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村は数十年来の大事件に騒然としていた。
夜な夜な人を襲うという人狼が、人間の振りをしてこの村にも潜んでいるという噂が流れ始めたからだ。
そして今日、村にいた全ての人々が集会場に集められた……。
自警団長 アーヴァインは、村人 を希望しました(他の人には見えません)。
※ホラー風味、グロありのR18指定、(重)RP村。
※この村は、審問1813村『上海娼館 死者看了的紅夢』第二弾です。
※続き物ではありませんが、参加にあたり【★まとめはサイト必読】です。
http://fm7.biz/1z2q
※今からの飛び入り参加は後2人可能です。(その場合、非予約キャラを使用して下さい。)
※参加予定者で予約キャラを変更した場合(第二希望を選択した場合も)は、キャラ予約欄に記入して置いて下さい。
※アーヴァイン含む最大14人、最低12人で村は手動開始となります。
※初日は24時間進行です。
※一日目が始まったらコミットして下さい。
見習い看護婦 ニーナ が参加しました。
見習い看護婦 ニーナは、人狼 を希望しました(他の人には見えません)。
──…鬼の指ってのは。
果たして、冷たいもんなんでしょうかねえ。
お客人…。
[曇り一点も無く磨き上げられた黒塗りのタクシーにもたれ掛かり、去り行く客人の背を見送る、詰襟黒服の女が居る。女は悪びれもせずクククと笑い乍ら、白い手袋を填めた手で、制帽を被りなおした。]
アア、また怒ったまま行っちまった。
さて果て、今度はどちらの血縁の御親戚様やら。
旦那様が死の病だとか…マア、都合の良い話を信じてやって来て。旦那様の生存は確認したものの、顔も見せて貰えず幾日が過ぎ…痺れを切らし──と言った所だろうね。
別荘に戻って女中に聞けば分かる話だが。
[懐中時計をチラと見る。]
此処の所は自分も働き通し、客人には怒られ放し。
次のお客人が来るまで、麓で羽根を伸ばし──…何、ちょいとばかり酒でも呑ませて貰いたいもんで。…──支那から屍鬼とか言う化け物が海を渡って来たとか。面白い話でも魚にね…。
東京から来たと言う御親戚様の反応はアレだったけどねえ。
※【★passはまとめサイトの一番下に埋め込みました。】
※自己紹介をメモに貼って下さい。
※/PL/ 発言で人間関係の調整を行って下さって結構です。
___
◎聞き取り内容
名前:
簡易自己紹介:
希望する人間関係(有れば):
自キャラ死亡時の希望。若しくは、許容出来る死体の損傷度。(有れば):
戦後の混乱時期に独自の才覚で財を築いた男、アーヴァイン。土葬の習慣が残る山村部の更に奥地に古城の様な別荘を持つ。骨董や呪術品の収集癖が有り、そのコレクションは圧巻。最近大陸より珍しい水鏡を手に入れたと言う──。
水鏡を手に入れて以来だろうか。
仕事の一線を退き人と会う事を避け、別荘に籠りがちになったアーヴァインは、大病を患っているとの噂が有る。もしや死期が近いのではと、よからぬ目的でわざわざ別荘を訪ねる親戚筋やらも居るらしいが…。
麓の山村では、じわりじわりと大陸からの屍鬼の噂。東京では桜が散り始めた或る日、貴方の元へ一通の招待状が届いた──。
[女は帽子の下から視線を黒塗りの車中へ。
運転席の端には、クシャリと丸められたままの雑誌の切り抜きが転がっている。“屍甦る─”と言うおどろおどろしい見出し。見出しの側には、幾つかの聞き慣れない村の名前が有り、其の中には今、女運転手の主人──天賀谷 十三(あまがい じゅうぞう)──が滞在する此の………村の名も書かれている。]
…此処に記者様が来たと言う話は聞かないが。
首をもがれた死体が見つかったってえ話の方は、奥の奥に有る天賀谷様の別荘まで届いているからねえ。
確かに東京じゃあ無く、此の田舎に其の鬼とやらが出たら面白い。…ククク。
此処は未だ、取り残された様に土葬の土地だ──。
マア、残念乍ら。
其れ程、酒場に長居は出来まいよ。
…天賀谷様は、ご親戚筋のお怒りを余所に、知己の方々に別荘へ招待状を書かれた。
自分の仕事は招かれざる者、招かれた者、お客人のお出迎えですから──…。
とは言え。お客人の中には、自分の迎えが無くとも勝手にいらっしゃる方も居られるンでしょうがねえ…。
[縒れた煙草を銜え、車を見渡せる位置に有る馴染みの*酒場へ向かう*…──。]
アァ。酒場の灯りに仄白く透けた散り行く櫻が…──奇麗だ。
見習いメイド ネリー が参加しました。
見習いメイド ネリーは、おまかせ を希望しました(他の人には見えません)。
―天賀谷屋敷玄関口―
お帰りですか、
どうぞお気をつけて。
[乱暴な足取りで床を踏み鳴らす紳士淑女。
其れを見送るのは瀟洒な少女召使。
客人は形ばかりの挨拶もそこそこに扉の向こうへ消えて行く。
扉が外の光を遮るのを確認すると、召使いは顔を上げ]
―――ハイエナ共め。
[小さくそう毒づいた。
不機嫌そうに細められた眼は天鵞絨。
顔立ちも何処か西洋めいていた。]
書生 ハーヴェイ が参加しました。
書生 ハーヴェイは、守護者 を希望しました(他の人には見えません)。
―天賀谷屋敷玄関口―
[険しい表情の男性が、一通の手紙を使用人に差し出す。
使用人は、男を客室へと案内する。]
…………。
[表情を変えず、無言のまま使用人の後につく。]
[客室につくと、荷物をおろす。]
……向かう最中、支那から来た化け物がどうとか、
そんな噂が囁かれていたな。
[血走った目。そして溜息。]
くだらん。支那など「眠れる獅子」と言われながら、
その身を食われた、ただの「死せる豚」ではないか。
私が戦った日本という国は、このような臆病者だったのか。
いや、そんなはずはない。この国には、必要なのだ。神風が。
[憂いを帯びた表情で*呟いた*。]
未亡人 オードリー が参加しました。
未亡人 オードリーは、人狼 を希望しました(他の人には見えません)。
─天賀谷邸・エントランス─
[カツカツ、と靴の踵の床を打つ音が高らかに響き渡る。
滑る様な足取りで颯爽とエントランスへと入って来たのは、濃い緑のスーツを着こなした若い女性だった。
些か日本人離れしたすんなりとした姿形、見詰めると相手を射抜く様な大きな瞳は、艶やかな黒髪が綺麗にウェーブを描く様と相俟って、先年公開されて大人気となったあの外国映画のヒロインを髣髴とさせる。
彼女は出迎えの礼を取った執事に閃く様な微笑を送った。]
御久し振りね。
天賀谷様のご様子は如何かしら。お加減は宜しいの?
[背後の扉から、トランク数個が天賀谷家の使用人達の手で邸内に運び込まれて行く。
執事がエントランスに居並んだ召使達に短い指示を出すのを眺め、]
碧子が参ったとお聞きになったら、飛び出して来られるのではと思いましたけど……フフ。
いえ、冗談ですわ。
天賀谷様の御顔も拝見したいのですけれど…それでしたら先に少し休ませて戴こうかしら。
東京からは長旅でしょう? すっかり草臥れてしまいましたわ。
天賀谷様にはこんなお婆さんみたいな姿はお見せ出来ませんものね。
[そう嘯いて、*嫣然と微笑んだ。*]
異国人 マンジロー が参加しました。
異国人 マンジローは、村人 を希望しました(他の人には見えません)。
―朝早く―
[それが叶えば、ほとんど天賀谷十三と初めての対面だったことだろう覚えの無い名の親戚筋。
今もまた一組、やっと帰って行ったそういう財産目当てに違いない招かれざる客を、エントランスホールから黒塗りのタクシーまでお見送りするまでの時間]
やれやれ…副執事だなんて言やぁ、聞こえはいいけど。
[車の走る音がしたから、その時間も十分に過ぎた。
頭を下げた直後には、麻シャツの襟のところで小さく揺れていた低く結んだ自分の髪の先も、今は完全に止まっている。
それくらいになって初めて、万次郎は溜息をつく]
懲り懲りだ。
旦那様に会って頂けない鬱憤を、余所にぶつけるようなああいう……、
[品良い微笑み顔を崩していなかった万次郎の顔が、そこでようやく苦虫を噛み潰したような物になる]
…性質の悪いお客の相手は。
[他の使用人達に聞かれぬよう、こっそり呟く。
彼らとて思いは同じに違いないが]
とは言えなあ…我が上司様は、旦那様と葡萄酒のお世話で忙しいもの。
角のたたない範囲で、旦那様がお会いにならない理由をでっち上げ続けて、時にはそんなお客の愚痴もお聞きして…
つまる所、態良く追い払いたい客の応対の為にこの俺を使って下さってるって、そういう訳なんだろうし。
でなきゃまともに旦那様に顔も合わせられないこの俺が、こんな大層な役目だなんて仰せつかるもんかい。
[そして主人は見目良い者に客と直接接する仕事をさせるのが好きなのだろうと、万次郎は思う。
あの天鵞絨の眼を持つ西洋人形的な少女召使も、女の身を制帽と詰襟黒服に包んだタクシードライバーも、その良い例ではないだろうかと]
[自身の宛がわれたお仕着せの燕尾服もまた上等で、誇らしくないと言えば嘘になる。
しかしシャツと同じ素材の白タイも、前でかっちり留められた金ボタンも、慣れてしまえば窮屈だ]
あぁ…銀器磨きも給仕も、肖像や骨董のハタキかけも全部ほっぽってさ…
招かれざる客なんぞには全員今すぐ帰って頂いて、ちょいと山を下って…
酒でも飲みながら、羽伸ばしといきたいよ。
[首や肩を回すとゴキッと音がして、さすがの音の大きさに少し笑って]
ふふ…道中、噂の屍鬼とでもばったり出会えれば、しばらく話のタネにも困るまいしな。
[もちろん、そんな訳にはいかないと分かっている。
主人は方々に招待状を配ったとか言う話だ。
これからも続々と客が訪れるのだとして、それが招かれた客であるならば、迎えるほうの心構えもまた変わってくるというもの]
旦那様がお招きした方々なら、今までよりずっとましなお客様方なんだろうな。
…失礼の無いようにしないと。
[戻っていく万次郎の表情は、既に引き締められたものに*なっていた*]
―天賀谷屋敷内―
お疲れ様。
[すれ違い様、翠は髪を高く結上げた執事見習い――藤峰万次郎に声を掛けた。]
御客様は帰られたのね。
ああいった手合いが多くて困る。
旦那様をなんだと思っているのかしら。
噂の屍鬼にでも襲われてしまえばいいのに。
――冗談よ、勿論。
[冗談と謂いながらも言葉に険がある。
翠は財産目当ての自称親戚筋らをことに嫌っていた。
それは、使用人達も知るところであり、また翠自身も否定しないところであった。
無論、仕事はきっちりこなすのだが。]
大河原様と、江原様がいらしたわ。
お出迎えした?
[翠は首を傾げて尋ねた。]
――大河原様はともかく、
旦那様が客人を招かれるなんて珍しい。
何か、あるのかしらね。
[翠はよく磨かれた手摺に手を乗せ、質問の形をとった独白を漏らした。
僅かに眉を寄せている。]
考えても、仕方ないか。
旦那様に御考えがあるなら従うだけ。
引き止めて御免ね。
[仕事中だしね、と歩き始め]
――そういえば、貴方首を鳴らす音大きいのね。
吃驚した。
[最後に悪戯っぽくそう万次郎に謂うと、
背筋を伸ばし、*模範的召使の顔になる*]
―天賀谷屋敷内―
ええ…、ただいま戻りました。
[かけられた声に振り向けば、そこには天鵞絨の眼を持つ西洋人形のような少女召使。
歳も身長もそうは変わらない彼女だが、それにしても美しいものを見定める主人の目は、まったくの慧眼だよなあと万次郎は思う]
おやおや…随分な仰りようで。
[だけどもそんな翠の口からは、中々どうして気強い言葉。
もちろん咎める顔で睨んだりなどしない。
翠の招かれざる客嫌いは使用人の間でも知られていることだし、口にするかしないかの違いで多くは似たようなものだ。
仕事もきっちりこなしているのだから、そこに問題などあろうはずも無かった]
江原様でしたら、ちょうど俺居合わせられましたんで部屋までご案内できました。
だけど無口な方なんだなと思っていたら、血走った目で例の噂について零されて…
…ちょっと、怖かったな。
[...は江原の険しい表情を浮かべて、その時の緊張感を思う。
憂いを帯びたあの表情は絵になるのだけれど、溜息後何事か呟く姿はどことなく思いつめていることがあるようで、血走った目と相俟って少し怖く感じられた]
大河原様は…
[細い身体から伸びる長い手足、艶やかな黒髪も豊かに嫣然と微笑む美貌の婦人を思い出して、万次郎は眼を細める]
あの伯爵夫人…元、伯爵夫人には、ここぞとばかりに我が上役様がおいでになって、いつもの気取り顔でご案内なさってましたよ。
[そしてテキパキとエントランスに居並んだ召使達に指示をして見せる辺りが抜け目ないのだからと、指示された側の者として万次郎は小さく付け加える。
抜かりなく仕事をこなせる有能な自分の上役であるところの執事を、万次郎は尊敬している。
しかし彼が出てこなければ、あのポスターでだけ目にしたことのある外国映画のヒロインにも似た方を案内するチャンスが自分にもあったかもしれないと、やや悔しいのだ]
旦那様にとっても大事な方だから粗相の無いようにだなんて言って風のように執事室から出ておいでになったけど…俺にはわかる。
大河原様は疲れてご自分ではお婆さんみたいな姿だなんて仰っていたけど、…とんでもない。
あの微笑みをほんの束の間でも、少しでも近い距離で目にしていたかったに違いないんだから。
[尋ねる翠に、答える自分の顔がやや仏頂面になってしまったかなと、慌ててそこで口を噤む]
…そうですね。
旦那様がお客様を招かれるのは、確かに珍しい…
でも同じお客様なら、旦那様がお呼びになった方のほうがずっともてなし甲斐があるってもんです。
[独白の様に漏らした翠の言葉に返して、僅かに眉を寄せる彼女とは対照的に、微笑みながら肩を竦めた]
いえいえ、この仕事俺にはまだ慣れないし…雑談は良い息抜きですよ。
[軽く手を挙げて首を横に振る万次郎へ、翠は最後の一言と一緒に悪戯っぽく笑う。
朱に染まりかける顔を隠した咳払いの後、今度は首を鳴らすことなく逆方向に足を進めて*背を向けた*]
冒険家 ナサニエル が参加しました。
冒険家 ナサニエルは、守護者 を希望しました(他の人には見えません)。
―東京・とある古美術店―
[白鞘に刀を収めると、口に銜えた懐紙、ならぬチリ紙を傍らに置いた]
地金がよく錬れて詰み、焼刃は直刃。小乱で細かな金線・砂流しや小足・葉が働く……。
俺の目に狂いがなければ、国は美濃。おそらくは兼国と見た。どうだ?
