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流れ者 ギルバート は 新米記者 ソフィー に投票した
修道女 ステラ は 見習いメイド ネリー に投票した
酒場の看板娘 ローズマリー は 美術商 ヒューバート に投票した
旅芸人 ボブ は 見習い看護婦 ニーナ に投票した
冒険家 ナサニエル は 見習い看護婦 ニーナ に投票した
書生 ハーヴェイ は 旅芸人 ボブ に投票した
美術商 ヒューバート は 旅芸人 ボブ に投票した
見習いメイド ネリー は 酒場の看板娘 ローズマリー に投票した
新米記者 ソフィー は 酒場の看板娘 ローズマリー に投票した
見習い看護婦 ニーナ は 旅芸人 ボブ に投票した
酒場の看板娘 ローズマリー に 2人が投票した
旅芸人 ボブ に 3人が投票した
美術商 ヒューバート に 1人が投票した
見習いメイド ネリー に 1人が投票した
新米記者 ソフィー に 1人が投票した
見習い看護婦 ニーナ に 2人が投票した
旅芸人 ボブ は村人の手により処刑された……
酒場の看板娘 ローズマリー は、修道女 ステラ を守っている。
今日は犠牲者がいないようだ。人狼は襲撃に失敗したのだろうか?
現在の生存者は、流れ者 ギルバート、修道女 ステラ、酒場の看板娘 ローズマリー、冒険家 ナサニエル、書生 ハーヴェイ、美術商 ヒューバート、見習いメイド ネリー、新米記者 ソフィー、見習い看護婦 ニーナの9名。
流れ者 ギルバートは、見習い看護婦 ニーナ を能力(襲う)の対象に選びました。
[水溜りを避けるように歩いていると、
曲線が特徴的な白い車体が横に止まり、声を掛けられた。
それはこれから訪ね行こうとしている相手。
ヒューバートその人であった。
ソフィーは驚いて声を上げた。]
ヒューバートさん!
あ……どうして此処に?
丁度今からお宅に伺おうと思っていた所なんです。
[肩に掛けたエナメルバッグを示すように一度掛け直す。]
[彼は、ドアを蹴破り雑貨店に飛び込んだ。]
[見覚えのある店内には、目を閉じて震えるニーナと、その前で不気味に唸る犬の姿があった。]
[酷い頭痛(理由の半分は二日酔いだが)と疲労は意識を朦朧とさせた。二階に上がるだけでもその揺れでガンガンと痛む。ベッドへ寝かされ、幾分楽になると一つ大きなため息がもれた。]
…申し訳…ないです…。
[先程目が合った時、彼の口は確かに「ユーイン」という名を刻んでいた。
何故彼は兄を知っているのだろう?
兄を知っているのに自分を知らないのだろう?
ひとここちついたようになると、次々と疑問が浮かんできた]
―街近くの道路―
[ネリーは遠くの2人のやりとりを一部始終見ていた。
と言っても余程遠い場所だったので、朧気にしか分からなかったのだが。やがて双方ともが走り去って行くのを眺めていた。
ネリーは自分の状況とかけ離れていること甚だしい言葉をいつの間にか呟いていた。]
……見失ったわ。
── 回 想 ──
[あの日。確か自分は父親の機嫌がすこぶる悪く、散々自分に当り散らしていたのだった。特に酷く蹴られ殴られたその日は、よく記憶に残っている。
逃げるように自室へ隠れ、震えていた。
その後、下から聞こえてきた団欒の声、まるで自分を殺す相談かのように聞こえてもいた。
眠れば忘れられる。そう、眠ってしまえばいい。
しかし眠れば明日が来る。明日が来ればまた─。
記憶はここで不自然に止まっていた]
[青年を寝室のベッドに寝かせて1階に降りる。その時初めて、彼は書斎の扉を一時的に解放したままにしていたことに気付き、慌てて扉を閉めた。]
[下半身を纏う服を取り換えると、キッチンへと向かう。相変わらず、冷蔵庫の中身は死んで居るようだ。]
……仕方ねぇなあ……
[溜め息をつきながら、食器棚から水差しとコップを取り出し、水道の水をその中に注いだ。味見をする限りでは、水道水は生きているようだ。]
[2階に戻り、水で満たされたコップをハーヴェイに差し出す。]
………水。
冷たくねぇのは勘弁な。
[水たまりの水を跳ね上げないように、ゆるやかな運転でソフィーの側に車を停める。]
うちに来てくれるところだったのか。
奇遇だね。
[そう言って、微笑んだ。笑顔は、常よりは曇りを帯びてしまっていたかもしれなかったが。
「どうして」の問いかけに今日はソフィーの誕生日だから、と云った。
彼女をもてなしたかったが、アトリエのリビングは荒れ放題になっていたことを思い出す。]
食事でも奢ろうか?
今だとアンゼリカくらいしか開いてないだろうけれど。
ひとまず、乗らないか?
荷物もあるようだし。
[助手席の扉を開いた]
[ソフィーはなにより真摯に顧客の言葉に耳を傾けてくれた。人見知りなところがあったが、それだけに職人にしばしばありがちな頑なさや客を拒む高踏さはとは無縁だったように思う。
よくシャーロットの衣装を依頼することになったが、シャーロット自身も安心して自分の希望を話すことができた。
その年若さ故に技倆と経験そのものはイアンには及ばぬ部分もあっただろうが、職人の温かい気遣いがそこかしこに感じられる衣装はイアンのものとはまた別の意味で得難いものだった。
ソフィーの仕立てる衣装は、袖を通すと肌に寄り添うように柔らかに流れ、優しく着る者の躰を包んでくれた。着ることに心地よさと安らぎが感じられること。
それは、間違いなく彼女の優れた資質だった。
私が彼女の服とその店を愛していた理由に他ならない。]
[それはある種防御本能だったのかもしれない。
極めて辛いな思い出は脳は防衛する為に忘れてしまう。
これもその一種だったのだろうか。
ナサニエルを見た時、何故かこの日を思い出した。
あれだけ鮮明に覚えていたのに不自然に途切れていた妙な記憶]
[それだけに、ソフィーが一人大きな苦労を負っていたことには内心ひどく残念な気持ちがあった。
イアン、何故だ――
だがその問いかけの答えは、それまでは、彼自身やあるいはソフィーからは明確に引き出すことができないことでもあったのだった。]
…ありがとう。
[横になって大分顔色も戻ったのか、素直に水を受け取り、一口飲む。冷たくなくとも水分が体に入っていく瞬間はとても心地が良い。
そのまま、ナサニエルの顔へ視線を送る。
不躾だとは分かっていた。
ただ、彼に聞きたいことがあった。
それを知れば、あの曖昧な記憶もつながるのではないか。
何故かわからない。そう、思ったのだ]
あの……
[遠慮がちに、口を開いた]
[ネリーはまたぽつぽつと歩き出した。道路へ出ている分気が楽だからなのか、道に迷った時に比べれば格段に足取りはしっかりしている。]
もうすぐ街だわ…ここから近いのは…
[突然の邂逅に慌てて聞き流してしまったが、ドアが閉まり、腰を落ち着けると、ヒューバートの言った「誕生日だから」という言葉の意味がようやく理解出来た。]
──…あ、そういえば……誕生日、でしたね…。
[短時間に色々な事がありすぎて、忘れていた。
呆けたように呟いてしまってから、気まずさに苦笑する。]
ああ……
……衣装……
[ソフィーの言葉に、表情は纔かに曇った。シャーロットのものも依頼していたように思うからだ。]
お礼なんて、水くさい。
気にしないでいいさ。
[話が――という彼女に、ではうちにでも、と自宅へ招くことにした。リビングは散らかっていたが、隣の顧客が来訪した時のためのミーティングルームなら静かに話をすることができるだろう。
私はそれでいいかい? と問い、彼女が助手席に腰を降ろすのを確認すると車を出した]
………なんだ?
[ベッドの上に居る青年に声を掛けられ、ナサニエル不思議そうな顔をして応える。片手には、コップがひとつ。アンゼリカで煙草を嫌っていた青年の姿を思い出したナサニエルは、煙草を吸わない代わりに、チビチビと水を口に運んでいた。]
どうかしたのか?
[ナサニエルの不思議そうな顔につられて同じく不思議そうな顔をした。
確かこの人煙草吸っていたのに、とどうでもいいことを一瞬考えたのはやはり緊張してのことか]
…さっき…「ユーイン」と言ってました…よね?
ユーインを…兄を…知っているんですか…?
誕生日を忘れちゃダメだよ。
ソフィーは綺麗なんだから、祝ってデートに誘ってくれる人の一人や二人いるだろうに。
[そう云って笑う。
そんな軽口は辛うじて私の心を日常に繋ぎとめるために、今はむしろ必要なことですらあった]
確かに今は――
華やいだことなんて考えにくい状況だけどね
[暴風雨があってからずっと町を襲い続けた災厄に思いをはせ、僅かに口を噤んだ]
──ヒューバート車上──
[顔色が曇ったのを衣装の出来の事と勘違いし]
大丈夫ですよ。
工房にも水は入りましたが、衣装は無事でしたから。
[フォローするように言う。
気にするなと言われれば]
有難う御座います。
いつもご迷惑ばかりお掛けしてしまいますね……。
ところで、今日は、シャーロットはご自宅に?
[折角だからその場で袖を通して貰い、合わない所があれば直してしまおうと、何気ない調子で問いかけた。]
んー………
[時折コップの端を噛みながら、男はしばし考え込む。]
『さて。何と説明したらいいのやら………』
[椅子に座り、脚をブラブラとさせながら、ハーヴェイと名乗った青年の目をじぃっと見つめている。そして……]
ん。あれだ。
たまに合っていろいろ……話「とか」をする関係、かな。
[衣装のことは、彼女に誤解があって伝わっただろうか。軽く頭を振って、心配してないよというように笑う。
だが、続く言葉には答えあぐね、幾分逡巡した。]
…話…ですか…。
[兄は評判がよかった。この小さい町でそれなりに知られていた。
顔も頭も性格も全て及第点以上を取っていた兄と必ず比較された。
兄を知っている人間ならほぼ確実に弟の存在を知っている筈だった。
この男先程確かに俺を「誰だ」と言っていた]
…いえ。少し不思議に思って。
兄を知っていて俺を知らないという人には会ったことなかったし。
―移動→アトリエ―
[車での町内の移動は瞬く間だった。なにげない会話を二三言交わすうちに、自宅へと着いていた。]
その、ソフィー……
後でちゃんと話すが、うちでちょっとあって……ね…
散らかってるが、気にしないでくれ。
[荒れ果てたリビングをそう云って素通りし、奥のミーティングルームへとソフィーを案内した。
マーティンに紅茶と菓子を用意させた。]
[彼の逡巡には気付かず、横顔を見上げるように言葉を待つ。]
「シャーロットは――
──今は静かに眠っているよ」
[返って来た言葉には、何処か厳かな響きがあった。
普通と違う言い回しに、僅かな違和感を感じたが、
気のせいだろうと思い直し、あえて問う事はしなかった。]
んー………
俺、この町に3年前に帰ってきたばっかりだしなァ……。
[ギシリという小さな音を立て、男は椅子の背もたれに寄り掛かる。]
その前までは、俺は15年やそこらの間、ヘイヴンから離れた街に居たみた……居たしなァ。
しかもヘイヴンに戻ってからは、町の学校に顔を出したことは一度もねぇし。ユーイン自身からあんたのことを聞かない限り、残念ながら俺はあんたが何者かってのを知る術が無いんだよな。
―アトリエ・談話室―
[ミーティングルームには、簡単な打ち合わせのできるガラステーブルと椅子が並び、もう一隅には寛いだ話ができるように大きなソファーが向かいあわせにおいてあった。
私はソフィーをソファーにいざなう。ローテーブルには紅茶と菓子が並べられていた。]
まずは、誕生日おめでとう。
[そう云って、リボンをかけた包みを手渡した。
それは我が家の所有する牛から直接鞣した革で作った裁ち鋏を収納する道具入れだった。ささやかなプレゼントだったには違いない。]
──バンクロフト家・アトリエ──
[家に着くとミーティングルームへと通された。
いつものリビングでない事が不思議だったが、脇を通る時に中の荒れた様子が視界に入り、驚いて口を噤んだ。]
『ここでも何か起きたの……?』
[嫌な予感がして、そっと自分の肩を抱いた。]
…そう、ですか。
丁度その時俺もいなかったから当たり前…なのかもしれない…ですね。
そういえば…今日は煙草吸わないんですか?
俺はかまわないですよ、窓開けてくれれば。
[あのメンソールの煙草。どうしてあの時、顰めツラをして席をたったのだっけ。
家族は煙草を吸わない。でもあの香りを知っている。
匂いがきついとか、そういうのではなくて…]
──バンクロフト家・談話室──
[ソフィーがミーティングルームに着くなり、ヒューバートの指示で執事のマーティンが紅茶と菓子を持ってきた。
ソファを勧めらてもすぐには座らず、
先に持参した衣装をガラステーブルの上に広げた。]
先にこちらを。
ご注文の衣装です──。
[そう、言いかけたソフィーに、
祝いの言葉と共にリボンの掛かった包みが手渡された。
驚き、礼を述べながら広げた中からセンスのいい
牛革の道具入れが表れると、嬉しさに自然と表情が綻んだ。]
ここから近いのは…ブランダー…
[あの家は正直、近づきたくもあり、離れたくもある。
だが少し小腹も減っているし、背に腹はかえられない。ネリーは雑貨屋の方へ向かっていった。]
………ん?
ああ、煙草吸っていいンなら吸わせて貰うわ。火ィつけるまでは窓閉めたままでいいか?ライターの火が流されちまうもんで……
[ハーヴェイに小さく手を上げ、煙草に火をつける。窓を開けると、仄かに汗ばんだ部屋の中に爽やかな風が舞い込んできた。]
………で、どこまで話たっけか。
あァ、そうそう。3年前な?
あんたがここに居なかったンなら、ユーインも話すること無いもんなァ……
……って、あんたとユーインの関係って……何だ?
[煙草の先を窓の外に向けながら、ナサニエルはハーヴェイに問い掛けた。]
ありがとう。
いつも素晴らしい衣装を――
[私は、ソフィーに礼を言い、衣装を取り上げる。
腕の中でドレスの生地をそっと撫でる手に不意に感情が籠もり、震える手で抱きしめていた。]
[それは、リビングを通る時に不安そうに肩を抱いたソフィーに、伝えておかなければならない事のように思えた。]
いずれ、ユージーンや他の者からもきっと耳に入ることだけど――
昨晩……
――シャーロットが刺されたんだ
[その傷で彼女が帰らぬ身となったこと。
安置所に安置してきたこと。
ドレスに顔を埋めたまま、惨苦に滲んだ声が告げた]
―雑貨屋―
[ネリーは雑貨屋が目に留まると吸い寄せられるように入った。そのままカウンターに陳列されている商品に目を通していく。双子の兄妹やノーマンはともかく、ニーナはいるかもしれない。少し食べ物を失敬したいという衝動をおさえ、アルバムを探した。]
[ナサニエルが煙草に火をつけ、煙を吐き出す。
風のおかげで煙直撃は免れたが、風と煙は混じって別のものを運んできた。
『ユーイン、煙草…吸ってるの…?』
二人の情事はいつもキスから始まった。
あの曖昧な記憶の翌日、ユーインのキスは煙草の匂いがした。そう、とてもきついメンソール。
ユーインは「今日だけ」と笑っていた。
あの匂い…ナサニエルが吸っていたものと同じだった。
─自分を知らないナサニエル─
─同じ煙草を吸っていた兄─
まさか──
思考が中断された。ナサニエルの声が耳に入ってきたから]
…兄、ですが。
ない…ないわ…どこなのよ…
[結局アルバムは探しても見つからなかった。ニーナが手に持っているからであろう。
ネリーは今度はその足でアンゼリカのほうへ向かいだした。]
[突如ドレスを抱き締めたヒューバートに驚く。
荒れたリビング。
車中での意味深な言い回し。]
──…あの…。
[僅かに逡巡したが]
シャーロットに、何か──、
[思い切って先を続けたソフィーの言葉を遮るように、
ヒューバートの口から驚くべき事実が伝えられた。]
なん──……、で…。
[口元を手で覆い、よろりと一歩後ろに下がった。]
[あまりに精神的に余裕がなかったのか、自分達が飼っている犬がすぐそこにいる事にも気がつかなかった。
ネリーはそのままアンゼリカへ向かい、やがて到着する。
ドアはCLOSEを指し示していた。]
こっちは開いていないのね…ローズさん、いるかしら…
[ドンドン、とドアをノックするネリー。]
―アンゼリカ―
誰かいそうな感じなんだけど…こんにちはー。誰かいませんかあ。 あれ、えっ…?
[力を少し込めると扉は開いた。なんて無防備なの…と思いつつも、ネリーはアンゼリカ酒場へ入った。]
すみません。どなたかいらっしゃらないでしょうか…?
[酒場には誰もいない。まさかローズマリーまでいないとは…
ネリーは階段を上がったり、少しカウンターの奥を覗いたりした。人の気配は全くしないでもないような…人が少し前までいた雰囲気が多分に残されていたが結局、おそらく誰もいないだろうと判断するに至った。]
[余りの事に二の句が継げず、
喘ぐように呟いた後黙り込んだ。
全身から音を立てて血の気が引いていくようだった。
愛らしく聡明なシャーロット。
ソフィーにとっても妹のような存在だった。
何故彼女がそんな目に遭わなくてはならないのか。]
誰が、そんな──……。
[知らず知らず、頬を涙が伝った。]
[ふと、酒場にソフィーを運んだときに、イアンの姿がなかったことを思い出す。]
そういえば、あの時……
イアンの姿を見なかったんだが――
イアンはどうしてる?
変わりないかい?
[結局ネリーは喉の乾きを潤すために、蒸留水を少しだけ失敬する。お金は後で置いておけばいいかな、と思う。]
ローズさん…どこへ行ったのかしら…
こんな状態でいない、と言うことはローズさん自身か、ローズさんのお知り合いに何かあって飛び出したとか…
[結局ローズは見つからず、全くの不首尾でアンゼリカを出てきたネリー。地下で蜜月があろうことは予想だにせず。]
私、最初の用事を済ませるために来たのに、こんな事になっちゃうなんてね。
[結局アルバムは見つからなさそうだ。]
兄………か。
[部屋の中に強い風が吹きこみ、ナサニエルの前髪と、だらしなく下ろしたシャツの裾を軽やかにはね上げる。]
そうか。あんたのこと知らなくてすまなかったなァ……。
[目を細めて、ナサニエルは紫煙を見つめる。先ほど見たあの幻覚は、今は見えない。]
………そうか。
道理でユーインに似て居ると思ったら、そういうことか。すまなかったな、見間違えたりして。
[この時程自分の脳を恨んだことはなかった。
自己防衛する為の忘却が心のわだかまりの為に今度は思い出させる。あぁ、得てして人間とは勝手な生き物だ。
あの日、自室に隠れていた俺は隣のユーインの部屋の音を聞いた。
笑い声、衣擦れの音、そして…いつも自分と兄の間にあるあの情事の水音。
誰かいる。両親ではない。誰かがユーインと居る。
そして俺は、薄明かりの指す部屋を見てしまっていた。
ナサニエルと兄の密会を──]
―自宅―
ただいま旦那様。あらゴライアスちゃん。旦那様はどこ?
[ネリーは今度こそ無事に帰宅した。だがボブの姿はどこにもない。ボブの愛用の靴がない事や動物が2〜3匹減っている事が気になる。]
出掛けてるのかしら…散歩かしら。
[ヒューバートの言葉にはっと顔を上げる。]
父は──…、…いいえ、父も…、
父も何処かへ消えてしまったんです……。
私が目を覚ました時にはもう、アンゼリカには…。
[ソフィーは震える声で事の顛末を話した。]
部屋やスタジオは散らかってないし…そのうち帰ってくるかな?
それにしても疲れた…あの2人は一体なんだったのかしら?
[ネリーはそのまま案山子が折れたような格好でベッドに前のめりに崩れた。]
なんだって!?
[ソフィーの言葉に、表情を変えた]
すぐ、探しに行こう。
君も心配だろう?
[ソフィーの肩に手を添える。衣装の代金に紙幣の入った封筒をソフィーに握らせた]
どこか心当たりはあるか?
[できるだけ早く出た方が、と来て早々ながら外へ出ようとする]
[衣装の報酬は抵抗せずに受け取った。
その後慌しく部屋を出ようとするヒューバートには、
蒼褪めた顔で、弱々しく首を振り]
それが、全く見当が……。
[申し訳なさそうに答えるが、
今は頭の中はシャーロットの事でいっぱいだった。]
それよりもシャーロットは……、
シャーロットは何処で刺されたんです?
