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流れ者 ギルバート は 酒場の看板娘 ローズマリー に投票した
修道女 ステラ は 酒場の看板娘 ローズマリー に投票した
酒場の看板娘 ローズマリー は 書生 ハーヴェイ に投票した
冒険家 ナサニエル は 美術商 ヒューバート に投票した
書生 ハーヴェイ は 酒場の看板娘 ローズマリー に投票した
美術商 ヒューバート は 酒場の看板娘 ローズマリー に投票した
見習いメイド ネリー は 書生 ハーヴェイ に投票した
新米記者 ソフィー は 見習い看護婦 ニーナ に投票した
見習い看護婦 ニーナ は 酒場の看板娘 ローズマリー に投票した
酒場の看板娘 ローズマリー に 5人が投票した
書生 ハーヴェイ に 2人が投票した
美術商 ヒューバート に 1人が投票した
見習い看護婦 ニーナ に 1人が投票した
酒場の看板娘 ローズマリー は村人の手により処刑された……
次の日の朝、見習い看護婦 ニーナ が無残な姿で発見された。
現在の生存者は、流れ者 ギルバート、修道女 ステラ、冒険家 ナサニエル、書生 ハーヴェイ、美術商 ヒューバート、見習いメイド ネリー、新米記者 ソフィーの7名。
[ヒューバートがステラに何か渡している。
手元を見ると、それは見覚えのあるカードケースだった。]
『あれは──…。』
[ネリーを倉庫で発見した日、付近に落ちていたものだ。]
『そう言えば、何故ステラさんがあそこに──?』
[ソフィーは心がざわめくのを感じた。]
―雑貨店―
[ここにはちょうど大勢の人の姿が揃っていた。イアンのことを知る者がいないかを聞くよい機会だっただろう。
ややあって、私は口を開いた。]
なあ、みんな。
悪いんだが、イアンがどこへ行ったか心当たりがある人はいないか?
[酒場で姿を見たのを最後に、ずっと姿を見ないことなど状況のあらましを知る限り話しながら問いかけた。]
あの、ステラさん──…。
[思い切って、戻って来たステラに声を掛ける。
彼女だけに聞こえる小さな声で]
昨日の朝、此処に───……、
…──いえ、やっぱり……、何でも…ありません。
[昨日の事を訊こうと口を開きかけたが、何故か訊いてはいけない事のような気がして、ぎこちない微笑みで*誤魔化した*。]
イアンさんですか?イアンさんって、ソフィーさんのお父様ですよね…ごめんなさい、ちょっと私は分からないですわ…
[ネリーは真摯な翡翠の瞳をヒューバートに向けた。]
イアン………?
誰だそりゃ………。
[しばし考え込み、そして思い出した。]
あ。そうか。
ソフィーの父親のことか?
さぁ………すまんが俺は知らねぇなァ………
[相手は誰でもよかった。
ヒューバートでもナサニエルでもステラでも。
しかし目の端に写ったのは
ヒューバートに涙を浮かべながら兄を探すニーナだった。
忌むべき物を見つけた。
氷のような目でじっと睨む。]
駄目…駄目よ…
[私はハーヴェイの抑えきれない衝動をどうにかしないと、と思うも手が打てず拱いていた。ギルバートは何を望んでいるのか分からず頼りにするわけにもいかない。
私は隙があれば雑貨屋から彼を引っ張り出してでも、と思った。]
[でも雑貨屋から引っ張りだしてからはどうする…?
口で翻意はしてくれそうもない。ましてや彼を背後から殴る度胸もない。どうすれば…]
――雑貨屋――
[様々な思いをめぐらせていると、ふとバートからソフィーの父、イアンの行方について訊ねられた。
彼の話だと、イアンはわたしが席を外した後から姿を晦ましているらしい。]
『酒場から…姿を――』
[その言葉を口の中で反芻させながら、ふとわたしの視線は無意識の内にローズへと注がれていた。勿論今度は誰にも気付かれないようにすぐに逸らしたのだが。]
所でイアンって…自分から何処かへ行こうとする気力と体力が…まだ残っていたの…?
[雨の中、ようやく家から連れ出してきたときの様子を思い出し、わたしは不思議そうに尋ねた。その問いにどのような答えが与えられるかは、何となく解り切っていたようには*思えたけれど…*]
ソフィー、どうしようか。
ここへ来るまでも一通り町の中は見てまわったが、今のところ姿が見られないようだ。
山や森の奥深くに迷い込んでしまったのなら、町の人々に働きかけて大勢で山狩りしない限りは……難しいかもしれない。
ただ、今の町の状態が状態だからね。集められる人の数を考えると、効果があるかどうか……。
[なにか方法がないか、思案を巡らせる]
そうだな……
イアンの匂いがついたものはあるかな。
猟犬がうまくすれば、探し当ててくれるかもしれない。
さぁな………
[最後に見たのはいつだったかも覚えていないイアンの姿。
あのヨレヨレとした爺さんが全力疾走で森の中を駆け抜ける姿を無意識のうちに一瞬だけ想像し、慌ててそれを脳裏から掻き消した。]
何処に行ったかは知らねぇけれど、あの爺さんの脚じゃ遠くに行けるようには思えねぇ……。
[おそらく私はハーヴェイの10分の1の力もない。だが彼の衝動は私の何を使ってでも止めなければならない。
私は密着しそうな距離で囁く。]
誰かを手にかけることは…それはヘイヴニアンの望みなの…?
[ステラとナサニエルのイアンへの疑問は、言われてみればその通りだった。そもそも、彼はそれほど遠くまで行ける状況だっただろうか。
しかし、そのことを考えるといずれにしてもあまりよい結論に辿り着かない気がして、今現在まだしもとりうる方法を考えてみる他なかった]
[ネリーはナサニエル、ステラやハーヴェイ、ヒューバートの言葉を聞いていた。]
いえ…私、イアンさんはもう何ヶ月も見たことがなくてどんな人だったっけと…
あの、私もお手伝いさせてください。
[体を密着させてくるネリーの腰に手を回す。
愛情やらとそんな甘いものではなく、その気になればすぐにでも縊り殺してやらんという明示]
『俺の』望みだよ。
[先程のキスの仕返しといわんばかりに唇に噛み付いた]
[まるで先ほどギルバートに小型犬を嗾けられたような感触…私は我慢を決め込む。 それは不感症にも見えるだろうか。
それでも彼のスタンピードを止められるのなら…]
ふう…う。
[リックの遺体を見つめ、彼の名を繰り返し呼ぶうちに、私は…──。]
…だめ。
私、あなたが目覚めるまで待つなんて、耐えられないみたい。
[私は渾身の力を込めて身を起こし、透明な柩の蓋を持ち上げて開いた。スカートがしゃりしゃりと音を立てる。這いずりながら台座へ降り立ち、肩からほとんど滑り落ちるようにして、床へ降り立った。
床からリックの遺体の乗せられた台座までの距離が、永遠のようにながく遠く感じられた。白い衣服を汚しながらリックの遺体の乗った台座に這い上がるまで、どれ程の時間を必要としたのかわからない。
どうにか、まだ新鮮な血肉の匂いの源にたどり着いた時、干涸びそうなほどカラカラだった私の口内は、唾液が滴り落ちそうなほどに濡れていた。]
リック……。
あなたを私に頂戴。
[言葉と共に透明な唾液がリックの上に滴り落ちた。
闇の中みる私の指先は蒼白過ぎて、自分のものとは思えなかった。
真珠貝のように私の爪が輝き、何時の間にか鋭利なナイフの切っ先のように形を変える。
私は腹這いに寝そべったような姿勢のまま、ささやかな質量しかないリックの肉を切り裂き、両手と口元をその血に染めながら、はしたなくむしゃぶりついた。
柩からこちらの台座に辿り着くまでの時間を考えると、それは一瞬の出来事だった。私は次に左手でウェーブの掛かったブロンドの髪を掴み、壊れた頭蓋の裏にこびり付いた脳髄を啜ることにした。]
[私はリックの頭蓋の裏を何度も何度も舌でなぞり、味がなくなるまで舐め尽くした。私が欲しかったのはこれだ。]
甘い。なんて甘いのかしら。
…もっと、もっと欲しいわ。
これだけじゃ、足りない──。
[足りない──と呟きながら、私は瞬きを繰り返す。きっと私の瞳は闇の中でギラギラと輝いているのではないだろうか。
プレートの最奥に、リックの足首とおぼしき部位がまだひとつ残っている。私は腹這いのまま、さらに奥へ進みリックの足首を掴んだ。床を這い、プレートに滲んでいたリックの血で染まった、お気に入りの薔薇柄のシフォンブラウスは酷い有様になっているだろう。
力を入れた際に押さえ付けられた下腹部にまた甘い痺れが広がった。
私の中で、液体が泳ぐ…──。
私は口内とは別の場所をまた別の涎で濡らしながら、肉の薄い部位を歯で裂いて、やはり骨だけになるまで喰い尽くした。]
[乾きが少し満たされた私に、急速に睡魔と身体の数カ所が引き攣れるような痛みが襲う…──。
私は本能的に、パパが作ってくれた私の柩に戻り今度こそ眠る事を決めた。柩の蓋は閉じる*余裕はなかったかもしれない*。]
ありがとう、ネリー。イアンとあまりつきあいがないというのに、すまない。
そういえば、ネリー
君の主人は、君が油を売っていても、怒らないのかい?
[今ここに居る私はボブに起きた出来事の顛末を知らないはずだ、と自分自身の立場に留意しながら言葉を紡ぐ]
[ヒューバートのボブのフレーズに言葉が詰まる。]
旦那様…実は旦那様の姿が見えないのです。
私、心配になって来たのですけど…ヒューバートさん、どなたか、旦那様が何処にいるかご存知ありませんか?
[全て誰にも見えないような角度で周到に。
唇に噛み付いたのも皆がヒューバートの話に集中している隙を狙ったもの。我慢する様子には嘲笑うようなかすかな笑い声を立てた]
…この声聞こえるんだろう?なら今は何もしない。
今は女の体に特別興味ないんでね。
但し、次邪魔するのなら
[ピアスは真赤に光っている。太陽の光も当たらないのに]
殺してやる。
[それだけを呟くと、体を離す]
[次に私が目を醒ますと、今度は焼きすぎてwell-doneを通り越してし消し炭になる寸前の焦げた肉の臭いがかすかに室内に漂っていた…──。
一種類の肉では無く、複数の種類の肉だ。
ポークとビーフとチキンを同じ調理法で料理したとしても、料理人にはその匂いの差がわかるように、私にはその違いが分かった。嗅覚がいつのまにか鋭敏になっているのかもしれない。]
これはもしかして、人間と私の苦手な犬……?
それにしても、よく焼けた遺体だわ。
また火事があったのかしら。アーヴァインさんと同じ、放火?
[部屋の隅に白い箱が増えている。
臭いはその箱から漂って来ている。きっと中に臭いの元、つまり新しい遺体が入っているに違いない。リックのようにプレートに乗せていては、散らばってしまうような状態の遺体なのだろうか。
私はその焼死体を作ったのが、私の父であるとは露ほども考える事はなかった。私はかすかであってもその──…犬の臭いが不快だった。
目を凝らすと箱の上にもルーサー牧師と同様に青白い光が揺らめいている。
「狩人がいるのなら、狩人を狩る者もいるんだ!」]
[天井にある小さな小窓に、犬の臭いは昇って薄らいでいく。
少なくとも、通常の人間ならばどんなに愛犬家あるいは犬を食す習慣がある民族だったとしても、*気が付かない程度に*。]
[少し見下された視線と口調。私は彼を見上げて呟いた。]
あなたは…人を殺す事でしか自分を証明できない人なのね…
可哀想な人…
[この白い箱の上に仄かに光を放つ青白く透き通るほのおもまた、ルーサーさんの其れのように何かを語る事があるのだろうかと、半ば目蓋を閉じたまま、ぼんやりと考えた。]
証明?
[くっくっ、と笑い声が響く]
違うね。
消したいんだよ。
[どうとでも取れるような曖昧な言葉を発し
「声」を閉じた──]
ボブ………?
あいつまで行方不明なのかよ。
………なんだそりゃ。
そういや、イアン爺さんとは違って、ボブには車あンだろ。車は家にあったのか?
普段なら「どこかに遊びに行ってるんだろ」でハイおしまい、で済むんだがなァ……。
[届く届かないなんてどうでもいい。
私も自分に言い聞かせるように彼に曖昧な言葉を残す。]
いくら拒否してもあなたは逃げられない。
あなたの求めているものはそんなちっぽけなものじゃない。もっともっと遠くに。
そして、その答えも。
でも…でも、旦那様の大事になさっているわんちゃん…犬達もいないんです。散歩とかじゃなくて、そう、誰かに荒らされた跡も…
私心配で…
姿がみえない……
そうなのか?
[オーウェンとダスティがボブの家へたどり着いた頃には、既にボブの遺体は炎によって原型が判らぬほど焼き尽くされてしまった後なのだろうか、と思いを巡らせながら。
それは私にとっては好都合なことだったが、朴直に主を案じるネリーを前にするといささか胸の痛むことだった。]
災害が起きてからいろんな事件が起きてるから心配だね……
[やっとそれだけぽそりと口にした]
そうだ。できたら……なんだが。
身の安全を守れる自信がある人は別だが、なるべく一つの建物に集まって寝泊まりした方がいいかもしれないよ。
うちに来るのに抵抗のない人は、遠慮なく来てくれてもかまわないから。
アトリエの方の客間はあまり空きがないんだが、母屋には大勢泊まることもできるだろう。
特に、ニーナ、ハーヴェイ。君たちが一人で寝起きするのは心配だ。
もっとも、私自身は多少外に出ることもあるだろうからあまり役には立てないかもしれないが……。
それでも使用人がいる分、まだしも多少は安心できると思う。
[皆は口々にイアンの行方は知らないと答えた。
しかしそれは当然予想出来た事だった。
始めのうちはショックに取り乱しもしたが、冷静になり、町で起きた様々な事件を聞くにつけ、父の失踪も町を取り巻く不可解な事件の一つに過ぎないと感じるようになっていた。]
───……ぁ、…さぁ、どうでしょうか。
私が手を引けば短い距離なら歩く事は出来ましたけど…。
[ヒューバートが父の行方を尋ねているのをぼんやりと見ながら軽く思考を飛ばしていたが、ステラに問われ慌てて答える。]
ただ……、遠くまで一人で行ける程の力は──。
[自分でも微妙な回答だと思いながら、語尾を濁した。]
[ナサニエルの言葉にネリーは頷く。年は少し離れているので詳しくは知らないが、苗字が昔とは違うような…]
はい、少し家を空けていたら、犬小屋が目茶目茶にされていて…旦那様は犬が人一倍大好きですから、そんなことをするはずがありません。
[その間ネリーは何をしていたのかは言葉を濁す。]
ボブさんまで行方不明…一体…何が…?
俺も…手伝えることは…。
…でも…なんでこんな…。
やっぱり…何か…何かおかしくないですか?
災害でならまだ分かりますけど…
[言葉の端々は何かのせいにしたいという人間の心理を表しているようだった]
この感情の起伏…ギルバートの言うとおり…かしら。
どこで、どこからどこまでなのかしら…
これこそが、ギルバートの持つ狂気と衝動…?
[私はハーヴェイには勿論、ギルバートにも悟られないように呟いた。
既にその「音」に長けているギルバートには聞かれているかもしれないが。]
猟犬は、人を襲ったりという事は……。
[猟犬の中には逃げる獲物を追う習性のあるものもいる。
噛まれたりする事はないのかと、尚も不安げに問うた。]
………シャーロットが刺されたァ?
[ヒューバートの言葉を聞き、天を仰いだ。]
………なんなんだ。そりゃ。
刺された……ってことは、殺人事件かよ……
ここ数日で何人死んでるんだよ……ったく!
何が起きてンだよ一体……
違う…違うぞ!
[黒焦げの遺体の上に揺らめく炎は、何かを囁く。]
我々は、貴様ら白人にYESの票を投じるだけの、
何も感じない機械じゃあないんだよ!
[無念の慟哭のような。]
貴様らは、我々を虐げ時には駒として利用し、
その繁栄の礎に組み込んでいったじゃあないか。
我々も、ハピネスを感じたかっただけなんだ。
同じ人間じゃあないか。その権利はあるだろう。
[言い訳のような言葉。]
眼を潰されたら、白人の眼を潰してやる。
歯を折られたら、白人の歯をへし折ってやる。
彼らが、我々の血肉を以て礎に組み込むなら、
我々は貴様らの体を以てハピネスを感じてやる。
うちの猟犬は人を襲ったりはしないよう訓練してある。大丈夫だと思うよ。
ウルフハウンド、という猟犬でね。
狼を狩ることもできる頼もしいやつさ。
もっとも、私の飼い犬というよりは、父の飼い犬なんだが。
シャーロットが犬がニガテだったものだからね……
[ヒューバートの言葉が冗談だと思いたかった矢先にナサニエルが復唱するかのように口にだす。
目の前が一瞬見えなくなった]
…そ…んな…
…いつ……どこ…で…
シャーロット……
[私の腕の中で次第に温度を喪っていったその時を思い出す。
哀切に表情が歪む。]
……すまない。
ああ、そうなんだ。
深い刺し傷が元で今は……
[安置所にいる、とやっと言葉にした]
当然だ。そうだ、当然じゃあないか。
[開き直った囁き。]
我々のボディとマインドが、貴様らのハピネスに
使われてきたのなら、同じようにされるべきなんだ!
やられたら、やり返されるのが世の摂理。
我々は、ハピネスを求めた狩人なんだ。
そんな哀れな狩人を狩る狩人だけが、
イイ目を見る社会なんて、許されるべきではない!
[力強い、本当に力強い演説。]
ハピネスとリバティを求め、志半ばに
監獄や墓場に散った同志よ!
今こそ立ち上がれ!!許されてはならない。
やっと認められた、我々黒人の価値さえも
その芽を摘もうとするこの間違った社会を許すな!
[ネリーの主人も行方不明だと言う。
家を荒らされたと聞き、やはりという思いが胸を過ぎった。]
『これは異常だ──…。』
[ざわざわと危機感だけが募る。
ヒューバートとハーヴェイの招きにはしばし逡巡し]
……すみません。
お言葉に、甘えさせて下さい……。
[しかし一人で居る不安には勝てず、申し訳なさげに頷いた。]
我が無念の、魂のエレジイを聴け!
願わくば、我々による我々のためのレクイエムを
ともに歌おうじゃあないか。
[悲哀と抵抗に満ちた、そんな言葉が*溢れ出す*。]
僅かに残った、ハピネスのための芽を摘まないように…。
[どうしようか悩む。ネリーにはする事が多すぎる。ボブの行方、シャーロットやイアンの事。もしかすれば自分の身も危ないのかもしれない。]
あの、私はどうすればいいでしょう…
ウルフハウンド……?
[それはどんな犬種だったか。
以前叔父に見せて貰った記憶を引っ張り出す。
確か、比較的愛らしい容姿の犬だったように思う。]
…はい。
でしたら、途中で家に寄って頂けますか?
父の洋服を持って来ます。
[少し安心して、頷く。]
ありがとう、ソフィー。
そうしてくれると、私も安心できる。
君に何かあったら、イアンに申し訳が立たない。
[ハーヴェイの言葉には]
折角うちに来てくれるのに無用の心配を煽ってしまうことになりそうだが、うちは警備は厳重とはいえないんだ。
敷地と建物の広さに比べると、使用人が随分少ないものでね……
ボブに何があったかは想像もつかないよ。
[娘の訃報を告げるヒューバートの辛そうな表情には]
ヒューバートさん……。
[慰めの言葉が見つからず、哀悼の意を示すべく瞳を伏せた。]
ネリー、ボブがすぐ戻ってくる宛がないんなら、しばらくうちに来てはどうかな。
来客が増える分、手伝ってくれる人がいると随分助かる。
もちろん、給金も出すから。
――雑貨屋――
[ソフィーにそれとなくイアンの状態を尋ねたわたしは、逆にソフィーから思いもよらない質問を投げかけられた。]
昨日の朝…此処に…?
[彼女の声は小さく、まるで誰にも聞かせたく無いような雰囲気を纏っていて、つられて私も小声で聞き返す。
そして記憶を辿る――
昨日の朝…それは……]
[しかし返答に困り始めるより先に、ソフィーはわたしに対する質問を切り上げてしまう。口を噤む彼女にそれ以上深く口出しする事も無いだろうと思ったわたしは、お茶を濁すように曖昧に相槌を打ち、その話は無かった事にした。]
旦那様はどうなってるか…動物達も残っているから時々様子を見に行かないといけないのですけれど…それでもいいのなら、少しお邪魔してもいいですか?
そんな、給金は別にいますぐは…!
[ネリーは気がつくとソフィーの手を横から握っていた。シャーロットが何者かに襲われたなんて信じられない、否、行方が掴めない人が何人もいるのだ。
少し暖かい感触が欲しいと思った。]
皆でヒューバートの家に、ねぇ……
[ぽつりと呟くと、さすがに長時間のニコチン切れに痺れを切らしたのか、ポケットから煙草を取り出し、火をつけた。]
………悪いが、俺は気が乗らねぇなァ。
確かに皆で集まってたら気は楽になるかもしれねぇけど。でもヒューバートの家が……それこそ誰かに焼き討ちにでも遭ったら、皆で共倒れになりかねねぇだろ?
特にあんたの家はこの辺じゃァ派手だし、人の出入りも多い。いつ狙われたっておかしくない。
皆で交替で見回りでもしようってンならまだ分かるが……な。いざ暴漢なり何なりが襲ってきた時、戦力になるのが何人居るかって話だよなァ?