「当たりですな。さすがは十代目」
……十代目はよせ。ご先祖とはじいさんの代ですっぱり縁が切れてらあ。
持ち上げたって何にも出ないぜ。
「それは残念。いかがでしょうなその刀。しかるべき筋への斡旋をお願いしたいのですが」
無茶を言うな。
金ピカに飾り立てたこしらえがついていりゃあまだしも、白鞘と刀身だけじゃねえか。
こんなモノ、見つかったが最後GHQに召し上げられて鋳つぶされちまわあ。
……悪いこたあ言わん、蔵の奧へ隠しておけ。
俺も、業物がヤンキーの手に渡るのを見るのは忍びない。
[骨董品店の店主は...に嘆願する]
「ですがこの刀の主は金子にお困りの様子で」
今の御時世、金に困ってない奴なんかいるのかい。
「もう寄る辺は望月さんしか」
そう言われたって、金持ちでしかもGHQの目をくらませる田舎暮らしの知り合いなんぞ、俺には……
「……望月さん?」
いた。一人当てがある。
[蔓はある。しかし、そいつの好みは俺には分からない]
……おまえさんの所にあるめぼしい刀を、もう何振りか持ってこい。
どれかがお気に召すかもしれんからな。
「お気に召すって……何処のお客さんなんです」
……五月蠅いな。
俺でなくちゃ逢えない手蔓なんだ。おまえさんはおとなしく東京で待っていな。
学生 メイ が参加しました。
学生 メイは、守護者 を希望しました(他の人には見えません)。
[夕闇に暮れた駅舎に警笛が谺した。
ボォーッというどこか物悲しげな響きを残し、汽車が出る。僅かばかりの乗客も大半がこの……駅で降りた。改札では駅員が切符を受け取って彼らを見送り、遣れ遣れといった風情で小さく伸びをした。次の列車まではまた相当の時間があるのだろう。彼の視線がホームを見遣り、未だ其処に佇む娘と同行者の姿を見出したのは、もう警笛の音も遠くなった頃のことであった]
[押し迫る夜の帳を祓うように、やがて電熱灯に光が点った。
照らし出された娘は、年の頃およそ15,6か。されどいま一方の姿は、其の光で浮き出た闇に却って沈み、判然としなかった]
行ってしもた、なぁ……。
うち、ほんまに行ってしもてもええんやろか。
[風がさわさわと木々をなびかせ、其れに乗って娘の呟きが駅員の耳に届いた。山間ながらも、さして寒いとは感じられぬそよ風だった。
とはいえさすがに焦れたのか、同行者は娘の袖を引く。
さつきさん、という呼びかけを彼は聞き取り、娘の名を認識した]
ん。かんにん、かんにん。
ちょっとなぁ、ぼぅっとしてたて言うか。
[さつきと呼ばれた娘は、はにかんだような笑顔を見せて改札へと向かう]
……こない山奥でも、やっぱり桜は散るもんやねんなぁって……そう思て。来しなかって、大方の桜が散ってしもてたやろ?
もう卯の月も終い近こなってんなぁって……。
[駅員に切符を渡してさつきは改札を抜ける。と――。その一帯には、時季外れの雪のごとく、薄く白い花弁が舞っていた]
[さつきが周囲を見回せど、桜の樹は見当たらぬ。
いずれから花びらは飛んで来た物か――]
―― 深草の野べの桜し心あらばことしばかりは墨染にさけ
[そうしてただ宙を見つめる彼女が、何と感じて其の歌を諳んじたのか――知る者はなかった]
──麓の村/酒場──
[はらはらと櫻の花弁が舞い散る光景を窓越しに眺め乍ら、女運転手は杯を重ねて居る。帽子も取らぬ制服姿の侭だ。酒場に運転手の他に、女の客の姿は無いが、何時もの事なのか其れを気に掛ける様子は無い。]
──…へえ。
姐さん、そちらの兄さんの家に屍鬼が出たってのは本当かい?
[腰を浮かし、馴染みの姐さんの居る方へ移動する。
既に冷めかけた熱燗の徳利の口をブラブラさせながら。]
自分はこの店の馴染みだが…、
見かけない兄さんだねえ。確かに顔色が随分悪い様だが、へえ…男前じゃないか。
[帽子から覗く片目だけで流し目。ククと笑い乍ら、屍鬼が家に来たと言う若い男をそのままじろじろと眺める。男は杯を持ったままカタカタとからくり人形か何かの様に震えている。]
……此処では言えない程おそろしい目にあったのかい。
[姐さんにもう一杯この兄さんに付けておくれ──と声を掛け乍ら、]
酒を呑んでも言えない程かい?
…それは、是非とも聞いてみたくなるねえ。
/PL/
【仕様告知】
メイの発言は『審問風ワイド・MSPゴシック・文字のサイズ小』を前提として改行・文字アケが組まれています。
発言ボックスの中で打っている場合は別だけど。
今回は(も)守護者希望をしてみました。
通った場合は前回の汚名を雪ぐべくがんばりますよっ。
通らなくってもだけど。
村人引いてたら影踏みとかしてみようかな。
>メイメモ
まってまだ来ないでー!
(見当たらない描写がしたいらしい
―列車の去った駅舎―
[長身の男が一人、自身が引きずり倒されそうな大荷物と共に座り込んでいる]
……重い。
[仕事道具そのものの重さもさることながら、梱包が大仰なのだ]
……これ、どうやってお屋敷まで運ぶつもりだったんだ、俺。
/PL/
焦りすぎだった……ニーナメモだって。
そしてこっちでは京ことばOFF。
中の人コメントはプロローグだけにしておきます。
[酒を注ぎ乍ら、]
…もっと酔って吐いておしまいよ。
それとも。
もっと闇が深い場所が良いかね。
[低い囁き声。]
何処かへ…──
このまま二人で消えるかい?
[仕事道具は持って、運ぶことの出来ぬ重さではない。だが、これを担いで延々歩く事を想像すると、荷物以上に腰が重い]
とりあえず、駅の外に出てみるか。
お迎えがあるかもしらん。『望月龍一様、いらっしゃいますか?」なんて、な。
[さして広くもない駅前の停車場には、車が一台停まっていた。街で良く見かけるオート三輪ではなかった。黒塗りの四輪車であった。厳ついとさえ云えそうな車両が宵闇の中、静かにうずくまっている――しかし、運転手の姿は見当たらぬ]
……うん。変やなぁ。
……伯父様の持ってはる車やのにねぇ。
運転手はん、何処か云ってはるんやろぅか……。
[連れの者は停車場に踏み出し、車の様子を確かめているようだった。だが車の扉には鍵が掛けられていた。首を振る姿に、さつきもほぅ、とため息をついた]
[お迎えが美女ならなおいいが、まあ、そんな夢物語はおいておくとしよう]
う、ぐ、負けんぞ。
[よろよろ、荷物を担いで立ち上がる。駅を出ようと歩むうちに、さつきたちの存在に気づくだろうか]
[其の時、ポォと汽車の音が響いて来た。
丸めた背を伸ばし、窓の外を眺める。櫻の向う側で駅に寂しげな電灯の灯りが付いた。と言う事は、降車客が居たと言う事だ。]
…と思ったが残念な事で。
自分は仕事に戻る時間でさ。
何、兄さん…。
このまま更けて行く夜闇が怖いのだろう?
……ねえ、あたしが戻って来てやるよ。
だから──…、
[女運転手は、震える男を言い包めて男の自宅を聞き出した様だ。住所の書かれた小さな紙を胸ポケットに押し込むと、帽子を目深に被り直し、駅へ──…未だ見ぬ天賀谷の別荘への客人を迎える為に店を後にした。]
……え、探しに行かはるん?
そないせつろしぃせんでも……うち別に疲れてへんえ?
[と――さつきが止める間もなかった。運転手と思しき人物を探しに行ってしまったようで、仕方なく、其の後姿を見送る。何の気もなしに駅舎の方を見遣ると、大荷物を担いだ青年の姿が目に入った]
うわ……何やのん、あれ……?
医師 ヴィンセント が参加しました。
医師 ヴィンセントは、守護者 を希望しました(他の人には見えません)。
――春風の 花を散らすと 見る夢は
――さめても胸の さわぐなりけり
――
ふわりと白い花片が舞い落ちる。
箱根山は櫻の名所だ。
私はしばし、空を流離う華の影に心を寄り添わせていた。
純白の花片は儚い魂魄のようだ。
この地で観る櫻に殊にそのような感慨を持つのは、自分自身の来し方に未だ囚われているためだろうか。
今は米軍に接収された陸軍軍医学校防疫研究室に僅かに眼差しを向ける。
その場所に足を踏み入れることは、二度とないのだ。
微かに首を振り、停めてあった自動車のドアノブに手をかけた。
──麓の村/車前──
[酒気は帯びているはずだが、女の動作には酔いの片鱗を見つける事は出来ない。車の傍に戻ろうとして直ぐに、少女が困った様子で佇んでいる事に気が付いた。]
──…此れは。
お待たせしちまいました。
天賀谷様の処へいらっしゃったお客人…ですねえ。
[失礼致しやした、と帽子を取って頭を下げ、また帽子を被る。]
灰燼と帰したこの街に戻ってきてから幾度目の春を迎えたことだろう。
かつて陸軍の施設のあった広大な原野には次々と復興住宅が建ち並び、この街の風景は随分と様変わりした。
しかし、米軍の爆撃にも耐えた、戸山ヶ原射撃場の巨大な建造物は未だにその重々しい大躯をこの地に横たえている。
生まれ変わろうとしている東京の中で、忘れ去られぬよう過去を刻印するかのように。
この街を離れるにあたって最後に訪れることになったのが、忌まわしい記憶の眠る場所であったことは因縁めいたことだった。
私が箱根山へ赴いたのは趣味に近い副業の取引のためだ。
私は医者でありまた研究者でもあったのだが、米軍関係者と接する機会が多く、その伝手から様々な貴重な品を入手する機会があった。
天賀谷氏と接する機会を得たのは本業の医業からではなく、趣味の美術鑑賞を通してだったのである。
骨董品や美術品に関する造詣の深さは到底天賀谷氏に及ぶべくもなかったが、別荘に籠もりがちの彼からすれば、米軍関係者や旧軍人と接点のある私のような人間はその蒐集癖において便利な存在ではあったのだろう。
私自身は金銭に窮している身の上ではなかったが、彼の蒐集物に関心もあり趣味も高じて時折その労を担っていた。
天賀谷氏の蒐集へ向けられた関心の真の理由についてはいずれ語るべき機会があるだろうか。
天賀谷氏に渡すべくとある品を入手したその日、帰宅した私の元に届いていた招待状は誰あろう、彼からのものだったのである。
――
何買ぅてきはってんやろ、あの人……えらい大層な包み担いではるけど。わ、危なっ。
[面識もない人物ではあったが、荷物の嵩と重さに苦労している様子は見て取れた。とはいえ自分が手を出しても助けにはなるまい、とさつきは思い、目を丸くしつつ口元に手を当てた]
[薄暗がりで、黒塗りの車を見つけたのは、おそらく僥倖。
春風にふわり舞った花びらを目で追いかけて、その止まった場所が、車の窓硝子だったのだ]
あのご大層な車、もしかするとお迎えかな。
[期待に満ちて歩を早める]
鍛冶屋 ゴードン が参加しました。
鍛冶屋 ゴードンは、ランダム を希望しました(他の人には見えません)。
―天賀谷邸に向かう車の中―
[彼は高揚感と焦燥感の只中にあった。]
(俺はこのまま終わるような人間ではない。必ず返り咲いてみせる…… 必ずだ……)
―麓の村・駅前→車前―
[暗くて、車の傍らにいる人影の男女は分からない。大声に呼びかけながら近づいていく]
其処にいるのは、迎えの人かい。
[よいしょ、と荷物を背負い直すと、口の中に花びらが飛び込んだ]
――本日・午後
天賀谷氏がわざわざ招待状とは……。
これはどういった趣向の催しだろうか。
[うららかな日和の田園の中。細い道路を土埃をあげながら走る愛車のハンドルを注意深く切りながら呟く。]
[純白の1937年式リンカーン・ゼファー。春の豊饒の風の神の名を冠するその車は、本来ならこの時期に気持ちよくドライブを楽しむのにふさわしい車だっただろう。
しかし、山を越え至った地方の道路の多くは、自動車が通行するのには神経を使う狭隘な道筋だった。舗装されていない路面はあちこちにでこぼこがあり、ガタガタと車体が揺れる。
それだけではなかった。リンカーン・ゼファーのバンパーの下には牽引装置が取り付けられ、一台のトレーラーを牽引していたからだ。]
無事、たどり着けるかな……。
[研究機材を搭載しているため、振動対策には気を遣っているはずの車両だったがそれでも悪路が気にかかる。かつてトレーラーを牽引していない折にはさほどの距離とは感じられなかった、天賀谷氏の別荘までの道のりがひどく遠く感じられた。]
[高原に至り湖の側を抜ける道にかかって、ようやく道路が平坦になった。窓からは心地よい西風が吹き込んでくる。
周囲の風景が馴染み深いものとなってきた。
胸の中を郷愁と恐れ、矛盾する二つの感情が満たす。]
……もうじきだ。
[家々に視線を向けないようじっと前を見据えたまま、別荘に至る麓の集落の道を通り過ぎていった。]
[身なりのいい少女と、きちんとした制服を纏った妙齢の女性が目にとまった。他の人影は暗いせいでよく見えない]
天賀谷氏の車、なんだよな?
[こんな立派な車、早々誰もが乗れるものじゃない]
助かった。見てのとおりの荷物で往生してたんだ。
[ほっとした声で手近な二人に話しかける。人好きのする笑顔]
…へえ。
随分と若いお嬢さんと、大きな荷物のお客人だ。
こりゃあ、遅くなっちまって申し訳なかった、お二方。
自分は、天賀谷様の所の運転手で仁科(にしな)と申します。
[望月の「迎えの人かい」と言う言葉に頷き、]
膝に抱えてなきゃあいけない様な品で無いのなら、今、トランクを開けましょう…。
[青年が荷物を背負い直した。まるで、ごそりという物音と同時に重量感までが伝わってくるようだった。其の様子を見続けるうちに、此方へ向かっているのだとさつきは気づいた]
……え、うち?
