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[唇を噛む。少女の顔を見ることができない。
喉を詰まらせ、立ち上がったクインジーは無言のまま、彼女の掌にその指を握らせた。]
[ウェンディはセシリアの顔や上半身付近のほうへ寄り、座り込んで彼女をじっと見た。暴れたのか鎖が締め付けたのか、うっすらと傷ついている。眼鏡の奥は泣きはらしたような顔。
長い髪や豊かな胸は女性らしさの特徴なのか、と感じた。]
お姉ちゃん…
くそ!!
[そして、去来したやり場のない感情を叩きつけるように、銀の檻を烈しく打ち据えた。]
ああ……そうしてくれ。
[こっそりとだというウェンディの言葉に、その通りであればと願う。彼女が人であれ、獣であれ――ただ今は、悽愴たる疑惑の渦中の人とならなければよいと願うばかりだった。]
/*
――――
我が願いは、人としてどれ程傲然と振る舞おうとも、魂――人狼として――は主の下にあることだ。
主がそれをお許し戴くならば、私にとってその他の諸々の事柄は些少なことに過ぎぬ。
私の過去になにがあったかは、主の言葉に従い告白することになろう。
願わくば、我が主がそれをお許しにならんことを――
――――
*/
こんなにぎゅうぎゅうに鎖を巻きつけていたら、息もするのも苦しいと思うわ。せめて半分くらいにできないのかしら。
[ウェンディは遅かれ早かれ、セシリアの戒めを彼女の希望に弛めてあげたいと思った。逆に自分の思うような巻き付け方もしてみたいとも感じるのだった。]
[そうして、クインジーは二人から目を背けたまま、じっと遠くの何かを睨んでいた。
ウェンディが檻から*出る時まで*。]
[ウェンディはセシリアの全身を見ながら、ひとり考えに耽るのだった。]
私…セシリアお姉ちゃんに何をしたいのだろう。何をして欲しいのだろう。 お姉ちゃんが狼だから何でもしていいって言われたけど。
もしその通りに私がしたい事をするのなら、それは私にとっていい事でみんなにとってもいい事なのかしら。
でも。村長さんがいろいろ言ってたわよね。村長さんはセシリアお姉ちゃんをどうしたいのかしら。その…やっぱり、死刑にしてしまうのかしら。
なら何もこんなことしなくてもいいのに。
お姉ちゃん、ごめんね。私、たとえお姉ちゃんが悪い人でも助けたいと思うの。でも、それは絶対無理なような気がする…
[ウェンディは申し訳なさそうに、そのままゆっくりと*檻から出ていった。*]
―宿坊―
[カミーラは、たった今ベッドから起床をした。だが、周りに何かしらの違和感が生じている。なんと一人の中年女性が、自分が寝ていた場所の近くにあるベッドで横たわっているのではないか。]
…何だこれは…!?
[寝ている女性の状態を見て驚き、思わず一言発してしまった。]
それより…腹が減ってきたことだし、朝食でも食うか。
[カミーラは、煮炊きができる暖炉を使い*料理を作り始めた*]
[しかし料理をしている最中、カミーラの頭に突然痛みが生じてきた。
わけの分からない幻聴が、徐々にカミーラを*襲い始める。*]
[ジェーンを憐れむ者、彼女が差し当り教会へ運ばれた事に安堵するが居ないわけでは無かった。
セシリアが人狼ならばせシリアには罪がある。
が、ジェーンが人狼とは限らない。
ジェーンが人間ならば、寧ろ悪鬼はノーマンだ。衆人環視の元、酷い暴行を受け、更に裸で転がされたジェーン──。]
「ジェーンもこれじゃ、いずれ死ンぢゃうわよ。ね?」
「アイツにぶつからずに済んで良かった。」
「……ちょい待て。
い、今、叫びながら、ノーマンが笑ってたぜ…。」
[安堵][驚愕][良く知ったチンピラへの嫌悪]
「一瞬だったけど、あの気持ち悪い顔が満面の笑みに──。」
「泣き顔じゃなくて?」[疑問符]
「……でも、村長さんが殺されたって聞こえたわよ?
