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──回想・夜明け前──
[未だ] [しらじらとした太陽さえ上らぬ] [山の中の別荘]
[苔生した] [石を一つ踏みしめ] [別荘の扉の前で仁科を迎える]
──仁科さんの仰った通りでした。
[仁科のために、軽く羽織るものを持ってきている。]
眠っていないのでしょう?
少し、今日はお休みしては如何かしら。
これがあの水鏡の所為なら…
天賀谷め、とんでもない事をしてくれたわ……
[彼女は小さく毒づいた。
誰もその聲を聞く者の居ない気安さが独言の習慣を生んでいた。]
[だが、まだ彼女はその“異変”が一体何を意味するのか、気付いていない。]
[夜桜から上着を受けとる。
げっそりとした貌で相手を見つめ、]
…車でも出られなかった。
眠って大丈夫なの──…か?
此れは屍鬼の所為なのだろう…。
否、車内で。
少しだけ──浅い眠りに落ちた様な気がする。
夜桜さんは、落ち着いている様に見える。
屍鬼の事を何か…知っているの……か?
[質問ばかりだ。
口を噤む。]
そう、屍鬼の所為です。
ですが気ばかり張ってしまっては、どうにもなりませんわ。
[浅い眠りをとったと聞くと、夜桜は微笑む]
屍鬼の事は少し──知っております。
──名の通り、人を喰らう黄泉の鬼──
[仁科を扉の中へ迎え入れ、階段裏の使用人用の階段を使い、三階の使用人部屋へと上がる事を勧めた]
─天賀谷邸の庭─
[昨夜は気分が優れないと言って自室に下がってから、天賀谷家の召使が運んで来た食事にも手をつけていない。
横になっては見たものの寝付けぬままに起き出して、そっと屋外に出てみたのだった。
昨夜あの水盤の側で天賀谷が倒れてから後、頭痛にも眩暈にも似た奇妙な感覚にずっと悩まされていた。時間と共に慣れて薄れては来たものの、そこはかとない違和感は漂う。
短い吐息と共に目を閉じる。重苦しい気持ちを吹き飛ばそうとするかの様に頭を振ると、ウェーブを描いた髪が一筋、はらりと白い額に零れた。]
あたし、屍鬼になった方の身内を知っていますの。
[階段を先にすすみながら、夜桜は振りかえらずに告げる]
──回想・夜明け→太陽が昇り始めようとしている…──
[明かりが差し込む窓は曇り、一光の投げかけはぼんやりとしている。この辺り一帯に立ち込める霧の所為であろうか。]
[仁科の部屋の扉を開けると、中に入る事を促した。]
外はまだ寒かったでしょう。
熱い湯を浴びながら、お話しましょうか。
[紅を塗った唇が艶やかに笑んだまま]
──夜は明けるのか。
[…ぽつりと。
明るくなり行く外の様子に少し安心したのか。天賀谷のあれは死相では無いか、殺し合うしか手段は無いのかそう言った言葉を紡ぐ事は無く。
部屋に入り、扉を閉じてこくりと頷いた。]
明けません。
人が屍鬼を滅するまでは。
[仁科の視線の先、こちらを向く夜桜の背の後ろ──窓硝子に映る太陽の光とは別に、ぽっかりと薄い血のような色が外の空に広がっている。森の樹木に隠れる、赫い血色の月の影響──。]
[それは何と奇ッ怪な眺めであったろう。]
[東の方から昇り来る陽の放つ黄金の矢と共に、在り得ぬ事に西つ方にもまだ、真っ赤に充血した眼球のような満月が、煌々と血に染んだ光を投げ掛けているのだった。
空全体が奇妙に輝いているようにも見えて。
雲は微動だにせず中天に張り付き、良く出来た舞台の書割の様。
漸う見れば、森に漂う霧さえ一向に消え去らぬでは無いか。
まさに人外魔境と呼ぶに相応しい、異様な光景であった。]
[碧子は、呆然と空を見上げたまま立ち尽くした。]
[ふと、そもそもの麓で聞いた若い男の話を──、十三が聞き屍鬼の存在を確信した話を、最初にすべきなのでは無いだろうかと、ぼんやりとした頭の片隅で思い付く。]
…──明けないのか。
[夜桜についていく。
用意され様としている熱い湯に視線を流した。
仁科は未だ帽子は被ったまま──だ。]
…紅い口唇は、女の口元だな。
[出て来た言葉は未だ取り留めも無い。]
[ボイラー室で温められた水は、各部屋へと供給される。それはここ、使用人の部屋であっても同じ事であった。仁科の部屋に温かい空気が流れ始める。]
明けません。
[仁科が繰り返す言葉に、夜桜も繰り返す。
仁科が被ったままの帽子を、そっと取り払う。はらりと、仁科の髪が揺れた。 取り留めない言葉には微笑みを。]
何だ、これは。何が起きている。
[傍から見る程ではないにせよ、彼女は動揺していた。
何にせよ、この様な異常事態は彼女の長い生…それとも非生と呼ぶのが相応しいか…の中ですら初めて体験するものであったからだ。]
[普段、人前で長時間帽子を取る事は無い。それは、明るい場所や広い場所で無防備に顔を晒すをあまり好まないからだ。仁科の右目は、生まれつき色素が薄いのか…金目なのだ。視力に問題は無いが只右目だけ。
其れを見られる事を好まないと言うのに、今は、ぼんやりとしている。頬笑まれて、笑みを返そうとした。]
…麓の村に屍鬼が出たと言う話を、直接一人の村人から聞いた。其の者の家に行くまで葬式が有った事すら気付かぬ平和さに見えたのに。
[雑誌に載っていた事は本当で、田舎の事だ。村ぐるみで隠蔽が有っても可笑しくは無いし、山荘の者は余所者なのだが。]
つい、昨日の話だ。それを旦那様にお知らせしたら……。
……何故気付かなかった。
[ギリギリと彼女は歯を噛み鳴らす。
その憤りに、昏く澱んだ闇の中に小さな火花が散る。]
[“こちら側”から眺めれば一目瞭然の事だった。]
[ぽっかりと白い貌が、他に何もないいちめんの闇の中に浮かんでいる。
あたかも汚泥から伸びて咲く蓮の花の様に、微かに燐光を放って滲む。
それを縁取る黒髪の、輪郭は闇に溶けて見えはしない。
その花の顔(かんばせ)に、今浮かんでいるのは燃え盛る憤怒であった。]
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