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ちんぴら ノーマン は、文学少女 セシリア を占った。
次の日の朝、悪戯好き イリス が無残な姿で発見された。
……そして、その日、村には新たなルールが付け加えられた。
見分けの付かない人狼を排するため、1日1人ずつ疑わしい者を処刑する。誰を処刑するかは全員の投票によって決める……
無辜の者も犠牲になるが、やむを得ない……
そして、人間と人狼の暗く静かな戦いが始まった。
現在の生存者は、双子 ウェンディ、ちんぴら ノーマン、牧師 ルーサー、見習いメイド ネリー、逃亡者 カミーラ、文学少女 セシリア、資産家 ジェーン、お尋ね者 クインジー、医師 ヴィンセントの9名。
ちんぴら ノーマンは、見習いメイド ネリー を能力(占う)の対象に選びました。
――檻の側――
[ウェンディは引き続きネリーと会話を続けている。]
そうなんだ。セシリアお姉ちゃん、これからどうなっちゃうのだろう。
大丈夫、たぶんちゃんと動けないようにしていれば、襲われたりしないんじゃないかしら?
本当に、本当にぎゅうぎゅうにしないと駄目だけれど。
…ねえ、ネリーお姉ちゃん。
私、誰もいない時にセシリアお姉ちゃんに少し、ずんもんってのをしてみたいと思ってるの…手伝ってくれないかしら。
[ひとりでは出来ない事を、ネリーに手伝ってほしい、とせがむように。]
―檻―
よせ!!
[クインジーは短い叫びと共に、カミーラの肘を掴んだ。
ナイフの一閃は肘を掴んだことでブレ、彼女の二の腕に一筋の疵を刻む。鮮血が散った。
尚も斬りかかる刃先はセシリアの枷にあたり火花を散らす。]
よせと云っている!
[クインジーは強い力でカミーラの腕を後ろ側に向けた。]
い……嫌…ぁ…げっ……
[カミーラの凶行を目にし、ジェーンは瞬間、自分が何をしようとしていたのかも忘れて、セシリアの元へ行こうとし――結果、寝台から落ちて転がった。]
[支えようとする手を振り払い、動かぬ体を這わせ――]
セシリァアアアアア――――!
[嘆き。]
――詰め所前――
[早朝に訪れた時には閑散としていた広場に、昨日と同じ位の人々が集まっている。
取り囲む村人たちの会話にまぎれてよく聞こえないが、中央では誰かが話をしているのだろう。]
公開尋問を始めてしまったのか?
[人の間を縫って、檻が見える位置まで進む。]
オレに……かェ?
オレになァにができっか、わかんねェけどよ……
[――ウェンディへの返答が、途切れた。]
……………っ!?
[一瞬のざわめきの向こうで、いつの間にか檻の中に入り込んでいたカミーラが――]
なっ………なんだァ、あン人は!?
いきなり狼っ子斬りつけたぞ!?
殺しちまったらダメだって、村長さまァがおっしゃってたべよ!!
[――セシリアにナイフを振りかざし、ズタズタに斬りつけていた。]
セシリアお姉ちゃん…だめよ!
[突如カミーラが我関せず焉と檻に入って手をあげた事にウェンディは驚愕した。
ずんもん――尋問の持つ性質そのものを知った事というのもあったが、神父様やクインジーの妨げを行ってはならない。という気持ちもあったからだ。]
―村長宅/ノーマンの部屋―
[机の上に、村の見取り図を広げる。
手には振り子型の聖銀を持っている。]
よっしゃ、後は兄弟を待つばかりだ。
[数人の自警団員が同席している。
使用人の一人に命じる。]
おい、兄弟が訪ねてきたら俺の部屋まで通してくれや。
こっちは準備できてるから、すぐ始められるって。
なにがあったかは知らんが、ともかく落ち着け――
[クインジーはカミーラの腕を後ろ側にねじり上げると、ナイフを奪った。]
――まったく。
殺しちまっちゃァ残りの人狼を吐かせられねェだろう……
[ジェーンが寝台から落ちる様子が目に入った。]
誰か、ジェーンを助け起こしてくれ。
話の途中だ。
[クインジーに肘をつかまれる。]
はなせ!はなせって言ってるだろうがぁッ!
…ぐあっ…!!
[それにより、カミーラは空振りをしてしまい二の腕に切り傷ができた。自分自身の鮮血も舞っていく。その後、続けて腕を取り押さえられる。]
ちんぴら ノーマンが「時間を進める」を選択しました
[鎖で椅子に拘束された「セシリア」と、檻の中に据えられた机。
クインジーはあくまで法に則った正式な手順で裁判を行うつもりのようだ。
修道院本院からは、大陸から渡って来た元騎士であるとは聞かされていたが、ただの騎士でないことは明白だ。
──司教座のある町へ出かけた帰りに本院に立ち寄った際に、彼に同情的な兄弟がちらりと噂話を耳打ちしてくれたのだが。まさか……
と思索に沈んでいたせいか、反応が遅れた。
クインジーの声の調子が変わったと気付いた時にはもう、旅人の女が「セシリア」に切りつけていた。
悲鳴を上げるジェーンと慌てて取り押さえるクインジーに、ハッと我に返る。]
資産家 ジェーンは、見習いメイド ネリー を投票先に選びました。
『あまり傷つけすぎては――と思わずにはいられないのは未だ甘さが抜けきらぬからかもしれぬな。
カミーラの行動はほどほどには村人の印象に残ったであろうか』
[それが必要なことであることは自覚しているとはいえ、銀器だけにヒヤヒヤする]
[クインジーを後ろ手に押さえ付けたのを確認すると、転がり落ちたジェーンへと向かう。]
落ち着きなさい。もうクインジーが取り押さえました。
[宥めるように声を掛けながら、ざっと傷の具合を確める。]
[とす……と一歩だけ、反射的に歩みを進めたところで、ネリーの動きが止まる。]
クインジーさんてぇお方が、止めてくだすったわァ。
……………ふぅ、っ。
どうなっかと思ったがよォ。
あの狼っ子が死ンじまったらよ、だぁれも「ずんもん」できなくなっちまうべよ……
[カミーラは、持っていた愛用のナイフをクインジーに没収された。]
あぁ…ああ…ッ…!!
[セシリアに対する制裁は、ひとまずこれで終わった。自分の二の腕にある傷から血があふれている。
そしてカミーラは、色々なショックのあまりに、
その場で*気を失った。*]
資産家 ジェーンは、逃亡者 カミーラ を投票先に選びました。
よかった…私もどうなるかと思ったわ。びっくりしちゃった。
セシリアお姉ちゃん、大丈夫かしら…ネリーちゃん、手当てとかしてるの?
[ウェンディはネリーにしがみつくように問うた。]
……なんだべ、この娘っ子はよ。
オレにあの娘止めらっはずねェべよ……
困ったなァ………
まあったく、金持ちの人間は、貧乏人に無茶言やァ何でもしてくれるモンだと思ってやがる……
[誰にも気付かれぬように、小さく溜め息をついた。]
──詰め所前 檻──
[カミーラは随分と長い間、檻の前で硬直していた。
檻の周囲に村人が増え始め、セシリアの瞳の色は戻り、表情から人とは言い難い威圧感は消えた。
(中略)
読み上げられる口上。
異端尋問がはじまろうとしてる。
──両手を台の上に揃えた姿勢でセシリアは座らされている。]
カミーラ!?
カミーラ!
おい……
[卒倒したカミーラの意志を改める。]
やれやれ……
こいつになにがあったのか――
[手からもぎ取ったナイフを彼女の鞄にしまう。]
えーっと、ネリー。
少しばかり、こいつの様子を見ておいてもらえねぇか?
これが終わったら俺が宿坊に担いで行くから。
[檻に近寄ってみると、その中で男女が争っているのが見えた。
セシリアを傷つけようとする女を、教会の男が止めているようだ。]
……何という事を。
だが……正式な裁判となれば、すぐに酷い拷問はしないはずだ。
急がなくては!
[ヴィンセントは、事情を了解しているであろう副団長を探した。
だが彼がようやくアーヴァインの横たえられている部屋に案内された時には、その証言を得る希望は失われていた。
ヴィンセントはアーヴァインの死亡を確認する羽目になったのだ。]
ああ。手当てさ、やらねェとならんべよ。
でもオレにできんのは、せいぜい傷口に布巻く……血ィ止めることぐれェだ。
なあ、お医者さまァは、ここにいっか?
[ウェンディにつかまれたまま、周囲を見回している。]
[打ち身は多少増えたようだが、幸いにも骨は折れていない。
ただ衰弱した身にこの衝撃は堪えただろう。今は驚愕と心労で苦痛を感じていなくても。
だが、この傷痕も弱った身体も見せかけだけの偽りでないとは神ならぬ身に分かるだろうか?
ルーサーはジェーンの身体を抱き起こし、何とか寝台へと乗せた。]
[振り返り、やれやれ…と首を振る。]
また厄介なことをしでかしてくれたものだ。
傷の手当ては私がしましょう。
詰め所に包帯と傷薬の予備を置いてあります。それを誰か取ってきてくれませんか。
[クインジーの言葉に、こくりと頷いた。]
……わかった。そんくらいならオレにもできる。
[檻に入り、カミーラの身体を預かる。自分よりも背が高く、筋肉がついた女の身体が、ネリーの痩せこけた身体にずしりとのしかかる。]
(重………っ)
[引き摺るように、カミーラの身体を檻の外へと出した。]
[担架に横たわり運ばれたジェーン。
変わらぬ証言をはじめるジェーンに、セシリアの貌は「セシリア」と変わらない、複雑な痛みを感じた様な表情に変化した。カミーラに向けた表情とは異なる、ルーサーが「人を欺く為に悪魔はどの様な姿をも取る」──と言った。]
すぐにセシリアお姉ちゃんの所へ行きたいけど…大人の人がたくさん混じってケンカみたいになっちゃってるから、今はあんまり行きたくないな…行っても怒られて終わり。になちゃいそうだもの。
呼ばれたら行けると思うけど…ずんもんの最中だし、ここで見ていたほうがいいのかも。
ジェーン・アーチボルド。
……私は。
彼女には、真実──感謝している。
彼女は、脆い、脆い人間に過ぎないと言うのに、眼窩を抉られ、棒で打ち据えられ──平凡な母親が味わうべきでは無い絶望の中、それでも、セシリアを信じているのだと言う。
これから先、私が彼女に憎まれるかもしれない事を思うと、魂が震える。深い、深い、罪の意識を、セシリアを殺した時からずっと感じ続けている。
今、彼女に対しては、どうして良いのか分からない。
お前に彼女を守ってやって欲しいのか、それともいっそ生命を奪い去ってしまって欲しいのか。
[これから尋問官を演じようとする従僕に、必要以上に声を掛けるべきでは無いと沈黙。]
医者……
先刻、檻のそばにギャドスン医師が居たはずだがなあ……
[その姿はどこへ消えたのだろう。
だが、今は起き上がったジェーンの方に意識がとらわれた。]
[ともあれ、セシリアはその瞬間──その間に、カミーラへの注意、正確にはカミーラの持つ武器の──この村にセシリアが来る、以前に滅ぼした場所を想起させるその“臭い”の事を忘れた。
刃物等、この騒ぎの前は誰にも向けられる事などあり得なかった、「セシリア」の貌で、ナイフを振りかざし向かって来るカミーラに怯える。拘束されている為、避けるすべが無い。]
[そういえば、ネリーとカミーラではカミーラの方が体格がよかったことを思いだしていた。]
ああ、すまねえ……
[カミーラの躰の片側に手を携え、わずかなりとも檻の外へ連れ出し安いように計らった。]
よお、その顔は……ついに逝っちまったか、団長?
[振り子を弄りながら。]
じゃあさっそく見せることにするかね。
とりあえずは、あの犬ッころが本当に犬
っちゅうことを証明するものを見つけりゃ
いいってことだろう?
[地図の上に、振り子をかざしながら動かす。]
[カミーラは身体を動かすことが出来ず、意識が朦朧としている。]
…私は、なんて無力なんだろう…。
力が…もっと大きな力が、欲しい!!
もしそれが聖なる力であれば、私は…喜ぶぞぉッ!!
[だが残念なことにカミーラの願いは、かないはしないのであった。]
[目覚めの時間が、
もうそこまで*迫ってきている。*]
[地図を滑る振り子は、左周りに回転している。]
……ここにゃあ何もねえようだ。
[振り子がアーチボルド家のすぐ裏手辺りに
さしかかったとき、振り子が右に回り出す。]
ん……。
[もう一度回転を確かめる。やはり右回り。
そして、粉屋の敷地にも微弱ながら反応。]
……ここだなぁ。オイ!アーチボルド家の裏と
粉屋ぁ掘ってこいや。なんか出たら、詰め所ぉ
持ってけ。俺がいなけりゃ、事情話して誰かに渡せ。
それと、粉屋でなんか出たらあのうすのろ引っ張ってこいや。
[示すと、ヴィンセントに誇らしげな表情。]
あンがとよ、クインジーさまァ。
[カミーラの身体を檻の外へと運び出すと、ウェンディの方をちらりと見る。]
神父さまァのお使いにも行かなきゃなンねぇしなァ……どうすべ。オレが行かなきゃァダメかェ?けンどよ……こンおっきな旅の娘さんの世話もしなくちゃなンねぇし……
娘さんよ。
オレぁ、こン方ァの世話すンの頼まれちまってよォ。悪いけど、神父さまァのお使い、頼まれてくれませんかの……
オレみてェな貧乏人に指図されンのは、気分悪ィかもしれねぇでござェましょうが……どうか、ひとつ。
[主の言葉から、感情の波が伝わってくる]
……お察しします
[私は、ただそれだけ口にした。それ以上に何を語ることができただろう。
願わくば、主と共に無事に――とも思う。それは偽りではない。
だが、私はセシリアに対する村人への心証を僅かなり良くするためにジェーンを利用し、そして主の身を救うためならば何者であれ犠牲とするに躊躇いなかったのだから。]
[クインジーに微かに首を左右に振る。]
――この傷は、皆さんからセシリアを守る為に私が自分でつけた傷……そう言われていますが……違います。
[ジェーンの左目は、群集の中に居るミッキーを見た。]
私の怪我は、告発した女性の息子、皆さんも知っている……ミッキーにつけられました。セシリアに度々、執拗に迫っていた事は、恥ずかしいながら周知の事実……あの日も、ミッキーは敷地内に入り込み、その手には刃物を持っていました……。
実力行使に出ようとしたのでしょう……。
[ウェンディはネリーと共に檻のほうへ向かい、カミーラを見た。ネリーがカミーラの世話をする事になったらしい。さらにネリーに頼まれごとを受ける。]
うん、分かったわ。神父様のお使いね。何をすればいいの?
え?気分悪い?そんなことないわ。貧しいとか私、あんまりわからないけど。ネリーお姉ちゃんだったら何だって引き受けちゃう!
[貴賤の本質を理解してないゆえの笑顔だろうか。]
[怪訝そうにノーマンの手元を覗き込む。]
うん?
たしかに、今振り子がおかしな動きをしたが。
[たしかに、振り子や棒で水脈を探し当てる者がいると、聞いた事はある。
だが、彼が山師でないとしても、これがたしかな技術であるという保障はあるのか?
慎重な表情を作った。]
そうだな。
どんな手がかりが出てくるのか、待ってみよう。
[ウェンディはクインジーのほうを見た。クインジーは私の姿に苦笑している様子にも感じられたが、それなりには信用しているようにも受けた。]
神父様、私が。私が包帯とか取ってきてもいいですか?
[クインジーがジェーンに証言を促すと、それを機に立ち上がってカミーラを抱えたネリーの方へと向かった。
誤って自分で切り裂いた二の腕を取り、傷の深さを見る。]
とりあえず血を止めないと。
[女の破れた袖を小袋から取り出した小さな刃で切り裂き、細長く裂いた布の切れ端で傷口から少し上の腕を縛った。]
ありがとうござェます、娘さん。
神父さまァが、詰所に傷薬やら包帯やらを置いて来ていらしたから、そいつを取ってきてもらえやしませんか。
それから、こン方ァひどい汗かいてらっしゃる。小さい桶にでもいいから、水くんできてもらえませんかェ。重いでしょうから、自警団の方ァに頼んで運んで貰ってくだせェ。
ほんとー……うに、すまねェでござェます、娘さん。
[ネリーは、ウェンディに深々と頭を下げた。]
[横合いから話しかけられ、小さな少女を見た。]
うん?貴方が取ってきてくれるのですか?
[じっとその瞳を見詰め、柔らかい声で話しかける。
では詰め所の兵士に、私から頼まれたと言って、大怪我をした人の居る部屋に案内してもらいなさい。
そこに緑色の軟膏の入った小さな鉢と布束が置いてあります。ひとまとめにしてありますからすぐに分かると思います。
分かりましたか?
[ジェーンの話が始まった。
その内容はアーヴァインの見解とは異なっていた。
群衆の中から、名指しされた件の男が気色ばんだ様子でにじり出てきた。
ミッキーである。]
「なっ! な、なにいうんだ…… いい加減なこというなよぅ
ぼぼ、僕はそんなこと知らないぞう……」
[群衆がざわめいている]
何時の間にか、屋敷内に入り込んでいた彼には本当に驚きました。心臓が止まるかと思いました。――セシリアの腕を掴み、壁に押しつけ、ナイフが見えた瞬間、私は無我夢中でミッキーに体当たりをしました……右腕の傷は、その時に出来たものです。
[乱れた髪の先端を後ろへ。]
もし、セシリアが人狼なのでしたら、それまでも、その時も、ミッキーは無事ではなかったでしょう。
[言い終わり、きっと唇を結んだ。]
へっへっへ……素敵なギフトが出てくると思うぜ。
どぉれ、そのギフトは詰め所に持ってこいと
言ってあるからよ。行ってみっか?
