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はためく翼がシルフを擽る。一杯に拡がった翼が風の精霊に支えられ、高く高く、その体を押し上げてゆく。
眼下には墨を溶かしたように黒々とした森が宏漠として拡がる。月影の落ちた湖沼は白銀の盆。森を縫う小川は絹糸の如く、艶めいた光を帯びていた。
いじましいほどにささやかな耕地が島となって点在していた。その島に寄り添って小さな家々が散らばっている。それら一つ一つの人々の営みを思った。彼らは、押し寄せる漆黒の闇に呑み込まれることを拒み、地を這いながら苦闘し続けていたのだった。
小邑の家々の中から、天に向けて石造りの鐘楼が手を差し伸べている。一回り大きく、目につくその建物は村の教会だった。
僅かに身を震わせたのは、凛々とした大気の層に触れた所以だったであろうか。満ちてゆく月の光を背に受けながら、予はその時某かの予兆を慥かに感じたのかもしれない。
夜の静穏を朝課=Matins=を知らせる教会の鐘が緩やかに震わせた。
予は、翼から力を抜くと暖かな大地へと滑るように降りていった。
教会の脇を抜けた小道は森の中へと続いている。僅かばかり進んだその先には貯水池があり、ガタゴトと音を立てて大きな水車が回っていた。“水車小屋”と呼ばれるその建物は、実際には“小屋”というには少しばかり大きい。水車小屋の周囲にはいくつかの小さな建物が付随し、周囲は樫木の杭で囲まれていた。
池に面した窓辺に佇む男が一人。半眼に茫洋と月を眺めている。
『居眠りをしていたな?』
予はそのように邪推した。本来なら夜通しの勤めであるはずだったが、この男は水車番の仕事を好んではいないようで聊か勤勉さを欠いている。おそらくは朝課を知らせる鐘の音にその習い性から目を醒ましたのであろう。
かといって、かつてのように勤行に励むでもなく、うすらぼんやりと空を眺めながらほりほりと頬を掻くのみであった。
《バサバサ!》
予は帰還を知らせるべく、また男を叱咤し覚醒を促すべく、羽根を打ち鳴らした。男は一瞬目を瞬かせ、やっと我に帰る。腰を降ろしていた窓の桟から戸外へ飛び降りると、革紐の巻かれた左腕を高々と我が方に向けて差し出した。
「帰ってきたか。エトワール」
男は長い間にどうやら自分が予を“飼って”いるかのように思いこんでいるようで、その口調はいつもぞんざいだ。だが、真実は違うのだと予は声を大にして云いたい。
予はかつての主が鷹狩を嗜んだが故に仕えることとなった従僕で、この男は主から予の世話をするという名誉を預かった身に過ぎぬのだ。つまり、予にとっては、主君、予、この男という位階が順当であろうと考えるのだ。しかし、人間とは真に勝手なもので、言葉を話せぬ禽獣を下位に見るものなのかもしれぬ。
否……我が主君を喪った時に、我等の関係もまた変わったのか――。
そのことを思えば、小さくはない寂寥が胸を塞ぐ。その思いはこの男とて同様であろうか。今は数少ない儕輩となったこの男の無礼もいつしか許すような気持ちになっていた。
さて、この目の前の男はクインジーと今は名乗っている。
幾年か前のこと。争いに敗れ、海を渡ったその前はクェンタンという名前であったろうか。かつては鋼の鎧に身を固めた馬上の丈夫だったこともあった。
今は、とある修道会の修道騎士として士分に取り立てられている。過去に傷を持つこの男の仕官が叶ったのは紹介状を携えていたからであったが、修道騎士とは云ってもその実際は用心棒に他ならなかった。
事実、水車番としては勤勉さに欠けるこの男だが、荒事においては物の役に立たぬわけではない。
その体高は6フィート3インチ程に及び、鍛え上げられた肉体は立ちふさがるだけでたいていの者に威圧感を与えた。また、武芸については一廉の執心があったのか長剣の技の鍛錬も怠りなかった。
だが、この男はやがて片目を喪い、更に悽愴たる惨劇の渦中にて、己の無力を噛みしめる程の怪異と対峙することになる。
クインジーは池で顔を洗い、眠気を晴らした。闇を震撼させるその声がおぞましい惨事の幕開けであることを未だ知らぬままに。
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……セシリアが?
[動顛し、喉を詰まらせながら早口で騒動を語る兵士を目の前に、その話を最後まで聞くことなく、棒をもぎ取る。
不敵な笑みを浮かべながら、クインジーは騒動の中心へと足を向けた]
―回想―
「クィン、手を貸してはもらえぬか?」
[その瞳の奥では、暗い決意が泥炭の火の如く揺らめいていた。幾日か前、深刻な面持ちで声をかけてきたアーヴァインの様子を思い返した。
クインジーはアーヴァインとそれなりに懇意にはしていたが、彼の部下というわけではない。助力を求められるとは、余程のことなのだろうか。そう思い、聞き返せば、セシリアが狼憑きだと―“人狼”という名を避けるように―そう言ったのだった。]
[クインジーは声を上げて笑った。
富裕な家に生まれついた彼女とそう度々接する機会があったわけではない。だが、村の少女の中でも一際物静かで大人びた佇まいの彼女はどこか目を惹いた。すらりと伸びた華奢な四肢。端正な面差し。
繊細な彼女の風貌からは、野蛮な力や獣じみた荒々しさとはどう考えても対極にある存在だとしか思えずにいた。
冗談はよしてくれ――そう言って、クインジーは首を振る。アーヴァインなら片腕だけで彼女をねじ伏せられるように思えた。否――彼女の捕縛が必要なことであるなら、大の大人ではなく女性の手によるべきではないか――。乱暴な扱いが手酷い怪我を負わせることになることの方をこそ慮っていたのだった。
――その時点では。]
見習いメイド ネリー が参加しました。
見習いメイド ネリーは、村人 を希望しました(他の人には見えません)。
村長さまーァ………あ。
[雑踏の中、己の主の姿を見つけたネリーは、その弟と神父が言い争っている場所へと駆け寄った。
「たいへん、たいへん」とやけに騒ぎ立てる少女の肩にぶつかり……]
あッ……すまねェです。お怪我ァござェませんかエ?
[咄嗟のことについ故郷の訛りが出る。
その姿を見て、普段から「故郷の訛りを出すな、標準語を話せ」と彼女を叱る村長は、ギロリとネリーを見下ろした。]
あ……はェ。すンません。
[ネリーは思わず肩を竦めた。]
……ふん。
[ルーサーをギロリと睨むと、後ろを向く。]
吐いたツバぁ、飲むんじゃあねえぞ?
[その後、兄である村長に一瞥。
眼差しには、この人狼騒ぎ以上の何か大きな
思惑が込められているかのようであった。]
わっ。
[ウェンディは細身の女性に少しぶつかり、少しだけよろめいた。ウェンディに謝り、背を向け、なにやら村長にも謝っている。]
私は大丈夫よお姉ちゃん。もし…何か知っていたら教えてくれませんか。
逃亡者 カミーラ が参加しました。
逃亡者 カミーラは、守護者 を希望しました(他の人には見えません)。
[これ以上もう話すことは無い、というようにルーサーは踵を返した。
歩み去る素振りを見せた後、後ろを振り返り、]
……ああ。
やってみたいのならばまずノーマン、貴方が試すべきでしょう。私は止めませんよ。
だが、悪魔と戦うのは祈る者の役目であり、俗世に住まう貴方は騎士でも異端審問官でもない……それは忘れぬよう。
[言い捨てると、重傷者の居る宿舎へと*歩いて行こうとした。*]
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