その時その場所に居た人を調べれば、何か手懸りが──…。
[深い記憶の扉へ、頼んでもいないのに容赦なく鍵をつっこまれた。開けられた部屋はパンドラの箱のように様々なものを映し出す
揺れる蒼い髪、切なげに届くユーインの声。
体が硬直して動けなかった。
『愛してる。ハーヴだけ。だからハーヴも俺だけを…』
いつもいつも、行為を泣いて嫌がった俺の髪を優しく梳いては囁く声。
あぁ、兄さんがそう言うから、俺もずっと……!
水のグラスを持つ手は振るえ、中身は波立つ。
乾いた唇を潤すこともなく、一言だけ、呟いた]
ナサニエル…さん。
兄を…
[認めたくない事実。最後は空気のように「抱いたのですか?」と吐き出す。この問いは聞えたかどうかは*分からないが*]
シャーロットは……
[殺害状況を考えると、全く不可解だった。]
誰が手にかけたのかもわからないんだ。
私と――
[ハッとその時、口を噤む。]
おかしなことだと思わないで欲しいんだが――
その時シャーロットは少し情緒不安定になっていて……私と同じ寝室で寝ていたんだ。
ちょうどラング牧師の自宅が襲撃されたのを見たばかりだったものだから、用心もしたくてね。
[家族が同じ部屋で眠ること。子供が成長すれば、あまり多くあることではないが、それはさほど不自然なことではないはずだ――そう、その時はそう思っていたはずだった。
だが、安置所を訪れた後の私は今となっては罪の意識をのぼらせることなくそのことを思い浮かべることはできずにいた]
[風がナサニエルの背中を押す。
もしこのシャツを脱ぎ捨て、背中の翼を解放したら、俺は空を飛べるかもしれない――ハーヴェイの様子など目に見えぬかのように、ナサニエルは煙草の煙が昇ってゆく空を見上げながら柔らかな夢想を描いた。]
[一筋の紫煙を吐き出した時、ナサニエルの耳にハーヴェイの言葉がそっと侵入する。]
ユーインと……?
[小さな声で問われた内容には答えず――否、答えようとしてもその隙を与えられない何かを感じ、ナサニエルはハーヴェイに近付いた。]
ハーヴェイ。お前……どうした?
顔、さっきより青いぞ………?
[ナサニエルは灰皿の上で煙草の火を消し、メンソールのにおいを身体に纏ったまま、ハーヴェイの顔を*覗き込んだ*]
同じ、寝室に?
[一瞬イアンと自分との関係と重ねてしまいどきりとしたが、ルーサー・ラング牧師の事件の後であり、16と言うまだ幼さを残す歳である事から、然程不審に思う事無くすんなりと受け入れた。]
では、ヒューバートさんに気付かれる事無く、
事を成し得た者がいるという事ですね……。
[ヒューバートを疑う気持ちは一切なかった。
彼がどんなにシャーロットを愛し慈しんで来たかは、彼と彼の娘が一緒に居る所を見た事のある者なら、よく知っている事だった。]
[しかし次の言葉には]
ハーヴェイさんが──…?
[問うように、小さく呟く。
では、彼なのだろうか。
一見すると大人しそうな、整った顔立ちの青年。
彼に、何か動機が?]
『昨晩の出来事にやましさがなかったとしても、今は――』
『あの暗がりの中で私は……』
[微かに首を振り、意識から遠ざける。――暗冥の中のその甘美な悦楽の記憶を]
ハーヴェイ?
ハーヴはロティを気に入っていた。
だから――
そんなはずはないさ……
[私は彼を信じていた。だが、奇妙なことに、そういえば彼の姿は見あたらなかった]
[ソフィーは先日のハーヴェイとの会話を思い出した。
自分と同じく、アンゼリカで聞こえた声に動揺していた。]
『違う……。』
[あの時の、気まずさから逃げるように冗談を言っていた青年は、とてもこれから人を殺そうとしているようには見えなかった。]
そう──、ですよね。
ハーヴェイさんはそんな事をする人には、見えない……。
[だからヒューバートの言葉には、素直に頷いた。]
[事件についてひとしきり話をした後、イアンの捜索や町の今の状況の確認に出ることにした。
彼を連れて帰ることを考え、シボレーのセダンを出す。
なにしろ不穏な事件ばかりが起きている。今の状況を考え、ショットガンの入った布のケースを肩に担いだ。シャツの上からホルスターをかけ、拳銃を吊る。ジャケットで拳銃は隠れた。
一瞬ソフィーに銃を持たせるべきか迷う。シャーロットを襲った惨劇が脳裏を過ぎった。]
ソフィー。君は拳銃を扱えるかい?
兄さん…
兄さんも…俺を裏切った…
どうすればいい…?どうすれば…。
それでも…あの約束は…消えない…忘れられない…
どうして……忘れたい…忘れたいのに……!
そうか、わかった。
[扱い慣れていなさそうな彼女にかえってぎこちない動きを強いることになるかもしれないと考え、予備の手持ちを持っていくことでその代わりとすることにした。
彼女をシボレーへと導き、車を出した]
―車内―
[助手席に人の気配があると、そこにシャーロットが座っているのではないかと錯覚してしまう。それだけ、彼女と共に積み重ねた時間は長かった。
イアンのことや町で起きている事件について互いに考えを巡らせていたのだろう。車を走り出させて姑くの間、ソフィーとの間には沈黙が横たわっていた。
幾ばくかの逡巡の後の幽かな聲が、沈黙を破った]
ソフィー……
父親を持つ娘のあくまで参考意見の一つとして聞きたいんだが……
――娘にとって父親とはどういうものだろうね
不躾な訊き方になるけど、
イアンのように働かなくなってしまったらどんな風に感じるものだい?
あるいは――
父親が自分に強すぎる関心を持っていたとしたら。
[ヒューバートに促されてロメッシュに乗り込む直前、崖に張り付くように建つバンクロフト家の建物を仰ぎ見る。]
シャーロット───。
[結局彼女とは雑貨屋で話したのが最後となってしまった。
贈ったドレスは着て貰えたのだろうか。
僅かな時間に彼女との様々な思い出が甦り──、
その死を悼むように、しばし黙祷してから助手席に乗り込んだ。]
[強張った声音。
ハンドルを握る手が、その手触りを確かめるようにそっとなぞられた。]
……ソフィー…
たとえば、の話だよ。
[憂患を和らげるような柔らかな口調。
眼差しは遠くを見つめている]
[何とか平常心を取り戻し]
父親とは何か──、難しい質問ですね。
私にとっての父は………、…何でしょうね。
私が幼い頃の父は母ばかり大切にしているように見えて、
私は膨れてばかりいましたけれど……。
母が死んでからは、仰ぐべき師であり、
同時に、今にも壊れそうで、守ってあげたい人でもありました。
何でしょうね、多分、普通とは違うのかもしれません。
ただ、父がどんなになろうとも、
心を閉ざしてしまってからも、父は、父でした。
つらくは……
――ないのかな
[それがなにを差すものか、あえては指摘しなかった。
客観的にみて、父を支えて一人で店を守っていかなければならないことは大変なことではあっただろう。]
[それは本音だった。
二人の間に何が起きようと、それだけは越えられない事実。
自分は、あくまでも娘である事から逃げられない。]
──すみません、うまく言えません。
[申し訳なさそうに苦笑した時、隣でハンドルを操る男の柔らかな口調が耳に届き、ソフィーは顔を上げた。]
……そうか。
そうだろうね。つまらないことを――
[――聞いて済まなかった、と私は詫び、微笑んだ。
思慮深い緘黙。その閑寂の中には、言葉にされないいくつもの意識が交差していたように思う。
私は、意識のチャンネルを変えるように、カーラジオのスイッチを入れた。
ウェイン・ニュートンが『Daddy, Don't You Walk So Fast』を唄っていた。
シボレーは今は荒涼とした町の中へと*消えていった*。]
美術商 ヒューバートは、見習いメイド ネリー を投票先に選びました。
私は今までこうしてやって来れたのは、
あなたが居てくれたからでもあるんですよ──…?
[多くを訊かれる事を畏れてはぐらかしてしまったが、隣に座る男から感じる深い悲しみを帯びた気配に、思わず励ますように、*小さく呟いていた*。]
[男が店の扉で派手な音を立てて入ってきたのと、犬が狂ったまま自分に襲い掛かろうとするのと、どちらが早かったかなんて上手く分からなかった。
けれど、今の気がすっかり動転しているニーナにはギルバートはたとえ頭では理解できていても彼が自分を何時でも守ってくれた兄以外の誰にも見えなくて────]
…兄さん…っ、助けて兄さん!!
[その言葉は自然とギルバートへと*向かっていた*]
[天井に小窓のあるつめたく暗い石壁の室内。
何時間にそのような衣装に着替えていたのだろう。あるいは着替えさせられたのだろう。私は白いドレスにも似たお気に入りの甘い甘い薔薇柄のブラウスに、高い位置でウエストを絞り込むようなデザインのフリルスカートを纏い、パパに抱きかかえられている所だった。
パパの動作は何処かの深窓の姫君を抱えるように注意深く、そして私は台座に横たえられた。
私はずっと目を閉じたまま。けれども、真摯な彼の黒い瞳が祈りを込めて私を見つめている事を理解していた。彼の願いが、私の重く動かない目蓋の上を滑り落ちて行く。彼の絶望と苦悩を感じていた。]
「ロティ……目を……
目を開けてくれ――」
[──心配しないで、パパ。
私は大丈夫よ。
私にくちづけをおとしてくれる彼に、そう言って頬笑みかける事が出来れば、私自身どれほど嬉しかっただろう。
私の身体は動かない。けれども柩が運び込まれるまでの先刻とは異なり、私の意識は私自身のこの動かない肉体の傍に確固として存在し、また、奇妙なことに感覚だけが常のように存在しているのだった。
パパの口髭が私の肌をくすぐり、柔らかな口唇が触れる。
私の口内の輪郭を丁寧に彼の舌がなぞり、やがて私の舌に触れる。]
大丈夫よ、パパ。私はずっとあなたの傍にいるわ──。
だから泣かないで。ねえ、お願い…。
[私の身体は震えてはいないのだろうか。
私の声はパパには届かないほど小さいのだろうか。
私の肌を濡らす温かい彼の涙。
昨夜のように自由に両腕をのばし、彼が痛いと言うまでパパを抱きしめ、目許にくちづけ、溢れるその涙をすべてぬぐい去りたいたくて仕方が無い。]
私は何時でも決してパパを悲しませたりはしたく無いのに──。
[パパの口唇が私の耳朶に触れた瞬間、背筋に小さな官能が走った。濡れた舌先が首筋をくすぐる。…あぁ、今まで彼の舌にこんな風に触れられた事は一度もなかった。
ブラウスの釦がはずされていく。
冷たい外気に素肌が触れる感覚は、脇腹をなぞられるくすぐったいような感覚、そしてやや乾いた厚い絹のような男の掌に乳房を触れられる感触へと、すぐに置き換えられた。ネリーの着替えを手伝った時のそうだったように、今は私の丸い乳房が彼の手に揉みしだかれ、何か別の生き物のようにやわらかに動く。]
──…信じられないわ。
[彼の手は今、彫刻のデッサンのために動いているのでは無く、父親としてでもなく、ただ一人の男として…──、私の乳房を覆うブラジャーの内側へ手を伸ばしているのだと分かっていた。
モデルの時もそうだったけれど、胸の先端に触れられると意識が其処に集中してしまい、もどかしいような感覚がうまれはじめる。最初は何でも無い事のように思えるのに。…ああ、もし身体が動いたなら、私は身を捩り、これ以上この感覚が全身に伝染しないように、彼の手から背を背けようとしただろう。
「綺麗だ」と言う言葉が、私の感じている快楽を肯定しているように思え、また意識が昂揚した。経験の無い私は完全に未知の世界に来ていた。けれども、次に彼の手が何処へ向かうかはすぐ理解出来た。]
[しゃりしゃりとした手触りのスカートの、内生地の更に内側へ侵入がはじまった。
抵抗する事の出来ない私の脚は人形のように簡単に持ち上がる。パパの手が私の膝を軽く押し開き、普段ではあり得ないような場所に、何時もと変わらぬやさしいくちづけが降りそそがれた。私はその行為の落差に小さく息をのむ。
タブーへの抵抗感は恐ろしい事に何処にも無かった。
ハーヴの事もすでに忘れ果てていた。
敏感な内股をシルク越しに撫でさする指がやがて素肌に触れる。彼の動きの振動だけで繊細なレースが肌をくすぐり、私は簡単に下着がぬめりを帯びて行く事に頬が紅潮するのを感じた。紅潮と共に指先がジンと痺れた。
ショーツはあっけなく片脚から抜き取られてしまった。]
[パパが私に触れる事で高揚して行く様子が、何故か私には手に取るように分かる。
…私は知っていた。
彼が私のあたたかな液体が滴り落ちそうなその場所に、舌先で触れたいとずっと以前から願っていた事を──。彼がその場所に触れるとどうなってしまうのか、私には見当もつかなかった。
あぁ、今の私は彼のモデルでは無い。
舌先で秘めておくべき場所を探られる。襞のひとつが征服される度に、私はパパの前で私自身の欲望を曝けだして行く。吐息を堪えなくて良い事は幸いだったかもしれない。私が自由であったなら、彼の熱い息吹がわずかに触れただけで、はしたないような声をあげてしまったかもしれないから。]
[私が、一人で行為を行う時に決まって触れる小さなその場所は、快楽の洪水に埋もれ触れられる前から熱を帯びていた。
カーヴを描いた硬いともやわらかいとも表現出来ないものに押され、続いて私自身の指とはまったく異なる繊細で柔らかな舌で震わされる。声を上げる事が出来ないと言う事は快楽を逃がす事も出来ないと言う事だ。その場所の熱が高まり、硬く尖って行くのが手に取るように分かる。
爪先が電流を流されたように痺れ、太腿が緊張する。
私は口唇を小さく開こうとする。
尖りきった小さな快楽の中心部を自ら震わせ…──、私があっけなく達しそうになった瞬間、
──…パパ自身が私の中へと入って来た。]
[グチュリと言う音がして、柔襞が押し広げられ、先端が私の内側に埋もれて行く。指とは異なる圧倒的な質量と独特のフォルムをもった熱く硬い屹立が、暗く濡れそぼった洞窟をゆっくりと押し広げて行く。
私は彼の形状にあわせるように、私自身のその場所が形を変える事に先ず驚いた。
彼自身が内側にめり込むほど、私の身体とパパの身体は密着して行く。
「ひどく痛かったら済まない。」と言うパパの声。]
ちっとも痛く無いわ。
…それよりパパとこんなに近くに居られるなんて。
[そう思った瞬間、身体の内側に侵入に抵抗する場所がある事に気付いた。私は唐突にやってきた鋭い痛みから逃げ出したくて、背筋を撓らせる。パパは目を閉じて私を捕えるように両腕で抱きしめた。
…あぁ、ごめんなさいパパ。
私、怖くても痛くても逃げたりしないわ。]
[鋭い痛みはやがて去り、彼自身のすべてが収まり私の奥へぴたりと押し当てられたまま静止する。私とパパの間にはもう誰も入る事は出来ない。]
愛してる。パパ
誰よりも、私はパパを愛してる。
私はずっと、パパの傍に居るわ。
ねえ、泣かないで。
[ひとつに重なっているのだと身体が理解するほどに、彼と同じ悲嘆が私を覆った。私に縋りつき大声で泣く彼を、抱きしめ返したかった。
渾身の力を振り絞り、動かぬままだらりと横たわる腕を持ち上げるようとする。絶望が襲う。ああでもしかし、僅かにわずかに指先が、今、涙を隠そうともしない彼の背に触れたのでは無いだろうか。]
[私はそこで力尽きてしまったのかもしれない。
やさしく髪を撫で、背中の敏感な部分をなぞる腕と、破瓜したばかりの場所には荒々し過ぎる挿出。それに、達する前に放り出されてしまった私の快楽。みずからの指先でもたらす細い波しか感じたことのなかった私は、すべてが入り交じり、痛いのか心地良いのかすら何も分からない奔流に私は意図もたやすく飲みこまれてしまった…──。
首筋に鋭い痛みを感じて意識が一瞬覚醒する。
押上げられると痛いのか心地良いのか分からない再奥に、一層硬くなったパパの先端が強く押し当てられ、震えとともに温かいものが注ぎ込まれるのがわかった。]
[一瞬、荒波が緩むと、スカートに赫の混じった透明な液体が止めどなく滴り沁みを作って行く。]
──…だめ、スカートが汚れてしまう。
[けれども、パパは私の内側で硬度を取り戻し再び挿出をはじめる。私の内側は彼自身を止めたいのか、排出してしまいたいのか、私の意志とは無関係に何度も何度も痙攣を繰り返す。
もうこれ以上は、と思った所で*私の意識は途絶えた*。]
─自室─
[ほんの僅かな時間であっただろうか。自分のベッドに突っ伏していたネリー。やがて伏せているのを止め、立ち上がった。]
ああ……起きなくちゃ。旦那様、帰ってきてないのね…
わんちゃんの散歩にも行かないといけないし。どこへ行ってしまわれたのでしょう。
酒場の看板娘 ローズマリーは、修道女 ステラ を能力(守る)の対象に選びました。
酒場の看板娘 ローズマリーは、美術商 ヒューバート を投票先に選びました。
[狂犬がニーナに飛び掛るその瞬間、置いてあった清涼飲料水の壜を掴み、犬の頭に向かって投げつけた。
鋭く重い一撃を頭に喰らい、犬は甲高い鳴声を上げてよろめいた。弾かれた壜は床で砕け、ガラスの破片と泡立つ水を撒き散らす。
犬は頭部に加えられた衝撃に朦朧としていたが、獲物のニーナの側に撒かれた水に気付くと、弾かれたように後ずさる。]
[その隙に、ギルバートは殆ど一飛びでレジスター側に近付き、脱いだレインコートを犬の頭部に巻きつけた。
狂犬は新たな敵──ギルバートに牙を剥く暇も有らばこそ、頭部をぐるぐる巻きに拘束され、くぐもった唸り声を上げた。]
[彼は更に、レインコートの一端を握ったまま犬の首を後ろから片腕で締め上げた。苦痛にもがく獣の四肢が宙を掻く。
その腹に、ギルバートは手にしたナイフを幾度も突き立てた。
鮮やかな血が飛び散り、店の床や陳列物を、レジ側にへたり込んだニーナを、赤く染めた。]
[やがて、弱々しく四肢を震わせるだけになった犬の頭を掴んで床に押し付け、その頚部に切っ先を捻じ込み、頚椎を断ち切った。]
[──血臭の漂う店内に、奇妙な静寂が訪れた。]
[ギルバートは浅く肩を上下させながら、顔に飛び散った血飛沫を手の甲で拭った。
擦られてかえって広がった血の汚れを肌につけたまま、ニーナに顔を向けた。]
……大丈夫か、ニーナ。怪我は無いか。
─翌日─
[その後は、強いショックを受けていたニーナを宥めて寝かしつけ、一晩中側についていたのだった。
何とか眠りに落ちたニーナを寝室に置いて部屋を出ると、家中を捜索して顧客名簿が無いかどうか探し始めた。
ようやく目当てのものを探し出し、ある人物の自宅と、他に何箇所かの住所を調べ、メモ用紙に書き留めた。
ついでにヘイヴンの地図も一緒に失敬して、目当ての場所に印をつけた後、小さく折りたたんで、ポケットにしまった。]
[最後にもう一度ニーナの部屋に戻り、別れの挨拶をした。──彼は店を出た。]
[彼は狩り獲るべき対象を捜し求めて*歩き出した。*]
─自宅─
[ネリーは簡単に自宅およびその周辺の掃除をした。2度目の水害も大きな被害は出なかったが、犬小屋が荒れたりしたからだ。]
早く旦那様帰ってくるといいのだけど…
─???─
[今更ながらにローズのことが思い出され、一度「アンゼリカ」に戻ったが、ローズの姿は無かった。気配があるのに姿が見えないのを訝しく思ったが、彼女を探している暇は無かった。
客室で手早く身支度を整え、衣服を着替えると、電話脇のメモ帳に一度戻ったことを書き残して再び出掛けた。]
[地図を頼りに目的の場所に向かったが、果たしてその家は留守だった。人の居る気配はなく、しんと静まり返っている。
しばらく考え込んでいたが、ふと思いついてもう一箇所回って見ることにした。]
『ハーヴェイの居所はひょっとしたらあの娘が知っているかもしれない。』
[彼は「声」を閉ざしたまま、以前暴漢から助けてやった娘──そして幾度も助けを求めてきた娘──の居る家に向かった。]
[私はひとり呟いていた。]
それにしてもあの人……何者なのかしら?
