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く……くくっ
……悪いね。
だが、これからは“見られること”もお前の役目になるんだぜ。
まあ、そのうち慣れるさ。
そいつはこれからたっぷり知ることになるだろうからな――
――――――
さて――
人間も畜生禽獣の類と同じく――と予が云うと語弊があろうが、檻の中に入ることがあるものかと詰め所の屋根の上にてその様子を興味深く眺めていた時のことである。
詰め所に押し寄せる人波の遥か向こうで騒擾の気配があった。
一人の中年の女性が半狂乱になって泣き叫び、両手を振り回している。片腕に巻かれた包帯が目を惹いた。
「セシリア! セシリアァアアァア――ッ」
その年格好、容貌と言葉から、予はそれがセシリアなる少女の母親であろうと推察した。彼女は娘の無実を主張し、またそれが真実と願っていたのだろう。
娘が狼憑きであると――呪わしい人狼であると村長によって断定され、気が狂わんばかりに悩乱し詰め所に駆けつけようとしていたのである。
しかし、その行く手は憤激に駆られた村人たちによって遮られた。セシリアの母親は敵意を剥き出しにした彼らに小突き回され、悲痛な叫びを上げている。髪を引っ張られ、服を掴んで引き回されていた。
せめて、せめて食事を――着替えを…… ああ―― 絶望の中から絞り出されるその言葉は最後まで紡がれることはなかった。彼女は人波の中心で揉みくちゃにされながら、喉を仰け反らせ、一際大きく震えると口から泡を吹き出したからである。
「やっぱり狼憑きだ! 母親も狼だ!!」
村人の熱に浮かされたような声が周囲に満ちた。
――――――
やれやれ……
今度は一体何事だ?
[立ち上がったクインジーは懶気な所作で檻の入り口をくぐる。扉を閉める前に一度だけセシリアの方を向いた。正体の知れぬ眼差しが彼女を睥睨している。
だが、言葉は発せられることはなかった。
大きな影はやがてゆらりと日照しの中へと*溶け込んでいった*。]
─兵舎─
[重傷者を集めた部屋に入り、容態を確認し、必要があれば包帯を変え薬を塗布した。
彼らはたとえ順調に回復しても元通りの生活は望めないだろう。怪我が治っても身体が弱り病を得るかも知れないし、一生消えない損傷を負って、まともに労働の出来ない厄介者として生きねばならない可能性もある。
一人だけ、まだ結婚して間もない兵士が居て、新妻が目を腫らして付き添っていた。
ルーサーは手当ての間に少し言葉を掛け、彼女の苦悩を出来るだけ和らげようと努めた。
最後にアーヴァインを見舞った。
枕元に灯る蝋燭の明りに照らし出されたその顔色は土気色で、既に苦痛も妄執も消え去り彼方に飛び去ってしまったようだった。
足を骨折した比較的軽傷の兵士が彼に付き添っていた。聞けば、アーヴァインは時折うわ言のようなものを呟くのみで、意識は完全には戻っていないようだ。
既に一昨日に終油の秘蹟を行っていたが、付き添って見守る者は少なかった。
アーヴァインには親兄弟はおらず、先日無残な死を遂げた従姉が彼の唯一の身内だったことをルーサーは思い出していた。]
-村長宅/自室-
[人相の悪い男が、彼にセシリアの母親の
一件を報告している。
取り巻きの1人だ。兄は、自分の心象が悪くなると
この付き合いにいい顔をしていない。]
なるほどねえ…そんなことが。
[天井の一点をじっと眺めている。
彼が何やら策謀を巡らせているときの癖。
ニヤリと笑みを見せる。]
落ち着いてきたら、あの小娘の母親…攫っとけや。
ここらで、連中にも示しておかねえとな。
[邪な*笑み*。]
なぁに、1人殺るも2人殺るも変わらねえって。
ふわり、アーヴァインの目が開いた。彼は普段通り、自身専用の寝具で仰向けになっていた。
額を一方の手で触り、考える。「私は何かしなければならない事が…」
そうだ、人狼だ。あの憎き狼め。彼女を決して赦してはならない。私にはまだまだ残されている事があるのだ。
やがてアーヴァインはよろよろと起き上がり、拷問室へ向かった。
蝋燭に照らされた廊下を歩く。夜のようだが人気は全くない。兵士が普段詰めている場所にも人っこひとりいない。だがアーヴァインは目もくれず、拷問室へ歩みを進める。足取りは全くおぼつかない。
