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――1F(現在)――
嗚呼、芳しいこの香り。
[胸の高鳴りを感じ昨夜のご馳走の場に足を向ける]
ふふふ、聞こえてくる。
女の悲しみの声が。
あはははははは。
いいぞ、もっと嘆き悲しめ。
その声がさらにご馳走を美味しくさせるんだ。
[ウラルは奴らには聞こえぬ声で]
―部屋(現在)―
ウラル?
[足を床につけたまま、聲を投げる。
しかし、その言葉の内容の意味を、理解して]
あぁ。
昨夜は、美味しかったね
美味しかった
そっか、悲しむ人がいるから、美味しいんだ。
[ようやくわかったというように]
この匂い…は…?
[嗅ぎ覚えのある生臭さ。顔を顰め、不審に思いながらも、歩き回るようなことはせず]
…。
[無言のまま、食堂を*後に*]
――昨夜――
[ルーと共にアーヴァインを訪れる]
こんばんは、こんな時間にごめんなさい。
私も宿代を持って来たのですが…。
中に入っても宜しいかしら?
[アーヴァインはこれから起こる事も知らず快く真夜中の訪問者を招き入れる]
ありがとうございます。
[ルーが中に入ったのを確認するとウラルは静かにドアを閉め鍵を掛け――]
――客室――
[浅い眠りは強い風の音で破られ、ゆっくりと起き上がって窓の外を見る]
……うわ…酷い吹雪だな、これ……っ…寒っ……
[ブル、っと身を震わせて厚手の服に着替える。
いつもならとうに暖炉に火が入り、館内が温められているはずなのに]
具合でも悪いのかな、アーヴァインさん……だとしたら少しは手伝わないと。
[そういって階下へと下りていく]
――一階・ロビー→…――
[ロビーへと下りれば、暖炉の薪は補充されたばかりで、しかしそこに主の姿は無く]
どうしたんだろ、いつもは……あれ?
[ふと見遣る管理人室のドア。
そこが開いたままで]
どうしたんだろう…?
[妙な胸騒ぎ。
ひとつ大きく息をして、管理人室に向かう]
……アーヴァインさん?何か……
[言いかけて気付く、ある筈のない臭い。
呆然と座り込むローズマリーの姿。
そして目の前に
無残な肉槐へと姿を変えたアーヴァインの姿]
……う…ぐ……
[込み上げる物を何とか堪え、ローズマリーに声を掛ける]
……一体……何が……
[返事はない。それはそうだろう、彼女にもわからないに違いない]
みんなを…あぁ、それよりも麓に連絡をしないと…
[混乱。
ただ、助けを求めようと、外へ
だけど]
――屋外・吊り橋付近――
[外は先の見えないほどの吹雪。
ほんの僅かな距離を何度も転びそうになりながら辿り着いたその先、吊り橋の支柱
しかしそこには]
……う…そ、冗談だろ?橋が……
[古い吊り橋。
強風で煽られたか…誰かが落としたか
そこには既に吊り橋は無く。
落ちた橋の行方を谷底に追い
そこに、もう一つの命の残骸を見つける]
……ベンジャミン…さん?
嘘だろ?なんで…なんでこんな…
[助けを求めたか、それとも先を急いだか
吹雪に足をとられたか
生死の確認をする術はなく]
……戻らないと……
戻れない…ここからは出られない……
帰れ…ない……?
……セシリア……っ……
[最悪の可能性を思い、恋人の名を呼ぶ]
……いや、大丈夫だ。きっと、俺達が戻らなければ捜索が来る。
それまで、待てば良い……
でも
[あの、アーヴァインの惨状
誰が
何のために……?]
……もどら…ない、と……まだ、犯人が居るのなら……
みんなに、知らせないと……
[呆然と、起きた出来事だけを脳内で反芻して
ふらふらと、宿へと戻っていく]
―昨夜―
[鍵を閉める音に、アーヴァインが不審そうな顔をしたのは赤にも見えた。
ウラルを見る。
アーヴァインを見る。
赤は、にっこりと笑った。]
…かわいそうな、アーヴァインさん。
[愉しげな聲。]
ふふふ、ボクは貴方にはなーんの恨みはないのだけれど、あの料理だけでは物足りなくて…ねっ。
[振り向いたアーヴァインの口許を抑え、異様に伸びた爪で腹部を刺し―グググッとえぐる様に。その隙間から胃袋を刺激するような香りと共に真紅の滴りが。
程なくしてアーヴァインは崩れ落ちる]
さぁ、ルー。
食べようか?
ただ、全部食べちゃうと「彼女」がわからなくなってしまうからね。
[そう言うとウラルは紅い滴りに口を付ける。貪り求める*様に――*]
うん。
食べる。
[アーヴァインの驚きに、そしてその口元を押さえたウラルに。
うなずいて、赤もその体に近づく。]
全部食べないように、
ここらへんだけかな?
[にこっと笑って、においだけでも美味しそうなそこへと顔を近づける。
ぺろと、紅が口唇に移る。
小さな、やわらかい口唇が、色づいた。]
――→屋内・…――
[呆然としたまま屋内へと入り込み、再び管理人室へ。
未だ座り込んだままの彼女には、これ以上の事は言えずそのまま立ち去って]
……どうしたもんかな、これは……
[食料は?燃料は?
そして、アーヴァインを殺したのは?
混乱が収まらないまま、ロビーのソファに座り込む]
[一旦は部屋に戻ったものの、吹雪く外とそこにあるはずなのに見えないつり橋、尋常でない様子で宿に駆け込んでくるハーヴェイを見つけ、不審さは更に増す]
……。
[再度、一階へ]
[浮かんだ笑みはどこか、壊れた艶を感じさせるかもしれない。
しかし食餌に夢中なウラルは気づかなかったろう。
その胸元に手を伸ばす。
見開かれた目がちょうど、赤の目に映った。
なんだか嫌な気分になって、それを無理やり、片手で閉じさせる。
血のついていない手だったからか、その痕は残るわけがない。]
[客室へ入ればやはりただ事ではない様子のハーヴェイが。一度彼が管理人室をあけたせいか、血の匂いは更に強まり]
何か、あったのか?
[混乱した様子のハーヴェイを宥めるように、静かに問う]
[ラウルの食餌の様子を見ながら、自分もその爪で、胸元をひっかく。
まだこぼれてくる血に、嬉しそうに喉の奥で笑って。
ぺろぺろとそれを舐める。
腕の方にも手をずらすけれど、そこはあまりおいしくなくて。
こぼれてゆく紅はそのまま残して、口唇を
少し考えて、血を吹いた口唇に重ねた。]
[うつらない右の目は、動くこともなかった。
左の目は、次の場所に狙いをつける。
ラウルの食べている少し脇。
口唇を離したあと、顔は綺麗になっているけれど、それも見ずに。
むき出しになった肉に、思い切り、喰らいついた。
そして狂宴の終わり。
真っ赤に汚した指を舐め、口元をぬぐって。
右足の包帯が赤く濡れていることに気づいて、それを取る。
赤い、紅い、赫い――
部屋の中は、甘い。]
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