ウェンディといい…あの持ち物の差で追いかけても離されるなんて…
[ギルバートは、ヘイヴンの標準的な家屋とは全く異なる、近代的な造りの邸宅の呼鈴を押した。]
── →ボブ・ダンソック邸──
[ネリーは呼鈴が鳴る音を聞いた。自宅そのものには現在おらず、ネリーは動物たちの世話に当たっていた。はっと顔をあげる。]
帰ってきたのかしら?
[ネリーは庭のほうから、側面から扉の方へ近づいていった。そこで目にした人は──]
何の御用でしょ──
[ネリーは驚いた。いつだったか、自分が暴漢に襲われた時、颯爽と現れ、暴漢をのしていった男だ。改めて見ると体格にも恵まれているのが見て取れる。]
あ、あの──
[地下の部屋で目を覚ますと傍らにはステラの姿はなく、その部屋に時計も窓もなく、ローズマリーは時間を把握することができなかった]
[のろのろと身体をおこし、散らばった衣類を身に着ける]
今、何時かしら。
[どうしよう、つっ立っているだけでは埒があかない、何か言わないと、とたちまちネリーは混乱しそうになる。]
あの…この前は大変ありがとうございました。
ギルバートさん…ですよね?
[ネリーはギルバートに問いかけた。慌てると意味もなく体面ばかりになる。]
[自分の部屋に戻り、ソフィーとその父親の姿がないことに驚くが、あたりが特に荒れた様子がないことで、だれかと自宅に戻ったのだろうかと、深く考えることを放棄した。]
シャワーを浴びたいわ。
[『ギルバート』はネリーの内心の動揺を読んだかのようにニヤリと嗤った。]
そう。ギルバート。ギルバート・ブレイクだ。
よく憶えていたな。
[ネリーはギルバートに会うのは2度目だ。だが前回とは違う笑みがそこに伺える。ネリーは必死に取り繕う。]
はい…この前は本当にありがとうございました。覚えているでしょうか…? 名前も聞かずに別れてしまった。
あっ、順番が違いますよね、すみません。私はネリー。ネリー・ウィティアと言います。
[実際に読んでいた。
これほどまでに近付けば、ネリーの呟きを「聞く」ことなど訳もない。
その笑みは「聞こえているぞ」という意味がこもった嗤いだった。]
[シャワーを浴びながらステラとの一夜を思い出していた。
思いがけないステラからのアプローチ。
彼女の持っていた快楽への技量にローズマリーはステラに対する何かが間違えていたのだろう事に思い至る。
彼女の身体を何人の男女が過ぎていったのだろう…。
ローズマリーの胸に紅蓮の炎が広がった]
ああ…名前を聞くのはこれが初めてだな、確かに。
改めてよろしく、お嬢さん。
[口の端を歪める嗤いのまま、帽子を取って丁寧に礼をする。それは何処かからかうような様子が見えた。]
よく憶えているよ。忘れる筈が無い。あんなに助けを呼ばれたんじゃあな。
はい、よろしくお願いします。 …ギルバートさん。
だってあの時は本当にどうしようもなかったんですもの。ギルバートさんが来てくれなかったら私、どうなっていたことやら…
あの、今日はどういったご用件なのですか?わざわざこんな所へ…
[一瞬、ほんの10秒にも満たない時間だろうか。不自然に会話が途切れた。明らかに緊張している。
どうして普段通り振舞えないの。普通の恩人なら家へお招きして何かもてなしを……]
[ギルバートはネリーを値踏みするような視線で見つめた。
表情は笑ってはいるが、目は笑っていない。]
[いや、笑ってはいるがそれは、鼠を前にした猫の瞳だ。
琥珀の瞳が、まさしく獲物を追い詰めた猫のように黄金の光を帯びて底光りした。]
[しばらくして、]
ふむ…見たところまだお前は大丈夫そうだ。
[「声」の届く範囲をごくごく絞り、囁くようにネリーに話し掛ける。]
ああ。ちょっと聞きたいことがあって……。
[と、ふと視線をずらして周囲を見回し、]
お前の主人は、今はいないのか。
[尋ねた。]
[あはは──と私はそれでも顔は笑っていたが、ひとつの囁きを受けて笑いが止まった。顔はまだなんとか笑っていたが]
は──……?
[水滴を拭き取り、着替えて、あらためて自分の空腹に気付く]
なにかあったかしら。
[店に下り、電話の側のギルバートからのメモに気付く。
ステラのことにかまけて彼の事をすっかり失念していた自分に苦笑する。
昨夜はあんなに彼に固執していたのに…。]
[手早くサンドイッチを作りコーヒーで流し込む]
他の人達はどうしているのかしら…
今の時間なら集まるのはあそこかしら?
[ローズマリーは外出の支度をするとブランダーの店に徒歩で出掛けた]
[ギルバートの行動に若干の疑問があったが、突然の来客の驚きが上回っていた。]
旦那様……ミスター・ダンソックですか?ちょっと今いないみたいで…あの、ミュージシャンの方ですか?
時々いらっしゃるんですよ。1度目の災害の時も、ツアーがてらと言いつつ来てくれる古い友人様などが…
[ただ口を動かしていると楽だからなのか、意味のない言葉を発するネリー。]
いや、ミュージシャンじゃないな。旅芸人に混じって旅したこともあるが。
ちょっと確認したかっただけだ。
[平静な視線でネリーを見下ろし答えた。
不意に身を屈めてネリーに顔を近づける。]
やはり女の方が安定しやすいのか。
[小さく呟いた後に、]
急に力が強くなったり、普段聞こえなかった音が聞こえたり、遠くまで物が見えるようになったりも無いか?
旅芸人ですか。旦那様も若い時はそういう苦労された頃が、
あっ───
[顔が不意に近づく。思わずごく少しだけ背を反らす。]
あまり大きな「声」は出すな。絞って俺だけに聞こえるように調整しろ。
最初は難しいかも知れんが、やってるうちに段々慣れてくる。
内緒話をする時に声を小さくするのと同じ要領なんだが。お前には難しいか。
[私は一瞬だけ視線をそらした。見覚え聞き覚えがあるか思い出そうとした。]
音…じゃあ、この音は普通の音とは違うの…? 誰でもというわけでもないの…? 目は…言われてみれば夜目はいつにもまして利いているかもしれない…あんなにはっきりと見えたのは初めてだったもの。
力は…わからない…
い、いえ…
[『ギルバート』の指す「声」はおおよそ掴めていた。これまで自分の中を飛び交いあった「声」から、どことなく確信めいた自信があるにはあった。]
[ネリーの答えを聞き、少し考えるような落ち着いた響きに変わる。]
……部分的にしか血が覚醒しなかったのかも知れない。そういう例は良くある。
[ギルバートの息がネリーにかかりそうだ。水晶玉のような瞳。ネリーは引き寄せられそうだ。]
や、そんな私に興味があるだなんて。からかわないで下さいよ…
[今日あった彼の発するフレーズには私にとってあまりにっも知らないものが多すぎた。しかし本質は何を問うているのかははっきりと理解できた。]
その…覚醒するともっともっと大きな何かがあるのですか?
からかってるつもりはないな……
気付いているかどうか知らないが、お前にはある種の人間を引き寄せる魅力がある。
それになかなかの美人だ。
[眼前で囁く。琥珀色の瞳が愉しげに踊った。]
覚醒すると……簡単に言えば、肉体的に強くなれるな。普通の人間では叶わないくらいには。
ちょっとした怪我では死に難くなるし、病気も殆どしなくなる。
ただし。代償がある。
[ネリーは『ある種の人間』と言う言葉に。に動揺を覚えた。嗜虐的、変質的あるいは攻撃性の高い人間を呼び寄せる何かが自分にあったからだ。
翡翠の瞳がゆらゆら動く。]
あの…それってつまり…どういう…
「血が目覚める」ということは、肉体が作り変えられていくということだ。
その過程で、精神的に著しく不安定になる。
衝動的になり、攻撃的になる……色んな欲望が抑えられなくなるんだ。
え? そういう──
[ネリーは腕を掴まれた。暴漢に襲われる時は抵抗するならいつもこのタイミングだったが、何故か逸してしまう。ギルバート自身に興味があった、と言うのは甘えだろうか。]
それから、こんな「声」が聞こえてくるようになる。これも落ち着かなくなる原因のようだ。
近くに同族がいなければ問題はないが……居た場合、大体皆混乱するな。
全くない感覚が加わるからかも知れない。俺には分からんが。
[私はハーヴェイが自分に落とした冷淡な口づけを思い出した。あれも単にそうなのだろうか。
そしてギルバートの腕力、これも血の目覚めなのだろうか。]
は、はい。
大体人が変わったようになる……
そこを乗り越えられればまた元に戻るが、殆どそうはならない。
変化の過程で狂ってしまう。
狂ってしまう…? じゃあ私は…?
[私は酷く自分の身が心配になった。そのような通過儀礼はまだなのだろうか。これからなのだろうか。]
お前は……今のところ大して変化してないが、同時に悪い兆候も見られない。
中途半端に覚醒した場合は、多種多様でそれこそ本人次第なんだ。
お前が衝動に屈しなければ、それほど酷いことにはならない。
だが、前もって言っておくが、どうもお前は完全に覚醒できないような感じだな。血が薄かったんだ。
[途惑ったようにこちらを見ているネリーを腕の中に抱き込んだ。
間近でその瞳を見下ろし、悪戯っぽく嗤う。]
拒む気はあるのか?
[まるで何かに取り込まれてしまったかのような感覚がネリーの中に広がる。見上げると人懐っこそうなギルバートの顔。]
拒む気は…拒むだなんて…その…
[言いよどむネリーの耳に唇を寄せ、熱い吐息を吹きかけながら囁く。]
拒む気がないのなら……いいんだろ?
[濡れた舌先で耳の縁をなぞる。]
[甘い言葉に甘い息を優しくかけられ、思わず体を捻る。目を片方だけ閉じる形になる。]
そ…そんな、困るわ…っ
[場所が困るのか、受け入れるのを拒んでいるのか、不明瞭にネリーは答える。]
どう困る。嫌ならきちんと具体的に言わないと、止めてやらないぞ・・・
[耳朶を口に含み、軽く舐る。舌を時折耳孔にも潜り込ませ、耳元でピチャピチャという卑猥な水音を立てる。]
さて。お勉強の時間は終わりだ。
俺が教えて欲しいのは、「ハーヴェイ」の居所だ。
あいつは今何処に居る。自宅には居ないようだったが。
お前、何か知らないか。
そのっ人が見…いいえ、旦那様にみ…ひゃぅっ
[両手で一度ギルバートの腰のあたりを掴んだ。そのまま引き剥がしにかかろうともしたが、今後の期待感もどうしても頭をよぎる。ネリーは結局それ以上の力を出す事ができなかった。]
は…ハーヴェイ?
[思考が鈍りながら考えた。アンゼリカで一緒に自動車に乗った時の──あの男]
そ、それは…あんっ。
さあ……続けて欲しいのか?止めて欲しいのか?
はっきりしろ……
[耳を弄りつつも手を下ろし、ネリーのスカートをたくし上げようとする。]
[二つの大きな三つ編みがさらさらと肩や胸を流れていく。
抗議の喘ぎを漏らしながら、小さな悲鳴が吹き零れた。]
す、好きにすればいいわ……
本当に好きにして良いのか?
[面白がる声音。]
だが、イイ子ぶって耐え忍んでるフリってのは感心しないな……もっと正直にさせてやろうか。
[ククク、と喉を鳴らして嗤った。その瞳には確かに嗜虐の色が浮かんでいる。]
い、イイ子ぶってるのはあなたこそ…じゃないの?
でないとわざわざこんなトコロまで来ないわ。
[スカートをたくし上げられても抵抗しなかった。
乱れたスカートからのぞく太ももが悩ましい。]
[私は言葉に詰まった。既に自分の身体は昂ぶりはじめているのだ。
『所詮女は自分の身体には逆らえない獣なのさ』とのたうち笑うノーマンの声が響く。]
お…お願い…私を楽にして……
そんな偉そうな口をきいていいのかな? お嬢さん。
そうだな。がっついてると思われるのも癪なんで、ちょっとオイタをするだけにしとこうか……
[何か良からぬことを思いついたようで、琥珀の瞳が邪まな光を放った。]
[私は取り立てて彼の居場所を黙秘するつもりなどなく、知っていれば洗いざらい教えるつもりでもあった。
快楽を与えてもらう事を引き換えとする交換条件も一瞬頭をよぎったが、交渉は私の最も不得意とする所だ。
それにハーヴェイの居場所は既に何時間も、半日も過ぎているので正確さには欠ける。]
おそらく…彼は…
[切り出し方に悩む。]
別に正確でなくていい。立ち寄りそうな場所で構わない。
待ち伏せしたいんだ。
「声」を出して呼びかければ大体の居場所は分かる。
だが、それではハーヴェイに警戒される恐れがある。
そんなに酷いことはしないさ。
お前が助けを求めたくなるようなことは。
[ネリーの腕を掴んで、引っ立てるように家の中に入る。]
[私は一瞬顔を伏せた。赤らめているかもしれない。]
彼とは…一度会ってアンゼリカで別れたわ。
バンクロフト邸に行くみたいだったから、ヒューバートさんやシャーロットと今も一緒かもしれない。
でも…彼もまた、あなたとは違う何かがあるわ。
ううん、あっちのほうが殺気立ってるというのかしら、心に余裕がなくて、いっぱいいっぱいで、まるでなにかに憑依されているようで…
[ローズマリーはブランダーの店に向かう途中で立ち話をしている人達からアーヴァインの屋敷が火災で焼け、彼が亡くなった事、教会に暴徒が入り込みルーサーが殺された事を知った。
何かが狂ってきている…。
ローズマリーはなぜかそう思った]
[「まるでなにかに憑依されているようで…」というネリーの「声」に、一瞬だけ重い何かが流れた。]
……そうか。
ありがとう、ネリー。
[感謝の声音は、間違いなく本物のようだった。]
俺はこれから行かなきゃならない場所があるんで、ちょっと時間が無い。
だから、ネリーさんとたっぷり楽しむのはまたの機会ってことで。
[ネリーのエプロンを剥いで引き裂き、細い紐のようなものを作った。]
さあ、床に座って脚を広げて貰おうか。
嫌なら構わない。力づくでそうするだけだ。
その方が好みかな?
[顔をあからめたネリーを笑いながら眺めている。
ネリーが従うものと疑っていない表情だ。]
ンン?
お礼したくても俺には金が無い。身体で礼をするぐらいしか出来ないぜ。
後は……お前が自分がなったものについて、もっと詳しく教えてやるくらいか。
きゃっ!な、何をする気なのあなた…!?
[引き裂かれたエプロンを見て驚き、一瞬体中を見られたような気がして立ちすくんだ。
しかし何故か言われるがままに腰を床に下ろす。脚は決心がつかないのか、2分の1、3分の1程度で動きを止めた。]
……そう、それでいい。結構素直だな。
[腰を下ろしたネリーの前に片膝をついてしゃがみ込む。]
手。手で足首掴んで。
[事も無げにネリーに命じた。]
え…こ、こうですか…?
[嫌悪とも期待とも受け取れる色を発しながら、言われるがままにネリーは手を足首の所へ持っていった。]
そうそう。そんな感じ。
[ネリーの手首と足首を一纏めにして片手で掴むと、エプロンで作った細紐で縛っていく。
右手と右足首、左手と左足首がそれぞれ一括りにされた。]
よし、準備完了。後は仕上げだな。
[暢気に言い捨てて、部屋を出ていく。
しばらくして、蜂蜜の壜を持って戻ってきた。再びネリーの開いた脚の間にしゃがんで、壜の蓋をねじり開けた。]
これ、キッチンから借りたよ。
ちょっと待って下さい…!
そんな…事されたら私どうにかなってしまいます!
[状況を察したのか、懇願を始めた。一方的に何かをされる事は多かったが、食物を利用する事はなかったからだ。]
どういうもこういうも。
ちょっとした大人の遊びだよ。
そんなに焦らなくていいよ。
[抵抗できないネリーのスカートを、腰の上辺りまで捲くり上げ、一見とても人の良さそうな笑顔で答えた。]
「どうにか」なってもらおうとしてやってるんじゃないか。ネリー。
紐はそんなにきつくしてない。だから、頑張れば外れるかもな。
……ちょっとじっとしててな。
[スカートの奥の下着に指を掛け、腰から抜いたナイフを宛がいサイドを切り裂くと、破れた下着を取り去った。]
[ああっ、またこんな……とネリーは息をのんだ。
刃物が動いている以上抵抗できない。ネリーを覆う薄く白い下着があっという間に取り払われた。]
ンン…まあ焦らしといえば焦らしだが…。
[蜂蜜に指を突っ込みたっぷり掬い上げると、露わになったネリーの秘所に塗りつけた。
指が敏感な部分をまさぐり、満遍なく蜜を塗り込めていく。]
ほい終わり。最後にメインゲストを呼ばないと……
[部屋の入口でびびったように固まっている小型犬に近付き、暴れるのも構わず抱きかかえ、ネリーの側に連れてきた。
床に下ろされた途端、犬は一目散に家具の陰に逃げ込んだが、それ以上逃亡も出来ず、じっとこちらを見ている。]
上手く行くかどうか分かんないけど、まあ首尾よく行ったら精々楽しんでくれ。
[立ち上がり、ネリーと部屋の隅で震える犬の両方に向かってウィンクした。]
ワン公、お姉さんに遊んで貰いなさい。
あ…あ…駄目よ。アインシュタインちゃん…!
[あまりにも見慣れた小型犬が連れられてきた。
普段はよくネリーに懐く子だ。ネリーの少し違う様子にか、ギルバートがいるからか、少し警戒感をもっているが、同時に興味も強くもっていそうだ。]
いい子だからこっち来ないで…あ、あ、ン、ン、
や、んぁ、ダメ………ひぁ、ひぅ、ああっ!
[あとはお好きなように、と去っていくギルバート。だがネリーはそれ所ではなかった。
小型犬は濃厚な匂いを発するネリーの秘部へ鼻を嗅ぎながら近づき、舌を出し始めた。
ねっとりとした、ざりざりとした舌がネリーを刺激する。雪解けのような音が部屋を支配する。クレヴァスを虐め倒され、下肢は閉じる事ができず、ただ悶えるネリー。発作的に太ももが痙攣しそうだ。]
それ……だめ……ンンっ!
[ネリーは切なそうに*顔が歪んだ*]
あっあぁ後でってギルバ……
ああっ何これ……!
[必死にこちらの「声」は出すまいと思っていたが、一言だけ発してしまう。]
――回想 昨夜酒場地下にて――
[果て行くローズを恍惚の先で捉えた後、静かに寝息を立てる彼女をそのままに、わたしはそっとベッドを抜け出し乱された着衣を急いで整えその場を後にする。
女は余韻を愉しむ生き物だと男達は言うけれど、私にとっていかなる相手との行為でも、達してしまえばそこで終わり。それがたとえどんなに愛しい相手であろうとも、後戯を与え合ったり温もりにまどろむという、甘ったるい物を望むことは有り得なかった。]
おやすみ、ローズ…いい夢を――
[彼女によって剥ぎ取られた汚れた下着を身に着ける気にはなれず、スカートのポケットに捻じ込み一階へと駆け上がる。そして人影が居ない事を確かめて、わたしは酒場の入り口から外へと身を滑らせた。
その時振り返ったのは単なる偶然だったのだろうか?]
[不意に目に止まったCLOSEDの文字――
そのプレートの文字になぜかわたしは違和感を感じる。]
『あら…?あのプレート…。わたしが来た時にもclosedだったかしら…』
[半分以上が一時的に滅してしまった記憶を辿る。訪れた際、わたしはひどく混乱していた。しかし店が開いているか閉まっているか位は無意識で確認していただろう。
あばずれと名高いローズが、昼間から店で情事に励んでいる事は知り得た事実。だからわたしは常にプレートを確認し、尚且つノックまでして店の主である彼女自身にドアを開けさせていた。それは自己防衛の為でもあり、自らが被っている仮面を暴かれないようにでも有った。きっとわたしがローズが他の男と目合う姿を目撃したら――]
[様々な懸念から身を守るように、幾重にも防御策を張っていたわたしが幾ら慌てていたとはいえそこまで見落とすほど乱れていたとは思えない。]
だとすれば…誰かが変えて行った…。でも誰が?何の為に…?
