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流れ者 ギルバート は 書生 ハーヴェイ に投票した
冒険家 ナサニエル は 新米記者 ソフィー に投票した
書生 ハーヴェイ は 流れ者 ギルバート に投票した
美術商 ヒューバート は 書生 ハーヴェイ に投票した
見習いメイド ネリー は 書生 ハーヴェイ に投票した
新米記者 ソフィー は 書生 ハーヴェイ に投票した
流れ者 ギルバート に 1人が投票した
書生 ハーヴェイ に 4人が投票した
新米記者 ソフィー に 1人が投票した
書生 ハーヴェイ は村人の手により処刑された……
次の日の朝、新米記者 ソフィー が無残な姿で発見された。
現在の生存者は、流れ者 ギルバート、冒険家 ナサニエル、美術商 ヒューバート、見習いメイド ネリーの4名。
[ハーヴェイの苦痛の叫びも既に頭から消し飛び、獣はひたすらに快楽を貪る。
反射的に強張る身体を捉え、逃れることも許さずに、腰を打ちつけ、抉り、掻き回し、徹底的に蹂躙する。]
[激しい呼吸音の合間に魘されたように愛の言葉を囁き──それはこの男にとっては何の意味も無く、数え切れない程の獲物たちに捧げてきた、純粋な称賛の言葉に過ぎなかったが──、口接けの雨を降らせ、歯を立て、舌で舐った。]
[蹂躙はそれだけに留まらなかった。
首筋に開いた傷から流れる血を啜り、肩肉を噛み千切り、脛に歯を立て。
体位を変えて幾度も交わりながら、その肉を喰らっていく。]
[やがて、その身体に肉の剣を突き立てることが適わなくなってからも、獲物の肉を喰らい尽くすまでその欲望が収まることはなかった──]
[──長くて短い時が過ぎ。
やがて、充足した獣が朱に染まった身体を離した時には。
ハーヴェイの身体は、殆ど無傷の頭部を残して、原形を留めぬほどに破壊し尽くされていた……。]
Bravo!!
[拍手喝采、スタンディング・オベーション。
否、元々立っては居たのだが。]
……さっすが。悪趣味ィ。
いやぁ、わざわざ暗い森ン中歩いてきただけ得したな、俺は。
犯して、食らって、殺す……無惨に遺るはいたいけで美しい青年の頭部のみ、ってか。
いいモン見せて貰ったよ、我が愛しのギルバート。
[眉をぴくりと動かす。]
……なんてな?
………見てたな。ずっと。
悪趣味なのはアンタの方だ。
[立ち上がり、鋭い視線でナサニエルを睨む。]
何の用だ。食餌の様子でも見に来たのか。
…やっぱりここにいては始まらないわ。
あの人が心配だもの。
[ネリーはこの場を離れる決心をした。ナサニエルと「契約」する前の服装に戻り、何事もなかったような姿に戻る。
家の鍵は持っておくことにした。絶対に失くしてはならない。
ネリーは自分の勘とも言うべきものを頼りに、あるべき
方向へ進みだした。]
………正解、と言ったらどうする?
[分厚い唇を歪め、小さく笑う。]
ま……正確なところを言うと、微妙に違うんだがな。
俺が見たかったのは、「食餌」では無い。
まして青姦でも無ければ、無惨な屍体でも無い。
俺が見たかったのは……
俺に「死」の官能を与えた「お前」が、「狩り」をするところだ。
……想像以上に残酷で、なかなか楽しかったぜ?
[私は両手を合わせて「声」を発した。
それはまるで初めて祈りを捧げるようであった。]
──あなたは、どこ?
お願い、気づいて──
「死」の官能ねえ……
[鼻を鳴らして小さく嗤うと、脱ぎ捨てた衣服を拾って歩き出した。]
──で。
その様子じゃ満足したようだな。
あァ、こんなに極上のクスリはねぇよ。
……ま、ハーヴェイには気の毒だがな。
[腹を抱えて、くつくつと笑う。]
……で、このいたいけな美青年はどうするつもりだ?
このまま放置かよ。
俺と同じ……いや。俺以上に覚醒しちゃってるみたいなんだけどなァ……。
……「お仲間」、ほっとくの?
うそ──
[ハーヴェイが死ぬとなれば、ギルバートが手をかけたとしか考えられない。
何故?
どうやって?
怪我はないの?
さまざまな疑問が沸いたがそれは掻き消す。きっと彼にとってその質問は他愛ないものなのだから。]
[「ほっておくのか」と訊かれ、足を止める。
もうそれはただの屍肉、命のない物体に過ぎない。
が。]
……後でここに埋めてもいい。
それとも。兄貴と同じ墓に入れるか?
[少し頭を傾けて問うた。]
ん?まぁそれがいいんじゃねぇの?
[ハーヴェイの頭部をじぃっと見つめている。]
……とは言っても、俺はこいつの兄の墓の場所なんて知らないけど。生きてるうちは身体で遊ぶ仲だったけど、死んだらとんと興味もなくなったというか。
ああ、もしかしたら、バンクロフト家なら知ってるかもしれねぇな。
って、お前……ハーヴェイのこと、兄と同じところに埋めてやりたいのか?
取り合えず身体洗わせろ──
[少し離れた岩場の水溜りまで歩いていき、ぞんざいに血を洗い流した。水溜りの濁った水が、瞬く間に紅に染まる。
血臭は消えず、ところどころに赤い染みを残していたが、概ね落ちたところで衣服を濡れた素肌に直接着込んだ。]
[小さな誇り、きっとそれは私にもある。
だからこそ、はっきりさせないと…]
ギルーーッ!
[気がつくと私は走り出していた。]
[私は森の中を進んだ。
一歩間違えれば元の道を戻るのも困難だというのに、一心不乱に進んだ。まるで導かれるように。
やがて私は歩みを止めた。強い血生臭い匂いを感じると同時に、その発している場所が近いと思われたからだ。
この匂いはどこから来るのか。]
じゃなければいいのだけど…
[終わった…のだろうか。
散々自分の体を蹂躙した重みがふと消える。
それと同時に体中の痛みも何もかもが消えた。
自分が手にかけた人々も、死ぬ間際はこうだったのだろうか。
人から人にあらぬものに変わる苦痛は筆舌し難かった。
突然現れたギルバートにより全てが変わり、そして全てが狂った。
彼は俺の願いを聞くといった。
そしてたった一つ、俺は願った。
全てなくしてくれと。
そしてその消したかったものは…自分自身だった。
何をどれだけ消しても自分自身が消えなければ何も変わらなかったのに気が付く前に狂気とはいえ一体何人の人を手にかけてしまったのだろうか。
そしてギルバートは本当の意味で俺の願いを叶えてくれていた]
[煙草を咥える。しかし火は使えず、ナサニエルは沈黙したままの白い筒を咥えているだけだ。]
ん。身体を洗いたいンならどうぞ。邪魔はしねぇし、襲いもしねぇよ。
[ギルバートが水辺で血を洗い流す姿を、ナサニエルはしばし注視する。流れ落ちる赤い雫が、ほんの一瞬だけ澱む。彫刻などという死んだ肉体の「迫力」とやらを鼻で笑い飛ばすような、野性的で雄々しきギルバートの筋肉の動きを、目を細めて見つめている。]
「ギルーーー………」
[遠くで、声がした。
先ほどまで抱いていた、少女の声が――]
ネ…リー………?
[ナサニエルは、無意識のうちに振り返った。]
[ハーヴェイの頭を拾い上げる。
目蓋を閉じさせて髪を整え、こびり付いた血の汚れを舐め取ってやると、ハーヴェイの顔は案外と安らかに見えた。
眠るように瞳を閉ざし、唇は溜息の形で微かに開いている。]
バンクロフト……と言うとヒューバート・バンクロフト……? あのヘンな、火星人がどうたら言った……。
[脳裏に先程ステラの家で出会った時の姿が閃く。]
……生首持って「埋めたいんで墓教えてくれ」って聞きに行けってか。アホか。
[ハーヴェイ(の頭)を抱き、ネリーが走ってくる方向を*見た。*]
ギル…それにナサニエルさん…っ!
あなたたちここで何を… !!!
[私は生まれて初めて目の当たりにした。人が人あらざる姿で──そこに抱えられていたのを。]
ハ、ハーヴェイ…!?
ぶっ………!
[口に咥えていた火の無い煙草を、勢いよく噴き出した。]
あっはっはっはっは!!
そいつァ傑作だな、ギルバート!!
逆に俺も見てみたくなんたよ、その光景を。
あっはっはっはっは!!
[地に落ちた煙草を拾うことも忘れて、ナサニエルは腹を抱えて笑っている。]
[周囲を赤いペンキで塗りたくった景色もそうだったが、ハーヴェイがこっちを向いて笑っているような気がした。なんて満足げな表情なのだろう、と。
忘れていた疲労も思い出し、私は膝や腰が*砕けそうになった*]
[[バンクロフト家の客室の卓上、1枚のメモがおいてある。
─ヒューバート先生─
─これを先生が読む頃、俺は多分、この世に居ないかもしれない。長くは書けないけども、もしこのメモを読むことがあったらどうか俺の頼みを聞いてください。
俺の家の部屋の引き出しの中、一冊の日記帳があります。
それをどうか俺と一緒に埋めてもらいたいのです。
俺の…幸せだった記憶。大事にしていたいものだから。
先生、俺はいつまでも先生を尊敬しています。
どうか、お元気で
ハーヴェイ・ドナヒュー
メモと一緒に形見のように置かれていたピアス。
アレキサンドライトのそれ。
悲しそうな青緑色の光を放っていた──]
[煙草を拾い、ナサニエルは息を整える。]
ひィ……はは、は……
ああ、そう。それそれ。
ヒューバート・バンクロフト氏。
俺とは違って、超大金持ちで売れっ子の芸術家サンってヤツさ。
なァんかハーヴェイとは親しげだったし?まァ話聞けば分かるだろうってな。
[煙草についた泥を払い、ポケットにしまった。]
―安置所・内部―
[私自身も服を身に纏い、ようやく荒い息と亢奮が静まった頃。
シャーロットの横たわる台座の枕側の縁に、一つずつファロス―リモコン式のディルド――を並べていった。]
――――
Luther Lang
Rick Brander
Bob Dancsok
Irvine
Horace Wiseman
Owen Pengelly
Dusty Whatman
Baldwin Bancroft
Hubert Bancroft
Martin Gallacher
――
[ディルドの台座の裏側には金色でその名が刻印され、台座の目に付くところにはイニシャルだけが刻まれている。
死者に対しては半ば供養の気持ちで拵えたそれらは、冥界の闇の中で墓標のように――あるいは女神の神殿を囲繞する柱廊の周柱のように並び立っていた。]
ここに置いていく。
いずれ、ロティが家に帰る時に、一緒に持って帰るよ。
増えるかどうかは……わからないけど。
またなにか作ったら見せに来る。
[そう言い残すと、しばしの別れに口吻を交わす。
彼女を愛惜する唇は離れ際に下唇を含み、名残を残すように僅かに吸った。唾液が銀糸となって暗中に残像を引いた。
私はガラスの感触を踏みしめながら、ゆっくりと扉へ向かう。扉の前で、この場所を訪れた時にいつも感じる身を裂くような惜陰の思いを振り切り、やがて外へ滑るように出て行った]
―安置所・外―
[外に出ると、黒々とした木々の鬱然とした連なりの隙間から仄かに差す月明かりが目に入った。]
Il Mostro - 怪物 - ……
[呟きが漏れる。
わずかに首を擡げ、目を細めながら薄い光に躰を洗う。
未だ火照るように躰を包む淫欲の残滓が夜気に溶け、私の中の獣が静穏な眠りにつくのを待つ。]
身も魂も灼き尽くさずにはいられぬこの想いは――
――怪物のそれか――?
ロティ……
[鼓動が平常よりほんの僅かの高まりに落ち着いた頃、ひしひしと胸に迫るのはやり場のない哀しみだった]
――この想いはどこへも辿り着かないのではないか。
娘はやはり戻ってこないのではないか。
ただ、現実から目を背け、おぞましい獣欲のままに
娘を穢しているだけなのではないか。
たとえ戻ってきたとして――
シャーロットの私に向かう眼差しが
嫌悪で歪んでいたとしたら……
ああ……
[それだけは耐えられなかった。懊悩に髪を掻きむしりながら膝をつき、顔を覆った。]
――許してくれ
君なくしては生きてはいけない私を――
[誰の耳に届くこともない哀哭が、小さく漏れていた。
ボブ・ダンソックへの苛烈な瞋怒。
何者かの心臓を食したと思しきステラへの嫌悪。
だが、私自身も気がつけばいつしかおぞましい怪物に成り果ててしまった気がしてならなかった。]
[ややあって、感情の昂ぶりが治まった私は安置所の錠を下ろし、コードヴァンの靴底を穿って作った隠し場所に鍵を滑り込ませた。
安置所の扉が目に入る灌木の陰に隠れるように寝袋を敷くと、身を横たえる。
真夜中の墓所。そして、安置所。
おどろおどろしくも凄絶な古い記憶を嫌がおうにも思い出す。
あの時見た光景――]
ミッキー……
[鮮血を噴水のように迸らせる脂肪に鎧われたぶよぶよとした肉塊を――軽々と抱き上げていたのは――]
……ぁあ……ナッシュ……
教えて欲しいんだ……
あの時……
……俺た……ち……は……
[このような場所で眠りにつくなら、せめて悪夢は見ないように――
意識を別のものへと向ける努力も虚しく、私の意識は幽冥の奥底へと堕ちていった]
美術商 ヒューバートは、流れ者 ギルバート を投票先に選びました。
――――――
遠くでなにかの音楽が鳴っている。回転数をひどく遅く設定してあるレコードプレイヤーにかけられているかのように、どんよりとした唸りとして響いてくる。
「ぁん…… …ぃい…… …気持ちいい」
耳に絡みつくような嬌声と、ぬぷっ、ぐちゅっと粘り気のある水音が断続的に響く。平静な時は玲瓏とした佇まいもありながら、感情が入れば少し高く甘い響きを帯びるその声音はひどく聞き覚えがあった。
忘れるわけがない。それは――
「シャロ、素敵だよ。ほら、先生にもっと――」
聴かせてあげなよ、と語尾は笑い声に包まれた。
「ハァアアァアヴ!!!」
私は喉が裂けるほどに叫び、螺旋階段を滑り降りていた。
シャーロットの語尾の【et】の音が舌足らずに掻き消える特徴的な発音は、間違いなく彼の――友愛の情を信じて疑わなかった愛弟子のものだった。
階下の作業場に降り立った私の眼前には、信じられない光景があった。
透明アクリルの作業台の上で、ハーヴェイがシャーロットを後ろから抱きかかえた背面座位の姿勢で交わっている。
シャーロットの両足はハーヴェイによって抱え上げられ、シャーロットの陰部を開陳させるかのように曝け出させていた。綺麗にそり上げられ陰一つないヴィーナスの丘はハーヴェイのしなやかな屹立に蹂躙されている。
勢いよい彼の突き込みに儚い花片は歪むほどに押しこまれては引き出され、しとどに濡れそぼった秘唇はぬらぬらとハーヴェイのファロスに纏い付く。
「……あんっ! ああっ…」
シャーロットが怺えきれないように短い叫びを上げた。
作業台の下には業務用の大型の鏡が横たえられ、交わりのその様を真下からまざまざと見せつけていた。おぞましいほどに淫らな光景に、グラグラと視界が揺れた。
「やめろ! なにをしているんだ、二人とも――」
邪気のない表情が答える。
「俺、先生のこと、尊敬してるんです。恩師の“知ってること”はなんでも知っておきたいって思って――」
“知ってること”だって? 思わずその言葉に胃が収縮しヒリつく。
「これって、愛――ですかね」ハーヴェイはいつもするように、きょとんとしたような表情を作り――それはすぐに天使のような笑顔に綻んだ。
「知ってるんですよ。先生が時々、この台の上でシャロにポーズをとらせていること」
やめろ、やめろ!と叫びが囂々と頭蓋に反響する。
そしてこれも――とハーヴェイは腰を突き入れる。
「――先生のしてることですよね」
声にならない叫び声に、私は身を波打たせた。
「ロティ、何をしているんだ。やめないか!」
彼女はハーヴェイに抗うどころか瞳は夢を見るように彷徨い、半開きになった口元から雫を滴らせながら妖艶な笑みを浮かべていた。
「パパぁ、つらいでしょ? 苦しいでしょ?」
あたりまえだ、もうやめてくれ、と懇願の叫びが迸る。
「でも、パパはこの苦しみからこそいいものを作ってくれるわ。それがとっても――」
気持ちいいの、とその言葉を聞き終えるまでもなく私は台の上に飛び乗り、二人を引き倒していた。
――ああ……なぜこのようなことになったのだろう。
決して交わりを止めぬ二人に怒り狂った私は、シャーロットを後背位で犯すハーヴェイの薄い臀部を割り開き、怒張を突き入れていた。
「先生、きつ! ぁあぁ……っ」
激しい抽送を繰り返し、ハーヴェイの首筋に歯を立てる。彼の唇は戦慄に震え、熱い吐息が零れた。荒々しい呼吸音が周囲に響く。
奇妙なことに、シャーロットの姿は掻き消えていた。床に横たえられた鏡には、苦悶と快楽に眉を寄せ激しく身を波打たせているハーヴェイの姿がありありと映し出されていた。
その時、不意に唸りとなって響いていた楽曲が鮮明に耳に届いた。
高らかなファンファーレが鳴り響く。――『断頭台への行進』
鏡に映されたハーヴェイは実体となり、今やハーヴェイは私に刺し貫かれながら自分自身と交わっていた。否、それは――
『ユーインなのか?』
ティンパニーの連打が聞こえる。
私が犯しているのがハーヴェイであることを確認するかのように、背中の疵痕に爪を立てた。
「ひぁあっ!」
ハーヴェイは鋭く叫んだ。
足下がじっとりと粘り気の帯びた液に浸されている。気がつけば赤黒い色彩に周囲は染まっていた。
私が傷つけたのだろうか? そうではなかった。
ハーヴェイが突き上げるたびに、ユーインの下腹部が裂け、赤黒い血糊と共に内臓が零れ落ちる。ハーヴェイはユーインのすべてを味わいつくすように体内に手を差し入れ、内臓を引き出してはこねくり回していた。クラリネットが音色を奏でていた。
私はおぞましさに半狂乱になって腰を突き上げる。そうすることが、早くこの地獄から逃れるすべであるかのように。
幾度も繰り返された抽送に、引き出され高まりを目指す悦楽。哮る情欲のままに疵痕を引き裂いた刹那、彼は首筋を仰け反らせた。
「ああっ! 先生――」
彼の内腿がブルブルと震え、絶頂に達すると同時に――
天蓋から落下した鋭利な硝子板が重なる双子の頸を両断していた。
ハーヴェイとユーインの首は絡まりながらコロコロと台から転がり落ちる。弦のピチカートがバウンドする音に重なりながら。もうどちらがどちらかわからない。
「あーあ。首だけになっちゃった」
二つの首の発する声はステレオのように重なり唱和し、
「残った躰は綺麗に食べてくださいよ、先生?」
クスクスと嗤い声が粘りつくように耳の奥に残った。
――――
―安置所脇―
うぁああああぁ!!!
