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村長の娘 シャーロット は、見習い看護婦 ニーナ を占った。
次の日の朝、自警団長 アーヴァイン が無残な姿で発見された。
……そして、その日、村には新たなルールが付け加えられた。
見分けの付かない人狼を排するため、1日1人ずつ疑わしい者を処刑する。誰を処刑するかは全員の投票によって決める……
無辜の者も犠牲になるが、やむを得ない……
そして、人間と人狼の暗く静かな戦いが始まった。
現在の生存者は、流れ者 ギルバート、修道女 ステラ、酒場の看板娘 ローズマリー、旅芸人 ボブ、冒険家 ナサニエル、書生 ハーヴェイ、牧師 ルーサー、美術商 ヒューバート、見習いメイド ネリー、新米記者 ソフィー、見習い看護婦 ニーナ、村長の娘 シャーロット、双子 リックの13名。
[ソフィーが気がついたこととに安堵し、ローズマリーは階下からピアノが聞こえてきたことに気がついた]
あら? ボブかしら?
[ステラ、ソフィー、ちょっと店に行ってくるわ]
[ボブがピアノを弾くのを、一瞬怪訝そうな目で見たが、ボブの言葉を聞いて了解したような顔付きになった。]
あぁ…あの方ですか。
ええ。ここにご厄介になってます。
あー。構わんと思いますけど、上に病人が居るので出来ればお静かに願います。
ギルバート──?
[ステラを見上げるソフィーの顔が強張った。]
『ああ、もっと、きて、ギルバート』
[瞬間、昨夜のローズマリーの声が甦って、消えた。]
………。
[続くステラの声は耳に届かなかったのか。
強張った表情のまま、ステラの瞳を見つめている。]
―作業場―
[シャーロットは帰ってきて着替えたようだった。入浴したばかりなのか、その白い肌は微かに桜色に色づいている。]
実は、さっきの荷物は、また別の制作のためのものだったんだ。ロティにモデルになってもらう作品とは別ベクトルのものかな。
まったく違う方向に意味があるものを作る。
対になっているからこその意味が出てくると思ってるんだ。
[私は、簡単に制作物について説明した。]
今日のロティからどんなものを創るかは……これから答えを見つけていこう
[そう言って微笑んだ。シャーロットと向かいあうこの時間は貴重で、一瞬一瞬が示唆に富んだものなのだ。
作業場の壁面には、以前制作した機械仕掛けの砂時計が置かれていた。中央の少女は、体の前に差し出した両掌から黄金の欠片を零し続けている。まるで、際限なく黄金をもたらすかのように、或いは――
私にとって、それはまさに黄金の時だった。]
O'er the ramparts we watched
were so gallantly streaming?
[ここまで弾き、そして歌うと演奏をやめる。]
ああ…病人がいらっしゃいますか。
たいていの人は、この曲を聴くとなぜだか
元気になるものなのですけれどもねえ。
[心配と笑顔が、入り混じった表情をする。]
まあ、私はこの曲は世界で一番嫌いなのですけどね。
[じっと手を見る。いつもの通りの手。
筆や彫刻刀を思い通りに動かす手だった。
何故美術を専攻したのだっけ。
よく美術書を見ていたから興味を持ったのもある。
美しい西洋画や神秘的な東洋画に憧れたのもある。
いや違う。何よりもこの道に駆り立てたのは…]
違う…俺は純粋に美術が好きだったから…
だから…だから…違う…筈…。
[瞼を震わせて何かをかみ締めるように息を飲み込んだ]
[客が来たと立ち去るローズを見送り、わたしは再びソフィーに向かい合う。その表情が先程より幾分強張っているのに気づき、わたしはどうしたのかと尋ねる。]
どうしたの?ソフィー。ギルバートさんに心当たりでもあって?
[ローズマリーは階段を降り、店にはいった]
ボブ、こんにちは。
ギルバートが応対していてくれたのね。
いいわよ、ボブのピアノだったら病人の邪魔になったりはしないでしょ。
好きなだけ弾いていってちょうだいな、ボブ。
[ゆっくりと眠りの縁から意識が現在へと帰ってくる。
身体はひどく疲れていて、それが眠りにつく前の自分の行動を思い出させて、零れたのは気だるげなためいきひとつ]
…起きなきゃ。
[現実へと帰らなくてはいけない。
従弟達が店で待っている。
ゆっくりと体を起こして辺りを見回す]
[不思議そうに見つめ返して来るステラの瞳と言葉に、
我に返ったように視線を逸らした。]
───あ、い、いえ…。
ただ、以前ブランダーさんのお店の前で見た事がある気がして…。
[ローズマリーが現れたのを見て、笑顔を向ける。]
やあ、病人かい?大変だねえ…。
また飲み過ぎとか、悪酔いとかそんなクチ?
[手元で、ピアノをポロンポロンといじっている。]
寝てるとか、そんなんだったら遠慮するけどさあ。
この国の人が、元気になるような曲ならいくつか知ってるよ。
まあ、私の嫌いな曲ワースト2なんだけれどもね。
[“妹”の濡れた服と燭台を手にした“兄”は、“妹”が眠る寝室へと戻ってきた。]
……おはよう、ニーナ。
[その顔に浮かぶのは、穏やかな笑み。]
[作業場の中央、彼女が立つ場所近くに照明器具を近づけた。
今日は雨が降っている。光量が足りない。
眩い光が彼女を照らし出す。私は足下の照明の光量や位置を調整し、影を打ち消した。]
じゃあ、始めよう。
[そう言うと、彼女の前に置かれたソファに腰を降ろし――そういえば制作に入るのにやや休止期を挟んでいたことを思い出した。]
その前に……
スカートを上げてくれるかい?
[期待を込めて、シャーロットの瞳を見つめた]
[視線を逸らしたステラに、わたしはそれ以上の意味を追求する気もなく]
そうなの。
もしかしたらローズに買出しを頼まれていたのかもしれないわね。彼、わたしがここに訪れた際外で空き瓶を拾っていたもの。
[気だるい体をどうにか起こせば、ちょうどナサニエルが入ってきたタイミングで。
まだ『契約』が続いているのか捉えかねてただ小さくうなずけば、支えるもののない乳房が微かに揺れた]
The Star-Spangled Bannerなんぞ聴いて、しゃっちょこばってベッドから飛び出してきたらそれこそ一大事ですよ。
[と苦笑した後に、何気ない態で問い掛ける。]
何故嫌いなんですか?
・・・ワースト1は何か聞いてもいいですかね?
観察して作るようなもの…ではなく、もっと抽象的な造形なのかしら。
[口元に笑みを刻んだまま、ホックをはずしながらゆっくりと一度まばたき。
さも当たり前の事のように父親の前でワンピースを足元に滑り落とす。]
スカート?
今日は、全部脱がなくてもいいの? …少しだけ?
わかってると思うけど、しばらくは生理の時期じゃないから今日から連続でも大丈夫だからね、パパ。
[年頃の娘の生理周期を把握している父親が世の中にどれほどの数居るだろうかと、シャーロットは考えたこともない。言われたままに素直にスカートの端を持ち上げると、腕の動きにつられて衣服の内側でやわらかく乳房が揺れる。]
…あ。
[僅かに下を向いて、自分自身の下腹部に視線を。
そして、視線をあげると、ヒューバートへ頬笑みかけた。]
[深く聞いて来ないステラに、ソフィーは内心感謝した。
いくらステラ相手と言えど、ありのまま話すのは躊躇われた。]
空き瓶?
──…あっ!
私のシャンパンとブランデー……。
[部屋を見回してみても、ここに来た目的の物はない。
倒れた際に割れてしまったのだろうかと、表情が沈んだ。]
ところで、さっき何か──、
父の世話がどうとか……?
[ちらりと耳を掠めた言葉を思い出し尋ねた。]
[燭台に火を付けながら、“兄”は穏やかに微笑む。]
……大丈夫?ニーナ……。
しばらく、ここにいる?
それとも……“もとの世界”に戻る?
[半ば反射的に、“兄”は“妹”の肉体から視線を外す。そして燭台を小さなテーブルに置き、“妹”に語りかけた。]
雨……ひどいね。
雨止んだら…先生の所行こう…。
シャーロットにも会いたい…し…
[自分に言い聞かせるようにぽつりと。
薄暗い部屋は時間が経てば経つほど暗くなっていく。ろうそくはあるだろうがとても取りに行く気になれない。
もう一度自分の右手を目の前に掲げ、手の甲に小さくキスを落とした。
生前、ユーインが何度もキスしていた所。
一筋、涙が伝う]
ごめん…兄さん…だけど…俺……。
[瞼はゆっくりとブラウンカラーの瞳を覆う。
人形のような寝顔は益々蒼く、悩む脳はまた悪夢への道を開くだろう*]
決まってるじゃあない。Stars And Stripes Foreverだよ。
聴きたければ弾くよ。これを弾くと、なぜだか
ご満悦になる連中が多いんだよねえ。
All nations remember the day.だって?
知らねえよ、そんな日なんて。
[カラカラと笑い声をあげる。]
私は、ヤツらのやり方に票を投じるだけの
それだけの生き物じゃあないっての。
それにしても一時はどうなることかと思ったわ、リック。
急にあんなひきつけを起こすなんて、1度か2度しか見てないもの。 急に驚いたりする癖はなおさないといけないわね、私。
で、ウェンディはいまどこにいるの?
[ネリーは何ということもない表情でリックに尋ねた。]
飲み過ぎとかだったら追い出せばいいだけだから簡単なんだけどね。
ソフィーが店で倒れてしまって。
熱があるのよ。
わたしの部屋で寝ていたの。
でも、もう目を覚ましたわ。
たぶん、大丈夫。
この嵐だものね。
[驚いたようにと言うより思い出したというべきだろうか。
あっ、と大きな声を出して辺りを見渡すソフィーに、わたしは首を傾げ、そして瞬時に落胆した表情を浮かべる姿に]
何か…大切なものだったの?
[聞くのも躊躇われたが訊ね返して。
お父様の事に対しては緩く微笑んで。食事が来ていた事を思い出し]
あっ…そう。食事の世話とか…。あなたの熱が下がるまで、わたしが代わりに行っても宜しいかしら?
と言うよりやらせていただくわ。風邪引きさんがお父様に近付いてうつしちゃったら大変だもの。
[自分もついさっきまで熱を上げていたことはひた隠しにして。介助の申し出をソフィーに行った。]
ソフィーってぇのは、あの仕立て屋の娘さんかい?
そりゃあ大変なこったねえ。
[困ったような、しかめっ面をする。]
あんまりひどいようじゃあ、婆さんとこでも、
ルーサーさんとこでも連れてきゃあいいんだけど。
私の、アルファロメオなら飛ぶような速度で
どこにでも連れて行けるんだけどなあ。
[ヘヘヘ、と自慢げな笑い声をあげる。]
ルーサーさんもねえ、腕は確かなんだけど
余所者だからさあ……認めてやりゃあいいんだ。
それこそ、あの人の価値なんだから、
それはそれ、これはこれって寸法でさあ。
[元々がアメリカと言う国に生まれた訳でもなく、原住民の血の上に購われた国家にも何の愛着も興味も無いこの男は何も言わずただ肩を竦めた。──表層にまとった偽装を崩さないために。]
[大切なものかと問われれば、静かに頷き]
えぇ──。
シャンパンは、私が初めてアンゼリカに来た時に、
父と母がプレゼントしてくれた一本なんです。
それまでアルコール類は一切飲んだ事がなかったから、
嬉しくて──…、それから毎年、
誕生日にはそれを飲む事にしていたんです。
ブランデーは、父と母がここに来ると
いつも飲んでいたものだそうで──、
というのも父から聞いただけですけど……。
──それでも、両親の数少ない思い出の品、でした。
[アイスブルーの瞳を少し伏せて思い出を語った後、
続くステラの申し出には、しばらく返事が出来なかった。]
───…、え。
[目の前のひとは今、何と言った?
父の世話を、代わりに?]
『──まさか。無理よ。』
いいえ、そんな……、
そこまで迷惑は掛けられません──…。
『私以外、お父さんの面倒を見られる筈がない──。』
[Yes! Yes!! これが娘の前でなかったなら、私は吾が意を得たりとばかりに満悦の表情で思わず声を漏らしていたことだろう。
シャーロットはきっとモデルになる日が近いことに意を砕いてくれていたに違いなかった。下着の跡がその体に微かな形跡を残さないようにとの気配りからか、彼女はショーツを身につけてはいなかった。
更には彼女の身支度も、私が腰を降ろすつい先程までイメージの一つとして持っていた形象を察したものかのようだった。私は、ホレスとの会話からヘイヴンや現代の娘たちを形作ってみるのも面白いかもしれないと感じていたからだ。
それらが素直に嬉しく、表情がつい綻ぶ。]
でも、あまり気を遣わなくていいんだよ。
下着をつけないと体を冷やすかもしれないし、それに下着を脱ぐ為草も興があるものだから。
[そう言って、笑った。
しかし、どうするべきだろう。
彼女の身支度はこの後の作業に潤滑に以降できるものだったが、その流れをそのままなぞるのもそれはそれで興が薄いもののように感じられる。
私は、そこにある示唆に耳を傾けるように、別の道を辿ることを試みるべく言葉を紡いだ。]
…大丈夫よ。
[微かに微笑み。
そして自分から視線を逸らした"兄"の様子に毛布を手繰り寄せながら]
…"兄さん"が迷惑じゃなかったら…もう少し、ここにいてもいい?
[雨の強さを口にする姿に小さく頷きながら問いかけて]
ロティ。
今日は変わったものに扮してもらおうと思うんだ。
[感触を慥かめるように、シャーロットの瞳を覗き込む]
剃ったら恥ずかしいか?
……構わないよ。
[“兄”は窓際に立ったまま、首を左右に振る。]
雨……止まないもんね。
どうしようか?服。
俺の、着る?……男物しかないけれど。
流れ者 ギルバートは、修道女 ステラ を投票先に選びました。
そう。そんな思い出の品を…。
[わたしはソフィーの過去を断片的に垣間見て、胸が締め付けられるような気持ちになった。
両親との懐かしき思い出。それは決して汚れることの無い物。過去と現在をリンクするそのシャンパンとブランデーを失った事実は、きっとソフィーにとっても過去の一部を失ったのと等しい事。
悲しい――
わたしは彼女を思い胸を痛めた]
それに…誕生日はたしか――…。
代替の商品では…思い出は補完できないでしょうし…。本当になんて言ったらいいか…。
[何も出来ない非力さを感じ、わたしは視線を伏せた。]
…ありがとう。
[ふわ、と微笑む]
…ううん、いらない。
もう少し…このままでいたいの。
私の服が乾くまでは、このままでいい。
[服を着たら、全てが"現実"に戻されてしまう気がして。
まだもう少しこの空間に甘えられるのであれば、甘えていたいと、それだけの理由]
迷惑だなんてそんな…。
食事介助と清拭、それと…排泄は自立しているのかしら?
これでも子供達の世話もしているし、汚物には抵抗無いから大丈夫よ?安心して?
それに――
お父様を車まで連れて来たのはわたしだし…。少しでも手伝わせて欲しいの。勿論あなたの熱が下がるまでで良いの。
――手伝わせて…くれないかしら?
[彼女の自宅で行った行為は、何一つ口にせず。わたしは再度彼女に願い出る。]
ルーサーさんは、非常に良い葬儀屋の後援者だよ。
私の目だって、彼に診てもらっているわけだし。
[サングラスをいじる。絶対に取りはしない。]
彼とその共犯の薬剤師によって、私も彼の広めたい
…なんだっけか、よく思い出せないけど。
[神を意味する単語を、わざと逆から口にする。]
彼とデボラの婆さんがいるから、ユージーンは、
商売繁盛でほっくほくてえとこじゃあないかな。
……わかった。
[燭台で揺らめく炎の向こう――――
穏やかに微笑んだ“兄”はベッドサイドに座り、“妹”を引き寄せてその額に軽くくちづけた。]
[ヒューバートと視線が合う。
シャーロットの微笑みが困った様に固まる。スカートの裾は持ち上げたまま。
どうしよう、やっぱり先に全部落としてしまえば良かった、とシャーロットは心の中で僅かに羞恥心を感じながら呟く。]
──…下着、着た方がいい?
少し前はずっとヌードが多かったから、この方が良いかと思ったのだけど。
[続けて、「それじゃあ、バスルームに戻って来るから──処理して来る少し時間籠るけど待っていて」と言いかけ、準備に作家が関わるのは当然のことだろうと思い直す。
浮きかけた腰をソファに沈め、遠慮がちに脚を開いた。「恥ずかしいか?」と聞かれた事で逆に頬に血が登るのを感じながら。]
──水着にはちょうど良いくらいにはしてみたの。
でも、必要なら、パパが剃ってくれても構わないわ。
[最後の方は何故か掠れて囁くような声になっていた。視線を避けるように再び目を伏せる。]
いいんです──。
シャンパンは同じ銘柄でさえあれば、拘りませんから。
ただ……、父がキープしていたボトルだけは……。
[もう、同じものは戻っては来ない。
いくら銘柄を揃えた所で、
そこには父がこの店で過ごした思い出が──、ない。]
えぇ……その翌日が、母の命日です。
だからこそ、大事なものだったんですが──。
[辛そうに俯いたモノトーンに包まれた女性の様子に、他人事であるのに我が事のように悲しんでくれるステラの優しさを垣間見、ソフィーは父の思い出を喪った悲しみが癒されるような気がした。
──しかし。]
いいえ、幾ら何でもそこまでして頂くわけにはいきません。
[それ程信頼を寄せている相手でも、これだけは譲れなかった。
気弱なソフィーにしては珍しくきっぱりと言い切る。]
[――話は遡る。
ナサニエルがニーナと出会ったのは、町の図書館。
まだ彼らが“兄”と“妹”としての関係を重ねる前の話――]
[ナサニエルの書斎の本棚に無い資料など、この世にはごまんと存在する。
ヘイヴンにある図書館は、都会の図書館と比べるとどうしようもなく乏しい蔵書量ではあるが、それでも個人が所有するそれよりははるかに豊かな量である。
それ故、時折ナサニエルは図書館へと足を運ぶことがあった。白いワイシャツと、黒い細身のズボン。そうでない時も、だいたい似たような服装。
彼は文学史――主にアメリカやイギリスの文学史の本を好んで読んでいた。それ故、それらの貸し出しカードには、彼の名が何度も記されていた(そのような本を他に借りる人間が居なかったからかもしれないが)。]
そうだね……
[下着をつけるべきかというシャーロットの問いに、少し考えて口にした]
モデルをしてくれている時は裸が多いから、下着をつけていない方がスムーズではあるんだ。
でも、ここに来るまでは普段のままでいいかな。少しずつ、服を脱ぐ時間が気持ちが切り替わるのによかったりもするから。
ロティが、いつも身構えてて気疲れしたらいけないからね。
[話し終え、ソファーに身を委ねるシャーロットにそっと近づく。このように私が直接触れて身支度を行うことはこれまでなかった。それが必要な時は女性の美容師を呼び、依頼するものだったからだ。
僅かな緊張を感じながら、彼女の足下に跪く。左手を彼女の滑らかな内腿に添えた。
一瞬息を止め、鼠蹊部の淡い翳りにそっと刃先を当てた]
[ソフィーの話を聞けば聞くほど、わたしは胸が締め付けられていく。もう戻れない過去。戻る術も失ってしまった。しかもそのきっかけは自分の手で――
似たような経験を自分の過去から見つけてしまい、わたしは苦く唇を噛んだ。もっとも、わたしの場合は失われた方にも大きな代償があったのだけれども]
そう…誕生日の次の日に…。
[二の句が告げずに暫しお父様とソフィーを交互に見つめていると、彼女から語気の強い断りの返事が返ってくる。
その迷いの無さにわたしはぱちりと一度だけ瞬きすると、しょうがないと言うようにため息を吐き出し]
ん…、じゃぁ倒れない程度に…ね。お父様が大切なのは解るけど、あなたがこれ以上具合が悪くなったらそれこそ二人揃って途方に暮れることになるわ。
わたしは席を外すから…。何かあったら声を掛けてね。
[普段物静かな人間こそ、一度決めたらてこでも動かない強さがあることは、わたし自身知り得た事実でもあり。これ以上押し問答を繰り返しても無意味だと悟り、彼女を残してわたしは部屋を出る。]
[ボブのジョーク交じりの核心をぼかした会話は、部外者のギルバートには不可解なものだったようだ。
時折相槌を打ってはいるが、ちょっと注意してみれば全然理解して無さそうなのが傍目にも分かるだろう。]
[──実際のところは、彼は会話に出てくる人名とその関係を推測して頭に入れていたのだが。]
[息を止めていなければ、息がかかりそうな近さだった。
内腿に沿えた左手の親指が微かに彼女の神秘の入り口のすぐ側に触れている。刃先を動かすため右手に僅かに力を入れると、無意識のうちに左手の親指は内側へと彎曲する。
シャーロットの柔肌は指の動きに手繰り寄せられ、ぴったりあわさっていた花片が綻びるように幽かに開いた。]
まあ…婆さんよりは、なかなかイイ腕していると思うよ。
冗談抜きにさ。じゃなきゃあ、私だって、
ポケットに突っ込まれた手そのままにしてないって。
[こんな状況にも関わらず、悪趣味な言葉を続ける。]
でも、リューマチになったら彼のところには行かないけどな。
多分、痛風だって診断してくるぜ。
何もしないよりはマシだろ。ヤバそうなら、
いつでも言ってくれや。車飛ばすからさ。
[内股に触れるヒューバートの左手。その乾いた掌から体温を感じて、一瞬シャーロットは爪先を緊張させる。目を閉じかけて、やっぱり開けて見届けなくてはと思い直し睫毛を揺らす。けれども、また目を伏せる。 目を伏せたまま、]
…パパ。
私、パパのモデルでいることにプライドを持っているの。
だから、身構えて疲れたりはしないわ。
[肌を上をヒヤリとした刃が滑る感触に、またぴくりと爪先がわずかに跳ねた。
緊張なんてしたくないのに、とシャーロットは思う。
シャーロットはソファに付いた指を、軽く0の字に開いたままの口唇にあてて零れそうになる息をこらえる。]
…少し、恥ずかしい。
でも、良いモデルでいたいの……。
あ──…。
[溜め息混じりに部屋を出て行ってしまったステラの後ろ姿に、何か声を掛けるべきかと口を開きかけるが、結局言うべき言葉が見つからず、微かな溜め息のような声が漏れただけだった。]
ごめんなさい、ステラさん、
せっかく気に掛けて下さったのに──。
[独り言のように、ステラが消えた後の扉に向けて呟く。
父の世話を人に委ねずに済んだ事に、大きな安堵を覚えながら。]
…あ。
──ゆ び。
[動いたのは口唇だけ。
自分で触れるのとは明らかに感触が違う。背筋を這い上がってくる得体の知れない浮遊感にシャーロットは戸惑う。口唇に添えていた手を、おもわずヒューバートの髪に触れるか触れないかの距離まで伸ばす。]
[短大を出て、この街の図書館で司書職に着いたのがちょうど春。
その頃になれば、ずっと兄のことを思い出している余裕もなくて覚えることだらけの仕事に追われ、家へと戻れば疲れゆえに眠ってしまう、そんな日々。
そんな日々の中では、彼──ナサニエルも最初はただ本を借りに来る利用者、それだけの存在。
それに変化が起きたのはちょうど、今日ほど激しくはなかったけれど雨の強い日だった。
閉館間際、過去の新聞の整理の作業をしていた日で。
翌日話を聞けば、閉館ぎりぎりで彼は図書館に姿を現したのだという。
追い返すわけには行かなくて、自分がいるから貸し出し処理も問題ないと判断した家庭のある先輩司書は先に帰っていったということだった。
新聞処理自体その先輩が用事があって残れないとの事だったので、閉館作業と一緒に自分が彼女から請け負ったことで、自分しかいないというそのほんの少しの気楽さから時々気になる内容の記事があれば読んだりしながら作業を進めていた。
館内にある、もうひとつの気配など知らず。
誰かが来たときのために軽く扉を開けていたことも忘れて]
[「良いモデルでいたい」
シャーロットの言葉に、熱い思いが胸一杯に溢れた。]
ありがとう。ロティ。
愛してるよ。
[思わず口吻したくなる。
だが、その場所は父親が口づけるべき場所ではなかった。
彼女の指先が髪のすぐ側をそよ風のようになぞった。
娘への愛しさと、弾け飛びそうになる理性。
思いがけず踏み込んだこれまでとは異なった支度に、私の鼓動は自分の耳に響くほど大きくなっている。
霞のような翳りはさほど力を入れるまでもなく綺麗に掻き消えた。それ以上このような間近で正視するには理性が絶えられそうもない。私はスカートをそっと引き下ろした。]
最近ヘンな頭痛が・・・
どうにかして、私一人の手で解き明かさないといけないのかもしれない。誰にも相談する訳にはいかないのかもしれない。
[作業場の窓は今は暗鬱な雨の景色を隠すため、スクリーンを閉じている。頬がずっと熱くなって来るのは、ライトの所為だけだろうか。]
始められそうかな?
[シャーロットの手をとると抱き起こし、先程の立ち位置まで導く。
私はそのままソファーに腰を降ろした。
最初にソファーで彼女の立ち姿を見るのは、目線の高さが彼女の体の中心付近に位置し全身を平準的に見ることができるからだ。それはこの後彼女にアプローチするにあたっての礎石となる。]
準備が良ければ、脱いでくれ。
ロティ。
君の体の美しい部分を一つ一つ私に指し示すように。
[シャーロットの内面から顕れ出るものを、そうして私は待ち望むのだった]
[男は一冊の本を手にした。
D.H.Lawrence文学の研究書。
児童書と、娯楽用の小説が申し訳程度に陳列されているヘイヴンのような片田舎の図書館で、このような本に出会うのは奇跡に近い。
いや、本来ならば時間をかけて都会の大学図書館にでも行けば良かったのだろうが、突発的に読みたくなったのだから致し方ない。或いは、昼夜が逆転した彼の生活様式が原因だろうか。──まあ、細かいことはどうでもいい。
古めかしいその本を手にしたナサニエルは、司書の姿を探す。が、貸し出しカウンターに司書達の姿はどこにも見あたらない。]
司書はどこだ………?ちっ。早く借りたいってのに。
[苛立ったような表情を見せたナサニエルは、早足で図書館内を歩き回る。図書館だというのに、雨に濡れた靴のことなど構わず、ずかずかと。]
[やがて男は、新聞コーナーに立つ新人の司書の姿を発見する。いつも寂しそうな顔をした、少女の様な司書。時折溜息をついているように見える彼女の姿を思い出しながら、ナサニエルは司書に声を掛ける。]
あのさ……。この本、借りたいんだけど。
[──平坦かつ、ぶっきらぼうに。]
[僅かな時間がシャーロットには随分と長く感じられた。赤くなってしまって、それを見られたら──どう思われるか。
作業が終った事に安堵をおぼえる。1枚の布の下で吐息と共に上下する胸。]
私も愛してるわ、パパ。
[髪を撫でるヒューバートの顔がすぐ傍にある。
シャーロットはふわりと広がるスカートの衣擦れと共にソファから降り、膝をついてヒューバートの頬に軽くキスをした。
少し後ろに下がり、滑り落ちそうになるワンピースの肩のあたりを抑えて、頬笑む。頬に紅潮のなごり。
手を取られ、今度こそワンピースを床に滑り落とし立ち上がる。
じっとヒューバートを見つめながら。]
──美しい場所。
[自分の身体の何処かうつくしい場所なのだろう──。
シャーロットは思考し始める。ここに辿り着くと恥ずかしさよりも、表現しなくてはと言う意識が優先される。]
[ヒューバートを見つめる視線に、芯のある意志のようなものが籠る。]
[シャーロットの唇が頬に触れた時、私はほとんどそのまま彼女を抱きすくめたくさえあった。それを引き留めたのは、父親としての私だけではない。これから創作にかかる表現者としての私だった。
ともすれば軛を脱しようとする衝動を、これからの時間律然として飼い慣らさなければならないのだ。
私は、愛情の籠もった口吻をただ彼女の頬に返した。]
[元々本を読み出すと現実には帰ってこれない性質、新聞を読みながらでもそれは変わらず。
それでも作業は割合スムーズに進み、今日も引っ張り出された新聞はあと少しというところでひとつの記事に目が留まり、動けなくなる。
『この事故でコンテナ車に巻き込まれた乗用車に乗っていた3人は即死──』
間違いなく、自分の家族の記事。兄の名前もそこにあって──]
…兄、さん…。
[まずい、と思う間もなく、兄の名前は自分の身を燻るような熱で満たし。
誰もいない。誰ももういない時間、図書館にはひとりだけ。
──震える指はスカートの中へと潜り、シャツの中へと滑り込み、積み上げた新聞が崩れるような音と共にそこにしゃがみ込んで]
……ん、ぁ……っ…。
[微かに声が零れる。既に脳裏には自分だけの世界、男の足音が近づいているとも知らず。
だからこそ、男がしっかりと声を出して自分に話しかけたときには世界の終わりを見たような顔をして振り返っただろうか]
あの……さ。本の貸し出し……
[司書の秘密の行為を目にして、目を細めて語りかける。]
……あんた、何やってんの?
[呆然としたような、或いは落胆するような表情をした司書の顔を覗き込み、その瞳をじぃっと覗き込んだ。]
ふうん………仕事場で自慰ねぇ。
あんたにはそんな趣味があるのか。
いや、違うな。
……何か「必要」があってやってたんじゃねぇの?違う?
…どう、して。
[両の手は服の下から引っ張り出され、喉が微かに引きつった声だけ出して、そのままじり、と後ろへと下がれば、後ろの壁へと背があたってそれ以上は下がれず。
ただおびえる様にぎゅうと瞳をきつく閉じて]
…見ないで…っ。
[自分の体を守るように両の腕で自分を抱き]
…なんで、そんなこと、貴方に…っ。
[モデルとして表現者と向かい合う時、シャーロットは内側から沸き上がって来る自分自身の生命を感じる。
その瞬間、日頃の迷いや閉塞感は消え去り、ただ此処にある肉体を通して意志を発信する。頭から指先から全身を流れるのは、満ち足りた心地良い電流のような感覚。
ヒューバートの瞳をじっと見つめるのは、シャーロット自身が相手の眼差しに過不足無いのか、瞳の中に浮かぶものから読み取るためだ。
日頃のヒューバートの父親としての愛情もそうだったが、それ以上に表現者として向かい合う彼は、シャーロットの存在を全肯定していた。]
[シャーロットの背筋がぴんと伸び、自然と胸が反る。
最近女らしくくびれはじめた──でも十分に細いウエストを強調し、腕を差し伸べる。]
[私の物の見え方は少々特殊なところがあった。注視したものを写真のようにそのまま記憶に焼き付けてしまうのだ。直感像資質と呼ばれるこの能力を、子供の頃はただ得意げに披露するばかりだった。
写真と変わらぬ再現性を持った絵を、実物と寸分変わらぬ粘土細工を、周囲の人々は驚愕をもって迎え入れてくれた。
その体験は、美術家として簡単に成功を得られるものとの錯覚を私の中に作り上げてしまっていた。私が徹底的な挫折を味わうのは、アートスクールに入ってからだ。]
「君の作品には魂が込められていない」
[見たものをただそのまま愚直に再現するよう枷をかける、呪わしいほどに鮮明な記憶。それは、具象的な作品制作には、常につきまとい続けたハードルだった。
私は、具象的な作品制作への才能に早々に見切りをつけ、象徴的な作風へと転向した。
再び挑戦する意欲が湧き起こったのは、シャーロットの美を自分なりに表現したくなったからに他ならない。そして、彼女でなければ、今のような制作姿勢を修得することはできなかった。]
[私は彼女の為草、一つ一つの動きを流れとして受けとめる。膨大な経験の集積が相対的に一瞬の記憶を薄めていく。
そこに息づき、鼓動し、躍動する彼女の存在そのものとの経験を深めていくこと。それが彼女への私のアプローチだった。]
[「ポーズチェンジ」と言う言葉をシャーロットはヒューバートの口から聞いた事が無い。
ともすれば、通常のモデルと比較して1ポーズに留まる時間が短い、連続して動いている時もあれば、全身が痺れるまでじっと同じ姿勢でいることもあった。
時に時間を忘れ、食事すら忘れそうになる時もあった──。]
じゃ、まずは本の貸出よろしく。
……って、そんな手で触ったらせっかくの本が汚れるか。
[ふぅと溜め息をついて、ナサニエルは本の角で自分の肩を叩く。]
……あんた、「寂しい」の?
