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双子 ウェンディ は 医師 ヴィンセント に投票した
ちんぴら ノーマン は 牧師 ルーサー に投票した
牧師 ルーサー は 逃亡者 カミーラ に投票した
見習いメイド ネリー は 資産家 ジェーン に投票した
逃亡者 カミーラ は 見習いメイド ネリー に投票した
文学少女 セシリア は 見習いメイド ネリー に投票した
資産家 ジェーン は 双子 ウェンディ に投票した
お尋ね者 クインジー は 見習いメイド ネリー に投票した
医師 ヴィンセント は 双子 ウェンディ に投票した
双子 ウェンディ に 2人が投票した
牧師 ルーサー に 1人が投票した
見習いメイド ネリー に 3人が投票した
逃亡者 カミーラ に 1人が投票した
資産家 ジェーン に 1人が投票した
医師 ヴィンセント に 1人が投票した
見習いメイド ネリー は村人の手により処刑された……
ちんぴら ノーマン は、双子 ウェンディ を占った。
牧師 ルーサー は、ちんぴら ノーマン を守っている。
次の日の朝、牧師 ルーサー が無残な姿で発見された。
現在の生存者は、双子 ウェンディ、ちんぴら ノーマン、逃亡者 カミーラ、文学少女 セシリア、資産家 ジェーン、お尋ね者 クインジー、医師 ヴィンセントの7名。
クク、
くく、クハハ……
アーッハッハ!!
[石臼の間を磨り潰されながら絞り出されていたような声は、いつしか哄笑となり、男の躰を波打たせている。]
母親が、仮初めにも実の娘であった少女を嬲る。
見物じゃないか――
皆が欲する証とは――そういうことだろう?
[クインジーは見渡すように、周囲に視線を投げる。
降り始めた雨に、逃げ去るように散っていく者もいた。
村人の中でも好奇心の強い者は、このやりとりがどうなることか、詰め所の軒下に入り眺めている。]
女の力で拷問が出来ると思っているのですか。私は貴方より力も弱く、あの”人狼”へ傷をつける事も出来ないでしょう……。
[それでも、”誰か”に行動を担ってもらう事は出来るだろうが。
人狼という言葉を僅かに強調しながらジェーンは言った。
周囲の景色は、
薄墨を流し込んだように、色彩が消えている。]
──檻──
[豪雨の中、ジェーンの背中はまだセシリアの視界に入っているはずだった。セシリアは檻の中で顔を伏している…──。]
ほほう。これは愉快だ。
マダム・ジェーン
誰かが娘を嬲って人狼を聴き出す他、人狼を探すすべはないというのに――
「女の力で拷問が出来ると思っているのですか」だって?
言い換えれば、貴女はこう云ったのさ。
――「どうか皆さん、私の娘を嬲ってください」……とね
[ジェーンは、クインジーの豹変した態度――哄笑を見つめる。それは、ノーマンと別種の悪魔の笑みだ。
唇を噛み締める事はないが、左目はクインジーを見、包帯が濡れた事で右目からは血が滲んでいた。]
[教会を出たカミーラは、怪我を診てもらうために医者を探している。だが途中で空が曇り、雨がふりはじめる。]
ちっ、こんな時に雨とは…ついていないな。
聡明でご立派な淑女。
さて、それでは、貴女自身は身の証をどう立てるつもりだ?
まさか、空涙一つで、“人間”だと信じて貰えると思ってはいないだろうね?
時に聴くが、貴女自身は証を立てるために尋問を受けてみるつもりはあるのかな?
――娘と共に
それも、怪我を理由にするかね?
「“人間”だから痛みに耐えられない」と
[雨の中、カミーラが医者を探すのに必死になっていると…気がついたら、例の檻がある場所にたどり着いた。体中が雨で濡れている。]
…医者は、どこにいるんだ…。
[体調が良くない上に雨に濡れたせいか、呼吸が多少荒くなっている。]
殺したいのでしたら尋問でも何でも受けましょう……。どうせ、この身は長くはもちません――この傷では。私の事は私が一番よく知っています。
[クインジーの後ろ、詰め所から愉しそうに見ている好奇心が強い者達を一瞥し、]
貴方は何を望んでいるのですか?
[荷車に乗せられている時にした質問と酷似した質問。]
宜しい。お覚悟はあるようだ。
[莞爾と微笑みを浮かべた。]
……ギャドスン医師
[クインジーは呟く。]
できれば先生に、貴女の悪魔の印を探してもらいたいのだが――
――アーチボルト家――
[ジェーンに付き添って夜を明かしたヴィンセントは、ようやく夜明け方、横になって休息を取ることにした。
ジェーンの身体では、動き回ることはできないだろうと思っていたことも事実だ。
ほとんど眠っていなかった二日間の疲労か、目を開けた時にはすっかり夜は明けていた。ジェーンのベットが空になっていることに気づき、あわてて家を飛び出す。]
――檻前――
[天候のせいか人影のまばらな檻の前には、ジェーンとクインジーの姿があった。]
マダム・ジェーン。
あまり無理はしないでください。そんな身体なんですから。
[急いだせいか、息を切らしながらジェーンに声をかけた。]
Domine, ne in furore tuo arguas me,Neque in ira tua corripias me.
Miserere mei, Domine, quoniam infirmus sum;sana me, Domine, quoniam conturbata sunt ossa mea.
Et anima mea turbata est valde;Sed tu, Domine, usquequo?
主よ、怒ってわたしを責めないでください、憤って懲らしめないでください。
主よ、憐れんでください、わたしは嘆き悲しんでいます。主よ、癒してください、わたしの骨は恐れ、
わたしの魂は恐れおののいています。主よ、いつまでなのでしょう。
ええ……ギャドソン先生。
[そんな事をしても、ちっとも暖かくならないのは分かっているが、びしょ濡れの布を胸元へかき合わせた。]
ありがとうございます。
[感謝の言葉は言うものの――クインジーは……]
ああ、ギャドスン医師――
お探ししていました。
[大仰なほどに恭しく礼をする。]
……できれば手伝っていただきたいのです。
―檻がある広場―
[カミーラは周囲を見渡してみた。どうやらそれなりに人がいるようだ。]
…医者は、どこだ…!?
[足を少々ふらつかせつつ、檻の前へ向かう。]
マダム・ジェーン
濡れてはいけない。
どうぞ、ギャドスン医師共々、檻の中へ――
[ジェーンの眼差しを愉快げに受けとめている]
いいえ。そうではないんです。
マダムが尋問をお受けになるとか。
これから、先生に“魔女の印”を探してもらおうかと。
マダムはこの通り、怪我をしています。
怪我と本来存在する躰の刻印との差を、先生が居たならば見いだしやすいかと思いましてねえ……
[クインジーの言葉に、はっと表情を変える。]
馬鹿な!
そんな必要があるはずがないだろう!
この人の傷は、セシリアのようには治っていないぞ。
いや……尋問の必要はともかくだ。
魔女の印が見分けられるのは、正しい訓練を詰んだ異端審問官だけだと、君たちがしつこつ喧伝しているじゃないか。
貴女が魔女や人狼なら、躰にその印があるはず。
異端審問官はそれを探すすべを心得ている。
それが見あたらなければ、貴女は人なのだろう。
ええ。最終的には、魔女の印を見定めさせてもらいますが――
マダム・ジェーンのことを知悉しているであろう貴方が証人になって戴くのは悪いことではないはずでしょう?
医学的知見も得られますし。
[ギャドスン医師に答える]
──檻──
[クインジー、ジェーン、ヴィンセント。彼等のやり取りするおそろしくそして興味深い──村人には俗悪な好奇心をくすぐる、その会話、声はセシリアには届いていない。俯いたまま、歌う様な声を僅かに響かせている。虚ろな黄金色の瞳──。
エキゾチカルな旋律。
それは『彼女』と同じ人狼にだけ意味の分かる言葉だった。
ルーサーの名と共に『彼女』は呪詛を吐いていた。]
──……─…───。
[『彼女』を封じ込める忌まわしき聖銀を作り上げた彼。
──彼が消えれば、聖銀を新たに錬成する事の出来る者は居ない。
アーノルド亡き後、村長代理となったノーマンとは違う意味で村人の心を掌握しうる「教会」の権威を持つ彼。ルーサーがそう言えば、村人は彼の言葉、善なる意志に従い「統一」されるのでは無いだろうか。人狼が彼等独自の言葉で意志を通い合わせる事が出来るが、その力は僅かだ──。
──脅威は、最初に取り除かなくてはならない。]
死者の言葉を聞く事が出来るかもしれぬ彼。
或いは──守護天使の力を得ているかもしれぬ彼。
[クェンタン否、今はクインジー。或いは新しく眷属として目覚めたばかりのカミーラが、神父を屠るだろう──。
かつての『彼女』を、一度の肉体の死に追い込んだ──「彼等」と同じ神の力を持つもの。正しく、そして時に凄惨なあの忌まわしき。]
[肉が灼けるあの臭いが、絶望の朱に彩られたあの記憶が甦る。
『彼女』はかつての彼等が彼女をそう呼んだ様に、悪魔の様な笑いを浮かべた。]
―檻の前―
[檻の中へまた誰かが入れられたのを目撃する。]
…今度は一体、何をしているんだ…!?
[様子を見つつ、小声でぼやいた。]
それとも先生。
私だけにマダムを委ねる――とでも?
[唇を笑顔のかたちに歪める]
私は見た目の通り、粗暴で野卑な男でね――
彼女をどう手荒に扱うかわかりはしませんよ?
証人?
私は、でっちあげの証拠を作り出す手伝いをするためにいるつもりはないぞ!
[そう言いってから、クインジーの意図はジェーンと、そして自分を晒し者にすることなのだと、理解しつつあった。]
[ヴィンセントの戦慄きから、ジェーンは如何に自分を大切にしていないかに気づいてしまった。
現状――仮に生き長らえればの話――この村で生きていく事は叶わず、この村で生きていこうとするなら、今後、どんな事でも受け入れるしかないという諦念。]
[ジェーンを嬲るように頭の上から爪先まで眺める。]
怪我をしていて面相は腫れ上がってはいるが、美人だ。
[愉快そうに嗤う。]
……エロイーズ様。
勝手に話を進めて申し訳ありません。
差し支えなければ、ジェーンを昨日“見定めた”ことにして宜しいでしょうか。
[握り締めた拳を震わせながら、言葉を絞り出す。]
いいだろうとも!
私が証人になろう。
せめて……詰め所の部屋でやるべきじゃないのかね?
――ジェーン。
貴女は残念ながら、“人”を見る目がない。
「アーチボルド家で暮らしていた間、私はずっと――娘だと思っていました」と先程云っていたな。
セシリアが狼に成り代わっていても気づかなかったのだ。
私は見ての通りの男でね――
アーチボルド家で私が貴女を襲わなかったのは、ほんの気紛れでしかなかったかもしれないのだから。
[「いいだろう」という医師の言葉に、恭しく礼をした。]
ありがとうございます、先生。
――それにしても、先生はお優しい。
[「せめて詰め所で」という言葉に、皮肉めいた笑みが浮かぶ]
彼女の“娘”はあそこであのように晒し者になっているというのに――
ギャドスン先生、先生はセシリアのことをよく知っているのだと思っていました。先生は、娘とその母親をそのように分け隔てなさるのですか?
[ジェーンは目の前の男に完全に呑まれていたが、しかしこう言った。]
……貴方は人の心が分かるのに、――肝心な心は分かっていないのですね。この、愚かしい心を。
[冷たい雨が濡らしていた。]
……抵抗はしません。
貴方がそう願うのなら……どこへなりとも連れていって下さい。
[ヴィンセントの傍らでそう呟いた。]
[虚ろだった焦点が一度合う──。
彼が──…母を尋問するのか…。眉根を寄せた。
此処まで来ている流れを止める村人は、何処にも居ないだろうと思った。]
…彼女はか弱い人間だ。
────それをどう言う風に見定めようと?
[医師の言葉に]
セシリア、お前の扱いはどうやら先生にとっても、犬とさして変わらぬようだ。
[セシリアに侮蔑的な言葉を投げかける]
“人狼”とは惨めなものだ――
では、先生。もし、ジェーンが“人狼”であると証が立ったなら、先生はジェーンをやはり犬のように扱われますか?