俺らが着くころにゃあ、団長が逝ったこと
知れ渡って騒然としているかもしれねえ。
そういうんまとめるのが、村長の役目だぜ。
[ヴィンセントに促す。もうすでに自分が
村長であるかのような振る舞いを見せる。]
よっしゃ、それじゃあ行こうか。
あ、そうだ。オイ、おまえ。
[残った自警団員に指示を出す。]
もう知ってるとは思うが、念の為俺より先に
行って団長ぉ逝ったこと神父に知らせとけや。
おそらくぁ詰め所の辺りにいると思うぜ。
そこにいなけりゃ、もう知ってるってことで
放っておいて構わねえからよ。
[そう言うと、ヴィンセントを伴って詰め所へ向かう。]
その時のナイフは――ミッキーの愛用のナイフだったように思います……この辺りでは見かけない細工が柄に刻まれていたので恐らく、きっと。
[ウェンディは神父様の言う事を深く心に刻みつけた。
神父様の説法は時折聞く機会はあったが、一般に語りかけるものと子供に語るものはやはり違う。]
はい。分かりました。詰め所に行って、兵士さんに会って、怪我をした人の所へ入れてもらって、緑色の軟骨の入った鉢や布束ですね?大丈夫です。
[ウェンディは軽い足取りへ詰め所の中へ入っていった。]
[ざわめいている村人の中から、声が漏れる]
「あァ……そういやミッキーはよくセシリアにつきまとっていたんじゃねェかぁ?」
「でもあいつ、そんなことする勇気があったっけなあ……」
[しかし、当日確かにミッキーをアーチボルド家周辺で見かけたとの証言者が出た。
ミッキーは突如、自分自身に衆目が集まったことに、動揺しブルブルと震えていた。
その巨体からは粘りっけのある汗がしみ出し、衣服に黒々とした染みを作ってゆく]
「おい、ならナイフを出させてみようぜ。」
「ンな事させてどうなる。見分けがつくとでも?」
「チッ、どっちにしろ――」
[ざわざわと尚村人達は話し合う。]
[ネリーはポケットの中からハンカチ――というより、ボロ布に近いか――を取り出し、地面に横たえたカミーラの額に浮いた汗を拭いている。]
なんだろぅなァ……こンお方は?
この狼っ子をいきなり斬りつけたりしてよ……あぶねェお方だのぅ……
[意識を失ってもなおビリビリと伝わる、その娘の殺気に、ネリーはぶるると震え上がった。]
牧師 ルーサーは、逃亡者 カミーラ を投票先に選びました。
そのナイフはどこにあるだろうか。
[クインジーは証拠物件となるナイフの所在を訊ねた。
それはジェーンが疵を訴え出た折、証拠物として提出されたもので、果たして詰め所にて管理されていた。
アーヴァインはそれがミッキーの所有物であることを知らなかったようである。知っていたなら、或いは処分されていたかもしれない。]
つまりよォ。
狼っ子の話ってェのは、ホントのことってことかェ……?
……こンお方の、あの怖ェ表情……
嘘、じゃねェ………
―檻前―
[そのとき、ノーマンの指示を受け粉屋の
捜査に行っていた自警団員が駆け付ける。]
「ノーマン様は……いらっしゃいませんか?」
[彼が不在なのを知ると、クインジーに
麻袋を手渡す。中には血痕のついた服。
サイズから考えて、ミッキーの物のようだ。]
「ノーマン様の指示で、粉屋を探したところ
床下からこのようなものが。」
[ミッキーはその種の特殊な所有物を披瀝せずにはいられない性質の男だった。それを見たものは幾人かあっただろう。
ナイフが証拠として掲げられた時、聴衆の中からあっとかおお……と小さいながら反応があった。
それがミッキーの所有物であることは、どうやら疑い得ないようであった。]
「ちょ……」
[目を白黒させたミッキーはだが、突如感情を剥き出しにして居直った。]
「そそ、そいつが悪いんだ!」
[ミッキーは檻の中のセシリアを丸い指で指さす]
「せ、せすぃりあがぼくをいつもいやらしいめでみるんだ…… だから、ぼくはいつもちゃんとものをかんがえられなくなるんだ
じゃ、邪魅のちからっていうんだろ……
あ、あいつがまじょの証拠だ……」
[怒声とも同情ともつかぬ声で聴衆は波立った]
――詰め所内――
[ウェンディは単身、詰め所の中へ入った。この1日2日、彼女にとって全てがはじめてでまるで冒険のようだ。中に入ると負傷した兵士達が目につく。
ウェンディは言われた通りに布束などお受け取ると同時に、優しそうな兵士の一人がセシリアについていろいろ教えてくれる。]
えっ――? この人達、みんなセシリアお姉ちゃんがやったの?そんなあ。嘘に決まってるわ。
[半信半疑のまま、ウェンディは檻のほうへ踵を返した。]
「どっちにしろ――狼の母親の言う事じゃアねェか。」
[波立つ中、1人の若者がセシリアとジェーンへ、冷たい憎悪を向けた。その声は、冬の湖のようだった。]
「俺の兄貴は自警団に入っていた。そしてあの女に殺されかけた。――オイ皆!こんな話を信じるのかよォ!?」
[ヒュンと空を切る音。セシリアの腕に鋭い何かの煌きが一直線に吸い込まれていく。]
……わかった。どうやら、その証言は確かなようだ。
[クインジーはジェーンに頷いた。深い溜息を吐きながら、セシリア逮捕のそもそもの切欠であったその血痕に関する記述を横に線を引いて消す。
ミッキーの主張通り、セシリアが邪魅の術を行使したという条項は書き加えるべきなのだろう。法的な手続きに従うなら。クインジーは甚だ気の乗らない様子でその一文を書き加えた。
そこに、粉屋で発見されたという麻袋が届いた。]
……これは……なんの証拠だろうか。
[クインジーは届けにきた自警団員に問いかける]
[粉屋の息子がセシリアに邪まな想いを抱いていたのは村の誰もが知る事実だった。
なかなか興味深い展開になりつつあるようだが、兵士達の傷を見たルーサーにとってはたとえ最初の告発が誣告であろうと、「セシリア」が大の男を何人も殺傷したという事実は揺るがぬものだった。
気を失ったカミーラの傷口を押さえて様子を見ながら、目は檻の中の「セシリア」に*向いていた。*]
―檻前―
[檻前は騒然としている。]
なんだなんだ、どうしたんでぃ?
[人ごみの後ろで、様子を窺うようにしている。
彼の気配に気付いた数人の村人が、
悲鳴のような叫び声をあげた。]
人の顔見るなり悲鳴あげるたぁ失礼じゃあねえか?
──檻 ──
[カミーラは黒い影の様に動いた。
何時の間にか檻に入り込んだ動作から、彼女の村が人狼によって滅ぼされてから、カミーラがどのような生活を送って来たかが伺える。
セシリアの血が檻の中に飛散した。
少女らしく怯えて見えたセシリアの表情は自らの血飛沫の向う側で、また変化する。襲い来るカミーラ──ではなく、その武器が何であるかを見極める様に。]
(──どの様な銀だ。
秘蹟を行われた事のある物質なのか──。
聖性を帯びているか。只の銀か。
──帯びているとすればどの様に?)
…………………。
[カミーラのナイフは、セシリアの頬と耳元を薄く掠りそうになったが、実際は二の腕に一筋の傷がついたのみ。
振り回した刃の所為で、セシリアのやわらかな髪が檻の床にパラパラと散る。
セシリアはまた怯えた様にぎゅっと目を閉じ、高い声で悲鳴を上げる。台座に臥す様にして痛みと言うより殺意を向けられた事に衝撃を受けているかの様に見える。]
[クインジーに問われた自警団員は首を傾げる。]
「さぁ……ノーマン様に言われるままに、
探したところ出てきたものですから私にも。」
[ノーマンは、事情を詳しく説明して
いなかったようだ。]
「あと、敷地内から僅かながらこれが。」
[別の麻袋には、骨の一部のようなものが入っていた。]
…痛──ッく…ァ。
(酷い──…血の匂いが染み付いたナイフだ。)
(拭っても分かる。)
[セシリアは苦痛に身を屈めたままの姿勢で、檻から運び出されるカミーラに言った。]
…ッ…人殺し。
──滅びた村の仇のつもりで、人間を殺してきたんでしょう?
あなたこそ…人殺しじゃない…の?
――檻の前――
神父様。これでいいんですよね?
[ウェンディは神父様に頼まれたものを手渡した。小さな身体なので彼女にとっては少し大がかりな仕事だったかもしれない。そのままカミーラを見る。]
この人…どうしてこんな事を。セシリアお姉ちゃんが嫌いなのかな…
「だからぼくはその日、まじょをつかまえに行ったんだ。
ぼ、ぼくの見る目はただしかったってことさ……
アーヴァインさんやそんちょうがそれをしょ、証明して……くれたじゃないか……」
[ミッキーはさも自分が先見の明があったのだと云わんばかりにそりかえった。
クインジーは怪訝な顔で、自警団員から骨を受け取った。]
えぇ……ありがとう…。
[沢山話したからだろうか、それとも一度寝台から落ちたからだろうか。
蒼白な顔色だが、セシリアの疑惑が振り出しに戻り、解放されるかもしれないという希望の光が絹糸のように細くても見えた事が、ジェーンに穏やかさを与えていた。
しかし、]
あ……
[若者の行動に声をあげた。止められない。]
自らの爪を振るうすべを知らずか。
或いは、無意識下で取り憑いた悪魔に操られ、爪と牙でも、呪われたナイフでも、──“人間”を殺して来たのか。
[冷淡にも見え得る、淡い微笑みを浮かべながらカミーラへ。]
可哀想に。
投票を委任します。
資産家 ジェーンは、文学少女 セシリア に投票を委任しました。
[人混みをかき分けるように檻前へ。
彼に気付いた村人は、怖がるように道を開ける。]
おーおー、盛り上がってんじゃねえの。
[ジェーンの方を見ると、二ヤリと笑う。
彼の姿を認めた自警団員は、粉屋での成果を聞く。]
ほーう、骨がねえ。
[そのとき、アーチボルド家に向かった
自警団員が急いできたのか興奮しているのか
息を荒くして入ってきた。手にはずっしりした麻袋。]
「ノーマン様ァ!捜索したところ、
アーチボルド家の裏手からこんなものが!」
[興奮した様子の自警団員は、急いで檻前に
出てこようとする。しかし、檻の目の前で
何かに躓いて転んでしまう。]
「ああっ!」
[転んだ拍子に、麻袋から激しい傷を負ったと
思われる人骨が飛び出してくる。
頭には脳まで達したと思われる爪痕。
欠損部分は、粉屋で見つかった骨と合致するようだ。
それは、村人たちを騒然とさせるに足るものだった。]
…哀れな女。
滅びた村で、お前は人狼に噛まれたのだよ。
お前の血はそこで悪魔を呼ぶ贄に変質し、──甘露と化した血に呼ばれた悪魔──すなわち、狼憑きになった。
悪魔は、血を媒介して肉に浸透し、元のお前自身と混じり合う。
もう何処にもお前は戻る事が出来ない──。
[姿を現したノーマンに、人波が割れる]
ああ、ノーマンさん。
聴取を始めてました。
――おや
[袋から現れ出でたものに、目を瞠った]
「い、いやらしいまじょかどうかはこ、これからたしかめてみたら、は、はっきりするさぁ……」
[ミッキーはセシリアの頭の上から爪先まで、纏い付くような視線でねっとりと見つめた。
それをおそらくは見定め、調書に記し、彼の証言を裏書きせざるを得ないであろう未来を思うとクインジーは倦んだ気持ちになるのだった。]
[ジェーンが証言を始める。
──それは母親として愛情に満ち溢れた言葉。
セシリアが自宅で衣類に血をつけて、自警団を迎えたその理由。ミッキーがアーチボルド家に無断で侵入した、その顛末そのものは、セシリアが人狼である事とはまったく別にして真実だった。]
…あのッ!
神父様なら、こうおっしゃって下さるはずです…。
去年から、ミッキーの行動が酷くなって──私、神父様に相談させていただきました。
そして、神父様はミッキーに何度も、か、姦淫の心を持つ事の罪をお説教してくださいました──。
[ウェンディはミッキーと言う男をはじめて知った。自分の知らないタイプの人間だ。彼が告発したのだろうか。仁王立ちのまま、セシリアや周囲を見渡す。いつの間にか口は真一文字になっていた。]
[ジェーンの言葉が疑われる事が辛い。
「過去の出来事についても特筆すべきことがあれば」と言うジェーンに向けたクインジーの言葉が、セシリアの胸に突き刺さる。]
(でも、私は確かに貴女の娘を殺しました。)
[──2年程前。その当時、物語的客観的事実として「人間」だったジェーンが、愛情深い聡明な母親が、娘の僅かな変化に気が付かないと言う事があったのだろうか?
果たして──。]
[ウェンディはセシリアの母親――ジェーンという人物を見た。どうやら彼女がセシリアのお母さんらしい。
誰かに襲われたからなのか、怪我をしている。]
あれも、セシリアお姉ちゃんがやったのかな…違うよね。
[その必死さから、私のお母さんが私を愛してくれるように、子供を思う気持ちは母親としてちゃんとあることはすぐに理解した。]
[セシリアが口を開き、少なくとも当座、母親のジェーンをノーマンから隔離し庇護する事を、尋問を始める条件に加えては貰えないだろうか──。
と、希望的観測とも思える言葉を紡ごうとした時、檻の前の人波が割れ、ノーマンが現れた。
またもや麻袋に、今度は人骨──。檻前の人々はざわめく。]
「し、神父さまも踊らされるなんて災難だぁ……。せ、せすぃりあが魔女だなんてし、知らなかったからすっかり騙されてたんだ……」
[ミッキーは弁解した。突如、神父に視線が集まる。
頭の禿げ上がった男、ベンジャミンが神父に問いかけた。]
「なあ、本当なんですかい? 神父さん。狼憑きか魔女だか、教会を穢しちゃァいませんか。あの娘と親しくしてたンですかい?」
[だが、今は新たな村長として名乗りをあげたノーマンの登場と彼の語る出来事に耳目が集まっていた]
なっかなか刺激的な演出してくれるじゃあない。
[ニヤニヤしながら、セシリアの方を向く。]
なぜこの一部が粉屋で見つかったのか……
俺ぁわかんねえけどな。
なんか何かに食われた残骸のような骨だねえ。
どう考えても、人の骨ぇに見えるんだが……
どうしてこんなもんが、おまえさんちの敷地で
見つかるんだろうかねえ…クックック。
[檻の至近距離まで接近し、問いかける。]
おい、犬ッころ…こりゃあ何だ?
[ミッキーの言葉やノーマンの登場に、周囲はざわつく。
ウェンディは大人同士の会話、流れにまるでついていけていない。
ウェンディはセシリアを一度見たあと、ノーマンの意気揚々とした表情をじっと見た。]
ノーマンさん、ひとまず証人の口は噤ませないでくださいよ。
人狼をあぶり出すにャ狼の母親かもしれなかったとしても、材料は多ければ多いに越したことはないンでね……
[クインジーはジェーンの怯える様子に、ひとまずそう言い置いた]
[セシリアは、人波が割れた事で、視界に大きく飛び込んで来たミッキーの脂肪で膨らんだ躯に、一瞬だけ大きな憎悪の視線を向けた。
ミッキーさえ居なければ──、セシリアが告発される事もなく、母親を巻き込んでまで──……こんな事には。
傷を拭うクインジーには、]
羊皮紙に血が付くと正式な書類にはなりませんね…。
署名します…。
……私は文字も書けますから。
あなたが尋問官だと言うなら、早くはじめてしま──、
[──…言葉はそこで途切れる。]
ちんぴら ノーマンは、双子 ウェンディ を能力(占う)の対象に選びました。
[カミーラが突如、尋問官にとって予想外の行動に出たり、周囲の人間が石や短剣を投げたりすることに対して、ウェンディはよくないもの。と感じていた。
尋問は公正に行われるべきだと。石を投げる事自体は特別に反対しようとは思わなかったが、公的に事を進めている時はみんな黙っておいたほうがいい。と思うのだった。
本当は自分自身が飛び出したい気持ちがあり、それを抑え続けているからに他ならない。]
セシリアお姉ちゃん、たとえ人狼でも。かわいそう。
「人狼だからこそだろ。人狼で死んだ奴が周囲に居ないか母親に聞いてみろってンだ。」
[ウェンディの言葉を聞きとがめたのか、グレンが吐き捨てた。]
[獣に喰われた人間の全身の骨が見つかり、しかも素人目にみて欠損部分が符号すると言うのは、良く出来た演出だった。良く出来ては居たが、いかんせん良く出来過ぎていた上に「穴」があった。]
──ノーマンさん。
墓荒らしに宝探しゲームですか。
その死体は、先刻読み上げられた罪状にもあった男の物じゃないですか。
読み上げられた内容が理解出来ないであろう、ネリーでも聞けば分かるでしょう。ネリーと一緒に肥桶を運ぶ仕事をしていて、ある日死体で見つかった──。
[男には村に来る前どんな過去があったのか、不具者ではなかったが、骨まで達していると一目で分かる深い傷があった。それは生前の男を知る者であれば、今、この骨を見てもすぐに判別が付いただろう。
男は、賤民ゆえに、村の正式な墓地には埋葬されない。
ただ、人狼に襲われたかもしれないと言う理由で、清めの儀式を神父様が執り行ない、遺体の扱いは正式な埋葬に近かったので、上手くほぼ全身の骨が残っている。]
──村の墓地外なら、掘るのも簡単。
それをわざと、家の庭に埋め直したんでしょう…──。
[クインジーはナイフを投げ入れた農夫の男に、冷徹な声を叩きつける。]
邪魔は……しないでもらおうか。
“証”が立てば、その機会は得られよう。
[セシリアの怒気を込めた眼差しに、しかしミッキーは名状しがたい表情を見せた。
口元が弛緩し、分厚い唇の奥ではどどめ色の舌がゆったりと波打つように蠢いている。滾々と口蓋の奥から湧き上がった唾液が唇の端で溜まり、泡となってぶつぶつと音を立てていた。
奇妙なことには、それは笑顔のようにも見えた。]
[ウェンディはノーマンとセシリアのやりとりを見ている。
どうやら骨らしい。彼女にとって人骨を見るのは間違いなく初めての出来事。骨の由来や状態などは知る由もなかった。]
人狼は──骨は食べない、ということよね。
男の骨ぇ?おまえさん、これが男のモンに見えるのか。
[残った頭蓋骨を持ち、セシリアの眼前に示す。]
俺にゃあ、あのゴツイ男の骨には見えんのだけどな。
[確かに、その骨は男性のものというよりは
女性のものと考える方が自然に思われた。]
素直に吐いた方が身のためだぜ?