ううん、うちは違うんどすけど。運転手の人はもう来てて、この辺の何処かに居てはる思うんどすけどなぁ。
[正確には彼が向かっているのはさつきではなく、自分の背後に停まっている自家用車なのだ、と彼女は認識を改めた。そして漸く、思い至る]
逃亡者 カミーラ が参加しました。
逃亡者 カミーラは、占い師 を希望しました(他の人には見えません)。
[櫻]
[桜]
[さくら]
[舞い] [山桜] [ソメイのようには散らぬ] [山の古樹]
[女] [炯眼にて] [旧き意匠ながら新しき宅を] [カァ]
[女中の着物の衿首を] [無意識に隙間を空けて]
[駅と駅前の酒場から零れる僅かな灯りの中、目を凝らす。
どちらも初対面の客だ。天賀谷がどの様な人物に招待状を送っているのかもしれない。天賀谷の交際範囲は広く、未だ運転手になってから数年の仁科には計り知れない。
さつきに向かって、]
…お嬢さん。
そちらの客人はお嬢さんの後ろに居る自分を運転手だと分かっていらっしゃる様ですよ。流石に、小さなお嬢さんを捕まえて運転手は無いでしょうよ。
と、お二方のお名前を伺っても宜しいですかね?
[目元は制帽で隠れたまま、しかし望月の笑いに答えて口元を笑みの形に動かす。]
……おん……なの、人?
[呟きは仁科と名乗った運転手へのものであった。随分小柄だ、とは思っていたが声の高さとトランクを開ける横顔でようやっと得心がいったのだ]
……あれ?
そしたら、此方も叔父様に縁おありの方で居やはったんどすか? それはえらい、手ぇも貸さんと、すんまへんえ。
[笑顔を向けてきた青年に謝って答えながら、積み込む様子を眺めた。自分の荷物は入れる余裕はあるだろうか、無くてもさして問題になる量ではないが――]
あ、もしかしたらうちのことは聞いてはるかも知れまへんけど。
京都から来ました、さつきです。
十三叔父様には昔っから、いつも良ぉしてもろてて。
[鞄に視線を落とす]
御父様からの手紙、預からして貰うてますんやけど……。
御会いできますのんやろか。
[櫻の花弁は相変わらず、はらはらと舞い散り続けている。怯えた男が未だ居るであろう酒場に後ろ髪はひかれたが。
この辺りは駅近くは水田が多く平地と言って良いのだが、天賀谷様の別荘は駅から随分離れており、別荘近くの山道は随分と険しい道になっている。崖道と言って良い。
客人二人の組み合わせを眺め、マア、あのまま男の家に流れて行っていたら酷い話だったろうと帽子の内側で密かに、仁科は苦笑した。]
『怯えた男が妙に気に掛かるのは困った性癖で。』
―天谷屋屋敷エントランスホール―
[典雅な装飾が施された窓の向こうで月の光が揺れている。]
御客様、
到着が夜遅くになるということだったけれど。
[八重櫻がほろほろと散るのを
翠は眼を細めて眺めた。]
仁科さん大丈夫かしら。
御酒呑んでたりしてね。
[とんとん、爪先で床を鳴らす]
[車の傍らにいったん荷物を降ろし、肩をぐるぐると回して答える]
俺は望月。望月龍一だ。招待状は荷物の底にしまっちまった。今取り出せそうもないんで、勘弁してくれ。
[さつきに答えて照れくさそうに]
縁がおありなんてそんな大したもんじゃ……。
[『叔父さん』の言葉に気づいた]
俺なんぞ、ほんの浅い縁だよ。血縁じゃあないしな。
[さつきと望月両方の言葉に、]
確かに、女だてらに運転手と言うのは珍しいかもしれません。マア、天賀谷様に拾って戴いたあばずれでさ…。
ロクなもんじゃあ有りません。
天賀谷様は拾い物が上手なお方だ…──。
そうさねえ。この辺りは良いが、別荘付近は一歩間違ったら崖下へ真っ逆さまの蛇みたいな道で…──。逆に大切な荷物なら抱えてらっしゃる方が良いかもしれませんねえ。
[まさか死体じゃあ有りませんよねえ、と冗談を言いながら、後部座席の扉を開き。]
[その場にいる人数を数え、自分の荷物をじっと見る。これ全部をかかえたまま車には乗れない]
…ちょっと荷物をばらさせてくれ。
[大きな荷物をほどけば、半ばは刀の手入れ用具、もう半ばは丹念に梱包されたいくつもの細長い錦地の袋。素人目にも刀が入っていることは想像に難くないだろう。
荷物を半分にわけて仁科に尋ねる]
此方の半分だけなら、膝にかかえて乗ってもいいだろう?
[刀をかかえて屈託なく微笑む]
望月さん、言わはるんどすか。どうぞよろしゅぅに。
[両手で鞄を提げたまま、にこやかに微笑んで辞儀をした。
車のドアを開けようとする仁科の動きに、はっと思い出す]
あ、そや、相乗り言うたら、ええっと、あの……。
もひとり、うちの連れが来てますのんやけど……見はらしませんどした? 器楽のセンセですねん。
[何の、とはさつきはあえて口にしなかった。ただ器楽の、と云う形容になったのは、何処か心中で疎遠なものを感じていたせいであった]
[さつきに、]
アァ、以前に天賀谷様に…と、そちらも天賀谷様になりますね…お名前を伺った事があるかもしれません。
十三様は、望まぬお客様にはお会いにはなりませんが──……と言うより、自分も最近はお顔を拝見してないのですがね、大丈夫じゃあないですかい?
[少女の落とされた視線が気になったのか、安心させる様な言葉を続ける。]
うぅん……困ったなぁ……何処まで行ってしまわはってんやろ。
[さつきはぼやくように呟いたが、心配げな表情は大きな荷包みを解いていく龍一の様子に、興味津々といった色合いに変じた]
へぇ……すごいなぁ、こんな、仰山……。
望月はん、骨董商か何かしておいでですのん?
よろしく、さつきちゃ……さつきさん。
[ちゃん、と呼んでは馴れ馴れしいかと思い、さすがに改めた]
お連れさんかい?あちらの、櫻のあたりに向かう人影を見たがそれがその人だったのかな。
[すっかり暮れてしまった空を見上げ、小さくため息]
音楽に携わるほどのお人なら、月に照らされた夜櫻でも見に行ったのかもしれん。
―─天賀谷屋敷/一階炊事場→エントランス─―
[夜桜は番茶を淹れている]
[朧月の光は天候の崩れの予兆]
仁科さんは弁えておりますよ。
[階段裏手から現れる]
お客様がおいでになられるまで少し休まれませんか。
番茶を淹れました。
[さつきに感心されて面映ゆい]
骨董と言っても、刀剣が専門だ。広く浅くは扱わない。
江戸の頃から代々刀剣の鑑定をしてきた家柄でね。昭和の今になっても俺はその縁から離れきれないのさ。
[刀袋を愛しそうに撫でる]
月……どすか。
[龍一の言葉にふと東の方を見遣れば――煌々とした月明かりが、山の端から漏れ出でていた]
あぁ……そう云えば、昨日くらいどしたなぁ、満月の晩て。
黄沙のせいか、えろう赤い不気味な感じの満月どしたけど。
/PL/
時間的な問題とネリーさんを待たせてしまっている?
のかも知れないので、適宜巻きに向かってしまっても良いでしょうか。
さつきとしては良い頃合だと思うのですが、いかがでしょう。
[背後から声を掛けられて、
翠はゆったりと振り返った。]
そうね。
呑んでてもなんて事はない顔をしてるかも。
[続いた夜桜の言葉に、微笑を浮かべ]
ありがとう、夜桜さん。
頂くわ、春とは謂え夜はまだ冷えるわね。
まだ他にお客人がいらっしゃるなら、待ちますか?
汽車は先刻のが最後でしょう…。
それとも、自分がさつき様と望月様を別荘にお届けした後で戻りましょうか?
[刀袋を愛でる様に撫でる望月を面白そうに、]
鉄不足の戦中に生き残った刀なんですねえ。
……望月様は、刀剣の何がお好きで?
今では一応骨董の類に入るとは言え、人殺しの道具だ。
人殺しの道具は美しくとも、思わず手に取り人を殺めたくなる様に上手く出来ている。
赤い満月ねえ……。
ああ、大陸の月はそうだったな。風が吹くと大抵、ね。
俺は今みたいな春の月が好きだよ。
あんたの先生も大方花月夜を楽しんでるんじゃないかなあ。
[……夕暮に降る薄雪の心地して
おぼろ月夜に散る櫻かな……
ちょうどそんな句が似つかわしい。
この荷物がなければ、自分も夜櫻が見たいものだと思った]
[湯気の上がる湯飲みを
両手で包み込むように受け取った。
夜桜の微笑みは其の名を現れているかのような艶を含んでいた。]
うん、気をつけるわ。
ありがとう。
夜桜さんは大丈夫?寒くない?
[翠は湯飲みに口をつけると、
小さく「あつ」と謂って息を吹きかけた。]
ううん、と…………
ほんま、センセ何処まで行ってしまわはってんやろ。
[まったく、どうしたものかと悩み込んだのも束の間、通りの角を曲がって来る人影が目に入った]
……あ!センセ!
[大声に気付いた彼の姿は慌てたように、此方へと走ってきた]
…──月ねえ。
[こちとら野暮なものでと呟き乍ら夜空を見上げ、肌寒さに黒い制服の肩を僅かに震わせる。恐らく、山荘の女中達は──特に生真面目な所のある翠は、客人を連れて戻って来るであろう仁科の戻りを起きて待っているのだろう。]
春とは言え、冷え込んで参ります。
器楽の先生とやらはいらっしゃらぬ様ですし、別荘へ参りますしょうか?
もう、何処まで行ってはったん?
……そやけど、クスクス、お疲れさまどした。
此方が、うちらを送って呉れはる運転手さんで、仁科さん。
それで此方が、望月さん。骨董商やねんて。
それから、こっちで息切らしてはるのんが、うちの音楽の先生で――。
[と手短に紹介の挨拶を交わし、さつきは最前から乗客を待つ車へと乗り込んだ]
―天賀谷別荘前
……ふぅ、参った。
予想以上だ。
[麓から別荘に至る急勾配の隘路を、事故に遭うことなく登ることができたのは好運なことだった。中途エンストし、研究車の車輪が轍の窪みに足をとられた時には絶望的にさえなったほどだ。
天賀谷氏の別荘は既に闇に沈み、灯火の燈が糸杉の木々の隙間からか細く見える。
車停めで折り返すと愛車を目立たぬ場所に停め、私は玄関へと赴いた。
疲労感を拭うため一旦呼吸を整え、表情を改めると重々しい扉を開く。]
[手袋を嵌め直しぴたりと吸い付く様な動作でハンドルを握る。「お揃いになって良かったですよ」と世辞なのかも分からぬ言葉を口にし、黒塗りの高級車のアルセルを開きエンジンを吹かした。──…発進。]
そう……?
[夜桜の言葉に返事をした其の後、
重々しい音が響く。
扉が開いた音だ。
湯飲みを手早く傍の台に置いて向き直り、歩み寄る。]
―天賀谷別荘・エントランスホール
すっかり遅くなってしまい、失礼しました。
枚坂です。
天賀谷さんから招待状を戴き、参ったのですが……。
[私は内ポケットから招待状を出し、挨拶の言葉を発する。
エントランスホールの吹き抜けはこうした山荘には稀にみるほど高く、この別荘が豪勢な作りであることを改めて実感する。天蓋近くに鎮座する彫刻の数々が私の姿を睥睨していた。]
[酷薄そうな表情を浮かべた瞬間の望月に、ちらりと流し目。]
マア、銃弾では無く銃身になったやもしれませんが。後、銃剣なんてものも有りました(過去形ですねえ)が。
何せ、何処かの誰かが大事に隠しておいた品でしょうからねえ…。
[こう言った話をする時も低い声になる様だ。]
山道に差し掛かりますから、そろそろお気をつけなすって下さい。
──麓の村…→山道…→天賀谷邸へ──
―天賀谷別荘・エントランスホール―
[玄関の扉を押し開けた客人は枚坂と名乗った。
翠は招待状を確認し、微笑を向けた。]
いいえ。
遠いところからようこそお越しくださいました。
[丁寧に一礼して、
同じく控えていた執事の1人に荷物をお持ちして、と目配せをする。]
お疲れでしょう、
御部屋にご案内させて頂きますね。
ああ、翠さん。
しばらくぶりだね。
[目の前には、英国貴族の邸宅から抜け出してきたような少女の姿があった。その天鵞絨の瞳は強く印象に残る。]
近々当主のご機嫌を伺いに上がろうかと思っていたから折よい機会だったんだが。
この度の招待はどのような用向きだろうか……。
今の御時世だって、こいつらには生きるか死ぬかの瀬戸際だよ……。
[仁科に答えるともなく呟く。
敗戦後、日本刀はGHQによって武器としてすべて接収されかけた。自分たちのような刀剣関係者が『美術価値の高い日本刀は保存せねばならない』と主張し、ようやく差し押さえを免れたのだ]
[停車場では疲れていない、と口にしたものの、さつきが京都を発ったのはまだ早暁と云う頃合だった。旅程の疲れはいつしか彼女を眠りの淵に引き込み、年相応にあどけない寝顔をみせていた]
すぅ……すぅ…………。
[其れ故、どこか憂愁とも憤りともとれる龍一の言葉を、さつきが耳に捉えることはなかった]
御久し振りです、
覚えていて下さったのですね。
光栄です。
[翠はどうぞこちらへ、と手で差し伸べた後
枚坂を案内する為歩き出す。
隣には荷物を持った執事も付き従う。]
そうだったのですね。
私共も旦那様のお考えは分かりません。
皆様揃われましたら、旦那様の方から何かしら説明があるかとは思うのですけれど……。
[謂いつつ、ある部屋の前で立ち止まる。]
此方です。
必要なものがありましたら何なりとお申し付けください。
/PL/
うんそれにしてもニーナの口調といいナサニエルの刀剣LOVEっぷりといい素敵やねぇ。
うちワクワクしてきたで!
