情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
村は数十年来の大事件に騒然としていた。
夜な夜な人を襲うという人狼が、人間の振りをしてこの村にも潜んでいるという噂が流れ始めたからだ。
そして今日、村にいた全ての人々が集会場に集められた……。
悪戯好き イリスは、村人 を希望しました(他の人には見えません)。
村の設定が変更されました。
双子 ウェンディ が参加しました。
双子 ウェンディは、村人 を希望しました(他の人には見えません)。
まず、私がナビゲートするね。
私は天の声を受け取ったので、お伝えします。
この村は『70 檻の中の人狼』に続く村となっています。
編成に大きな欠陥が生まれてしまったので、再構成する事にしました。
★★参加者は参加希望に重々注意して頂きますようお願いします。
この村の人狼である「文学少女セシリア」を「智狼」と致します。
よって参加者は「ランダム」「智狼」の希望を出さないようにして下さい。
参加時は、いま一度確認して入るようにして下さい。
★参照、概要ページ
http://www.jsfun525.com/pukiwiki/?%C2%BC%B4%EB%B2%E8%2F%A1%D8%DD%A3%A1%D9
★この村は暴力やグロ、性的描写を推奨するR18村です。
18歳未満の方やエログロに興味、耐性のない方は閲覧をご遠慮下さい。
――詰め所前――
私、檻がとっても気になる。人狼も初めて聞いた言葉。
誰かに聞いてみたいわ。神父様はおじさんとけんかしてるみたいだし…そばのお姉さんに聞いてみるのがいいかしら。
ちんぴら ノーマン が参加しました。
ちんぴら ノーマンは、占い師 を希望しました(他の人には見えません)。
ハン、勘違いしなさんなよ。神父さんよ?
[ニヤニヤとルーサーに話し掛ける。
口調がいやに挑発的に響いている。]
人の皮ぁ被った化け物かもしれねえという点では、
俺も兄貴も神父さんも、平等なんだぜ?
噂ってえのは、怖いもんでよお。
[狂ったような例え話。]
神父さんが、人狼の仲間だってえ噂が流れたとしよう。
どうなると思うね?平和的に済むと思うか?
牧師 ルーサー が参加しました。
牧師 ルーサーは、守護者 を希望しました(他の人には見えません)。
[ノーマンの「例え話」は彼の何かを刺激したようだ。
一瞬の沈黙の後に、ルーサーは目を細めノーマンを見遣った。]
……やれるものならばやってみなさい。
それが主の与え賜うた試練ならば、私は何度でも耐えて見せましょう。
私は決して屈しません。決して。
[莞爾とした微笑を薄い唇に浮かべた。]
お尋ね者 クインジー が参加しました。
お尋ね者 クインジーは、人狼 を希望しました(他の人には見えません)。
────────────────────────────
此に綴られしは我儕の目撃した震駭すべき事件の顛末を告白したものである。此処には断じて偽りなく唯に真実のみを語ると云うことを始めに神の御名に於いて誓う。
先ず誓いを述べたことには二つ理由がある。
一つには、我儕の氏素性を定かとし得ないからだ。なにしろ、我儕は貴君らには“鷹”と称せられるところの一羽の家禽に過ぎぬ身上なのである。
貴君がこの時点で径ちに疑を挿んだとて、是非もない。
抑も、一介の家禽が言を弄することがあろうか、況や筆を執り文字を綴ることがあり得るだろうか。尤である。それ故にこそ下に録した事柄全てが創作の所以ではないかとの疑も生じよう。
今一つは此処に綴られた事柄の曠古にして稀代たる様は、到底信を置く能わざる類のものだからだ。
多言を費やすほどに、人は仍その疑を深めゆく許りであろう。
然るが故に、我儕は唯に真実を誓うという一文を添えるに留める。
冀くば、拙き言葉なれど真実が
後の人々の許へと到かむことを――
はためく翼がシルフを擽る。一杯に拡がった翼が風の精霊に支えられ、高く高く、その体を押し上げてゆく。
眼下には墨を溶かしたように黒々とした森が宏漠として拡がる。月影の落ちた湖沼は白銀の盆。森を縫う小川は絹糸の如く、艶めいた光を帯びていた。
いじましいほどにささやかな耕地が島となって点在していた。その島に寄り添って小さな家々が散らばっている。それら一つ一つの人々の営みを思った。彼らは、押し寄せる漆黒の闇に呑み込まれることを拒み、地を這いながら苦闘し続けていたのだった。
小邑の家々の中から、天に向けて石造りの鐘楼が手を差し伸べている。一回り大きく、目につくその建物は村の教会だった。
僅かに身を震わせたのは、凛々とした大気の層に触れた所以だったであろうか。満ちてゆく月の光を背に受けながら、予はその時某かの予兆を慥かに感じたのかもしれない。
夜の静穏を朝課=Matins=を知らせる教会の鐘が緩やかに震わせた。
予は、翼から力を抜くと暖かな大地へと滑るように降りていった。
教会の脇を抜けた小道は森の中へと続いている。僅かばかり進んだその先には貯水池があり、ガタゴトと音を立てて大きな水車が回っていた。“水車小屋”と呼ばれるその建物は、実際には“小屋”というには少しばかり大きい。水車小屋の周囲にはいくつかの小さな建物が付随し、周囲は樫木の杭で囲まれていた。
池に面した窓辺に佇む男が一人。半眼に茫洋と月を眺めている。
『居眠りをしていたな?』
予はそのように邪推した。本来なら夜通しの勤めであるはずだったが、この男は水車番の仕事を好んではいないようで聊か勤勉さを欠いている。おそらくは朝課を知らせる鐘の音にその習い性から目を醒ましたのであろう。
かといって、かつてのように勤行に励むでもなく、うすらぼんやりと空を眺めながらほりほりと頬を掻くのみであった。
《バサバサ!》
予は帰還を知らせるべく、また男を叱咤し覚醒を促すべく、羽根を打ち鳴らした。男は一瞬目を瞬かせ、やっと我に帰る。腰を降ろしていた窓の桟から戸外へ飛び降りると、革紐の巻かれた左腕を高々と我が方に向けて差し出した。
「帰ってきたか。エトワール」
男は長い間にどうやら自分が予を“飼って”いるかのように思いこんでいるようで、その口調はいつもぞんざいだ。だが、真実は違うのだと予は声を大にして云いたい。
予はかつての主が鷹狩を嗜んだが故に仕えることとなった従僕で、この男は主から予の世話をするという名誉を預かった身に過ぎぬのだ。つまり、予にとっては、主君、予、この男という位階が順当であろうと考えるのだ。しかし、人間とは真に勝手なもので、言葉を話せぬ禽獣を下位に見るものなのかもしれぬ。
否……我が主君を喪った時に、我等の関係もまた変わったのか――。
そのことを思えば、小さくはない寂寥が胸を塞ぐ。その思いはこの男とて同様であろうか。今は数少ない儕輩となったこの男の無礼もいつしか許すような気持ちになっていた。
さて、この目の前の男はクインジーと今は名乗っている。
幾年か前のこと。争いに敗れ、海を渡ったその前はクェンタンという名前であったろうか。かつては鋼の鎧に身を固めた馬上の丈夫だったこともあった。
今は、とある修道会の修道騎士として士分に取り立てられている。過去に傷を持つこの男の仕官が叶ったのは紹介状を携えていたからであったが、修道騎士とは云ってもその実際は用心棒に他ならなかった。
事実、水車番としては勤勉さに欠けるこの男だが、荒事においては物の役に立たぬわけではない。
その体高は6フィート3インチ程に及び、鍛え上げられた肉体は立ちふさがるだけでたいていの者に威圧感を与えた。また、武芸については一廉の執心があったのか長剣の技の鍛錬も怠りなかった。
だが、この男はやがて片目を喪い、更に悽愴たる惨劇の渦中にて、己の無力を噛みしめる程の怪異と対峙することになる。
クインジーは池で顔を洗い、眠気を晴らした。闇を震撼させるその声がおぞましい惨事の幕開けであることを未だ知らぬままに。
────────────────────────────
……セシリアが?
[動顛し、喉を詰まらせながら早口で騒動を語る兵士を目の前に、その話を最後まで聞くことなく、棒をもぎ取る。
不敵な笑みを浮かべながら、クインジーは騒動の中心へと足を向けた]
―回想―
「クィン、手を貸してはもらえぬか?」
[その瞳の奥では、暗い決意が泥炭の火の如く揺らめいていた。幾日か前、深刻な面持ちで声をかけてきたアーヴァインの様子を思い返した。
クインジーはアーヴァインとそれなりに懇意にはしていたが、彼の部下というわけではない。助力を求められるとは、余程のことなのだろうか。そう思い、聞き返せば、セシリアが狼憑きだと―“人狼”という名を避けるように―そう言ったのだった。]
[クインジーは声を上げて笑った。
富裕な家に生まれついた彼女とそう度々接する機会があったわけではない。だが、村の少女の中でも一際物静かで大人びた佇まいの彼女はどこか目を惹いた。すらりと伸びた華奢な四肢。端正な面差し。
繊細な彼女の風貌からは、野蛮な力や獣じみた荒々しさとはどう考えても対極にある存在だとしか思えずにいた。
冗談はよしてくれ――そう言って、クインジーは首を振る。アーヴァインなら片腕だけで彼女をねじ伏せられるように思えた。否――彼女の捕縛が必要なことであるなら、大の大人ではなく女性の手によるべきではないか――。乱暴な扱いが手酷い怪我を負わせることになることの方をこそ慮っていたのだった。
――その時点では。]
見習いメイド ネリー が参加しました。
見習いメイド ネリーは、村人 を希望しました(他の人には見えません)。
村長さまーァ………あ。
[雑踏の中、己の主の姿を見つけたネリーは、その弟と神父が言い争っている場所へと駆け寄った。
「たいへん、たいへん」とやけに騒ぎ立てる少女の肩にぶつかり……]
あッ……すまねェです。お怪我ァござェませんかエ?
[咄嗟のことについ故郷の訛りが出る。
その姿を見て、普段から「故郷の訛りを出すな、標準語を話せ」と彼女を叱る村長は、ギロリとネリーを見下ろした。]
あ……はェ。すンません。
[ネリーは思わず肩を竦めた。]
……ふん。
[ルーサーをギロリと睨むと、後ろを向く。]
吐いたツバぁ、飲むんじゃあねえぞ?
[その後、兄である村長に一瞥。
眼差しには、この人狼騒ぎ以上の何か大きな
思惑が込められているかのようであった。]
わっ。
[ウェンディは細身の女性に少しぶつかり、少しだけよろめいた。ウェンディに謝り、背を向け、なにやら村長にも謝っている。]
私は大丈夫よお姉ちゃん。もし…何か知っていたら教えてくれませんか。
逃亡者 カミーラ が参加しました。
逃亡者 カミーラは、守護者 を希望しました(他の人には見えません)。
[これ以上もう話すことは無い、というようにルーサーは踵を返した。
歩み去る素振りを見せた後、後ろを振り返り、]
……ああ。
やってみたいのならばまずノーマン、貴方が試すべきでしょう。私は止めませんよ。
だが、悪魔と戦うのは祈る者の役目であり、俗世に住まう貴方は騎士でも異端審問官でもない……それは忘れぬよう。
[言い捨てると、重傷者の居る宿舎へと*歩いて行こうとした。*]
文学少女 セシリア が参加しました。
文学少女 セシリアは、智狼 を希望しました(他の人には見えません)。
──回想 詰め所・尋問室──
[人狼を捕えると言う功績のかわりに、自警団長アーヴァインは、瀕死の重傷を負った。アーヴァインがセシリアを追い詰めたその尋問室で、副団長が捕えた人狼──Cecilia・ Archibaldに関する覚え書きを作成していた。壊れた椅子とテーブルの替わりに、粗末な木箱の上に羊皮紙を広げている。
アーヴァインと比較すると線の細いその男──副団長の文字を綴る指先は、醒めやらぬ興奮と混乱のために、震えていた。]
────────────────
■Cecilia・ Archibald
──年齢:16〜20歳前後。
(確認しなくては今この場では分からない。)
──身長5.2フィート(160cm)前後。
──体重不明。
(人狼の体重を測定する事に意味はあるのだろうか?)