神父様だってほら、森に向かわれるって。」「2人は兄弟よ?」
[したり顔][舌打ち]
「莫迦」
「どンだけあの二人がいがみ合っているか。」
「出来損ないのクズって言ってるじゃねえか、村長さんは何時も人前で。」[失笑][嘲笑]
「そうだぜ、ノーマンならアーノルドさんが死んだら、自分が村長だって思ってるだろ。」
[唾棄]
「──嫌だ。」
「やめてくれッ!ノーマンに俺の姉は犯されたんだぞ。姉さんはだから未だに嫁げやしないんだ。」[引き絞る様な呻き声]
「神父様が村をどうにかしてくだされば──。」
「そうだ神父様なら、悪魔が厄災をもたらしても、我々を救って下さる。」
「聖銀を作られたのは神父様ですって。」
「副団長は駄目だな。」
「なら、馬で駆けつけられたあの方(ヴィンセント)は?」
「神父様にクインジーも揃っていれば、ノーマン1人<だけ>なら敵じゃないわよね。あの顔とあの体格だもの──。」
「お前、あの用心棒に気があるのかッ!」
「──────兎も角、ノーマンは論外だ。」
[派閥が分かれる。人間関係が錯綜し、村に不吉な暗雲が*広がりはじめていた*。]
─森─
[彼が現場に着いたのは、ノーマンの大仰な演説が終わりに近付いた頃だった。概ね善良な─そして単純で愚かな─村民達と異なり、彼はこの芝居がかった嘆きの仕草に明らかな偽善の香りを嗅ぎ取っていた。
ルーサーは歩を緩めずありったけの威厳─と自制心─を保って近付き、村長の遺骸の側に跪いた。
そして、短く聖句を唱えた後、大げさに悲嘆に暮れた素振りを続けるノーマンの肩に手を掛けた。]
兄を喪って悲しみにくれるのは無理からぬことですが、そのように嘆くのはお止めなさい。
死は苦しみからの解放であり、栄光に満ちた主の御許に迎え入れられることを意味するのですから。
ですから、むしろ彼の魂のために祈りなさい。
[立ち上がって両手を広げ、彼は居並ぶ村人に向かってよく通る声で宣言した。]
村長……アーノルドはこの村のために尽くした、立派な人物でした。
私は彼の葬儀を教会にて執り行いましょう。
皆さん、彼の魂が罪の赦しを得、永遠の安らぎを得られるように祈りましょう。
神父さん……。
[目を潤ませて、ルーサーに抱きつく格好。]
ありがとな…本当にありがとなァ……。
[ルーサーの登場すら、村人たちの心を掴む
駄目押しの策に転じようとする。]
[今この場に居る人々の大半は、騙されやすく権威に弱い心脆い人々だ。そのことはルーサーにも痛いほど良く分かっている。
それは同時に、彼らが『まだ』教会の権威とそれがもたらす罪の赦しや死後の安息、そして教会からそれが得られなかった時の煉獄や地獄の恐ろしさを愚直に信じている、と言うことだ。]
さあ、村のために犠牲となったアーノルドを教会へ!
[ルーサーは居並ぶ人々に向かって決然と命じた。自分が先頭に立つべく、教会に向かって歩き出す。
ノーマンにはもう*一瞥もくれずに。*]
ああ…ノーマン。
私は貴方が十分な悔悛の情を見せるまで、当分教会の敷地内への立ち入りを禁じます。
……破門しないのは、貴方の悔悟を期待しているからです。主もきっとそれをお望みだと思います。
[目を遣ることもせずにノーマンに慇懃に言い放つと、そのまま大股で*歩んでいった。*]
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