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見習い看護婦 ニーナ は 逃亡者 カミーラ に投票した
見習いメイド ネリー は 未亡人 オードリー に投票した
書生 ハーヴェイ は 未亡人 オードリー に投票した
未亡人 オードリー は 見習い看護婦 ニーナ に投票した
冒険家 ナサニエル は 未亡人 オードリー に投票した
学生 メイ は 未亡人 オードリー に投票した
医師 ヴィンセント は 未亡人 オードリー に投票した
鍛冶屋 ゴードン は 未亡人 オードリー に投票した
逃亡者 カミーラ は 未亡人 オードリー に投票した
お尋ね者 クインジー は 書生 ハーヴェイ に投票した
見習い看護婦 ニーナ に 1人が投票した
書生 ハーヴェイ に 1人が投票した
未亡人 オードリー に 7人が投票した
逃亡者 カミーラ に 1人が投票した
未亡人 オードリー は村人の手により処刑された……
逃亡者 カミーラ は、お尋ね者 クインジー を占った。
書生 ハーヴェイ は、逃亡者 カミーラ を守っている。
今日は犠牲者がいないようだ。人狼は襲撃に失敗したのだろうか?
現在の生存者は、見習い看護婦 ニーナ、見習いメイド ネリー、書生 ハーヴェイ、冒険家 ナサニエル、学生 メイ、医師 ヴィンセント、鍛冶屋 ゴードン、逃亡者 カミーラ、お尋ね者 クインジーの9名。
[仁科の言葉を聞いて]
……そうか。では、その人も、弔わねばならないな。
大事なのは生きている人間ばかりではない。
死に行くものの後生を、俺は。
見習い看護婦 ニーナは、見習いメイド ネリー を能力(襲う)の対象に選びました。
[仁科は天井を見上げる。
──…背筋が凍る。
既に呼吸をしてしないのではないかと思われる程、冷たくなってしまったと言うのに、心臓の辺りが痛む。]
冒険家 ナサニエルが「時間を進める」を選択しました
――二階/食堂――
[目を閉じ口元に手の甲を当て、さつきは笑う。少女らしい朗らかな声。瞳の奥は何色の光を湛えているのか、其までは判り得ぬ事柄だった]
こうして居る間にも、事態は何か動いているかもしれない――そう思ったら。なのに私はこうやって暢気に時間を過ごしている、そして――其の事を、何の不思議も無く感じているの。
其が、却って可笑しくって。
クスクスクス……。
―天賀谷の部屋―
[唱えた経文をふと、口の中で噛みしめ、呟き直す]
色は匂へど散りぬるを
我が世誰ぞ常ならむ――
[世に知られたいろは歌は、望月が唱えていた涅槃経を、今様として謡ったものだという]
学生 メイが「時間を進める」を選択しました
逃亡者 カミーラは、書生 ハーヴェイ を投票先に選びました。
逃亡者 カミーラは、見習い看護婦 ニーナ を能力(占う)の対象に選びました。
お尋ね者 クインジーが「時間を進める」を選択しました
[小さなデリンジャーは引き金を引くのに思った以上に力がいる。発射の際の筋肉の動きを見定めるべく、ドレスからのぞく二の腕を見つめていた。
彼女は射撃の経験を積んでいるとはいえ、機能的にいって何発も連続して撃てるものではないはずだ。制動力も弱い。
致命的な箇所に命中しさえしなければ――
タイミングを見計らいながら、飛びかかろうとした私を止めたのは、雲井の腕だった。]
雲井君、止めるのか!?
私なら、微細な傷で彼女を送ることができる。
私に任せないか。
君はどうせ、首を刎ねてしまうつもりだろう?
―三階廊下―
[死が、呼んでいる。
彼岸を渡る蝶のはばたきが聞こえた。
絨毯は血の川。
此岸と彼岸を隔てた三途の川。
翠は往く。
既に此処は、彼岸に片足を踏み出した場所。]
見習いメイド ネリーが「時間を進める」を選択しました
[渇望に追い立てられたように枚坂が階段を昇る。
この距離と位置関係からではドレスの二の腕から筋肉の動きを見極められたとしても、避けられるかどうかはサイコロを振るようなものだ。上と下では、階段上の方が有利。まして、此処は階段である。自由な動きは、し辛いであろう。
枚坂が、どれ程の経験を積んだかは分からないが、
夜桜の目には熱病に浮かされた病人のそれを想起させるに充分でもあった。
枚坂が階段の上に行き、夜桜は下から様子を窺うように、猫のように集中しながら移動をしていた。]
[暗雲立ち込める空を思わせる、雲井の視線。
夜桜は、大河原の様子を窺うと同時に焦りに似たものを感じているのか、じとり、と汗が額に湧いている。もしかすると、左肩の傷の所為もあったかもしれない。]
[そして、艶やかな漆黒のドレスを纏った大河原 碧子の姿。天井に浮かぶ首とは異なる、たおやかで居て、デリンジャーを握るしなやかな生身の女性。
…そう見えた。]
ちっ
君がどうしても碧子さんを送りたいなら、君に任せるがね。
[雲井の後ろ姿を睨む。]
『――抵抗が弱い方が、その躰が傷つくことも少ないか』
――二階/食堂――
[笑い已んださつきの繊手が黒のワンピースを探る。
何処に仕舞われていたものか、取り出したのは一通の手紙であった。十三に宛てた長彦よりのものである。結局未だ開けられぬ儘、血を吸った其はさつきの手元にあった]
「天が下のすべてのことには時がある」――と、美代子姉さまは随分昔、そう仰っていたわ。
人が生きるにも、殺すにも、愛するにも、憎むにも――。
だとすれば、此の手紙にも、開られるべき“時”と云うものが有るのでしょう。
[赤に滲んだ宛名は『天賀谷十三殿』。署名は簡潔に『長彦』と。
さつきは其をテーブルに起いて、見つめる]
一体……どうなのでしょうね。
此れの辿るべき“時”の道筋は。
――二階/食堂――
[さつきは其の儘、
たった今何処かで起きている争乱など知らぬげに、
白い指先で宛名の名をなぞった]
どうなのでしょうね。
叔父様――。
―天賀谷の部屋―
[二つ並んだ首を見ながら、問いかけるように呟く]
天賀谷さん。あんたは何を望んだんだ。
――不死なんてものは何処にもないのに。
雲井君!
今更碧子さんが惜しくなって、手に手を取って逃避行したりゃしないだろうね!
[鋭く叫び、じりじりと階段を昇っていく。]
……ひとは彼岸をいつかは渡る。
それが、遅いか早いかだけのこと……
[蝶を巡る攻防、
翠は眼を細めた。]
……大河原様。
[やはり、刀は抜けそうになかった。
自嘲を漏らす。
どうしようもなく、弱いのだと思った。]
[振り返って、碧子に微苦笑を投げる。]
あぁ……。
矢っ張り、貴女は……そう云う物が似合う女(ひと)だったか。
此処は何かと煩い。
さあ。行きましょう。
[まるで何事も無かったかの様に言った。]
夜桜くん、どうしたんだ。
大丈夫か?
[夜桜に問いかけた言葉はしかし、ややそぞろであった。
雲井と碧子の一挙手一投足も見逃さぬよう、凝視している。]
[流石に少し驚いた様に、碧子は眼を見開いた。
それから、艶然とした微笑を浮かべて、雲井に寄り添った。
階段にいる人々を、まるで忘れ去った様に、二人は階段に背を向け、歩き始めた。
碧子の肩に手を掛けようとする様子に、腕を滑らせた。
碧子の背が、こんな時にも昂然と、そんな気配に慣れた女らしい、わずかな期待と色香のようなものを含んだ震えを見せる。]
あたしが行きます。
せんせえは、行っちゃあいけない──。
[枚坂の薄くなった影は、階段の下──もしも、後ろを振り返る事があれば、夜桜の影と対比され解り易く*なっているだろう。*]
何処へ……
決まっているじゃないか。
私がずっと行きたかった処へだ。
――夜桜さん
“あれ”がどれだけ医学の発展と人類の成長にとって大事なものか――
そして、その成果を得るために、どれだけの命が犠牲になってきたことか……
[医学の発展に進歩的な未来、輝かしい言葉は金鍍金のように薄っぺらに響いた。]
「行く……」
[夜桜の言葉にはどこか凄絶な響きさえあった。]
私は……
[しばし呆然と佇む。現在という時を見失ったかのように。
夜桜に先程指摘された後は、影に眼差しを落とそうとしたことすらなかった。
それは他に目を背け続けたものと同様に、私の足下に重く横たわっていた。]
[こんな時にも、綺麗に結い上げられた髪から、わずかに首にかかる後れ毛に指を延ばす様にして……。
袖から引き出した極細のナイフの切先を、ぼんのくぼにに突き立てた。
崩れるように倒れかかる碧子を、抱き抱える。]
―廊下―
[階段での攻防が微かに見える。さすがに、事態を把握せざるをえなかった]
おまえさんは、その刀で何をする気だ?
[首を静かに横に振る]
あの場所へ出て行って何かをする気か。
夜桜さん。
私たちは一度たどり着いたんだよ。
その場所に。
でも、慌てて蓋をした。
恐ろしくなって、
絶えられなくなって、
なにもかもを破壊して
逃げ帰ってきたんだ。
この日本に。
手放してしまってはいけない……。
[満州の平房にあったロ号棟が崩れゆく光景を思い出していた。]
[雲井に抱かれる黒衣の碧子。
其れは銀幕のシネマの一場面の様に見えた。
四つ這いの獣の様に地を這って生きて来た、仁科の人生とは、全く異なる。相容れないと言っても良い程。
例えば、長い間不死者で有った異形の碧子の孤独を、仁科が想像する事も出来ない程。仁科はひたすらに足掻く者で有った。]
――二階/食堂→階段――
[空になった器を置き、さつきは席を立った]
――さ。そろそろ、行きましょうか。
[こくりと頷いた杏を従え、さつきは食堂からホールを抜けていった]
―廊下―
……私は、私の務めを、果たそうと。
[望月の顔を戸惑いがちに見つめ]
はい、
そうです。
私は……彼岸を覗く霊視、です。
医師 ヴィンセントが「時間を進める」を選択しました
[うつむいた翠に触れてはいけないかと、躊躇う]
確かに、誰かが手を下さねば、屍鬼は殺せない。
でも、抜かれた刃はここにある。
[己の胸を指さした]
――二階/階段――
あら――誰か、ひとが。
死んでいる――。
[黒薔薇の婦人は床に伏す。
階段の下から其の様子をすらと見上げるさつきは黒水仙の如く。あえかな微笑を形作った]
誰も彼もが血に染まる必要なんて、無いんだ。
『翠に、触れてはいけない』
翠さんには、翠さんにしか出来ない戦いがある。其れをまかせる以上は……。
[「“あれ”がどれだけ医学の発展と人類の成長にとって大事なものか」
枚坂の謂いに肌が粟立った思い。]
──なんてことを。
[かつて自分がドイツD*****で見たもの。そして、そこにいた者たち。
「私を助けに来てくれたのでしょう?
この地上から。生きることから。
生から解放してくれるのでしょう?」
──自分の命を絶て、と言う請いを拒めなかったのは
絶望に塗りつぶされた瞳をそれ以上見ていられなかったから。
武器など何もなく、自分のこの手で左胸を貫いて。
その翠の瞳に一瞬感謝の色が浮かんだ気がしたのはきっと気のせいなのだろう。
翠?]
……
[顔を上げて、再び望月を見つめた。
儚げな笑みを浮かべ]
……ありがとう、ございます。
私は、誰かに――助けていただいてばかり、ですね。
由良様も―――
[謂いかけて、首を横に振り]
行きます。
[再び黒い蝶の元へと歩き出した。]
―廊下―
『死ぬものが人間ならば、哀れなのだろうか。
死ぬものが屍鬼ならば、よかったと笑うのだろうか』
[翠には、言えなかった]
『人を殺す罪と、屍鬼にとどめを刺す罪との間にどれほどの差があるというのだろう?
生きようと、生きたいと思う心の深さにどれほどの変わりもあるまいに』
―廊下、雲井と大河原の元―
……大河原様。
[死の匂いがする。
力なく腕は下がり、
銃はもう彼女の手に握られることは無い。]
……雲井様。
大河原様は―――逝ってしまわれたのですね。
[漆黒の色彩を纏った夫人は、
それでも――艶やかで、美しかった]
――二階/階段――
[雲井が大河原の首筋に手を翳した――其の次には、拳銃を持った彼女の手から力が消えうせていった。そのようにさつきには見えた。だが、恐れる風もなくさつきは階段を上り始める]
――雲井様。
――屍鬼だったのですか、其の方は。
[あくまでも声は静か。表情にも、何一つ動揺の様子は見られなかった]
──三階・廊下──
[枚坂が突き飛ばされた結果、仁科からの死角位置に入る。
碧子と雲井の間に交われた会話を知らない仁科には、雲井が碧子を抱いた事を、碧子を庇護する為に、奥の部屋へと連れ去ろうとしている様に見えた。]
『雲井様に、拳銃を見られるのは不味ィ…。』
[仁科は恐れながら天井を再び見上げる。]
[本当は碧子が恐ろしいだけなのかもしれない。]
[現実から逃げたかったのかもしれない。]
――三階/廊下――
[雲井と大河原に歩み寄る翠の姿が見える。
さつきは変わらぬ調子で、言葉を継いだ]
――其れとも、ひとだったのですか。
――大河原碧子さんは。
[碧子の上に屈み込む様に、顔を伏せたまま。]
あぁ。
[低く肯定らしき言葉を呟いた。
延髄を貫いた細身の刃を、目立たぬ様に引き抜く。]
[重ねていたのだろうか、かつて自分があやめた人と同じ瞳の少女とを。]
どうなんだろう。
でも、
───もしそうでもそうでなくとも
彼女には生を全うしてほしい。
そのために俺ができることは祈ることだけなんだが。
[翠は二人の傍に傅いて、
力を無くした大河原夫人のたおやかな手をとった。
口付けるように顔を寄せ、眼を閉じる。]
……大河原様。
私、
大河原様に……よくしていただいて、
とても嬉しかったのですよ。
[遠い、彼岸が見える。
黒い蝶が舞っている。
揺れるのは彼岸花の群れか
其の色は濡れたような黒]
…………ッ
[其の先に佇む美しい影。
けれども艶やかな黒髪は見えず、肩から上に首は―――無い]
──三階・江原の部屋──
[其れとは知らず仁科が滑り込んだのは、──江原の部屋だった。
消毒薬の匂いがツンと鼻に来る…。]
――三階/廊下――
[さつきは近寄って、大河原の様子をつぶさに見つめた]
あら――?