体ぁに聞く羽目になっちまうしな。
[自警団員に目くばせ。1人は、何やら持ってくる
ため、詰め所の奥へと引っ込んでいった。
次の質問で吐かない場合、強硬手段に出るだろう。]
もう1度聞く。この骨ぁ何だ?
[ノーマンに吐き捨てる様に、]
あなたは、人を陥れて、嬲り、殺人が行えれば何でも良いんだわ。
さっきも言いかけたけど、私は尋問を受けます。
──…誰の尋問であろうと。
母を疑うなら、母では無く私を尋問して下さい。
[ウェンディは神父様やネリーからそっと離れ、セシリアのお母さんの側に寄った。]
あの。あなたがセシリアお姉ちゃんのお母さんですよね。どうしてこんな事になったんですか?
[ウェンディ自身も整理がついていなく『どんな事』とはジェーンの容態やセシリアとの関係、セシリアが本当に人狼なのか、まったく文章が繋がっていない。]
[羊皮紙に血が付くと――という言葉に、冷ややかな声が応える]
そうだな。お前の生涯で、最後の記録になるだろう。
叮嚀に扱うがいい。
後の世にでも残されることを祈って。
[文字が書ける、とセシリアは云った。思っていた通り、聡明な娘であった。この村に、どれだけ字を書ける人間がいたことだろうか。
もっとも、それは呪術を行使する所以であったかもしれないが。]
[唾を吐き捨てられ、明らかに怒りの様子。]
………おい、やっちまいな!!
[自警団員に命じ、セシリアの姿勢を変える。
股を開いたような姿勢に。]
別にてめえの母ちゃんを疑っているわけじゃあねえ。
俺が聞きてえのは、この骨が何だってことだ。
てめえの喰った残骸だろうがこれはァ!!
セシリア……!
[ジェーンは悲痛な声を上げた。]
貴方は無実なのに……いけません。
自ら、………見たでしょう、今尋問を受けると言えば、どのような事になると思っているの?
[左目で訴えかける。]
ノーマン……貴方のやり方は非道だわ――でっち上げようとするのも、い、いい加減にしなさい。
[暴行の恐怖が蘇ったのか、カチカチと歯は鳴る。]
[セシリアの瞳が冷たい黄金色に光る。]
沢山の手品をご苦労様。
[麻袋には、複数の骨が詰められていたらしい。
まだ、他にも骨盤が見えた。]
ぐだぐだ言わずに、あなたが檻の中へどうぞ。
私、お姉ちゃんとは何年か前に知り合ったことがあるのですが、気がついたらこんな事になってて…周りの人達も囃し立てたりしてて…私、騒ぎはあんまり大きくなってほしくないのに。
[ウェンディは何も出来ない事を申し訳なさそうにジェーンを見た。]
じゃかぁしゃあ、クソババア!!
[ジェーンに、大声で怒鳴りつける。]
こりゃあ正真正銘、アーチボルド家の裏で
見つかった骨でぃ!何の作為もねえ!!
[ノーマンは、檻の中に入りセシリアの下の着衣を破る。
可憐な花びらが、そこには鎮座している。]
どうあっても惚けるつもりだな。
上等だぁ!だったら体に聞いてやろうじゃあねえか。
[自警団員がノーマンに熱した鉄棒を手渡す。
持つ部分は布を巻いてあるが、それ以外の部分に
触れたら灼熱の痛みが襲うだろう。]
吐いた唾飲むんじゃあねえぞ!!
[セシリアのつぼみに、灼熱の鉄棒をねじ込む。]
[この状況で、周囲の状況を何もかも無視して話しかけてくる少女に、ジェーンは混乱した。
周囲は殺気立っており、或いはノーマンのショーに胸の高鳴りを抑えられないものや、人狼という災厄を痛めつけようとするノーマンの姿に溜飲を下げようとするものも居る事だろう。]
[ウェンディはノーマンが檻の中に入っていくのを見た。
ウェンディに性的な知識は完全にはなかったのである程度の想像にしかならないが…明らかにお供物、慰み者になるであろうというのは容易に想像できた。
だが、生れもっての体質なのか、ウェンディにとってはさほどの嫌悪感、生理的な拒否反応は起こらず、むしろ興味の対象にも感じた。]
それになぁ!さっき麻袋の中身ぁボンクラが
全部ぶちまけちまったじゃあねえか。
1人分しかねえ骨ぇどうやってすり替えるんだよ!!
[怒りにまかせ、乱暴に突っ込む。]
てめえが喰い殺したヤツだろうがこりゃあ!
見てろ、クソババア!!今ぁ、てめえが
信じたくねえ事実ぅコイツの口から吐かせるたらあ!!
てめえが喰ったヤツだろうがぁ!
[ノーマンだけはセシリアに近づけないで――宿坊で耳にしたジェーンの縋るような声が耳に甦る。
ジェーンがノーマンにどのような目に遭わされたかは、彼女の疵が何より雄弁に語っていた。
だが、それでもなお、「母を疑うなら、母では無く私を」とまで云うセシリアの気が知れなかった。人狼であるならそこまで庇うものだろうか。それとも、これもやはりあくまで“人”を装う偽りの演技に過ぎぬというのであろうか。
感情の揺れを感じながらも、ノーマンの告発の行方を見守っている。]
あ…ぁぁ…ぁあ…ぁぁぁぁぁ……。
[漏れるのは、唯、
喘ぐような息遣いだけ。
気絶してしまった方が、どんなに楽であったろうか。]
[鉄棒はセシリアの鼠蹊部に触れ、僅かに皮膚を灼いた。
クインジーは掌をジュウジュウと灼く鉄棒を握りしめたまま、その痛みを気にすることなく持ち上げる。
忿怒の形相で鉄棒をひったくると、檻の外へ投げ捨てた。]
ねねねねねねねネリーお姉ちゃん!!!
あれは…なに!??
どうしてわざわざ服を破いたりしてあんな場所へあんな事するの?
[ウェンディは驚嘆の色を隠せない。]
ノーマン、証拠隠滅でもするつもりか?
やはり、貴様が狼か――あるいはセシリアを堕落させた悪魔か――
[クインジーの形相は掌の激痛からか、それとも赫怒からか、悪鬼のように歪んでいた。]
セシリアが乙女か否か、それは魔女か否かを見定める材料となったろうに。
それを邪魔だてするとは――
あァん!?邪魔してんじゃねえぞ?
[クインジーに詰め寄る。]
こりゃあなぁ、俺の力で見つけてきた証拠なんだよ。
俺にゃあ、力があるんだ。
埋ってるもん見つける力がなあ。
[鬼気迫る表情でクインジーを睨む。]
この力ぁ使えば人狼ぉに繋がる証拠見つけ出せるだろうが!
まずは、この犬ッころが人狼である動かぬ
証拠を使って、証言をここにいる全員に示そう
ってんだよ!邪魔してんじゃあねえぞ!!
[自分には人狼に繋がる証拠があると主張している。]
[股を開かせる命令に従った兵士。
セシリアは頬を紅潮させ──精神的な苦痛の声を上げる。
ジェーンの言葉に、涙が零れそうになる。
首を横に振り──、]
私は──セシリア・アーチボルドは人狼です。
早く、早く、はじめて下さい。
[悲鳴の様な声を無視して、ノーマン派の兵士に手渡された鉄棒がねじ込まれる。]
──ッ…ハゥグッ。
、、、ァあぁ…あ──ァあ…!
[声にならない声。生理的な涙がぼろぼろと零れた。
肉の焦げる臭気と共に、椅子に鮮血の染みが赤い花の様に、広がって行く──。
ノーマンを激しい眼差しで睨みつける。セシリアの口唇は苦痛に開かれていたが──、牙が。長く鋭利な犬歯が伸びるのがノーマンには見えただろう。
セシリアは鉄棒を握ったノーマンの右腕に噛み付き、骨が見える程深く深く抉り取った。]
うぎゃああああああッ!!!!!
[再び手にした棒を、あまりの痛みに投げ捨てる。]
咬んだ…コイツ、咬みやがったぞぉ!!!
[抉られた傷口を押さえながら、震える声で叫ぶ。]
[突如、セシリアの動きが変わった。変わった──と言うよりも、予想外の動きをしたと言うべきか。]
えっ? あれは…何? セシリアお姉ちゃんが飛びついた…
[それは、ウェンディにとって初めて見る、人狼の肉体的能力だった。もっとも、ノーマンにとっては不本意ながら、自らの肉体で証明させた事になるのだが。]
ええい、やめろ!!
[鉄棒を手に取った兵士の顎を砕くほどの勢いで殴り飛ばす。
鉄棒を払いのけた。]
何度も言うが、拷問は証拠のことを考えてやれ――
[ウェンディは一瞬、檻に背を向けて考え込んだ。]
あの男の人がお姉ちゃんにした事も凄い事だったけど、お姉ちゃんががやった事って…
まさか!お姉ちゃんは本当に人狼!?
[それは一般の聴衆からしても満場が賛成こそあれ、否定のできない事実であった。]
く……
馬鹿な……
[目の前で、ノーマンの腕から血飛沫が上がる様を、現実感のない茫洋とした眼差しで見ていた。
荒く息をつく。
掌からは、焼けただれた皮膚が垂れ下がっていた。]
[苦痛に歪む表情。狼に食われた鹿のよう。]
証拠だぁ?……そ、そんなもん…
俺の力でいくらでも見つけて来てやらあ!!
埋ってるもんだったら、何だって見つけられるんだぞ!!
[聖職者に向かって、異端と思われる
技術を駆使して証拠を見つけると主張。]
[骨まで絶つには距離が足りない。
セシリアは、噛み切ったノーマンの腕肉を途中まで咀嚼し、顔を顰めて、ぐちゃぐちゃになったそれを唾液と共に床に吐き捨てた。]
──…不味い。
そこにある複数の骨が、最初のものを除いて誰のものかは知らない。だが、今まで喰った肉は──どれであれ、お前よりは美味かった。
…それで、満足でしょう?
その必要はない。
[ノーマンを睨む]
私は異端審問官。
人狼や悪魔は私が探し出して見せよう。
『悪魔め……』
[呪詛が渦巻き、瞋恚の炎が胸の中で燃え盛っていた]
[ウェンディは檻を見ている。セシリアを中心として、ノーマン、クインジー。或いは神父様やネリー、ジェーンもカミーラも。
檻を見る視線は低く、頭を少し下げ、やや上目で凝視する形。]
お姉ちゃんが人狼…そんな。じゃあお姉ちゃんはこれからどうなるの…
[ウェンディはセシリアが殺されるまでには、どうにかして彼女といろいろ話を聞きたいと思うのだった。]
資産家 ジェーンは、双子 ウェンディ を投票先に選びました。
[図らずもセシリアが晒した人狼たる証拠をどれほどの人間が実際に目の当たりにしたかはわからない。
ただ、檻の周囲は錯乱する村人たちの波で荒れ狂っていた。
耳を劈く怒声に泣き声。興奮し、檻に押し寄せては揺さぶる者たちもいる。
クインジーは今は痛みではなくただ熱と知覚される掌の感覚に意識を奪われそうになりながら、その声を唯遠い潮騒のように*聴いていた*。]
『本当に痛むのは魂だ――』
[懊悩で心が千々に乱れる。]
――申し訳ありません
[それは主を守ることのできなかったことへか、感情のままに鉄棒を払いのけたことへの悔悟か]
[ノーマンの動きに追従する様に、またセシリアが捕獲された直後の様に怯える兵士達。動きが弱まった際に、セシリアは無理矢理脚を閉じた。
閉じる事で倍加した痛みに、台座に不自然な姿勢で肘を付く。
血痕が飛び散った羊皮紙に、セシリアは震える手で素早く署名をした。
──────Cecilia・ Archibald.]
こんなに大騒ぎになっちゃって…たいへん!
一番えらい兵士の人とか、村長さんがいればすぐ収まるのに…あのおじさんが村長さんと言うけれど、今すぐ収めるのは無理そうだし。
セシリアお姉ちゃん…!
[肘をつくセシリアに、一瞬だけ庇うように手が携えられる。
見咎められる前に、その手は離れた。
――Cecilia Archibald
その署名を私は呪わしいもののように*睨んでいた*]
しょうがなかったと言えばしょうがなかったのかもしれない。だけど、セシリアお姉ちゃん、認めちゃったら今後、もっと酷い目に遭うのよきっと。それでもいいのかしら…?
[周囲が混乱している中、ウェンディはしっかりと二本の足を地につけ、檻を*見つめていた*]
お尋ね者 クインジーは、双子 ウェンディ を投票先に選びました。
[ヴィンセントは、ノーマンの突然の凶行に言葉を失う。
自分はこんな相手に、協力してしまったのか?
何という愚考を犯してしまったのだろう。
だがその恐慌と悔悟さえ打ち砕く光景が、その後に展開された。
彼がよく知っていたはずの少女が、人間の皮膚をやすやすと噛み千切り、生肉を咀嚼する……。
セシリアを凝視したまま、*動くことも眼をそむけることもできない。*]
[署名した時に、一瞬──手が添えられた。
触れた箇所から、ぬくもりが伝わり僅かに痛みが和らぐ。
臥したまま、『彼女』は柔かい笑みを浮かべた。]
何にせよ、謝る必要は無い。
聖銀が触れていない内側の傷なら──火傷であってもすぐに癒える。
[癒えると言っても、痛み其れ自体は人間と変わらぬ事を、人が気付く事はないのかもしれない。修復される強靭な生命力を持った躯ゆえに、痛みを快楽として味わう事にも慣れていると言う事にも。
ただ、非業の最期、別離──あらゆる意味において存在の本質的な死に至らんとする絶望を想起させる炎や灼熱を、例え小さなものであっても、また味わいたいとは『彼女』には思えない。
その想いが、お互いに変わらぬ事に対して、『彼女』は謝る必要は無いと告げた。]
[拷問に際しては、セシリアの意識が完全に失われ、『彼女』だけが表舞台を演じる事が出来れば、本当は良かった。必要以上に、無駄な事を自白する余地が減る。
けれども、忌々しい聖銀の拘束具によって、完全な復活が妨げられている現状と、ジェーンの深い愛情が『彼女』を「セシリア」の枠の中に留める。
ままならなさと言う意味では、実はセシリアもカミーラもさして変わりないのかもしれなかった。]
それにしても。
あの男の所為で、セシリアがすでに乙女で無かった事が──もう、誰にもわからなくなってしまった訳だ。
[署名を終えた『彼女』は、引き摺られて行くノーマンを憐れむ様な目で見た。]
否、セシリアは懺悔をしたのだったかしら…。
ならば、神父様「だけ」はご存知のはず。
勿論、ミッキーも知らない。
[「セシリア」の秘密を知る『彼女』は、また違った種類の笑みを*浮かべた*。]
[ネリーは、一連の動きを――ただ黙って、目を見開いて、見守っていた――]
[カミーラを介抱する手がガクガクと震え、目はギョロリ。瞳孔が開き、事の顛末を映し出す。]
狼っ子よォ……
ほ……骨が誰のモンかなんてよォ、オレにはまるでわがんねよォ……!だいたい、狼に食い殺されようが、何になろうが、オレぁ医者じゃねから見てもわがんねよ………
[ふるふると首を左右に振った。]
[ノーマンが赤々とした熱を帯びた棒を手にし、破れたセシリアの服の向こう――身体の奥へと突っ込む。]
…………………ッ!!!
[想像すらできない熱と痛みに、ネリーは目を逸らし、耳を塞いだ。その場所がどこだか知らず、ましてクインジーが言うことなどまるで理解できず――側に寄って来たウェンディに、半分泣き声で――残り半分は怒りを帯びた声で叫んだ。]
わがんねよ!!
アレがなんだか、オレが知りてぇよッ!!
ううッ………痛ェよ………ううッ………!
見たくねェよォ……………!
[「セシリア」の声が、耳を塞ぐ指の間をすり抜けてネリーの耳穴へと侵入する。ネリーは唇をギュッと噛み、なんとかそれをやりすごそうとしていた。]
[ミッキーの言葉に周囲の視線が集まるのにも、落ち着いた表情は崩れなかった。]
なるほど。その者が貴方を誘惑したと言うのですね。悪魔であるなら周囲を堕落に導くのも当然の行いかも知れません。
しかし貴方が正しい信仰を持ち、身を律していれば、そのような誘惑は退けられ、きっと呪いも効力を失ったことでしょう。
私が科した悔い改めの行はきちんと行いましたか? 私は貴方にそのような時は教会に来るようにと何度も勧めた筈です。
[やんわりとした声音だが、ミッキーに向けた目には険しさがあった。]
勿論その者が神の家たる教会に入り込み、これを冒涜した罪状は……
[続いてベンジャミンに反論しようとしたところで、現われたノーマンの姿を見て言葉は立ち消えになった。
皆の耳目も一斉に意気揚々と登場したノーマンに向く。きっと何か仕出かすに違いないという、期待半分恐れ半分の好奇の眼差し。
ルーサーの目が細まり、顔から*一切の表情が消えた。*]
[ノーマンの腕を食いちぎらんとするセシリアの姿を見て、ネリーはさらに震え上がった。]
ひぃぃぅっ……………!