[その後ソフィーから帰ってきた父親に対する情報は、わたしの想像した物と対して変わらず。そうは遠くへ行けないだろうと結論付けたナサニエルの言葉に、わたしも素直に頷いた。
猟犬の鼻を使いイアンを探し出すというバートの話を耳にしつつ、ネリーの主人が行方不明の事、そしてシャーロットが命を落としたことを集まった面々の口から聞き、わたしは自然と身震いが起きるのを感じた。]
『せんせいの死といい、リックとウェンディの話といい…ここ数日で随分物騒な事が立て続けて起きているのね…』
[自然と蒼褪めていく表情。しかし誰にも悟られたくは無いと気丈に振る舞いつつ、バートのソフィーとネリーを招き入れる話には、無言ながらも彼女達の後押しをしたいと思った。
ソフィーに至っては父親の行方も気になる。いざとなったら指揮を取れるような人物の許に身を寄せていた方が彼女にとっても安全だろう。そう思いながら。]
ヒューバートさん、はい。それではある程度目処が立つまでお願いしてもいいでしょうか…?
[さらにナサニエルに目を向ける。ギルバートと並んで屈強そうだ。
ひとつ気になる。彼は何を生業としてるのだろうか…?]
[ナサニエルの言葉を、よく理解できない、というように肩をすくめて受け流す]
単純に、リスク管理の問題だよ。
焼き討ちされたとしよう。一人で居るより、複数の方が気づける可能性が高い。
状況への警戒能力、情報の共有、役割の分担、精神的安定、どれをとっても孤立しているより遥かにいい。
常識的にはより安全な方法なのだろうと思うけどね。
じゃぁ是非戦力一人としていらしたら?ナサニエルさん?
ナサニエルさん俺に帰り道で野たれ死んだら後味悪いって言ってましたけど俺は一人のアンタが襲われたらそっちでも後味悪いですけど?
[シャーロットが死んだというくらい気持を振り切るように軽い冗談もこめているだろうか]
「ボブに何があったかは想像もつかないよ。」
[ふと耳に届いた言葉。
その何気ない一言に、何故か胸騒ぎを覚えた。
そして、それとは何の関係もないが、不安に喚起されたように、シャーロットが死んだ夜、ハーヴェイ青年がバンクロフト邸に泊まっていた事を思い出した。]
『──もしかしたら、
私は間違った選択をしてしまったのでは……?』
[不意に、漠然とした不安に囚われ、逃げるように空を仰ぐ。
先程まで晴れていた空は再び分厚い雲で覆われ様としていた。]
エイヴァリー先生。
貴女もよければ……
一時的にでも。
考えておいてください。
[今は、過去のことが露見しないよう気を遣わなければならない妻は家には居ない。彼女の身を案じる気持ちからそのような提案が自然と口から出ていた]
シャーロットの事は…その…なんていったら良いか…。
あの時の姿が…最後だなんて――
[目の前で気丈に振舞っているバートは、健気に見えた。わたしは会話の邪魔にならないように、そっと彼へ弔いの言葉を探したけれど見つからず…。ただ視線を伏せたまま彼の心情を推し量った。わたしには子を亡くした親の気持ちと同量の悲しみなんて、到底持てる筈も無かったけど…でも、出来る事ならば彼と悲しみを分かち合いたいと思った。
勿論無理な事は百も承知で――]
ふぅん………
ま、正直、俺はどっちでもいいけどね?
[耳に指を突っ込み、眉をしかめた。]
……っていうかさ。
単純に俺は「みんなで一緒に暮らしましょ」っていうの?団体行動ってイマイチ得意じゃないし。
そんだけ。
『暴漢──、戦力──…。……あ…。』
ヒューバートさん……あの、これ──。
[目立たぬよう小声でヒューバートに声を掛ける。
彼が気付けば、バッグから取り出した拳銃を差し出した。]
まあ……発想の根本が違うンだろうな。
あんたみたく「皆でひとつに」ってのが、決して得意では無い人間がいることくらい覚えていても損は無いと思うぜ。
……気が向いたら行っても構わねぇけれど。
ま、いつ気が向くかも謎だがな……。
[彼には…バートには娘の悲しみを分かち合う相手が居る。
その事実はわたしの理性を保つには充分すぎる事実だった。
だからわたしは彼から誘われた言葉に、一瞬躊躇う素振りを見せながらも――]
――お気持ちは大変嬉しいのですが…。
教師であるわたしが…一生徒の自宅へ身を寄せることなど…許されることではないでしょう?バンクロフトさん。
それはあなた方保護者が一番理解できる事…では?
勿論ナサニエルさんの言うようなリスクは抜きにしてもです。
わたしは教師である以上、どんな好意もあなたからは受け取れません。ですからお気持ちだけ…あなたのその気使いだけ頂いて、わたしは自宅へと帰りたいと思います。
[もしわたしが教師としての身分が無かったら。バートを恋い慕う一人の女としてどんなに縋りつきたかっただろうか。しかし込み上げてくる感情を無理矢理押し付けて、断りを入れた。泣きたかった。
もしこの場に誰も居なかったら泣きじゃくっていただろう。彼の愛娘の死に対しても。そして差し出された彼の優しさにも。]
[ネリーはヒューバートに語った。一匹狼風を見せるナサニエルが私は少し心配な事。一度ナサニエルのお宅にお邪魔したのち向かう事を説明した。]
あの…ナサニエルさんが私は少し心配です。一度そちらへ寄って行きたいのですがいいでしょうか?
───え、ステラさん?
そんな、今は一人で居ない方が……。
[厳しい言葉でヒューバートの申し出を断るステラに、
心配そうな視線を向ける。]
……………ん?
[突然自分の所に一度寄りたいと言い出すネリーの顔をまじまじと見る。]
ま、別に構わねぇけど……
用事は一体、何だ?
悪いが、あんたみたいな若い娘が喜びそうなモンは、何も無いぞ?
[ナサニエルの視線がこちらへ向く。ギルバートとは違う何かを感じる。が精神力も頑強そうだ。頑強な肉体がその頑強な精神を生むのだろうか。]
何も無いだなんて。私、ナサニエルさんが少し心配なんです。それにずっと一人だと何が起こったかも分かりにくいし…
[断るステラとナサニエルを伺い見、別に強くも勧めず]
来たい人は行けばいいしそうでない人は行かなければいいだけだと思いますが。押し付けは逆に迷惑ですしね。先生はどう思われるかしりませんけど。
[至極あっさりと答えた]
[銃を取り出そうとするソフィーに、一瞬「持っておいた方がいいのでは?」と眼差しを向けたが、受け取って目立たぬよう鞄の中に滑り込ませた。
次いで聞こえたナサニエルの言葉に、思わず苦笑する。]
相変わらずだなあ、ナッシュ。
いいさ。好きにすれば。
だが、来たくなったら遠慮するなよ?
最近はあまり話すこともなくなっちまったが、古いダチなんだし、さ。
えぇ…。でもね、ソフィー…
[わたしは表情を和らげて彼女へ視線を向けて]
わたしがもし、バンクロフト家に身を寄せて…。でも他の生徒達がこの尋常ではない騒ぎで命を落としたとしたら…。わたしはきっと自分の行動を悔んでも悔みきれないわ。
そして子を持つ親の身としたら、わたしを批難してもしきれないと思うの。
だからわたしはどんな事があっても…。たとえ危険が潜んでいたとしても…。一緒には行けないの。
[ごめんなさいね。
そう呟いて困ったような微笑をソフィーに向けた。]
でも、心配してくれる気持ちはとても嬉しいわ。ありがとう。
[ステラに向けた瞳がほんの少しだけ揺れた。]
そうですか、エイヴァリー先生。
……残念です。
でも、なにかあったら、本当に遠慮なさらず頼ってください。
こんな時に、教師と生徒も、その親もないでしょう?
一人の友人として――
[我ながら、未練がましいことだと思いながらも、そのように言葉を紡いでいた。]
なんにしても無事……
平穏が戻るといいですね。
[それは、心からの願いだった]
ふぅん……ま、いっか。
じゃ、テキトーなタイミングで来なよ。それか、今からでも来るか……だな。俺はもう家に帰るつもりだし。
[鍵をジャラリと取り出し、寄り添う2人に声を掛ける。]
ローズマリー、ギルバート。
お前達が何処に泊まるかはともかくとして……ローズマリーの車が俺の家にあるんだから、いったん取りに行こうぜ。
[押し付けは迷惑とキッパリと言い放つハーヴェイに、わたしはくすくすと苦笑を漏らして]
そうね。あなたの言う通り。選ぶ自由があるのですもの。逆にあなたのようにスパッと言い放ってくれた方が、色々と迷いが生じなくていいわね。
[頷いてみせる。
これで迷いは消えた。わたしはバートの手を取らない。]
あ、私がひとりになるのは…よくないような気もするので今すぐいきます。いいですかナサニエルさん。
[ネリーはひとりで歩くと…そういう危険のある事が多々あった。普段ならともかく今は用心に越したことはない。]
[ネリーに語りかけたところで、ヒューバートの言葉が耳に入る。]
ん……昔話も「気が向いたら」ってコトで。
まあ、暇があったら遊びに行くのも一興ってヤツかな。
[ヒューバートから贈られた「色男」の言葉とウインクには多少辟易し、]
……どちらかっつーと、「ボランティア精神」って意味合いみたいだがな。
[…と答えた。]
[あっさりと答えるハーヴェイの言葉と、ステラの柔らかいがきっぱりとした拒絶の言葉に、若干心細そうな視線を向け]
そうですけど……。
……でも、身の危険を感じたら、すぐに来て下さいね。
[ステラの手を一度握ってから、ヒューバートの車に乗り込んだ。]
了解。じゃあ車に乗りな、ネリー。
一度ローズマリーとギルバートを俺ン家に連れて行ってから、お前ン家に送ることになると思うが、それでもいいか?
[咥えていた煙草の火を携帯灰皿の中で揉み消し、それをポケットの中に突っ込んだ。]
「一人の友人として――」
[躊躇いがちに口を開くバートの、その言葉がわたしの胸に何より先に刺さった。
嗚呼、彼にとってわたしは友人の一人でしか無いのだと苦しさが胸を締め付ける。]
お気遣いありがとうございます。ではもうどうしようもなくなった時には…お邪魔…致したく――
ええ、本当に…早く平穏が戻る事を祈る事…ばかりですよね…。
[笑顔を作りながら、わたしの手はボレロの袖口を誰にも悟られないようにきつくきつく握り締めていた。
辛かった。彼の言葉が、当たり障りの無いやさしさが…痛かった。
嗚呼この場から逃げ出してしまいたい。苦しみから解放されてしまいたい。そう思ってふとナサニエルの契約の話を思い出し彼を見つめてみても。
彼は新しい契約を取り付けたらしく、また新たな救いになりかけていたローズは…。ギルバートへしな垂れかかったままうっとりと彼を見つめている。]
なんて…神様は残酷――
[わたしはそっとため息に独り言を漏らす。]
はい。分かりました。すみませんがナサニエルさんお願いします。
[ネリーはトヨペットの自動車を見た。ハンドルの位置が違う。ネリーはイタリアはじめ外国産車に触れる機会が多かったがそれでも新鮮だ。]
愛想をよくすれば、もっとモテるだろうに。
まあ、君の場合はそれくらいでちょうどいいんだろうが。
[ナサニエルとネリーを見送るように、苦笑いしながらヒラヒラと手を振った]
では、我々もそろそろ。
準備がよければ。
[各々に話したいこともあったが、その機会はまたの折に求めることにした。
ステラの姿に一瞬後ろ髪を引かれながらも]
[そしてそれぞれの行き先へと向かう車中に向かう面々を、わたしは貼り付けた笑顔で見送り――]
ネリー?いい夢を見なさいな?お休みなさい。
ソフィー、お気遣いありがとうね。あなたも気をつけて。
[静けさを取り戻しつつある雑貨店を*後にした*]
[ローズマリーとギルバートが後部座席に乗るのを見て、ナサニエルはネリーを助手席に案内する。]
ん……
右ハンドル、気になンのか?
まあ、最初は慣れ無かったけれど、慣れればまたいい車だ。メイドインジャパンといえばフェアレディが売れてるらしいけど、俺はそういうのわかんないし。……なにせ、以前乗ってた車が事故って困ってた時に、古い車を譲って貰ったんで。そもそも選択肢なんてねぇし。
[トヨペットクラウンのエンジンを掛ける。]
………っと。
余計な話しちまったな。
じゃあ、行こうか。
[クラッチを解放し、アクセルを軽く踏み込む。4人を乗せた黒光りするレトロカーが、いかにも古めかしい音を立てて走り出した。]
[ギルバートの意識が遠ざかる。
しかし長い時間中てられていたせいか、簡単にはこの殺意は消えなかった。
同じ車に座るソフィー、ニーナ、ヒューバート。
人間の団体意識は強いものだが…大きなものほど標的にされやすい。そういう意味でナサニエルは賢明だったのだろう。
獲物は既に決めている。
また濁った目が細く歪んだ]
[独特なエンジン音を出して走り出した。ローズマリーはギルバートに寄り添っている。ギルバートもそれを察してか、限りない安心感をローズに与える。
ネリーは助手席に乗った。車が滑り始める。]
へえ…古いといってもこう、味のありそうな車ですよね。
フェアレディですか。旦那様も雑誌を叩きながら言ってましたわ。
えーと確か…そう、ニッシンという会社ですよね。
[自動車は滑らかに進む。ボブの運転に比べればよっぽど滑らかだ。]
ローズさん、すっかり安心してるわ…
ギルバートは…やっぱり、そういう「血」を求めていろんな人を探ってるのね…
[不思議と嫉妬心といった類はなかった。]
[車の中で思い出したようにヒューバートに声をかける]
あ。先生、俺一旦家に戻っていいですか?
戸締りちゃんとしていなかったのと…洗濯機かけっぱなしなんで…。
[雑貨屋には水を買いに来ただけでまさかここでヒューバートと対面するとは思わなかったからだ]
後は自分でまたお伺いします。先にいらしててください。
夜までには戻れるようにしますから。
ん?ニッシン……だっけか?確か。
まあ、ジャパニーズは発音が難しいからよくわかんねぇし……
[ナサニエルは首を捻った。まさかそれが食品会社だとは思いもよらず。]
[ネリー自身も明らかにジャパニーズの発音を間違っている。]
ともかく、へイヴンの人って皆さん車の知識がありますよね。
[アンゼリカはもうすぐだろうか。]
……あ、ネリー。
ローズマリーの車が俺ン家にあるから、まずはそれをローズマリーが取りに行きたいみたいだ。
……その前に行きたい所って、なんかあるか?
あ、そうなんですかナサニエルさん、じゃあそちらへ向かったほうがいいですね。
行きたい所は今のところないです。ナサニエルさんの家で身の回りの世話だけ少しすれば…
[───シボレーが発進する直前。
話の輪から少し離れた処で若い恋人に凭れるように立つローズマリーと、彼女の肩を抱き口の端に薄い笑みを浮かべながら集った面々を眺めていたギルバートをちらりと盗み見た時、此方に気付いて顔を上げたギルバートと、視線が結ばれた。]
──…!!
[──刹那、ソフィーの全身を悪寒が貫いた。
慌てて視線を引き剥がし前方を見たが、ヘイヴンには珍しい琥珀色の瞳から発せられた鋭い光は、春先のアイリッシュローズに宿る柔らかな棘のように、ソフィーの胸の奥にそっと突き刺さった。]
………身の回りィ?
こりゃまた随分、珍しいな。
[車を走らせながら、驚いたような表情をする。]
俺は酔っ払って他人様の世話になったことは何回もあるけど、「身の回りの世話」はされたことねぇな……。されたらくすぐったいし。
あら、ナサニエルさんはお酒に弱いんですか? そうには見えませんけど、うふふ。
でも無理をしてはいけませんよ。おひとりで生活されてるのですから。
[ギルバートが後ろで苦笑しているのは気のせいだろうか。]
[先程のブランダー家でのニーナの様子をぼんやりと思い出していた。
幼子のようにいとけない様子で『兄』を探していた。]
[人が多かったからか、ヒューバートが早々に庇うように連れ出してしまった所為か、ニーナはこちらに気付いていない様子だった。
でなければ、すぐに近寄ってきて、決して離れようとはしなかっただろう。]
ま、酒には強いとも弱いとも言えないけれどなァ……
[後ろで何やら反応を示すギルバートの表情をバックミラー越しに見るも、呆れたように黙殺した。
しばしの談笑の後。
4人を乗せた車が、ナサニエルの家に到着した。]
……さてと。
ローズマリー、ギルバート。着いたぞ。
ネリーも一度中入るか?……家ン中はあんまり整理されてないけど。
[やがて車がナサニエルの家に到着した。彼の性格と同様、ひとりで生きてきたような生活感のある外観だ。内装はまだ分からないが。]
はい、一度お邪魔したいと思うのですがいいですか?ナサニエルさん。
ローズさん、ギルバートさんはアンゼリカへ戻られるんですよね?
[縋るようなあの瞳。
落ち着くようにと握った手を、眠りについてもなかなか離さなかった。まるで離せば何処かへ消え去ってしまうのではないかと恐れるように。]
[ローズの手を握り薄い笑みを浮かべながら、その実思いは違うところにあった。]
[ヒューバートが止めるにも関わらず「降りる」、と車を降り、先にバンクロフト邸に向かわせ、自身はそのまま自宅へと向かう。
電源を切らずにおいた洗濯機、つけっぱなしの電気。
全て止め、外出できるように準備をする]
ん?
ああ。ホントに何も無いぞ?
……停電で冷蔵庫の中身が死んでるしなァ……
[トヨペットクラウンを車庫にしまい、ナサニエルは玄関の鍵を開け、ネリーをキッチンからひと続きの小さなリビングに通す。
――書斎の扉は、しまったままに。]
[途中で車を降りたハーヴェイに]
遅くなると危険ですから、
なるべく早めに済ませて来て下さいね……。
[そう声を掛けて送り出した。
一時ソフィーの自宅へも寄ってもらい、幾許かの着替えとイアンのシャツを一枚ボストンバッグに詰めた。
家を出る時には、今度はしっかり玄関に施錠した。]
[ネリーはナサニエルに玄関に通され、リビングに通された。少しは想像していたが、思った以上に空間が広く少し驚いた。彼の趣味は一体なんなのだろう。]
何もないだなんてそんな。停電は仕方ありませんけれど…でもかえってそのほうが今は助かるかもしれませんね。
[ネリーは掃除か何かを始めようかと思い、周囲を見回した。ふと、全く似つかわしくない飾り物を被せている電話に目を留めた。]
あら、ナサニエルさんもこんな趣味があるんですね。これ、どうされたんですか?
んあ……?ああ、それか。
それは、俺の祖母の手作りの電話カバー……らしい。
なんでも、俺の祖母はいくつになっても少女趣味の人だったそうだ。ピンクとかキルトとかレースが好きだったみたいでな……。
[自分の家の中をはしゃぎ回るように観察するネリーの姿を見て、ナサニエルは目を丸くしている――*]
[年頃の娘らしく、いろいろ見て回っている。少し不謹慎かもしれない。やがてネリーは落ちている彼の名刺に*気づくか――*]
[シボレーがバンクロフト邸に到着するまでの短い間、ソフィーは車窓を過ぎ行く町並みを眺め、*口数少なに時を過ごした*。]
美術商 ヒューバートは、見習いメイド ネリー を投票先に選びました。
流れ者 ギルバートは、修道女 ステラ を能力(襲う)の対象に選びました。
流れ者 ギルバートは、書生 ハーヴェイ を投票先に選びました。
─ローズマリーの車の中─
[ローズマリーの運転する車に乗り、「アンゼリカ」へと戻る。
道に不慣れだから、と言って彼が助手席に座ったことをローズは何も言わなかった。彼女自身の自動車なのだからそれも当然と思ったのか、それとも内心では訝しく思ったか。
だが、ローズマリーの表情は変わらなかった。]
[車中では二人とも殆ど喋らなかった。
それは主にギルバートが、独り思いに耽るように沈黙していたからだった。
たまにローズマリーが話しかけても、言葉少なに相槌を打つだけで、琥珀色の瞳は自らの内側に深く沈み込むような、暗い色合いに沈んでいた。]
[思いの断片は雪片のように降り積もる。]
[ニーナ。]
[ウェンディ。]
[行方不明になったと言う、ソフィーの父親。]
[土砂崩れの向こう側で起きているであろう惨状。
それは、彼の引き起こした災禍のうちでも、あまり類を見ない大規模なものと予想された。]
[あの家で一瞬だけ膨らんだ殺意の理由。]
[ヒューバートの娘シャーロットは何故殺されなければならなかったのか。]
[「アンゼリカ」につく直前、重い沈黙を破ってギルバートが口を開いた。]
──なあ、ローズ。
ヒューバートの亡くなった娘さんのシャーロットはどういう子だったんだろう。
[唐突に話しかけられ、一瞬「え?」というようにローズが驚いた視線を送った。]
いや。ちょっとね……。
あのハーヴェイという子は、ニーナみたいにヒューバートと親戚なのかな。随分と親しい間柄のようだけれども。
シャーロットが殺された夜も、ヒューバートの家に居たみたいだし……ね。
[ローズマリーが急に車を停めた。助手席に向き直り、驚愕の表情を浮かべて助手席の男を凝視する。
その驚きと強い疑念の視線を、男は平静な眼で受け止めた。]
……深い意味はないよ。
俺はこの町の人間について全然知らない部外者だからね。
君は……ハーヴェイをよく知ってるんだろう?
─酒場「アンゼリカ」─
[酒場に帰り着いて早々、ギルバートはローズマリーに申し訳なさそうに、ナサニエルの家に忘れ物をしたことを告げた。]
どうもあそこにライターを置いてきたみたいなんだ。
ごめん。元々はそれを取りにあの家に行ったんだよ。
ああ・・・うん。勿論マッチでもいいけどね。
ある人から貰った物で……形見の品なんだ。どうしても無くす訳にはいかないから。
[その言い訳をローズマリーはどう思ったのか。信じたのだろうか? それは彼には分からない。
ただ、ギルバートはローズマリーを抱き締め、しばらくじっと寄り添っていた。]
車を借りていくよ。すぐ戻ってくる。
[ローズの唇に軽く口接けた後に、ローズの瞳を真正面から見据えて真剣に語り掛ける。]
ローズ。
俺が出たら、家中の鍵は全部締めて戸締りを厳重にして、誰も入れるな。
どんなに親しい人でも、俺以外の人間には絶対に扉を開けちゃいけない。
お願いだ……分かったか?