──森向うのアーチボルド家の娘。
──眼鏡。すでに他界した父親が、生前にこの地方を納める領主の元で功労を立てた際に、贈与された眼鏡を掛けている。(この時代、眼鏡は庶民が持つことの無い高価な貴重品である。)
──猫っ毛の柔らかい髪を二つに分けて束ねている。
──髪は背中の中央より少し短い、ロングヘア。
──清潔感のある白い肌。
[副団長は「眼鏡」に続いて、セシリアの外見的特徴を記述していく。
銀の鎖で戒められた細い少女の右首筋には、確か小さなほくろがあった。華奢な身体の割に豊かな胸──。]
──右首筋に小さなほくろ。
(一旦、必要が無いと思い、胸の大きさは記述するのを止める。)
──二軒向うの粉屋の若女将の証言が、最初の人狼疑惑。アーチボルド家へ訪問を行った際、衣服に血痕が認められ連行される。
セシリア及びセシリアの母親は、彼女の衣服の血痕は「母親が怪我をした為、手当をした際に付着した血液」と証言。
────────────────
[最初にセシリアを引き立てた時、自分を含め、ほとんどの兵士が彼女を疑ってはいなかったはずだ。
セシリアの母親は本当に怪我をしていた。
それを「娘を庇うための自傷の可能性がある」──と、セシリアを尋問室に抑留したのは、権限を持ったアーヴァインだった。団長の主張する時系列の曖昧さに対して、疑問の声もあった。密告は彼女に対するやっかみの類だろうと言う意見が多数派だった。]
[副団長は背筋に悪寒が走るのを感じてペンを手を止め、セシリアによって破壊された小さな格子窓(華奢な少女で無ければこの窓の外へ出る事は困難だっただろう。)の外、『檻』を見下ろした──。]
──あの少女が本当に、本当に人狼なのか。
村長殿が来ない間は、私が『檻』を監視しなくてはならないと言うのに。
[昨夜、月明かりの下で、黄金色に輝く人外の瞳を覗き込んだにも関わらず、副団長には<人ならざるもの>が、平凡なこの村に居り、『檻』に捕えられていると言う現実が信じ難かった。
愛する者を人狼に殺されたと言うアーヴァインが一番、人狼殲滅に執念を燃やしていた。副団長は混乱と不安の中、人狼の存在を確信させてくれるアーヴァインの厳しく低い声言葉が聞きたいと切実に思っていた。
だが、無惨に片腕をもがれ、胸部に傷を負ったアーヴァインは、意識は戻らないまま。副団長からみても、彼の命が三日と保つとは思えないのだ──。]
俺が行くと、色々面倒なことになろう。
[村の自警団にではなく、教会組織に属する己がそこに加わることは後々の邪推の種にもなるのではないか――とクインジーはもっともらしい理由を匂わせて断った。
本音を言えば、ただ面倒なのであった。
お世辞にも、己の貌は柔和とは言いづらい。
偉丈夫を相手に剣を交えるならまだしも、女子供が恐怖に貌を歪め、ましてや泣き叫ぶ様を想像するだけで倦んだ。尤も、それが必要不可欠な場面では己の役割を心得てはいたのだが、それにしても愉快なことであるはずはなかったのである。]
嗚呼、だがそれにしても。
あの短時間でよく『檻』を作り上げたものだ。
村長殿にそんな力があったとは。
嗚呼、そうだ。<人ならざるもの>を──
…じ…人…狼…を恐れる事は無い。
神のご加護が──私達には、神のご加護がある。
[アーヴァインが運び出された後も、尋問室には、むっとする様な血の匂いがこびり付いた様に残存している。副団長は<人狼>と言う言葉を口にしてしまった、その不吉な穢れを払うように、素早く十字を切った。]
[クインジーの気の乗らない姿勢に、アーヴァインの確信に満ちた瞳の光もわずかに揺らいだ。
その言葉から想起された後の厄介ごとや隊員の心情のことにも思い至ったのだろう。それらを背負いきれるものか――やはりこの男は恐れ、迷い、それ故にこそ確信めいた力を欲してやまぬのではないかとクインジーはそう思ったものだった。
捕縛と連行に加わったとしても、その後の訊問や警護に加わり続けたかどうかは疑問だ。それでも、アーヴァインが死の淵にある今となっては、その重傷の責の一端があの時固辞したことにあるように思えてならなかった。]
[副団長による覚え書きは、二日後に追記される事になる。]
────────────────
■セシリア逃亡時の人狼による被害リスト
・死亡者1名
(自警団長アーヴァイン・
胸部に深い裂傷3ヶ所、左腕切断。2日後に死亡)
・重傷者3名
(腹部に深い裂傷1名、胸部裂傷1名。
落下に巻き込まれた複雑骨折者1名。骨折者は命に別状は見られないが、一生不具者となる可能性が高い。回復は難しいと思われる。)
・軽傷者9名
(いずれも人狼の鈎爪による裂傷多数。
他、打撲と骨折。鈎爪によって眼窩を抉られた者と、鼻が削げた者が居た事を特記して置く。人狼に噛まれた者が2名。彼等が人狼化せぬか要観察。)
────────────────
―翌日―
[狂騒に満ちた夜が明けた。
落ち着きなく騒がしい村の中。集められた男たちは、水車によって動かされる大型のふいごを操りながら炉で鉄と銀を溶かし、檻を作った。
村長は並々ならぬ熱を込め、大がかりな仕掛けを作り上げようとしていたのだった。]
[クインジーは檻作りの労役を終えると水浴びをし、汗と埃、煤を洗い落とした。
ブレー(半ズボン状の肌着)を身につけ緋色のホーズ(ズボン)を履く。漆黒のチュニックを羽織ると、幾本かの細い革のベルトを締めた。革のベルトからは短刀やポーチを下げる。
左の前腕にはチュニックの袖の上から革の紐を巻き付けた。
清潔になり人心地つくとエトワールを止まり木から空に放ち、詰め所へと向かった。]
―詰め所―
詰め所に入り、二階の尋問室を片付けた。
テーブルや椅子、格子窓は明らかに修繕が必要だった。クインジーは退屈な水車番よりは、こうした手作業を好む傾向があった。]
酷い有様だな……。
[クインジーは思わず呟く。その眼差しが、床に転がる小さな道具の上に留まった。
――拷問用の針。
……なぜこんなものが?
不意討ちに凄惨な過去が甦り、眉を蹙める。]
アーヴァインのヤツ、この手のことに手慣れているとは知らなかったが……
[呟きながら、拾い上げる。その耳に、窓外の顫えを帯びた蛮声が不意に届いた。]
[クインジーが窓際に寄ると、村人たちを前に村長が弁舌を振るっている真っ最中だった。
熱を帯び、次第に高揚してゆく村長の言葉に、村人たちは波のようにざわめいていた。
ある者は恐れ戦き、手で顔を覆い、またある者は亢奮した様子で両腕をグルグル回し、跳びはねた。おぞましいと最後まで聴かずに立ち去ろうとする者は隣人に制せられ、人狼を捉えたという村長に無防備なまでに心酔しきった表情を向けている者もあった。
クインジーは彼の言葉に感心するでもなく、かといって恐怖に取り乱すでもなかった。強いて言えば、その表情は内なる高揚を現すかのようにやや上気し、口元にはえもいえぬ笑みが浮かんでいた。
手の中で弄んでいた検査針を腰から下げた革のポーチの中へと忍ばせ、その場を後にした。]
ケッ…あの神父邪魔だな。
混乱に乗じて殺っちまってもバレやしねえだろ。
[物騒なことを、小声で言った。]
……死体が1人増えようが、大した問題じゃあない。
言い訳なんぞ、この非常時には腐るほど出らあ。
[ネリーとその傍らの少女を見て舌打ちしつつ。]
―詰め所/戸口―
おやおや……
[クインジーはそこでいつしか生じていた舌戦に片眉を上げた。
村長の弟のノーマンが神父に絡んでいる。
愉快げにその様子を見ていたが、諍いは喧嘩に発展することはなく収束に向かっているように思われた。神父は宿舎へと足を向ける。
クインジーが興味を失い視線を彷徨わせると、村長宅の使用人のネリーと彼女に話しかけるウェンディの姿が目に入った。]
――檻の前――
[流石に檻の中に入っている者は人狼。人狼と言われれば二の轍を踏む人が大半のようだ。檻が見える所まで行く人は多くても、目の前まで進む人は皆無に近い。 一瞬だけ遠目に見てそれ以上は見たくない、といった状況だ。]
誰かがいる…綺麗そうな髪。女の人みたい。
あれ…? この人、どこかで見たような。
[檻の中にいるその姿をウェンディは見た。]
──詰め所前・檻──
[セシリアは人狼の力を削ぐ為に、前腕をコの字に折り、後ろ手に手錠をかけ、更に肩から足首まで5度6度と鎖を施している。前腕にも1回、2回。また揃えさせた足首には鉄球をつけ足している。さながら木乃伊や蓑虫のようであった。
食事を抜いている事が効いているのだろうが。何よりも、首に聖銀の細い首輪を巻きつけているのが功を奏しているのだろう。死んでいないのは一目で分かるが、意識があるかは分からない。]
………………。
[セシリアは、遠くから聞こえる音に意識を取り戻した。]
あれは…セシリアお姉ちゃんじゃない。
どうしてセシリアお姉ちゃんがこんな中に? セシリアが人狼だとでも言うの?
[ウェンディは鉄格子を掴める程の目の前まで来た。セシリアと言うことも肝を抜かれたが、若い女性がこのような姿でいる事にも、またこの様な仕打ちが出来る事にも驚いた。]
セシリアお姉ちゃん。だよね…どうしてそんな事されてるの?
よう。ネリーにウェンディ……
[クインジーは声をかけかけ、少女の視線の方向に気づくと僅かに顔を蹙めた。
村長も随分と立派な趣味だ。
敢えて人狼の容疑者を晒し者にするとは。
そうしたことは形さえ違えどクインジーがこれまで多く見てきた事柄ではあった。しかし、同年代の少女の目にそれはどのように映ることだろう。]
[ウェンディは衝撃を覚えた。人が人をこうまで踏みにじる事が出来るとは。許し難い感情を覚えた。
と同時に、人を征服することにある種の優越感が存在する事も自身の心をもって知った。]
──詰め所前・檻──
[最初に視界に入ったのは、銀製の檻の格子と暗鬱な石壁。
見慣れない場所に居る事に首を傾けようとして、体が思う様に動かない事にセシリアは気付く。]
…………ぁ。
[思わず声が漏れたその瞬間。
鮮明に、昨夜の記憶──夜中にアーヴァインが尋問室にやってきた時間からのすべてが甦ってきた。
檻を遠巻きにする多くの村人達の中、檻の目の前に透ける様なプラチナブロンドの少女が立って、セシリアを見つめている。]
[それ以上の言葉として、何をかければよいのか分からなかった。]
お姉ちゃん…何か悪い事をしたの?