首も、心臓も。傷一つ、ないようですけれど。
ひとならば未だしも――もしも、屍鬼であれば。
どちらかは砕かねば、ね?
雲井様――クスクスクス。
──三階・江原の部屋──
[明らかに手負いで有ろうはずの江原は、何故か扉の直ぐ傍に居た。怪我人ならば通常は寝台で休む物であろうに。
突然の侵入者に江原が口を開こうとする。]
『今、声を上げられては──…
(雲井と碧子に気付かれる。)』
[扉の内側に隠れた意味が無い。]
……
[一筋泪を零し]
……大河原様は、
……屍鬼に、相違ありません。
[眼を開く。此方に、首はあるのに。
さつきが笑っている。]
……斬 ら 、ないと。
[動けない。
無邪気に服を勧めてくれた、
いつかの夜会で声を掛けてくれた、
彼女の姿が過ぎる。]
……だめ……
学生 メイは、書生 ハーヴェイ を投票先に選びました。
―三階廊下
[雲井と傍らに倒れている碧子のそばに駈け寄る。
周囲には、翠や望月青年、さつきの姿もあった。]
『まずいな…… 注意深くタイミングを見計るつもりだったが、結局騒動になってしまった。』
[ひざまずく、翠の様子が目に入る。]
翠さん……
どうだい?
――三階/廊下――
[絞り出すような翠の声が耳に届いた。さつきは穏やかな調子で口を開く。慨嘆も悲憤もそこには無い]
――そうですか。ご苦労様、翠さん。
[つかの間だけ、さつきは瞑目する。黙祷するかのように小さく頭を垂れ――目を開いた]
では、斬りませんとね。
宜しいですか、雲井様?
──三階・江原の部屋──
[仁科は咄嗟に口唇に口唇を合わせ、江原の言葉を塞いだ。
男に対して、咄嗟に仁科は其の様な方法しか思い付かないのだ。口唇を一旦外してから「シ」と自らの口唇に指を当て外を指差す。
仁科は未だ碧子が雲井の手によって、永遠に美しいまま連れ去られた事を知らず…。]
―三階廊下
いやいや、さつき君。
斬ってしまっては無惨だよ。
これこのように、杭を用意してある。
[私は針のように細い銀の杭を取り出して見せた。]
――三階/廊下――
枚坂先生。
ああ――先生の手腕でしたら、何も斬首の辱めを及ぼすことも有りませんでしょうね。屍鬼に成ってお終いだっとは云えども、仮にも伯爵夫人でいらしたのですから。
心の臓を抜き出して仕舞えば、あらけなくも黄泉還って来られる恐れも消えましょう。
お願い、できますでしょうか?
[そう云ってさつきはそっと枚坂に辞儀をした]
これを心臓に打ち込んでしまえば、安心さ。
[碧子の死に際しても動じた様子のないさつきに怪訝だったが、その様子をさほど不自然に思うことなく浮かれていた。]
そうだね。
彼女の遺骸はなんの心配もないように処置するよ。
[陰鬱な響きの声、冷たく硬い眼光を帯びた雲井を見つめ返した]
いいえ。
人が斬られるところなど見たくは有りませんけれども。
だって、屍鬼だったのでしょう?
屍鬼とは化物なのでしょう?
可笑しな事を仰る雲井様ですわね。
其れとも若しや――雲井様?
[何かに思い当たったように、さつきは少し身を引く素振りを見せた]
ああ。
エンバーミング、という言葉を知っているかな。
この国ではあまり遺骸を保存しようとする試みは広まってはいないが、土葬を主とする国では広く行われている技術だ。
朝鮮で戦争が始まって、私も随分と米国の将校から依頼されたことがあるよ。
遺骸を親しい人の前に、生前の姿のままに戻して受け渡すんだ。
伯爵家に縁のある人は彼女だけだったかどうか――
いずれにしても身分卑しからぬ彼女にはそうされるだけの理由もあるだろうね。
[さつきの眼が細められる。疑わしい者を見出したかのように]
雲井様――若しや、貴方も。
本当は、屍鬼に成ってお終いだったのですか――?
雲井さん、そのまま放置しておいたら、腐ってしまう。
檀林皇后の九相詩絵巻さながらに、無惨極まりない醜悪な姿を晒してしまう。
それは彼女にとって、あまりにも気の毒だ。
──三階・江原の部屋──
[江原に状況を手短かに説明しようとする。
其の説明は偽りでは無いと言う様に、江原の目をしっかりと見つめ乍ら。]
………江原様ァ。
[仁科の微かな囁き声。
今触れたばかりの口唇の感触。江原を見つめる内に、最後に仁科が触れた男──…の事を思い出す。直ぐにでも説明を終え、何ら誤解される事も無く、雲井を出し抜いて碧子を殺しに行く算段を付けねば成らないと言うのに。]
お嬢さん。
それを謂って善いのはね……。
自分で斬る力と胆力が有る、者だけなんだよ。
[碧子の亡骸を抱き上げ、廊下を*歩き去ろうとした。*]
――三階/廊下――
えんばー……みんぐ?
いえ……、ですけれど、あぁ。
[耳慣れぬ単語に目を瞬いたさつきだったが、やがて頷いた]
埃及(エジプト)のピラミッドに葬られたミイラは、黄泉還りを信じた古代の王様だと――そして其の時の為に、丁重に保存の処理がなされたと。歴史の時間に教わりましたわ。
其と似ているのでしょうね……。
[そう云って、枚坂の邪魔をせぬ位置へとさつきは移動した]
[立ち上がる間際に残した言葉に反駁する]
力、ですか……。
其れは私には確かに有りませんけれど。
では逆に問いましょう。
力があれば、其れを使って何をしても良い――そう、雲井様は御考えなのですか? 其れは、蛮人の思考ですわ。
──三階・江原の部屋──
[両の目を見開いたまま、江原の口唇を猫の様な動作で舐める。]
『…此の様なお方の口唇だと言うのに柔らかい。
此のまま、目を閉じて──
抱いてしまいたい…。』
[一瞬の間、屍鬼の事も全て忘れている。
扉1枚を隔てた廊下で、碧子を巡り凄惨な話を持ち掛けようとしている枚坂の事等、*仁科は知らずに*。]
学生 メイは、お尋ね者 クインジー を投票先に選びました。
雲井さん!
[碧子の遺骸を抱き上げる雲井に声が追いすがる。]
早いうちがいいのだよ。
別れが必要ならしばし待つ。
すぐに部屋を伺うから、待っていてくれたまえ――。
ああ。さつき君は博識だね。
そう、死後の世界が生前の世界と等しく価値をもって大切にされていた時代がかつては何千年もあったんだ。
[そして、ふと思い出した。伝えづらいことゆえ僅かに逡巡したが、口にする。]
ああ、えっと……
あのね……君が知っているかどうかはわからないが、君の先生……
コルネールさんも、亡くなったんだよ。
[食堂に居たさつきは気づかなかった事実を告げる枚坂の声。彼が逡巡したほんの少しの間と厳粛な響きが、それは真実なのだとさつきに理解させた]
え――。
コルネール先生、が――?
『亡くなった……けれど、枚坂先生がそう云うのなら』
彼岸には、疑いなくお向かいになりましたでしょうか?
コルネールさんは人だと――翠さんは云っていた。
[私は屋敷で起きた数々の惨劇のあらましについて、彼女に話した。雲井に抱え上げられた碧子の姿を凝視したままではあったが。]
「疑いなく――」
[その響きに、まるで確認したいかのように耳に届いた。]
ああ。
えっと……コルネール先生とは、あまり仲がよくなかったのかい?
[枚坂の話は簡潔で要点を得ていた。由良の部屋に向かおうとしたさつきを杏が押し止めたのは、まさに丁度、シロタと江原が殺し合って居た時であったのだろうと推測する。
尤も――此の異界の中で、己の時間感覚がどれほど確かなものか、其は疑わしいことだったが]
『枚坂先生だけでない……望月様もまた同じように。
屍鬼の黄泉還らんとする事を押し止めようとしていた……』
『その反対に、雲井さんは……』
[苦笑いするようにして、さつきは少し目を伏せた]
先生、亡くなったばかりの方の事を悪くなど――。
私には申し上げられませんわ。
ただ、音楽の道の楽しさ、そして厳しさを私に気づかせてくださったのはコルネール先生であったと。
ですから、この様な時でなければ……葬送曲の手向けなりと、差し上げたいのですけれども。
それもそうだったね。
いや、変なことを聞いて済まない。
[翠を抱き寄せ、甘い言葉を囁いていたコルネールの姿がよぎったのは、私の迷い故だっただろう。
彼は、その生徒に対してはよい先生であったのかもしれないのだ。]
葬送曲か……
それはここでは禁忌になりそうだ。
[苦笑する。]
あまりにも多くの人の命が喪われたからね。
[そしてこの先も屍鬼を討ち倒さないかぎりはずっと――とその言葉はあえて口にはしなかった。]
そうだ、さつき君。
[ふと、気になっていたことを口にする。]
君が携えていた書付は……この変事のなにかの手がかりになりうるものだったんだろうか。
それと――
[仮に天賀谷が屍鬼に不死の願いを託していたのなら、準備していたであろうものが思い浮かんだ。]
さつき君、君は天賀谷さんから呪具や宝玉の類を預かってはいないだろうか。
いや……君はこの屋敷をあまり頻繁には訪れなかったかな。
いや、最後のことは気にしないでくれ。
呪具のたぐいを気にするなんて、医者や研究者としてはおかしな話だね。
[ははは、と私は誤魔化すように笑った。]
――三階/廊下――
ああ――此れ、は。父から、十三叔父へのものでしたから――あんな事に、なってしまって、遅かったのでしょうけれど。
[赤黒くそまった封筒を隠しから取り出して見つめ、暫く逡巡したものの、さつきはやがて封を切った]
先生も、文面を確認していただけますか?
あら? 此れは――何、かしら。
[さつきは床に落ちた紙片を拾い上げる。長方形の紙片と見えた物は、二人の男女を撮った写真であった。天然色の色合いは、まるで昨日撮ったかの様に鮮明で――女性の容姿を見定めたさつきは、息を呑んだ]
此れは――私? 一体、何うして――
この写真は……上、海?
[もう一方の人物――さつきに瓜二つの女性の肩を抱いた男性――を見定めるのが恐ろしく、慌てたように写真の裏を返した]
「媚児と十三 上海にて 昭和十■年」
えっ……な、ぜ……?
媚児……
[私は狼狽した。]
う、嘘だ!
しかし……
[私はさつきと写真の女性を何度も交互に見比べる。]
ああ……
…だが、似ている……
これは一体――
[写真に写った男性は若々しく、いっても未だ三十台の後半くらいであろうと思われた。全体の造作は彫り深く、瞳には精気が満ちていた。そして何よりも特徴的なのは――]
鼻すじの形――。
叔父様の、鷲鼻にそっくりだわ――。
枚坂先生、どうかよくご覧になって下さい……。
私だけでは、此れが真か嘘か、判じかねるのです……。
[枚坂へと写真を差し出し、便箋の文面に目を走らせた]
私は、南京中央病院に置かれた栄1644部隊の本部に保管された資料で、上海で起きた事件の関係者の写真を検分したことがあるんだ。
彼女は、そこで見た最重要人物の一人だ。
だが、なぜ君がこんな写真を――
[実業家の父らしい、読み易く几帳面な文字で綴られた内容は同封の写真に写っていた女性がさつきの母であることを裏付けるものであった。上海に居た戦前の当時、とある酒家で働いていた娘だったのだと、長彦の文章は語っていた。
そして其の娘と懇ろになり、生まれた赤子を長彦に預けたのが今からおよそ十六年の昔であった、という――]
ここに写っているのは天賀谷…十三さん――
そして隣の女性は君に瓜二つ……。
……十三さんは君の叔父ではなかったのか?