[叫びと共に、私は目を醒ましていた。
酷く生々しくもおぞましい、悪夢だった。
私の無意識が夢の中でギルバートの行為に同調していたことなど知る由もなかった。そのような夢を見たのは、安置所のすぐ側だったせいだろうか。それとも、シャーロットとの罪深い情交の後だった所以だろうか。
ただ、ハーヴェイが既にこの世に居ないことだけは直感的に感じ取っていた]
ハーヴ……
俺は君に……
[伝えたいことを伝える相手は既にいない。
悔悟の嘆きは言葉にならなかった。
閉じられた瞼が震え、一滴の哀しみが頬を伝い流れ落ちた]
[主がさったバンクロフト家の客室の卓上、1枚のメモがおいてある。
─ヒューバート先生─
─これを先生が読む頃、俺は多分、この世に居ないかもしれない。長くは書けないけども、もしこのメモを読むことがあったらどうか俺の頼みを聞いてください。
俺の家の部屋の引き出しの中、一冊の日記帳があります。
それをどうか俺と一緒に埋めてもらいたいのです。
俺の…幸せだった記憶。
ずっと大事にしていたいものだから。
先生、俺はいつまでも先生を尊敬しています。
どうか、お元気で。ありがとう
ハーヴェイ・ドナヒュー
文字は余程苦しんで書いたものなのだろうか
字は所々歪み、涙の痕のようなものすら認められる。
事実、人狼の血に消えかけていた意識をかき集めて書き記したものだったのだろう。
後日、発見されたであろう日記は一見他愛のないものだったのかもしれない。
そこには両親からの虐待や兄との近親相姦についても何も記されていなかった。
初めてヒューバートの所に訪れたこと
褒められたことが恥ずかしかったがとても嬉しかったこと
そこで出合った4歳年下の少女にほんの少しだけ恋心を持っていたこと
ハイスクールで美術展覧会で初めて賞を取ったこと
大学に合格した時のこと
祝いにヒューバートと叔父から大好きだった画集を貰ったこと
他人にはとりとめもないことばかりだったのかもしれない。
ただそこに記されていた全てのことは愛情を知ることができなかった青年が、大切にしていた思い出だった
そしてメモと一緒に形見のように置かれていたピアス。
片時も肌から離さなかったアレキサンドライト。
青年が恩師に残せるものはそれだけだった。
しかし、自分と恩師、そしてその愛娘と過ごした時間を全て知っているのもこのピアスだけ。
主人の肌から離れたピアスは、ただ終焉の時の到来を悲しむような青緑色の光を放っていた──*]
[ローズマリーの遺体を次に発見したのは、アンジェリカの二階に電燈が灯ったままなのにも関わらず、「CLOSED」の看板がいつまでも変化しない事を不審に思った常連客だった。
彼は、かつてローズマリーに合鍵を貰っていた<間柄>だったが、ボブ・ダンソックがアンジェリカに演奏に入るようになってから足が遠のいていた。小学生になる彼の息子が、彼が「仕事で外泊をした夜」に熱を出したのが切っ掛けだったかもしれない。
心臓を抜き取られたローズマリーの遺体を発見し、彼が帰宅すると息子が彼の奇妙にこわばった青い顔を見ただけで泣き出した。息子の泣声に何事かを案じる妻に、彼は酒場の女主人が殺されていた事を「山崩れに関して奇妙な噂を聞いたので、他にも噂が無いかあの店の常連客に聞きたかったんだ。バンクロフトさんにも来ているかもしれないと思ってね。」と後ろめたさに言い訳を添えて説明した。]
[ 「山崩れが災害を利用して人為的に起こされたものかもしれない。」
「山道の封鎖前に山道で作業をしている奇妙な救助員が居た。」
「実は町の人間が牧師に手を出したのでは無い──。彼は目撃者なのだ。」
と、と言う噂があったのは本当だった。
さらに、山崩れが引き起こされたのは、「凶悪な指名手配犯がヘイヴンに紛れ込んでしまったので彼を逮捕するため」と言うのがもう一つの噂だったが、彼にはそちらは的外れな噂に思えた。仮に本当に凶悪犯がヘイヴンに紛れ込んだのだとしても、連邦捜査局が町ひとつを巻き込んでそこまでの事をするだろうか。何処かの秘密結社でもなし、テレビドラマや映画の様な事がある訳が無い。それに、彼が把握している限り、今、ヘイヴンのこちら側に要る部外者は、ヒッチハイクで現れたあの若者だけだった。]
[彼はかつて愛人関係にあったローズマリーの遺体だけを、安置所へ早く運びたかった。遺体運搬に家の車を使う事について妻の了承を得る為に帰宅したのだが、目の前の息子は「それなら、ステラ先生が心配だ」と言って彼女の家に行くと言って聞かなくなってしまった。
「ステラ先生とはつい最近、道でお会いしたじゃないか。ちゃんとお元気そうな様子だっただろう?」
と言い聞かせようとしても、息子はイヤイヤをして首を横に振るばかりで、頑として譲らない。
確かに「黒い犬達」は始末されたらしいが、最近、山に「野犬」が出たと言う話も聞く。ゾッとしない事がこのヘイヴンで連続して起きているのは彼にも感じられていたし、息子も同様なのだろう。
彼は後部座席に彼女の部屋にあった真新しいシーツで包んだローズマリーの遺体、助手席には息子を乗せ、ステラの自宅に向かう事になる。彼と彼の息子が、冷蔵庫のローズマリーの心臓に気付く事が無かったのは幸いだったかもしれない。ただ、彼等は心臓にかわり、毒殺されたステラの変わり果てた姿、白く清純な肌に刻まれた複数の入墨を目撃してしまうのだが…──。]
──墓地(ヒューバートが訪れる以前の夜中)──
[うっすらと甘いステラの香水のラストノートが残る車の中、後部座席の二人の女性の遺体を無事送り届ける事が出来て、彼は安堵している。
流石にあのユージーンの顔にも疲労が滲んでいたなと思う。
連日の作業に加えて、昨日、安置所近くまで侵入者があったらしい。
「死人に未練を持った遺族の誰かかい?」
驚いた彼が聞くと、ユージーンは「いや、それなら理屈は分かるんだが──」と言葉を濁した。詳しく聞くと、侵入者はヘイヴンの人間ではなかったのだと言う。しかも、見回りに来たユージーンに捕えられると、監視小屋に鎖で繋いだ瞬間、何かを恐れるように、歯の奥に仕込んであったらしき毒物を服用して何もしゃべらずに死んだと…。
彼はユージーンの話と、例のFBIの噂は符合するのでは──と少し考えたが、その場では口にはしなかった。アーヴァインは既に帰らぬ人となっている。明日あたり、ヒューバート・バンクロフトに声を掛けて、小規模の会合を呼びかけるべきなのかもしれないと考えた。]
[「侵入者は一人だけだったんだね?」とユージーンに聞く。
ユージーンは、あの小さな天窓から誰かが安置所に侵入していたので無ければ、他には誰も居ないよと答える。安置所の天井にある天窓は換気の時間は開いたままになっているが、ちょうど彼の息子くらいの大きさの人間──小学生くらいで無いと侵入は出来そうに無かった。
ユージーンは「さっき一緒に二人の遺体を運んだ時も内部は静かだったろう? とは言っても、遺体の詳しい状態は確認しない伝統になっているのだけどもね。」と彼に告げた。彼は「静かなのなら構わないんだ。」と答えた。]
[見回りの時間を侵入者の死体の後始末で終え、彼の運んだ遺体を安置し終えたユージーンが、一旦、休憩のために監視小屋に引き上げるのを見送って、彼は墓地を後にした。
死体運びに関しては、これで終わりだ。──暫くは。老いた自分の両親を送る日までは、安置所に近付く必要がないと良いのにと彼は思った。
父親を待つうちに、泣きつかれて眠りに落ちた助手席の息子の頭を撫で、息子を起こさないようにシートベルトを掛けさせてから、静かに車を発車させた。*わが家に向けて*──。]
…残酷だわ。
[声には畏怖か驚嘆か、人目では推し量りにくい色が入っている。
立ち上がり、ギルバートのほうへ向けて歩き始める。
ナサニエルの斜め前から、横切るような形に。
私はナサニエルの鳩が豆鉄砲を受けたような顔、視線には目もくれない。
代わりに、冷徹な言葉を投げかける]
同じかもしれないわね――でも
私の血のほうがディープよ…
[私はギルバートの側へより、ハーヴェイの顔を見た。彼がそれを望んでいたのかは解らない。だが彼は、自らに沸き起こる衝動と戦っていたのだろうかと推測する。
このような結果を望むという衝動なのか。衝動の結果自らの意志でこうなることを望んだのか。
彼はその精神的変化に耐えられなかったのだろうか。もっとも私は、肉体的変化が見られず、中途半端な者が中途半端な者を見る…というやるせない気分になる。]
ふぅん……
よりディープ……ねぇ。
全くもって、面白そうなオハナシが聞けそうな予感。
[火の無い煙草を咥え、ネリーの後ろ姿をニヤニヤとした表情で*観察している。*]
――自宅――
[それは不思議な光景だった。
"私"は今、寝室で自分の死体を眺めている。ベッドに蹲り息絶えてしまった自分の死体を。]
何故こんな事に…?
["私"は疑問に思いながら目が覚めた時より少し前、丁度バートとハーヴェイさんが部屋を後にするあたりの記憶から、その後意識が途切れるまでの記憶を丁寧になぞった。
そして一つの答えに出くわす。]
あぁ、"わたし"は…毒を盛られたんだわ、きっと――
[込み上げてくる嘔吐感と腹痛が、命を奪う物と認識されるのはそう遅くは無かった。明らかに解毒作用が間に合わない。地獄の苦しみ。身体がバラバラになりそうな鈍痛。簡単に死んだ方がマシというのはこのことを指すのだろうかと、霞む視界の中、中々手放せない意識でぼんやりと考えていた事を思い出す。]
でも…なんで彼が"わたし"に毒を…?
[しかし言われも無い殺意に首を捻る。犯人は誰だか容易に想像が付いた。バートは外に見回りに行くと出て行った。"彼"だけが"私"の傍に長く居た。救急箱を枕元に置いていったのも"彼"だった。だからそれは迷うことの無い事実。]
――もしかして…"彼"も…仲間…?
["私"は一つの仮説に辿り着くも、しかし起きてしまった事実よりもまずは今目の前で起きている事に関心を寄せる事が重要に思えた。
とりあえず"私"は再び目を閉じ、頭の中を*空白にした*]
―工場―
[その場所は人の気配が消えて久しかった。今や身じろぎもせず重々しい体躯を横たえたままの機械の群れは、象の墓場を思わせた。
幽かに黴臭く澱む古びた空気。静閑とした闇の中を、そこに残された気配の痕跡を一つ一つ確かめでもするかのように緩やかに歩む。
やがて、事務所の扉の前で足を止めると鍵を開け、中へと足を踏み入れた]
―工場・事務所―
[天井には雨漏りの修理の後が残されていた。事務所のエリザが使っていた机の上は、神経質な彼女の性格そのままに整然と整理が行き届いていた。
ふと、簡易キッチンに向いた視線がその場に似つかわしくないものの上に留まる。
簡素で限りなく実用的なその部屋の中で、そのティーポットとカップ&ソーサーだけが華やかなよそゆきの装いで佇んでいた。
恋人のように寄り添う二つのカップが、その場に居たであろう二人の関係をなにより雄弁に物語っていた。
ジリ……と微かに胸の奥を今はもう遠い忘れかけた古い感情が灼いた。
奥の扉を開けると、くつろげるようにソファーと簡易ベッドが置かれていた。私はソファーに腰を降ろすと、読みかけだったエリザの日記を再び読み始めた]
[読み終えると手帳を閉じ、かすかに首を振った]
ナッシュ……
[そこに書かれていた内容に、私の頭はひどく痛んだ。
ぎゅっと目を閉じ、眉根を寄せたまま深い溜息をついた]
ナサニエル・サイソン
ナサニエル・オリバー・メラーズ……
[過去と現在。断絶した二つの名を呟く。
その奥に秘められた謎は、この奇怪な一連の事件に何らかの関係があるのだろうか。それは、確かめなければならない事実だった]
[そして――]
近親…相姦……
[エリザの日記には私が忘却へと押しやった記憶の鍵が残されていた。
ラルフとニーナ。二人は近親相姦の関係にあったのだ。私はエリザから婉曲的に相談を受けたことがあるその事実の記憶を消去したのだろう。ラルフの顔と共に。
ニーナの面影がシャーロットと重なるが故に――]
――暗闇の中――
[何処からか清楚な歌声が聞こえてくる。]
The Lord is my shepherd, I shall not want,
(主は僕の羊飼い 僕はひもじいことがない)
He maketh me to lie down in green pastures.
(主は僕を緑の牧草の上に横たわらせ)
He leadeth me beside the still waters.
(静かな水のほとりに導いてくれる)
[それは"わたし"が好きだった詩篇の一つ。"私"の伴奏で"わたし"はよく謳っていた事を思い出す。]
[一体誰の視点から考えたら良いのか。女は困ったように視線を宙に浮かべる。
この町で【ステラ・エイヴァリー】と名乗っていた姿は、たしかに"彼女"であって"彼女"ではなかった。
しかしそれはヘイヴンに住まう誰もが知らない事実。そして"ステラ"本人も知らない事実だった。]
面倒だわね…。こう【何年】も【入れ替わって】居ると、時々"私"自身も【本当の姿】がどっちだったのか。忘れてしまうわ…。
[苦笑交じりで女はため息を吐く。眼下には変わらず【ステラ・エイヴァリー】の亡骸が横たわっていた。]
[女は亡骸の上で気だるそうに髪の毛を掻き上げる。ふとした仕草から甘い匂いが零れる。聖女と悪女を表現した彼女の為だけに作られた、聖水ベースの香水が。
その香りはトップは聖女をミドルは悪女を、そしてラストはその二つの姿を脱ぎ捨てた素顔を表現する。
時間と共に全く違う顔を見せると口にしたのは、"ステラ"がヘイヴンの町へ来るまで世話になった援助者の話。その例えをモチーフにこの香水は作られていた。
まだ娼婦になったばかりの"ステラ"に贈られた、援助者からの最初のプレゼント――
しかし今になって考えてみると、それはまた言いえて妙だと女は感心する。]
だって…"私"は修道女で聖女だった【ステラ】ではないんだもの…。ステラを誑かし、破滅への道へと導いた悪い女…。ねぇ?そうでしょう?【シンシア・アリスン】?
[感心しながら、再び眼下で横たわる亡骸にくすくすと意地の悪い微笑を落とす。自らの【本当の名前】を口にしながら。]
――暗闇の中――
[歌が途切れた。詩篇の曲は終わってしまったみたいだった。"私"の伴奏も、ステラの美しい歌声も、今はもう聞こえない。]
もう少し…聞きたかったなぁ。久々だったから…。ステラの天使の声を聞くのって。もう…何年前から聞いていないのかしら…?