[腕の肉を奪われたのは、亡きネリーの主である村長の弟――だが、セシリアの純潔(であることをおそらくネリーは知らないだろうが)を熱の棒で犯したノーマンの蛮行を目の当たりにしたネリーは、主の弟を助けに行くとも庇うともせず、檻の前でただその姿を見ていることしかできなかった。]
―――クチャリ、クチャリ……
[まるでセシリアが耳元で咀嚼しているような、強く生々しい肉の音を、ネリーは聞いた心地がした。]
う……ぁ………
[ネリーは震えながら、傍らに寝かせているカミーラの頭を、己の胸のあたりでギュッと*抱き締めていた*]
資産家 ジェーンが「時間を進める」を選択しました
『ああ……』
[すぐに癒える――との主の言葉が我が心痛を和らげんとする芳情より発せられたものと思われ、胸苦しいほどの想いが心に充ちた。
犬と罵られ、誇り高きその名を穢された主の心中は如何ばかりか。
野卑なこの男の狼藉が蹂躙せんと試みたのは唯にその肉ではない。主が触れることがなかった故にこそ、私はその深淵を思った。]
[我等がこの世界に生き、種を繋いでゆくことは容易なことではない。
灼熱の鐵が主の躰に恢復することのない疵を残す前に妨げ得たことだけがまだしも幸いと言い得ただろうか。鐵は内奥に達することも、奥深い後宮を灼くこともなく取り除かれた。
もし、それが行われていたなら、自制を喪い猛る赫怒のままにその場に居る者を喰らい尽くそうとしたことだろう。
その試みが貶めんとし、また奪い去りかねなかったものが、主の性であり我等が種であることに耐えがたい思いだった。]
どうか生きて……
[主が晏息の地に至り、何者にも妨げられることのない平穏な日々が訪れることを。
伴侶を得て、子供たちに囲まれている幸福な情景を夢想する。
私の身がこの地に歿しようとも、主が未来に至るのであれば我が魂の幾許かは遺されゆくのだと感じていた。]
――伴侶……
己が決してその身たりえることはない――
[私は己の分というものを辨えているつもりであった。]
それでも、一抹の憂愁を感ぜずにはおれないとは……
……愚かな…
そのために為し得ることがあれば、どのようなことでもお命じ下さい。
[肩に遺された刻印と掌に刻まれた新たな印が一時熱を*帯びた*]
―檻―
[クインジーが激痛に意識を喪いかけていたのは一瞬のことで、すぐに己の為すべきことを思いだした。
今はともかくもセシリアの治療が優先された。自警団員やノーマンを檻から出し、騒擾を収め、激昂した村民によって不慮の事故がもたらされるような事だけは避けなければならない。
だが、容易には混乱に収拾のつけようがなかった。村長の任を自ら買って出たノーマンが蛮行に及んでいたのだ。
混乱の当事者ではなく、また人徳あらたな神父のルーサーこそが迷妄深める村人たちに恬静をもたらし得る最も適切な人物であるように思えた。
クインジーはルーサーの姿を人波の中に求める。]
[また、セシリアがその力を見せつけた今、人狼の母親であるとの弾劾を受け兼ねない立場が一層強くなったジェーンの身の安全をひとまずは確保することもまた、必要なことに思えた。]
すまねえ、誰か――
誰か、ジェーンを……
[そして、医者の名を呼ぶ。]
ギャドスン医師!
何処かにおられたらお願いしたい!!
重傷だ!
―詰め所→村長宅/ノーマンの部屋―
[そのまま部屋まで連れて行かれる。
一応、自警団員の手によって止血はしてある。]
ハハハハハハ…ハハ………。
[人狼の力を侮っていた部分があったか、
目の当たりにしたものは想像以上であった。]
………………。
[動揺は彼の平常心を奪ったらしい。
視線が、明らかに焦点の合わないものだ。
村長の器ではなかったか、ノーマン派兵士の
失望の色。彼はただただ*震える*だけ。]
―檻の横、幄舎―
[三方を布で囲われた簡易的な建物の中、寝台の上。]
………。
[ジェーンは呆然としているように傍からは見えた。]
[ノーマンの右腕を半ば噛み千切ったセシリアの姿――金色(こんじき)に輝く瞳ではなく常と同じ色ではあったが、無表情に程近い顔で肉を平然と咀嚼した娘の姿に、絶句しているのか戦慄く唇。
怒号が飛び交う中、ジェーンがいる場所のみが不気味な静けさを保っていた。]
……あ、ああ。
[がくがくと首を振って頷きながら、檻の前に進み出る。
その中では、少女が……いや少女の姿をした何者かが、血とインクの飛沫が飛び散った羊皮紙に文字を書き入れていた。]
[人間が正気でいられるはずのない傷を負った瞬間に。]
[自らを有罪とする供述書に。]
[文字を、少なくともこのセシリアは、文字を知っている……。
ヴィンセントは頭脳のどこかでそう考えた。]
[治療が必要なのか?]
[治療が可能なのか?]
(──…不味い。
そこにある複数の骨が、最初のものを除いて誰のものかは知らない。だが、今まで喰った肉は──どれであれ、お前よりは美味かった。)
[獣は無表情で獲物を狩る]
(…それで、満足でしょう?)
[その一言一句、セシリアは無表情だった――。
否、ジェーンには理解る。無表情ではあるが、同時に激痛を押し殺している事は――。]
―檻―
[ギャドスン医師の姿を見いだした。彼の様子に、僅かに唇の端を歪め笑みを形作る]
……ああ。先生。
セシリアは人狼だ。
この通り、署名もある。
医者として、人狼の治りが人間と比べて有為の差があるか、あるいは人狼の娘の“そこ”が人間と違っていやしないか、興味はないか?
[どこか下卑た響きの言葉を、突き放したように唇から絞り出していた]
やめて…下さい。
[クインジーの声が耳に入り、ジェーンは無意識のうちに言葉を口にしていた。]
興味本位で――セシリアを、触らないで……。
――檻の前――
[喧騒に包まれた檻の前で、ウェンディはひとりごちた。]
人狼は。怪我をしてもすぐに治る、と言っていたわ。私が怪我した時とは全然違うものなのかしら…
私、聞いてみたい。調べてみたい!
[プラチナブロンドの少女の目は輝き、口元が綻ぶのだった。]
くく……く…
[クインジーは喉の奥で嗤った。]
興味本位だろうがなんだろうが、治療できればみっけものだろう?
医者にかかれることだってそうはないんだ。
娘が狼だって知った今、今更外聞を憚る必要だってないだろうに。
犬は“そこ”を隠して歩いちゃいねぇんだぜ?
[この流れが、
【セシリアという少女は人狼である】
この流れが、止められないものであろうと、
ジェーンは言わずにいられなかったのだ。
無邪気に笑みを浮かべる少女も、
それを盛り立てようとする男達も、
ノーマンが去ってからも乱暴を行いたいと望む兵士も、
止められないと、分かっていても。
この混沌とした渦は、
誰かが直接セシリアに何かをせねば、
収まらないように見えた。]
ウェンディも見たいのか?
物好きだなあ……
[檻の側にいるウェンディに目がとまる
この騒動とは不似合いに好奇心を顕わにする彼女に怪訝な表情を向けながら]
[クインジーとジェーンの間で、視線をさまよわせる。]
ジェーン夫人。
他の連中に弄らせるよりは……まだ……。
それに、セシリアであるかどうかはともかく……。
[汗が皮膚を流れ落ちるような、ゆっくりとした速度で、逡巡が脳裏を滑り落ちて行った。]
「あれ」は人狼だ……。
クインジーさんは何かセシリアお姉ちゃんにしたいの?
危ないから…ぜーったいに100点満点の状況を作らないと駄目よ。 ノーマンおじさんも噛まれてしまったし…
お姉ちゃんは私の事を心配してくれてるから、簡単には襲われないと思うけど、それでもきちんとしておきたいもの。
[きちんと、とはやはり…拘束の事を指している。]
それでも、”セシリア”は――……そこに、
そこに、
[口を半開きに、震え、喘ぎ、焦点を合わせる先を探すように。]
――いるのに。
え…えぇ、――ええ、そうだわ。
確かに――他の人に触らせるよりは……ぁ、あぁ、ギャドソン先生……?
一体何時ここにいらして――……
[ジェーンの言動は支離滅裂さを帯びている。
ノーマンの手酷い仕打ちの時、その後の手当て、とヴィンセントに接触はしているのだが―― 一度目の接触は覚えておらず二度目の接触は、気を失っていた。
ヴィンセントがこの村に来ている事を明確に知覚したのは、言動からは、この時が初めてだと思われた。]
……ああ。
いや、俺は何かするつもりはないぜ。
尋問どころの騒ぎじゃなくなっちまったしな。
[ウェンディに答える]
治療を頼んでいるだけだ。
[枷を気にするウェンディに]
差し支えなけりゃ、医師が治療する間、暴れないようにおさえておくがな……
あ…うん。私もネリーお姉ちゃんの言う、ずんもんはおおっぴらにはしたくはないわ。出来れば隠れてこっそりやってみたい。
[それは子供故に出る言葉なのだろうか。本人にその気持ちはないが、かなり残酷的である。]
資産家 ジェーンは、牧師 ルーサー を投票先に選びました。
[これまで全く状況を静観していたルーサーがおもむろに立ち上がり、大声を発した。]
静まりなさい!!
[その一瞬だけ、ルーサーの眼は瞋恚の炎を宿していた。]
マダム・ジェーン……。
ああ……もっと早く来ていれば、せめて……。
[ヴィンセントはその先に何と続けようとしたのか、自分でも解らない様子で沈黙する。
秘かな憧れの対象であった、かつての彼女の面影は、どこにも見出せない。]
[“セシリア”はそこにいる、というジェーンの言葉をクインジーは昏い表情で受け流す。]
ジェーン、そういや……ギャドスン医師とはどういう間柄だったんだ?
[ウェンディの言葉に]
先刻見たろう?
隠れてするのはいいが、ガブリと咬まれちまわないように……な
[しきりにセシリアに興味を持つウェンディが不可解であった。]
『怖くねえのかな……』
[ウェンディにとって神父様は普段から見かける顔であった。最も親しみのある聖職者と言っていい。そのルーサーが大きく声を発したことにウェンディは驚いた。]
神父様。けれどこのままではセシリアお姉ちゃんは…
[それ以上は子供の思考では続かないらしい。]
――……かまいません。
かまいません、かまわないのです。
[感情だけが溢れる。
苦痛とも、嘆きとも、怒りとも、絶望とも、形をとらない感情の塊が。]
「マダム・ジェーン……」
[ギャドスン医師のその言葉の響きには、どこか艶めいた感情の色を帯びているようにクインジーには感じられた。]
『…へえ……』
[ルーサーの一喝に、村人たちは落ち着きを取り戻しつつある。迷妄の中で、何者かの導きを欲しているようだった。それは、この時にあっては神父にこそ相応しい役目であったかもしれない。
――神の声を伝える神父。
そんな厳粛ささえ漂う雰囲気の中、不似合いにも一瞬クインジーは目の前の二人の間柄に思いを馳せていた]
[その気迫に驚いた一部の者が恐れ戦いて棒立ちとなったが、勿論それですぐに熱狂が収まる筈も無い。
気付かずに泣き叫び喚き散らし、檻に群がる村人達の間にルーサーは割り込み、両手を広げて立ち塞がった。再度の大音声。
今度は流石に全員が波を打ったように静まり返った。]
[何かを振り捨てる様に大きく首を振ると、檻の近くにいた兵士に声をかけた。
早朝に兵士たちの様子を診た時のまま兵舎に置いてあるはずの、道具類が入った革鞄を運んでくるようにと。]
それから、水と布だ。
[檻の入り口に屈みこんだ。]
ヴィンセント………ありがとう。
[その言葉は何に対してだったのか。
熱狂が冷えてゆく中、ヴィンセントの背へと、ジェーンは*呟いていた。*]
[セシリアの父親は領主である御料林官と接点があったことを思いだしていた。アーチボルド家には、知的階層に属する人間も出入りしていたのだろう。
ジェーンの言葉に、成程と頷く。
アーチボルド家が裕福であり、村の中でも目立ち得る立場にあったことがこの度の騒動の事由の一端であったことは確かなのだろう]
――檻――
[平板に作った声で静かに言う。]
痛むかね?
ヒヨスの薬しかないが。
ここでは氷も手に入らないだろうから、後は水だけだ。
[署名を終えたセシリアは、尋問台に躯を預ける様にして、正面を見ていた。神父の威厳ある声によって群衆が静まり行く中、母の言葉を、ヴィンセントの変化する表情を見つめていた。]
これで貴方がたにも悪魔の恐ろしさが分かったことでしょう……十分な備えなしに不用意に近付けばどのような目にあうか。
[群集に向かって滔々と語りかけ始めた時には、先程の激しい怒りはすっかり消え失せ、穏やかな表情に戻っていた。瞳には多少険しさはあるものの、常の神父の姿だった。]
この者は主の御心に背いた呪われた存在であることを自ら証明しました。
教会と国王陛下の定める法に則って正式な手続きの元にこの者は裁かれることでしょう。
貴方がたは即刻家に戻りなさい。
これ以上悪魔の側で貴方がたの魂と命を危険にしてはなりません。
[セシリアと視線を合わせないように、その傍らに屈む。]
それとも、何も処置しなくとも……問題ないのか?
……そうだとしても、外の連中は経過を知りたがるだろうな。
君が治療を望まないなら、君の首の鎖を思い切り引っ張ってもらっている間に、君の足を開かないといけなくなる。私の腕か首の安全のためにね。
[先程の、「セシリア」がノーマンの腕の肉を食い千切る衝撃的な光景を思い出して、村人達があたふたと去っていく。
それでもこれから何が起きるのか興味を捨て切れず、未練がましく詰め所入口の柵あたりでうろうろするものも居たが、ルーサーはそれは無視して背を向けた。
もう一度震えるネリーに抱きかかえられたカミーラのもとに近付き、膝をつく。
ウェンディの持って来てくれた鉢から軟膏を取って布に塗り、腕の切り傷にそれを貼り付けてから包帯を巻いた。]
[ヴィンセントが檻の中へ。
爛れた傷口は熱を持ち、激しく脈打っている。
火傷の上に再度、無理矢理棒をねじ込まれた事により、粘膜に裂傷がある。流れていた血はこの短時間ですでに止まっている様だ。
人狼とは言え、痛みそのものは人間が感じるものと然程、変わらない。ただ、痛み慣れている。]
──…痛み。
[首を横に振る。
「悪魔」と言う神父の声が響いている。
拘束されており、動き難い膝(無理矢理割られた為にガクガクとまだ震えている)を硬く閉じようとして──上手く行かず、半端に脚を開いた姿勢になる。やや、前傾姿勢の。]
ッ──いいえ、痛みませんから…。
治療なら要りません。
すぐに治ると最初に──あなたにだけは言ったはず。
…ヴィンセントさん。
あなたは、私を侮蔑しないのですか?
[セシリアが言葉を発する口元を、じっと見つめる。]
牙が、消えているな。
出し入れできるのか。
君が、アーヴァインの腕を喰ったんだ。
[負傷したカミーラの身体は、ネリーの介抱に加えてルーサーの治療を受けていた。意識が徐々に戻り始めていく。
だが、例の幻聴は相変わらず聞こえてくる。その上に狼の遠吠えも幻聴と重なるように響く。]
何だ、この感覚は。
よく分からないが、今聞こえてくる「声」が…急に心地よくなってきやがった…。
[こうしてカミーラは、聖とは魔逆の存在である「人狼」と化した。]
…私はもう、おしまいだな…。
[残念!カミーラの「旅」は、ここで終わってしまった!]
[薄く開かれた口唇。
白い歯が見えるが、確かにそこにあの鋭利な犬歯は無い。]
…そうでないと、人の間に潜んで暮らす事など出来ないではないですか。
[瞬き]
アーヴァインは、手枷によって出来た傷の位置が変化していると言いながら、夜中の尋問室に一人で入って来た…──。
死んで当然です。
[しかしそれ以上ネリーに声を掛けることはなく、目は檻へと向いた。
尋問台の「セシリア」、その前に屈みこんで話し掛けるギャドスン。そしてクインジー。]
先生が云うように、「外の連中は経過を知りたがってる」
[クインジーは嬲るように、拷問台に凭れたセシリアを見下ろしながら云った]
先生の署名の入った所見は証拠にもなるだろう。
治療を受けて貰おうか。
[ヴィンセントに無言で頷くと、セシリアは視線で、すでに爛れていたはずの──場所。薄く桃色の皮膚が張りはじめているそこを指し示した。]
[もしも、今の「彼女」に真の力が有れば、再生の速度を遅らせ、人を欺く事が出来ただろう。けれども、聖銀に囲まれた今、弱りかけたその躯には、危機信号が鳴り響き、常の倍速で傷が癒えて行く。]
[セシリアが示すものから、すぐに眼を背けるる。]
なるほど。
痛みに涙を流していたのが、人間に紛れて暮すための演技なら、その方がましかもしれないな。君にとっては。
君が人間と同じように痛みを感じると思えば、連中はそれを利用するだけだろうから。
[ここでカミーラの意識が蘇り、徐々に回復していく。
但し、身体はまだ動かすことが殆ど出来ない。]
…ん?これは、一体…!?
