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[朦朧とした意識の中、瞼の裏に浮かび上がる風景があった。
それは沖田敬一郎の夢……搾取され続けた大地の皹]
(あの、爛れた大地が……現実のものとなるのならば……
私の願いは……人類の誕生は一体……何だったというのでしょう。)
[朦朧とした意識が掠れてゆく……もうすぐ、私は恐らく消滅する。
マスターの声が、自分の名を呼ぶ声が、遠くから聞こえたような気がした。]
(さようなら……うつほ……)
[全身で魔力を練る。否、魔力など既に尽きていた。残った一枚の紙片から、魔力を吸収し、シャルロットに触れる]
Priere ....de l'eau.
[癒す。それはわずかにシャルロットの傷を癒したにすぎない。
自分は、守ることが出来なかった。彼女はもうすぐ消えてしまう。
シャルロットを失うことが、心の中へと深く突き刺さり、涙となって現れる。
失うことへの寂しさと、守れなかったことの悔しさと、傷ついた姿を目にした痛みが、心を抉って行く]
・・・・・・
[意識を失った空穂をそっと抱え上げ]
空穂はこちらで病院に連れて行く。
この世界が滅びる瞬間まで立ち会ってもらうつもりだ。
アサシン、君はもう長くは無いようだ。
消えるまでの時間をゆっくり味わえ。
[アサシンが死ぬ事で、聖杯は本格的に動き始める。
教会は戦場に使いすぎた。聖杯を確保する事も含めて拠点を移動する必要がある。
空穂を抱えたまま、アサシンの前から立ち去った]
‐西ブロック・教会‐
[気配に向かって全力で走る。
迅く、更に迅く…そう思ってもそれ以上速度が上がらない体が恨めしい。]
【くそっ!】
[悪い予感が消えない、むしろ近づく程にそれは確信へと変わる。
きっとそこには、自分が見たくない光景があるのだと…。]
マリアちゃん!
[目の前に広がる、無残に破壊された廃墟。
そしてそこに横たわるのは、どう見ても彼女だった。]
[血塗れのマリアに駆け寄るが、そこでキャスターは言葉を失った。
いまほど、自分の賢者としての知識を憎んだ事はない。
なぜ分かってしまうのだろう、"もう助からない"と言うことが。
愚かでもいい、目の前のマリアを助ける為に全力で治癒をかけ続けたい。
だがそれも全て無駄と悟ってしまっている自分が酷く嫌になる。]
マリアちゃん…。
[キャスターは彼女を静かに抱き寄せ、治癒をかけた。
助からなくてもいい、言葉ぐらいは最後に喋られるようにと。]
[意識が遠のいていくのが判った。
真っ白になってゆく…そう感じていた刹那、身体が軽く揺れ暖かいものに触れる。
左腕がもげた場所から溢れる血のせいか…そう思ったが、遠くに聞こえてきた声は、ヴァイナのものだった。
柔らかな光に包まれ、薄っすらと目を開ける。靄がかかったような霞む視界の中、ぼやけて魔法使いの心配そうな顔が見えた。]
[マリアの目が開く、それもこれが最後だろう。
もう魔力など残っていない、全て使ってもこの程度だ。
なにが魔法使いだ…と心の中で吐き捨てる。]
気が付いた?
なんでこんな無茶するかなぁ…まったく。
[そう言ってキャスターは、マリアの顔に付着していた血を拭った。]
……ヴァイナ、さん?
[最期までこの人は……温かかった。そう思った。]
貴方と戦うことにならないように……
負けて、きましたの。
[とうに全身の感覚など無かった。
僅かに、唇を動かし、彼女は微笑んだ つもりだった。]
……そっか。
[静かに頷く。
俺だってマリアと戦いたくなんてなかった。
だが、これは…。]
俺だってマリアちゃんと戦うのは嫌と思ってたよ。
でもさ…俺、マリアちゃんの今の姿見てるほうが、よっぽど辛いんだけどなぁ…。
[そう言って、キャスターは哀しげに笑った。]
それに、マリアちゃんにだって叶えたい願い…あったんだろ?