["私"は記憶を辿りながら指折り数えて、改めてその年数の長さに苦笑を漏らす。
そして懐かしそうに目を細めながら改めて記憶を辿った。あの日のことを。ステラの命を奪った日の事を蘇らせる様に――]
[視線の主の姿は見えない。僕には目玉が無いのだから、当然だったけれど。向けられているのが視線かどうかも、実際のところは分からなかった]
……誰だよ、お前。
[ただ、彼――“彼”であることだけは何故か確信していた――の存在はいつかどこかで感じたような、強い既視感があった]
[ヘイヴンに住まう【ステラ・エイヴァリー】が持ち合わせていた記憶には、ほんの少し事実と違う部分があった。それは"私"自身が予想を大きく上回る精神的ショックを受けたために、記憶があやふやになったためだと思われる。]
【ステラ】が持ち合わせていた記憶。それは全てが少しずつ真実と違っている。]
["彼女(【ステラ】)"が持ち合わせていた記憶では、ステラとシンシアは身体を許す仲で、その秘め事を神父達に知られてしまい、ステラは罰の為に神父達にセックスを強要させられていた。
しかし穢れた聖女は次第にその蜜の味に溺れ、進んで罰を受けるまでに乱れ狂ってしまう。]
[その反面、シンシアとの官能的な愛を断ち切ることが出来ず、ステラは【シンシアとの愛を貫く為に、神父達の罰を受けている】という理由を付けて、全く違う性愛にずるずると溺れていった。
【犯した罪には、それ相当の罰を受けなければならない】
実に彼女(ステラ)らしい理由をでっち上げて。]
……僕は死んだ。
ウェンディに首を絞められて僕は死んだ。
僕の死体はそこに転がってる。
ほら、そこに。
[“彼”は沈黙したままだった。応えの代わりにただ、可笑しむような意識の波が触れてくる。少しむっとして、自嘲気味な感想を僕は続けた]
いや、もう死体とも呼べないか。
シャーロットに骨まで噛じられて、脳味噌のひとかけらまで舐められて。残ってるのは残骸になった欠片だけだ。
そんな僕に何の用だよ、お前。
[しばらくの間、僕は心の中の憤懣を抑えながら黙っていた。僕に歯があればギリギリと音を立て、まさに歯噛みしていただろうと思った。返事のない焦れったさにもう一度、問い詰めようと思った時――]
『……プッ、クックックック……』
[場違いなほどの笑い声が僕に投げかけられた]
[しかし真実はこうなのだ。
ステラとシンシア(私)が、身体を許す仲になったのは本当の事。事実二人でよく人目を盗んではお互いの身体に触れ合っていた。神父様が不在の日、教会のオルガンで連奏をしていた鍵盤を滑る指が、いつの間にかお互いの体の敏感な部分を掻き鳴らしていた時は、頭が変になるくらい快楽を味わったのを覚えている。]
[そして"私"達の仲が神父様達にばれたのも本当の事。でも其処からが違ってくる。
何らかのきっかけで、神父様達に知られる羽目になった"私"達の秘め事。その後罰と称して彼らの性欲の捌け口になっていのは、ステラではなくこの"私"だったのだ。
神父様達は禁欲の規律に耐えられなくなると、よく"私"を連れ込み裸にした。最初はノーマルなプレイから。そしてエスカレートしていくにつれて内容はだんだんハードになって行った。]
["私"は元々アブノーマルなプレイには抵抗が無く、むしろ村での生活に退屈していたので、"私"も次第に神父様達の要求には快く応じるようになっていた。
その頃にはもうお互いの間に険悪なムードなど一切無く、需要と供給が合致した『契約』事として成立し、事が済むと済まなさそうに手を差し伸べてくる男達と談笑を交える程、"私"と神父様達の間には蟠りがなかった。
そう、全ては遊びの一環になっていたのだ。
少なくても、"私"と神父様達の間の中では――]
『……アッ、ハッ、ハッ、
ハ、ハ、ハハハハ……!』
[失笑から苦笑、そして爆笑と変わっていく“彼”の笑いにカチンときた。思わず怒鳴り返す]
何だよお前!
何がそんなにおかしいんだ!
この…………!
[目の前で真っ赤なカーテンが下ろされたように意識が紅く染め上げられ言葉が続かなかった。その間も“彼”の弾ける笑い声は止まらない]
『アハ、ハハハ、ハッ、ハハハ……!』
[そして"私"はステラにはこれ以上穢れない人でいて欲しいと思い、あえて神父様達との蜜会の事は伏せていた。
もし彼女に知られたら…。きっとステラは廃人になってしまうことが窺い知れたからだった。
何故ならステラは根っからのレズビアンだったからだ。しかも相当プラトニックな――]
[彼女が神の道に進んだのも、家がクリスチャンだという理由も然ることながら、一番は世の男達が持つ欲望の眼差しから自らを守るためであり、穢れたくないという一心からくるものだったようだ。
"私"はその事実を初めてステラをベッドに誘った事後、快楽に頬を赤く染める乙女な彼女の口から聞かされた。告白する彼女は泣いては居なかったけれど、少し疲れきった表情を見せていた。それは後に喪失した空虚感から沸きあがってきていた表情だったと、"私"は理解するのだが。]
[憤りを表す言葉、苛立ちをぶつける相手を見出せないでいる内に、“彼”の笑いは収まった。今まで見たこともない奇妙な生き物を発見した学者みたいな、探り探りの問いかけが届く]
『……いや、笑って悪かった。すまないな。しかし……まだ気づかないのか? 本当に?』
……何を。
……何に気づいてないっていうんだよ。
[そんな事もあり、"私"は神父様達との秘め事を、ステラには絶対悟られないようにした。
緊縛の痕は極力残らないように工夫したし、行為を行う場所も時間も、とにかく詳細に気を配った。全てはステラをそして皆を守るために。]
[しかし運命の悪戯は意地悪で。
必死に隠し通していた秘め事は、ある日最悪の結果になって目の前に突きつけられた。]
―森の中にて―
………で、どーすんの?
こんな森ン中で生首持って立ち話?
[地面に座り、火のついていない煙草の先を歯で上下させている。]
ネリーはお前に話があるみたいだし。
話す場所だけ貸してやるよ。
俺ン家にでも来れば?
――は?
[何のことだかさっぱりわからなかった。半ば混乱しつつ僕は言い返す]
――いや、けど。死んだ事のある人間なんていないじゃないか。死んだらそれまでなんだから。死んで意識があるならそれは――
[その日も"私"達は細心の注意を払って行為に没頭していた。
気になることは最近、村にとある捜査か何かで警察が頻繁に出入りしている事だった。ステラは繊細な為、平穏が少しでも乱されると情緒不安定になる子だった。その度に"私"は彼女の為に曲を弾き、歌を唄い、精神を宥めていた。]
[数時間前までステラの為に歌姫になって居た"私"は、今は神父様達の慰め者として淫らな声で歌を唄っていた。享楽に狂う甘美な歌を。]
[その歌がどれ程部屋を満たした頃だろう。
恍惚に溺れ霧のかかった白昼夢を見ていた"私"の視界が、突然真っ赤に染まった。
その直後、切り裂くような断末魔――]
["私"は一瞬何が起きたのか解らず、ただぼんやりと視界をスローモーションのように動かしていた。
流れ行く景色の中には、苦痛で顔を歪ませた男達と。
黒いヴェールと服に身を包み、手元を真っ赤に染めた――]
ス…テラ…?
いや、そんな、馬鹿な。
無茶苦茶だ。どこに根拠があるんだよ。
死んだからといって意識がなくなるとは限らないじゃないか。誰が確かめたんだ、そんなこと。
……そうだな。
ではそうしようか。
[ネリーに視線を移し、軽く目で促した。
樹木の根元に置いたバックパックを担ぎ上げて、ナサニエルに従う。]
[混乱しながら必死に論理を組み立てようとする僕の思考を、“彼”の追い打ちが粉々に打ち砕いた]
『――いや。お前は人間じゃない。より正確に言うなら、ほんの少しだけ、人間じゃあない。お前は、人狼の血族だ』
……は?
[言葉は"私"の認識より早く、目の前の人物を把握していた。
それは紛れも無くステラその人だった。
手には短剣を握り鮮血を滴らせて微笑みながら佇んでいた。
その姿は誰よりも美しく――
そして高貴だった。まるで背徳を犯した者を罰しに来た天使のように。]
[一瞬だけ彼女の姿に見ほれてしまっていた"私"だが、次に天使の裁きが振り下ろされるのを見て、咄嗟に彼女に向かって走りこんでいた。そして振り下ろそうとした手を何とか摑まえ、ナイフを奪おうとした。]
「どうして!どうして止めるの?!シンシア!あなたの為にわたしは裁きを与えに来たというのに!」
[狂ったように叫ぶステラを"私"は何とか押し止めようと手首を掴む。抵抗する彼女。押し止めようとする"私"。
しかし同じ同性という所為もあってか、圧倒的な力の差が無く。
やがて悲劇が起きる――]
[ギルバートとネリーを車に案内し、エンジンを掛けた。
車内には血のにおいが充満している。ハーヴェイの血か――いや、それだけではないかもしれない。]
……で。
まあ明日の朝になったら安置所にでも行くか。ユーインと同じ墓に入れようが入れまいが、とにかく安置所に入れンのがこの町のしきたりってヤツだし。
[煙草をふかしながら、車を運転している。]
[理解できないことば。
人狼の血族。Kindred of Werewolves.
単語の意味はわかる。
血族。Kindred.
血の繋がった一族。
人狼。Werewolf.
人と狼のあいのこみたいな怪物。
でも辞書的なその知識を呼び出しても、僕の混乱はまるで収まってはくれなかった。それどころか――]
["私"はステラを止めようとして、過って彼女の胸を短剣で刺してしまったのだった。力強く。そして深く――]
[體という器が無くなった今でもしっかりと覚えている。ステラの胸に吸い込まれるようにのめりこんで行った金属の手応えを。
すっと抵抗無く達した心臓。一瞬だけステラの目が見開いたまま"私"を凝視した。しかしすぐにその目は微笑みに細くなって――]
「あぁ、わたし…シンシアとようやく一つに…なれ…たのね…」
[一音ずつ弱々しく鳴る心臓の音を手に感じながら。"私"はステラの最後の言葉に小さく頷いて、気を失っていた。]
安置所……
[そう言えばそういう風習があるとセドリックに聞いたような、と声に出さず呟いた。
ハーヴェイの首は、バックパックから取り出した防水布で包んで、腿の間に置いている。]
『付け加えるならば、ヘイヴンの住民全体が――』
[聞きたくなかった。耳を塞ごうと両手を押し当てる。けれどその行動はただイメージしただけに留まり、“彼”は続けた]
『――人狼の血族だ』
………ああ。
理由はよく分かンねぇけど、この町のしきたりなんだってさ。
遺体がゾンビになって現れたらどうすんだよ、って感じだよなァ。……ま、ゾンビになっても逢いたいヤツがいるなら話は別だがな。あいにく俺にはそんなヤツいねぇし。
――自宅――
["私"は再び自分の亡骸を眼下にしながら、遠い昔の記憶を一つ一つ丁寧に思い出していた。
ステラの命を奪った後再び意識が戻った"私"は、ステラの修道服を剥ぎそれを身に着け、私の服を遺体の傍に置いて村を抜け出した。
今思えば咄嗟の事とはいえステラの身代わりになろうと思った上での行動だったのだろう。そして"私"は逃げる間に自ら記憶の改竄を行い、シンシアの名を捨て、ステラと名乗るように言い聞かせていた。自らを憎む対象にすることによって、少しでも"ステラ"の罪を軽くしてやろうと思って――]
でも…結局は"ステラ"自身も悩み苦しむ人生となったけどね…
["私"は自嘲気味にため息を吐いた。
その頃にはもう、空は白み夜はもうじき明けようとしていた。]
――自宅 朝――
[夜が明ける。何事も無かったかのように、今日も太陽は寝室にも光の恩恵を授ける。
でももう、この家にはその光を喜んで受けるものは誰も居ない。]
[ふと、誰も訪ねてこないはずの家に人の足音が響く。
聞いたことの無い音。わたしは首をかしげながらその音に耳を傾ける。]
[やがて空気は動き、わたしの身体はふわりと宙に浮く。どうやらこの町の仕来りに則って、安置所に連れて行かれるらしい。其れがわたしにとって幸せな事なのかどうかは解らない。
でも、今は素直にその行為を受けなければならない。だってわたしはもう――]
ゾンビ……ああ。あの映画のか。
──死人が生き返るなんてことはないのにな……
もっとも、昔は死んだと思われてたヤツが埋められる直前に息を吹き返した、なんて話、ざらにあったしな。
[やがて車のエンジン音と共に、わたしの身体は心地良い振動に揺られながら安置所に連れて行かれる。
ふと隣を見ると、同じような塊が目に付く。わたしはそれが瞬時にローズだろうということが理解できた。
これでも一応一時でも愛しいと思った相手ですもの。などと変な自信を持ってみた。本当は彼女の遺体に隠した香りに気付いたからなのだけれども。]
[そうこうしている内に、わたしの身体も安置所へ収められた。そこには他にもたくさんの塊があった。]
嗚呼、此処ではみんな一緒なのね…。
[わたしの心には、その時なぜか懐かしい気持ちが湧き上がり、胸が熱くなるような気持ちにさえさせられたように思えた。
わたし自身、この場所に来るのはこれが初めてであるにも拘らず――]
おいおい、マジかよ……
[煙草の先が、ぴくりと動いた。]
………。
まァ、お前は……そういうモン見てても不思議な感じはしねぇけど。何せ、次から次へと「人狼の血」を目覚めさせてンだからさ。
……俺もあんたのおかげて、クスリ無くても、他人が「殺された」っての嗅ぎ付けてイッちまうような、立派な変態サンになっちまったし。
[そう言って、ゲラゲラと笑った。]
さ、俺ン家着いたぞ。
そこの美青年も連れてきな。
"私"がこの村の出身であった事も。
そして、皆が知っている【ステラ・エイヴァリー】という人は、このヘイヴンには初めから存在しなかったという事を…。
[熱い掌が>>7:216内腿に触れ、更に熱い「それ」はずぷりと濡れた音を立てて、簡単に私の内側へと入って来る。
最初の時のような種類の引き攣れるような痛みや恐怖は無くて。
けれども、まだ未開の場所へ大きな質量が押し込まれる圧迫感と、お尻をあげたその恰好の所為で、硬く尖った先端が私の最奥のやわらかい場所押し上げるその衝撃に、私は鳥肌を立てて逃げてしまいたくなる。]
…あ、あ、あ。
パパ、駄目…──。
[私はうつぶせのまま胸を冷たい台座に押し付けるようにして、ただ荒い息を吐く。]
[静止の声をあげていたけれど、私にはパパを止める事は出来なくて。
止める事すら望んでは居なくて──。]
…ずっと。
こうされたかったのか、も、しれない──…わ。
[だから私はパパを試そうとしたのかもしれない。
…パパが欲しくて。]
[何時ものモデルの時のように私のフォルムと魂を記憶しようと言う動きでは無く、熱い男の大きな手がただ欲望と熱情のままに、私を奪う。
口唇が──、舌が──、私の背に触れる筋肉質なその身体そのものが。]
……ああ、私もパパのものよ!
[私は恍惚として囁く。]
[驚くべき事に抽送が始まった途端に圧迫感が消える。
まだ人生でたった二回目の出来事だと言うのに、私のその場所は歓喜の涙を流しながら震える。粘膜を擦り上げられる快感が、ストロークが打ち付けられる水音となって闇の中に響いた。
──浅く、あるいは早く。
動きが変化する度に、私は腰を揺らして身悶え、もっと深く──奥までパパが欲しいとその場所を締め付ける。]
[ボブ・ダンソックの声が聞こえる。
──私の魂の色?
それは何色なんだろう。だって、私はもう既に人間では無い。
人間だった頃は…──、ヘイヴンの異端者である彼が恐ろしかったけれど。「犬」に象徴される獣欲への秘められた願望と、去勢が怖かったけれども。
私はそれらを踏み越えてしまった…──。]
皆と同じ。
サファイアブルーだったはず、よ。
でも、今は…──?
そんな大したモンじゃない。
ホントに死人が生き返ったんじゃなくて、実際には死んでなかっただけだ。仮死状態って言うのか?
特に同族は死に難いからな。
[私の意識も朦朧と彷徨い始め、自分が何処で何をしているのかも何もわからなくなる。安置所にある声や光達の事も忘れ、ただ、パパの存在を躯で感じて、夢みるように恍惚と喘いでいるだけ。
低く掠れたパパの欲望を示す声に、身体の芯に電流が走る。
首筋を這う舌にも、歯で噛まれるの鋭い痛みも、すべて快感へ…。
意識がバラバラに何処かへ感覚だけを残して飛び去りそうになったその時、一層パパの動きが激しくなった。]
あ、あ…ああ──ッン。ン。
[私は再奥に硬いものが触れ、その先端から花咲くように熱い液体が迸るのを感じる。私のその場所は、それを包み込むように柔らかく降りて来る…──。
目蓋の奥で、躯の奥で──星のように熱いものが弾けた。]
[その後の私の意識は断片的なものになる。
内側にあるざらざらとした部分を擦り上げられて、悲鳴のような嬌声を上げた記憶だとか。抱えられた躯を覗き込んで、結合部分を見てしまった羞恥心だとか。
ただ、激しすぎる波に翻弄されながら…──。
パパの放ったものが、私自身から流れ出したものが。白濁と透明な粘液が混じり合いゴポゴポと言う、あり得ない音を立てて冷たいはずの台座に流れてその場所を汚す。]
[気が付くと、私を覗き込んだパパが、私の身体をタオルで拭ってくれていた。
私の下腹部はまだ淫水で僅かに膨らみ、柔らかなタオルが円を描くように丁寧に触れると、ビクビクと勝手に痙攣して、また入り交じった粘液を吐き出した。
私は身体を今だ流れ続ける快楽の電流に、倒れたままで翻弄される──。]
……また、栓を。
そんな事しなくても、私がパパ以外と──なんてあり得ないのに。
最初のは、自らそれを締め付けてしまう感触が恥ずかしくて、はずしてしまっただけよ。
それに、こんなにいっぱい……
精液が入ったままだと……私、妊娠してしまうかもしれない。
パパの子どもを。
…ああ。
[駆け上って来るそれらが私の再奥の更に奥までやってくる──。
その想像に、私はイメージだけで達してしまった。
喉を反らし喘いだまま、しとどに濡れた粘膜と舌が絡み合う、濃厚なくちづけを交したところで意識が途切れた。]
[気が付くと、パパの姿は無く。
私はまたドレスを着て棺の中に…──。
すべては夢では無かったのかと一瞬絶望感が襲う。けれども。
今度は苦も無く起き上がる事が出来た、私の下腹にやはりある違和感──貞操栓。
それに柩の枕もとの並べられた──それらは、]
………同族は死に難い、ねぇ。
それも「寿命が長い」っていうのの影響か?少なくとも、フツーの人間の生命力は軽く越えてそうな予感。
[ナサニエルは、トランクを開けようとした所で、ネリーに声を掛けた。]
ネリー、お前さ、鍵持ってる?