いつもどっか遠く見てんじゃん。仕事中。
[床に落ちた新聞を拾い上げ、内容を凝視する。どうやら、昔の新聞の地方欄らしい。]
『小学校で記念植樹祭』……違うな。木は突っ込むにゃさすがにデカ過ぎるか。小学生に発情するならともかく。
『町で最高齢のお年寄りが死亡』……って、どんな趣味だっての。違うか。もう勃たねぇだろうからな、100越えちまうと。
………『コンテナ車に巻き込まれ、家族3人が即死』………
[ナサニエルは、極めてありふれた記事のタイトルを淡々と読んだ。]
[シャーロットを見つめる私の、全身の血が何千もの大きな見開かれた目となって燃え盛る。
彼女の、彎曲した背骨は、矢を番え今にも撃ち放たれようと引き絞られた弓のように緊張感を孕んだ美を湛えていた。凛としたその存在は華奢で儚くさえある極めて繊細な上体を、天に掲げるかのごとく突き上げる。
世界をぎゅっと引き開けるような生命力に満ちた動きに、ぴんと張り詰めた乳房が撥ね震えた。]
ロティ。
綺麗だ……。
[私はしばしの間、時間を忘れ彼女の肢体に見入っていた。]
[視覚イメージの連なりが過剰になりすぎない頃合いをみて、私は立ち上がる。
新たな彼女を感じるために、私はシャーロットに近づいた。]
ロティ。
触れるよ。
[そう言うと、彼女の裸身に手を差し伸べた。]
……。
[ここまで非日常な時間が過ぎてしまうといっそ感覚すらおかしくなるのか、服を直しながら]
…知らない。自分でも、わからない。
[ぼんやりとした口調、自暴自棄のような様子でゆっくりと立ち上がる。
そのまま本に触るわけにも行かないから、トイレへと向かい手を洗おうと背を向けかけた。
紙面を読み始めた男の声もどうでもよかったけれど、流石に件の記事へと踏み込まれれば小さく肩を震わせ]
…それ、私の家族。
[ただそう呟いて手を洗いに向かう]
[熱い視線を感じるほどに充実感を感じる。
シャーロットは更に背を反らし、喉元を反らし、一歩ヒューバートへ歩みを進める。「触れるよ。」と言う言葉に、軽く首を傾けて肯定の意志を示す。
ポーズが少し変わったところで、目を開きヒューバートを見つめたまま静止。触れられることには、ただ喜びがある。]
ふぅん……家族、ねぇ。
[新聞をぶっきらぼうに畳み、棚の中に突っ込んだ。]
……んで、何でまた家族が死んだ記事で自慰なんかしてンの?フツー、泣いたり怒ったりするとは思うんだけど。それでイッちまうやつってのは滅多に見ねえなァ。少なくとも、俺は。
[背中を向けた司書に、言葉を放つ。]
……父親か、母親か。
或いは、兄か……。
何がって?
あんたの、『お相手』。
…なんでそんなことまで答えなければいけないの?
[黙秘権はこちらにあるとばかりに背を向けたまま歩き出し手洗いへ。
スカートからハンカチを取り出せばそれを咥えながら手を洗い、それから服を調えて新聞のコーナーへと再び戻ってくれば]
…本。借りていくんでしょ。
[寄越せとばかりに、本を退出する予定に相手に視線を向ける]
[シャーロットの肌理の細かい肌は絹のように滑らかで、指先はサラリとその表面を流れてゆく。
力を込めると折れてしまいそうな細い首筋。ヴァイオリンの弓のように繊細でありながら、弾みをもって肩へと導かれる鎖骨。 背中にまわった指先はかすかに隆起した肩胛骨をなぞり、脇の下を抜ける指先は肌の下の肋骨を丹念に辿った。
乳房の上、肩近くに再びもどった手を、今度は指先ではなく掌全体で触れる。乳腺にそって、乳房を包み込むように撫でた。]
ククッ………
[司書に届かない位置に本を掲げ、笑う。]
……いやァ。悪ィ悪ィ。ちっとばかし悪戯が過ぎたな。
ま、今日のことは秘密にしといてやるよ。バラして欲しいってンなら別だが。
ついでに……
[司書の青い瞳を、じぃっと覗き込む。]
あんたの「寂しさ」を埋め合わせてやってもいいぜ?
何故なら、俺ァ『天使』だからなァ……
……ッ。
[あまり背が高くない為に、その高さに届くことはなく]
…なんですって。
[悔しさに唇をかんだところで自分の失態は今更どうにも出来ず。
じぃと覗き込んでくる自分と同じような目の色に僅かにきつい視線が消えて]
…何を。
何を、馬鹿な。
私は、寂しくなんか──
[ない、と言い切るはずの言葉が、出てこなくて]
[肌をすべるヒューバートの指先。
ただ皮膚をなぞるのではなく、骨格の造形を確かめながら、その意志がシャーロットの内側に浸透していくような感覚を与える。
乳房のまるいフォルムをなぞられた瞬間、心地良さが更に身体のじわりと広がった。心臓がドクンドクンとあたたかく強く脈打つ。]
…あぁ。
[思わず言葉が漏れた。それはとても珍しいことだった。
フラと吸い寄せられるように、ヒューバートの胸元に寄りかかりそうになる。]
[掌の中の乳房はもぎたての果実のように瑞々しく、その先端へと掌が辿るたびに柔らかく弾む。指先で桜色の先端が震えた。
彼女の熱い息が首筋にかかり、かっと頬に血が巡る。いつしか、躰の中心に位置する熱の塊は石のように堅く痛いほどにコットンパンツを押し上げていた。傾いたシャーロットを支えた刹那、滑らかな内腿にその強張りが触れた。]
ロティ……
[昂ぶり続ける衝動を抑えきることができるだろうか。私にとって、それは常にギリギリの試練だった。]
[司書の顔を覗き込むナサニエルの表情が、僅かに緩んだ。]
………やっぱり。
まあ、俺の提案はこうだ。
あんたの寂しさを埋め合わせるために、俺があんたと関係を結ぶ「契約」をするって寸法だ。
……どうだ、単純な話だろ?
俺の身体を切ったり貼ったりしなけりゃ、あとはあんたの望むままに。俺のことをブン殴ったり屈辱を与えたりするのはOK。勿論、その逆も応じるが。
……もし「俺」に抱かれるのが不満だってんなら、俺じゃない別の人間の名前を呼んでも一向に構わない。なんなら、俺がそいつになりきってもいいぜ。むしろその方が一興だな。
それから、この「契約」に賃金は要らねえ。金を払いたいってんなら別だがな。タダ働きでも文句は言わねえよ。何故なら俺は、『天使』だからな。
勿論、「契約」相手の秘密は厳守。何事も信頼第一なんでね。
………さァて、どうする?
[シャーロットの内腿に触れた熱の源を遠ざけるために、隙間に掌を滑り込ませる。指先はシャーロットの内腿をなぞり、手の甲は彼女の鼠蹊部にかすかに触れた。]
ああ……
[そっと引き出す手は名残惜しそうにその感触を求めたのだろうか。手の甲に浮かび上がる節と指の背がわずかに折り重なる花片をかすめていた。]
[ボブとの会話はローズマリーに任せ、適当に言い訳して2階に上がった。
客室のドアノブの手を掛けたところで、ローズマリーの部屋の扉が開いてステラが廊下に出てきた。]
[ふ、とステラに笑いかける。
しかしそれは、いつも口の端に浮かんでいる陽気な笑みではなく、どこか何かを見透かしたような訳知りの微笑だった。
琥珀色の瞳は、明らかに彼女を揶揄するような輝きを帯びて、一瞬光った。]
…馬鹿な…。
[ぎゅう、と強く唇をかみ締めて相手を睨みつけて]
そんなことして、何になるというのよ。
大体、天使ですって?そんなもの存在するはずもないのに。
私は、そんな契約──
[のらない、といいかけて後ろへと一歩下がる。
後ろには閲覧テーブル、あと二歩も下がればぶつかるかもしれなくて。
はっきりと返答ができなかったのは、きっと、彼の瞳が深い色をしていたからで。
僅かに唇が助けを求めるように『にいさん』と描くように震えた]
[一瞬、無防備な素肌に触れるコットンの生地越しの熱。
ハッとして口を薄く開きかけ、止まる。その熱がとても自然な事のように思えた自分にシャーロットは驚く。咄嗟のその考えを打ち消すように、]
──ごめんなさい、パパ。
今、少し、足元が…。
[言葉を紡ごうとした瞬間、触れた──ゆび。
あたたく濡れていることが、分かってしまったかもしれない。動揺を隠すように、早口になりながら言葉を続ける。]
脚に来ちゃうほど、そんなにもう時間──経ったかしら。
何時も時間がわからなくなっちゃうから…。
あァ、『天使』って言っても、キリストやら何やらの使いっぱしりの奴等のことじゃないぜ?
それに……
『天使』が存在するかどうかは、試してみりゃァいいだけのこと。もし俺で不満なら、それで「契約」を打ち切ってもいいしな。……ま、要するに「モノは試し」っつーやつだな。
ニーナ・オルステッド……今、唇が動いた理由は何だい?
………『求めるもの』が、あるンだな?
大丈夫かい。
少し、疲れたのかもしれないね。
[シャーロットを抱き起こす。]
モデルになってくれてありがとう。
イメージを掴むことができたから、制作にかかることができそうだ。
[そう言うと、その場に脱がれた彼女のサマーワンピースを取り上げ、*肩からかけた*。]
…求めるものなんて、何も…ッ、何も、ありはしないわ!
[もう聞きたくないという感情から生まれるのはヒステリックな叫び。
両の手で耳をふさぎ、彼から逃げたいと思って後ずされば後ろのテーブルへとぶつかり]
…求めるものなんて何もない、在りはしない。
……もう、望んだって手に、入らないのよ……っ。
[微かに声は震え、涙が頬を伝って]
…もう、私を放っておいてよ…っ。
[モデルとしての集中からも上手く戻り切っておらず、動揺も手伝い、どこかまだ夢の中にいるかのような動作で、のろのろとワンピースを受け止める。]
ジンジャーミルクティを作って飲んでから休むわ。
制作が進んだら何時ものように見せてね。
[壁面にある鏡の中の自分は至って普通に振る舞っているように見えなくもなかった。何処かフワフワとした感覚を身体の内側に感じたまま、シャーロットは衣服を整え、*作業場を後にした*。]
求めても届かないンなら、尚更だ。
あんたのそれが「癒える」か、或いは「忘れる」かぐらいまで、俺が付き合ってやっても構わねぇって話だ。
ああ、泣くほどの悲しみは、いきなり消えたりはしねぇのが普通だ。「喪」の儀式ってヤツが必要になる。
[司書の頬を流れる涙を、指先でそっと拭う。]
………ちゃんと「弔って」やらなくちゃな、あんたの「悲しみ」の原因を。
……忘れようって、もう笑えるようになろうって、そう思ったのに、どうしようもなくて…っ…。
[悲しいのは自分だけでないのはわかっていたけれど、その術がわからないまま五年もたって、今更与えられた救いの手にもどう縋っていいのかわからなくて、そのまま床の上に崩れ落ちて]
…私に、どうしろって言うの…。
……わたしは、どうしたらいいの…?
[頬の上を滑る指に、わずかに戸惑いながら訪ねる声は助けを求める声に似て]
────────────────────────
Diary of Eliza
──────────一体、あなたの何が天使なのか?
私はナサニエルに質問をした。
明確な答えは無く、私は彼のいまいち感情の読めない瞳が澄んでいることに驚き、そこからどういった流れになったのか、「天使として思い浮かぶもの」を何故か<私>が答えることになっていた。「天使」と言う馴染まない単語に向かったあの一瞬の好奇心が、間違いだったと今なら断言出来る。
『ネイ』だと私は言った。
その日まで『ネイ』の事なんてすっかり忘れていたのに。
────────────────────────
────────────────────────
ナサニエルがネイの事をおぼえているのかは良く分からない。ゆりかごから墓場まで同年代であれば、ずっと顔を突き合わせ続けるヘイヴン。すくなくともジュニアハイまで、ナサニエルと彼女こそが同級生同士だったこと、ネイが12歳を待たずに死んだこと、学校中の子どもが泣いたこと。これらを合わせるとナサニエルに『ネイ』の記憶があって当然だと思うのだが。契約したその日から『ネイ』になったこの男に、記憶や感情と言った人間として当たり前のものあるのか、私はいぶかしく思う。
契約を持ち掛けた彼。私には、それは知識で得ただけの実感の無い言葉を彼に合わせて使うなら「天使」と言うより「悪魔」に思える。だが、今は彼が何者でも構わない。
[インクの掠れ。] ……問題は『ネイ』だ。
────────────────────────
────────────────────────
Memories
──────ネイの思い出。
ネイは甘ったるい匂いのする、いわゆるブリッコの少女だった。
カールした亜麻色の髪には、ピンク色のリボン。母親の作ったコットンレースの付いたワンピースに、同じく母親が作ったパッチワークで出来たポシェットを下げていた。
私がバートがロティを事あるごとに飾り立てようとする(私にはそう見える)事に、質素に清楚にと口をすっぱくして育てられた私が私なりに寛容なのは、ネイの事があるからではないかと思う。
ネイの甘い香りは菓子の匂い。
当時は、まだ町に彼女の母親が経営するケーキショップが存在した。彼女のしゃべり方もまた菓子のように甘く、こわがりで泣き虫だった。
────────────────────────
────────────────────────
仲の良かった子ども達数人の間で、ネイを泣かせる事が流行っていた。あれは今考えれば、好意や子どもなりの性的な意識の裏返しなのだろうか。例えば、ネイがこわがりそうな場所でわざとかくれんぼをしたり、木の上や塀の上に全員で登るとかそう言った方法でネイを泣かせた。少しノロマな彼女がスカートを破いたりして困るのを楽しんだ。
しかも、私は常に泣いたネイを慰める役目だった。
今でも、私は人を慰める事が得意とは言い難い。愛する娘や今は居ないレベッカに対してもそうなのに。ネイが私とは真逆の存在だったからだろうか。
私はネイと違って、子どもたち遊びの中では一度も泣かなかった。
いいえ、それは嘘。
一度だけ泣いた。
ネイが二度と帰って来ないのでは無いかと思ったあの時…──。暗くなり始めた共同墓地の入口で、なかなか戻らないネイを待ちながら。
────────────────────────
────────────────────────
安置所に死体を見に行こうと言いだしたのは誰だったか。
ネイが色々な事を怖がらなくなって来たので、私達の行動がエスカレートしたのは確かだ。
当時の墓守ダニエル・アンダーソンに、だみ声でこっぴどく叱られた。両親にもばれてしまい、私はめずらしくお仕置きに納屋に閉じ込められた。「あれは生者が入る場所では無い」と言うのが両親の言葉だった。
それよりも、ダニエル・アンダーソンの言葉が忘れられない。
死体が生き返って噛み付かれたらどうする気だ。
結局、ネイが死んだのは「あの日」では無く、その三日後だった。
細い少女の首が獣に喰いちぎられたかのような断面で、胴体から離れた場所に落ちていたのだと言う。
「天使」はネイだ。彼女が人を恨む所を見たことがない。
もし、彼女が生き返って噛み付かれるのならば──私はどうしただろう?
今は、ネイに対して何の感情も沸かない。
次は、欲望の話を書かなくてはならない。
────────────────────────
5年なんて、地球の歴史からチンケなモンだけどなァ……ま、人間の一生にはデカ過ぎるか。
[と言いながら、ポケットからメモ用紙を取り出し、走り書きで名前と電話番号を書いた。]
今すぐ決めなくても構わねぇよ。「助け」が欲しくなったら、ここに電話しな。何が欲しいのか、聞いてやるよ。
俺の名は、ナサニエル・メラーズ。電話番号はそこに書いてある。モノは試しだ。疑うくらいならトライしてみな。
[泣き崩れている司書の身体を一度抱き締めて頭を撫でると、すぐに身体を離した。]
もし必要なら、この続きは後ほど。
……っと。こんな時間か。
ま、本はまた借りにくるから。そん時に返事くれても構わねぇよ。
[ナサニエルは、せっかく探し当てた本を棚の上に置き、踵を返した。]
もし良かったら、そいつを俺が次に来るまで取っておいてくれ。……誰も借りねぇかもしんねぇけど。
…私……私、は、…。
[名乗ろうとして、涙でまだ揺れたままの声が微かに止まる。
そういえばなぜか彼は自分の名前を知っていて、何故だろうと思う間もなく]
…どうして。
[どうしてそんなことを告げて帰るのかわからず、わけもわからないままその背に小さな疑問を投げかける。
ただ、手の中に押し込まれた走り書きのメモと、置き去られた本だけがそれが夢ではなくて現実だということを*示していた*]
美術商 ヒューバートは、旅芸人 ボブ を投票先に選びました。
[アーヴァインは各戸を回り、ヘイヴンを襲った大災厄を知らせる役目を自ら担った。
土砂崩れで町が分断されて中心部と連絡が取れなくなったこと。
無線で麓の町に連絡をしたのでそのうちに救援隊が来るだろうということ。
先日届いた救援物資を保管しているので救助がくるまでの当面の間食料などは心配しなくてよいこと。
何か連絡がある場合は、旧い集会場──それは大昔、町民全員が集まって町政について合議していた頃に立てられたものだった──の鐘を鳴らすので、集まって欲しいことなどを告げた。]
[今も雨が降り止まない為に、崩落した山腹の周囲はまたも崩れる恐れがあった。
それ故、救助や詳しい被害状況の調査は雨が上がってからにせざるを得ず、付近の何世帯かに集会場への避難を勧告するに留めた。]
[最も気が重かったのは、遺族達に事故のことを知らせなければならないことだった。
先日の暴風雨の時も、同じような場面が何度かあったが、死というものはなかなか慣れるものではない。
今も泥土に埋まったままの家々──まだ生存者が居るかも知れない──を思うと身震いを禁じえなかったが、それでも間近で見た死は特別なものだった。……]
[ユーインの死体が見つかったのは冬のある日だった。
その後、自室から遺書も見つかって、自殺と処理された。
町が小さいせいか、人々は小さなニュースでも飛びつき、どんどん尾ひれはひれをつけていく。
この場合、そこまで誇張ともいえなかったが。
ユーインは確かに自殺だった。
遺書もユーインの筆跡と確認されている。
死因は刃物で腹部を刺したからと『推測』された。
凶器も見つかり、調査もそれで済んでいた。
何故彼は自殺したのだっけ。
『確か…あれは…そう、俺が…いや…違う…』
浅い夢は物語のように次々と情景を見せる。
起きれば忘れてしまうのに、いつも間際に悪臭のするヘドロのような足跡を俺の記憶に残した]
痛…。
[目覚ましのように激しく鳴るドア。夢から強制的に引き戻される。寝違えたのか、首をコキコキ鳴らしながらだるそうな足取りで不躾な来訪者の為玄関に向かった]
今開けますからまって下さい。
って、アーヴァインさん?こんな雨の中…どうされました?
[いつもは血色のいいアーヴァインが、その片鱗も見せない青い顔で起きたことを告げる]
まさか…そんな…。
[復旧の見通しは?道が遮断されては救援もいつ来るか分からないことではないのか。
様々な不安が頭をよぎるが、ここで彼に問い詰めても詮無いこと。一言、確認の言葉を伝える]
分かりました。わざわざありがとうございます。
もしこの後も他の家へ行かれるのでしたらお気をつけて。
─酒場─
[アーヴァインはローズマリーの酒場「アンゼリカ」にもやって来た。
目の下に隈を作り、酷く憔悴した顔のアーヴァインにローズマリーは温かい飲み物を出した。
それを受け取り、彼は無表情に村を襲った災厄について告げた。
──店内に重い空気が流れた。]
[2階から下りて来たギルバートもその知らせを聞いた。
アーヴァインはローズマリーに礼を言ってコーヒーを飲み干すと、黙礼して店を出た。
ギルバートはその後を追って戸口に向かった。]
[自分の身体で店内からは死角になるように、後手で扉を閉めた。
出てすぐに傘を差そうとしていたアーヴァインは驚いて体ごと振り向いた。]
[髭剃りの跡がうっすらと目立つ、くたびれ切ったその顔に、自分の顔を近付けて──]
[短い、だがしっかりとした口接け。
滑らかな舌が閃いて、上唇の上を素早くなぞっていく。
その感触。
若者の顔が離れた後も、アーヴァインは茫然とそれを見詰めることしか出来なかった。
ほんの少し開いた口が淫らに嗤う。琥珀色の瞳は、蠱惑のいろを湛えて黄金に煌いた。]
[懐中電灯をつけ、予備の電池と蝋燭を取る為地下まで降りると、そこは浸水していた。前の災害ではこんなことはなかったのに、それだけ雨が酷いことを物語っている。
恐らく水のせいで電気がショートしブレーカーが落ちたのだろう。これくらいの修理なら自分でも問題はない。
懐中電灯の明かりの下、手早く済ませると家中にまた暖かい明かりがついた]
[……それからどうやって車に乗り込んだのか、アーヴァインは憶えていない。
気が付いたら次の家に向かって車を走らせているところだった。]
[勃然としたものが身体の奥から湧き上がってくる。
それは、何時まで経っても一向に収まる気配のない、股間の膨らみを見ても明らかだった。今は緊急事態であり、町役場の職員としての義務と、市民としての良識を思い出して懸命に自制心を保とうとしたが、そのせめぎあいは彼を余計に混乱させるだけであった。]
[彼は、もはやこのヘイヴンではひたすらに押し隠してきた衝動を押し留めることが出来ないことを悟った。
何とかして早急にこの滾りを鎮めなければならない。
焦る気持ちを抑えて、ようやく住民の居なくなった廃屋を見つけてその敷地に入って停車する。堪えきれずに車内で自慰に耽る彼の脳裏には、あの若者の裸身がちらついていた。]
地下掃除するのも面倒くさいし見なかったことにしておこうかなぁ。
暫くホントに先生ン所に居候してた方が楽かもしれないよなぁ。家の中とかもいつ水浸しになるかわかんないし。
[地下室から戻り、ぶつぶつと天邪鬼なことを一人ごちながら、雑貨屋で借りた服を乾燥機に放り込む。これが乾く頃には雨は小降りになっていることを祈りながら*]
―回想―
[ニーナ・オルステッドが、彼の「契約」相手になったのは、彼が図書館で彼女の秘密を知ってから程なくした時のことだった。
電話の内容から、彼女が亡くした兄の面影を今でも忘れられずにいることが分かった。しかし「それ」と彼女の性的快楽の関連性は、電話の内容からは推測できなかった。
ナサニエルは、あれこれとその理由を推測したが、どれもこれも納得のいくものではなかった。
――が。
初めて「契約」を結んだ時、彼女における「兄」と「性的快楽」の理由が結び付いた。寝台の上で見た彼女の肢体とまなざしは、明らかに「一方的に兄を慕う妹」のものではなかった。普段の不器用で近寄りがたい「ニーナ・オルステッド」とは異なる、兄への淫らで純粋なる思慕を抱く「ニナ」。それが理由の全てだった。]
[そして、彼女を溺愛したであろう彼の兄。
――彼の人となりは、彼が生前好んで吸っていたという甘いチェリーのリトルシガーの香りからなんとなく推測していたが、どうやらそれなりに「当たり」だったらしい。「ニナ」はそれを気に入ったらしく、“兄”となったナサニエルを求め、度々関係を持つに至ったのだった。]
………いやァ。
想像以上の「収穫」ってヤツだな、こりゃ。
[図書館で秘密の行為を見たのは全くの偶然だったとはいえ、ニーナのことを事前に調べて置いたのは正解だったな――ナサニエルは初めての「契約」を終え、それなりに満たされたらしいニーナの背中を見送りながら、ぽつりと呟いたのだった。]
―作業場―
[身体中を駆けめぐる情熱と、希求して止まぬ心のかつえのままに、ただひたすら粘土に命を吹き込み続けた。掌が、指先が、記憶するシャーロットの微細な肌の感触を、その肌の下の肉の躍動と血潮の潮流までをも甦らせてゆく。]
ああ……ロティ
…欲しい。君が……
[指の背が、潤いを湛えた秘めやかな花苑に触れた時――指先を上向かせその場所を探求したいという渇望を振りほどくのに、私は意志の力を総動員しなければならなかった。
熱い蜜の滴る花芯に指を滑り込ませ、ぐちょぐちょに掻き混ぜたかった。
まだ知らぬ内なる神秘への希求を、彼女は私にとって必要なことなのだと受け入れてくれただろうか。
父親としての領分をとうに越えた試みに踏み出すには未だ躊躇があった。]
[表現者としてシャーロットから美的快楽を得ることを無心に切望し、それらの探求に耽溺する時、私の魂を占めたのは父親としての愛ではなく一人の男の焦がれるほどの情愛だった。
その最終的な到達点が性的な充足にあるのか、作品の完成なのか、振る舞い方を分かつのはその動機付けの方向の違いでしかなかった。
制御しきれなくなるそのギリギリの手前まで自分自身の情欲を引き出す時、曖昧な領域の狭間で私はひどく混乱することになる。
素材に向かい、造形の完成までに欲求のすべてを注ぎ込むことができれば虚脱感とともに平静が戻ってきた。だが、それはそう簡単なことではない。
造形物としてはそれ以上手をつけることができない、という状態に至っても愛欲の影が僅かな残滓として澱のように留まっていることはしばしばあった。
そんな時は、ただ行き場のない衝動をもてあました。
夜道をロメッシュのアクセルを一杯に踏み、駆け抜けていく中で発散される時はましな方だった。真夜中に隣町まで出かけてゆき、女を買ったこともあった。
エリザとの性的な不一致の決定的な決裂となったあの出来事も、そんな衝動によって引き起こされたものだった。]
――シャーロットの細い腰を抱き寄せ、
熱い坩堝に猛り狂った強張りを
深く、深く沈めてゆく――
[狂わしいほどの淫欲が心を侵し、視界にまで氾濫してくる。足を踏みしめ、圧倒的な猛威に押し流されぬようただ目の前の粘土に立ち向かった。]
[心を灼ききる程の集中に虚脱しきった頃、塑像は完成していた。
素材に向かう時には、多くの場合そこに顕れ出るものへの道筋は導かれている。だから、私の制作は時間的には極めて早いものだった。
この塑像は、石に鑿を入れ最終的に作品を作り上げていく前段階の試製の一つに位置していた。塑像の上から乾燥をコントロールするための薄い布をかけ、作業を締めくくった。
最後に瞑目し、「今から私は父親だ」と自分自身に言い聞かせた。私の中の“美術家”と“男”を心の奥底に押しやる。色欲は未だ埋火のように燻り熱を持ってはいたが、自制を損なうものではなくなっていた。深呼吸と共に平静を呼び覚ますと、螺旋階段を*昇っていった*。]
―ナサニエル自宅・書斎―
[メモの木の葉が散乱している机の上には、1冊の黒革の手帳。
そして、1枚の走り書きのメモ。]
「これは人類史上における、最も偉大な『実験』である。
Nathaniel Oliver Mellers」
[その言葉は、空になった咳止めシロップの瓶に踏まれながらも、誇らしげに胸を張っている。]
――――――――――――――――
《ナサニエル・オリバー・メラーズの手記より》
【ステラ・エイヴァリー】
197X/XX/XX
彼女との「契約」の形態は、一見不安定なようでいて実はひとつの明確な「芯」が通っている。同性愛者である彼女が、過去にされた行為を繰り返して体験することで、罪悪感と充足感を覚える――というものだが、私はそれに些かの違和感を覚えた。何故彼女は、わざわざ「罪悪」を思い出さねばならぬのだろうか、と。
そして、男への「従属」――蔑まれ、罵倒され、好きなように犯されることと、男に対する「支配」――男を罵倒し、哀れみ、踏み付けにすること――彼女が望む行為の全ては、ひとつの《結論》へと導かれる。
即ち、男という「性」を支配してやったという達成感、或いはカタルシス。それに他ならない。
男に対する「従属」は、一見すれば自身を傷つける行為に見えるが、実は彼女にとって、本質はそうではない。「男」が欲しい、犯して欲しいという懇願と、それに付随する性的行為をもって、彼女は「男を絶頂させてやった」「私も達したけれど、貴方も満足したでしょう?」という支配的な目をするのだ。
試しに「犬になれ」と言ってみたが、彼女はついぞ「犬」に成り下がることは無かった。禁忌を破り、彼女は従属的な態度を取りながらも、「人間」であることを捨て去ることなく、「人間」のままの姿で私を「受け入れ」、そして「満たされた」のだ。「人間」である自己を、自身が従属すべき者から守った。――本来のルールでは、赦されざる事態のはずだ。
ある種の尊大なプライドが、彼女の卑屈な態度から見え隠れしている。彼女ほどプライドが高く、また自己防衛の壁の厚い人間を、私は見たことがない。
そういう意味では、私を「支配したい」と欲し、蹂躙した方がまだ素直で分かりやすいと思うのだが……そういうわけにはいかないらしい。
――何故、彼女は「自分が『男』に『従属』する」、という形態を捨て去らないのだろうか?
その理由は、彼女の「同性愛を許容して欲しい」という強い欲求であると推測される。
つまりそれは、何らかの理由で「同性愛者」として蔑まれた彼女が、自己肯定――或いは、自己防衛――の為だけに、男との性的交渉を為しているのではないだろか、ということだ。
表面上では「男」と通じ、「私は男と通じた。きちんと女としての義務を果たした。私は悪くない。」と――誰かに、或いは自分自身に見せつけるための行為。それが彼女における「男との姦通」の理由の全てではないだろうか。
そして、その免罪符を振りかざし、自身の心の奥底に在る「同性への思慕」を、下界の風雨や刃に傷つけられぬよう、密やかに守り抜くのだ。
我々「男」は、彼女の「同性愛」への免罪符。それ以上でも以下でもない。つまり、彼女にとって、男は所詮「道具」に過ぎぬのだ――
――――――――――――――――
―ナサニエル自宅―
[“妹”を抱き寄せ、何度目かのくちづけを施した時のこと。玄関の方から、チャイムの鳴る音がした。“妹”にごめんね、と告げると、“兄”は玄関に向かった。]
[扉を開ける。そこにはアーヴァイン。]
………あなたは?
