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[手を添えたままで]
貴女は、人の魂を視ることが出来るそうですね?
ならば、それが貴女の戦いでしょう。
貴女が忌む力で、貴女は人を救える。
ならば、身を危険に晒してはなりません。自らを傷つけてはなりません。
[そう語ると、すっと抱き締め]
……貴女は、女だ。
血腥いことは、男にまかせれば宜しい。
[そう優しく囁いて、
誰にも見えぬように、
哂った。]
[苦しげに歪む由良の顔を見つめて、刀に手をかける]
だが、そうでなく。
己の無力を臆病の言い訳にすると言うのなら。
その言い訳の種にこの人の名を汚すつもりなら、俺はおまえを――。
[来海に。]
確かに、屍鬼だと見込まれて、招待された者も居るのかもしれませんな。
だが、天賀谷さんの残した物には、屍鬼を見つけ出すなりする能力を持った者が居ると謂う。
其方の理由で、集められた者も居るのじゃないかと、思うんだがね。
[その後の混乱で忘れ去れた様に寝室の小卓に置かれている書付を、身振りで示した。]
[コルネールに向かって怒鳴り声を上げる。]
貴様ァ!それでも男かッ!
[先ほどのように、修羅の形相。]
手負いの丸腰1人恐れるのか貴様は。
この軟弱者がッ!覚悟を決めろォ!
[不思議と夜桜の傍に居ると落ち着いた。
だが、先刻までの仁科の様に、或いは望月の様に。
誰かが誰かを殺すかもしれなかった。]
『あの部屋に江原様がいらっしゃるのだろう。
──…声が聞こえた。
鮮烈な声が。』
[何故か仁科は江原の事を思い。後ろ髪を引かれ乍らも。
庭を進んで行く。]
あちら側へ──行ってみましょうか?
[刀をすっと抜いて、立つ。もはやコルネールは意識の外]
『ああ、由良さん。赦してくれとは言わない。
だが、そんな苦しげな顔はやめてくれ』
…諸行無常、是生滅法、生滅滅已……
[人差し指、中指、薬指、と指を握っていく。瞳は由良の首をひたと見据えている]
……寂滅為楽!
[振り下ろした刀は由良の首を打ち落とす]
[夜桜が由良の部屋に居たならば、何と言ったであろうか。
もしかすれば、シロタに疑いの目を向けたやもしれない。
枚坂、江原、翠、そして望月よりも。
いや、
場が混乱の度合いを極めれば、どうなるか判ったものではない。]
「あちら側へ──行ってみましょうか?」
[前方の櫻の方角であろうか。
無言で頷く。]
――三階/十三の部屋――
[其の情景を想像するように、さつきは血文字の名をじっと見詰めた]
望月様が……由良様の、首を。
駅ではじめに御逢いした時には、其のような事をなさってしまう様な方とはとても思いませんでしたけれど……嗚呼、でも、そう云えば。
[脳裏に甦る、望月の声。懇願するような、切羽詰ったような、其の響き。狂える論理なのに、彼の意志をまざまざと感じたことば]
―天賀谷自室―
どのような理由でこの屋敷に赴いたとして……。
あの血文字を見た後とあっては、あそこに名のあった者なら誰にも等しく屍鬼である可能性はあると俺は思いますがね、来海さん。
しかし…。
[しかし確かに気にはなると思う目で、来海に問われた雲井を見た。
主人との古くからの知り合いだからとて、屋敷がこのような状況に置かれることになる近い日に、ここを訪れた者には違いない。
ついこの人は大丈夫だろうと思ってしまうが…
他の客と同様に、油断などするべきではないかもしれないのだ。
雲井の指す小卓の上の書付を眺め]
……翠さんは自分は霊視と言っていた。
もちろん雲井さん、あなたもご自分を屍鬼とは言いますまい。
ではその、「屍鬼を見つけ出すなりする能力を持った者」としてご自分は呼ばれたというようにお思いで?
つまり…、そのような能力を持っているのですか?
由良さん。
[首を打ち落とすことへの固執もまた、望月の狂気なのかもしれなかったけれど、こんな形でしか供養の方法など思いつかない]
[ネリーを抱き締め、柔らかな髪を撫でて一つ笑顔を返すと、振り向いて]
……覚悟?
ああ、なるほど。
手負いとはいえ、もし貴方がたのどちらかが化け物でしたら、一人くらい縊り殺すのは簡単ですね?
……私は、化け物ではなく人間同士殺しあうのは馬鹿馬鹿しいと申し上げているのです。
貴方がたに対して丸腰だったのは、貴方がたが紛れも無い「人間だ」と信じていたからなのですが……
もし、私を殺そうというのなら身を守ります。
翠さんを殺そうというのなら、全力で守ります。
ですが……貴方はそんなに、化け物狩りではなく「人殺し」を為さりたいのですか?
先程から聞いていれば、私を疑うよりも気に入らないから殺すと仰っているのですよ、貴方がたは?
[そう言いながら、ポケットの中で手にピアノ線を巻きつける]
――三階/十三の部屋――
望月様は、
「どうか俺に、その人の首を落とさせてくれ」……と。
……だとしたら、由良様を殺したのも、屍鬼にせぬ為に、――?
[扉口を抜け天賀谷の私室内へと入って来た、さつきに頷く]
…そうです。
そのように言っていました。
そう言えばさつきさん…
あなたもずいぶんと紛らわしいことを言っているようにも俺には思えたが…、結局は違うのだな?
……別段、天賀谷様を殺めた屍鬼を知る手立てを……知っている者というわけではないんです、ね?
[藤峰の言葉に、首を振り。]
いや。私は影見じゃないさ。
そうだったら、こんな風に影見を探してはいないよ。
そうか。
あの子が、霊視だと……。
[由良の部屋を振り返るかわりに、今の仁科の指先よりも冷たい銃にそっと触れた。
其の智恵と言う女性が屍鬼ならば、彼女を──。]
[雲井を睨みながら詰め寄る]
わかった。招待された人間には2種類いたということにしよう。屍鬼、と、そうでないものだ。
ところで、さっきの質問に貴様は何も答えていない。
お前は『屍鬼』なのか、そうでないものか?
何が目的でこの屋敷にやってきた。
まさか天賀屋と茶飲み話をするためだけにこんなところまでやってきたわけではあるまい。答えろ。
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