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ああ。換えは利かん――僕の患者の命もな。
選択は今や、各々の価値観で為される。
〔ギルバートの血肉が本当に彼の言った効果を齎すのならば、実験動物たちの為に伏せておかなければならなかったが…ナサニエルの纏う雰囲気に僅か胸の内も漏れ〕
悪い? …違う。それも記憶の一部だ。
〔持ち上がる髪が彼の手指の動きに従って降りてくる。
その陰で目元をむずつかせるような気配があり〕
その通りだ、Nathaniel Regel.
だから僕、はお前、を殺して喰わないと――
〔「決めている」。口にすることが甚だ不本意そうに、だが彼の奥へ翳りゆらめくような双眸を見据えて*言い置いた*〕
そう……だな。 いいんじゃないか?
お前はお前の守りたいものを守るといい。
[各々の価値観。重きを置くものの差。
彼女を逃がしたのも自分の下した判断。
食料を逃がしたと思うやつもきっといる。]
記憶の一部……?
[反射的に聞き返した声は無理に問うようでもなく、
けれど確かに興味は惹かれて小さく首を傾げた。]
[続き紡がれた言葉には純粋に驚いたような目で見返し、すぐ取り繕うように室内の別の場所へと視線を彷徨わせた]
託されたものがなければ殺されてもいいと思ってた。
でも、今は託されたものがあるから、死ねなくなってさ。
……だから、命を取りに来る奴に容赦はしない。
[室内のそこかしこにはわせた視線を再び戻し]
……ハーヴェイを殺さずに済みそうで良かったよ。
[不本意そうな声音にくすりと*笑って*]
――Got it.
[ハーヴェイからの通信に短く答えて。
ウサギを抱き上げたまま暗い部屋を出かけて――]
……。
[一度部屋の中に戻ると、テーブルの上の首輪をポケットにいれる。]
……壊れたか、無くしたか。
うーくんトレースできる?
[きょとりと首を傾げるウサギに、こちらも首を傾げて。]
[照明を消した暗い部屋の隅にじっと蹲って]
―まだ大丈夫。空腹は感じていない。後1日は持つ―
[ギルバートを喰らう―それが何故か躊躇われて。食堂にも部屋にも行く気が起きなかった―]
[呟いて数歩歩いてから足を止める。]
――……船内に無い、といったか。
ということは必然的にセシリアの端末は外……か?
[軽い眩暈のようなものに眉間を抑える。
アーヴァインを喰っていくらかマシになっても極度の飢餓状態には変わりない。]
……端末が君みたいなのなら兎も角。
アレの端末が一人歩きするなんて話はついぞ聞いてない、な?
[軽く首を捻った後、足を脱出艇の格納スペースへと向ける。]
〔容認し合う先にある矛盾には今は言及せず、額へ当てた手を浮かせて大丈夫だと伝えるように振る。自分のように鈍感ではない筈のナサニエルを逆に案じる沈黙があって〕
記憶。…思い出と言うのかもしれん。
〔口数少なに付け加えて、手にしたままだった注射器のキャップを戻す。そんな些細な仕草で相手の動揺は見ない振りを〕
託されたもの、な。…
〔一度ギルバートの屍を見遣るも、そればかりではなかろうと朧に感じ取った紫苑の行方には口を噤む〕
殺さずに済みそう、程度にしておけ。
〔愛想の欠片もなくナサニエルへ答え、コーネリアスへと視線を向ける。今の遣り取りで自分に殺意が向けられていることを彼も気づいたのだろうから〕
――お前は、僕が守りたいものに含まれない。
〔銀の髪持つ青年の膝元へ、タブレットを放る。義務は果たしたと告げる代わりに、常の突き放したような視線で彼を見下ろした〕
……誰もアンタに守ってくれなんていってない。
[少し赤くなった瞳で緩やかに睨み付けながら]
…そもそも、誰かに守ってくれなんて頼んだ覚えなんてない。
ニコルにも代わりに死んでくれって頼んだ覚えもない!