流れからは、ジェーンを“人”と見定めようと思っていますが。
先程の主との対話を作為ゆえと見て、私の出した結果に疑いを持ってくれる者もいるやもしれません。
主の考えはいかがか。
心から信じておられる……
[クインジーの表情に名状しがたい感情が浮かんだ。]
貴方がもう少し早くこの村を訪れ、セシリアと会っていたなら――
やはり同じように云っていたでしょうか?
[それは、問いかけというより茫漠とした述懐めいた言葉だった。]
先生の協力を得られるに越したことはありません。
では、詰め所で――
[ジェーンとギャドスン医師を詰め所にいざなう]
[ギラギラとした好奇の目が、激しい雨で遮られた向う側。
観客席の立場で──尋問が始まろうとする気配を、固唾をのんで見つめている。
有罪の人狼を娘に持ってしまった母親。
その母親──寡婦と縁故のある裕福な村外の男。
異端尋問官と言う非日常の存在。それまではただの風車番に過ぎなかった男。
その三者の構図を。]
[虚ろだったセシリアの目の焦点が合う──。]
お母さんの事はヴィンセントさんに頼んだわ。
もう、彼等とは別れを告げた…──。
私は人間セシリアの人生に区切りをつけた。
[雨の中、遠くにウェンディの姿が見えた。
檻の傍らには、雨に濡れるのも構わずカミーラが来ている。他の村人達に比べて、人狼に村を滅ぼされた女は肝が据わっているのだろうか──。]
私に人の心などわかろうはずがない……
[ジェーンに答えた声は、感情が籠もらず平板だった]
――人の心など、とうになくしたのだから
/*あまり、中の人発言はしたくないのですが。赤ログの話し方がガチ過ぎる気がします。表ログとの会話との落差が気になる。*/
[クインジーの言葉に、形容しがたい怖れを感じながらも、少しばかりの安堵を持ってその後に従った。
セシリアと、そして村人たちに……この先に起きるだろう出来事が晒されずに済んだことに感謝しないわけにはいかなかった。]
―詰め所―
[詰め所建物に入ったばかりの部屋に、ジェーンとギャドスン医師を案内する。
一階の入り口にほど近い部屋の窓には格子がはまっていた。
その窓には、中でなにが行われるかを見守ろうとする好奇の感情を剥き出しにした村人たちが鈴なりになっていた。]
では、先生――
よろしいでしょうか。
[ジェーン・アーチボルド。
聡明な彼女は“人間”だ──。
彼女から深い愛を受けたにも関わらず。
これから先、彼女とは人生が交わる事が無い。
ジェーンは、セシリアに取り憑いた悪魔がどの様なものであるかも知らないと言うのに、その事を理解していた。]
[そこは予想したほどは人目を排除できる場所ではなかったが、これ以上の抗議が聞き入れられるとは思えなかった。
努力して感情を表に出さぬよう答える。]
ああ。
いいだろう。
/*すみません。表ログの会話の流れと乖離したやり方での「赤ログ相談会話」*5の様なものはナシで行ければと思います。特に尋問等の重要な部分は。*/
ええ、出来ますわ。
[ヴィンセントに頷くと、
格子から覗く村人達をするりと見回し、蒼褪めた服に手をかけた。するすると脱がれてゆこうと]
/*
基準が掴みにくいやも。
私は主とジェーンの対話を見ており(>>2:308)、その知り得たことを基準としてしか話していないのだが……。
「乖離」がどの部分か……
*/
[傷は以前ヴィンセントが見た時から、治り薄れている部分もあるが、殆どはそのままだ。
寒さで震えている。
下着は皮膚の痣の色が透けて見える。
べったりと、体に張りついているからだ。
雫。
左小指の欠損部周辺の色が、酷く、悪い。]
[これは治療と同じ、医者としての職務なのだと自分に言い聞かせる。
そうでないと、眼を背けるか……いや、感情を露わにする視線で見てしまいそうだった。その行為を。
女性の裸なんて、珍しいものじゃないだろう。
ジェーンの膚でさえ、昨日見たはずだ。
そう何度も自分に繰り返す。]
/*ジェーンを尋問すると言う相談を事前にしていたわけでは無いのに、唐突に判定だけ伺いを立てる話し方になるのは、不自然じゃないかなと思いました。人狼同士の会話で処刑なり襲撃の相談をしていたなら有りかもと思いますが。相談していない事は自分の判断で行うか、ト書きを暗示的に繋ぐ方が、ログが美しい気がします。
>カミーラ
他は露骨に人狼用語を使うのは村設定として禁止だったはずなので、それが気になりましたです。*/
カルヴィン派の神学者、ランベール・ダノーは悪魔と契約を結んだ者には、印が残されると伝えています。
それは、悪魔の印=stigmata diavoli=もしくは、悪魔の印形=sigillum diavoli=と呼ばれている……
それは姿をとる場合には、痣と酷似しているが故に――先生にはしっかりと確認していただきたい。
痣に、類似している……。
[だがジェーンの全身は、それこそ痣だらけなのだ。]
まず、その腕から始めましょう。
前腕は一昨日私が治療したものだ。あの時はひどく鬱血していた。悪魔の印というのは、色や形が変わるのかね?
[冷静を装って話し始めた。]
ええ。何らかの、意味のある形をしている筈です。
[クインジーは医師の言葉に頷く]
たとえば、一四五〇年、異端審問官ジャキエは、悪魔の蹄足によってつけられた印を臀部に確認している……。
[そういいながら検査針を手に携え、ジェーンの肌を検分していった]
[検分とはいえ、温かな手が触れるのは気持ち悪いことではなく、むしろじーんと痺れに似た気持ち良さが僅かにある。
ジェーンが目を伏せたのは、周囲の視線を遮断するためでもあったが――]
[クインジーはジェーンの全身を隈無く検査し、印を探している]
ふむ……
[なにかの見えない痕跡を辿るように注意深く肌を辿っていたが、やがて諦めたように息を漏らした]
……ないな…
[痕跡を辿る異端審問官の表情が抜けると、どこかバツの悪そうに顔を背けた。
その横顔は髪に隠れ、見えない]
……すまない。
どうやら、貴女は人間のようだ。
納得したならそれでいいさ。
この先は、この人にこういう扱いはしないで済むだろうね。
君もそう証明できるのだから。
[クインジーを睨みつけた。]
その格好では冷えるでしょう。すっかり濡れてしまっているし……。
家に帰りましょう。
よろしければ、これを。
[少なくとも雨を弾く程度には分厚い自分のマントを、ジェーンに差し出した。]
ギャドスン先生、如何ですか?
[先程までの調子はこの男からは消えていた。所在なく医師に言葉をかける。
彼が後に調書に記録されるであろう検分を終え、服をかけるのを待つように]
医師もおつきあいいただいて申し訳ない。
[睨む眼差しも是非ないこと、と苦笑が浮かぶ]
それと――
[ジェーンから視線は外れたままに]
……疑ってすまなかった
お尋ね者 クインジーは、双子 ウェンディ を投票先に選びました。
[格子の向こうでは群集のざわめき。]
[首を振る。]
けれども、
私が”人狼”の母親である事に変わりはありません。悪魔の印がなかったとしても――…
貴方が探している印、
セシリアにはあったのでしょうか?
[続く質問は、ごく自然なもの。]
……そうだな。
[今はマントを羽織ったジェーンに向かい直った。]
貴女は“人狼”の母親だ。
だが、悪魔との契約の証がなく、“人間”であることが証明された。
セシリアが人狼であることはあの場で目の当たりにしただろう?
印を探す検査はまだ行っていないが、ダメ押しが必要なら行おう。
[痕跡には形象として現れるものと現れ得ないものがあり、目視の次の段階、針検査によって見いだせ得るのはデル・リオやビンスフェルトによって記される「不可視の印」だった。
アーヴァインはおそらく不可視のなにかを見いだしたのではないか、とクインジーは考えていた。
だが、そうした審問の細かな手続きについて話すわけでもなく。ギャドスン医師がジェーンを庇うように出て行くのを*見送った*]
『実際には現れ出でるものなどない――
針検査はでっちあげなのだから……』
[異端審問の手続きと人狼の本質を知る私は、ただ、冷笑していた]
資産家 ジェーンが「時間を進める」を選択しました
投票を委任します。
資産家 ジェーンは、双子 ウェンディ に投票を委任しました。
投票を委任します。
資産家 ジェーンは、文学少女 セシリア に投票を委任しました。
[雨脚が少々強くなり、いつしか人影もまばらになっている。
詰め所から出ると、自然檻の方へ視線が向かった。]
アーヴァインは何を……
[隣の幄舎で雨音を聞きながら、セシリアの方を*眺めている*]
銀の檻、銀の手枷……
[“聖”別されたそれらを呪わしいものでも見るように睨んでいた。]
『主を縛めし桎梏よ、打ち砕かれん――』
エロイーズ様、お待ち下さい。
今しばしの辛抱です。
―教会―
――――――――
「――神父」
男が話しかけた時、神父は祭壇の前で祈りを捧げていた。
ずぶ濡れの彼に、外でなにがあったのか――と問いかけた神父の表情は、男の眼差しに宿る射殺すような殺意に凍り付いた。
「何の用かね……」
後ずさる彼の指先が、無意識にか祭壇に置かれた十字架に触れる。
「あなたを――」男の声は、コキュートスの氷のように冷たかった。
「――異端の罪で告発する」
「馬鹿な!」
気色ばむ神父に、男は罪状を告げる。
教会に悪魔を招き入れたる罪。
呪術を準備し、悪魔に仕え、それを行使させたる罪――
「呪術とはなんのことです」
訝しげな神父に、聖具室にて銀の振り子が管理されていたことが告げられた。
ノーマンによって行使された呪術――
それはまさしく異端だった。
一四五一年、教皇ニコラエス五世は、異端と関係なくともあらゆる呪術について取り締まる許可を与えた。シクストゥス五世は、その教書、『天地の創造主=Coeli et terrae creator』に於いて、占星術、占術、咒い、あらゆる種類の魔術を禁止している――男は説明する。それはまさしく、神父の属する教会の最高権威の決定だった。
そして、更に男は続ける。
「被告人は自分で自分の無罪を証明しない限り、有罪とされる」
「容疑、噂、密告があれば、それだけで有罪の証拠として十分であり、異端審問の前に召還できる」
――
教会から火の手が上がった。
祭壇の中央の十字架に突き立てられた神父の遺体は、無惨にも首が背中側にねじ曲げられていた。「悪意者の地獄」に落とされたかのように。
腹部には穴が空けられ、引き出された内臓は燭台によってぐるぐると巻き取られている。おそらくは内臓は生きている内に引き出されたものであっただろうか。神父の後ろ側にねじ曲がった顔は凄絶な苦悶に歪んでいた。
やがてその肉体は炎に包まれ、崩れゆく教会の下敷きとなる。
小雨となった雨の中、周囲への延焼が避けられたことだけが、「神の加護」といえば加護であっただろうか。
火の手が上がる前、落雷の音が響いた。
しかし、その教会の火の手が人の手によるものだったか、落雷によるものだったかは定かではない。
――――――――
――――――――
男は広場で稲光が瞬く空を仰いだ。
手についた僅かな血はいつしか、雨に*洗い流された*。
――――――――
―ノーマンの部屋―
はぁ………はぁ……。
[息も荒く、地図に向かって振り子をかざす。
咬まれた一件以来、何かが彼を蝕んでいる
かのような様子であった。]
畜生…チックショオ……。
[ある地点で、振り子が右に回る。
ウェンディの自宅からほど近い場所。]
―村長宅→反応のあった地点―
[自宅付近にいたノーマン派兵士数人を
連れだってその地点を掘り返す。]
はぁッ!はぁッ!はぁッ!
[そこから人狼に繋がる物品が出れば、
ウェンディに嫌疑がかかるだろう。]
出てこい!出てこい!出てこいッ!!
「ガッ!」
[ノーマンの左腕に、何らの感触。
全員で一気に作業を進めてみると
古びた木箱が出てきた。]
……なんだぁ、これ?