[そこまで呟いてわたしはいくつかの仮説を組み立てる。店にはソフィーが居た事。彼女が何らかの理由で降りてきた際にわたし達の行為を覗いてしまい、思わず外に出た際プレートを変えて行った。或いはギルバートという男が――]
でもその二人が変えて行ったというのには、今ひとつしっくり来ないけど…。でも解っているのは酒場でのやり取りを誰かが確実に見ていた…ということかしら――…
[確認するように一人語ちながら、わたしは頭を抱えた。何故これ程までに頑なに隠してきた思いを、あんな無防備な状況で晒してしまったのだろうか。幾らリックの事で混乱していたとはいえ、わたしがこの地から迫害を受け追い出されたらもう二度と身を寄せる場所など無いというのに]
[常軌を逸脱してはならない。それは痛いほど解りきっていた事実。だからローズへの思いも三年以上の間押し殺してきたのに。湧き上がる欲望は契約で宥めても彼女への思いは誰にも打ち明けずに過ごしてきたのに――]
迂闊…だったわ――
やっぱりパンドラの箱は開けてはいけないものだったのに…。
[わたしは口惜しさを紛わすかのようにきつく唇を噛んだ。そして逆恨みのようにあのギルバートという男の、人懐こい笑顔と何処か見透かしたような眼差しを思い出し――]
あの男に会ってから…わたしの歯車は狂って行ったわ……一体何者なのよ…あの人――
[忌々しく吐き捨てた。そしてローズが彼に首ったけになっていた事実をも思い出したわたしは、今し方まで彼女が触れていた部分が間接的にあの男に穢されたような気がして]
気持ち悪いわ…ローズも…彼女に触れられたこの體も全部…。早く洗い流してしまわないと…
[気が触れそうな感覚に陥りながら、わたしは自宅への道を急ぎ室内に入るなり着ていた衣類を全てゴミ箱へと投げ捨て、熱いシャワーで全身を隈なく洗い流した。]
[赤く染まるまで擦り流した膚に描かれた罪達は、滴るような色艶を纏って。
主と共に柔らかいベッド、深い眠りへと落ちていく――]
美術商 ヒューバートは、酒場の看板娘 ローズマリー を投票先に選びました。
──町に隣接する森の中──
[男は何かから逃げるように森を走っていた。
靴を履いていない疵だらけの素足には乾きかけた泥がこびり付き、何処かにひっかけでもしたのか、汗と泥で薄汚れたシャツは継ぎ目が裂けて肩が露出したりしていた。]
[艶の褪せた茶髪に木の葉を絡め、今も腕や顔に小さな擦過傷を増やしながらも、男は痛みを感じないかのように、ひたすら前だけを見据えて薄暗い森を駆けて行く。]
[強いメンソールの香りを纏ったナサニエルが近づいてくる。
鏡を見るのは嫌いだった。
自分の姿は兄そっくりだったから。
だから自宅には鏡がなかった。
アンゼリカでもバンクロフト邸でも、鏡は決して見なかった。
だが、自分を見つめてくるナサニエルの瞳を見てしまった。
そこに写るのは、何に見えたのだろうか]
…兄さん…あぁ、ここに…いたんだ…
[表情のない顔、虚ろな目で答えを返す。
ナサニエルの髪に触れた手は冷たかった]
ハッ……ハッ……ハッ……。
[男の線の細い痩せた身体からは肉が削げ落ち、一見すると急な斜面や起伏の激しい地形を有する森を駆ける体力など残ってはいないかに見えたが、不思議と息を乱す事もなく、獣のように浅い呼吸を繰り返し、奥へ奥へと進んで行く。]
[やがて一本の巨大な楡の木の根元にぽっかりと空いたうろを発見すると、足を休める事無くちらりと後ろを振り返り、誰も追って来ていないと知るや、転げるように中へと駆け込んだ。]
[光の届かない暗い穴の中で、男は膝を抱えて震えていた。
真っ赤に充血した眼は辺りを窺うように闇の中でぎょろぎょろと動き、時折聞こえる鳥の羽ばたきに一々びくりと肩が跳ねた。]
── 回想 ──
ギシギシと鳴るベッドの上でユーインは自分のペニスを俺の中に突っ込んだまま、面白そうに笑っていた。
お互い溶け合ってから既に数度絶頂を迎えていたがそれでも離してくれなかった。
確か、シャーロットと一緒にいた所を見つかったか何かで彼は異常な程しつこく俺を求めていた。
俺を見下ろすユーインの手には安全ピン。
何をされるか分からず、懸命に抵抗したが、数度に及ぶ行為の後で力は入らなかった。
「ねぇ、ハーヴ。俺達、ずっと一緒だよね?」
うっとりしながら呟くユーイン。
そういいながら、安全ピンを俺の耳に当てた。
「…俺以外を見るのは許さないから」
ととても綺麗に笑い、針で俺の耳を貫いた。
涙を流す目の前は真白に、それを見る目の裏は真赤に染まった]
[しばらくすると落ち着いたのか、膝を抱えた体勢のまま瞳を閉じ、薄汚れたその身を照らす陽の光が地平線の向こうに姿を消すまで、しばしの休息に身を委ねた──。]
[その後彼がねじ込んできたのはあのアレキサンドのピアス。
光源によって光が変わって見えるのだという。
満足そうに、真赤に腫れた俺の耳にキスをして笑って言った。
─『一つの石に二つの色って、俺達みたいだろう?』
嬉しそうに笑うユーイン。こうすることで俺を束縛したかったのか。だが俺は違った。
赤い光は太陽の下、青い光は影の中でしか見えない。決して混ざらず、同時に見えることもない二つの色は完全に別なもの。
俺はこのピアスを兄と自分の境界線としてつけていたのだ。
だが、今はもうこの境界線が薄れつつある。
自分を見失いそうな、そんな予感が した ]
「兄さん」……?
「ここにいた」………?
おい、ハーヴェイ?
何があったんだ………
[触れられた手の冷たさに、背筋が凍るような心地を覚え、ビクリと肩を震わせた。]
――――
She had no way of knowin' I was leavin' home for good
娘は私がずっと家に戻らないのだということを知るよしもない
I turned around and there she was again
私が振り向くと彼女はまだそこにいた
As she said to me
こう云いながら
Daddy, don't you walk so fast
パパ、そんなに早く行かないで
――
―車内―
[イアンをこれから探しに行くというのに、あまりに不吉な歌詞だった。私は苦笑いしながら、チューナーをいじる。
スコット・マッケンジーの『San Francisco』がかかった。]
Summertime will be a love-in there〜
私は小さな声で口ずさんだ。
…兄さん…
あぁ、この人……この人が……
[ぎょろり、と目だけでナサニエルを睨む]
[シーツの中の左手、チャリンと何かをつかんだ]
──車内──
[スピーカーから聞こえて来た歌詞に、窓の外へと向けていた瞳をチューナーを操作するヒューバートの手へと移す。]
[Daddy, don't you walk so fast
Daddy, don't you walk so fast
Daddy, slow down some 'cause you're makin' me run
Daddy, don't you walk so fast]
[すぐに違う曲へとチャンネルが移されるが、
一度耳に届いた歌詞はしばらくソフィーの頭に留まっていた。]
…………………?
俺が、何だ?
[ハーヴェイに睨まれ、じりじりと後ろに下がる。]
ユーインが……何だ。
言いたいことがあるなら、口で言ったらどうだ。
心配いらないさ。
きっと、すぐ見つかる。
[ソフィーの表情を伺いながら、そう口にしていた]
なにか、イアンの変わった癖や習慣だとか……
よく気にしていた場所だとか、心当たりはないか?
[言いたいことは行動が示したのだろうか。
左手に音を発したのは自宅の鍵だった。
しかし鍵とは時として殺人にも及ぶ鋭い凶器となる。
ナサニエルの喉元目掛け、異常な勢いでその小さな凶器を閃かせた]
[申し訳ないといった風に頭を振り]
──…いえ。
父も、私と同じく社交的な人間ではありませんでしたから…。
[それから気付かれない程度の細い溜め息を吐き]
よく行く所と言えば…、
アンゼリカか雑貨屋くらいだったでしょうか……。
[目を見開いて、ハーヴェイの行動を見つめていたが、彼の左手に閃く銀色に、思わず表情を強張らせる。]
なっ……………!
[ハーヴェイとの距離はあまりに近く、逃げ出すのはかえって危険と判断したナサニエルは、咄嗟に両腕で喉元を防御した。]
そうか……。
[雑貨店はというと、リックが帰らぬ人となったと帰宅した私にマーティンが話していたことを思い出す。
そして、ウェンディはというとまだ帰ってきていないのだと。]
『どうなっているんだ――』
[一人残されているであろう、ニーナも気がかりだった。]
じゃあ、雑貨店に行ってみようか。
[車を雑貨店の方へ向けた]
――!!?
[私は雑貨店へたどり着き、絶句した。
窓ガラスが割れ、そこから覗く店内の様子は荒れている。
ラング牧師の自宅を訪れた時のことが脳裏を過ぎった]
ソフィー、すまない。
ちょっと――
[車を停める間もなく、雑貨屋の中に駆け込んでいた]
ニーナ!!
[極度の疲労で何故こんな攻撃ができたのかわからない。しかし銀色は寸前で空を切る]
……あ…ぅ……
[気力が切れたのか、そのままぐらりとナサニエルの方へと倒れこむ]
…ユー…イ………どう…し……
……約…束……を……
[そのまま、意識を失う。もう涙は出なかった]
[着くなり飛び出して行ったヒューバートに驚き、
後を追うように雑貨屋へと向かう。]
『今度は何が──…。』
[割れたガラスを避け慎重に扉を潜った。]
…………………ッ!
[銀色の一閃がギラリと目の前に入った瞬間、ナサニエルは思わずそこから目を逸らす。]
……………ん?
[下手したら大きな怪我を負うかもしれない――そんな覚悟と恐怖の入り交じった目をしたナサニエルの視界に、手にした凶器を振りかざしたまま、それを当てる寸前の所で倒れ込むハーヴェイの姿が入った。]
なんだ?おい、ハーヴェイ!しっかりしろ!!
[何かをうわ言のように呟くハーヴェイの肩を揺さぶる。]
ちッ………!
ったく……人騒がせな………
[虚ろな表情を浮かべるハーヴェイの目を見て、ナサニエルは安堵と不安の入り交じった心地を覚えた。]
ったく……兄も弟も、揃いも揃って……
[力無く崩れ落ちたハーヴェイの手から鍵を取り上げ、棚の中にしまいこむ。ナサニエルはひとつ大きな溜息をつき、ハーヴェイの身体を再びベッドに寝かせた。]
―雑貨店―
くそっ!!
[拳が壁に叩きつけられる。
ニーナから事の顛末を耳にした私は、怒りに身を打ち振るわせていた。
窓際に寄り、粘着テープが残されたままの板ガラスを外す。忿怒に血が沸騰する思いだった。]
ソフィー……
[辛うじて感情を押し殺した声が彼女を呼ぶ。]
すまない。
これから、どうしても片付けないといけない用事ができた。
できれば……ニーナについて話を聞いてやっていて欲しいが……
イアンのことが気になるだろうし、誰か人を探してその人を頼ってくれてもかまわない。アンジェリカなら、誰かいるだろう。
くれぐれも、できる限り一人であぶない処へ行くのは避けてくれ。
一度はここに戻ってくる。もし、待っててくれそうなら、その時合流しよう。
[雑貨店でいくつかの物を購入し、準備を整えた]
──ブランダーの店・店内──
[中は惨憺たる有様だった。
前に来た時は商品が散らばっているだけだったが、今度は何と、壁といい棚といい、乾いて変色した血で赤黒く染められていた。]
……酷い、何…これ………。
[店内の何処かから生臭い香りが押し寄せて来る。
思わず眉を顰めてハンカチで口元を覆った。]
[奥から戻って来たヒューバートの荒々しい行動に驚き、ニーナから何を聞いたか訊ねようと思ったが、感情を押し殺し慌しく動き回る姿を見て、今は何も聞かずにおこうと思った。]
ニーナさんは奥に?
さァて、どうしたモンか……
こいつ野放しにすんのは危険かなァ……
[そう呟くと、ナサニエルは自分の身体に巻き付けておいた革のベルトをハーヴェイの両手首に巻き付け、彼の動きを制限した。]
まさか、こんなひ弱そうなヤツがカポエイラの戦士とは思えねぇしな……。ま、手首縛っておけば十分だろ。
[『まさかこんな場面で、ボンデージの技が役に立つとはなァ…』自嘲気味な表情で髪を掻きむしると、ナサニエルはどっかりと椅子に座った。]
落ち着くまで寝てな。
それとも、俺とユーインの話でも聞きたいか?
[煙草に火をつけ、ベッドに寝かせたハーヴェイを見下ろした。]
――室内――
[気がつくとわたしは暗闇の中に居た。どうやら何処か知らない場所へ連れて来られたらしい。
誰に?
解らない――]
[辺りを見渡していると、次の瞬間スポットライトのように眩い光が一点を映し出す。わたしの瞳はその光に導かれるように視線をそちらに移した。]
[光の中に人影が見える。よく見るとそれはローズだった。彼女は絹の布一枚を羽織っただけの、あられもない姿で微笑んでいた。口許は艶やかに歪み、見るもの全てを誘惑するかのようにそれはそれは色っぽく微笑んでいた。
垂涎するかのように、わたしは彼女の姿に魅入っていた。いいえ、甘く滴る蜜を舐め尽してしまいたいと、禁断の果実に手を伸ばしていたかもしれない。
しかしわたしの願望は叶う事無く目の前で打ち破られてしまう。そう、あのギルバートという男によって…。]
[突如現れたギルバートに、ローズは蕩けるような眼差しを送り、彼の体にしなだれ掛かり濃厚なキスを交わし始めた。わたしの目の前で。見せ付けるかのように。男もまたわたしの心情を知っているのか、わざと見せ付けるかのようにローズの躰へ自らの指を滑らせる。項に、胸に、腰に、そして太腿に――]
[彼の手管に気持ち良さそうに目を細めるローズの姿を、わたしはしかし目を逸らす事など出来ずに食い入るように見つめてしまう。屈辱を味わわせられていると解っていながらも。唇を噛みしめながら]
[やがて満を持したローズの躰に、男は屹立した男性器を誇らしげに埋め込み、また彼女もそれを待っていたと言わんばかりに艶かしい嬌声を辺り一体に撒き散らす。
屈辱の瞬間――
わたしは目の前が赤く染まるのをスローモーションのように眺めていた。]
[と、そこで場面が一点する。
次に映し出されたのは、見慣れた景色。見慣れたというより、まだ記憶に新しい景色というべきだろうか。
場所はローズと密会を行った、酒場の地下。彼女のおばが以前男を引き込んで性愛を交わして居たという場所でもあり、わたし達がいけない夢を貪った場所]
[湿り気のある澱んだ空気、古びたベッドの上、彼女が裸で横たわっていた。胸にナイフを突き刺して。
辺りには夥しい血液が流れ出し、寝具はじわじわとどす黒い色に染まっていっている。刺されてからまだ間もないらしい。彼女の躰は時折、ピクリピクリと痙攣を起こしていた]
[ふと、わたしは自分の左手に熱い物を感じ視線を向ける。そこには東洋の彫師に描かせた赤い眼をした蛇が、舌をチロリと覗かせ満足そうに蠢いていた。手の甲にまで描かれた獣、その先端にある指先からは鮮血がぽたぽたと滴り落ちている]
[その雫を見てわたしは悟る。
嗚呼、わたしの中の悪魔(嫉妬)が再び目を覚ましてしまったのね――と]
――朝 自宅――
[差し込む光によって、わたしは悪夢とも呼べる眠りから目を覚ます。
素肌に乗せられていたブランケットが、慣性によって腰元へするすると落ちていく。
上体を起こして一度伸びをする。勿論辺りは血の海なんかではない。]
…あぁ…夢…。
[無防備な左手を擦りながらわたしは蛇の目がまだ濁っている事を確認してほっと胸を撫で下ろす。と、同時にいつ現実になるのだろうかという漠然とした不安に身を震わせた。]
[ギルバートという男の手によって目覚めさせられた嫉妬が、いつ本来の姿に戻ってしまうか、それはわたしにも解らない。ただ一つ言える事は、早い内に手を打って置かなければ、今見た夢と全く同じ事をわたしがローズに施してしまうという事だけだろうか。]
それだけは…何としてでも避けたい……っ…ごほっ…ごほっ…
[連日の無理が祟ったのか。最近収まっていた咳が再びわたしの体を蝕む。
――これもいい機会かもしれない。
咳き込む身体を屈めながらわたしは思う。体調不良を理由に彼女に近付かなければ。お互いの感情も醒め、少しは危惧から解放される事だろう。]
そうよ、昨夜の一時は夏の夜の夢。そう思ってしまえば…再び悪夢なんて見ることも無いんだわ。
だからしばらくはローズのお店にも行かず、せんせいの診察を受けて…。ゆっくり体を休めることに専念しないと…。
[まるで自らに言い聞かせるかのように独り言を呟くと。わたしはベッドから這い出し、出掛ける準備を行う。勿論ローズの所ではなく、せんせいの所へ行く為に。]
そういえば…この前黙ってせんせいの家から帰ってきたこと、すっかり忘れてたわ…。
[そんな呑気な事を呟きながら家を後にしたわたしが、村で起きている事柄を把握するのは、まだ*もう少し先の事*――]
[出掛けても構わないと言うヒューバートを遮るように]
私も彼女が心配ですから──。
ヒューバートさんが戻るまで、此処にいます。
[そう言って、頷いた。]
[差し出された拳銃を、始めは戸惑い気味に見つめていたが、やがて決心したように受け取り、震える手でバッグへと仕舞うと]
──…使う機会が無い事を祈ります。
[伏せた睫毛を震わせ、小声で祈るように呟いた。]
[あれからそう長くは経っていないだろう。
何故かそう思った。
睫が震えるのは目覚めの前兆]
…ぁ……?
[いつもなら自由に動くはずの体が動かない。朦朧とした頭で自分の体を見てみれば手首はベルトで拘束されていた。隣にはまたメンソールを燻らせるナサニエル。
煙草のにおいに顔を顰め、力ない視線と言葉で訴える]
…何だよ…これ……?
命狙った相手に追い出されず、それどころかベッドに寝かせて貰っているだけ感謝してくれよな……ッたく。
ひとまずおとなしく寝てろ。
[呆れたような目をして、ベッドに横たわるハーヴェイを見つめる。]
おい、何があった。
単なる悪戯や出来心って類の話じゃあねえよな……?
ついでに、ここ数日でヘイヴンで何があったか教えて貰えるとありがたいんだが。
私もそうだといいと祈っているよ。
どうか、無事で――
[別れ際に、ソフィーを力づけるようにわずかに肩を抱いた。
やがて、エンジン音は雑貨店から遠ざかっていった]
―ダンソック邸―
おやおや。こいつは主人の趣味か?
それとも、君の?
どっちにしても昼日中から随分と――
[足を開いたまま紐で束縛された彼女のスカートの下には小型犬が半分躰を埋めていた。尻尾がバタバタと振られ、後ろ足は昂奮したように、床を敲く。
犬の荒々しい息づかいとくぐもった唸り声。ピチャピチャと水音が響き、女の押し殺した声が微かに漏れていた。
顔を見られぬよう後ろ側からそっと近づいた私は、彼女の背中に硬い金属を押しあてていた。]
――動くな。
[緊迫し感情を押し殺した声が命じる。
その家から一ブロック離れたところに目立たぬよう車を停めた私は、音を立てぬよう家の中へ滑り込んだ。そこで見たものは意外すぎる光景だった。いや――むしろその家の主人の人となりに大きな疑惑を持って訪れた私にとっては、やはりという落着があっただろうか。
そこはボブ・ダンソックの自宅。犬と戯れていたのは、使用人の女性、ネリーだった。]
──ブランダー家・店内──
[遠慮がちにレジカウンターの奥の部屋へと向かう。
陳列棚の陰に黒っぽい塊が倒れているのに気付いたが、視界に映ったそれが何かを把握した瞬間、その場にへたり込みそうになり、慌てて眼を逸らした。]
『何……、アレ……。誰があんな事を──?』
[目にした残忍な行為にざわりと肌が総毛立つ。
刺殺されたと言うシャーロットの事が頭に浮かんだ。]
………やれやれ。
この町の住人は、どいつもこいつも、兄上が好きなんだなァ………
[煙草越しに、呆れたような溜息をついた。]
…礼は…言います。申し訳なかったです…。
短慮に過ぎた。つい…。
[冷めた頭で詫びを入れるが、ユーインとのことはまだ口にせず、最近のことについてだけ、自分が覚えている分だけ至極簡潔に話す。とは言っても自分が知っているのはそう多くもないのだが]
…ルーサーさんが…自宅を壊され、殺されました。
バンクロフトの奥方、エリザさんが土砂災害の事故でお亡くなりに。
そして…アーヴァインさんも死んだという噂を。
事故か他殺か、俺は知らないですけど。
俺も…あまり外には出ないから…
[事実、この程度しか知らない訳なので嘘のつきようがない]
ふぅん………
[口に咥えた煙草の先を歯で上下させながら、ナサニエルはハーヴェイの話に聞き入る。]
あの口やかましい医者に、バンクロフト家のご夫人に、アーヴァインが、ねぇ……死んだか。
いくら水害があって町ン中がヤバイって言っても、家をブッ壊されて殺されたとか、「事故か殺されたか分からない」とかって話は、そりゃあまた穏やかな話じゃねえよな……。
[両腕を組み、背凭れに身を預けてナサニエルはしばし考える。]
ま、それならお前が落ち着かないのも分からんではないよなァ……
ん。教えてくれてありがとうな。
ニーナさん、ソフィーです。
……入りますね。
[声を掛け、遠慮がちに寝室に入る。
ニーナは憔悴した顔でこちらに会釈した。
ヒューバートにした話をもう一度詳しく話して貰い、ニーナの身を襲った恐ろしい出来事を知ると、この町に起きた異常な事件の数々が思い起こされ、只ならぬ気配に密かに身震いした。]
[暫くこの『声』を聞いていないし送っていない。何か色々と有りすぎて精神が磨り減っているのもある。
先程飛び散った殺気は誰かに拾われただろうか─]
………俺をブッ殺そうとしないんなら、な。
そう約束できるんだったらベルトは外してやるし、あんたが持ってた鍵も返してやるよ。
[ハーヴェイの目を見て答えた。]
─バンクロフト邸─
[玄関に出た使用人と思しい初老の男からヒューバートに取次ぎを頼むが、彼は「生憎と外出中でございます」と言うばかりで行方は教えてくれなかった。それならば、とハーヴェイがここに滞在しているかと尋ねても、「存じません」の一言を繰り返すばかりだ。
その慇懃な態度から、余所者への不信感と警戒感を感じ取り、諦めて早々に引き上げた。
バンクロフト邸の横たわる高台から町へと降りていく私有道路の坂を、ゆっくりと歩いて下りて行きながらしばし考える。]
さて。どうするよ。
忍び込むのは簡単そうだが……この状況じゃ意味が無い。
[マールボロを一本取り出し、口に咥える。]
……そんな物騒なこと、もうしません…よ。
約束…します。
鍵は返してもらわないと俺が家に帰れないんで…
[ナサニエルの目を見ようとはしない。幾分言葉は歯切れが悪かった]
―自宅―
あ、ん、ふ‥ひッ!