[初めて見せる、険しい目。厳しい表情。
気圧されたようにローズが頷くと、一転して優しい微笑で改めてその額に口接けた。]
[『兄さん…どこ?』
ニーナの姿が自分と重なる。
根本的に二人と自分らは酷似していたように見えた。
一瞬、ドクン、と心臓が鳴る。
先程と同じもの。
また抑えきれないナニカがわずかに弾け、鼓動の痛みに、眉を顰めた]
─ローズマリーの車の中─
[ローズマリーの車を走らせ、目指す場所へ向かう。]
[あれから囁き交わすように谺していた想念が一つの形を取り始めていた。]
[酷く単純で、馴染み深いそのかたち。]
何だ、簡単なことじゃないか。
[思わず独りごちた唇は、我知らず唇が嗤いの形に歪んでいた。]
──お前が真に望むものをやろう、ハーヴェイ。
お前の願いを叶えてやる。
[細く鋭く一瞬だけ、ハーヴェイに向けて「囁き」を放った。]
[一瞬鋭く響いた声が脳に大きなノイズを生んだ]
っ!
…俺の…願いを…?
ギルバートが…?
[以前…まだ十分に理性が残っていたあの時、確かに彼に「過去を消してくれ」と願った。彼は…何をするつもりなのだろうか]
―自宅1階―
[自宅の中をあちこち探索するネリーを見ながら、ナサニエルは全く別の所に思考の波を寄せていた。]
『"兄"……ねぇ……』
[ブランダーの雑貨屋にて――恐ろしいほど無防備な表情で、兄を呼ぶあのニーナの姿は、当然ナサニエルの視界に入っていた。そして、哀しげに影を探し求める彼女の声も耳に届いていた。
―――が。彼はあの時、それを完全に黙殺していた。
その理由はひどく単純だった。
「それは『契約』の外の出来事だったから」。
もし事前に連絡のひとつでもニーナが寄越し、ナサニエルに"兄"で在って欲しいという言葉さえ告げれば、ナサニエルは自分の持つ技量と「たましい」をもって、彼女の――愛する"妹"の"兄"として、彼女を抱き締めてくちづけを与えていたことだろう。
だが、「事前にそれは無かった」。
だからそれは、「起こらなかった」。
衆人の眼前で「契約」というものの存在と正体が暴かれることを畏れるといった感情さえも無く、彼の中には「何も無かった」。
――ひどく単純な話である。]
[もしナサニエルが、「あの時ニーナ・オルステッドが呼んでいたのは、貴方のことでは無い。」、或いは「"兄"を投影していた相手は別の誰かだった」と知ったとしよう。
その時の彼の反応は如何ほどだろうか。
おそらく「ふぅん」や「そう」といった、彼が常用している煙草の煙の一筋と同等の長さの感慨しか返ってこないだろう。
もし追加で何かの感慨を寄せろ、と誰かに言われたとしたら。おそらく彼はしばし思考に耽った末に、こう結論づけただろう。――今まさに彼が耽る、この一言へと。]
『彼女はおそろしく素直で純粋な"獣"である』
「じんろう」…?
人狼の…「同族」?
俺が…血族…だって?
[益々訳が分からないというように声に歪みが入り始める]
お前は…人間じゃないのか…?
──!
[「人間ではない」そんな告白がこともなげに伝わり、言葉を失う。
以前雑貨屋で一度だけ彼に会った時、頭痛を覚え、先程も同じく雑貨屋で衝動が抑えきれなくなった。
ナサニエルの家では彼の残したモノに酷い眩暈を覚えた
それは全て彼が人ならざる故のものだったのか]
俺は…?まさか…俺も…お前と同じ…?
いや、俺は…ずっと…人として生きていた…!
ありえない、ありえない…!
[最後はまるで自分に言い聞かせるような]
werewolfと言っても別に、映画に出て来る狼男みたいに毛むくじゃらのケダモノになる訳じゃあないさ。
人間よりちょっとばかり死ににくくて、体が丈夫なだけだ。
[それは彼に関しては正確な事実を告げてはいなかったが、
あえて伏せておいた。]
[出て来たナサニエルに、薄い笑みを浮かべる。]
ちょっと聞きたいことがあってな。
さっきは聞き損ねたんで…入ってもいいか?
[「先祖帰り」達が、自分が人間でないと知らされると取り乱すのもいつものことだ。
もうイヤになるほど……否、「嫌」という感情すら湧かなくなるほど繰り返された情景。]
[淡々と語るギルバートとは対照的に頭は次第に混乱してくる]
…だけ?
いや…以前と…違う…
俺の中で…ナニカが変わった…
時々…俺は…自分が抑えられなくなる…
どうしようもない…どうしようも…!
お前に…会ったからなのか…?
それとも…俺が…「人狼」だから…か?
[咥えた煙草を上下させるように、言葉を口にした。]
……別に構わねぇけど、何だ?
人に聞かれても平気な話か?
それとも、聞かれたくない類の話か?
人狼の血が目覚めた「血族」は、その過程で肉体が急激に変化する。
人間そのものの身体から、同族のそれに。
そのせいで、精神にも失調をきたす者が出て来る……
[先刻ネリーに告げた言葉と殆ど同じ、だが冷たい硬質の声。]
それはアンタ次第だけど、聞かれない方がいいんじゃないかな。
単刀直入に訊く。
昨日、この家で何があった。
[見詰める視線は硬く、鋭い。]
昨日、この家で………?
[はて…と思いしばし逡巡する。]
……ま、立ち話はアレだから、中に入りなよ。
[そう言ってギルバートを中に招き入れると、書斎の鍵をポケットから取り出した。]
ネリー。掃除してくれんの?ありがと。掃除用具は階段の下にあるから。悪いけど俺、ちょっとギルバートと話あるから。すまねぇな。
[それだけ言うと、ギルバートを無言で書斎の中に招き入れた。]
[まるで自分が自分でなくなっていく感覚。
そしてその過程は事実のものと告げるギルバート。
精神に異常をきたすということは、既に自分は異常なのだろう。
自覚はあった。
自分の過去を暴き、そして同じものを見せられることに酷い嫌悪と殺意という衝動が沸いていたのだから]
あぁ……俺…は……!
[非現実的な事実を突然に突きつけられ、理解も納得もできていなかったが、自分自身は嫌と言うほど「自覚」していた。
認めたくない。そしてこれ以上知りたくないというように、一方的に声を閉じた]
あらギルバートさん。
え?階段の下に?分かったわ。ちょっと行って来るわね。
[ネリーはナサニエルやギルバートから少し離れて掃除を始めた。]
[ギルバートが私に軽くウィンクをした。
私を気遣ってのものだとは分かったが、彼の意志はどこか別の所へ向けられているような気がした。
私は一言『蜂蜜。』か何かを言ってジョークを言おうかとも思ったが躊躇われた。]
――カサリ……
[床に隙間無く敷き詰められた紙片――『記憶』の『兵士』たち――を踏み分けながら、両壁を本棚にびっしりと囲まれた、雑然とした狭い部屋へと入る。ギルバートを入れると鍵を掛け、机の前にある安楽椅子を部屋の真ん中に置き、ギルバートにすすめた。]
……ちょうど良かった。
俺もあんたに聞きたいことがあってな……
[煙草の火を灰皿に押しつけると、しわくちゃのシーツが横たわるベッドの上に座った。]
ここ鍵かかってて開かなかった部屋だな。
その鍵はここの鍵か。
[鍵を取り返そうと必死だったナサニエルの顔を思い出し、少しだけ笑った。]
[見るだに凄まじい混沌の部屋である。
聳え立つ本棚、床一面の紙片。
興味深そうに周囲を見回した後、ナサニエルの勧めに随って安楽椅子に腰掛けた。]
俺に聞きたいこと?
ああ。
[頭を掻き、下を向いてしばし沈黙する。言葉を選ぶように何かを考え込み、そして――]
……お前、あの日に……俺とヤッた日に。
俺に「何かした」か?
[ギルバートの琥珀色の瞳に、ブルーグリーンの瞳をまっすぐに向けた。]
[さすがに本職と言うべきか、仕事は早い。古ぼけた掃除機も器用に使う。ごみや埃はあっと言う間に減っていく。
ネリーは床に落ちている様々なものを拾い集める。その中に一つの紙――紙切れが。]
オリバー・メラーズ。「契約」…?
ナサニエルさんの名字は…確か私が子供の時に見た時はサイソンだったような…
少しいろいろ聞いてみたいわ。知ってみたい事がたくさん。
[一段落したらネリーはナサニエルに質問してみようと*思った*]
[落ち着かない様子のナサニエルをじっと冷静に観察していたが、ややあってブルーグリーンの瞳が真っ直ぐにこちらに向けられるのを見て、]
──ああ…。
なんだ。そのことか。
[得心がいったというように頷いた。]
最初に言ったろ。
俺がアンタに支払うものは、“もっともっとスゴい「取り返しのつかないモノ」”だって。
今になってビビったか? ……もう手遅れだがな。
……いったい、何があったんだ……
[ぼそりとひとつ呟くと、ナサニエルは震える声でギルバートに問う。]
思えばあの時からおかしかったんだ……。お前にこの家に連れて来られた時……いや、お前が俺に触れた瞬間、俺の頭ン中に、何もしてねぇのに「この世に無いもの」が……見えたんだ。ああ、そうだ。アスピリン――頭痛薬とアルコールだけで、「あんな幻覚」は見たりしない……!
最初は、朧気に誰かがぼんやりと見えただけなんだ。顔も分からねえし、まして誰だかなんて……。ただ、クスリきめた時みたいな……いや、それなんか比較にならない程に強烈なモンを見たんだ……
そしてギルバート……
お前とヤッた時に、俺は五感が狂うような……全てのことが、強烈にデカく響くようになった……。聴覚も、触覚も、全てだ。
[ナサニエルの瞳に、仄かに哀願の色が宿る。]
そして………
俺ン中で見えた「幻覚」は、日に日に強烈で、具体的になってンだよ……。昨日は、幻覚にボブみてぇなヤツが現れて、そいつが食い殺された。そして俺が、黒い影に……レイプ、された。
そいつ………ずっと、「ロティ」、って………!
[膝をついて床に落ちたナサニエルは、首を左右に振る。]
………いや。
[顔を上げ、安楽椅子の上で冷たい笑みを浮かべるギルバートを、前髪に半分隠された瞳で見つめる。]
後悔は、無い。
売れない三流小説家の俺が、芸術家よろしくクスリきめて追い求めていた「幻覚」が、容易く俺の手に入った。それは俺は構わねぇ……。
ただ………
俺は、この「幻覚」の正体が知りたいんだ。
[笑みは掌の上の雪片のようにすぐさま解け去り、冷徹な観察者の目に戻った。]
なるほど。そいつは大変だったな。
それでアンタは真実が知りたい、って訳か。
……アンタになら教えてやってもいい。
ただし、先にハーヴェイがここに来た時のことを教えてくれ。
アンタに何かしようとしなかったか?
ハー……ヴェイ?
[キョトンとした表情で、ギルバートの言葉を受け止める。]
ハーヴェイ……は。
俺に、あいつの兄がどうたらって話をして……。ヤッたかどうかっていう話をして……。
そして、俺の喉狙って鍵を突き付けてきた。
多分……殺そうとしたんだと思う。
結局あっちがブッ倒れて、何も怪我無かったけれど……。
…行こう、先生が心配する…
[何かを振り切るように首を振ると、そのまま自宅を出る。バンクロフト邸は少し遠い。近道を…昼でもやや薄暗い道であったが、そこを通ればやや時間は短くなるはず。恐らく、*夜までには──*]
ハーヴェイの兄ってのは自殺した双子の兄貴か。
アンタ、そいつとも契約してたのか。
ハーヴェイがブッ倒れたのは運が良かったな。でなきゃアンタ確実にオダブツだ。
[それがあの殺意か…と独りごちた。]
[ギルバートとの「会話」の最中、ヒューバート達は既にバンクロフト邸についていただろう。
ソフィーとニーナは恐らくヒューバートから家の説明を受けるなりなんなりとしていた筈。
危険だから、と集まった筈なのに、着いて早々ニーナは兄を探しに行きたいのだといったのだろう。
ヒューバートやソフィーは一人は危険だから、と止めた筈だった。落ち着かせ、ネグリジェのままの彼女を部屋に連れて行ったことだろう
しかしニーナは部屋に引き取った後、こっそりと外に出て行ってしまっていたようだった。
そう予想がついたのはバンクロフト邸に向かおうとする俺とばったり出会ってしまったから]
[俺は近道をしようと、人通りの少ない道を歩いていた。
危険?そんな訳ない。なぜなら町の惨状の一端を担っていたのは自覚はなかったとはいえ俺なのだから。
ネグリジェのまま、俺を見つめるニーナはいつもと違い酷く幼く見えた。
「…ニーナ…さん」
俺は一言搾り出すので精一杯だった。酷く混乱していた上に先程の雑貨屋での衝動がまた鎌首もたげていたから。
それを知らないニーナはきょとんとして俺を見つめ、兄を知らないか、と問いかけてくる。
あの気丈なニーナとは思えないその様子。
とても幼かった頃─まだ家族と俺に隔たりがなかった頃─両親からはぐれ泣いて兄を探していた自分に重なった。
見たくないモノが再び蘇った]
ま、ユーインも「契約」相手の一人だったけど……
[ギルバートの言葉に、小さく眉をしかめた。]
………って、「確実にオダブツ」?
あのひ弱そうなヤツに、俺が……殺される?
[一瞬の出来事だった。
抉るような動きで手が伸びた。
ニーナの喉に向かって──
ニーナの喉に向かって凶手を振りかざした俺の顔は恐らく相当獣じみていたことだろう。
ギルバートからあんな説明を受けた後だったし、そんな感じがした。
ニーナの喉から鮮血が飛び散った。
あぁ、この手ごたえでは首は少し千切れただろうか。
首から血を噴出してのた打ち回るニーナ。
その表情と悲鳴は見ていて…心地よかった。
手についた血をベロリとなめてみた。
シャーロットと同じ味がした]
で、ハーヴェイの兄とどんな契約してたんだ。
いや、そもそもその兄貴ってどんなヤツだったんだ。
[胸ポケットから封を切ったばかりのマールボロを取り出すと、一本口に咥えた。]
[目の前で痛みに転がりまわり、少しでも俺から逃げようとする半死半生の少女。その惨めな姿とネグリジェの間から見える白い肉に喉が鳴った。
俺ははいつくばって逃げようとする少女の髪を掴み、仰向かせて真赤な首に唇を寄せた。
そしてもう片方の手は脇腹へと伸び…腹を抉った。
生きながらゆっくりと腹を抉られ、それこそ恐怖と苦痛に絶叫が響いた。
兄を食ったときもこんな感じだったろうか…
ユーインは死んでいたから喰われても痛くなかったろうけども
ぐちゃり、と音を立てて肉を食んだ。
若い肉は柔らかく─そして美味かった──
胸から下の内臓を喰い散らかし、気が済むまで弄んだ後、もう用はないといわんばかりに死体を放置し、何事もなかったかのようにバンクロフト邸への道を歩いた。
あぁ勿論途中手と顔の血を落とすのは忘れずに─*]
ハーヴェイの兄……ユーインか。
あいつは、外ヅラは優秀だの何だのって評判だったけれど、中身は完全にセックスマシーン。自分の身体も他人の身体も、あいつにとっては「玩具」に過ぎねぇよ。
なにせ、「身体を使って俺と遊んで」って「契約」結んでたくらいだからなァ……。
[再びベッドの上に座り、頭を掻く。]
……だから、あいつが自殺した時には、「ああ、こいつまた『身体で遊んだ』んだな」……としか思えなかった。
──ありがとよ。
アンタのお陰でだいぶ欠けたパズルのピースが嵌まったよ。
で。
何でアンタがこうなったのか知りたいんだっけな。
説明してやるけど、今から話すことは他の人間には絶対に他言無用だ。
アンタが喋ったと分かったら、俺はアンタを殺す。
いいな?
[深く吸った煙を、軽く開いた唇から細く吐き出して、]
アンタが見たのは「幻覚」じゃなくて多分「事実」だな。
俺と寝たことでアンタの感覚は、以前とは比べ物にならないくらい鋭くなった。
お陰で、普通の人間には見えないモンまで見えるようになった……
まあそんなとこだ。
じ、じつ……?
アレがか?
……にしちゃあ、随分とファンタジックな……。
[ギルバートの唇の動きを見つめ、その言葉を捕らえようとしている。]
なんでそんな妙ちくりんな夢になったのは俺も知らん。
だが、その能力は恐らく前からアンタにあったモンだ。これまでは表に出なかっただけでな。
ところが俺とヤったせいで、それが急激に高まった。俺にはそういう相手の血に潜むものを引き出す……能力?がある。
──これで納得したか?
前から、俺に、あった……もの。
お前が、それを、引き出す……
[ギルバートの瞳孔に、自分の焦点を当てて呟く。]
お前………何者だ………?
俺が何者かって?
それ訊いていいのか?ナサニエル。
それこそ、取り返しがつかなくなるぜ……?
[ニィと唇の両端が吊り上がり、歪んだ嗤いを形作った。
琥珀の瞳の奥には──金色の光が瞬いている。]
………………。
構わねぇよ。
今さら、それ「だけ」お預けにする必要は無いからな。
[ナサニエルの唇が、微かに動く。]
『そう――
お前は俺の"クスリ"――』
――――――――――――――――――
《ナサニエル・オリバー・メラーズの手記より》
そう――それが全ての「おわりで、全てのはじまり」だったのだ。
売れない三流小説家だった私が、「人間の醜聞、恥部、或いは『欲望』」の類を、「実験」によって暴いてやろうとした試み――それを具現化したものが「契約」だった。
私が何も無い、真っ白な――"innocent"な状態で現れた時、人はそこにどの様な『欲望』を描くのか。私は単純に、それが知りたかった。
人の「欲望」はそれぞれだった。どれもこれも薄汚く、野蛮で、身勝手で――そして、極めて純粋なる思慕によってドライブされ、熱烈な衝動をもって私の目の前に現れたのだった(その詳細については、個別の事例をもって、別章に記載する)。
そして、私は或るひとつの結論に達する。
――人間は皆、等しく「獣」である――
己の欲望に極めて忠実な、「思慕」の奴隷。
それが人間の本質なのではないかと、私は考えるのだ。
そして私の元にもまた、「獣」――「思慕」の奴隷であると、思い知らされる時が来たのだった。
「かれ」は、私の住んで居る町に偶然やってきた旅人だった(否、もしかしたらそれも偶然では無かったのかもしれない。或いは、私がそれを「偶然」だと思いたくなかっただけかもしれない)。
程なくして、私は「かれ」と、いつものように「契約」を結んだ。
「かれ」との関係は、筆舌に尽くしがたいものだった。五感のありとあらゆる感覚が狂い、細胞がふつふつと沸き立ち(嘘だと思われるかもしれないが、本当に「ひとつひとつの細胞の動きが分かる」という体験をしたのだ!)――この世で起こっている「出来事」が怒濤のように押し寄せ、私の頭の中で新たな形となって立ち現れるのだ。
――これは「幻覚」の類ではない。
――これは「現実」である。
そう私に告げたのは、「かれ」だった。
「かれ」との関係――肉体と肉体の邂逅――が終わった後も、私の肉体には「かれ」が残した「跡」が強く強く刻まれていた。私の肉体は新しい感覚にうち震え、強烈なフラッシュバックに犯され、時に畏ろしい悪夢にうなされた。
「現実」が歪み、「死」の感覚が活性化し(これは後に知ったことなのだが、私は死者の"姿"と"夢"を視ることができるようになったらしい)、新たな「幻覚」として私の目の前に現れたのだ。
ああ、なんという官能だろう――!
誰かが死を迎えるたびに、私は「かれ」の肉体の感覚をその身で感じることができるのだ!「かれ」の膚、隆起した「かれ」の筋肉、膨張した「かれ」の雄性――ヒトの「死」の記憶が私の身体を蝕むたびに、私の肉体に「かれ」の記憶が鮮やかに蘇る――
私はそれを、よろこびをもって受け入れていた――
「かれ」の肉体の記憶が、欲しい。
この身にそれを刻み、狂おしい程の官能を焼きつけたい。
それは、刻印。
――私の中にふつふつと燃え上がる、「欲望」。
私は、「獣」―――
私は、「かれ」の官能に囚われた、「思慕」の奴隷なのだ―――
――自宅――
[各々の目的地へ向かう車を一人見送ったわたしは雑貨屋を出た後、素直に自宅への道のりを辿りドアを閉めるなりその場に蹲った。
わたしは自身の感情に振り回されて疲れ切っていた。ようやく手に入れたはずのローズは、いともあっさりとギルバートへ戻り、バートはバートでまるで過去の事など一切無かったかのような振る舞いを突きつけてきた。
【気紛れ】と【一人の友人】。
思いを寄せる相手に尽く邪険に扱われたわたし。]
――はははっ…滑稽すぎて笑えないわ…。まるで失笑を買う為だけに舞台に上がる劇人形みたい…。
[いや、失笑を買う為だけに生かされているならそれはそれで割り切ってやろうと思えるからまだ良いではないか。そういう【役割】を与えられているなら、望むままに演じてやろうと割り切れるもの。しかしわたしには感情がある。ピアノ線で吊り上げられた人形ではない。]
だから…時々やるせなくなるよ…自分自身を…そして全てを――
[まるで自分自身を壊してしまうかのように。わたしは拳を何度も床に叩きつけ、やり場の無い怒りを静めようとした。]
[何度目の殴打だっただろうか。]
痛っ――…
[わたしの左手は床に落ちていた小石の破片にぶつかり、その拍子で膚を少しだけ傷つけてしまったらしい。
痛みは大した事はなかったが当たり所が悪かったらしく、皮膚は切れ体内(なか)から血が玉の様に滲んでは僅かに周りを赤く染める。]
あぁ…血が出ちゃったの…ね。
[いつものように条件反射でわたしは血の滲んだ手を口へ運び舌で一滴赤を舐め取る。それは何気なく行ったものだった。そう、ただいつものように何気なく――]
[口内に血の味が微かに広がった。あの何処か金属を思わせるような腥い味が。]
んっ…。
[思わず顔を顰める。しかし次の瞬間、頭の中ではまだ過去には成り掛けていない真新しい記憶がフラッシュバックする。]
あ…っ…あぁ…どうして――…
[わたしの中で蘇ったもの。それは酒場の地下で狂ったように求め合ったあの情事。お互いの指をお互いの体内へと埋めあったこの指に絡みついた蜜を舐め取ったあの味と、今わたしの血の味が重なり合う。皮肉な巡り合わせと共に。]
[今思うに。あの時ローズは排卵期前後だったのではないだろうか。排卵期時のホルモンバランス関係で稀に不正出血を起こす人も居るという。ローズの場合体外まで流れ落ちなかったとはいえ、もしかしたら微量に滲み出ていたのかも知れない。わたしは医学の知識なんて無いから、詳しいことは解らないけど]
それに…――もし、雌としての本能を掻き垂れられるような激しい行為を行った後だったりしたら…?