[彼女が本当に人狼なのか俄には全く信じがたい。ウェンディは本当かどうか調べてみたい衝動に駆られた。]
[よく見知った村の人間。しかも、ウェンディの様な少女に何を答えれば良いのだろう。
「悪い事をしたの?」と言う言葉と澄んだ視線に、セシリアは細い銀の首輪に戒められた首を苦しそうに横に振った。
──数秒の躊躇いの後、小さな声で、まるで自分にも言い聞かせるように、]
…ウェンディちゃん。
ねぇ、私は。私は、以前に貴女にお話をしてあげた──あの時と同じ「セシリア」よ。
セシリア・アーチボルド。
何も変わってない……。
何も変わってないなら、どうしてそんな事をされているの?
さっきの村長さんはどう言ってたかな…人狼というのは、とにかく力持ちで、特に牙を持ったり鋭い爪を持ってたりする、と聞いたわ。
[ウェンディは檻の中に入ってみたい、とすぐ側にいた兵士に尋ねた。村長の言う通り、あっさりと鍵を貸してくれた。
私のようなまだ子供とも言える人でも許可された事は、拍子抜けと言えば拍子抜けだが。
ウェンディはそのまま鍵を外し、檻の中に入ろうとした。]
[「人狼」の檻まで、近付いて来る者は流石にまだ少ない。
けれども、檻を遠巻きにする人々──よく見知った村人の顔が、好奇、恐怖、混乱、侮蔑、戸惑い、或いは、アーヴァインの様に憎しみの色に染まっている事に、セシリアは気付かされる。
──突き刺さる視線。聞こえてくる声。
一夜の間に、セシリアを取り巻く世界は、忌々しい銀の檻の完成と共に、完全に変化してしまっていた。]
―檻の傍ら―
[ウェンディの後ろ姿とその視線の先を追うように、クインジーはゆっくりと檻の方へと近づいてゆく。
衣服の裾は僅かにたくし上がり、すらりと伸びた白い脚が目に入った。そのか細い臑にはあまりに不似合いな大仰なまでに頑丈で無骨な作りの枷ががっちりと嵌り、鉄球が絡んでいる。
華奢な肉体を縛めるには野卑極まりなく、無遠慮なまでに乱雑な作りの鎖が巻き付き縛めていた。]
こんな事されてしまって…可哀想。
でも、どう言えばいいのだろう。解放するのは駄目って言われたから何もできないわ。
セシリアお姉ちゃんは本当に人狼って言う人なの?
[ウェンディはセシリアの同意も得ず、後ろ手の腕を丹念に触って調べたり、顔を触って顎の形をなぞって確かめたりしている。]
[…正体さえ暴かなければ、誰も傷付けるつもり等無かったのに、とセシリアは口唇を僅かに噛む。
一度俯いて、顔を上げて──ウェンディが鍵を受け取り、檻に入ろうとしている事にセシリアは驚いた。]
…なっ!
──こ、来ないで。…お願いだから…来ないでよ。
[と言っても、四肢を拘束されたセシリアにウェンディを拒む手段等無い。もっとも入念に聖銀で戒められた腕に触れられ、セシリアは思わず眉を顰めた。──それはおそらく人狼にしか分からない、独特の痛みだ。
ウェンディの小さな手で顎を持ち上げられて、檻の中でセシリアの躯が蜘蛛の餌の様にユラユラと揺れる。
視界がぶれた拍子に、水車小屋で働く赤髪の目立つ容貌の大男──教会に行けば何かと出会う事がある、何処か胡散臭げな所もある教会の用心棒──クインジーが、ウェンディの向う側から近付いて来る事にも気付いた。]
……セシリア……
[呟きが漏れる。その声は相手が意志ある者か確認するかのような響きを帯びていた。
クインジーの知るその少女は、潔癖とすら感じられるほどに清潔で折り目正しく衣服を身に纏っていた。その衣服に塵一つ、綿埃の一片たりとも見いだしたことはなかった。
今はそのブルネットの髪は颶風に揉みくちゃにされたかのように乱れ、衣服は夥しい血痕―返り血であろうか―に赤黒く染まっていた。
全身が土埃と血漿に塗れ、輝く許りだった白い肌は薄汚れてくすんでいる]
[ウェンディは彼女と言葉を交わしていた。
「何も変わってない……」
セシリアの言葉に眉を蹙める。彼女の心は狂騒と興奮の状態ではないようだ。一見したところ、正体を失った狼憑きの状態である様子はない。
ウェンディは檻を警護していた兵士に話しかけ、檻の中へと入ろうとしている。]
…………。
[クインジーはいつセシリアが豹変しても対処できるように意識を張り詰めさせながら、ウェンディのすぐ側で見守ることにした。
檻の入り口はクインジーの身長にはやや低い。身を屈めながら檻の中へと這入る。]
[犬でもこんな仕打ちは受けない。ウェンディは目の前の少女に深い憐れみを覚えた。
と同時に、人狼とはどんな身体をしているのか。同じ女性でも私とは違うのか。また人として人を征服すると言うことはどのような感情を自らに抱くのだろうか。]
いつか…ちゃんと調べてみたい。
[とセシリアを観察しながらウェンディは思うのだった。]
―檻の中―
[身を震わせるセシリアの様子に、クインジーには我知らず笑みが浮かんでいた。
――なにしろ、この風体だ。怯えるのも無理はない。
だが、クインジーの厄介な性分は自虐に彩られむしろそのことを楽しむかのように変質しようとしていた。
身を屈め、セシリアの傍らに膝立ちになりながら挑発的な眼差しを向ける。ウェンディと彼女との間に入っていた。]
……セシリア。いいザマだな。
昨晩は随分と派手にやらかしたそうじゃないか。
お前がそんなにやんちゃだったとは、知らなかったぜ?
[そう云うと、喉の奥で笑い声を立てた。]
セシリアお姉ちゃん、私、お姉ちゃんを助けられるか分からない。ううん、助ける気があるのかも私、分からない。
私は人狼がどんなものか知りたいの。もしお姉ちゃんが本当に人狼なら私はどんな事をしてでも調べてみたいわ。
今のお姉ちゃん…私がお話してくれた時の魔物なのかお姫様なのか、どちらなのかしら。分からない事だらけだわ。
[複雑な表情をしていたが、プラチナブロンドの少女の瞳は真剣そのものだった。]
[普段ならば、教会にはルーサーが居るので、荒仕事をするクインジーにセシリアが一人で近寄る事は滅多に無い。6フィート以上もある男が至近距離に居れば、当然の様に威圧感を感じる。
──それが普通の少女と言うものだ、とセシリアは目の前の現実を何処か遠い場所の出来事の様に感じて、心の中で呟く。
クインジーはその鋭い眼光で、自分の様子を観察している様に思えた。男の視線が頭のてっぺんからつま先にまで、突き刺さる。]
[昨夜、アーヴァインに引き裂かれた上衣。半ば露出した胸元をそのまま時下に締め付ける銀の鎖の冷たさ。詰め所の兵士達を相手に大立ち回りを演じた際に、アンダースカートまでボロボロになった衣服の下、あらわになった太腿や膝に、風があたる心許なさ。酸化した血の匂い。
そして、それをも観察対象にされることへの羞恥心。
お前はもう、以前のセシリア・アーチボルドでは無いのだろうと言われている様な気がして、震える。
セシリアが震えた瞬間に、クインジーの挑発的な言葉と笑い声が降り注ぎ。──莫迦にされた様なタイミングに屈辱感を感じ、セシリアはクインジーをキッと睨みつけた。]
[四肢を拘束され横臥する彼女が身じろぎした時に、その襟元が深々と引き裂かれていることに気づく。
襟刳りから真白な双球の谷間まで見え、彼女の動きにあわせて緩やかに波打った。あられもない姿に当惑しながら、一瞬目を逸らす。]
――なあ
[兵士に声をかけた。]
着替えさせた方がよくはないか?
[ウェンディの言葉に、問うような眼差しをセシリアに向ける。
これから仲間を吐かせるための尋問―そうした尋問は拷問に発展するのが常だったが―が行われるなら、着替えた後の衣類もそう間を置かず惨憺たる有り様になるだろう。
それは、それまでの場つなぎとなるものでしかなかったろう。]
どうする?
晴れの舞台に上がるんだ。最初くらいは好きな服を選べばいい。
もっとも――お気に入りを選ぶのは、やめた方がいいがね。
[そう云うと、クインジーは皮肉めいた笑いを浮かべるのだった。]
…あ。
[ウェンディは、「自分は変わって居ない」と言うセシリアの縋る様な思いを込めた言葉に少しも取り合う事も無く、身体の小さな少女特有の軽やかな動きで、するりと檻を抜け出して外へ出てしまう。
ウェンディはセシリアに何をしたいと言うのか。
彼女の様な子どもにすら同じ目線で、言葉を交してもらう事が出来ない。人間としてのセシリアの──人狼だと発覚する以前の…生活が、戻って来る事は無いのだと。今度はそう言われた様に思えた。]
[ウェンディが、平凡で幸福だった──村に来てからの2年半が、幻の様に行ってしまう。
ウェンディとの間を遮る様に側に立っているクインジーを相変わらず睨みつけたまま、絞り出した苦い声で、]
──…服なんて。
服なんてどうでも良いわ。
[今、血の赤茶色に染まったこの衣服も、元は澄んだ空色だったのだ。]
これだけ縛り上げているのだもの…。
誰かが好きにすれば良いんだわ。
……それよりも…勝手に私を見ないでよ…。
[セシリアは鎖が食い込むのも構わず、睨みつけていたクインジーから、屈辱感で少し紅潮した*顔を背けた*。]
く……くくっ
……悪いね。
だが、これからは“見られること”もお前の役目になるんだぜ。
まあ、そのうち慣れるさ。
そいつはこれからたっぷり知ることになるだろうからな――
――――――
さて――
人間も畜生禽獣の類と同じく――と予が云うと語弊があろうが、檻の中に入ることがあるものかと詰め所の屋根の上にてその様子を興味深く眺めていた時のことである。
詰め所に押し寄せる人波の遥か向こうで騒擾の気配があった。
一人の中年の女性が半狂乱になって泣き叫び、両手を振り回している。片腕に巻かれた包帯が目を惹いた。
「セシリア! セシリアァアアァア――ッ」
その年格好、容貌と言葉から、予はそれがセシリアなる少女の母親であろうと推察した。彼女は娘の無実を主張し、またそれが真実と願っていたのだろう。
娘が狼憑きであると――呪わしい人狼であると村長によって断定され、気が狂わんばかりに悩乱し詰め所に駆けつけようとしていたのである。
しかし、その行く手は憤激に駆られた村人たちによって遮られた。セシリアの母親は敵意を剥き出しにした彼らに小突き回され、悲痛な叫びを上げている。髪を引っ張られ、服を掴んで引き回されていた。
せめて、せめて食事を――着替えを…… ああ―― 絶望の中から絞り出されるその言葉は最後まで紡がれることはなかった。彼女は人波の中心で揉みくちゃにされながら、喉を仰け反らせ、一際大きく震えると口から泡を吹き出したからである。
「やっぱり狼憑きだ! 母親も狼だ!!」
村人の熱に浮かされたような声が周囲に満ちた。
――――――
やれやれ……
今度は一体何事だ?