何かあったのですか……?
[“兄”は眉をしかめながら、アーヴァインの話を耳にする。]
村の封鎖……崖崩れ……
電話回線は全て不通。一部停電……
なるほど。俺の家が停電したのは、そういうことだったんですか……。
[アーヴァインは、いつもとは違う様子のナサニエルに訝しげな目を向ける。現在復旧作業を早急に行っているが、万が一のための準備はしておくように、という旨を告げると、アーヴァインは次の家へと向かった。]
―2階・寝室―
ニナ……
[真っ白な寝室に戻ってきた“兄”は、“妹”に外の状況――アーヴァインから伝えられたそれを説明した。そして、悲しげな瞳で語りかける。]
残念だけど、今日はこれでおしまいだ。
リックやウェンディが心配だ。彼らの元に、戻ってあげて。……俺はこんな姿になったから、ニナとは一緒に行けない。ごめん。
また俺に逢いに来て。
それまでは……お別れだよ。
[テーブルに掛けて乾かしていた“妹”の服を手にし、*そっと差し出した*]
[ソフィーに以前依頼した衣装をまだ引き取りに行っていないこと、彼女の誕生日が訪れることを思い出していた。日頃彼女には随分世話になっており、シャーロットの16の誕生日にはドレスを戴いたものだった。
私も、些細なものだったが彼女への誕生日プレゼントを用意していた。
父親の跡を継ぎ仕立て屋を営む彼女の腕前は見事なもので、働くことができなくなった父を支える健気な姿に私は敬意すら感じていた。しかし、かつてそんな話をした時に、エリザの反応はいささか不可解なものだった。
どこか奥歯にものの挟まった物言いで、明確にどこがとは指摘しないがそれでいて否定的な言葉を積み重ねていく。
「なにかあるのか?」と私が問うと、「噂だけど」と前置きした上で「私、イアンがあんな風になったのは、ソフィーのせいもあるんじゃないかと思うわ」と口にした。]
[聞けば、妻を亡くしたイアンをソフィーが誘惑したのだという噂があるのだという。それに類する噂は私も耳にしたことがあったが、私には妻を亡くしたイアンがソフィーに手をつけたのだという噂の方がまだしも真実に近いのではないかと単純に考えていた。
そういった時、女性はたいてい同じ女性の立場を擁護するものだと勝手に感じていた私は、エリザの態度が少し意外でもあった。
「どちらにしても――」と私は言う。「しっかりしなければならないのは父親の方だよ。」
妻が死んだことがどれだけショックだったとしても、父親には娘を庇護する責任と義務がある。守るべき人がいるなら、その立場を放棄することも忘れ去ることもできないはずなんだ。私は熱を込めて話していたのだと思う。
そう信じていたし、そうでありたいと思っていた。世の父親一般もそういうものであって欲しいとも願っていた。]
[黙って聞いていたエリザは感心するでもなく、共感するでもなく、ただ冷笑的な笑みを浮かべていた。]
「……そう。それなら、あなたは安心ね。」
[私が仮にでも妻を悼まない人間に見えたのだろうかと、慌てて言い添えた。
もちろん、君に何かあるなんて考えもしないことだけど、と。
彼女はただ微笑んでいただけだった。]
―アトリエ―
「これから帰るとお電話があってから随分経ちますが、まだ奥様は戻ってきていません」
[マーティンの言葉に心の中を不穏な暗雲が垂れ籠めはじめ、様子を見に外に出ようかと考え始めた時だった。不吉な知らせを運ぶ来訪者が、重い足取りで我が家の扉を敲いた。]
なんだって!?
まさか……
いや、ああ……そうか。
これが……
[男から震える手で黒拍子の冊子を手にとる。字体を確かめただけで中を読む気になれず、玄関に入ってすぐのウォークインクローゼット脇の椅子の上に置いた。
寒気を感じたのは土砂降りの雨で低下した気温のせいだけではなかった。]
ああ。わかった。場所はだいたい察しがつく。
……知らせてくれてありがとう。
[男を見送ると、急いでウォークインクロゼットから雨具と傘、レインシューズを引っ張り出す。振り返ると、姿の見えないシャーロットに張り上げた声で呼びかけた。]
ロティ!
少し出てくる。危ないかもしれないから、お前は家にいなさい。
何かあったら、マーティンを呼ぶように。
[そして、返事が帰ってくる暇も惜しむように戸外へと*飛び出していった。*]
――酒場二階 ローズマリーの部屋前――
[ソフィーの、探るような視線を無視するようにわたしは彼女と彼女のお父様を残し部屋を後にしようとしたその時。ドアノブを捻ろうとする手が一瞬妙な軽さを覚える。
と、同時にわたしはドアと共に軽く引き摺られるような形になり、バランスを崩しかけた身体は前に倒れそうになった。]
[それでも身を護ろうと反射的に踏み出した次の足は、床ではなく人の足に着地しそうになり。わたしは再び慌てながらも何とか踏み止まり、前に倒れる事も誰かの足を踏む事もなく無事体勢を立て直した]
あっ…とっ…ごめんなさいっ…ギルバードさん。お怪我はな…く…て――?
[真っ先に視線を落とした足許。そして瞬時に反転する瞳に映し出された姿に、わたしは申し訳なさそうな表情を作り彼を見上げた]
[そんなわたしに、ギルバートは微笑を投げ掛けようとする。それは物腰の柔らかい男特有の癖とも言えようか。
彼らは常に微笑みを投げ掛ける事で、相手との距離を縮め時に物事を円滑に運ぼうとする。それは獲物を落とす時も変わらない。
男にとって女とは獲物であり、女を落とす事は狩猟と同じ事。]
[ギルバートもまた楽して獲物を取るスタイルを貫き通す男だろうと、わたしは初対面時に向けられた人懐っこい笑顔と気負いしない態度にそんな予測を立てていた。
そう、見上げた視線先に投げかけられた微笑の意図する事を読み取るまでは――]
[香染色の瞳が鋭く光ったような気がした。そして歪んだ口許に浮かんだ微笑。
それらは明らかに好意的なものではなく。言うならば裏を見透かしたような、圧倒的優位に立った物が見せる示威のような色合いを湛えているように思えた。]
[見透かすような透き通った瞳。訳あり物同士で交わされる秘密のやり取り。
瞳は語る。
「秘密を…欲望を紐解いてやろうか?」と――]
『冗談はよして。わたしが一体どれ程の苦労を積み立てて今の平穏を手に入れたのか…。あなたには解らないでしょう?』
[しかし無言で見つめ返す瞳には本心は滲ませる事なく、訳が解らないと言わんばかりに不思議そうに微笑を返して。
わたしは無言で彼の横を通り過ぎ、階下へ続く階段をゆっくりと踏み締めた]
―回想 自宅―
[ステラの悲痛な告白に塞ぎながら、ルーサーは2階の執務室へと向かった。
彼が部屋のデスクに腰掛けたとき、部屋の電話が鳴る。その様子はまるでそれがその時間に鳴ることを知っていたかのように落ち着き払っていた。2回目のコールで静かに受話器が上がる……]
ルーサー 「はい、私だ……」
?? 「やあ、ドクター ラング、調子はどうかね」
ルーサー 「無駄口はいい。用件を言え……」
?? 「頼んでおいた件はその後どうなっている」
ルーサー 「昨日、『因子』のサンプル採集に成功した。実験体はもう死に掛かっているが、やはりというべきか、投与している薬物に対して面白い反応が見られたよ。」
[ルーサーは、患者の人懐っこい笑顔を思い出し、胸が痛んだ。]
?? 「それを聞いて安心した。この電話は盗聴されている可能性があるので、また連絡員を寄越そう。それまでに報告をまとめておいてくれ。」
ルーサー 「用件はそれだけか? 切るぞ。」
?? 「相変わらず愛想のないヤツだな。そっちの生活はどうだ? 慣れたか?」
ルーサー 「別に何も変わったことはない。」
?? 「君はタフだな。私が『狼の足跡』を辿れと言われて放り出されれば、そうはゆくまい。やはり君を派遣して正解だった。」
ルーサー 「……」
?? 「こっちはそうだな…… 調査部によれば、君の父上は奥方の誕生日にこっそりとプレゼントを買いに行ったらしい。仲のよろしいことで。」
ルーサー 「きッ、貴様ッ!!」
?? 「それだよッ。今日はじめて君の声を聞いた気がする。」
[電話口の向こうで乾いた笑い声が響く。]
ルーサー 「家族には手を出さないという約束だったはずだ!!」
?? 「人聞きの悪いことを言うなよ。我々は忙しい君に代わってご家族を "ケア" しているだけだよ。尤も、君が妙な気を起こしたときには、我々は不本意ながら "ケア" から手を引かざるを得ない。そうしたら彼らが急に事故に遇わないという保証はないがね。」
ルーサー 「悪魔め…… いつか…… いつの日にか貴様らには神罰が下るだろう……」
?? 「その悪魔とやらに魂を売ったのはどこの誰だね。『結社』は君の活躍期待しているんだよ。これからも仲良くやろうじゃないか。」
ルーサー 「黙れ……」
結社の男 「君が同罪だということを忘れるな。奥方を生き返らせたいんだろう。」
ルーサー 「……」
[ルーサーはペンダントに手を掛けると押し黙り、何も答えなかった。]
―― 一階 酒場内――
[階段を下りて店内へと進むとそこにはボフがピアノの前に座り、ローズに向かって何かを申し出ていた。内容はよく解らなかったし客と店主の会話に部外者が入るべきではないと思い、気にも留めなかった。]
ねぇローズ、わたし一旦家へ帰ってもいいかしら?暴風雨で家の中の事も気になるし…。
[会話が途切れたタイミングを見計らって、わたしは上でのやり取りを手短に話し、嘘の帰宅の旨を伝えた。ソフィーが父親の面倒を見るといっている以上、わたしが居ても彼女達の邪魔になるだけに思えたし、第一わたし自身が一人になりたかった。]
うん、家の物を片したらすぐ帰って来るから…。あ、そう…これ良かったら飲んで?町の外に買い物へ言った際、手に入れたの…。茶葉に蜂蜜パウダーが振り掛けられている…珍しい紅茶なの。
[そう言ってわたしは彼女にこの町ではなかなか手に入らない嗜好品を手渡し――]
じゃぁ、暗くならない内に戻ってくるわ…。
[道路封鎖の情報を携えてやってきたアーヴァインとすれ違うように、わたしは酒場を後にし自宅への道を辿った。]
結社の男 「おっと、そろそろミーティングの時間だ。名残惜しいがここまでだな。そうそう、それから未確認の情報なんだが、我々がずっと探していた『獲物』がそっちのほうに向かったという報告があった。」
ルーサー 「獲物?」
結社の男 「狡猾なヤツでなかなか尻尾が掴めないんだがね。我々の調べている過去の事件に少なからず関与していたことは判っている。ソイツがヘイブンに現れるようなことがあれば、いよいよヘイブンと『人狼』の関係をもっと本格的に調査することになるだろうな。まあ、それはともかくとして、もし、ソイツと思しきヤツと接触するようなことがあれば、あまり深追いはせず、直ちに報告してくれ。」
ルーサー 「ああ、分かった…… どんなヤツだ。」
結社の男 「それがな、調査部のやつら我々に詳しい情報を出そうとしないんだ。ずっと逃げられ続けているんでどうも失点回復を狙っているらしい。」
ルーサー 「それで、私にどうやって見分けろと?」
結社の男 「意地の悪いことを言うな。調査部のヤツらの鼻を明かすチャンスだろ。それじゃな。」
[ルーサーは苦々しげに電話を切ると。ステラのいる階下へと向かった。]
―回想 自宅―
ステラ、調子はどうだね。
[彼女の寝ていたソファのほうへと声を掛けるが返事がない。彼女に着せたはずの寝間着が畳んである。そしてその上には置手紙が]
この雨の中を…… バカな……
[彼は弾かれたように飛び出した。]
ステラーーッ、ステラーーーッッ。
まだ、そう遠くには行っていないはずだ……
[車に乗り込んで、キーに手をかけたとき、何かが彼の手を止めたような気がした。]
私が彼女にできることは…… 今ここで追うことではない、か…… そうだね、マリア……
[ルーサーはひとりごちるとペンダントに手をやりながら天を仰ぐと、家の中へと引き返した。]
>>21
――雑貨屋周辺――
[ネリーの問いかけに振り返る。倉庫の鍵は扉の鍵穴に刺さったままだった。背景には雨音が続いている。ウェンディは一体この雨の中、どこへ――その疑問は、彼女にとっても当然のものだと思いながら、僕は首を振った]
ん……っと。
それがさ、正直なところ、わからないんだ。
家の中には居なかった。
車を出した様子もない。ウェンディは運転、できないけどね。
『そして、ここにも居なかった。
まさか居るとは思ってはいなかったけれど……』
じゃあ、どこに? っていうのが、今一番判らないこと。
何をウェンディが考えてるのか……さっぱりなんだ。
──アンゼリカ──
[ボブのソフィーを医者に連れて行くという言葉を(>>48)苦い部分は聞き過ごし]
ありがとう、ボブ、親切ね。
でも、ソフィーは気がついたみたいだから、たぶん大丈夫。
[ボブのピアノを聞いているうちに、ステラが二階から降りてきて、帰宅したいとのこと(>>128)。ローズマリーは車で送ろうかと申し出るがアーヴァインが入ってきて(>>102)その申し出は尻切れ蜻蛉のままおわった。
アーヴァインは何を見たのだろう、目の下に隈をつくっている]
アーヴァイン、コーヒーでも飲んでいってちょうだい。
[ローズマリーはアーヴァインに熱いコーヒーをだした。
道路が土砂で遮断されたという悪い知らせ。
休みもせず、こうして不吉な知らせを届けて回っていてはこうもなるのだろうか…]
[あ、という間を置いて僕は言葉を継ぎ足した。
先刻から今に至るまでの途中経過を飛ばして話している、と気づいたからだった]
……先刻までは、居間に居たんだよ。でもなんか、様子が変だった。ギルバートって若い男の事、ネリーは知ってる?
君が店に来る前に来てた、他所の人間の事なんだけど。
でも、そいつの名前、ウェンディは直接見てもないのに知ってた。話してるのが聞こえるような距離じゃなかったのに。それに、助けがどうこう、とか。
謎々だとか隠れんぼなんか、してる場合じゃないのにな。まったく。
[溜息を吐くと、僕はかぶりを振って肩を竦めた]
[ネリーはブランダーの兄妹とは特別慣れ親しんだ間柄、まではいかなくとも、多少は彼らの事は理解していた。朝は何を好んで食べたり、このスポーツをすればこのようなスコアは出るであろう、というぐらいは。]
それじゃあ、彼女は雨なのにどこかへ行ってしまったって言うの?
わざわざ? そもそもウェンディはそんな事をする子じゃ…
[ローズマリーは「次もあるので、失礼」というアーヴァインの後ろ姿をギルバートが追うのを目にした。
なにか聞きたいことでもあるのだろうか。
旅人の彼はこのままではここから「旅立つことができない」。
ローズマリーはその考えに自分が囚われそうになる自分に身震いした]
ギルバート?
[ネリーはギルバートが誰か、と言う事は把握していない。
とどのつまるところ、数日前暴漢に襲われ、そして救い出したあの男こそがギルバートではあったが、お互いに名前は名乗らずに別れていたのだった。
だがウェンディがその名を知っている事にひっかかる。]
間違っているかもしれないけど、もしかしたら最近この街にやってきた…ありていに言うと八方美人そうな人の事かしら?
――なかったね。
[と、ネリーの言葉の後を引き取り、頷いて同意する]
ウェンディはどちらかと言えば大人しくって、後ろからついてくるような子だった。服を取り替えても結局、同じように僕の背中に隠れてるような。
[最近この街にやってきた人間。思い当たるような人物は他には居なかった。報道関係者は一日で引き上げてしまっていたのだ]
ほぼ多分、そうだと思うよ。八方美人そうな、か……
ネリーはああいう感じの奴、嫌い?
[ネリーはひとり、思考を張り巡らす。]
あの人…まだこの街にいるのかしら?あの時は『初めてここに来た』と言っていたけれど…
10ガロンハットみたいなのを被ってて。
と言うことはどこかに泊まっている事になるわね。アンゼリカ?アーヴァインさんの避難所?
─酒場─
[アーヴァインを追って外に出た彼はすぐに戻ってきた。
ローズマリーに、はにかむような笑顔を見せた。]
……何か大変そうだから、手伝えることがあったらやらせて下さいって言ってみた。
俺は余所者だから、どんだけ役に立つか分からないし、町の人もかえって迷惑かも知れないけど。力仕事には自信があるし。
折角ここに居るんだしね。
[ネリーはその男――ギルバートに大きな恩がある。
どうしても問いつめれれば、いけ好かない部分もあるかもしれない。しかし彼の目の前でもないが、ここで彼の悪口をつく、飛語を流すわけにもいかない。
それが非常に曖昧な表情となり、苦笑する。]
あの人? あの人がギルバートと言うのね。
さあ…タイプではないかな…な感じだけどね。あはは。
村長の娘 シャーロットは、新米記者 ソフィー を能力(占う)の対象に選びました。
『――なんだろう?』
[けれど、その疑問はギルバートへの評価を述べるネリーの言葉に打ち消されてしまった。彼女の表情に釣られ、苦笑する]
まあ、ね。ネリーはきっと、真面目な固い感じの奴の方が好みなんだろうなっていう気が僕にはするし。
[ローズマリーはギルバートの微笑みに胸を突かれた気がした。
手助けになりたいと言う彼の言葉と、自分のこのまま封鎖されていればいいという考えとの差。
自分の両手がどす黒くなったように感じ、おもわず顔をくもらせた]
まあ、ギルバート、あなたのような人が手伝ってくれればアーヴァインも心強いと思うわ。
しっかりとした男の人はここからでていってしまうばかりなんですもの。
ローズさんね。この前だん…ボブさんと一緒に行ったけど、そのような人はいなかったわ。
ごく最近、と言うことになるのね。
[突如、大陸じゅうが悲鳴を上げるような音を上げる。ネリーは思わず身体中を竦ませた。]
やだ、私のタイプってどんなのだろう。
[結局の所、ネリーは少なくともこの6〜7年は自分から言い寄った事は皆無に近い。心が傾く、あるいは傾きそうになった事はあれど。]
[触れられたら欲しくなってしまうに違いない。
ローズマリーはそう確信しながらも引き寄せられるように彼の腕の中に納まってしまう]
ギルバート…
[つぶやく彼の名に彼女の欲望が見え隠れしていることにギルバートを気づくだろうか]
ローズ……
[ローズマリーを腕に抱き、その髪を愛おしむように撫でる。
顔を曇らせた彼女を宥めるようにゆっくりと。]
心配なのか?大丈夫だ。きっと何とかなるよ……
俺も一緒に居るから。
[耳元で静かに優しく囁いた。]
[リックが強いリーダーシップ性を窺わせる事にネリーはこと感心する。
私がリックの年齢だった頃はどうだったか?目の前の仕事をこなすだけで精一杯であり、知識を吸収するのはもちろん、知識や度胸を身につけ、そしてこなすと言うことは到底無理だったのではないか?とジェラシーも少しほうほうと沸く。]
[「一緒に居る」と囁いたギルバートのその言葉がローズマリーの胸をくすぐる。
その前についているだろう「今のうちは」という意味合いは頭から放り出して]
ありがとう、ギルバート。
すごく…嬉しい…。
──アトリエ・自室(回想)──
[母屋へは行かず、アトリエ棟の簡易キッチンで、お気に入りのマグカップでミルクティを飲んだ後、シャーロットは自室へ戻った。マーティンは二人がまだ作業場に居ると思って、エリザの帰宅が遅れている事を告げなかったのかもしれない。
製作中は基本的に外部の人間の立ち入りを禁じていた。また、入って来たとしても集中のため、気付かない事も多かった。そういった時、マーティンは真面目な顔で頷き、不満を口にする事も無く「また後で参ります」と頭を下げて退出するのだった。そして、時間を置いて邪魔をしない方法でまた現れる。母屋にもう一人住み込みの使用人が居たが、そちらはマーティンのように間合いを量ることが出来ないため、取り継ぎの類はしないルールになっていた。
シャーロットは、部屋に入るなりスプリングの利いたベットに身を投げ出した。]
――自宅――
[家に着くなりわたしは鍵を掛けカーテンを引き、自らの家そのものを密室に仕立て上げた。
アーヴァインからはすれ違い様、簡単に町の情報を聞いていたので彼が此処に来る事は無いだろうし、この状況下で尋ねてくる物好きな生徒も居ないだろう。
野暮ったい服装や仕草は町の男達には不評だったし、気を惹きたいが為に訪れる稀有な存在も思い当たる節も無い。契約を取り付けているナサニエルとも予定は入っていなかった。]
これで…誰にも悟られる事は無いわね――
[そっと呟いてわたしは室内で裸になる。極端に露出を避けた服を脱ぎ捨て、下着を剥ぎ取る。そして熱いシャワーで汗と雨雫を払い取り、クローゼットとチェストから先程とは打って変わって正反対のランジェリーとドレスを取り出す。
フランボワーズのトンガ。ラズベリーレッドのガーターベルトに絹のストッキングを着けて。ミッドナイトブルーのドレスを身に纏う。照明は飾りランプを。口紅は艶やかなオールドローズを乗せて。封を切るはVega Sicilia U'nico。
全てを様変わりさせて、わたしは神の血と例えられる液体を、静かにグラスに注いだ。
そしてゆっくりと左腕の包帯を外し、現れた姿に優しく微笑んで――]
さぁ、一緒に味わいましょう?昔を思い出すように…ね?
[静かに垂らすようにそっとグラスを傾け、わたしは自身の左腕に赤ワインの雫を垂らし、罪に酔いしれようとした。
そうする事で少しでもこの子の目覚めを遅れさせようと。そう思って――]
──ローズマリーの部屋──
[一人になって少しすると、ソフィーの胸は後悔で重く沈んだ。
もっと他の、柔らかい言い方が出来なかったのだろうか。
何も体調を崩すのはこれが初めてではない。
以前流感で寝込んだ時も、行きつけの診療所のお医者様はわざわざ奥さんを寄越してくれ、申し訳なく思いつつもその日一日父の世話を頼んだではないか。
それが何故、今意固地になる必要があったのか。]
『嫉妬──?』
『ステラさん相手に?』
『……まさか。私は彼女を信じている。』
『信じているのではなく、信じたいだけじゃ?』
『違う。』
『───、いいえ違わない。』
『確かに私は、彼女の上辺しか見ていない。』
『けれど、私にはそれで十分。』
『彼女を選んだのは私なのだから。』
『断罪の剣を振るうに相応しい、高潔な人物。』
───……。
[ソフィーは溜め息を吐いた。
自問自答の果てに辿り着く己の内面に。
心から人を信じる事の出来ない自分の汚さに。
だって私は──]
『“私にとっての彼女”がそうであれば、
真実なんてどうでも良いのだから。』
[ソフィーは片手を支えにしてベッドから降りた。
ずり落ちたバスローブを整え、緩んだ紐をウエストで縛り直す。
そして、よろけながらも父の元に歩み寄り]
──無事で良かった。
少しの間とは言え、一人にして御免なさいね……。
[キィ、キィ、と揺り椅子を揺らし続ける男の頬を撫でる。]
お父さん──…。
[筋肉が落ちて細くなった太腿に腰掛けると、
男は反射のようににソフィーの腰に手を回した。
その首にそっと腕を回し、
ソフィーは、恋人に甘える娘のように、父の肩に顔を埋めた。]
[ローズマリーの欲望には気付いておらぬげに優しい抱擁は続く。]
しかし……ステラを帰してしまって大丈夫なのか?こんな時に…。まあ自宅に居た方が気が休まるのかも知れないけど……。
[と眉根を寄せて、少し気遣うような素振りを見せた。]
[仄かなアルコールの匂いに、思考は過去を遡る。
夢に向かって歩み薦めていた眩しい一時。娼婦として地の底で生を啜ろうと暮らしていた暗澹。相反する欲望。縋る思い。]
[罪を犯し一度奈落の底に堕ち切ってしまったわたしは、しかしヒューバートの手によって再度表世界に舞い戻る事となる。
その時わたしは自らの體に犯した罪を刻み付けることによって、二度と過ちを犯さないようにと、それを自戒に変えようとした。傲慢と色欲、そしてもう一つの罪を背負う事によって――]
でも…それは一年と持たなかった…。
[わたしはライト越しに揺らぐ赤い液体を口に含み、一人語ちた。
あれ程蔑んでいた行為は、燻る熱をこの體に宿していて。わたしは半年が過ぎた辺りから、事ある毎にその熱に魘され続けていた。奇しくも自戒はわたし自身を煽り立てる対象に変化していった。塞き止めようとしても歯止めが効かない押し寄せる波。そんな押し問答に疲れ果て、全てを投げ出してしまおうと思ったそんな時――わたしはナサニエルと出逢った。]
[彼に求めたのは色欲を宥め傲慢を飼い慣らす事だけだった。一度全てを失ってしまったわたしにとってもう一つの罪は、目覚めさせるきっかけとなる対象が居なかったし宥め透かす自身もあった。
だからわたしは油断していた。
左腕に宿すこの子の目覚めを…無い物だと思い込んでいたが為に――]
『罰を受ける覚悟はとうに出来ている──。』
[肉親と情を通じた罪で、人々の冷たい視線に晒される。
それは、ステラに秘密を打ち明けた時に、
ある程度予想はしていた事だ。]
いいわよリック。
ウェンディが行く場所って元々限られているし、見当はつきやすいわよね。
[このまま雑貨屋に長居していいものかと少し悩む。おそらくはいない筈であるが、雑貨屋の主人はどうしても見たくないのだ。]
[ステラのことを口にするギルバートに嫉妬の炎が胸に灯るのを感じた]
そ、そうね…、ステラは無事に着いたかしら。
アーヴァインに気を取られて、車で送りそこねたけれど。
酒場の看板娘 ローズマリーは、双子 リック を能力(守る)の対象に選びました。
[薄々と気がついていた。ここ最近左腕の調子があまり良くないことは。
でもそれは、この大雨によって参加した復旧作業による疲れなのだと思い込んでいた。
元々力仕事は苦手な方で――そんな言い訳を自分に課していた。今思えばそれは逃げであって、全ての前兆だったと思い知らされる。]
[きっかけは家庭訪問からだった。過去の恋人の変わり果てた姿に疼きを覚えた。でもそれはあくまでもきっかけでしかない。本当の鍵は――]
あの…ギルバートという男の瞳――
[ソフィーを残して部屋を出た際かち合った視線。香染の瞳が訴えかけてきた問いに、わたしの塞は脆く崩れていった。誰にも見せたくは無い、醜い――]
嫉妬――…
――嗚呼、お願い…目覚めないで?どうかこのまま眠っていて?裏切りの血をあなたにあげるから…だからどうか――
[わたしは懇願するように、再び左腕にワインを垂らした。その行為はこの子の渇きが収まるまで、まだ*止みそうには無い*――]
[けれど話を聞き終えたステラは、
私の予想に反して、軽蔑の視線を向ける事も、
人の道に外れた行為だと説教する事も、
また哀れな女だと蔑む事もしなかった。
ただ、静かに。
人情味に溢れた温かい眼差しで私を見下ろすだけだった。
それどころか、我が事のように
胸を痛めてくれているようでさえあった。]
[突然強い口調になった彼女に軽い驚きの表情を浮かべる。]
どうしたんだ、ローズ。
何かまずいことを言った?
[問い掛ける瞳は微塵の疑いも持っていないようだ。]
[だから私は、彼女に心を委ねた。
彼女を信じる自分を疑わない事にした。
それはある種の甘えだったのかもしれない。
ステラなら私を見捨てる事はないと。
表面上だけでも私に添うてくれるだろうと。
それでも。]
『信頼の本質が何であれ、私は彼女を信じると決めたのに──。』
いえ、なんでもないわ…。
[ギルバートの瞳を見つめ、独占欲の固まりになる自分を恥じる。自分にとってはステラが一番大事な人だったはずなのに]
[気分を変えるように、無理矢理別の話題に切り替える。]
そうだ。午前中に行った雑貨屋。あそこの家の女の子が急病なんだってな。こんな時に大変だよな。昨日会った時は結構元気そうに見えたのに…。
──アトリエ・自室(回想)──
[取り替えられたばかりの白いシーツが肌に触れる。すこしごわごわとして清潔な感触。
寝転んだまま髪を解き、シャーロットは黙って眼を閉じた。流石に身体の火照りは去っていたけれども。]
──…やっぱり、まだ。
[触れなくとも分かると思いながら、潤ったままの場所に右手の指先を伸ばした。]
…まだ……濡れてる…。
綺麗に剃ってしまったから、いつもより良く分かる…。
[ヒューバートが剃ったのだと思い出す、シャーロットの睫毛が震え、頬がわずかに熱くなる。同時に、今シャーロット自身が触れている場所に、ヒューバートの指の背、関節が触れた瞬間が甦った。それは慣れた自分自身の指ではなく、よく使い込まれた彫刻家の男の手、愛する父親の手──。
また、じわりと沸いてくる蜜を無意識に掬いあげ、隠すものがなくなりあらわになった小さな突起をその指で撫でた。ゆっくりと円を描くようになぞり、また蜜を掬い、撫でる事を繰り返す。小さな突起自身が熱を孕み立ち上がるまで。]
[何時の間にか、放り出していた両脚は1つに揃えられ、爪先に力が籠っている。
目を閉じているにも関わらず、左手で自らに目隠しをしているシャーロットが思い出すのは……。]
…ああ、だめ。
駄目よ……ロティ。
[指先のもたらす快楽は強くなり、細い波がシャーロットの意識を持ち上げる。このまま、このまま──達してしまう前に別の事を思い浮かべなくては。]
[話題を変えてくれたことに感謝しつつ]
あ、あら、ウェンディちゃんまで?
なにか悪い病気でも流行っているのかしら。いやね。
[乾燥機が止まる所を見計らって席を立つと、丁度窓から空が見える。あの豪雨から、傘があれば出歩ける程度の小雨に変わっていた。
丁度遠くからは陽光の筋のようなものも薄っすらと]
晴れた…のか?珍しい。
いや晴れてくれれば嬉しいけど。
[またいつ降り出すか分からない。今のうちに服を返却しヒューバートの所の模写を取りに行ったほうがいいか]
さて俺の車君、また汚れてもらうよ。
[恐らくこの中で晴れたことを恨んでいるとすれば筆頭は自分の車に間違いない。出かけようとカギを手にすると]
そういえば…と。
[ごそごそと荷物の中から取り出す小さな包み。シンプルに包装されたそれは手のひらサイズ。それを鞄に押し込み、車へと向かう]
[どうやら雑貨店の本来の主人はいなさそうだ。ぱっと見で目に入ってくる家具や調度品の具合で抽象的ながら浮かんでくる。
ネリーはリックのすぐ後ろで受話器を耳にあてたりしているリックを眺めていた。]
ねえ、どうしたのリック?
電話が繋がらないの?また?