[そこまで口にして。わたしはぴたりとそれ以上言葉を発するのを止めた。口に出して認めたくは無かった。ローズに纏わる色々な事実を。口に出した瞬間、わたしは一瞬にして自らの言葉で気が触れてしまいそうになるのを無意識に悟っていたのかも知れない。]
―イアンの捜索―
[屋敷に着くや否や、客間の準備と手荷物の搬入を使用人に命じ、ただちに猟犬を駆り出した。日暮れまでそれほど猶予があるわけではない。
ソフィーと共にイアンの捜索に向かったが、やはり彼の姿は杳として知れなかった。
風景に変化をもたらすほどの地形の変化、土壌の流出、暴風雨の後の大量の水分を含んだ土砂は、猟犬の感覚を狂わせた。それ故に、捜索は私たちにとっても予想外なほどに困難な仕事となった。
猟犬は匂いの痕跡を注意深く辿ろうとするが、川のように横たわる土石流の跡や断絶した地層に阻まれ、それらが障壁を形成する迷路に迷い込む。方向感覚を狂わされ、何度も同じ場所を行ったり来たりすることになった。
やがて日昃の陽が、薄靄がヴェールのようにかかった西の昊天を橙色の仄かな色彩に染める頃、私たちはその日の捜索を諦め帰路につくことにした]
―母屋・ニーナ客室―
[ニーナはソフィーと共に母屋の隣同士になる客間に導かれてい
たが、愁傷の跡が未だ表情から去らずにいた。
「兄さん……」
うら寂しい響きだった。ベッドに身を預けたままに空漠とした眼差しで肉親の名を呼ぶその姿に、私は胸が締めつけられる思いがした。愛おしむように髪にそっと触れ、慰撫するように静かに背中を撫でた。
やがて、私は、今はよく休むようにと言い置き立ち上がった。彼女は懶気な仕草で鞄からネグリジェを取り出し、私は着替えを邪魔しないようそっと部屋から立ち去った。]
[ニーナが自分自身の対処能力を遥かに超えた災厄を前に、愛する肉親に縋りたい気持ちはよく理解できた。それが、もう五年も前に亡くなった兄だったとしても、それだけ深い愛着があったのだろう。
だが、ニーナの、まるで兄が生きているような口ぶりには私はひどく当惑させられた。彼女も私と同様、家族の死を受け入れられないでいるのだろうか。]
ロティ……
[私は思わずその人の名を呼ぶ。別れが訪れる日が来ることなど想像することさえできなかった彼女が奪い去られたのは、まだ今日の未明のことなのだ。
だが、ニーナの兄、ラルフが亡くなったのは五年も前のことだ。人知れず何処かで生きているということなど、ありえることなのだろうか。]
[そこで、私は奇妙な違和感に気がついた。
ラルフの顔がまるで記憶の中から浮かび上がってこないのだ。
彼が亡くなった時を思い出す。
その頃私は大学院に通っていて、ヘイヴンと大学のある町、ニューヘイヴンを週に何度か往復する慌ただしい日々を送っていた。ステラとの関係が続いていたのもこの頃だ。それだけにヘイヴンに居る間は家族との時間をできうる限り優先していて、親戚筋とのつきあいがひどく澹泊だった時期ではあった。
それにしても、と思う。時に過剰に鮮明にすぎる視覚記憶に苦しめられる私が、疎遠だったとはいえ甥の顔を思い出せないことにはなにか別の理由があるとしか考えられなかった。
私は意図的に不要と判断した記憶を消去することがある。
消したくても消し去ることができないほどに強い記憶以外はなんとか意識のコントロール下に置くこと。それが、記憶の奔流に悩まされがちな私にとって必要なスキルだったからだ。
私はなにかの理由で、彼の顔を消してしまったのだろうか……]
――
ニーナの兄、ラルフの顔
五年もの星霜を経て甦った兄
そこにはなにか、今起きている出来事の
裏側を繙く鍵が隠されているような気がした
――
[わたしは止血の為に舐めていた指を口許から外し、ゆっくりと立ち上がった。]
そう言えば…寝酒用の赤ワイン、確か切らしていたのよね。お砂糖を落としてホットワインにして飲まないと…今日みたいな夜は寝付けそうに無いもの…。
[そしてわざと平穏を装うように明るい口調で、自らの行動を口に出して確認する。
しかし頭の中では古い記憶がぐるぐると、壊れたレコードのように流れていた。それは昔々の話。でも紛れもなくわたしの消し去る事の出来ない過去――]
雑貨屋は今見て来た通りの有様だから…。やっぱりアンゼリカへ行って一本譲り受けてこないといけないわねぇ。
――面倒だけど…買いに行かなきゃ。
[努めて明るい声を上げると、わたしはワインを入れる為のバスケットと、帰りもし寒くなっても大丈夫なようにと黒い外套を手に持ち、酒場へと向かう道筋を軽い足取りで歩き始めた]
Lullaby of birdland that's what I
Always hear when you sigh
Never in my wordland could there be
Ways to reveal in a phrase how I feel…
[軽く歌などを口ずさみながら…]
――酒場 アンゼリカ――
[わたしは到着するなりCLOSEのプレートを突きつけられるけど気にも留めず、いつものようにノックを三回。そして呼び慣れた彼女の名を口にする。]
ローズ、居るんでしょう?お願いがあるの。ちょっと良いかしら?
[しかし呼んでも彼女は一向に出てこない。何かあったのかしら?それとも…――
彼女の車は無かったけれど、でも確かに店内からは人の気配が感じられる。ほら、今だって窓ガラス越しに彼女の癖のある髪の毛が――]
ローズ?わたしよ、ステラよ。ねぇ、開けてくれないかしら?
[少し乱暴だとは思いながらも、拳を打つようにドアをやはり三回、叩いた。
すると観念したかのように彼女はドア越しにやってきた。しかしドアは開けてくれない。]
ねぇ、どうして開けてくれないの?ローズ。今此処に居るのがわたしだけだって解っているのでしょう?
[雑貨屋から一転、全てに怯えるような素振りを見せるローズに、わたしはよく解らないといった様子で首を傾げて見せ理由を尋ねた。すると僅かな時間を空けてドア越しにか細い声で理由が返って来た。]
「だって…ギルバートが俺以外にドアを開けてはいけないって…言ったから…」
[お前は七匹の子ヤギか?
思わず呆れ返りながらも、切り返したくなる衝動をぐっと堪えて、わたしは出来るだけ落ち着いた口調で彼女に語りかける。教師をやっていて良かったと思った瞬間だった。]
あのねぇローズ…。そんな童話じゃ有るまいし…。
それに――幾らあなたが彼に惚れているからって、所詮新参者の彼と三年以上の付き合いのわたしと天秤にかけて、それでもギルバートさんの方を信じるって言うの?
…わたし達の友情って…そんなちっぽけな…ものだったの?酷いわ…ローズ。わたしはあなたを信じて…この三年間暮らしてきたのに。
[最後の言葉には涙声まで滲ませて。]
[しかし七匹の子ヤギというのは、中々言い得て妙だなと思った。チョークで声色と手足を真っ白に変えて化けたオオカミは、まんまと子ヤギ達を騙して家の中へ入り込み、食事にありつく。
わたしは嘘泣きまで持ち出して――]
「ごっ…ごめんステラ…そんなつもりじゃなかったんだけど…でも最近物騒だからってギルバートが…」
[まんまと扉を開けさせる。]
ううん、気にしないで?ギルバートさんだって、きっと用心のために託して言ったんだし…。きっと悪気は無いわよ?でも…
[そして慌ててドアを開けるローズに、わたしは柔らかい笑みを浮かべ安堵を与える。]
わたしが男だったら…こんな物騒な時に、愛しい人を一人だけ残して留守にはしないけど…な。
――居ないんでしょう?彼。
[痛いところを確実に突いて不安に陥れながら]
[わたしの言葉に表情を曇らせて視線を伏せるローズ。
いい気味だと思った。
ささやかではあるけれど、これは雑貨屋でわたしに与えた屈辱のお返し。昨日のように悲しみに漬け込んであなたの躰を貪ろうとはもう思わない。]
あ、そうだ。ねぇローズ。お願いがあるんだけど。
あなたの所にあるワインセラーから安物のワインで良いの。赤を一本譲ってくれないかしら?実は手持ちのワインを切らしちゃってて…。
あ、ほら。わたし【あなたと違って】男の人に簡単に頼れない性分なのよね…。だから一人で身震いする夜を少しでも和らげる為のホットワイン用に欲しいんだけど…。駄目かしら?
[女の嫉妬って怖いわね。
わたしは自分の言葉尻が自然と刺々しくなっている事を自覚しながらも、あえて隠さずに唇に乗せた。俯く彼女の姿が目に映る。関係ない町の人間からどう思われようが平気なあなたでも、身近なわたしの言葉だと少しはダメージを受けるのかしら?
込み上げてくる感情を噛み殺しながらうっすら口嗤う。勿論ローズに見られないように。]
―母屋・食堂―
[できればハーヴェイを待ちたかったが、食事の準備が整ったとのことで私は普段よりやや早い夕食を摂るべくソフィーと共に食堂へと足を踏み入れた。
ニーナは気分が優れない、と自室で食事を摂ると使用人から耳にし、肯いた。父が松笠の杖を振り、来客をもてなした。
シャーロットの席は空いたままだ。
父の目は赤く滲んでいた。
私たち家族は来客を前に、家族を襲った凶事については触れぬまま食事を続けた。
祖母がスプーンを近づけたり遠ざけたりしながら、そこに映る自分の顔を好奇心に目をキラキラさせて眺めている。
グランマ、冷めるよ、と私は言った。]
[やがて、私の口からは感情の籠もらない平板な口調で言葉が漏れていた]
グランマ。黒牛の角は伐ったから、もう安心だよ。
[祖母はパンの中身を千切っては丸めていた]
「カウボーイが縄かけて〜 シェリフがムチうつ
ワンワン モーモー 大さわぎ」
カウボーイ?
[私は、思わず問いかけていた。
カウボーイだって?
祖母は、きょとんとした顔を向けた]
ウシを追うのはカウボーイ……
そうだわね?
[なぜそんな簡単なことがわからないのだろう、と言わんばかりだった。]
「…いいわ、譲ってあげる。こっちよ…」
[何処かまだ俯き加減のローズに案内されるまま、わたしは昨夜案内された地下へと再び足を進める。薄暗い階段、湿った空気。昨日と何も変わらない場所。違うのは持ち合わせた気持ちだけ]
――アンゼリカ 地下――
「ここにあるのだったら好きなのを持って行って良いわよ…」
[何処か疲れきった様子でローズはワイン棚を指差す。位置はわたしの斜め前。当然後ろの様子なんて気にしていなくて…]
[わたしはチャンスとばかりにほくそ笑む]
[頭を少し傾け、少しの間を作る。
金の瞳は漂う紫煙の向こうに煌いている。]
──どう話したら良いのか。
めんどくさいんで、ズバリ結論から言うと、俺は人間じゃあない。
「黒ウシよりおっかないのは影のないおとこだよ。
気をおつけ。
さかさまのあべこべ。おまえのかがみ。
カゲをぬすまれないようにねぇ……」
[祖母の言葉は相変わらず意味がよくわからなかった。私は顔をしかめ、読み解くことを放棄した]
ねぇ、ローズ…良かったら――
[わたしはローズの肩越しにワインを選ぶ素振りをして彼女に近付き]
あなたが一本選んでくださらなぁい?
[持参した籠からナイフを取り出し、彼女の脇腹へと突き刺した]
──バンクロフト邸・食堂──
[捜索の為、ハイネックの白いニットキャミソールに細身のジーンズを合わせただけという動きやすさ重視の格好のまま、ヒューバートと共に食卓に囲んでいた。]
ついでに言えば、アンタは俺の同族の血を引いてる。
アンタの持ってるその…幻視の力?は、その先祖の力を受け継いだもんだな。
部分的に、だけどな。
[煙草を指の間に手挟み、軽く振って見せた。]
―母屋・食堂―
[私は向かいのソフィーに微笑みかけた。]
すまないね。グランマは時々、意味のわからないことを言うんだ。
[そう言ったそばにだ。
ソフィーの方を向いた祖母は、ソフィア、もっとお食べと微笑みかける。彼女の母の事故死という不幸の記憶に突如触れ、一瞬ドキリとしたが、祖母の子供のような表情を見ていると咎めようもなかった。
私は、呆れて溜息をついた]
[ディナーの前に松笠を振って祈る車椅子の紳士。
子供のように目を輝かせて歌を口遊む老婦人。
初めて招かれたバンクロフト家のディナー。
奇妙な光景だが、不思議と温かさを感じた。
或いはそれは懐かしさだったのかもしれないが。]
いいえ、愉快なお婆様ですね。
[パンで遊ぶ老婦人の姿に目を細め。]
[母の名で呼び掛けられれば一時ナイフを繰る手が止まるが]
…母を、ご存知なのですか?
[然程動じた様子もなく、柔らかな声音で話しかける。]
それで、俺のシゴトのひとつが、アンタみたいな同族の子孫のところを回って、その血を目覚めさせることだ。
さっき俺がそういう力を持ってると話したな?
俺がこの町に来た理由がそれだ。
先祖の………力。
血を、目覚めさせる……
いったい、何のために……?
[揺れる紫煙を、ぼんやりと瞳孔を開いて見つめている。]
………いや。
目覚めさせる「血」とは……何だ?
[非力な女の腕で、簡単にローズを殺せるとは思っては居なかった。だからわたしは気休めにでもとナイフに煙草を煮出した液体を予め塗布しておいた。ニコチンは毒性が強いと教えてくれたのは、さぁ誰だったか…。]
「ス…テ…ラ?」
[驚いたように目を見開きながら振り返るローズの足を払い、彼女の体を床に倒す。傾き掛けた身体から素早くナイフを抜き取り馬乗りになると、再びわたしは彼女の首許へとナイフを宛て――]
ごめんなさいね。わたし、躰を許した相手の裏切りは…どうしても許せない性質なの。だから、ギルバートさんに抱かれる夢は、天国で見て頂戴?
それとも…これからは男は捨ててわたしだけ愛してくれるって誓ってくれる?
[くすり くすり――]
[笑みが自然と零れる。わたしはローズの怯えと懇願で歪む表情を味わい深く見下ろしていた。さぁ、あなたから命乞いの言葉は聞けるのかしら?]
「あ…ステラ…おねがい…助けて…?わたし達…昨日はあんなに…」
[刺された痛みかそれとも僅かに流し込んだ異物の苦しみか。綺麗なローズの顔は今は醜く歪み、艶めいていた唇はすっかり青褪めてしまっている。]
ん…そうね。昨日わたし達はここでお互いを求め合った。でもわたし、あなたの口から聞いていないの。
「わたしを愛し続けるわ」って言う言葉を。
だから…ねぇ?誓って?その麗しの唇が…
[命乞いをするローズの手が、わたしの背中を撫ぜた。入墨に唇を寄せたときのように優しく。
でもそんな優しさ、今は欲しく無いの。]
事切れてしまう前に――
[わたしは彼女の最後の言葉を聞くその前に、首筋に当てたナイフを力いっぱい振り下ろした。
瞬間、鮮血は綺麗な飛沫になって周囲の壁を彩っていた。]
[日はもう少しで落ちる。道も明かりだけを頼りにするには心もとなくなっていた。危ないといわれた矢先にこんな一人歩きをしていてはまたヒューバートからお小言でも貰うだろう。まるで子供にいうように]
先生俺を何歳だと思ってるんだろうなぁ…。一応20歳過ぎてるんだけどどうしてあんな口煩いんだろ?
[彼の心配が実は嬉しいのかも知れないとはこの際認めない。
子供のように見られているのは少し悔しかったが]
…あれ?
[もう少しでバンクロフト邸。夜までに着いてよかった。
自宅についたような感じがしたのか、思わず鍵を取ろうと手をポケットに突っ込んでしまったが、手に何も触れない。
ナサニエルに向けて振るった自宅の鍵。それが見当たらなかった]
落としたかな?
[普段から人通りも少ない裏路地を来たが、もし誰かに鍵を拾われて万が一があっては困るしそも自分も家に帰れない。ヒューバート達に面倒をかけるわけにも行かずにため息を一つ]
探しにいくしかないか?
[折角ついたバンクロフト邸を目の前にしながら踵を返した]
ふむ。いい質問だ。そこが核心だからな。
[スッと目を細める。]
アンタが引いているのは人狼の血──アンタは人狼の子孫、
人狼の「血族」なのさ。
人狼の………「血族」。
[ギルバートの言葉を、反復することしかできずにいた。]
人…狼………?
何だ、それ……は……
お前は、いったい、何者だ?
そして、俺は……………
[思わず婦人へと訊くも、答える声はなく。
代わりにヒューバートが教えてくれた。
イアンとソフィアが何度かディナーに同席していた事。
娘を連れておいでと何度誘っても叶わなかった事、などを。]
そうだったんですか──。
[感慨深げに呟く。]
「君を招くのは骨が折れたが、漸く叶ったよ。」
[ヒューバートはそう言って片目を瞑ってみせた。]
[少し大儀そうな表情になり、灰皿を引き寄せ煙草の灰を落とす。]
何だと言われてもなぁ……。
人間よりも少しばかり身体が丈夫に出来てて死に難い。色んな感覚も優れてる。あと、寿命もいくらか長い。
そんな感じ?
[彼本人に関して言えばこれは決して真実とは言えなかったが、そこら辺はあえて黙っていた。]
ナサニエルに「血族」について説明した。
さっきお前に説明したのと大体同じ内容だ。
お前、ここに居座る気ならナサニエルを見張ってくれ。
それで、ナサニエルが「血族」について誰か他の人間に話すようなら俺に知らせろ。
いいか?
ナサニエルさんに…? はい。分かりました。
[数多の疑問、懸念があったが私は簡潔に一言だけ答えた。疑問を次々にぶつけることは非常にナンセンスな事と思えたからだ。
私が想像していたよりも遥かに長い二人のやりとり。私は私の手でナサニエルの知識を本人には見抜かれないように確かめてみたい思いがあったが、それは杞憂に終わりそうだ。]
身体が丈夫……
感覚が優れている……
寿命が延びる……
[ベッドから立ち上がり、フラリと一歩を差し出した。]
………それだけ、か?
それは人間が人間を超越することだ……決して「損失」ではない。もしそれだけなら、お前は「取り返しがつかない」と、俺に警告したりはしないはずだ。
他にも……「何か」あるはずだ。
いや、確かに俺はそれを今、実感している。
俺の身体が、何かに沸き立つ感覚が……お前を目の前にして、身体中の細胞が騒ぎ出す、不穏な感覚が………!
[首を切られたローズの息が絶えてしまうのには、然程時間は掛からなかった。
わたしは馬乗りになっていた身体から降り、最後の瞬間をただ静かに見守っていた。]
[ローズが死ぬ間際、脳裏に思い描いた人は果して誰だったのだろう。
最後の痙攣を見届けながら、きっとわたしではないだろうとおぼろげながら感じていた。シンシアがそうであったように。]
[わたしは修道女を宗教を捨てる直前に、当に今と同じように人を一人殺していた。いいえ、確実に殺したといえる人が一人であって、本当の所は良く解らない。
理由は今と全く同じだった。全てを許した相手に裏切られた。ただそれだけの、去れど赦すことの出来ない理由の為に。]
[人を殺したわたしは、逃げるように住処を後にした。警察沙汰にならなかったのはただ単にその直前に猟奇的とも思える事件が起きたばかりだったからだろう。運が良かったといえばそうかも知れない。でもあのタイミングは悪魔からの贈り物としか思えなかった。
その後わたしは感謝の気持ちを形に変えるべく悪魔にこの身を差し出した。罪を背負う事で自分を律したかったのかも知れない。今となっては随分無意味だと思うが。]
[私は考えていた。
「血族」が「血族らしく」生きる事に非常に…誇りとも違う、肯定とも言うべきか、好ましいものと捉えつつあった。
だが…ハーヴェイ…彼自身が正当に生きていけるならそれが一番だが、彼が彼を制御できなくなる事に非常に憂慮しており、場合によっては力づくでもそれは止めなければならない、と一人考えていた。]
[注意深く地面を見つめ、鍵を探す。
人を殺そうとした鍵ではあったが無ければ家に入れず自分がのたれ死ぬ。直接的にも間接的にも凶器になるとはこれはまた面倒なことだ。
やや長い道をまた戻らなければならないのは面倒極まりなかったが、幸いにも暫く歩いた地点で薄暗い街頭の下、銀色の鍵を見つけることができた]
よかった、あった。
[拾い上げ、今度こそまたバンクロフト邸へ、と再び踵を返そうとした瞬間、自宅側の道から耳を劈くような─]
「きゃぁあああっ!誰か、誰かぁああ!!!」
[普段あまり人の声を聞かないこの路地、偶に聞くことがあるとすれば…。
予想はしたくなかった。しかし何故か足はその方向へ向かっていた]
─ナサニエル宅─
けっこー…汚れた服もあるわね。ナサニエルさんは無頓着なところがあると言うのかしら、生活感があってないような…それがナサニエルさんのいい所かしら?
