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["声"を使えば、最早二本の脚も、人の姿も保てない。
焼きそば水着(レプリカ)を纏った少女の姿を、蛹のように脱ぎ捨てて、]
――何故 どうしてどうしてどうして
助けてくれなかったの
ワタシたちは見捨てられたの
手が届かないなら
こちらへ 深く 深く 深く
沈めて ねえ
海の底で 遊びましょう
[今こそ羽化する、Rusalka]
[水魔が正体を表出した瞬間に、海の家を、砂浜を、辺り一帯を豪雨が洗う。
嘗ては漁師を惑わせ船を誘き寄せた大嵐。
それは集う少女たちの魂を守るように、周囲に暴風を叩きつけた]
あなたたちの 悪行を 傲慢を
奪われた同胞を
ワタシたちは 見過ごさない……!
[赤い眼光の店員だった彼が、眼鏡の男とじゃれているのを、冷ややかに見下ろしている。
(のワの)の洗い流されたRusalkaの貌には、幾多の少女の表情が浮かんでは消えて]
[ヴィンセントの分身を巻き込みながら呪いの歌の主を睨む。
ワインレッドの魔法陣がベルナルトを包み込み、そして弾けた。]
「主!」
[ハスター(犬)の声が頭に届く。
そう、ベルナルトは再び力を解放(変身)したのだ。
腕に浮かび上がる紋様が淡く光る。]
だから ねえ
イカ焼きタコ焼きヤキソヴァ飴玉コーラもビールもいっぱい
食べものをくれた 優しいニンゲンたち
一緒に こっちでも あっちでも
遊ぼうよ もっともっともっと
[稲光を幾筋も降らす暗雲を背に、Rusalkaはさも愛おしそうに、世界を抱擁せんと腕を伸ばす]
[じゃれてねーよ!
ととても謂いたいのだが]
イライラにリコピン効くとかきいたこてねーよトマトの回し者か!
[変身後の姿でそんなこと謂っちゃう]
――っくしゅん
[不意にくしゃみをした瞬間に、海面が大きく波打った]
あ。
[41mくらいの大津波が、リックの乗ったボートを直撃**]
「主!やつらが!」
[ハスターの声にはっと顔を向ける。
顔無き顔が並ぶ、悪夢のような光景――――]
……もっさり子、
それがお前の姿かよ。
[のワのが見当たらねーな、と思いつつ、自分の背丈ほどもある銀の鍵を斜めに構えた。]
――――はン、
いいぜ…… ぜぇんぶフッ飛ばしてやらぁ!!!
[声とともに、ヴン――――と唸るような音。
足元に広がる冒涜的な角度と歌。
全世界の正気が危ない]
―ボートの上―
かーちゃんが、倒れて入院しているんだったら、何でもっと早く言ってくれなかったんだよ!
[リックは、そう怒鳴った。
話によると今は容態を持ち直しているが、一時期かなり危なかったらしい。
「いや、聞かれなかったし……」と言葉を濁す父。]
「聞くな」って言ったのはとーちゃんじゃないか!
てっきり俺は、逃げられたもんだと思って、気を使って来たのに……!
[さらに憤るリックを見て「あ、それそれ」と父はこちらを指差す。
「おまえ、何か勘違いしてたみたいだからさー、かーちゃんが死にそうだと心配してるより、そっちの方が良いと思ってな」
父は、そう言って笑った。
……そんなわけあるか!この、バカとーちゃん!!
[振るった足が、父のすねへと直撃する。
ああ、ついに親を蹴ってしまった……天国のじーちゃんは、やっぱり怒るのだろうか。
数日悩んだことに免じて許してくれると良いのだけれど。
そう、リックは思った。]
[直後、突然の大波がリックと父の乗るボートにぶつかってくる。
とっさに動いた父の腕に抱えられながら、これはじーちゃんの怒りなのだろうかと、ずれた事をリックは考えていた。**]
[――― 一方]
[リックの叫びこだまする中、
荒れた海から触手が船に触れ、ずるりと父へと絡み付く。
声なき声は潮騒に。
ぎぎぎ、ぎぐるるる、と
蛸に似た落とし仔がテレパシーを繋ぐ]
[父を引きずり込みながら
こんな声が届く]
“御前が落としたのは”
“――――だらしのない父か”
“――――それとも”
“この”
“――――きれいな父か”
[煌めく黄金の斧の
おとぎばなしっぽい*何か*]
[大きな波を見て、父に抱えられたところまで覚えている。
続く衝撃音と共に目の前は暗転し、暗闇の中をゆっくりと沈んでいく感覚。
声が聞こえる。何かの選択を迫る声だ。]
きれいな父?
とーちゃんをきれいだと思ったことは無い。
きれいと言うのは、きっと「海の家」にいた姉ちゃんたちみたいな人の事で、とーちゃんには当てはまらない。
立派かどうかと言う事ならば、たまには立派なこともする。
だらしない父?
確かに、ここ数日のとーちゃんはだらしなかった。
でも、今は、かーちゃんが危なくて張り詰めていた気持ちが、緩んだせいもあるのだろうと思える。
立派だし、立派じゃない。
だらしないし、だらしくない、それが俺のとーちゃんだ。
[―――ざあああああ!]
[ひときわ大きく波がうねる。
大きく笑うような、小さく叫ぶような、悲鳴をあげるような。]
“くくく、ははははは”
[猛る、猛る、猛る。
腕を触手を振るう落とし仔を覆うような波の向こうに手を伸ばす少年は、触れる――――]
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