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[やがて辿るは宴場の道。
すっかり乾いた茶浴衣揺らし、白の最中に姿現す]
[つぃと巡らす琥珀に映りしは]
……やれ、酒を忘れたわ。
[既に瓢箪空けるる姿がみっつ]
酔うは危うく、酔うは楽し…ふふふ。
気をつけよとはわらわに言わず、あまり悪戯を過ぎるなと酒や櫻にこそ言うておくれな、常磐のひめよ。
おお、いっとう好い奴か。
わらわもいっとう好い奴を、いっとう好くぞ。
そうじゃな、まことに桜の精と言い張る者のためにも命の水を酌み交わそうぞ、いざ酒の精気取り入れる宴へと。
お月さんみたいとはよう言うた…
確かに、人間も異形も関わりないかもしれんのう。
金の眼を月と思えば、月見酒。
天にあるのが雲に隠れても、安心じゃな。
ふん、有塵め。それは意地悪のつもりかや?
真は無きをあるがごとく言うて、瓢箪呼ばわりへの仕返しじゃろう。
先ほどの……?
[はて、としばし思案顔。ぐるりと記憶を廻らせて、思い起こすはその断片。]
……嗚呼。
もしや『はづき』とうわ言のように繰り返す男の声の事で御座いますか……?あれは、わたくしにも詳しいことがわからないのです。
わたくしが妖しとして現れた時、最初に口にできた言葉が『は、づ、き』の三文字だと、さる御方がおっしゃって居りましてね……。それを聞いてかの方は、面白がってわたくしを『遥月』と名付けたのです。
恋うる、恋うるといいますと……。嗚呼、はっきりとは分かりませぬ。ただ……わたくしの中で執拗に声を上げる男が、誰かを恋うて泣いて居るのやもしれませぬ。
其の恋うる相手が『はづき』の正体ならば、『遥月』というわたくしは、一体何なのでしょうね……。
[寂しげに遥月は微笑み、司棋の手をそっと取る。無言で首を横に振った時、司棋の口から聞き慣れない名を聞く。]
ハーヴェイ…タチバナ……?
異国の方の御名前ですか……?
嗚呼………
[遥月は、軽い眩暈を覚えた。]
[零れる言の葉] [途切れ] [口噤む有塵] [見詰め]
[長い睫毛] [瞬き] [小首傾げ] [常葉揺れ] [ニィと笑む]
喰児は優しいから好きだヨゥ。
でも謂った通り、アタシァ色恋沙汰とは無縁さァ。
本気も本気の鬼ごっこをしたいンだヨゥ。
[顔には僅かに朱が残るがそれを隠すように]
わかりました、では開耶様を。
夜斗をおかししましょうか?
夜斗使う使わぬはどうぞ貴女のお好きなように。
言うことは聞くように、言っておきますよ?
猫はその後、また始末させて頂きましょう。
…不味そうですが。
さて、杯。白水に貰うた清水の杯が有ったような気もしたが、何処ぞに無くしてしもうた。
出来うれば瓢ごとが有り難いが、たまには美人の酌も良いかも知れぬ。
[差し招かれれば、程近くにどっかと座る。]
相棒かい、難儀だねえ。
[にいと笑って歩きつつ]
暢気かい?
もうちょい急くほうがいいかねえ。
まあ、待てば果報の知らせありとかなんとかなあ。
[ついと眼を細めては]
ほおう。
そりゃあ聞き捨てならねぇなあ。
横から掻っ攫うかどうするか。
[顎に手をあて笑み深め]
ただ、わたくしは……
[首を横にふるり]
……恋うる相手には、決して「愛している」とは言えませぬ。
それがわたくしの運命……わたくしの身に刻まれた、因果に御座います。
それを御忘れなきよう……司棋様。
[隠される様] [見詰め] [僅か弧を描く碧] [柔らかな眼差し]
夜斗が行って呉れるンかえ?
有難いヨゥ。
蝶は未だ目醒めきらず多少は働いて呉れるがアタシァ余り身動きが取れないのさァ。
嗚呼、猫姫様は何れネェ。
さて、旨いかは判らないが、人を模る呪い使えりゃそこそこじゃないかネェ。
無きを有るが如く…か。
それも知らんでは、おまえはまっこと童だの。
[くくく、と揶揄う笑い浮かべて頭を撫で繰る。]
精気取り込む他の道とは色の道。童では分からぬのも道理か。
さて、急くかどうかは気分次第よ。
待てば果報。そういう暢気さはお前さんらしくて良いのう。
[カラコロ歩く青鬼赤鬼、
月光に浮かぶ顔、金色の瞳すいと細まった]
さて、如何するか。
己も約束ひとつあるゆえ、
横から攫われるのも面白くないのう。
[此方もすいと藍の目細める]
酒や櫻に幾ら謂おうと聞いちゃ呉れないヨゥ。
だから命の姐さんに謂ってるンじゃないかィ。
[コロコロコロリ] [また笑い]
嗚呼、いっとう好い奴さァ。
命の姐さんも盃はお持ちかえ?
喰児のおっ月さンは雲に隠れぬ変わりに目蓋に隠れるのさァ。
薄紅舞う中で月見酒なンざァ贅沢だネェ。
美人の酌…
[真理と有塵を見比べて]
長身者の酌も中々良かったぞ。
今日も黒盃にて頼んでみようと思いきや、今は居らぬなぁ。
よし、常磐のひめ。
有塵は美人の酌で飲むようじゃから。
瓢ごと飲むは、有塵の代わりにわらわがしよう。
瓢箪おくれ。
[当然とばかりに手を差し出す]
やれ…買いに戻るか戻らぬか。
[幸いか、酒宴の最中に在る者は気付いておらぬ。
黒浴衣持つままも如何かと思うが、
酒を持たずに酒宴に現る方がまずかろう]
[ふる、と横に振られる頭に複雑な表情を]
…僕は…。
[くい、と遥月をこちらへ向かせ、背伸びをして口付けを]
僕がいうのも、いけないのでしょうか…。
もし、迷惑なら仰っていただければ。
それ以上は何も申しませぬよ。
[頭を胸元に少し、預け。
そのまま、一人酒盛りの場所へ。
夜斗は少し困ったように遥月を見つめていたが、そのまま主人を追って]
やれ、失くしちまったんかィ。
困ったネェ。
アタシァ白水の姐さんみたいな真似ァ出来ないヨゥ。
[瓢箪片手に思案顔] [すぃと瓢箪差し出し] [立ち上がる]
ちょいと呑んで待っててお呉れヨゥ。
ちょっくら盃探して来るからさァ。
ははあ、褒め言葉として受け取っておくぜえ。
[約束ひとつ、言葉が落ちる]
そん時ぁ俺と相棒で鬼ごっこかあ?
俺とやってみるかい?
[くつくつ笑いで謂ってみせ]
ぬ。
[撫で繰りられれば、撫でてやるに相応しい器であるのはこちらとばかりに文句を言おうとする顔。
しかしついつい、心地よさに溶けて目を細め。
それでも揶揄う笑いに気が付けば]
童と言うたか、馬鹿におしでない。
猫の育ち行く早さご存じないな。
わらわもそろそろ子を成せる年よ。
色の道とは何を指すかくらい知っておるわ。
ただそれが精気取り込む他の道とは知らなんだ。
試してみるかのう?
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