――雑貨屋・店内――
[受話器を置き、取り上げてもう一度ダイヤル。でも結果は同じ。本体に戻す時のガチャンという音だけが空しく響いた]
……っ。繋がらないというより。何にも聞こえない。
[短く言ってネリーを振り返った。苛立ちや怒りに似た感情が僕の中で唐突に生まれ、渦巻いていく。別に彼女が悪いわけでも何でもない。理不尽だと、自分でも思った。]
『けど、それを言えばこの状況の方がよっぽど理不尽だ。こんな時に、一緒に暮らしてる母も妹も居ないなんて――』
――――――――――――――――
《ナサニエル・オリバー・メラーズの手記より》
【エリザ・バンクロフト】
197X/XX/XX
彼女との出会いは、誠に奇妙なものであった。
バンクロフト家の工場の前で、出会い頭に――彼女の運転する車に轢かれた。身体は無傷だったが、彼女はひどく困惑した様子だった。
噂に聞く所によると、このヘイヴンで知らぬ者はいないバンクロフト一家のヒューバート氏と、その妻のエリザは必ずしも円満な夫婦関係では無いらしい。……試しに双方の顔を覗き込んでみたが、「ああ、なるほど」というのが私の極めて素直な感想だった。
――これでは「何も起こらない」ではないか、と。
後から聞いた話によると、彼らには1人の娘がいるらしい。名は、シャーロットと言ったか。彼らのような結び付きの極めて薄い者たちが、ひとつの命を為したというのは、極めて奇跡的なことだ。
――こういう時、きっとヘイヴンの外の者は、「神の悪戯」とでも言うのだろう。ひとつ勉強になった。
――いや、重要なことはそこではない。
[腕を回してくるローズマリーの身体をそっと離し、]
少し外を見回ってこようか。
他に困ってる人もいるかも知れないし。
俺、ちょっと出てくるよ。
やっぱり駄目なの? あの時の水害と一緒だわ。困ったわね…でもウェンディは遠くまでは行ってないわきっと、これなら。
[自宅周辺の道路が通行できなくなり、帰るに帰れなかったらどうしよう。とネリーは気を揉む。
リックの感情をよそに。]
――雑貨屋・店内―ー
[パイプ足の丸椅子に座り、受話器を片手にネリーを見つめた。睨んでいた、と形容した方が多分正確だったろう。そんな意識は、僕の中にはまるでなかったのだけれど。彼女に向かって、手の中のそれを差し出す]
確かめてみなよ。どこでも――今ネリーが勤めてる先にでもいいから、掛けてみればわかるさ。
[意味も無く、挑発的な口調でそう言った]
えっ!?
[リックの『父さん』というフレーズに敏感に反応し、ネリーは主人が背後にでも現れたのではないか、と大きなそぶりで後ろを向いた。]
[何度目かこの酷い環境の中走らされる車はさぞ不満を募らせているだろう。それでも主人にそれを伝える術を持たない車は大人しくバンクロフト家へと主人を運ぶ。
いつもの所に車を止め、傘を差して正門へ、そしてチャイムを鳴らす。ヒューバートかシャーロット、どちらかが不在でも構わない。どうしても模写だけは取りに行かないといけない。学校の課題なのだから]
あ、う、え、ええ、そうね。
[明らかにネリーは平静を欠いている。ウェンディや天候、電話回線の供給もあったが極めつけは雑貨屋の主人であろう。少し冷や汗をかきながら電話を取ろうとする。]
[でるというギルバートを引き止めることもできず]
そ、そうね。
気をつけて、ギルバート。
いってらっしゃい。
車は必要かしら?
『嗚呼、私は──、
私はこの町に何を求めているのだろう。』
[父の首筋に顔を埋め、艶の褪せてしまった髪を撫でながらひとしきり物思いに耽っていたソフィーは、窓を叩く雨音が小さくなったのに気付いて、名残惜しげに顔を上げた。]
雨、止むかしら……?
いや、歩いていくよ。その方がかえって安全だろう。
[と階段に片足を掛けたところで振り返り、ニッコリと微笑んだ。
そして、そのまま彼女の思いには微塵も気付いていないように、軽い足取りで階段を上がっていった。]
[ネリーはリックから受話器を受け取ると、リックに背中を見せ、慣れた手つきでダイヤルを回す。
繋がるのなら、ボブがいれば必ず受話器を取る時間、コール音の回数は決まっている。あの音が聞きたい。しかしその期待は裏切られる。
もう一度かける、やはり徒労に終わる。
じりじり。じりじり。湿度が高い。自分の感情か。周囲の天候か。]
――――――――――――――――
重要なのは、彼らの「求めるもの」にある。
夫・ヒューバートの方と話をしてみたところ、彼は「家族を愛している」ことと「愛娘がいかに美しいか」、それから私にはおおよそ理解のできない美術の話ばかりをしていた。彼は娘の話になると、誰に対してもひどく饒舌になるのだが、妻に関してはあまり話をすることは無かった。
むしろ、結婚生活の話になると、彼はそれを「遠い昔の話」と置き換えるという試みを繰り返していた。――ついでだから、彼から私の過去についての記憶をいくつか聞いておいた(そちらについては別頁を参照のこと)。
――――――――――――――――
そして、妻・エリザ。
彼女の求めるものは、極めて特異なものだった。
――「私にとっての天使は、『ネイ』よ。」
後から調べてみた所(主にローズマリーから聞いた話だが)、「ネイ」というのは、私と同い年の少女だったらしい。そして、既に彼女はこの世に亡い、ということも。
ローズマリーから聞いたことを元に、私は私なりに「ネイ」の像を作り上げ、試しにエリザの元に現れた。
――その時のエリザの顔を、私は忘れることができない。懐かしい記憶が蘇ったのか、彼女はまるで少女の頃に戻ったような表情を浮かべていたのだ。
止むのなら、家に帰らないとね──。
まだヒューバートさんに頼まれた衣装を届けていないし、
ステラさんのツーピースも仕上がってないわ……。
第一このままじゃローズさんに迷惑を掛けっぱなし…。
[会話するように父に語りかけながら椅子の背もたれに手を掛けて、なんとか立ち上がったものの、まだ足元は覚束ない。]
一先ず服を着るのが先かしら。
[軽い苦笑を漏らし、ふらつきながら扉に向かう。]
[酒場を後にして、自宅へ車を走らせている。
アーヴァインから告げられ、血相を変えて飛び出した。
ペット、いや家族のみんなは大丈夫なのだろうか。]
DAMN...こんなときに限って…。
[焦るあまりに、道を間違えてしまったようだ。
こっちは、バンクロフト家の方である。]
こっちじゃねぇっての…!?
[Uターンしようと思ったそのとき、雨によって
タイヤがスリップしたようだ。思わず急ブレーキ。
その音は、あたりに聞こえたかもしれない。]
……ぐ、ぐぐ…ぐおぉぉぉぉぉぉ…。
[うめき声をあげる。すんでのところで、転落は避けたものの、
サングラスが外れてしまったようだ。
アルファロメオの中から、うめき声が響く。]
──バンクロフト家──
[ハーヴェイを最初に迎え入れたのはマーティンだった。
旦那様は半時間ほど前に慌ててお出掛けになりました。と言って、エリザの事も含め、ハーヴェイにもアーヴァインが告げて行った内容を告げた。シャーロットは自室で眠っているようだったので、ヒューバートを追って出掛けないかが心配でまだ起こしていないのだとも。
ハーヴェイさまがいらしたのなら、お嬢様を起こすよい頃合いかもしれません。エリザさまがおいたわしい。
と、ハーヴェイと共にアトリエへ向かってマーティンは歩き始めた。]
――自宅――
[沈黙の儀式は、その後どれ位の時間を掛けて行っただろう。
薄いカーテン越しに感じる外の明るさが、先程よりも明るくなったように思え、わたしは視線だけ覗けるような隙間を開け様子を伺う。
雨は小降りになったようだ。]
この調子だと…もうすぐ止みそうね…。雨――
[すっかり落ち着きを払った左腕の子は、わたしの呟きに一つ欠伸をして大人しく蹲っている。それは背中の子達も同様に――]
そういえば…アーヴァインさんの話だと、道路封鎖とか言っていたわね。大丈夫なのかしら…。
[わたしは気を紛らわすかのように、酒場近くで得た情報を口にする。そうする事で自分の次の行動を決めてしまい、この子達を眠らせてしまいたかった。]
──アトリエ・自室(回想)──
[シャーロットは、何か別の事をイメージしようとする。
と言っても、ヘイヴンに住み、テレビのチャンネルはエリザが管理している、雑誌を買うにも叔母の店しかない、そんな環境にあるシャーロットに保健の時間に習った以上の知識は無い。
指先でその場所に触れる事をおぼえたのは何時、何がきっかけだったのだろう。家にあったダヴィンチの解剖デッサンのみを集めた画集を見た後、好奇心から浴室でこっそりと鏡で自分の性器をはじめて見た後だっただろうか。それとも、今日のようにモデルを勤めた後、身体の熱を感じて知らずに手を伸ばしたのだったろうか──。]
[書斎にある画集や作品集の中には、美術として当然のようにエロティックなものも含まれていた。シャーロットが気に入ってる作家『通称:大ガラス』正式名称『彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも』を作った作家の作品に、確か妹の結婚祝いに送ったと言う『貞操栓』あり…──、その立体のカーウ゛を思い出しながら、いつか、私にも誰かを…──身体の内側に招き入れる事があるのだろうかと、思い。同時に、そのような事が永遠にあり得ないような気がして、快楽の中で苦い溜め息を漏らす。
今はまだ16歳。もしボーイフレンドが出来たとしても、両親とも健全な交際を望むだろう。外部の学校へ通っていた時、すでにロストヴァージンを終えたと自慢している少女も居たけれど。普通、かたい家庭の娘は、ボーイフレンドを自宅に招いて両親に紹介しても18歳まではそういった行為はしないものだと、シャーロットは信じていた。]
[リックの、ネリーにとって最も恐れる表情が、そこにあるとは露知らず、ネリーはもうたくさんよ、と言わんばかりに受話器を置いた。]
やっぱり駄目だわ。せっかくアーヴァインさんが町中走り回っているというのに。
神様というものはかく残酷なものを与えると言うのかしら?
[冷たい石膏のオブジェが熱い肉に変化し、シャーロットは自分自身がその塊を受け入れるところをイメージする。自分自身でもまだ、その入口にしか触れた事の無い内側へ──。]
…あぁ、だめ。
[二度目の否定の言葉。
シャーロットはそこで何を想像してしまったのか。想像に罪悪感をおぼえ、今度は一転してお仕置きを受けた幼い頃の記憶を甦らせる。振り下ろされるバドル、けれども少女の尻をそれで打つ事に抵抗があるのか、打つ度にやさしく撫でる父の掌…──痛みと、くすぐったいような優しい感触が交互に……。
三度目の否定の言葉を口にする前に、眉を小さくよせたまま*シャーロットは落ちた*。]
[客室に入り扉を閉める。独りきりになった彼の顔からは、漂う軽薄さが綺麗に消え失せ、引き締まった表情に取って代わる。
先程シャワーを浴びた時に、椅子の上に置き捨てたカウボーイハットを手に取る。雨に打たれたためにしっとりと湿っていたが、気にせずに頭に被った。
ポケットから出した細々としたものがまだサイドテーブルに置いてあったが、彼はその中からライターだけを選んで持った。]
[そして、あともう一つだけ。
バックパックの中に、毛布に包んで仕舞っておいた物を取り出した。
皮製のシースに包まれたハンティングナイフ。
鞘から抜き放ち、刃の具合を見たあと、もう一度鞘に収める。
それを、腰の後ろに来るようにベルトに取り付けた後に、隠すようにゆったりとしたレインコートを羽織った。]
[行かねばならぬ時だった。]
ぐあぁぁぁぁぁぁぁ…ま、眩しい…眩しい!!
[微弱な光でも、彼の濁った水晶体の中で跳ねまわるのは
十分過ぎるほど、十分なものであった。
遮るものなしに、世界は眩し過ぎるものだった。]
ネ、ネリーィィィィィィィ………。
[こんな時、ネリーがいないのが不幸だと思った。
いや、ネリーだけではない。この状況で、
彼に気付いてくれる者を、期待してはいなかった。
日が暮れるまで、光との格闘をしなければならない。
そう思うと、苦しみが倍増するような心地がした。]
──アトリエ・自室(現在)──
[マーティンのノックで目を開く。
お嬢さま、落ち着いて下さいね、と言ってから手渡される手帳。…そして。
シャーロットは続いたマーティンの言葉に「嘘…」と小さく呟く。伝えられた言葉を否定するように首を小さく横に振り、]
リビングでハーヴが待ってるのよね。
待たせちゃいけないわ。
[廊下に出る直前、誰かが階段を駆け上がる軽快な足音が聞こえたが、それはすぐに部屋の前を通り過ぎ、奥の部屋へと消えた。]
『今のは──…。』
[ソフィーは一瞬部屋へ戻ろうかと考えたが、今戻ったらそのまま倒れてしまう気がして、そのまま1階へと向かう事にした。]
[マーティンに案内されながらも、慣れた足取りでアトリエへと向かう。
以前の休暇の時、この隅を借りて課題をさせてもらっていたのだが]
先生まだ戻ってきてないんですか…って…エリザさん…先生の奥さん…ですよ…ね?
[聞いた事実にしばし呆然と。信じられないというように聞き返す。
この災害の後、先生はともかくあの小さな少女はどれだけ不安だろうかと思うと、少しだけ胸が痛んだ]
――――――――――――――――
エリザとの関係は、パウダースノーの雪崩に巻き込まれてしばし遭難した瀕死のドーナツにも似た、甘い甘い、砂糖まみれの世界。どこまでも幻想的で、夢見がちで――永遠の「乙女」だけが、永遠の「処女」だけが、立ち入れることのできる世界なのだ。
失った「処女」性を取り戻す――というよりはむしろ、自身が「処女」だと信じて疑わない姿勢が、そこにはあった。
そして、一般的に「不倫」をする妻とは決定的に違う点がある。それは、《夫に対する申し訳無さ》というものがまるで無いのだ。
浮気相手に嬉々として夫や子どもの話をする人間はあまり居ないとは思うが。しかし彼女には、よくありがちな「夫への不満、愚痴」といった類のものを語ることも無ければ、「夫への申し訳無さを振り払う」様子さえも見えないのだ。――まるで、最初から「夫」や「娘」など居なかったかのように。最初から今まで、彼女が「乙女の園」の住人であったかのように。
――いや、同様の印象は、夫であるヒューバートからも感じてはいたのだが。
幾ら雨が上がりそうとは言え、彼方此方出回るのは危険かしら?でも――…
[わたしは出掛ける理由を作り上げたくて、辺りを見渡す。何か足りない物は…ない?]
あ…蝋燭が無いかも…。またさっきみたいに雷が鳴らないとも限らないし…。あった方が何かと便利よね。うん、ブランダー家の雑貨屋へ行ってみようかしら?
久し振りにリック達の姿も…見てみたいし…。
それに…――別な所も見ておいた方が良いでしょう?
[まるでこじつけとも思える理由付けを自分に課して。わたしは洗面台で左腕を綺麗に流し洗う。そしてきつくきつく包帯を巻き、いつもの野暮ったい服に着替えると。]
――おやすみなさい…invidia…
[泥濘の激しい表へと足を踏み出した。]
[手摺に縋り、一段一段足元を確かめながら階段を下りる。
注意していないと踏み外してしまいそうだった。
ぐらつく視界を堪えて階段を降り切ると、自然と苦笑が漏れた。]
『こんな時に風邪なんて……。』
[体調は自分が思っているより思わしくないようだ。]
[一般的なヘイヴンの住人よろしく、ネリーは特に信仰心は持ち合わせておらず、半ば『振り』で神様という言葉を口にはするが…
それでも。
10年前。奪う者。奪われる者。
これらのフレーズに一致性がある。何か嫌な部分でピースがカチリと填る。 …じゃなければいいのだが。]
そうって。何がそうなの?
[差し出されたので手を出す、といった具合に手がフォトアルバムへ伸びる。]
──アトリエ・リビング──
ハーヴ!
[リビングのソファで待っているハーヴェイの姿を見つけると、シャーロットは彼に駆け寄る。
細くとも自分より背の高いハーヴェイにシャーロットはためらいもなく、抱きついた。]
ハーヴ、ハーヴ。
さっきの大雨でママが、ママが…──。
パパは現場へ出掛けてまだ戻らないの……。
[不安げな細い声。
大きな窓ガラスに映る外の景色。
すでに雨は見えないほどの小雨に変化していた。遠くの方で、雲の切れ目にわずかな光が見える。ヒューバートが出掛けた時はまだレインコートが必要な雨量だったと言うのに。
窓を開けて手を伸ばしマーティンが雨量を確認する。
その時、その開かれた窓の向う側から──激しい車のスリップ音が聞こえた。]
[少しだけ、という言葉は誤解を招くかもしれない。
しかし実を言えば肉親を失った悲しみというものが分からないのだ。
常に自分に暴力を振るい続けた両親へは常に死を願った。
自分を苛んだ兄が死んだ時、初めて笑った。
今は叔父が自分を養っているが、もし死んだからとて涙も出まい。
そんな自分が、どうして母を失ったシャーロットの心境がわかろうか。
胸が痛んだ理由など些細なこと。
泣きすぎて、あの綺麗な顔が、目が。
翌日赤く腫れてしまうのはさぞ心配ではないだろうか、と。
そんな、ことだった]
[階下に着くと、影から店内を覗き込んだ。]
『良かった、誰もいない──。』
[客の姿が無い事に安心し、襟元を手でかき合わせながらローズマリーに声を掛けると、ローズマリーは駆け寄って来てソフィーに手を貸し、店内の椅子へと導いてくれた。]
[リックが持ち出したフォトアルバム。アルバムよろしく数年前に作られたものだ。
アルバムそのものは初めて見る。そこに綴られた写真を見る。
ネリーはかあっと顔が紅潮する。これほど瞬間的に激しく全身に血が回るのはよくて数年振り、あるいは初めてであろう。
数年前だ。でも何故数年前と断定できる?
答えは簡単だ。知っているからだ。]
[全ての準備を終えると、階下のローズマリーのところに戻った。]
ちょっと行って来るよ。すぐに戻るから心配しないで。
[ソフィーに帽子を取って軽く会釈をする。彼女の居る前では、ローズマリーも遠慮して自分には必要以上に近付かないだろうと思われ、それが彼にはありがたかった──今のような状況では。
そして、ローズマリーには挨拶のキスも抱擁もせずに、快活な笑顔だけを見せて酒場を出た。]
[ルーサーの、教会設立を援助しているのだから、
神とやらも少しは手を差し伸べてくれてもいいのに。
そう思った。しかし、先ほどの酒場での言動を
思うと、どうやら神とやらは本心を見抜いているらしい。
彼は、眩い光の中で少しだけ後悔した。]
ハハハハハ……最悪だよ。ぐううううう…。
[小脇に、逆から読んだ神を抱えながら。]
[しばらく雨が窓の外を流れるのを見ていたけれど、そのひどく緩やかな時間を壊すようにチャイムがなり、"兄"が対応するのを聞きながら毛布の柔らかさの中に埋もれて。
そのうち"兄"が戻ってきて僅かな幸せの終焉を告げれば少しの落胆と大きな諦観と共に、服を受け取る]
…ええ。戻るわ。ありがとう。
[その口調は若干さめていて、差し出された服はまだ少ししっとりしていたけれどどうせ雨の中帰るのだから変わらないだろうとそのまま身に着けて、ナサニエルの家を後にする]
シャロ…!
[突然抱きついてきた小さな少女、混乱のせいか、言葉も途切れ途切れだった。
流石に驚いたが、肉親が亡くなればこれが普通なのかと頭の片隅で思いながら、泣きじゃくる彼女を優しく抱きしめ返すと]
さっきマーティンさんから聞いたよ…
ごめん…なんていっていいのか……今は思い切りお泣き。
こうしててあげるから。
大丈夫、先生はすぐに戻ってくる。大丈夫だよ。
[なだめるように、優しく語り掛ける様は恋人のそれにも似て]
[よく見覚えのある、肌の艶もいい、身体のラインも露わになった女性が陰湿な空間で、様々な器具で蹂躙されている。
嘘や冗談で、はたまた加工の類でこのような写真は作れようも筈がない。
これは――ネリー自身が過去に受けていた仕打ちそのものだ。]
リックッ――!!
[それ以外の言葉が出なかった。ネリーはなりふり構わずリックの持つフォトアルバムに素早く手を伸ばす。]
[シャーロットは胸にマーティンから受けとった日記を抱えたまま。その内容が、以下のようなものであるとは露知らず。]
────────────────────────
──欲望の話。
あれは『死体ごっこ』に由来するのでは無いかと思う。
あの『遊び』が行われたのは、ネイが死ぬわずか2日間の間、二度だけ。あの遊びが私の奥底に眠っていたことに、全く持って実感が沸かないのだが。
当分の間、安置所へ入ったメンバーと遊ぶ事を両親に禁じられた私は、仕方なしにレベッカとだけ遊ぶ事になった。家の中で。近所でも堅い家庭だと評判だった私達の家に、ネイの母親がネイを連れてだけなぜか謝罪に来て、ネイの母親の手前、ネイと遊ぶ事は許された。
────────────────────────
────────────────────────
『死体ごっこ』
それは、誰か1人が死体になり、残りの二人が「死体が本物か」を調べると言うものだった。身体のすみずみまでさぐり、弱い場所をくすぐり──時に切断したり、釘を打ち付けるまねをする。死体になったものは、何をされても抵抗せず、生きている事がばれないように耐えなくてはならない──。
一番死体役の回数が多かったのは当然ネイだった。
────────────────────────
―ナサニエル自宅・1階玄関にて―
[半ば夢から醒めたようなニーナの背中を見送ると、男は再び書斎に籠り、メンソールのにおいがキツい煙草に火をつけた。机に向かい、いつものようにメモを取る。]
さァて……っと。
電話も電気もアウトってことは、冷蔵庫の中身もじきに死ぬな。……ったく、困ったモンだ。
[時間を掛けてメモを取り終えると、男はそれを分厚いファイルにしまった。]
[腕の中の暖かくやわらかい感触。
久しぶりに触れた女性の体
でも湧き上がるのはいつものような嫌悪でも、殆ど感じたことのない愛情でもなく…
それと理解できるまでに、あとどれくらい時間がかかるだろうか
ピシリ──
自分でも気が付かないどこかで、何かに罅入る音が聞こえた…]
ハーヴ。ハーヴ。
信じられないの──。
レベッカ叔母さんや、他、色々な人がこの災害で亡くなったけれど、まさかママが…。
[添えられた腕がやさしい。
ぎゅっとハーヴェイの衣服のすそを掴む。
その時、窓の外から響いてきたスリップ音にシャーロットは涙を止めて青ざめた。]
…パパ?
今の音、パパの車じゃないわよね……。
パパもママも一緒にいってしまったら、私っ。
ねえ、お願い。
ハーヴ、車を出して。
……現場を見に行きましょう。
ここへは途中から一本道だもの。
[スリップ音が父親の車のものではなく、エリザがシャーロットに近付かないよう言い含めていたボブ・ダンソックのアルファロメオの音で有る事は、当然、シャーロットに分かるわけもなく。
だが、音が聞こえたと言う事はボブの車は、何時もシャーロットが父の帰宅を知る「あのあたりのカーブ」に差し掛かったところに違いなかった。]
[ナサニエルの家を後にして。
傘など用意してこなかったのだから、当然、すぐに乾かした服も外套も雨にまみれてゆく。
まだ少しほてりを残す体には夏の温い雨でもそれなり気持ちがよかった。
そのまま、ブランダーの店へと歩いて帰る途中、従妹と伯母夫婦の住む家の近く。
見覚えはあるけれど、その場所では見慣れない外車にいぶかし無用な表情を浮かべて近づく。
よくよく目を凝らせば、中で男がのた打ち回っているような様子で、更に表情を険しくしながら窓ガラスを二度たたいてみる]
……Hello?
[不安そうに震える少女があまりに哀れに見えてどうして自分がそうしたのか分からない。
ただ…触れてみたかっただけなのかもしれない。
しかしその瞬間は心の衝動に確かに負けていた]
シャロ…
[ふと上を向いた少女の唇に一度だけ、軽く自分のそれを重ねる。
小さくシャロの頬に指で触ると、何事もなかったように]
わかった、行こう。道は知っているかい?
ちゃんと事故にあわないような道を教えてくれよ?
[もう一度、優しく抱きしめると、車を出すために体を離す]
――町中――
[泥濘に足を取られながらも、わたしはゆっくりと町中へと歩みを進めた。
向かう先は雑貨屋。元々食が細かった所為もあり雑貨屋へと通う頻度は少なかったが、それでも元生徒の自宅でもあったため向かう道筋は慣れたものだった。]
そういえば…シャーロットの口からも、リックの名前が出ていたけど…あの二人、今も変わらないのかしら…。
[手は焼いたけれど、それでも思いやりのある姿を思い出し、わたしは小さく笑んだ。体調を崩した際、真っ先に駆けつけて心配してくれたのが彼らだった為、わたしの記憶の中では憎めない存在としてその姿は今もくっきりと色濃く残っていた。]
ああっ…
[振り向き様にネリーの右手をアルバムに伸ばす。が冊子はリックの手にしっかりと握られており、リックの意志に従いネリーの手の届かない所まで動いていく。
なりふり構わず手を伸ばしたことにより、踵から手の指まで全身が伸びきり、油断だらけになったネリーの全身は、もう一方のリックの手を身体で受け止めるには十分すぎた。
バランスを崩した事と頬をSLAPされた事によりネリーは勢いよく前のめりに転んだ。
あうっ!
背後を見上げると、あの形相があるような気がしてならず、すぐ後ろを向く事はできなかった。]
[窓をコンコンと叩く音が聞こえる。
天の助けとばかり、信じていない神に感謝する。]
た……助けてくれえ!!助け……。
[息も絶え絶えに、助けを求める。]
―1階・書斎―
[男は、引出からアスピリンを取り出し、1粒ずつ丁寧に噛み砕く。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……まるでラムネ菓子のように、味の無い粒を噛み砕き、ごくりと飲み込む。彼の傍らには、透明な液体が入ったワイングラス。アスピリンが舌の上に溜まったらそれをワインで流し込む。]
美味くねぇな。
………当たり前か。
やっぱり「ルーシー」じゃねぇと……ダメか。
[メモを取りながら、アスピリンを噛む。10個、11個、12個……]
[這い蹲ってでも逃げるべき? お姉さんを「ぶって」ごまかすべき?
ネリーは僅かな時間で考える。しかしどちらも首尾よく終われそう、とは思えなかった。
保身が故に、そのまま1歩、腰を抜かしながら前へ移動する。]
[いきおりよく振付ける雨の中、中でわめいているような様子も雨に掻き消え、肩を竦めて]
…ちょっと、失礼するわよ。
[少しのためらいはあったのだけれど、そのままアルファロメオのハンドル側の扉を開けて中を覗き込みながら]
…失礼、ミスター。
どうされたの?
[訝しげな表情のまま、中を覗き込めば彼の面にいつもかかっているサングラスはなく、漠然と彼が落としてしまったらしいそれを探して視線は車内に]
ダメだよ。逃がさない。
ネリー。狩人は、獲物に容赦したりなんかしない。
[宣言し、背後の抽き出しを開ける。
指先は即座に求めていた物体に触れた。
繋がった双つの輪。冷たい金属で出来た手錠]
[一瞬、触れたやわらかいものが口唇であるとわからなかった。
目を丸くして小さく口唇を開く。
頬に触れる手と、優しく回された腕に安心感と嬉しさをおぼえ、眉根を悲しげに寄せたままではあったが、微笑みを浮かべた。]
……ありがとう、ハーヴ。
大丈夫、私、目は良いんだから、道案内はまかせて。
それにあなたが事故を起こしたら、私だって一緒なんだから……。
[まだ震える指先をハーヴェイの指に軽く絡ませて、ガレージへ向かう。]
──バンクロフト家→ボブの事故現場へ──
[真横のドアが開く。それは、助けであったともに、
同時に、地獄の始まりでもあった。
ドアは、幸いにも遮光の役割を果たしていた。
しかし、今はそれが開け放たれている。]
う…うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
[絶叫とともに、目を押さえた黒人が開けられた
ドアの方に飛び出していく。]
――雑貨屋 入り口――
[ようやく辿り着いた店の入り口。この災害の中でも店が開いているという事実は、わたし達消費者にとってとても力強いものだった。店の者には多大な苦労を強いる事はわかっているのだが。]
こんにちは…――
[わたしは静けさを保ったままの店内へと足を踏み入れようとして。何故か思わず立ち止まった。それは本能が察知した。そう思う程の理由の無さだった。]
[ネリーはそのまま動かず、必死に次の言葉を考える。
どうすればいい? リック、相手はリックなのよ。
ネリーはリックに向けて発せず、自分に言い聞かせるように言葉を発する。]
だ、駄目よリック!これは違うわ。
ノーマンは確かに、そんな事をする人だったかもしれないけど、あなたまでそんな事をしては駄目――
[ガレージへ向かう途中、ハーヴェイの中性的とも言える整った横顔を見上げ、ふと、ハーヴェイも1人家族を亡くしているのだと思い至った。]
……………。
[意識がぼんやりとしてくる。そして、吐き気。]
[アスピリンは失敗だった。
咳止めシロップにすれば良かった。
――男は心から後悔する。]
[ヘイヴンを繋ぐ道の遮断――それは即ち、彼を支える麻薬の数々の供給が止まるということ。彼が彼の書斎で、全知全能の「神」であるための「鍵」。それの輸送手段が絶たれることは、彼にとっては死活問題に他ならなかった。
だからこそ、彼はLSDの代用となるクスリを求めた。その実験として口にしたのはアスピリン。――だが、これは失敗だった。異常な倦怠感が、己の身体に広がるだけだった。]
[アスピリンを過剰投与した不快感を拭うため、男はさらにワインをあおる。最初はチビチビと、しかし徐々にそのペースは上がり、あっという間に瓶1本が空になる。]
……ちッ!くそ…………
?!
な、何?ちょっと、ミスター!?
[偶然にも踏まれなかった運転席の足元に落ちていたサングラスを拾い上げたところでボブと衝突する形になり、そのまま雨の地べたへと尻餅をついて投げ出される。
手にはサングラス、ちょうど彼がニーナの上に転がり落ちてくる形になるのだろうか]
[床に腰を落としたネリーを見つめつつ、近寄っていく]
今さら、確かめるまでも無いと思うけど。
ネリー?
あの写真に写ってたのって、君なのかな?
[カウンターに冊子は置き、代わりに右手で提げた手錠を突きつけた]
[軽く絡んだ指にふと視線を向けるが何も言わず、離すこともしないでそのまま一緒にガレージへ。
雨は大分弱まっている。これならそう走行の妨げにもならないだろう。
シャーロットの案内で、迷うことなく事故現場へとたどり着く]
今のリックが私の頬に当てたあの力…
凄い、力…
私、こんな力…
いつのまにこんなに…だ、駄目よリック!
