
誰か、望月さまを──…!!!
[声は聞こえただろうか]
[寝台から起き上がろうとしたが、医師はそれを好しとしない]
―――え?
[夜桜の悲鳴が聞こえた。
鍔鳴りがまた耳元で響いた気がし―――]
望月様!
[踵を返すと、翠は望月を追いかけた。
シーツはきっと誰かが取りに行ってくれると信じて。]
―3階・廊下―
[由良の部屋へ走るうちに、血の酔いが深まっていく。
くらり、くらり。
視界が揺らいで黒く、暗く。
彼が屍鬼に襲われていないか、それを確かめねばいけないと思う一方で小さな疑念が胸に湧いた。
天賀谷の寝室で時の歪むのを感じたあの時、皆自分の目の前に居た。
皆普通に首がついていた。彼らが屍鬼でありえようか……?]
[望月の知識は、あまりに半端であった上、血に酔った頭では満足な判断をしているとは言いがたい]
[夜桜が不意に起き上がり、私は動顛しながら、彼女を抑える。ぐらりと揺れて倒れそうになる点滴架台の足を踏みつけた。]
夜桜さん、どうしたんだ!
何が見える――って
[こんな時でも今この場にいない者の安否を確かめに行こうとするらしい、雲井と望月をちらりと見る。
己さえ無事であれば良い自分とは何と言う違いか]
…雲井さん、望月さん。あなた方が屍鬼ではないのなら…せいぜい気をつけて見に行くことですね。
[しかし望月の様子が、少しおかしく見えたのは気のせいだろうか?
...は首を振り、再び夜桜の様子を見守る。
枚坂は早くも彼女の治療を始めてくれていた。
シーツを渡すくらいなら、自分も手伝えるだろう]
シーツを、どうぞ…
……っ、ひどい…。
[それを治療を続ける二人の近くへと置く際に見えた、袖の千切られた夜桜の服はもう真っ赤で、見ていられない。結局は目を逸らした。
自分の落とした拳銃に目もくれず、夜桜のための湯を取りに行ったらしい仁科の背を少しだけ見送り]
――え?
[突如叫んだ夜桜に目を向ける]
―廊下―
[由良という男が急に怪しむべき人間……いや、屍鬼であるかのように思われ始める。
何の根拠もありはしないのに、一度疑い始めれば思いはとどまるところを知らない]
[その狂気じみた思い込みを煽るかのように、鍔鳴りがし続ける]
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