玄関開けて先入っといて。俺は後から行くから。……ああ、紅茶とコーヒーならキッチンの棚に入ってるから、好きなの飲んでていいぞ。
[ネリーにギルバートを案内させ、2人が家の中に入るのを見送った。しばらくの間、外で時間を潰し――]
さてと………。
[車のトランクの中には、黒いコートと血濡れたナイフ。それを取り出し、ナサニエルは2人にナイフをコートに包み、家に入った。]
[伯父と従妹の獣のような交わりをじっと見つめている青い瞳はただただ、悲しそうにその光景を目の当たりにする。
ニーナの棺にそっと寄り添いながら、悲しそうな瞳で。
ほろほろと少女は涙をこぼしていたけれど、その姿がシャーロットと同じくらいの年のころから育つ気配はない。
彼女が淫具のひとつを手に取る様子すらも、ただ無言のまま見つめて]
Rick Brander……
[台座に書かれた名前を読み、私は無造作に手に取ったそれを、一瞬で取り落とした。赤面。]
…リック…のなの。
や、やだ…。
[恥ずかしい、と言う言葉は口の中に消える。
何時の間にか、ボブ・ダンソックの呻き声は聞こえなくなり、室内に見えていた青白い光たちが、私の目は薄くなったように思えた。目を凝らす事で、やっとニーナの姿を確認する事が出来る。]
─ナサニエルの家─
[中に入ると、いそいそとネリーが立ち働いて茶の準備を始めた。
それがプロの家政婦というものなのかも知れないが、たった一日も居ないのに妙に馴染んでいる。
「コーヒーと紅茶どちらにしますか?」と尋ねられ、]
……あー。何でもいいよ。
…。
[じ、と見つめたその姿は寄り添う棺から身を離して蘇った少女へと少しずつ歩み寄る]
…もうすぐ、「ニナ」も目を覚ます。
……私も、消える。
[ほつりと呟く]
これは、仕方のないコトなのかな。
……私たちは、獣なのね。
[少女の棺の傍らに、向こう側の透けて見える姿のまま立ち]
Luther Lang……Rick Brander
…Bob Dancsok
[それらの全てに名前が刻まれている事に気付く。リックとは違う意味で、Bob Dancsokのところでその大きさに驚いて、私は固まった。
ゆっくりと掌を沿わせるようにして、試みに握ってみるけれど、到底ての中にもおさまり切らない…。私は息をのむ。そして、
私が唯一知っているその形──Hubert Bancroftのところで、また躯全体がふわりと浮かぶような甘い酩酊感をおぼえた。
無意識に口唇を舐めて、私は柩の外へ降り立つ。]
―自宅―
[シャワールームに入ると、血濡れたナイフを水道の水で静かに洗う。血は容易に流れるが、どうにもヒトの脂が消えない。水音がキッチンに聞こえているかもしれないが、彼にとってはそれどころでは無いらしい。
床に広がった、血と水が融合した液体を見て、ナサニエルは呟いた。]
………俺、推理モノを書く才能は絶対にねぇな。
[床のそれを流すと、黒いコートとナイフを書斎に放り投げて鍵を閉め、ギルバートとネリーが居るキッチンへと向かった。]
[足どりは随分確かだった。
私はニーナの柩の傍まで歩み寄り、落ちたままになっていた侵入者のナイフを拾い上げた。]
[気が付く…という表現はおかしいかもしれない。
ただ、何かが居る、と感じたのは冷たく暗いそこだった。
もう苦しさは感じない。開放された精神に生前張り詰め、病んでいた気配は微塵も感じさせない]
…ここ……?
[言葉に詰まる。
僕の残骸はあそこ。冷たく暗いこの霊廟の石床の上。けれどここ、僕の意識が漂っているこの場所は――]
くらい。けれど、温かい。
せまい。けれど、窮屈じゃない。
誰かの体温に包み込まれてるみたいな、これは――
あー。俺、コーヒーがいい。
ギルバートは?
……あの血のにおい嗅いだら、紅茶のにおいなんかわかんねぇ気がする……
[頭をぼりぼりと掻きながら、ナサニエルはキッチンに現れた。]
……ああ、ギルバートやネリーが紅茶の方がいいなら、俺も合わせるけど。
――――――――――――――
《ナサニエル・オリバー・メラーズの手記より》
"MOONCHILD"
I've got lost all of my memories about her.
[その文字の下には、無数の消し跡があった――]
[私はナイフを握りしめ、ニーナの柩の蓋に突き立てた。
何度か突き入れ、浮いた蓋をこじ開ける。
──…私は確認したかったのだ。]
私と同じ縫い目…。
だけど、喰いちぎられたみたいな無惨なギザギザの傷口。
内臓のあった処が凹んでる──のは喰われたからなのかな。
…ニナも生き返りたいの?
ごめんね。でも、私、知ってるの。
──ニーナと、ステラ先生は人狼としては目覚める事が無い血の持ち主だって事を。
[私は再生した私の身体に埋もれたままになっている一本の手術用の糸をブラウスの内側に手を入れて引っ張っり抜いた。]
何故だか分からないけど、見えたのよ──。
そして、ネリーの事が気になっているうちに……。
私は誰かに一度殺されてしまった。
[目の前でこちらを振り返る少女は生前共に笑い、遊んだシャーロット。
こちらを向いたということは俺が見えるのだろうか。
そしてその手の中のナイフを見、ふ、と苦笑い。
彼女には似合わないな、と思いつつ。
そしてその体から出る気配に、少しだけ眉をしかめた]
んー……まだちょっと、な。
なんというか、アレだ。
血のにおいを嗅いで精神はハイになるけれど、肉体はさっぱりってヤツだ。嗅覚が前よりか敏感になってる分、今まで気付かなかったような部分まで嗅げるようになっちまったのもあるし。ま、あと少し経ったら、肉体の方も慣れるんだろうけれどな。
……っていうか、紅茶はほんの少し邪魔なニオイが入るだけで、ただの苦い湯っていう味にならないか?
…ハーヴ?
[以前と変わらぬ口調で呼びかける。
私が小首を傾げてしまうのは、ハーヴの姿が見えず──目を凝らしてやっと分かる程度に透ける青い光が見えるからだった。
それでも、ステラがローズマリーの魂が分かったように、私にはそれがハーヴなのだと思えた。]
[誰かの感情が流れ込んでくる]
ん……だれ?
[“彼”とは明らかに異なる気配]
誰だ……此処は?
[すぐ傍に感じる。女性の、それも良く知った誰かの訝しむような思念]
……シャー……ロット……?
……此処が……?
…そうね。
生き返らせたかった。
大切だったから。
[声は不意にりんと鈴の響くように空気を揺らして一変する。
それはシャーロットの記憶にもしかしたら引っかかっているかもしれない声。
シャーロットと同じ位のニーナの姿は波を打って融け、そこに残るのは彼女の母親より幾分若い女の姿]
シャロ…
[こちらを呼び掛けるシャロの声で自分の姿は見えていないのだと知る。聞こえなくてもいい。生前と同じ優しい声色で呼び掛けた]
[少し奇妙な間が開いた。]
さあ。味には煩くないんでね。
[湯気の立つカップをネリーから受け取る、その横顔は何とはなしに素っ気無く感じる。]
[まだ分化を始めない僕の耳に、声が聞こえてきた。ハーヴェイの名を呼ぶ声]
……シャーロット。
[声の位置は、すぐ傍ではなかった。僕を取り囲んだ暗くて狭い場所。全周囲を伝わって、彼女の声が聞こえてきていた]
[見えない。けれど見える。
僕が居るのはそう、きっと――]
『魂は血が受け継ぐ』
[聞こえてきた“彼”の声。ならば僕は]
これから――生まれようとしているんだ。
[ニーナの柩の傍で聞こえる声。
溶けて変化する光。
それは──懐かしい…ニーナの、]
──…ママ。
ううん。
[エリザでは無いと言う事は勿論分かっていた。
母親と言うものに私が感じるもの。
もう戻れない場所に居た、その存在──。
あたたかい。
郷愁に涙がこぼれる。
私はパパともう戻れないところまで来てしまった。
彼女が私を見て悲しげな顔をしている理由が私には分かった。そして、私には──その光が眩し過ぎてもう見えなくなってしまった。]
………ん、そっか。
ま、俺も煙草吸ってるから、味覚は半分くらい狂ってるんだけど。
[同じくネリーからコーヒーを受け取り、それを口に運んだ。]
まぁ、「目覚めた」なんてこんなモンだろ……。
[ぽつりと呟いた。]
[タプリ、と下腹にまだ残存する液体が私の中で揺れる。
その行為をハーヴに見られてしまうかもしれない、と思ったけれど。
私はそれをそのまま保っていてはいけない気がして──。
こっそりと後ろ手にスカートを捲り、
パパが施したその栓を抜いて床に捨てた。
──…内腿を生暖かい液体が滴って行く。]
ハーヴ。
[私は淫らな匂いが室内に広がる事を感じながら、もう一度彼の名を呼んだ。]
[確か彼女はヒューバートが死んだと言っていた。
自分も確かに死んだはず。なのにどうして自分が見えないのだろうか?
そっと手を伸ばし、その頬に触れようとしても透けてしまう。
しかし確かに自分の名を呼ぶその少女に、もう一度だけ呼び掛ける]
シャロ。
俺はここにいるよ。
[コーヒーポットを持って、物問いたげにこちらを見ているネリーを、じっと見詰め返す。]
──で?
何か訊きたそうだな、ネリー。こないだ教えただけじゃあ足りないか?
[ナサニエルの顔にもちらりと視線を走らせ、]
……この際ついでだから、アンタも聞きたきゃ聞けよ。
何が知りたいんだ。
[涙が溢れる。
私は彼が、ハーヴが好きだった──…本当に。
それがとても遠い、遥か昔の出来事に思える。]
…ハーヴ。
私、ずっと此処に来てから。
一度、死んだ瞬間の記憶がなかったわ。
あなたのことも、何故か分からない。
ずっと忘れて居たの。
[でも、と私は言いかけて言葉を失う。
ハーヴの事が記憶から抜け落ちていた理由に、今気付いてしまった。]
ん?ああ……
[テーブルに置いてあったダークチェリーの缶詰を弄りながら、ナサニエルはギルバートの言葉に頷いた。]
……お前のやってること。
「同族」の血を「目覚めさせる」理由と、意味。
一体、何の為にやってんだ?
……いや、散々聞かれて耳にタコできてる話だろうけどさ。
…泣かないで、可愛いシャーリィ。
貴方が泣いていると、ニナを泣かせてしまったのをおもいだすから。
[透明に透き通る指先が少女の涙をぬぐおうとしたけれどそれは結局徒労に終わる。
ちらりと、蓋をこじ開けられた棺を見てから]
…あの子は、まだ、魂として生まれるには時間がかかる。
だから、もう少しだけ待ってほしい。
それだけ。
[叔母さんのわがままだけど、と少し困ったように微笑む。
その微笑みは既に過去の色になったはずのもので]
…もしわがままを聞いてくれるなら、おばさん、嬉しいな。
[ぽんぽん、とすっかり透明になった手のひらが少女の髪をなでて。
そして女は消えてゆく。
貴方が少しでも幸せになりますように、と]
[薄い苦笑を浮かべ、コーヒーを一口啜った。]
確かに。耳にタコが出来過ぎて、聞こえなくなるくらいには。
──血を絶やさない為だ。同族の。
ごめんね、シャロ……
俺は…君と先生には……
[涙を浮かべる少女へ、見えなくとも慰めるように微笑みかけ。どうしたら彼女に自分は見えるのだろうか。人狼の血でも魂は同じなのだろう。肝心な所で役に立たないなと肩をすくめる]
…謝らなくていいよ。
君は俺のことは忘れるべきだ。いや、忘れて欲しい。
きっとそれが君の幸せだからね。
[今自分が幸せを願うとしたら恩師と恩師の愛したこの少女。もし彼女が生きていても死んでいても、二人に安らぎを願っただろう]
―ナサニエル宅前・車中―
ん……
ぁあ……今、何時だ?
[彼の家の玄関が見える少し離れた木立の中に目立たぬよう停車した車の中。一杯に倒したシートの上で、私は身を震わせ浅い眠りから目を醒ました。
安置所脇で、しかも悪夢に魘されての睡眠は浅かったのだろう。疲れが抜けきる筈もなく、ナサニエルを待っている間に休憩をしていた私はそのまま眠りに落ちていたのだ。]
この状況で、不用心にもほどがあるな……
ナッシュとすれ違いになったか?
いや……むしろ、ナッシュはあの家に帰ってきているのか?
[しかし、眠りを破ったのは、微かに響くエンジン音だった。
今はシャーロットの形見となってしまった、小さな双眼鏡を目に当て覗き込んだ。]
[ナサニエルの愛車から降りたギルバートとネリーが、先に家の中へ入っていく。ナサニエルは、なぜか少し外で時間を潰しているようだった。]
ギルバート……
[黄金色の瞳の光を思い出す。彼がなぜここに?
「団体行動ってイマイチ得意じゃない」
ナサニエルはそう云っていたが、雑貨店で会った時にもそういえば彼やローズと行動を共にしていたことを思い出した。彼が云うように、あまり友人と一緒になにかをしているところは目にしたことがない]
古い友達なんだろうか……
[彼がヘイヴンを離れていた時期は十年ほどにもなる。その間のことはほとんど何一つ知らずにいた。
ナサニエルはやがて、トランクからなにかを出して二人を追うように家の中へ入っていった。]
どうすっかなあ……
[こういう時、煙草を吸う習慣があったならと思った。
ギルバートとネリーの二人はただ家の中に寄った、というわけではないようですぐには出てくる気配がない。
私は、車の中でしばらく待ち続けた]
血………か。
まあ、そりゃあ動物としての本能を考えれば、当然って感じもするがな……。それだけ血が絶えやすいのか、俺ら「同族」ってのは。
ふぅん………
だけどさ。いざ「血に目覚め」てみて思ったんだけどな。ギルバートからは……なんつーか、こう、俺とは比較にならないくらいのギラギラした強さを感じるんだよ。……油断したら焼け焦げて死んでしまうくらいの、強烈な生命力ってヤツだ。
さっきネリーが「私の方がディープよ」ってな話してたけど、ギルバートの前じゃあ俺らはどっちも極めて"shallow"な気ィすんだよね。
[私の目には見えなくなって行く光に、眩しそうに手を翳して、]
──…ミッシェル叔母さん。
ありがとう…。
[あたたかい、光だ…──。
見えなくなったそれも、目の前でハーヴだと思える光も。
私はハーヴにゆっくりと首を横に振る。]
もう思い出してしまったの。
ハーヴ、あなたが私をナイフで刺した…。
……どうして、なの?
[私は手元にあるナイフの切っ先に目をおとす。]
[シャロは知っていた。あの夜のこと。
ギルバートに出会わなければ彼女を手にかけることはなかったのかもしれない。
しかし全て自分が過去を断ち切れずに起きた悲しい衝動だった。
誰のせいでもない。自分が負うべき罪だったのに]
…俺が…狂ってしまっていたから…
[ぽつりと呟く声は届いただろうか]
アンタらは正確に言えば同族じゃあない。
「目覚めた」と言ったところで、人狼の能力を完全には持ってない。多分今後も持てない。
その力をいくらか使えるだけの、人間に毛が生えたみたいなモンだ。
俺と比べたら、大人と子供みたいな違いがあるんだよ。
[肩を竦めてみせる。
その言葉は完全な真実ではないが、嘘ではなかった。]
ハーヴが、狂う?
[涙は目尻に溜ったまま。
私は何時大声で泣き出してしまうか分からない。
ハーヴを恨むと言うよりは、呆然として分からないといった感情。ううん、叫んで罵倒したいのかもしれない、本当は。
内腿を流れる感触が心地良くて、同時に厭わしくて。
私は、ハーヴの口唇がそっと触れた、あの時間には私達が戻れない喪失感を噛み締める。]
………やっぱりか。
[ふぅむ、と納得して頷いた。]
俺はただ単純に、人が殺された時に幻覚見る程度で、お前みたいな牙があるわけでも無いしな……。
それと、お前……
……そう、狂っていたんだよ。
この村の成り立ち、そのものからして。
[肩を辣めるイメージ。“彼”の声は聞こえてこない]
僕たちは、僕もシャーロットもハーヴェイも、厳密に完全な意味での人間じゃなかったんだから。
…どうすっかなあ……
……なぁ〜
[ハンドルに頭をつけて、しばし煩悶する。
ギルバートが今町で起きている数々の怖ろしい事件の中心人物であり“怖ろしい存在”であることは確信めいた実感があったが、ナサニエルやネリーは果たしてどうなのだろう。]
このまま行ったら、飛んで火に入る夏の虫か?