[どうやら、数百年前というほど昔に埋められたもので、
人狼の手がかりになるような物品ではないようだ。
その場を回りながら振り子をかざすも、
これ以外には、反応を見せなかった。]
ちッ……外れか…。
[憎々しげに去っていく。現場を見ていた数人の
村人は、ノーマンの失策に関して噂を流すだろう。
「やっぱり、アイツはダメだ。」と。]
[その木箱は、そのままそこに放置された。
開けようとしたが開かず、人狼とは見るからに
何の関係もなさそうだったからである。]
くそぉ……。
[見る人が見れば、その木箱は北欧を思わせる
デザインをしているとわかるものであった。
しかも埋められた年代を察すると、知識の
ある人ならば、箱を壊してでも中身を
確かめただろう。が、ノーマンにその知識はなく、
彼はその木箱を開けることを*しなかった*。]
──アーチボルド家・庭──
[兵士達によって掘り起こされ、無惨に荒れ果てたアーチボルド家の庭の隅から、啜り泣く様な声が聞こえる。
耳を澄ませば、泣声に不気味なシュウシュウと言う呼吸音が混じる。
滑舌の悪いもったりとした声。兵士達が人骨を見つけた様に穴に、すっぽりとハマり出られなくなってしまったミッキーが、顔面から脂汗を流しながら助けを求めていた。]
「だ、誰かぁ。
たしけておくれよぅ、出しておくれよぅ。ぬ、ぬ、抜ぅけないよぅ。
これもま、ま、ま、魔女の罠なのかよぅ。
……ぁあああああああああ。む、蟲が。虫が。
チクチクチクチク き、気持ち悪いよぅ。」
[掘られた穴は入口が狭く奥が丸い壷状になっていた。
ヴィンセントが出て行って以来、アーチボルド家の周囲に人影はまったく無かった。糞尿が撒かれる等の嫌がらせもあったが、あの状態で生きているジェーンが魔女かもしれないと言う噂が広がり始め、逆に呪われる事を恐れた村人達は、アーチボルド家周辺に近付かなくなって来始めたのだった。ヴィンセントと言う後ろ盾の存在も影響があるのかもしれない。
ミッキーの家も隣家とは言え、声が響く程の近距離では無い。もし、このまま誰も来なければ、ミッキーは生きながら壊死していく事になるのだが──。]
[何故ミッキーがアーチボルド家の庭に居るのか。
それはノーマンがダウジングによって、アーチボルド家の庭、粉屋の敷地両方から、骨を発見した事が元になっている。]
「なぁァあんで、ボクが。
こ、ここに、骨を埋めたことが分かったのかなぁああ。
せぇすぃりあに見せて、驚かしてあげようと思ったのにぃ。
ナ、ナイフを出しただけで、おばさんに、み、見つかっちゃった、し。せぇすぃりあがた、食べたとおもったから、大事に取ってあった分の骨まで、なああんで見つかったんだろぅ。」
「ぼ、ボクが、せ、せぇすぃりあの秘密をしってるってこと、ぼ、ぼボくがどれだけ毎日、君のこと見てるかって、お、教えてあげようとおもったの、に。」
「月が半分ちょっと過ぎのよ、よるに絶対、せ、せぇすぃりあぁあが、外出することだって、知ってるんだぞぅ。」
[つまりはノーマンの発見物自体は間違いではなかったのだ。
埋めた人物が異なっていただけで。
セシリアの「それはネリーと同じ仕事をしていた御者の男の骨だ。」と言う断言はおかしい。当時、解剖学は先端の科学の分類される分野だと言っても良い。また、骸骨は性別を判断しにくい特性を持っている。
思わず漏れたセシリアのその言葉は、平凡で育ちが良いはずの彼女が、何故か人骨を見慣れている──深読みをすれば解剖に似た行為を日常としている事を意味していた。
ミッキーがセシリアの秘密を何か知っているのも間違いは無いだろう。]
[セシリアは狼に憑かれたその当時から、何故か人を喰らうと言う事実を隠すのが上手かった。随分と手慣れた人狼だった。それはセシリア本人の資質もあったものの、彼女を乗っ取った人狼が何者であるかが深く関係しているのだが。その話題はまた後程──もしかすると、ジェーンが居る時にでもすることになるだろう。
ミッキーによる過度のストーキングさえ無ければ、セシリアは今頃?。]
[ミッキーは相変わらず、泥まみれで穴の中でもがいているが、雨でぬかるんだ土に手が滑って穴の縁を掴む事も出来ない。
──…まだ夕刻でも無いと言うのに何故か西の空が赤い。もがき疲れたミッキーはだらだらと涙を流しながら、不思議そうに空を見つめた。
場面はルーサーが人狼の手によって死に至らしめられた*教会へ転ずる*。]
──教会──
[ミッキーが西の空を見上げた──その時刻の少し前。
一層激しくなった雨、黒天を割り呪詛と怒りを叩き付けるかの様に激しい落雷があった。
雷の落下したその場所は──…、村の教会。
──ミッキー同様に空の色の異変に気付いた村人達が教会に辿り着いた時には、すでに炎に包まれた教会の上部が傾き、崩れ落ちようとする寸前だった。
彼等がもし、火の手が上がる前に教会に踏み込む事が出来たならば。祭壇の中央の十字架に突き立てられた神父の遺体を発見する事が出来ただろう。]
[炎が沈下し、教会が瓦礫と化した頃には、雨はすでに小降りに*変化していた*。]
文学少女 セシリアは、逃亡者 カミーラ を投票先に選びました。
文学少女 セシリアは、ちんぴら ノーマン を能力(襲う)の対象に選びました。
――――――――――
アストールが教会に足を踏み入れる少し前の事。
予は、兵士達と共に地面を穿る男の様子を眺めていた。
それは、村長の弟であったろうか。
掘り出された古めかしい木箱の上で、銀の雫が揺れていた。
振り子であった。
予は、それが聖銀であろうと主の身を損なわしめ或いは縛める類のものではないことに安堵した。
尤も、男の知りうるであろう“真実”は、捨て置けば孰れは同族を火刑台へと追い詰めるものであろうことは危惧されたが。
予は、神父が他に聖銀の道具を残してはいないか目に届く範囲ではあったが探し求めていたのであった。
アストールに呪具のことは伝えおかねばなるまい、と雨の中翼をはためかせた。
いずれ聖銀の枷が外れ、我が主が完全に元来の魂を復活させたなら、己の微弱な声であっても主の元へと届くであろう。
否、セシリアと混じりあった主は己との繋がりを喪ったであろうか――
主が桎梏より解き放たれるその時を待ち望む気持ちはアストールと同様であったが、己には彼奴の持たぬであろう種類の不安が僅かばかり存在しないわけではなかったのである。
今はアストールに身を預けてはいるが、本来仕えるべき主の元への帰順を一日千秋の想いで待ちわびていたのだった。
“使い”は鷹の姿をとった方がよい――というのはかつてのアストールのアイデアであった。
マタイの象徴である神獣――
埃及の古きより、王権の力と威を現した
十三夜の月を思わせる銀の雫が揺れる様に、いつしか遠い昔日へと想いはいざなわれていた。
――――――――
―広場/檻の前―
[クインジーは濡れるに任せ、雨の降りしきる中広場に佇んでいた。
檻の方を向いてはいたが、眼差しは遥か遠く、辿り着くことのできぬ彼方へ旅をしているかのように茫漠としていた。]
ジェーン。俺はあんたが――
[娘をなんとしても助けたい――そう思っていると思ってたんだ、とその唇は呟いていただろうか。
だからこそ、ノーマンから受けた疵をおしてまでも証言に赴いたのではなかったのか。人狼審問の審議を始めた直後の、証言台の凛とした彼女の言葉を思った。]
俺は何をしたかったんだか……
[冷笑が口元に浮かぶ。
一度人狼や魔女の疑いをかけられたものが、そこから解放されることなどあり得ぬということなどよく知っていた筈ではなかったのか。
ならばこそ、その手続きの一つ一つを己自身の手で行い、結末を見届けようとした。
その時に万が一。万が一何かが――]
[セシリアは人狼ではなかったかもしれない――その証を見いだし得るかもしれない。
なにかありえぬことが起きて、己がとっくに知っているはずの現実を覆してくれることを。堰が決壊するように、充ちた強い何かが見たことのない場所へと己を至らしめることを――
それらをあり得ぬこと、とそれまで諦観に凍り付いていた己の心に、その時慥かに、ジェーンの言葉は叱咤するかのように響いた。
それは、晦暗に閉ざされた凍土に差した一筋の陽光のように感じられた。
それが――]
[クインジーは、人の間で生きていくため正しくそうあるべきだと彼女に宿坊で諭したことを思い出す。
自分がそうすべきだと説いたにも関わらず、彼女がその道を選択した時に己に生じた感情をひどく理不尽なものと感じながら、苦笑した。]
馬鹿だ、俺は――
それが当たり前で……
――そんな光景はいくらも見てきたというのに。
[逆巻く相矛盾する感情の暴風が遠のいた時、重い倦怠が心に纏い付いていた。]
『俺はどうする…… …どうしたいんだ……』
[檻を眺めていたクインジーはその時、閃光が瞬く空を仰いだ。
直後、轟音が周囲を圧した]
──檻──
[激しい雨が檻の周囲に青灰色の重い天幕を張った様だった。
湿気を多く含んだつめたい風が時折、彼女の髪を嬲る。
セシリアは、檻からは様子を伺い知る事が出来ない、尋問の行われているであろう詰め所を、何かに耐える様にじっと見つめていた。
ガリッと言う嫌な音。
抱えた膝。足枷の近くの皮膚を爪で削る音。
聖銀で出来た首輪。それに手枷と、足枷の周囲の変色した皮膚。
皮膚の内側の感覚。
何も起きない時間、じっとしていると、内側から沸き上がる疼痛、さまざまな記憶が堪え難い。それをやり過ごす為に、自らの爪で傷をつけ、血を流している。]
―水車小屋/教会崩落の少し後―
[落雷後の教会から貴重品を持ち出す等の事後処理の後、クインジーは私物を置いている水車小屋の詰め所に戻り、服を着替えた。
水車を修理するための道具が仕舞ってある物入れで、鎖を探す。
準備を整えると、厚手の外套を羽織り外へ出た。
雨は外套の縁を滑り落ちてゆく。]
『今は――あいつの真実を……』
[迷盲の中で道筋を見いだすために。
今必要なことは、最初の原点に立ち至り、人狼たる告発を受けたセシリアを今一度見定めることのように思われた。]
[カミーラの動きが目の前で不自然に止まった。
『彼女』は、爪で皮膚を突き刺す動作を繰り返しながら、カミーラをじっと観察した。
ナイフにこびり付いた臭いで、概要は理解したものの。まだ、カミーラが、あの村の何処で何をしていて、どうやって人狼になったのか──『彼女』にもまだ思い出せていない記憶が有る様に思う。]
(彼女は、人狼として不完全なのだろうか──。)
―檻―
少し……話がしたい
[眉を顰めるセシリアに、言葉をかけた。
外套を羽織り、肩からは布袋を下げている。
衛士に声をかけ、鍵を開けてもらう]
ああ。そうだ。
もしかしたら、多少長くなるかもしれない。
俺が逃がすかどうか心配なら、檻に鍵をかけていってくれ。
[衛士にそう頼み、その代償として枷の鍵を借りると檻の中へと入った。衛士は檻の鍵をかけ、何度も入り口を確認すると詰め所の中へと消えた。]
[セシリアの拘束は長きにわたり、その細い四肢に不似合いな無骨な枷は繊細で柔らかな肌を嘖んでいた。
足首近くの肌が疵つき、血が滲んでいる。
痛々しい姿に、眉を蹙めながら屈み込んだ。]
……どうした。
[足首をとった]
[足枷の近くの皮膚を抉る、その動作を止める。
ゆっくりと瞬きをすると、クインジーを見上げ口元だけに淡い笑みを漂わせた。]
──…話。長くなるかもしれないとは。
一体、何を…。
[雨は小降りになってきたものの、肌寒さは変わらない。
檻の周囲に人影はまばらだ。ほとんど居ないと言っても良い。
教会の火事が騒ぎになっている所為かもしれない。]
少し……な。
心配か?
人狼――なんだろう?
人狼なら、俺を殺すくらい造作ないはずだ。
――いや……
[セシリアの縛めに目を落とす。]
それがあると力が出ないのか?
―檻の前―
[暫くすると、クインジーが檻の所へ戻ってくるのを目撃する。別の場所で何かを終えた後なのだろうか。
カミーラは、彼が檻の中へ入っていき、檻の中の人狼とやりとりをしている所を見ている。]
――なあ。
本当に、檻の外に二人も人狼がいるのか?
[話しかけながら、衛士から借りた鍵で聖銀の足枷を外す。
青黒く変色した肌を、痛々しく感じながらそっと撫でる。]
お前はなにか悪いことをしたのか?