[明らかにネリーに動揺の色が見える。]
[続く数時間のどこかで、今やハム音のように低く微かなものとなっていたノイズのうちの一音が、甲高く弾ける音を残して消えた。]
目が……目がァァァァ…。
[目を押さえながら、ニーナの上にのしかかる。
夜な夜なアルファロメオを乗り回し、
非力な女の子相手に、このようなポーズを取ったことは
何回もあった。だが、今回は意味合いが違う。]
目がァァァ……目がァ…。
[泣き声混じりに、そればかりを唱え続ける。
この姿を見られれば、ゴシップ好きに
どんな噂を立てられるかわからない。
今まで積み上げてきたキャリアという城が崩れ落ちる、
まるで滅びの呪文のように、そればかりを。]
[微かに聞こえて来たリックと…知らない女性の声。それは瞬時に踏み込んではいけない領域だと悟った。
でもわたしの足は立ち去ることを選ばず――]
[数歩中に進む。視界が開けた先に少女と思しき姿と久々に見たリックの姿があった。
しかしその姿は【教師としての】わたしには知らない世界で――]
えっ…な…に…?
[小さく声を漏らしながらもその場に身を埋め、思わず成り行きを見守ってしまう。]
[ローズマリーは、厄介な病人であるソフィーにいつも通りの気さくな笑顔を浮かべ、温かいカフェオレを淹れてくれた。
その事に感謝しながら、ソフィーは重い身体を椅子の背凭れに預け、自分が寝込んでいた間の出来事を聞いた。]
──そうですか。
また、道が……。
天災に抗う事は出来ないとはいえ、
こうも立て続けだと先行きが不安になりますね……。
[一口カフェオレを飲み、避難先で別れて以来顔を会わせていない人々の顔を一人一人思い浮かべた。]
[リックがネリーに手錠をつきつけた。ほんの僅かだけ錆が見受けられるようにも見えるが、認めたくない。でも…
ノーマンはネリーの首周りは勿論、手首のサイズ等何から何まで正確に把握していた。この手錠は危険だ。]
か、し、知らないわ。
[ふらふらとした足取りで、男は書斎を出る。不安定な手許で書斎と玄関に鍵を掛け、家から1歩、2歩……たまに崩れながら……3歩目。]
あああああ!
ちくしょうッ!なんでアスピリン飲んだのに頭痛がすンだよこの野郎ッ!!
[誰も居ない道で、誰にともなく悪態をついた。]
…目?
[ひょっとして、と思う。
手の中にはサングラス]
…ちょっと待ってミスター、動かないで。
お探しのものは見つかったから。
ついでに右の手を少し退かしてくれると僥倖なのだけど。
[右の手の中にあるサングラスに視線を向けてから泣き言ばかりをこぼす男へと視線を戻して]
あァァァァァァ……ああ…。
[言われるがままに、右手をどかそうとする。]
うッ……。
[刺さるような光。痛みすら感じてくる。
歯を食いしばって、言われた通りにする。]
―事故現場―
[町の惨状は目を覆うものだった。土砂崩れは大通りを分断し、家々は泥土に呑み込まれていた。町の中心部にたどり着くことはほとんど無理だった。道を探しながら現場へ向かう。道路は各所で分断され、山の各所には崩落が見られた。]
ここか……?
[やがて、アーヴァインの言葉から類推してたどり着いた現場だったが、件の車は容易には見つからない。彼がその場所に居た時から更に地滑りが生じたのだろう。森林が大きく崩れ、波打つ泥土から木の幹が出鱈目な方向に突き出ていた。
探し求める眼差しがやがて、土の混沌の中に一片の人工色を見いだしていた。エリザが普段乗っている自家用車の屋根が纔かに覗いていた。
掘り起こせないものかと慌てて駈け寄ろうとした長靴が泥濘にとられる。水分を多く含んだ土砂は沼のように柔らかく、ズブズブと沈み込む。ズズ……と不気味な震えが土壌を伝って感じられた。
私は冷や汗を流しながら、ゆっくりと足を引き抜き後ずさった。]
[地滑りがあったばかりの斜面はまだ酷く不安定だった。土砂はゆったりとした流れで少しずつ屋根の痕跡を呑み込んでゆき、やがて完全に土中に呑み込まれた。
私は、遺体の収容を断念した。
先程まで降り続いていた雨が気がつけば小雨となり、晴れ間が覗いていたのはささやかな救いだったことだろう。私の心が晴れる気配は一向になかったが。]
──ハーヴェイの車・車内──
[現場までの短い道のり。
シャーロットにはハーヴェイに聞きたい事が浮かんでいた。ただ、それを言葉にしていいのかは躊躇われた。
「お兄さんが亡くなった時、どうやってその死を受け入れられたの…?」
ヘイヴン特有の葬儀の簡潔さ、一旦安置所へ運んでしばらく間を置いてから埋葬する習慣からだろうか。シャーロットには「死」が永遠の別れではなく、一時的な分断にしか思えないような気がしていた。けれども同時にヘイヴン外との共通の「死」への認識、死者とは永遠に会えないと言う常識も持ち合わせいた。ママとはまた会えるのでは無いか、同時に両親とも永遠に会えないのでは無いか。
──母の実用性重視としか思えない手帳を胸に抱き締める。
もうひとつはこんな時に……。
「さっき、どうしてキスをしてくれたの?」]
[と聞きたかった。ハーヴェイは出会った頃は、ヒューバートと握手するのにも緊張するようなシャーロットから見てシャイなところがある人物だった。打ち解けるに付け距離は近付いたが、それでもむやみに他人のテリトリーに踏み込まない、優しさと遠慮(と言うのは適切でないのかもしれないが、シャーロットにとって好感の持てる距離感)をハーヴェイは保っているように、思っていたのだ。
「ボーイフレンド」と言う単語が頭に浮かび、「まさか」それを打ち消した。
そして、やはり現場にはやく到着したかった。母の死よりも父の死の方が自分にとってはおそろしいのではないか──。]
[目の前で繰り広げられる光景。それはわたしには知らない行為でもあり、与えられ慣れた行為でもあった。
しかし町中では知らない行為で通さなければならない葛藤に]
――駄目よ…これ以上見たら…あの子が目を覚ましちゃう…。uxuriaが…目を……
[歯止めを掛けようとするけれど。それを上回る好奇はなかなか視線を逸らそうとはしてくれない]
そんな事…あなたがしていいと思ってるの?
>>250
[『関係ないわ』か『知らないわ』のどちらを発しようか悩み、咄嗟に『知らない』と答えたネリー。しかしそれはどちらを選んでも、この状況を脱するには至らなかっただろうか。
ネリーは何も答えられなくなった。
両目が淡く濡れている、と一瞬感じた。それだけ力が緩んでしまった。その隙を狙われネリーの両腕は一纏めにされる。]
[言いたいはずの言葉を紡ぐ事が出来ず、ただ真面目な道案内と少しマシになった天気の話だけをした。
道の向う側に、停車しているアルファロメオが見える。]
──パパ、じゃない、みたい。
ハーヴ、良かった。
[胸をなで下ろす。
停車している車の傍に、人影が……──]
[よほどサングラスが無いのが辛いのだろう、彼の普段の態度を知っていたから余計に哀れに見えて、意地悪をしてやろうという気すら起きず。
右の手で器用にフレームを開けるとそのまま、彼の視界を覆うようにサングラスを彼にかけてやるだろうか]
…随分難儀な瞳をお持ちのようだけど。
気分はいかが、ミスター?
[とりあえずサングラスをかけることに成功した左手をぱしゃりと雨黙りの中に落としてからボブに問いかける]
[何処まで歩いた時のことだろうか。男は歩く力を失い、地面に倒れ込む。]
何処にいやがる役立たずのクソ医者ァ!!
テメェが医者だってンなら、俺のこの頭痛を治してみせやがれ!!
[自業自得の頭痛を引摺り歩くのに飽きたのか、或いは疲れ果てたのか――朦朧とした意識を抱えた男は、地面に寝転んだまま動けずにいる。]
[彼を苦しめた光が、日食のように遮られていく。
目を開くと、そこにはニーナの姿。]
……ハァハァ…最高にグッドだよ。
すまないねえ……。ありがとう。本当に。
[素直に。極めて素直に、礼を言う。
同時に車内から、ボブの愛犬が飛び出していく。
聖書の巨人の英語名だというが、まったく意識せず
ただかっこいいからというだけで名付けた犬が。
向かう先は、こちらに近づいてくるであろう車。]
ゴライアス!?
[―エリザの訃報を聞いてふとユーインのことが頭をよぎる―
正直、兄の死などどうでもいいことだった。
なぜなら彼は…極めて厳密に言えば自殺ではなく、他殺だったのだから。
殺したいから死んでもらった、といった方が正しいか。
兄の死、それを望んだのは、ほかならぬ自分だった。
しかし受け入れたのは兄自身。
弟と一つの約束を交わし、彼は死んだのだ]
[そういえば、シャーロットはどうしているだろう。
両親に似て聡明で素直なシャーロットは、兄弟のいないソフィーにとって妹のような存在だったし、美しい彼女に似合うドレスを考えるのはソフィーの愉しみの一つでもあった。
今年の誕生日には、彼女の深い群青の髪に映える黒いサテンのロングドレスと、同色のシフォンのスカーフをプレゼントしたりもした。
歳の割に少し大人っぽ過ぎるデザインではあったが、すらりと伸びた手足を持つシャーロットになら似合うと思われた。]
雨が上がったら、一度皆の様子を見て回りたい──。
[ぽつりと呟くように言った時、誰かが2階から降りて来た。
慌ててバスローブをかき合わせて俯くソフィーの横を、その男は会釈しながら通り過ぎていったようだった。]
そんな…してもいい事と悪い事があるでしょうっ。子供なら誰でも聞かされるでしょう?お父さ…
あうっ!
[ネリーはうつ伏せに組み伏せられ、後ろ手になった両手に手錠がかけられる。5年前、手首が鬱血しそうになって泣き零した記憶が蘇る。
周囲の状況を心配することはとてもできない。]
[耳朶に息が掛かるくらいの距離で、ネリーに囁きかける。彼女の髪は清潔で可憐な印象の匂いがして、僕は喉の渇きを覚えた]
ネリー。隠してる事柄っていうのは、暴かれるためにあるんだよ。正体を見せてみろよ、そんな風に何も知らないような表情してないでさ。
[床に倒した彼女の背中。衣服の釦を外そうと、手を掛けた]
…そう、それなら結構。
[ナサニエルとの行為の後、ただでさえ気だるい体を雨は濡らした威力を奪っていて、もはやボブに覆いかぶさられていることすら体力の低下へとつながり]
…とりあえず、私の上から退い──?
[言いかけた言葉がボブが犬の名前を読んだ声にさえぎられ、その犬のほうへと視線が奪われる。
一匹の犬と、それから向こうに見える──車]
[シャロの案内により到着した場所はカーブの道でアルファロメオが止まっている。
事故の割にはそう大層な気配もなく、2人程の人がその場に何かしているようだった。
とにかく、シャーロットがヒューバートではないと確認し、言葉を発した後、自身も安堵したようにため息をつく]
先生じゃ…なかったね、よかっ…うわっ!
[突然目の前につっこんでくる犬に、減速はしていたけれども急ブレーキをかける。
とっさにシャロをかばう様に手を伸ばし]
シャロ!
[見慣れた店内で行われる、見慣れた人物の見慣れない素顔。
しかし行為はわたしの煽情をなぞるには充分過ぎて…]
――あ…だめっ…こんな所で…思い出すなんて…――
[わたしは先の契約を思い出し、思わず躰が震えた。
無意識の内に滑り落ちる手は乳房と太腿へ。緩やかに動く指先の感触に一瞬意識が遠退きそうになるが――]
っ―…駄目よ、ステラ。こんな所他の人に見られたら…駄目…
[何とか戻った理性に叱咤され。わたしは二人に気付かれないようにそっと雑貨屋を後にする。
しかし私は気付かない。立ち去る際にわたしがその場に居たという動かぬ証拠を、落として行っていたということに――]
ゴ、ゴライァァァァァァァス!!!!
[天国から地獄とは、まさにこのこと。
もしや愛犬が、車に跳ね飛ばされてしまうかもしれない。
父が、わが子を呼ぶような響きで、叫び声をあげる。]
離して…離し…いやあ!
[あれは別人だ、と言うのは簡単だがあまりにも陳腐すぎる。 最悪、写真の拘束具に名前が彫られているかもしれないのだ。
ノーマンはネリーにとって憎悪の象徴だった。あの親をもってしてこのような子ができてしまうことに、唇を噛んだ。
両手を大きく制限されたネリーにまともに抵抗できるはずがなかった。
リックが飢(かつ)えている欲望の行動を次々に許す。]
[シャーロットはハーヴェイとその快活な兄(だとシャーロットは信じていた)の間にあった出来事を知る由もなく。
──飛び出して来る犬はシャーロットにも見えた。
犬は苦手だ…。硬直した瞬間、ハーヴェイが急ブレーキを踏む。自分を庇おうとする動作に悲鳴のような声で、]
わ、私は、だ、だいじょうぶ!
それより、────轢いてしまったら!
子供……?
子供だった頃なんて、とっくの昔に終わってる。
[少しだけ、感傷が声に混じった。けれどそれは敏感な部分に触れられた傷みと熱になって、僕の手つきを乱暴なものにした]
僕もウェンディももう、家に居ないノーマンに指図されるような年齢じゃない。するのは悪い事、だって?
それをしていたのはお前だろう、ネリー?
[クスクスと哂った。今度は明らかな、嘲笑いの音色だった]
―ボブ・事故現場―
[自宅へと続く斜面を登って行くと、目を惹くボブ・ダンソックの愛車-アルファロメオだ-が断崖すれすれに停車していた。片輪は岩の縁からほとんど外に零れ落ちそうになっている。
見る間に、踏みしめる地面から岩の砕片が零れ落ちた。小石は音もなく遥か下方の泥流に吸い込まれていった。]
ヘイ! ボブ?
一体どうしたんだ。
大丈夫か?
[運転席側の扉は開かれ、そこには見慣れた女性の姿があった]
ニーナ。トラブルでも?
[その時、アルファの向こう側から車が近づいてきた]
危ない!
[飛び出した犬に急ブレーキをかけた車は雨の降った許りの不安定な路面を不規則に滑る]
村長の娘 シャーロットは、冒険家 ナサニエル を能力(占う)の対象に選びました。
――自宅――
[その後どうやって帰宅したのかは記憶に無かった。
気がつくとわたしは洗面台へと向かい、何度も何度も口の中へ指を差込み胃の中のものを吐き出そうと試みている所だった。]
―…うぐっ…か…はっ…――んんっ…
[しかしここ数日ろくな物を口にして居ない事もあり、口から出るのは胃液ばかりで]
――きもち…悪…っ…けほっ…んっ…ぐ…
[更に自分を苦しめる行為へと変わって行っていた。]
ぅう…っ。
[ネリーは目を強く閉じ、歯を食いしばった。
リックは『子供じゃない』と言っても私よりはまだまだ年下。こんな事を軽はずみに覚えてはいけないのだ。
涙目になっているのもなりふり構わず、ネリーは諭すように呟いた。]
お願いリック。人は、してもいい事と悪い事があるの。こんなに早くから、人を玩ぶようなコトをしては駄目。
ばちが当たるとは言わない。けれど、真っ直ぐな大人になんかなれない。そうでしょう?そう言う人だって現にいるでしょう?
あなたなら分かるわよね――?
[相手がノーマンならこれらの常套句は禁句に近い。けれど――けれど。]
[タイヤは犬のぎりぎり手前で止まった。
何とかシャロはかばったが、車の報復か、哀れ車の主もとい運転手は思い切りハンドルへ頭をぶつける]
いっ…てぇ…!
[ソフィーやシャロを乗せた嫉妬か?と激痛が響く頭にそれだけの冗談を思い浮かべるだけの余裕はあったようだ。
ぶつけた箇所を押さえながら、車を下り、犬の安否を確認する。
タイヤの近くの犬は何事もなかったように、丸い目で見上げてきた]
…俺の車はお前の主人に投げられたボールじゃないんだぞ…
[盛大にため息をつきながらぼやく]
─何処かの道端─
[道に人が転がっている。]
[……と言うのが適切な表現であるかどうかは不明だが、人間が倒れているのは間違いない。
近付いて見ると、それはまだ若い男だと分かった。外傷は特に見当たらない。
ただ、近寄った時にアルコールの……恐らくはワイン……の匂いが男からプンと漂うのを感じた。だが、さしもの鋭い嗅覚も、男が大量のアスピリンを飲んだことまでは分からない。]
……しっかりしろ。こんなところで寝てたら死ぬぞ。
[しゃがんで顔を覗き込む。揺さぶらないのは一応病気を警戒してのことだ。]
ゴライァァァァァス!!
[停車した車のタイヤ近くの、犬に向かって駆け出す。]
あぁ…ゴライアス……これ以上家族を失ったら、
私はどうすればッ!良かった…良かった…。
[先ほどの苦しみから解放された以上に、
歓喜の涙を流しながら、ゴライアスを抱く。]
[スリップした自分達の車。
ハーヴェイに庇われたおかげで、前方へ身体をぶつける事はなかった。道の脇の森林に突っ込むギリギリで車は停止する。
ハーヴェイに続いて車からシャーロットも降りたものの、]
……おっきな犬。
[ハーヴェイはシャーロットが犬が苦手である事は知らず、シャーロット自身もヘイヴンでもペットとして一般的な「犬」を怖がる自分が子どもっぽい気がして、それを誰かに知られたいとは思わなかったのだ。それこそが、子どもっぽい意識であるにも関わらず。]
……それに、ボブ・ボブ・ダンソック。
[因縁をつけられたらどうしよう、と怯える。
前方から戻って来た車が自宅のシボレーである事に、シャーロットが気が付いたのは、少し遅かった。]
[遠くから、誰かが駆け寄ってくる足音がする。こういう時――例えば、クスリを大量に飲んだ時――自分の感覚がひどく鋭敏になっていることを、男は知っている。]
『大丈夫か!?』
[――自分の顔を覗き込み声を掛ける男。琥珀色の目、一面の茶色。――もしかしたら、バットトリップの始まりか――否。アスピリンごときでは、そのようなことは起こらない。]
……うっ、ぐぇ……
誰だお前………
[見慣れぬ男に(そんな場合では無いだろうに)まずは名を問うた。]
――まさか…リックが…わたしの教え子が…あんな事を…するなんて……
[行為自体を目の当たりにする前に逃げ切ってきたのは、むしろ不幸中の幸いだと思った。あのまま動く事もなく一部始終を見つめていたら。どうなっていただろうと考えただけでぞっとした。]
[自分に施されている行為。それ自体は別に構わない。現に契約上施行されることも多い。でもそれは飽く迄もわたしが望んで受けている罰であって、そこに他人という範疇は無い。むしろ穢れは自身で引き受けるから、出来れば他人は――という考えでも在るゆえ、雑貨屋で目撃した行為は、相当なダメージをわたしに与えていた。]
[何か大げさに涙を流すボブに少し冷ややかな視線を送り]
その犬失ったら俺のぶつけた頭の面倒見てくれればいいですよ。
ちゃんと犬は躾けておいてくださいよ、迷惑な。
―自宅 地下室―
[彼は望まない作業に没頭していた。採集した因子の分析である。]
私は口先では神を畏れ敬いながら、その実、怖ろしいことしている。
[ステラの言葉が脳裏に蘇る。]
ヘイブンの人々を憎むことなく、慈愛を捧げる、か…… そうではない、そうではないんだ。私は己のため人々を利用しているだけだ。
[リックの言葉が脳裏に蘇る。]
偽善者、か。偽善ならまだ可愛いものだ。しかし、私の行いは純然たる悪にほかならない。そうだ。あの男が言ったとおり私は悪魔に魂を売ったのだ。私は悪魔なのだ……
―過去 ベトナム 野戦病院―
[硬いベッドの上でルーサーは目を覚ました。起きようとしたが下半身の感覚が無く、うまく起き上がれない。彼が目覚ましたことに気付いた職員により医師が呼ばれる。]
医師 「気付かれましたか、ドクター ラング」
ルーサー 「君は…… ああ、そうか私は確か戦闘に巻き込まれて…… それから…… そうだ、妻は……」
[医師は気まずそうに首を振った。]
ルーサー 「!?」
[その日、彼は己がキリスト教徒であることを初めて悔いた。自殺を禁じられていたからである。]
…まったく、さっきまでのあの様子がうそみたいね。
[犬が大事とばかりに飛び出していく様子にようやく体を起こせば、既に体は泥水まみれでどうしようもなく肩を竦める]
…あら、伯父様。
[珍しいものを見るかのようにヒューバートの姿を見て、それから向こうの車の中にハーヴとシャーロットを見つけて小さく嘆息しながらよろりと立ち上がる]
―過去 ベトナム 野戦病院―
やはり、マリアを連れてくるべきではなかった……
[ルーサーは、ベトナム戦争において、ある非政府組織の要請を受け、戦地を転々としながら医療活動に従事していた。国籍を問わずに傷ついた者を受け入れ、治療するその活動は過酷を極めた。医師だった妻 マリアは彼と共に行動することを選択し、ルーサーがいくら帰国を促しても頑なに言うことを聞こうとはしなかった。]
マリア 「私よりあなたのほうがよっぽど心配よ。それでなくても、ぼんやりしてるんだから。」
[そしてある日、ルーサーとマリアのいたキャンプが戦火に巻き込まれた。彼は重症を負いながらも生き残り、マリアは還らぬ人となった。]
[雑音が頭の中に届いた。3度目か4度目。最もクリアに響いた。
事態を把握できていない私は相手がどことも誰とも知らずにはっきりと投げ返した。]
チカラが、私には力がない。
―過去 ベトナム 野戦病院―
[失意に沈むルーサーの前に謎の男が現れたのは意識を取り戻した次の日のことだった。彼は自分のことを『結社』の人間であると名乗った。]
謎の男 「ドクター ラング、この度は負傷されただけでなく、奥様を失くされたそうで何と申し上げればよいか。」
ルーサー 「君は……」
謎の男 「私は『結社』の人間です。」
ルーサー 「結社? その結社の人間が私に何の用だ?」
謎の男 「ミス ラングの検死の結果、色々と興味深いことが分かりましてね。実は私どもはマリアさんのことをずっと前からマークしていたのですよ。あなたと結婚するよりも前からね。エエ、勿論あなたのことも。」
ルーサー 「貴様、何を言っている…… 妻に、妻に何をしたッ!!」
ヘイ!うちのゴライアスにもしものことがあったらッ…。
いや、申し訳ない…迷惑をかけたのはこっちの方だね。
[咄嗟に出かかった因縁の言葉を飲み込み、
素直に謝罪の言葉を話す。]
ああ、ゴライアス、ゴライアス…。
おまえが死んだら、私はもう音楽に打ち込む
気力を失っていたかもしれない…ああ……。
―過去 ベトナム 野戦病院―
[謎の男から邪悪で危険なものを感じ取ったルーサーは声を荒げようとしたが、激痛が身体に走る。]
ルーサー 「っ、くっ……」
謎の男 「ホラホラ、落ち着いてください。まだ体調がお悪いのですから。それにこれから話すことはあなたにとっても決して悪い話じゃないんですよ…… ドクター、あなたの奥様ですがね。実は我々のような普通の人間とは少し違ったのですよ。」
ルーサー 「何だと?」
謎の男 「ここに彼女が子どもの頃に怪我をしたときの診断記録があります。おっとそんな不審げな顔をしないでくださいよ。我々、結社にはネットワークがあります。この手の医療記録がお望みであれば、共産圏からでも手に入れてきて差し上げましょう。」
畜生!
[思わず声が漏れる。
だが、ハーヴェイとシャーロットの乗った車は急ブレーキにやや横滑りしたものの、片岨から渓流めがけてダイブすることなく、またボブのアルファに衝突することもなく無事停車した。
この際、犬の安全のことなど私は考えてはいない。]
……やれやれ
[深く安堵の息を吐き、車から降り立った二人に近づいていった。
長靴やパンツは膝のあたりまで泥に汚れた姿のままだ。私は犬とシャーロットとの間に入る位置まで足を進めていた。]
大丈夫かい?
二人とも
―過去 ベトナム 野戦病院―
ルーサー 「それが、それが一体どうしたというんだ……」
謎の男 「ほら、よくここをご覧になってください。そうそう、この数値。ね、おかしいと思いませんか? 普通の人間なら有り得ないですよねえ。」
ルーサー 「記録のミスか、何かの間違いだろう……」
謎の男 「勿論、その辺は私どもの当時の担当者も確認したそうですよ。ええ、それが仕事ですからね。しかし、真実正確な記録だということが判りました。そこで、彼女は我々のウォッチリストに追加されたわけです。そして、今回の検死の結果……」
ルーサー 「黙れ……」
[後ろから聞こえる声に驚いたか、思い切り振り返る。
それがヒューバートとわかり、苦笑を浮かべ]
先生…ご無事でしたか。
よかった…。
[肩をすくませながら、ほっとしたように]
―過去 ベトナム 野戦病院―
謎の男 「やはり彼女は我々の捜し求めていたモノの亜種であったことが判りました。死んでしまったのがとても残念でならないのですが。」
ルーサー 「黙れッ! 黙れッッ!!」
謎の男 「だから落ち着いてください、ドクター。ところで、彼女を生き返らせることができるかもしれない、と言ったらあなたは我々に協力してくれますか?」
ルーサー 「生き、返、らせる、だと……」
謎の男 「我々も伊達や酔狂でマリアさんを追っかけ回してたわけじゃないんですよ。目的、そう目的があって、我々は行動しています。何世紀にもわたってずっとね。」
ルーサー 「目的……」
謎の男 「ひとつが不老不死です。そして、もうひとつが蘇生。我々の研究はいい所まできている。蘇生に関して言えば、動物では既に成功例があります。しかし、人間ではどうしてもうまくゆかない。」
ルーサー 「な、何を馬鹿なことを言っている」
[呻きながら名を問うてくる男に呆れたように答えた。]
俺はギルバート。ギルバート・ブレイク。
何で自分が転がってるか分かるか?あんた。
[まずは抱き起こそうと背中と脇に手を回す。
…些か口調がぞんざいになっている。]
―過去 ベトナム 野戦病院―
謎の男 「我々はより多くの優秀な人材を必要としています、あなたのようなね。そう、あなたの以前の論文読ませてもらいましたよ。とても素晴らしい内容でした。ただ、惜しむらくは、そう信仰心ってやつが邪魔して今一歩踏み込めないでいますよね。」
ルーサー 「……」
謎の男 「そんなもの、捨てておしまいなさい。我々と共に来るのです。マリアさんの遺体は我々が丁重に保管しています。もし、そのときが来たらあなたに引渡しますよ。お約束します。」
ルーサー 「時間を、考える時間をくれ……」
[謎の男は満面の笑みを浮かべた。これまでの経験でこのようなとき、人間が最後にはどのような決断を下すか知っていたからだ。]
謎の男 「よろしい。まずはその怪我を治しましょう。ゆっくり療養してください。もし、気が向けばこちらに連絡をください。お待ちしています……」
[そして、ルーサーは結社の人間になった。]
―自宅 地下室―
[ルーサーは、採取した因子の分析結果を睨みながら、陰鬱な表情を浮かべていた。]
ふむ、これでは思ったより役には立たないな。ダメか…… やはり、もっと純度の高い因子が必要、だな。
[そのとき地下室が大きく揺れた。]
な、何だ。ま、まずい。ここは危ない。
[ルーサーは地下室から1階へと上がる。揺れは長く続いた。]
町は、町は大丈夫だろうか。また、犠牲者が出ていなければ良いが…… 様子を見に行くか……
[ルーサーは車へと乗り込んだ。彼の行動は純粋に義心によるものだったのだろう。それがゆえに悲しかった。]
ふぅん。面白いこと言うんだね、ネリー。こんなに早くからはダメっていうことは、人を玩んでも良くなる年齢があるのかな?
だったら――玩ばれても構わない年齢もあるんだよね。ね、ネリー。
[愉悦を覚えながら論理の穴を突く。詭弁なのは明らかだったけれども。笑いながら、床に倒したネリーの衣服を剥ぎ取った]
やあ、ニーナ。
[まだ少女といっていい雰囲気を感じる若い姪を振り返って挨拶した。]
君とボブ、というのも随分予想外な組み合わせだよ。
[微笑んで軽口を言う余裕があったのは、二人が無事だった所以だっただろう]
なんだ…何の…声…?
[ヒューバートと同じ方向から聞こえたのだろうか。
自分ではなく、何か別のものに向けた、確かな声]
[背中に手を回されるが、力無く倒れていた男には抵抗することができない。]
俺は……ええと、何だっけ。
ナサニエル……メラーズ。
倒れていた理由………?
えーと……酒飲んで頭痛ェから。
それと……アスピリン。
意外と味しねぇのな、アレって。
ネリーは僕より5つほど年上だったっけ。じゃあ、もう大人だよね?
[クスクスと笑い声が零れる。身体に満ちた衝動と力は収まらないどころか、一層僕を駆り立てた]
だったら、僕に教えてよ。
玩んじゃいけないっていうのは、どんな事をしちゃいけないのか。
そうだ、そうだそうだ。
[ヒューバートの言葉とともに、ニーナに目を向ける。]
キミは、どこかへ向かう途中だったのかい?
この難儀な目のおかげで、迷惑をかけてしまって。
ダンナたちにも、本当に申し訳ない。
[ヒューバートらにも、謝罪の言葉。]
良ければ、乗せていってあげるけど?
こんな雨だし。それに、私のアルファなら飛ぶようだぜ。
[崖の辺りに止まったアルファロメオを指さして。]
嗚呼…あれだけ純潔を重んじるようにと教え続けてきたのに…。わたしの教え方は、果たして間違っていたというの――?
[未だ込上げてくる嘔吐感に涙目になりながらも、わたしは服の内ポケットからカードケースを取り出そうとした。
いつも身に着けている教師としての証。それを見ることによって、少しでも安堵を得ようとしたのだが――]
――え?…あれ…?無い…?カードケースが…無い?
[もしもの為と思ってここ数日肌身離さず持ち歩いていた事が、逆に今自分の首を絞めようとしていることに気付かず、わたしはもう一度ポケットの中を漁ってみた。]
やっぱり…ないわ…。おかしいわね…一体何処に落としたのかしら…?
[少なくても家庭訪問自前までは所在の確認は出来ていた。その後行った場所といえば、ソフィーとローズ、そしてリックの店――]
ナゼ、チカラガナイトオモウ?
[再度の問いかけ。ラジオの周波数が合うように、徐々に伝わってくる声が明瞭になっていく。]
…別に、望んでこの組み合わせになったわけではないのですけれど。
[小さく肩を竦めて伯父を見やるも泥水だらけの自分といい勝負といった様子にあきれたようにため息をひとつ]
伯父様も、シャーリィも無事で何よりです。
…そういえば、伯母様は?
相変わらず、お仕事お忙しいのかしら。
[見上げるようにしなふがら、自分の記憶や過去の写真の中にある母−ミッシェル−の風貌よりも暗い髪ときつい顔立ちの伯母の姿を思い出して軽く首をひねる]
年齢以前に…人として解るでしょうっ…あんっ。
[リックがさらに被せてくる論理に戸惑う。論破も出きるかもしれないが本題はそれでは無い。
足か、どこかで本気で抵抗すれば糸口はあるかもしれない。しかしリックは傷つけたくない、という心がまた仇になった。
乱暴に衣服を引き裂かれ、リックに無理に引っ張られる。]
――雑貨屋・店内→倉庫――
[下着だけを身体に残した獲物を小突き、僕は勝手口を指し示した]
……さ、そこから出て?