[私はその意味を推察し、唇を噛んだ。]
[文面を読み上げるさつきの声は次第にわななき、掠れ始めていた。全身を熱病のような震えと、其れに反比例するような寒気が襲うのをさつきは感じていた]
「――十三君。君が真に、さつきの父で有る事を明かそうと云う心算を持っているのならば、此れまでの十六年間の君の歩み、其の間に思い考えていた事柄の一切を、包み無くさつきに話して遣るべきであろう。そして其の上で、さつきの判断に全てを任せるのが筋である。其れが、今現在まで父親としてさつきを育ててきた兄よりの、心からの願いである。どうか、嘗て君の愛した女性に愧じる事無き振る舞いを、さつきに対してもしてやって呉れ給うよう。
長彦 」
ああ……。
[私は思わず呻いた。
本来なら穏やかで情の通うものであるべき父子の対面が、あのようなかたちに終わってしまったのだ。
ましてや、当事者の十三は真実を語ることも、また娘への情愛を表すこともなく逝ってしまったのである。]
[さつきは幾度も首を振る。身に感じた衝撃の大きさを示すように、便箋がはらりと床に落ちた]
……わたし……叔父様、が……父、だ……なんて……
……そんな、うそ……信じられ、ません……
[瞳は揺れ惑い、すがるように枚坂を見つめた]
さつき君、大丈夫か。
いや――
見なかったことにして仕舞うのがいいよ。
君にとって、大事なのは育ててくれた方の父君であろうから……。
[私は彼女に慰めの言葉のかけようもなかったが、せめて思うままを口にした。]
――三階/廊下――
[枚坂の言葉は温かく、優しく心の中へ染み入ってくるように感じられた。どこか危なげではあったものの、さつきはこくりと頷いた]
はい……。
私は……お父様……嗚呼、でも。
血の繋がった、父は……
『殺されたのだわ』
『屍鬼に殺された――
其れも、あんなにも無残な姿で――』
さつき君……
[戸惑いながら、その肩に手を置いた。]
私が云うのも可笑しな話だが、亡くなった人のことは忘れてしまうんだ。
気にしないことだ。
[自分自身の言葉がどれだけ空疎に響いたことだろう。
ここでこうしている間も、碧子の遺骸や天賀谷の遺骸、藤峰君の亡骸、そして――
亡者のことが頭の一隅から決して離れないこの私が。]
枚坂先生……。
[目を閉じた儘、さつきは首を振った。まなうらに映るのは鮮血を勢いよく噴き上げ、どろどろと臓物を吐き出す十三の非業の最期であった。ぶるっと頭を振って瞼を開くと、落ち着いた枚坂の姿があった]
先生……私には……まだ、其の様には……。
けれど……ええ、大丈夫です。
大丈夫……。
[横手からそっと腰を支える小さな掌。杏のものであった]
私には、杏が付いて呉れていますから。
それよりも、枚坂先生。
雲井さんを何うにかしなければ――あの様子は、屍鬼に魅入られてしまっているのやも――この儘では、屍鬼、と。
[大河原の名を口に出す事は出来なかった。
心中に赫っと熾った焔が、さつきの意識から其の名を焼き尽くし、灰燼に帰さしめた。杏に寄りかかるようにしながらも、さつきの瞳は異様なまでの光を*帯びていった*]
時間がかかるかもしれないが……
だが、無理はしないようにね。
[さつきの隣には杏の姿があった。「大丈夫」というさつきの言葉にほっとしたように肯く。
こうした酸鼻を極める場所であっても、己を見失った様子なく平常であるように見受けられるのは、年近い知己が寄り添うように居るからだろうと納得しながら。]
雲井さんか――
[藤峰青年には躊躇うことなく刀を打ち下ろした様子を思い出す。碧子と長く一緒に居させるわけにはいかなかった。
時間を経れば手遅れになってしまうかもしれない。]
たしかに、あのままにしてはおけない……。
[私は、雲井の背中を追って*歩み出した*。]
―三階/碧子の客室―
[ひと際豪奢な寝台に、碧子の躰を横たえる。
苦悶、というよりは驚くように、碧子の眼は瞠かれていた。
何に対する驚愕なのか、最早窺い知る術はない。
首筋を襲った衝撃にか、突然の死にか。
或いは翠に迄屍鬼と宣告された事にか。
そっと瞼を撫でる様に閉ざすと、その掌の下で、血の気のない貌は酷くあどけないものに変わった。]
まるで生きてる様だな。
いや。屍鬼なんだから、これでも眠っている様なものなのかな。
碧子さん。
貴女、如何して……天賀谷を殺したんだ、とは訊く積もりもないが。
如何して……あの時、諦めてしまったんだ。
一時の仮初めの死なんぞ、貴女には意味が無いとでも謂うのか。
それとも、本当に……諦めたくなったのか?
[碧子の唇は、艶やかな紅色を湛え、かすかに開いている。
だが、いらえがある筈もない。]
やれやれ。
そう悠長に構えても、居られないなぁ。
[そう呟きながらも、碧子の髪のほつれを整えるように、なぞる。
その上に、ひらりとひと片のほの紅い花弁が舞い落ちた。
カーテンを引き絞って開かれたままの張り出し窓から、風に乗って吹き込んだのだろう。
窓に寄ると、枝ぶりも美事な櫻が見て取れた。
枝を揺らす強い風に、吹雪の様に花弁が吹き散らされて行く。
風に舞い上がる花弁の向こう、埋もれる様に横たわる人影。
そんな幻の様な光景を、一瞬見た様に思った。]
あれ……は。
人間、か?
[風に舞い上がる花弁の向こう、埋もれる様に横たわる姿。
そんな幻の様な光景を、一瞬見た様に思った。
だが、それが幻では無い事を、何故か確信していた。]
―三階客室>地上―
[大きな旅行用革鞄、そしてスーツケースを、窓から投げ落とす。
碧子の躰を再びそっと、抱き上げた。
眠った子供を扱うように、そっと。
廊下の様子を窺う。
そこは未だ無人だった。
表の階段の方向からは、興奮した板坂の声が聞こえる。
それを避けて、裏手の使用人専用の区域へ続く扉をくぐった。
勝手は判らないながらも、地上への階段が何処かに在る事は知っている。]
―裏庭―
この櫻を見せびらかさないとは、随分贅沢をしたもんだ。
[呟きながら、薄紅色の褥の上に、黒いドレスを纏った躰を、ふわりと下ろした。]
少しだけ、そこで待って居てくれ。
[まるで我侭な子供に語り掛ける様に言った。]
[その亡骸は、殆んど花弁に埋もれる様にして在った。
彼女の死者の静謐をたたえた青白い貌は、これから自らが受ける仕打ちを知ってか知らずか、安らかだった。]
[客室から落とした落とした荷物、そして車庫からブリキのタンクと、二度母屋近くまでを往復して運んで来ると、その亡骸は花弁に埋もれかけて居た。
トランクから引き出した豪奢な衣装を、次々と亡骸の上に投げかけて行く。
重い絹にとりどりの鮮やかな色を染めたその襲の色目は、亡骸を飾る様に華やかだった。
絹が亡骸を覆い尽くした。
その上に、タンクの中身を溢す。
つんと鼻をつく揮発臭が、花と、そして死臭を圧して立ち上った。]
逃亡者 カミーラが「時間を進める」を選択しました
逃亡者 カミーラは、書生 ハーヴェイ を能力(占う)の対象に選びました。
[上着の内側から取り出したマッチを擦り、投げる。
ごおっ、という音と共に、炎は一気にその絹の山に広がった。
ガソリンを燃やす、野蛮な臭いと共に、黒い煙が風に煽り立てられる。
祈る様に、一瞬眼を閉じた]
『誰だか知らないが、済まんね。
生き返る筈だったんなら、だが。
まあここで死んだのが運のつきだと、思ってくれ。
それとも、この亡骸まで……用意していたのか? 貴女は』
[ほとんど空になったトランクに、一枚の振袖、それは翠に着せるために持って来られた物だろうか、美しいオリーブ色の波濤が砕ける着物を敷いて、碧子の躰を納めた。
膝を折った姿勢が、なるべく楽になるように、蓋を閉める。]
死んで居るんだから、息苦しいって事は、無いといいんだが。
まあ。一先ずは、此処で眠って居て貰うよりありませんよ。
貴女が、それを本当に望んで居るのかどうかは……。
いや。いい。それは、その時の事だ。
─回想・異界化した3階・階段上─
[白い貌は宙に踊り、一杯に見開いた目で影見と称する女を凝視する。
その視線に人を殺す力が有るのならば、夜桜は当に凍りついた氷柱となっていただろう。憤怒は今は炎でなく、凍て付かせる冷たさに変わった。
うねる黒髪の周りを雪片が舞う。]
おのれ……おのれ。
[歯をガチガチと噛み鳴らす度に結晶が生まれ、黒髪をレェスの様に飾る。]
天賀谷よ、これほどまでしてわたしを此処に葬りたかったのか。
わざわざ異能を持つ者を、屍鬼を知る者を呼び集めて。
集った人々の生命を人柱として。
わたしを封じ込める檻を……
天賀谷ィィィィ!!
[白い貌は凍て付いた怒りのままに“あちら”への道筋を開き、夜桜を“こちら”に引き込もうとして、]
──『もう、止めましょう。』
[突如掛けられた聲に、激しい驚愕の色を浮かべて、自分の真下を見下ろした。]
[其処には、現実と同じ、夜桜に銃を向けた碧子が、薄黒い陰の姿で立っている。
聲は、その碧子から発せられているのだった。
見下ろす白い貌の、自分と瓜二つの面は見ずに、視線を階下に据えたまま、唇を動かさず碧子は囁いた。]
『もう私は、十分に長く生きました。……長過ぎたくらい。』
『見るべきものはもう、見尽くしました。
──逝きましょう、皆のところへ。』
[毅然として囁くその聲に、白い貌は虚を突かれた表情でおのれの依り代である影を見ていたが、]
……常世のものは常世へ還る。
そう、そうであったなあ……
[憤怒は消え失せて、夢見る様な懐かしむ色が白い面を覆う。
赫い闇に浮かんだ、白い華が、莞爾とした微笑を紅い蘂に刻んだ。]
―江原自室―
[休んでいたら、騒がしい声が聞こえる。
様子見に飛び出そうにも、負傷が大きい
現状では、大事において足手纏いになりかねない。]
…………。
[扉近くに歩み寄り、情報を得ようと必死
―になろうとした刹那不測の訪問者]
ッ!?
[驚きの声を上げようとするも、侵入者
―仁科の唇が重なり、それを阻害する。]
書生 ハーヴェイは、逃亡者 カミーラ を能力(守る)の対象に選びました。
[微かな囁き声…聞きとれぬが、江原の琴線に触れる。]
………。
[自分の唇を舐める仁科。しばらくそうしていたが、
ふと抱き寄せる形で耳元に口を近づける。]
………天賀谷氏が、支那へ外遊したときのことだ。
彼は、そこでひとりの少女と出会った。
自分の娘のようにかわいがったようだが……
[沈痛な面持ちで、話を続ける。]
私は、その少女を殺した。
正確には、少女を含む多くの人々を。
手製の爆弾だが、充分な威力を持っていたようだ。
[仁科の首に、温かい水滴が落ちる。]
私はね、昔から勘がいいんだ。
あの日私は天賀谷氏とすれ違った。
そのとき、ぞくっとするものを感じた。
勿論、勘なんてもんは外れることもあるが。
そればかり気にしていた。
すると、その夜私は妙な手応えを感じたのだ。
[戦慄く]
何者かの悪意ある行為を、この手で妨げた感覚だ。
今考えればわかる。あのとき、私は天賀谷氏に迫る
屍鬼の影を封じたのであろう。
その手応えに、オキナワ戦線に於いても
感じたことのないものを覚えた。
今ならはっきりわかる。恐怖だったのだ。
翌日、私は天賀谷氏が支那で出会った人間が
集う機を狙い、爆弾を用いたテロルを敢行した。
[ぽた…ぽた……]
皆の五体は弾け、生き残った者はおらぬという。
その、天賀谷氏の琴線に触れた少女も例外ではなかった。
どうやら、その後彼はとある情報網から
あのときのテロルの首謀者が私であると嗅ぎ取ったらしい。
[ぽたぽた。水滴が激しく。]
私はもう長くない。屍鬼は、目聡く私の影封じの
異能を嗅ぎ付け、始末しにかかるであろう。
………私は、命を賭して囮になるつもりだ。
ここに来て、封じの手応えは2回あった。
あの使用人―夜桜といったか―の姿を見て、
私の勘が、危機を囁いたのだ。根拠は知らぬ。
私が囮になっている間に、屍鬼を炙り出せれば……。
[仁科を強く抱く。]
どうやら、私も軟弱者のようだ。
覚悟を決めたはずなのに、こうしていたいと願ってしまう。
[ただ、ただ*抱きしめる*。]
[灰が舞う]
[黒] [紅] [桃]
[熱風にあおられ、草翳に隠れた小魚達が散らされるように、櫻が乱れている。]
[さわさわさわ] [さわ]
[さわさわさわ]
雲井さま。
[朱色の唇が囁いた]
[枝の先に蕾が膨らみ]
[ちと] [と、花ひらく]
[咲くら] [うつろう限られし時間]
[夜桜は階段を上がる]
一つ積み
二つ積み
積んだわらてをふりのけて
[わぉぉぉお……ん]
死にはしませぬお前さん。
――――イよ、お頼みます。
[頭を下げ下げ水鏡を覗き込んだ]
―回想、三階廊下―
……待っ……
[去る雲井、
背を追う様に手を伸ばす。
その指先は血塗れ。
壁を支えに体をのろのろと起こし、
歩き始めた。
エンバーミング。
書付。
枚坂とさつきの声を背にして]
……っおお、がわらさま……
[疲労だろうか、体が重い。]
『追って、どうするつもりなの』
[自問する。]
[眼下の碧子は近付いて来た雲井を艶やかな微笑で迎えた。
そして、階段の下を振り向きもせずに寄り添って歩き出す。
碧子の姿から、全身を覆っていた翳りが薄れ、鮮やかな色彩を取り戻す。]
[白い貌はそれを確めると、瞑る様に瞳を閉じ……ずぶずぶと赫い闇に沈んでいく……
赫い闇は深い水のように白く仄かに輝く貌を受け入れ、波打たせ……
とぷん、とひとつ波紋を残して*消えた。*]
[元陸軍将校である雲井の姿が映り込む。]
[荒(あら)う戦場でキビリとした動きで激をとばしている]
[水鏡の雲井がふいに此方を見た]
[静かな眸の中に獅子の闘志を宿した男であった]
[先程背中を見つめていた時も、こんな眸をしていたのだろうか。
かげを纏うた後姿。
赫き月下。
未だ半日を過ぎた程……であろうか。
僅かな間に、天賀谷、由良、シロタに藤峰、
大河原と、
頸を斬られ屍鬼に襲われ焔で燃やされ]
[もの謂わぬむくろとなり果てた]
―三階→二階階段→エントランス―
『皆、逝ってしまう』
[屍鬼が居る。
天賀谷が殺され、
怒りを覚え、
刀を取り、
だが抜くことは無く、
彼岸を覗き、
やがて迷いが生じた]
『……あんな風に、
笑っていたのに』
[始まりからどれほどの時間が経ったのだろう。飾り窓から変わらぬ月が覗いた]
……どうしてですか。
[誰に向けた問いだったろう]
―扉前―
[雲井の姿はとうにない。
扉を押し開けて、外を臨む。
明けか暮れか分からない空。
鮮やかに映える緋の花が見えた。]
……
[あの影が重なる。
程なく微かな熱気を帯びたガソリンの匂いが漂ってきた。
――彼岸の黒が散る。
ずるずると座り込むと、翠は*押し殺した嗚咽を漏らした*]
学生 メイは、見習い看護婦 ニーナ を投票先に選びました。
―― 一階/扉→玄関口――
[扉を隔て、押し殺した咽び声が聞こえる。翠が其の向こうに居た。さつきは傍らに佇み、黒煙の立ち昇る空を見上げた]
…………翠さん。
……何故、泣くのです。
逃亡者 カミーラは、見習い看護婦 ニーナ を能力(占う)の対象に選びました。
逃亡者 カミーラは、鍛冶屋 ゴードン を投票先に選びました。
[大河原婦人の体が燃えている。雲井の手によって火をかけられて。]
───雲井さん?