人間を喰らうのか?
あの調書に書かれている以外にも――なにかを――
[ノーマンの腕の肉を食いちぎったのは事実として慥かな事柄だった。だが、一瞬見えた牙は、火傷の激痛に激盪していた脳髄が見せた幻覚ではないか。或いは混乱した我々の集団幻想ではなかったのかと、クインジーは未だに信じ切れずにいた。]
牙はあるのか?
瞳は――
[そして、黄金色の瞳を覗き込み、瞬きをした。
不思議で――しかし心誘われる色だった]
―アーチボルト家―
[ジェーンは霧雨よりも小降りになってきている雨の中、”穴”を見下ろしている。遥か向こうは、朱に天を焦がされている。]
「ぁ、ぁあ……おばさん、た、た、たぁすぅけてぇ……。」
[ヴィンセントから手当てをして貰い眠っていたが、轟音が聞こえた為にジェーンは起きてしまい、外に出てきたのだ。ヴィンセントは、教会へ行ったのか、それともミッキーの状態を知らせに行ったのか(家に入る時には気づいていなかったようだから、出る時に気づいていればの話だが)……今、家には居ない。]
「お、おばさん、き、聞こえてるの?ね、ねえったら、おい、おいったら。」
[冷ややかなディープパープルの瞳。]
「ま、魔女の親は魔女なのかよぉ!おぉぉい、おぉぉい、ああ、また蟲が……あああああ。」
[ジェーンはそっと目を伏せた。自嘲する。この、村八分の状況を――いっそ、今直ぐ死んでしまいたい状態を。]
[聖銀の足枷の代わりに、持ってきた袋の中から皮の足枷をかける。
セシリアが見た目通りの少女であるならば、それだけで十二分に縛めとなるものだった。]
すまないな。
さすがに自由にするわけにはいかない。
[そうして、彼女の首の聖銀の枷を外し、体に巻かれている鎖を解いてゆく。手枷はまだ聖銀のままだ。]
ちんぴら ノーマンは、お尋ね者 クインジー を投票先に選びました。
[クインジーが足枷を外した事に、また眉を顰める。]
──…今更、何が聞きたいのか分からない…。
[牙や瞳の色を確認する様にクインジーが近付いて来る。
正面から目が合う。何をするつもりなのか。
足枷に続いて、首輪や鎖を解いて行く相手の意図が分からず、無言で瞬きをした。
自由、と言っても檻に囲まれている。]
-発掘地点近く-
[怒鳴っている。兵士の檻へ向かう要請を
どうにも受け付けようとしないのである。]
ふざけんなよッ!俺ぁもう行かねえっての!
[威厳の欠片もなく、駄々をこねている。]
じゃあ、てめえら咬まれてみろってんだ!
[蹲り、ガタガタと震えだしてしまう。]
俺ぁ、ちょっと権力が握りたかっただけなんだよ。
まさか…まさか、こんなもんだったなんてよぉ!
――詰め所入口――
[ウェンディはしばしの間、檻の方角を眺めていた。詰め所入り口の角を曲がった所で佇んでいたのでかなり距離は離れており、内部やその周囲は殆ど分からなかった。
ヴィンセントと言う男性やクインジー、セシリアの母親と思しき人々が檻の前で会話をしている。感情を露わに会話をしているようにも感じられ、かなり激しいやりとりだと思われた。
雨が降っている――]
[クインジーがセシリアの拘束をいじっていくのを見ている。]
(あれ、何故そこで足枷を付け替えたりしているんだろう…?)
[疑問に思いつつ、無意識のうちに檻の前から少し距離を取る。]
セシリアお姉ちゃんは。村長さんが最初に言っていた通り、ぜったいに人狼だわ。間違いないもの。だって…
[突如セシリアの両の瞳がどす黒くも金色に輝いた事や、鼻先や頬を舐められた記憶が生々しい。]
ナイフを素手で掴まされたような感覚だった…
[少しの恐怖感も植えつけられたが、と同時にタイトロープをしているようなギリギリの興奮、快感に近いようなものも覚えていた。]
主よ。
私は時に彼らを愛し赦すのを難しく感じます。
過ちを犯しやすい彼らの魂を正しき道に導くことこそが私の勤めであるのに。
何故彼らはかくも愚かで心弱いのでしょうか。
無論彼らの殆どが無学で貧しく、その日一日を生きるのに精一杯であるのは分かっています。
が、それならば何故余計に兄弟同士助け合い支え合って生きようと思わないのでしょうか。
富める者は貧しい者から奪ってますます富み、貧しい者は更に貧しく弱い者を虐げて僅かなもちものさえ取り上げようとします。
それは主の御心にそむく行いであり、結果としてますます御恵みから遠ざかるばかりです。
それが何故彼らには分からないのでしょうか。
俺ぁこんなところで…こんなところで死にたくねえ!
[悲痛な泣き声をあげて、震えている。]
殺らせはしねえ…殺らせはしねえぞ……。
てめえら、俺守れよ!俺の前と背後と左右をッ!!
[兵士たちは、愛想を尽かした様子。]
なんだッ!なんだよ、その目はよぉ。
てめえら、俺がいないと何もできねえ癖に!
[逆である。さすがに、カチンときたらしい。]
[一度檻からウェンディは離れる。彼女なりに人狼というものはどういうものなのか、人づて、あるいは誰かに尋ねてみようと思った。]
神父様は、やっぱり詳しいかしら。
そう、警戒するな。
[眉を顰める彼女に、微笑みかける。日頃兇悪な面相のクインジーのその笑顔は不器用だった。]
俺はただ――
……真実が知りたい。
[体に巻き付けられていた、細い聖銀の鎖を解く。
後ろを向き、鎖を檻の外へ投げ捨てた。]
[――第一の欺瞞。
聖銀の鎖は後ろを向いた時、クインジーの袖の中へと落ちた。投げ捨てたのは、水車小屋で見繕って持ってきたそれによく似た鎖だ。]
[この聖銀の鎖は、イザという時、クインジーの命綱となりうるものだった。]
――真実をすべて話してしまえば……
ここから出られるかもしれないぜ?
[セシリアに微笑みながら、聖銀の手枷に手をかける。]
――― 檻の傍 からやや離れた場所 ――
[霧雨の中、ちょっとした森のような場所から声が聞こえる。それは、ネリーだった。数人の村人に囲まれている。]
「な、おめェさん達、一体オレに何の用だべ……今から、檻に餌届けん…!!あ、オメェさん方ァ、それなん」
[村人の一人が、ネリーを木にドンと強く押した。]
「痛ッつゥ――何をするンで」
[抗議の声をネリーは上げたが、]
「おい、お前よぉ。お前、どう見たっても、あの人狼にやけに優しくしてねぇか?――ン?」
「おかしいと俺も思っている。俺達が人狼と仲良く暮らせないかって言ってたらしいしなァ。何考えてんだ?」
[男達は笑っているが、その目は誰も笑っていない。]
「ひっ――!」
[男の一人が持っている刃物に気づいたネリーは駆け出した。]
「だ、誰かァ、誰かァ、助けてくだせェ――」
[詰め所には人がいる筈だ。ネリーは、広場へ向かい、叫びながら走り始める。]
せ……せっかくだから、俺ぁ逃げるぜッ!!
[慌てて、這うように逃げ出そうとする。]
「ふざけんじゃねえよ!」
[兵士たちは、ノーマンを取り押さえる。]
「もうアンタのお守りは、こりごりなんだよ!」
「今更、眠てぇこと言ってんじゃあねえぞ!」
「真っ先に逃げ出す村長が、どこの世界にいるんだ!」
[それまで、ノーマンがしてきたように
今度は彼が、兵士たちから暴行を受ける。]
許して…許してくれぇ、兄貴ィィィィィ!!!
[ウェンディはぱたぱたと足を進める。場所はもちろんあの温厚な神父様の下。神様に最も近い場所。教会だ。
誰かに人狼について聞いてみたいと思った。
焦りからか、空の色が黒ずんでいる事に気がつかなかった。刹那、激しい轟音が天上をつんざく。]
雨だわ…
[それでも立ち止まらないほうがいい、と再度思い、ウェンディは教会を目指す。
そして行き着いた先は、神秘と神聖に包まれている建物ではなく、崩れ落ちて火が燻っている建造物だった。]
[意外な表情──微笑みを向けられて戸惑う。
大きな手で鎖がするすると外されて行く。
戒められていた彼女自身の力で、どう足掻いても取り払う事が出来ない──聖銀の鎖を。]
(人影は少ない。)
(でも、外だ。)
(──衆人環視の元、彼に触れられる事には慣れて来てしまった。)
[目を閉じた瞬間に、クインジーは鎖を檻の外へ投げ捨てたらしい。
細い金属が地面に叩き付けられる音に、すぐに目を見開く。
鎖が無くなる事で、格段に自由になった彼女は、両手を付いて僅かに後ずさる。]
[檻の前から距離をとったその時、何かが聞こえた気がした。]
ん、あれは何の声なんだろう…?
[もしかしたら、誰かの叫び声ではないかと感じ取る。]
――それでな……
[掠れた小さな声。
一瞬だけ、周囲の視線を伺う。
セシリアから視線を外さないように、ゆっくりと首から提げている紐をたぐる。その先には、鍵がぶら下がっている。]
鍵はある。
衛士の目を誤魔化してすり替えた。
[だが、これは第二の欺瞞だ。鍵は、同じくそれらしいものを道具箱の中から持ってきたにすぎない。
そして、聖銀の手枷を外し、代わりに革の手枷をかける]
――真実と引き替えにこの鍵を。
そして、そのような彼らに憤り、侮蔑を感じる時、同時に自分の罪の大きさに恐れ戦きます。
私が明日の糧の心配をすることのない身分に生まれ、十分な教育を受けることが出来たのは、主がそのように私をお作り下さり、祈る者としての運命をお与え下さったからです。
私は主が下された恩寵により、他の者が耐え難いと感じる苦痛も忍ぶことが出来ますし、大勢の兄弟が苦しむ肉欲にも悩まされることなく過ごすことが出来ました。
その私が謙遜の美徳を忘れ、兄弟に対して憤り侮るとすれば主の御怒りは如何ばかりでしょう。
…此処でカミーラの名前を言えと?
[早口で囁く様に人の言葉で話す。
それとも出鱈目に誰かの名を挙げろと──。
彼が彼女を裏切る事が無い様に、彼女が彼の名を口にする事はありえない──。]
[教会にウェンディが到着した頃には、既に建物は焼け落ち、炎の勢いもほぼ止み、所々で黒煙がくすぶる程度に収まっていた。息を飲みそうになるウェンディ。炎が人の力を離れ、荒れ狂うのを見るのは初めてだったからだ。
ウェンディは周囲の人を掴まえて聞いてみた。]
神父様、神父様はどうなったんですか!?無事なの?
