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──詰め所前・檻──
[最初に視界に入ったのは、銀製の檻の格子と暗鬱な石壁。
見慣れない場所に居る事に首を傾けようとして、体が思う様に動かない事にセシリアは気付く。]
…………ぁ。
[思わず声が漏れたその瞬間。
鮮明に、昨夜の記憶──夜中にアーヴァインが尋問室にやってきた時間からのすべてが甦ってきた。
檻を遠巻きにする多くの村人達の中、檻の目の前に透ける様なプラチナブロンドの少女が立って、セシリアを見つめている。]
[それ以上の言葉として、何をかければよいのか分からなかった。]
お姉ちゃん…何か悪い事をしたの?
[彼女が本当に人狼なのか俄には全く信じがたい。ウェンディは本当かどうか調べてみたい衝動に駆られた。]
[よく見知った村の人間。しかも、ウェンディの様な少女に何を答えれば良いのだろう。
「悪い事をしたの?」と言う言葉と澄んだ視線に、セシリアは細い銀の首輪に戒められた首を苦しそうに横に振った。
──数秒の躊躇いの後、小さな声で、まるで自分にも言い聞かせるように、]
…ウェンディちゃん。
ねぇ、私は。私は、以前に貴女にお話をしてあげた──あの時と同じ「セシリア」よ。
セシリア・アーチボルド。
何も変わってない……。
何も変わってないなら、どうしてそんな事をされているの?
さっきの村長さんはどう言ってたかな…人狼というのは、とにかく力持ちで、特に牙を持ったり鋭い爪を持ってたりする、と聞いたわ。
[ウェンディは檻の中に入ってみたい、とすぐ側にいた兵士に尋ねた。村長の言う通り、あっさりと鍵を貸してくれた。
私のようなまだ子供とも言える人でも許可された事は、拍子抜けと言えば拍子抜けだが。
ウェンディはそのまま鍵を外し、檻の中に入ろうとした。]
[「人狼」の檻まで、近付いて来る者は流石にまだ少ない。
けれども、檻を遠巻きにする人々──よく見知った村人の顔が、好奇、恐怖、混乱、侮蔑、戸惑い、或いは、アーヴァインの様に憎しみの色に染まっている事に、セシリアは気付かされる。
──突き刺さる視線。聞こえてくる声。
一夜の間に、セシリアを取り巻く世界は、忌々しい銀の檻の完成と共に、完全に変化してしまっていた。]
―檻の傍ら―
[ウェンディの後ろ姿とその視線の先を追うように、クインジーはゆっくりと檻の方へと近づいてゆく。
衣服の裾は僅かにたくし上がり、すらりと伸びた白い脚が目に入った。そのか細い臑にはあまりに不似合いな大仰なまでに頑丈で無骨な作りの枷ががっちりと嵌り、鉄球が絡んでいる。
華奢な肉体を縛めるには野卑極まりなく、無遠慮なまでに乱雑な作りの鎖が巻き付き縛めていた。]
こんな事されてしまって…可哀想。
でも、どう言えばいいのだろう。解放するのは駄目って言われたから何もできないわ。
セシリアお姉ちゃんは本当に人狼って言う人なの?
[ウェンディはセシリアの同意も得ず、後ろ手の腕を丹念に触って調べたり、顔を触って顎の形をなぞって確かめたりしている。]
[…正体さえ暴かなければ、誰も傷付けるつもり等無かったのに、とセシリアは口唇を僅かに噛む。
一度俯いて、顔を上げて──ウェンディが鍵を受け取り、檻に入ろうとしている事にセシリアは驚いた。]
…なっ!
──こ、来ないで。…お願いだから…来ないでよ。
[と言っても、四肢を拘束されたセシリアにウェンディを拒む手段等無い。もっとも入念に聖銀で戒められた腕に触れられ、セシリアは思わず眉を顰めた。──それはおそらく人狼にしか分からない、独特の痛みだ。
ウェンディの小さな手で顎を持ち上げられて、檻の中でセシリアの躯が蜘蛛の餌の様にユラユラと揺れる。
視界がぶれた拍子に、水車小屋で働く赤髪の目立つ容貌の大男──教会に行けば何かと出会う事がある、何処か胡散臭げな所もある教会の用心棒──クインジーが、ウェンディの向う側から近付いて来る事にも気付いた。]
……セシリア……
[呟きが漏れる。その声は相手が意志ある者か確認するかのような響きを帯びていた。
クインジーの知るその少女は、潔癖とすら感じられるほどに清潔で折り目正しく衣服を身に纏っていた。その衣服に塵一つ、綿埃の一片たりとも見いだしたことはなかった。
今はそのブルネットの髪は颶風に揉みくちゃにされたかのように乱れ、衣服は夥しい血痕―返り血であろうか―に赤黒く染まっていた。
全身が土埃と血漿に塗れ、輝く許りだった白い肌は薄汚れてくすんでいる]
[ウェンディは彼女と言葉を交わしていた。
「何も変わってない……」
セシリアの言葉に眉を蹙める。彼女の心は狂騒と興奮の状態ではないようだ。一見したところ、正体を失った狼憑きの状態である様子はない。
ウェンディは檻を警護していた兵士に話しかけ、檻の中へと入ろうとしている。]
…………。
[クインジーはいつセシリアが豹変しても対処できるように意識を張り詰めさせながら、ウェンディのすぐ側で見守ることにした。
檻の入り口はクインジーの身長にはやや低い。身を屈めながら檻の中へと這入る。]
[犬でもこんな仕打ちは受けない。ウェンディは目の前の少女に深い憐れみを覚えた。
と同時に、人狼とはどんな身体をしているのか。同じ女性でも私とは違うのか。また人として人を征服すると言うことはどのような感情を自らに抱くのだろうか。]
いつか…ちゃんと調べてみたい。
[とセシリアを観察しながらウェンディは思うのだった。]
―檻の中―
[身を震わせるセシリアの様子に、クインジーには我知らず笑みが浮かんでいた。
――なにしろ、この風体だ。怯えるのも無理はない。
だが、クインジーの厄介な性分は自虐に彩られむしろそのことを楽しむかのように変質しようとしていた。
身を屈め、セシリアの傍らに膝立ちになりながら挑発的な眼差しを向ける。ウェンディと彼女との間に入っていた。]
……セシリア。いいザマだな。
昨晩は随分と派手にやらかしたそうじゃないか。
お前がそんなにやんちゃだったとは、知らなかったぜ?