あなたにとってはきっとどちらでもよいのでしょうけれど、
碧子さんを解放したかったんですか、誰の手にも渡したくなかったんですか?
[聞こえるはずもなく、問うたところで何がどうなるというのではないけれど
立ち尽くす雲井に向かって───]
[これで夜桜が見ておらぬものは、
仁科、来海、望月、翠と江原となった。
階下でくずおれている翠と、さつき――。
夜桜は屍鬼なるものとおぼしき人物の元へゆかんと歩む。
――三階へ。
夫婦神より産まれた「ならず」は*海に流されたようである。*]
―扉前―
[涙を拭いながら、
翠はさつきの声を聞いた]
……わかっています。
わかって……。
でも、笑っていました。
同じように、生きていたんです。
[ばかな事を謂っている――そう、思いながらも]
……わかって、います。
まだ空間は閉じている。
彼岸への繋がりも続いている。
まだ、屠らなければならないものが、いる。
……まだ、おわってない。
冒険家 ナサニエルは、鍛冶屋 ゴードン を投票先に選びました。
―回想・三階天賀谷部屋前廊下―
……花が散る。
[裏庭から上がった煙で、雲井と……碧子の所在を知った。舞い落ちる花びらと、舞い上がる火の粉が異形の空の下で踊っている]
[望月はその光景を窓から食い入るように見つめていた。
極彩色の衣装に包まれて横たわる碧子が煙に包まれていく。揺れる炎と煙は、佳人の肌の燃える瞬間を決して見せようとはしなかった]
逝けただろうか。
[誰にともなく呟いて、煙の立ち上る先を眺めやる]
逝けるといいな。
……私は真実を伝えなければ。
[望月の謂った――自身の戦いのため]
夜桜さんは、
さつき様は違う、と謂いました。
ならば。
[残ったのは]
……。
[ガソリンの匂いが花びらの焼ける匂いと共に漂う。
淡い火の粉は天へ届くだろうか。
残る者達の元へ、
翠は歩き出した。]
―3階廊下―
[仁科を探したが、どこにも見当たらない]
智恵さんという人――。
その人の死を悼んでやりたいと思ったのに、場所を尋ねなかったな。
[仁科は彼女の死を誰から知った、などといっていただろうか。――思い出せない]
[煌く水面を見つめながら、己の姿を確かめることが出来ず、じっと、どれくらいの間佇んでいただろう]
いや、行こう。
俺の命がある間に出来ることは、悼むことと、送ることだけだ。
[時は現在。→玄関へ]
― 一階、エントランス―
……夜桜さんは、
誰を見て、
誰を見ていないのでしょう。
さつき様は、聞いてはおられませんか?
[窓の外へ眼を遣る。
花蘇芳が咲いていた。]
……誰を、
[未だ持ったままの刀を握り締め]
……。
[血文字を思い出す。
後に残るは
翠、さつき、夜桜、雲井、枚坂、望月、仁科、来海、江原―――]
―玄関―
[翠にむかって]
……少し、休んだらどうだ。
死に相対するのは、生半可なことではない。戦場も知らぬ年頃のおまえさんにはなおのこと辛いだろう?
[労わるような心配顔は、しかし、半ば血に染まっている]
―三階碧子客室前
雲井さん? ねえ、雲井さん。そろそろいいだろう。
《ダンダンダン!》
[扉を敲く。部屋の中の気配はなぜか虚ろだった。
悪い予感がした。]
雲井さん――
[扉を開け放つと、そこには誰も居なかった。]
――しまった!
[雲井は碧子の亡骸を連れたまま、逃亡を図ったのだろうか。それだけならまだよかった。
藤峰青年に打ち下ろされた太刀筋のその躊躇いのなさを思い出す。]
まさか――
早まるな! 雲井さん!!
[私は、飛び降りるように階段を駆け下りていった。]
―裏庭
[屋敷を出て周囲に視線を送る。裏手の方が奇妙に明るかった。
パチパチと爆ぜる音がする。]
まさか!
まさか、まさか、
そんな――
[もつれる足で、転げるように駈け寄った。]
ぁああぁあああぁああぉあアァ!!!!
[声にならない絶叫を迸らせながら、半狂乱になってのたうち回った。
囂々と燃え盛る眩いほどの炎に人の形をした影が包まれている。
光が爆ぜ、明滅し、風に舞い火の粉が踊る。
一瞬、火勢に煽られ、碧子の影が反り返った。
煌々と浮かび上がる櫻の下。
紅蓮の炎の中で、碧子は末期の舞踊を披露していた。]
くそっ!
行かせるか――
行かせるものか!
[炎の中に飛び出しかけた私の眼前で、その影はグズリとくぐもった音とともに崩れ落ちた。]
――ああ……
[呆然と膝をつく私の眼前で、碧子の体は炎の中に溶けていったのだった。]
―玄関―
[翠とさつきを見て、ふと瞬きした]
ああ、あまり近づくと悪いな。血の臭いは……染み付くと取れない。
[寂しそうな微笑を見せて、外へ向かって歩き出す]
何百人もの……
……犠牲
…手にすることができなかった――
…………なの……に……
あと少しで……
……ほんの目の前に……
…………あったというのに……
[ややあって、ふっと哂う]
……無理なことを言ったか。
ああ、そうだな。俺こそ屍鬼かも知れぬ。そうでなくとも人殺しは間違いない。
無理な願いだ。頼られたい、などと。
―玄関前―
[血に染まって尚いたわるような其の表情。
翠は首を横に振った。]
……いいえ、
私だけ、休むわけには。
……血の臭いならもう染み付いています。
[外へと歩む望月へ体ごと振り向いて]
どちらへ……?
[翠に答えて]
あの森の中に、屍鬼に襲われて人知れず亡くなっている智恵さんがいるんだ。
……弔いにいく。
仁科さんは、彼女がよみがえらないよう弾丸を胸に撃ち込んだという。
だが、それは処置だ。
……屍鬼を恐れるならば処置は仕方ない。だが、弔う心がなくていいというわけではないと、俺は思う。
さつき様、お休みになった方が―――
[謂いかけた所で、
望月の言葉が続いた。]
――――!
[眼を見開く。
其の言葉は、由良が翠にかけた言葉に――あまりにも、似ていたから。
扉の外で、花蘇芳が揺れている。]
[火勢に煽られて、その中に一瞬、踊るように亡骸が反り返った。
だがそのシルエットももう、定かではない。
振り返り。]
死体になってしまえば、皆同じですよ。
脂肪と、骨と……。
死者の望みなど、気にするのは生きている者だけだ……。
板坂さん。
貴方、この死体に、何の用が有ったんだ?
復って来ない様に処置するのに、何か違いがあるとでも?
―――い、いえ、
そんな――――
[動揺を押し隠すように、眼を伏せた。]
……望月様は……
其れが正しいと思い―――なさっただけで。
由良様も―――皆様も―――
[首を横に振った。
刀は未だ、きつく握り締められたまま。]
世界は、生きているもののためにだけあるのじゃないと俺は思う。
あるいは、俺が狂っているのかもしれない。
人殺しの手向けなど、誰も喜ばぬかもしれない。
だが、俺の縁たる人たちの往生を願うならば……。
―裏庭・櫻の樹の前
[焼くものを喪った炎がその勢いを弱め、燻って消えゆこうとする頃、漸く自我を取り戻した。
魂の抜けた表情で立ち上がる。
深く、深く。息を吐いた。
傍らに佇み碧子を見送った雲井に眼差しを向ける。
彼女の肉体は既に喪われた。
決して戻すことが叶わぬ方法で。
今更、何を云っても詮のないことだった。
だが――]
[目を伏せた翠を慰めるような声で]
いいんだ。
恐れても、詰っても憎まれても別にかまわない。当然だ。
……俺自身、これが正しいと確信が持てるほど強くはない。
ほかによい方法が見つからないだけなんだ。
ああ。雲井さん。
私は碧子さんに伝えたように、彼女の肉体を愛していたのだよ。
皆、同じじゃない。
彼女が屍鬼であるなら、その体はあまりに貴重だ――
私は十年以上、“屍鬼”を探し求めていたのだから。
いや、人の再生という願いについてだけなら、もっと長い時になる。
それだけの長い時を経た……思いを持っていたんだ。
―玄関―
『務め』
[そう言われて得心したかのような、あるいは絶望したような微笑を見せる]
……うん。
俺は、羅刹なんだ。
[声は、奇妙に清冽である]
[慰めるような声に、
胸が詰まるような思いがした。]
……魂を暴く私とて
正しいことをしているわけではないでしょう。
……少なくとも私はそう考えている。
刀を取ったのも斬ろうと思ったから。
でも―――
……本当に、最善の方法なんて、
きっと、誰にも分からない。
後に此の出来事が口伝で伝わるなら、
誰かが考えるかもしれません、けれど。
貴重……ね。
そりゃあ貴重でしょう。
だが残して置いてどうします?
本当に、貴方が望む通り戻って来てしまったら。
あの女(ひと)が、貴方に好意的な存在として、再生するとは思えんがね。
そうしてまで猶、「人の再生」は追求する価値がありますか。
[唇の端を釣り上げて笑う。
死者の安らぎを云々した板坂の、その変節を嘲笑った様にも見えた。]
刀を手放して、俺に肩代わりさせて欲しい……。
ああ、無理を言って済まなかった。
[俺はせめて、誰かのための刀でありたかった]
翠さん。俺がこんな羅刹でなければ、願いを聞いてくれたか?
[清冽な声。
翠は顔を上げた。
泣きそうな、顔に見えたかもしれない。]
……わたし、わかりません。
[望月に歩み寄り、手を伸ばした。
頬に触れようとしたのか――]
羅刹だから、
そんな理由で迷っているわけではないのです。
……頼ること、
負担になってしまうような、気がして。
[この異界で。
斃れた由良と望月が重なった]
いや――
私は碧子さんの魂を呼び戻そうとは思っていないさ。
天賀谷さん、藤峰君、彼らは惜しむ人がいた。
私はその惜しまれるが故に、安寧を願ったんだよ。
碧子さんについては、心以上にその肉体に関心を持っていたのは確かだ。
“体”目当ての卑しい男だと思うかい?
だが、君はどうなんだ?
“心”から、彼女を愛していたのか?
[魂の深淵を覗くのだという翠。
その業の深さは想像もつかなかったけれど、それが誰にも代われないことだけはわかった。
……わかりたいと思った]
雲井さん。
貴方が彼女を焼いたのは、屍鬼の復活を恐れる妄執ゆえか
それとも――
それ程彼女を愛していたのか?
私に決して渡したくないほどに――
心から?
最後の頼みを聞いて遣りたくなる程度にはね。
それを愛と謂うなら、そうなんだろう。
屍鬼は蘇えらない様、処置しなくちゃいけないが。
首は切られたくないと、言われてしまったからね。
負担というのなら、ただ一人彼岸に対峙し続ける翠さんだって同じことだろう。
それを、俺は代わってやることが出来ないんだから。
確かに――彼女が最期を託したのは貴方だったな。
[苦笑した。]
彼女へのアプローチが少々まずかったかね。
女の口説き方をもう少し勉強しておくべきだったな。
[私は、やけくそぎみに自嘲して冗談に紛らわせた。]
……望月様は、とても、お優しい。
私などに、そんな。
[由良も、肩代わりさせてくれと謂った。
あの後、どうして追い掛けなかったろう。
今はもう其の言葉も彼岸へと渡ってしまった。]
……大丈夫です。
そう謂っていただけるだけでも、私は……
……鍔鳴りを、聞いただろう?