[大人たちの袖を引っ張っても、色よい返事は聞くことができない。
瓦礫に入ってよいものだろうか。慎重を期せば、問題ない、とは思うのだが。]
「あァ、あれは旅の―――カミーラさまァ!……ぐゥ。」
[ネリーは、カミーラへ助けの声を上げたが、大きく前後に振っていた手首を掴まれ、押し倒された。ずるりと、ネリーの背に雨で塗れた地面の感触。]
「大人しくしやがれ。この雌犬!」
「嫌だァ!オレは何もしてねェ――何でオレが村の皆に殴られなきゃァならンのですかァ!」
[顔を殴られ、甲高い声で悲鳴を上げる。逃げようとしたネリーの服を掴んだ事で、服が破れ扇情的だ。彼らは欲情を滾らせるが、状況を見ていた後ろの男――ナイフを持った――がそれを止めた。]
――教会前――
[ジェーンをアーチボルト家に送り届けたヴィンセントは、司祭に会うべく教会に向かった。
セシリアが人狼だと知り、ノーマンの本性を見てしまった今、自分がノーマンに協力して何をしてしまったのか、司祭に告白し、これ以上の混乱が広がらないよう協力を請うべきだろうと考えたのだ。
しかし聖堂はその時すでに、焼け落ちてしまっていた。
集まった村人の話から、その中に司祭がいたのだと知れた。
火の手が回った時にはもう死んでいたのを見たと、興奮気味に話す者もいた。
雨に打たれてくすぶる残骸の下に、司祭も村長の死体も埋もれてしまったのだろうか。
村長の死が不審なものだった事など、もはやどうでもいいことのように思えて、ヴィンセントはしばらく放心した。]
鍵は、夜までこっそり隠しておけばいい。
暗くなって人目につかなくなったら逃げられるだろう。
俺は、残りの人狼さえ刈れれば満足だ。
真実、あと二匹の人狼がいるなら――その名と引き替えにお前は自由を手にできる。
[これは賭だ。
もし、彼女が人狼ではなく唯に少女であるならば、鍵が手に入ったとて、そもそも革とはいえ手枷足枷がついている状態で逃げられるとは夢にも思うまい。
つまり、そもそもこの提案に乗る筈もない。
だが、人狼であれば多少なりとも何らかの反応を示すか――
――あるいはこの状態を好機ととるか]
[聖銀の拘束が全て解かれ、革の拘束具に替えられた事で、手首や足首の痛々しい鬱血が、ゆっくりと消え始める。体内を血が正常に近い形で循環し、肌の色が真珠の様な輝きを帯びる。
彼女は、クインジーの顔を黄金色の目で凝視したまま、てのひらをぎゅっと握りしめた。]
[周囲の人々はこの紅蓮の炎を『神様がお怒りになった』『人狼の呪いだ』と口々に根も歯もなく言うが、ウェンディにとってそんな事はどうでもよかった。
雨がしきりに降ったのが幸いしたのか、教会を覆った火は比較的早く静まり、建物から発し続けていた熱も収り、ほぼなくなった。]
神父様。どうか逃げてくれていますように。
[神父様は何か手がかりになるようなものを教会内に残していたかもしれない。ウェンディは意を決し、瓦礫の中に入り込んだ。]
[カミーラは今の所、ナイフや銀製品等の手荷物を持っている。万が一に備えての事である。だが、身体の調子はまだ良くない。
少しして、先程聞いた声の正体が明らかになる。
その正体とは、住人達に押し倒されて暴行を受けているネリーの悲鳴であった。]
[男はつかつかと近寄り、ネリーの肩を引き寄せて半身を起こさせると
――殴った。
拳骨が減り込み、ネリーは倒れる。男は、グレン―セシリアにナイフを投げた―だった。]
「うるせェ。虻みたいに喚きやがって。
おいお前、――人狼だな。人狼だろ。」
[グレンは断定的口調で吐き捨て、ネリーを見つめる。]
「お前、前から女でも臭かったしよ。」
[別の男が嘲笑するが、グレンは片手でそれを制した。]
「お前らによって、この村は滅茶苦茶だ。家畜を奪い、作物を奪い、肉親を奪い、奪い続けるお前達は、―― 悪魔なんだよ。」
[再度、殴る。目の前のネリーを女とも見なしていない。]
[手枷を革に変え、触れていた手首が瑞々しい色を取り戻した。
クインジーはその光景を目の当たりしてもなお、信じられない思いでいる。
目の錯覚ではないかと眉を蹙めた。]
――教会――
[ウェンディは両親に連れられて毎週のように教会を訪れていた。
教会の中に入っても内部のレイアウトを知っている部分は一部であったが、それでも慣れと予想を組み合わせて神父様のおられそうな部屋に当てをつけ、瓦礫の凹凸を進み、神父様の部屋と思しき場所付近へ移動する。
小さな聖像などが無残な姿を晒しているのを見てウェンディは心配の念に駆られる。]
神父様はいないのかな。無事だといいのだけど。
[カミーラは、あえて武装はせずに、話を聞くために住民達とネリーの所へ近づく。]
何かあったのかはよく分からないが、
これは一体、どういうことなんだ…!?
[問いを一つ投げかける。]
[檻の中で、傷を回復させる為に何度も力を使った──。
体内の状態が正常に近付く程に、彼女は餓えを感じる。
僅かに腰を浮かし、黄金色の目を細めて、彼女は甘言を囁く尋問官をじっと見つめる。
──…自らの心臓の音が聞こえた。]
名前を言うと──思っているのか。
[もし例えば、ここで「セシリア」がジェーンやヴィンセントの名を挙げる事はあり得ない。──残酷な呪詛を神父に送った、当の人狼がルーサーの名を挙げる事も無い。]
「おい、やれ。」
[グレンは地に伏したネリーに表情を変える事なく、残りの男達に言った。ネリーの細い体に容赦なく拳が、或いは脱穀用の棒が振り下ろされる。]
「――?」
[グレンは立ち上がり、近づいてきた余所者を振り返る。]
「この女が人狼臭いんでな――殺す事にした。新村長様は動かないし、こうなれば俺達で自衛するしかないだろう?」
[今更という表情でカミーラを見ている。そして、じろじろと上から下まで眺め回した。]
「この女が気になるのか?」
[真面目な問いかけだった。]
[彼女は、また薄く口唇を開く。
くちびるの色も少し色づいている。]
────……。
[名前を言うつもりなのだろうか。
彼女はくちびるの隙間から、僅かに赤い舌をのぞかせて制止する。
舌の向うにまた白い犬歯が見えた。]
[瓦礫の中心付近で、ウェンディは頭を下げ、周囲に何か手がかりになるものがないか、目を凝らして調べ始めた。火傷や服をあまりにも汚したくはなかったので、目視で探す。
やがてウェンディはひとつの小さな箱を発見した。一見、裁縫箱の様にも見える。固そうな材質で出来ている雰囲気だったが、よく調べないと分からない。
ウェンディは靴先で小さく小突いたり、上から体重をかけてみたりする。頑丈そうだ。]
話し方も……結構違うんだな。
[憑依とはガラリと性格も変わるものではあったが……とセシリアの呟きを聞く。]
“人狼”としてのお前はどんな奴なのか――
それも聞いてみたい気がするがな。
[「名前を言うと思っているのか」との言葉に、苦み走った笑みを返した]
じゃあ、どうするつもりだ?
でなければ、拷問によって名前を吐かされることになるんだぜ?
でもって、お前は最後に処刑される。
[ようやく意を決したように、聖堂の前から歩き去ろうとした。もう、ここには用はない。
だがふと、瓦礫の中を子どもが歩いている事に気づいた。
開けた場所で飛び跳ねている様子は、無邪気に遊んでいるようにも見える。]
こら。
そんな所に入ったらだめだ。
危ないじゃないか。
[ウェンディに近づく。]
[はっとウェンディは後ろを振り向く。以前、檻にいたヴィンセントと言う男性だろう。ドキッとする。
何か、足下に転がっている箱には、今悟られてはならないような気がすると直感が教えている。
ウェンディはにぱっと笑いを返した。]
ごめんなさい、どうしても神父様が気になったんです。神父様は無事なんですか!?
消えたように見えても、まだ火が残っていて火傷するかもしれない。
それに、火に炙られた壁や天井は脆くなっているはずだ。
ほら、あの辺の激しく燃えたあたりは、天井が落ちているだろう。
ここだって、今崩れて来ないとも限らないぞ。
[かつて祭壇があった方を指差した。]
[グレンによる問いに、静かな口調で返答をする。]
私が檻の中であの化け物を切りつけた際に気を失った所を、彼女に介抱を少し受けただけだ。
別に気になるところは特にない。
そうか…新たな村長とやらが動かないというのならば、仕方がない、か…。
[カミーラは、身体の動きがいつもより鈍くなっているため、目の前の暴行を人として止めたくても止めることができない。何も出来ずにただ指をくわえて見ているしかないのだ。]
(ネリーには…まだちゃんと、
あの時のお返しをしていないのに…!)
神父は……、たしかな事は私も知らないよ。まだ。
無事だといいんだが。
死んでいた、と言っている者もいたが、たしかかどうかは……。
もし無事なら、火事の報せを聞けばすぐ戻ってくるはずだとは……思うのだがね。
エロイーズ様……
その言葉だけで私は――
[感悦の想いに胸が塞がる。言葉が出ない。
微かに触れていた手をそっと握った。]
[ウェンディは両足は動かさない。]
はい。神父様、無事だといいのですけど…
ところで先生。この火事ってどうしてなんですか?神様がお怒りになられたとか、やっぱりこれも人狼がやったことなんですか?
[カミーラはふと、ネリーに視線を向けてみる。]
…何もできなくて、本当にすまない…!
[カミーラはネリーに対する謝罪を、周りにはあまり聞こえない小声で言った。]
必ず、羈束より解き放ちて自由を――
そのために今暫しご辛抱あれ。
貴女様の痛みを忘れ得ぬよう、“証”を賜りたい
あの日の盟約と同じく、新たな誓いを――
どうだろうな……。
人狼が存在するのは、動かしがたい事実のようだが……はたしてこんなことが出来るものなのだろうか?
神様は不信心者を雷で打ち倒すと、よく言うけれどね。そんな事を言って回る連中が「あいつは雷に打たれる」と予言された人がそんな眼にあったとは聞いた事がないね。
[子どもを相手に、難しい皮肉を言い過ぎてしまったと気づき、口をつぐんだ。
今この時に、教会が焼け落ちたのは、紛れもない事実なのだ。]
「止めたければ……止めてもいいんだぜ?」
[グレンが口調こそ同じだが、優しい言葉をかける。しかし、その目は目の前の女性カミーラの心理を読み取ろうとしているかのようだ。]
「グレン、おいこいつ気を失ったぜ?」
「小便かけてやろうぜ。」
「お前ら、黙ってろ!
気を失ったなら、あの”檻”にぶちこんでおけ――チッ、今は人が居るな。」
[グレンは1人を走らせ、麻袋を持ってこさせる。ネリーの痩せた体は、襤褸襤褸で――血が流れ骨に罅が入っている所もあった。]
[ウェンディとヴィンセントが瓦礫の中を歩いているのを見て、もう大丈夫だと考えた村人が数人、崩れた聖堂の中に踏み込んできた。
この辺りに神父様がいたのを見た、と主張する村人が先に立って、瓦礫を掘り返して行く。
やがて声が上がった。]
うん?
やはりか……。
[司祭が発見されたと思しき祭壇の方へ進んでいった。]
「何だ……不満か、余所者。
――人狼はな、3匹、いるらしいぞ。」
[カミーラとネリーの間に割り入るようにグレンは移動。カミーラの様子を窺いつつ、ピタンピタンとナイフの平らな部分を掌に当てて鳴らす。]
[ウェンディはヴィンセントの言っている事が半分くらいしか理解できなかった。
悪い事をすればばちが当たるよ。と言ってくれてるのだろうか。]
ヴィンセントさんごめんなさい。あんまり無茶はしません。
[微妙ながら、隠し事をしています。と顔に書いてある雰囲気だ。両親やウェンディと親しい人物なら見抜けるだろう。]
[彼女の躯が僅かに震える。
それは俊敏な獣が飛びかかる寸前の動作にも似ているが、目の前の男にはそれが理解出来ているのかいないのか。
唾液を呑み込んで瞬き────。
そして、眉を顰めたまま身を寄せて来た男に、]
人狼の名は──…カミーラ。
[低い声で彼女が言い切った。
その瞬間────、]
[衣擦れ][革が裂ける音][と同時に]
[────跳躍]
[セシリアは黄金の目を光らせ、クインジーに飛び掛かる。
華奢なはずの少女が筋肉質で屈強な彼の躯を押し倒し、男の右腕を押さえる。そのまま、右手の先、輝く長い爪を一門させた。]
―発掘現場近く―
あ……ぐあぁぁ………。
[満足げに兵士たちは帰って行った。
残されたのは、足腰立たなくなるまで
ボコボコにされたノーマンだけ。]
ちく……しょお…。
[前頭部から血を流している。鼻も折れているようだ。]
こんな………はずじゃあ…。
――なっ
[セシリアが真実を告げるのか――その言葉に気を取られた刹那、彼女は突如豹変した。
その動きは雷光のようだった。
動きを目で追うことすらままならないほどに――]
[先程と同じく、静かな口調で話す。]
いや…不満とかそういう意味で言っているのではない。
…人狼は3匹か。檻の奴を含めると、檻の外にいるのはあと2匹…って所か。
今の行為で、本当に人狼を倒したことになると良いのだが…。
[本来、少女の細腕では到底自由とならない筈の厚く膠で固めた革が、パン!と小さな破砕音と共に紙のように破れる。
注意を払っていなかったとはいえ、右腕は簡単に縛められた]
[彼がどのような死を迎えたかはここでは述べない。
一つだけ述べることがあるとすれば、義の人であろうとしたルーサーは死ぬその日の朝、どのような悪人であろうとも生きている限りは悔悛の機会が与えられているという理由で、彼が最も嫌い軽蔑したノーマンの守護を神に祈った、というそのことだけである。
死を迎えた彼は、もはや思い悩むことなく全てを彼の神に委ねた。同時に村の行く末についても思い煩うことを止めた。何故なら、これは全能の神が定め給うたことなのだから。
こうして彼の魂は肉体から飛び去り、現世を旅立っていった。
彼の魂が神の国に迎え入れられたのか、或いは煉獄でいつか赦される日を待っているのかは*定かではない。*]
[その切っ先は狙いを違う事なく、クインジーの左目を狙う。
光彩の中心に反射した白点、そして湾曲した彼女の姿が映っていただろう。刃は容易くその内側へめり込む。]
[彼女は]
[クインジーの眼窩を深く抉った──。]
[グレンはじろじろとまだカミーラを見ていたが、他の男達の呼び声に、その場を立ち去る事にした。彼らの荷物は、後程セシリアの”檻”の中に投げ入れられ、惨劇の舞台が*花開くのだった。*]
[ヴィンセント先生の意識が祭壇の方向に向いた。幾ばくかの時間の余裕ができた。ウェンディは素早くしゃがみこみ、箱を目で丹念に調べた。中までは火の影響を受けていないように思われた。
ウェンディはポケットからハンカチ──布状のものを取り出して直接触らないようにしながら、つつくように箱を開けた。]
あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁァァァ……………ッ!