[ネリーは勝手に電気洗濯機を使っていた。]
[ローズの返り血を浴びた左腕に住まう蛇は、久し振りの食事を充分堪能したかように目をぎらぎらと光らせ舌を動かしていた。
わたしはその姿に目を細めながら、事切れてしまったローズの體を引き摺り、目合わいあったひみつの部屋へと突き進んで遺体をベッドの上へと載せた。それはわたしからのせめてもの優しさだった。]
ごめんね、ローズ。あなたの身体の一部…貰っていくわ。
[そしてナイフを三度振りかざして胸元を切りつける。切り開いた膚に手を差し込み心臓らしき臓器を取り出すと、わたしはそれを丁寧に持参した布に包み籠に入れた。]
嗚呼、これであなたはわたしだけの物…。
[わたしはその籠を大事な物のように持ち上げ胸に抱いた。狂っていると言いたい人が居るなら言わせて置けばいい。これがわたしの最上級の愛し方。だれにも批難はさせないの。たとえそれがローズ本人であっても――]
[自分の知らない二人の時間が此処にある。
そう思うと少し寂しくもあるが、また嬉しくもあった。
アンゼリカで割れてしまったボトルの代わり。
そんな風にも感じられた。]
[バンクロフト家で過ごす夕飯のひと時は瞬く間に過ぎた。]
ふぅん。やっぱりアンタも気が付くか。そりゃそうだよ
な。
[立ち上がったナサニエルを見上げ、煙草をふかす。]
「血族」が人狼の血に目覚めると、それまで普通の人間と同じだった身体が、人狼のそれに作り変えられていく。
その変化は結構キツいもんだ。これまで無かったもんが付け加えられていくんだからな。凄い負担が掛かる。
それがアンタのぞわぞわの正体だ。
――――――
おばあさんに パンを届けに
女の子が森をゆく
狼つきが 化けてるとしらず
あつあつのパンと ミルクを抱えて
てくてくぽくぽく 歩き出す――
こんにちは パンとミルクを 持ってきた
よくきたね とだなの肉を お食べなさい
――おばあちゃんは 食べられた
――おばあちゃんは 食べられた
――――
[予想より随分早くニーナの死体は見つかったようだった。
別に今ここで自分が駆けつける必要は全く無い。無視すればいいだけ。
しかし発見者が知り合いだった場合。そしてそいつがバンクロフト邸に行くようなことがあれば最悪足がつく。
どちらにしろ…殺せばいいことだが]
――漸く叶ったよ。もっとも……
[できれば、もう少し静かな食事の方がよかっただろうけれどね、と唄っている祖母にチラリと視線を投げ、ソフィーに笑いかけた]
――――
さあおまえ 服をおぬぎと 狼つきは 言いました
脱いだらどこへ 置いたらいいの?
暖炉にくべて おしまいなさい
もうおまえには いらないからね
服をおぬぎ
服をおぬぎ
服をおぬぎ――
――
[祖母はフランスの狼童話を節をつけながら唄うように口にしていた。パンの皮を叮嚀に剥がすことに今は熱中しているようだ]
[ナサニエルの邸宅に来た理由は複数あった。
ナサニエル自身を確かめてみたいこと。ナサニエルを見て「血族」そのものを測りたいこと。そして私自身を確かめたいこと。
それがはっきりすれば折を見て家を離れようと思っていたが、ギルバートの言うとおりここにいるのが正しいのかもしれない。]
さぁ、欲しい物は手に入れたから長居は無用ね…。
あのギルバートという男が今帰ってきたりすると、色々面倒なことになりそうだから…早く出て行かないと。
[籠を大事そうに抱えたまま、わたしは地下室を後にする。途中赤ワインを一本だけ頂くと、それをローズが潰れないようにと気をつけながら籠に横たわらせる。
ラベルにはローズが生まれた年の年号が記入されていた。]
[そして店内へと足を踏み入れると、わたしは予め持参していた外套を羽織り返り血を浴びた服を隠して店を後にする。
その後自宅に着くまで誰にも会わずに済んだのは…意図的かそれとも奇跡だったのだろうか。]
――酒場 アンゼリカ→自宅へ――
で。エラく精神的に不安定になる。ちょっとしたことで怒りを抑えられなくなったり、短絡的に欲望や願望を満たそうとする。
酷い時には狂ってしまう……
[見上げた視線のまま、薄い笑いは消えない……]
[祖母は相変わらずだったが、来客を招いての食事は嬉しいものだった。そうでなければ、家族が二人も欠けた食卓は寂しすぎるものだっただろう。
父も、ソフィーに来てくれてありがとう、と礼を言っていた]
ソフィー、湯はいつでも出るようにしてあるから、バスルームはいつでも好きに使ってくれ。
なにか要りようなものがあったら、マーティンに。
もし、なにか異変があったら、私や側にいる誰でもいい、誰かを呼んで欲しい。
[そう言って、少しだけ片付けないといけないから、と一旦アトリエの方に向かいかける]
ああ、そうだ。ハーヴが戻ってきたら、よければ集まって色々話をしよう。
それにしても何をお話しているのかしら…
そんな仲、でもあるまいし。
私、何を言ってるんだろ。
「ネリーは両手をモップの柄に乗せて呟いた。」
そう、か………
[ぽつりと呟き、ナサニエルはギルバートの唇から煙る色の中で、思案する。]
いや………。
教えてくれて、ありがとう……。
なぁ、ギルバート………。
[目を閉じ、溜め息をひとつ。]
……………。
[何かを言い掛けて、止める。そして、代わりに或る質問を……]
また、お前に会えるか?
[老婆の唄う古い童話。
広い食堂に木霊する。
――おばあちゃんは 食べられた
――おばあちゃんは 食べられた
食後の穏やかな会話に耳を傾けていたソフィーの顔が強張る。]
………。
[ズキンと首筋の疵が引き攣れるように痛んだ。]
[駆けつけた所には一人の女性が座り込んでいた。
ガタガタと振るえ、恐怖からだろうか、顔が引きつっていた]
どうしました?何か…あったんで……っ!
[聞くのも愚かと言うべきか、目の前が全てを物語っていた。
薄明かりの中でもハッキリと見える赤い血、細く白い足、ぐちゃぐちゃにかき回された内臓、そしてその先につながるものは……]
狂う………
そうかもしれない。
俺は……………
[手を口許に当て、眉をしかめて何かを言おうとして……]
………………あ、いや。
[――それを、抑える。]
それからネリー…
もしもう一度ハーヴェイがこの家に来るようなことがあったら。
お前は逃げろ。
決してハーヴェイに立ち向かうな。血の薄いお前では勝てない。
[ニーナの死体を改めて見る。
以前のルーサーやシャーロットと…そしてユーインと同じ。
ずきり、と鈍い頭痛が襲い、思わず顔を歪めた]
[朗々とした深い良い声を持った男が、切実で熱い演説をしている。
「白人」
「黒人」 ……「同志」
──それに犬の臭い。
焼け死んだ住人はボブ・ダンソックなのかと私は理解する。私の苦手なあの犬…ゴライアスの咆哮が聞こえた。けれども、私は以前のように犬に対してさほどの恐ろしさを感じない。]
小さい頃、私を噛んだ猟犬になりきれなかった可愛い子犬。
グランパに連れていかれたきり帰って来なかった。
私がそれ以来、犬が怖くなってしまったのは、むしろ、
…………。
[今、犬が怖く無いと感じるのは、このまま成らぬ身体と一緒に、私の感覚や意識も変化してしまったからかもしれない。]
ええ…分かったわ…あなたの言う通りにする。
[私がどう足掻いてもやはり無駄死にするケースは多分に考えられる。
それよりも私を本当に知り、私を心配してくれる人がいるのだから、従うのは当然だ、と思った。]
[『ソレ』を見た瞬間、顔が酷く歪んだ。
ニーナの死体を直視し、震える女性を反対側へ向き直らせ、自身も震える声で]
…いいですか、貴女はすぐに家に帰りなさい。
俺が人に知らせますから。
見ちゃいけない。思い出しても。
すぐに忘れた方がいい。
[それはきっと未だに過去に苛まされる自分と同じにならぬようにと]
「狼つきは 言いました」
[老婆の歌声は尚も続き。
ソフィーは中空を見据えて硬直する。]
「服をおぬぎ
服をおぬぎ
服をおぬぎ──。」
『嗚呼──………。』
なっ………
違う!!そんなんじゃねえよ!!
[ギルバートの言葉に、慌てて手を横に凪いだ。小さくたなびく紫煙が風圧に押され、その形を歪めた。]
違う……………
[ムッとした表情で、ギルバートを見下ろす。]
………「死」のニオイがするんだ。
お前の身体から。
だが………………
[ズキン、ズキン、ズキン。
傷痕が俄かに熱を持って鼓動を刻み始める。]
「どうしたね?」
[ヒューバートに問われて顔を上げるも、
唇を戦慄かせて彼を見上げるのみ。]
――自宅――
[到着するなり、わたしは"ローズ"とワインをつめたい氷水へと注ぎ入れ、汚れた服は洗濯機に投げ込みシャワーを浴びる。返り血の血腥さを洗い流す為に。]
[シャワーの飛沫を浴びながら、わたしはふと過去を思い出す。そう言えばシンシアの時、彼女の心臓を取り除いたりはしただろうかと。]
――そういえば、彼女の時は…ただ命を奪っただけだったわね。
それだけ…わたしにとってローズは掛け替えの無い存在…だったのかしら…?
[自分の行った行動に僅かな違和感を感じながらも血を洗い流す。そう、あれはカセクシスの成せる業。行き着くところが偶々負の感情だっただけ――]
[ふと嗤いを消した。
手の動きで吹き散らされた紫煙、その向こうのナサニエルを静かな瞳で見上げている。]
「死」のニオイ、か。
――――
おばあちゃん お口がとっても 大きいわ
お前を食べる そのために
お前を食べる そのために
――
――祖母の歌声が谺し、
古い館の冥暗の中へと吸い込まれていった
[ネリーはボブの見様見真似でアルファロメオと同じようにナサニエルの車の洗車をしようと思ったがさすがにそれはやめた。]
あの名刺…どんな意味なのかしら。
[表の活動もともかく、深層にはもっと何かが潜んでいるように思えてならなかった。]
……………。
[目を閉じ、言葉を放つ。]
お前の話が正しいなら……俺は、ここ数日「死者の夢」を視ていることになる。俺は今、「死」の夢に支配されているのかもしれない。お前が与えた、「死」の夢に。
………多大なる「官能」を、伴って。
[目を開けて、ふと唇を歪めて笑う。]
けれど、今俺が言いたいことに確証が無いんだ。
だから、もし確証ができるようになったら……
……その時また、お前に話そう。
――その時、絹を切り裂くような悲鳴が大気を響動させた――
なんだ――!?
[屋敷の外からだ。何かが起きたに相違ない。
駆け出しかけ、ソフィーに視線を巡らせる。
ここに止め置くのと、私と共に来るのとではどちらが危ういだろうか。]
ソフィー、どうする?
[覗き込むヒューバートの怪訝そうな表情に]
──い…、……いいえ…。
いいえ…何、でも………。
[何でもない。
その一言を発する事さえ出来ずに。]
「お前を食べる そのために」
「お前を食べる そのために」
『───…!!!』
[掴まれた腕がビクリと跳ね。
蒼褪めた顔で、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。]
[頭痛は一旦は収まったものの、今度は体中をきしむような痛みが襲ってくる。これも変化の過程によるものなのだろうか?
『変化する─』
ギルバートの言葉が去来した。
一瞬、酷い恐怖に襲われる。
何に怯えているのか分からない。
分からないから余計に恐怖に襲われる。
─自分は一体何をしている?─
兄との約束を忘れたいと願いながら兄を追い、過去を消したいと思いながら自分から過去をトレースしている。
分からない分からない分からない
俺は誰俺は誰俺は誰
ニーナの遺体を見下ろす目に、生気は宿っていなかった]
[老婆の声がわんわんと耳の奥で谺する。
屋敷に響く叫びも今のソフィーには届かぬようで。]
………。
[立ち上がったその場でふるふると首を振った。]
[女性を逃がした後、ニーナの遺体を見下ろし、そこにたたずむ。
動けなかった。
手足は愚か目や脳が伝達神経全て途切れてしまったように動かない。
ガクン、と膝を着き、ただただ、呆然としていた]
[見詰めていた瞳をニ三度ゆっくりと瞬かせた。
ふ、と唇を綻ばせる。]
──そうか。
じゃあアンタがその時が来たと思ったら話せばいい……
[短くなった煙草を灰皿に押し付けて揉み消した。]
さてと。俺はローズのところに帰るよ。
一応「側に居る」と言った手前、責任があるしな。
[安楽椅子から立ち上がった。]
[至近距離からのヒューバートの声にハッとした。]
───…あ…。
い、え……いいえ…、何でも、ありません。
[搾り出した声は上擦ってはいなかっただろうか。
言い聞かせるようなヒューバートの言葉に]
はい……はい…。
すみません、もう大丈夫です……。
[やっとそれだけ言うと、屋敷に残る事を端的に告げた。]
[安楽椅子に座るギルバートの唇に自分の唇を寄せ、囁く。]
だからその時まで、俺を殺すなよ?……なんてな。
っと。
これ以上書斎に閉じこもってたら、ネリーに何と思われるか分かったモンじゃねぇな……。そろそろ出るか。
[ギルバートの黄金いろの目をもう一度だけ見つめ、その身を離そうとした。]
別に誰に何と思われても構わないけどな。俺は。
俺は、殺さないさ。アンタが秘密を守る限りはな。
アンタは生かしといた方が面白そうだし。
[食卓の奥から、車椅子の父の重々しい聲が響いた]
「ソフィー。案じることはない。
信じることだ。血の流れを。我々の血族を。
そして、飼い慣らすのだ。獣を。
我々の魂は、グレイプニル。ゲルギャの鎖縛。
お前は同胞なのだろう?」
[父は「正しい交わり、正しい血脈」と口にした。ソフィーの表情を伺うように]
秘密ねぇ……
せっかくお前から面白いネタが戴けたんだ。厳重に鍵を掛けて、しまい込むことにするさ。
[小さく笑うと、書斎の内鍵を開け、ドアノブに手を掛けた。]
[ギィィ…──。
車椅子を軋ませ。
老紳士が地鳴りのような低い声を発した。
ソフィーは錆付いた歯車のようなぎこちない動きで
部屋の奥を振り返り──]
血族……。
獣……。
同…胞……?
[正しい交わり。
正しい血脈。
狼つき──。]
[やがて綺麗に流し終わった身体をタオルで拭き、念のためにと香水を振り掛ける。薔薇の香りを基調にした柔らかい匂いを振り掛け、血腥さをわたしの中から完全に消去する]
さぁ、新しい門出を祝してお祝いしましょう?ローズ。
[下着を身に着けただけの姿で、わたしはワイングラスを用意し、テーブルに着く。
そして冷えたワインを注ぐ。空のグラスを彩る赤は、まるでローズの血液のようだと思った。
冷水から僅かに顔を覗かせた彼女の心臓を一欠けだけ削ぎ落とし、躊躇う事無く口に含んだ。そして何度も咀嚼を繰り返し、ワインで体内へと流し込んだ。
そうすることによって、彼女がわたしの中で永遠に息衝くような気がした。自分でも驚く位、わたしは彼女の事を愛していたようだ。]
[ギルバートと共に部屋を出る。
部屋の片隅にあった段ボールから、パスタと缶詰を取り出し、それを手にしたまま書斎の鍵を閉めた。]
[何かを啜る水音。
疵口を抉る舌先。
荒い息遣い。
そして、口元を紅く染めた父の───]
『────…嫌!!!』
[再び声にならない叫びを上げ。
脳裏に浮かんだビジョンを振り払い、食堂を飛び出した。]
ちょっとやりすぎてしまったかも。
ごめんなさい、ギルバートさんとお話しているのがあんまり長くてつい入れ込んじゃったのよ。
あんまり長すぎて、くんつほぐれつなのかもと思ってしまうぐらい。
[ネリーは苦笑した。]
―薄暗い路地―
ぅあぁあああぁあああ!!!!
ロティ!
ロティ!!!
[闇に沈む幽径で、仄かな燭明にうっすらと輪郭を照らし出された皓いおもてが目に入った刹那、私は半狂乱になって叫んでいた。
骸にまろぶように駈け寄ると、鮮血に染まる臓腑を体躯に押しこんでゆく。]
………んなこと、するかよ。
だいたい………
[ポケットからメンソールの煙草を取り出し、口に運ぶ。フィルターの先端がナサニエルの分厚い唇に触れ、彼は微かなざわめきを覚えた。]
『何故、俺はあいつに唇を寄せた?
そして……何故、あいつの唇に触れられなかった?』
ロティ、なぜ――
なぜ、こんなことに……
ぁあああぁあああァ!!
[このような無惨な姿に成り果てた娘を、どうすれば元に戻すことができるだろう。錯乱し、過負荷に痺れる脳髄は正しい答えを導かない。
ぶよぶよと指先から零れる臓物を漸く体内に押しこむとただ震える手でどうにか引き裂かれた胴体に蓋をしようと試みるばかりだった。カチカチと歯が鳴り、空いた右手で頬を撫でる。]
誰がこんな酷いことを……
うう……
ぅあぁ……
[視界が熱い雫で滲む。双眸から泪が零れ落ちた。]
[鮮明な光景が滲むと共に、奇妙な違和感に気づく。頬に触れた手は、断髪に触れていた。
ゆっくりと、髪を撫でる。
それは、長髪のシャーロットとは異なる手触りだった。]
…………?
[目を開ける。そこに横たわっているのは、シャーロットのままだ。眼窩の奥が痺れた。]
ああっ くそっ!
[目を閉じ、慎重にその貌に指先を這わせ、感触を確かめた。]
ううん、大丈夫よ。
ギルバートさんとは大事な取引かかしら…私は深入りしないほうがよさそうだしね。
「ネリーはギルバートとナサニエルを順番に見た。
パスタと缶詰を見て少し驚く。何かのおもてなしなのだろうか。」
ギルバートさんも気をつけて下さいね。
私…じゃないけど、襲われてはいけないから。
[出会った時の「襲われた」という言葉を持ち出してギルバートに語りかける。 そのままギルバートを見送った。]
取引……?いや。特に何も。
俺は商売やってる人間じゃあ無いしな。
[ネリーがパスタと缶詰を見つめていることに気付き、パッと表情を変える。]
ああ……これか?
いや、腹減ったからメシでも……と思ったんだが……。
パスタとアンチョビとダークチェリーの缶詰じゃあ、何もできねぇよな。
――違った。
それは、シャーロットではなかった。
[指先に伝わる感触は、記憶に刻まれたそのおもてと一致しなかった。よく似たところもある。だが、彼女よりはやや年嵩の女性だ。骨格、肌の細かな水分の含有量や油分によって変化する質感、それらが正確に一致するものではないことを私の指先は感じ取っていた。
それがシャーロットではないのだ、という確信を軸に視覚を再構成する。鮮明すぎる過去の記憶が書き換えている現実を顕わにするために。
意識を集中すると、次第に像が定まっていった。ぼやけた像が明瞭になったその時、そこから姿を顕したのは――]
ナサニエルさんはこんなの…ご、ごめんなさい。
このようなのをいつも口にしてるの?
[ネリーは可笑しそうに笑う。]
そうそう、こんなの拾ったのだけど…ナサニエルさん、何か副業か持っているのかしら…?
「ネリーは名刺を取り出し、当たり障りのないように聞いた。」
俺はあんまり料理しねぇし、だいたい腹減ったらアンゼリカ行くし。面倒臭かったら食わないし。
………って、副業?
[ネリーから差し出された名刺を見て、ナサニエルは目を丸くした。
それは、自分の名刺。
"Nathaniel Oliver Mellers"と名前と、「契約」の二文字……]
ああ、これか。
これは俺のペンネームだ。
こう見えても俺は文筆活動というものをしててな。
……とは言っても、全く売れずに開店休業状態になって久しいんだが。
[封を開けたワインの瓶を、わたしは二つのグラスに交互に継ぎ足す。
一つはわたしの体内へ。もう一つは彼女の心臓へ。
そしてその行為はアルコールが尽きてしまうまで繰り返される。]
嗚呼、愛しているわ…ローズ――
[仄かに酔いが回ってきた唇で、わたしは何度目かの誓いをそっと呟く。今までのどの言葉より今が一番真実に近いだろうと、西にゆっくりと傾き始めた太陽の中で確信を*得ながら*――]
冒険家 ナサニエルは、新米記者 ソフィー を投票先に選びました。
成程、アンゼリカね。ローズさんは私の3倍レパートリーがあるから羨ましいわ。
ナサニエルさん、字を書いてるのね。ただ読み書きができる私とは
大違いだわ。契約か…契約って何なの?
[興味本位という部分もあったが、その根底にあるものを聞いてみたくて尋ねた。]
「契約」………
[迂闊だった、とナサニエルは心の中で舌打ちした。この快活な娘に「契約」のことを教えたら、いつ誰に言いふらされるか……
だが、その思いを軽く外へ追いやる。自分の評判を思い出してのことだ。]
………ん?
あァ、いや。
[まるで品定めするように、ネリーの瞳を見つめた。]
………………………。
[刹那、ナサニエルの口の動きが止まり、瞳に力がこもる。
しまった、入りすぎたと一瞬頭をよぎったが、ネリーの翡翠の瞳は逸らさず、ナサニエルを見つめていた。
この目の動き、ネリーは幾度と受けている類ではあった。]
…………………ふぅん。
[メンソールの煙草を咥えたまま、ナサニエルはしばしネリーの瞳を凝視する。]
………抵抗、しないのな。
まいっか。
[咥えていた煙草を灰皿に押し当て、火を揉み消した。]
もし目の前に居る男が獰猛な「獣」なら、お前はとっくに犯されてンな。
[自分の両腕を組み、少しだけ思案する。]
それはお前の……「望み」か?