楽師のセンセはほんま心配やなぁ……まとめページで入れへん言うてはったお人やと思うんやけど。明日には来れはるかなぁ。
(いつの間にかここでも京都訛り
案内してくれてありがとう。
天賀谷さんは臥せっておられると噂では聞いたんだが……。お会いできる機会はあるかな。
もし、医者の手が必要なら、遠慮無く。
[悪戯めかして笑いながら言葉をかける。
とはいえ、奇妙なことに私が医者として天賀谷氏から頼りにされた機会は今までなかった。
一代で財を為した人物だっただけに、用心深かったのだろうか。定まった専属委に看てもらうのがこの家の習わしなのかもしれない。
私は知るよしもない理由をそのように解していた。]
日が明けたらまた――。
──山道──
[所々落石の痕跡がそのままに残る、灯りも無い曲がりくねった山道を、慣れた様子で車を走らせる。女だてらに何処で運転を覚えたのか、腕だけは確かな様だ。
ハンドルを切り乍らさつきが眠っている様子をちらりと鏡越しにみて、自らの運転に僅かに満足げな笑みを浮かべる。]
さつき様も、望月様も。
別荘に着いたら、十三様のコレクションに驚かれる事でしょう。二階の廊下──…全ての廊下が重なる部分に、今は支那から持ち込まれたと言う大きな水盆が置かれております。望月様はきっとその奥に有る十三様の書斎でお話なさる事になるんでしょう…──。
マア、十三様はわざわざご招待された訳ですし。
先ずはごゆっくりお休みになられると良いでしょう。
天賀谷邸に向かう車の中で来海はこれまでの人生を振り返っていた。
(ようやくこの時が来た……)
彼の元に師である石神井から電話があったのは3日前のことだった。
石神井『ここだけの話にしておいて欲しいんだがね、近いうちに選挙がある』
来海『いよいよ解散ですか』
石神井『吉山はよく粘ったが、もうこれ以上の続投は鳩田が許さんだろう』
来海『先生はどちらにつかれるおつもりですか』
石神井『私は私だ。それより君のことなんだがね』
──別荘/庭──
[車を定位置に停車させようとして、トレーラーを牽引して来たと思しきリンカーンが停車している事に気付く。]
おや、立派な車だが、トレーラー?
招待客なのだろうね。
話がしてみたいと言ったなら、天賀谷様に叱られてしまうだろうかねえ…。
[首を捻る。]
来海は静かに息を飲んだ そして電話の向こうから聞こえる声に全神経を集中させた
石神井『禊ももう済んだだろう、大衆は忘れやすい生き物だ』
石神井『党の説得は私に任せろ。いきなりの復党が難しければ、当分、表向き無所属ということにしておけばいい』
来海『有難うございます』
石神井『ただ、君が出る予定の地区なんだが、労産党が吾妻という学者を引っ張り出すというもっぱらの噂だ』
来海『吾妻、ですか……』
石神井『分かっているとは思うが負けは許されんぞ』
吾妻は新進気鋭の経済学者で論壇の寵児だ。
彼は、戦時中、数多くの自由主義者やマルクス主義者たちが国家主義へ転向してゆく中、大学の自治を頑なに主張し、当局に批判的な姿勢を崩そうとはしなかった。しかし、それは吾妻家という名家に生まれたが故に許されうる恵まれた反抗でもあった。
彼への執拗な批判は、戦後突如として賞賛へと取って代わった。将に日本が転向した瞬間だった。彼はこの体験をしばしば皮肉をこめて講演し、脚光を浴びた。
来海は吾妻のような人間が大嫌いだった。究極的に自分の手を汚さず、安全圏から正論ばかりを吐く人間。それは、これまでの彼の人生が決して平坦なものではなかったことに由来する。
[少女の血筋が米国か露西亜か英吉利か、詳しい身の上は知らず、また詮索する気もなかった。
ただ、人里離れた屋敷にある彼女の姿には、此処が俗世とは隔たった場所であるかのように幻惑させられるのだった。
私は礼をいい、部屋の中へ入っていった。]
きっと、御会いになれると思います。
揃われた際の晩餐会の準備も仰せつかっていますし。
[実際、この屋敷の主人は顔を滅多に出さない。
翠をはじめとする使用人たちには何も詳しいことは分からなかった。
―――医者が必要なら。
枚坂の言葉に笑みを浮かべて頷いた。]
其の時には頼りにさせていただきますね。
後で、御茶をお持ちします。
[夜桜が御茶を淹れに厨房へ向かっていたはずだ。
程なくこの扉を叩くことだろう。]
はい、ゆっくりお休みくださいませ。
来海は保守的な地方で商家の妾腹として生を享けた。
彼の母は来海を生んですぐに死んだ。貧農の出身で口減らしのために女衒に売られ、来海の父に囲われ、来海を生んだときはまだ20歳だった。
来海は親の愛というものを知らない。売春婦の息子として蔑まれ、生家での虐待に耐えかねて12歳のとき東京の親戚を頼って家を出た。それは来海家にしてみても体のよい厄介払いであった。
上京後、来海は劣等感をバネに苦学した。大学を卒業し、新聞社に職を得ると時流に乗って国家主義賛美の論説を書き散らした。
それは思想の表明や発露というよりも、これまで彼が抑えていた感情の爆発だったのかもしれない。
[頭を下げる翠前の扉が閉じられる。
顔を上げ、踵を返すと聞きなれたエンジンの駆動音がかすかに鼓膜を振るわせた。]
――ああ、仁科さんかしら
『いけない、早く行かないと』
[翠は小さく呟くと、足早に玄関に向かった。]
あるとき、来海の記事に目を留め声を掛けたものがいた。それが石神井だった。
石神井は来海の『力』への異常な執着を面白がり、その歪んだ情念を気に入った。そして来海にある男を紹介した。こうして来海は天賀谷の知遇を得ることになる。
やがて、来海は石神井に手を引かれるまま政界入りした。
彼を待っていたのは政治の暗部ともいうべきヘドロのような仕事の山だったが、天賀谷の経済的支援を受けながら、彼は石神井の懐刀として根気強くどんな仕事もやってのけた。
――別荘/庭――
[無意識にも感じていた振動が収まっていることに気づいてか、さつきは目を開けた。視界は未だぼんやりと霞む。とはいえ窓の向こうに、市中でもそうは見かけぬ豪壮な屋敷の姿を認めるにはさして間を要しなかった]
……ん……着いた、ん……?
日本の先鋭化が進むたび、来海の手は泥と血に塗れた。そして終戦を迎えたときには、もはやその汚れを落とすことは不可能だった。
石神井が公職追放になり、天賀谷が狂気に犯されてゆく中、来海を守るものは誰ひとりとしてなく、彼は旧時代の無用の政治家として糾弾された。
すべてを犠牲にして築き上げた地位と権力を失った彼は、石神井先生が公職追放から解除され政界に復帰したときも獄中にいた。
―階段→エントランス―
[途中で茶器を運ぶ夜桜とすれ違い、
翠は部屋の場所を指し示した。
よろしくね、と謂うとまたエントランスへ向け歩き始める。]
今、来海は最後の再起の機会を迎えていた。
次の選挙は必ず勝たねばならない。そのためには天賀谷の全面的な協力が不可欠である。
来海は逸る気持ちを抑えながら、車を天賀谷邸に走らせていた……
[運転席から届いたアルトの囁きも、ただ穏やかに響く音の塊のようにさつきには聞こえていた]
……ぅ、ん……?
[頭を上げようとしているのか、其れとも安楽な姿勢を探っているのか、さつきの様子は判然としない。助手席からそれを眺めた男性は、苦笑した風で車を降りた]
[さつきの座っている運転席後部の扉に歩み寄った男性は、仁科に断りを入れてその窓をノックした。コンコン、と振動が伝わり、びくとしてさつきは身を震わせた]
……ぅぅ……っ、んっ!?
[頭を振り、目的地に到着したことをようやくはっきりと認識した様子でさつきは大きく一呼吸した]
あ……っ。
寝てしもてたんかな、うち……?
[深い森から糸杉の並ぶ庭までの境界線や塀の様な物は見当たらず、其れは天賀谷の所有する土地の面積の広さをあらわしても居た。
扉を開き乍ら、麓よりも更に暗い闇の中に浮かび上がる天賀谷自慢の西洋建築の山荘に視線を流す。石造りのアーチと何処か教会の窓枠にも似たの金属の曲線の形が、特徴的な形をしている。]
[近付いていた使用人に、二人分の部屋を用意する様に伝える。
さつきを覗き込み、]
直ぐにお部屋とおやすみ前のお茶を用意させます。
其の使用人について三階へお上がり下さい、さつき様。
―玄関―
[翠は扉を押し開けた。
いつもの位置に、いつもの車。]
『仁科さんと、それから……』
[客人は複数居るようだ。
先程荷物を運んだ執事と共に車の方へ近付いて行く]
[座席シートに身をもたせ、ゆっくりと目ばたきした。余程良く眠っていたのか、小さな衝撃をきっかけに意識ははっきり戻っていた]
……うん、おおきに。
……やない、ありがとう、仁科さん。
[言い直して車を降りる。辞儀をして歩み寄ってきた青年に鞄を手渡した]
来海『くそっ、おい、運転手、他にもっとマシな道は無いのか?』
運転手『なにぶん田舎なもんで、我慢してください』
来海『チッ、天賀谷のオヤジも陰気くさいところに引きこもったもんだぜ。近頃は東京の会合にもまったく顔を出さない。一体どうしちまったんだ……』
[すでに使用人達が荷物を運んで居る。
手伝う中に、呆れるくらい大きな荷物があって
あれはなんだろうと翠は内心首を傾げた。]
ようこそおいでくださいました。
御案内させて頂きます。
[翠は礼をすると、新たな客人を部屋へと導く為歩き始めた。]
運転手『来海様、ホラ、見えました。天賀谷様のお屋敷です』
来海『お、おお…… 噂には聞いていたがあれが』
[来海は天賀谷邸の威容に言葉を失った]
運転手『来海様、ところで天賀谷様からの招待状はお持ちですか』
来海『招待状は持っていない。飛込みだ。』
運転手『そうすると時間も時間ですし、誰も迎える人がいないのでは……』
来海『うるさい。とにかく黙って屋敷につけろ。誰も出てこなければ勝手に乗り込むまでよ。』
運転手『……』
[来海を乗せた車は天賀谷に近づく]
運転手『どうも今の時間でも先客がおられるようですね、車が停まっています、どうしましょうか』
来海『関係ない、来海洋右が天賀谷を訪ねてきたと伝えろ、俺は急いでいるんだ』
運転手『わかりました……』
[運転手は車を庭に停めると億劫そうに天賀谷邸に伝令に走った]
さつき様、望月様、楽師の先生様は、藤峰さんや翠さん達にお任せ致しましょう。
──…さて。
[道に慣れない者の乱暴な運転に庭が荒れれば、庭師が怒るだろうとちらりと思い乍ら、車をぶつけられては敵わないとヘッドライトの当たる位置へ自ら移動する。]
――別荘/館内――
さつき、て云います。宜しぅ――
[メイドのお仕着せを纏った娘に云いかけた言葉が途切れたのは、彼女の瞳を見た為であった。今までに見たことの無い、翠色の瞳――恐らく西欧人との混血なのであろうと思われた。だが娘はさつきの動揺を意に介さぬように、足取りを進めていく]
『……馴れてはるんかな。
不躾やて思われへんたら、良いんやけど』
[心中に呟き、案内する彼女の背を追った]
[運転手はニーナを見つけると声を掛けた]
運転手『あのう、夜分恐れ入ります。私、来海洋右の使いのものでございます』
運転手『来海は、天賀谷様との面談を希望いるのですが、今から天賀谷様にお目通り願えますでしょうか……』
[一瞬、ライトにぴたりとした黒い詰襟の制服に身を包んだ女運転手のボディラインが浮かび上がる。
だが、光は直ぐに消え、仁科に気付く事も無く車は坂の途中、手前で停車した様だ。
運転手の様子に、今来たこの客人は招待状を持たぬ者だと聞かずとも知れる。]
──…ハア、来海様ですか。
この時刻故、直ぐに天賀谷に…とはいきますまいが。
お客人には取りあえずお休みいただける様に、屋敷の者に用意する様お伝え致しましょう…──。
[運転手の顔色を眺め、]
お偉い先生なのでしょうな。
…何やら、お困りの様ですねえ。
自分が一緒に行きましょうか。
後、出来れば車はあちら側にお願い出来ますかね。
[来海が座席で待つ車の方へ、やはり真っ黒な革靴の音を子気味良く鳴らし乍ら近付いて行き、後部座席を慇懃な仕草で覗き込む──。]
いらっしゃいませ、来海様。
遠い所をお疲れでございましょう。
どうぞ、こちらへ…──。
―自室
「晩餐会」か……
[翠の先程の言葉を思い返す。どうやら招待された者は幾人かいるようだった。
車のエンジン音が響く。
カーテンの隙間から窓外を見下ろせば、敷地内には到着した自動車と屋敷の使用人たち、降りる客とおぼしき人影で時ならぬ賑わいをみせていた。]
――別荘/三階――
[扉の並ぶ廊下を幾分行ったところで、藤峰と名乗った副執事の青年は立ち止まった。鍵束の中から一つを取り出して開けると、さつきにその鍵を渡す。荷物を室内に置き、多少の言葉を交わして藤峰は恭しく礼をし、立ち去っていった]
……ふぅ。くたびれたぁ……。
[荷を解き終えて安楽椅子に腰掛けたさつきは、とりとめなく思い浮かぶ様々の事柄をぼんやりと*考え込んだ*]
[来海は仁科の丁寧な応接には目もくれず、自分の都合ばかり喚き散らして、案内された部屋に消えて行った]
来海『今は一刻でも時間が惜しい、明日、天賀谷のオヤジに会ったらすぐに東京に戻らないとな…… 』
来海『おい、女、俺はこれから仮眠を取るが、その前に部屋に酒とメシを持って来い』
来海『それから帰るまでにこの……』
[運転手が申し訳なさそうに横で頭を下げていた]
新米記者 ソフィー が参加しました。
新米記者 ソフィーは、守護者 を希望しました(他の人には見えません)。
前略
電報でお知らせ致した通り、今朝一番の汽車で此方に着きました。
丁度櫻の満開で、眩しい程です。
駅前に一軒きり有る宿に部屋を取って、一日通りを見て居りましたが、天賀谷の自家用車は、今日だけで何組も客を送迎して居る様子です。瞭然見ただけで、三組は居りました。
宿の者に訊きましたら、こういった来客は、今月に入る迄は殆んど無かったとか。他にも、東京から来たらしい自家用車が、山へ入って行きましたから、屹度其れも天賀谷邸へ向かったのでしょう。
そうそう。
夜、最後の汽車で到着された中に、京都のさつきさんがいらっしゃいました。
今度の招待状、少し気味悪く思って居りましたけれど、噂ばかり名高いあの別荘に、今せっせとお客が通っている事だけは真実です。是程お客が居るのなら、誰も知らぬ内に取り篭められて仕舞うなんて、発つ前に冗談にして居た様な事は有り得ませんでしょう。
如何して、その中に私が入っているのか迄は、未だ解りませんけれど。
明日、一番の汽車で到着したとでも言って、迎えの車を呼ぶ予定で居ります。
先ずはお知らせまでを。 かしこ
智恵
─駅前/宿の一間─
[何となく薄暗い部屋の隅、鏡台の上に万年筆を置く。
この部屋には、外に机の用に使える物が無かったのだ。