[感情の高ぶりのままに強く声が響くか]
……みんな、勝手だ。
――
そんな声をしていたんだな。
Cornellius Northanlights.
〔一度散じた殺意を呼び込む作業に困難さを憶えつつ、コーネリアスの感情が迸り出すのを受け止める。〕
…では僕も言わずにおこうか。
〔「代わりに死んでくれ」とは――〕
〔細いコードが宙へ翻って弧を描く。アタッシュケースを自分の体の前へと突き出して盾としながら、コーネリアスの瞳を狙い〕
〔"ヂッ"――蒼白い閃光を彼は見ただろうか〕
守りたい、って何だろうな。
[目の前の光景を見てもらすつぶやき。]
相手を傷つけられたくないってことがそれなら
――ラズ。
俺はお前を守りたいけど。
[抑揚のないトーン。
日常から非日常へ、船内は変わってしまったから。]
方法なんて知らない。
守りきれるとも思えない。
[青白い光、それが視界に飛び込んできたのを見たのが左目の最期の光景]
───っ!
[左目を灼いた痛みに声をあげなかったことは彼なりのポリシーにもとづいたものか。
赤い涙を流す左目を押さえながらわらった。
銃は床に落ちたまま]
……殺したいならさっさと殺せよ。
俺を貪り食って生き延びればいい。
どうせ、もうここに居続ける理由もない───
[光を見続ける右の瞳だけが強く光るだろう]
[悠然と、そこに争いなど存在しないようにゆったりとした歩調で彼に近づく。
殺意などなかったから注意は向いてなかったかもしれない。
銃をの所までたどり着けば拾い上げ、無機質に眺めて。]
……――。
[銃をくるくるまわしながら赤い涙を流す彼を側面に感じ、彼が吐いた言葉に瞬き回転を止めて握り直す。]
――じゃあ死ねば?
皆生きるのに必死。
生きる気のないやつにかくる情けはない。
[視線は正面を向いたまま――
腕を側面に延ばして引き金をひく。]
[どれほど闇の中に蹲っていただろうか―ふらりと立ち上がるとロックも外したまま廊下に出て当所無く彷徨い始める―]
船長、ギルバート…次は誰?
[囁く声は空気を微かに震わせ消えていく―]
自分を守るために誰かを殺すつもりはないよ。
[くすり、もらした声]
――お前のことも、逃がそうかなんて考えてた。
ここで死んだら喰われるのを見てなきゃならない。
[小さくため息]
機械の癖に変な感情を持ちすぎだな。
しかもひどくエゴイスティック。
―バウアーが望むならそれでも良い。
[出来るならずっと傍に居たいけど―と付け加え]
自分も―バウアーに会ってからエゴイスティックになった。
[僅かに含ませた笑みは自嘲か苦笑か判別出来ない物―]
…死ぬさ。
俺に生きる気がなくても俺の肉を冷凍にでも放り込めば、まだしばらくはみんな保つだろ。
[ナサニエルの言葉を俯いたまま耳にする。
その口元はとても穏やかに微笑んでいるか]
…───。
[かすかに唇が揺れて空気を吐き出す。
ニコルとの約束は結果的に破ったことになるのだろうか、と頭の端で考えようとしたけれど、響いた銃声によってその意識は硝煙の香りを感知すると共に*ブラックアウト───*]
[脱出艇を使うためのコントロールパネルの前。
うーくんと制御システムをコネクトする。]
――……誰か出た形跡があるな。
しかもつい先刻……
[居なくなった、といわれた該当人物だろうか。
思案顔でうーくんを抱き上げる。]
[ラズの言葉を静かに受け止めて]
……傍にいてやりたいけど。
[人間を殺してしまった。]
もうお前の髪を撫でる資格をなくしちまった。
[乾いた笑い。]
……ごめん。
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