何度も、何度も。
[こんなことを言えば、この温もりをなくしてしまうかもしれない。
そう思ったが、伝えなければと思った]
あの鍔鳴りはきっと、血に飢えた刀が鞘走るときを伝えていたんだ。
……俺、という、望月龍一という存在は、今、鞘から抜けた刀に過ぎないんだ。
「……望月様は、とても、お優しい。」
[首を横にふる]
俺は、優しくなど。
雲井さん、貴方は聢りとした人だ。
屹度、碧子さんのこともすぐに忘れる。
省みる者がなければ、碧子さんも未練なく成仏できるだろう。
[私は雲井に背中を向け――]
それが、正しいことなんだろうね。
[呟いた]
……それなら、
刀が戻る鞘が必要ではありませんか。
いつかは、鞘に収まるのでしょう……?
[ゆっくりと、確かめるように謂った。]
……いいえ。
お優しいです。
……とても。
[手を、退くことはせず、見上げたままで]
―3階自室―
[来海は部屋で独り酒を飲んでいた。
しかし、いくら飲んでも酔えない。]
さてと…… どうするかな……
最後の晩餐か…… ククッ。
[彼の脳裏にその半生が走馬灯のように駆け巡る。妾の子と蔑まれ、周囲を見返すために駆け抜けた人生。]
俺がここで死ぬ、か。まさかな……
[首を振る]
出て行けば殺される、かといって、あの力、あの異常な力が及ばない場所が、安全な場所がこの屋敷にあるか?
鍛冶屋 ゴードンが「時間を進める」を選択しました
[俯いて、翠と目を合わせる]
鞘に、納まる……?
俺は戻れないよ。江原さんもそういっていた。
[触れた手の温もりがにじんできて……苦しい]
どこにも、鞘などないんだから。
見習い看護婦 ニーナは、学生 メイ を投票先に選びました。
鍛冶屋 ゴードンは、学生 メイ を投票先に選びました。
──三階・江原の部屋──
[口唇をなぞるうち、其のまま口付けになった。]
『 ──…心地良い。』
[抱き寄せられる。
仁科が思わず目を閉じそうになった其の時、江原が驚くべき話を始めた。]
[それは、以前、江原が少し触れた、天賀谷と江原の関係の詳細…──、]
[天賀谷の過去に「少女」の存在が有った事がまず驚きだった。「心の琴線」とは美しい表現だ。其れは恐らく通俗的にあらわすなら、恋愛なのだろう。自分が拾われた時の印象や、仁科が知る十三が碧子と言う大人の女性に執着していた事から、少女と天賀谷が結びつかず。]
──三階・江原の部屋──
『旦那様にも、お若い時が有ったって事で。』
[瞬きをするうちに、話は現在と繋がる。]
[屍鬼の影] [悪意を感じる] [手応え]
[水滴が首筋に触れた。]
──三階・江原の部屋──
[温かい、水滴…。其れは。
自分は今、重要な話を聞いている。
仁科は両の目を半ば閉じ、江原の背にゆっくりと腕を回す。]
江原様ァ。
──…続けて下さい。
―玄関―
[苦しそうな、
切なげな表情を浮かべる望月の髪に触れる。
羅刹で、屍鬼かもしれない。
天鵞絨の眼を、望月の眼と合わせて。]
私が、鞘にはなれませんか。
望まれるなら、
……もし貴方が違えてしまいそうになったら、
止めます。
屍鬼であれば、
……私、貴方の首を―――
[唇を噛む。
先は言葉に出来なかった。]
鍛冶屋 ゴードンは、冒険家 ナサニエル を投票先に選びました。
―――それまで。
其のときが来るまで、
私は刀を、手放します。
それでは、いけませんか……。
[最後の方は、自身無げに、消え入るようになっていった。]
―玄関前→裏口
[屋敷に戻っていくと、望月青年とその頬に手を添える翠の姿が
あった。]
……ああ、まずいな。
[仲睦まじく見えるその様子に、私は向かいかけた足をぐるりとかえた。
屋敷の壁に沿って歩き、使用人用の戸口から建物の中へ入る。]
おかしなことだ。
私は嫉妬しているのかな。
[私は羨ましかったのかもしれない。若く瑞々しく恋に向かう二人の若者が。]
──三階・江原の部屋──
[テロル] [オキナワ] [屍鬼]
[──そして、天賀谷]
[爆弾を持ちテロルを起こすのは一言で言えた仕事ではない。
仁科の直ぐ傍に居る男が、話し乍ら戦慄するのが分かる。
──…咄嗟に理解し難い話ではあったが、聞けば成る程、江原を貫く決意の様な物と筋が一本通っている様に感じる。]
鍛冶屋 ゴードンは、学生 メイ を投票先に選びました。
―玄関―
鞘に?
[一瞬、夢を、見た。
この異形の空が晴れて、天鵞絨の眼をした少女と外へ出て行く。
……そんな、夢を]
翠さん。
[頬に当てられた手に、そっと自分の冷たい指を重ねようとする]
ああ。斬って、くれ。
俺が屍鬼であったならこの首を。
[唇を噛んだ翠にかなう限りの優しい声で礼を言う]
……うれしいよ。
鍛冶屋 ゴードンは、冒険家 ナサニエル を投票先に選びました。
―私室
[壁面を這う血文字に驚愕するほどの力は残されていなかった。
私の希望は灰になり、喪失感に打ちのめされていた。
血文字から目を背け、ごろりとベッドに横たわる。
しばしの時を――
静かに目を*閉じた*。]
―玄関―
[翠の決意に頷いて]
そのときが来るまで、俺を刀と思ってくれていい。
そして、時が来たなら――。
[己の刀を指し示す]
俺の刀を使ってくれ。
俺がどんな鬼に、羅刹になっても、刀が翠さんを守るだろう。
『きっと、俺が為しえなかった分までも』
……
[ひやり、と冷たい望月の指が手に触れた。
生きている、感触。]
……はい。
約束、します。
[屍鬼でなければいい―――
そう、心で願いながら、口にはせずに。
優しい、優しい声に翠の瞳が揺れた。]
―――……ッ…
[泣かないように
俯いてぎゅっと眼を瞑った。]
―3階自室ー
[来海は酒瓶を叩き割ると、割れた瓶をじっと見る]
これじゃ…… 無理だな……
[部屋を見渡す。暖炉の火かき棒に目をやる。]
あれでも、ダメだ。
よく切れるヤツがいい……
確か、どこかに刀があったはずだ……
[来海の目には狂気の炎が燃え上がり始めていた]
[続く声、顔を上げて確りと頷き]
……分かりました、望月、さま。
[刀と、望月を見て。
己の手にした刀を、傍に立てかける様に手放す。]
──三階・江原の部屋──
[異能] [影封じ] [囮]
[夜桜を襲う何者かの影を2度封じたと言う言葉には、安堵を納得を。しかし続く──…囮、と言う単語に。]
…そんなっ!
『話が──…。』
[異界と現実世界が交わる刻、
仁科は夜桜の首筋に惹かれ──吸い寄せられ、腕を伸ばし──
喰らわんとした。其の時。]
[硬質な硝子に弾かれた様な手応えが有った。]
──…二度。
…アァ。
[確かに、一度では無く。
藤峰を喰らった後も、仁科は──…水鏡の前で、清浄な気配を纏った夜桜を再び襲わんとして──]
──三階・江原の部屋──
江原様自身は、屍鬼から身を守る手段は無いンで……。
…どうして。
[仁科に掛かる水滴が激しくなる。
其れが質問の回答を物語っていた。]
アァ……。
[胸が苦しくなり、天井を仰ぎ息を吐く。]
[ちらりと霧にかすむ森を見た。あの場所で今も一人斃れているという智恵のことを思う。
けれど、守るべきものを得た今、その傍らを離れてよいものかと迷う]
――何か、食おうか。
[こんな真剣な話の後に言う言葉としては、それはあまりに間抜けであったかもしれない]
―3階廊下―
[来海は部屋を出ると使用人を呼び止めた。]
おい、天賀谷が集めていたという刀があるだろう。あれはどこにある? 知らないだと。天賀谷の部屋には無かったはず…… 何、翠という女が知っているだと。ソイツはどこだ。チッ、わからんだとッ。もういい、行けッ。
[来海は翠の姿を求めて階段のほうへと歩いてゆく……]
見習い看護婦 ニーナは、鍛冶屋 ゴードン を投票先に選びました。
―玄関―
……え、っと。
[きょとん、と眼を瞬かせて。]
あ、えっと、あ……。
[暫く迷って]
な、なにか作りましょうか?
[口に出したのは、そんな言葉だった。]
医師 ヴィンセントは、冒険家 ナサニエル を投票先に選びました。
[江原の腕の力が強くなったのと、仁科が江原を抱き締めなおしたのはほぼ同時だった。]
…アァ、江原様。
…死んでは……………──です。
[「嫌です」と言う言葉が低く掠れた。]
[──…江原の命が長く無いと言う事を否定する様に、首を横に振る。]
『碧子様を殺して、心の臓を貫いてしまえば──。
夜桜さんを守ったと言う江原様も、夜桜さんも死なずにすむ…──。』
わ、わかりました。
お箸で、ですね。
[何があっただろう――と考え]
あっ、は、はい。
食堂です。
[望月と同じように、手をおずおず離して。
照れているのか、どこか動きがぎこちなかったかも知れない。]
ああ、さすがにこのなりじゃ……。
先に行っていてくれ。着替えてすぐに行く。
[血がさすがに気になって、部屋に向かおうとする]
[悪夢が醒めないのは、此の世ならざる美貌の首。
大河原碧子の所為であろう──。]
[混迷する意識の中で、仁科は縋る様にそう呟く。]
[自らが屍鬼で有ると言う現実を認めない…。]
は、はい。
食堂で、お待ちしています。
[ぺこり、とお辞儀をする。
自分も、手を洗わなければ。
そう思い、二階の食堂へ向かおうとした。
来海が、翠を探していた。]
いや、その前に風呂……。
[おろおろとする様は、翠が初めて見たときの『普通の』望月の姿に*見えただろうか*]
―玄関→客用風呂―
──三階・江原の部屋──
『碧子様を殺すのだ。
屍鬼に、江原様の異能を気付かれぬ為には、あたしが。』
[けれども。]
「こうしていたいと願ってしまう」
[江原の言葉は、此処まで生き抜いて来た者の言葉は重く。
そして仁科自身も抱き締めた江原のぬくもり、其の躯を離しがたく。]
見習い看護婦 ニーナが「時間を進める」を選択しました
お尋ね者 クインジーは、鍛冶屋 ゴードン を投票先に選びました。
──三階・江原の部屋──
[急に、部屋の扉が慣れた物にしか、聞き取れぬ程小さく、しかし特徴的な音がカタンッと鳴る。]
…ア。
此れは、廊下の再奥の部屋の扉の開閉が、此の部屋に響く音で。空気管の都合だとかなんとか。旦那様が、自慢の建物の不具合で──修繕しなくてはとおっしゃられていた。
『再奥と言う事は、雲井様と碧子様が部屋に…。
部屋に籠ったならば、急がなくても良い──のか。』
[仁科は屋敷内の欠陥事情を素早く話す。
部屋に二人が籠ったなら(実際は雲井が碧子の遺体と、碧子の客室に入った音である)動きは遅くなるかもしれない。]
『もう少しだけ、此処にこうしていても。』
―3階廊下―
[夜桜を認めると]
おい、女。お前が翠か? まあ誰でもいい。
お前はこの屋敷のものだろう。
天賀谷が集めていた刀のところに案内しろ。
あれはどこにあるッ。
碧子様に、江原様の異能を気付かれれば。
江原様は殺される──
江原様はあたしを止めてくださったではないか
[仁科の其の思考は矛盾している。]
刀、ですか。
……お求めであらせられるのでしたら、案内します。
[使用人の服ではなく、
白い着物姿の夜桜は、来海の目に異様に映ったかもしれない。]
ですけど、何にお使いになられますの。
―私室
[瞼を閉じ休息したのは、僅かな時間だった。ゆっくり身を起こすと、ベッドの隣に横たえられた防水布の包みをそっと撫でる。]
大丈夫だ。
希望は喪わない。
――必ず
[抱き上げると、布越しに冷気が伝わってくる。
冷媒のしきつめられたアルミの外装の長方形の箱の中に横たえると、厳重に錠をかけた。]
少しの間、待っていてくれ。
―私室→二階・書斎
どこだ……
必ずあるはずだ。
[私は誰も居ない書斎に入り込み、骨董品を隅々まで改めたり置かれているキャンバスの裏側を確かめている。
おぞましい色彩を帯びた空が晴れ渡る兆しはなかった。
であるならば、まだ他にも屍鬼が生存しているのだろう。
だが、碧子の亡骸が喪われたように――]
屍鬼の身柄を確保できない場合のことも考えなくては……。
―一階→二階食堂へ―
え、っと。
お箸、使える食事……。
[手を綺麗に洗って、食材を探す。
直ぐ作れるものはあるだろうか。
此処で、紅茶を頼んでいた青年の影を見たような気がして―――それは直ぐに消えた。]
……。
[首を横に振る。
今はもう、遠い幻のようだ。
翠は手早く料理に取りかかった。]
これは驚きだな。
お前は刀で絵でも描くのか?