[立ち上がったクインジーは懶気な所作で檻の入り口をくぐる。扉を閉める前に一度だけセシリアの方を向いた。正体の知れぬ眼差しが彼女を睥睨している。
だが、言葉は発せられることはなかった。
大きな影はやがてゆらりと日照しの中へと*溶け込んでいった*。]
─兵舎─
[重傷者を集めた部屋に入り、容態を確認し、必要があれば包帯を変え薬を塗布した。
彼らはたとえ順調に回復しても元通りの生活は望めないだろう。怪我が治っても身体が弱り病を得るかも知れないし、一生消えない損傷を負って、まともに労働の出来ない厄介者として生きねばならない可能性もある。
一人だけ、まだ結婚して間もない兵士が居て、新妻が目を腫らして付き添っていた。
ルーサーは手当ての間に少し言葉を掛け、彼女の苦悩を出来るだけ和らげようと努めた。
最後にアーヴァインを見舞った。
枕元に灯る蝋燭の明りに照らし出されたその顔色は土気色で、既に苦痛も妄執も消え去り彼方に飛び去ってしまったようだった。
足を骨折した比較的軽傷の兵士が彼に付き添っていた。聞けば、アーヴァインは時折うわ言のようなものを呟くのみで、意識は完全には戻っていないようだ。
既に一昨日に終油の秘蹟を行っていたが、付き添って見守る者は少なかった。
アーヴァインには親兄弟はおらず、先日無残な死を遂げた従姉が彼の唯一の身内だったことをルーサーは思い出していた。]
-村長宅/自室-
[人相の悪い男が、彼にセシリアの母親の
一件を報告している。
取り巻きの1人だ。兄は、自分の心象が悪くなると
この付き合いにいい顔をしていない。]
なるほどねえ…そんなことが。
[天井の一点をじっと眺めている。
彼が何やら策謀を巡らせているときの癖。
ニヤリと笑みを見せる。]
落ち着いてきたら、あの小娘の母親…攫っとけや。
ここらで、連中にも示しておかねえとな。
[邪な*笑み*。]
なぁに、1人殺るも2人殺るも変わらねえって。
ふわり、アーヴァインの目が開いた。彼は普段通り、自身専用の寝具で仰向けになっていた。
額を一方の手で触り、考える。「私は何かしなければならない事が…」
そうだ、人狼だ。あの憎き狼め。彼女を決して赦してはならない。私にはまだまだ残されている事があるのだ。
やがてアーヴァインはよろよろと起き上がり、拷問室へ向かった。
蝋燭に照らされた廊下を歩く。夜のようだが人気は全くない。兵士が普段詰めている場所にも人っこひとりいない。だがアーヴァインは目もくれず、拷問室へ歩みを進める。足取りは全くおぼつかない。
聖銀の鎖を解き、中にはいる。彼女は…人狼はそこにいた。 机や椅子は片づけられていて、彼女は部屋の中心の真ん中にいた。どうやら仰向けに横たわっているらしい。
気がつくと数人の兵士達が彼女を取り囲み、嬲りはじめた。少女は一切の抵抗をしない。諦めたのか。ただ男達の言いなりになっていく。
そうだ。これは私の求めていたものの一つである事は間違いないのだ。神に償わせる事が私の使命なのだ。
歓喜にうち震える。
「ふ……ん。様を見るがいい。狼よ。」
勝ち誇った笑みを浮かべたその瞬間、少女や兵士達が目の前から消えた。
「な…んだと?」
その直後、少女はアーヴァインの背後に立っていたのだ。驚嘆し、顔が歪む。
「お前、何故…! そ、そうだ。お前の為に、私は、私は貴様等の為などに、部下や、従姉を…!」
激しい感情を露わにする。彼は武器を両手で掴んだ。
「地獄へ、落ちろ!」
アーヴァインは槍を突き出す。少女は風を感じるかのごとく、易々とかわし、薙ぐ。
「やめて下さい…でないと。死んでしまいます。暴れても、死期を早めるだけ。」
「この、化け物め!」「お前等に私の気持ちがわかってたまるか」
彼は耳を一切貸さず、武器を振るい続けた。もう既に矛先はセシリアを向いていなかった。
それでも懸命に槍を突き出し、そして。やがて彼は前のめりに── [暗転]
―広場にて―
ところで村長さまァ、大切なお仕事ってェおっしゃるのは、なンでござェますか?
[――村長が、娘に命じたのは――]
へェェ!!!あの四角に入った娘っ子のお世話を、ワタクシがするのですかェ!?そりゃァたまげ……いェ、たいへん驚いたァ話でござェます。
[村長と呼ばれる主が、薄汚れた娘をギロリと睨んだ。]
「ネリー!あれは人間の娘では無い!あれは人狼、我々の敵だ!今後そのように人間呼ばわりしたら、お前のことはただではすまんぞ!」
はっ………へェェェ!
すンません!すンません!!
どうか許してくださいませェェェ!!
「あれ」は人間ではござェません!「あれ」はおそろしーぃ、みにくい、化け物でござェます!!
[娘は、地に額をつけるのではないかというくらいに深く頭を下げた。]
[機嫌を少しだけ持ち直した村長は、ネリーに重要な事柄を伝えた。]
[ひとつ。檻の中の人狼には、過剰に餌をやらぬこと(そして、与える食物を「食事」ではなく「餌」とよぶことも)。
ひとつ。檻の中の人狼を決して放ってはならぬこと。勿論、鎖や拘束具の類を弛めることも禁ずる(ついでに、檻の中の人狼がいかに恐ろしい化け物であるかを、再度ネリーに伝えた)。
ひとつ。檻の中の人狼を尋問する者の邪魔をしてはならぬこと(さらに、如何なる厳しい「尋問」になろうとも、決して同情心を抱いてはならぬことや、「尋問」に関する手伝いは積極的に行うことも)。]
………はェ。
難しいことァ、ワタクシにはよーくは分かりませンが、分かりましたェ。
[ネリーは、檻の中をじぃと見た。]
あのォ、村長さまァ。ひとつよろしいですかェ?
あの化けモンに餌ァあげンのはいいとして……化けモンが餌ァ喰ってクソした時の「トイレ」が、檻ン中にァありゃしませんェ。
あのォ……あの化けモンがでっけェウンコした時ァ、道具使うか手ェで拾えばなんとか小屋の掃除ァできまさァ。でも、ションベンした時ァどうすりゃァいいんですかェ?さァすがにションベンは手で拾えませんヨォ。
牛っ子でも、馬っ子でも、家畜小屋ン中にゃァ藁がひいてありますァ。そこでクソしてションベンしてンのを、ワタシら人間が拾うことはできませんかェ?
[四方ぐるりと衆目に晒された銀の檻を指差して、ネリーは大きな声で彼女の主人に告げた。]
[ウンコだのションベンだのという言葉を年頃の娘が連呼するせいか、村長とその召使いの周囲は、どうっと笑いに包まれた。]
「うぬ……しかし、みすみす人狼に藁を与えてやることは……」
じゃあ、村長さまァは、あの化けモンのクソ踏みながら「ずんもん」なさるんですかェ?そりゃア、くさくてくさくてたまりませんェ。ワタクシはクソションベンのニオイにァ馴れてますけど、村長さまァがかいだら……
「ああ、わかった、わかったネリー!
藁を少しだけ敷くのは許してやろう。だから頼むから、クソだのションベンだの言うのは止めろ!」
[ネリーは、目を丸くして村長をじいっと見つめた。]
はェ、ありがとうござェます。
[ヒィヒィと腹を捩りながら笑う者、眉をしかめてあからさまに嫌悪感を示す者――それらの表情を知ってか知らずか、ネリーは大きく頷いた。]
ンではァ、ワタクシは馬小屋行って藁ァ取ってきますァ。
あァ……ついでに、あのちっちぇえ娘さんと、でっけェ兄さんの言ってる服を持って来ましょうかェ。服をどう「ずんもん」に使うかァ、難しくてワタクシにァよーくは分かりませんが。
[そう言うとネリーは、クインジーとウェンディの方に駆け寄り、「化け物」の元に何を持ってくるべきかを*尋ね始めた*]
[ネリーと言う若い女性がこちらへ来るのを見た。ウェンディはネリーの質問を聞き、思案した。]
そうね…お洋服は今はいらないって。でも寒いと可哀想だから、すぐに持って行ける準備だけはしておいたほうがいいかも。
でも。おトイレに行くのも大切だけど、どうやってお姉ちゃんにパンやスープをあげたりするの? あのままじゃなかなか食べられないわ。お皿を用意した方がいいのかしら?
[ウェンディは子供だから思いつかないのか*不思議そうに答えた*]
─教会周辺─
[現在、野宿をするために陣取っている場所で、寝袋に包まれながら眠りについている。]
…う〜ん…お腹すいた…
[どうやら空腹により、多少うなされているようだ。]
―広場―
[村長と話すネリーの周囲は笑い声に包まれていた。
村長はしばしば窘めてはいたが、クインジーは彼女の純朴さの感じられる話し方は嫌いではなかった。
人狼の発見に喧騒に包まれていた村の渦中で、そのやりとりはたしかに一時緊張を和らげてくれるものだっただろう。]
家畜のように藁でするのか?
災難だなあ……
[セシリアのそれまでの暮らしぶりや常に身綺麗だった装いと楚々とした佇まいを思えば、その落差にただただ苦笑いする他なかった。]
ああ、そうだ。ネリー
できれば、手伝ってもらえないだろうか。
多少なりとも一端身綺麗にしないと尋問も支障があるように思うのだ。
着替えと……できれば湯を使って汚れを落として欲しい。
[クインジーはそのように、彼女に頼んだ。]
[兵舎を出た時にはかなりの時間が経っていた。
詰め所から教会まではそれなりの距離がある。
道々会う村人と挨拶を交わしながら、きびきびと歩いて行く。心に重荷があっても疲れていても、足取りがあまり変わらないのは習い性だった。
あちこちに足を止め、囁き交わす男達。
縋りつき不安を訴える老女。
落ち着かないかみさん連中の噂話。
やはり村長の演説と「人狼」が不穏な空気を生んでいた。
それまでは、村人が何人も凄惨な死を迎えたと言っても、単なる獣の仕業であると思われていたために、その恐怖や怒りはまだ真っ当なものであったように思う。
それが、「セシリア」と言う……これまで隣人として付き合ってきた少女であると分かって、目に見える形のあるモノになって、何かがガラリと変わってしまった。
ルーサーにはそれは、狂乱の前触れ、であるように思えた。
今はまだ細い正気の糸で繋がって押し留められているが、いつ何時それが切れて暴走が始まるか分からない。興奮した牛馬の群のようなものだ。]
[母親への事情の説明も兼ねてセシリアの自宅を訪問しようとしたクインジーだったが、詰め所を離れた時にその騒ぎに気がついた。
渦中にあったのは、セシリアの母親だった。
昏倒した彼女だったが、木立の向こうにあるセシリアの自宅までは容易に抱えていけないだけの距離はある。彼女はひとまず教会付の宿坊へと運ばれていくようだった。
彼女が携えていた袋には、村長に宛てたと思しき直訴状と共に、セシリアの着替えや身の回りの品が入っていた。
クインジーはそれらの品を預かると、詰め所に戻り衣類をネリーに託した。]
はェ、かしこまりました。
お嬢さまァの言う、餌ァのお皿っこは、古くなった食器使やァいいでござぇます。ですが食べるにゃァ、ワタクシがこン化けモンに直接食べさせっしかないでござェましょう。檻ン外から食べさせてやれる長ァいスプーンがありゃァいいんですけンど……ねェでしょうねェ。
着替えはァ……この化けモンのおうちから持ってくンのはできねェでしょうから……まァ、誰かに借りますかィね。
[ぺこりとお辞儀をして、屋敷へと向かった。]
[人気のない道に差し掛かり、誰も見ていないことを確認すると足を止め、深く重苦しい息を吐いた。眉根が自然に寄り、眉間に深い皺を刻んだ。
彼が自分に「弱さ」を許したのはその一度きりで、すぐに泰然とした表情に戻して再び歩き出した。]
[まず詰所に行くと、そこで古くて使えなくなった食器と、「セシリア」の母親が託したという着替えを渡された。]
はェ……助かりましたァ。
屋敷の姉さん達に服借りようかと思ってたんでござェますがネ、そりゃァ怒られたらおそろしーぃこって、びくびくしてたんでござェまさァ。
あとは、屋敷から藁っこと湯を持って来ましょうかェ……
─教会にいたる道─
[教会に近くなるにつれ、入口に何か黒い塊があるのが見えてきた。
よく見れば、扉脇に雑多なものが乱雑に落ちているほか、丸まった布の塊が置いてあるではないか。]
……一体何が。
[訝しげな表情で、その布の塊に近付いていった。]
これは……行き倒れか?