[ナサニエルが突如激しい言葉を口にしてもネリーは動じなかった。
ネリーはしばし沈黙した。その時間は次の発声をするための準備期間だからだろう。]
…いいえ。私は必要と思えば抵抗もするわ。獣が相手でも、望みでないものは。
私は…いろいろ確かめたい事があるの。
とは言え、だいたいはあなたの言っている…通りよ。
私はそれを余儀なくされる事が多くあった。
でも私はその…それを打破することはなかなかなかった。私の中にそんな気持ち…というものがあるのか、分からない部分が多くあるわ。
[同時にネリーは、ナサニエルがこの昨今、主にギルバートからどんなやりとりがあったのか、或いはどんな知識、どんな姿勢なのかを知りたいとも思った。
だがそれは、よほど気づかれずに事を運べる時以外は踏み込むまいと。]
ふぅん。そっか。
ならばいいんだけどなァ。
[ナサニエルは名刺をヒラヒラさせ、ネリーを見やった。]
まぁ、俺には他言無用な副業ってヤツならあるんだが。
……聞きたいか?
[ネリーの瞳をもう一度だけ見つめると、ナサニエルは着込んでいた白いシャツを脱ぎ捨てた。]
………俺の副業は、「天使」だ。
[そう言って、後ろを向いて両腕を肩の高さまで上げた。
肩甲骨を抉るようにラインを描いた、タイトなタンクトップを纏う背中。その背中には、一対の翼のタトゥー。ナサニエルのそれは、羽ばたく直前の翼のように、ネリーの眼前に現れたかもしれない。]
俺は、満たされぬ者の心を満たす、「天使」――
[首だけ後ろを振り向いて、ナサニエルはネリーに告げた。]
[ネリーは驚いた。これだけ確固たる意思を持って自分の身に身に着けているのは――いやその力により新たな力を得ているような人間は初めてだったからだ。
ネリーにもつい最近シャーロットに見られた生傷などがあちこちに少しずつある。だが自分のものとは趣旨が全く違うのだ。
ネリーは眼前の天使にまだ半信半疑で問うた。]
その天使は…私の、私の中に持っている疑問を振り払ってくれますか――?
疑問………?
[腕を下ろし、ナサニエルは振り向いた。]
それが解決できるか否かは、お前次第だ……ネリー。
俺にできることは、お前が望む「役割」――失った相手や、心の中で足りない「存在」になって、お前を抱くなり、お前に抱かれるなりすることだけだ――
もし俺の「稼業」に興味があるンなら、俺はお前と「契約」を結ぶ。金は、お前が払いたくないならば不要だ。
………さぁ。どうする?
[私は主が必要な人間なのか。
特に、ボブとリックへの感情。自ら考えてもいっこうに埒があかない。
ネリーは立ち上がり、後ろを向き、目を必死に閉じていた。]
今、一度、私と契約して下さい。一度で構いません。
私の契約主になって下さい。主として私に接して欲しいのです。
[ネリーは主に望む事を告げた。 それはネリーを垣間見た事のある女性の思っている事その通りだった(>>3:137)]
[ネリーは既に覚悟を決めているのか。
とうとうと詳細を告げる。お金は必要ならば自分に出来る範囲で用意すること。バンクロフト邸に行く予定があるので衣服は破かないで欲しいこと。身体を傷つけるのは衣服に隠れる場所にしてほしいこと等。]
一度でも何度でも、それはお前の「望み」……「意志」の力で決定すべきことだ、ネリー。
[ネリーの口から放たれた「望み」が、ナサニエルの耳に入った。]
なるほど。「主」ねぇ。
お前は「支配」を求めるのか。
……了解。
じゃ、ちょっと待ってな。
[一度ネリーから離れ、書斎から黒い革トランク――「契約」相手をいたぶる道具を持ち出し、ネリーの眼前に首輪と目隠しを突き付けた。]
………こういうことか?
[ナサニエルの淡々とした口調や行動に、ある種の「慣れ」のようなものを少し感じた。それが彼の生業ゆえなのか。これこそが彼の本当の姿なのか。]
分かりません。「支配」かもしれません。
支配されることによって解放されるのか。
逆にそれは私にとって過ちなのか。私は知りたいのです。
[道具を目の前に差し出されて、ネリーは口を真一文字にして頷いた。]
[ナサニエルは「分かった」とだけ告げ、ネリーを2階の寝室へと導いた。]
[ネリーに首輪を掛け、目隠しを施す。
そして、ネリーの耳朶に小さくくちづけをすると、ネリーをベッドに寝かせ、彼女の胸元やスカートの奥に掌を侵入させ、丁寧に服を剥ぎ取った。]
[太股を舐め上げ、唾液の跡を作ると、下着姿のネリーを床にひざまづかせる。]
お前に選択肢をやろうか……ネリー。
「雌犬」「雌豚」「肉奴隷」………
お前は何と呼ばれたい?
[ネリーに施した目隠しの向こう側で、ナサニエルは耳元でそう囁いた。低い声を静かに響かせた彼の唇の端は、ニヤリと歪んだ――*]
[2階の一つの部屋でネリーは跪いていた。男の問いを受け考える。ふと、本当の主人の顔が浮かび一言だけ発した。]
犬、です…
―路地―
[悲憤と絶望の感情はいまだ余燼のように微かに胸の奥で燻っていたが、漸く私は平静を取り戻した。
ニーナの遺体の前には、虚脱したままのハーヴェイの姿がある。私は、少なくとも彼が無事であることに安堵しながら、肩を抱き寄せ、くしゃくしゃと髪を撫でた]
ハーヴ、立てるか?
[虚ろな眼差しは私を正確に捉えようとはせず、薄く開いたままの唇からは声が発せられることがなかった]
普段なら、レディファーストなんだがなあ……
[胴がなにか獰猛な獣に食い破られでもしたようなニーナの遺骸は、ただ担ぎ上げただけでは損傷を与えてしまうことは確かだった]
よっ……と
[私は、ハーヴェイを背中に負い立ち上がった]
―アトリエ・作業場―
酷ぇ疵だ……。
[透明アクリルの作業台の上には、ニーナの裸身が横たえられている。辛うじて纏い付いていた真っ赤に染まったネグリジェは、襤褸布のように脇に除けられた。
四肢に欠損がないのがまだしもだっただろうが、首は四分の一程も千切れ、柔らかな胸部から下腹部にかけては無惨に引き裂かれている。
解剖学の講義を思い出しながら臓器の繋がりを再現しようとしたのだが、欠損が酷くどうにもならない。専門的な外科医ですらおそらくは匙を投げるであろう遺体の状況を前に、絶望の唸り声を漏らした。]
一体、なにでやったらこんな――
[視界に、一瞬過去の惨劇の記憶が目の前で起きたことのように甦った。
陰暗の深奥より浮かび上がる蒼白な貌と真っ赤に染まったミッキーの――]
うわっ!
…く、くそ……
[反射的に怯えたように後ずさりかける足を踏みしめる。
それにしても、未明にシャーロットの遺体があったのと全く同じ場所にニーナの遺体があると、酷く混乱させられる。
遺骸は気がつけばシャーロットのそれに置き換わり、私はニーナの躰を扱うために酷く集中を強いられた。]
[ハーヴェイを担ぎ込み客間のベットに横たえ、ソフィーにニーナの死を伝えた後。私は彼女の遺体を注意深く作業場に運び込み、その修復に苦慮していたのだった。]
専門的な医者でない私にできることはさして多くない。
すまない――
[手術用の糸での縫合を済ませると、外見上はなんとか元通りと形容して問題がない程度の状態には戻っていた。彼女の遺体にあうサイズの箱を探し出すと、躰を冷媒と断熱材でくるみ安置する。
ユージーンに頼んでニーナの遺体を安置所に安置するのは、夜が明けてからになるだろう]
[安置所にシャーロットの遺体を置いて来ざるを得なかったことの懸念の一つは、遺体が損傷を受けたり持ち去られたりしないかどうかということだった。
「死体が生き返って噛み付かれたらどうする気だ」
ダニエルの言葉を、食いちぎられたネイの首を、ナッシュと目撃したその時の惨劇を思い出す。
安置所がそうした所業を為す“何者か”が徘徊する場所だったとして、私には常に喰われるのが生者であると立証できる材料がなかった。
シャーロットの躰が何者かに喰われ、無惨な姿へと変じてしまうことだけは何があっても受け入れられ難いことだった。それくらいなら、私が代わりの餌となった方がましだ。
それ故に、安置所が誰にも管理されていないであろう夜の間、異変がないように見張る必要を感じていた。
私は油粘土に写し取った安置所の鍵の形そのままに、金属を工作機械で研削し、精巧な合い鍵を作り上げた]
[私は犬の咆哮を聞きながら、ガラスの柩の中で両手の指をわずかに動かす。]
──さっきまでより、身体が滑らかに動く…。
…でも、何…だろう。
身体全体が引き攣れるように痛いわ。
まるで私の身体に深い傷口がいくつもあって、その場所の内臓も筋肉も壊れていて、無理矢理糸で縫い固めてあるような。
[私は両手を持ち上げ、幾つかの痛む箇所に用心深く指先で触れた。
どうやら本当にごく細い丈夫そうな糸で私の身体は縫われているようだった。]
ああ、きっとパパが縫ってくれたのね。
パパは、一体どんな気持ちで私の身体を……。
それに圧倒的に血が足りない。
きっと、これだけの傷口だもの、いっぱい血が出たんだ。
……まるで、生理中の貧血を極端に酷くしたみたい。
血が……欲しいな。
[私はリックの血の匂いがまだ室内に漂っているのではと無意識に鼻を動かす。けれども、今、室内で優勢なのは綺麗に骨だけにしてしまったリックよりも、焼けた新しい死体の臭いが優勢だった。
犬の臭いと人間は違うなとふと思う。そして、皮膚を焼いてしまえば、アーヴァインさんの遺体もボブ・ダンソックさんも同じ肉の塊にすぎないな…とも。]
焦げていなかったら、今の私は……彼の血や肉だって。
ああ、肌の色で人間の味って違うのかしらね。
[まだ聞こえて来るボブの声に、]
「ハピネス」ってなにかしら?
ダンソックさんが死んだのなら、ネリーはどうしてるんだろう。
ううん、私のパパはどうしてるんだろう…。
……パパに。
パパに会いたいわ。
[私は左頬に涙が一筋零れるのを感じた。]
[私は今、完全な無表情になっているのではないかと思う。
右頬にも涙の感触。私は涙が流れるにまかせて止めない。]
どうしてこんな風になってしまったのだろう。
──…私は一度死んでしまったの?
──…今の私は生きているの?
──…いいえ。一体、何になってしまったの?
[身体の中で一番痛みの酷い場所が、ギュルギュルと粘度のある液体が沸き立つような奇妙な音を立てているように思う。痛みの中に、奇妙なむず痒さと熱さが有り、私は私の知らない感覚に戸惑う…──。]
…自然治癒、しかかってる、
ってこと?
[私の身体は今、*どうなっているのだろう*。]
[制作のための時間が取れたことを喜んだ。なにしろ、印象が新鮮なうちに作っておきたいものがあったからだ。
芯材を用意し、石粉粘土を練る。
まず、ラング牧師のことを思い浮かべた。暴漢に襲われた彼の、ジッパーから引っ張り出されていたその器官を。
それは、デュシャンの『Objet dard』のようにしんなりと身を横たえたままの形を運命として定められているかのようだった。
私は彼の性生活についてほとんど何も知らない。ただ、疵痕から類推して彼の性的能力の欠如を想像しただけだ。
だが、その想像を土台に私は新たな夢想を膨らます。脳裏に正確に再現されたそれを、美の女神のあるいはヘタイラ-高級娼婦-の指先が優しく扱う]
――――――
指先が滑らかなその感触を愛おしむように――緩やかに、少女の皓い肌を撫でてゆく。
ギリシャ人が入浴や神殿で用いた香料、立麝香草を用いたエキス。コキュートスのニンフの名を冠した、ミント。王女ミュラの泪、ミルラの香油。しっとりと丹念に、熟した桃の果実の表面の繊毛の一つ一つさえも傷つけないような注意深さで、それらを満遍なく肌に馴染ませてゆく。
言葉一つ発せられなくても、そこでは濃密な対話が交わされる。私は薄い肌の下に息づく豊饒な生命の手応えを実感する。潺のような、時に奔流のような、熱い血潮の流れに耳を傾ける。私の指先がその命に語りかけ、昂ぶりを願い導く。
少女の純白の肌が桜色に染まり、上気し息づく。甘い體香が香料と入り交じり馥々と妖氛を立ち上らせる。
私は云う。これは、アテネの美神の装い。或いはヘタイラの。
ギリシャの伝統的な装いが、少女の躰のありとあらゆる場所に施される。
古代ギリシャでは――と続ける。全身を綺麗に除毛する。香料を染みこませた綿で秘められた処を拭く。バニシングオイルが塗布される。そして――
夢の中を彷徨うような少女の瞳に。その言葉が届いたかどうかはわからない。
私の指先が熱く潤いを湛えたヴィーナスの丘に触れる。人差し指と薬指が重なりあった花片を割り開く。ヘンナに染められた中指が、秘められた唇に紅を差す。
君は私の女神だと――私は少女の耳元で囁く。
――
「今、少し、足元が…。」
茫とした彼女を支え、そして降り立つ姿を見送る。
女神の、あるいは娼婦の。聖と俗の両極を夢想して。
――――
―アトリエ・作業場―
[私の女神。
女神の指が羽根扇の擽りのようにやさしくラング牧師の茎を撫でる。快楽が生命力の奔流となって流れ込む。幹は聳え立ち、根はしっかりと大地に足を踏みしめる。
いつしか、目の前には石粉粘土で作られた、ラング牧師のファロスがそそり立っていた。]
[私は同様に、女神の指先が聳え立たせるファロスを忠実に拵えていった。
今日刈り取られたボブ・ダンソックのせめてもの供養として。
或いは、一年半ほど前にモデルとなってくれたリックの。
友達から見せられたアーヴァインと思しき写真の。
死者の分を作り終えると、今のところ誰のものを作り得るか考え、粘土を捏ねる。
父の、私の、子供の頃風呂に入れてくれたマーティンの。この場所を訪れ、像のモデルとなったシャーロットに会いたいと執心を見せた学友ホレス。オーウェン・ペンゲリーにダスティ・ワットマン。
そうして、ひとまず十本のファロスの原型ができあがった。それを元に、型を作成した。]
[一つ一つの型に、人間の肌の感触に極めて近いポリウレタン系の樹脂を流し込んでゆく。気泡を抜き、あとは硬化し完成するのを待つのみだった。
人目につかないよう、地下作業場に*保管した*]
─酒場「アンゼリカ─
ローズ。俺だ、ギルバートだ。開けてくれ。
[酒場に戻ったギルバートは、ローズマリーに開けてもらおうと店の扉を叩いて──違和感に気付いた。
何処か何かがおかしい。
試しにドアノブを回して扉を開けてみようとした……ドアはすんなりと開いた。]
まさか!
[店の中に飛び込む。
店の中は綺麗に片付いていて荒らされた様子も無く、しんと静まりかえっていた。
ローズマリーの姿は無く、気配も無い。ただぼんやりと、その気配の残滓が漂っているのみだ。
ローズの名を呼びつつ、警戒しながらゆっくりと店内に歩を進める。]
―ナサニエルの寝室―
[グレーで少しフリルのついたタンクトップ、淡い緑色の膝丈タックフレアスカートにエプロンと言った服装だったが、白い下着のみを残して剥ぎ取られ、太股を舐められる。]
…駄目です、こんなの…我慢できません。
[右も左も勿論、目隠しをされて首輪に引っ張られて来たので部屋の構造も碌に知らない。
だがこのままでは主のなすがままなのは明白だ。
ネリーは扉とおぼしき方向へ這ったまま*逃げようとした*]
[彼女は自分の言うことを聞かずに、外へ出たのだろうか?
だが、それならば扉に鍵が掛かっていないのはどう考えてもおかしい。
考えうる最悪の事態を思い、警戒感を強める。]
[その時彼は、馴染み深いひとつの匂いを嗅ぎ取った。]
[──酸化しつつある、血の香り。]
[だが匂いはほんの微かだ。何処から漂ってきたのかも分からない。
彼は匂いを捉えようとより一層感覚を研ぎ澄まして、足音を忍ばせ、2階へ続く階段の前、キッチンから地下倉庫へと順番にめぐっていく。]
[地下へと続く階段の途中にも同じ血の匂いを感じる。それは、店内のものよりは幾分か強かった。
ワインセラーの扉を開けて、はっきりと分かった。
開けた途端に鼻腔に強烈に存在を訴えかけてくる血臭よりも、石壁を鮮やかに彩る緋の飛沫と床に残った大量の血痕が、ここで何があったかを能弁に語ってくれた。]
[しかし、血溜りにはそれを中から溢れ出させた筈の肉体は転がっていない。
そこから奥へ何かを引きずっていったような跡が、太い線となって床に残っていた。]
[線の示す先には更に扉がある。
その中の、小さな埃っぽい部屋のベッドの上で、ローズマリーは眠っていた。
──胸を切り開かれ、心臓を奪われた姿で。
優美な白い首にもざっくりと開いた傷口が見える。衣服は鮮赤に染まっていた。]
……ローズ。
[ギルバートは深い溜息と共にその名を吐き出した。]
[私の身体が何か変質しようとしているのは確かだと思った。
手の先から足の指先まで全身の神経を隈無く走る気持ちの悪い電流をどうにか逃がそうと、私はガラスの柩に横たわったまま身を捩る。
足の指を硬く閉じては開き、反らせた足の甲をガラスに押し付けてみたり。首や腿の付け根にあるリンパ節をさすってみたり。傷口をわざと手のひらで押さえ付けてみたり。
流れるのは悲しみでは無く、生理的な苦痛の涙。
少しでも呼吸を楽にしたくて、ブラウスの釦をはずし、喉元を反らす。]
[天窓から、フワリフワリと。
サファイアのように青い──ふたつの光が、まるで安置所に引寄せられるようにやってきた。
私は今、ヘイヴンで何が起きていて、誰が死んだのかなんて当然のように知らない。…知らないのだけれども。]
…ニーナ?
もう一人は誰…かしら。
遺体が運ばれて来る前に、光だけが先に来てしまった…の?
[二つの青い光は重力をまったく感じさせない動きで、ゆっくりと安置所の闇の中へ降りて来る。
その光のひとつを私は何故、ニーナだと思ったのか。
理由はわからなかった。
ただ、自宅近くの私有道路でニーナと出会った時の安堵と、ぶっきらぼうなところのある従姉に対する親密なあたたかい感情が沸き上がって来た。]
──…ああ、そうだわ。
ニーナは、今の私のようになったりはしない。
新しい──出来れば新鮮な遺体が、此処に運び込まれて来る事を願ったり、ニーナはリックを食べたりなんてしないんだわ。
[ころん、と安置所の上からこぼれ落ちた青い光はぱしゃりと水のように床にはねて落ちる。
躍動し、そしてそこに現れたのは]
…ここ、どこ?
[あどけない、胸元までの髪をすとんとおとした少女。
白いネグリジェ、青いころんとした瞳。
それは10歳のニーナ・オルステッド]
[私の身体を駆け巡る気味の悪い電流。
それは止まる事は無く…──、私はみずからの胸に置いたままだった右手をぎゅっと左手で握りしめた。そして押さえ付けられて勝手に震える右手で、左の乳房を掴む。]
もうすぐ、遺体が運び込まれて来るのなら、柩の蓋を閉じていなくては…。
私がリックを食べた事が分かったら、どうなるか分からない。
[乳房を離した手で、私はガラスの柩の蓋を*閉じようとした*。]
……ニーナ。
[柩の蓋に手をかけたまま、私は静止する。
目の前で変化する光を私は不思議そうに眺める。
あたたかさを噛み締めるように従姉の名を呼ぶ──。
確かにニーナだと思う光が小さな少女に変化したことに驚き、あどけない彼女の姿をじっと見つめた。]
………ほう。
[扉の方へと這いずるネリー――否、「雌犬」を冷淡な視線で見下ろし、ナサニエルは唇の片端を上げた。]
逃げ出すつもりか?雌犬。
雌犬は雌犬らしく、小屋に繋がれてれろよ……!
[苛立つような声で雌犬にそう告げると、ナサニエルは雌犬が進む方向に先回りし、その首根っこを掴んだ。]
………首輪だけじゃァご主人様の言うことが聞けないようだなァ?雌犬が。テメェには身体に仕込んでやらねぇと、なァんにも理解できないってコトか。
[頬にひとつ軽い平手打ちを食らわせると、ナサニエルは手にして居た鎖の一端を首輪に繋げ、空いている片方をベッドの脚に繋げた。]
よしよし………
そうしておとなしくしてりゃァいい子なんだがなァ……
[ナサニエルは椅子に座り、素足の裏側で雌犬の頭を撫でている。ズボンのポケットから折れた煙草を1本取り出し、ライターで火をつける。]
あァ……そうだ。
この雌犬に尻尾をやらねぇとな。
ククッ………
[棚からローションを取り出し、それを指先で練る。粘液で濡れた指先を雌犬の肛門に捩じ込み、中をぐちゃぐちゃと掻き回す。]
お前……頭悪ィ代わりに、随分いいケツしてんな?
[小さく笑いながら、指で雌犬の孔の中を粘液で掻き混ぜ、何本も指を押し込み、広げる。]
………雌犬のくせに尻尾無いんじゃァ格好つかねぇもんな。
やるよ、雌犬。受け取りな。
[押し広げた孔の中に、フサフサとした尻尾のような毛束がついたアナルプラグを差し込んだ。]
[ナサニエルは立ち上がり、四つん這いにした雌犬の背後に立つと、喉を鳴らしてわらった。]
さァて……
こんなに良くしてやったンだ。
逃げ出した罰と、ご主人様への奉仕――
――できるよなァ?雌犬。
ククッ………
[ナサニエルが雌犬の首輪に繋がれた鎖を引っ張る拍子に、雌犬が小さく苦痛の声を上げた。その音の向こう側、雌犬の頭上で、ライターの火が点る微かな音がした――*]
[じぃ、と目の前にあるすがたをころんとした瞳が見る]
…?