刀は『斬る』ためにあるんだろうが。
くだらんことを聞くな。
お前は言われたとおり黙って案内しろッ。
見習いメイド ネリーは、鍛冶屋 ゴードン を投票先に選びました。
刀は、食堂にも飾られておりますが……使えます。
[夜桜は、来海に道を譲るように、階段から一歩しりぞいた。]
では、どなたに使われるのですか。
[静々と、来海の後ろに従い歩こうと]
──三階・江原の部屋──
[仁科は江原の頬に手を添え向かい合い、激しく涙を流すその貌をじっと見つめる。何度も濡れた頬を撫で、目を閉じて深く口づけた。
…──横に首を振る。]
あたしが、もし。
今此処で、江原様が死ぬのは嫌だと申し上げても。
──…囮になる。
決意を江原様は変えられたりなさらぬのでしょう。
ならば、ほんの少しだけ。
ほんの少しだけ。
江原様を仁科に分けてくださいませ。
[江原の傷口と左腕を避けて、江原の袖を引く。
柔らかな身体をぴたりと密着させながら寝台を示した。]
[────暗転。]
―書斎
――ない。
おかしい。あれは一体、どこに――
[書斎の中をいくらひっくりかえしても、私の探し求める“それ”は見あたらなかった。]
天賀谷さんが、屍鬼と不死を結びつけて考えていたのなら、必ずある筈なんだ。
[その時、一つの予感があった。]
――まさか
―三階/自室―
[油煙と屍臭の焚き染められたシャツを脱ぎ捨て、新しい服を纏う。
皮膚には、濃厚にその匂いが染み着いていたが。
脱いだ上着の隠しに収めた細身のナイフを取り出し、絹のハンカチーフで残った血を拭う。
纏わりついた脂肪で幾らか曇って見える刃を隠蔽鞘に収め、新しい上着の隠しに装着した。
左手に太刀を握り、廊下へ出て行った。]
同じことを2度言わせるな。
お前は聞かれたことだけに答えろ。
[忌々しそうに吐き捨てると。]
ああ、そうだなお前で試してみるか。ククッ
[来海は嬉しそうに食堂へと向かう]
[下ごしらえをして、
直ぐに来るだろうから簡単な炒め物。
材料が少なければ小芋の煮物は直ぐに煮える。]
……これでいい、かな。
[一通り整えて、息を吐く。
窓から薄暗さを帯びた光が差し込んでいる。]
……
[重ねられた手、
それを思い出して翠は自分の手に手を重ね、
胸にあてた。
決意が――揺るがないように。]
―天賀谷私室
天賀谷さん。
申し訳ない。
これからすることの非礼は詫びる。
――だが、貴方がそんな風になってしまった以上、拘泥する物でもないだろう?
[私は天賀谷の首に向けて、語りかける。そっと、その首を抱き上げた。
私の手には、スチール製のヘラが握られている。]
――失礼
[そして、ヘラを固く閉じられた天賀谷の口の中にねじ込んだ。]
──(数刻の経過のち)三階・江原の部屋──
[江原の傍で短い眠りに落ち、何か記憶に残らぬ小さな夢を見て意識を取り戻した。数種類の夢、其処には幼い頃の記憶も混じっていただろうか。
窓の外で煙が上がっている。
江原を起こさぬ様に、そっと寝台を抜け、階下の様子を見おろす。
事情は分からない。]
──…雲井様に。
[遠目にも豪華な衣の山に横たわるのは碧子の姿。
あっけに取られ見る間に、碧子の死体は焼かれ廃塵へと帰した。]
──…雲井様が。
[他に言葉が出ない。]
見習い看護婦 ニーナは、逃亡者 カミーラ を投票先に選びました。
―天賀谷自室→三階階段前
[私は人目を避けるように、天賀谷の自室から飛び出した。
もはや、何も迷うことはなかった。]
屍鬼――
最後の屍鬼はどこにいる。
──(数刻の経過のち)三階・江原の部屋──
[慌てて羽織った制服の襟元を握りしめ乍ら、乳房が窓硝子に当たる程身を乗り出し、外の光景を何度も確認する。]
碧子様が、
屍鬼が──灰に。
あたしが──此処でこうしてる間に。
全てが、全てが終ったのか?
[期待に口唇の端がピリピリと震えた。]
―三階→二階階段
夜桜さん!
[階段を駆け下り、夜桜の元へと赴く]
貴女、屍鬼がわかるんだろう?
私にだけ教えてくれないか。
残りの屍鬼は――誰だい。
──(数刻の経過のち)三階・江原の部屋──
否、終ってない。
[窓の外には、未だ──あの禍々しい血塗れの真紅の月が、太陽と共に、異様な光を放っていた。]
碧子様の他に…。
屍鬼が、まだこの屋敷内に──。
[腕が震える。]
―食堂脇
夜桜――さん
[彼女の唇が触れるほどの近さにある。]
………………。
[力を抜き、その言葉を聞き漏らすことがないよう耳を欹てた]
―2階食堂ー
[食堂に飾られた刀を見渡すと]
違う…… もっと……
おいッ、女(夜桜)ッ。他にはないのか。
[返事がない。
ホールから物音がする。そこに翠の姿が。]
―浴室―
[洗っても洗っても]
……落ちない。
[爪の間に、指の指紋に入り込んだ血の色が]
……消えない。
[髪にまとわりつく屍臭が]
羅刹。
[鏡に映る己を見た]
―二階食堂―
……っ!?
[びっくりしたように声のほうに向き直り、
背筋を伸ばして立った。]
来海、様?
……あの、何かお探しですか……?
[怪訝そうに、尋ねた。]
―浴室―
[首を横に振る。髪から湯の雫が飛ぶ]
…それでも、守ることは出来るはずだ。
[風呂をあがる。湯気の上がる身体から、まだ由良の残した傷は消えていない]
―2階食堂―
ふんッ。いい匂いがするじゃないか。
美味そうだな。少しもらおうか。
ところで、女、お前が翠か?
天賀谷の刀を知っているか?
どこにある? 教えろ、オイッ。
[翠に向かって粗暴に詰め寄る]
―食堂脇
夜桜さん。
可笑しなことを云うね。
私は犠牲なんて願ってやしないよ。
ただ、屍鬼の速やかな確保。
それを願っているだけだ。
→二階階段―
[枚坂と夜桜の姿を認める。枚坂に何事か囁こうとする夜桜の姿。
しばらくぼんやりとそれを見ていたが]
…あ。
[気恥ずかしそうに顔を背けた]
失礼。
──(数刻の経過のち)三階・江原の部屋──
…屍鬼。
[仁科は無言で素早く衣服を整えた。
金黒両の目を見開き、弾丸と安全装置の確認。
寝台に近寄り江原の胸に頬を寄せ、心臓の音を確認する様な動作。]
此のまま此処に居ては。
触れようとしただけで、
藤峰君の様に、あたしが江原様を殺してしまうだろう。
[江原の鼓動が聞こえる。]
[ぴたりと寄せ合っていた身体を離した今、仁科の身体は氷の様な冷たさを感じている。また、赤黒く霞み始めた闇の中、目を閉じると涙が零れた。]
そういえば、あの薮医者が言っていたな。
翠という女はこの世のものでないものが視えるとか。
お前も人外の類か。なあ、オイッ。
その体も普通の人間とは違うのか。どうなんだ……
[翠の腕を掴むと舐め回すような視線をその肢体に向ける。]
だが、そうだな……
多くの犠牲は確かになにかを歪める。
力を持つのかもしれない。
かつて――私が携わった実験においてもそうだった。
[言いかけて、首を振る。続けた言葉は、自分自身にも言い聞かせるようだった。]
いやいや、それは非科学的なことだね。
ただ単純に事象の積み上げ、サンプルの多さが、確率論的に成功率を上げただけに過ぎないだろうよ。
其れに…あたしの正体を江原様が知ってしまえば。
[あの眼差しが侮蔑と嫌悪に染まる事が容易に想像出来た。]
[首を横に振る。]
──(数刻の経過のち)三階・江原の部屋──
…江原様。
[仁科は未練を感じ乍ら。
けれども、*振り返らずに部屋を抜け出した*。]
―二階食堂―
は、はあ。それは、構いませんが―――
[多めに作ったけれど、
とどうしようもないことを考え。]
は、はい。私が翠です。
旦那様の、刀――ですか?
[先程まで手にしていた刀を思い出す。]
私が、持っていた刀、と。
それから旦那様の刀の蒐集であれば、
此の食堂のほかに、書斎にも――――
[つとめて冷静に言葉を詰むいだ。]
―食堂脇
[階段を降りる望月の姿に気づき、軽く手を挙げて挨拶をする。]
望月くん、誤解しないでくれ。
そういうんじゃないさ。
[苦笑いした。]
あなた、──屍鬼のために何人切った。
[低い低い地表近くを吹く風のような声で囁いた。
枚坂の耳の産毛を生温く撫でる、囁きに附随する吐息。]
見習い看護婦 ニーナが「時間を進める」を取り消しました
―食堂脇
[夜桜の問いかけに、目を細めた。
何故か、事実を告白したくなったのはその瞳を覗いた故だったか。掠れた声が零れ出る。]
……生きている人間は数百人だ。
元から死体だったものは、数え切れないな――
……君はどれだけの“屍”を見たんだ
[彼岸にある者を見定めるというその瞳に揺らぐ、今という時の狭間で呟きが漏れた。
彼女もまた、おぞましいものを見てきたのだろうと実感が込み上げた。]
―食堂脇―
[手を振った枚坂から、照れたように目をそらした]
いや、お邪魔しました。
[枚坂と夜桜に目を向けぬようにそっと通り過ぎる。その会話の内容は聞こえていなかった]
→食堂へ
[扉内に見えない角度の壁に押し付けていたと思ったが、枚坂の態勢からは内が見えたようである。]
望月さま。
[一瞥をしたが、それだけで。
直ぐに枚坂へと視線を戻す。]
鬼と成り果てるまで。
[意外にも朗らかに笑みを浮かべた]
[書斎へと足音を響かせて歩く来海が、後ろを通り過ぎるのを凝っとして。何か心に秘めたものがあるのか、強い沈黙が束の間、夜桜を支配した。]
―食堂脇
[食堂脇に居た故、翠と来海のやりとりが耳に入っただけだったが、来海は苛立たしげな舌打ちと共に書斎へと消えてゆく。
食堂に消える望月が私と夜桜のやりとりをどう感じたものか、その様子には気づかぬままに、彼女の中の彼岸へと心が誘われていたのだった。]
「鬼と成り果てるまで」
[以外にも朗らかな語調に、私はふっと弛緩し現世へ戻った。]
枚坂さま。
[夜桜は、再度口を開く。]
あなたさまは、屍鬼について、あたしよりも詳しい部分がおありなご様子。一つ尋ねてもよろしいでしょうか。
成り果てることはない。
行きすぎると決して戻ることは叶わないのだから――
[それを、朗らかに笑えるのは――]
女性というのは強いのか――
男には、謎めいた存在だよ。
[あるいはおんなとは母であり、娼婦であり、聖女であり、鬼であろうかと思いながら。]
見習い看護婦 ニーナは、鍛冶屋 ゴードン を投票先に選びました。
……あの方は、何を。
[問うまでも、ないことだと口を噤む。
そ、と望月を遠慮がちに覗き込んで]
え、えと、お召し上がりに、なりますか?
翠さん。
何かあったら、俺を呼んでくれ。
……そんなことしか出来ないから。
『もしもの時は……』
[思いを隠して笑って見せた]
はい。
[凝っと見詰める]
上海が混沌としていた──毎日毎夜繰り広げられる祭の頃のお話です。……先生は、西堂芳人という名前に、もしや聞き覚えはあるでしょうか。
……はい。
ありがとう、ございます。
[微笑むと]
お茶を、お持ちしますね。
[薄氷を踏むような、危うく儚い時間。
それでも心地よいと感じる。
沢山の人が死んだのに、
こうして。
気付かれないよう、
堪えるようにぎゅっと眼を閉じた。]
『私は――鞘……』
[日本茶を淹れ望月へと運ぶ其の後ろ、
ひっそり誰も飲まないはずの*ジャムを添えた紅茶もまた置かれている。*]
せんせいは、どんなお話を聞かれました……?
[夜桜は付け加えるように、]
……せんせい、少し、包帯の具合を見て頂いてもかまいません?
[今は誰もいないであろうホールの扉をちらりと見て。
激しい運動をしていない為に、包帯がズレている様子はなかったが]
少し、待っていてくれたまえ。
[私は僅かに彼女を待たせると、自室に書類鞄を取りに行った。
小走りに戻ってくると、鞄の中より写真の束を引き出す。
その中から、選び抜いた数葉の写真と、聞き取り調査の際に描いてもらった似顔絵を彼女の前に差し出した。
長髪が表情を隠し、片目だけが覗いた青年の姿がそこにはあった]
悠迅――と彼は自身の名前を後藤少佐という海軍陸戦隊の士官に話していた。
包帯……ああ、済まないね。
ひょっとしてずれてしまっていたかな?