……せめて、様子くらいはわからないかな。
[自宅の中を訪れる前に、三人の関係について多少手懸かりめいたものが得られはしないものか――。
くしゃくしゃと髪をかき上げると、思い切るようにゆっくり立ち上がった]
同族は数が少ない。同族同士の結び付きからは滅多に子供が生まれないからだ。
人間や、人狼の血を引いた「血族」との間では普通に子ができる。
だが、そうやって生まれた子も人狼として生まれる子は稀だ……殆どが人間と変わらない、人狼の能力を持たない「血族」になる。
でも、血を絶やさない為には人間を娶るしかない。
結果として世代を経るごとに血は薄まるばかりだ。
[この説明も飽きるくらい「先祖帰り」たちに聞かせてきた言葉だ。]
人じゃないものが人のふりをしようとしても、必ずどこかで歪んでくる。
人間とほぼ同じ、は人間そのものじゃない。
ヘイヴンが出来た理由。小さな町の中で繰り返し重ねてきた血の交配。狂わない訳がないさ。
[視野を閉ざす。僕の首を掴み上げて高く笑うウェンディの声を思い返した]
同族は子が生まれ難いんでね……
人の中に紛れた、同族の血を引く人間……「血族」からたまに生まれる先祖帰りの人狼を探して、そいつを迎え入れて補ってるんだ。
俺の役目の意味が分かったか?
うん……
だから、君を殺した……
[言葉少なく、ただそう答えるのみ。
背中の傷を見られ、彼女の問いかけに返したことは自分過去を暴く扉を閉める為の自己防衛。
それだけ、だった。]
もしかしたら――。
歪みを煮詰めていくため、だったのかもしれない。
限界まで引き絞った弓から矢を放つように。たわめられたバネが一気に元に戻ろうとするように。
[私は黙り込み、ゆっくりとガラスの柩が置かれた台座に近付き、
並んでいるディルドのうちのひとつを手に取った。]
……………。
―ナサニエル自宅そば―
[なにげない風をよそおって、家の周りをゆっくり巡る。
話し声など容易に漏れ聞こえてきたりはしない。
家の中には人の気配があり、何かを話しているらしいくぐもった音が遠く響いているが内容までは定かではなかった]
『盗聴器とか、ねぇんだよな……』
[このままでは、どう見ても不審者だ。
私は諦め、正攻法でアプローチすることにした。
玄関に回ると、一呼吸し、ノックする]
ナッシュ。いるかい?
……なんとなく……は、な。
[煙草をふかし、呟く。]
もしそいつらの間に子ができたら、「血族」の血はすこしだけ濃くなる。で、その子ども達の間に子どもができたら、さらに「血」は濃くなる……。
ひどく気の遠くなる話だが、長い時間をかけてそれを繰り返せば、やがて「強い血」を持った同族ができあがるな……あくまで、理論上は。
[ギルバートを見て、言葉を放つ。]
「同族」の数を増やして、その「確度」を上げれば、いずれ……
ハーヴ。
あなたが狂う理由が分からないわ。
[私が手に取ったディルドに刻まれた名は、リックのもの。
私は沸き上がって来る得体の知れない負の感情にまかせて、それを床に思い切り叩き付けた。そして、パパが履かせてくれた華奢な白いヒールの踵で、それが砕けるまで踏みしめる。
行為とは対照的に、私の顔からは表情が消えてしまっているに違いない。]
殺された私にも、話せない理由って何…?
あなたの所為で、こんな風になってしまったのに。
私はもう…──……、
[人形のようだといわれた事の有る無表情は、言葉を紡ぐうちに凍り付いたような引き攣った笑みに変化していた。
もうひとつ、形状から誰のモノかを理解した上で、ディルドを私は手に取り、ハーヴェイの目の前の台座に腰掛けた。]
それと、ネリーが言ってた、お前の………
―――コン、コン、コン。
[ノックの音が聞こえた。]
……誰だ?こんな時間に。
[ナサニエルは、玄関の扉を開けた。]
―ナサニエル自宅玄関―
やあ、ナッシュ。
来客中済まない。
ちょっと、こみ入った話があるんだが、二人だけで話せる時間は取ってもらえそうかな。
場所も時間も、そちらの希望にあわせるよ。
[姿を現したナサニエルに、簡単に要望を告げた]
実は、プレイベートっていうか、こみ入ったっていうか……
一筋縄ではいかない話なんだ。
……ああ、そうだ…
来客って、誰だい?
[なにげない風を装って問う]
[実際には。
ネリーに説明していた通り、人狼と血の濃い血族との間で子を生しても、人狼や「先祖帰り」が生まれる確率はさほど上がらない。
人狼の力を持たない、人間同然の「血族」が増えていくばかりだ。
濃度が上がるより拡散していく速度の方が遥かに速い。
──が、それはナサニエルには黙っていた。]
……俺の姿…見えないんだよな?
話すのなら…せめて姿が見えればいいのに…
[そしたらシャロの目を見て真実を告げてやれる。
人狼の血は魂を同じくする者だけにでもその姿を見せてやれないのだろうか。
無意識だったが瞳に人狼の証である黄金色が浮かぶ。
また優しく細め、シャロの額にキスを送った。
シャロからは青白い光が僅かに自分に触れたようにみえただろう]
俺は…何から話せばいいのだろうか……
長くなるけど……君には伝えないといけないね。
[少し苦笑も混じっていただろうか]
ああ、ギルバートとネリーと会ってな。
リビングでコーヒー飲んでるだけだ。
………っていうか。
ヒューバートと俺との間に、「込み入ったプライベート」ってあったか?
――そうか。
あの旅人とは、昔から知り合いだったりするのかな。
[ギルバートについてはそう問うていた]
プライベートについてはさ……
以前のことで……俺とお前しか知らないことで色々聞きたいこともあったんだよ。
なにしろ、話を聞ける人が随分少なくなっちまってな……
[来客を出迎えにナサニエルが玄関に出て行き、キッチンに居るのはギルバートとネリーだけになった。
ドアを開け放った瞬間に既に誰だか分かっている。
ヒューバート・バンクロフト。
玄関から聞こえてくる会話に耳を傾け、息を殺す。
全身が緊張し、警戒の姿勢を取る。]
以前のこと、ね……
[参ったという表情で、ヒューバートを見る。]
りょーかい。入りなよ。
……先客をどかすわけにはいかないけど。
[ヒューバートを家の中に招き入れた。]
[ぽつりと話し始めた過去
兄と両親から受けていた仕打ちの数々
背中の傷
ピアスの理由
兄の自殺の理由
前置きを語った。
ギルバートがこの村に訪れてから狂い始めた自分の感情。
必死で抑えてきたのにルーサーの死体が自分の理性の箍を外した。理性という壁を失った精神の崩壊は早かった。
狂い始めてから兄の影と自分の罪が暴かれることを恐れていたこと。
そしてシャロやヒューバートに見られた背中の傷が過去をフラッシュバックさせ殺意を呼び起こしたこと。
シャロに話したのはここまでだったが兄との約束についてだけは触れなかった。
[恐らく、ハーヴと私の間には、死者と蘇生した者としての深い溝が横たわっている。彼の瞳の色は私には見る事が出来ない。けれども、私の額にわずかに触れた光で、彼がなぜか今──私を慈しもうとしているのは分かった。
私は、ハーヴの目の前で、この安置所で繰り返された行為を──Hubert Bancroftのディルドを使って、演じてやろうかと考えて、台座に腰掛けたと言うのに。]
…話さないと許さないんだから。
[ぽろぽろと涙が零れた…──。
私はディルドを握りしめたまま、膝を閉じてじっとハーヴを見つめる。]
[舌打ちしたい気分だったが、余計な物音は立てない。
ネリーにも視線と「声」の両方で意志を伝える。]
[右手でそろそろとナイフの位置を探った。]
[ネリーの声が頭に響く。
『バンクロフトの家は危険』――
それから――耳鳴り。
ブランダー家に居た時に微かに感じた、耳鳴り――]
[ナサニエルは、右耳を抑えた。]
『おっと――?』
[一瞬、緊張が身を過ぎる。中にはあの男が居るのだ。
だが、そう話せるチャンスもないことだろう。]
――すまないな
少しばかりでいいんだ。
二人で話せる場所と時間を貰えるなら。
[意を決して、敷居を踏み越える。]
[シャロから請われ語ったのは彼女を手にかけるまでの短い記憶。
そして最後に自分が先祖返りの人狼であったことを伝えた]
………ここでいいか?
[ナサニエルは、ヒューバートを1階の小さな部屋に案内する。]
ここ、俺の祖母さんが生きてる時に使ってた部屋なんだって。
[ほんの少し埃のにおいが残る部屋に、ヒューバートを入れた。
小さなベッドの枠、小さなテーブル、ミシン。小さな本棚には、たくさんの手芸の本。]
俺の祖母さん、足が悪かったから……2階に元々部屋があったらしいんだけど、1階のこの部屋を改装して、こっちの部屋に住んでたって話。
[どの選択肢を変えれば、全てが上手く行ったのだろうと私は考えた。どうすれば、道を違う事無く幸福で居られたのか。
私がパパとママの娘である事が変えられないように、ハーヴの両親も、ユーインと双子だった事も変えられない。パパが私を溺愛したように、彼が虐待されて育ったと言う事実も変わらない。
…ギルバート。
ああ、せめて琥珀色の瞳を持つ──人狼。
厄災の元凶である彼が…──彼さえ訪れなければ。]
[無意識に、右手の中指と人差し指がぴくりと動く。
脇の下に吊り、ジャケットに隠した自動拳銃を意識に置く。
突然、あの男が飛び出してきたなら、瞬時に抜き放てるように。]
『いや――』
[屋内で間近といっていい至近距離ならナイフの方が適切に対処できるだろうか。
だが、あの男が“人狼”と呼ばれるもので伝承通りの力を持つ者であるならば、到底太刀打ちできるとは思えなかった。
冷たい汗が背筋を伝う。]
――悪いな。
[ナサニエルに一階の小部屋に案内され、私はともかくも一旦は安堵の吐息を漏らしていた。
あの男の気配は今は少し遠い。]
お祖母さんか……
……思い出の部屋だな…
[不思議と安らぎを感じる空間だった]
[獲物を待ち伏せする獣のように気配を希薄にし、ヒューバートの動きを探ることに集中する。
廊下を歩く足音。声のトーン。衣擦れの音。
それらの音と二人の気配は、ここではない、別の一室に入っていく。]
私、ハーヴが前にアトリエに置きっぱなしにしていた絵。
好きだったわ…。
『記憶の固執』じゃなくて、もっと前の。
色が少し変わった風変わりな絵…──。
[私は過去に帰りたいと願いながら言葉を紡ごうとして、重ねるようにハーヴから最後に告げられた言葉に耳を疑う。]
…人狼?
あなたも……。
じゃあ、私を食べなかったのはどうして。
[ギルバートが訪れなければ確かに平穏無事な生活が続いたのかもしれない。
ただ自分の中に狂気は確かにあった。姿を見せないだけで
兄を自殺させたことも、約束を交わしたことも全て事実。
ギルバートはきっかけに過ぎない。
確かに突然現れ、勝手に血族だの同族だの突きつけて自分を人ならざるものに導いた彼に恨みを持たなかったといえば嘘になる。
しかし彼は…確かに望みを叶えてくれた。
それだけは自分の中で動かない事実だった]
一人暮らしだと、どうしても生活が不規則になるからなぁ。
[昼夜逆転、というナサニエルにそう云って、少しだけ微笑む]
ナッシュも、そろそろいい嫁さんでももらったらどうだ?
……と、ひょっとしてあの娘が来るようになってその必要はなかったりするか?
[饒談を二つ重ねれば、気持ちの落ち着きも普段とはさして変わらぬまでに戻っていた。今度は、ちゃんと笑顔を浮かべることができた]
流れ者 ギルバートは、美術商 ヒューバート を能力(襲う)の対象に選びました。
………いや。
俺は結婚する気はねぇし。
自分一人食わせるのもままならない状態ってヤツだ。まして嫁なんて。
それに、ネリーはただの客だ。来るなり家を掃除するようなヤツだけどな。家政婦やってる女って、えてしてあんなモンなのかね。
[淡々と答える。]
俺の絵…何を置いていたのか忘れてたなぁ…
アトリエ、家みたいに通ってたから……
[言外に、バンクロフト家こそが安らいだ場所だったのだと伝えながら]
あなた「も」…?
君は…?
[シャロの問いかけに理解できないというように問い返す。
そして次の問いには]
…まだその時は…人を食いたいとは思わなかった…。
それに…あの時の君が…肌の白と血の赤でとても綺麗で…傷つけられなかった……
[話はなにか、と問うナサニエルに真面目な表情に戻る。
やや身を乗り出すように、ナサニエルに向かう]
なあ、ナッシュ。
単刀直入に訊く。
生前、シャーロットがここを訊ねてこなかったか?
[ナサニエルの感情の動き一つ一つを見逃さぬよう、その双眸を注視した]
[瀕死にならなくとも、私は何処かで目覚めたかもしれない。私とパパは、ギルバートが訪れなくとも、道を踏み外してしまったかもしれない。
──…私は敢えてその可能性を全否定したいと思う。
けれども、目の前のハーヴは。]
私、ハーヴは。
ハーヴは私にキスをしてくれたけど、既に誰かのもので…──私には手の届かないキラキラした宝石みたいな物なのかなって思ったの。
[ギルバートが現れても、現れなかったとしても。
それは変わらなかったような、気がしてしまった…──。
わたしはそれを、何故だかとても悲しいと感じた。]
……ああ、ちょっと待ってろ。
[そう言うと、ナサニエルはキッチンへと向かう。ギルバートの姿を横目で見ながら。]
ネリー。そこに紅茶あったろ。
そう、それ。取って。オレンジフレーバーのヤツ。
それから、ポットはそっち。
[そう言いながら、ナサニエルはライターに充填するオイル缶を手にした。]
[程なくして、ナサニエルは部屋に戻る。それと同時に、ネリーがオレンジフレーバーの紅茶を持って現れた。]
…俺は…シャロのこと、好きだったよ。
初めて先生の家に行った時からね。
大事に守ってあげたい子だった。
[語る言葉は全て過去形]
でも…ごめんね。
俺は約束を守らないといけなかったから。
それに俺はそんな風に言われるほどいい人間じゃ…ないんだよ。
[約束……自分も死んだ今となっては意味を成さないのだろうけれど忘れることだけはできなかった。そしてそれを違えることも]
[ネリーが部屋を出た時。
ナサニエルはヒューバートの問いを耳にした。]
………シャーロット?
いや、全然。
っていうか、マトモに話したことねぇし。
[小さなオイル缶を振り、ジッポを取り出した。]
[「何を老いていたのか忘れた」と言う言葉に私はひさしぶりに、くすくすと声を上げて笑った。言葉の続きを待つように、またハーヴェイをじっと見つめる。]
「…まだその時は」
そっか、段階的に──変化したんだね、ハーヴは。
私は、心臓が一度止まって──仮死状態のまま安置所へ運ばれて、此処で目覚めたの。
…私が彼等を食べたのよ。
[台座から降りて、白いリックの骨と、床の隅に転がる侵入者の骨を広い集めて、ハーヴに私は見せる。パパとの行為については、一度ハーヴに対する憎しみの波が去ってしまった後では、私は明かす事が出来なかった。
私がスカートの内側に感じているこの愛欲の果ての滴りにハーヴが気付かない事を祈るばかりだった。]
……そうか。
もっと直接的な訊き方になるが――
ナッシュ。
もしやと思うが…
君がシャーロットを手にかけた……
――そんなことはないよな?
[全身が目になったように、ナサニエルの挙動、そこに現れる感情の一つ一つを凝視していた]
ハーヴの事。
……好きよ。多分、今でもずっと。
あなたは綺麗だわ。それもずっと変わらない。
[ごめんねと言う言葉に首を横に振る。
そっとくるぶしまで滴って来ていた、液体を私は左手の小指で掬う。なるべく不自然の無い動作で、小指を私は自分の舌先へ運ぶ。
それは苦い。苦くて同時にたまらなく甘い。]
そう…徐々に…自分が変わっていった。
…正直…怖かった…
急所を避けて何度もゆっくりナイフを抜き差しされるような、そんな感じ…。
シャロも…人狼だったんだね…
そして…蘇って……人を食った……
[悲しそうに呟く声音に軽蔑の色は見えなかった。
そして蘇ったという事実も自分が手にかけたという罪が消えることになるとも思っていなかった]
シャーロットを手に掛けた?
何それ………?
犯されたのか?殺されたのか?
っていうか、ヒューバート、何の話してんの……?
俺、そんなの初耳なんだけど……最初から説明してよ。
[眉をしかめてヒューバートを見る。口角が下がり、口はへの字の形に変わる。]
へ?
……ああ、いや……
……ナッシュ?
[ナサニエルの様子は、予想外極まりなかった。
“プライベート”について話していた時に別段悪びれる様子がなかったのも少々意外だったが、彼はまるでシャーロットが死んだ事実を知らなかったかのようだ]
おいおい、何云ってるんだよ。
シャーロットが殺されたって――
雑貨店で会った時に云わなかったっけ?
あれってまだ、確か昨日のことだぜ?