[擦れた口調でぼやいた。]
カミーラ。
おしまいではない。始まりだ。
[檻の外、ほど近くにいる彼女に常の人間の耳には届かぬ音で声をかける]
私が斃れたあと、此処を出られるかはお主次第だぞ……
それなら、腕の方ももう無事だろうね。
[セシリアの様子に、襲われることはないと感じたのか、先程女に切り裂かれた服の肩口へ手を伸ばした。]
[目を覚ましたカミーラにちらりと視線を走らせる。]
気が付きましたか。
貴方は檻の中で気を失ったのですよ。全く無茶なことをするものです。
この娘が気絶した貴方の面倒をずっと見てくれていたのです。感謝することです。
投票を委任します。
資産家 ジェーンは、文学少女 セシリア に投票を委任しました。
[脈打つ激痛は、皮膚の再生と共に薄い痛みに変化する。
火傷と裂傷とは異なる再生によるエネルギー熱が、躯の内側から内腿を走る。セシリアの肌は全身が内側から発光している様に、白く輝く。頬にほんのりと色が差す。
クインジーの言葉に、一瞬だけ躊躇するように瞬きをした。]
「倒れたあと…」って、おい!
もしかして、今にも死にそうな状況なのか…!?
というより、そもそも誰だよ!?
[囁きの一つに、応答した。]
[また視線を檻に戻す。だが、今度は「セシリア」ではなくクインジーにはっきりと向けられている。]
……いや。私は確かに彼が焼けた鉄棒を掴むのを見た……
[表情を消したままに呟くその声は、無意識に洩れたものだろうか?]
[近くにいるルーサー及び、介抱してくれたネリーに目線がぶつかる。
その後、負傷箇所である二の腕を見てみると、包帯が巻かれてあった。]
そうか…そいつは、本当にすまなかった。
そして、ありがとう。
[謝罪と感謝の言葉を静かに述べる。]
[鉄棒を押しあてられた時には赤く爛れ無惨な疵となっていたそこに、桃色の皮膚が張り次第に元の形を取り戻しゆくにつれ、クインジーはそれを最後まで見届けるのを拒むように目を逸らしていた。
調書に落とした表情は窺い知れない]
愕いたな……
[呟きは動揺を現したものだっただろうか。ほんの僅かに上擦っていた]
大過ないのであれば、問題あるまい。
[セシリアの方を見ないように云った。利き腕ではない左腕で不器用に弄んでいた羽根ペンを置く]
今度からあれに近付く時は、誰かの立会いの下で行うことを勧めます。
先程、不用意に近付いた者が腕に食いつかれて怪我をしましたから。
……もっとも、貴方があの悪魔の仲間で助けに来たか、あれが仲間の名を白状するのを恐れて始末しに来た、というのならば別でしょうが……。
[カミーラに掛けた言葉は、食い入るようにクインジーの方を見詰めていた所為か、どこか上の空といった様子が感じられた。最後の一言は全く不用意と言えた。]
[痛みの感覚があるのか、それが演技であるのか。
僅かに首を傾けたのみで、ヴィンセントに答えなかった──。
腕の傷も──当然の様にすでに跡形もなく消えていた。
調書に記述する音が聞こえる。
ヴィンセントが診察を終えて檻を出て行く前にと、セシリアはやや早口で話す。]
以前は、ほんとうにお世話になりました。
貴重な小説本を、あなた自身の持ち物ではないのに、私が読める様にと手配を──。
夜に月明かりの下、夢中で本を読みすぎた所為で、目が悪くなってしまったのだと言う話は、母からお聞きになった事があったかしら。
[檻の外のジェーンに視線を送る。]
──…この眼鏡を、母に渡して下さい──。
[奇跡的に硝子の割れては居ない、薄汚れた眼鏡。
ヴィンセントも知る、セシリア・アーチボルドの形見の品を。]
それと、出来るならば。母を。
お願い出来ないでしょうか…。
私だ。
クインジー――目の前の赤毛の男だ。
[カミーラに返答する。]
私は異端審問官と名乗りを上げた。
「人を呪えば穴二つ」……と云ってな。
異端を狩る者は、長生きはできまいよ。
「斃れたあと」とは、そういうことだ。
[眼を瞬かせると、眼鏡を受け取った。
わずかな躇いの後に口を開く。
ほとんど口を動かさず、ささやくくらい小さな声で。]
憶えているかね?
私が最初に君と会った時の事を。
……君は、たぶん、十歳に届かなかった。
母上にと持ってきたヴェニス土産を、君はとても気に入って離さなかった。
[ガラスを貼った高価な鏡。
それを選んだ時の微かな慄きを、ヴィンセントは遠く思い返した。]
[ルーサーの忠告を聞いて、カミーラはこう返答する。]
何だと…私が気絶している間に、また誰かが怪我を…!?
…ああ、分かった。今後は気をつけるよ。
[彼の最後の一言に対してあきれたように言う。]
ついでに最後の一言は、少々余計なのではないかと思うけどな。
[眼鏡を渡そうとするセシリアに]
いや……それはまだ、お前が持っておいたらどうだ?
お前は文字を読み書きできるんだろう?
記述に目を通してもらうこともこれからあるし、ここにはいずれ、残りの悪魔と狼憑きの名を記してもらわなければならないんだからな。
第一……ジェーンに渡したとて、ジェーンが今後も無事である保証はないんだぜ。
[異端審問官と名乗りを上げた男が「同族」であると聞いて、カミーラはこう答える。]
そうか…確かに能力をもつ者は、どちらにしろ長生きは出来ないよな…。
私はこれから、何をして生き残ればいいのか…?
[静かな調子で囁く。]
[そこでやっとカミーラにちゃんと顔を向けた。
平静な眼差しを注ぎながら、穏やかな声で話す。]
あくまでたとえ話です。むやみに人を疑うのは主の御心に背く行いですからね。
ですが、貴方は遠来からやってきた旅人でこの村に知り合いは居らず、故郷の村が人狼が滅ぼされた話の裏付けも取れないのですから、身の振り方はきちんと考えた方がよろしいですよ。
貴方が事件の渦中に村の外から来て、しかも女性だと言う理由だけで、良からぬことを考える者が居ないとも限りません。
[首を傾ける。
懐かしそうに遠い空を見る。
「セシリア」の記憶。青空を反射して宝石の様に煌めいたそれ。
少女自身の笑い声。困惑した表情の──今よりも若いヴィンセント。
──…決して、忘れない。
人狼であっても、堪え難い事に彼女は未だにセシリアでもあるのだ。]
──鏡の価値なんて分からなかったから。
勿論、眼鏡の価値も。
[彼女が真の姿に目覚めなければ、今でもセシリアは眼鏡を必要としただろう。
クインジーを振り返ったセシリアの瞳は、まったくセシリアの様にしか見えないにも関わらず、黄金色に輝いている。
彼女には眼鏡など必要無いのだ。]
硝子が割れるかもしれませんし。
父の形見は──本来、母の物ですから。
[私は少々考え返答する]
主の方がよい考えがあろうが……
死者の中から人狼を見いだすことができる――とそのすべがあるかのように示した時のことだ。
医師が死者の中から人狼の印を知り得ると言い出したなら、医術の心得のある者だけに、容易に皆に信じられ得よう。否、周到であるが故に疑われる可能性もないではないが。
私は、医師は早々に命を喪わしめ、カミーラは村人の中に紛れ――或いは狼を“狩る者”を装わしめた方がまだしもであろうかと思っている。
いずれ、カミーラ自身が村人の中に溶け込まねば、是非も無かろう。
母上のことは、言われるまでもないよ。
[立ち上がり、はっきりした言葉に戻って言う。]
確かに、君には私の治療など必要ないようだな。
[黄金色の瞳睛に一瞬心を奪われかけ――
ふ、と我にかえるように目を瞬かせた。
眼鏡についての意志を確認し、頷く]
――そうか
ならばよいように
私には難しい事だから、何をしゃべってるのかあんまり分からない感じだなあ…別の所へ行ったほうがいいのかも。
[ウェンディはまた後々、檻へ来ようと思った。]
[ルーサーの穏やかな言葉に少々厳しさを感じつつ、話を聞いている。]
確かにそれは否定できないな。
後、その手の輩が出てくるのは、ある程度想定している。
充分に用心をしておくよ。
[その上でネリーへ返答する。]
ああ、意識なら大丈夫だ。だが身体はまだ調子が良くないけどな。
[檻を出て行こうとする間際、ふとつぶやいた。]
そういえば君は、私が君を軽蔑すべきだと思っているのか?
それとも君……が、私たちを……?
[続きを言うのを、あるいは答えを聞くのを恐れるように、檻を出て入り口を閉めた。]
[檻の格子越しに見るジェーンは、失われた右目が痛々しいものの、容態は落ち着いて見える。]
──…さようなら。
お母さん。
[呟く様な声。
セシリアは目を逸らし、立ち上がったヴィンセントを見送った。]
[意識を取り戻したカミーラに問う。]
おめさんよォ……
なァんだってまた、あン檻ん中に飛んでいったんかェ?
危なくてたまンねェべよ。
あん娘っ子は、人ン肉食らう、
恐ろしーぃ……狼っ子なのによォ……
[カミーラはクインジーの助言を聞いている。]
要するに、眼鏡の医者に「死者に関する力」があるのならば、その人を早いうちに葬る。
私は村人達の中に紛れ込んで、場合によっては「狩る者」を装う。
えっと、これで良いのかな…?
[自分がやるべきことについて一言問う。]
[カミーラは、ネリーの問いに対して落ち着いた口調で答える。]
目を合わせた瞬間、奴は…よそ者である私の目の前で、狼としての本性を表しやがった。
随分と舐められたものだ。「お前に何が出来る!」といわれたような気分になった。
…と同時に、奴を今すぐこの手で殺したくなってきた。
私は復讐心や殺意等で理性が吹き飛んでしまった。
…その結果としては、村に多大なる混乱を招くことになった。
あの時の私は、なんて愚かだったのだろうか…。
[ここでカミーラの目に思わず涙が浮かぶ。]
[私は頷いた。カミーラに意志は正確に伝わっているようだ]
カミーラが「死者に関する力」があると装ったとて、私との繋がりを見定められると難しい。
故に、村人の中に紛れた方がいいと思うのだ。
もっとも、主は檻の中で最後まで、狼の名を聞き出すために村人から追求されることになろう。
最後まで生き残るのは主であり、カミーラ、おぬしだ。
できうるなら、主とおぬしがやりやすい道筋を選んで欲しい。
[声を発したのは『彼女』]
最初に始末するなら、神父ではないのか。
“死者の言葉を聞く”のは、葬儀を執り行なう彼だ──。
カミーラが、何者を装うにせよ、早く──旅人である己の処遇を村人に打ち明け、信頼を得るべきだ。なるべく多くの言葉を費やし、意味の有る存在だと思われなければ。
[兵舎から、深刻な表情の兵士が小走りにやってきて、危篤状態だったアーヴァインが遂に亡くなった旨を告げた。
それを聞いたルーサーは、短い祈りと共に十字を切った。
立ち上がり、カミーラとネリーを見て、]
私はアーヴァインのところに行かねばなりません。
ネリー、あの者の世話をするために檻に入る時は十分に用心するのですよ。
旅人の貴方も。
では…。
[柔らかい声を掛けると、後は振り向きもせずにすたすたと兵舎に向かって*歩いて行く。*]
[カミーラはネリーの後ろ付近から姿を現した一人の少女に驚く。
そしてすかさず、問いを投げてみる。]
誰なんだ、あんた一体…!?
はェ……オレのようなモンにまでお気遣いくださって……
ありがてェこってす、神父さまァ……
[ネリーは、去ってゆくルーサーの後ろ姿に深々と礼をした。そして、カミーラに振り返る。]
……混乱、でござェますか……
それよりもよォ、あンたさんがおっ死んじまったらどうすンだと、肝ォ冷やしたべよ。もちろん、村長さまァが「あの狼っ子を殺しちゃなんねェ」って」おっしゃっていたけンどな、でも……危ねェよォ。
……怖かったかェ?
それとも、「ふぐしゅう」できなくて悔しいンかェ?
[ハンカチ(とおぼしきボロ布)を、涙を流すカミーラにそっと差し出した。]
だ、誰って…ごめんなさい、驚かせちゃったかしら。
私、人狼がどんなものかが気になってここにいたの。そうしたらお姉さんが檻へ入ったりしたからびっくりしちゃって。ずうっと檻を見てたりしてて。
あ、ごめんなさい。私はウェンディって言います。
[ジェーンの元へ戻り、担架の横に跪く。
声を落として。]
あなたの言うとおりでしたよ。
マダム・ジェーン。
彼女は、セシリアだった……。
[その手に、眼鏡を握らせる。]
[ふっとウェンディは檻の方を見た。
どうやらクインジーやヴィンセントと言う医者が、セシリアを調べるのが終わったらしい。
ヴィンセントは檻から離れ、クインジーも一段落、といった模様だ。檻には現在、殆ど人はいない。]
今のうちに…セシリアお姉ちゃんにいろいろ聞いてみたいわ。お姉さん、また後でね。
[ウェンディは神父様やカミーラ、ネリーの元を離れ、檻の方へ近づいた。]
[ヴィンセントの背中を見送るセシリアの視線。
淡い黄金色の光が瞳の中で揺れている──。]
──…軽蔑。
[言葉を口の中で転がす。
彼女には、ヴィンセントが何を恐れているのかが分からなかった。]
[ウェンディは軽快な足取りで檻の中に滑り込んだ。身長も低いからか、身を屈める事もあまりなく、プラチナブロンドの長い髪をふわりとなびかせ、セシリアの付近へ寄る。
セシリアは驚いたかのような顔をして、ウェンディの方を向いていた。]
セシリアお姉ちゃん…また来ちゃった。
どうしてセシリアお姉ちゃん、人狼なの?
[ウェンディは無警戒にセシリアに近づく。襲われないだろうという確信があるからなのか、ウェンディが無知だからなのか。]
[カミーラは今のネリーによる言葉のところでも、涙が出ている。]
心配してくれて、ありがとう。
それに、色々と失った私に…今更怖いものなんて、ない。
その場であの化け物に復讐が出来なかったのが、悔しいんだ…!
[ネリーにハンカチを差し出されたので、それで涙を拭くことにする。]
[幼い頃の話。
母を見つめるヴィンセントの眼差しの理由を、セシリアは漠然とだが、知っていた。当時を思い出す、おさない頃の微かな胸の痛みが、格子の向うの空に飛散していく──。]
セシリアが本を読み始めたきかっけは。
──あなたと言葉を交したかったからだと知っている。
さようなら…。
ヴィンセントさん。
あぁ――……。
[眼鏡を握り締め、頷く。]
ありがとうございます、ギャドスン先生。
そうでしたか……そう……。
[ジェーンは何度も頷く。
脱力し、遠くを見つめながら。
その視線が、ふと、ヴィンセントに合わせられた。]
………。
[言葉にならない。]
[少女が名前を名乗ったので、自分も名乗り返した。]
わたしはカミーラ、人狼達によって色々なものを失った者だ。
[お互いに名前を名乗った後、カミーラはウェンディが檻の方へ向かっていくのを見た。]
[カミーラの様子を、心配そうに見つめる。]
いろいろ……失った、のかェ。
旅の方ァ、家族ン方を食い殺されでもしたンかェ?
……事情はよくわがんねェけど、「ふぐしゅう」なんて、女の方ァにァそうそう決意できるモンじゃあねェ。気ィの毒になァ……
[溜め息をつき、首を左右に振った。]
あの牙にガブリと喰われちまったらよォ、無事じゃあすまねェよなァ……
[ふと戻した視線の先に、ウェンディが居た。
驚いてから、ゆっくりと瞬き──。]
……此処へ来ては駄目だと、何度も言ったでしょうに。
[無邪気な問いに、何処か気怠げに。
尋問のはじまりに区切りが付き、一旦、取り下げられた台座。
ガラリとした檻の中、小さなウェンディと向かい合う。]
何を知りたいの──。
旅ン方ァ、カミーラさまァと言うんかェ。
オレぁ、お亡くなりになられた村長さまァのお屋敷で働かしてもらってる、ネリーっていうモンだ。
オレん名前なんか覚えねでもいいけどよォ、よろしくなァ。
私、セシリアお姉ちゃんが何か物を書いていたり、おじさんが急に熱い棒を持ち出したりした時もずっと見てたの。びっくりしちゃった。ほんとよ。
すごく怪我とかしてそうなのに…お姉ちゃん、本当に治ってるみたい。私とは、やっぱり違うのかな。
[ウェンディはまじまじとセシリアの身体を興味深く見た。半ばぎこちない動きをできないセシリアを見下ろすかのごとく。もしセシリアが本気でウェンディに攻撃するのなら、人質に取るぐらいは出来るかもしれない。]
お姉ちゃん。ちょっと見せてもらってもいいでしょ――?
[警戒感は消えていないからか、念押しからか、ウェンディは天井からぶら下がっている聖銀の枷に手をかけた。]
あなたが、必死に守ろうなさったのも無理はない。
だが……もう。
[首を振りながら、]
しかし、あれはいったい……。
[どういう存在なのだ? という渦巻く疑問は、さすがにジェーンの前では口に出せない]
[ハンカチで涙を拭いたカミーラは、心配そうな表情でネリーに見つめられる。]
ああ、そうだ。家族や友人をはじめとした多くの人々が、奴らの餌食となってしまった。
…大切なものを沢山失った。しかし、こうして奇跡的に生き延びただけ、私はまだマシなほうかもしれないな…。
[この後、ネリーと改めて自己紹介を交わす。]
あ、そうそう。きちんとした自己紹介がまだだったな。
私はカミーラだ。よろしくな、ネリー。
──…ずっと、見ていた…?