[ほどきかけ、肌に僅かに見える刺青の色に目を見開いた。]
夜桜さん。貴女とその青年の関係は――一体……
彼は、残念ながら行方不明だ。
三井洋行に努めていた御堂氏のお嬢さんらしき人物と一緒に居るところを目撃されたのを最後に、消息を絶っている。
[何処とも解らぬ空間、嘲りと皮肉が飛び交う中、仏頂面で黙りこくっていたが]
……ほう、また一人。
[訪れしは、妙齢の女性。それも、「シキ」と呼ばれていた。]
[皮肉気な笑みを浮かべ、その様を見守る。
周囲の屍どもがそうするように、ただただ、黙りこくり、傍観者として。]
―ホール
[ホールの壁際にある椅子に夜桜を誘い、包帯を解く。下にちらりと覗いた黒子を刺青と見誤ったのは、上海で耳にした伝聞の所以だったのだろう。
包帯を治しながら、私は話を続けた。]
[ 夜桜は話を聞ければそれだけで良い、と思っていた。
枚坂が戻ってくる間に、ホール入り口にと移動して待ち、帰ってくると共にホールへと。がらんどうとした場所は、数刻前までシロタが音楽を奏でていたというのに。
ピアノの上に、写真が散らばった。
屍鬼に関する資料──写真や似顔絵のようなものすら、常に持ち歩いているのかと、枚坂の執念に空恐ろしいものを感じた。]
[──が、ばら撒かれた写真に、目を瞑り頭を振った。]
[そして、医者とは言えど男である枚坂の前で着物を脱いでゆく。恥ずかしがる素振りすら見せずに、淡々と。やがて、襦袢の袖を肩まで捲り、処置を施してもらおうとした。]
悠迅という名ではありません。
それに、あたしとこの人の間に繋がりはありません。
[と、続ける]
枚坂さまは、まるでそこで聞いたように何もかも知っておられるのですね。屍鬼が出た、という場所でお聞きになったのでしょう?人の記憶は曖昧なもの……それに、迷信蔓延る場所で聞き出す事は、とっても大変だったンじゃありませんか。
中国南方の衛生防疫を統括していたのは、南京に置かれた栄1644部隊だった。無論、新宿戸山の陸軍防疫給水部は各機関を統轄していたから、資料はそこにもあった。
最初に私が資料を目にしたのは、そこだった。
私は、上海でその事件が起きた時に現地に居たわけじゃないよ。
上海のある娼館で、陰惨な殺人事件が起きた。
日本租界の日本人所有の建物で起きた事件だ。
便衣兵のテロルかと思われたが、そうではなかった。
発見された遺体の中には、明らかに人にはなしえぬ様相を呈しているものもあった。
今のような事態の渦中にいる君になら話せるが、それは屍鬼にまつわる出来事であると判断された。
──二階・十三の書斎──
[三階の天賀谷の部屋から内階段を下り、二階の書斎へ降りた。
主人で有った十三の死体を仁科が今振り返る事は無く、枚坂の行為には気が付かない。]
[枚坂の行為に気付かないのは余裕が無いからだ。
仁科は追い掛けて来る霧から、逃げる様な速度で移動している。
だが、赤黒い霧は仁科を嘲笑う様に纏い付き、仁科の背を何度も氷の様な指先で撫で、仁科を震えさせた。]
──二階・十三の書斎──
[壁の血文字の前に辿り着く。
「翠さん、江原様…。」と呟き乍ら、血文字を指先で示し──生存者の名前を凝視した。]
夜桜さんの言葉によれば、さつき様は屍鬼では無い。
夜桜さん葉は他に誰かを──。
水鏡で姿をご覧になっただろうか。
[来海、雲井、枚坂、望月。
彼等が屍鬼である可能性を順に想像してみている。]
[だが、其れは突きつけられ、認めざるを得ない現実の確認に過ぎない。
赤黒い霧は既に仁科の全身を覆い、息を塞がん程の深さ。
立っているのが苦しい──。
視界が霞む。]
ああ。確かに上海はそうした場所だと言えるね。
調査は簡単ではなかったようだよ。
比較的聢りとした話が残っているのは、海軍陸戦隊の人物もその場に居合わせていたからだ。
彼らは異界に引きこまれた、というわけではなかったが、何人からはそれなりに確度の高い話を聞くこともできた。
お前は既に死しているのだと。
生者の温かな血を、健常な肉を、求めても。
此の世に己ははすでに居らず、異界を彷徨い続けるしか無いのだと。
異界でただ一人、出会う事の出来た異形、碧子様が消えた今(お前は愚かにも碧子の消滅を願った。)、お前は永遠に誰とも交わらず、現世に戻る事も無く。
時折重なれば、現世に彷徨い出。
あさましくも、生身の人と交わらんとして、飢えの余り、其の肉を引裂き、喰らい、されど満たされる事は無く絶望し。
しかし此の地獄から抜ける事は敵わず、充血した眼球の様な紅い月の下、永遠に彷徨い続けるのだと。
──二階・十三の書斎──
[仁科はしゃがみ込み、壁の血文字を眉を顰めたまま凝視している。
しゃがみ込んだ下着の内側には、交わり潤った感触と液体がまだ残っている。拭い捨てる事が出来ない其れ。制服のズボンの内側、太腿を其れが伝う。
とある男の小さな玩具だったと言って良い幼い頃を別にしても、何人の男と交わったかは知れないが、自分が孕むとは思った事も無く、実際にそうだった。病にすら掛かった事が無い。]
『思えば、あたしは。
此の女の身体に実感を持った事もなかったやねえ。
最初に流血した日にあたしを捨てた、あの幼女人形遊びが趣味のあの男の所為か。──…孕みたいとも、孕みたく無いとも。
育ちの割に、まっとうに生きたいと思って来たが。
運転手なんて女らしく無い仕事ができて嬉しかったんだが。
──でも、屍鬼なんてモンを呼んじまう十三様の処に来ちまったあたり、あたしは真っ当でない場所へ引き寄せられる運命なんかねえ。』
[三階を見上げてから視線を戻し、]
屍鬼に、江原様を殺される前に。
夜桜さんと、内密に。
話が出来れば…──。
[仁科は書斎の*外へ出る*。]
[写真の束にちらと視線を落とし]
屍鬼──界隈の噂の中でも、大きなものと聞きます。
[多くは言わない]
それからも、ぽつりぽつりと。
屍鬼の噂は多く──それも戦争の終結と同時に音に聞こえなくなりましたが。
枚坂さまは……では、その娼館に居たものの誰かが屍鬼と化し、日本へ渡ってきたとも想像を?
写真が残っている者、出自身分がある程度はっきりした者はその情報をいくつか知ることはできた。
大ざっぱに誰が居なくなったかということもわかっている。
遺体が発見された者は、その名前もほぼ特定できている。
だが、わからないこともある。
御堂氏のご息女は娼館へ向かったことはわかっているが、彼女の遺体は発見されていない。
彼女の自宅に彼女の母親の首が届けられ猟奇殺人事件としても調査されたが、彼女自身は調査を受けることなく姿を消してしまった。
[纏い付く死の闇は容赦無く仁科の全身を覆い尽くし、仁科は悲鳴を上げ乍ら、*臓腑と血で出来た其れの中へ塗り籠められた*。]
蔡肖琅という女性も、娼館から姿を消してしまい、かつ遺体が発見されなかった一人だ。
彼女の写真は不思議なことに、娼館の中では見つけることができなかった。
館の主の王裴妹の姿が見られなくなった騒動に紛れて他にも何人か館を出た者がいるから、誰が屍鬼であったかは残念ながら特定はできないんだろうけどね。
『御堂氏の娘は、逝去されておらぬ筈──。』
[だが、夜桜はこれ以上は無用とばかりに話題を変えた。]
枚坂さま。
もし、屍鬼を見つけたならば……
何をなさるおつもりなのか、詳しくお聞きしても宜しいでしょうか。
[がらんとしたホールの中で──。
包帯の交換が終わり、再度着付けなおす。
帯を前結びで行い、くるりと回した。]
[ただ一枚、遠くから撮られた蔡肖琅の姿を捉えたという写真。
それは、娼館を訪れた客が撮影した娼館内ホールの舞踊の写真であった。
彼女は、四国で目にしたあの――少女とよく似ていた。]
関係者の足取りを私は随分追い求めたよ。
日本に来たという噂の人物もいる。
その後、満州にわたったのだとも、やはりこの日本に居るのだとも――
だが、結局その人を探し出すことはできなかった。
屍鬼を見つけたなら――
もちろん惨事を引き起こさないようにしなければならない。
心臓に杭を打ち込んでね。
その後はぜひとも病理検体として提供してもらわなくてはならないが。
夜桜さん。
なにも心配する必要など、ないよ。
夜明けは近い。
私が求めているのは、“屍鬼”じゃない。
人を喰らう鬼ではないんだ。
私が求めているのはただ――
その不死性の秘密なのだから。
[心の奥底まで見通しそうな夜桜の目から、視線をそらせた。
天賀谷の、藤峰青年の、由良の、コルネールの、そして碧子の――
その無惨な破壊を思い浮かべる。
人は、あのように損なわれてはいけない。]
……。
先程、枚坂さまはあたしに問いました。
「残りの屍鬼は――誰だい。」と──。
喩え知っていたとしたって。
あなたさまには教えられない。
けれど、これだけは。
大河原さまとご親密であらせられた雲井さまは違います──。
[信じる信じないは、あなたさまの勝手ですが]
[そう付け加えて]
西堂芳人という方は、探し人です──。
[衿元を寄せるように、手を胸元へ置く]
[決然とした態度だった]
教えられない――
[その言葉に、眉をしかめた。]
酷いな、夜桜さん。
私がこれほど頼んでいるのに。
一体、なぜだい。
[夜桜ににじりよる。]
協力しあった方が佳いに決まっているじゃないか。
あなたさまは、理を違えております。
[す、と一歩足を後ろに引き、身構えるような格好をとった]
屍鬼に、あなたさまは
本当は魅せられているだけなのではないですか?
そして、不死性の秘密なンて。
[凝っと見詰めたままだ]
魅入られている!?
私が――
[夜桜の言葉を打ち消すだけの力はなかった。絶句したまま、息を呑む。
――鴉の濡れ羽
絶望の果て。
その瞳に嗚呼、私は確かに*魅入られていたのだ*。]
─遠い過去、古びた家屋の中─
[人の気配に閉じていた目を開ける]
[高熱に浮かされて、奇妙に歪んだ視界]
[覗き込む人影は、黒い影に覆われてぼやけている]
[夫、だろうか]
[その影から発せられる声の、あまりの必死さと悲痛さに][宥めようと、少しでも安心させようと]
[話し掛けようとして、]
[かさついた唇を震わせた]
─遠い過去、海を臨む山の斜面─
[切り立った山がぐっと海の側まで迫り出し、人々は海と山との僅かな隙間に村を築いて生活している]
[細長い浜]
[海に突き出した岬の上]
[其処には彼女が今日まで夫と共に暮らしていた家が在る]
[そして、その突端には]
[海より寄り来るものを祀る社が]
[彼女は涙を流す、]
[其処へ戻る事はもう出来ない]
[暗い夜明け前の山中を]
[彼女は泣きながら走っていく、]
[疲れ切った女の身に出来うる限りの速さで]
[掌を、着物の裾から覗く脛を、掻き傷だらけにしながら]
─遠い過去、何処かの山中─
[膚を鮮赤に染めて]
[彼女は泣いて泣いて泣いた]
[見も知らぬ男の骸のその前で]
[暗い暗い森の中、]
[地面に座り込み、泥だらけの手で白い貌を擦る]
[やがて]
[彼女は泣きながら]
[それでも男の持ち物を探る、]
[生きる為に]
[男の手にしていた刀が、薄闇の中で切り取られた様に鮮やかに目に映った]
─遠い過去、荒れ果てた都大路─
[戦の大火が全てを焼き尽くした]
[骸は巷に放置され、弔うものとて無い]
[野辺へと運ばれて打ち捨てられる、常のそれさえも追い付かない、]
[それは、現世がそのまま地獄であり、生者がさながら幽鬼であるような、そんな世であったから]
[が、それでも人は生きている、]
[不安を押し隠した面持ちで彼女は歩く、]
[焼け残った町の、生き残った人々が行き交うその通を、]
[男の装束に身を包み、白い貌を汚れで匿して]
─遠い過去、何れかの夜─
[夜の内側で彼女は微笑んだ]
[問い掛ける男の唇に白い指が触れ]
[──赫い闇が染み出して、男の頭上に拡がり始めた]
─遠い過去、何れかの夜─
[玄い闇の中でその女は囁いた]
「飛頭蛮──…と云うのだと、」
[その声に軋む様な残響が加わり、白い炎が散った]
─遠い過去、何れかの昼─
[河原に座らされた男の首に白刃が食い込み]
「…………!……!」
[叫んだのかそうでないのか、その言葉も覚えては居ない、]
[ただ、]
[転がった首と、]
[赤く濡れた石の色が、]
[瞳に焼き付いている]
[過去の断片。]
[砲撃の轟音に彼女は眉を顰めた。戦場の叫喚は此処までも聞こえてくる。閉め切った家の座敷で、怯える年若の娘を抱き寄せて、その背を撫でた。]
[バッスルで強調された腰を飾る、大きなリボンが揺れる。陽光の下、彼女は目を細めて見守る情人に向かって、パラソルをくるくると回して見せた。]
[顔を縁取るように切り揃えられた黒髪が揺れる。ジャズバンドの演奏が流れるなか、フォックス・トロットのステップを軽やかに踏んだ。]
学生 メイが「時間を進める」を取り消しました
[翠と望月の食事姿を見ていて、ふと、紅茶に気づく。]
───ああ、覚えていてくれたのか、俺の好みを。
[笑った顔が、困ったような顔に見えるのはなぜだろう]
[いつになったら生者と屍鬼との戦いの決着はつくのだろう。
その時、立っているのは誰なのだろう。
そんなことを生者たちの様子を見つつ、*ぼんやりと考え続けている*]
―回想・食堂―
[翠が作ってくれた和食は、どこか上品な味で……彼女らしいと思った]
美味いな。
その、一緒に食べないか?