聖銀の鎖を解き、中にはいる。彼女は…人狼はそこにいた。 机や椅子は片づけられていて、彼女は部屋の中心の真ん中にいた。どうやら仰向けに横たわっているらしい。
気がつくと数人の兵士達が彼女を取り囲み、嬲りはじめた。少女は一切の抵抗をしない。諦めたのか。ただ男達の言いなりになっていく。
そうだ。これは私の求めていたものの一つである事は間違いないのだ。神に償わせる事が私の使命なのだ。
歓喜にうち震える。
「ふ……ん。様を見るがいい。狼よ。」
勝ち誇った笑みを浮かべたその瞬間、少女や兵士達が目の前から消えた。
「な…んだと?」
その直後、少女はアーヴァインの背後に立っていたのだ。驚嘆し、顔が歪む。
「お前、何故…! そ、そうだ。お前の為に、私は、私は貴様等の為などに、部下や、従姉を…!」
激しい感情を露わにする。彼は武器を両手で掴んだ。
「地獄へ、落ちろ!」
アーヴァインは槍を突き出す。少女は風を感じるかのごとく、易々とかわし、薙ぐ。
「やめて下さい…でないと。死んでしまいます。暴れても、死期を早めるだけ。」
「この、化け物め!」「お前等に私の気持ちがわかってたまるか」
彼は耳を一切貸さず、武器を振るい続けた。もう既に矛先はセシリアを向いていなかった。
それでも懸命に槍を突き出し、そして。やがて彼は前のめりに── [暗転]
―広場にて―
ところで村長さまァ、大切なお仕事ってェおっしゃるのは、なンでござェますか?
[――村長が、娘に命じたのは――]
へェェ!!!あの四角に入った娘っ子のお世話を、ワタクシがするのですかェ!?そりゃァたまげ……いェ、たいへん驚いたァ話でござェます。
[村長と呼ばれる主が、薄汚れた娘をギロリと睨んだ。]
「ネリー!あれは人間の娘では無い!あれは人狼、我々の敵だ!今後そのように人間呼ばわりしたら、お前のことはただではすまんぞ!」
はっ………へェェェ!
すンません!すンません!!
どうか許してくださいませェェェ!!
「あれ」は人間ではござェません!「あれ」はおそろしーぃ、みにくい、化け物でござェます!!
[娘は、地に額をつけるのではないかというくらいに深く頭を下げた。]
[機嫌を少しだけ持ち直した村長は、ネリーに重要な事柄を伝えた。]
[ひとつ。檻の中の人狼には、過剰に餌をやらぬこと(そして、与える食物を「食事」ではなく「餌」とよぶことも)。
ひとつ。檻の中の人狼を決して放ってはならぬこと。勿論、鎖や拘束具の類を弛めることも禁ずる(ついでに、檻の中の人狼がいかに恐ろしい化け物であるかを、再度ネリーに伝えた)。
ひとつ。檻の中の人狼を尋問する者の邪魔をしてはならぬこと(さらに、如何なる厳しい「尋問」になろうとも、決して同情心を抱いてはならぬことや、「尋問」に関する手伝いは積極的に行うことも)。]
………はェ。
難しいことァ、ワタクシにはよーくは分かりませンが、分かりましたェ。
[ネリーは、檻の中をじぃと見た。]
あのォ、村長さまァ。ひとつよろしいですかェ?
あの化けモンに餌ァあげンのはいいとして……化けモンが餌ァ喰ってクソした時の「トイレ」が、檻ン中にァありゃしませんェ。
あのォ……あの化けモンがでっけェウンコした時ァ、道具使うか手ェで拾えばなんとか小屋の掃除ァできまさァ。でも、ションベンした時ァどうすりゃァいいんですかェ?さァすがにションベンは手で拾えませんヨォ。
牛っ子でも、馬っ子でも、家畜小屋ン中にゃァ藁がひいてありますァ。そこでクソしてションベンしてンのを、ワタシら人間が拾うことはできませんかェ?
[四方ぐるりと衆目に晒された銀の檻を指差して、ネリーは大きな声で彼女の主人に告げた。]
[ウンコだのションベンだのという言葉を年頃の娘が連呼するせいか、村長とその召使いの周囲は、どうっと笑いに包まれた。]
「うぬ……しかし、みすみす人狼に藁を与えてやることは……」
じゃあ、村長さまァは、あの化けモンのクソ踏みながら「ずんもん」なさるんですかェ?そりゃア、くさくてくさくてたまりませんェ。ワタクシはクソションベンのニオイにァ馴れてますけど、村長さまァがかいだら……
「ああ、わかった、わかったネリー!