店の中じゃ、いつお客さんが来るか分からないからね。
ほら、歩けよ、ネリー。
[ボブがムッとしている様子なのに、硬直したまま瞬きを繰り返す。
のん気にしっぽを振る犬が自分に噛み付いたらどうしよう…と考えながら。ハーヴェイは平気でああ言う風に言い返せるものだ。結構、度胸があるのでは──とシャーロットは思った。
ヒューバートがさりげなく間にはいってくれたことに、心臓の鼓動はやや落ち着く。無意識に父の影に隠れ、その父の言葉ではじめてニーナが泥だらけで立っていることに気付いた。]
いいえ、お気になさらず。
私は──家へと帰る途中だっただけですから。
大して遠くもありませんし、気持ちだけ頂きます。
[雨ですっかりぼさついた紙を手櫛で直してからようやく肩の荷が下りたとばかりにゆるゆると雨の中で息を吐く。
スカートもシャツも外套も、背面やら袖口やら裾やらは既に茶色く染まり]
[露わになっていくネリーの素肌。ノーマンが踏みにじったと同様に、リックもまたその優越感を、ノーマンと同じ快感をトレースするか。]
ハーヴ、無事で良かったっていうのはこっちのセリフだよ。
[思わず苦笑いする。]
娘をデートに連れ出すなら、もう少し安全運転してくれよ?
気が気じゃない。
[冗談まじりに微笑みながらも、声色に混じっていたのは心の底からの安堵だった。娘の咄嗟の危険に、エリザの遭難を確かめに行って垂れ籠めていた鬱然とした気持ちが刹那に遠のいたことに無自覚でいた。
「伯母様は?」とのニーナの問いかけに、エリザのことが意識にのぼる。
曇った表情で微かに首を振った。]
実は……地滑りに呑み込まれたのか行方不明のままなんだ。
[ぐんにゃりとした男の身体を支えて立たせようとしながら、眉を顰める。]
アスピリンだぁ?酒と一緒に飲んだってか?
幾ら頭痛いからってムチャクチャだな……。
…何てこと…!
[ヒューバートから告げられたエリザの現在に息を呑んで]
…そんな、この間レベッカ叔母様が亡くなったばかりなのに…!
[ああ、と小さく泣きそうな呟きだけこぼして両の手で顔を覆ってしまう。
間違いなく、自分の家族が事故にあったときのことを思い出していて、肩は雨の中小刻みに揺れて]
とりあえず…ローズの店へ…行ってみて…それからソフィーのお店に…。
多分そこで…無くしたと思うから――
[真っ先にリックの店と言葉が出なかったのは、やはり今戻るとあの行為の続き――今度はもっと激しいもの――を目の当たりにしなければならないという危惧からかも知れなかった。]
そうと決まったら…戻らなきゃ…。ローズのお店に…戻らなきゃ――
[まだ戻しそうになる胃を宥めるように擦り。わたしは再び泥濘へと足を進める。縺れる足許に苛立ちを隠せないように荒々しく*泥を蹴飛ばしながら*――]
いたいッ!
[白い下着だけになったネリーはリックに引っ立てられておぼつかない足取りで移動する。]
お…お店に人がいなくなっても、あそこに私の服があるわよ…あれを見て何も思わない人はいないと思うけどっ!
[実際は黙殺される――いやされたようだがネリーには知る由もない。]
『ボブ──、あの人が怖いと思ってるのは、私だけ?
でも、ママは近付いちゃいけませんってずっと…──。
もっと怒っても良さそうなのに…謝罪も丁寧だし、「良ければ、乗せていってあげるけど?」……なんて良い人みたい。
でも……。』
[ヘイヴンにただ一人しかいない黒い肌と、年は取っているもののアメリカンアフリカン特有のたくましい身体つきに、不穏そうにチラリチラリと視線を投げる…──。
シャーロットは、店で何度か遭遇しているニーナや、ボブがローズマリーのお店に定着している事がすでに自然となっている大人達とは違うのだ。]
[ニーナが、申し出を断ると残念そうな顔をする。
何か別の狙いが、背後にあったようである。]
え、ダンナの奥さんが?
[自分より10歳以上年下なのに、ダンナと呼んでしまう。
50過ぎて、こんな自分とは大違いと見ているのだ。]
それ俺の心配は入ってるんですか?
こんな名誉の負傷までしてるのに。
まぁ安全運転すればデートOKってことですよね、それ。
[恩師の笑顔にま肩をすくめ言い返す。
そしてヒューバートの曇り顔をみやり]
…奥様は…やはり…
[朦朧とした様子から、或いは酩酊してこちらが町民ではないと気付いていないのかも知れないと思われた。
この町の住民は概して部外者に対してかなりの警戒心を抱いている。この男は無防備過ぎた。]
あんた、家何処だ。
送ってくから教えてくれ。
>>315
[ネリーはリックの指す『人』が誰か見当がつかなかった。ギルバート?ノーマン?リック?と僅かの間考える。
しかしネリーにとってはその様な事はどうでもよかった。あまりの羞恥心に涙が零れそうだった。]
あー……………
[ギルバートの為すがままに起こされた時、ぐらぐらと強烈な眩暈が男を襲う。そして――]
おぐぅえぇえっ………
[その場で、嘔吐。]
[ああ、ともう一つ小さく呟けばボブのほうを向き直り]
ごめんなさいミスター、やはりご自慢の車に乗せていただいてもいいかしら。
一刻も早く家へ帰りたいの…リックたちが心配で…。
[正直いろいろあって自宅までの体力が持ちそうにないというのも理由ではあったのだけれど、それ以前に気が急いていて]
―町へと続く道―
[ルーサーは車をゆっくりと走らせながら、周囲の様子を見て周った。]
どうも、災害や事故も起きているようだな…… アーヴァインは大変だろう。何か力になれることは……
[エリザは私にとって妻だったばかりでなく、ニーナにとって血の繋がった叔母だったことを改めて思い出す。
私は雨に打たれる彼女の上に傘をさしかけた。]
ニーナ。酷い有様だな、君も。
[泥水で汚れた姿に、力なく笑う。]
よかったらうちでシャワーでも使うかい?
服はロティの服でまだ下ろしてないのがあるから着替えればいい。
ロティも少しの間でも君が居たら安心するんじゃないかと思うし。
[ヘイヴンではただでさえ子供達の数がそう多くはない。私は、やや年上の同年代で同性の彼女に、シャーロットのよき相談相手になってくれればと願っていたのだった。]
家………
[口の両端から唾液と吐瀉物をだらしなく垂らしながら、男はある方向を指差した。]
あっち……………
[その情報は決して間違ってはいない。情報量不足は甚だしいが。]
[シャーロットが、自分をちらちら見ている視線を感じる。
母親の件に起因するかもしれないとも思えた。
しかし、どう見ても視線は自分を捉えている。]
…DAMN...
[こんなときだ。怒りを露にするわけにもいかないだろう。
小声で呟き、歯をぎりぎりと噛みしめる。
顔は赤く染まっていき、不気味な顔色になる。]
――雑貨屋・店内→倉庫――
[悲鳴のように言い募る言葉には答えず、僕は倉庫の扉を開いた。立ち並んだ棚、雑然と積み上げられた木箱やダンボール箱。非常時とあって持ち出された品々の整頓はまだまるで進んでいなかった。散らばるそれらを避けながら進む]
『……ネリー。けれど、あれを見て、君が願っている様に思ってくれる人が全てとは限らないんだよ。ネリーがどんな姿で見つかるかにも依るだろうしね。そして――それを決めるのは、僕だ』
[黙考しながら壁に辿り着き、金属扉を開け放つ。そこには、地下へ降りていく階段が黒々とした口を開けていた]
……事故現場へ行ったのね、パパ。
やっぱり、ママは…。
[ニーナが華奢な肩を震わせる様子に、何もしなくとも再びシャーロットの頬に涙が伝わる。ハーヴェイの手を一瞬ぎゅっと強く握る。けれども、父親の前であることに気付き、そのままハーヴェイに甘えるのは気恥ずかしいことのように思えた。]
そうよニーナ、良かったら家でシャワーを浴びて行って。
そのまま帰るのはあんまりだもの……。
あなたの顔もなんだか色が無いみたい。
[ボブには従姉妹と同じように、声を掛けるべきなのか掛けるべきで無いのかはわからない。シャーロットは、気恥ずかしさとボブへの戸惑いを隠すために、あえて苦手な犬に近付いて行った。]
[その後も暫く、ソフィーは取り留めのない会話を続けていた。
ローズマリーに会ったら礼を言って服を貰い、自宅に戻る旨告げるつもりでいたのに、何故だかすぐに切り出せずにいた。
無論、父を自宅まで徒歩で連れて帰るのが不可能な為、誰かを頼らなくてはいけない事や、まだ熱の下がらない身体を持て余していた事もあったが、理由はそれだけではないような気がした。]
──…。
[もやもやした気持ちの出処を掴めぬまま、「まだ具合が悪そうよ?」と言って心配してくれるローズマリーの言葉と気遣いに甘えて、ソフィーはもう暫く部屋で*休ませて貰う事にした*。]
――倉庫→地下室――
[ネリーを振り返り、柔らかい表情を形作って微笑んだ。少しでも彼女の心を解そうと、穏やかな声で言葉を紡ぐ]
ああ、外に出たから恥ずかしいの?
あんなにちょっとの距離だったのに。でも大丈夫だよ、ここからは。僕以外に見る奴なんていないんだから。
[何をする暇も無い。
レインコートに男の吐瀉物の飛沫が盛大に飛ぶ。すっぱい悪臭があたりに強烈に充満する。
思わず天を仰いで嘆息した彼に、男は家の方角を指し示して見せた──ふらふらと揺れる指先で示しているのが正しいとすれば。]
もちろんOKだ。OKなんだが……。
[シャーロットやヒューバートの方を指して]
ダンナたちが、こう言っているが…どうするね?
どうやら、お嬢さんに私はよく思われていないようだ。
[うっかり、余計なひと言まで言ってしまう。]
…ええ、まあ。
でも、私のことよりもあの二人が無事かどうか、心配なんです。
一度きちんとリックたちの無事を確かめたら、改めてお伺いします。
折角なのに、申し訳ありません。
シャーリィも、ごめんなさいね?
リックたちの確認が取れたら、必ず会いに行くわ。
[おそらく、ハーヴェイやボブから見れば親族を前にするニーナの態度はいつもよりも柔らかいものに見えるだろう。
ボブからOKが出たので、お願いするわ、と小さく頷きながらボブが乗り込むのを待ってからアルファロメオへと乗り込むだろうか]
[当時のノーマンはネリーにのべつまくなしに欲望の対象としており「そういう」場所がいくつかあった。雑貨屋に連れ込まれる事も少ないながらもあった。
しかしそれは家族の目を盗んでのものだった。
思い出したくもない方角が強い記憶のせいで鮮明に思い出される。反吐が出るとは言い得て妙だ。]
どうして、どうして…!
[何がどうしてかはリックにはまるで伝わらない。どうしてリックは知っているのか。もしやノーマンが教えたのか。
もしや、私の誰にも言っていない秘密まで――
ネリーの頭は掻き混ぜたコーヒーにミルクを落としたようにぐちゃぐちゃになった。]
―町へと続く道―
[ルーサーは雨の中人が倒れているのを見た。]
ん、あれは……
[車を近くに停めるとそこには見慣れない男とナサニエルが居た。]
また、君か……
[ルーサーは、呆れたように呟くと、彼を介抱している人間に挨拶をし、問いかけた。]
私はルーサー・ラングというものだ。はじめまして。君はナサニエルの友人かい?
[ボブの叮嚀な言葉に、「気にしないで欲しい」と受け答えしていた。今日の彼の口調はやや畏まっているようだった。酒場で耳にしたり、あるいは町の噂ではまた違った雰囲気もあったのだが。
「ダンナ」の呼びかけに、笑って答える。「いつも言うように、バートでいいよ」と。
音楽家である彼の才能に私は敬意を払っていたし、また親しみの情を現していた。もっとも、心からうち解けるほどではない一線を意識してはいたけれども。
妻の話が出たので、事故現場や町を再び襲った大規模な土砂災害の事情について、そこに居る人たちに簡単に話した。]
…シャーリィは、少し人見知りなところもあるから。
[どうにかして従妹のフォローを入れて、とにもかくにも店へ早く戻りたくて]
お願いミスター、私は早く店へ戻りたいの。
それには貴方の協力が必要なの。…だめかしら。
[いや、それはないわ。私の秘密をばらせばノーマンも自分の首が絞まるもの。
軽はずみにノーマンは言わない。絶対。自信もある。
けれど、リックにならそれは――
ネリーは首を横に何度も振った。しかしそれは単にリックを悦ばせるだけであった。]
あー………
………ん?
[酩酊状態の男の目は、琥珀色の男のレインコート……の飛沫に向いた。]
あー……すまな……うぷっ。
[突き上げてくる嘔吐感を、今度は外気に触れる寸前で、文字通り飲み込んだ。男は、琥珀色の青年に引き摺られるままに歩いている。多分、家の方へと。]
じゃあ、本人がそう言っていることだから、
私は彼女を送っていくことにするよ。
ダンナも、落ち着いたら酒場に聴きに来てよ。
[危うい位置に停車したアルファロメオに向かう。
ふと、シャーロットの方を向いて]
次会ったときまでに、考えておいてほしいんだ。
私の肌は黒い。キミの肌は白い。
じゃあ、キミのソウルの色は何色なんだい?
[そう言って、運転席に乗り込み器用に
アルファロメオを道に戻す。]
[親族がいれば態度が変わるのは当然だろう。
ニーナが自分にとる態度に興味もない。
前に借りた着替えをここで返すのは少し場違いか?
とやや考え込む態ではあるがやはり後にした方がいいかと思い直す]
[停車した自動車から出てきた実直そうな壮年の男に、些か困惑した、人の良さそうな笑顔を見せた。]
どうも。俺はギルバート、ギルバート・ブレイクです。
いや、友人てほどのもんじゃあないです。実を言うと今そこで会ったばっかりでしてね。まるっきりの初対面。
う………
[引き摺られる道すがら、見慣れた車が視界に入ってきた。そして、聞き慣れた声。]
あ゛ー……………医者。テメェか。
悪ィ。アスピリン飲み過ぎて頭痛ぇから、頭痛くなくなる薬をくれ。
[焦点の合わない目で、黒ずくめの医者を見やった。]
「俺の心配は入ってる?」
[というハーヴに「当たり前じゃないか」と笑う。]
おいおい、本当にデートだったのか?
[苦笑いした。
シャーロットの頬を一筋の涙が伝う。声をかけようかと口を開きかけ、ハーヴェイの手を握る彼女の為草に気がつく。
年若い友人が、娘を慰めてくれることはありがたいことの筈だった。娘にボーイフレンドができるのも健全なことなのだろう。おそらくは。
心の裡をなにかの感情がじりりと灼いたが、二人への眼差しが温かでやわらかなものとなるようつとめた。]
――地下室――
[疑問符を重ねながら何度も何度も首を振り続けるネリーの手を取り、壁の一隅から下がる手枷に繋ぐことにした。一方の枷に繋げば手錠は必要ない。鍵を取り出し、カチャリと外した]
どうして……?
クスクス。それは、どうしてだろうね?
[嘲弄するように言って、彼女の脇腹から上へなぞりあげるように舌を這わせた。しっとりと汗ばんだ肌は、恐怖と混乱の味がするようだった]
[おそるおそる犬に近付く。
それまで愛想よくしっぽを振っていた犬だが、動物特有の勘でシャーロットが純粋に犬が好きで触れようとしているのでは無い事が分かったのか、しっぽを振るのを止めた。犬がシャーロットに唸る。]
ニーナ、お店に居たんじゃなかったの?
もしかして、山崩れにあったあの道を通って図書館から……。
ううん、不自由があったらリックやウェンディと一緒に家に来て。
[言いかけて青ざめる。犬のうなり声にも硬直する。それでも無理をして犬を撫でようと──…。
ボブは車へと戻って行く。犬はちょうど、ニーナやボブが車の方へ向いている瞬間に、シャーロットの腕を強く噛んだ。
そして、犬はボブの呼びかけに慣れた動作で道に戻ったアルファロメオの窓から飛び込む。
シャーロットはボブの言葉に、咄嗟に腕を後ろに隠して発車するアルファロメオを見送った。]
OK。わかったよ。
ニーナ、なにかあったら気軽に声をかけてくれ。
[一瞬止めるべきか躊躇したのは、それまでに耳にしたボブの噂話所以だっただろうか。
偏見に私自身も囚われているのだろうかと、内省する。
僅かに表情が曇ったが、彼女の意志を見て頷いていた。
犬に近づきかけたシャーロットに案ずるような眼差しを投げかけたが、ボブは車中の人となっていた。]
―道端―
[ギルバートのほうを向いて]
そいつは災難だったね…… 彼は多分悪いやつじゃないんだが…… いや、私も彼のことを知っていると言うほどのものではないんだが……
[ナサニエルのほうを向き直ると]
前もキミは同じようなことを言ったな。いいか、薬物なんてものは所詮人の身体の働きを助ける程度に過ぎない。そんなものに頼るのは止めなさい。大体…… まあ、今はそんなことを言っても仕方が無いか。
[ギルバートのほうを向き直って]
彼を家まで送るのなら、私が代わってもよいよ。キミが付き合うこともあるまい。どうするね?
ありがとう、シャーリィ。
少し──届け物があって、そこで足止めを食らっていたのよ。
この雨のせいで。
[軽く肩を竦めながらボブの車へと乗り込みかける。
伯父親子が共に何かあればといってくれたのはとても心強いことで、嬉しそうに微笑んで頷くとそのまま扉を閉めてボブに発進を促す]
どうしてって…それは…あなたが…っ!
[続きを言いかけて言葉を飲み込む。
片手を上に向けさせられ、もう一方の手はやや自由を取り戻す。幾分楽になったかと思うと、リックが自らの脇腹を向き頭を下げている。
恐怖がネリーを覆い、息で露わになっている腹部、横隔膜が大きく動く。]
はぁ…っああん!
[下を向いているリック。僅かばかりに動く腕。
チャンスはもうなかろうか。ならばとネリーはリックにお返しとばかりに、頬めがけて平手をのばした。]
いやー……………
[医師の言葉にしばし黙り込み、ぽつりと呟く。]
アスピリンはダメなのな。
胃が痛ぇし、味は無いし、ロクなことねぇや。見た目はラムネ菓子なんだけどな。
……市販品だからいけないのか。
ンン……
[と、少し考えるような素振りを見せた後で、]
貴方にお任せしても良いんですが……一人で運べますか?
[意味ありげな苦笑を見せた。]
[車中では、はじめのうちはずっとこの言葉を繰り返していた。]
あの小娘…私を馬鹿にしているな。
どんなに、どんなに頑張っても…呪いかこれは。
私を誰だと思っているんだ……。
[ぶつぶつ呟きながら、一見すると車は
雑貨屋の方に向かっていると思われる道を進む。]
[一人、親族同士の慰めあいとはまるで場違いなことを考えている。
今の自分には理解できるものではなかったから。
ボブの車に乗って去っていこうとするニーナには挨拶程度の言葉しかかけることが出来なかった。
そしてぼんやりと皆のやりとりを聞いているように聞き流していたが、ふとシャーロットが犬に手を伸ばしている]
駄目だよシャロ、なれないのに触ろうとしたら…
[注意し終えるか否か、犬はシャーロットの腕を噛んだ]
この犬、なにを…!
[追放そうとする間もなく、犬はボブの所へ駆け戻る]
ちっ、飼い主があぁだと犬も同じか。
シャロ、腕…大丈夫かい?
[ナサニエルの言い訳を無視するように、ギルバートへ]
ああ、ブレイクさん。私の車にコイツを放り込むのさえ手伝ってくれれば、私のほうであとは引き受けよう。
一応、医者なのでこの手合いの扱いも経験が無いわけじゃない。安心してくれ。
[肩をすくめて、ナサニエルのほうを見る]
どうだい? 車まで運ぶのを手伝ってくれるかい?
[ボブの呟きに覚えたのは不穏な感情だったけれど、やがて座っているだけの状況は酷く疲れた体の求める睡眠欲に勝てず]
(……だめ。眠っては…だめ…、早く帰らなきゃ、いけない、のに…)
[どんなに抗ってもそれは堪える事が出来なくてやがて青い瞳の前に瞼の帳が落ちて──
その車が、店のほうへと向かっていると信じたまま]
俺は力仕事は結構得意だしね。
貴方が医者なら、町は今酷い状態ですから彼以外にも急患出てるかも知れませんし。ずっと一人の患者に掛かりきりって訳にも行かないでしょう?
病人治すのは貴方にしか出来ませんが、それ以外のことは俺でも手伝えますから、着いてきますよ。
ほっとけないしね。
[と、快活な笑顔で笑い掛けた。]
……ねえ、ネリー?
こんなことをして、何か解決になるとでも思ってる?
むしろ逆に、僕を怒らせることになるだけだって、思わなかった?
[見上げる片目を細め僕は哂う。三日月のように―肉食獣のように。そして、ネリーの柔らかな膨らみに犬歯を立てた]
[隣では、ニーナが眠りに落ちているようだ。
車は、雑貨屋の方から次第に逸れていく。
誰も近付かないような、そんな人気のない
場所へと向かっているようだ。]
近道だなんだって、言い訳考えてたんだが。
手間ぁ省けたってもんだな。
ああ、どうしてくれようこの不快感。
[紙幣の束を取り出す。”仕事”の時間には早い。
しかし、車も彼も走り出したら止まれないようだ。
明らかに、雑貨屋とは別の方へ向かっている。]
[ヒューバートから目配せで戻るように促され、自分も車に戻る。
この後バンクロフト邸へ自分の荷物を取りに行くのは何となくはばかられたが、ここで別れるのも何となく気まずい]
先生、ご自宅までご一緒させてもらっていいですか?
[どうするかはこの答えで決めればいいことだろう。しかし先程打ち付けた頭がまた痛み始める。
自分も早く戻り何かしら手当てをした方がいいかもしれない。
髪に隠れて血も流れていなかったが、打ち付けた箇所には大きな傷が覗いていた─]
[着いたよ、と揺すっても起きる様子のないニーナ。]
オイ!着いたってのがわかんねえのか!!
私の声、届いてるか?おまえさんつんぼか?
オイ!オイ!いい加減に起きやがれよ!!
[苛立ちが、そのまま発言に反映。]
[どんな言葉をかけても、頬を叩いても今のリックには何も届かないのか。
ネリーは深く絶望した。自由になっている手が力を失いかけ、宙を彷徨う。]
なんで、なんでこんな事に・・・っ! あんっ!んふ・・・
[リックに歯を立てられ、自分の意思とは違う溜息が漏れ始める。腕は力なく垂れ下がり、顔はできる限りリックから逸らす。]
[車の中、眠っていたところを大きく揺すり起こされれば眉間に皺が深くより、微かに揺れて表れた青い瞳にはまだ霞がかかり]
…わたし…?
[今の状況を把握しようと辺りを軽く見回す。
着いたといわれたところで、見慣れた風景でもなく店の明かりも見えない。
いつもより覇気のない睨みをボブへと向けて]
…どういうことかしら。
わたしは店へ帰りたいといったはずだわ。
[ギルバートの申し出に意外そうに]
いや、それはむしろありがたい申し出だが…… いいのかね? それじゃあ、彼をシートに放り込むのを手伝ってくれるかい。
[ナサニエルに肩を貸そうとしながら]
ホラッ、力を入れるんだ。行くぞッ。
[ルーサーは車の扉までナサニエルを*連れてゆこうとした。*]
[ハーヴェイの額の疵に目を向ける。]
まったく、二人とも満身創痍だな。
ハーヴ、もちろん一緒に来てくれ。
怪我の治療をまとめて済ませてしまおう。
[そう告げるとすぐそばの自宅のアトリエへと戻った。]
――地下室――
[白で揃えられた下着を押し上げて直接に噛み付く。自由な筈のネリーの腕が下がる様子を視界の隅に捉えてまた笑った]
……美味しいね、ネリー? ネリーは今まで、いろんな料理を作ってくれたけどさ。その中でも一番かもしれないな、クスクス。
ん、っと、さ。でも、これはまだ――前菜だよね。本当に味わうのは、これから、で。
キミの親戚の子に、ひどく気分を害された。
[サングラスによって、瞳の様子はわからない。
邪な何かの雰囲気が、漂っている。]
親戚の不始末は、キミにとってもらうよ。
[口止め料とばかりに、ニーナに多額の紙幣を握らせる。
そして、助手席に押し倒して思いきり押さえつける。]
逃げられると思ってないよな?
私は、このイライラを抑えることができ、
キミは懐を温めることができる。誰も損しないよな?
―アトリエ―
ハーヴ、折角来てくれたというのに、来て早々色々あって済まないね。
できれば、泊まっていってくれたらありがたいんだが。
こんな時だし……
[リビングのソファーに二人を案内すると、薬箱を引っ張り出した。
仕事柄、薬や包帯などの簡単な医療品は随分ストックもある。
犬の噛み疵は感染症の恐れがあったため、特に念入りに消毒すべく、消毒液をシャーロットの疵口に差していた。]
[均整の取れたネリーの太腿に視線を向け、その付け根へと左手を這わせていく。覆い隠した白い絹の上で指先を幾度も往復させ始めた]
なんでこんな事にって? 本当はネリーが一番良く判ってる癖に。馬鹿だな。ほら――思い出せよ。
なっ…冗談じゃないわ、こんな…!!
[押し付けられた多額の紙幣に、くだらないとばかりにそれを相手へと押し返そうとしたけれどそれは叶うことなくて、そのまま助手席へと押し込められ]
…冗談じゃないわ、放しなさい!…っ、放して!
[どうにかこの状況から逃れようとただひたすらもがいて]
な、何が前菜よ。笑わせるわ、笑わせないで。
[身体を僅かに覆う下着を少し払われ、陰湿な笑みをかけられ続け、ネリーは身体を小さくよじる。
長い三つ編みが小さく揺れる。だがそれは日頃のネリーの明るさのギャップと相まって、ネリーの媚態はリックを興奮させるにあまりある。]
──アトリエ・リビング──
[ボブの言葉と苦手な犬に噛まれたショックで呆然としたまま、ソファに腰掛ける。元々ハンカチすら持たずに慌てて飛び出したものだから、血が清潔な白い床にぽたりぽたりち少しずつ沁みを落とす。]
…ハーヴ、車を急停止させた時に。
頭を打っていたなんて……。
[ヒューバートの言葉で、ハーヴェイの怪我にやっと気が付いた。]
ハーヴ、君もどうかしてるぜ?
[私は、ハーヴェイの額の疵をうんざりしたように見つめた。]
君は何が何でも、顔だけは庇わなくてはならない。
それが、そうした顔に生まれついた人間の責任であり義務だ。
[そう言って、少しだけ笑う。]
まったく、跡が残ったらどうするつもりだ?
あ゛ー………
[ナサニエルは、ルーサーに力一杯押し込まれたのを感じて、反射的にもがき始めた。]
頭痛くなくなるクスリくれねぇンならいいよ……!
ほっとけよ、ヤブ!!
[ルーサーの車に足を掛けて、男はふらふらと車から逃げ出した。]
抵抗するんじゃあないよ。
まあ、キミも急いでいるようだから、
一発カマすだけで勘弁してやるよ。
[ズボンを下までおろすと、黒人特有の
サイズであるそれが露になった。
それは、すでに力がみなぎっている。]
知ってるか?我々は、ココの大きさなら
白人にも黄色人種にも、誰にも負けないんだぜ。
[抵抗するニーナを押さえつけ、両脚を
上に押し上げた姿勢をとらせようと試みる。]
[アトリエまで同行したが、傷の手当をするつもりはなく、あくまで目的は自分の荷物。
傷は車の揺れの為か、だんだんと血を滲ませてくる
手当てを受けながらも意識は段々と朦朧と]
先生…俺の…絵…。それだけ貰ったら…戻りますから…
[痛みは益々酷くなる。一瞬、ぐらりと視界が歪んだ]
すみませ……俺………
[上下左右がわからない。分かるのはズキズキと響く傷の痛み。
次第に大きくなる痛みの波に意識は飲み込まれていった─*]
それとも。あの写真通りの姿にならないと、ちゃんと思い出せないかな、ネリーは。順番に進めていけば自覚も生まれるんだろうか? ねえ?
[言いながらもネリーの肉欲を煽り立てるかのように指の動きは休ませない。豊満な丘陵を一方の手で掴んでは離し、紅に色づいた先端を指先で擦り上げた]
ん、あっ…はァン…誰がお、思い出すものです…か
[思わずリックの人間ではないような、ねちっこい掌の動きにネリーは呻く。]
最低だわ、貴方…!!
嫌、放して、触らないで!
[きつく睨みつければ足を抱えあげようとする手を拒否するように相手を蹴りつけようとするが、既にナサニエルとの契約の後、加えて雨に濡れ、全力で走った後、叶うかどうかなどわからず、ただ嫌悪の感情だけで試みる]
[医者の車から逃げ出し、男はふらふらとした足取りで自宅へと向かおうとする。数歩進むたびに、ドサリと倒れ込みながら。]
[酩酊状態のまま進むのに疲れたのか、琥珀色の目をした青年に声を掛ける。]
………おい、連れてけよ。
[道端に突っ伏した格好で、男は琥珀の目に*そう要求した*]
[犬の唾液独特の獣くさい匂いと血が混じり、シャーロットに不快感と過去の嫌な記憶を思い出させる。]
私は傷口を洗って来るから、ハーヴの手当を先にして。
[そう言ってシャーロットは洗面所へ向かい、間も無く戻って来たが──。目の前でぐらりと揺れるハーヴェイ。
シャーロットは清潔なタオルで腕を抑えたまま、悲鳴を上げた。]
ふぅ、ふぅぅぅ……っ
[こんな時どうすればいいのか。ネリーは自分の経験を元に反芻する。
生半可な抵抗は次の興奮を、煽るだけだ。ただ耐えればいいのか。抵抗をやめればいいのか。判らない。判らないことだらけで、頭の中が、何かが遠くに霞んでいく。]
ふふっ。そう……ノーマン(とうさん)に躾けられた事、思い出せなくなっちゃったのか。檻から逃げ出して、野良犬に戻っちゃったんだね。
[哀れむように耳元に囁いて、隣の壁に設えられた棚から拘束具を手に取った。幅広のアイマスクを被せようと近づいていく]
[手を蹴りつけられ、一瞬怯む。怒りの形相。]
オマエら白人は、我々を虐げた歴史があるじゃあないか!
私は無償でとは言っていない。対価を払っている。
それでも、オマエらは我々に支配されるのを拒むか!
[顔に傷をつけると、後々面倒なことになる。
振り上げた拳は、ニーナの腹部を目指す。
そういうプレイをしたいわけではなく、
ただ単に力を奪うための行動であった。
このあたりから、常習性が見て取れる。]
大人しくしな、ネリー。
僕の言う事に従っていれば良い。それがお前の役目で、義務だ。
その為にお前は此処にいるんだろう?