…ありがとう…。
俺も好きだったよ。君も先生も。
バンクロフト家は…俺に大事な思い出をくれた所だった…
[光は悲しそうに言葉を放つ。
シャロが口に小指を寄せる仕草は大して気に留めなかったのか、今のままでは見えないだけなのか]
[ふと、引っかかることがあった]
なあ、ナッシュ。
……覚えてるかな。
子供の頃さ、ネイの死人ごっこを俺やミッキーたちと一緒に見に行ったことがあっただろう?
あの時――
見たものを覚えているか?
あ、そっか。
すまん……覚えて無かった。
どうにも「記憶」するってのが、苦手で……
ご愁傷様。
娘亡くして、犯人捜し……か?
………って………
[ナサニエルは、席を立った。]
ちッ……プライベートの話とか、俺らしか知らない話じゃねえのかよ!そんなら、ギルバートやネリーにも聞いて貰った方がいいや。密室で取り調べなんて、胸くそ悪ィ話だなァ、ヒューバート!
[オイル缶を手にし、部屋を出ようとする。]
ヘイヴンの人は多かれ少なかれ「そう」なんだってね…。
…──私は安置所で知った。
私は一人で此処に居た所為か怖いと言う感情は思い浮かばないの。
それとも感情が麻痺してしまっているのかな。
でも、これからも。
何があっても、ハーヴの事は忘れない。
[悲しそうな声音、私はそっと目の前で瞬く光に手を伸ばした。
私を大切だと言ってくれたハーヴを、逆に抱きしめたいと感じた。触れる事が出来るのかわからない、と思いながら、光にそっとくちづける。しばらくの間、そのまま私は静止していた。
随分と時間が経ってから、私は小さく首を横に振った。]
──私、そろそろ行かなくちゃ。
…ヘイヴンは…呪われているんだろうか…
[シャーロットの言葉と以前ギルバートから響いてきた声で、ヘイヴンの人間は人狼の血を引いていると知る。
別に対して驚くことではなかったけれども]
俺のことは忘れて欲しいかな。
いつまでも君の悲しい思い出にになるのは…俺も辛いよ。
[そしてシャロには光に見えた自身の姿は…口付けを送ってきたシャロを以前のように優しく抱きしめ、それに応えていた。
そっと体を離してからシャロの「行かなくちゃ」という言葉に問いただすようなことはしない]
…気をつけて。
取り調べみたいで済まない。
気を悪くしたのなら、謝る。
だが、大事なことなんだ。
俺は真実が知りたいんだよ。
ナッシュ。
――“天使”ってなんだ
君はなにを――している
[手懸かりは彼しかないのだ。
真摯な声が背中に追い縋る]
ちッ……………!
[舌打ちして、ヒューバートを睨み付ける。]
思い出したよ。
「シャーロットが刺された」ってなァ。確かに雑貨屋で言ってたなアンタは。
けれど、それが何だ?
俺の行動とあんたの可愛い可愛い娘が死んだことに、一体何の関係があるんだよッ!!
胸糞悪いこと言われた相手に、はいそうですかって答えるほど、俺は優しい人間じゃねぇよ。
………帰れよ。
…嫌よ。
だって忘れたら、素敵な思い出まで消えてしまう。
だから全部、忘れないの。
[「…気をつけて。」と言う言葉に、私は後ろ髪をひかれる。また、涙が零れそうになった。
私は少し考え、立ち止まり。残されたそれぞれの名前が台座に刻まれたディルドを、ルーサー、ボブの遺体の傍に並べた。ハーヴへの感情に任せ、壊してしまったリックのそれも。
そのような扱いがそれらに対しては正しいのでは無いかと思えた為に。パパのディルドは迷った末に、ステラ先生の傍に置いた。何故なら、私はママの日記の一番後ろに挟まれたままだった、浮気調査書と数枚の写真を見て、パパの浮気相手がステラ先生だった事を知ってしまっていたから。]
“プライベート”な話さ。
エリザは君の客だった。
――そうだろう?
そのことを弾劾するつもりはない。私だって、家庭の外で……いろいろあった。
だが、何かが違う。
それとは、何かが。
“ネイ” ――死んでしまったネイ
そこで何が行われていたんだ。
[ハーヴには何も残す物が無い。私の気持ち以外に何も。
パパがハーヴのそれを型取る事が出来たなら、それはそれで私はパパを疑ったかもしれないけれど。
私はわざと振り返らずに、涙を振り切るようにして安置所の扉を内側から押し開き──*外界へと走り出した*。]
だいたいテメェは、ここに何しに来たんだよ……。
娘殺したヤツ捜しに来たのか、昔の記憶を探りたいのか、俺の身辺調査か……!?
………何が目的だ。
それが分からない限りは、俺はあんたの質問に答える気はねぇよ。
シャーロットは、エリザと君とのことを気にしていたんだ。
だから、もしやと思った。
疑ってすまない。
だが、君しか知らない事実――
それを訊くまでは帰れない
私は君に賭けるしかないから
ここにやってきたんだ
ナッシュ、この町では奇妙なことばかりが起きている。
娘がなぜ殺されなければならなかったのか、
誰がなんのためにこんなことをしているのか、
その謎を解く鍵の一旦は君が持ってると思っている
それが――目的だ
君の身辺の不都合なことまでも訊くつもりはないが……どんなことでもいい。訊かせてくれればありがたい。
私は愛する人や友人、知人、数多くの人を喪った。
なにをしても、彼らは戻ってはこない。
だが、せめて――
理由を知らずにはいられないんだ。
その犠牲がなにによって築かれたものなのかを
………で。
俺があんたの奥方とヤッてたって話?
なんでそういう発想になったわけ。
…………ワケわかんねぇし。
[ナサニエルは、睨み付けるような視線でヒューバートを見て居る――*]
悲しさより…良い思い出が多ければ…俺も嬉しいよ。
せめて君がここにに戻ってこなくてもよくなるまで…傍に居させて欲しいかな……
…気をつけるんだよ。
[もう一度同じ言葉を呟き、光は休むように輝きが薄まった*]
妻が“君”と寝た話じゃない。
妻は、“ネイ”との密会だと云っていた。
死んでしまった“ネイ”との。
君が死者となにか結びつきがあったり
示唆を得ることができるのなら――
そこに手懸かりがある気がしてならないんだ。
[それは、死と、あるいは長すぎる生命の話。
未だ全てが繋がらない断片の先を辿って
私は彼の答えを*求めていた*]
>>55
そう、分かったわ。
[ギルバートの本心は読めないが、表情だけで類推すれば、少し残念がっているように思えた。
それは私では役不足(ここでは誤用)に当たるものなのだろう、と少し思った。]
>>55
そう、分かったわ。
[ネリーにとってはそれで100%とは言わないまでも、大部分が自分を納得させるものだった。]
見習いメイド ネリーは、美術商 ヒューバート を投票先に選びました。
[『コーヒー』と双方から言われ、お湯を沸かす。]
ナサニエルさん、何考えているのかしら…突飛なものじゃないといいのだけど。
[一人になった瞬間、頭の中でまとめ始める。
とは言うものの当然ながら結論は出なく。
気がつくとベストの水温を超え、沸騰していた。]
>>73
聞きたい事…そう。
「人狼」そのものよりも、あなたがこれから何をしたい、と言うのを聞きたいかな。
あなたの言う後始末が終わったら。
[不意に、ノックの音がなり、ナサニエルが迎えに行った。
ナサニエルがいなくなるのと同時にギルバートの警戒感がぎゅっと濃縮されて周囲に広がる。
言うなれば蝙蝠の超音波に近いものか。気づかない者は気づかないだろう。ネリーはギルバートの動きを察知し、自らも警戒感を広げる。]
[誰が来たのだろう。ソフィー?ステラ?ヒューバート、或いはローズマリー?
ギルバートは既に気づいているのかもしれないが、ネリーはその足音の主が誰かまだ解らない。
ギルバートが静かに動き出す。獣がテリトリーを誇示するかのように。 私はギルバートの徒手空拳の間合いからは離れるまい、と思った。
[廊下に出たことで音が拾いやすくなった。
二人のいる部屋には近付かずに、このまま離れたところで気配を殺したまま声を聞き取ることに集中する。]
[室内の会話がおぼろげに聞こえてきた。
ナサニエルの激昂が伝わってくる。
だが、ヒューバートが切り出した質問の大半は、ギルバートの知らない事項が多く含まれていて、理解の難しい内容だった。
彼はそれについて考えることはせずに、二人の会話の進展を待った。]
それ、預かっててくれ。ハーヴェイを。
[自分の脇の椅子に乗せていた、ハーヴェイの頭(の入った包み)をイメージし、ネリーに送った。]
あまり近付くな。巻き込まれても責任は取れない。
―回想―
[ナサニエルが森の中で「狩り」を観賞する前の出来事。
彼は、とある方向に車を走らせていた。]
………「死」の官能、か。
確かに俺ン所に降って来るのを待つのもアリかもしれないけど、いつまた人が死ぬかもわかんねぇし……。ただ屍体ができるのを待ってンのも面倒な話だからなァ……。
[メンソールの煙を肺に流し込みながら、黒いコートを着込んだ男は車のハンドルを握る。]
例えば、俺がヒトを殺せばどうなるんだろうな。
[それは、全くの思い付きだった。単純に「誰かを殺してみたい」という興味。ただそれだけのこと。]
ギルバートは何を思って人を殺してンだろうなァ……。ま、俺も試してみりゃァ分かるか。
[ナサニエルは考える。先ほどまで共に寝て居た少女を襲えば良かったかもしれない……と。しかし、「おそらく、自分の家のベッドが汚れるのが何かと面倒だと思ったのだろう」。彼はそのことを、そう結論づけた。]
………で、こっちだよな。
[男は「獲物」を求めて、車を走らせる――]
―回想・仕立屋の前―
[仕立屋の前に、1台の黒い車が止まる。黒いコートを着込んだ男はトランクを開け、ナイフを取り出し、コートの奥にしまった。
カーラジオからは、CARPENTERSの"TOP OF THE WORLD"]
Such a feeling's comein' over me
There is wonder in most everything I see
Not a cloud in the sky
Got the sun in my eyes
And I won't be surprised if it's a dream
―――コン、コン。
[扉をノックし、家主を呼び出す。]
ソフィー、いるか?俺だ。ナサニエルだ。
イアンが見つかった。早く来てくれ!
[――子どもじみた嘘だ…と、内心で自嘲しながら。]
[――しばしの後。
血相を変えた家主――ソフィーが、大慌てて扉を開けた。]
[男の口許が、歪む。]
――――――。
[扉に手を掛け、抵抗できぬソフィの腹めがけ、鈍い音を立ててナイフを突き立てた。]
………なァんてな。
俺、あんたの父親の顔なんて、ロクにしらねぇし。
[ソフィの身体に蹴りを入れて薙ぎ倒し、続けざまに何度もナイフを刺してゆく。]
「………………………」
[口を開けて何やら抗議している彼女のことなど、お構いなしに。]
[仕立屋の玄関先に、夥しい量の鮮血が舞う中、カーラジオは呑気に世界の頂上を歌う。]
I'm on the top of the world lookin' down on creation
(私は世界のてっぺんにいる 全てのものを見下ろして)
And the only explanation I can find
(そして私が気付く事のできた唯一の理由は)
Is the love that I 've found ever since you've been around
(あなたが私の近くに存在してから見つけた愛)
Your love's put me at the top of the world....
(あなたの愛が、私を世界のてっぺんに連れていってくれたのよ)
[―――数分の後。
ナサニエルの足下には、無惨に刺し殺された金髪の女の遺体が転がっていた――]
[男は返り血を拭い、コートとナイフをトヨペットクラウンのトランクの中に放り投げた。]
…………………へぇ。
人を殺すのって、意外と………
[ナサニエルは煙草をふかしながら、エンジンを掛けた。無惨な屍体を残し、男は導かれるように、森へと向かった――*]
ん…
[ごく短い、同意の「声」を静かに送る。
「その包み」はギルにとってどのくらい重要なのかは理解できなかったが、それでもヘイヴンと安置所を結びつけるヘイヴン人の習性か、私はギルの座っていた椅子の側まで移動し、立ったまま様子を窺う。]
何? ――いえ、何でもない…
[ナサニエルと、誰かが会話をしているらしいというのはどことなく掴めたが、内容はおろか誰かもまだ分からない。
少しでも身軽になり、ギルバートの足手まといにならないようにしなければならない。
コーヒーを淹れに行った時に、キッチンナイフのひとつでも失敬しておけばよかったと思った。
歯軋りもしたくなったが、余計な音になるので*それは慎む*]
見習いメイド ネリーが「時間を進める」を選択しました
見習いメイド ネリーが「時間を進める」を取り消しました
いいか、ヒューバート。
あんたが俺に言ったことを、「俺が俺の耳で聞こえたままに」言ってやろう。
あんたはまず、娘を殺したのは俺じゃないかと嫌疑をかけた。
次にお前は、「何の根拠も提示しないまま」、「天使とは何だ」と聞いてきた。
……何の話だかさっぱりわかんねぇよ。
あんたの話を聞いてると、俺にイチャモンつけて嫌疑掛けてるようにしか聞こえねぇ。そのくせ「俺に頼るしかない」って、どういうこと?
だいたい、「ネイ」って誰?
ミッキーなんて全然知らねぇし。
墓ごっこって何のこと?
悪ィけど、昔話がしたいなら、余所あたってくんない?
俺、3年かそこら前に車で事故って、頭打って記憶機能がブッ壊れたらしくて、3年前くらいからの記憶飛んでンだよね。……それ知らないンなら仕方ないけど、それ知ってて俺に聞きに来たンならアンタどんだけ残酷な人間なんだよ。
なァ……
偶然来たにしちゃあ、随分とでき過ぎてンな、ヒューバート。お前が言いたいことを、イチから説明してもらおうか。……きっちり、「理由を明示して」な。
ああ、すまない。
嫌疑をかけた――そう感じたとしても仕方ないだろうな。
[私は眉を蹙めて、髪を掻いた]
シャーロットが、エリザと君とのことを気にかけていたのは話した通りなんだが、それはこれが切欠になっている。
[私は、テーブルの上に、エリザの日記を置いた。その隣に、シャーロットの部屋から見つかった地図を重ねる。
そして、エリザの日記にナサニエルとの“契約”のことが書かれていたこと、シャーロットが殺された晩、彼女の机にそれが広げて置かれていたこと、その隣にはナサニエルの家に印をつけたヘイヴンの地図が広げて置かれていたことを最初から順立てて話していた]
まるっきり疑っていなかったといえば、嘘になる。
これらのシャーロットが殺される寸前の状況から、一番最初に気にかかったのは君だ。
それは事実だ。
――だから、君に直截訊いて確かめたかったんだ。
ナサニエルさんに…ヒューバートさん。
[緊張感で充満しているようなピリピリ感がある。
取っ組み合いになると分が悪いのは明らかだ。
私は喉をならすのも抑えて空気を感じる。]
記憶……
……事故……
悪い、そうだったのか。
“ネイ”のことを知らないのか?
エリザの日記には、彼女のことが書かれていたんだ。
んっと……そうだな…
訊き方を少し変えると……
君の“契約”についてなんだが――
君は……求めがあればどんな者にでも“なる”ことができるんだろうか。
それとも、……それは生者は除いて死者に限られるものなんだろうか……
[常ならば、死の世界のことも、霊の存在も簡単には信じることのできない事柄なのだろう。
だが、今や私の愛する人の多くは鬼籍に入っていた。むしろ、信じたいという気持ちすらあったといっていいかもしれない。
また、それだけでなく私自身も通常の五感を超越した“啓示”といっていい感覚を時折感じさえした。その今の私には、彼の答えがどれほど驚きに満ちたものであれ、心に落着しそうな予感があった。]
[このような感覚を屡次感じるようになったのは、いつからだっただろうか。]
『ギルバート・ブレイク ―― カウボーイ』
[彼の顔を初めて見た時、その時流行っていたSF小説の登場人物が頭に浮かんだ。火星人の旅人。
彼はその登場人物と同じく、見知らぬ、そして根源的なドグマを持ち、それを運んでいるような気がしたのだ。なぜそんな感覚を得たのかは、合理的な説明がつかない。
その、琥珀色の瞳を覗いたためだっただろうか――。
それが事の起こりだったのだろう。――今にして思えば。]
[ヒューバートから差し出された日記を手に取り、しばし読む。]
………ふぅん。
あの奥方も、マメなこって………
わざわざ俺との「契約」を、日記にねぇ……。うわっ、何ヤッてるかも書いてあンじゃん。
[日記をテーブルに置き、ナサニエルは髪を掻いた。]
………いいだろう。
本来なら、俺は「契約」相手とのことは秘密にしてるンだがな……証拠があるんなら。
いかにも。俺はエリザ・バンクロフトと「そういうこと」をしていたよ。何やら「墓ごっこがしたい」とかいう、あちらさんのご要望に沿ったカタチでな。バンクロフト夫人は、「ネイ」とかいう乙女趣味なブリッコにもう一度逢いたいとかいう話だった。だから俺は、「ネイ」の様子を聞いて、バンクロフト夫人の前で「ネイ」を演じた。
正直、それは俺が小さい頃に関わってた何かがあるとかいう話だったけど……あいにく、覚えてねぇんだ。3年より以前の記憶が無いのは本当のことだ。
だが……
あいにく、シャーロット・バンクロフトは来てねぇよ。それどころか、俺は直接長話したこともねぇし。
だいたいあんたさァ……いつもシャーロットを連れて歩いてるようなイメージが俺ン中にはあるぐらいだ。だから、俺みたいな悪い虫がついたら、すぐ気づくだろうに。
[煙草を手にし、火をつける。]
そうだったのか。
日記を読んだのがあの日の夜だったなら……
確かにナッシュの自宅を訪れるタイミングがなかっただろうな。
[ナサニエルの言葉にその時の状況を思い浮かべ、頷く。
シャーロットがなにかにショックを受け、その目を涙で泣きはらしていたのはあの日の晩だった。日記を読んだタイミングはその時だったと解釈するのが妥当なのだろう。
私は、よく考えればナサニエルに生じた疑いの根拠が希薄であることに思い至っていた。]
いつも、連れて歩いてるってことないさ。
[表情に苦笑いが浮かんだ。その後に少しだけ物寂しさが混じり――]
シャーロットは夜、時々出かけたりもしていたようだから。
[その全てを知っているわけではなかったが]
「契約」の内容、ねぇ……
[ティーカップの中身をほぼ飲み干し、それを灰皿替わりにしている。]
……ま、生者だろうが死者だろうが、「なって欲しい」モンになるのが俺の「役割」だ。確かに死者の方が、ホンモノさんが死んでる分、ラクにやりやすいが……必要とあらば生者の役割もやるよ。
[ヒューバートの目をじっと見て居る。]
………で?