藁を少しだけ敷くのは許してやろう。だから頼むから、クソだのションベンだの言うのは止めろ!」
[ネリーは、目を丸くして村長をじいっと見つめた。]
はェ、ありがとうござェます。
[ヒィヒィと腹を捩りながら笑う者、眉をしかめてあからさまに嫌悪感を示す者――それらの表情を知ってか知らずか、ネリーは大きく頷いた。]
ンではァ、ワタクシは馬小屋行って藁ァ取ってきますァ。
あァ……ついでに、あのちっちぇえ娘さんと、でっけェ兄さんの言ってる服を持って来ましょうかェ。服をどう「ずんもん」に使うかァ、難しくてワタクシにァよーくは分かりませんが。
[そう言うとネリーは、クインジーとウェンディの方に駆け寄り、「化け物」の元に何を持ってくるべきかを*尋ね始めた*]
[ネリーと言う若い女性がこちらへ来るのを見た。ウェンディはネリーの質問を聞き、思案した。]
そうね…お洋服は今はいらないって。でも寒いと可哀想だから、すぐに持って行ける準備だけはしておいたほうがいいかも。
でも。おトイレに行くのも大切だけど、どうやってお姉ちゃんにパンやスープをあげたりするの? あのままじゃなかなか食べられないわ。お皿を用意した方がいいのかしら?
[ウェンディは子供だから思いつかないのか*不思議そうに答えた*]
─教会周辺─
[現在、野宿をするために陣取っている場所で、寝袋に包まれながら眠りについている。]
…う〜ん…お腹すいた…
[どうやら空腹により、多少うなされているようだ。]
―広場―
[村長と話すネリーの周囲は笑い声に包まれていた。
村長はしばしば窘めてはいたが、クインジーは彼女の純朴さの感じられる話し方は嫌いではなかった。
人狼の発見に喧騒に包まれていた村の渦中で、そのやりとりはたしかに一時緊張を和らげてくれるものだっただろう。]
家畜のように藁でするのか?
災難だなあ……
[セシリアのそれまでの暮らしぶりや常に身綺麗だった装いと楚々とした佇まいを思えば、その落差にただただ苦笑いする他なかった。]
ああ、そうだ。ネリー
できれば、手伝ってもらえないだろうか。
多少なりとも一端身綺麗にしないと尋問も支障があるように思うのだ。
着替えと……できれば湯を使って汚れを落として欲しい。
[クインジーはそのように、彼女に頼んだ。]
[兵舎を出た時にはかなりの時間が経っていた。
詰め所から教会まではそれなりの距離がある。
道々会う村人と挨拶を交わしながら、きびきびと歩いて行く。心に重荷があっても疲れていても、足取りがあまり変わらないのは習い性だった。
あちこちに足を止め、囁き交わす男達。
縋りつき不安を訴える老女。
落ち着かないかみさん連中の噂話。
やはり村長の演説と「人狼」が不穏な空気を生んでいた。
それまでは、村人が何人も凄惨な死を迎えたと言っても、単なる獣の仕業であると思われていたために、その恐怖や怒りはまだ真っ当なものであったように思う。
それが、「セシリア」と言う……これまで隣人として付き合ってきた少女であると分かって、目に見える形のあるモノになって、何かがガラリと変わってしまった。
ルーサーにはそれは、狂乱の前触れ、であるように思えた。
今はまだ細い正気の糸で繋がって押し留められているが、いつ何時それが切れて暴走が始まるか分からない。興奮した牛馬の群のようなものだ。]
[母親への事情の説明も兼ねてセシリアの自宅を訪問しようとしたクインジーだったが、詰め所を離れた時にその騒ぎに気がついた。
渦中にあったのは、セシリアの母親だった。
昏倒した彼女だったが、木立の向こうにあるセシリアの自宅までは容易に抱えていけないだけの距離はある。彼女はひとまず教会付の宿坊へと運ばれていくようだった。
彼女が携えていた袋には、村長に宛てたと思しき直訴状と共に、セシリアの着替えや身の回りの品が入っていた。
クインジーはそれらの品を預かると、詰め所に戻り衣類をネリーに託した。]
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