書き上げた手紙のインクが乾くのを待ちながら、溜息をついた。]
あぁ……。
こんな探偵の真似事なんてしないで、素直に別荘に伺っていれば良かったかなぁ……。
此処より良いお部屋とご飯が頂けたのは、間違いないわよね……。
…お会い出来ると宜しいですねえ。
[来海の態度には内心で肩を竦めただけで、特に気に掛ける事は無かった。上の者が使用人程度に気を遣うなら寧ろその腹の内の方が気になるだろう。
屋敷の者から伝え聞くに、何時の間にやら明日は晩餐会が開かれるとか。使用人の誰もが十三と直接会ったと言う話も聞かないのにその様な流れになっているのがこの屋敷の常らしく、可笑しかった。既に到着した客の名を聞き、その中に碧子が居る事に気付く。]
大河原様がいらっしゃった所為でしょうかねえ。
そろそろ、自分も旦那様のお顔を拝見したいもんで。
──二階──
[そっと使用人部屋を抜けて誰も居ない重厚な廊下に佇み、襟元を緩める。白いシャツがちらりと覗く。]
屍鬼の話を…──お聞かせしたいと申し上げれば、旦那様は喜ばれる気はするのだがね。旦那様は、口に出してはハッキリとはおっしゃられないが、少々猟奇的なご趣味をお持ちの様だ。この土地を選ばれた理由も、土葬の習慣が気に入ったからだと耳にした事がある。
[主なコレクションは天賀谷 十三の書斎兼展示室に有ったが、屋敷の随所随所にも廊下にも様々な品が飾られている。西洋式の建物に、同様の西洋骨董、和骨董、大陸の品も──屋敷の建築や調度をみれば、確かに天賀谷は美しいものをみる鑑識眼を持っているのだろうが──古今東西が入り交じりとても奇妙な光景だった。
──特に、二階の廊下に据え付けられた、天賀谷お気に入りの水鏡は。]
[大陸からわざわざ取り寄せたと言う水盆。
西洋建築物の廊下の中央に、如何にも呪術めいた盆が大切に置かれ、毎日水を取り替えられていると言うのは奇妙な光景と言うしか無い。そしてそれに何かが映るのを待っているのか、夜毎熱心に眺める十三の姿──…。使用人は、仁科を含め十三が拾って来た者が多いのか、十三に何か苦言を呈する様な者は居ない。]
火葬は燃やしてしまうからいけない。
──それでは、甦る事が出来ないだろう。
[嘗ての十三の言葉を口の中で反芻する。
死んだ者の何を甦らせたいと言うのか──さっぱり分からないと当時は思ったものだった。]
ただ、屍鬼に関しては、カストリ記事が欲しいから麓へ行ってくれとまで、おっしゃられる熱心さ。アァ、雑誌を頼まれたのが、自分がお会いした最後だったか。
金の亡者となられたご親戚筋の話はさておき、此処二三ヶ月、姿を殆どお見せにならない。[夜桜を拾った話は聞いたから、既に十三が死んでいるなんて事はないのだろうとも首を捻り]旦那様は本当に具合が悪いのかねえ。
[他の使用人については分からなかったが、少なくとも仁科が天賀谷と顔を合わせる時は、一対一の対面だった。
天賀谷 十三は、一代で財を成したのだと分かる癖のある初老の男だ。人を拾うのが上手い。嘗ては東京で名を馳せた。素人とは思えない古物骨董の知識と鑑識眼。そちらの方面でも十分いきて行けそうでもある。何故、この山荘に籠ってしまったのか、話題になっている原因不明の首無しの猟奇殺人──屍鬼と言った胡散臭い物に主人は興味を持つのか。
仁科は、奇妙な主人への好奇心を駆り立てられている自分に気付く──。]
──…さて。
[天賀谷のコレクションルーム兼書斎は今、静まり返っている。
仁科は軽く伸びをすると、胸ポケットに入れっぱなしになっていた「屍鬼が家に来た」と言っていた男の自宅の住所を記した紙片をカサリと取り出す。そして、使用人様の廊下と階段を使い、*また一階へ戻った*。]
[西洋風のメイド服を纏った若い女中を下がらせて、一人きりになる。
残像のように唇に焼き付いた、物柔らかな女らしい笑みは、窓辺へと歩く間に、掌に乗った雪片のように消えて行く。
夜中だと言うのに、先程から幾度も外から自動車のやって来ては停車する物音が聞こえて来る。
山中では余計に音が響き渡るのだろうか、それはこの広い邸内に居てさえ何処にどの様に停まったかも分かる程であった。
分厚いカーテンの隙間から、窓を少しばかり開いて外を覗くと、自動車のヘッドライトと館から洩れる仄かな明かりに照らされて玄関の辺りが僅かに窺える。
どうやら複数人が新たにこの館に到着したようだ。]
[風に乗って微かに聞こえて来る怒声の様な人の声を後に、さっと窓を閉めて、カーテンを元通りにする。
それから、きびきびとした動作でサイドテーブルに近づくと、その上に置いてあったハンドバッグを手に取った。
カチリ、と黄金色の口金を開く音。
目を落とし、中にあるものを確認する。
「それ」は、見詰める彼女の瞳に浮かぶ色と、同じく冷たく硬いもの。
和えかな笑みがうっすらと唇に浮かぶ。
擦れば一掻きで剥がれて落ちてしまう様な、薄い薄い金箔の様な笑みを。]
[だがその笑みもまた淡雪と解けて。
ドレッシングガウンの襟を掻き合わせて、テーブルに置かれたランプに手を伸ばした時にはもう跡形も無い。
……灯りが消され、室内は*闇に包まれた。*]
農夫 グレン が参加しました。
農夫 グレンは、人狼 を希望しました(他の人には見えません)。
―天賀谷屋敷門前―
[奇妙な形の帽子をかぶった青年が、荷物をひっくり返してなにやら探している模様だ。]
さて困ったな、と──あ、あったか。
[探し当てたものは、煙草と思しき紙包み。
10箱はあろうかと思われる中から、ひとつの口を切り、
火をつけて大きく吸い込み。
普通とは匂いの違うそれを吸い込んだ青年の表情もまた、
普通のものとは異なるものである。]
[一本吸い終えると、ポケットから手紙らしきものを取り出す。]
さて、これがないとここにはお邪魔できないんだよな、確か。
[一人ごちると、門の中に*入っていく*]
[──昨晩]
[翠に指し示された部屋へ茶器を持ってゆく]
お客様──枚坂さま、失礼いたします。
熱いお茶を持ってきました。
[枚坂の視線に]
夜桜、と申します。
御用は何なりとお申し付け下さい。
[紅の唇を弧を描かせ、お辞儀をした]
[早朝、まだ夜が明け切らぬ時刻に...は起きていた。
髪を手ぬぐいで押さえ、修練のための胴着に着替えて刀を持った。
廊下ですれ違ったお下げ髪の少女(翠)に尋ねる]
庭で素振りをしても、構わんかな。
[手に持っているのはどう見ても木刀ではない。白木の鞘に収まった本身の刀と見えるだろう]
[翠のいささか当惑した様子を見て取って、ああ、と苦笑]
確かにこいつは刀だが、刃はつぶしてある。当たったら、痛いだろうが斬れやせんよ。
―天賀谷邸・廊下の一隅―
[かくかくしかじかの場所ならば、広くて人も来ない、翠から教えてもらう]
ん、ありがとう。あと、少し頼みたいんだが、朝風呂は使えるかな。昨夜は草臥れきって、部屋に荷物を置くなり眠っちまったんだ。
[少々気恥ずかしげに頼めば、風呂についても手配してもらえるか。
昨夜は眠かったために、今日は早朝で薄暗いために、...はまだ翠の目の色に気づかない]
[他に入る人間がいないのに、風呂を手配してもらった事に感謝している]
親切にありがとう。俺なんか客と言っても半ば出入りの商人みたいなもんなのに。ええと、翠、さんね。よし、覚えた。
[嬉しそうににこり。
だが、翠と別れて庭に降りた時には、その顔は真摯なものと変わっている]
―天賀谷邸・廊下→庭へ
[翠には『刃をつぶしてある』と言ったが、それは嘘だった。
山田流居合術の稽古は真剣をもって旨とする。
…木刀は軽い。あまりにも。
真剣の重みは、人の命を絶つための重みだ。その重みを感じることなく素振りをしても、何の意味もないと...は思う]
―天賀谷邸・庭―
[白鞘から刀身をゆっくりと抜き放つと、素振りをはじめた。
朝日を浴びた白刃が...の周囲できらめく。この時間に起き出した者ならば、窓から素振りする...の姿も*見るだろうか*]
─3階・客室─
[呼鈴で呼び寄せたメイドの一人に茶を用意して貰い、寝巻きの上にドレッシングガウンを纏ったまま目覚ましのそれを啜る。
朝の日差しを浴びながら、ゆったりと椅子に腰掛けて、窓の景色を眺めた。特に取り立てて見るべき絶景がある訳でもないのだが、靄消え去らぬ森の有様は一幅の水墨画の様な趣がある。
しかし傍から見れば、瀟洒なソーサーとカップを持って茶を喫する様子は、今の御時世を考えれば同じ日本の国とは思えないだろう。何処か銀幕の中の芝居じみた雰囲気が漂っている。]
もうさがって下さって結構よ。御支度は私(わたくし)一人でも出来ますから。
…ああ、そうそう。
翠さんに手が空いたら来て下さるように言って下さらない。
少し見せたいものがあるから、と。きっと伝えてね。
[礼をして退室しようとしたメイドに、そう言って艶やかな笑みを向けた。]
―宿の玄関から顔を出して―
うわぁ。
本当に、散り初めの櫻が綺麗ねえ。
良い陽気だし……。
別荘まで……歩いて行ったらどれ位だって言ってたかしら?
車を呼ぶのは止めましょ。
こんなお花見日和に、詰らないもの。
ねえ。女将さん、やっぱり電話はいいわ。
歩いて伺う事にしたから。
そうそう。郵便ポストは何処かしら?
あぁ……。左様なの。
じゃあ、郵便夫が来たら、出して下さいな。
糊、貸して戴けない?
新米記者 ソフィーがいたような気がしたが、気のせいだったようだ……(新米記者 ソフィーは村を出ました)
―朝・屋敷内―
[先程案内した青年――望月の姿を思い出しながら食器や骨董品を磨いて行く。]
刀、立派だったな。
あの方も剣の心得があるのかしら。
いいな。
[翠は嬉しそうな、楽しそうな笑みを口元に浮かべた。
後で話が出来るだろうか。
そんな事を思いながら。
その途中、同僚のメイドと顔を合わせた。]
お疲れ様。
水盆の水、もう取り替えた?
そう、ありがとう。――……え?
[続いた同僚の言葉に、翠はきょとんと首を傾げた。]
大河原様が私を御呼びに?
見せたいもの……なにかしら。
わかったわ、此れが終わったら直ぐに行くわね。
[翠は手にしていた皿を丁寧に磨くと、
そっと元あった場所に戻す。
大河原夫人は映画の中から抜け出してきたような美しい女性だ。
それだけではない、立ち居振る舞いも洗練されている。
万次郎が謂っていた様に、男性は勿論のこと
同じ女性としても、憧れるところであり]
『ちょっと緊張するな』
[大河原夫人の部屋の前に立ち、翠は扉をノックした。]
旦那様が求婚なさるのも無理からぬこと。
大河原様は綺麗な方だもの。
今回のお話はてっきり大河原様への求婚がらみだと思っていたのだけれど、どうもそれだけではないみたい。
さつきお嬢様と其の先生は不思議ではないけど、昨日尋ねてきた元軍人の江原様や
政治家の方、望月様、それから――あの遠くを見るような眼をした男性、とか。
どうしてだろう、
何をなさる御積りなのかしら。
[思案がぐるぐる頭を巡った。]
― 客間の一 ー
[来海は苛立ちを露わにしていた。朝から天賀谷との面談をいくら催促しても屋敷の人間の反応は冷淡だった。]
クソッ、晩餐会が始まるまでは誰も天賀谷のオヤジと会えないだと、ふざけやがって。
しかし、いよいよ危ないというのはどうも本当らしいな。アイツがくばったとき、俺は、どうする…… 今回の逗留、思ったより長くなるかも知れんな……
―回想―
母の記憶は朧、
父に至ってはどうだったかすら分からない。
独りだった少女を拾ったのは、
物好きな男だった。
どうして彼は自分を拾ったのだろうか。
哀れみか。
憐憫か。
単なる興味か。
其の何れとも違う。
屋敷に連れられて、
最初に見た蒐集品の数々。
古今東西の美しいもの。
あらゆるものの融合。
誇らしげな男の顔。
幼子心に、何となくだけれど理解した。
骨董品を集めるように。
美術品を抱くように。
絵画を愛でるように。
自分も其の1つとして拾われたのであろうと。
それでも、
確かに男は恩人だった。
忠義を尽くそうと密かに誓った。
拾われていなければどうなっていたかなど想像に難くない。
―――だから。
―自室・夜
[私は風呂敷包みを解き、額に納められた一枚の絵画を改めていた。
ロセッティが妻エリザベス・シダルを描いた素描。これらの素描は妻が亡き後、代表作『ベアタ・ベアトリクス』の元となったという。]
……入手するのには時間がかかった。
天賀谷さんの希望に叶うものであればいいが。
[呟きながら、手放す前の僅かな時間を惜しむように作品に見入る。深閑とした別荘の室内で、儚い運命を遂げた女性の姿とただ対峙していると料峭と寒気を感じた。
無理もない。高地にある別荘の気温は春先といえど、夜間は冬のように低かった。
寒気を払い落とすように、両腕を抱えると身を揺する。
その時、扉を敲く音がした。]
ああ、ありがとう。
気が利くね。
[折よくもたらされた温かい飲み物に表情が綻ぶ。礼を言いながら茶器を受け取った。
目の前の女性はどこか翳を感じさせながらも艶やかな気配を纏った女性だった。漆黒の髪は短く、軽快でモダンな印象を受ける。]
夜桜さんか……。
よろしく。
[花を冠した名前は私の旧く親しい人の記憶を呼び起こさずにはいられなかった。]
早速「夜桜」を観れて眼福だよ。
[私はつまらない冗談を言った。麓では散りかけた桜も、やや寒冷なこの別荘周辺では今が盛りであろうかと思いながら。
前に別荘を訪れた折にはその姿を見なかった女性だ。ここへやってきたのは最近のことなのかもしれない。]
―自室・深夜
[まんじりとしないまま何度もベッドの上で寝返りをうつ。寝所が変われば眠れないのはいつものことだった。
夜更けにふと響くエンジン音に訝しげに頭をもたげる。敷地を静かに滑り出してゆく燈が目に入った。]
逗留が何日かになりそうなら……いつまでもあの場所に置いておくわけにはいかないな……。
[――いずれ、と思いを巡らしながら、闇の中で目を*閉じた*。]
[―天賀谷邸敷地内―]
――へぇ。これは見事だ。
[感心した彼自身はその名は知らなかったが、咲き誇っていたのは花蘇芳。
誰か見つけて案内してもらおうと思っていたことも忘れ、ただ、立ち尽くす。]
―二階食堂―
ふ…あふ…
[誰も見ていないのを良い事に、万次郎は大口を開けて欠伸した。
客が全員揃った際の恐らくは豪勢に催されるだろう晩餐会のため、使われる食器のうち銀製の皿やら蜀台やらナイフやフォークを、舶来の磨き剤で丹念に磨いているのだ。
しかしこんなことを数時間も続けていればつい、軽口も出る]
…贅沢な奴らだよお前らは。
英吉利からのポリッシュとやらでこんなに丁寧に磨いてやらないと、その大事な銀の体は曇っちまうってのか?