[半袖、ベルト付きのブルーのワンピース。上はポロシャツのようになっていて、下はやや長いスカートになっている。ベージュのベルトでまとめている。
エプロンと下着は剥ぎ取られ、はだけられた秘部は小型犬の舌になすがまま、わいせつな愛撫におののいていた。]
んっ、ンンッ!!
[突如、背後に冷たいものを感じた。目を見開き、必死に気力をふりおこして後ろを見ようとする。]
ふぅん………
[ハーヴェイを拘束している革ベルトを外し、彼の両手を自由にしてやった。が……]
ま、鍵はあんたが帰る時に返す。
万が一ってこともあるからな。
あァ、絶対に返さないってことはないから安心しな。
[警戒は解かぬまま、ナサニエルはハーヴェイの申し出を半分断った。]
………で。
あんたの兄が、どうした?
話したくないンならそれでも構わないが……に聞きたいことがあったらどうぞ。
[自由になった手を確かめながら問いかけられたことに半分だけを答える]
……一つ、聞きたかった。
ユーインと…何をしていた?
[懐に落とし込むようなゆっくりとした口調で問う]
[チリッと弾ける、殺意。
それは微かではあったが、もう殆ど聞こえなくなった「血族」たちのノイズなどよりはよほど大きく。]
──ブランダーの店・寝室──
[一通り話を聞き終えると、疲れを隠せない様子のニーナに眠るよう促し、自分はベッド脇にスツールを運んでそこに腰掛けた。]
──…ふぅ。少し疲れちゃった。
[静かに寝息を立て始めたニーナを見下ろしひとりごちる。
手は無意識に拳銃の入ったバッグを掴んでいた。]
[私が再び目覚めた時、パパの姿は何処にもなかった──。
見慣れ始めた石壁のつめたく暗い室内と私を、1枚の透明な蓋が隔てていた。私は驚いて左右を確かめようとする。私は私の身長にぴたりと一致した透明な箱…──柩に横たわっていた。]
──…待って、パパ!!
行かないで、私はまだ死んでいないッ──!
[咄嗟に叫ぼうとするけれど、相変わらず声は出ない。
ただ、声が出ない理由が違っていた。指一本を動かすにも、身体のすべてが重くて他人のものの様で有るのはかわりはなかったけれど、声が出ないのは喉がカラカラに乾いている所為だった。]
……私は死んでは居ないわ。
[私は心の中で自分に言い聞かせるように呟く。
「本当に?」と言う声が私の中で沸き上がる。
相変わらず、台座の同じ位置にルーサーさんの遺体は横たわっており、あの青い光もルーサーさんのちょうど胸の上に静止していた。
私には私の胸の上にあの<光>は無いように見える。そして確かに肉体の感覚がある。でも、誰かからみれば私もルーサーさんと同じなのかもしれない。彼の胸の上に留まる青い光は、何かを懺悔し何かに絶望しているかのように見えた…──。「マリア…」とかすかに聞こえる声は牧師さまのものだろうか。
ルーサーさんのあの青い光も、やがて色を失い白光と化し、天井から空へと昇って行った二つのように永遠にこの世から離れてしまうのだろうか。私は考える。それにはどれ程の時間が掛かるのだろう。私にはそれがとてもおそろしく思えた。]
[その時、私の柩の置かれた位置から左斜め向う側にあった重い扉が開いた。頑張れば片手で持てるほどの大きさ、つまり然程大きくは無い蓋の無い白い箱──と言うよりはプレートのようなものを抱えた男性が、静かな室内に入って来るのが見えた。
光があまりにも眩しく懐かしくて、私は涙が込み上げてくる事を自覚する。扉は男性の背後ですぐに閉まり、男性は闇の中を慣れた足どりでこちらに向かって歩いてくるのが見えた。]
──彼に私が生きている事を伝えなくては。
──いいえ、私が生きている事が知れれば、逆に殺されてしまうかもしれない。
[戸惑ううちに彼は、私のすぐ近くまでやってきた。
ユージーン・アンダーソン。特徴のある髪型と体格のシルエットだけで分かる。それは、つい先日、叔父の葬儀で世話をしてくれた墓守だった。と、言う事はここはやはり「安置所」なのだ。]
[安置所。その言葉を私が噛み締めている間に、ユージーン・アンダーソンは、私の柩の向かいに位置する台座に、その白いプレートを置いた。
私は当然のようにプレートの中身を覗き込む。
それは──、]
リック!
[…正確にはリックの断片、あるいは残骸。
プレートの大きさは、リックの身体がわずかしか回収されなかった事を示して居るのだろう。私が一目でそれがリックであると分かった理由は、ヘイヴンに一人しか居ないウェーブの掛かった美しい金髪の色のためだった。
リックは店に帰り着く事がなかったのだろうか。それにリックと一緒に消えたウェンディは何処へ行ってしまったのだろう──。ノーマン叔父さんがまさか二人を…?]
…リック、一体何があってそんな姿になってしまったの?
ウェンディは無事なの?
[リックを運んで来たユージーン・アンダーソンも、プレートの上のリックを眺めているようだった。「喰われてしまったなら、どうにもなら無いな。」ユージーンはそう呟くと、私が思い切って口を開く前に扉から外へ出て行ってしまった。重い扉を外から施錠する音が室内に響いた。
「喰われた」と言う言葉を私は口の中で転がした。
──まさか人間が人間を?
リックであった「モノ」の上には、ルーサーさんのような青い光は無い。それは「喰われた」所為なのか、まだリックの光は、発見されなかった身体のパーツと共にヘイヴンの何処かを彷徨っているのか。]
脅しじゃないんだ。
撃つぜ?
[押しつけている拳銃に力を込めた。銃口が彼女の背中にめり込む。傾けられかけた顔を捉えると、彼女の目を覆うように黒く細い布を巻き付け、目隠しとした。
唇に触れる。彼女の口元はどうやら覆われてはいないようだ。]
……………ああ。
こうなっちまうと、あんたを誤魔化すのはかえって逆効果になりそうな気ィするから、あんたに従うとするか。
本来なら「契約」を交わした相手との出来事は、絶対に秘密なんだがなァ……ま、相手はこの世にゃいないことだし、時効ってコトで。
[時折、指先をじぃっと見ながら、ナサニエルは喋り続ける。]
俺は、ユーインと時々セックスしてたんだよ。
ユーインから依頼を受けた上での肉体関係を…って寸法だ。
………「俺と遊んで」という、あいつからね依頼の元にな。
……手間かけさせやがって…──ッ
[彼は──誰が見ているか分からぬ以上、全速力など出せよう筈も無く──それでも許される限りの速度で、目的地に向かって*駆け出した。*]
はあう…っ?
[家に誰が押し入っているのか分からなかった。拳銃の厚み、音の気配を突きつけられ、強盗の類かとネリーは疑った。 そのまま視界を覆われる。]
…そう。兄から、ですか…。
[複雑な表情を浮かべる。それ以上何もいえなかった。
兄と目の前の男が男性同士で関係を持っていたことに対する嫌悪感はこの表情からは伺えない]
兄が…死んだ時…悲しかった?
[私は一旦銃を床に置き、足を開いたまま座っている彼女の腰を抱え上げて前に倒す。俯せになった彼女の胸と顔は床に押しつけられた。]
主のボブはどこだ。
ヤツは何をしている。
[腰を持って尻を突き上げるように出させた。彼女の右手と右足、左手と左足は紐で拘束されたままだ。彼女は身動きできずにただ身をよじるだけだっただろう。
スカートを後ろ側から捲り上げる。顕わになった濡れた秘所に、私は口笛を吹いた。]
わお。ご機嫌だ。
うっ…ああッ!
[誰とも分からぬ人物に、足を広げるよりも屈辱的な姿勢を取らされ、脳裏に迫るパニックを抑え、懸命に状況を把握しようとする。
この人、誰なの…!?]
ボブ?だ、旦那様?し、知りませんッ!
流れ者 ギルバートは、酒場の看板娘 ローズマリー を投票先に選びました。
ん………
悲しかったか、か……。
正直、よく分からねぇな。
まァ、あいつが死んだって聞いた時はそれなりに寂しさは感じたが「居た」人間が「居なくなった」という事実として捉えたって感じかなァ。
いや……正直、何の感傷も無いと言ったら無かったし、あると言ったらある。……そんな程度。
[すっかり短くなった煙草を咥えたまま、ハーヴェイの顔に視線をやる。]
俺は別に「愛情」とやらをもってユーインとヤッてたわけじゃねぇしな。俺はあいつの望み……「身体を使って遊ぶ」というのを、あいつが望むがままのカタチで満たした。ただそれだけのことだ。
知らないってことはないだろう。
君をこんな風にしたんだ。
いつもこんなことをしているのか?
ボブの趣味か?
それとも、君か?
[再び拳銃を手にとり、冷たい銃口を鼠蹊部に触れさせた。しっとりと潤い綻んでいる花片を硬い金属の筒が微かに割り開く。]
――命じられて、としても君も満更でもなさそうだが。
[ニーナのことがあって復讐に燃える私の瞳には昏い灯がともっていた。声音は嘲るような感情を帯びる]
…わかりました。…ありがとう、教えてくれて。
[至極丁寧な態度で礼を述べるとベッドから起き上がる]
体調も戻ったし、俺はこれで…。ご迷惑をおかけしました…。
[表情を見られていることは分かっている。極力表に感情を出さないようにするのは骨が折れた]
ボブがいつもどんなことをしているか知っているな?
君も、“同好の士”……っていうより、彼の性の下僕なのだろうからな。
ボブの後ろ暗いことでも、なんでも手伝ってきたんだろう?
“共犯者”ってわけだ。
う…はぐ…
違うわ…!だっだ旦那様は…こんな事をするような人じゃないもの…馬鹿にしない…で。
[はしたなく女性の部分を誇示させられるような姿勢をとらされ、冷たいものが押し当てられる。何かは分からないが凶器の可能性を恐れて明確な抵抗をする事ができない。]
[アンゼリカでのローズマリーとステラの情事。
監禁され暴行を受けたネリー。
父親の腕の中で手品のように命を奪われたシャーロット。
明らかにニーナを狙って放たれた犬。
そして──。
『お父さん……。』
日常とはあまりに掛け離れた事件の連続に
ソフィーの精神は疲弊し、悲鳴を上げていた。]
嵐と一緒に悪いものでも入り込んだのかしらね……。
……ねぇ、お父さん?
私達の周りで、何が起きているの──?
[帰って来ぬ父に問うように呟いた時、ふと気がついた。]
……そういえば、リックとウェンディは*何処かしら…?*
[棚の中からハーヴェイから奪った鍵を取り出し、表情を曇らせるハーヴェイに語りかける。]
おい……大丈夫か?
歩いて帰れないんなら、車で送ることくらいならできるが。
……あんたが望まないンなら、別に構わないけれど。
嘘をつけ。
ボブでなければ、誰がこんなことをするって云うんだ。
それとも、君は主人に隠れて主人の館でどこかの誰かとこんなプレイに耽る趣味でもあるっていうのか?
[ホーンブックの文字盤の方ではなく、全面が革で覆われた背中側が正面になるようしっかりと握る。]
残念ながら、猶予はできない。
従って、手段を選ぶこともできない。
速やかに喋ってもらおうか。
[そして、革張りされたその羽子板状のホーンブックを彼女の尻に叩きつけた。]
《パァン!!》
[威勢のいい音が周囲に響いた]
…大丈夫です。
俺、歩くの好きですから。
案外優しいんですね。
アンゼリカで見たときと全然違う。
[少しだけ笑う。ナサニエルの気遣いがくすぐったかったようで]
新米記者 ソフィーは、見習い看護婦 ニーナ を投票先に選びました。
あう…! あ…
[形のよい尻を叩かれ悲鳴をあげる。犬に玩ばれ、不意に転がされる様に、ふしだらにもますます浅ましく発情させらえる。]
し、知らないわ、知りません…っ!
[いつも「助けて」と請う私だったが、今回だけは絶対に声は出すものか、とある種の決意をするのだった。
それは『ギルバート』を庇う事に他ならないからだ。]
………優しい?
[慣れぬ言葉を耳にし、ナサニエルは眉をぴくりと動かす。]
俺ン家から帰る途中で死にました、なんて話聞いたら、明日からの寝覚めが最悪だからな。特にここ数日は物騒で堪らねぇし。
まァ……死にかけてんじゃなければ、歩いて帰れるだろ。
気をつけて帰れよ、ハーヴェイ。
君はこの状況も、主人の行方も何一つ説明していないぜ。
知らないわけがないだろうに。
話さなければ、苦しみが持続するだけだ。
[高々と革の躾道具を振り上げる]
それとも、それがお好みか!?
[また一際高い音が鳴り響くと、瑞々しく吸い付くような肌が真っ赤に色づいた]
君はある男に酷い虐待を受けていた――町の噂だ。だが、本当は君自身が“それ”を望んでいるんだろう?
そうでなければ――
[ボブのような男に仕える筈がない、と再びホーンブックが打ち下ろされる]
ううぅっ、ふううっ…!
ただ買い物に出掛けて、帰ってきて家に入った所を…押し入り強盗に襲われただ…
私はそんなのが好みなんかじゃな…はあんっ!
やめ…く…
[腰が震え、ぐずぐずに感じてしまうネリー。]
私の事をとやかく言うのはともかく…だっ旦那様の悪口は…
許せないあ…あくうっっ!
ま、街の噂って…な、何よ……
[手足を戒める紐を振り解こうとしても、この姿勢ではままならない。かえって手首等を痛めるだけに終わってしまう。]
[大粒の涙を本当は零しているのだろうか。視界を塞がれた今はどうなっているか確認する方法はない。]
ヘンなちんぴらみたいなのが突然ここに現れて…私に乱暴していったのよ…!
[部屋中を見回せば明らかだが、金品を盗られたという形跡はまったくない。]
[僅かなりとも、漸く答えらしきものが返ってきたことに、痛みを和らげようという姿勢を示したものか、私はそっと赤く腫れた肌を撫でた。
すべすべと滑らかな柔肌を優しく触れる。
その時、内側に微かに彎曲していた小指が秘めやかな谷間に少しだけ触れた。熱い潤いが指先に感じられた。
チリチリと欲情が身を焦がす。
やわやわと揉みしだくように、指が襞の連なりに滑り込んだ。]
ちんぴら……
そいつはどんなヤツだった?
[熱く潤いを増す泉から更に恵みを酌み取ろうとでもするかのように、指先は愛撫を続ける。唇が若草色のお下げのすぐそば、耳元に寄せられ、掠れた声が問いかけた]
ぁふ…な…ああっ!
[振り下ろす音が止んだかと思うと、無防備な源泉をなじられ、途方もない屈辱と怯えが支配していた。鋭い刺激で頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。]
そんな…一瞬の事だったから…あ、わ、私…んぐっ、んァ…
君は、ブランダー家の主、ノーマンに飼われていた。
そこでひどい虐待を受けていた。
――それが、町の噂だ。
[町の噂、というほど氾まっている話ではない。だが、ノーマンと彼女の関係、アルバムのことについて知りすぎていることが伝われば色々厄介だと判断し、言葉を濁した]
[ナサニエルの自宅を出るハーヴェイの姿を2階から見下ろし、その様子を見送った。]
やれやれ。
物騒なモンだなぁ………。
[窓を閉め、再び書斎に戻った。]
愛情……………ねぇ。
人間は、所詮「獣」でしかねぇよ。
セックスに愛情なんて余計なモンを詰め込むから、事態がややこしくなるんだっての。
殊、この町の住人は、過剰な家族愛にセックスを持ち込みたがるからなァ……いや、ホントにヤッてんのかは知らねぇけど。
[亡き兄を慕いナサニエルにその姿を投影するニーナの顔と、ユーインとナサニエルの肉体関係を知り凶暴化したハーヴェイの顔が、ナサニエルの脳裏に交互に浮かんだ。]
……………気持ち悪ィ。
[男は小さく呟くと、書斎の机に置いた灰皿の上で*火をもみ消した*]
ノーマンは…ノー…あの人がどんな嗜好を持っているか知らないけれど、あ、あぁあなたには関係のない話よ…!
[向こうが言葉を濁しているのには全く気づかず、ネリーも言葉を濁していた。]
[犬の様子に、少しだけ我に返る。]
こいつは“こういうこと”に慣らされているのか?
[ためしに、ネリーの陰部に側にあった蜂蜜を垂らした途端、その小型犬は鼻を秘唇に突き入れる勢いでむしゃぶりついた]
[自分ながら、何故ここまで白をきるのだろう、と思った。先ほどのあの…ギルバートをどこか庇っている所があるからなのだろうか。ネリー自身、答えが出せずにいた。
ただあの人を軽はずみに危険にさらしたくない、という思いがのぞいていたのは確かだった。]
あ…? ああああ! 駄目…やめてえっ!
どうにかなっちゃいそう…!
[声を枯らしそうになるほど叫び、許しを請うネリー。]
[ボブの薫陶よろしきを得たその犬の“躾け”のよさに私は半ば呆れると共に吹き出しそうになっていた。]
知らないわけがないだろう。
また罰が欲しいか?
[小型犬の首根っこを掴み、ホーンブックを臀部に打ち下ろす。小型犬はハッハッと息を弾ませていた。手を離すと、また鼻面をネリーの鼠蹊部に突き入れた]
ちっ
仕方がないな……
その男のことはいい。
それは本題ではない。
問題は、ボブのことだ。
主人を庇うのは使用人としては当然かもしれないが、あのような犯罪者を庇うのはよせ。
君も共犯者なのか?
彼の暴力と、淫行の。
彼に、家族を強姦された者が何人いるか知っているのか?
そして、殺されそうになった者がいることも。
実際に殺された者がいたかどうかまでは知らないがね。
[ボブに強姦された事はある。またボブが変質的な嗜好を持っているかもしれないと感じていたが、実際に強要されたことなネリー自身ない。
だがボブを卑下するような発言にネリーはいちいち反応させられていた。
と頭の中では思っていても、身体は全く違う反応を余儀なくされていた。
部屋に熟れた女の匂いがひろがっていく。]
罰だなんて…罰だなんて…そんな…
だ…あぁあんっ。旦那様…の…ひぅ…悪口を言うのは…ゆるさなああんっ。
[ボブがブランダー家に犬を放った事はおろか、夜毎ドライブへ出掛け、そういう事をしていた事はネリーは知らない。
いや、あるかもしれないとは思っていたが、証拠は何一つ見たことがなかった。]
[ネリーの嬌声が耳朶を擽る。彼女の声を聞いていると、どうにかなりそうだった。いつしか、欲情が強く熱を帯びその中心はトラウザーズの中で硬く凝り始めていた。
このままでは、私自身が彼女を犯してしまいかねない。
それも――報復なのではないか
一瞬、甘い誘惑の囁きが聞こえ、脳髄を震わせる]
[背中からネリーを抱きしめると、ブルーのワンピースの上から柔らかな乳房をゆっくりと揉みしだきはじめた。
若草色のお下げをかきわけ、顕わになった優美な曲線を描く耳朶に舌を這わせる。]
ネリー……
[首筋を這うように、口づけた]
[ネリーは視界を塞がれ、悩ましく身をくねらせる。
プライドや虚栄心をはぎとられる屈辱――いやそれは快楽に値するものなのか。]
旦那様がどんな事をしてるのかも…どこに…いるのかも…知らないったら知らないわよ…
あ…ひゃう…
[ネリーは無防備な自分の躯、腰をしなやかにそらした。耳元で私の名を告げる。
ネリー…? どうしてこの男は私の名を知っているの――?]