[……死に直面していても、人を殺しても、自分は腹を減らすのか]
ちょっと多いみたいだし、翠さんも何か食べたほうがいい。
[こんなふうに笑って見せることさえ]
[心の奥で誰かが嘲笑う]
『人殺しの羅刹のくせに――!』
[箸をおいて手を合わせた]
ごちそうさま。――ふう、食った食った。
本当に美味かったよ。ありがとう。
[席を立ちながら]
翠さん。何かあったら俺を呼ぶんだ。
どこからでも、ゆくから。
ずっと、考えていた。
由良さんを殺めてしまう直前のことを。
時間が歪んで揺らいだあの時、おぞましい気配が迫り来るのを弾き返す音がした。
あれは、さつきさんと枚坂先生の間に走った音ではなかったか。
そして、碧子さんの最期の瞬間にも、その気配は夜桜さんの傍らに迫ったように俺には思えた。
あの時、彼女の一番そばに居たのは……やはり枚坂先生。
見習い看護婦 ニーナは、医師 ヴィンセント を投票先に選びました。
あなたさまが魅入られ、戻る術がないようなら……あたしもまた、あなたさまへ覚悟を決めなきゃァなりません。ですけど、
[夜桜は枚坂に頭を振ると、絶句したままの枚坂を後に残してホールを出た。ピアノの上に散乱した写真類が残っていた……。]
──二階/廊下──
書生 ハーヴェイは、冒険家 ナサニエル を投票先に選びました。
[枚坂なら、娼館の場ではなく──其の頃、上海で猟奇的な話として片付けられた話を知っているやもしれない。人知れず、首を狩られたもの達の話──。あのような場では、そんな事があっても……何処まで、屍鬼と関連付けたであろうか。むしろ、「敵」と結び付けられたであろう。]
―食堂―
[翠の笑顔をしばらく見ている。
――焼きつけるかのように]
ちょっと、部屋に戻るが……よかったら、あとであの桜を見に行かないか?
[窓の外、遠く見える桜を指し示す]
一緒に。
[わずかな時間の後には儚くなっているかもしれない。
もし諾われたとしても、かなわぬかも知れぬ誘いだった]
―江原自室―
[泣きはらした目は赤い。しかし、それ以上に
彼の覚悟は、その目に紅い輝きとして。]
………。
[後悔がないと言えば嘘になる。]
私も、人間だった……ということか。
[人間性と呼ばれるものは、すべてオキナワに置いてきた。
長らくそう思っていた。あの島での体験は、
江原健という人間を怪物に変えてしまった。]
―二階廊下―
[廊下の奥、暗がりに幻のように白い影が揺らめくを見る]
『……幽霊……?』
『否。皆、送った。俺が往生を願って送った』
『碧子さんは、雲井さんが送った』
[ややあって、それが夜桜の影と気づく]
[ぞくり、と肌が粟立つ]
『影見だという彼女。
彼女は何故あれほど濃く死の匂いをまとうのか』
[行く先は書斎か。その背中を追いかける]
―食堂―
[見送って、去来する不安。
望月は由良を斬った。
ともすれば由良が望月を殺していたろう。
そうして、幾つもの屍が折り重なっている。
彼岸に佇む人影は増えるばかり。]
―――ご無事で。
[やや多めに作った食事、
少しだけ口にすると、
翠は食器を片付け始めた。]
[怪物とは、既存の理由理解体系の枠外にいる存在ならば、
江原もまた怪物と言えるであろう。
彼の思考は、ある種人間の理解を超越してきた。]
……………。
[しかし、仁科という存在は人間と怪物の境界を
彷徨っていた江原が再び人間の範疇へ戻ることを
許してくれた。それが何よりも嬉しかった。]
私は影封じ。屍鬼への盾よ………。
たとえこの身が砕け散ろうとも、すべてを受け止める。
[脳裏を過るのは、仁科のことだけ。
忘れようとも忘れられぬ甘美の味。
静かに目を閉じ、惜しむように噛み締める。
机上に、文言を*彫る*。]
『江原健。身は滅びるとも、心は死なず。』
書生 ハーヴェイが「時間を進める」を選択しました
書生 ハーヴェイは、鍛冶屋 ゴードン を投票先に選びました。
書生 ハーヴェイは、冒険家 ナサニエル を投票先に選びました。
[恐らく、夜桜が持つ刃物というものは、
今、来海が書斎で手にしているであろう刀や、
望月が帯刀しているものと比べると、心許ないものであろう。]
少し考えればわかることだった。
さくらと神居…同じ意味を持つ名前だったのに。
骨董など扱えば、自然、民間信仰には詳しくなる。
桜はさくら。
「さ」の音は「早」に通じる。春に芽生え秋に枯れる穀物の神の宿ることを示す言葉だ。
―2階/天賀谷の書斎―
[天賀谷の書斎はまるで奇書の掃き溜めともういうべき様相を呈していた。来海は興味なさそうにそれを目で追いながら、『新・昭和之青年』と題された1冊の本に目を留めた。]
天賀谷のヤツなんでこんなものを……
[それは来海が新聞社勤務時代に大正天皇の崩御後上梓した一篇の論説である。内容は空疎なもので日本の将来について荒唐無稽に語り立てただけのもであったが、その実、普通選挙法の施行に伴い新たに選挙権者となる人間へ共産主義の脅威を刷り込むものでもあった。
当時、知識人から失笑をかい、一顧だにされなかったこの本は、そのわかり易さが大衆に受け入れられベストセラーとなった。]
ふん、もう20年以上も前になるのか、俺も道理で年をとるはずだ……
[生き残るために理念も無く時局迎合を繰り返した当時のことが思い出され、苦い記憶に苛立つ]
俺だってこんなつまらんことはしたくなかった…… お前は今もあの世で嗤うかよ。くそッ
―ホール
夜桜さん……貴女も――
[夜桜の去ったホール。どこか寂寥を帯びたその響きを誤魔化すように、鍵盤をぽつぽつと子供のように悪戯に爪弾いた。
ピアノの上に並べられた写真をかき集める。]
心肺停止後の心臓マッサージと人工呼吸。
実に、三時間以上経って息を吹き返したケースだってある。
三時間……延々とそれを続けるのは並大抵のことじゃない。
大抵はもっと早く諦めてしまう。
その人もまた……並々ならぬ思いが呼び戻すことなければ……“死者”だったんだ。
「くら」は「座」。
「高御座(たかみくら)」などというように、神仏のいる場所を示す言葉。
……古来、桜には死んでは生まれ変わる生命の神が宿るとされてきたんだ。
[首を横に振る]
影見の力こそ、大それた話じゃないか。
……貴女に宿る神は、何者だ?その力をもたらしたのは、どういう運命なんだ。
──二階・廊下──
[来海と入れ違いに廊下に出た。
来海の表情が気にならない訳では無いが、仁科は仁科で急ぐ。無言ですれ違った。
探さねばならないのは、]
──…夜桜さん。
[粘液に覆われた視界。
仁科が夜桜の存在を感知する事が出来たのは、今まで何度も惹かれたあの──うっすらとした肌の香りと、水鏡に関わる者独特の清浄な気配ゆえである。]
[カツカツと革靴の音を立てて、二人に近付いて行く。]
──…ちょうど、自分も水鏡で誰を見たのか、知りたくて来たのです。
夜桜さんだけにお話があるんですがねえ。
[無表情で望月をじっと見つめ、]
『時間が無い。』
あたしが見ましたのは、
さつきさま、枚坂さま、雲井さま……そして、屍鬼であった碧子さまです。もし、望月さまの影を見ていましたら……この地では、影が薄くなっていたでしょう。
[夜桜は、望月の影を指差した。
この会話は、廊下にいるものには聞こえているだろう。]
見習い看護婦 ニーナは、学生 メイ を能力(襲う)の対象に選びました。
―2階/天賀谷の書斎―
[書棚から本を乱暴に引き抜き床へと叩きつける]
ふんッ、それより『刀』はどこだ…… アレか……
[書斎の奥に所狭しと並べられたいずれ劣らぬ名刀の数々。その中から来海が吸い寄せられるように手にしたのは『勢州信伝』であった。
信伝は名刀の呼び声高い逸品であったが、曰くの多いことでも知られていた。使い手を選び、時に主に災いを呼ぶというのである。]
フフン、俺は刀のことはよくわからんが、それにしても美しい…… コイツさえあれば、ヤツらとも十分戦えるだろう……
見てろよ…… 目に物見せてくれよう…… ククッ
[来海は満足そうに刀身を覗き込んだ]
―三階/階段―
[少し前、それが実際にはどれだけの時間を意味するか、判断する基準は疾うに失われていたが、其処は碧子が屍鬼と宣告され、死を向かえた場所であった。
誰が片付けたものか、その痕跡、と謂ってもその死は余りにも手際の良い物で有り過ぎたから、碧子の手から滑り落ちた拳銃位の物だっただろうが、痕跡は何一つ無い。
何の感慨も持たぬ様に、そのきざはしを踏み越え、二階へと降りて行った。]
[首を大きく横に振る]
俺は、人を殺した。
屍鬼が二人殺す間に、俺が、二人。
……俺にはわからないんだ。もう一人俺が俺の中に巣食っていて、それが俺の知らぬ間に、さらに人を殺めているのかもしれない。
逃亡者 カミーラは、冒険家 ナサニエル を能力(占う)の対象に選びました。
[異界と現実世界の距離が近い。
夜桜だけでは無い生者の匂いが辺り一面に漂い、仁科は気が狂いそうな程の衝動に駆られる。否、果たして──…異界におちてから既に…もうずっと狂うて居るのかもしれなかったが。]
──…苦しいィ。
[吐く息は異様なまでに冷たい。]
わからないんだ。
[呻く声。廊下に居合わせたほかのものにも声は聞こえたろう。]
俺自身にも俺が屍鬼でないと言い切れないのに、どうして夜桜さんが俺を人だと思ったのか……。
お尋ね者 クインジーは、冒険家 ナサニエル を投票先に選びました。
あなたさまは、ご自身が屍鬼と仰りますか?
それとも、──鬼と。
[夜桜は艶めいた笑みを浮かべた]
単なる鬼であれば──ここにも鬼はおります。
―食堂―
[ぱたぱた、と 雫が落ちる。
綺麗になった食器が並んでいる。]
……刀。
[不意に心配になったか、
食堂出口の扉へ眼を遣った。]
来海様はどの刀を―――まさか。
[災いを呼ぶ刀、
その名を思い出して、翠は食堂外へ向かおうとした。書斎で、きっと彼はもう手にしてしまっているだろうが。]
[夜桜の黒い、黒い瞳]
[彼岸と対峙し、死者の魂を暴くのだと言った翠の瞳は生命の……萌え出る植物の色に輝いていた。
あれは、『此の世から』彼の世を見る瞳なのだと思った]
鬼――?
[では夜桜は『何処から』人を見るのであろう――。見られたものの影を薄くするほどの力で]
[眉を顰め、早足で歩き乍ら首を巡らせる。
望月達の会話が聞こえる。]
『時間が無いが。
アァ、江原様の事を夜桜さんだけに、今告げる事は無理か──。』
──…望月様。
[最初にタクシーで迎えた時の様に、望月に一礼。]
夜桜さん。
……ならば。
あたしか、望月さんのどちらかを。
鏡で見てもらえやしませんか。
見習い看護婦 ニーナは、鍛冶屋 ゴードン を投票先に選びました。
見習い看護婦 ニーナは、見習いメイド ネリー を能力(襲う)の対象に選びました。
あたしを、屍鬼と思わば
───お斬りなさい。
ただし、後悔は決してせずに。
[夜桜は、来海に向けるつもりの刃物を後ろ手に握り締める。仁科の問いには、]
では──あたしは、望月さまを見ましょう。
碧子さん、貴女には随分失礼なことを云った。
雲井さんにもそうだろうな。
だが、詫びたところで空疎なことだろう。
心から貴女に接していたとしても……貴女が屍鬼であることを知った瞬間、私の心はその圧倒的な願いを前に塗りつぶされていたであろうから。
――そう。
今更戻れやしない。
積み上げてきた屍を前に、どんな弔いの言葉も後悔も無益だ。
[呟きは階上より姿を現した雲井に届くほど強く発せられたものではなかった。]
見習い看護婦 ニーナは、学生 メイ を能力(襲う)の対象に選びました。
―二階/廊下―
良い事を謂うな。
確かに此処には、鬼は幾らでも居よう。
[笑いながら言った。]
そう。彼を観るとね。
……では大人しく待つとするか。
お尋ね者 クインジーは、鍛冶屋 ゴードン を投票先に選びました。
ただ、藤峰君の“物語”に私はその思いを重ねていた。
私は“物語”の中に生きてきたんだ。
――望月君
もし君は――翠さんが“倒れた”ならどうするつもりなんだ――
[望月は人で有る事を確かめたいのだろう。]
──…あたしを見て。
いただきたかったのですけどねえ。
も う 意識 が…
『保てそうに有りません。』
『けれど、あたしが屍鬼だと告げれば、其れは其れで人である事を全て放棄してしまいそうで──』
[もう、涙を流している事すら感じる事が出来ない。
白く温かな肉達、蠢く生者の気配にギシギシと腐食した爪と、あさましき獣の様な牙が軋む。
仁科の口元に滴る透明の液体は……。]
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