ひょっとしてアンタ、俺と「契約」結びたいの?
演じて欲しいのは、亡くなったエリザ夫人?それとも、愛娘シャーロット嬢?
カラダは改造できねぇけど、投影するならご自由に。
……人間の想像力ってのは、案外すげぇぞ。
望めば、目の前の男が10歳に満たない娘にも見えるくらいだからなァ。
だが、“ネイ”のことを覚えていないのに、彼女に“なる”ことができるものなのかい?
様子を訊いたとは云っても、簡単なことではないんじゃないか?
いったいどうやって――
[ひどく渇きを感じる。暑い。ポロの襟元を引き、喉元を外気にあてた。
掠れた声が喉の奥から絞り出る。]
できることなら――
――聞きたい
……彼女の言葉を……
喪って悔いばかりが残る。
彼女に伝えたいことがたくさんあった。
私の娘を――
ふぅん……
ま、娘も父親から離れる時期なンかね。
あんたの娘……歳いくつだったっけ?
[微かに褐色の水が残るティーカップの中に灰を落とす。]
……まあいいや。
ああ、「ネイ」の話な。
「ネイ」の様子は……多分、あんたが想像しているより、もっと深く訊いてる。好きなモンや嫌いなモンだけじゃなく、もっと細かい所もな。……ま、その辺の詳しいことはいわゆる「企業秘密」ってヴェールに包ませて貰うが。
あとは、「契約」相手がどれくらい相手を激しく求めているかにもよるな。ポイントは、「いかに正確に再現するか」じゃあない。「いかに相手の『理想』を具現化するか」にあるんだ。相手の想像力に頼り、それをさらに掻き立てる。
……そういう意味じゃあ、あんたの奥方はすげぇ人だったがな。
………残念ながら。
俺は直接「あんたの娘の声」を再現できるワケじゃァない。どっかの島国のシャーマンとやらは、祖先の霊をその身に下ろすことができるらしいが……あいにく俺は、そういう類の人間じゃねぇ。
俺が演るのは、「あんたの理想」に過ぎない。
あんたが「許して欲しい」と言って欲しいならそう言うし、「許さず罵倒して欲しい」ンならばそうするまでだ。
結局、全ては「契約」相手次第ってヤツだ。
それに………
その日記を読んだなら、分かるはずだが。
[間を置き、紫煙を吐き出す。]
俺との「契約」は、必ず「肉体関係」を伴うモンだが……なァ?
あんた、それ知ってて俺に「娘を演ってくれ」って、言ってンの?
[ブルーグリーンの瞳で、ヒューバートの目を凝視する。]
[ナサニエルの言葉に耳を傾ける。“契約”についての一言も聞き漏らさぬように。
今は、追うべき“人狼”のことよりも事件の謎のことよりも、契約のことで頭が一杯になっていた。
「どれくらい相手を激しく求めているか」――
――ああ、それは疑問の余地がなかった。
私は呪わしいほどに彼女を求め続けていたからだ。]
ああ、わかった。
霊を下ろすわけではないということも――
だが、私はそれでも……
ただ、言葉を聞きたい――
そそ、そうなのか――っ
[「肉体関係」と聞いて、思わず目を白黒させた。瞬時に顔が紅潮する。]
あ、っと……
えぇ……っと……
……そいつは…考えてなかったな……
[少しだけ、眉を蹙めた。しばしあって、動揺に声を上擦らせながら、おずおずと問いかけた]
へ、変則的だが……
SMの一種でその代わりとすることはできないだろうか
[我ながら、何を云っているんだと思った]
……すまん
私は娘に懲罰を与えたいらしい。
[今までの人生で、これほどまでに羞恥に満ちた瞬間があっただろうか。恥の多い人生を送ってきたとはいえ。
内心、消え入りたい気持ちでぽそりと口にしていた]
オーケイ。
[白いシャツを脱ぎ捨て、タンクトップと黒いズボンという姿になった。左腕に薔薇のタトゥー、背中には羽根のタトゥーが現れる。]
………なんなら、今すぐでもいいけど、ね。
道具欲しい?必要ならば、あるけど。
ま……俺を殺したり身体のどっかを奪わないなら、好きにすりゃァいいさ。
[カップの中に、煙草を放り込んだ。]
[肩からかかっているホーンブックに一瞬手を触れ、
すぐに手を離すと、ふるふると首を振った]
ああっくそっ!
で、できるなら頼んでもかまわないだろうか――
[シャーロットの服装・格好を伝え、右手には包帯を巻いていたことを語っていた]
りょーかい。ちょっと待ってろ。
[ナサニエルは部屋を出て、救急箱から包帯を取り出し、ヒューバートが指定した通りに巻いた。]
服、は………
[準備時間が足りない……と、ナサニエルは舌打ちした。そこにいるネリーから服をはぎ取っても良かったが、ギルバートの手前、それはできない。]
………………。
[上半身を裸にし、しばし考え込む。そして――]
[ナサニエルは、ヒューバートの待つ部屋に戻ってきた。
扉を静かに開けたその表情は、伏目がちに――]
[少し躊躇したような様子を見せて、「娘」はふと顔を上げた。]
[服の代わりに纏うのは、肌触りの佳さそうな、まだ使われた形跡の無い純白のシーツ。尻の奥には、ローションをたっぷりと塗り付けてあった。]
『ああ……やべぇ。
これ、最高に恥ずかしいぞ。
俺、どうすんだ……』
[女を買ったことも、いかがわしい店に遊びに行ったことも、ないではない。だが、これはそれらのどれとも違っていた。
心を丸裸にされるようなものなのだ。
私にそんなことが耐えられるのかどうか、動揺しながら煩悶していた。
ナサニエルは、包帯を取りに行ってくれた。
服はこの際着ていなくても問題のないものだったが、包帯だけはこの瞬間必要なもので、私はそれがここにあったことに安堵した]
―小部屋―
[ナサニエルが部屋に入ってきた時、その雰囲気は一変していた。
伏目がちな表情、少し首を傾けた時の繊細な為草――]
ろ、ロティ……
[思わず呟いていた。
一瞬、泪で視界が滲みそうになる。
私の記憶の中に焼き付けられた彼女の姿が、そこにありありと甦っていた]
[ヒューバートの「娘」は、哀しげな表情で椅子に座る。――先ほどまで悪態をつきながら、無礼極まりない表情で居た、その椅子に。
身に纏ったシーツが肩から静かに落ちそうになるのを、右手の指先でそっと掬い上げた。]
[「娘」は、月明りが覗く窓の外を、無言でじぃっと見つめて居る――]
[娘がそこに居る。愛おしさに思わず駈け寄って抱きしめたくなる衝動をやっとのことで抑える。
私には為さなければならないことがある。
彼女に伝えなければならないことが――
束の間の瞑目の後、彼女に向かう眼差しにはやや厳しい意志が宿っていた。]
――ロティ。
私は君を罰しなければならない。
罰を受け入れるかい?
[バンクロフト家の掟に従い、一つ一つの言葉を句切るように明瞭で厳粛な声音で告げていた]
[「娘」は、窓の外を見つめていたその視線をゆっくりと下ろし――「父」をじっと見つめた。]
[ためらいがちに目を伏せ、唇をキュッと噛む。]
[双の手が、自分の腕を掴み――そして、静かに、頷いた。]
来なさい……
[私は“彼女”を椅子の前に導き、頭を左側に、腰を右側に、彼女の体を私の膝の上に預けるように四つんばいにさせる。シーツをまくりあげると、真っ白な双球が顕わになった。
今や、その姿はシャーロットそのままの姿に変じていた。
彼女と重ねた時間のすべてを、その光景を私の“目”は克明に記憶していたのだ。その記憶がナサニエルの纏うなにかの気配に感応するかのように、甦っていた。]
なぜ――
罰を受けなければならないかわかるね?
[私の指先が、右手に巻かれた包帯を、その傷が痛まぬようそっと撫でる]
君は、危険を充分に意識することなく、猛犬に自ら近づいた。
その理由が好奇心なのか、他にあるのかはわからない。
だが、それは無用のことだった。
君は、なにを得るわけでもないのに
腕に怪我をすることになった。
それは、罰するに価する行為だ。
[「父」の膝の上にその身体を乗せられ、「娘」はその身を硬直させた。纏っていたシーツをそっと捲られた瞬間、静かな溜め息が唇から漏れる。]
[右手をなぞられた瞬間、「娘」の指がぴくりと動いた。]
「何故罰を受けるのか、わかるね――」
[身を捩らせ、潤んだ瞳で「父」を見つめる。少し思い澱むように顔を伏せ――頷いた。]
[柔らかく白い肌に赤いあとが残される。私は、その痛みを和らげるように、あるいは愛おしむようにやさしくそっと撫でる。
一つめには、と私は続ける]
君は世界が君に与えた価値に対して報いなければならない。所有するということは、同時にそれに付随する義務を負うということだ。
君は何よりも、自分自身の美しい躰を大切に扱わなければならない。不注意や、無警戒や、あるいは怠慢によって損なってはならない。
いつも気を配り、愛おしみ、注意深く守っていかなければならない――
[言葉をかみしめるように、切々と綴る。
彼女にその意味が充分に伝わるように。
そして、私は再びホーンブックを掲げる。]
…………………ッ!
[ホーンブックが鋭く降りる音に身を硬直させ――おそろしいものに「おそろしい」と意思表示する暇も与えられぬまま、臀部に痛みを与えられる。その痛みに歯を食いしばるが、鼻と歯列の間から、大きく素早い息が漏れ出る。]
[右手の怪我に言及されたからか、頭を左右に振り、「父」から見えぬよう、シーツの中に右手を隠そうとする。]
何…? この、恐ろしいものが空気をねぶるような感覚…
[私は急に不安感に駆り立てられた。少しでも油断すれば竦み上がりそうだ。]
[再び、新たな赤い跡がその肌に刻印される。私は震える指でその跡を撫でた。]
……私は……
自分自身の全身全霊をかけて、君を守護すると誓う。その義務を果たすよう努力する。
だから君は――
――君も、できたらその責任に答えて欲しい
[“彼女”に言い聞かせながら、いつしか私の両頬を雫が伝っていた。
彼女を傷つけたのは、彼女の好奇心だっただろうか。
だが、私は彼女を守ることができなかったのだ。
それは、私の罪でもあった。]
ギ、ギル…
[私はギルバートの神経を逆撫でしないように、ギルのすぐ後ろまで歩み寄った。そして不安を隠しきれないように声を漏らす。]
ギル…私、怖い…
一瞬でいいの。ごめんなさい、私に力をちょうだい…
[私はまるでおねだりをするかのように囁く。]
[ホーンブックを臀部に打ち付けられた「娘」は、おそろしさのあまり「父」の膝の上から逃げだそうともがく。]
[自身のからだを傷つけてしまったこと、自身のからだを「父」のために大切にできなかったこと――そんなことが頭を過ぎり、「娘」は羞恥のあまりその頬を真っ赤に染めた。]
[臀部に走る、鈍く鋭い痛み――その場所が赤く染まっていることを、「娘」は見ずともその上に響く熱で、感じていた。]
[背後に迫ったネリーの気配と頼りない囁きに、彼は振り向いた。
そして、]
………。
[無言のままその唇に、深い口接けを与えた。]
二つめに、君は、私の忍耐力を過大に評価しすぎてはいけない。
私がなにに耐えられ、なにに耐えられないかを知らなければならない。
[今や、その声は震えていた。
嗚咽で喉が詰まる]
君は、自分自身の怪我の痛みに耐えられると思うかもしれない。
だが、私が君の怪我に耐えられるわけがないのだという事実を忘れないで欲しい。
[そこまでやっと言葉を紡ぐと、もう耐えられなかった]
……ああ、ロティ……
耐えられるわけがないだろう!
君が怪我をすることに――
君を喪うことに……
……あぁああああぁ……
[私は今は“シャーロット”であるナサニエルの背中を抱きしめ、泣き伏していた]
[同時に── 一つの住所と場所のイメージ。]
『俺に何かあったらそこへ行け。いいな。』
[唇を離し、彼はネリーに背を向けた。]
[臀部に広がる赤を撫でられ、「娘」はハッとして顔を上げた。]
[身を捩らせて「父」の顔を見上げる。
――「父」は、泣いて居た。]
………………。
[父の言葉に、ゆっくりと頷く。]
……。
[柔らかく暖かい口づけを施され、沸き起こる安堵感。
と同時にギルバートが2本の足でこれだけ堂々と立っていられるという羨ましさ。
唇が離れた。 もう私は私の力で立っていられる。]
――はい。
すまない、すまない――
……ぅう、あああ……
[私は何度も詫びながら、泪を零し続けた。
それは、誰に向けられた謝罪だっただろうか。
喪った娘と、この場で娘になってくれたナサニエルへと――
あるいは、無力にも救うことのできなかった数多くの愛する人への
しばらくの間、怺えることのできない慟哭に身を委ねていた]
[ふたつ頷いた時、「娘」の視界に、嗚咽する「父」の顔が真っ赤になっているのが入った。「娘」は、目を細めて父を仰ぎ見る。]
……………………!?
[次の瞬間――「父」の腕が、「娘」の身体を抱き締めた。「父」の体温が、シーツごしに「娘」のからだに伝わってくる。]
[ナイフをシースより抜き放ち、]
[短い、「ヒュッ」と言う呼吸音と共に、]
[身体を丸めて目指す部屋に向かって飛び込み、体当たりで扉をぶち開けた。]
[ネリーはギルバートの無言の目配せを察し、ギルバートから少し離れた。
やや後退し、今まで彼が座っていた――包みがまだ置かれている安楽椅子の所まで下がり、自分なりに感覚を研ぎ澄ませる。]
[「娘」は――慟哭する「父」に抱き締められたまま、黙って天井を見つめて居る。
――天井には、小さな茶色い染みがひとつ。]
『ギルバート!!?』
[扉が破られた刹那、転がるように椅子から落ちると、背もたれを楯にするように椅子を構え身を低める]
[何かがあった時のために、出口までの経路を見渡す。
何か、神聖さを感じざるを得ず、包みはぎりぎりまで動かしたくない。]
[構えた椅子の背もたれを挟むように、男の爛々とした瞳がそこにある。
ナイフは背もたれの上部に触れるように私の首筋に突きつけられていた。
戦慄が身を震わせ、冷たい汗が流れ落ちる。
緊迫した対峙に、身じろぎ一つできなかった]
……いや。動いてもいいが、アンタがこの世にオサラバする羽目になる。それで良ければ。
[琥珀色の瞳が至近距離からヒューバートを見下ろしている。
ところどころ泥汚れと飛び散ったドス黒い飛沫のこびり付いたシャツからは、何故か血臭が漂っている。]
ははっ!
いきなり襲ってくるとは、予想外だ。
それとも、もう素性をとりつくろう必要がなくなったってことかな?
[私は虚勢をはるかのように、ギルバートを見据えながら吐き捨てた。
彼の瞳を覗き込んではいけない。本能がなぜかそう警告を発していた。
私は彼の瞳の下、頬のあたりを睨むようにしながら、彼の一挙手一投足に神経を集中させている。]
[どこが安全?
ギルがいくら本物の「人狼」だからって、1対2でどこまで張り合えるか…
いいえ、仮に勝てても彼の間合いから離れればむしろ私が危険だわ。ここは隙をみて逃げるべきか――
私は耳を中心に便りながら考える。]
[視線はヒューバートから逸らさず、同時に「ナサニエル」にも声を掛ける。]
まさかここでそんなショウを見られるとは思わなかったな。
いいご趣味だな、ミスター・ヒューバート・バンクロフト。
[クククク…と喉を鳴らして嗤った。]
また、誰かを手にかけたのかい?
それとも、食餌に?
[彼の衣服から微かに漂う生臭い臭気に呟きを漏らす。
ギルバートの云うように、容易に動ける状況ではなかった。
ここは狭い部屋だ。私の体の後方には壁が迫り、辛うじて椅子を構えているとはいえ、ナイフは首筋に突きつけられている。
どうにか、隙が生じるのを待つべく、言葉を紡ぎながら時間稼ぎをする]
[シーツを自身から取り去り、一糸纏わぬ姿に変わる。胸には、心臓を模したようなハートのタトゥー。]
………いやん。
そんな目で、見ないで?
[シーツを肩に掛け、分厚い唇を歪めた。]
[ギルバートの言葉に、カッと一瞬で頭に血が昇った。燃えるように顔が熱い。]
――なっ!