あんな男のどこがいい?
[小型犬を脇にのける。岩のように硬い屹立がトラウザーズ越しにネリーの赤く色づいた双丘の窪みに当たっていた。
腰を押しつけると、うねる秘唇にめり込んでゆく]
……君は主人を間違えている。
あなたは…何も知らないだけよ…あ…う…
[そりかえっている男性のそれが近くにある事はすぐに悟った。たまらず全身を締め付ける縛めを何とかしようともがく。
だが身体を転がそうとする事さえままならない。]
あのような乱暴な男に仕えてはならない。
君に相応しい居場所を用意できる男をさがすべきだ。
[ノーマンにボブ、問題のある主人に仕える彼女自身に私が感じていたことだった。
だが、今は、愛欲と彼女への支配欲が紡がせていた言葉でしかなかっただろう。
押しのけられたアインシュタインが不満そうに一声哭き、私はやっと我に返った。]
はっ… はっはっ
は……ぁ……
[気がつけば息は荒く、額には汗が浮いていた。
私は身を引き、彼女を遠ざけた。]
ん、んーー!!
それ…あっ、あっはぁ…ン!
[無防備に残酷に開脚させられ、進入を容易く許してしまう。刺激の上に刺激が重ねられた。肉芽をなじられ、あふれる密、こぼれる悲鳴ががさらに男を悦ばせた。]
あ…はぅ…う…
[彼女の甘い声はひどく私の理性を蝕み、溶かしていった。
ここへ来た目的を忘れていたなら、その躰を飽くまで求め続けてしまっていたかもしれない。
やれやれ、と私は深く溜息をついた。
アルバムに映された光景を思い出す。
ノーマンの気持ちが幾許かは理解できた気がした。]
君には悪いが、私は復讐を止めるつもりはない。
君は新たな主人を探すことになる。
いや――自由な生き方を選ぶのも選択だ。
いずれにせよ、少なくとも君には選択肢が残っていることは喜んでいい。
[やや荒ぶっていた声を整えた私はネリーを見下ろしながら冷厳な声で意志を伝えた。
彼女はボブの悪行を許容していたが、あまり共犯者とは思えなかった。許容しているということすらも許し難い気持ちはないではなかったが、私にはどうしても彼女をここで手にかける気持ちにはなれなかった。
彼女の両手両足を束縛していた戒めを解き直し、足の拘束は解いた。代わりに両腕を後ろ手に縛る。
彼女の私室を見つけると下着を探し、未だ赤みを帯びたままの臀部をこすらないように叮嚀に覆った。]
あ…はぅ…
[知らない人に犯される事は正直、何度かあった。それはノーマンの手引きによるもの、ノーマンの仕事上の仲間内、あるいは目隠しをされてスワッピングに連れて行かれた事があったからだ。
ネリーは脱力して力無く横向けに、床に身を任せている。]
申し訳ないが、事が済むまで君にはおとなしくしていてもらう。
しばらく黙っていてもらうことになる。
最後に、云っておきたいことがあるかい?
[目隠しをされたままの彼女の顔に、私は猿轡をかけようとしていた]
[顔も分からない男が上のほうで問いかけ…いや、何かを説いていた。しかし責め立てられた末に犯されて萎えた身体では一向に耳には入らなかった。
縛めに抵抗する力もなく、力無く息をするばかり。]
―ボブ邸・少し後―
[下着姿となり靴を履いていないネリーを抱き上げた。身を捩り逃れようとする彼女を物置に押し込める。]
できればすぐ開放できれば、と思うけどね。
それは、彼次第だ。
[そう云うと、扉を閉じた。ネリーの周囲は薄闇に包まれた]
ふ…んんっ!?
[下着と目隠し、猿轡に後ろ手に縛られただけの姿になったネリーは軽々と持ち上げられ、狭い空間に押し込められた。]
[──人が人を喰らう。
私は直感的にその言葉が出て来た事に驚く。例えば野犬が、あるいはペット屋敷で有名なボブ・ダンソックの飼い犬が身の毛もよだつような事をしでかした。そう考える方がよっぽど自然なのに。どうして?
私は直感が当たっている事を何故か確信している。
リックから漂う血の匂いに私の意識は吸い寄せられる。
……血が足りない。]
[ギザギザとしたリックの断面。
私は舌なめずりをして、従兄の死体を眺める。それはこの喉の飢(かつ)えを満たすにはあまりに質量が少な過ぎるのではないかと。
それに確かに、私は私を抱いてむせび泣くパパの背にこの手で触れた──…と信じてるけれど、この透明の柩の蓋を開き、リックの納められた台座まで近付くだけの力が今の私にあるのか。
けれども何故か、最初に目覚めた時よりは随分と状態はマシな気がするのだ。私はまず起き上がる事を試みようとする──。]
…あふっ。
[起き上がる為に力を入れた下腹部に違和感が走る。
それは甘い痺れ。
私の内側に何か温かい液体が──…まさかパパの。
それに、入口付近に何かが詰められているみたい。
身体を動かそうとすると、何度も私を持ち上げては攫って行く痛みと高揚の波に溺れたあの時間を体が思い出すのか、小さな挿入物を締め付けて私の内側が勝手に震えた。私の内側からも淫臭に混じって血の匂いが──。]
──…起き上がれないと「これ」も取れないわ。…あん。
[私は、何故自分が此処に居るのか理由がわからなかったし(記憶が途切れている)、これからどうなるのかも予想がつかなかったけれど。今まで知らなかった快感を身体が得ている事を、私自身の生存の根拠にしようとそう信じる事にした。それに、私の内側でパパが放ったものが揺れた、と言う事は私が体を動かす事が出来た証拠なのだと。
何故か栓をされてしまっているその場所はもどかしかったけれど、もう少し、リックの血の匂いに誘われて目覚めた、この餓えが我慢出来る間は、眠って体を休めようと。
…それにしても、この場所は暗く冷たくて寂しい。]
…リック。
ねえ、リック。
[リックが、ルーサー牧師のように魂だけでも目覚めないかどうか。私はリックの身体を喰うことを考えていると言うのに、試みに猫を撫でるような声でリックの名を*繰り返し呼んだ*。]
――――――
大音量で唸るカーラジオ。男は上機嫌で朝のハンティングの愉悦を反芻しながら、唄っている。隣の座席に置かれたケージを揺さぶると、中の愛犬も吠え声で唱和した。
不満はといえば、災害で足を運ぶことのできる町域が制限され、狩るべき獲物の数が減ったことだっただろうか。今日の獲物は随分小振りだったことを思い出す。車内には、返し忘れた“もの”があったが、大きな問題ではない。アーヴァインの屋敷も焼け落ちていたのだから。
ハピネス・ハンティング。愛犬との散歩。家には愛すべきネリーも待っている。
申し分のない一日の始まり。
愛する家族たちとの食事を楽しむために家に戻ってきた彼は、芝生の上に車を停めた。しかし、エンジンを止めるとなにかがいつもと違う。明確にそれがなにかはわからない。ただ、五感がピリピリと奇妙な気配を察し、肌が僅かに震えた。愛犬たちもケージの中でいつになく押し黙っている。彼にはそれらが気に入らなかった。幸福な一日の始まりであるはずなのに。
『ああ……』
自宅に足を踏み入れ、違和感の正体にはすぐに気がついた。音響セットのスイッチが入ったままだったのだろうか。それとも、ペットがスイッチをひっかけてしまったのだろうか。ステレオセットが大音量で音を奏でているのだ。
奥の部屋にある筈のそれが、腹に響く重低音で微かに玄関先のガラスをも震わせている。
「ネリー、なにしてんの。止めないとダメでしょ」
男は家族同然に可愛がっている使用人の姿を探す。
いつもなら、すぐ返ってくるはずの華やいだ声が今日は聞こえて来ない。
キッチンや居間、裏手を覗く。
彼女は自分の部屋に居るのだろうか? だが、そこにも見あたらない。
ひとまずステレオの電源を落とすべく、開けっ放しにされたスタジオのステレオセットに足が向かう。
――――
――――――
男が車から降り家に入ってすぐ。玄関から死角になる壁際から一つの影が車に向かう。
ブツッ。
破裂音に近い音と共に、アルファのタイヤからシューシューと空気が漏れ出す。
開いたままの窓から手が差し入れられ、車中に落ちていた小さな釦を拾う。指が座席の隅に転がっている小さな布地を広げ、それが何かを知る。
離れた手は、ゆっくりと力を込めて握りしめられる。
立ち上る感情を凝縮させるかのように。
――――
――――――
家の中。娘を探す男の眼差しが、ステレオに張られた一枚の紙に引きつけられる。
よい使用人だ。来客をもてなすすべを心得ている。
たっぷりと味わわせてもらった。
彼女はどこかって? 客間で待ってるよ。
男の血が瞬時に沸き立った。怒りに打ち震える彼の喉から咆哮が迸り出る。
扉を蹴破らんばかりの勢いで、客間に踏み込む。
異様なほどに静かなその部屋に、その娘の姿はない。
――否。半ば閉じられたクローゼットの扉の隙間から、ブルーのワンピースの裾がはみ出ていた。足下には、ほんのわずかに靴が覗いている。
「ネリー……」
厭な予感が男の心を侵食してゆく。震える手でゆっくりとクローゼットを開く。
――――
―ダンソック邸―
聞きたいことは、二つだ。
[私は冷徹な声を刃として彼につきつけていた。
ボブ・ダンソック
今から殺す、その男を前にして。
開け放たれたクローゼットの扉には、先程までネリーが着ていたブルーのワンピースがテープで留められている。足下には靴下を履かされ足らしく見せかけられた綿が突き出す靴が転がっていた。
クローゼットの向かいの洗面所に、私は身を滑り込ませていたのだ。]
なぜ、ニーナだ。彼女がお前に何をした?
そして、もう一つ。
それを行った時、お前の良心と羞恥心はどこにあった?
[――それとも、最初からないか? そんなものは、と私は射抜くほどの強い眼差しで彼の背中を睨みつけた。]
「ネリーは! ネリーはどこへやったんだぁあぁあ!!」
[ボブは問いかけには答えず、忿怒の形相で叫んでいた。
なぜ私がこんな目に、愛する家族が、ネリーがどうしてこんなことに、とボブは歯を軋ませながら怨嗟の言葉を吐いていた。]
答えろ!
[私は、彼の側頭部をナイフの柄で思い切り殴りつける。]
「痛ェよ、畜生!! 蔑みやがって、見下しやがって!」
[私が一体どれだけ――と彼は宿怨の籠もる呪詛を繰り言のように呟いた。オマエらは我々を虐げてきたんだ、と。]
「これはその報いだ」
[オマエらはそうされて当たり前だ、とボブは吐き捨てた。ネリーをどうかしたなら八つ裂きにしてやる。そう敵意を剥き出しにして。]
n1ggerの糞まみれの歴史なんて知るかァ!!
ニーナが貴様に何をしたと訊いてる!
[憤激に駆られ、ボブの背中を蹴り飛ばす。クローゼットの扉に彼の額は激しく打ちつけられた。
ナイフを握った右手を拳銃を握った左手に携え狙いを定める。
ボブは額から血を流しながら、後ずさる。私の目に宿る強い殺意に、もはや死が避けられないと悟ったのだろう。
ただ、ネリーのことだけは、と懇願した。]
[くそっ! と私は激しく舌打ちした。
家族のような愛情を誰かに向けることができるなら、なぜ――
この男の目の前でネリーを犯したならさぞ溜飲が下がるだろうさえ思う。そうでもなければこの男に、愛する家族を穢された者の気持ちは伝わらないのではないか。そしてそう思いかけ、そんな自分自身に吐き気がする。
それは違う――ネリーは関係ない。そしてそれを過つなら、私も彼となんら変わりがなかった。
むしろこの男が我々とは全く違うモンスターであったなら、どれだけ気が楽だっただろう。]
[車内に、襲われたニーナの袖口から落ちた釦を見つけていなかったなら。残されていた粘着テープが雑貨店の窓ガラスに残されていたものと全く同じものでなかったなら。誰のものとも知れぬ可愛らしいマスコットが描かれた幼さの残るショーツが戦利品のように転がっていなかったなら。
これほどまでに確信めいた瞋恚の炎を燃やしていただろうか。]
女ァ犯して、テメェの母親にどんな顔で会うつもりだ!
bastard -私生児- !!!
[苛烈な激情が私に引き金を引き絞らせる]
死ね!
[引き金を引き絞るのと、まさに弾丸のような早さで黒い影が飛びかかってくるのはほぼ同時だった。私が多少視力に秀でてなかったなら、避けるどころか気づきさえしなかっただろう。
ゴライアスだった。
主の危機を察知したものか、巨人兵の名には似つかわしくないほどの俊敏さで死角より忍び寄り、襲いかかってきたのだ。銃弾は僅かに外れ、ボブの肩口を掠ったばかりだった。]
チッ!
[銃把で横殴りにその牙を払いのけ、落下したところを横腹にインステップキックを叩き込む。だが、ゴライアスは一向に堪える気配なく、地獄の番犬のように追い縋る。
機敏な動きに翻弄され、ボブから目線が逸れた刹那――巨大な岩塊のような突進が私の躰の真芯を捉えた。]
ぅおぉおおおお!!
[耳を劈く破砕音と共にバスルームのパーティションの半透明のアクリルは弾け飛ぶ。私の体躯は扉と共にバスルームの床に激しく打ちつけられていた。手から離れた拳銃は床を滑る。
しばらくは呼吸さえ困難なほどの痛みだった。壮年のボブのどこにこれほどまでの力が漲っていたのか。
更に、起き上がろうとする間もなく、振盪しクラクラ揺れる視界の向こうから冥府の番犬が咆哮を上げながら迫ってきた。]
[ダメか――
避けようがないその突撃にせめて喉元を守るべく首の前に左手を出しかけたその時、扉に掛けられていたタオルが床に落ちているのに気づく。
犬の唯一の攻撃手段である顎は、同時に最大の弱点でもある筈だった。タオルを左手に巻き付け突き出すのと、ゴライアスの口蓋が牙を剥き出しに眼前に迫るのとはほぼ同時だった。
私はゴライアスの口内で舌を掴んでいた。
身動きを封じられたゴライアスの無防備で柔らかな腹部を横凪の一閃が捉え、血飛沫が舞う。ピクピクとゴライアスは痙攣しながら、内臓をまき散らした。]
「ゴライアスゥウゥゥ!!!!」
[ボブの悲慟がバスルームに反響する。その太股に投擲されたナイフが突き立った。ガクリと姿勢を崩す彼の側頭部に踵が打ち下ろされる。
床に倒れ悶絶する彼に、銃を取り上げた私はゆっくりと近づいていった。]
[それからのことは、復讐とはいえ振り返るにおぞましい出来事としか云いようがない。
私は彼を後ろ手に縛ると、ジッパーを下ろして陰部を剥き出しにした。
心底おびえきった彼の意識があるままに、ナイフを握り、そして――]
そんなにファックしたいんなら、自分で自分をファックしな……
[遺体で発見される彼の肛門の中にねじ込まれているものを発見する者は、おそらく居ないだろう。私は、それを見る者がないことを願った。]
[そして、その後の作業もひたすら陰鬱なものとなった。
病に冒され荒れ狂う犬たちの中にショットガンを放った。人に危害を与えそうな動物はそのようなかたちで“処理”せざるを得なかった。それらの山のような遺体は母屋から離れた犬小屋に集められた。彼らの主、ボブの遺体と共に。
他に延焼することがないか確かめ、犬小屋に火をかけた。]
[犬小屋の火が火勢を喪った頃、私はネリーを物置から出した。
腕の縛めをやや緩め、猿轡を外す。
申し訳ないが、と私は云う。多少は時間がかかっても自力で解くことは容易なことだろうから、と。
そうして、彼女をそのままにダンソック邸を*後にした*]
―車中―
[憤激に我を忘れるほどでなければ、私刑に手を染めることなどなかっただろう。一ブロックほど離れたところに停めてあった車に戻る間、手は昂奮と恐怖と、あるいは自分自身への嫌悪でブルブルと震えていた。
ハンドルを握っても、すぐには発車させることができない。
しばし瞑目し、呼吸を落ち着け、手の震えがキーを回せる程度になった頃。私はようやく車を*発進させた*。]
─ブランダー家/居住部・自室─
[憔悴しきった虚ろな表情のまま、ヒューバートとソフィーをそれぞれ別々に迎え入れる。
何があったのか尋ねられたのなら、無感情に事実だけを話すだろう]
伯父様達と別れて、ダンソックの車に乗りました。
疲れていたから、私は眠ってしまって。
…着いた、って起こされたら……店どころか…誰も来ないような暗い、人通りのない路地だった。
……そのまま、車の中で……私、犯されたの。
[流石にその事実にほろほろと涙がこぼれて]
[ナサニエルの部屋から外に出た途端、がくりと膝をつく。酷い胸の動悸に冷や汗がでた。
「あの部屋…!」
部屋自体は綺麗に掃除されていた。
しかしそこに残っていたもの全てが消し切れていた訳でなかった。
腕に抱き留められた時特に顕著に感じられた。
それ故弾けた殺意も消されてしまったのだろうか]
……
[帰路では無言のまま]
シャーリィの態度が、彼の機嫌を損ねた、って。
だから、従姉の私に責任をとれって……っ。
でも、そんなことただの口実みたいだった。
お金も突きつけられたし…殴られもしたわ。
[寝台の上、ブランケットごと膝を抱えて小さく肩を震わせ]
それから、私はここまで送り届けられて……。
私は、身体中洗って。
その間にネリーとシャーリィがウェンディーの部屋にいて、伯父様は二人を連れて帰られて。
それから暫くして、店の中に犬が入ってきたの。
狂った犬だった。
でも…“兄さん”が助けてくれたの。
犬を殺してしまったから、あんなひどい店のなかだけど……。
[ギルバートだったことはわかっていたけれど、それでも疲れた心はそんなささいな単語ひとつに心の平穏を*求めていた*]
酒場の看板娘 ローズマリーは、書生 ハーヴェイ を投票先に選びました。
―自宅1階・書斎―
Joshua fit the battle of Jericho,...
[机に向かい一心不乱に何かを書き記して居るナサニエルの耳元に、或る歌声が聞こえる。]
Joshua fit the battle of Jericho, Jericho, Jericho,
Joshua fit the battle of Jericho
and the walls came tumbling down.
[おそらく何処かの誰かには意味が在るであろう歌声――しかしナサニエルにとっては不規則な羅列として認識されるに過ぎない――が、徐々に耳の中で大きく響く。]
You may talk about your king of Gideon,
you may talk about your man of Saul,
there's none like good old Joshua
at the battle of Jericho.
[歌声が鼓膜の中で膨張する。
――嗚呼、またこの響き、このヴィジョン。
きらきらと白い光の渦の中、肥った、或いは痩せた黒人の女達が手を叩きながらその配列を高らかに歌う。その真ん中には、ご満悦な表情で白いピアノの鍵盤に幾度も指を叩き付ける、サングラスを掛けた黒人の男。
鼓膜付近で膨張したその響きは一気に爆発し、ナサニエルの筒状の器官から一気に外へと飛び出してゆく。]
[極彩色の光、高らかな声―――]
──ブランダーの店(ヒューバート/ソフィーの到着前)──
[ローズマリーは店の扉に手をかけるが、ドアは開いていなかった]
あら、どうしたのかしら?
もう営業時間だと思うのに…。
[中を覗き込むと、薄暗く、じんわりと浮かんで見えるのは荒れた店内と血痕、犬の死体]
…いったい、何が…?
ルーサーさんも、アーヴァインも…。
[扉を力一杯叩き、リックとウェンディの名前を呼ぶ]
リック! ウェンディ!!