[ことん、と首を捻ると、シャーリィへと近づいて]
…お姉さん、ニナと一緒ね。
…ここ、痛くない?
[小さな手が細い糸で縫い合わされた傷をなぞる]
[そろそろと幼い手のひらで幾度も幾度もなぞる]
…かわいそう…いたいね。くるしいね。
……かなしいね。
[ほつほつと言葉をつむいで。
ぽたぽたと涙を流して。
何度も何度も、少しでも痛くなくなるように]
─数時間後・酒場「アンゼリカ」─
[ギルバートは瞳を閉じて椅子の背凭れに身体を預けた。
目の前のカウンターテーブルの上には、広げられたヘイヴンの地図と、ペーパーウェイト代わりのジャック・ダニエルズの壜。
僅かの酒の残ったグラスと、何人分かの人名と住所が書かれたメモ。
傍らの灰皿に置かれた煙草は、殆ど口を付けられないまま、ジリジリと燃えながら紫煙を立ち昇らせている。]
[朝ここに戻ってきた時(>>5:88)、何故気配がするのにローズマリーの姿が見えなかったのか、その理由が分かった。彼女はあの部屋に居たのだ。
彼はまた、ローズマリーを殺した人物についてもある推理をしていた。
恐らくは警戒していたであろうローズマリーを油断させ、扉を開けさせた人物。ワインセラーまで無防備に導びかせることが可能だった人物。
その人物に対しては、ローズは全幅の信頼を置いていたのだ。
目立った抵抗の痕が無いことからもそれが窺える。彼女は殴られても居らず、刃物を持った相手に立ち向かったり、恐怖から逃れようとして出来た傷も無い。
恐らく刺されるまで、彼女はその人物が自分を襲うなど夢にも思わなかったに違いない。]
[一度はハーヴェイが自分への腹いせに…または血の欲求に負けて、ローズマリーを殺したかも知れないと思わなくもなかった。
けれど、それならば自分が彼の殺意を感知しない筈がなかった。]
[そして、先程の弾けた殺意と消えたノイズ。
あれは恐らくまたハーヴェイが誰かを殺めたことを示している。
ならば、彼ではない。]
[それに……ローズはハーヴェイに扉を開けただろうか?
先刻自分によって驚愕の推測を聞かされた矢先に?
よしんば開けたとしても、かなり警戒していた筈、自分からワインセラーに導くとは絶対に思えない。
……そう、これは……きっと彼女の仕業なのだ。
狂った忌み子の。]
[彼は既に荷物の整理を終え、いつでも旅立てるようにしていた。
その荷を失っても良いように、最低限のものだけは身につけた。元より、彼が生きていくのに必要なものなどあまりない。]
[ウィスキーの壜を押しのけて地図を折り畳み、メモと一緒に上着のポケットに入れた。
オイルで研ぎ直したナイフは、腰の後ろの定位置に。
最後にオイル引きのダスターコートを羽織り、カウンターテーブルの上の鍵を取った。]
[山の端を赤く染めて夕日が沈む。
その死にゆく陽光の最後の一矢が、断末魔の足掻きのように谷間の町に投げ掛けられ、燃え盛っていた空が徐々に夜の藍に染め変わっていく。]
[看板が「CLOSE」に変わっていることを確認し、酒場の扉に鍵を掛ける。
薄闇が落ち始めた道を、目的地に向かって歩き出す。場所は既に地図で確認している。]
[*──狩りの刻がまたはじまる。*]
あ…うぁっ!
[ネリーの動きを察してか、乱暴にベッドの所まで戻される。首周りが重くなった。どこかに繋がれたのだろうか。
どうすればいいのか解らず、正座してこうべを垂れていた。
誉められているのか貶されているのか、頭を撫でられる。
見る事はできないが、たぶん卑猥な目で眺めまわされているのだろう。
ナサニエルが立ち上がったと思うと、頭を前へ倒され、四つん這いの姿勢にされる。]
あ…う…
[犬という意味を理解しているのか、人としての言葉は極力出さなかったがつい言葉を漏らしてしまう。]
ダメ…だめ、こんなの駄目…いやなのに…
[下着を取り上げられ、お尻の穴を触られ、広げられる。
痛みに驚き、両手を抱きながら身体を捩ってしまう。徐々にお尻を突き上げる姿勢になってしまう。そしてネリーは無抵抗に尻尾…栓をされてしまう。さながら本当に犬のようだ。]
あ…ふ…ん…うぁ…罰――ご奉仕――?
きゃ、いた…!
[首輪を引っ張られ、姿勢を大きく崩す。
これから何をされるのだろう、とおののく。
ネリーはしまった、と思った。ナサニエルには知られていないが、彼女はノーマンによって歯をすべて失っており、義歯に頼っているのだ。ボブだって知らない事実だ。
ばれたらどんな仕打ちをされるのか――
ネリーはこれだけは*隠し通そうと思った*]
――自宅――
[それからわたしはどれ位の時間を掛けてグラスを傾けたのだろう?
空になったボトルに西日が当たるのをぼんやりと眺めながら、その影が長くなるのを確認して、時刻が昼から夕方へと移行したのを感じ取る。
短い、けど有意義な時間を経て――]
おやすみなさい、ローズ…よい夢を――
[彼女の心臓をすっかりぬるくなった氷水から引き上げ、冷凍庫へと仕舞う。一時的な安置場として。]
[そしてテーブルの上を綺麗に片付ける。何事も無かったかのように。濁った血の色をした水も、静かに排水溝へと流れていく。
そしてわたしとローズの一時は、この部屋から完全に消え去る。朽ちゆく肉体の腥い匂いも、それを消そうと振りかけた香水の匂いも全て。]
[わたしは感慨深げに部屋を見渡してから、着替えるべく別室へと向かった。
部屋に入るなりふと目に付いたフォトスタンド。そこにはわたしが以前お世話になった援助者の若き日の姿が、一枚のカードに納まっている。わたしがバートを頼りにこの町に来る際、彼の人の別れの時記念とお守りの意味合いを兼ねて頂いた一枚――
それがなぜか今になってふと、目に付いた。]
[写真には、援助者がまだ二十歳そこそこの頃の姿で笑顔を向けている。わたしが援助者とであった時、彼の人はもう五十に手が届きそうだった。なのでざっと見積もっても三十年前の写真と言えようか。
用紙はかなりぼろぼろになっていたが、それでも中に映る人の判別は容易に出来る代物に、わたしはまるで吸い寄せられるように視線を奪われる。]
『しかし何故今になって?』
[その疑問は、若き援助者の隣に佇む一人の男の姿を見ることで、すぐに明らかになる。]
あ…このひと…ギルバートって言う人に…似ているわね…。
[並んで映る見覚えのある姿。それは紛れも無くローズの惚れこんでいたギルバートその人だった。屈託の無い笑顔。自らの腰に回す手の仕草。それらが同一人物の物に思えてならない。]
でも…彼がこの写真の息子…ということもありえるわけで――
[ふと頭を掠めた仮説に有り得ないと答えを突きつけながらも、わたしの指は写真立て持ち上げる。そして裏返しにしてプレートを静かに外す。
確かそこには、名前が書いてあるはずだった。援助者の名前と…]
ギルバート・ブレイク…?
[わたしは自らの呟きに合わせて、そう古くない記憶を引きずり出し照らし合わせる。確かに彼はわたしにはそう名乗っていた。もしかすれば偽名かも知れない。だから彼の名前と、この写真に記載されている名前が一致したからといって、必ずしもこの人物と彼が同一人物だという証拠は無い。
無いけれど――]
何かが…引っ掛かるの…。何故…?彼の名前を口に舌途端――背筋がざわつくの?
[背筋を走る悪寒は、素早く全身に広がった。わたしは言われも無い寒気に、急いで服を着込み自分自身の身体を抱きしめた。得も言われぬ恐怖が全身に襲ってくる。
本能が危険を察知したように――]
そんな…三十年も同じ姿を保てるなんて…有り得るの?それともこれはよく似た…別の人…?
[別の人だったら、何故私は今恐怖に怯えているのだろうか…。本能が何故ざわめき出すのだろうか?
様々な疑問が次々と浮かぶ。そして飽和しきった脳が出した答えとは――]
でももし…彼が化物と呼ばれる類の生き物だったら…?
[有り得ない…
とは言い切れなかった。それは幼い頃に信仰した宗教観が深く根付いて居るからかもしれない。でも、世の中には時に説明のつかない物が起きる。それは悪魔の仕業だったり吸血鬼だったり、説明のつかない化物だったり様々だ。
だから人々は神を信仰する。目に見えない恐れから逃げ出す為に――]
[わたしはそれ以降余計な物を考えることを止め、無言のまま写真を元通りにし、腕に包帯を巻いてチェストからあるものを取り出す。]
ねぇ、化物って聖水は…苦手なのかしらね?
[小さな飾り瓶に揺蕩う透明な液体を振りかざし、わたしは微笑む。気休めかも知れない。でも、これは今のわたしの…お守り――
その瓶の蓋をゆっくりと開け放ち。わたしは自らの身体に数滴振り掛ける。柔らかい香りがふわりとあたり一面に広がった。]
[不協和音が階下から聞こえる。
わたしはその音を一時的に遮断するように耳を塞いで目を閉じる。
瞼に思い描く姿は――]
ねぇバート…。もしわたしが…あしたを生きて迎えることが出来たなら…真っ先にあなたに会いたいわ――
[左手にだけ嵌めた白いレースの手袋越しに、左薬指にそっと口付けを。
そしてわたしは部屋のドアを開ける――]
[わたしは階下へ進みながら、まだ見ぬ姿へと声を掛ける。]
まぁ、随分派手な訪問ね…。素直にドアをノックしてくれたなら…ちゃんと玄関から招き入れたのに――
[吐き出すため息は呆れた色合い。そこに恐怖なんて…ない]
[静寂を帯びる室内。わたしは気にも留めず階段を下りた場所で口を開く。]
所で訪問者さん、一体わたしに何の用があってここへきたのかしら…。
まさか敵討ちとか…言わないでしょうねぇ…アハハっ!
[そのまさかの姿を想像して、わたしは一人口嗤う。もし好色そうなあの男がそんな真似をしに来たというのなら。わたしは素直に尊敬して差し上げようかとまで思う。]
[静を保ったままの室内。何処からかドアの開く音が聞こえる。]
誘われているのかしら…。
[わたしは一人呟く。
そして罠だと解っていながらも、歩みを進める。
一歩
二歩
三歩――]
冒険家 ナサニエルは、修道女 ステラ を投票先に選びました。
[背後から首に巻きつく感触。
その冷たさにわたしはびくりと身を震わせた。
身の危険を察知した身体と、伸びてきた手がわたしの身体を引寄せようとしたのとではどちらが早かったか――]
…っ――
[わたしはくるりと身体を回転させ、目の前にいるであろう人影に小さな鉄の塊を向けた。]
流れ者 ギルバートは、修道女 ステラ を投票先に選びました。
[首に絡む腕と摑まれた右手の痛みに、わたしは顔を歪める。
と、同時に口許に笑みが込上げてきた。]
[ゴトリ――]
[重々しい金属の音が床に叩きつけられる。それでも尚右手の痛みは治まる気配は無い。]
…もしかして…あなたがわたしを…殺してくれるというの?
――神が我が身の許へと…導きたくは無いと願う、穢れたわたしに…安らぎを…与えてくれると…言うのかしら…
[呼吸が苦しくなる。じわじわと體を蝕む死の予感に、それでも尚嗤いが止まらない。]
ギル…
ギル…バ−…
[バンクロフト邸の客間のベッドの上、眠るでも起きるでもなく、虚ろな目でただ天井を見つめている。まるで起きながら夢を見ているような。
寝言のような弱々しい「声」は無意識に彼に届いただろうか]
いつまで…いつ…まで…こんな……
[殺さなければ気が済まない自分がいる。
しかしそれを嫌悪する自分もいる。
また渦巻く矛盾は自分をどこまで導くのだろうか…*]
流れ者 ギルバートは、書生 ハーヴェイ を投票先に選びました。
「殺してくれる」、ねえ……。
確かにお前を殺しに来た。だから、死んでもらう。
だが、それはお前を楽にしてやる為じゃない。
[冷厳な声音が耳に吹き込まれた。]
[と、ふと緩んだ首許。體は生きる為に呼吸を繰り返す。その自分の行動と醜いと思っていると、耳許で囁かれたテノールが空気を緩く振るわせる。]
随分遅い挨拶ではなくて…?ギルバートさん…?
それとも…あなたにはもっと相応しい名前があるのかしら?
[くすり――]
[零れた笑みから聖水の甘い香りが零れる。宗教観で清めた躰が弛緩する。]
流れ者 ギルバートは、修道女 ステラ を投票先に選びました。
楽にするためじゃなかったら、一体どうしてくれるのかしら?
言っておくけど…ちょっとやそっとの事では苦痛には思わないわよ?
[冷やかにささやかれた言葉に、わたしはますます可笑しくなりくつくつと小さな声を上げる。]
[死を宣告された前で、わたしは自分でも驚くほど冷静に居られた。もしかすれば今までの人生の中で一番と言っていいほど冷静を保っているかも知れない。それはわたしが死を恐れていないからだろうか?
別にわたしは常に死を望んで生きてきたわけではなかった。もし死を切望していたなら、あの日シンシアの命を奪い神父達の寝首を掻いて逃げ出した道中、幾らでも自害して居ただろう。でもそうしなかったのは…。]
『誰かに…裁いてもらいたかったのかもしれないわね』
[もし、ギルバートという男が普通の人間ではなく化物と呼ばれる類の人間だとしたら。わたしは喜んでこの體を差し出してもいいと思う。
彼はわたしの命を奪う為だけに、それ以上もそれ以下も無くこの場所へ足を運んでいるだろうが、その彼こそがわたしには救いに思えた。悪魔の使いでも何でもいい。神が命を奪いたくはないというのなら、思う存分奪って欲しいと――]
―客間/ハーヴェイ―
[ニーナの遺体の処置を済ませた私は、事態の面妖さに表情を曇らせたまま、ハーヴェイの眠る居室の扉をノックしていた]
ハーヴ、もう起きれるか?
ちょっと気になることがあるんだが……
……………
[昨日は確か、バンクロフト邸に向かおうとして、鍵をなくして…それを探し…どうしただろうか?
何か甲高い悲鳴が聞こえてからよく覚えていない。
外で記憶喪失になっても帰巣本能が働くのなら何故自宅に行かないのかとどうでもいいことも考えてみたがまぁ置いておく。
ドアのノックの音が意識をはっきりさせた。
横になったまま、頭だけ回してドアを見た。
ヒューバートなのは容易に想像できる。
しかし寝起きで上手く声が出せなかった]
[ずっと傷を撫でていたけれど、やがてその手は引き戻される。
もしも外からいつやってくるかわからない気配を懸念してシャーロットが棺の蓋を閉めてしまったら透明なアクリル越しに、その光景を頬杖をつきながら覗き込むだろうか]
…ねぇ、ニナの声はお姉さんに聞こえるのかな。
ニナね、きっとお姉さんのこと知ってるんだ。
……お姉さんは、ニナのこと知ってるのかな。
[首を傾げれば青い仄かな光が少しだけ揺れるのと一緒に胸元までの髪がさらりと揺れる。
けれど音はない]
別にお前が何を感じようと、それもどうでもいい。
[ステラを腕で拘束したまま、引き摺るように階段に向かって歩き出す。]
それとも。苦痛を与えて欲しいのか。
…せん…せい……
[僅かに視線だけをヒューバートに送る。
小さな声はヒューバートに届いただろうか。
しかし、まだ起き上がる気力はないようで]
大丈夫かよ……
[線の細すぎるハーヴェイの声音に心配混じりの苦笑が漏れる。
ベットに腰を下ろし、ハーヴェイの背中に手を添え抱き起こす。
片手でミネラルウォーターのキャップを器用に外し、少しだけ呑ませた。]
死体見ただけで卒倒してちゃ、彼女ができても守れないぜ?
かわいこちゃん。
[そう言って少しだけ笑い、髪をそっと撫でた]
[密着したステラの身体から芳香が漂う。
脳の芯を痺れさす、えも言われぬ甘美な香り。]
[だが、それは彼女が「聖水」と思っている水などではなく、彼女自身の肉体と血流から発し、オーラとなって漂うものだった。
それは現実のにおいだけでなく、体温の温み、肌触り、呼吸音などの五感の全てを刺激した。]
[ヒューバートに助けられ、何とか身を起こし数口程度の水を飲む。命の水とはよく言ったもの、水分が体に入るといつも安心できる]
…慢性的貧血なんですよ…。
俺、ホントにデリケートなんで…。
彼女作るなら…死体見ても卒倒せずに俺を守ってくれる人にしないと…
[何となく冗談をいう余裕も出てきたようで。
子供へするように髪に触れる手には抵抗しなかった]
どうでもいい…。確かにそうね。
あなたが何者であっても。わたしには関係ないことだもの…。
[回された腕の力強さにわたしは目を細める。圧倒的な強さを誇る男の肉体。わたしは女性として女を愛しながらその一方で男の肉体も愛していた。
布越しに感じる男の体温、そして密着する躰から仄かに立ち昇る独特の体臭に鼻腔を振るわせ――]
そうねぇ、与えられる苦痛は悦んで受けたいわ?
[くつくつと再び喉の奥で笑みを弾けさせる。]
―――コト…
[テーブルの上に、何かが置かれた音がする。]
[煙草を咥えたまま、ナサニエルは四つん這いになった雌犬に覆いかぶさり、下着越しに豊かな胸を極めて機械的に揉みしだく。]
[胸をしばらくまさぐると、その掌は雌犬の白い腹の上を這う。ほんのりと肉づいた、雌特有の柔らかな感触を、何度も、何度も、ゆっくりと擦った。]
デリケートだって?
よく云うぜ。充分さ。
その図太さがあれば。
[「俺を守ってくれる人にしないと」という言葉に思わず小さな笑い声をあげ、ぽんぽんと肩を叩いた]
OK。大丈夫そうだな。
頼むぜ。
[力づけるように肩に手を置くと、立ち上がる]
今や貴重なヘイヴンガーディアンズの一人なんだから。
隊員は今のところ、私と君だけなんだが。
おっと、入隊した覚えはないなんて苦情は一切受けつけない。
頼むぜ相棒。
立った立った。
ハーヴ、どうも今起きていることは妙なんだ。
ただの猟奇殺人じゃない。
ニーナの遺体を見ただろう?
あれは、普通の人間になし得る所業じゃない。
ハーヴはなにか知らないか?
それと――
ニーナの兄のラルフのことなんだが……
ハーヴは同年代だろう?
なにか一緒に撮った写真とか残ってないかな。
昔の。
[威勢のいいヒューバートのテンポを崩すようにきょとんと顔を見上げ、無表情に]
…ネーミングセンスないって…言われないですか…?
髭剃って若返っても実年齢は誤魔化せないんですね…
[ぼそっと、しかししっかり聞こえるように嫌味]
あと…勝手に相棒認定しないで下さい…「先生」?
[「先生」を特に強調して言い返すがよろりと起き上がる。
足元はやや頑是無かったが、とりあえず立つことはできそうだ]
どこか行くんですか?
[ニーナの遺体…冗談口だと思っていた「死体」と言う単語、そして今もこう聞いたのならあのニーナの死体は現実だったということ]
…ニーナさんが…どうしたんですか?
[それでも未練がましく冗談だと思いたかったのか、目の当たりにしたくせに聞き返す。夢だったと思いたかったのかもしれない]
[ふと男の動きが止まる。
そして覗き込む視線――]
ええ、言われるまでも無く愉しむつもりよ?
もちろん…充分愉しませてくれるんでしょう?
[わたしはその投げかけられた視線に、熱を絡めて見返す。お互いの視線がかち合った。]
なァに云ってんだ。超かっくいー名前じゃないか。
地球防衛軍とか、サンダーバードみてぇじゃん。
[などと云いながら、もっとイカした名前はないものかとどうでもいいことに寄り道しそうになる思考をハーヴの言葉に本線へと戻した]
ラルフの写真と、今起きている出来事の手懸かりを探すために図書館にでも行こうかと思ってたんだ。
……こんな時間だけどな。
投票を委任します。
修道女 ステラは、美術商 ヒューバート に投票を委任しました。
[見返す女の瞳に宿った貪婪な色。
目を細め、心の底から愉しげに微笑った。]
ああ。
お前が愉しみたいと言うのなら、存分に愉しませてやる。
[顔を寄せて、その目元に舌を這わせた。]
多分そのセンス通じるのこのアトリエ内だけだと思います。
ついでに俺バットマン好きなんで。
[きっぱりと極め付けるが続くものが真面目な話と見えて自分も冗談はやめる]
ニーナさんの…お兄さん…ラルフ…さん?
俺は…殆ど面識ないです…。会ったとしても多分覚えてないですね…。写真も多分ないですが…探してみますか?
ブランダーの家なら…多分リックやウェンディなら親戚ですし、一枚くらいありそうですけども?
う…ン…
[ナサニエルが上のほうで何かをしているらしい、がネリーはそれどころではない。
ナサニエルに覆いかぶされ、逃れようと身体をくねらせるが、がっちりと、そして艶かしく腕で抱きしめられる。
抗議の示しなのか、目隠しを外そうと手を伸ばしたりする。]
[目を細めて微笑む男の姿に、私もつられて目を細める。
彼の整った顔が微かに崩れる。]
『あぁ…』
[わたしの胸はとくんと高鳴る。]
『この人、綺麗な顔立ちをしているのね…』
[ふいに芽生えた女の感情に非日常性を感じ、可笑しくなる。随分と不謹慎ね。今から死出の旅路へと追い出される身というのに。]
[そんな事をぼんやりと思っていると]
っ…んっ…くすぐっ…たいわ。
えぇ、期待…してる…
[瞳をなぞる様に生温かい感触が走る。耳許でざわめく音で、それが口内から顔を覗かせた舌だということを知り、わたしの躰は微かに熱くなった。]
喰われたように……!?