[次なるお清めの対象、手の中の小さなティースプーンをまじまじ見ると、溜息にも似た息をふっと吹きかけ]
こんな小さい子までなぁ。
…水だけでさっぱりできる俺を見習え。
あーあ。
[そのティースプーンを綺麗にしてやった所で、椅子の背に深く凭れて高く荘厳な天井を見上げた]
晩餐会ねェ…準備が大変なのはそりゃ仕方ないよ。
でもな。
お客様のため目の玉飛び出るような値段の洋酒の栓を景気良くぽんぽん抜きながら、恭しく料理を運び、何かが落ちたら椅子から動きもしない方々のために取り替えて差し上げ…
[椅子からだらしなくはみ出した腕をぶらぶらさせて]
…それでいてそんな正餐を俺も楽しみたきゃ、冷めたお客様の飲み残し食べ残しでも頂くくらいしか機会が無いってのが泣けてくる。
一度でいい、お相伴に預かれたって…
[凭れていた背を椅子から持ち上げて、自分の言葉に吹き出す]
ま、酒すら飲んで酔えれば楽しいなんていう程度の俺じゃな。
味なんぞさっぱり分かってない奴には、惜しいってものだろう。
…しっかし。
[磨いても磨いてもまだあるプレート類を睨むように見据えて]
まだこんなにか…。
ずいぶんいらっしゃったものな、お客様。
[今のところ合わせて何人来たことになったのかなと、指折り数え始めた]
望月様だろ…枚坂様に…それから…
[何しろ一気にあの数だから、自分だけでなく翠も仁科も夜桜も大変だと肩を竦める]
来海ってのも来てたっけ……まったく。
これからおいでになるのはもう、旦那様の手紙をお持ちの方だけだと思ってたのに。
招かれざる客に限って偉っそうにしやがんだから…
くそ忙しい時にどれだけ迷惑かとか、考えた事無いんだろうな…
[どうやら対応したらしい仁科は、どこか飄々とした性格ゆえか苛ついた様子も見えなかったが、自分なら耐えられるかどうかと愚痴を零す。
まぁ財産目当てとはまた違うみたいだがと、皴の寄った眉間を解してから]
ん…、同じ本人様宛ての手紙をお持ちでないにしても、さつき様はまた別だけど。
[部屋までご案内した際の、年若い少女らしい姿やら京言葉を思い出し、今度は口許が綻ぶ。
他の使用人の話を聞いた限りでは刀を持ち込んだ方までおいでだとか、想像以上に様々な客がいらしてただでさえ慣れぬ自分はてんてこ舞いなのだ。
招かれざる尊大な客とは対照的な存在を思い出すことで少しくらい和もうが、罰は当たるまい]
…いかん。
そろそろ布も換えよう。
[しかしやるべき事はこなさねば、お小言は頂くことになる。
...は磨く布を換えるために立ち上がって――…]
――ああ!
[窓から見えた客らしき人影に動転する。
他の使用人達も今は手が足りていないのか、案内もせずに放ったらかしの状態のようだ。
落ち着いた雰囲気を醸し出すべくの常の努力も忘れ、さすがに慌てて階段を駆け下りる]
[だが主人が招待した大事な客かもしれない方に対して、このまま顔を合わせるわけにはいくまい。
急いで―と言うのも妙な話だが―扉を開ける前に息を整え、駆けてめくれた燕尾服のテールを直し、やや乱れた髪を撫でつける。
――ガチャリ。
ようやく、扉の開く音。
...は努めて品良い笑みを浮かべ]
ようこそおいで下さいました。
庭をお楽しみでいらっしゃいますか?
…私は副執事を任されております、藤峰と申します。
お部屋へご案内させて頂きたく思いますので、失礼でなければ主人よりの招待状かお手紙の方を…
[それがあるならば、大事な客と言う事だ。
丁重に接することを心がけるべきだろう。
…そんな心はもちろん顔に出すことなく、招待状の確認を求めた]
[傍から見ればどこの阿呆かと思われんばかりの様子で
花蘇芳の樹の下に突っ立っていたが、さすがに首でも痛くなったものか
桃色から目をそらす。ひとつ背伸びをしたとき]
おや、ここの人のようだな。
[燕尾服を着用した青年が駆け寄ってくるのに気がついた。]
/PL/すみません、駆け寄ってないですね、藤峰氏は。
駆け寄って→近づいてに訂正願います。/PL/
[藤峰と名乗った青年に帽子を取って会釈をひとつ。おさまりの悪い長めの髪が露になった。
天賀谷氏よりの手紙を藤峰に手渡し]
俺は由良といいます。
[よろしく頼みます、と再度頭を下げた。]
[花蘇芳桃色の下に佇む男は、奇妙な形の帽子姿だ。
しかし首でも痛くなりそうなほどに敷地内の樹に見入られると、自分が手入れしているものではないにしろ、気分は悪いものではない]
…お気に召されましたなら、後ほど部屋まで枝をお届けいたしましょうか。
[男が背伸びをすると、ほんの一瞬普通の煙草とはまた違った匂いが鼻をくすぐった気がしたが]
(何か変わった葉巻でも楽しんでらしたのかな…?)
[僅かに眉を動かしただけで済んだ。
会釈されるともったいないとばかりに返礼してから、手紙を受け取る。
封も印も間違いない――…はずだ。
...は小さく頷き「確かに確認させて頂きました」と手紙を返そうとすると、由良と名乗った男は帽子を取って再度頭を下げている。
…例え帽子の中身が紳士然とした短い髪で無かろうと、態度の悪い客に接する事も珍しくない万次郎としては、ずっと素晴しい紳士のものだった。
もはや招待客だからといった理由でなく、心中嬉しげに畏まると]
主人とお会いになる時まで、どうぞ屋敷にてお寛ぎ下さい。
お荷物お運びします…
助かります。ありがとう。
[荷物を持ってくれた青年に礼を言うと、彼について屋敷の中に。]
こちらは骨董や美術品がかなりありますけど、用意していただけた自室で煙草を嗜むのはかまわんでしょうか?
正直、ないと辛抱できないほうでして。
[後のほうは、自分の悪癖に苦笑を浮かべつつ問うてみた。]
お役に立てますなら幸いに存じます。
[由良に先導して、下りて来た時とはずいぶんと違うゆっくりした歩みで、三階の客室まで歩を進めながら]
はい、主人もお客様の目に触れさせたくないほどものは、特別の部屋で管理されているはずですから。
[――…そのはずだ。きっと。
でなければ、いかがわしい自称親戚筋がやってくる中、こうも無防備に廊下へ全てを飾っているとは思えない]
全ての客室に、灰皿は用意されていたと記憶しております。
どうぞご遠慮なく。
[苦笑を浮かべる由良に、何の問題もないという笑みで頷いて見せる]
[特別の部屋云々の謂いを聞き、]
まぁ、それはそうでしょうね。確かに。
人によっては、同じ屋根の下での喫煙を嫌がる方もいるようですがね。
[ここが自室だ、と藤峰が立ち止まった扉の前で]
いや、ありがとうございました。――そうだ、この後食事の際は、どなたかに時間を教えていただけるんでしょうか?
…由良様のお部屋は、こちらでございます。
[やはり自分が寝泊まりしている部屋とは作りからして違う客室への扉を開き、荷物も中へ。
この部屋からでも庭の花蘇芳は見えるのではないかなと思って、僅かに唇の端を上げた。
そうなると少し位、浮かれた自慢もしたくなると言うもので]
当家には、庭の花にもひけを取らない女召使達も数おりまして…
[タクシードライバーが屋敷内でまで客の世話をするものなのかどうかはともかく仁科や翠、夜桜達の華やかさを思ってニッコリする。
一瞬の間。
このままの顔で続きを言っては、妙に意味ありげじゃないかと思い直した様だ。
慎ましい使用人としての表情を取り戻すと再び口を開く]
…ご用の際には、何なりとお申し付け下さいませ。
[早速食事について問われていたので]
お食事でしたら、お望みのものをお望みの時間に部屋までお届け…
[…大丈夫だろうか?料理人達も中々忙しそうだ。
かなり迷うが、天賀谷の家に仕える者としてのプライドが言わせるのか]
お届けできる…はず、です。
ですがもちろん!このお部屋とはまた違った趣を見せる食堂まで、足を運んで頂きお食事して頂くこともできますし…
いかがなされますか?
[食事は、自室でも食堂でも取れるとのこと。しばし考えていたようだったが]
でしたら、食堂での集まりのときは一声かけていただければ伺いますよ。
もっとも、こちらも居心地はよろしいようですし、声をかけていただいたおりに、うつらうつらしてることもありえますがね。
[ともあれ、お世話になります、と立ち去る藤峰の背に声をかけた。]
[...はハッとして付け足し]
…もちろん晩餐会の際も含めまして、時間にはお部屋まで、使用人のいずれかが必ずご連絡差し上げる事になるかと。
─邸内・3階客室─
[誰何の後入室してきた翠に向かって、満面の笑みを向けて椅子から立ち上がる。]
御機嫌良う。翠さん。本当に御久し振りねぇ。
天賀谷様のご様子は如何?後でお会い出来るのかしら。
[まるで女学生同士の挨拶の様な素振りで翠の手を取り、ぎゅっと軽く握り締める。]
翠さんにもずっとお会いしたかったわ。何時ぞやの夜会の時に伺った切りだから、何時振りかしらねえ。
今日はね、翠さんにお見上げを持って来たの。
[話し掛けながら翠の背に手を回し、部屋の奥に導く。
寝室のベッドの上には、何着もの洋装や若向きの愛らしい友禅が広げて置かれている。]
ね、着てみて下さらない?
きっと貴方にお似合いよ。
[ニッコリと、無邪気そうな笑顔で微笑んだ。]
吟遊詩人 コーネリアス が参加しました。
吟遊詩人 コーネリアスは、ランダム を希望しました(他の人には見えません)。
―玄関の前―
[洋館の前に、男が佇んでいる。
足元には真新しい轍。幾本かの線が、その場所を訪れようとする者が彼だけではないことを物語る。
辛うじて襤褸と呼ばないことも出来る程度の外套を羽織り、苦虫を噛み潰しながら男が立っている。
擦り切れて所々白んだシルクハットの下に、それよりもなお白んだ蓬髪を靡かせて]
……くだらん。
所詮は、道楽か。
[一つ息を吐き、眉間に深く刻まれた皺を無理矢理に伸ばす。
面を上げると、そこには貼りついた様な柔らかな笑みが。
かくして、楽師は舞台へと歩み始めた。]
[いかにもすわり心地のよさげなソファーに腰をかけ、大きな溜息をひとつ吐くと、
灰皿のありかを確認して煙草に火をつける。]
ま、うつらうつらじゃなくて、これで桃源郷に飛んでる時に声がかかると、なんだけどな。
[深く煙を吸い込む。開いてはいるものの、瞳は、眼前の何も見てはいないかのようだ。]
――――藤峰さんだったか?さっきの青年は。
俺もあのくらいの年のころは、今の自分がこうなってるとは思ってなかったっけなぁ――――。
[自分が今の藤峰くらいの年だった頃から10年ほどたっていることに気づき、ほろ苦く笑いつつ、さらに煙を深く*吸いつける*]
失礼は無かったかな…
[中断した作業を続けるべく食堂へ向かって階段を降りていきながら、万次郎はふうっと息を吐く。
やはり客と接する時は特に緊張するようだ]
…ったく俺、いい加減こんな緊張しなくてもいい頃だろうに。
一月前に来たばっかりの夜桜さんだって、もうちょっと堂々としてんじゃないか?
[汗でもかきやしなかったかと喉元に手を当てて、タイが変に曲がっていることに気が付いた]
げ。
[慌てて駆けたりしたからか?
汗はまさに今出ているような気がする中、二階の廊下に飾られた水鏡で映して直す]
そう言えば旦那様が今のようになったのも、これを手に入れてからとか言う話だっけ…?
影見が覗けば屍鬼の正体が分かる…、…だったな。
[それほどの品にしてには、誰の目にも触れられるような位置に無造作に飾ってあるもんだ。
腑に落ちにくいとでもいう顔をして首を傾げる自分が、水鏡の中から*見返していた*]
[──胡蝶の白昼夢]
[月と] [男の生温く、しつとりとしたはだ] [衣擦れと]
[障子に囲はれた] [ゆれる蝋燭の灯]
[見上げる] [穹窿のくらき] [星ゞ]
[窓硝子に映る] [己の姿を視て] [身、翻し]
──藤峰さん
あら、いない。
[二階食堂で一人苦行のように、銀食器を磨いていたのに]
施波さんが、今晩の段取りについてお話したいからとお呼びしているのに、どこにいったのかしら。
[──二階食堂にて]
―玄関―
[重い扉を開くと、目に映るのは豪奢な調度品の数々。
その場にそぐわぬ自らの姿と、お嬢様のお戯れの為に唯の教師として呼ばれることがあまりに滑稽だった。
口元を走ろうとする苦笑いを抑え付けながら、雌鳥にも似た甲高いテノールをエントランスに響かせる]
失礼します、天賀谷様のお宅で間違いございませんか?
さつき様の教師として参りました、コーネル=ローゼンシュトック=シロタでございます。
どなたかいらっしゃいませんでしょうか?
[食堂や階段の上など、そこかしこに人の気配はするが、念の為に人を待った]
/PL/
遅れ馳せながら、入村致しました。
とりあえず、さつきさんと途中までは同行したものの、はぐれてしまった(というより勝手にフラフラと行ってしまった)為に遅れて到着したということにして下さい。
ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。
なお、日系人ですので日本語での会話に問題はありません。
お尋ね者 クインジー が参加しました。
お尋ね者 クインジーは、守護者 を希望しました(他の人には見えません)。
―前庭―
[自ら運転してきたキャデラックから下り立つ。
黒いカシミヤのコートは、春の陽気には少し暑苦しそうだ。
薄い書類革鞄だけを手に、ゆったりした歩調で玄関へ向かった。]
─邸内・3階客室(大河原夫人の部屋)─
[翠は丁寧に一礼した。]
お久しぶりです、大河原様。
旦那様は近頃あまり自室から出てこられないのです。
でも、御元気でいらっしゃいます。
晩餐会の時に顔を出されると思いますよ。
きっと大河原様に御会いになるのを心待ちにしていらっしゃるかと。
[と、大河原夫人に手をぎゅっと握られて
眼を瞬かせた。
夫人はとても親しげに挨拶をしてくれる。
翠にとって嬉しいことであると同時に、
自分のような身分のものが夫人のような人に良くして貰っていいのだろうかという戸惑いもあった。]
そうですね、もう半年程前になりますでしょうか。
旦那様が籠もりがちになってから、夜会が開かれることも少なくなりましたから……。
―玄関―
「……まったく、この私をこんな山奥くんだりまで呼びつけておきながら、誰も迎えにも来ないとは、どういう了見だ?