[そう云うと、喉の奥で笑い声を立てた。]
セシリアお姉ちゃん、私、お姉ちゃんを助けられるか分からない。ううん、助ける気があるのかも私、分からない。
私は人狼がどんなものか知りたいの。もしお姉ちゃんが本当に人狼なら私はどんな事をしてでも調べてみたいわ。
今のお姉ちゃん…私がお話してくれた時の魔物なのかお姫様なのか、どちらなのかしら。分からない事だらけだわ。
[複雑な表情をしていたが、プラチナブロンドの少女の瞳は真剣そのものだった。]
[普段ならば、教会にはルーサーが居るので、荒仕事をするクインジーにセシリアが一人で近寄る事は滅多に無い。6フィート以上もある男が至近距離に居れば、当然の様に威圧感を感じる。
──それが普通の少女と言うものだ、とセシリアは目の前の現実を何処か遠い場所の出来事の様に感じて、心の中で呟く。
クインジーはその鋭い眼光で、自分の様子を観察している様に思えた。男の視線が頭のてっぺんからつま先にまで、突き刺さる。]
[昨夜、アーヴァインに引き裂かれた上衣。半ば露出した胸元をそのまま時下に締め付ける銀の鎖の冷たさ。詰め所の兵士達を相手に大立ち回りを演じた際に、アンダースカートまでボロボロになった衣服の下、あらわになった太腿や膝に、風があたる心許なさ。酸化した血の匂い。
そして、それをも観察対象にされることへの羞恥心。
お前はもう、以前のセシリア・アーチボルドでは無いのだろうと言われている様な気がして、震える。
セシリアが震えた瞬間に、クインジーの挑発的な言葉と笑い声が降り注ぎ。──莫迦にされた様なタイミングに屈辱感を感じ、セシリアはクインジーをキッと睨みつけた。]
[四肢を拘束され横臥する彼女が身じろぎした時に、その襟元が深々と引き裂かれていることに気づく。
襟刳りから真白な双球の谷間まで見え、彼女の動きにあわせて緩やかに波打った。あられもない姿に当惑しながら、一瞬目を逸らす。]
――なあ
[兵士に声をかけた。]
着替えさせた方がよくはないか?
[ウェンディの言葉に、問うような眼差しをセシリアに向ける。
これから仲間を吐かせるための尋問―そうした尋問は拷問に発展するのが常だったが―が行われるなら、着替えた後の衣類もそう間を置かず惨憺たる有り様になるだろう。
それは、それまでの場つなぎとなるものでしかなかったろう。]
どうする?
晴れの舞台に上がるんだ。最初くらいは好きな服を選べばいい。
もっとも――お気に入りを選ぶのは、やめた方がいいがね。
[そう云うと、クインジーは皮肉めいた笑いを浮かべるのだった。]
…あ。
[ウェンディは、「自分は変わって居ない」と言うセシリアの縋る様な思いを込めた言葉に少しも取り合う事も無く、身体の小さな少女特有の軽やかな動きで、するりと檻を抜け出して外へ出てしまう。
ウェンディはセシリアに何をしたいと言うのか。
彼女の様な子どもにすら同じ目線で、言葉を交してもらう事が出来ない。人間としてのセシリアの──人狼だと発覚する以前の…生活が、戻って来る事は無いのだと。今度はそう言われた様に思えた。]
[ウェンディが、平凡で幸福だった──村に来てからの2年半が、幻の様に行ってしまう。
ウェンディとの間を遮る様に側に立っているクインジーを相変わらず睨みつけたまま、絞り出した苦い声で、]
──…服なんて。
服なんてどうでも良いわ。
[今、血の赤茶色に染まったこの衣服も、元は澄んだ空色だったのだ。]
これだけ縛り上げているのだもの…。
誰かが好きにすれば良いんだわ。
……それよりも…勝手に私を見ないでよ…。
[セシリアは鎖が食い込むのも構わず、睨みつけていたクインジーから、屈辱感で少し紅潮した*顔を背けた*。]
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