貴様ァ、聴いていたのか――っ
[よりによってこの男にだけは、聴かれたくはなかった]
チャーミングだとォ!
侮るな!
私は――
[その時、ステラの部屋で発見した写真を思い出す]
――いや、アンタの方が、遥かに年長者なのだろうな。
ギルバート・ブレイク。
その積み重ねた齢には敬意を払うよ。
いったい、何歳だ――
アーハァ?
何のことだか……
[ニッと微笑む顔はとぼけているのか、ふざけているだけなのか。]
それより。ローズが死んだぜ。ステラに殺されてな。
アンタは古い友達だそうだから、一応教えとく。
とぼけるのか?
写真だって、あるんだぜ?
君が少し下がって、私を自由にしてくれたなら、見せることができるんだがなァ
[そんな誘い水に応じてくれそうな相手にも思えなかったが、挑戦的な眼差しを投げて云う。
だが、ギルバートから次に聞こえた言葉は、私に少なからぬ動揺を与えた]
ステラがローズを――!?
バカな……
……いや……
[ステラの自宅の冷凍庫にあった心臓。あれはまさかローズのものだったとでも云うのだろうか。嘔吐感が甦り、胃がヒリついた]
要らんよ、そんな写真。見たところで俺には何の得もない。
[ナイフを突きつけたまま、器用に肩を竦めて見せた。少し刃が皮膚の表面ををぞりぞりと擦っていったかも知れない。]
最初に会った時の疑問は今も疑問のままだ。
この町になにをしに来た?
ここは、なにもない町だぜ。
ちんけな――
女の数だって、そんなに多くはない。
遊ぶところだってほとんどない。
遊び相手は――あっという間に居なくなっちまった。
そんくらいの規模のちっぽけな町だ。
[だが、それは愛すべき人たちだ。嫌悪し、遠ざかりたいと感じながらも愛着を感じていた町だ。
その崩壊をもたらしたこの男に、憎悪の眼差しを投げる]
人を探しに来たのさ──それと町を見に。
だが、もう用は終わった。後は立ち去るだけだ。
[口の端に浮かんだ薄い微笑はそのままに、憎悪の眼差しを涼しい風とばかりに受け流す。──そんなものにはもうとっくに慣れきっている。
ふっと思いついたように、]
──ああ。そうだ。アンタに聞きたいことがなくもなかった。
退屈しのぎくらいにはなったかい?
なにかおもしろいものがあったというなら――
きいてみたいものだ。
――君の話を。
[ギルバートに挑戦的な言葉をかけた]
探し人――見つかったのか?
それが誰なのか、聞いてみたいものだが……
[そして、ギルバートの問いかけに]
話せそうなことなら、なんでも――
[と云った]
君から話を聞ける程度のものになりうるかはわからないが。
見つかったが……もう居ない。
それはもういい。
この町は変わってるな? ずっと──こんなふうに……閉鎖的だったのか?
その、色んな変わった風習がある理由が何故だか分かるか?
[この町にこんなに「血族」が多かった理由を聞こうとすると、自然人狼の話をせざるを得ず、それを避けるとなると非常にぼかした問い方にならざるを得なかった。]
[シーツを背もたれに掛け、ナサニエルは2人の様子を観察している。]
んー………
俺もヒューバートには話したいことあるんだけど、それは後でいいや。
[露になった性器を気に留めることなく、そのままの姿で居る。]
“人狼”の血脈――
[ギルバートを見据えながら、図書館で知った事実、バンクロフト家に伝わる奇習を思い浮かべながら言葉を紡ぐ。]
その力は、時に鋭敏な感覚や常人には持つことのできない身体能力となって発現される。
完全な人狼ならずとも、それは一族の者に力を与え、家の繁栄をもたらしてきた。
だが、完全な人狼になり、更にその力を律しきれない場合は破滅がもたらされる。私はそう聞いてきた。
だから一族は、その血を飼い慣らすよう努めてきたんだ。
閉鎖的、と云えば閉鎖的なんだろうな。
たとえば、ボブのような黒人が住むことは、これまではありえなかった。
彼の母親が土着の者で、外部の者に身ごもらされたのでなかったなら。
[目線をギルバートから外さないまま、口の端でナサニエルに笑いかける]
ナッシュ。
君の友達はなかなか荒っぽい歓待をしてくれるようだ。
私も、心当たりがないではないが、ちょっと落ち着くように云ってはもらえないかな?
──墓地──
[久しぶりの外は月夜だった。
安置所の冷たく澱んだ空気に慣れきっていた私は、夜空と普段から見慣れたヘイヴンの森の奥に広がる闇に目を細めた。
新鮮な風が私の髪を乱す。
夜の墓地は静まり返っていて、私は私が安置所に居た間に世界が滅んでしまったのではないかと、不安に駆られる。あるいは、私は実際は死んでいて、人狼として生き返ったと言う突拍子も無い夢を見ているのでは無いかと。]
[その時、僅かに眉根を寄せて、ちらりとナサニエルを見た。
一瞬その面を何かに気付いたような色が走ったが、]
──────。
[ほんの一瞬でそれは消えて、すぐに視線をヒューバートに戻した。]
[パパが着せてくれた埃と血に塗れたお気に入りの衣服。
乾きかけた体液の匂い。
片手に握りしめた触れただけで切れてしまいそうな鋭利なナイフ。
──それだけが今の私の持ち物だった。
墓地の入口付近の短い石畳に、私の歩くヒールの音がコツコツと小さく響く。華奢なヒールで一歩あるく度に、つま先から内臓にかけて軋むような痛みが走るのは、私の身体が回復しきっていない所為だろう。当然だ。私は一度仮死状態に陥ったのだから。]
[墓地を出ると、急な勾配の山道が続いていた。
いつもの自転車があればラクなのにと私は思う。
山崩れの災害があったのは何時の事だったのか。今夜の空に雨雲の影は無い。私には全てが遠い昔の出来事のように思える。]
…誰かに出会ってしまったらどうしよう。
「私が死んだ」と知っているような誰かに──。
ううん、そもそも誰が生きてるのかな。
ソフィの熱は回復したのかしら。
[此処から家まで歩いて帰るのは遠いなと、車一台通らない寂しい道路の中央を歩きながら私は首を傾ける。
私はパパに逢いたかった。
それに、この町に厄災をもたらした切っ掛けの旅人、ギルバートを探さなくてはならなかった。]
────何処へ。
何処へ向かえば良いのだろう。
足はひっぱらないようにしないと駄目、ネリー。
[ネリーは包みを家宝のように大事に両手に持ち、3人がいる部屋へ近づき始めた。]
[ヒューバートの答えに、笑みが崩れた。]
人狼──か。
なるほどね。そうか。アンタのご先祖様は同族のことを少しは知ってたんだな。
血の源となった、大元の同族が誰かは知らんが……
これ程大規模な「血族」のコミュニティが今まで知られなかったことの方が奇跡みたいなもんだ。
ギルバート。
“お友達”が居るなら答えづらいなら――
いや、そもそも答えてもらえるとしたら望外のことなんだろうが……
私は真実が知りたい。
君は、この町で“なにをした”んだ?
そして、とどのつまり――
なにを“糧”としたのか
[『誰と誰を手にかけたのか』とその問いに言外の意味を載せる。]
その答えが聞かせてもらえるなら、君の指定するどこへでも赴くよ。
“コミュニティ”
……他にもあるのか……?
[“同族” ……ギルバートの言葉が耳に残った。]
“同族”なら、もう少し優しく扱ってほしいものだが……
[皮肉めいた笑みが唇に浮かんだ]
まあいいさ。
アンタが「血族」として知識を持ってるのは分かった。だったら教えてやってもいい。
[浮かべた嗤いは口の端で、素早く閃いて消えた。
後に残るは、恐ろしく静謐な瞳。]
──俺はこの町に同族となりうる血族が居ないか探しに来た。
この町には同族の血を引いた血族が居る可能性が高いと踏んでだ。
――ステラ・エイヴァリーの自宅――
[ヘイヴンの町の人達にステラ・エイヴァリーと認識されて居たものの家の一角、寝室のチェストのおそらく最下段の引き出しに眠る一冊のノート。
それは彼女がこの町に着てからずっと書き溜めていた彼女の本心が密やかに綴られている。]
[ステラという人物が何故神を憎みながらも信仰を捨て切れなかったのか。ヒューバート・バンクロフトとローズマリー・ベアリングへの思いと苦悩。背中に施した刺青の意図する所。
そして――亡き愛しき人、シンシア・アリスンへ募る感情。]
[彼女は時にステラに、時にシンシアになりながらも己の存在意義等を全て確定を掛けずに思いのままに書き綴っている。言うなればそれは誰も知らない彼女自身の本当の姿。]
ご厚意に感謝するよ。
[恭しい口ぶりで礼を告げる]
血族――
[そしてその言葉に耳を傾ける。
次に、ネリーに言葉をかけたギルバートの声には意外なトーンが籠もっていた。身も知らぬ他人にではなく、上位者が下位者に命ずるような――]
[暫くはそのままぼんやりと歩き続けていた。
今まで起きた出来事を反芻しながら。
私は漸く、町はずれのガソリンスタンドに辿り着く。
それは叔母のレベッカが雑貨店の片手間に経営していたそのスタンドは元々人件費を節約する為にセルフサービスになっている。何時ものようにがらんとして人気が無い。
私は、以前は夜中にここまで自転車で「散歩」に来たものだった。夜中に給油する車、たまに訪れるヘイヴンを通過して行く外部の車達。それらを見ていると、私が夜闇に紛れて何処かへ行ける気がしたものだった。
何処へも行けない事も知っていた。けれども、何時か正しい形でこの場所を出て行きたいと願っていた。]
──ガソリンスタンド──
[ヘイヴンの外の学校へ通った短い一年間を唐突に思い出す。
私の外見を理由に、ハイスクールになると部員全員がチアに移動するバトン部に勧誘する女子達と、捻くれ者のゲイの先輩と演技をすると言う事に魅力を感じて演劇部を選んだ私。
「スポーツ選手の応援って何が楽しいの?」
アメリカンフットボールを応援するチアに入るための登竜門をくぐらない私を一転して責め、私の外見を理由にお高くとまっていると悪口を言い始める女子達。集団心理やスポーツ特待生の暴力まがいの圧迫勧誘にも驚いた。]
何時かは、私もヘイヴンの外にも慣れて──
ステラ先生と約束もしたし、学校にも行って。
プレスクールへ行く為の準備をはじめて。
ハーヴやパパのように私も外へ。
…ああ、先輩からそろそろ手紙が着く頃かもしれない。
返事が遅いと心配されてしまう。
『……やれやれ』
[どうにも悪い予感がしてならなかった。
だが、私はなるべく柔らかい声音でネリーに訊ねていた。]
ネリー。
ボブが居なくなって、君には新しい“居場所”ができたかい?
[それは、ナサニエルの?
――あるいは……この目の前の――?
その対象はあえて暈かすように。]
……アンタは同族じゃない。ただの「血族」……人間と同じだ。
俺には、血族のなかに潜む、人狼の血を目覚めさせる力が有る。
これだけの数が居たなら、或いは……とも思ったが。
それでもダメだったな……。
[最後は僅かばかり沈んだ呟きとなった。]
[侵入者を喰った時の返り血が衣服がこびり付いて気持ちが悪い。
少し考えた末、スタンドにあるホースで流してしまおうと、私は水場に歩いて行く。
水道のすぐ傍にある端のひび割れた鏡を、私はなにげなく覗き込む。覗き込んで私は息をのむ。]
[いつもより青ざめた私の貌──。
だけれども。]
[金色の瞳。]
[アンジェリカですれ違ったあの旅人と同じ。]
流れ者 ギルバートは、冒険家 ナサニエル を能力(襲う)の対象に選びました。
流れ者 ギルバートは、美術商 ヒューバート を投票先に選びました。
いや……
ヒューバートは僅かばかり血の影響を蒙ってはいるが、狂ってはいない……
まあ別に逃げるのを邪魔するなら殺すのもやぶさかじゃないが。
[何かが。嵐のように私の中で恐ろしい速度で吹き抜け、去って行く。
今度は失った日常では無く、安置所の中でハーヴやニーナ、ボブ・ダンソック、青白い光達の声、女性の骨に導かれるように過去のヘイヴンのヴィジョンを見た事が、幻のように思えた──。]
……私は生きている。
[誰にとも無く呟いて、私は鏡の中の金色の瞳を見つめたまま、ホースの水を頭から大胆に被った。]
[ネリーはギルバートのすぐ背後についた。
ヒューバートとナサニエルの外見に一瞬眉を顰めるが、表情は出来る限り崩さない。]
"居場所"。
そうね。YESかNOかで言えば、YES。でも、まだNOよ。
私にはまだしなければならないことがあるの。
ネリー。俺と一緒に町を出るか?
同族がお前を迎えてくれるだろう。そこで身の振り方を考えるのもいい。
それともナサニエルのところに居たいか?
…もう答えは出ているわ。
ナサニエルさんも、かけがえのない人だけど。
私はこの血を伝えれるものなら、伝えていかなければならないもの。
そうか……
[私は呟く。
ボブの命を奪わずには居られなかった私だったが、彼女の行く末を案じる気持ち自体には偽りはなかった。
居場所ができたそのことを、できれば祝福したかった。
それが、正しい居場所であるならば。]
ネリー、今度は間違えてはいないかい?
君の居場所を。
君に……新しく居るならば……その主を。
主…そう、あなたの言う通り、その言葉は私にとって一生つきまとう言葉だと思うわ。
でも、それよりも何より、私は遺さなければならないものがあるの。私の気持ちなんて関係ない。
ぁあっ!! 畜生!!
[私は叫んでいた]
ぁあ、そうさ!
どうすることもできない――
娘の命が奪われた、その事実は変わらない!
――だが――
──分からないのか?
俺はアンタの娘を一度も見たことがない……。
嘘は、つかない。
[その眼差しは底に黄金の光を湛えて、厳かにヒューバートを射た。]
ネリー!!
[私は精一杯の意志を込めて、彼女の名を呼ぶ。]
本当に間違えてはいないのか!?
君の――
君の居るべき場所を――!!
遺す――
――まさか……?
[一つの予感があった。――“同族”
その予感が正しかったかどうかは、知る由もなかったが]
――ばかな……
じゃあ……
……娘は……
…………いったい……誰……が……
[その答えは、私の魂が既に知っていたはずのことではなかったか?]
……うそ……だ……
そんな……
う、うそ……だ――
………俺ね。
あんたに聞きたいことがあったんだ。
『何故あんたは、妻を奪われたことを怒らなかった?』
そして―――………
『何故俺の身に、あんたの愛娘を見た?』
ぅあああぁああ!!!
[感情が現実を拒むように、軋みを上げ、魂の咆吼が喉から迸り出た]
畜生ォおおおぉおお!!
うそだ、うそだ、嘘だァアアァア!!!!!
ハァアアアアァアアヴ!!!!
流れ者 ギルバートは、美術商 ヒューバート を能力(襲う)の対象に選びました。
流れ者 ギルバートは、冒険家 ナサニエル を投票先に選びました。
[鋭利な爪がガラスに当たり、不快な音を立てる。
天井の切れかけた蛍光灯の周囲を蛾が飛んでいる。
血痕の付着が激しいが酷い胸部にホースを当てると、下着の線を浮立たせながら、薄赤い水が面白いように足元に流れていった。
靴擦れした踵がむずがゆい。私は少し考えた末に、繊細な流線型のカーヴを描く、華奢な白いヒールをその場に乱暴に脱ぎ捨てた。汚れかけた白いヒールが水に濡れて変色していく。]
[宙吊りになる苦痛から解放された足の筋肉のかたちを確かめるように、私はシルクのストッキング越しにゆっくりと両脚をなぞる。
ああ、それにしても。
下着の内側まで洗い流すべきだろうか。
──私の躯にはパパの匂いが染み付いている。
安置所での濃密な交わりのあの時間を思い出すだけで、私の躯は熱くなり薄い快感のベールが皮膚を覆うような感覚に襲われる。禁忌を超えているのと言うのに…私は。]
[ニーナとラルフの関係を知っていた叔母さんの私を見る悲しげな顔。あたたかい気配が甦る。
私はパパに会えたとして、どんな顔をすればいいのだろう。
私を殺したハーヴを許せないけれども、彼への気持ちは変わらないように。]
──私はパパを。
[地獄だった。もう、何も見たくなかった。一刻も早く、この場から走り出したかった。
ネリーの指先が包みにかかる、その前に。]
[遠くて声が聞こえたような気がした。
私は水栓を閉じ、鏡の前に置いたナイフを握りしめると、既に人間では無いやり方で、闇の中を──*声の聞こえた方角へ走り出していった*。]
[突きつけられていたギルバートの刃を避けるように、僅かに頭を仰け反らせながら身を落とす。
その体重を載せるように、目の前に掲げ持っていた椅子をギルバートに向けて蹴り出した。
床に手をつき横飛びに転がると、目の前の窓に向かい足を蹴る]
《ガシャーン!!》
[耳を劈く硝子の砕け散る破砕音と共に、私は窓外に転げ落ちた。
硝子の破片で微かに頬が切れたのか、熱い滴りが零れ落ちる。
横飛びに窓から離れると同時に、懐から拳銃を抜き放つ――]
[ナサニエルはヒューバートの顔をちらりと見て――そして、目を閉じた。]
Good-bye,
MR.
LOTTY-FUCKER....
[その唇は、上弦の月の如く――]
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