じょう、だん、ですわ。
[そう言って、再び、微笑む。己の唇が動く事に、驚愕していた。]
(この暖かさは治癒の魔法だろうか。)
[ぼんやりとした頭でそう、考えていた。
シャルロットにとって殿方はいつも、どこか信用できなかった。
けれど、キャスターは違った。
明確な敵なのに、全く敵ではなかった。
同盟を組む、という、それだけの言葉を信じあい、いつも手をガッチリと握りあっていた。]
[シャルロットは多くの男性に慕われながらも、人を愛することを知らなかった。
心に芽生える、不思議な感情を、それまで彼女は知らなかった。]
本当…は、勝ち残り…たかった。
でも、これで…いいので…すわ。
ヴァイナさ…ん。
ありがと……
まったく、酷い冗談だなぁ。
[呆れたように笑う。]
……ねぇ、マリアちゃん。
平和を聖杯に願う…っていってたよね。
[キャスターはマリアの頬をなでて、ゆっくりと喋る。]
平和は間違った願いじゃないと思う。
むしろ誰もが思っている、正しい願いだと思う。
でもさ…それって他人が与えるものじゃないと思うんだ。
願って、長い間願い続けて、それでやっと手が届くものだと思う。
突然他人から与えられた物なんて、どれだけそれが大切なんかわからないだろ?
だから、…本当に尊い願いだからこそ…聖杯なんて物に願ったらいけないんだ。
……そう、です…わね。
[まるで子供を諭すように話すキャスターの口調に、緩く目を細めた。
それは、意を反さない、印。]
過ちは起きる。
でも、それを…正す事も…出来る…の、ですものね…
[こうしている今も、ソフィーからの魔力供給は続いている。
怪我をしているから尚、マスターから奪う魔力量は相当なものだ。
先ほど彼女の魔力が枯渇した事を、シャルロットは知っていた。
これ以上自分が、留まっている訳にはいかない。]
お願いが…ありますの。
私を、一思いに。
貴方の手で…楽に、させて…下さい。
[微笑むシャルロットの瞳から、一筋の光が零れ落ちる。]
…あーあ、本当に酷いなぁ、マリアちゃんは。
俺って、女の人の頼みって断れないのに。
[そう言って、キャスターは自分の手を強く握った。
皮が破れ、そこから血が滴り落ちる。
無理矢理…笑顔を作る。
作れているかなんてわからないが、出来ていると思おう。
ゆっくりと…手から零れ落ちる血が刃と形を変えた。]
……俺に女を殺させた責任、いつか取ってもらうからね?
[最後にそう語りかけると、キャスターはマリアの体の中心を貫いた。]
[マリアの姿が音もなく消え去る。
最後の微笑みの時、彼女は何を思っていたのだろうか。]
…ったく、こんな辛いならさー。
[静かにキャスターは立ち上がり空を見上げる。
視界が何となくぼやけるのは気のせいだろう。]
軽く振られる方が、よっぽど楽だっつーんだよ。
[いつもの口調で、誰に向けているでもない呟きを口にする。]
……。
[どれほどそうして居ただろうか。
紅く染まっていた筈の空は、とっくに星空へと変わっていた。
その夜空に…彼女の"翼"を思い出しながら、キャスターは*その場を後にした*]
[混濁した意識の中]
[わずかに繋がっていたシャルロットとのラインが途切れる]
(シャルロット……逝ってしまったのですね。貴女が夢見た平和が、いつかこの世界を覆うことを、その座から、見守っていてください。
人はそれほど愚かではない。私はやはり、そう信じたい――)
[意識は、やがて再び闇へともぐる。最後の魔力の雫が、シャルロットへ渡ることなく、*零れ落ちた*]
[急速に、傷が治り始める。]
…ッ?
これは、なんだ?
いきなり…
[…宝具により、受けた傷。
その効果が、治療不能に繋がっていたのなら。
それがなくなったということは、つまり。]
…そういうこと、かもな。
…。
[押し黙る。]
…っふ。
殺せていなかったんだな、「彼」は、やっぱり。
詰めが甘いんだ。
全く…。
お前を差し置いて彼女を殺した奴も、殺せないぜ。
これじゃあな。
さー、過去を見てもしょうがない。
次だ。
[さっさと、治療を進行させる。
彼女は死んだか、少なくとも力を失ったのだろう。
それには、「彼」による攻撃も影響したはずだ。
挙句こちらもその影響で敗北なんてのは、あまりに情けない。]
彼女に偉そうなこと言ってたろ、お前。
*お前は負けるなよ。*
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