[布の塊は、人間が包まったような形をしていた。
薬や包帯を入れた袋を地面に置くと、塊の前に膝を突いて揺さぶってみた。]
しっかりしなさい。生きているなら返事を・・・
[寝袋の中で眠りについていて、夢の中でうなされていたその時だった。何者かにより唐突に、意識が現実に引き戻されてしまう。]
う〜ん…何だ、夢か。
…って、目の前に人が…!
[女は自分を起こしてくれた人物に気付き、驚く。]
-詰め所前-
[強面の連中を引きつれて、詰め所前に現れる。]
いいか?逃がすんじゃあねえぞ。
抵抗したら、殺っちまっても構わんが、
基本的にゃあ生きたままさらってこいや。
[何やら不穏な相談。]
[ネリーの、屋敷の人たちについて話す様子に苦笑した。]
すまないな。頼むよ。
[着替えさせるには、片腕ずつ枷を外すことになるのだろうか。檻がある以上、早々逃げ出す恐れのないことだろうが……
クインジーはひとまず、全てが終わるまで檻の近辺にいることにした。何かがあってもすぐに対処できるように。]
[ハッと目を覚ました女が、驚きで目を丸くするのに穏やかな声で話しかける。]
ここは教会の前ですよ。私はこの教区を預かる神父です。
貴方は旅行者ですね?
聖域の扉はいつも開いているのですから、入りたければ入れたのですよ。
―詰め所―
[アーヴァインは針による検査を行っていた。そこでどのようなやりとりがあったのか。また、アーヴァインが彼女への疑惑を確たるものとした理由など、セシリアから正確な事情を聴き調書を作成する必要があるだろう。
神父が先のことをどのように考えているかは未だ知れなかったが、準備程度のことは進めておくにしくはない――。
クインジーはそのように考えていた。
道具を持ち寄り、簡単に椅子と卓を修繕しながら、村人たちの様子に時々意識を向けている。
「おい、ウェンディだ。子供が入っても、大丈夫だったぞ」
ウェンディがこわごわながらとはいえ檻の中に入り無事だったことに、多少なりとも勇気づけられたのだろうか。
未だそこに留まっていた幾人かの村人たちの輪は僅かばかり檻に向けて狭まっていた。
様々な意識の折り重なった澱んだ眼差しが檻の中の様子をまじまじと見つめている。]
[周囲の人に恫喝的な尋問をし、強面の連中に
何やら指示を出している。宿坊へ向かわせたようだ。]
ハッハッハ…さぁて、演出の準備は周到な方が良い。
[何か良からぬことを企んでいる様子。]
[神父と称する男の言葉に対してこう返答する。]
ああ、私は一応「旅」をしている者というところかな。
とは行っても、旅のきっかけはロクなものではないけどな。
[はあ、と軽くため息をつく。]
[クインジーに礼をし、続いて屋敷へと向かった。事情を説明し、温かな湯と、馬小屋から藁を運び出す。服を包んだ布と湯の入ったバケツ、それから柔らかな藁を手押し車の荷台に乗せ、ガラガラガラと運んでいる。]
『着替えって、どうやってすンだろなァ……?オレが化けモンに食われそうになって怪我しちまったり、オレがおっ死ンじまったりしたら、………』
[ガタガタと揺れる荷台の音に共鳴するかのように、自分が形成した想像に震えるネリーの歯がガチガチと音を立てて鳴った。]
[しかし、震えたからといって彼女の仕事が無くなるわけではない。おとなしく諦めたのか、ネリーはいつもの様子で広間へとやってきた。]
湯と服と藁っこ、持ってきましたェー。
あァん?
[暫く何かを考えているように、中空を見ていたが、
聞き覚えのある声に、その方を見る。]
ありゃあ田舎娘じゃあねえか…。
[渋い顔をして、その方へ向かう。]
定員に達しなかったため、村の更新日時が24時間延長されました。
[女の言葉にルーサーは片眉を少し上げたが、問うことはしなかった。話したいものには好きに話をさせ、時に問わないことが答えを引き出すと考えていたからである。]
……宿を乞うのならば、一応宿坊とは名ばかりの荒家ですが泊まる所はありますよ。今は誰も使っていません。
とりあえず立てますか?
私が案内しましょう。
あァー……
[一瞬顔がヒクリと動き、それを悟られぬようにこりと笑った。]
ノーマンさまァ、こちらにおいででござェましたか。どンなご用事でここン広場に?
[クインジーに服を一旦預け、手押し車の荷台から湯の入ったバケツを降ろしながら、ノーマンに問うた。]
あァ?俺が何かするときは、いちいちおまえに
報告しなきゃあいけねえ決まりなのか?
[獲物を仕留めるハンターのような目で見る。]
そうか、おまえぁそんなに偉いんか。
[そのとき、強面の男が来て耳打ち。]
ああ、そうかい。宿坊にたどり着く前に確保できたか。
[そう言って男を遠ざける。]
[そう話したのは女が「堕落した女」─娼婦─のようには見えず、何らかの事情で旅をせざるを得ない堅気の女性に見えたからだ。
しかし……とふと顔を曇らせた。
本当にこの女性は見かけどおりの存在なのだろうか?
無闇に人を疑うことは彼の本意ではなかったが、「セシリア」を見た後では、ふと疑念が湧くのも無理からぬ事と思えた。
何しろこの女性は見も知らぬ、何処から来たとも分からぬ余所者なのだから。]
[宿を提供してくれる、という神父の一言を聞いて、女は喜びの笑みが小さく浮かぶ。]
泊まる場所を提供してくれるのか。こいつはありがたい。早速案内してもらうとするか。
[そして女は、ゆっくり立ち上がっていった。]
もう村には行きましたか?
旅をして来たならば近隣の村で既に噂を聞いたかも知れませんが、最近この村では恐ろしい人食いの獣が出るのですよ。
[さり気ない態を装って話を向けてみる。]
その様な痕跡や何か異様なものを見た、ということはなかったですか?
[手押し車を押しながら戻ってきたネリーは、いつもと変わらぬ様子には見えたが、檻に向かう眼差しはやはり少し及び腰に思えた。]
大丈夫だ。そうそう心配いらぬ。
[クインジーは励ますように笑いかけた。
だが、と思い直す。人狼の恐怖は語り継がれてはいたが、かといってなにができなにができないのか、その実体は定かではなかった。
わからない、ということこそが真実恐ろしいことやもしれぬ――そう思い至り、眉を蹙める。]
――おや
[ネリーから服を預かり、上げた眼差しがノーマンの姿を捉えた。人相のよくない男と話す彼はなにかをしようとしているのか、はたまたなにかをした後なのか。
漠然とした不穏の気配を感じながらも、クインジーには裏で起きている策謀のことなど知るよしもなかった。]
……………いいえェ。
申し訳ござェません……
[ビクリと肩を竦め、目を見開いたままノーマンに深々と礼をする。]
ただァね、おそろしーぃ狼の化けモンがいるっていうこってして。
ワタクシはそン世話ァしなくちゃァいけねェんですがネ。取って食われンじゃねェかと今からこえェんですよォ……。
ノーマンさまァは、村長さまァの大切な弟君でござェます。御身お大切に、お怪我なさらンよう、お気をつけくだせェませ。
[そう言うと、バケツの中の湯に布を浸し、少女の身体を拭く準備を始めた。]
[女性の先に立って歩きながら、少し前にやってきた新しい従僕─というよりは「用心棒」の方が相応しく思えたが─の荒事向きの顔を思い出していた。
今は村長の要請で詰め所で働いてもらっていたが、万一を考えて少し話をしておいた方が良いかも知れない。]
こちらですよ。
食事は用意できませんのが、炉はあるので煮炊きは出来るようになっています。
ふん…直に殺っちまう運命なのに、丁重な。
おまえも人狼だと名乗ってみたらどうだ?
タダ飯食らえ、世話係まで付くたぁ、
今までの暮らしよかマシかもしれねえぜ。
[バケツの中に唾を吐いた。]
ノーマンさん。こんな時です。
頼りにしてますよ。
[唇の端を歪めて笑みをかたちづくるクインジーの人相も、彼の隣にいた荒くれ者とそう変わるものではなかったろう]
[神父による村に関する話を聞いた途端、背筋が急激に寒気を催した。しかし、なるべく平常心を保つようにしている。]
え、この村にそんな物騒なことがあるのか。
ちなみに私が見たところでは、痕跡や異様なものは見かけなかったけどな。
…って、こっちか。
[神父の案内に引き続きついていく。]
[クインジーの言葉に、ニヤリと笑って。]
あったりめーよ。村は俺にとっちゃあ、
自分の身ぃみてえなもんよ。兄貴と共に頑張るぜ。
俺は、村長の弟なんだからよ!
[悪意ある呟き。]
今はな。
いやァね。俺はこう見えても聖職者なんでねえ……
まあ、手続きってェものにそれなりにこだわりがあるんですよ。
多少見栄えがいい方がお客さんも悦ぶってもんでしょう?