[ぼんやりと蕩け始めたネリーの瞳に視線を合わせ、精神を浸蝕するように命令を吹き込んでいく。僕の内側から生まれる言葉が彼女の中に入っていくなら、それは何にも増して愉しい事だろうと、思った]
[少し豊満な胸を不意にいたぶられ、思わず高く突き上げている腕を振り回そうとする。だが結局それは自らの腕を痛めるだけに終わる。
ネリーは目を瞑ってリックの弄びに耐える。彼の一瞬手が止まった事には気づかない。]
流水で三十分くらいは洗い流すように。
[洗面所へ向かうシャーロットの後ろ姿を見送った。ハーヴェイの治療をする間も、彼の様子はどんどん悪化してゆく。
ハーヴ。大丈夫か?
ハーヴ!
[意識を失った彼を、そのままソファーに横たえた。
洗面所から顔を覗かせたシャーロットに、「心配ない」と声をかける。彼女を安心させるために。実際のところはどうなのかわからなかったが。]
冗談じゃないわ、こんなの虐げる虐げられる以……ッ!!
[腹部へと強く打ち込まれる拳に声にならない叫びと強く意識を支配する痛みだけが与えられ、大きく咳き込みながら、彼を蹴り続けていた足はその痛みによって萎えて]
ふ、ふざけないで…っ。
あなたに従う義務なんて、何もないわ。
[そこに耳に入ってきた言葉。同じ意味の御託は何度も発した事のあるものだ。認めたくなんかない。決して。
だが保身のためなら今すぐ言うべきなのではないか――
決心には程遠く、俯き、ぼそぼそと何度も呟く。]
あ…あ…あな……
パパ、お医者さまに電話を──。
デボラさんのところは山崩れで無理だけど…
ルーサーさんのところなら。
ああ、電話は通じないのだったわ。
[力を失っていく、ニーナを見てご満悦の表情。]
よーし、よーし。いい子だいい子だ。
金は与えたんだ。誰にも言うなよ?
[ロングスカートをたくしあげて、
その下にあるものをずり下げる。
正確には、上に伸ばした足に沿って上げていく。]
オマエらだって、大きい方が好きなんだろうが。
[下品なことを言いつつ、巨大なバズーカ砲を、
ニーナの受け入れ先に打ち込もうとする。
すべりの悪さは当然。痛みを感じさせようが
そうでなかろうが、関係なく試みる。]
[なす術もなく身体中をむさぼられ、言葉を強要される。
慣れていても決して慣れないこの敗北感。]
あなたが…わ、わたしの……ご………
ロティ。君は怪我をしてる。
治療が先だ。
[流水で洗い流された咬傷を、消毒液で消毒した。上顎犬歯が肌を裂き血を流させていたが、傷痕は思ったほど大きくはなかった。
犬による咬傷は感染症の危険があり、安心しきれたとは言えなかったが、ひとまず安堵のため息を漏らす。]
ラング先生に看てもらった方がいいだろうね。
[破傷風の潜伏期間は三日以上はあったように思う。念には念を入れて、数日中にはルーサーの診察を受けさせたかった。倒れたハーヴェイも気がかりだ。
試しに電話をかけてみようと受話器を上げたが、応答はない。
アーヴァインが、電話が不通になっていると言っていたことを思い出した。]
ハーヴェイは、少し様子を見てみよう。
明日には、私がラング先生を呼びに行ってくる。
来客用のパジャマはどこに置いてあったかな……
[とシャーロットに]
[何かを再び投げ出してしまった後悔と敗北感でネリーは鼻から水が出る程泣き出してしまった。優しく頭をなでるリックとのギャップが妙に滑稽だ。]
い、や…いや、やめて、助け…っぁああああああああ!!
[かたかたと、歯の根が合わないほどに震え、怯えからぼろぼろと涙だけが零れる。
普段の気丈さのかけらもなく、助けを縋ろうと誰かの名前を呼びかける間もなく、準備も何もないその場所へと突き立てられたものによって車の中が悲鳴に満ちる。
ナサニエルとの行為からそれほど時間がたっていないことだけが唯一の救いだったといえるのかどうか]
[さすがにすべりが悪いと、スムーズに立ちゆかない。
主にそれは、ボブのサイズのせいだと思う。
ニーナのそれが裂けんばかりに無理矢理、
それを奥の奥まで、突き立てる。]
そうそう。その反応なんだよッ。
いくら泣き叫んでも、助けなんて来ないんだって。
[腰をゆっくりと前後に動かす。
気持ち悪い嘆息の声が、彼の口から漏れる。]
今、初めてキミがとてつもなくカワイイと思っているんだ。
これは、貴重な体験ではないかね?んんっ……。
[念押しなのか、快楽の声なのか。]
……ママを巻き込んだ山崩れの所為。
こんな時に、ハーヴまでこんな事になる…なんて。
[手当ての済んだ右腕を眺め、半ば呆然としたようにヒューバートに寄りかかる。でも、父親が傍に居るならなんとかなる──そう思い直す。]
ああ、パジャマは客室のクローゼットに、移したんじゃなかったかしら。
[言いながら客室へ向かい、クローゼットを開けてパジャマを父に差し出す。ヒューバートはハーヴェイを着替えさせるのであろう。シャーロットは王子様の様な容貌のハーヴェイを、男性だと強く意識していなかったかったのか、手伝い掛け──、ズボンを脱がす必要性に気付き、顔を赤らめて手を止めた。]
見習いメイド ネリーは、牧師 ルーサー を投票先に選びました。
うっ…うっ…
[唇を舐められて驚き、目を再び開くとリックが何かを手に持っている。視界が開いたかと思うとまた視界が閉じられる。最後にリックの満足げな顔だけがネリーの脳裏に焼きついた。]
[怪我をしたシャーロットの肩を、大丈夫だというように一度強く抱きしめる。]
あ、なんだ。そこだったのか。
ありがとう。
[シャーロットに礼を言い、パジャマを受け取るとハーヴェイを脱がせてゆく。マーティンが持ってきた濡れタオルで汗と埃をぬぐいながら。
しかし、その指先が背中に触れた瞬間、ハッと表情を強張らせた。
背中には彼の秀麗といっていい外見には似つかわしくない傷痕が残されていた。
その様は、シャーロットの目にも入っただろうか。
ふと気づくと、シャーロットもその場に居たことに気づき、「出ていなさい」と微かな赤面と咳払いと共に追い出した。]
ぃ、や…やめ……てぇ…あ、ぅ…!!
[現実を拒絶するように首を横へと打ち振るい、それでも下腹部の痛みは現実のもので涙しか零れず。
最低、とか放して、とかもうやめて、とかそんな言葉しか詣でてこないほどにその現実を精神は拒否していて。
けれど体のほうはどうかと言えば、生理現象としての潤いが発生していることは否めず]
ハハハハハ……体は正直ってヤツかな?
いつもムッツリしてるけど、なかなか好きそうじゃあない。
ムッツリはムッツリでも、ムッツリスケベってヤツか。
[この行為には、愛がない。一方的な蹂躙。
ニーナを使って、自慰行為を行っているようなもの。]
急いでるんだっけ?良かったな……クるぞ。
[車の中に出せば、ネリーが臭いに気付くかもしれない。
かといって、湧き上がる脈動は抑えきれない。
彼の頭の中には、そこに出す以外の選択肢はなかった。]
すまんね…中に出すよ。
[仰向けに寝かせたハーヴェイの上体をちょうど寝返りをうつような形に支えて、ヒューバートが背中を拭こうとするのを手伝った。シャーロットはハーヴェイの顔を向かい合う位置に立っていたが、ヒューバートの顔が一瞬曇ったことに驚き、咄嗟にハーヴェイの背中を覗き込んだ。]
──パパ、ハーヴの背中…。
[それ以上、なんと言って良いのか分からず。父親が傷跡について触れなかったので、促されるまま先に部屋を出た。
リビングへ戻った途端、シャーロットは*酷い疲労感に襲われた*。]
旅芸人 ボブは、酒場の看板娘 ローズマリー を投票先に選びました。
い…いや、やめて、それだけは、お願い、嫌ぁぁぁっ!!
[どれだけ体をずらそうとしたところで、男であり、ましてや筋力的に白人種より優れるらしい黒い肌持ち主であるボブの力になど抗えるはずもなく。
兄以外には許したこともない飛沫が中へとたたきつけられれば、愕然とした表情のまま、涙腺が壊れたかのように涙だけがとめどなく。
男はその表情を見て愉快そうに、さも気分が晴れたとばかりの表情を浮かべて剥ぎ取った下着を再び、わざとらしい恭しさを以って何もなかったかのように纏わせる]
[暗い地下室で下着姿で腕を上げて鎖に繋がれ、アイマスクを被せられたネリーは些細な空気の流れにも敏感になりつつあるだろうか。
その姿はまるであのアルバムに瓜二つであった。
真正面からネリーを見据えるリックの表情さえも、空気の振動で伝わってくるようだった。]
[とりあえず満足したらしい男は自分を車でブランダーの店まで送っていくと改めて金を突きつけてきたが、そんなものに元々興味はなかったし、今更ボブの顔を見ることすら嫌でそのまま無視をして店へと駆け込んで鍵をかける。
何らかの言葉を男はわめき散らしていたけれど、車はそのままどこかへと走り去ったようで。
ステラのカードが落ちていたことも、ネリーの服が落ちていたことも、双子たちの姿が見えないことも、全てを気にかけている余裕などなくて、そのまま居住部へと向かうとシャワールームに駆け込む。
服を捨てるように脱ぎ、冷たい水を頭の上からかぶっていれば足の間から伝う生暖かくて白いものの存在を認めて絶望へと叩き落された。
助けて、と声にならない声で泣きながらタイルの上へとしゃがみこむと、必死に中からボブの残滓を掻き出す作業を*始める*]
[ハーヴェイに何があったのか……。私の表情の曇りはシャーロットの目に入っていたのだろうか。
柔らかな瞳をかえす。そこに眠るだろう哀しみの記憶を掘り起こさぬよう埋め戻すかのように。]
[それにしても、あまりに色んな出来事のあった日だった。行方不明になったエリザのことを哀しむゆとりもない。
先程力づけるようにシャーロットを抱きしめた私だったが、身も心も重い憔悴感に包まれていた。]
ロティ……
[リビングにやはり倦怠に包まれたシャーロットの姿を見いだした時、その肩に手を携え共にソファーに沈み込んでいた。]
しばらく… しばらくこのままで……
[シャーロットを抱き寄せ、頭を肩にのせる。傾けた額が、彼女の頭に重なる。そっと髪を撫でながら、一時の安らぎを求め目を閉じた。]
[ヒューバートの額が触れる。父に寄り添いながら、唐突に思い出す。
──ボブ・ダンソック。
あれは、スクールバスの運転手と同じだ。
運転手と同じ──社会的に下層に位置する者の鬱屈。
母の言いつけだけでは無い。シャーロットがボブに「何かされてしまうのでは無いか」と恐怖を感じた理由は「それ」だった。
シャーロットがヘイヴン外の学校へ通う事を最終的に断念した理由に「バスの存在」があった。確かに、ヘイヴンと異なる場所へ馴染めなくてくじけそうではあったけれど、バスの存在が無ければ今頃はまだ……と思う。
運転手は二人いた。
最初の一人は、シャーロット一人になってしまう帰り道のバスの車内。ヘイヴン到着後、降車を促すために近寄って来たと思った運転手は、何の前触れも無くいきなりシャーロットの左胸をひねるように掴んだのだった。
シャーロットは思い出して無表情のまま瞬きをする。]
[最初、制服の内ポケットにサイフが入っているとでも思ったのかと考えた。見上げた運転手の目は死んだように濁っていて、シャーロットは恐怖を覚えた。車内には誰も居ない──、運転手を突き飛ばして降りた後、もしナイフで刺されていたら自分は死んでいた──と思い、無言で自らの肩を抱いた。
いきなり胸を掴まれる理由は、どう考えても何も浮かばなかった。恐怖を感じながらもそれでも学校へバスで通った。学校へ訴える事が出来たかもしれないが、報告する事で解雇されるであろうその運転手の報復が怖かった。彼の死んだような目、鬱屈してる者に恨まれる事が。
二人目運転手は、一人目と違いシャーロットに気安く話し掛けてきた。育ちの良い娘らしくシャーロットは用心しながらも何度が当たり障りの無い会話をしたはずだ。
ある日、やはり降車時。
運転手は「まだ処女なのか」「小遣いをやるから触らせてくれ」と言い始めた。「処女だ」と答えた時の男の表情よりも「金を渡せばどうにかなるように見えるのか」と思った屈辱感を覚えている。そして翌日の降車時何を思ったか運転手は、湿った妙な臭いのする液体のついた手でシャーロットの手を握ったのだから。]
[毎日送ると言い張る父親を母と共に説得し、ヘイヴンをルートに入れていなかったバスを、シャーロットの為だけに町役場の前に停車させる手続きを取ってもらった、その手間を知っていた所為で理由も無く「車で送って欲しい」と言い出す事が出来なかった。
「理由」を話す事はあり得なかった。
やはり報復も恐ろしく,父に心配を掛けるのも堪え難く、また母親に「自分が運転手を誘惑したのでは」と疑われ、軽蔑される可能性を強く考えた。
当時すでにヌードで父のモデルをする事のあった彼女を、咎めはしないものの時々そう言った目で母親が見ている事に気が付いて居たから。母を愛していたが故に嫌われたくは無かった。]
[シャーロットが「18歳」を想像しようとした時、肉体的に大人になっている事を想像出来ない理由は、また別にもあるが──。
言えない事で、元々ヘイヴン外へ出る為のステップとして、転校したにも関わらず学校へ通えなくなってしまった事が大きな原因である。学校を辞めた時の母や祖父の反応、戻ったヘイヴンの学校は平和だったが退屈で、またステラが純潔の大切さを説くたびに、運転手たちの欲望をひきつけた自分が穢れているように感じた。
何処へも行けない閉塞感。父親の元から自立する自分をイメージ出来ない苛立ち。]
──ニーナ、大丈夫かな。
[ぽつりと呟く。
災害と身近な者の死で歯車が狂い出したように感じる中、先刻のニーナの姿は<健常な日常>を示して居るように、*シャーロットには思えた*。]
─それより数時間前・アーヴァインの自宅(回想)─
[疲れ切った重い足取りでアーヴァインは自宅の玄関に向かう。
鍵を開けたところで、突然背後から肩を叩かれ、ギョッとして振り返る。そこには悪戯な笑みを浮かべるあの若者の姿があった。
驚きに飛び跳ねた心臓が、今度は違う高鳴りで激しく鼓動する。
期待しなかったと言えば嘘になる。が、これ程早く……。逸る心を抑えながら、アーヴァインは若者を家内へと誘った。]
[玄関に入ると、レインコートとあの特徴的な帽子を取り、若者は物珍しそうに室内を見回した。
特に大した家でもないのだが、とアーヴァインは思った。骨董品的な古さだけが価値の家だ。名士であるバンクロフト家には遠く及ばないが、古さと言う点でも広さと言う点でも申し分ない。しかし隆盛を極めていた大昔ならともかく、アーヴァイン一人だけの住まいには広過ぎた。
普段であれば客は広間に通す。ホームパーティーを開く時もそこで行う。続き部屋と二間開ければ、大人数も平気で入る。
しかし、アーヴァインは若者をそこではなく、2階のコレクションルームに直接案内することにした。
彼であればきっと理解し受け入れてくれるに違いない……あのようなキスの後に、こうして尋ねてきてくれた彼ならば。
何より彼はこの町の住民ではない。恐れる必要は無いのだ。]
[若者はアーヴァインに素直に随って、2階に上がった。
大きな期待と不安を胸に、アーヴァインはコレクションルームの鍵を開け、彼を中に導いた。]
[そこはエドワード王朝時代の家具が置かれた、趣味の良い小部屋……であった筈の部屋だった。
「だった」というのは、その部屋の壁面いっぱいに余すところ無く、額に入った写真が飾ってあったからだ。どれほどあるのか、数えるのも容易でない枚数である。
それらは全て、若い男性のヌード写真、なのだった。]
[入って右手の壁には、思い思いのポーズをとる、様々な扮装をしたモデルたち。
ギリシア神話のアポロを模しているのか、月桂冠を被って作り物の竪琴を抱えて夢想に耽る表情を見せるブロンドの青年。
長椅子に寝そべって、巨大な羽根扇で半身を隠す少年の目許はマスカラでくっきりと縁取られている。脚を包むストッキングは、白っぽいガーターベルトで吊られていた。
残りの壁面を覆っているのは、もっと露骨に扇情的な写真だった。
筋肉を隆起させて、雄の威容を見せ付ける逞しい青年。
いまだあどけなさの残る笑顔で、脚を大きく開いて、似つかわしくない長大さを誇る自らの性器に指を添えて見せる青年。
けだるげにうつ伏せた少年の、丸みを帯びた尻と滑らかな背中が描く優美な曲線。
こちら側に向けた尻を高く掲げて、小さな窄まりも含めた秘所を全て曝け出して、振り向く横顔。
それらは時に、顔が写らないように手で隠したり、撮影者から背けていたり、首から下だけを写していたりもした。
さらに、壁の一角には、クローズアップした性器や肛門だけの写真のコーナーもある。]
[それら壁面を覆い尽くす写真の全てが、見るもののエロティックな夢想を掻き立てるためだけに飾られていた。
これは彼、アーヴァインの、故郷ヘイヴンでは決して叶えることの出来ない性夢のコレクションなのだ。]
[アーヴァインは、見入ったように写真の群の前に無言で立ち尽くす若者の表情を窺った。怖れがアーヴァインの目に浮かんでいた。]
[だがその怖れは杞憂だったようだ。
アーヴァインに振り向いて破顔した若者は、「こういう写真が撮りたいのか?」と尋ねてきた。
虚を突かれると共に安堵したアーヴァインは、慌てて頷いた。
若者は、置かれた寝椅子の前に自分から立ち、丸めたレインコートを部屋の隅に投げると、カウボーイハットを被った。腰に手をあて、親しみの混じった淫猥な笑みをアーヴァインに向けた。
機材を用意するから、と言い置いて、急いで準備を始めた。
撮影が始まった。]
[若者はたった一人の観客を前に、ストリップティーズを始めた。
最初はシャツ、次はジーンズというように、一枚一枚脱ぎ捨てるたびに、恥じらいも躊躇いも無く扇情的なポーズを取る。腰をグラインドさせ、蠱惑的な微笑を向ける。
遂に身につけているものはカウボーイハットとブーツだけ、という状態になった。寝椅子に腰掛け、脚を大きく広げる。偉容を備えた雄のしるしが、黒っぽい茶の茂みのなかから完全に勃ち上がっている。それを片手で掴むと、軽く弄り始めた。
うっすらと開いた唇。切なげに細められた目。必要以上に誇張された快感の表情。
アーヴァインは息を呑んだ。もうこれ以上、シャッターを押し続けることなど出来よう筈も無かった。
カメラをテーブルに置き、ふらふらと長椅子に歩み寄った。若者の足下に跪き、震える手でその膝に手を乗せると、脚の間に顔を近付ける。てらてらと濡れて輝く性器の先端に、そっと口接けた。]
[若者は「これが欲しいのか?」と尋ねた。細められた瞳に在るのは、圧倒的な力を持ったものの優越感の嗤い。
アーヴァインは無言で頷いた。自らの性的志向を明らかにする行為は、この町では決してしないという、恐怖に裏打ちされた固い決意と自制心が完全に崩れてしまったのが、自分でも分かった。どの道もう、引き返せはしない。
若者はアーヴァインを擦り切れた絨毯を敷いた床の上に押し倒した。黙って口の端に歪んだ嗤いを浮かべ、その衣服を剥ぎ取った。
卑語を交えた侮蔑的な言葉の嵐と手荒い愛撫の末に、若者は彼の体内にその滾った欲望を捻じ込み、犯し始めた。
若者は、アーヴァインが常に夢想し続けた夢と同じように、いやそれ以上に完璧に彼の願望を満たした。]
今一度問ウ。
助ケテ欲シイカ?
助ケガ欲シケレバ叫べ。
オマエノ叫ビガ私ノ望ム強サデアレバ、オマエヲ助ケヨウ。
[その「声」は随分としっかりした、意味の分かるものに変わっていた。]
う…ウ……
[今は何時?
助けが来るの?
こんな姿で助けが来たら?
正常な思考の私なら、藁をも掴む思いで発していたに違いない。]
[だが、今の状況は全てが全て、否定するものであるのか?
いくら拒否しても、生まれ初めている内なる衝動は否定できないものなのか?
私はもう、進む道を見つけてしまったのか?]
タ…たすけ…て…
[私は小さく叫んだ。しかしそれはただ単純に最低限の叫びであり、メッセージ性は全く込められておらず、心の中に迷いが生じれば生じるほどそれは小さくなり、やがて消えていった。]
――酒場 アンゼリカ――
[息を切らして訪れた酒場のドアを、わたしはいつものようにノックはせず全力で開け放ち、中に居るローズへと張り上げるような声で呼びかけた。]
ローズ!ローズ!出てきて。大変なの!わたしの大切な物が…カードケースが…。
[よほど動揺していたのかも知れない。普段ならカードケース一つ如きにこれほど焦ったりはしない。最悪無くなってしまったら再発行してもらえばいい。理由なんてこの災害の大きさの前には全てひれ伏してしまう。咎められる理由なんて無い]
[しかしわたしは冷静さを失っていた。可愛い教え子の変わり果てた姿。嗚呼あれ程純潔を重んじ、好奇心や単なる欲望で身を穢してはならないと言い続けて来たのに。私の指導力不足?それとも――自身の内面が滲み出ていた結果…?]
あっ…ローズ…ごめんなさい、呼び出したりして…。あのね、わたしのカードケース…見なかったかしら?茶色の…これ位のサイズなんだけど…。
[少し気だるそうに、ため息を吐きながら顔を出したローズにわたしは、縋るような表情で指でケースの大きさを示し、問い掛けへと変えた。必要以上に表情を盗み見てしまったのは――…]
ロー…ズ…?
[わたしはローズの中に、何処か思い詰めたような、しかし明らかに何かに囚われている女特有の雰囲気を見出してしまい、胸が甘く痺れるような感覚に陥った。]
[咲き零れる花びらの先端から、とろりと零れる誘惑の吐息。自分の性を知りそれを逆手にとって艶麗に変える様は、きっと無意識の内にローズの中で行われている嬌態の一つだろう。世間体にも囚われない自由であるが為に得られた術。それは決して純潔など馬鹿らしいものを崇拝していては手に入れることなど出来ない。]
[わたしは教壇に立つ度。純真無垢な生徒達に潔癖と純潔の尊さを説く度、子孫繁栄に繋がる行為との矛盾した関係性に反吐が出そうになる。
「子供を作るには唇を重ね、胸を弄り、舌と指でお互いの性器を舐めあい興奮を高め、潤滑油となる体液を零しあいながら激しく体内を突き上げる事だ」と、真実を声高々に言えたなら。どれ程楽になれるだろうかと常に思う。そして教壇に立つわたしだって、男の性器を弄り、女の胸に舌を這わせて居るのだと言えたなら――]
[それに子供達だって本能で悟っているだろう。自分達がキャベツ畑の中凍死寸前で発見された事も、コウノトリによって脳内貧血を起しながら母の手に抱かれた覚えも無いことを。ましてや処女懐妊など夢のまた夢。
しかし、まれに疑う子も居るだろう。そんなことは嘘だと言い張る子も居るかも知れない。でもわたしは微笑を湛えて言い放ってあげるの。
「だったら何故お父様とお母様、男女が対になって夫婦として認められているの?」
「今度お父様とお母様の寝室を覗いてらっしゃいな?きっと薄っぺらなゴム風船が、しわくちゃの紙と共に見つかるのだから」と――]
う…ぅ…
…に…ぃ…さ……ん…
にい…さ…
[シーツを握り締める手は白く、血管が浮き出ていた。
額には酷い寝汗が浮かび、うわ言は途切れ途切れに。
巡る夢─
鞭を振るう父の恐ろしい形相
熱湯を浴びせた母のさげずんだ目
そして─]
何で…なん…で…
[ヘイヴンの町に来て知り合ったローズは、わたしの心の代弁者のようにいつも思う。周囲の偏見な眼差しを一蹴し、自由気ままに男を誘う。それはありとあらゆる拘束で縛り上げているわたしの憧れでもあり…嫉妬の対象だった。]
[彼女を愛しく思う反面憎く思い、快楽の淵で覚めない夢をお互いに与え続け惑溺してしまいたいと願う反面、地獄の底まで引き摺り落とし二度と這い上がって来れない様に押さえつけてしまいたいと求めてしまう。
でもそれは決して表には出してはいけない感情だと、きつく鍵を掛けたパンドラの箱――]
ローズ…?どう…したの?何かあった?
[わたしは心配顔を装って、彼女に近付く]
[するり――]
[左腕の結束は解け――]
[はらり――]
[床へと向かって螺旋を描き落ちていく。同時に罪に裏付けされた欲望が目覚めていく]
誰か…誰…か…
[何かを求めるように手を伸ばす]
[ビキ、パキ…ン]
[罅はいり、欠けた部分は勢いを増してその範囲を広げていく]
── 傷の熱が頭に陽炎を落とす ──
[あれは…いつだったか…。
兄に抱かれたり、兄を抱かされたり。
もう精神的にも身体的にもボロボロだった。
夢の中で俺は泣きながら兄の上に跨り、首を絞めていた。兄さんは笑っていた。
『死んでくれよ、ユーイン。お前が卑下し続けた、たった一人の弟の最初で最後の頼みなんだよ…!』
くすくす笑うユーイン。
あの顔で笑いかけられて、胸騒がぬ少女などいなかっただろう。それでも弟から見れば吐き気がするほど嫌悪を覚えたあの顔。
『いいよ、死んでも。俺はハーヴの願いをかなえあげる。
だからハーヴも俺の願い…叶えてくれるよ…ね?』
約束…そう、約束。
忌み嫌うこの土地に、何故戻ってくるのか。
何故忘れたい兄をいつまでも忘れられないのか]
[『ずっと俺だけを愛してて?
俺が死んでも、ハーヴェイが死んでも』
『いいよ、ユーインだけ愛しててあげる。
だから、俺を俺だけにして。
この世からいなくなって。』
結局俺はその時ユーインを殺せなかった。
だから頼んだ。死んでくれと。
ユーインは自分で遺書を書き、俺だけが知っている町外れの林の中で死んでいた。
ナイフを胸に突き立てて。
発見された時は、腹を食い破られ、内臓を引きずり出されてぐちゃぐちゃにされた死体が転がっていた。
きっと林の中の獣が食ったのだろうと推定され、近くに落ちていたナイフから、刺殺と『推測』されたのだ]
[両親はユーインの棺に取り縋って泣いていた。
最愛の息子を失った悲しみだろうか。
それともあとはこの出来損ないの息子しか残っていないという絶望感だろうか。
俺は後ろからそれを見て笑った。両親のそばではじめて笑った。
自分から手を下さずに、やっと開放されたのだ。
そして同時に、両親に死ぬ以上の悲しさを与えてやった。
とてつもない優越感と達成感で、噴出しそうだった。
それなのに、ユーインは決して俺を解放してくれなかったのだ]
[僅かな下着だけを残し、裸よりも扇情的に剥かれ、腕を拘束されて視界までも塞がれているネリーは、か細く声を漏らしながら不自由な躯をよじらせていた。
どうしてこのような事になってしまったのだろう。
決して私が望んだ事ではない。決して――]
ウェンディ――リック――
[ネリーは一人ごちる。]
[何とかここを抜け出さねば。出来る事なら誰にも知られずにここから脱出したい。
お店には破れた私の服もあるはずだ。あれに気づけば私の異変を察知してくれる人もいるかもしれないけれど。
ネリーは腕に力を込める。]
く…ん…んん…っ。
[カチャカチャと鎖や金属の拘束具が音を鳴らす。だがそれは矢張り、意味のない裸踊りに終わってしまうのだった。
かえってただ腕を痛めるだけに終わってしまう]
はあ…はあ…
あの時と…同じだわ……何もかも。
……っっっ。
[ネリーは自分のなくなった身体の一部の心配をする。
手は動かせないので、ある場所を動かして、その場所を確かめる。
いつもと同じように何事もなく、真実を隠さんとばかりに、
それはネリーに張り付いていた。]
[これだけはどうしても知られたくないのだ。なくなった身体は怒りに震えるノーマンによるものなのだから。]
…はぅ。
[ネリーは大きく息を吐き、再び*意識が濁っていく*]
――酒場――
大丈夫?なんか…顔色が悪いみたいよ…?ローズ…。
[わたしは彼女を心配する素振りを見せながらゆっくりと距離を縮め、悲しそうな表情に裏付けされた微笑を湛える。
ここに訪れた時の慌て振りは微塵も感じさせず。
まるで獲物を捕らえる蛇のように――]
[そう、私の左腕に刻まれた第三の罪の姿は蛇。赤い眼を光らせ、今か今かと獲物の隙を狙っている。]
もしかして…ギルバートさんと…何か有った――?
[解けた真白の包帯は緩く床に蹲る。私の身体に刻まれた蛇はうねる様に身を捩り腕に絡みせせら笑っている。
普段は前に出る事のない左手が、ローズに向かって差し出される。羽織る薄手のカーディガンの袖口に隠された先割れ舌の生々しい赤が、彼女には見えただろうか――]
─アーヴァインの家・回想─
[ローズマリーを抱いたのと同じ熱心さでアーヴァインを犯しながら、頭の中では冷徹な思考が経巡っていた。
汗や生殖液の臭いに混じって、アーヴァインの血脈や肉からゆっくりと甘美な「芳香」が漂い始めている。それは、さながら熟れた果実のように彼の食欲を刺激した。
『これもまた、』
忌み子なのであろう。血が濃過ぎたのだ。
「先祖帰り」を起こせるほどはその血は強くなく、かと言ってギルバートの与える血の呪縛を免れられるほどには薄まってはおらず。沸き立つ血の狂気に抗えずに破滅していかざるを得ない「血族」。
自らが生み出した狂気の子等を間引くのも彼の役目だった。]
流れ者 ギルバートは、旅芸人 ボブ を投票先に選びました。
流れ者 ギルバートは、修道女 ステラ を能力(襲う)の対象に選びました。
[『愛してるよ、ハーヴ』
『俺も…愛してる…』
兄が自殺の前日、二人でキスと共に交わした言葉。
忘れない。忘れられない。
ずっとユーインを『愛している』ことが二人の約束。
忘れたら俺はユーインを愛していることにならない。
忘れたい。けれども約束は違えられない。
どうしようもない矛盾は頭の中に徐々に歪を発生させた─]
[身体の下で吠声を発して絶頂に達したアーヴァインが、大量の精液をぶちまけた後、肩を波打たせてぐったりと横たわった。
それを見下ろしながら、彼は収穫の時が来たことを知った。
うつ伏せのアーヴァインの身体を乱暴にひっくり返し、その上に馬乗りになる。
その瞳は黄金に輝いて、先の二人とのセックスではついぞ見せなかった陶酔のいろがさざめいて湧き上がる。
ハ、と切ない吐息を洩らし、堪え切れないというように口腔から迫り出した鋭い犬歯をアーヴァインの胸に宛がった。
──狩人の鮮血の宴がはじまった。]
[ギルバートがでかけて行った後、ローズマリーは自己嫌悪の念に苛まれていた。
どうしてあんなことを…。
ギルバートはあきれただろう、出て行くときもなにかよそよそしい感じがした。
ギルバートが出掛けていく姿に感じた嫉妬とまたそれと裏腹の安堵。
それはいったいどういうものなのだろうか。
ギルバートに対する独占欲の蛇は彼が傍にいなければそれはローズマリーの中でとぐろを巻くことはなかった]
[物思いに囚われて、ローズマリーはステラが店に
戻ったことに気がついていなかった。
話しかけられて、ローズマリーはぼーっとした表情でステラを見上げた]
う…ん…
[眠っていた筈なのに逆に疲れているような。眠る程疲労するのはどうしてだろうか。
見慣れない天井、暫し後ここがバンクロフトの客間と知る]
俺…あの後……痛…っ
[打ち付けた頭には包帯が巻かれている。
まだ鈍い痛みが残っていた。
よろりとベッドから身を起こすと、自分が着替えていることに気が付く。自身の服はサイドテーブルに]
服…まさか…見られ…た?