あのさつきとかいう生意気な小娘は果たして着いているのか?これだから成金は度し難い……」
[笑顔を貼り付かせたまま口の中では悪態を次々に吐き続けている。
こうして待ち惚けている間に、扉の向こうに無粋なエンジンの音が]
え、私に……ですか?
[大輪の花の様な大河原夫人の微笑。
恐縮しながら導かれるままに辿りついた部屋の奥、ベッドの上には。]
――……。
[絶句。
とりどりの美しい友禅、素晴らしい仕立ての洋服が行儀よく並べられていた。さながら高級洋品店のようだ。
翠は続いた大河原夫人の言葉に更におろおろとして]
わ、私がですか?
そんな、いえ、光栄ですけど……
勿体無いです。
私は使用人で……
[言葉を続けようとしたが、、
大河原夫人の無邪気な笑顔と好意を無碍にも出来ず、恐縮しながらも結局翠は様々な服を着用するのであった。]
──二階食堂→エントランスホール──
[夜桜は、エントランスホールへと失礼にならぬよう足早に向かう]
ようこそお越し下さいました。
ここは、天賀谷十三の別荘で合っております。
申し訳ございません。
只今、みな晩餐会の用意で忙しく…お迎えにあがるのが遅くなりました。
[深々と頭を下げる]
さつき様は、昨晩お越しなされております。
お客様のことは聞いておりますが、確認のための手紙若しくは招待状をお持ちでしたら、お預かりさせていただいて宜しいでしょうか。
[コーネルに、軽く会釈をする。]
此処で、誰も待っていないというのは。
珍しいですな。
[と口にしかけた所で、夜桜が現れて挨拶を述べた。
軽く肩をすくめる。]
君は、新しく入ったのか?
ここでそう言われるとは思わなかったな。
招待状……忘れて来ていなければいいが。
[書類革鞄からさっと取り出した封筒を、夜桜に差し出しながら。]
他の荷物は表にある。
ああ。それから。
大河原さんは、もう到着しているかな?
どの部屋を使ってらっしゃるんだ?
何を仰るの。翠さんはこんなに可愛いのですもの…綺麗なものには価値があるの。
[戸惑いがちの翠の服をいそいそと脱がせると、手ずから一着ずつ着せていく。
髪を結い直したり下ろしたり、持参のリボンを付けたりと髪型や弄ったり。
さながら、等身大の着せ替え人形である。]
嗚呼、やっぱり洋装がお似合いねえ。
仏蘭西人形みたい。本当に可愛いわ…。
今度はこれをお召しになって。
翠さんは肌が白くて西洋人よりきめ細かいから、きっと御着物も似合うと思うわ。
[なよやかな手付きで翠の髪や頬、肩の辺りに触れながら、ウットリと呟く。
陶然とした面持ちで、細々と翠に話し掛けつつ暫くこの人形ごっこを*楽しんでいる。*]
/PL/
>>199
こちらこそ遅くなりまして申し訳御座いません。
でしたら、同行して到着したが、何となく気が乗らなくて屋敷周辺をぶらついていたということにさせて頂きます。
ログ読みが甘く不具合を出してしまい、ご迷惑をおかけしました。
[新しい客人へも、蕾のように微笑みをたたえながら]
夜桜と言います。
一月程前にこちらへ──。
勝手の解らぬ不束者ですが、お願いいたします。
[封筒をあらため]
雲井さま……ようこそ、おいでなさいました。
大河原さまは、はい。
お部屋にご案内いたします間に、そちらもご案内させて頂きます。
表の荷物はおって、お運びさせていただきますので、先ずはお部屋へどうぞお上がり下さい。
[夜桜が話している間に、他の召使い達も内から現れ始めた]
/PL/
大河原様、ありがとうございます。
えっと、雲井様が今いらっしゃると
着せ替え中にばったり、
なんて事になるんでしょうか。
面白そうではありますね。なんて。
[修練の後朝風呂を使い、身を清めた後、自室に戻る。仕事道具を取り出し、持ってきた日本刀の手入れをはじめる。
袱紗を手に、口には唾などの飛ばぬよう懐紙を銜え、刃を上にしてそっと刀を鞘から抜く……。
真摯な眼差しできらめく刃を改めつつ、目釘の様子、錆の有無を確認していった。
数振りの刀を改め終わる頃には、時間は相当すぎていた。
最後の刀を錦の袋にしまうと、口からはらりと懐紙をおとして、大きくため息]
……ふう。
[首を回した]
[焦りの色を隠そうとする女中の姿を密かに鼻で笑いながら]
ああ、これは失礼致しました。このようなお屋敷が天賀谷様のお宅でなくてどなたのお宅でしょうね。
ええと、招待状でしたか……これは失礼、
[そう呟きながら、シルクハットと同様に擦り切れた革の鞄に手を突っ込み、黄ばんだ楽譜の束の隙間から封書を抜き取った]
こちらで間違いはございませんか?流石に御招待頂いたからといって無闇に上がりこむわけにはいきませんからねえ。
[そのような遣り取りの最中、凶状持ちとしか思えない人相の男が会釈したのに気付き]
ええ、このようなお屋敷に無言で上がりこむ経験などそうそう出来るものではありません。さぞや盛大な宴になるのでしょう……誠に重畳。
[微笑みの中、口の端が微かに歪んだ]
盛大。ね。
……そう願いたいものですな。
[独白のように呟いた。]
ああ。では失礼。
またディナーの時にでも。
[口調だけはあくまで慇懃に言うと、案内の召使に続いて階段を上がっていった。
三階に上がると、案内の召使を手の動き一つで下がらせる。
示された客室のドアをノックした。]
村の設定が変更されました。
――三階/自室――
[部屋の扉がノックされたのは、クロゼットに仕舞われた衣服のいずれを選ぼうかとさつきが迷っていた時のことだった。其の声から、廊下に居るのはまだ年若い娘のものだと知れた]
……はいはい。今、開けますさかいに。
……あら? ええと、たしか、ゆうべ……
[扉を叩いたのはメイドの一人であった。
さつきに向かい、深々と辞儀をする。娘の背は小柄な仁科より更に頭半分ほど小さく、畏まった様子と相俟ってまだ稚いと云うほどの印象を与えた]
「杏(あんず)と申します。
さつきお嬢様の身の回りのお世話を申し付かっております」
……あ。そう、そう。
杏はん、やったね。どうぞ宜しゅぅに。
[昨晩この部屋に案内された後、茶器の載ったワゴンを伴って訪れてきたのが彼女だったことを、さつきは漸くに思い出した。牛乳で淹れた紅茶など、京の町中で育った彼女には目にするのも初めての飲物だったが、思いのほか其れは美味であった]
ゆうべは美味しいお紅茶、おおきに。
其れで、今日は?
「御朝食でございます。
昨晩は、お召し上がりでなかったとの事ですので」
[メイドの傍らには一台のワゴン。滞在の各人には別に供されるのか、一人前の分量だけが並べられて居る様だった。さつきの相槌を得て小さく微笑むと、彼女は室内へ入り、丸机に洋食の支度を取り揃えた]
/PL/
>>205
碧子さんのPLは不在と思うので、どう応対するかは翠さんのお好みで。
「着替え中です」というなら、いったん帰ります。
[他者を、歪んだ見方でしか見れないのであろう楽師の内心の想いに気づいたようなものは、夜桜には見受けられない。シロタから、丁寧に封書を受け取るとあらためた。]
楽師さま、確かに主人のものです。
[伏せ目がちに封書の字面を見詰めていたが、シロタを微笑をたたえたままに見詰めなおし、三階の客室へと案内*し始めた*]
[夜桜の微笑と口調に、自分を嘲るような……もしくは哀れむような響きを勝手に聞き取り、下唇を一瞬噛み締めながら]
……ご案内、感謝致します。
[舞台では作り笑いを絶やさぬ、楽師の性。]
「さて、どうしたものか……まともなピアノはあるかねえ、果たして……まあ、だからといってどうということはないか」
[これからのどうするか思案しながら廊下を歩くと、客室から聞き慣れたソプラノが。どうやらさつきは先に部屋で寛いでいる様だ]
「……いいご身分だ、凡才の分際で」
[しかし、それよりも尚凡庸な自らの才を省みることもなく、客間へと*消えていった*]
─邸内・3階客室(大河原夫人の部屋)─
[髪を結上げたり、別珍のコサージュをつけたり。大河原夫人はそれはそれは楽しそうに翠を飾り付けて行った。うっとりとした表情で紡がれる賞賛の言葉に、
翠は恥ずかしそうに頬を染めた。]
い、いえ。そんな、勿体無いお言葉です。
[恐縮しっ放しである。
今度は此れを、と差し出されたのは友禅の着物。一目見て上質と分かるそれに流石に申し訳ないと思ったのか]
あ、あの、大河原様。私そろそろ……。
[謂いかけた所で、扉がノックされた。
御客様だろうか。
翠は反射的に扉の方へ向かい、
常のように対応を―――着衣はドレスのままで。]
[扉が開かれる。
目の前に立っている翠に、常に落ち着いて自信ありげな雲井が、少し狼狽した。]
……失敬。
部屋を間違えたかな。
[ほっと一息ついたところで、食事が運ばれてきた。……同席するものがなかったのは幸いかもしれない。食べなれない洋食に四苦八苦するさまは、育ちのいい招待客の中ではさぞ浮いて見えたろう]
……ああ、美味かった。
ごちそうさま。
[出された紅茶を見ながら、本当は昆布茶が飲みたいんだがな、と思ったが、口にはしなかった]
……雲井様……?
[何度も顔を合わせたことのある人物が其処にいた。
翠は丁寧に一礼し]
お久しぶりです、
ようこそ遠いところからいらっしゃいました。
何方かお探しですか?
大河原様でしたら此の部屋で―――
[謂いかけて、はたと自分の格好を思い出した。
常の習慣とは恐ろしい。
染み付いた接客の仕事は自分の格好をも忘却させていたのである。]
も、申し訳ありませんっ。
御見苦しい所を……っ
[翠は慌てて部屋の奥に引っ込むと、
大河原夫人と何事か言葉を交わし、
両手に服を抱え(其の中には何故か手土産と持たされた洋服が混ざっていた)再び部屋から出てきた。]
─3F自室─
[都合5本ほど煙草を灰にしただろうか。
自ら好んで堕ちる白昼夢。いささか耽溺しすぎたか、と残り本数を頭に浮かべて苦い顔になる]
……こいつは常習性はないはずなんだけどな……。
[肉体的にはそのはずである。少なくとも芥子の産物とはまったく違うはずだ。
にもかかわらず―――]
こいつに頼っているのは俺の身体じゃないという事だな、うん。
[何百回となく繰り返した自問自答。答えも判りきっている。
なのに―――]
―望月用の客室―
[片づけをしてくれるメイドに尋ねる]
なあ、こんなお客みたいな扱いで、俺はいいのかい。
天賀谷氏の蒐集した日本刀の手入れや鑑定のために呼ばれたものとばかり思ってたんだが。
[天賀谷十三はしばらく籠もっている旨を告げられる]
病気だったなんて手紙には書いてなかったぜ。そいつは悪いことをしたな。
知ってたら見舞いの品くらい東京から持ってきたのに。
[メイドがくす、と笑う。大富豪に望月のような人間が見舞いなど持ってきても、と言いたげだ]
……笑わないでくれよ。これでも天賀谷氏の喜びそうな骨董の目星くらいつくんだぜ?
[ちょっと拗ねた]
まあいい。食事も済んだし、蒐集品を拝見しに行かせてくれ。
申し訳ありません、
失礼いたします。
どうぞごゆっくりなさって下さい。
[翠はドレス姿のまま、雲井に頭を深々と下げた。
真面目な顔を作っていたが、
矢張り狼狽の色は隠せなかった。
恥ずかしいのか、頬も赤い。
部屋の中で大河原夫人がくすくす笑って居るようだ。
そのまま、客室前から足早に去ろうとした。]
[部屋を出てきた翠の姿を、検分するように眺めて、苦笑を浮かべた。]
やれやれ。
何処のお嬢様に失礼を働いてしまったかと、ひやひやしたよ。
こんなに可憐なお嬢様が、天賀谷に居た筈がないとね。
か、からかわないで下さい。
[雲井の言葉に足を止め、
翠は困ったように視線を彷徨わせる。
手に持った衣服を抱きしめるように抱えた。]
―3F廊下―
さて、あまりうろつくのもどうかと思うが……
[と言いつつも、何とはなしに辺りを見回す。少し離れた部屋の前に身なりのいい男と、盛装の若い女性が立っている。女性がなにやら男に頭を下げているようで]
おや、なんだろう。揉め事かぁ?
[よせばいいのに、つい寄っていった]
揶揄っている訳じゃないんだが。
まあいい。
お取り込み中のようだ。
また後で伺いますよ。
[翠に軽く手を振って、踵を返した。]
―自室→二階
[あまりよくは眠れなかった。
私は草臥た体を引きずるように浴室に入り、熱いシャワーで目を醒ますことにした。やや疲労感が残るもののようやく生気の戻った表情を鏡で改め、真新しいシャツの袖に腕を通す。
黒地に銀糸で細いストライプの入ったスーツを身に纏い、廊下へ出た。]
―三階→二階
[階下へ降りると、廊下の先に人影がある。俯き、頻りに首をひねるその視線の先には曰くありげな盆が置かれていた。]
やあ。藤峰君。
一体どうしたんだい?
随分と思案げな様子だが。
うっかりぶつけて、瑕でもつけてしまったんじゃないだろうね?
[私は笑いながらその後ろ姿に声をかけた。]
[身なりのよい男は、手を振って、自分とは反対方向に向かう。トラブルとしても、さほど深刻なものでもなさそうだ。
若い女性、と言うより、近寄ってみると少女と言ったほうが実情に近い。自分と変わらないくらいの身長があるようだ。]
や、どうも。あなたも天賀谷氏に呼ばれてこちらに?