[ネリーの絶叫が響く。
それは村人に殴られたが故か、狼の檻に投げ込まれた故か、或いは――人狼の犠牲になったとかいうカミーラが、彼女を見捨てたが故か――]
[瓦礫の中から司祭の遺骸を掘り出す作業は、時間がかかりそうだった。
どんな偶然か、遺骸の上半身は教会の十字架に貫かれていたのだ。
燃え残った法衣の一部から、それがたしかに司祭だったのだと確認すると、ヴィンセントはその作業が終わるのを見守らずに聖堂を後にした。
先程会話を交わした少女がどこに行ったのかまで、注意することはなく。]
[怜悧な切っ先は、閃光としか知覚されない。
瞬時に全てを溶融する太陽の光が目に飛び込んできたようだった。身を引き裂くような劇痛が駆け抜け、全身がビクビクと痙攣する。]
ァアアァアアア――
[喉を破裂させんばかりの絶叫が響く。
ガクガクと躰が揺れ、逆流した血潮に脳が激盪した。]
オレぁ……人間なンかェ?
人間なンかェ!?
………いや、オレは人間じゃねェ。
人間に生まれながらよォ……
人間さまァに殴られ、ひでェ言葉あびせられてよォ……
家畜よりも馬鹿にされたモンだェ……!
家畜ァ肉になる。肉になりゃァ人間が食うさ。
だが人間は、人間を食わねェ。
食わねェ代わりに、オレを家畜よりも下に見る。
人間たァ………何モンだェ。
この痛みをよォ……
この血をよォ……
食いちぎられた肉をよォ……
オレは………ひきずって、こン暗ェ闇を歩くんだ………!
[グレンをはじめとした村の男達が立ち去る。
カミーラはその後、一言ぼやく。]
これから先、この村は一体どうなるのだろうか…
[住人達がやったこの行為によって光が見えてくるのか、それとも滅びへのカウントダウンがまた1歩進むのかは、今はまだ分からない。
だが、どちらにしろ村の惨劇は今、本格的な幕を開けたのだ!]
これは…針だわ。けっこう大きそう。
[ウェンディは匂いを嗅いだりする。直接鼻を近づけると強烈な臭気だと昏倒しそうになるので、手で手繰り寄せながら。どうやら錆びてはいないようだ。]
たぶん、これが聖銀じゃないかしら。こう、普通の鉄とは違う輝きがあるわ。
[神父様が尋問の道具に使用するためのものなのか。
どちらにせよ、ウェンディにとっては都合の良さそうなものであった。他の大人に見られてはまずいと思い、素早く布に包み、自分のポケットに仕舞いこんだ。]
[全ての知覚を圧倒し、全身を隈無く走るその痛みは主の与えしもの。
一瞬にして正気を喪うほどの痛みに魂が揺さぶられる。
それは新たな誓いの証。
劇痛は今は圧倒的な快楽となって人たる者の意識を押し流そうとしていた]
ヴィンセント先生。
ヴィンセント先生、いませんか? 神父様はいましたか?
[ようやく止まっている足を動かしはじめ、祭壇の方向へ歩いていく。]
オレがもし狼っ子だったら、どんなにシアワセだったか……!
オレが狼っ子ならばよォ、腹ン中で人間を呪って、馬鹿にできンべよ……
………だが、オレぁ人間だ。
オレに唾吐く人間に尻尾振ってへえこらしねェと、オレはメシも食えず、雨風しのげる住む場所もねェ。
だから、オレぁ人間に従うしかねェ………
オレを馬鹿にする人間に、従うしかねェ………!
オレぁ、化けモンのくせに人間様よりシアワセな、狼っ子が憎い………
そして………
オレを見下し、踏み台にする、人間が憎い……!
[あまりの痛みに、意識を喪いかけていたのは一瞬だった。
赫怒と興奮が魂を震わせ、尋常ならざる力となって込み上げてくる。]
ぐぉおおおお!!!
[叫びと共に、眼窩に突き立った少女の右腕に左手が叩きつけられた。]
[この時、檻の方から叫び声が聞こえてくる。]
…檻の方へ、戻るか…!
[カミーラは、今いる場所から離れて急いで檻へ向かう。]
[彼女は、絶叫し痙攣する男の上に馬乗りになっている。
太腿でやさしく彼の胴を締めあげ、抉り取った左目を引き出しながら、残された男の右目を凝視している。]
[やがてウェンディは祭壇の中心部分に近づこうとしたが、その一歩手前で大人たちに行き先を阻まれた。]
「お嬢ちゃん、こんな所で何やってんだ!危ないからどいたどいた!」
[どうやってもこれ以上は進めてくれそうにない。ウェンディは無念にも諦めることにした。
その向こうにはヴィンセントが見た十字架があったのだが。]
セシリア、貴様ァ!!
[バランスを崩した彼女の襟首を掴み、引っ張る。彼女の躰を振り落とすと、瞬時に姿勢を整えた。
左腕の袖から滑り落とした聖銀の鎖を右手が掴む。]
[火傷を負った掌が熱を帯び、針を刺したような痛みに引き攣る。
だが、生命の危機に血が滾り、痛みを省みることなく反射的に躰が動いた。
銀の閃きがセシリアの躰に打ち下ろされた。]
[檻の前に着くと、目の前にはショッキングな場面が視界に入る。どうやら檻の人狼による負傷者が、また一人増えたようだ。カミーラは、手持ちの愛用のナイフを持って武装をして、檻の怪物に襲われている者を助けるために檻の中へ入ろうとするが…
…檻の扉には、鍵が*かかっている。*]
[セシリアの身長は、漸くクインジーの胸の下あたりまでしかない。
その彼女が、己の躰を引き倒したことに信じられない思いだった。
このように恐ろしい現実となって目の前に突きつけられてもなお。
――殺されるわけにはいかない。
ただ、その本能に突き動かされるように、到底追い切れぬセシリアの動きに直感的に反応した。]
[叩き付けられた背は猫のようにしなやかにうねる。
男の顔を見上げる。激しい勢いで滴り落ちて来る彼の血を舌先で受けた時、細い金属が滑る音が聞こえた。
それは銀色の──、]
──…ぁ、はァッ。
[鎖で打たれる痺れる様な痛みに喉元を反らす。]
[肩口から胸にかけて、焼ける様な激しい痛みに瞬時に熱を持つ。
彼女は淡い笑みを口元に浮かべ──、
そのまま、くちびるの内側へ。
──…爪の切っ先に突き刺さった新鮮な眼球を口に含んだ。]
[ナイフで武装をしたものの、檻の扉には鍵がかかっている。
カミーラは、セシリアとクインジーの様子を*見守ることにした。*]
[聖銀の痛みに身を捩るセシリアにのしかかると、両腕を掴み聖銀の鎖を巻き付けて縛め、引き上げた。]
セシリア!
貴様――
[セシリアの両手首を掴む左手は、万力のようにギリギリと締め上げられる。
彼女の躰は檻の格子に押しつけられながら高々と掲げられた。
クインジーの眼前に彼女の顔があった。]
[穿たれた眼窩から、血が迸り落ちる。
荒く息を吐きながら、クインジーは己の眼球を嚥下するセシリアを睨みつけた。
信じがたい思いで。]
やはり人狼だったか――
[耐えがたい劇痛か憎悪か、その両方によってか、クインジーの歪んだ凶相は悪鬼のようだった。]
[呼吸音が頭蓋に反響し、グラグラと視界は揺れる。
己の魂を翻弄する凶猛な嵐のような痛みと共に押し寄せる快楽。
その圧倒的な熱量に、正気を奪い去られそうだった。]
[男にのしかかられた重みで背が撓る。
反らした喉元の内側をすべる様に、彼の眼球は彼女の体内に飲みこまれる。
──鎖で纏められた両手首が真紅に染まり、焼ける様に引き攣れる。
格子に突き当たり逃れる事が出来ない。
彼女は黄金色の目を見開き、目の前の男の凶相を凝視した。]
あァ!? セシリア!
てめェ、人を喰うのか。どんな風にだ!
喰ってみろよ!!
[挑発的な言葉で罵り、両手首を掴む左手を揺さぶる。
揺さぶるたびに、少女のたおやかな躰は金属の檻に叩きつけられた。
少し開いた唇からは、尖った犬歯が仄見え――]
[彼女のくちびるの内側は男の鮮血で赤い。
聖性を帯びた檻に叩き付けられる度に、背中に格子状の傷が出来る。]
──…ッァアッ。
[重なるよりもはやく、
彼女のくちびるからは熱い吐息が零れた。]
[延髄から][尾てい骨を辿り]
[つま先まで届く] [躯の痺れ。]
[セシリアの唇は赫く、朝露を帯び綻んだばかりの花のようだった。口元から血が滴り、純白の肌に一筋の色を添える。]
『化け物のくせに――』
[それを美しいと感じるのは奇妙なことだろうか。
だが、一瞬、慥かにクインジーはそう思った。]
[主の乱れた吐息が、しどけなく垂らした長い髪を揺らしていた。髪の狭間からは微酔したかのように潤んだ瞳が揺れている。
私の知る誇り高きかのひとではなく、唯一瞬だけ私は主従たる身を忘れた。
甘美な蜜に酔いしれるように、いつまでもその唇を味わっていたかった。
だが、人目に触れるわけにはいかない。
私は未練を感じながらも、唇を離した]
神父様、どこへ行っちゃったのだろう。
やっぱり教会の中かのかな…通してくれないって事は、何かあったのんだわきっと。セシリアお姉ちゃんか誰か、人狼がいて…
[ウェンディは呟きながら、教会を後にした。]
お前が化け物だということはよくわかった。
これからたっぷり、仲間を吐かせてやる。
[一瞬の思いから意識を逸らすように、憎悪と怒気を込めてその言葉を目の前の娘に叩きつける。
ギリギリと鎖を絞った。]
[揺れるやわらかな髪。
彼女の心臓が早鐘の様に打ち、浅い呼吸に胸が上下する。
それでも、目の前の男から目を逸らす事は無い──。]
[重なり合ったくちびるのすきまから、血まじりの唾液が滴る。
くちびるが離れる瞬間、
不満を漏らすような鼻にかかった、はしたない声が漏れた。]
[檻に己の躰によって押しつけられたセシリアの躰。スカートはたくしあがり、象牙のように真っ白なしなやかな脚が宙でゆらゆらと揺れていた。
彼女の躰に触れていた己は、躰の芯で強い熱を感じていた。]
[更に引き絞られる鎖。
手首が引き千切れそうになる。]
──…吐くことなど、もう、何も無いッ。
と言うのに…ん…──。
やりたければ、好きにすればい…、
[再び、セシリアの両手両足に聖銀の枷をかける。檻の床に横たえられた彼女の両腕は引き上げられ、格子に鎖で結びつけられた。
クインジーは眼窩から滴る血を拭うことなく、悪魔のように傲然と足下の少女を*見下ろしている。*]
[肌に触れているそれ]
[滾るようなパトスに] [そのまま崩れ落ちそうになる]
──…ぁあ。 だ、め。
駄目よ──アストール…。
[──…男を突き飛ばそうと、崩れ落ちそうに力の入らない躯を震わせた、その瞬間──。
聖銀の枷で、両手と両脚を拘束されてしまう。
無防備に両手をあげた姿勢で、彼を仰ぎ見る──。
彼の血が、頬に、くちびるに滴る。
背を反らしながら、起き上がろうと片膝を曲げた、彼女の脚が*震えた*。]
エロイーズさま――
[私は身を屈め、足の甲に口づける。
引き締まったふくらはぎを辿り、指先が柔らかな太股に触れる。
その肌が一瞬、指先で震えた]
[この場所が人目に晒されていることは己の自制にとって望ましいことであったろうが、同時に躰の奥底から湧き上がる渇望に、そのことがひどく呪わしくさえあった。
我知らぬ何処かへ己を運び去りそうになる衝動を感じながら、想いを込めて主を見つめる。
小雨に煙る周囲の風景も、そこで起きている騒動も遠く――
ただかけがえのないかのひとのそばにいる幸福だけを*感じていた*。]
「チッ」
[遠くから、帽子を引き下げ舌打ちをするグレン。傍らには、麻袋がある。]
「あの男――何時までああやっている気だ。」
[苛々とした調子だ。]
「まあいいだろう。これであの男が何であるかも分かる筈だ。」
[詰め所から持ってきた檻の鍵を手に、グレンは合図をする。麻袋を数人で抱えて、檻の傍へと歩み寄った。]
「追加だ――。」
[グレンは無表情に程近い表情で、瞬きを一度し、クインジーに告げた。有無を言わさず(尤もクインジーが何を言おうともそうしただろうが)、檻の鍵を開け、麻袋から叩き出すようにネリーを転がした。
鬱血した身体。拷問や尋問などせずとも、既にもう恐らくは―――― 弱々しい吐息。ネリーの腹を蹴り上げてセシリアにぶつけた。
口元に付着しているものを見ると、あれから手酷く殴られ、血以外のものも吐いたのだろう。]
「――期待して見ている。」
[グレンは、クインジーを下から覗き込むようにして告げ、再度、*檻は閉じられた*――。]
―檻―
[檻に、疵だらけになった少女が投げ入れられた。あまりに無惨な姿に、クインジーは一瞬それが誰かわからなかった。]
ネリー……か?