何にせよ、子どもが見るものじゃない……でしょうに。
[気怠げな様子は変わらない。
額がつきそうな至近距離で、まじまじと自分を覗き込んで来るウェンディを止める様子はない。
僅かに眉を顰めて、]
──見る?
…ん。なに を……?
[枷を引かれ、セシリアの躯がたわむ様に揺れた。]
[ウェンディは慎重にセシリアの拘束を変えた。後ろ手に聖銀の手枷をかけ、上腕部に鎖を巻き付ける。一応、身体中を巻く鎖の数は捕獲時よりは少なく、下半身には巻いていない。
ただし、左右の足首にも別々の足枷をつけ、逃げられなくする。足枷の先は以前の鉄球。]
あっ。暴れちゃ駄目。暴れると、もっときつくしちゃうからね。
[ウェンディはそのままセシリアを押し倒し、馬乗りになろうとした。]
あれはセシリアです――。
[目を瞑る。]
昔も今も、……ええ。
[再度開いた時には、口元に仄かに微笑みを浮かべていた。]
……ごめんなさい、ギャドスン先生。
もう、今は休ませて下さい……。
出来れば……我が家に。
[疲れきった口調で、請うた。]
カミーラさまァ、よろしくおねげェします。
[カミーラに深々と礼をし、頭を上げると、ネリーはカミーラの目をじぃと見た。]
カミーラさまァ。
誤解しねェでくだせェよ……
こン村もよォ、ついこの間までァ、平和で静かな、いーぃ村だったんだけンどよォ……あそこの狼っ子がとっ捕まってからは、こォんなにみんなピリピリ殺気立っててよォ……
檻ン中に狼っ子入れたンはァ、村長さまァだ。
そっからよォ……みぃんな……ああなんだゎ。
………怖ェよなァ………
[ネリーは視線を地に落とした。]
[ウェンディを乗せた状態で、後ろに滑り落ちる様に倒れる。
鉄球の重みで不自然に反った足首と、つま先が引き攣れる様に痛む。
食い込む鎖。
仰向いた白い喉元。
やわらかな髪が床に広がる。
ウェンディの意図が分からず、ただ、──…ぁと小さな声を漏らす。]
[既にいくらかの酷い仕打ちを受けているセシリアの衣服はやや破けたりしているが、それでも構わずにウェンディはセシリアを巻き込むように座った。堅さと柔らかさが同居したような座り心地だった。
セシリアを見下ろす。私とはまったく違う質ではあったが、二つに纏めた長い髪や顔立ち、体格を眺めるとああ、お姉ちゃんは美人だな、と思うのだった。]
私もお姉ちゃんぐらいの歳になったら、こんな美しくなれるのかな…
[ウェンディはセシリアの前髪を掻き分けたり、女性特有の体格――胸元、ボディラインをなぞったりしている。
首筋にも触れてみた。体温の低い指先と首元の体温はかなり異なるからか、とても暖かい。]
ええ。解りました。
[担架を運ばせる者を探そうと立ち上がった。
だがその場に、ジェーンをアーチボルト家へ運ぶことに協力する者がいるかどうか、ヴィンセントにも*解らなかった。*]
[ネリーによる村についての解説を聞いて、カミーラの心に少量の安心感が芽生えた。]
そうか…。
それなら尚更、この素晴らしい村の「形」や住人達の「心」が、
人狼達によって蹂躙されるのはもう見たくない。
一刻も早く、邪悪なる者共を
村の皆で断ち切ろう…!
なァ、カミーラさまァ……
ひとつ、聞いていいでござェますか?
[ひとつ瞬きし、カミーラを見上げた。]
狼っ子が……人狼が出たっちゅう村は、いったいどうなっちまうんでござェますンですかェ……?
あの狼っ子が、「仲間が2匹いる」っちゅう話をしてたって、誰からともなく聞いたんですけンど……このまンまだと、こン村は狼っ子3匹に滅ぼされちまいますわァ……。
もしそうでなくてもよォ……
あン狼っ子を野放しにしてるうちによォ、いつン間にかみぃんなあン狼っ子をいじめンのに夢中になって……村が、ヒトが、壊れちまうよォ……
……どうしたら、いいんだべか……?
狼っ子を見つけンのがいいンかェ?
狼っ子と仲良く暮らせってことかェ?……できるとは思えねェけンど……
どうしたら、いいんかェ……?
[半ば自問するかのように、ネリーはカミーラに*問うてみた*]
[まだ、至近距離にウェンディの妖精の様な貌がある。
華奢な指先が、破れた衣服の隙間から滑り込み、素肌に触れる。
小さな彼女が、ゆっくりと上下するセシリアの白い胸に触れているのは、不思議な光景だった。
脇腹に触れられると背筋がざわめく。]
──…ウェンディ。ディ。
大人になりたいの?
[ひやりとした指先が、先程の再生の熱が消え去っていないセシリアに触れる。セシリアは淡い金色の眼差しで見つめ、ウェンディのツンの上向いた可愛らしい鼻先を舌で舐めた。]
美味しそうね、ウェンディ。
こんなことをしてると、食べてしまうわよ。
[セシリアは目を細め、もう一度赤い舌先でウェンディの滑らかな頬をなぞる。]
[喉を反らすと拘束された上半身の鎖が、露出した肌に食い込んだ。
彼女は何故か笑っている。
てのひらの内側に熱が籠り、痺れる様な感覚が指先から心臓に流れ込む。]
──………ぁ。
(──本当は。)
[伏せられた目蓋の裏側には、自分よりも先に死に急ごうとしている男の顔。]
[ネリーの自問紛いな問いに、カミーラは落ち着いた表情で答える。]
ネリーよ、まずは単刀直入に言おう。
人間と人狼との共存は…絶対に無理だ…!
何故ならば、本人達の意思とは関係がなく、
種族としての「本能」が、ともに歩むことを許さないからだ。
ちなみに人狼が出た村は、当然ながら襲撃や処刑等の物理的な意味で人口が減ってしまう。それだけではなく、お互いの疑心暗鬼も滅びへのカウントダウンと化することがある。たとえ全ての人狼を葬ったとしても、村が以前のように戻る保障は全く無い。
残念ながら、これは私が実際に見た…現実だ…!
[カミーラの顔が、先程よりも厳しい表情になる。]
お姉ちゃん、私が美味しそうなんだ…
[頬を優しく舐められてびくっとした。ウェンディは彼女なりにセシリアを完全にどうこうできると成算して接触していたのだ。子供なりに自尊心を傷つけられたのかも知れない。
僅かに、ウェンディの顔から余裕がなくなったようにも見えた。]
お姉ちゃんの口、塞いだほうがいいのかな。
[ウェンディは立ち上がったかと思うと、鉄製の口輪を持ち出し、半ば強引にセシリアの口を塞いだ。
そのままウェンディは後ろ向きになり、下半身を見下ろす形で再び座る。セシリアからはウェンディの長いプラチナブロンドの髪が見えるだろう。鉄球を眺めたりしながら優しく語りかけた。
生半可に優しい分、恐ろしさも覗かせる。]
私、いちどお姉ちゃんの怪我の治り具合を見てみたいの。早く治るのって、本当だよね?
…これね、朝、お父さんの道具箱から1個だけ持ってきたの。 本当だったら、こんなのすぐ治るでしょ?もし嘘だったら、それはそれで罰だからね。
[ウェンディはポケットから何かを取り出し、そのまま少し前傾姿勢になった。]
これは人狼用の鉄じゃないから、安心して。
[これはとは銀、聖銀を指している。
――それは一般成人の中指ぐらいの大きさ、太さを持つ鉄製の釘だった。ウェンディは遠慮なしに、セシリアの左膝、膝関節のすぐ下を思い切り差し込んだ。僅かに血液が零れ出る。]
[セシリアは悲鳴を上げたかもしれない。けれどもウェンディは構うことなく、セシリアの下腹部付近の衣服を優しく掻き分け、その部分を見た。もう、ほとんど完治しているようだ。]
男の人はここが好きなのかな…でも、なんとなく分かるような気もする。私も全然思わなくはないもん。
[ウェンディは少しだけ血の付着した指先で、セシリアのクレヴァスに触れた。
好奇心に吸い寄せられ、二つの瞳はより輝く。]
[彼が、以前のセシリアに声を掛けなかった理由。
それに今の彼が──何を望み、何を犠牲にしようとしているのか。
『彼女』には手に取る様に分かる…──。]
(私の甦りを待つ必要もない。
また再生するまでもなく、「セシリア」を喰らい(以前に比べれば)幾ばくかの──としか言えないにせよ、魔力の糧とする事も出来ただろうに。今、この村を去る事があっても、誰も咎める事は出来ないと言うのに。)
[甘やかな吐息が春風のように心を震わせる。
私は、今は右手と同様仄かに熱を帯びた頬に左手をあてた。
この場にこうしてただ佇んでいなければならないのは、拷問のようだった。]
主は人が悪い――
[半ば苦笑して、微笑む。
私の反応を伺うような眼差し。
主は、私がどう感じているであろうかは見るまでもなくわかっているはずであろうのに。]
[──私を捨てて行け。
とは、『彼女』は口にしない。彼には無駄な言葉で有るが故に。]
[過去に想いを馳せている間に、気が逸れた。]
[カミーラは、時間が経過したことにより、身体の調子がわずかに良くなっていく。
それにより、カミーラは意識が回復した場所からついに立ち上がる。]
あ、すまない。身体が少しでも動けるうちに、私は教会の宿坊へ戻るとするよ。
それじゃ、また後でな…ネリー。
[カミーラはネリーに一旦別れを告げて、教会の宿坊へ*戻っていった。*]
[──口を塞がれた。
口内を潤していた透明な唾液が、口輪の隙間から滴る。
舌先に触れるのは、鉄のざらりとした味。
血液に似た…──。]
──…ッン。
…ぁふ。
(血が──欲しい。)
(或いは肉が。)
[口輪がウェンディの様な子どもに差し込まれた事に、驚きながら。]
[目の前の少女、ウェンディ。
彼女は何処か壊れた人形の様だ。
プラチナブロンドの愛らしい人形が、セシリアをまるで人形だと思っているかの様に、優しく話し掛けて来る。
振り返った人形は何処で手に入れたのか針を手にしていた──。]
(──…ウェンディ?)
[カミーラは、自分の頭の中を整理するように、言葉をぼやいている。]
住民達の中に紛れ込む…か。頑張って、更に多くの言葉を発せねばならないな。
う〜む…どうやって、伝えたら最良なのか…。
[今後の事を考えつつ、己の頭の中で*自問自答をしていく。*]
[プラチナブロンドが目の前で揺れ、幼い残酷さで針がおろされる。
露出した膝。セシリアの急所に──。]
──………ッ。
[口輪の中、それは声にはならない。
躯の内側に燻っている熱を、鋭利な痛みが痺れさせる。
──自らの血の匂い。]
[躯を廻る熱い血潮。
生理的な涙が零れる様な苦痛が、何故か痺れる様な快楽に変わる。
塞がれた口元からも、透明な唾液が仰け反った顎に流れる。
──『彼女』は人には分からぬ言葉で、誰かの名前を呼んだ。]
[ヴィンセントの協力で、行きに、助役を担ってくれた信徒の数名が再度ジェーンを乗せた担架を持ち上げた。
しかし、ジェーンの内心は暗澹たるものだった。]
『帰りたい……。』
[そう、強く思う。
信徒達の手によって、宿坊の方向へと運ばれてゆく。
その後、ウェンディがセシリアを無邪気に傷つけるのを知らずに。]
資産家 ジェーンは、双子 ウェンディ を投票先に選びました。
[布越しに優しくすぐる様に、ウェンディの指先が触れた。
鎖が軋む様に揺れ、セシリアは瞬きを繰り返す。
ウェンディの血で湿った指が触れる、その場所は溶けたバターの様に潤んでいた。]
──……ッ。
[声は何処へも響かない。]
『苟且の生涯、この躰。惜しむべきものなどなにも持たぬ――
魂はかのひとの元に』
[かつて己はかのひとの楯となることはできなかった。そうすると誓いながら。
その果たせぬ誓いをいつか――と追い求めていたのだ。
これは己の本懐であれば、主の軫憂なきように――
胸に刻んだ誓いの言葉を反芻していた。]
……ジェーン。
[檻の格子に背を預けていたクインジーは彼女に声をかけた]
自宅に帰るつもりがあるなら、俺が運ぼう。
着替えも必要であろうから。
[ウェンディはセシリアの潤いを見た。新しいものへの探求心。
もっと触ってみたい衝動にも駆られたが、お楽しみは今後なのか、そこまで深く追求はしなかった。と同時に、ほんの僅か、自らの身体的な将来像も思い描いたが、後々考えようと思った。
まずはセシリアお姉ちゃんだ、と。]
痛いよね。たぶん…痛いと言えないけど。私なら泣いちゃうわ、きっと。
[深々と突き刺さっている釘を力一杯に抜き、取り除いた。
引き抜く衝動、再び鉄が肉をこするる事も苦痛になるだろう。]
どのぐらいで治るのかしら?1日なのかな?それとも2日かしら? そうじゃなくて教会の大きな鐘鳴る間?(2時間)楽しみ。
[そう言いながら今度はセシリアの頭を抱き、膝枕をしながら口輪を外した。]
お姉ちゃん。これからどうするの…? 人狼って他にもいるんだよね?
神父様やクインジーさんは探しているのに必死だけど…ねえ、どこにいるの?
[無鉄砲に質問するウェンディ。だが彼女にとってはそこまで重要な事柄ではないらしい。
四肢の拘束を放置したままウェンディはもう一度、傷の具合を確かめるかのように左足の傷口を押さえ、立ち上がった。]
『此処に居るとこれ以上己の正気を保てない』
[甘い楽土へいざなうようなその声への未練を断ち切り、私は身を起こす]
お姉ちゃん、また来るわ。私、もっともっといろいろ知りたいの。人狼がどんなものなのかを、ね。
周りの人達は殺せ殺せ言うけど、私、軽はずみにお姉ちゃんを死なせたくない。
だって、私、楽しいもん。
[小さめの人形は雁字搦めの人形に語りかけ、そのまま檻から*出ていくのだった*]
……
[真意を測るような眼差しだったのも一瞬の事、そこには疲れきった中年の女性がいるだけだった。]
ええ。
……貴方は、人の心を見抜く力があるのですね…。
[薄っすらと微笑む。]
少しだけ、家で……一人になりたいのです…。
[クインジーから、僅かに目を逸らしながら。]
[従僕は『彼女』が安息の地を得て、其処で幸福な生を送る事を望んでいるのだろう──。]
莫迦だ。
私に、何処の誰の子を孕めと言うのか。
[訝しげな一瞬の眼差しに苦笑しながら]
いかに寡婦が一人住む家であろうと、満身創痍の女を手籠めにするほど餓えちゃいないさ。
心配なら、そこのギャドスン医師にも付き添ってもらえばいい。
[そう云うと、担架を担ぐ]
「一人になりたい」
[それも無理のないことであろうと思いながら]
ふふ…何故か貴方に対して、そのような事を心配してはいません。
それに、――……もう失うものはありませんから。
[ ジェーンは、もし宿坊に戻されていたのであればアーチボルトの家へ一人ででも戻ろうと思っていた。普段であれば数十分もあれば辿りつけるだろうが、現状では二時間近くかかったかもしれない。]
――貴女様に相応しい男が現れましょう。
[主の云うように、私は莫迦な男だった。
愚かな男は相応しくなかろう――と自嘲めいた苦笑が浮かんだ]
[それ以上、ウェンディが深く触れる事も無かったと言うのに、『彼女』は恍惚として、波に揺らされている。
檻からクインジーが出て行く足音を目を閉じて聞く。]
[針が引き抜かれる痛みに、また鋭い感覚が走り、夢から醒めた様に正気に返る。
ウェンディの小さな貌に、それでも焦点の合わない濡れた金色の目を向ける。幼い膝枕に、沈み込みそうな頭を委ね、口輪がはずされるに任せた。]
ッ──…んぁ。
[唾液がまた滴る。
ウェンディは、セシリアの答えよりも傷口を抉る事に興味が有るらしい。小鳥の様な声で一方的にセシリアに「愉しみ」について語り掛けると、ウェンディは檻から出て行った。]
へぇ……
[如何に聖職者であれ、己は最早男を感じさせぬほど俗世から隔たったのだろうか。そんなはずはないのだが――と思いながら、クインジーは荷車に担架を乗せ、歩み出す。
「失うものはない」という彼女の言葉に、表情は曇った。]
誰か手伝ってくれそうな人はいるのか?
[帰宅しても、食事や着替えの雑事は不足ないのだろうかと懸念しながら声をかける]
[コトコトと規則的な音を立てながら荷車が動き出す。]
貴方がノーマンのような男ではないことは、分かります……。
さぁ……どうでしょう。
[何処か思いつめた表情で、クインジーの問いに上の空で答える。食事、雑事、村の協力が望めるのか、――それすら、今は思いを馳せられないようだ。
道中、粉屋の女将とミッキーから罵倒を受けたが、唯、そよ風に乱れ髪を揺らされ空を見上げているだけで、応えようともしない。]
…ウェンディ。
おかしなコ──。
本当に、何を考えているの──。
[静かになった檻の中、天井を向いて横たわり、セシリアはゆっくりと息を吐いた。
針で刺された傷が、また再生し始める──熱が、今度は膝裏から這い上がって来る。その感覚に集中している間は、ジェーンをはじめ、あらゆる現実の事を*忘れられそうに思えた*。]
(それにしても、)
(私は、つまらない女だ──。)
(あの時、聖女になり損ねたまま──…。)
[いらえに対して、「…莫迦」ともう一度呟く。
やわらかな胸が小鳩の様に震える。
──空腹だけではない、飢え(かつえ)を感じた。
今、檻の中で横たわる『彼女』の白い頬は薔薇色に染まり、口唇はまるで誰かの接吻を待つ様に*薄く開かれている*。]
一つ、尋ねても宜しいかしら……。
[気紛れのように、声がかかる。]
クインジー、貴方はあの子(セシリア)に対して……そうね、何かをしたいという欲望はありますか?
