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[来海が女の手に触れようとした刹那。
『それ』がかすかに動き、『その』目が来海を捉えた]
アアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!
[来海は自分でも気づかぬうちに叫んでいた。
『それ』から飛び退くと、もつれる足で走り出した。
振り返ると『それ』は相変わらず櫻の樹の下に横たわっていた。花びらが舞っている。美しい。
ひょっとすると『それ』は動きはしなかったのかもしれない。あるいは櫻の花が見せた幻だったのか。
しかし、そんなことはどうでもよかった。ただただ恐ろしかった。来海は恐怖に押しつぶされそうだった。]
[壁の上で蠢動していた、最早赤い液体の様な何か、としか形容できない其は、突然本来の習性を思い出した様に、床へと落下した。
――びしゃん、と飛沫が跳ね、壁際に溜まった液体は、漸く動くのを止めた。
壁には、血の跡が残った。
文字の様な、否文字としか見えない痕跡が。
天賀谷 十三
仁科 美蘭
翠
江原 健
大河原 碧子
藤峰 万次郎
望月 龍一
賀谷 さつき
枚坂 征人
来海 洋右
神居 零
由良 ジェイク 秀一
コルネール ローゼンシュトック シロタ
雲井 晋治]
[天賀谷 十三 と読める行だけが、不鮮明に、まるで打ち消し線を引いたように血の滲みを引いていた。
文字そのものから滲み出したような赤い雫が滴って、その下に「屍鬼殺害」と読める文字を描いた。]
[だが、返事などありはしないのだ]
失礼します…。
[...は天賀谷私室へと足を踏み入れる。
一つでもいい、主人の死に関わる何かを見付けたかったのだ。
ベッドの上で凄惨に横たわっているはずの天賀谷へと近付き、万次郎は驚きに目を見開く]
これは……!
[――天賀谷、無残な姿で息絶え横たわっていたはずの男は今、最初に目撃した時よりずっとましな姿になっていた]
どうして……?
[ほんの一瞬だけ、今にも目ざめて起き上がってくれるのではないかと期待するが、目を凝らせば肌を縫い合わせた小さな痕に気付く事ができる]
……枚坂様。ありがとうございます…!
[あの方が処置して下さったのだと知り、万次郎はその場に居らぬ者へ対して深く深く頭を下げた]
[下げた頭の下――…
そう、血はまだ流れ続けるが如く広がりを見せていた]
……!
[そればかりが蠢くそれは生き物のように、天賀谷の私室から階段で続く、書斎兼コレクションルームへと意志を持って下りて行っているように見える]
何かを探しに行かれているのですか、旦那様…大事になさっていた骨董の元へ向かわれているので…?
それとも何かを伝えたくて…これはその道標?
[異常な血の状態を薄気味悪く思うよりも、万次郎の足は素早く階段へと向かっていた]
―天賀谷私室から書斎兼コレクションルームへ―
―廊下―
[水を浴びた後持参の服に着替え、刀を手に歩く。
ぽたり、ぽたり。
服は濡れていないが、髪は乾ききらず、しずくが時折肩や絨毯に滴り落ちる]
……。
[水鏡を見やるが、無言で通り過ぎる。
冷えた身体ゆえ、唇にも色が無い]
投票を委任します。
鍛冶屋 ゴードンは、見習い看護婦 ニーナ に投票を委任しました。
投票を委任します。
鍛冶屋 ゴードンは、お尋ね者 クインジー に投票を委任しました。
鍛冶屋 ゴードンが「時間を進める」を選択しました
なんだ!?
――これは。
[眼前の光景が信じられないかのように、首を振る。]
天賀谷さん、貴方は何をしようというんだ!
[書斎から天賀谷の居室へと伸びる階段を見上げ、叫ぶ。]
──赫い、文字。
嗚、そう。
この血は──そう謂う事だったのね。
[夜桜は笑った。
自身の本名を見て、風に煽られた桜の花吹雪のように過去が想起された──。]
[不意に、喉の奥でくっくと声が漏れた。その衝動は私を突き上げる。
私はそれを止めることができない。
哄笑が湧き起こり、身を波打たせた。]
アハハハハハハ!
あーっはっはは!!
天賀谷さん、貴方、やっぱり生きているじゃぁないか!
まったく人騒がせな人だ。
相変わらず、人を驚かせるのが好きな様子だね。
あーっはっはっは!
[しかし、その嗤い声は赤黒い紋様が文字のように定まっていくにしたがって、尻つぼみに掻き消えた。]
――なんだ?
私の名前が書かれているじゃないか。
それに……
[「屍鬼殺害」、と天賀谷の名の下に冷厳な文字が刻まれていた。]
[刀を持った手とは逆の手で、
翠は口元を押さえた。
本能的な恐れが体を震わせた。]
……名前?
私達の……
旦那様の名前、消えて―――
[柳眉を寄せて、それでも翠は其のおぞましい光景から眼を離せずに居る。
――屍鬼が 殺したんだよ
其処には
確かな殺意が浮かび上がっていた。]
[――ギクリ。
階下から複数の人間の声、そして今枚坂が天賀谷へ向けて問い叫ぶ声が耳に届き]
……何だっ!?
[...は向かう足を早めた。
天賀谷私室から続く階段を下り書斎へたどり着くと、そこには自分以外にも赴いていた者達がすでに居り]
…それ、は?
[血は書斎の壁に、意志持つ何かが描いているかのように跡を残していた。
呆然と立ち尽くし、その場にいる者達へ事情を問うような目を向ける]
文字…?
血は文字を描いて……?
[やはりそれは物語の中であるかのように、妙な雰囲気であることに変わりなかった。
静かに笑む夜桜、哄笑の声をあげる枚坂。
...は自分もその一員だろうかとどこかずれた思いにとらわれながら、その場へ佇んでいる]
「天賀谷さん、貴方、やっぱり生きているじゃぁないか!」
[階段の上から枚坂の声が聞こえ、歩を早めた。刀を握る手に力を込めて。階段を上がれば書斎に集まった人々を認めるだろうか]
→書斎近くの廊下へ
……やれやれ。
最悪の予想という物は、何時でも的中するものだな。
しかも、最悪の形で……。
[ぎしり、と歯をきしませた。]
─3階・碧子の泊まっている客室─
[藤峰が放り投げるように横たえた、そのままの姿で眠り続けている。
結っていた髪は床に倒れた時の弾みで乱れて、真白いシーツの上に、白い貌を縁取って放射線状に拡がっていた。
細い眉が何かに耐える様に寄せられ、滑らかな瞼にはほんの少し、暗い翳りが浮かんでいる。
と。
その目が急に、ぱちり、と開いた。]
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