まさか…そんな…!
でもニーナさん先生達と車に居たじゃないですか!?
何故ですか!?誰かニーナさんを一人外に放り出しでもしたんですか!?
[一瞬顔に暗い影が落ちた。またルーサーの死体のように血まみれになっていたのか。そしてユーインのように…
死体の様子は目の当たりにした筈なのに鮮明には思い出せない。
この忘却は恐らく脳からのささやかなプレゼントだったのだろう。
しかしニーナがバンクロフト邸に逗留するきっかけを考えればありえない状況に少し感情が高ぶるように問い詰める]
………っと。そろそろかな。
[小さく呟くと、雌犬の身体に巻き付いている白い下着を剥ぎ取った。立ち上がり、下着をぽいと床に投げ捨て、ナサニエルはテーブルの上に置いたものを手にした。]
目隠し、取るのか………ふぅん。
これ目にしたら、後悔すると思うがなァ………?くっ……はは……
[ナサニエルが手にしたものは――赤い蝋燭。
その上で炎がゆらゆらとと踊り、炎の足下では蝋がちゃぷちゃぷと揺らいでいる。]
これ見るのと、見ないのじゃァ……どっちがツライかなァ……?
なんてな………!
[ニヤリと大きく唇の端を歪め、炎の足下で揺れて居た赤い雫をネリーの背中の上に落とした。]
[目隠しに手をやったかやってないかの時に支配感情を満たす、自分よりも遥かに低い声が降り注がれた。
全ての衣服を取り上げられ、身体が離れたかと思うと。]
え……何…?
あ、熱い…! やめ…!
[熱のこもった雫を傾けられたと瞬時に理解する。
ネリーは避けようと身体を揺らそうとする。]
そうか。ハーヴもラルフのことはよく知らなかったか……。
[ハーヴェイの言葉に眉を蹙めた。]
ブランダー家でも探せば見つかるかもしれない。
ただ、あの家では少なくとも目につくところには置いてなかったんだよ。
なぜ、ニーナが外へ一人で出たかはわからない。
ひっかかってるのは、ニーナが呟いていた「兄さん」という言葉なんだ。
ラルフは五年も前に亡くなったというのに、彼女はまるでまだ彼が生きているようにその姿を追い求めていた。
最後にその言葉を聞いた時にも……。
それが、どうにも引っかかっていてな。
[そして、図書館を訪れたい理由はもう一つあった。
ステラの躰に刻印されていた三つの図章。
――有翼獅子、蠍、大蛇。
実のところ、私にはその象徴の意味を正確に理解できなかったのだ。]
[獅子は、古代エジプトでは太陽が獅子座に入る八月にナイル川の増水が始まるため、泉や水源に獅子の頭を模した彫刻が飾られた。これはギリシャ・ローマに受け継がれ、口から水を吐くライオンの意匠が浴場などに使われるようになった。
獅子は太陽・水・夏と結びついて考えられ、エジプトではスフィンクス、アッシリアでは有翼獅子として神格化された。いずれも力と知恵の象徴となった。
アッシリアでは、その強大な力は目に集中していると考えられ、見張り番の象徴として門扉の彫刻として飾られるようになった。
錬金術では、獅子は太陽の連想から硫黄の象徴だった。
だが、それらは他の図章の意味をこれまた一つ一つ考えた時に、明確な関連をもって意味を為さなかった。
そこで、ステラがかつて敬虔な基督教徒だったことを思い出した。これらは、キリストの教えに関連性を持つものではないか。我が家の書籍にはそれらの資料がなく、図書館ならばあるいはと思い立った所以でもあった。]
[抱え上げるように階段を上り、2階へと女を連れて行く。
そこにある扉を前にして、熱を込めて問いかける。
耳の縁に唇を軽く付け、吐息を吹き込む。]
さあ、案内してもらおうか? お前の部屋に。
…5年も前に亡くなっていて…
[顎に手を当て考えてみたが、ふと自分のことを思い出す。
鏡を見たくなかったのは自分が兄に当然ながら瓜二つだからだ。自分の場合は家庭環境もあったから。しかしニーナの場合は]
…ニーナさんとお兄さん、仲良かったんですか?
[身体を捩り抵抗する雌犬の上に、幾つもの赤い雫を垂らしてゆく。
哀れな雌犬の肌に咲く、赤い花――ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……]
………逃げても無駄だぞ、雌犬?
ほら……熱いくせに……
[挿し込まれた「尻尾」を、指先でフサフサと弄ぶ。]
………「そこ」、すげぇヒクヒクしてんだけど。
[体勢を変え、ナサニエルは雌犬の尻尾の手前を観察する。毒々しい色をした赤い花びらが開閉し、ぬらぬらと妖しく光る液体を吐き出している様子を見て、ナサニエルはクスリとわらった。]
「――仲良かったんですか?」
[ハーヴェイの言葉に、それが触れてはいけない記憶であるかのように、頭のどこかがチリチリと痛んだ。]
よくは知らないが……おそらくはね。
兄の名を呼ぶニーナの様子を見たら――
ひどく仲のいい兄妹だったんだろうと……誰もがそう思うだろうさ。
[その時の様子を思い浮かべながらどこか茫漠とした眼差しで答えた]
きゃっ…
[急に抱かかえられて反転した視界に、わたしは思わず小さな悲鳴を上げる。
てっきりそのまま命を奪うと思われていた腕は、今はわたしに躰を支える為に回されている。]
[一段一段階段を上がる度に振動が躰に伝わる。その度にわたしの心臓は高鳴りを強める。
二階に到着すると同時に下ろされた躰。即座に走る耳許への柔らかく甘い感触と性感を呼び起こす吐息に、わたしは五感を全て"女"へと変えられてしまう。]
――部屋は…こっちよ…
[白いレースの手袋を嵌めた手で、わたしは彼を案内する。
わたしの裏と表、すべてが詰った閨室へ。]
『ファファラ……』
[別れ際のステラのことを思い出す。
彼女は一体どうしているだろうか。
きっぱりと差し伸べた手を拒絶された私だったが、ニーナを凶事が襲った今、彼女のことが気にかかっていた。]
――とにかく、話なら車の中でもできる。
できたら、一緒に来てくれないか?
[そう告げると、出かける準備を整え始めた。]
みどりいろの河、くろい河、
ながれて、まじわり、ひとつになるの
真珠は、しあわせ
きらきら、きらきら。
あかい花びら、しろい花びら、
ひらひら、ひらひら、
ひみつの、はなぞの
熱いのは…あなたがこんなことを…はぁっ…!
[蝋を避けるように、或いは痛みを紛らわすために身体を激しく振る。じっとする事もできない。]
ひっ…ああぁ…
[尻尾から、下腹部の淡い茂みまで丸出しにされる。
暴れようとすると首が絞まるようだ。じっとりとしみだす透明なしずくを見られ、屈辱で、顔が紅くなるのを止められない。]
5年前になくなって…生前は仲がよかった…
[暫し考え込む風だったが]
分かりました。お供します。
あ、先生ちゃんと俺のこと守って下さいよ?
俺まだ強くて可愛い彼女見つけてないんですから
[そのままガレージに降り、車に乗り込むだろう]
[現時点で自分はニーナを殺した上に喰ったことを忘れていた。
いや、恐らく今だけ「人狼に変化している」事実すら忘れかけているのかもしれない。
それはまるで大きな波に記憶が飲み込まれたような感覚。
あの時脳に走った大きな戸惑いはそれだけ大きなものだった。
─ギルバートを間近にした時、また蘇るのだろうが─]
[白いレースに包まれた女の手に導かれ、閨へと進んでいく。]
[牝鹿のような肢体が眼前で揺れる。
それに惹かれるのは情欲ではなかったが、根源で不可分に結び付いた欲望に隔たりを置くことは出来なかった。]
……………ん?
[ナサニエルは雌犬の顔の前にしゃがみ込む。]
自分が雌犬だって忘れてるよね?
犬って言葉喋ったっけ?
………喋らないよなァ?
[目を細め、分厚い唇を左右に広げ、ナサニエルは屈託の無い笑顔を見せる。]
……喋るの止められないンなら、喋るのやめさせないとな?
なァ、雌犬サン?
[片手で雌犬の顎を持ち上げ、もう片方の手でトランクの中を探る。目的のものを見つけると、ナサニエルはそれを雌犬の眼前にぶら下げた。]
何だか分かるよなァ?コレ……
[ナサニエルの手にあるのは――鉄製のボールギャグ。
ナサニエルは有無を言わせぬまま雌犬の身体の上に乗り、それを雌犬の口の中に嵌め込もうとする。]
――寝室――
で、此処であなたは何をしたかったのかしら?
[わたしはドアを静かに開けて招き入れた彼に尋ねた。
首を絞められた瞬間、わたしはすぐに彼の手で命を奪われるものだとばかり思っていたので、今こうしてこの部屋に立っていられるのだけでも不思議だった。]
[わたしは彼の返答が聞こえるまでの刹那、くるりと部屋中を改めて見渡す。
チェストにしまってある聖女と艶女を使分ける正反対の下着、クローゼットにはモノクロを基調とした服のほかに、華やかな色彩を纏った、光沢のある露出の激しい服もしまってある。
ここは私の人生そのものを現した部屋。誰にも見られたことの無かった…聖域。]
あれは、だぁれ?
はなびらの聖域に、入ってきちゃだめだよ?
おとこのひとは、きちゃいけないの。
ここに入れるのは、きらきらきれいな、おんなのこだけ。
だめだよ、だめだよ。
だめだよ、だめだよ。
ざわざわ、ざわざわ。
―――――はなびら、揺れる。
う…え…?
[犬、犬と言われながらも否定の色が濃くなると言葉を発していたネリー。目隠しは離れていないので確証はないが、笑っているのだろうと思う。]
あ…何…ンッ!! や…
[腕を巻き込むように馬乗りになられた。背中に何か細かいものがあたる。この部屋は掃除されていないのかもしれない。
鉄製の何かが口元にあてがわれた。何かをされると思い、首を1度2度横に振る。じゃら、と首輪の鎖が鳴った。
ネリーは口を真一文字に閉じる。]
─寝室─
……邪魔が入って欲しくなかっただけだ。
ここの方が下より落ち着いて愉しめる。
[ちらり、と周囲を見回す。持ち主がすぐに女性と分かる、如何にも女性的な雰囲気の部屋だ。
立ち並ぶ家具に収納されている衣類は彼の気を引かない。彼女の人生にもさして興味はなかった。]
だめだよ、だめだよ。
こないで、こないで。
だめだよ、だめだよ。
こないで、こないで。
だめだよ、だめだよ、だめだよ、だめだよ―――――!
――あかい花びら、しろい花びら
――揺れて、散りゆく、ひみつの、はなぞの。
――男の影は、散らして、溶かす。
――ちいさな、ちいさな、ひみつの、はなぞの。
そう。
[返ってきた答えに、わたしはそっけなく言葉を落とす。]
でも邪魔が入って欲しくないなら、別にわたしの寝室じゃ無くてもよかったんじゃないかしら…。
[男の視線が素っ気無く部屋中を見渡すのを確認して、ほっと息を吐く。
そう言えばこの男もこの町とは無縁の旅人だということを思い出す。]
[女の顔が苦痛に歪んだのを見、女の手を離す。
見下ろすその目は、ひたすらに女の反応を確認しているようで。]
[その指が、今度は腕を這い上がる。
その形、肉の弾力を確めるように肩に至り、両手が女の着ているブラウスの襟に掛かった。]
鋭意努力するよ。
なにしろ、そんな彼女ができるという万に一つの奇跡が起こり得ることを知ったなら、私も世の中捨てたものじゃないって思えるだろうからね。
それはぜひとも見届けなくてはならない。
[ニヤリと笑みを浮かべる。しかし、その表情は不意に真面目なものに。]
だが、何が起きるかわからない。
イザという時は、躊躇わず自分の身は自分で護るんだ。
[鞄から取り出したずしりと重い鉄の塊をハーヴェイの手に預けた。
それは、今日の日中ソフィーに託していたエリザの護身用に求めた拳銃、ベレッタだった]
「ねぇ、ローズ………」
「どうして、男の人と………?」
「どうして、ギルバートさんと……?」
どうして、どうして?
どうして、どうして?
どうして、どうして?
「あなたは、わたしだけのもの………!」
おとなしくしてりゃいいのに………ったく。手間ァ掛けさせやがって。
ほら、四つん這いになれよ。
[椅子に座り、雌犬の身体を足先で弄っている。]
俺がそんな強い男になれるっていう億に一の確立より何倍も高いですよ。
世の中ありえないなんてありえないんですから。
[相変わらず冗談口を叩くがずしりと重い拳銃を渡され、至極真面目な顔へと切り替わった]
…分かってます。
[使い方についてはよくわかっていなかったが、それに関しては車中のわずかなレクチャーで理解する]
[観察されるような視線に、わたしは居心地が悪くなりながらも無言でその仕打ちを受け止めていた。]
[ふと指が離れる。
時を開けずに今度は腕をなぞる。触れられたのが右手で良かったと思った。
品定めをするような手つきが、いやらしさより別な感情を呼び起こす。]
『嗚呼、昔を思い出したんだわ…』
[娼婦だった頃の記憶が蘇ってきて、わたしはふっと表情を緩めた。同時に脳裏には若き日のバートの笑顔が浮かぶ。]
「イタリア料理でも食べに行きませんか?」
[『えぇ、喜んで』
もし生きて解放されたなら――]
[幸福だった過去。その断片を思い出していると、ギルバートの指がブラウスの襟に掛かっていることに気づく。]
やっ…――
[思わず肩を竦めてしまう。触れて欲しくなかった。今だけは。バートの面影が消えてしまう刹那だけは――]
[身体が軽くなった、と思うと足で小突かれているのが分かる。
ボールギャグを外したいとも思ったが、外そうとするとさらに過酷な仕打ちを打たれるような気がしてならず。]
んん…クク…あっ…んあ!!
[背中を蹴られて涙がこぼれそうになる。実際目隠しでわからないが。
やがて言われるがままに、四つん這いの姿勢になる。]
頼むぜ。
[真剣な眼差しで銃を扱うハーヴェイを横目にぽつりと漏れた言葉は、いつになく神妙な気配を帯びていた。]
君までも喪いたくない。
ロティも哀しむからな――。
あかい花びら、しろい花びら
こわれてきえた
いまいずこ
きえた花びら、だれのせい?
みどりの河は、どこにいったの?
「ローズ……
ねぇ、ローズ………
あなたはわたしだけのもの……
ほかのだれのものにもなっちゃいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ………!」
―――はなびら散らす、真黒い叫び―――
[ぽつりとヒューバートからもれた言葉は聞こえたのか聞こえなかったのか。
それは次に発せられた質問の前ではどうでもいいことだったのかもしれない]
…先生、前から聞きたかったんですが…いいですか?
[悲鳴を上げ、身を屈める女の肩を見下ろすと、足を乗せ、軽く後ろに押しやる。
蹴りが入った、という程ではないが、十分に強い圧力となった筈だ。]
散りゆくはなびら、赤黒い園
みどりの河は、こわれてきえた
くろい河におちた赤
ドクドク、ドクドク
しんぞうの、かけら―――
―車中―
[軫憂に満ちた夜だった。私は沈黙を嫌うかのように、カーラジオのスイッチを入れていた。
ハーヴェイのどこか真剣みを帯びた口調に、音量をやや落とす。]
ああ。なんでも聞いてくれ。
答えられることなら――できるだけ答えるよ。
[身を屈めていると肩に軽い衝撃が走る。
わたしはその与えられた力によってバランスを崩し、床に両手を着いて座り込む]
[胸元が露になった。]
………このボールギャグ、不良品か?
ちっとも涎が垂れてこねぇし………
どれ。
[ナサニエルは、雌犬の口に入れたボールギャグに指先を伸ばし、それを少しだけずらそうとした。]
[床に倒れ込んだステラの前に片膝をついてしゃがみ込み、その胸元にナイフの切っ先を当てた。
双球の谷間にそれを滑らせ、胸を包むランジェリーを断ち切った。]
う…? う、うぁ…あふ…!
[ボールギャグから糸が落ちる。向きを変えさせられた事もあるからか。]
んむ…!
[ナサニエルの指先に、にねっとりとした液体がついた。
不自然に抵抗感を発する。]
[意を決したように口を開く。少々語気が荒いのは、一気に話さなければ途中でさえぎられてしまうからかもしれなかったから]
何で俺に…こんなに…良くしてくれるんですか?
先生も知ってるでしょう?俺と兄の評判の差とか。
皆…皆、俺を見下してた。
でも先生とシャロは違った。授業の時も個人的に遊びに行った時も先生は一度も俺と兄を比べなかった。
今だって、いつも俺は迷惑ばかりかけてるのにいつも受け入れてくれる。
…俺、それがずっと不思議だった…。
大学に合格した時だって、誰よりも喜んでくれたのは先生だった。
それに…
[一瞬、唇をかみ締めたが]
俺の背中の傷、見たんでしょう?
なのに何も聞かない。先生は何も変わらない。
それ所か、シャロが死んだ日に消えた俺を疑いもしない。
[一気に喋り通してから答えの想像がつかないことに僅かな恐怖を感じながら]
…何で……何でなんです…か…?
[最後は消えそうな声で問うた]
[態度とはうらはらの優しい口調に、わたしは首をかしげながら彼を見つめる]
手…間?
折角こちらもその気になって愉しもうと思ったのに…。
残念だわ…
[わたしは怯える素振りを取りやめ、露になった胸元のまま髪を掻き上げた。]
そのナイフでわたしの首を掻き切るの?
だったら綺麗に切ってね?ほら、邪魔な物はなにも無いんだから…
[そしてにっこりと微笑をギルバートへと向けた]
可笑しなことを聞くよ、ハーヴ。
誰かを好きになって、少しだけ優しくできればって思って、そういう感情に、理由が必要かい?
君と兄さんは関係ない。君は君だ。
私は君が好きで、友達だと思ってる。
それで、充分だろう?
[そう云って、微笑んだ]
書生 ハーヴェイは、修道女 ステラ を投票先に選びました。
ハーヴはいいヤツさ。
冗談も悪くない。
顔もなかなか可愛い。
まあ、俺くらいのいい男になるには、まだ年齢と経験の積み重ねが必要だがね。
[ニヤリと微笑む]
だが、筋はいい。
先が楽しみだ。
[顔をかっちり固定され、ボールギャグが外されると―――
どろりとした何かが一緒に滑っていき、やがてゴト、と音がなった。]
はぅ…あう………あ!!
[長年自分の口腔の中に収めていたものがない。
金塊を川に落としたかのような焦燥感が見て取れる。必死に探し始める。]
[ナサニエルのヴィジョンに入ってきたのは――うっとりとした表情で心臓に唇を寄せる、ステラの姿。]
まさか………心臓を………?
[サロメのくちづけのように、ステラは心臓に唇を寄せ、その組織に歯を当てる。]
[ナサニエルの耳に、ステラが「それ」を咀嚼する音が入った――]
顔は関係ないです…
[外見に関しては散々ヒューバートからからかわれているので軽く流すが]
…ありがとう…ございます。
[言葉はこれだけが精一杯だった。
銃を握る手に力が少しだけこもっていた]
君がロティを殺すわけがない。
殺せるわけがない。
私はそう、信じてるよ。
もし……そうでなかったなら……
[考えたくもないことだった。眼差しは遥か遠く、どこまでも深い晦冥の奥底に吸い込まれていた。]
――きっと そうしないわけにはいかなかったんだ
…………………?
これ、は……………?
[一瞬、ナサニエルの手が止まる。
床に落ちたのは、おおよそネリーのような若い娘が嵌めるには似つかわしくない―――]
歯……………おち、た?
ふうん、胸を見られた位で悲鳴をねぇ…。
失礼しちゃうわねぇ。ホント失礼するわ…。
[くすくすと笑いながら身を起こす。]
そうね、少なくても聖女と呼ばれるような器量は、持ち合わせては居ないわ。
下手したらローズより性質が悪いかもね…。
[ナサニエルの言葉は入ってこない。
ネリーがノーマンの元を離れた象徴。リックにも知られていない筈のもの。]
どこ……?
[ネリーは必死に這いつくばってそのものを探す。]
新米記者 ソフィーは、美術商 ヒューバート を投票先に選びました。
―車中―
[車中には長い沈黙が横たわっていた。
音量の絞られたカーラジオから微かな歌声が漏れるばかりだった。
そんな時に、沈黙の闇の中からなぜか浮かんできたのはステラのことだった]
[手に持っていたナイフを腰の後ろの鞘に収める。
ステラの瞳を見詰めたまま、淡々と語り掛ける。]
何か面倒臭くなってきた。
お前は愉しみたいと言う……だが、俺はお前が欲しくない。
俺が欲しいのはお前の肉、その血だけだ。
お前の命を狩り獲りに俺はここに来ている。
[次々に起きる陰惨な事件。
僅かな間に、私はどれほど多くの愛する人たちを喪ったことだろう。]
『ファファラ……』
[華やいだ記憶は遠かったが、彼女の姿は出会った六年前のままにいつでも甦らせることができた。]
『ファファラ、なぜだ――』
[ローズとの愛欲を貪る彼女の姿が、その躰に刻まれた堅気の女性には到底似つかわしくない刺青がまなうらに浮かぶ。]
『私は……君がこの町で一人の自立した女性としてなんの愁いもない生活を手にしてくれることを願っていたんだ。
君は――満ち足りぬ思いを抱えていたのか?』
[わたしは彼から語りかけられる言葉を、淡々と聞きながら]
そう。わたしの血と肉が欲しいの…。
でも残念ね…わたしはそう易々と…
[僅かに動き距離を置く。気付かれない程度に]
あなたにあげる様な血も肉も持っていないの。
修道女 ステラは、流れ者 ギルバート を投票先に選びました。
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