[ぎゅっとパジャマの胸元を握る]
酒場の看板娘 ローズマリーは、旅芸人 ボブ を投票先に選びました。
[虚ろ気で視線を上げるローズの姿に、わたしは切なさを帯びた感情に襲われ、胸が締め付けられそうに苦しくなる。
嗚呼だから恐れていたのに…。
男の人に依存し過ぎる彼女が好色そうな男に現を抜かすことは――]
嗚呼…ローズ…なんて可哀想な人…
[わたしは精一杯の情を込めて彼女の名を呼んだ。
そして伸ばした指先を彼女の頬に滑らせて――]
[ステラに可哀相と言われ困惑した表情になり]
…ステラ?
[ステラに触れられた頬にいつもとは違うなにかを感じてもう一度彼女の名前を呼んだ]
酒場の看板娘 ローズマリーは、牧師 ルーサー を投票先に選びました。
なぁに?ローズ…。
[わたしは返事を返しながらも、頬に伸ばした手の動きを止める事無く滑らせて――
彼女をもう一度見つめる。強い強い視線で。
そしてふいに逸らすと]
男なんて愛さなければ…こんな悲しむ事も無いのに――
[彼女の赤く艶めく唇を指でなぞり――]
[そっと自分の唇を添えた。]
[男なんて愛さなければ…本当にそのとおりなのかもしれないけれど]
ステラ、それは…。
[ローズマリーが言いかけると、つとステラが唇へと指を伸ばしその形をたどる。
ローズマリーの言葉は宙に浮き、ステラに重ねられた唇に、驚きに目を見開いた]
それは…ってどういう意味なのかしら…。
[てっきり拒まれると、突き放されると思っていた身体はそのままで。わたしは唇の柔らかさを堪能するだけの、軽いキスを施して身を離し。未だ見開いた瞳の彼女に向かって、くすくすと微笑みかけた。]
─アーヴァインの家・回想─
[──身支度を調えた若者は、テーブルの上のカメラからフィルムを抜き取った。パトローネから引き出して全部感光させ、ライターで火をつける。それを、床にばら撒いた写真──アーヴァインがアルバムに入れていたコレクション──に放り投げた。
さらに写真を二三枚、同様に火をつけて追加すると、写真の山に燃え移り、ジリジリと炎を大きくしていった。
狩人は立ち去り、後には無残に食い荒らされた獲物の骸が残った。]
[ローズマリーはステラに微笑みかけられて余計に困惑した。
口づけは軽く、友人同士としてのものといえばそれらしくもあったから。
これは同情からなのだろうか?]
…それは…。
[ステラに問われたことへの返答に詰まる。
一度失敗している身にとって、ステラの言葉は鉛よりも重く心の中に沈んでいく]
――――――
「いやだ。バート、どうしたの? ……ちょっ ちょっと、やめて。……ん…」
荒々しい口吻。エリザの、息苦しさに僅かに開いた唇を舌先が割る。差し入れられた舌は、彼女の口腔を味わい尽くすように貪欲に貪り続けた。
「んっ ……ふぁっ。いや……」
執拗に求める唇を避けるように、顔が傾ぐ。荒い息が弾み、滲んだ赤い口紅の縁から唾液が零れ落ちた。
それは、大気が気怠く澱んだ蒸し暑い夏の昼下がりのことだ。
母屋の事務室の扉はノックされることもなく開かれた。部屋に駆け込むように押し入った男の姿がそこにはあった。
私が後ろ手に鍵をかけた時、常ならぬ気配を感じたのだろう。エリザの目は見開き、表情は固まっていた。そこにエリザしか居ないことを見て取った私はデスクの前で帳簿を広げていた彼女を引き寄せるように立たせ、抱きすくめていた。
「ちょっと、だめよ。急に、こんな…… んぁっ ……く…」
唾液を啜り、舌を舐め取る。口腔を犯しながら、指は急くようにきちんとアイロンが当てられエッジの立ったブラウスのボタンを外していく。エリザは抗い、私の手に指をかける。だが、その手が止まる気配はない。最後まで外す手間ももどかしく、下のボタンを引きちぎる。
左手は彼女の太股を抱えあげ、私の腰が押しつけられた彼女の臀部をそのままデスクの上に乗り上げさせた。
「やめて、お願い。今、仕事中なんだから。」
静止の言葉は何の力も持たない。ブラウスがはだけられ、華美でない程度にシンプルな装飾の入ったレースのベージュ色のブラジャーと、薄く骨の浮いた細い肩がむき出しになる。ブラジャーは押し上げられ、やや薄い乳房が震えながら零れ落ちた。
私は乳房にむしゃぶりつくと乳首に唇を滑らせてゆく。次第に硬くなり、しこりとなった果実を口の中に吸い込むと舌先で弄び、唇で軽く噛んだ。
「あぁ…… …いや……」
だが、スカートに手をかけると彼女の表情は一変した。
「バート、これ以上はダメよ。さっき電話があって、副主任がもうじき帳簿を持って報告に来るの」
─雑貨屋地下室─
[アイマスクをつけられているので、その表情は容易には窺う事はできない。だが視界を塞がれている事により、皮膚感覚をはじめあらゆる感覚、思考が敏感になる。]
何故、何故こんな事をするのですか、旦那様──
いつもの私なら、当然のように静止に従っただろう。いや、そもそも、このように乱暴に彼女を求めたことはほとんどなかった。この時の私は、完全に理性と自制を喪い、抑えきれぬ獣欲の猛りに突き動かされていた。
「副主任は、ドアの向こうで待たせておけばいいさ」
タイトスカートを捲り上げると、下腹部はダークブラウンのパンティストッキングで覆われていた。私はストッキングを脱がす手間を惜しむように、やや厚みのある又布に手をかける。
「いやぁ!」
彼女の羞恥に彩られた叫びと、ナイロンの裂ける音はほぼ同時だった。シルクのショーツの隙間から滑り込んだ指先が触れた秘所は、今までになく熱く濡れそぼっていた。その事実に、背筋を一筋の戦慄が過ぎ去った。それまでの性交渉の中で、彼女の体から強い性的な反応を受け取ることはほとんどと言っていいくらいなかったからだ。
脳を溶かすほどの酷熱と、微かに黴の薫りがする澱んだ屋敷の空気。天井のファンは、永劫に巡り続ける夢の中のメリーゴーラウンドのように、ゆったりと眠りを誘う回転を続けていた。
目の前のエリザや今という時から現実感が色褪せていく。
[言葉に詰るローズを見る度、わたしは彼女に対して愛しさとそれと等しく可虐心を煽られ、気が触れそうになる。
嗚呼、後でどんな罰を受けてもいい。今この瞬間、彼女を味わってしまいたい…。]
可愛いローズ…キスの意味も悟れないなんて…なんて愛らしい…。
身の純潔を重んじるわたしが、幾らあなたがかわいそうだからといって…
[頬に当てていた左手を滑らせる。顎を伝って首筋へ――]
同情で唇を寄せると思って…?
[右手で彼女の豊かな髪を掬い取り、指に絡めて取り払い。そして再び口付けを。
今度はその意味合いがいやでも解ってしまう程の深い味わいを――]
「ひぁっ! あぁあああぁああーっ」
気がつけば、ただ暴力的な淫欲に突き動かされるままに、荒ぶる屹立を衝き入れていた。
左手はショーツを脇にずらしたまま、親指は陰核をこねくり回す。右手は彼女の膝を抱え上げ、突き入れられる哮りが奥深くまで届くように姿勢を導いた。
「はっ ひぃっ …やぁ…… んぁっ!」
腰を打ち付ける音が周囲に響き、デスクはガタガタと揺れた。ペン立ては転げ落ち、書類入れの抽斗は抽送を繰り返すたびに浮き上がる。
ストロークを短く、早く、時に深く力強く。ブックエンドで抑えられていた書類入れやファイルがデスクの縁から落ちると床に広がった。
「うくっ! んんぁ やっ! バート、こんなの…」
宙を掻くエリザの手が、私の髪を掴む。
不意に、事務室の扉の磨りガラスの前を人影がよぎった。それが副主任かあるいは他の誰かであろうと、気にする余裕はなかった。私は情欲の帰結に向けて、ひた走っていた。
「ぃやあぁああ!!」
喉を仰け反らせたエリザは、猛る熱の根源を咥え込んでキリキリと締め上げながら膣襞を痙攣させ――私は熱情のすべてを彼女の胎内に迸らせていた。
――――
―回想―
「あなたは、私をレイプしたのよ」
[それから数日、エリザは私と目を合わせず、ろくに口を利こうとはしなかった。
詫びる私をまっすぐに見つめ、最初に口を開いて出た言葉は厳しいものだった。冷ややかな眼差しは、きっぱりと私を遠ざけていた。
その姿勢を見ていると、あの昼下がり、彼女の肉体から受け取った性的な高揚の一片たりとも真実ではなかったように思えてくる。
あの日の出来事は自分自身の淫欲が見せた白日夢だったのではないか。現実感は遥か彼岸に遠のき、今はその感触と手応えをうまく感じ取れずにいた。]
「バート。私は普通なのがいいの。もう、あなたのそんなわけのわからないものに振り回されたくないの。わかるでしょう?」
[いや、よくわからない、と私は云った。普通って、どういうのだ?]
「普通は普通よ。週に一日とか二日、普通にセックスする。当たり前で普通の、安らいだ生活をしたいの。」
[それが普通なのか、と私は小首をかしげる。]
「あなたは、制作に入ったら半月から一ヶ月くらい私を放ったらかしで、かと思えば一日に何時間もつきあわされるでしょう?」
[制作中は集中したいんだよ、と私はできるだけ我慢強く説明した。しかし、彼女の意志は変わらないようだった。
とにかく、と彼女は断固として告げる。二つに一つ。“普通”の生活をするか、そうでなければもうセックスはしない。
そうして、彼女との性交渉は遠のいた。]
―アトリエ・リビング―
[シャーロットを抱き寄せ、得られた安らぎの中で、意識せぬままに同時に陽炎のような情欲の残滓を思い出していたのはひどく罪深いことのように思えた。
あれは、最初にシャーロットに触れた日のことだったか――]
グランマ?
[目を開けると、リビングから続く廊下の向こうに祖母の姿が見えた。]
グランマはあんまり、こっちに来ないようにって言ってあっただろう?
こっちは段差があって危ないからね。
[そっと立ち上がり、祖母に近寄る。肩を支え、母屋に導こうとした私の手をぎゅっと握り、祖母は目をまん丸に見開いて言った。]
「黒牛だよ」
[え? と私は怪訝な顔で聞き返す。]
「黒牛がまた、暴れてるよ。角を切っておかないから、人を突き刺すんだよ」
[私は祖母に、うちで飼っている牛は皆早いうちに徐角するのだと説明した。しかし、祖母の表情の曇りは晴れない。]
わかった、わかった。暴れている牛を見つけたら、保健所に連絡しとくよ。
[そう言って母屋に彼女を連れていった。]
やめて下さい…や、むぐ。
[ノーマンは激しい二面性を持つ男だった。四肢を拘束され、首にも冷たい金属が巻かれ、口元にも得体の知れない道具を取り付けられる。
扇情的な姿、激しい打擲、そしてクレヴァスを貫かれる屈辱。]
や…あああッ、はっ、うっ、あぁっ!
[幾度も幾度も犯され、終わらない悪夢。ネリーは現実と区別がつかなくなってきていた。]
はぁうっ……!! あ……。
[ネリーは気を失っていた。5年前の姿と重なる。
瞳があらわであれば、涙が流れているだろうか。]
[ナサニエルの行動に呆れながら、ギルバートに答える。]
それでは、ブレイクさん、コイツはキミに任せてもよいかな。
もし、彼が何か口走っても、市販役であろうと薬物だけは与えないようにしてくれ。彼の内臓はハッキリ言ってこの年の若者に似つかわしくないほどボロボロなんだ。
何かあれば私の家まで連絡してくれて構わない。
[ルーサーは電話が通じなくなっていることなど知らずに自分の家の電話番号とナサニエルの家までの簡単な地図を手帳の余白に記すと、ちぎってギルバートに手渡した。]
本当に車で送っていかなくてもいいかね。この雨だ。彼を引きずってゆくと骨が折れるよ。
[ステラの言葉が徐々に頭の芯に染みてくる。
−同情で唇を寄せると思って…?−
頬にかかった指先が首筋に到達するころ、その動きが情動に根ざしたものだということをローズマリーは悟った]
『ステラ、どうして…?』
[口に出す間もなくステラに唇を奪われる。
閉ざした唇をたどるステラの舌先にローズマリーは唇を開いた]
[ステラがなぜわたしを求めるのか?
今までローズマリーはステラにはそのような欲求はないものと思っていた。それにもかかわらず、自分を求めるステラに困惑しながらも、それを受け入れることを否とは感じていなかった]
見られた…見られた…見られ…
[手はガチガチと振るえ、顔はまた蒼くなる。
出て行こうか、いや、今すぐにでも出て行きたい。
でもそうなるときっと二度とここには来れなくなる。
あまりの不安に青緑色に光ピアスに思わず触れた]
[次は拒まれるかと思っていたローズの唇は、あっさりとわたしの進入を許した。
以外だった。彼女はわたしに対して性的欲求がない、穢れのないものとして認識していたはず。言うなれば、穢れている事を悟られた瞬間、ローズとの友愛は脆く崩れ去るとばかり思っていたのに…]
『油断は出来ないわ…。あの時のようにいつ裏切られるか――』
『嗚呼でも今は彼女の温かい舌を、口内を…味わいつくしてしまいたいの…』
[相反する心の葛藤。でもわたしは欲望には勝てない。刻まれた自戒が目を覚ます。]
……っ…ロー…ズ…んっ…ずっと…こういうことを…したかった…
[満たされる欲望にわたしは歓喜のため息を零しながら、角度を変えて彼女を味わいつくそうとする。右手は首筋をささえて。罪の左手は豊かな胸の高丘を服の上からなぞって――]
[ガタガタと震えている所に響くノックの音
マーティンか?
あぁ、あの執事なら口も堅い、着替えさせてくれたのが彼だったら…
息を飲んでドアを見つめる。
誰が入ってくるのか。もしヒューバートだったら…]
ど…うぞ…
―アトリエ・客室―
[ノックをすると、返答が帰ってきた。彼は意識が戻っているようだった。]
入るよ?
[声をかけ、客室に足を踏み入れた。]
さっきは倒れたから、ビックリしたよ。
体にひどい変調はあるかい?
[車の窓越しにギルバートへ]
ナサニエルは、多分、殺しても死なないだろうから、寝かせておけば大丈夫だろう。
ただ、この雨だ、道には気をつけて。それじゃね。
[車はゆっくりと走り去っていった。]
[入ってきたのは案の定ヒューバートだった。
あぁ、彼には知られたくなかった。願わくば、彼は見ていないように…。
平静を保とうと、何とか表情を作り]
先生…
本当にすみません…逆にご迷惑を…。
おかげさまで痛みなどは。
先生は?何かお怪我などは?
それと…シャロの腕は大丈夫でしたか?
死なない、ねえ……
[やはり呆れ顔のままで溜息を一つ。]
とりあえずこっちの方でいいんかね?
教えてくれないと家に着けないよ。
私は怪我などはしてないよ。
[ハーヴェイの気遣いに微笑みを返す]
ロティの怪我は血が出た割には酷くないんだが、犬の咬傷だからね。念のため、ラング先生に看てもらおうと思ってるんだ。
ハーヴ、君も頭を打ったのだし、看てもらった方がいいよ。倒れたのが栄養失調や疲労が理由ならまだいいが、頭はなにがあるかわからないから、念には念を入れておいた方がいい。
[ステラの言葉がローズマリーの欲望に火をつける。
−ずっと…こういうことを…したかった−
聖女の顔をしていた彼女。彼女の奥底をわかっていなかったのは自分なのだと、ローズマリーは思う。どちらが本当の顔なのか。どちらも本当の顔なのか。
欲望に屈したステラにより、近いものを感じ、ローズマリーは胸が苦しくなるのを感じ、積極的に舌をからませ、ステラを抱きしめた]
[ローズマリーは服の上から這わされる手に思わず、ステラから唇を離し快楽の吐息をもらした]
はぁ…ステラ…
[部屋に戻ったソフィーは身体を休める為すぐにローズマリーのベッドに横になったが、何故かいつまで経っても眠気は訪れなかった。]
……駄目ね。
寝れば良くなると思うのだけど──。
[何か薬を貰って来た方がいいかもしれない。
そう判断し、重い身体を起こして部屋を出た。]
ラング先生…あぁ、ルーサーさんですね。
俺は…医者はいいです。本当に、大丈夫ですから。
[遠慮がちに申し出を断る。
どうしても行かなければならないのなら一人で行った方がまだましだ。
背中を見られたくはない。それだけが今最優先で守らなければいけないことだったが]
でもルーサーさんの所には同行させてもらえると嬉しいです。
あちらとは前にも色々とお世話になってるんで…ご挨拶だけでも。
看てもらった方がいいんだけどな……
[私は少々彼の疵を案じる眼差しを向けたが、言葉に籠もる意志を汲んで頷いた。]
じゃあ、着替えて準備ができたら声をかけてくれ。
クローゼットに、真新しい服を用意してあるから、そっちに着替えてくれてもいい。
[そう言い残して、部屋の扉を再び閉じた]
投票を委任します。
村長の娘 シャーロットは、美術商 ヒューバート に投票を委任しました。
[強い引力を持って深く引き摺り込まれた口内。首筋に回された腕に力が入る。密着する躰。それはローズの誘いによって。]
[ローズとの口付けは思ったとおり、いいえそれ以上の悦びをわたしに与えてくれた。キスだけで達しそう。そう言っていたのはさぁどの時の相手だったかしら…。]
――なぁに?ローズ…。
[淫楽の滲んだため息を濡れた唇から零すローズに、わたしは邪気のない笑みを浮かべて答える。
嗚呼くぐもる声で交わされる言葉は、何故こんなにも秘めやかな色を湛えるのだろう。胸元を弄る手を休める事無く、潤んだ彼女の瞳を見つめた。体内から熱い蜜が流れ出ていくのを感じる。彼女もこのスカートの中、同じ思いをしてくれたならと、願わずにはいられない。]
[力の抜けた男の身体は常人であればそれなりに重いものなのだろうが、彼にとってはさほどの苦役でもなかった。むしろ、あまりに軽々と運ばないように注意しなければならなかった。]
[ルーサー医師は薬物がどうのこうのと言っていたが、確かに男から漂う雰囲気は不健康なにおいがする。]
冒険家 ナサニエルは、新米記者 ソフィー を投票先に選びました。
[この酒場は通常の会話程度なら2階まで届く事の無い造りをしていたが、それでも階段の中程まで来ると、ぼそぼそとだが酒場で交わされる会話の断片が聞こえて来る。
微かに聞こえて来た人の話し声から、店にローズ以外の人間が居る事に気付いたソフィーは、バスローブ姿で出て行っても構わない相手かどうかを確かめる為、1階まで数歩を残した所で立ち止まり、聞き耳を立てた。]
―アトリエ・リビング―
[クローゼットからネイビーのブレザーを取り羽織る。なんとはなしに自分用に作ったホーンブックの革紐を弄びながら、ハーヴェイが出てくるのを待った。
彼のあの傷痕にはどのような理由があるのだろう。
気にはかかることではあったが、彼の眼差しはその問いを拒絶しそうな気がした。
ほぅ、と小さな溜息をつく。]
流れ者 ギルバートは、双子 リック を能力(襲う)の対象に選びました。
流れ者 ギルバートは、修道女 ステラ を投票先に選びました。
[ギルバートに抱えられながら、男はぼんやりとした目のまま引き摺られている。]
[酩酊状態の彼の脳内に、あるひとつのヴィジョンが浮かんでくる。
楽園、花園。2羽の蜂鳥がくるくると輪を描いて、青い青い空を飛ぶ。
次々とやってくる、つやつやとした筋肉質の美少年たち。柔らかな布を纏い、視線をそっと流す。また、屈強な男たちも。その肉体を誇るように、彼らは湖のほとりに立っている。]
[その中央には、茶色い癖毛の男。葡萄酒を口に運びながら、彼をとりまく美しい男たちの身体に触れ、その質感を愉しんでいるのだ――]
[まだ陽の高い時分。
酒を求めてやって来た客でない事は容易に推測出来たが、
漏れ聞こえる篭った声からでは誰かを特定するには至らない。]
──ふぅ。
覗きは趣味ではないのだけど。
[しかし寝付けぬままベッドを占領していても迷惑なだけ。
苦笑混じりに軽く嘆息し、
酒場内の様子を覗ける位置まで足音を忍ばせて移動した。]
──ルーサーの元へ行くための車中(移動中)──
…ハーヴ。
もし、頭を打っていて、自分でも知らない間に死んじゃったりしたらどうするのよ?
頭を傷を見てもらうのに、何も注射されたり、歯医者みたいに容赦無くドリルで無防備な場所(つまり口の中)をガリガリ削られたりなんてしないのに。
念のため、ほんの少しだけ診察を受けたらいいじゃないの。
こんな時に挨拶だけなんて…遠慮しすぎよ。
[シャーロットはハーヴェイが心配な所為か、自分の事は棚に上げ、さっきからブツブツと同じ言葉を繰り返している。
ちょうど視界に入るハーヴェイのピアスの光に時々気を取られながら。]
──そのピアス、もしかして居る場所や温度で色が変わるの?
村長の娘 シャーロットは、修道女 ステラ を能力(占う)の対象に選びました。
[部屋をでるヒューバートに会釈を返し、着替えようとベッドを降りる。
クローゼットの服一式に着替えるが、思わず苦笑い]
サイズ…何でぴったりなんだか。
俺標準サイズだと少し大きいのに。
これ先生のサイズじゃないよな、絶対。
[Vネックの黒い七部袖のシャツとベージュのチノパンツ。
いつの間にかサイズ測られたのかとどうでもいいことが苦笑とともにもれた。
そしてヒューバートとシャロのもとへ]
[こんなに淫らなことをしながら、なんと清らかに微笑むのだろうか。
ステラの手はローズマリーの胸を柔らかく揉み、休むことをしないのに。
まるで、疲れているものをいたわるかのような微笑みを浮かべて]
ステラ… ステラ…
[ローズマリーはステラを抱きしめていた右手を前に回し、ステラと同じようにその胸をさぐった]
村長の娘 シャーロットは、書生 ハーヴェイ を投票先に選びました。
―車中―
[ルーサーは車を走らせながら、ナサニエルの悪態を思い出し、どこか張り詰めていた緊張の糸が緩むのを感じずにはいられなかった。
彼からは破滅型の人間特有の悲壮感や気負いがまるで感じられない。きっと死の谷に対する恐怖から自由であるのだろう。
それだけにルーサーは彼の未来を思うとき、不憫な気持ちを抱かずにはいられなかった。]
放蕩息子、か……
[ルーサーは彼のために祈りながら、車を走らせた。]
[移動中の車の中、ぼんやりと流れる景色を窓から見る。さっきからぶつぶつと小言を言っているシャロへ、笑いながら子供のような言い訳を]
俺あんまり医者って好きじゃないんだよ。
ほら、映画によくあっただろ?
頭見てもらったついでに変なチップ埋められるとか。
今も結構本気で信じててさ。そんなことをする医者ってやつが凄く怖いんだよね。
[シャロが自分の心配をしてくれているのは素直に感謝しつつ、答えをはぐらかす。そしてピアスについての質問へは少し眉を顰めたが、すぐに普段の表情で]
これ、アレキサンドライトっていう石なんだよ。
太陽光にあたると赤紫に、それ以外の光だと青緑になる。
別に珍しくはないんだけどここだと天然のアレキってあんまり見つからなくてね。
―車中/移動中―
へぇ。ロティはやっぱり、女の子だけあって目ざといな。
[思わず、笑みが零れた。バックミラーごしに、ハーヴェイの耳にかかるピアスを気にしながらハンドルを切る。
ハーヴェイがピアスを(それもなぜか片耳だけだ)をしていることには以前から気がついていたが、装身具について理由や由来を尋ねる気持ち自体はあまり持ち合わせていなかった。
ハーヴェイは服を用意したものに着替えてくれていたようだった。何度か訪れる彼にあった服は、当然のように用意している。見た物をそのままに記憶する特技がある私には、人よりも服のサイズを見定めるのに多少はアドバンテージがあったことだろう。]
[ネリーは独り考えていた。これからどうやってこの場を脱すべきなのか。
自分の秘密は誰にも知られてはいけない。よほど身の回りを調べられていなければボブだって気づいていないはず。そう、自分の欠けたモノが。
ばれてしまうと何をされるか解ったものではない。穏便に、穏便にしなければ――
何を思ったのか、素肌が見える顔の下半分が少し動いたように見える。舌を転がし、腰や肩を動かし、顎を確認している。
その後、ネリーはほっと息を吐いた。]
だ…大丈夫よきっと……
書生 ハーヴェイは、牧師 ルーサー を投票先に選びました。
[シャーロットは、白いキャミソールに、白い小花模様のレースのプリーツスカート。左手首に、以前の誕生日に両親から贈られた細いチェーンのブレスレット。当然、右腕には包帯──と言った姿だった。]
ラング先生も、随分怖がられたものだなあ。
[変なチップ、というハーヴの言葉に思わず吹き出す。 石の説明をするハーヴェイに、私も質問を投げかけていた。]
そういえば、もう片方はどこにあるんだい?
――ん?なぁに?ローズ…。もしかして気持ち…良いの?
[わたしは彼女の呼びかけに答えながら、ローズのシャツの釦に唇を宛がい器用に外していく。これも昔に仕込まれた所作の一つ。煽情を逆撫でするには有効的な手段。
やがて外れて露になった下着をそっとずらし。わたしは滑らかな動きで素肌へと触れる。
柔らかい――]
…あ…駄目よ…ローズ…。あなたがこんな事するなんて…穢れてしまうわ…
[吸い付くような素肌の白さにふくらみの弾力に垂涎していると、彼女の右手がわたしの胸を弄る。その仕草に喜悦を感じると同時に、彼女自身を穢したくはない気持ちが働き、思わず制止の言葉を投げかけてしまう。]
村長の娘 シャーロットは、酒場の看板娘 ローズマリー を投票先に選びました。
[息を殺して店内を覗き込むと、美しいエメラルドの髪を背中に散らしたローズマリーの後ろ姿が見えた。
そしてその向こう。
ローズマリーの首に腕を回した、モノトーンの聖女の姿も──。]
──…!!
[ほんの一瞬視界に映った光景に、ソフィーの目は釘付けになった。
心臓が口から出そうな勢いで早鐘を打っている。
二人がただ再開を喜び合っているだけでない事は明白だった。]
穢れる? どうして?
[ローズマリーは少し息をあげながら、ステラに問い返す。
穢れているというのなら、もうすでに私は穢れきっている]
もう片方…?
[聞かれた瞬間、ぎくりとした表情をした。
もしかしたら見られたかもしれない。失態だった]
…さぁ。ピアスは小さいですからね。
どこか行ってしまったのかもしれませんね。
俺最初から片方しか開けてなかったし。
だからこれなくしたら終わりですよ。
[この話も終わりにという意味合いをこめて返答を返す]
書生 ハーヴェイは、旅芸人 ボブ を能力(襲う)の対象に選びました。
[装身具、といえばシャーロットは左手首にかつての誕生日プレゼントを身につけている。
純白のその装いに、「そういえば下着は着けてくれているのだろうか」と常の父親なら心配する必要がないであろう疑問が浮かぶ。]
ロティ?
あの……いや、なんでもない……。
[少しだけ赤くなった表情を背けるように視線を反らした。
ハーヴェイやラング牧師の前で不測の事態があったなら、私の動顛は計り知れないものになるだろう]
どうしてって…
[わたしはローズから返された言葉に困惑する。]
それはわたしが――…
[喉から出かかる言葉。でも言えない…。
未だ言えない。彼女には、わたしの秘密なんてまだ――]
ううん…女同士でこんな事をするなんて…穢れているとしか思われない…でしょう?きっと。
だから――…
[それは嘘ではない。紛れも無い本心。だからわたしは迫害された。慕いし者達から。]
書生 ハーヴェイは、美術商 ヒューバート を能力(襲う)の対象に選びました。
書生 ハーヴェイは、美術商 ヒューバート を投票先に選びました。
へえ、それがアレキサンドライトって言うのね。
実物ははじめてみたわ──
マジックみたいに色が変わるんでびっくりしちゃった。
何時もは髪に隠れているけれど……すごく面白い。
[顔を顰めたことは、やはり傷口が痛むのでは──と心配をした。ただ、口うるさ過ぎたかも、と思って口にはしなかったが。
ヘンなチップと言う言葉にシャーロットも受けたように笑う。
ヒューバートがピアスが片方だけであることを訪ねた。]
『──…あ。
もしかして、同性愛の目印だったらどうしよう……。』
あー、そっち。その道まっすぐ。
吐き気は治まってきた……と思う。多分。
んあ………?
蜂鳥、飛んで無かったか?
まあいいや。
[訳の分からないことを言いながら、男は家へと案内する。]
[エメラルドの滝の間を見え隠れするステラの指先。
ローズマリーの細い腕も同じようにステラを抱き寄せて。
交わされる囁き。
吐息混じりに互いの名を呼ぶ女神達。]
『──何故、ステラさんが。』
[見てはいけないと理性が叫ぶ。
すぐに目を逸らして忘れてしまいなさいと訴える。
なのに。
ソフィーは睦みあう二人の姿から目を離す事が出来なかった。]
[どのくらい経ったのか。やがて一軒の家の前に辿り着く。
朦朧とした態の男の耳元に大声で呼び掛ける。]
ここか?ここで良いのか?
[下着の事を父親が心配しているとは思いもよらず、不思議そうに首を傾けた。]
…パパ?
もう、パパはよそ見運転しちゃだめなんだから。
新米記者 ソフィーは、見習いメイド ネリー を投票先に選びました。
書生 ハーヴェイは、おまかせ を能力(襲う)の対象に選びました。
一つしかないのにつけてるということは、それだけ大事なものなんだね……。
[返答は、質問というよりは感慨をただ伝えるように発せられていた。
シャーロットへと視線を向ければ、何かを問いかけるような眼差しでハーヴェイを覗き込んでいる。私はその問いを知らず、首をかしげた。]
よそ見運転しちゃダメだって?
そいつは至難だ。
なにしろ、“その人”以外に見るべき価値のあるものはほとんどないというのに。
[そんな冗談めいた言葉を紡ぐ]
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