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鍛冶屋 ゴードンが「時間を進める」を選択しました
[──…仁科が夜桜を引き裂かんと伸ばした爪を、何か。
硝子の様な硬いものが…── 弾いたのだった。]
あれのお陰で、あたしは夜桜さんを殺さずに済んだ。
あれが無ければ今頃────。
…今頃?
否、あたしは銃で──銃を撃っただけでは無いのか。
―由良の部屋―
[...もまたどこかぼんやりと、無残な死体の代わりに、由良を見るような目で花蘇芳を見る]
あの人は、使用人にまで礼儀正しくて…。
優しそうな笑顔をしていたよ。
指を斬ってなお、痛みすら感じていないようだった…だから屍鬼だと思った…、か。
…わからないな。そもそもどうして、由良さんの指を斬ってしまう事態になったのか。
――あんたは良く、人を斬るんだね。
最初は…遺体の天賀谷様。
次には、生きた由良さん…。
…天賀谷様を斬った後の、あんたの涙には絆された。
ああこの人は例え自分が辛くとも、それが自分の役割だと強い信念を持って、死者の魂か何かの救済のために…相手を想って斬ったのだと思えた。
でもどうなんだろうな…今回のは。
わからなくなってくるよ…あんた、実はその刀で人の肉を斬るのが――好きなだけなんじゃないのか?
……いかない、と
……わたしが、
……視れば
……はっきり、
……きっと。
[翠は要領を得ない呟きを漏らす。
手を伸ばした先には花蘇芳。
鮮やかな色彩のそれを一枝手に持ち]
……ふじ、みねさん……
由良様を……望月様を、……おねがい……。
[体を引き摺るように、翠は歩いていった。]
名前を──あたしを水鏡で見ようと思った理由が気にならないと言えば嘘になるが……さつき様。
薄気味の悪い貴女とは、二人きりにはなりたくありません。
こんなにも
重いものだと
覚悟していたつもりが
出来ていなかった
こんなもので
人を守れるものか
屠れるものか
すり減らして
鎖してしまわなければ
いけないのに
[憑き物が落ちたように呆然として、問いには答えぬ望月。
再度問うて答を求めることを万次郎はせずに、聞き取りにくく途切れ途切れの、翠の声を聞く]
…人が人を殺すなら……、
翠さんの務めがそに…ある?
……翠さん?
何を言っている、どういう意味なんだ?
――三階/十三の部屋前――
[年齢に似合わぬ冷静さは何に因って来るのか、さつきはワンピースの黒袖をただ静かに組んだのみであった]
仁科さん。
貴女、ご自分が今何に取り憑かれてらっしゃるか、ご存知?
異能は半端と云えど、其の程度ハッキリと私にも見て取れます。
怯え、恐れ、疑い――然う云う名前の、暗がりに潜む鬼。
即ち、疑心暗鬼。
……少しくの間、御休みになった方が宜しい様ですわね。
……どうぞ、ご自愛を。
未亡人 オードリーは、書生 ハーヴェイ を能力(襲う)の対象に選びました。
[藤峰にゆるりと振り向いた。]
―――……魂を 見るの。
レイシって、
聞いた こと―――あるでしょう?
彼岸 を 覗いて
本質を、視るの……。
[来海が廊下に出るとあたり一面に屍臭が充満していた]
この国はまた戦争でも始めるつもりか……
[パニック状態の使用人を発見したが、
何を聞いても要領を得ない。]
一体何が起きている?
また、誰か死んだのか?
オイ、貴様答えろ。チッ。
[来海は天賀谷の部屋と向かった。]
3F 廊下 -> 3F・天賀谷の部屋
―――屍鬼は
首を切られれば 死ぬ
心の臓を貫かれても 死ぬ
人か
屍鬼か
どちらか
わからない。
それなら、
私が彼岸を覗いて確かめなければ―――
[そう謂うと、また歩き出す。
向かう先は庭。
花蘇芳の木の下、だろうか。]
何故?
私が正真の影見たるには、異能の力は半端だ――故にこそ、他に彼の水盤を操れる影見が居ると。
噛み砕いて云えば、そう云う意味なのですよ?
つまり、私は影見では無い、と。
……何だって?「私が視れば」……?
[要領の得ない翠の呟き。
鮮やかな色彩の花蘇芳を持つ彼女の手も、どこか夢の中で見る天女のそれを思わせて、一瞬このまま消えてしまうのではないかと万次郎は思った]
翠さん、何を視るって言うんだ。
はっきりとって、おい、どこに――!
[由良様を、望月様をお願い。
――しかし由良に自分がしてやれることなど、何もありはしない。
呆然と佇む望月の事も、今は心配してやる気にはなれない。振り向いた翠は答える]
……レイシ?ああ…ああ……「霊視」のことだな?
聞いたことあるとも、田舎でも良く聞く伝承さ。
彼岸を覗いて本質を視る…。
――驚いた。じゃあ、あんた…翠さん、それができる人だって言うのか?
…由良さんを……由良さんの魂を、視に?
[確かめなければと翠は呟いて、また歩き出した]
そうか…分かった。もし本当に視えたなら、由良さんがどうだったか教えてくれ。
俺は知らせに戻るよ――…何があったか、天賀谷様の部屋に居る人たちにも教えなきゃならないだろう。
―― 天賀谷の部屋の前 ――
[天賀谷の部屋の前に人だかりができているのを来海は認めた。そちらへとずかずかと近寄ってゆくと誰に聞くと無く声を荒げる。]
ふざけるなッ、いい加減にしろッ。
何だ、何が起きてる、ここはおかしいぞ。
マトモなのは俺くらいだ。
貴様らは狂っている。
説明しろッ。一体全体何が起きてるッ。
[さつきに向いて。]
お嬢さん。貴女が影見ではない、というのは判った。
仁科君が釈然としていないのは、実の所、私にも判らんが、貴女が影見じゃあ無いと謂いながら、そこ迄仁科君を猜っている、という所なんだが。
――三階/十三の部屋前――
[仁科に向けていた視線を床へと落とし、とある方向をじっと見つめた。其の視線の先は概ね、水盤が設えられた階下の廊下中央辺りであった]
そう、操れる――なのだわ。鍵と云うべき要素は。
私に見えたのは、杏の姿だけなのでしたから。
正真の影見であれば、自らの裡にある想いを自在に整え、磁針を向け、どのような相手でもたちどころに見抜く事が叶うのでしょうけれど。
私には、其れだけの――或いは血か、技か――ものが不足しているのでしょう、きっと。
―天賀谷自室戸口
[私は彼女たちの遣り取りの結末を見届けることなく、扉の外に出かけて――]
――おや。
[気づくより彼の歩みは早かった。どこからともなく現れた来海は、部屋に入って早々苛立たしげに声を張り上げている。]
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