[返事はない。ローズマリーは眉をひそめるとアンゼリカに向かって走って戻って行った]
[――が。
綿菓子のようにきらきらとパステルカラーのプリズムをもって光る白い雲の上に、黒い影が忍び寄る。
"Joshua"やら"Jericho"といった類の言葉の配列が配置されて幾度めかの頃合い。黒い影は牙を向いて、白い世界に居る黒人の女に襲いかかった。]
[悲鳴と怒号。血飛沫と数々の凌辱。
黒い影は、女達をひとり残らず「赤」と「黒」の刑によって「処置」を終えると、ぐるりと首を180度回してピアノに手を叩き付けて居る男の方を見る。]
―――グルル……グル………
[影は、黒人の男に剥き出しの牙を見せ――喉を鳴らしてわらった。]
[黒い影が、白い雲の世界を覆う。
言葉を発することをせず、ただひたすらに咆哮を上げ、影は野蛮な牙を黒人の男の身体に突き立てた。]
ぐああああああ……………っ
[膨張する黒い影、赤黒く濡れる綿菓子の雲。
真っ白なピアノは鮮血に染まり、沈黙。
黒人の男の身体はズタズタに引き裂かれ、四肢を切り取られ、影の手によってあべこべに再構成される。]
[―――男に対する「凌辱」をし終えた黒い影は、パステルカラーの赤黒い世界にひとり立ち尽くす。]
[そして――……
その様子を、ただ目を見開いて見つめていたナサニエルの双の視界に、男の双の目がギラリと重なった。]
………お、お前………ッ!
[椅子から立ち上がり、じりじりと後退するナサニエルに、黒い影がじわじわと近付いて来る。]
くっ………来るな!来るなぁぁぁぁぁぁッ!!
[ナサニエルは床に置いてあった物を次々と影に投げ付けるが、影は全くと言ってもよいくらいに動じることは無い。牙を突き立て迫り来る「恐怖」に追い詰められたナサニエルの背中に、無情にも壁面の冷たい感触が宣告された。]
あ………あ………………!
[黒い影はナサニエルの両肩を掴み、ニヤリと大きくわらう。]
………………ッ!
[影の口から、何か不規則な言葉の羅列が聞こえる。
ナサニエルの瞳孔は開ききり、全身には凄まじい量の汗が流れる。]
た………たすけ………
[恐怖におののくナサニエルの様子を余所に、影は牙ではない何かをナサニエルの身体に差し込んだ。]
………あッ………ぐ………!
[ナサニエルの臀部の奥に、巨大な違和感が侵入する。]
や……やめ………やめろォォォ!!
あああああっ!!!
[ナサニエルの懇願を聞かず、男は不躾に何度もそれを出し入れしている。]
「ロティ」………
[影は、ひとつの配列を発する。]
ロティ、ロティ、ロティ、ロティロティロティロティ、
[巨大な"L"と"T"と"Y"の濁流が、ナサニエルの耳に侵入する。]
ロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティ
[機械的なまでに規則的な配列。男はその濁流に飲み込まれ、ただただ硬直することしかできないでいる。]
ロティロティロティロティロティロティロティ……
[――そして、幾度かめの配置が終わった後――影は獣のような咆哮を上げて、静かに果てた――]
[ローズマリーは店のドアがしまっていることを確認すると車に飛び乗った]
まだギルバートは戻っていないのね。
[あと誰か頼りになりそうな人は…。
ヒューバートのことが頭をかすめたが、彼は奥さんをなくしたばかりだったことを思い出す。
シャーロットにもついていてあげたいだろう。
いそうなのは、ナサニエルかしら…]
[ローズマリーは車にキーを差し込むとクラッチとアクセルを踏み込み車をナサニエルの家へと向けた]
[ローズマリーはナサニエルの家の前に車を止めるとあたりの様子を見回した。
特に変わった感じはしていない。
ここではなにも起こっていないようね…。
一安心するとナサニエルの家の扉をノックした]
ナサニエル、いる?
[幻覚に焼けた身体を引摺り、男は書斎を後にする。]
ルー…シー………
ルー……シーィ……
[四つん這いになりながら廊下を進み、キッチンに辿り着く。コップに1杯、生温い水を注ぐと、それを一瞬で飲み干した。]
[扉をノックする音が聞こえた。]
………誰だ?
[玄関に向かい、ガチャリとその扉を開けた。]
………ローズマリー?
珍しいな、お前が俺の所に来るなんて。
………ブランダーの店が変?
何かあったのか?
暴力だの何だのの処置に俺に声掛けるってのは、よほどの事態ってコトか。
ふぅん………
[先ほどハーヴェイから伝えられた言葉が、頭の中で引っ掛かる。]
つまり……俺が行った方がいい、ってことだよなァ?
ちょっとね、わたしだけじゃ不安なのよ。
リックもウェンディもいなかったし。
そうそう、それから、うちにいたソフィーとソフィーのお父さんがいないのも気になるの。
少し街を見回った方がいいんじゃないかと思って。
[駆けながら彼は思う。]
[ハーヴェイに呼びかけるべきか否か。]
[だが、そもそも何故自分はハーヴェイを追うのだろう?]
[面倒臭いからうっちゃっておけ、という囁きも聞こえる。]
[今更「先祖帰り」の忌み子の一人や二人どうなろうが、この町の人間を何人殺そうが気にもならない。]
[──どうせ殺さねばならないのだから。]
[だが自分は多分、]
………了解。
ま、俺は居ないよりかマシってレベルでしか役に立たねえけど。それで良かったら協力するか。
[書斎と玄関に鍵を掛け、外に出る。]
で、あんたの車で出掛けるの?こういう場合って。
[ローズマリーの車を指差した。]
ギルバート!
どこにいるのかと思っていたわ。
[ナサニエルの方を振り向いて]
いつの間に家を教えるぐらいに親しくなったの?
ギルバートか。
どうした?そんなに慌てて。
トイレ貸せってか?
[ぼりぼりと髪を掻き、ローズマリーの問いに答える。]
あー……まあ、アレだ。
酔っ払って道でブッ倒れてたのを、ギルバートに運んで貰ったんだよ。
[ナサニエルに笑って]
それはそれは、ナサニエルらしい出会い方ね。
ギルバートもさぞかし大変だったでしょうね。
車はわたしのでもいいけど、あなたのでもかまわないわよ。
ギルバートも来てくれるのならあなたの車の方がいいかもしれないわね。
開けろって、早く!
[ガンガン扉をぶっ叩く。激しい殴打にドアの蝶番が悲鳴を上げている。呼鈴もあるのかも知れないが、探す気はないらしい。]
『中でくたばって……』
[と思い掛けたところで、近くに人の気配を感じ、ぎょっとしつつ振り向く。
ローズマリーと目があった。ナサニエルも居る。]
あー……
[間抜けな顔になるのは避けられなかった。]
[普段なら近付いた時点で人の気配が分かるのだが、よほど気がせいていたのだろうか。]
ん。俺もどっちでもいい。
……多少古いが、まァ3人乗るくらいなら平気だろ。
[メイドインジャパンの車の鍵を取り出し、ジャラリと鳴らした。]
おいおいギルバート……
いくらなんでも扉が壊れるっての。ったく……。ただでさえボロいってのに。
──ブランダーの店・ニーナの部屋──
[ソフィーはニーナの部屋で同行者の帰りを待っていた。
父の行方も気になるが、ルーサー・ラング牧師を襲撃した狂信者や、シャーロットを無残に殺害した殺人鬼がうろつく今のヘイヴンで、若い女性一人を残して行く気にはなれなかった。]
[特に親交があったわけではないソフィーに対し、ニーナが話したのは昨夜の狂犬による被害の事に留まり、ボブ・ダンソックに受けた暴行については口を噤んだ為、ヒューバートが何を知り何処へ向かったのかを知る術はなかった。]
ああ・・・介抱してたら朝になっちゃって……。
[とローズマリーに笑い掛ける表情も今はちょっと苦しいかも知れない。]
どこか行くのか?二人で。
……そう言うとやらしい響きに聞こえるぞ、ギルバート……
[事実だがな、という言葉を喉の奥にしまい込み、ナサニエルはギルバートの問いに答える。]
これからブランダー家に行くんだ。ローズマリーが様子見に行きたいっていう話だから、俺はそのお供をするんだよ。
ギルバートも一緒に来るか?
………生きてる?
あァ、あのヤブ医者に言われたこと、まだ気にしてんのか。
幸か不幸か、俺はピンピンしているぜ。安心しとけ。
『先ほどの幻覚を除いてな――』
[最後の一言は、口の中に押し込んだ。]
[一瞬少し複雑な表情が過ぎる。
が、すぐにニッコリと微笑んでローズの側に寄り添う。]
……ンン。
一緒に行くさ。ローズを危険な目にあわせる訳にはいかないしね。
おま……!
ローズマリーがあらぬ想像すんだろうが……ったく。
ローズマリー、ブランダーの家に行きたきゃ行くぞ。
ギルバートも、ついてきたかったらご自由に。
あらぬ想像も何も意味不明なことを口走るなよ。
何のことだかさっぱり分からないよ。
なあ、ローズ?
[と全く平静に怪訝そうな顔をしてみせる。]
[ギルバートの言葉を無視して、トヨペットクラウンのエンジンを掛け、二人の前に乗り付けた。]
………ほら、乗ってくなら乗れよ。
お二人さんは後ろにどうぞ。
[ギルバートに肩をすくめて見せて]
二人ともなにを言ってるのかさっぱりわからないわよ。
ナサニエルの酔いつぶれはいつものことだし、死ななかったのもいつものことでしょう?
[隣に座ったギルバートに話しかける]
ギルバート、ブランダーの店の様子がおかしかったのよ。
扉は閉まっていたんだけど窓が割れていて中に犬と血痕があって。
いったい何があったんだかよくわからないの。
リックとウェンディもいないし。
どういうことなんだか…。
[ニーナは時折うわごとのように兄を呼ばわった。
恐い夢でも見ているのかと心配げにニーナを見つめていると、店の前に一台の車が停車した事に気が付いた。]
『ヒューバートが帰って来たのだろうか。
それとも、別の誰か──…。』
[不安を覚え、スツールから腰を浮かす。
寝ている少女を庇うように立ち上がった時、複数のドアがほぼ同時に開く音が聞こえて来て、窓の外へと*探るような視線を向けた*。]
[「ブランダーの店」と聞いて、ローズに昨夜のことを説明すべきか一瞬考え込んだ。
だが、黙っていてもニーナに訊けば分かってしまうだろう。
「朝までナサニエルの家にいた」かのような言葉を吐いた後に説明しなくてはならなくなるのはちょっと困ったが、とりあえず時間はぼかして、ニーナが店に侵入した狂犬に襲われたこと、たまたま近くを通りかかった自分が悲鳴を聞きつけて助け出したことだけは簡単に話した。]
あら、そうだったのね。
ギルバート、大変だったわね。
じゃあ、あの店には今はニーナだけなのかしら?
リックやウェンディは見なかった?
飛び出したっきりずっと帰っていないみたいだけどな……
[車窓の外を流れる景色を見遣り、顔を背けたままローズの手を握ろうとした。]
[ギルバートに握られた手にもう片方の手を添えて]
そう…。
誰か探しているのかしら…。
ルーサーさんは暴徒に襲われて、アーヴァインは屋敷が焼けて。
なにかおかしいわ。
前の嵐の時にはこんなふうではなかったもの。
[ギルバートに不安げな目を向けた]
災難続きだからね。無理ないかも知れないよ。
閉じ込められたようなものだし、町の向こう側がどうなってるか分からないのだろ?そりゃ不安にもなるさ。
そのせいでおかしくなる人が出ても不思議じゃあない。
[宥めるようにローズマリーに語り掛け、その不安を宿す目を優しく見詰め返した。]
そう…なのかしらね…。
今までこんなに不安になったことはないわ…。
ギルバート、あなたがいてくれてよかった…。
[ギルバートにそっと腕をまわそうとする]
[腕を回そうとするローズマリーの動きを感じ、自分も積極的に彼女の肩を抱こうとする。]
[運転席のナサニエルのことは全く気にしていないようだ。]
[今更「先祖帰り」の忌み子の一人や二人どうなろうが、この町の人間を何人殺そうが気にもならない。]
[狂った「先祖帰り」は、どうせ殺さねばならないのだから。]
[先程の想念がリフレインを続けている。]
[ローズマリーがギルバートに軽くキスする間もなく、車がブランダーの店の前に停まった。
ローズマリーは車から降りると店の扉をノックしながら叫んだ]
ニーナ、いるの?
─物置─
んふ、んぅぅぅ……
[ネリーは暗闇の中で目を伏せさせられ、猿轡を噛み締めていた。いつだってなすがままのネリー。時の流れに身を任せていた。
だが自らの心の中に、この場を具体的にどう凌ぐか、という思いも湧きつつあった。]
[少し遠くから響く喧騒の音。ややあって足音が近づき、扉の開く音がした。先程の男が何かを告げている。ネリーには聞き取れなかった。
やがて猿轡が外され、腕の締め付けが緩くなる。]
ん、んふ…? ぷは…
あ、あなたは誰? 一体何をするつもりなの!?
[男は立ち去ってしまったようだ。]
見習いメイド ネリーは、書生 ハーヴェイ を投票先に選びました。
このままじゃいけない…なんとかしなくちゃ…
[ネリーは何度も腕を引いたり、腕を抜こうともがいた。
シングルレコードを1枚嗜むぐらいの時間はかかったが、戒めからは抜けた。そのまま目隠しを外し、様子をみる。
力を絞って物置の扉を開く。久しぶりに光を見るが、下着姿である事を改めて認めて恥ずかしくなる。]
少し焦げ臭い……旦那様は!?
[ネリーは裸足のまま犬小屋へ走った。そこで惨憺たる光景を発見するのだった。]
これは……みんな!
[何を逃れた犬達や小動物達がネリーの足下で吠え続けている。しかし数が合わない…ボブは…旦那様は…
ネリーは必死に焼け跡を掻き分けた。しかし手がかりになるものは──見つからなかった。]
そんな…旦那様、みんな…どこへ行ったというの…?
[ネリーは崩れ落ちた。]
─ ナサニエル宅からの路上 ─
[乱れる思考は恐らく誰にも捕らえられることはないだろう。それだけ小さな、吐き捨てるような呻き]
ギルバート…あの家で…何をした…!?
[あの部屋で彼が残した強い快楽の波はナサニエルの部屋にきつい波長を残し、ナサニエルの体にも染み付いていた。
ナサニエルは殺すつもりだった。殺してこのやり場のない衝動を抑えたかった。なのにあの強過ぎた波長はただでさえ乱れていた神経をさらにかき乱した]
く…そ…っ!
[それからどのくらい時間が経ったのだろうか。腰が重い。
肉裂がひりひりする。ネリーは後ろ髪引かれる思いで、身体を洗いに行った。
しばらくの後、着替えを追え、自室で考えに考え、反芻する。]
私を襲い、犬小屋に火をつけたのは誰?
身近な人なのか。本当にただの強盗なのか。
どうやって確かめたらいいのだろう…やっぱり信用できる人に聞いてみるのが一番だわ。
ローズさんか、ステラさんか。あるいはヒューバートさんやニーナ…ギルバート。
[ネリーはアンゼリカかブランダーの雑貨屋へ行こうと*思った*]
なんだろう……激しい「音」が出ているのを感じるわ…
この近くじゃないのは判るけど…
まさかハーヴェイが何か…あるいはギルバートの身に何かが…?
――町中――
[せんせいの自宅兼診療所へ向かう途中、わたしはふいに幼い声に呼び止められた。
その声に振り返った瞬間腹部に軽い衝撃を覚え、反射的に視線をそちらへと向けると生徒でもある幼子が何か悲しげな表情でわたしに縋り付いていた。]
まぁ…アデルじゃないの。どうしたの?突然…
[わたしは瞬時に教師という仮面を被り、栗色の柔らかい髪を梳きながらあやす様に語り掛ける。子供はその嘘偽りの仮面を見抜けず安堵したように顔をあげぎこちない笑みを向けた。]
[その後彼の父親もやってきて、ふたりはわたしの姿を見るなり安堵したように口を開く。
「先生に何かあったかと思って…」と。
その口振りから先の豪雨での被害だけではない、何かもっと恐ろしい事が静かに町内で起こっているのではないかと背筋を震わす。それは瞬く間に現実の物となって私の耳を掠めるのだけれども――]
――町中――
[わたしは豪雨の後村で起こった事を教えてくれた親子に別れを告げ、再びせんせいの自宅へと向かって歩き始めていた。
真実を知らされた後、今は亡きせんせいの自宅へ向かった所で薬なんて貰えないのは解っていたけれど…。それでもせんせいと交わした会話が、まだ漂っていそうな診療所へ、自宅へ行く事が、今わたしに出来る唯一の弔いのように思えた。わたしがたった一人だけ素直になれた人に祈りを捧げたくて――]
――町中→診療所へ――
――診療所――
[主の居なくなった家は何て寂しいのだろうか。
わたしは現実を目の当たりにすることによってせんせいの死を改めて知ることとなる。
ほんの数日前、三日も経っていない筈だった。雨の中この場所へ訪れたのは。それなのにもう、せんせいはこの世には…居ない――]
せんせ…ぃ…なんでまた――あなたのような人が天へ…?
神は酷すぎます。信仰深きせんせいの最後を…あのような無残さで奪うだなんて…
[ここに来る途中聞いたせんせいの最後を思い出し、わたしは崩れ落ちた。嗚呼なぜ主は自らに縋りつく者達に酷い仕打ちを行うのでしょう。苦しさに口惜しさにわたしは胸が苦しくなるのを覚えた。]
嗚呼主よ…我はあなたを憎みます…。人を救えず、自らの許へ縋り寄る人々を貶すあなたのその行為を…その心を…憎く思います。人一人救えず、何故あなたは天に在しておられるのか…。わたしはただ、それだけが疑問でなりません――
しかしもし何処かで願いが聞き入れられてくれるのならば…あなたの羔でもあったせんせいの…安らかなる死を…導きたまえ…
[もしこの世界に本当に神がいるのなら。それはどんなに残酷な神だろうか――
もしこの世に救いがあるのならば。それは一体何処へ差し伸べられているのだろうか――
様々な疑問が渦巻く中、わたしに出来た事は亡きせんせいの安らかな眠りをただ祈ることだけだった。]
―回想―
[ゴライアスの返り血がジャケットを浸していたが、それはバスルームですぐに洗い流された。幸いなことに、黒のジャケットに付いた血の汚れはさほどは目立たない。
ダンソック邸を出る前に、最後に洗面台で自分の姿を改める。凶行の名残は一見して見あたるものはなかったが、額と頬に多少の擦傷と裂傷が見られた。雑貨店を出る前に買っておいたバンドエイドを貼っておいた。]
ひでェ話だ……
[ブランダー家の部屋でぽつりぽつりと話したニーナの言葉を思い出す。感情の波さえも奪い去られたような虚静な声音が、かえって痛々しかった。
あの時のシャーロットになにか彼の感情を損ねるところがあったのか、私は思い出すことすらできなかった。敵意を持った者に対してはなにが切欠になるかわかったものではない。
ニーナは、シャーロットの代わりに犯されたようなものだった。そのことをニーナの言葉から知った時、怖気が震った。もっと早くこうしておくべきだったとすら思った。
その意味で、悔いは全くなかった。]
―車中―
「やあ、バート。どこへ?」
[対向して走ってきた、錆の浮いた農作業用の軽トラックの運転席から声をかけてきたのは、顔なじみの男だった。
今は引退したがかつて行政委員の職についていたこともあるオーウェン・ペンゲリー。もう五十を越えていただろうか。
彼の家は代々森林と猟場の管理に携わり、彼自身も猟をこよなく愛していた。
助手席にもう一人いる。ダスティ・ワットマンだった。がっしりとした体格の三十代の男だ。彼は、かつて消防団で訓練していたことがあったため、暴風雨の被害があってから何かと駆り出されていた。
軽トラックの荷台には、工具や簡単な消火器の類が乗せられ、ガタガタと揺れていた。]
今から、雑貨店に様子を見にね。
[そうか、と彼らは頷いた。今日はあいつらはどうしてる? 電気工事の――と聞くと、あいつらはあいつらで走り回ってるよと返事が返ってくる。復旧を目指したゴタゴタは続いているようだった。]
「ちょっと訊きたいんだが、ダンソックの家の方で何かあったかね? 犬小屋に火の手が上がってると言ってきたヤツがいるんだが。」
[私は少し考えて、答えた。]
さあね。
……ただ、あそこは犬の管理が酷いだろう? 随分と苦情があったみたいだ。そこへ来て、この土砂崩れだ。郡の保健所に連絡をとろうにもどうにもならない。
[二人は肯く。]
“有志”がどうにも見かねて代執行したんじゃないか?