教会のものとしてではなく。
文学少女 セシリアは、牧師 ルーサー を能力(襲う)の対象に選びました。
文学少女 セシリアは、ちんぴら ノーマン を投票先に選びました。
[「ノーマンのような男ではない――」という言葉には答えを返せずにいた。ただ、黙して空を仰ぐ。
かつて戦乱に呑まれ、異端審問が猖獗を極めたあの地で己が何をしてきたかを知ったなら、この女はどう思うであろうかと考えながら。]
……セシリアの私物をまた取りに行かせてもらうかもしれん。
[世話をする者に思い当たる節のない彼女の様子に、その折にでも食事を運ぶ機会があろうかと思っていた。]
んなぁ!?
[クインジーはジェーンからの問いかけに虚を突かれたように声を上げた。]
……なんだ、いきなり。
妙なことを聴くな……
[苦笑する]
……まあ、正体が人狼になりかわっちまったか元々狼かは知らねえが、仮にもあんたの娘だからな……心配にもなるだろうが。
客観的事実として、健全な男がなんらかの感情を持たずにはいられない程度には、あんたの娘は整った容姿ではあろうよ。
[セシリアにつきまとっていたミッキーの姿もまた、思い出された]
……貴方は教会の僕ですから…少し、気になっただけです。もし、貴方がそのような立場ではなく…また、セシリアがセシリアであり続けていたのなら、と―――
[「きっと疲れているのですね……」
そうジェーンは*区切った。*]
―アーチボルド家―
[アーチボルド家は村の中でも数少ない石造りの家であった。]
『「教会の僕」ねえ……』
[ジェーンから、ミッキーが敷地内に踏み込んだという経路やセシリアが怪我を負った現場の案内を受け、記録として残す己の役目に忠実でありながら、どこか「教会の僕」というその言葉を虚ろなものとして受けとめていた。
クインジーは修道会に飼われてはいるが、身分は在俗の水車番に過ぎない。この地で正式な聖職者となるには、過去の閲歴が重い枷となった。否、そうした役職につこうと努めたことすらなかったのだった。伝手があったから身を寄せたにすぎない。
クインジーは、信仰の道に何らかの希望を見いだす種類の人間ではなかった。]
[その自分が、なぜ“異端審問官”として名乗りを上げたのか。己の立場の皮肉に自嘲の笑みが浮かぶ。
信仰心とは無関係に、悪魔や魔女、人狼を見いだしそれを弾劾するすべを身につけていたからだ――意識の表層でそのような説明をつける。
――だが]
――――
誣告によって弾劾されたセシリア。
只管信じようとする母親――。
――そうだ、それらが、
なにもかもが――
屹度、腹立たしかったからだ――
――――
[神の名を聞いた乙女は魔女として焼かれた。それも、拷問吏たちによって代わる代わる陵辱されて。
処女は火刑に処することはできなかったからだ。
異教徒を狩る騎士は財を貯め込み、その財を目当てにした国王に異端者として狩られた。
狩る者が狩られる者に、それを狩る者がまた狩られ――]
…神……か…
[遠く、教会の鐘の音が緩やかに響いた。
今は、日々の勤行すら満足に果たした試しがない。
ルーサーはクインジーの信仰心の程度をよく知っていたことだろう。
――とはいえ、教会で働いているだけで敬虔な信仰心を持っているように思われ得るものなのだろうか。
だが、己はジェーンの思うような男ではなかろう――そのように思いを巡らしながら、案内をしてくれていた彼女に礼を言い、一旦はその場を*辞した*。]
―檻―
[アーチボルド家で預かったセシリアの衣類を小脇に抱え、クインジーはそこに戻ってきた。
檻の中央には、後ろ手に手枷で束縛され、両足首に足枷と鉄球をつけられた不自由な姿勢でセシリアが横たわっている。
スカートは足の付け根ギリギリまでたくし上げられていた。
すらりと伸びた真っ白な足が目眩く目に飛び込む。
左足の下には赤黒く血溜まりができていた。
クインジーは疵をあらため、血溜まりを拭った。
足を傾けると、スカートの布地が波打つようにゆったりと流れ、内腿の奥が仄見えた。]
[その扇情的な光景から目を背けるようにしながら、足枷の鉄球を外す。
柔らかなリネンの下着を足首に通し、滑らせるように上へ上げてゆく。
細い腰を抱き上げ、その身を起こした。]
――淡く色づいた頬。
――蕾のように綻び濡れた唇……
『…ああ……』
[かのひとを抱き起こす時、我知らず指先がそっと――その唇に触れた]
[ゆっくりと下着はスカートの中へ導かれた。
下着を履かせ終えると、後ろ手の拘束を解き、鎖を前に回す。
彼女は横臥するに楽な姿勢となった。]
今は、少しでも休んでおくことだ。
もっとも、それはお前自身のためではない
いずれ、また尋問を受けるだろうからな――
[冷ややかな声で告げる。
やがて、身を屈め、*檻から出ていった*]
―檻の中―
[ネリーは、セシリアの下に敷いた藁を取り替えている。じっとりとした重みを含んだ藁を小さな桶の中に放り込み、ネリーはひとつ溜め息をついた。]
狼っ子よォ……
おめさん、ずいぶんとシアワセもんだよなァ……
………皮肉じゃねェ。
おめさんだって、殴られたり刺されたりしてつれェかもしンねぇけどよォ……
おめさんが化けモンだって分かっても、檻ン中で世話してくれる人間がいる。マトモじゃねェかもしんねェけど、食事だってある。
それに………
おめさんが殴られたり嫌なこと言われた時ァ、おめさんを庇って泣いてくれる母ちゃんがいる……
………ズルイもんだェ。
だからよォ……
おめさんが泣こうがわめこうが、おめさんが不幸だなんて、オレにァとうてい思えねンだ。
化けモンのくせに、人間様ァよりシアワセってェのは、不思議なモンだェな。
オレみたく、クソまみれになりながら、自分じゃ喰えねェ鶏締め殺して「汚ねェ」と石投げられて、それでもなおそいつらの言うこと聞いてなきゃァ野垂れ死ぬだけの人生と……おめさんみたく仲間がいるとかいう「恵まれている」化けモンと、どっちがシアワセかェ……?
……だからよ、おめさんが「不幸」になるのを、オレはちっともかわいそうだなんて思えねンだ。それどころか、おめさんが「人間でない」のなら、もっと不幸になれと呪いてェ気持ちにすらなるんだわ。
……悪ィな。
―村長宅/ノーマンの部屋―
[自室からの人払いをして、振り子を手に地図に向かう。]
はぁ………はぁ…。
[ふと見取り図の左端が、牙を生やした狼の顔に見えた。
普通であれば、よほど想像力が豊かではないと
そうは見えないと思うが、敏感に反応した。]
うっ………!
[激しい嘔吐に襲われる。右腕を咬まれた瞬間が
鮮やかに記憶に蘇ってくる感覚だ。]
ぐっ……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
痛え!!痛えよお!!咬まれたぁぁぁぁ!!!!
[まるで、目の前の「人狼」にたった今咬まれた
かのように、*のたうち回る*のだった。]
[大まかな筋書きは、従僕が考えたものと変わらないが。]
──最初に、人狼の力で持って神父を殺せば良い。
それは変わっていない。
[それと同時に、疑心暗鬼に駆られた村人の振りをして。
或いは、一種の正当防衛を装い──“村人として村人を殺した”と言う演出を、檻の外に居る二人が出来ないかと、ふと考えた。]
尋問官を装う者にはむずかしいかもしれないが。
カミーラならどうだろう。
誰なら自らの手で殺せそうだと思うか?
[声を飛ばす。]
ネリーあたりなら、世話に入った隙に私でも殺せるのかもしれない。
文学少女 セシリアは、見習いメイド ネリー を投票先に選びました。
[クインジーがジェーンを運んでいる間、『彼女』は中空をぼんやりと見つめてそんな事を考えていた。]
[下敷きなった腕が痺れ、そこには感覚が無い。
格子越しの青空は──今も昔も変わらなく澄んでいた。
完全に人狼に変化したと言う黒衣の女。
カミーラの事を思い出す。旅をする間に人間だった時代の彼女はすでに失われ、此処に辿り着いた頃には残骸だっただろうか。セシリアが捕獲されてから、村の警備やお互いの監視は信じられない程厳しくなっていた。もし、不審な女が一人逃げようとすれば、直ちに密告されるか、その場で殺されるか──。
カミーラも生き延びたくば、村の人口がちょうど良い頃合いに減るまで、人間のふりをし続けるしかないのだ。]
──檻──
[腕を下敷きにして仰向けに藁の上に寝転ぶセシリアは、異国の言葉の様な響きの歌を口ずさんでいる様に見えた。歌はやがて、異国ではなく古いイングランドの何かに──旋律を変える。
クインジーが戻って来た事に気付く。
衣類を見て、彼がジェーンから服を預かって来たのでは無いかと、瞬きをした。ジェーンは何か、言っていただろうか。それを口にする事は出来ない。]
[血溜りの近くの針傷は、教会の鐘が一度なる間に、小さな赤い痣を残すのみになっていた。再生の過程で、セシリアの肌はまた白く輝き、その頬は上気している。
──…傷を確認した後に、着替えまでを男の彼がする気らしいと気付くが、セシリアはぐったりとしてクインジーのするがままに任せた。敢えて逸らされている、視線を感じながらも。]
…──────。
[余談であるが、この時代に清潔を目的として下着を取り替える事は先進的だったと言えよう。セシリアはやはりこれは、ジェーンが頼んだのだろうか、と考える。
咎める様な視線にならざるを得なかったのは、ウェンディによって足の急所を刺された時に、全身を駆け抜けた刺激──…二種類の理由から、セシリアの下敷きになった藁は重く湿り気を帯びていたからだ。
尋問については、覚悟が決まっているのかセシリアからは何も口にしない。セシリアは躯の*位置を変えた*。]
―村長死亡の二日後・朝―
[セシリアがウェンディに一方的に遊ばれてから1日が経った。村長代理であったノーマンの負傷により、ルーサーが村人達の狂騒を静め統率をしている状態だ(尤もノーマンに村人達を健全に統率は出来ないだろうが)
明確な新しい方針をノーマンが打ち出せない中――、村人達は自然、死去した村長の言葉を思い出す事になる。
やっと捕まえた人狼、檻の中の少女を手がかりに――
「…この不浄なる魂を持つものに制裁を加えて欲しい。誰でもよい。方法も問わぬ。
おのおのが思い思いのやり方で積年の恨みを晴らして欲しい。と同時にこの者を使い、他の人狼を探し抜いて欲しいのだ。」
積年の恨み、それはセシリアによって負傷した人間が増えた事で倍増している事だろう。]
―アーチボルト家―
[石造りの茅葺の家。質素だが木造の家より頑丈で投石などでは破壊はされない――だが、現在、この家は静まりかえり、暗かった。
ノーマン派のもの達によって掘り返され、茶色い山が幾つも出来た庭。この頃であれば薬草として使われていた薔薇も植えられていたが、それも無残なものだった。こんなものなど相応しくないと突きつけるように。]
[ジェーンは暗い中、寝台に横たわりじっと悪夢と戦う事もなく、眠りについていた。
クインジーが家を去ってから、一人また泣き続け、深く疲労していたのだ。]
[泣き続け]
[泣き続け]
[全身の水分を無くし、混乱した感情の塊を吐き尽くし、引き裂かれるような憂いが全て白紙に戻せたと思える程の時間泣き続け――ジェーンは、やっと眼鏡をセシリアの部屋の小箱―布に包み―の中に置き、眠りについたのだった。]
[外には篝火――人狼の夜間の襲来に備えて。]
[彼女の世界がまた変質した日の
次の日の朝、一人、ジェーンは目覚めた。]
[藁を交換するネリーからは、肥溜のにおいがした。
その仕事が終わってから来たのか、においが染み付いているのか。
糞便の匂いの出もとが健康でさえあれば、その強烈さがペスト感染予防になると考えられていた時代もあるのだが、それはどうなのだろう。
腐臭にも似ていた。
かつて──あの日の当たらない地下の拷問室に、最初に足を踏み入れた瞬間を思い出す。うじがびっしりと張り付いた捻れた肉塊が壁一面に並ぶ、凄惨な光景。器具にこびり付いた肉片や、皮膚が張り付いたままの髪の束。生々しい痕跡──。隣室から聞こえて来る何かの回転音と悲鳴。あざけり声。
真っ黒な床の上を軋む様な鳴声と共に大量のねずみが駆け抜けて行く光景に、背筋が凍った。
あらゆる拷問風景を見せられた後、彼女は別部屋へと*連れて行かれた*。]
―アーチボルト家―
[目覚めたジェーンは、苦労しながら、また血が滲んだ衣服を代える事にした。脂肪によって柔らかく、或いはこの年齢に相応しく醜く弛んだ皮膚は、青黒く、浅黒く、褐色の色をもって内出血と裂傷の程度を示している。
すっかり年をとってしまったように、艶をなくした髪の毛。左目の下に疲れが現れている。
怪我の程度が酷い所には布(包帯)を代える。
服は落ち着いた色合いの蒼褪めた色だった。顔を隠すように白い布を被る。]
ゴホッ……。
[セシリアが居たからこそ、どんな仕打ちであっても、どんな痛みであっても、精神力だけで動いてきた。]
―アーチボルト家―
[どれくらい眺めたであろうか。
――ジェーンは重く、重たい体を引き摺り、扉を開けた。扉の前には、糞尿が撒かれている。
ジェーンは一本の木の棒を支えに、セシリアの檻へと向かう。普段なら簡単に歩ける道は、今や厳しい峠の道に程近い。そして、出来るだけ人目を避けて行かねば、己の身が危うくなるのだ。
長い長い長い長い時間をかけて、奇跡のように、無事にジェーンは檻の近くへと現れる事が出来た。]
―聖銀の檻へ―
──檻・村長死亡の二日後──
[セシリアは昨日のネリーの呟きを思い出していた。
──果たして、不幸とはなんであろうか?
幸福とは、生きて行く意味とは。
セシリアは、自分へでは無い投石が、外れた塀にあたり弾ける音を聞く。遠くから檻へと近付いて来るあの姿は──。
…ジェーン・アーチボルド。]
[ジェーンは傍らの見張り役の兵士に開けてくれるように頼んだ。胡散臭そうに、そして、じろじろと無遠慮に体を見回す。]
私が狼なのでしたら……一緒に閉じ込めれば宜しいでしょうし、会話からボロが出るかもしれませんわよ…。
[失うものがないもの特有の口調で告げた。
見張り役はしぶしぶといった感じで鍵を開けると、後ろへと下がる。
ふと、見張り役は空を見上げる。雲行きが怪しい。雨が降るかもしれない、と檻横の幄舎に移動する。ここからでも話は聞けるだろう。]
[俄の曇天。
暗い空の下、はじめて檻の中で真正面からジェーンに向き合った。此処で一体、何を言えば良いのだろう──。]
…お母さん。
[立っているのもやっと、という態で見つめていたが、少女の呟きに母親は、ただ静かに微笑んだ。]
…セシリア、一度だけ、抱きしめていいかしら。
[セシリアは拘束された状況で出来るだけ、ジェーンと向かい合いやすい姿勢、目線の合うようにしようとする。金色のまま、元へは変化しない瞳の色。
ジェーンの言葉に、セシリアはジェーンの言葉に震えながら頷いた。]
[いまだ、セシリアとして人間の様な意識を持っている事を咎めもせず、それでも『彼女』を救う為に、命を課している己の従僕。]
お母さんには、幸福に──生きていて欲しいけれど。
[ヴィンセントが彼女を連れて、村を出てくれれば──と思う。
──…けれども、未練は、捨ててしまわなくては『彼女』が生き延びる事はむずかしいのではないだろうか。アーヴァインに捕まった様に──また。
…彼が捕えられ殺される事は──もっとも堪え難い。]
[頷きに、ジェーンは一歩一歩近づく。
金色の瞳にビクリとしたようであり、一瞬視線が揺らぐが、またセシリアの顔を見て、拘束された少女を抱きしめようとした。傷ついた右目の血臭――。]
………。
[匂いもセシリアのままだった。
柔らかい猫っ毛の髪が、左掌に包まれる。ほっそりとした、少女の体。]
お尋ね者 クインジーは、見習いメイド ネリー を投票先に選びました。
[眼鏡はもうジェーンの手に渡した。
セシリア・アーチボルドはもう居ないのだと言って。
今、彼女の手足を拘束する枷と鎖、聖銀の檻──。
母親はセシリアを檻から出したがっていたと言うのに、皮肉な事に、この場所から出る事が叶い、力を取り戻したなら。
セシリアは『彼女』に取り込まれ──『彼女』の一部として溶けて消え失せてしまうだろう。]
[びくりとされた事に、胸の痛みを感じる。
けれども──…温かい。
ふれたジェーンの豊かな身体。たゆたう様な母のぬくもり。
過酷な状況で酷い傷を負いながらも、変わらぬ。
血臭に気付き。
セシリアはジェーンの傷にさわらぬ様に、右目の周囲の肌にそっと軽いキスをした。]
[セシリアの変わらぬ仕草に。その触れるようなキスに、少しだけ、口元を綻ばせる。
ジェーンは強く強く、セシリアを抱きしめ。
頬に、一度だけキスをした。
一度だけ。]
牧師 ルーサーは、ちんぴら ノーマン を能力(守る)の対象に選びました。
[頬に触れる、日常の懐かしい習慣。
『彼女』がセシリアに乗り移ってからの時間、注がれてきた母親の愛情。──それが、深く、温かく、重く感じられた。
平凡な日常にあった頃の記憶が走馬灯の様に甦り。
ぎゅっと目を閉じる。けれども、彼女の有罪を示す書類に、名を書いた今は──]
……────。
[目を開いた。]
[壊れ物を扱うように、しかしやや名残惜しげにも、――ジェーンはセシリアから離れた。そして、彼女を見ながら話し始めた。]
貴方が、2年程前…でしょうか……言いつけを守らずに森へ行き、服を水浸しにして帰ってきた事がありましたね……。その時、貴方は川に落ちたと言っていたけれど――。
[呟くような声ではあるが、
幄舎に待機している兵士にも充分聞こえる声だ。]
そうではなかったのね……。
[菫色に近い碧眼が金色の瞳を見ている。]
[当時のセシリアには、家を抜け出し、森の川縁で読書をする習慣があった。夜の恐ろしい暗闇とは異なる──昼間の森。
気候が良ければおだやかですらあるその場所。
木漏れ日のやわらかな、その場所がセシリアのお気に入りだった。]
──…あの話を。
[ジェーンにセシリアの事が分からないはずが無い。]
…ずっと、それを。
この場所でお母さんが口にする瞬間が怖かった。
[唇同士を、くっと強く合わせ、]
心当たりがあるとすれば……それしかなかったわ……貴方がアーチボルト家で暮らしていた間、私はずっと――娘だと思っていました。
[しかし、首を振った。「いいえ」と。]
貴方はアーチボルトの娘です。
だから――あの眼鏡は、貴方のもの。
私にはもう、必要ありません。
[右手を振り上げ、セシリアの頬を平手打ちした。]
私は人間で……貴方は人狼……。
よく、お聞きなさい……、私は――人間だからこそ、貴方を守れない……守れません。
”ここ”にセシリア、貴方が”居よう”とも――っ!
