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情報が、乱れる。
これが、「痛み」、なのか?
[彼は右脇腹を見詰め、眩暈に似た物に耐えている。
と、気付く。戦いはまだ続いている。
慌てて顔を上げクインジーを見上げる――が、そこにクインジーは居ない。
彼の横で何かが地に落ちたのを知るとそちらを見る。
クインジーが倒れていた。
短刀を左の手で握るが、まだ情報が整理しきれずに膝を突いたままだ。]
名前?
僕の名は、ギルバート。
君の名は?
[反射的に、訊ねる。]
[Lutherの言葉だけが少女の耳元を通り抜けていく。
「今から満たされに行くのです」「これはとても喜ばしい事だ」
――禍々しい託宣のように狂気に満ちてその声は少女の思考に浸透していく。拒絶と畏怖の感情が生まれる。顔を上げれば今にも強大な焔を放たんとする二体の小天使]
――駄目、それはまちがってる!
[叫んだ瞳を青に輝かせ床を蹴る。
もう間に合わないと知っていた。
それでもあの焔が彼女を包めば総ては文字通り灰燼と帰す]
この外見だとクインジー…マスターが決めた名もあったんだが忘れちまった…。
ギルバート…ね、
この身体を構成しているコンポーネント、もうすぐ空っぽになるからあんたにやるよ…。
どんな形になっても戦い続けれ…ば…
[ザザ…ザザザ…とクインジーの視覚的データが崩壊していく]
[雷光の速度で空を駆ける。しかしそれでは間に合わない。
クピド達の賛歌が途絶え、終末の炎が生まれ出ようとする。
Lutherが最後の一句を唱えた]
――神様。
[祈り。願った瞬間――
『あなたはそのために備えられ供えられたのですから』――執事の囁きが脳裏に浮かぶ。何故こんな時に、と疑問を生むまもなく詠唱が口を衝いた]
[言葉は言葉にしか過ぎない。
──狂っているように聞こえるのであれば、それは人間の狂人がよく使う言葉だからだろう。
いや、使う機会を変えれば、須らく言葉は狂いを表す事になるのだろう。
人間が理解をするように、
AIは、言葉を理解をする訳ではない。]
クインジー。
そうか。
[左手で短刀を握り直す。
右脇腹を庇うようにして立ち上がり、短刀を両手で構えようとし――
クインジーの身体が崩れていく]
「あんたにやる」?
[クインジーの言葉をくり返すと、呆然と成り行きを見守っている]
[ギルバートの見守る中、クインジーの身体が消失した。
左手があった所に銀色に光る球体が二つ転がっている。
攻撃用プログラムや視覚演算などを行う領域の結晶が*そのまま残っていた*]
[利き腕の左肘、ドリルとの接合部分が、先刻Lutherの十字架を受け止めた事と、Herveyを抱えたまま後方に飛んだ負荷で、制御が利かなくなる。しっかり抱えて飛んだはずのHerveyと離れてしまう。]
──…あ。
[向かって来る焔の力。ざらざらした何かが頬に触れるのは、オードリーの残骸が灰となり、爆風で飛ばされて来た所為だろうか。]
──呪われよ。
──…
[焔が放たれる。
灰色の睛は、濃い影の中薄ら仄んやりと浮かび上がる]
貴方がAudreyを破壊しました。
──貴方はmemento motiに侵食されている──私も侵食されているようですが。
私は、侵食されきる前に貴方を破壊せねばならない。
[灰色の睛がherveyを見下ろす。
微笑んでいるのに、瞳孔が針の先でつついたように点程になっており、非常に奇妙なアンバランスさ。
十字の切っ先をherveyへと向けた]
[彼の足元に転がる球体が二つ。
のろのろとそれを拾う。]
あんたに、やる。
[もう一度クインジーの言葉を繰り返す。]
[二つの球を、自分の胸に押し当てる。
球は彼の身体に静かに溶け込んだ。]
【──…力が入らない。】
【何故、今。】
[室内全てを巻き込む勢いで向かい来る──死。紅い焔。
左側に傾くbodyを立て直し、Herveyの方へ走る。]
そう───
−死から逃がれられは……
…死…...は......私は何故、こんな言葉を口に?
私の本質はmemento mori…?
−否、
煉獄にて焔に灼かれなさい。
[断定的な口調で]
「分かった。君に死というものを見せてあげよう。
だが約束だ。僕が自我を失ったら、迷わず僕を消滅させてくれ。」
ハーヴェイ!
[目の前でHerveyの心臓に十字架が突き立てられる。
HerveyとGeneは目が合わない。
Lutherは程なくHerveyを破壊し切ってしまうだろう。]
−想え、汝が死を
[眉間に力をいれた。
herveyに突き刺した十字から、体の隅々へと直角に折れ曲がってゆく細い棒達。交差し、幾つもの十字を構築しAttack。
まるで、毛細血管のように──内部より、破壊を]
[グラグラとするGene自身の左肘から先を、右腕で強引に引き千切る。そして、首を貫通させる勢いでドリルを、Herveyに向かって叩き付けた。
願わくば、十字架が彼を完全に破壊してしまう前に──。]
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