[貌をしかめる。穿たれた左の眼窩がズキズキと熱を帯びていた。剣呑な眼差しで見上げる男がいる。農夫の男だ。いや――それはセシリアの尋問中ナイフを投げ入れた男としてクインジーには印象に残っていた。
彼が人狼を憎むのは故なしではなかった。彼の兄は自警団に属し、セシリアの捕縛にあたり重傷を負ったからだ。]
「――期待して見ている」
[何を期待するというのか。周囲に集まった村人が、「ネリーを喰わせろ」と叫んでいた。
――嗚呼……
ネリーもまた村人たちに疑われ、最早助かるすべなどないのだ。]
[クインジーはセシリアに首輪をし、鎖を繋ぐ。片手に鎖を持つと、手を檻の格子に縛めている鎖を解いた。
セシリアは四肢の自由を得た。
もっとも、首輪の鎖によってクインジーに束縛されてはいたが。]
さァ。皆さん。
ご覧あれ。
これから――
[これから、なんだ?
「少女の踊り食いが始まります。皆さんに可愛がられすぎて、少々活きが悪くなっておりますが――」
酷く趣味の悪いことだ――と吐き気を覚える。凄惨な拷問は幾度も見てきた。だが、こうした“見せ物”を行ったことがあっただろうか。
だが、男は結局それを命じることになる。
その貌からは表情が*消えていた*。]
あァ………あァ………
人間が……憎い………!
憎くて、たまんねェ………
オレをボロボロにし、てめぇが満足すンのに、オレを狼っ子に食わせてよォ………
この闇の底から、おめえたちをよォ………
恨んで、呪って、地獄の苦しみを味わわせて………
―――殺してやる―――ッ!
[闇の底で、響く―――*]
[いつもの、忠誠を捧げる足元への口づけと同じ場所。
──彼のくちびるが触れただけで、目蓋のうらが、心臓が、つま先が、熱くてたまらない。彼の指先が肌をなぞり、のぼってくる。]
[彼女を見つめる] [眼差し]
[主君としては、あるまじき][あられもない]
[言葉が] [胸にこみあげ、喉元を競り上がっている。]
────……ッ。
[その衝動をこらえるように、
──彼女はみずからの*くちびるに深く牙を立てた*。]
お尋ね者 クインジーは、ちんぴら ノーマン を投票先に選びました。
――自宅近く――
[ウェンディは教会から自宅に戻った。両親に服を汚した事を咎められたが、本人にとってそのような事は大事の前の小事に過ぎなかった。
家族の洗礼が終わった後、彼女は手に入れた針を眺めたりしていた。近くの小さな木に押しつけたりしてその強度を確かめていたが、おそらくこれは聖銀で間違いないであろう、と確信した。]
これをセシリアお姉ちゃんに使ったらどうなるのかな…もっと、もっと痛がるかな…
[明らかにこの針もセシリアも玩具のような視点になっている。]
そう言えばネリーお姉ちゃんの言う、ずんもんを今頃ばったばったとやってるのかしら。お役人さんがやってるのって怖そうで、あまり見たくもないな…
[と言いつつも、檻へ行くか悩んでいるのだった。]
資産家 ジェーンは、逃亡者 カミーラ を投票先に選びました。
――――――――――
主に婚約者が決まった、と耳にした時のアストールの狼狽えようは傍目で見て滑稽な程だった。
今は鉄面皮の彼奴も、その頃は多少は直情で純朴なところがあったようである。
それもまた、致し方なかろうとは思う。アストールは幼き頃より主の従卒として仕え、離別の日が来ようなどと、想像だにしていなかったからだ。
その城館では、幾人かの直参の騎士を抱えていた。
一族は男子に恵まれず、女子たる主が騎士たちの盟主となった。
我が主のことを斯く云うも面映ゆいことだが、主は聡明にして徳望高く、彼女を押し頂く騎士団の絆は強固であった。
アストールはそこでの靖寧なる福祚になんら変化を求めてはいなかったのだろう。
否。食も進まず、眠りにつけぬ日々が続き、時折物憂げに嘆息する様を見るに、それとはまた異なった情意があったやも知れぬ。だがそれは、禽獣たる己の預かり知らぬところである。
ところが、運命の変転は思ってもみないかたちで訪れた。
主が「神の声」を伝え――
そのことはかのお方を王位継承の紛擾、教会の権力闘争の渦中に呑み込んでいくことになるのだった。
――――――
――――――
衒学的な言葉を用い、様々な神学のレトリックを駆使する裁判官たちの巧妙な質問を、主は思慮深くすり抜けた。
三人の並立する教皇に関する質問
両刀論法
予備審理を経て、普通審理、
七十以上もの訴因――
聖堂参事会の審議
――罠
――――――
――――――――――
拷問室での拷問を一部始終見届けさせられ、
アストールの世界は瓦解した。
そして今は
――檻
――――――
[かつてはただ呪わしく憎悪の根源であった其処が、今は主と逢うことのできるただ一つの場所だった。
私は鎖を手繰り、かのひとを抱き寄せる。
僅かな時、触れた衣の下の熱い躰を感じていた。]
――――――――――
霧のような雨の中、予は、小さな少女――彼女はウェンディと呼ばれていただろうか――の家の上を過ぎゆき、遠い木立の向こうへと飛翔していた。
茅葺き屋根の石造りの家の敷地から、くぐもった唸りが聞こえてきた。それはどうやら、澱んだ喚き声だった。
――――――
「おばさん、た、た、たぁすぅけてぇ……。」
穴の中で藻掻きながら、ミッキーは縋るように、見下ろす女に助けを求め続けていた。目の前の女が、かつて自分が怪我をさせた相手だという類のことは、都合良く忘れられる性分だった。
冷ややかな眼差しに、彼の胸の中で怒りが燻り始める。
「ま、魔女の親は魔女なのかよぉ!」
――魔女。
セシリアはかつて、自分の心を無惨に引き裂いたのだ。
「ミッキーって……カナブンみたいな臭いがする」
セシリアはそう言って、近寄った自分から一歩下がったのだった。鼻の上に一瞬だが皺をよせて。
ミッキーの仄かな恋情はそれで、砂の楼閣が波に洗われるようにあっけなく瓦解した。
或いはそれはただ、カナブンを飼っているかと聞かれただけだったのかもしれない。
己を恥じるところの多かった彼は、そうした言葉を善意的に取り難い性質だった。
それは三年ほど前のことであり、セシリアに狼が憑くより以前の出来事だった。
“人狼”の、人を喰い成り代わる性質が原罪であるならば、与り知らぬところで累卵の危険を得てしまうことはその代償であるのかもしれなかった。
雨が上がった頃、息子の姿が見られないと大騒ぎしだした粉屋の女将が、アーチボルド家に血相を変えて駆けつけることになる。
――――――――――
――――――――――――
雨がやんだ檻の周囲は興奮した人々に囲繞され、ごったがえしていた。
その中に、それまでの操行とは打って変わった勤勉さで日参していたミッキーの姿が見あたらないことに、クインジーは気づいていた。
クインジーはふと、ミッキーに感じる感情は一種同族嫌悪に近いのであろうか、と感じた。
教会の彌撒に訪れる人々の中で、いつもいち早くセシリアの姿が目に入った。彼女は慥かに一際目立つ少女だった。
玲瓏な白蝋の如き肌に淡紅の花片。繊細な輪郭を、柔らかく不揃いな髪が縁取っている。すっきりと尖った顎。
衣服は常に清潔に保たれ、白いリネンの布地は月明かりのように微光を帯びていた。
_________________
[彼女には複数の噂が有った。]
[13番目の夜に予言を聞いた。]
[聖女]
[次々に変わった婚約者3人][聖職者]
[騎士団の全員と関係があった][淫婦][魔女]
[予言だけではなく天地異変を引き起こす][悪魔憑き]
[XIII]
[記録には、彼女は新月の夜に生き血を飲み、満月の夜に食人を行った。身体には人ならざる再生能力があったと言う──。]
端正な相貌に怜悧な眼差し。
その周囲では時が銀砂となって零れ、噪音は薄氷となって凝った。
クインジーはその浄妙な麗しさの中に、哀しみのような胸苦しさを感じるのだった。それは硬質であるが故に砕けやすく、いつか喪われゆくことを運命づけられた存在のように思えた。
氷雪に閉ざされた湖の底に、美の欠片が音もなく折り重なってゆく――
―檻―
[そのように感じていたセシリアがネリーの肉を引き裂き、鮮血に手も面も染めながらむしゃぶりつく様は、現実から乖離した出来事のようだった。
優美な曲線を描く繊細な顎の輪郭からは、到底大きな肉の咀嚼に耐えるようには思えなかった。]
『人狼――』
[接することができたのは僅かな間だったが、純朴なネリーに好意を感じていただけにそのあまりに無惨な最後を見届けるのは耐えがたいことだった。
檻に投げ込まれた時には既に変わり果てた姿だったが――
クインジーは、村人の澱み溜まった鬱憤はそうした弱く貶めやすい者へ容易に叩きつけられるのだと改めて実感していた。]
[男が彼女を抱きかかえる様にして、押さえている。
拘束された両腕を必死で引寄せ、交差させ、泣き濡れたその瞳の内側の表情を、目の前の男に見えない様に隠そうとする彼女。
男の肝臓を潰す位置を蹴り上げようとして、中空で制止してしまった右脚。つま先の震え。]
[その光景は、傍目には激しい尋問風景に見えていただろう。]
[また実際にその様な行為が行われていたにも関わらず。
けれども皮肉な事に──彼女を汚辱の底に突き落とした拷問行為の反復が、被虐のスティグマを確認する行為が、今、二人の精神をふかくかたく結びつける役割を果たしていた。]
──檻──
[ネリーの人生が終った瞬間は、実にあっけなかった。
クインジーがセシリアの鎖を繋ぎ替える間に、どうにか意識を取り戻し、14歳にしても痩せ過ぎの棒の様な足で、檻の端に後じさったものの──。
田舎訛りの酷い声で、制止の声をあげる事も出来ず。
ヒュゥと言う音と共にセシリアに喉笛を噛み切られ、恐怖に目を見開いたまま、檻の床の──ネリー自身が怯えながら取り替えたあの藁の上に倒れた。
歓声と共に藁が真紅に染まり──*暗転*。]
[其れは、果たして「ネリー」か否か――
闇の片隅で、黒き影が揺れている。
咆哮、断末魔、或いは嘆きの声か――
黒き影からは、もはや人間か獣かすら区別のつかぬ声が、発せられていた――]
[――ところで。
この場所は、天国か、地獄か。
天国に、黒き影と成りし野獣は居るか?