[ほんの僅かな間だったが、意志を探り確認するような視線が互いの間に行き交う。それだけで充分だった。彼らは、町の古くからの馴染みだったからだ。]
[ややあって、ダスティが親愛の微笑みを浮かべ、沈黙を破った。その沈黙に横たわる手応えを確かめるように。]
「そう言えば、あそこにはでっかい“黒犬”もいたっけ。よく吠えて、しかもあちこちの“犬”を孕ませるものだから“犬を飼ってる家”は気が気じゃなくてね。」
――そうなんだよ。
なあ。こういうのって、問題あるかな。
例えば、病気持ちの犬だけじゃなく、たまたまそういう“犬”を巻き込んでしまったりしたら?
暴れて抵抗したとかで。
[ないと思うね、とオーウェンは言った。特にこんな時には、とつけ加えて。]
「そいつは町の問題を取り除くために一働きしてくれたんだろう?
俺なら、ビールを奢ってやりたい気持ちになるね」
よかった、私も実のところ同感なんだ。
[それなら、今度皆で一杯呑もう、と私たちは笑いながら約束した]
「最近は動物も愛護だとか権利だとか煩くて、躾すらままならないがね。まったく、やりにくい世の中だよ。」
[二人は小声で何事かを呟く。私は黙って肯く]
軽トラックは走り去って行った。
私はシボレーを走らせる。雑貨店近くまで辿り着く。
不意に胃の逆流に耐えきれなくなり車を停める。
路肩に降りた私は、側溝に嘔吐していた。]
──ブランダーの店──
[ドアを叩くと意外なことにソフィーが顔をだした]
あら、ソフィー、なぜ、こんなところに?
[ローズマリーが問うとソフィーは父親がいなくなったこと、ヒューバートに送ってもらったこと、ヒューバートがボブの家にいったことなどを聞いた]
──ブランダーの店・店舗内──
[ドアの外から聞こえて来たのはローズマリーの声だった。
緊張を解き、急ぎ足で店先へと出迎える。]
ローズさんこそ、どうして此処へ?
あ…、ニーナさんは奥に──…
[店には自分とニーナしか居ない事を説明し、取り急ぎ店先で自分が聞いた事、見た事などを大まかにだが説明した。]
[ナサニエルの家から自分の…ドナヒューの家への道を辿っていた。このなりでバンクロフト家に帰れば何かと余計な詮索をされる。
ならせめて自宅へ帰宅していたと証明できるように、と思ったのかもしれない。どんなに懇意であっても所詮他人の家、こんなときは自宅で力を抜きたかった。
自宅に着くや否、水のボトルをひっつかみグラスにも開けずに一気に飲み干す。
夜中長眠らなかった疲労や水分不足からだったのだろうか、水はあっという間に消えた。
数本あったボトルは全て中身が消えたが、それでも渇きは続く]
もう…ない…のか…?
[水がなくなり、脱力したが、何とか自室へ向かい、ベッドへと倒れこむ]
[店を訪ねて来たのはローズマリー一人ではなかった。
件のギルバートという旅人と、もう一人、偶にアンゼリカで見掛ける青髪の男が一緒だった。チャラチャラと鍵をポケットに仕舞う様子から、車を運転して来たのが彼だと推測出来た。
名前は確か、ナサニエル。
ファミリーネームはサイソンと言ったか。]
[どれ位その場に佇んでいたのか。短い時間かもしれないし、かなりの時間をせんせいとの思い出に費やしていたかも知れない。
しかしこのままこの場所に居てもどうかと思い、私は再び歩みを進める。向かう先は…ブランダー家が経営する雑貨屋。わたしは昨日の振り返りたくは無い記憶と、しかし先程すれ違った親子から聞かされた事実を照らし合わせたくて…。覚えのある道筋を辿る。]
「あのね先生…これは噂なんだけど…」
[そう切り出した幼子の怯えるような眸が脳裏に浮かぶ。]
もし…その噂が本当だとしたら一体…――
[わたしは靄のかかるような思考の出口を捉えるべくもがく様に考え得る事を次々と浮かべては自らの指で打ち消していく。]
『有り得ないわ…そんなこと――
この宗教を気嫌う町に限ってそんなことは…。
でも、気嫌うからこそ…』
――馬鹿らしい。
[わたしは吐き捨てるように溜息を吐いた。そして未だ色々と詮索したがる脳を無理矢理宥め付けると、雑貨屋目指して歩くスピードを速めた。]
――雑貨屋へ――
[気分は相変わらずすっきりしないが、せめて体だけでもと気だるさをおしてシャワールームへ。
服は洗濯機へ突っ込み、洗剤を─手元が狂ったのか、かなり多めに─放り、スイッチを入れ、そのまま自分は湯を使う。
背中の傷が流れる水の軌道を更に歪めていた。
服を着替え髪は濡れたまま、ぼんやりと*外を眺める*]
[洗剤をかなり多めに入れたのはあの部屋の匂いが付いていることが耐えられなかったから。
消えなかった場合は捨てるつもりだった]
ちっ、面倒だな…
[エレメンタリースクール時代のおぼろげな記憶の中で、ナサニエルはいつも教室の隅で本を読んでいるような大人しい少年だった。
しかし、ジュニアハイに上がる直前だったか、或いは上がって直ぐだったか、都会の学校に転校する為に町を出て行った彼が3年前に町へ戻って来た時には、その頃の面影はなく、何処か退廃的で後ろ暗い雰囲気を漂わせた、内向的なソフィーにとっては少々近寄り難い種類の人間になっていた。
当然此方から話し掛けた事も、口を利いた事もなかった為、ローズマリーと共に来たその人の姿に戸惑いを隠せなかった。]
……とりあえず、
店先では話がし辛いでしょうから、中へどうぞ。
[ソフィーは俯き加減に三人を招き入れた。
ローズマリーに寄り添い、肩を抱くように歩くギルバートの態度がやけに気になったが、何も言わずに扉を閉めた。]
見習い看護婦 ニーナは、見習いメイド ネリー を投票先に選びました。
――雑貨屋前――
あら。随分賑わっているのねぇ…。
[わたしは店の近くまで来ると視界に入った車と人影に、苦笑を漏らした。
歩みを進める度にはっきりとする人影。その中には素肌を許した仲の人もちらほらといたが、わたしは気にもとめず雑貨屋の入り口をくぐりながら声を掛ける]
こんにちは…随分人が集まっているようだけど、何かあったのかしら…ってこれは…一体…――
[聞いてきた噂は閉ざしたまま店内へと足を踏み入れたわたしの鼻腔を、血生臭い匂いが容赦なく擽る。素早く白いハンカチで口許を覆い、とにかく店の中の尋常ではない様子に顔を顰めながら事情を知っていそうな人を視線で探す。]
『そういえば──。
ステラさんは彼女と一緒に居たわけではなかったのね…。』
[ニーナの寝室に向かう途中、ステラの事を思い出した。
同時に、ステラとの情事から一日も経たぬうちにもう別の男と恋人のように振舞うローズマリーの事が信じられなかった。]
[人の気配に、悪夢からの目覚めをようやく許された意識は、煙が立ち上るようにゆらりゆらりと静かに浮上して、幽かにまつげを揺らす]
…。
[幾つかの足音に耳をすませながら、ゆっくり上半身を起こす]
見習い看護婦 ニーナは、酒場の看板娘 ローズマリー を投票先に選びました。
──ブランダーの店・ニーナの寝室──
ニーナさん、入りますね。
[コンコン。
声を掛けながらニーナの部屋の扉を軽くノックした時、後方からステラの声が聞こえて来たので、慌てて店の方へと戻った。
ニーナはまだ目を覚ましていないだろうと判断した。]
[暫くぼんやりしていたが、喉の渇きは止まらない。
水は先程全て飲んでしまったし、ぬるい水道水を沸かして飲むのも、それを冷やしてから飲むのも嫌だった]
…面倒くさい……
[車はまだバンクロフト宅に置きっぱなし。歩いていくのは面倒だったが仕方ない。どうせ買いにいかないといけないものだ。ぶつくさ言いながら腰をあげた]
─自宅→雑貨屋─
[雑貨屋へ歩いていく途中、また妙な頭痛に襲われる]
…ま…た…かよ…!
[近づくにつれ、段々と強くなる。雑貨屋の前に来た時は高熱を出したかのような頭痛が響いていた]
私に何が出来るかはわからないけれど。
旦那様の居場所や、わんちゃん小屋に放火した人、私にも…な事をした人が誰か確かめないと駄目。
[ネリーは慣れた道を行き、雑貨屋へ向かった。]
─自宅→雑貨屋─
……ステラさん!!
[店に戻ると、ステラはハンカチで口元を押さえて立っていた。
ソフィーは大柄な男性二人と奔放なローズマリーの間で居心地の悪さを感じていたせいか、ステラの楚々とした佇まいに安心し、すぐさま駆け寄って事情を話し、無事を喜んだ。]
[雑貨屋へと辿りつき、ドアを開けてみるが客はいれどもいつもの店員…リックやウェンディがいない。何故かソフィーとそしてその客も見覚えのある人]
あれ…ステラさん…と…ソフィーさん…
[名前を呟く顔は相変わらず不健康そうに青白い]
[ネリーは雑貨屋の入り口前までやってきた。
商品売り場、レジの近くで大きく声をあげる。]
誰かいるみたい……
誰かいませんかあ?
ソフィー…?
よかった、無事だったのね…。
[駆け寄ってくるソフィーにわたしは不謹慎と思いながらも破顔し、彼女の額に手を当てる。熱を測るためだ。]
熱も…下がったみたいね。とりあえずこんな状況下でいうのも有れだけど…あなたが無事でよかったわ。ソフィー…。
[彼女から事の顛末を聞き、ほっと胸を撫で下ろす。本当に彼女が無事でよかった。そう思いながら。
そして遅れて入ってきたハーヴェイという青白い顔をした男の姿に、わたしは振り返る。]
…ねぇ、あなた大丈夫なの?顔色…随分悪いみたいじゃない…
[心配そうに伺うも、距離はある程度保ったまま。表向きは男に不慣れな女を演じなければならないために]
なんか一杯になっちゃったわね。
どうしようかしら。
ソフィーのお父さんは見つかっていないようだし…。
リックとウェンディを探しに行くべきかしら?
[無意識のうちにステラの後ろに隠れるように移動する。]
どうしましょう……、
この人数で行ったらニーナさんを起こしてしまうかも…。
[そう言った処で、ハーヴェイとネリーの声が耳に届き]
………あれ、ハーヴェイさん…。
それに、ネリーさんまで……。
[驚きに、集まった面々の顔をぽかんと眺めてしまった。]
[ステラがこちらを振り向いた所を軽く会釈する。
確かヒューバートのホーンブックを作る際、彼女も同席して話し合っていた。
そのときの修道女のような黒い服と違う姿に少し目を細め]
どうも。アンゼリカでお会いしたきりでしたね。
顔色は…いつもこうなんですよ。ありがとうございます。
[やんわりと当たり障りのない返答を返す]
[後ろに隠れたソフィーを苦笑しながら眺めつつ、更にドアが相手入ってきたネリーに対しても淡い微笑を。]
あら、随分と集まってきたわねぇ。やっぱりあの噂は本当だったのかしら…。
[誰に言うわけでもなく呟き、わたしは辺りを見渡した。]
[ネリーは見慣れた顔や挨拶を交わす程度の顔など、たくさんの人がいる事に驚いた。ニーナがまだ体調が優れなさそうというのを小耳に挟み、どかどかと上がるのは少し気が引けた。]
[ステラやローズの表情を見るのは本当に久しぶりのような気がした。ローズとはついこの間アンゼリカでボブの荷物もちで行ったばかりなのに。]
[ぽかんとしたソフィーに笑いながら]
ソフィーさんもう体は大丈夫そうですか?
前にアンゼリカの前で倒れていたでしょう?
俺心配してましたよ。
[少しだけ笑顔を向け、一呼吸おき]
リックやウェンディは?ニーナでもいいですが。
俺買い物したいんだけど…
[そこまで言いかけてステラの言葉を耳に留める]
噂?
(…いる…上に…きっと…あれは…)
[頭痛と背中を駆け上る薄気味悪い寒気に青ざめた顔はネリーの気配に反応を返す余裕がない]
―雑貨店・回想―
ソフィー、待たせて済まなかった。
なにも変わったことはなかったかい?
[ソフィーや奥の部屋にいるニーナに声をかけ、二人の無事を確認するとようやく安堵した。
倉庫で板ガラスを探し、割れた窓を修復したり後片付けをしているうちに、そこを訪れる者の数が増えていることに気づく]
[目を細めて会釈するハーヴェイに、古い記憶が疼きだす。あぁ、そういえばバードを慕っている…]
そうね、先日アンゼリカでお会いしましたわね。あの時はあまり長居出来ずに立ち去ったので挨拶もそこそこでしたけども…。
そう…。いつもならあれだけれども…でも辛そうよ?倒れないように――
[慈悲深さは教師としての仮面かそれとも捨てたはずの宗教絡みか…。
深入りにならない程度に気に掛け、わたしは会話へピリオドを打った]
―雑貨店―
やあ。千客万来だな。
[これが常なら、この店はとても繁盛することだろう。そんなことを思いながらそこに居る皆を見渡した。二度目の土石流災害から僅かしか日が経っていないのに、随分会っていない気がするものだ。それだけ様々なことが起きていたせいだろう。
顔ぶれの中で、最も意外だったことは、その中に火星人旅行者――ではなくギルバートの姿があったことだった]
おや、ギル。
君は町の中に取り残されてしまったのか?
――災難だったな……
なかなか復旧の目途が立ってないから、いつになったら帰れるかわからないぜ。
[そんな話をしながら、ガラスの破片を片付けている]
いえね、ちょっと耳に挟んだのよ…。わたしの教え子が教えてくれたんだけど…。
[わたしはソフィーとハーヴェイの食い付きの良さに、少々驚きながらも、あくまでも噂と釘を刺した上で口を開いた。]
可笑しな話なんだけど…その…ウェンディがね、リックの身体を…持ち掲げて何処かへ走り去っていったって言うのよ…。
――有り得ないでしょう?逆なら兎も角ウェンディがリックをよ?
[わたしは誰かに否定して欲しかった。そんなこと有り得る訳が無いと。笑い飛ばして欲しかった。]
修道女 ステラは、酒場の看板娘 ローズマリー を投票先に選びました。
[心配して声を掛けてくれたハーヴェイには]
はい──、何とか快復しました。
その節はご迷惑をお掛けしたみたいで、すみません……。
[申し訳なさそうに言ってから、何となく睫毛を伏せた。
ハーヴェイを前にすると、どうしてもアンゼリカで聞いたローズマリーの嬌声を思い出してしまい、頬が熱くなりそうだったのだ。]
[ステラの言葉に、思わず目を丸くした。]
……………はァ?
何だそりゃ………。
どこかのホラー映画の話か?
……にしちゃあ、リックだのウェンディだの、聞き覚えのある名前だしなァ……
[ネリーは周辺の人々に挨拶をしつつ、隅のほうで小さくなっていた。人々が会話を交し合う。
そのなかにいろいろなヒントが隠されているような気がする。
ステラのウェンディがリックを抱えていたという話。あれはまぎれもなくウェンディだった。しかもそのウェンディをギルが……
さらにヒューバートの声。あらためて聞くと聞き覚えがあるような…ないような…]
ウェンディが?
[ステラから耳にした話はマーティンから聞いたリックの最期よりずっと具体的な話で、私はしばし絶句した。]
……ああ、そうだ。
…エイヴァリー…先生。
[ステラの腕をそっと取り、少しだけ話の輪の外側へ連れ出す]
忘れないうちに。
落とし物を拾って預かってたんだ。
君にとって大事なものだろう?
[そう言うと、彼女にカードケースを返した]
[ヒューバートの姿を見、一瞬目を細めたが一礼し]
先生…ご心配をおかけしました。
少し家に忘れ物をしてたので…
[無難な言い訳をし、ステラのいう「噂」へは驚いたように]
…ウェンディが?あの小さなウェンディがリックを抱えて?
[信じられぬというように聞き返す]
[ノックはされたけれど、人が入ってくる様子もなくて]
…?
[重たいからだを寝台から下ろせば雑然と人の集まる店へとネグリジェのまま姿を見せる。
いつもの彼女であれば有り得ないようなことだったが]
書生 ハーヴェイは、見習い看護婦 ニーナ を能力(襲う)の対象に選びました。
書生 ハーヴェイは、冒険家 ナサニエル を投票先に選びました。
[自分の反応にステラが僅かに戸惑っているのを感じ取り]
あ、いえ、最近おかしな事ばかり起きるので、
何か少しでも手懸りになればと……。
[言い訳するように続けたが]
え……、ウェンディが───?
[返って来た話の内容に、呆然と言葉を失った。]
[顔をそらすかのようなソフィーに少し困ったように]
まだ調子悪いんじゃないんですか?
倒れていたんですから大事にしないと…
お父様もいるんですし。
書生 ハーヴェイは、酒場の看板娘 ローズマリー を投票先に選びました。
[ナサニエルの言葉に、正直自分もそう思ってしまいたいという願望を乗せて]
そうよ…ね、何処かのホラー映画じゃあるまいし…
[力なく笑い、バートに腕を引っ張られたわたしは、導かれるままに少しだけ話の席から身を外す。
彼から差し出されたのは、なくしたはずのカードケース。
でも何故これを彼が持っているの?]
あっ…ありがとうございます…バート…いえ、バンクロフトさん。何処で無くしたのか見当つかなくて…。ずっと探して居たんです。
[一瞬だけ垣間見えそうになった昔の顔。でもわたしは必死に隠して。教師としての振る舞いを崩さずケースを受け取り礼を述べた。]
何だかなァ………
[先ほどから煙草が吸えない苛立ちを覚えながら、頭をぼりぼりと掻き、ナサニエルは呟く。]
雑貨屋はめちゃめちゃだし、医者ン家やアーヴァインの家は燃えちまうし、おまけにリックはウェンディにさらわれて行方不明……。
………無茶苦茶にも程があるな。
ニーナ、その……元気……?
[ネリーはニーナに声をかけた。ニーナがこの短期間のうちに何があったかは知らない。けれどもどこかニーナが可哀想な気がしてならず、声をかけずにはいられなかった。]
―雑貨屋―
…伯父様…?
[ことんと首をかしげる。
普段より幾分幼い仕草。
じっとヒューバートの深い色の瞳をみて]
…ねぇ、伯父様……兄さん、どこ?
兄さん、また、私置いてどこか、いっちゃった…?
[青の瞳は涙の膜がうっすらとはって]
いや、いいんだ。
[私はステラに微笑みかける。このカードケースが落ちていたのは、この場所だった。ネリーの幽閉。それはもう、随分前のことに思われたが。彼女は何かを知っているのだろうか。
視線が絡んだのはほんの束の間のこと。
私は、いずれ話をする機会があることを願いつつ、話の輪に戻る彼女を見送った]
[町に現在残っている人が一度にこれだけ集まったのは、珍しいことではなかっただろうか。
私は、全員の姿を眺める。一人の男に目が留まった。]
ナッシュ。
ナサニエル――サイソン
[今は、メラーズという姓を名乗っていただろうか。エリザが綴り、シャーロットが遺した日記はまだ目を通してはいない。
だが、そこには私にとって重要ななにかが存在するような気がしていた。
いずれ――
その裏側を知る機会はあるだろうか]
[『ドクン』─
妙に心臓が高鳴るのはきっと近くに彼が…ギルバートがいるせいだろう。
あの強い、人ならざる気配に中てられれば今こうやって普通どおりに人々と話すのが精一杯だった。
しかし衝動は益々大きくなっていく。
抑えきれない所まで]
[私はいつの間にか左手で胸を抑えていた。]
何これ…どす黒い何かが…
ギル…? いややっぱり……ハーヴェイだわ…
駄目……駄目……
[わたしはバートの声につられるように視線を動かす。そこには寝間着姿のニーナの姿が映った。
図書館でよく顔を合わせていた彼女の姿は、憔悴しているように見えた。
でも、わたしには大丈夫?という言葉はなぜか投げかけられない…。]
[視線を逸らすように動かすと、今度はギルバートにしなだれかかっているローズの姿が映った。しかしわたしは眉一つ動かさず彼女から視線を外し、辺りを見渡す。
嗚呼、わたしが聞いた話が嘘であってほしいと、切に願いながら――]
[私は咄嗟、必死だった。
気がついたら誰も見えない所で、ハーヴェイの手を取り、彼にキスをしていた。どんな味かは覚えていない。]
[僅かに苛立っているナサニエルの様子に]
そうですね……。
不可解な事が多すぎて、
何か非現実的な世界に迷い込んでしまったような──。
[遠慮がちに感想を述べた。]
……兄さん?
[ニーナの言葉に、かすかに戸惑いながら、彼女の元に歩み寄る。
心配ない。
心配ないよ。
そう言って、軽く肩を抱いた。
そういえば、ニーナはここを出る時にも、“兄さん”と言っていたことを思い出す。
“兄さん”……それは誰のことなのだろうか。]
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