[ノーマンの言葉を受け流すように、肩を竦めた]
[ノーマンの言葉を耳にし、ひどく虚ろなまなざしと共に首を横に振った。]
ノーマンさまァ……。
ワタクシにァ、難しいことはよく分かりません。
[放り込まれた唾のあたりの水を両手で掬い、そっと地面へと棄てた。]
ただァ……「あれ」をキレイにしろと言われたらキレイにする。世話をしろと言われたら、世話をする。決して口ごたえはしない。それが召使いの仕事でござェます。
それがワタクシの生きる道でござェます……。
故郷の父ちゃんが言った、「主の言うことはよく聞くように」「嘘はつかないように」……そして「お天道さンに顔向けできないことはしちゃァいけない」。それ以上の難しいことァ、ワタクシにァなぁんも分かりません。
[布を絞り終え、クインジーから服を受け取り、そして官憲の男に檻を開けてくれと告げた。]
なにしろ、村長さんの言葉通り、狼憑きが捕まったってのもこの地では前代未聞のこと。
その裁判も尋問も、はたまたこうして飼ってみるのも初めてづくしだ。
万が一にでもおかしなことになっちまっちゃァ泥被るのは村長さんの一家でしょうからね。
殊勝にも、色々意を砕いてるとご理解いただければありがたいんですが。
――ええ、悪いようにはしません。
[狭い部屋だが数人はゆうに泊まれるだろう。
ベッドには敷き藁はなかったが、台はきちんとしており清潔そうだった。
煮炊きできる暖炉が部屋の隅に設えてある。]
滞在中は自由に使ってもよろしいです。
村に行く時は注意した方が良いと言っておきましょう。
そういう非常事態ですから余所者はあまり歓迎されないかも知れません。
[神父の案内により、部屋にたどり着く。女は神父にお礼を言う。]
ありがとう。お礼はその非常事態とやらが収まってからでいいかな…?
後、村へ行くときは充分気をつけるよ。
[セシリアは得意げに演説を披露した村長を、口唇を噛みながら、先刻クインジーに向けたよりも、激しい眼差しで睨んだ。]
──…ッ。
この戒めさえなければ。
アーヴァインの様に、引き裂いてやるのに。
……他の人狼に、無惨にお前が殺されてしまう事を願う。
[セシリアはまだ自制している。
檻の外に、聞こえるか聞こえないかの呟き──セシリアのものとは、思えない程に低い声には、呪詛が籠っていた。]
[クインジーは、胸の内で野心が獣炭の火の如く沸々と燻っているような目の前の男のギラギラとしたところに常日頃から興味を感じていた。
それが果たして紅蓮の炎となって立ち上ることがあるのだろうか――
どこまでも他人事のようでありながら、どこかその行く先を垣間見てみたい気持ちもあった。その感情が、この男に接した時にどこか挑発的な言葉となって現れ出るのかもしれなかった]
……とんでもない
[狸だ――というノーマンの言葉に笑みを返した。
ネリーに服を返す。檻に入ってゆく彼女の後ろ姿に意識は向かった。]
―――ガチャリ。
[檻の扉が開く。
ネリーは震える足を一歩、また一歩と進め、少しだけ身体を屈めて中に入っ―――]
う、ああぁああ!!
[震える足先がもつれ、「ガシャァァァァン!」という派手な音と共に、宙吊りになった「セシリア」にぶつかり――ネリーは檻の中で転んだ。額を床に打ちつけたせいか、彼女の額は真っ赤になっていた。]
御礼は不要ですよ。巡礼者を泊めるのは教会の義務でもあります。
[うっすらと柔らかい笑みを浮かべた。]
何かあったら教会の方に。
私の他にもう一人、雑務をしてくれる従僕が居ます。赤毛の大男ですが…。宿泊者が居ると伝えておきますので、便宜を図ってくれると思います。
では、またミサの時に…。
[ルーサーは背を向けて宿坊を出た。]
[震えながらネリーが入って来る。
セシリアは顔を上げてネリーをじっと見る。
彼女は怯えて見えるが、でも何をされるか分からない。ネリーがどの様な人となりなのか、セシリアは知らなかった。ただ「この村よりも更に田舎者の、貧しい肥だめの娘」のとしてしか認識していなかったのだから。]
……ッ痛!
[ネリーが転んだ拍子に、セシリアの胸や腰に絡まった鎖が思い切り引かれ、鎖が食い込んだ箇所が派手に擦り剥け、素肌から血が流れた。
ネリーは額を赤くしている。]
あー………いたたたたァ。
[真っ赤になった額を手で擦りながら、ネリーはクインジーにペコペコと何度も礼をした。]
は……ヘェ!
だ、だいじょうぶでござェます!
[立ち上がろうとして、上を見上げ――…]
…………………………
[ネリーはギョロリと大きく目を見開いた。]
[人狼――彼女の主が告げた「恐ろしい化け物」――]
……ひ………ッ……
[ガタガタと震えながら、ネリーは濡れた布をキュッと握った。]
おおッ!見たか?見たか?
この犬畜生、神通力でウチの田舎娘ぇやったぞ!
[わざと煽るように、周囲に触れまわる。]
とんでもねえ犬ッころだぜ!
[セシリアの有害性を、デッチあげてでも
演出しているようだ。]
ま……まずはッ……
ご命令でェ、お前サンの身体ァ……拭かせて、もら……いますァ……
[ノーマンに煽られてさらに声を上げる人々を背にして、ネリーは「セシリア」の身体におそるおそる手を伸ばした。]
「ずんもん」のために、身体ァキレイにして、服着替えンと、……いけんからっていうことで、ござェますから……
[セシリアが身を捩り、その身は檻の中央でぐらぐらと揺れた。顔は刹那に苦痛に歪む]
……気をつけてくれよ
[クインジーはセシリアの白い素肌を伝いわずかに零れた真っ赤な鮮血を見つめながら、どこか心ここにあらずといった態でネリーに呟いていた]
『人狼といえども血は赤い……』
[ネリーの様子を、痛みに眉を顰めたまま伏せ目で流し見る。]
………ネリーだっけ。
あなた、私が怖いの?
…まあ、当たり前──か…な。
[ネリーに何か言いかけた言葉を止め、ノーマンをノーマンの兄アーノルドを睨んだ時と近い眼差しで睨んだ。
睨んだ眼差しは、騒ぎの中でもまだ以前の様にセシリアの鼻梁の上に掛かっている(取り上げられていないのは、奇蹟の様に思えた)眼鏡の奥で少し揺れている。
込み上げて来るものがあっても、セシリアは泣くのは嫌だと思った。]
……鎖。
絡まったままじゃ着替えなんて無理よ…。
[糞尿対策として家畜小屋のように藁が敷く事が、当たり前の様に村長に認められた事を思い出しながら、]
人前でこれ以上肌を曝すなんて……。
私は……嫌。それなら、このままで良い。
尋問なら、このままでも出来る──でしょ…?
[語尾は震えながら。]
「ひぃっ!」
[ノーマンの煽るような言葉に、檻に近づきかけていた村人達は一瞬潮が引くように後ずさった。
神通力、
呪殺――
魔眼の力を持っているのではないかと恐怖に顔を引きつらせながら。
村人たちは、目の前の恐怖を追い払おうとでもするかのように、屈んで石をとると檻の中へと放る。目を背けながらの気の入らない投石は正確さを欠いたが、礫の一つ二つはセシリアとその体を拭おうとするネリーの背中に当たった。]
やめろ! 世話をしている最中だ。
[クインジーは作業を邪魔されることに倦んだ声をあげる]
[「怖いの?」と問われ――]
………分かりませン
[と左右に首を振った。]
[「セシリア」の身体に布をあて、ゆっくりと身体を拭く。あっという間に布は血と砂埃の色に染まり、一旦檻の外に出てはバケツの湯で布を清める。
何度かそれを繰り返して行くうち、状況に馴れたのか、ネリーは檻の中にバケツを持ち込んだ。布を清めては身体を拭き、身体を拭いては布を清める――]
……あァ。服ン中……は
[はたと気付く。この目の前の「セシリア」は、年頃の娘――]
[神父の説明を聞いて相槌をとりつつ返答する。]
了解。こちらこそ色々と気をつけてな〜。
[そして、部屋から去っていく神父に手をふった。]
[遠くからも、檻に投石がなされる。]
「やーい、化け物!」
「人狼なんか、セシリアなんか死んじゃえッ。」
「お前の母ちゃんも人狼だろッ!!」
[はやし立てる様な声と共に遠ざかる足音。
セシリアの家のすぐ近くに住む子ども達の仕業だ。その子ども達の向うにセシリアを最初に告発した近所の若女将と、子ども達の若い母親がえも言わぬ嫌悪の表情で佇んでいた。子どもが言うと言う事は、大人が話したと言う事だ。]
お母さんは、お母さんは関係…無いわ。
[セシリアは、母親の顔を思い浮かべる。そして、ネリーが持って来た着替えが、普段の自分の衣類である事に気付いた。]
ヒュゥゥゥ……。
[クインジーの声に、口を鳴らす。]
だそうだ。なぁに、時間ならある。
好きなだけやってやりゃあいいだろ。
[そう言って、村人たちを制する。]
それに……この犬ッころにゃあとっておきの
「ゲスト」を用意してあるんだ。
後ほど、ご登場願うとしようか。
[ニヤニヤと檻の中を見つめる。]
あウッ!!
[無防備に晒していた背中に、容赦無く石の飛礫がぶつかった。]
………ッ痛………
[その場に蹲り、痛みに堪える。]
[ノーマンの言葉に投石はやんだ。「ゲスト」との言葉は意味深だったが……。
振り返れば、セシリアが着替えを渋っている。]
見られたくねえって云うなら、幕をかけてもらうよう頼むがなあ……
[アーヴァインや村長がセシリアが人狼だとの確信を得ていたとしても、クインジー自身はそうではなかった。目の前にいるのはやはり娘なのだ、との意識が先に立つ。]
だが、いつまでも不潔ったらしい格好でいるわけにもいかねえだろう。怪我したところだって手当をしねえと膿むしな。
それとも、ひどい悪臭で尋問相手を辟易とさせることが望みか?
[最後の言葉は皮肉めいた笑いと共に]
[考え込みつつ、聖堂の方に向かって歩く。
ともあれ、そろそろ日時計で時刻を確認しなければならない。
身に付いた習慣からか、それとも信仰心の賜物か、何故か聖務日課を行わねばならない時間が近付くと感覚的に分かる。
今日もクインジーが居ないので、自分が代わりに鐘楼に上がって鐘を突かねばならないだろう。
祈りが終わったら、また詰め所に行ってクインジーに話をしておかねばならないな…と*独りごちた。*]
[就寝しようと部屋のベッドに近づこうとしたその時、あることを思い出した。]
あ、荷物取るの忘れてた。
[野宿をした場所においていた荷物を急いでとりに行き、宿泊部屋の中に運んできた。]
ふぅ、これで全部運んだ…と。
そいつは……お袋さんが持ってきたものだよ。
[ネリーが持ってきた服に落ちたセシリアの眼差しに応えるように、視線を外したままのクインジーから言葉が発せられた。]
[ウェンディはかなり離れた位置からひとりで檻のほうを眺めていた。
本当は私と同じ位の年齢だろう、子ども達が檻に向かって投げかける罵声。さらに実際に投げかける石。
彼女は「やめて!」と子ども達を制したくなった。
勿論それは「可哀想だから」と言う感情も湧き上がっているからだが、ただ機械的に彼らに同調するのは簡単であれ、それは自分の心に対して滑稽だからと言う奇妙な感情も持ち合わせているからだった。]
ああ、この女将さん達は人狼に、お姉ちゃんに対して何も考えてないのだな。
[と思わされるのだった。
だからと言って彼らを止める勇気もなかった。堂々とあの子ども達を止めれば今度は私が石を。とも思い、何も出来ず、漠然と*見つめていた*]
[自身のことに構わず投げられる石を受け、ネリーは俯いたまま首を左右に振った。]
………ううッ。
[よろよろと立ち上がり、はぁ……とひとつ息をつく。しかし誰に吠えるでもなく、ネリーは淡々と身体を拭く作業を続ける。]
あァ……鎖、取らなきゃァ……
でも、村長さまァに、鎖取っちゃァいかんと言われとるし……
[荷物を部屋に運んだ後、今度こそ就寝しようと思い、ベッドに横たわる。所持品のひとつである寝袋を広げて毛布代わりに使う。]
さてと、そろそろ寝るか。
[そして女は、その場で*就寝した*]
服……脱がにゃァ、身体は拭けねェでござェます。
誰かァ!誰か助けてくだせェ!