地獄に、罪無き者の嘆きの声は響くか?
では――ここは、何処なのだろうか。]
[―――ギョロリ。
野獣の目が、大きく開く。
目の前には、銀色の鎖と枷で拘束された少女の姿。
そして――ただの肉と骨と化した、己の身体。]
―聖銀の、檻の前にて―
―アーチボルト家―
[ジェーンは、セシリアが大切にしていた本を手にし、中身を開く事なく眺めていた。もう一冊は手記――。開かれる事なく、傍らの机の上に置かれている。]
[かつての日々――何かが奪われていく事があったとしても、それに怯える事があったとしても、それでも――穏やかだった日々。
遠い過去となってしまったソレらに、
想いを馳せている。]
―檻の前―
[檻の扉には鍵がかかっているので、助けたくても助けることができない。]
(このままでは、先程の二の舞を踏んでしまうのか…!?いいや…そんなことは、もうごめんだ!!)
[カミーラはふと、檻の周辺を見渡す。鍵でも探しているのだろうか。だが鍵は、見つからない。]
―檻の前―
[詰め所から一人の男が出てきて、カミーラに問いかける。その手には鍵――入りたいなら、入るかと促すかのように。]
[周囲は喧噪に包まれていた。]
[ネリーが絶命するまでは、ネリーの事を人狼だと叫ぶ声。][人狼に人狼を喰わせろと言う声。][セシリアが躊躇いもなく殺したからには、人間だろうと言う声。]
[絶命したばかりのネリーに覆い被さり、
セシリアは、まずは爪でネリーの衣服を切り裂いた。
一目で貧しさの伺える服装。
汚臭の染み付いた少女の体臭を嗅ぎ、露出した未発達なその胸の産毛に頬を寄せる。]
[セシリアはいぶかしげな顔で、檻の向う側のカミーラを見た。]
──もう、ネリーは絶命している。
人間が喰われる光景がいやだとでも?
[詰め所から出てきた一人の男が、檻へ近づく。男の手には、鍵が握られているようだ。
鍵を持った男が、カミーラに問いかける。]
「檻の中に、入るのか…?」
ああ。
[カミーラは、肯定の返事をする。]
オレの身体に何すンだよ……
死んじまった身体に、さらにひでェことする気かェ………?
[セシリアが、己の死体の衣服を破る様子を、嫌悪に満ちた目で見つめている。]
[眼前の光景に、しばし声が出なかった。
一瞬間を置いて、やっと言葉が絞り出される]
……信じられないな…
[一歩近づくと鎖を引き、彼女の顔を上げさせる。
そこに浮かぶ表情を探るように。
だが、なにを問うべきか、言葉が出なかった。
その時、一人の女が檻の中に入ってきた。
カミーラだ。
念のため、セシリアの手枷と足枷に元のように鎖を施し、やや自由を妨げた。]
[男は、檻を開錠し、カミーラが入っていくのを眺める。]
「気をつけてな。」
[どういう意味で言ったものだったのか
知る者はいない。]
[嫌悪の念が黒き影と化す。其れはネリーの身体を包み込むように、竜巻のごとく逆巻き――天を突く。
人間であろうが、人狼であろうが、生者にはおそらく見えぬであろう――黒き「影」として。]
[痣、血の塊、身体の一部の欠損。]
[ネリーは、其れを冷ややかな目で見つめる。]
[セシリアは、後ろから引かれる首輪と鎖が邪魔なのか、獣の様に四つん這いの姿勢。
ネリーの薄い胸から痩せた腹を舐めた後、深く鋭利な爪をネリーに差し込み、器用に手慣れた動作で心臓だけを取り出す。その動作から、今までどれほど多くの人間を彼女が手に掛けて来たのかが知れた。
取り出したネリーの心臓を。
引き摺る様にして口元へ運ぶ。
そうやって、気に入った臓腑だけを食べる動作を、セシリアは繰り返した。]
「気をつけてな。」
ああ、充分気をつけるよ。
[こうして男から扉を開錠してもらい、カミーラは檻の中へ入った。
檻の中には…例の化け物の他に、
負傷したクインジーと無残な姿になったネリーがいた。]
『……ああ。そういえば――』
[セシリアが豹変する刹那、人狼はカミーラだと云ったことを思い出した。
本当なんだろうか。]
――カミーラ、お前が人狼なんだってな。
セシリアが云ってたぜ。
[どこか揶揄するようにその言葉は発せられたが、クインジーの右目は笑ってはいなかった。
二人の様子に、どこか妙な仕草や仲間らしき気配が見られないか、観察している]
………おめさんに、何ができる?
オレが殺されかかってる時はなぁんにもできなかったくせによォ、オレが死んだら「助けてやる」のかィ。
……悪ィ冗談だなァ。
[影はカミーラの背を見て、クッと喉の奥で嘲笑う。]
死んでしまえ。
おめえも、おめえも、それから……おめえもだ。
みぃんな、みぃんな、死んでしまえばいい。
殺し合え。
食い殺せ。
憎め。
……そこに転がってるオレん身体みたいに、ボロボロになっちまえ……。
―アーチボルト家―
[ドン―― ドンドンドン! ドン!
大きな音。
外から扉を叩く音。
粉屋の女将の声――。
他にも数人か――殺意を抱くのか――
魔女かもしれないという恐れよりも
怒りと憎しみで心を塗り潰したもの達が居るようだ。
ジェーンは小指が欠けた左手を見る。
今は血色悪く弛んでいるが、
昔はセシリアと同じく、華奢で白い指だった。]
[書き終えたばかりの手紙を、ヴィンセントは従者に托した。
近隣の町の有力市民である知人に宛てたものである。]
そうだ。
判事の注意を早くこの村に引きつける必要があるんだ。
まともな返事がもらえるまで粘れ。
どうしても無理なら、なるべく多勢の人手と馬車を借りて戻って来るように。
私はここに残る。
[不安そうな相手に、とにかく急げともう一度言って、ヴィンセントは詰め所に向かった。]
[入り口付近まで退いていくクインジーの言葉を聞いて、カミーラはナイフを持った手を強く握り締める。表情は変わらずに。セシリアの方へ視線を移し、静かに近づく。]
この化け物めが…でたらめを言うな!
[カミーラはそう言うと、持っていたナイフをセシリアに向けて強く振り下ろす!]
[主が僕に鎖を引かれ、苦しげに顔を上げると言うのは倒錯的な光景だった。
──彼が。
彼女がネリーを喰らい、咀嚼して嚥下する、全てのさまを見たがっている事は、明確だった。恍惚としたその視線を受け、彼女は一瞬、目を閉じた。]
文学少女 セシリアは、双子 ウェンディ を能力(襲う)の対象に選びました。
[馬の上から、何度か主人を振り返る従者の表情には、不安よりも安堵が混じっていたかもしれない。
こんな場所に、義憤だか私情だか知らないが、狂った村の雰囲気が理解できていない主人と一緒に残ったら、どんな目に会うか知れたものではない。
ヴィンセントの後姿が見えなくなると、彼は馬を急がせ、逃げるようにその村を去って行った。]
[肩口にナイフが突き刺さる。
幾人もの人間を殺して来たのか、血錆びたその刃は切れ味そのものよりも、染み付いた怨念で、セシリアに苦痛を与えた。
傷口に黒く濁った染みが出来る。]
──お前の村が滅ぼされた時。
お前自身も、失われてしまったのだろう…。
[少女の姿をした悪魔による惑わしの言葉が、カミーラを襲う。
だが、それに負けじとカミーラは目の前の化け物と戦うのであった。]
やはりそういうことか。
真実を覆い隠し、まやかしをばら撒くとはな…!
私は今、この場で生きている!
この村を人狼から救い、そして貴様らのような邪悪なる者どもを撃ち滅ぼすまでは、
私は死ぬわけには…いかない!
[再びナイフによる斬撃を繰り出す。]
[寂れた村だった。彼女が足を踏み入れた時点で、すでに滅びの気配が漂っていた様に思う。][曇天][くすんだ空気]
[当時の記憶はやや曖昧なままだ。]
[この村に辿り着き、彼女がセシリアに乗り移る以前の記憶。]
[全てを失った──黒衣の女。]
[久しぶりの食事で満ちた彼女の躯は、枷と鎖で拘束されているものの、身体の内側をあたたかいものが巡り心地良かった。
淡い笑みを浮かべて、今度はナイフを避けた。
ナイフが床に当り、硬質な音を立てた。]
──…私のように拘束はされていないのだから、ナイフよりも、爪や牙を使えばいい…──。すでに人狼と化しているならば、誰に教えられなくても、使えるはず。
医師 ヴィンセントは、資産家 ジェーン を投票先に選びました。
[──それにしても、魔女として、火刑に処されたはずのエロイーズが、何故甦る事が出来たのか。
何処をどのように辿り。
どうやって、カミーラの村を滅ぼす事に加担し、そしてこの村の森に辿り着いたのか。]
文学少女 セシリアは、医師 ヴィンセント を能力(襲う)の対象に選びました。
カミーラ。
私は“今日”、カミーラが人狼か否かをしっかりと見定めることにしている。
故におぬしを手にかけることはないのだが。
[この時、カミーラの中で何かがうごめき始めた。]
…くっ、何か知らないが、
急に…血が、肉が…欲しくなってきやがった…!
誰か…誰か私の飢えを…
…私の飢えを、満たしてくれ…!
[人狼としての本能が、カミーラに「食」を促している。]
[彼女の中で随分と失われつつある、セシリアとしての意識。
ふと、出会った頃のジェーンの事を、ヴィンセントを思い出した。
そして、檻の前での2人との別離。
ジェーンの尋問の為に詰め所へ向かう彼等。
セシリアの檻の中で、セシリアとジェーンを明瞭に区分していると、ヴィンセントを挑発したクインジーの言葉を。]
────……。
[何故か、ジェーンと共に生き延びて欲しいと願っていたはずの、ヴィンセントを、自らの爪で裂き殺す光景が目に浮かんだ──。]
お尋ね者 クインジーは、医師 ヴィンセント を能力(襲う)の対象に選びました。
お尋ね者 クインジーは、おまかせ を能力(襲う)の対象に選びました。
[彼女の心に浮かんだ光景が、口にせずとも傍らの従僕には理解出来たのだろうか。瞬きをした。]
私はカミーラを殺そうと考えている。
[攻撃を避けられて、その拍子にナイフを落としてしまう。
その後、化け物がカミーラに向けて再び惑わしの言葉を投げかける。]
…だが断る!
そんな汚らわしい行為なんぞ、
まっぴらごめんだ!
[その言葉を合図にカミーラは、攻撃を避けられた時に落とした愛用のナイフを素早く拾おうとした。]
[主の意志は定かだった。
思っていた通りだ。
だが、問題は現在異端審問官たる己が現時点でそうすることは己自身への欺瞞となることであった。]
逃亡者 カミーラは、医師 ヴィンセント を能力(襲う)の対象に選びました。
──…本当に?
汚らしいか。
[近くに転がったままのネリーの遺体に視線。]
お前は、檻の向う側で随分とネリーと親しそうだった。
本当は喰らいたかったのでは?
このナイフも随分と穢れている。
[カミーラが拾う前に、手枷をナイフに当てる。]
悪魔学者ニコラ・レミは荒天術について書いている。
魔女は池の水を杖で打つことによって水を湧き上がらせて雲を作り、望みのままに稲妻や雹や、雨を作り出すことができる――と。
荒天術もまた、魔女の力として恐れられたものの一つであった。
一方、モリトールは一四八九年の著書、『魔女論=De Lamiis』で、嵐についてこう書いている。
「嵐、雹、もしくは毒霧などは邪悪な女の仕業ではない。
それは我々を罰するためか、もしくは人間の理解を絶した神の恩寵の働きによって、何らかの点で我々が利益を得られるようにするためかもしれない」
――その孰れであっただろうか。
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