[すでに取っているにもかかわらず、脱帽の手つきをしたが、髪の毛をつかんだのみ。傍から見るとただの阿呆である。]
あ、あの、いえ、
私ももう今すぐ失礼しますから……
[踵を返す雲井に慌てて声を掛けたところで、
更に別の声が重なった。
『どうしよう、まだこんな格好のままなのに』
困り果てながら、それでも勤めは果たさなければという使命感も働いてしまう。]
―自室→二階―
蒐集品も見たいんだが、俺が一番見たいのは日本刀の刀身のほうだからな。さすがに主もいないところで抜くわけにも行かぬだろう。
[メイドを捕まえて話に花を咲かせている様子]
へえ、天賀谷氏最近の掘り出し物が、その水鏡なのかい。
ちょっと見せてもらっていいかな。そいつは廊下に並んでいるんだろう?
[やおら立ち上がり、二階へ]
[少女の様子をよくよく見ると、手には高級な洋菓子らしき箱だのさまざまな服だのに混じって、メイド服と思しき物を持っている。]
??あの、失礼ですが……??
[言葉をかけては見たものの、かけている本人も何と声をかけてよいやら。]
[さつきが朝食を摂る様子を、杏と名乗ったメイドは傍らで見守っていた。白磁のティーポットから紅茶を注ぎ、其々の料理について簡単な口上を述べると、エプロンの前で手を組む。
静かに立つ娘の姿は、其処に等身大の人形が置かれたかの様だった]
……うん、っと。
そう硬ぅなられると、落ち着かへんのどすけど、杏はん?
[千切ったロールパンの塊を飲み込んで、さつきは目を向ける。少女の様子に変化は無く、まるでそうしている事が彼女に課せられた義務であるかにも思えた]
……ええと、あ、そや。
十三叔父様のこと、聞かして貰ろてもよろし?
病を得てしまわはったということやけど、ほんまに?
先にお手紙頂いた時には――もう半年も前のことやったけど
――お変わりのぅしてはるって、書いていらしたけど。
──黄昏時──
[天賀谷は未だ、誰の前にも姿を現しては居なかったが、招待状を持った客人が複数入り乱れ、大勢の来客に慣れない使用人達が右往左往する中、それでも晩餐の準備は着々と進められている様だった。
二階の広間のテーブルには純白のクロスが敷かれ、何処から運び込まれたのか豪華な真紅の薔薇が飾られ、昼間藤峰によって磨き上げられた銀食器類が並べられる。
黄金色から菫色に空が変化し始める頃、燭台の蝋燭に恭しく火が灯された────。]
[必要以外の事を話してはいけないとでも云われているのだろうか――軽い失望と共にさつきがそう考えた時、杏の口元に僅かな動きが現れた。彼女の裡で何か葛藤でもあったのだろうか、ふぅと小さな吐息が薄紅の唇から洩れた]
「いいえ、ご主人様は今もご壮健にいらっしゃいます。お客様方もお揃いに成った様ですから、今晩にはお姿をお見せになるかと存じます」
それは宜しおした。うちだけやのうて、京都に残してきたばあやも、心配してましたさかいに。
[杏が答える表情からは先ほどまでの人形めいた硬さは消え、彼女の頬にはさつきに向けた微笑さえも浮かんでいた]
[しかし、安堵の心持ちと共に食事を再開したさつきは気づかなかったのである……廊下の様子を窺うように、杏がちらと視線を逸らしたこと、そしてはしばみ色をした彼女の瞳が何処か妖しい色合いを帯びて輝いたことには。
給仕の用は無くなったと見たのか、杏は一礼して背を向けた]
[食堂からホールへの扉は開け放たれ、今は1つの大きな部屋となっている。廊下へ続く扉も開け放たれたままで、ちょうど廊下に設置された──…例の水鏡…──を、食堂、ホールの両方から臨む事が出来た。
中国大陸の骨董品──例えば、壷であるだとか彫刻であるだとかと、水鏡の様相は何処か異なっており、天賀谷が 十三が敢えて、その水鏡(今朝、夜桜によって水を替えられた其れ──…今はただ静謐な水盆にしか見えない)を、客人に披露したがってると言うのは明白で、其れで居て奇妙な事実であった。]
──回想・夜明け前/麓の村──
[>>164葬式が終った後らしき、一軒の大きな農家の裏手に黒塗りの車が音も無く滑り込んだ。一部屋だけ闇を恐れる様に灯りが灯ってる部屋が有る。]
──…アァ、此の部屋なのだろうねえ。
来たよ、兄さん…。
[仁科は呟き、慣れた様子でひょいと生け垣を越えた。
手袋を取った白い手を雨戸に掛ける。仁科を待っていた様に其れは開いている。10帖程の室内には布団以外何もなく、灯りの傍に酒瓶を抱えたまま震えている──…屍鬼に遭ったと言う若い男が震えていた。]
[声を掛けられ、更に困り顔になった。
――嗚呼どうしよう、お客様だ。
――否、同僚に見られたらそれはそれで困るけれど。
何から話そう。考えた末]
あ、あの、私は翠と申します。
天賀谷家で使用人をしております……。
此の格好には其の、訳が……。
[自己紹介をした。]
[仁科は帽子を被ったままだ。
口元だけで頬笑み、震える男の傍に猫の様に滑り込む…──。]
あたしに、屍鬼に遭ったと言う話を聞かせておくれ。
[慣れた手付きで酒を注ぎ、帽子の奥の黒い瞳でじっと男を覗き込み乍ら、自らの襟元をくつろげる。]
―二階廊下―
[水鏡が見つけられずに歩くうちに夜桜とすれ違う]
ああ、ちょっと尋ねたいんだが……。
この界隈には進駐軍は来ないのかい。
[壁に無造作に飾られた異国の円月刀を指差し、呆れ顔に言う]
東京じゃ刀狩が行われて、めぼしい刀がみんな赤羽の倉庫に叩き込まれたりしたってのに。
天賀谷氏にはよっぽどのコネでもあるのかな。
[山村のことで、進駐軍も東京ほどには厳しくないらしいことを夜桜の言葉から類推する]
……と、あれ? 前に来た時にはこんなものはなかったはずだが……。
[水を湛えた盆は随分と凝った品だ。装飾や意匠から、日本の物ではあるまい。]
――まさか
[妄執といえるほどにその存在を追った一つの伝承、それに由来するいわば要となる品。突然の邂逅に戸惑いながらもその真贋を確かめるかのごとく、手を伸ばしかけたところで――]
「――枚坂さま」
[声が聞こえた。]
[翠と言う娘が、使用人と自己紹介したのに、]
『ああ、なるほどね』
[となんとなく納得してしまう。状況的に納得するのもどうかと言う気もしたが。]
えーと、もしかして、着替えしないといけないとか?
俺の部屋でよければ使ってもらってかまいませんが。俺は外に出てますし。
……ちょっといる間に煙草をかなりふかしたんで、それがお嫌でなければ、だけど。
[まさか、翠がいつまでもそのままの格好でもまずかろうと思って、提案してみた。]
夜桜さん。
[振り返ると、瞳に神秘的な光を湛えた女性が佇んでいた。]
これはいつからここに……?
ああ、君はもしかしたら最近こちらにやってきたのだろうか。
[望月の問に答え]
――水鏡ですか?
それならこちらに。
なんでも、屍鬼を見る事叶うものらしく、主人のお気に入りの品です。
[望月から死角となっている箇所を指差す]
やあ、望月君。
君も招待されていたんだね。
[夜桜の後ろに望月青年の姿を認め、声をかける。]
君が専門に扱っているのは刀剣だったね。
こいつの値打ちは……どうだろう。
[夜桜に教えられて、小さくうなずく]
屍鬼を見ることの出来る品を、『気に入った』と。
[くっ、と喉の奥で笑った]
物騒なものを気に入る人だね、天賀谷氏は。
[それは、自分がしばしば目にした、妖刀というものを欲する人間と性質が近いように思えた]
―麓の村から屋敷へと続く道・車中―
[来海は天賀谷の容態について探るべく、昼間に麓の村を訪れていたがすべて徒労だった。
村人に病状についての具体的な話を聞こうとすると誰も何も答えようとしなかった。村ぐるみで何かを隠している、来海は苛立った。
村人の一人が「あの屋敷には『鬼』が出る」、そうぽつりと漏らしたので仔細を問いただそうとしたが、「許してください」と繰り返すだけでそれ以上何も答えない。]
一体、天賀谷に何が起きてるんだ……
[来海は正体不明の違和感を覚えながら屋敷へと引き返すしかなかった。]
[寝台に横たわっているうちに、少し寝入ってしまったらしい。
夢に見るはあの麗しき舞台と、自らの芸術を理解しない者どもの嘲り笑い。
それは、みすぼらしい怨嗟。]
貴様らに何が分かる……貴様らに何が……私の天賦の才を理解せぬ凡人ども……
下らぬ、何故私があんな小娘に媚び諂わねばならぬ…………
[手垢と日焼けで黄ばんだ楽譜に、不協和音が染み付いていく]
――――。
[楽譜の束から数枚を抜き出し、無言で部屋を出た。
解らせねばならぬ。私の価値を、私の才を、私を、私を。]
本当ですか?
[部屋を使ってもよい、という言葉に
安堵したような声が漏れる。
其の後直ぐにはっと気づいて頭を下げた。]
も、申し訳ありません。
御客様に気を使わせてしまうなんて……。
[けれども、大河原夫人の部屋に戻ったら
また服を差し出されるかもしれない。
綺麗な洋服は嬉しかったけれども、
まだ仕事もある。それに今日は晩餐会だ。
客人の申し出に甘えよう、そう決めて返事をした。]
あの、今回だけ、
御言葉に甘えさせていただきます。
…へえ。
…──隣の家で、土に埋めたはずの死人が、夜半に家に帰って来たと。
死んだはずの者が帰ってくるのはおかしい。
そりゃあそうだ。
[程なくして灯りが消される。
──…闇の中、くぐもった声が響く。衣擦れの音。]
アァ、首を刎ねたのかい。
──…鎌で。
その黄泉がえりを…──。
其れを見たのがアンタの妹の恋人だったと…──。
妹さんはご健在で?
アァ、兄さんの脚を見れば…、妹さんがアンタの面倒を見て下すってたろう事は、あたしでも分かるってもんさ。
じゃ、窓は開けといて大丈夫でしょうね、ここは3階だし。
[翠の前に自室に入り、窓を全開にして、彼女と入れ違いに部屋を出た。
廊下で、なんとなく鼻歌など歌っている。]
[枚坂に軽く会釈すると水鏡に歩み寄る]
先生も人が悪い。刀以外の骨董に関しちゃ、俺なんぞ門外漢も同じだってのに。
……だが、まあちょっと見せてもらいますよ。
[澄んだ水をたたえた水盆を覗き込む。そこには自分の顔が映るばかり]
たしか、屍鬼はここに顔を映すことができないんでしたね。……この水鏡が言い伝えどおりのものならば。
「――屍鬼」
[夜桜の口からおぞましい伝承の登場人物の名を耳にし、戦慄を覚えた。]
屍鬼というと……死してなお動き、人を喰らうという……
ハハハ、これにその姿が映るとはね。
[夜桜の問いに、少し思案しながら答える。]
いやね、私は中国に居た頃、この話を耳にしたことがあったんだ。
その品を日本の、それも山深いこの別荘で目にすることがあるとは奇妙なことだと思ってね。
[掠れた男の悲鳴。]
…結局、隣の一家は全員殺し合った様にして死んだ。
其れにアンタの妹さんも巻き込まれて…──。
酒場に来るしかなかったのかい。
そりゃあ、可哀想だ。
記事とは随分違った話なんだねえ。
まあ、此の田舎で…──東京から記者様が来たとして、誰かが口を割るとも思えないが。
[また、衣擦れの音。]
以前にも有った事なのかい?
……其れは、あの屋敷の者には言えないか。ククク…。
兄さん、あたしが天賀谷の者だって知ってるんだねえ。
アァ、知ってるとも。
旦那様ご自慢の水鏡の噂が…麓にも広がっている事は。
兄さんは、てっきり吐いて楽になりたいのかと思ったのさ。
/PL/
先ほど「さつきさんと同時に屋敷に来た」という設定にするというお話でしたが、そうなると招待状を先ほど渡していたのは矛盾することに気付きました……。
とりあえず前から来てはいたけど、さつきさんと一緒に入ったのでパスされてしまい、招待状を渡しそびれてしまったという設定にさせて頂きたく存じます。
夜桜様には特にご迷惑をおかけしました。
は、はい。
[もう一度深く頭を下げて客人の部屋へと入る。
確かに部屋に残る――煙草の臭い?]
『何の臭いだろう?』
[煙草はこんな臭いだったろうか。
余り詳しくない翠には分からなかった。]
『早くしないと、
これ以上御迷惑はかけられない』
[素早くドレスのファスナーを下ろしてコサージュを外した。
メイド服に腕を通すといつもの落ち着いた感覚が戻った気がした。]
……大河原様に渡された洋服、どうしよう……
[「差し上げるわ」と笑顔で謂われたものの、
翠はまだ迷っていた。]
――黄昏時・二階――
[はしばみ色の瞳をしたメイドに先導されて現われたさつきは、何処か先刻までとは様子を異にしていた。尤も、この時初めてさつきの姿を目にした者は、其れが彼女本来の姿だと感じたやも知れぬ。それほどに、さつきの変容は自然な有り様であった。水盤を見る瞳に何処か懐かしげな色合いを帯び、一同に礼儀正しく辞儀をした]
兄さんが、妹さんを殺したのだろう?
分かるさ…──。
酒場で一目見て分かったのさ。
人を殺した直後の人間の顔だってね。
──…おいで、もっと抱いてやろうとも。
[夜明け前に、仁科は屋敷に戻る…──。
麓に現れたと言う屍鬼の話を、直ぐに天賀谷に伝えると、久しぶりに会った天賀谷は、以前より痩せた様に見えたが…──。
仁科に、晩餐会の準備を急ぐ様、使用人達に伝える様にと上機嫌で告げた。]
[1つ息を吐くと、
また後で考えようと洋服を両手で抱えなおし
部屋の扉を開けた。]
申し訳ありません、
お待たせいたしました……。
[心持ち声を抑えて、
廊下で鼻歌を歌う男性に声を掛けた。]
ほう……
顔が……
[望月青年は思いの外伝承に詳しいようだった。]
そうだ。鬼退治にうってつけの刀というものはあるものかね。
ほら、三種の神器も玉と鏡と剣じゃないか。
鬼に由来するという刀なら、天賀谷さんもひょっとしたら殊更に気に入るかもしれないよ?
[冗談まじりに青年に問い、笑いかけた。]
[水鏡を撫でて、思案する]
この品は……濁っていないと思う。
俺はこういった品物についてはまるで門外漢だが、「何かに見せかけようとした品」かそうでないかは分かるつもりだ。
少なくともこいつは、天賀谷氏に売りつけるためにでっち上げられた品物ではないようだ。
刻まれた漢文や文様に、細工された跡は見当たらなかった。
……もっとも、これは門外漢の感想と思ってくれよ。
あんまり当てにされては、面映い。
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