ワタクシ1人じゃァ、鎖を取ることなんかできね………
……………ッ!!!
[助けを呼ぼうと振り返ったネリーの額に、石がひとつガツンと音を立てて当たった。]
[当惑した様子のネリーを見ていて、一つの考えが浮かぶ。]
ああ、ノーマンさん。
これから、一つずつ鎖を外してセシリアを着替えさせなきゃならないんです。
片方を外している間、セシリアの腕を持っていちゃくれませんかね。
[村長の弟立ち会いの元というのは申し分ない条件であったろう。だが、人狼という存在に対して挑戦的な彼がどんな態度をとるか、という好奇心もそこには混じっていただろうか。]
コラァ!ウチのモンにも手ぇ出すのはわざとか?
[ネリーに石が当たる様子を見て怒鳴る。]
ウチに何かあんのか?あァ!?
[石を投げたと思しき少年を、思いっきり蹴り飛ばす。]
[投石をした子供にギラリと凍てつくほどの冷眼を向ける。少年はノーマンに蹴り上げられ、地面を転がっていた。]
ネリー、怪我しちゃいねえか?
さっき、止めろ言っただろうが!!
[少年の胸を蹴り上げる。肋骨の折れる音。
口から血を吐いて、虫の息になっても、
暴行を加えるのをやめようとしない。]
[投石が止み、ネリーは安堵と痛みが入り交じった表情で、ふぅとひとつ溜め息をついた。額に石が当たった痕に、じわりと血が滲む。]
[ふとクインジーの言葉が耳に入った。]
そ、村長さまァの代わりに、ノーマンさまァのお許しが頂きてェでござェます!
どうか、どうか、今こン時だけ鎖ィ外して、そしてこン化けモンが着替えンのを手伝っておくんなさいまし!
[ネリーは地を這うように膝をつき、ノーマンに向かって深々と頭を下げた。]
[クインジーの、檻に幕を被せると言う提案は、投石も含め、今までの流れを考えるとセシリアには、あまり現実的には思えなかった。
が、彼が外見や今までの「胡散臭い。実は凶暴な性質なのでは」と言う村の評判に反して、随分と冷静な事に驚いた。元々、村の人間では無い。こう言った事態に慣れているだけなのかもしれないが──。]
[躯を拭く作業はすぐに終ってしまった。
更なる投石。]
ネリーの扱いに、自分も以前なら<あちら側>に居たのだ──と思い、セシリアは何処かやるせない気持ちにさせられた。クインジーの提案にノーマンに視線。]
へェ………
心配おかけしてすンません……
ワタクシはこの通り、大丈夫でござェます……
[ほんの少しだけ顔を上げ、ノーマンとクインジーに頷いた。]
ノーマンさん、それくらいで勘弁してやっても……
[一度火がついたら止まらない、この男の危なげなところを見た思いだった。]
死んじまっちゃァ面倒だ。
あァん?
[ネリーの言葉に、少年への暴行を止める。
少年はもう虫の息で、肋骨や腕の骨などが折れている。
助かったとしても、健全な生活は今後送れそうもない。]
まあ、この俺が腕ぇ押えてるってんならいいぜ。
兄貴には、文句言わせねえからよ。
[つかつかと檻へ近付いていく。]
すンません、すンません……
ノーマンさまァ、それから旅のお方ァ、ありがとうござェます……
[ネリーは流血した額を気に留めず、ひたすらペコペコ謝っている。]
おう、外してやりな。
[自警団の者に命じる。]
後で破られるために服を着せるのも、滑稽でいいわ。
[邪悪な視線を、セシリアに向けつつ。]
[幄舎を建てる際に用いる幕がないかと思ったのだが貸し出しは許されず、やや等閑ながらシーツを群衆の真向かいになっている側の檻の上にかけた。
クインジーは扉の側に立ち、村人たちの方を睥睨している。]
[檻の中――
ネリーは、男達が「セシリア」の身体を拘束しながら鎖を外すのを、固唾を飲んで見守っている。]
………………ッ!
[「セシリア」を拘束する鎖が弛む度、ネリーはガタガタと震える自分に気付く。しかし――]
服、脱がすンはワタクシの仕事でござェますンで、そこはワタクシにやらせてくだせェませ……
[慎重に、少しずつ、ボロ布と化したセシリアの服を剥いでゆく。]
[着替えのために、セシリアの手足を押さえようとして兵士達が檻の中へ入って来る。檻の中へ入れるだけの人数で入って来るのは、人外への恐怖のためなのか。
布が被せられた──が。衆人環視よりは随分マシではあったものの、檻の中にこれだけの人数が居ては…。
兵士達の怯えと好奇の混じった半端な視線に、セシリアは、一瞬、ぎゅっと眼を閉じた。
──着替え等要らない。
と、セシリアが動いた時に鎖がゆるみ──破けた服を剥いで行くネリーの太腿に、セシリアはぶつかった。
襤褸布のようになった衣服の一部がヒラヒラと舞う。]
──…ッ。
[セシリアの腕をむんずとつかむ。
興味深い様子で、腕をしげしげと眺めている。]
もっと筋肉隆々なのを想像していたが、
思ったよりもそうじゃあねえようだなあ。
[この行為は、彼にとっても良いアピールとなる。
人狼にこうして近く接することで、
周囲に怖い者知らずのイメージを植え付けられる。
そして、人狼という未知の力を援用して
自分の権威を高めるパフォーマンスになるのだ。]
……動かないでくだせェ。
動けなけりゃァ、すぅぐ終わりますから……
[太股にセシリアの身体がぶつかるのを感じ、ゆるやかに宥めるように、「セシリア」の身体から服を剥ぎ取る。
「セシリア」の身体は、ノーマンをはじめ大勢の男達に拘束されている。その中で「セシリア」の素肌を晒すことに多少の躊躇はあったものの――ネリーは、命令にどこまでも忠実に、「セシリア」の素肌を男達の眼前に晒し――その身体を丁寧に拭いた。]
[人数を頼みとしたかったのか、檻の中には思っていた以上に付添人があった。
昨晩の騒動を思えば、無理のないことではあっただろうが……。
クインジーはやや重い息を吐く。
誇らしげなノーマンの声と共に、兵士たちの喚声が上がった]
[──手枷の為に力が出ない。
枷さえ無ければ、ノーマンを振り払う事は容易であったのに。]
……………ノーマンさん。
鎖が無かったら、触れないんじゃないですか?
[挑発的な言葉を、わざわざ言う必要があったのかは分からない。]
これァ、化けモンだァ……
オレとァ違う、化けモンだァ……
だから、人前で服脱がすンも平気だァ……
だけンど……
化けモンと一緒に石ィぶつけられたオレは、何なンだろうなァ………
ああ、後ろのおまえ。おまえだよおまえ。
後ろのっておまえしかいねえだろ。
ちょっとどけや。
[顰め面で、セシリアを見下ろし延髄の辺りに踵を落とす。
ざわつく兵士たち。拍手をする者も。]
立場ぁわきまえな。おまえさんの手綱ぁ
俺たちが握ってること忘れなさんな。
[そう言い放つと、もとの形に戻るよう自警団に指示。]
[複数人の兵士でよもやということもあるまい。クインジーはそこに自分が居る理由がないことに気がついた。
檻から離れると、椅子の修繕に戻る。
その耳に、少し離れた檻からまた拍手と歓声が届いた。]
[延髄を蹴られた衝撃と共に、首の鎖が締め付けられ、口を開いてケホッと咳き込む。蹴られて、よろめいてもセシリアが倒れないのは、相変わらず手足を押さえられているからだ。
蹴られて痛みのある箇所は、すぐさま擦り傷よりも派手な痣になった。
咳き込んだ拍子にセシリアの口元が唾液で濡れたが、それを拭う者など、当然の様にいないのだろう。]
──…ッ。
村長さんと違って、殴るとか蹴るとか──それしか出来ない癖に。
そんなの、別に私……怖く無い。
[聖銀に囲まれているとは言え、この程度の打撲傷はすぐに消えるだろう──。
手枷の痣の位置にめざとくアーヴァインが気が付いた事を苦々しく思い出しながら、セシリアはそう思った。]
[「セシリア」を踵で蹴り下ろすノーマンにビクリと驚き、硬直する。]
……………ッ!
[「セシリア」の声を聞くか聞かずか――なるべく平然を装うように、歯を食いしばり、唇を噛み締め、無言で――慎重に「セシリア」の身体に服を着せてゆく。]
[「セシリア」に服を着せ終えると、その場から尻もちをついたように後退りし――ネリーはひどくひきつった表情で*檻を出た*]
兄貴と違って……なんだって?
[彼の声には、明らかな怒りが読み取れる。
兄と比べられたこと。それが怒りの
焦点であることは明確であった。]
そんなザマでも、大口叩けるのは褒めてやる。
ご褒美だ……後で母親に会わせてやるよ。
それまでは、これでもしゃぶってな。
[例の取り巻きの1人に命じて、どこかへ走らせる。
彼が戻ってきて、手渡したものをセシリアに投げる。]
母ちゃんの匂いがするだろ。
それでもしゃぶって懐かしい気分にでも浸ってな。
[投げ付けられたのは、女の小指だった。]
俺ぁ優しいからな。今はこれ以上痛めつけようとは思わんね。
[着替えが終わると、投げ捨てるように腕を放す。]
それにしても、今はこの怒りを受けてくれる
親切なヤツが必要だなあ。
それが、たとえば。たとえばの話だが、
おまえさんの母親だったとしても、それは偶然ってもんよ。
ハーハッハッハッハッハッハッハ!!
[邪悪な笑い声とともに、立ち去る。
去り際に、先ほどの少年を介抱していた
少女の顔面に蹴りを*見舞う*。
頬骨が折れる嫌な音が響いた。]
後で母ちゃんに会えるのを楽しみにしてな。
[頬に何かが当たる。
「それ」を見てセシリアは息をのんだ。]
……お、お母さん。
わ、私のお母さんに何をする気なの…?
お母さんは、関係…関係無いのに……。
[先刻、クインジーがこの服は母親が運んで来たものだ、と言った時に感じたえも言われぬ不安が、実体となる。
蹴られた時よりも痛みを感じた様な表情で、ノーマンを見上げた。]
[着替えが終わり、ネリーに続いてノーマンが出て行くと兵士達も素早く去って行く。
布が取られた檻の向う側、ノーマンが少女の顔面を殴る様子がセシリアにも見えた。]
(…お母さん。
お母さんは、私と違ってただの人間なのに。
あの子たちみたいに──されたら………。)
[もしも怪我によって不具者になれば、寡婦の一人暮らしは厳しいだろう。そもそも、それ以前にセシリアが人狼として捕まってしまった今、母親がこの村で生きて行く事が出来るのか──。
村八分。追放。
否、セシリアよりも先に母親が殺されてしまうのでは無いか。]
[絞首刑ならまだ死に際が楽だから良い。
けれども、ノーマンの口ぶりでは………。]
……………。
ごめんなさい、お母さん。
[檻の格子の外。詰め所の塀の向う側にある森の向うの、自分達の家の事を思い浮かべる。そして、少し太った優しい母親の顔を。]
[着替えが終わったようだった。ネリーが転がるように檻から出、哄笑と共にノーマンが姿を現した。ぞろぞろと兵士たちを連れ肩で風を切って歩み去ってゆく。
クインジーはシーツに手をかけ取り去ろうとした刹那――わずかに眼鏡の奥の少女の瞳に視線が吸い寄せられた。
どこか茫洋とした眼差しは哀しみの色を帯び、微かに揺れていた。]
なにか……されたのか?