[抑えようとも抑えきれない、体の震え。]
[蘇る。『彼女』にはまだ新しい記憶。そして「セシリア」の記憶。]
[こもれ日を背に菫色の瞳を見開いた、まだあとけない少女。]
[何時ものその場所。血まみれの「何か」。]
[黄金と淡い紫色が交錯し]
[草の上に何か転がる音]
[黒い影に少女の視界は覆われる。]
[白い喉だけを凝視する金の目][突き刺さる獣の牙の感触][聞きなれたくぐもった悲鳴]
[血の匂い][血の匂い][甘い][くちかけた]
[影はやがて少女の中に溶け込む。]
[セシリアは口内に人肉を味わった余韻が残っている事に気付く。]
[足元がふらついた。
日が傾く時刻に、母が待つ家に、セシリアは帰った。]
[頬を打たれ、子どもの様な顔になる。まばたき。そして、ジェーンにうなづく。]
私は人狼。
貴女は人間。
お母さんは生きてください。
[セシリアは不自由な首を捻り、顔を背けた。]
見習いメイド ネリーは、資産家 ジェーン を投票先に選びました。
[この時代、高価な眼鏡を渡すと言うジェーン。それは、傍らの兵士からすれば侮蔑する事だった。売り払えば充分金になるのだ。]
長くはありません……。
ふふ…莫迦な母親ね……せめて死ぬのなら、貴方の牙によって殺されたいと願ってしまったなんて……。
[ジェーンは俯き加減で、枯れたと思った涙を落とした。
首を振る。]
小箱は隠しました。よく知る場所に。
貴方が……生きて出られるなんて到底無理でしょうけれど――後二人、仲間がいるのでしょう……?
[それ以上は何も言わなかった。]
人間の務めです……それに、人狼は憎むべきものです……私は、この村の人間として、人狼を……探します。死ぬ、その時まで。
お別れですね……。
―村の外れ、畑の脇にて―
狼っ子よォ………
化けモンふぜいのおめさんが、人間様のオレよりシアワセなンは、どおしても許せねンだわ……
けどよォ……
オレぁ、死んじまった村長さまァの言いつけ守ンなきゃなんねェからよォ、オレはおめさんを殺せねンだ……。
おめさんを殺せねェんなら………
おめさんの母ちゃんが、いなくなりゃァいいンだァ……
[ネリーは、胸に呪詛の言葉を張り巡らせ――人狼の糞尿と、性欲を仄めかす怪しげな液体でじっとりと重くなった藁を、肥溜の中にぶちまけた。]
双子 ウェンディは、医師 ヴィンセント を投票先に選びました。
医師 ヴィンセントは、資産家 ジェーン を投票先に選びました。
――昨晩/水車脇の貯水池――
《ザバァ!》
[水を拍つ音が宵闇に響いた。
水中にゆらゆらと、赤錆色の髪が広がっている。
火傷した手を清潔にし、また冷やすため水車脇の池に屈み込んでいたクインジーは、今はいつしか熱を帯びていた頭をざぶりと水中へ突き入れていた。
清涼な水の流れに心を委ね、静穏が訪れるのを待つ。
水底には月の影が落ち、揺れていた。]
[髪をぞんざいに絞り、未だぽとぽとと雫を滴らせたまま百合の根を潰す。手製の塗り薬を掌に塗った。
水車番の寝起きする詰め所にて、羊皮紙にその日の出来事を書きとめる。利き腕でない左手での記述はやや覚束ないものだったが、そのうち慣れることだろう。
やがて蝋燭を吹き消し、藁敷きの寝台へ身を横たえた。]
[熱い息を吐く。容易に眠りにつくことができそうになかった。]
………様……
[魂の言葉でその名を呼びそうになり、それは秘したる想いであるはず――と喉の奥に呑み込む。その真名は炎のように熱く、胸を灼いた。
かの人が私の指先を含んだ時、戦慄のような高揚が背筋を這いのぼった。
肩の刻印が熱を帯びる。]
資産家 ジェーンは、牧師 ルーサー を投票先に選びました。
[アストール・ルール=Astor Roul=、それが己の名前であった。
盟約を魂に刻みし日のことを、忘れたことはない。
剣を佩き、主が我がうなじを打ち据える盟約の儀を、私は誇らしい気持ちで迎えた。
主の爪が肩の肉に盟約の証を刻む。
かの人に仕えし従卒は皆斃れ、私が最後の騎士となった。
肩に刻印されしは、コキュートスを渡った儕輩の数。
主は一つ一つの魂を刻むように、そこに痕をつけた。
五筋の絆――]
「――…私はVIの数字は好きではない」
[忝なくも賜ったその言葉を……私は得難いことと押し頂いた。
それは、私に「死ぬな」とお命じになられたように思えたからだ。]
[主に賜った“5”の刻印。私は“人”としては以後、“5”を語源とした名前――クェンタンを名乗った。
この地に渡りてクインジーと名を変え、そして――
――今、ここにある。]
[人狼の再生の力にて皮膚は塞がって、常の状態であればその刻印は人の目につくことはない。
だが、皮膚の下に刻まれたその証は、魂に刻んだ盟約と同じく消え去ることのないものだった。
“人”として、どのように己を偽ろうとも、魂は主の元にあるように。]
――翌日
[主の思索に答えるべく、言葉を紡いだ。]
人狼の力を用いて殺めるべきは―― 神父 ですか。
わかりました。
私は主に“おまかせ”しようと思っています。咄嗟の折に意志が変わったとしても大過なく対応できようかと思います。
[“死者を見定める力”について、どうしてもギャドスン医師の存在を見過ごしにできなかったのは、彼が解剖に長けているのではないかと考えたからだった。
アーチボルド家でジェーンと話し、ギャドスン医師がパドヴァの大学で学問を修めたと聞いたように思うからである。ヴェネチアにほど近いその場所は東方に開かれ、先進的な学問が研究されていた。ことに、医学や解剖学で知られていた。
私は修道会の学僧から伝え聞いたその種の話と共に、ギャドスン医師についての見解を主とカミーラに伝えた。
もっとも、ギャドスン医師については主の宿る「セシリア」も知悉していただろうが。]
神父はあるいは私との繋がりを考えられやすいかとも思い、“人狼”の代わりとして村人たちの標的にもできるかとも思っていました。
ただ、神父はカミーラに目をつけているようで……カミーラが逃れるためには神父を早いうちに手にかけることもそう悪いことではないのかもしれません。
[内心、神父が主をどのように告発し弾劾するかを見てみたい好奇心もなくはなかったが、私は主の判断に委ねた。]
人として、殺める相手を ネリー とすることにも反対ではありません。
私としては、既に主に弄んだウェンディを、とも考えていました。
しかし、酷薄な身上のネリーが主の命運に同調し助けとなることはそうそうないことのようにも思えます。その見込みがどちらがまだしも色濃いかといえばウェンディであり、ネリーを優先して手にかけるというのは理に叶っている道筋であろうとは思います。
――狼としては 神父 を襲い
――人としては ネリー を殺める
今の時点で、その方針に異存はありません
カミーラ、おまえは如何、考える?
[声はそして*遠ざかった*]
―翌日・教会の宿坊―
[カミーラは現在、ベッドで眠りについていたが、囁きによって意識が目覚める。
狼達の方針について聞かれたので、寝ぼけながらもそれについて応答をする。]
ふあーあ、よく寝た。
…なになに、今回は神父を襲撃して、ネリーは処刑…で良いんだっけ…?
それについては、特に反対はしない。
[同族からの挨拶を受けたので、こちらも挨拶をし返す。]
あ〜おはよう、クインジー。今の時間帯は、朝か。
それにしても、あの時に怪我をした腕が少し重いな…。
[少々眠そうな調子でぼやいている。]
ふむ。
主がギャドスン医師(ヴィンセント)を生かすつもりなら、腕の怪我をギャドスン医師にみてもらうのがいいのかもしれないぞ。
_________________
[闇の中でも輝く黄金の光。
冷たくなりつつある風に『彼女』は、檻の中で小さく身を震わせた。]
──…エロイーズ。
[名を呼ばれた様な気がした。
肌が寒さに粟立つものの、躯の芯に仄かに淡い熱が残っている。]
[嘗ての『彼女』の名前は、Eloise──。
最初に彼女が「神の声」が聞いたとされているのは、彼女の父が「──婚約者を決めた──」と彼女に告げた夜。──…13番目の月の下だった。彼女の聞いた「神の声」が正しかったが為に、彼女の婚約者の名は、天秤の片皿に金貨を積み重ねる様にして、短期間に3度も変わる事になる。彼女の生活は、その日を境に一変した。]
ギャドスン医師?
もしかして、あの眼鏡をかけた医者のことを言っているのか?
…ああ、分かった。
とりあえず、何か話をしてみるとするか。
…アストール。
[────…今、『彼女』の中、甦っているのは、拷問室での凄惨光景でも、最期の落日でもなく──…過去の、短い、刹那の幸福の時代の*記憶だった*。]
_________________
──朝──
[会話を聞いている。
ヴィンセントの名に、セシリアとして痛む感情がある。
胸が刺された様に痛んだが、しかし、]
お前がそう言うならば。或いは、カミーラの都合があるならば。
ネリーではなく、隙を見て医師を殺してもいい──。
―教会の宿坊―
[カミーラは教会の宿坊へ到着した。どうやら体調はあまり良くない様だ。]
ただでさえ怪我をしているというのに、頭も痛くなってきやがった。
今すぐ寝ないと、不味いことになりそうだ…!
[カミーラは自分の体調を考えてベッドの中に入り、そのまま眠りについた。]
[以下、翌日へ進む…。]
主よ――お心のままに。
[一度に二人、男の命が喪われるのも興が冷めるであろうかと思いながら返答を返す。セシリアを愛惜するのは女より男であろう。]
資産家 ジェーンは、双子 ウェンディ を投票先に選びました。
――道程――
[檻から出たウェンディの足取りは軽いものであった。自分の思い描いていた計算が全て滞りなく進んだ訳ではなかったが、概ね檻の中の少女を思いのままに動かす事が出来た所に笑顔の根元があるようだ。]
また誰もいない時に行ってみようっと。
ほったらかしにしちゃって出て来たけど、お姉ちゃん、今も大丈夫かな?
[誰もいない道をひとり進み、日が暮れるのだった。]
―翌日・教会の宿坊―
[朝が訪れた。カミーラは、ベッドから起き上がる。]
ふあーぁ、よく寝た。
それにしても、腕が…まだ痛い。
[負傷した二の腕がまだ痛む。]
[長く無いと言う言葉を否定する様に、首を横に振る。]
…お母さん。
短い時間でしたが、本当に有り難うございました。
心の底から──貴女に感謝している。
巻き込まずに済めば、どれほど良かったか。
貴女の目が失われずに済めば──。
[眼窩を抉られれば、自分自身であっても回復しないであろうと言うのに。──セシリアの頬に涙が伝うが、咳き込んで、息をついて、息を吸う。動作。]
仲間…と言う様なものではないのだわ──きっと。
[呼吸が苦しくなるにも関わらず、首を振る。]
けれども、これからは別々の道を…──。
お別れです。
[その後、一つの疑問が浮かび上がる。]
そういえば、この村に医者っていたっけ…。
…今から、探しに行くとするか。
[カミーラは今から医者を探すため、宿坊から出て行き、教会を後にする。]
[ジェーンは緩めた右手を、先程、打った頬へとあてて――撫でた。温かい水滴が、ジェーンの掌に染み渡る。]
さようなら……セシリア。
[毅然と。
踵を返し、檻の外へと歩いて行く。
頭から被った白い布を首元で掴んで。その左頬は、涙で濡れていた。セシリアの視線を感じないように、唯、足を進める。
空は、いよいよ、その色を澱ませてきていた――。]
それもまた、お心のままに。
――エロイーズ様
私は襲う相手については“おまかせ”してあります。
人としてはネリーに。
―翌日
――――――――
鈍色の雲が折り重なり、重々しく空を圧してゆく。
予はすん、と鼻を鳴らす。
雨の気配がした。
静閑な水底を思わせる蒼褪めた衣服を身に纏った女が、檻の中で人狼の娘と対峙している。頭から被っていた白い布が、彼女の置かれている立場を物語っているように思えた。
曇天の中だからか、檻の前の人の数はいつもよりは少ない。
そこで、どのような会話が為されていたかはわからぬが、女の言葉に、静謐な中にも決意らしき感情が籠められているように察せられた。
――――――
疎らな人影の中に、一際背の高い男がいつしか佇んでいた。
予のよく知るはずのその男が何を考えているのか、その時ばかりは量りかねた。感情の見えぬ表情だった。
“母娘”の対峙が区切りを迎えようとした頃、
男は檻の方へとゆっくりと近づいていった。
――――
――なかなかに感動的な場面だったじゃないか。
[底意地の悪さを感じさせる微笑
ジェーンに底光りのする眼差しを投げる。]
逃亡者 カミーラは、見習いメイド ネリー を投票先に選びました。
[ジェーンの掌が頬に触れる。
肉体的な傷とはまったく言えない。けれども心が軋む様に痛む。
…別れの──それは別れただった。]
…さようなら。
本当にさようなら、お母さん。
[重たげだった曇天は灰から黒へと変化し、雨が、激しい雨が──。
温かな水滴を押し流す滝の様に、唐突に打ち付けられる。檻の天井にも。
セシリアは、去り行くジェーンの背中を無言で*見送った*。]
―村長の屋敷―
[ザバァ………ザバァ………
白い布が、木製の桶の中で水浴びをしている。]
はァ………
旦那さまァが亡くなったり、ノーマンさまァが狼っ子に腕食いちぎられて大ケガされたりでよォ……こン村ァ、どうなっちまうんだろうなァ………
[屋敷の裏に貯めておいた雨水を桶の中に注ぎ込んだ。]
奥さまァも、お嬢さまァも、心労でひでェことになってっしよォ……村ン人間は、狼っ子いじめンのに夢中だしよォ……
あン狼っ子がとっつかまってからというモノ……村はめちゃめちゃだァ……
[ネリーは冷たい水の中に手を入れ、ざばざばと白い布を洗っている。]
[ウェンディは村はずれの自宅周辺で考え込んでいた。]
人狼っていうものが本当にいて、それがセシリアお姉ちゃんで。みんなはお姉ちゃんの事をどう思ってるのかな。ネリーお姉ちゃんはずんもんって言ってたけど。
神父様とか、どう思ってるのだろう。お姉ちゃんを助ける気がある人っているのかな。
[また時間があれば、神父様なり先程の黒い姿をした女性やネリーに聞いてみようと思った。]
[俄かに雨が激しく降り出してきた――。
痛みを感じる程に、激しく。]
何を……。
[頭上で、ごろごろという音が鳴り始める。
村人は、雨から逃げ出すように去ってゆく。
暗い中――クインジーの顔の陰影が、濃く。]
逃亡者 カミーラは、医師 ヴィンセント を能力(襲う)の対象に選びました。
文学少女 セシリアは、医師 ヴィンセント を能力(襲う)の対象に選びました。
医師 ヴィンセントは、双子 ウェンディ を投票先に選びました。
文学少女 セシリアは、牧師 ルーサー を能力(襲う)の対象に選びました。
[曇天模様の空の下。
痩せこけた娘が、呼吸をしている。]
……はぁ……っ
ああ、もう息が白いわなァ………
[あかぎれだらけの手で洗濯物を干すと、ネリーは屋敷の外壁を見上げた。]
……村は、どうなっちまうんだべなァ……
ノーマンさまァが、旦那さまァの代わりになるんだべか?
そうなるンかなァ………
[ネリーは、視線をそっと地に落とした。]
……仕事終わったら、広場にでも、行こうかェ。
[カミーラの意志はそのままで良い、と考える。
彼女自身は、神父の纏う聖性──神の加護の可能性も考えているのがむずかしい所だ。]
────神父、ルーサー。
[雷が鳴り響き、光の下、
クインジーが悪魔のように笑っていた。
ジェーンはびしょ濡れになりながら、
寒さに――そう、寒さに――震えていた。]
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