[答えを期待できるはずもない問いがふと口をついて出ていた]
[クインジーの顔を凝視したまま、]
(お母さんの事を──彼に頼めるだろうか。
頼むとすれば、彼か神父様しか居ない…。
……でも。)
[そもそも。本来の娘「セシリア」を殺したのは、他でも無い自分だった。セシリアは感情の読めない淡い微笑を浮かべるとクインジーから*視線を逸らした*。]
[謎めいた微笑だった。
クインジーは一瞬虚を突かれたような表情になる。
言葉を発せぬまま視線を逸らした目の前の少女に、どのような言葉をかけたらよいものか判らぬまま、ただ顔を蹙めた。
手持ちぶさたに蒼穹を仰ぐ。ほんの一時、無言のまま静かに佇んでいた。]
――――――
衣服なるものを身に纏う人という生き物は実に面倒なものだ……と予は半ば厭きれ、半ば好奇に心騒がせながらその様子を子細に眺めていた。
眼下の檻の隣には、石垣が防壁として厳めしく立ちふさがっている。
その石垣の上に、蟾蜍の如くへばりつく黒い影があった。
予は何故にこそ斯様な場所に人が居るのであろうかと訝しんだ。いつの間にやら、石垣の隅、剪定されぬままに延び放題となった樹木の影に隠れるように、一挺の梯子がかけられていたのだった。
男は脂肪の纏い付いた重々しい巨躯を引きずり、蝸牛が這うような速度で石組の上を檻の方へと躙り寄ってゆく。
「ハッ ハッ せ、せすぃりぁ……」
押しつぶされた粘っこい声が男の口から零れ出ていた。
その男が村の中でうすのろとかごくつぶしと呼ばれているミッキーという名の男であることを漸く思いだした。彼はアーチボルド家の二軒隣の粉屋の息子だっただろうか。
程なくして梯子が見つけられ、男は兵士にこってりと油を絞られることになるのだが、その時には彼の思い描く至福の中にあったことだろう。檻の中を覗き込む彼の眼差しは恍惚とし、口元からはねっとりとした唾液が零れ落ちていた。
その様子はクインジーの目にも入ったのか、眉間の皺が一際濃くなった。
今はクインジーは家具の修繕を終えたばかりで男を気にする様子もなく檻へと向かう。
檻からシーツを取り去った彼の表情はひたすら不機嫌で、兇悪な容貌を際だたせていた。
――――――
[鐘楼の鐘が響き、時の変化を知らせた。
クインジーは神父の手を煩わせたことを知り、少々バツが悪そうに頬を掻く。しかし、少々時間にだらしのないところのあるこの男がその役目を失念することは度々あることだった。]
『取りに行かなきゃならねえ物もあったなあ……』
[元のように檻の鍵を閉める衛士を尻目に教会に向かいかけた足取りがふと止まる。人波の中から怨色を帯びた視線が刺すように感じられた。敵意を剥き出しにしたその面構えは、粉屋の若女将のものだった。]
「神様ァ信じてたって、このザマだよ! 一体教会はなにしてンだい」
[女将の教会とその番犬であるクインジーへの怒りは故ないことではなかった。]
[セシリアを弾劾したのはこの若女将であった。
彼女が何故にセシリアを訴えたのか、クインジーには確証のある真相を知り得ないことだった。
だが、そこに至る裏の事情としていくつか思い至ることがあった。
元々、粉屋という生業は村民の妬みを買うほどに豊かなもので、かくいう女将の家も少し前までは随分羽振りがよかったという。
それが変わったのは、この近辺の教会と信徒を管轄する修道会が村近くを流れる河川の水利権を得て大型の水車を建設してからだ。水路と遊水池の造成や水車の建設に関わるような技術は、聖職者たちによって研究され継承されてきた。領主は自領の発展のため、教会の設置と技術の移転に前向きだった。
だが、このことは粉屋のそれまでの寡占を脅かした。ここ最近では飢饉の影響もあり、生活に窮するほどに経営が傾いていたという。]
[粉屋の亭主が病没し、領主へ働きかけるすべを喪ったことも女将を追い込んだ。幾度かの陳情は功を奏さなかったようだ。
それがいきおい、領主の元で功労を立て、覚えのめでたかったアーチボルド家へのやや歪んだ怨嗟の感情を形作ったとしても不思議ではない。
女将はセシリアの眼鏡を見るたびに、領主のことを思いださずにはいられなかったことだろう。
粉屋には、セシリアとさほど年の違わない息子、ミッキーがいた。羽振りのよかった頃に甘やかされて育った彼は、暴食と怠惰から丸々と太っていた。彼はセシリアに執心だったようで、アーチボルド家の敷地内に忍び込んでは度々揉め事の種となっていた。]
[ミッキーのそうした奇行が、セシリアが人狼であるとの告発材料の発見に至る原因となったのか。はたまた、彼の変質的な行為の原因をセシリアに求めたが故の逆恨みだったのかは女将当人にしかわからないだろう。
クインジーは粉屋の女将と面識があり、ミッキーの奇行もまた知る立場にあった。修道会の命を受け、粉屋に廃業勧告をすべくしばしばそこを訪れていたからだ。
“勧告”とは言っても修道会の上役から求められた役目が聊か腹汚い種類のものだったことは確かだ。
そのことを思えば、セシリアが現在の境遇に置かれることとなったのも、遡れば己の宿業にその誘因の一端があるように感じられた。
それ故にこそ、クインジーの少女への感情は少々複雑なのだった。]
[だが、クインジーはそうした感情を表に現すことなく、女将を傲然と見下ろしながらそばを通りすぎる。
彼女は、ペッとこれ見よがしに地面に唾を吐いた。]
―教会―
[クインジーは、祈りを済ませ聖堂から出てきたばかりのルーサーと行き会った。
彼から、旅人の女についての話を聞かせられた。]
よりによってこんな時にねえ……
[この村の現在の状況は、彼女が唯に無辜の旅人であるなら災厄以外の何物でもないように思われた。]
わかりました。
たいしたことはできませんが、気にかけておきますよ。
[クインジーはそう答え、神父には詰め所で起きた出来事のあらましを話した。]
じゃあ、ちょっと気になってたこともあるんで、宿坊に行ってみます。
[気になっていたこととは、他ならぬ、セシリアの母親のことだった。狂瀾の渦中にあったその女性は昏倒し教会付の宿坊へと運ばれていったはずであった。
ルーサーがここに居るならば、彼が手当を済ませた後であろうかと尋ねてみた。すると、奇妙なことに宿坊にその姿はないという。]
妙ですねえ……
[クインジーは首を捻りながらも、ひとまず様子を改めるべく宿坊を*訪れることにした*]
─教会─
[クインジーから詰め所での出来事のあらましを聞かされるとルーサーの表情は曇った。
ノーマンの兄の権威を笠に来た横暴は今回の件で更に激しさの度合いを増したようだ。
取りあえず、怪我を負った子供達を見舞う準備をしようと、薬剤保管庫に行くことにした。
去り際に、セシリアの母について尋ねられたが、ルーサーには心当たりはなかった。今宿坊に居るのは旅人の女だけの筈である。
訝しくは思いつつも、とにかく怪我人を手当てするのが先、とルーサーは合切袋に治療道具一式を放り込み、*教会を出た。*]
資産家 ジェーン が参加しました。
資産家 ジェーンは、村人 を希望しました(他の人には見えません)。
―????―
お…お、お、お、…おおおお……。
おおおおおお……。
[女は涙を流し、小指を押さえて蹲っている。
右腕には汚れた包帯、髪の毛は乱れ、顔には青痣を拵え、村人に暴行された痕が――*生々しい。*]
―宿坊―
[静かに宿坊の扉を開く。光乏しく薄暗い室内の寝台の上では、ブルネットの髪の女が寝袋を毛布代わりに眠りについていた。
クインジーは女を起こさぬよう、そっと部屋を出ていった。]
お尋ね者 クインジーがいたような気がしたが、気のせいだったようだ……(お尋ね者 クインジーは村を出ました)
お尋ね者 クインジー が参加しました。
お尋ね者 クインジーは、人狼 を希望しました(他の人には見えません)。
―水車小屋―
[水車小屋に置き忘れていた私物を整理する。
アーヴァインが持っていた検査針を改めた。
ずた袋の中から革の道具入れを出し、簡単な作業を始める。止まり木の上ではエトワールがうつらうつらと舟をこいでいた。
やがて作業を終えると、クインジーは筆記具の入った布袋を携え、水車小屋を*後にした*]
―宿坊―
[神父から部屋を提供してもらって以来、
森の探索及び、その際に調達した食材を食べることと、宿坊での睡眠を繰り返している。
そして現在、食事を終えて再びベッドで就寝しているようだ。]
…ん。誰か来たのか…?
[周囲の音にようやく気付き、女はベッドから起き上がる。]
―宿坊―
[戸口から、髪の短い件の女が姿を現した。]
よう。
神父から話を聞いたかもしれないが、教会付きで雑役を手伝っている。
クインジーだ。
……よろしく
[挨拶をする]
[戸口から出ようとした途端、赤髪の男が目の前に姿を現した。]
初めまして。私はカミーラという者だ。
今はとある理由があって旅をしている。
というわけで、こちらこそよろしく。
[男が名前を名乗ったので、こちらも簡単な挨拶に加えて自己紹介をした。]
[目の前の女は、カミーラと名乗った。5フィート3インチ前後とセシリアとほぼ同じくらいの身長だ。]
どこまで旅を?
巡礼かな。
俺も元々はこの地の者じゃないんだがね。
ああ、そうだ、これを。
よければ食べてくれ。
さっき石窯で焼き上がったばかりだ。
[教会の裏手にある庫裏で受け取ったパンを差し出した。]
食事は別に振る舞われるだろうが、腹を空かせていたら……と思ってな。
医師 ヴィンセント が参加しました。
医師 ヴィンセントは、霊能者 を希望しました(他の人には見えません)。
──詰め所前──
[村人たちで立て込んだ通りで、馬を下り、従者に手綱を渡した。]
人狼騒ぎ自体は、本物のようだな。
人狼も本物なら、足を延ばして来た甲斐があるんだが。
[しっかりした足取りで、興奮した村人たちの間を進んで行く。]
……にしても、災難だ。
今はちょうど、人狼が出た――と騒動になってる。
早々簡単に村から出してもらえないかもしれねえ……
気をつけた方がいいぜ。
よそ者にはあまりいい雰囲気ではないかもしれん。
[期せずして、神父と同様の懸念を口にしていた。]
もっとも……
――あんたが人狼でなければ……の話だが。
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新